CA1015 – スペインの大学図書館における目録の機械化 / 蛭田顕子

カレントアウェアネス
No.191 1995.07.20


CA1015

スペインの大学図書館における目録の機械化

スペインにおける図書館の機械化は,1990年代に入り大学図書館を中心に急速に進展した。それは,他の図書館に先駆けて行った機械管理システムの設置,大学図書館ネットワークの創設,書誌情報の整備によるが,それでも,今はまだシステムの内容の充実よりは量的拡大の方を重視している段階である。

以下,カルロスIII世大学のオルティス・レピソ等が1993年に行った調査をもとに,スペインの大学図書館の目録の現状について紹介する。調査は,国内40館に対してアンケート送付形式で行われ,34館から回答を得たが,5館は機械化に至っていないため29館の数値による。

スペイン目録規則やAACR採用館を含め,全ての館はISBDに準拠した目録規則を使用している。書誌レコードのアクセスポイントは標準化の傾向にあり,米国議会図書館のものを始めとする様々な典拠リストが使用されている。MARC使用によるフォーマットの標準化も普及しているが,DMARC,IBERMARC,LIBERTAS UKMARC等使用しているMARCフォーマット間に全体的な適合性がないため,データの転記に変換プログラムが必要となる。65%の館がデータ受入のため,44%がデータを受渡すために必要だと答えているが,フォーマット間の適合性に優れたUNIMARCは全く使用されていない。

目録作成においてオリジナルカタロギングはコストの高い作業だが,これは常態化しており,何等かの総合目録ネットワークを利用しているのは7館にとどまる。なお,ネットワークには,同一コンピュータシステムを使用する館によるものと異なるシステムを使用する館相互を接続するものがあり,前者にRUEDO,VTLS,LIBERTASが,後者に大学図書館ネットワークであるREBIUN,カタロニア大学図書館ネットワーク計画,正確にはネットワークではないがシリーズ出版物総合目録(CAPS)が含まれる。CD-ROM形態の目録では,REBIUN,スペイン全国書誌(Bibliogratia Espanola),ビブリオファイルのCD-ROM版が比較的よく使用されるけれども,あまり普及していない。ちなみに,1993年に出たREBIUN CD-ROMは,約563,000件の図書と約27,500件の定期刊行物を含む。

さて,目録は閲覧者が利用して初めてその評価が出るわけだが,残念なことに,スペインではこの分野の調査が欠如している。今回の調査でも,閲覧者の目録利用について調査していたのは1館のみだった。ほとんどの館がOPACによる検索に職員の補助は不要というものの,90%が今後もカード目録を維持していくと答えている点は,OPACの使いにくさの一端を示している。閲覧者の要望よりシステム性能の向上やネットワークの進展の方が重視される傾向にある。

スペインでは,図書館の機械化が他の先進国より遅く開始されたため,遡及入力は比較的新しい概念である。蔵書を完全に遡及したのは,遡及入力を最初に開始したバルセロナ大学を含む2館で,15館が入力中,まだ着手していないのは10館である。(2校は新設校のため必要がない。)新規目録作成よりはるかに時間と資金を要する遡及作業だが,特別予算を組んでいる館は4割で,残りは通常予算の枠内で実行しており,作成データ量が少ない一因になっている。その点,アンダルシア大学で予定されている地方評議会の資金援助による遡及入力計画は注目されよう。

作業に着手した館の87%は,全蔵書を対象とした遡及を計画している。しかし,既存のカード目録について包括的な分析をしていないし,対象資料の優先順位にしても必ずしも明確ではなく,20%は参考図書から始めるとし,13%は年代を基準にすると回答している。作業は基本的に書架目録と閲覧目録をもとに進められている。閲覧目録を使用する理由は,初期のものは,書架目録より書誌データが豊富なためである。

遡及の方法は,以下の方法を組み合わせて行われている。すなわち,利用頻度の高い順から,内部入力,業者委託,既存データベース使用となる。業者委託の場合,図書館側は,典拠コントロール,および分類・件名の新規付与や修正をするのが一般的で,作成データの質に満足し,仕上がりが早く通常業務に影響しない点を評価している。作成データ量は,この方法によるものが全体の6割を占め,他を圧倒している。

既存データベースを使用する場合,最も使用されているものは,OCLC,SLS,ビブリオファイルであり,CD-ROM版では,OCLC,ビブリオファイル,スペイン全国書誌である。80%の館は,検索の8割に外国のCD-ROMデータベースを使用せざるを得ないと答え,使用する目録規則,書誌記述レベルが一定でないことから,特にアクセスポイントとその形式を決める際に問題が生ずるとする。このため,国立図書館と大学図書館のデータベースがリンクしたCD-ROM版のスペイン全国書誌の発行が期待されている。

館内業務で遡及を行っている11館は,記述レベルが一定の典拠コントロールが簡単でデータベースの質が維持されるのが利点だとする。ただし,作業に投入できる職員数が限られているため作成データ数は少なく,増員が望まれている。その他,現在コンプルテンス大学で人工知能を利用した遡及入力計画(LAULA)が進行中で,OCRを用いてISBD効果を上げている。

今回の調査は,質問によって有効回答数にかなりばらつきがみられた。回答数が業務の実施状況や関心の高さを示しているとするならば,業務に対する評価にほとんど関心が払われていないことが浮彫りになった。しかし業務の効率化や利用者に対する配慮の必要性などを考えると,評価はスペインの大学図書館で今後非常に重要になってくるように思われれた。

蛭田顕子(ひるたあきこ)

Ref: Ortiz-Repiso, Virginia et al. Automated cataloguing and retrospective conversion in the university libraries of Spain, Online & CDROM Rev, 18 (3) 156-167, 1994