カレントアウェアネス-E
No.416 2021.07.08
E2401
NDL,デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025を策定
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・木下貴文(きのしたたかふみ)
国立国会図書館は,2021年3月に「国立国会図書館デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025」(以下「本計画」)を策定した。以下,デジタル資料の長期保存に係る課題を整理し,これまでの当館のデジタル資料の長期保存に係る取組を振り返りながら,本計画の概要を紹介する。
●デジタル資料の長期保存に係る課題
当館のデジタル資料には,デジタル化資料(紙の図書等をデジタル撮影した資料)や,ウェブサイト等のインターネット資料なども含まれるが,国民の文化的財産・知的資源として後世に伝えるための長期保存における喫緊の課題は,CD,DVD等のパッケージ系電子出版物の保存対策である。この資料群には,次のような,デジタル資料に共通する多くの課題が見られる。
- 媒体の脆弱性
- 一般に,デジタル資料を記録する媒体の寿命は紙の資料よりも著しく短い。USBメモリや書換形(RW)光ディスクのように,不用意にデータを改変しないよう管理上注意を要する媒体もある。デジタル資料の長期保存対策として一般的な作業に,データを寿命が長い媒体に移行する「マイグレーション(媒体変換)」があり,媒体の脆弱性への対策に有効である。
- 再生環境の維持の困難性
- デジタル資料の利用のためには,再生装置の維持も不可欠であるが,再生装置にも寿命がある。また,データの再現性担保のためには,ハードウェアだけでなくOSや再生ソフトウェア等の陳腐化も問題となる。この問題は,現在のPC環境で過去環境を再現する「エミュレーション」等の技術で解決できる場合がある。また,「マイグレーション(フォーマット変換)」により,媒体内のファイルを長期的に利用可能な別のフォーマットに変換することで解決できる場合もある。
●当館におけるこれまでの主な取組
- 光ディスクの状態確認,劣化状況調査
- 2018年度から2019年度にかけて,当館が収集・保存しているパッケージ系電子出版物のうち,CD,DVDを対象として,劣化状況のサンプル調査を実施した。結果として,追記形(R)や書換形(RW)の資料では,基準を超えるエラー値のものの割合が再生専用形(ROM)よりも高かった。また,当館では,デジタル化資料の保存用データを主として長期保存用BD-Rに保存しており膨大な枚数を所蔵しているが,これらに対しても同様のサンプル調査を実施した。一部で基準を超えるエラー値のディスクが確認された。
- マイグレーション(媒体変換)作業の試行
- 2018年度から2020年度にかけて,パッケージ系電子出版物のマイグレーション(媒体変換)作業を試行した。対象となる媒体は,媒体の寿命や再生装置の状態,誤操作によるデータ削除の懸念等の観点から選択した。移行先の媒体は,原則として長期保存用のDVD-Rとした。
- USBメモリ,MOディスク,書換形光ディスク等については単にデータをコピーするだけで利用できる資料が大半であった。作業内容をもとに,館内作業用のマニュアルを完成させた。フロッピーディスク(FD)については,ディスク全体のデータを1ファイルにまとめた特殊な形式で保存するという方針でマイグレーション作業を行った。作業の結果,マイグレーション後のデータの利用提供方法,現在の環境では読み込めないFDのマイグレーション環境整備といった課題が確認された。
- 技術的調査研究
- 恒久的保存基盤の構築に向けた技術調査(2016年度;E1933参照),海外機関へのアンケート調査を含む長期保存のための取組全般に関する調査(2019年度)を実施した。また,パッケージ系電子出版物への対策に関係した調査として,マイグレーション手法の調査(2017年度;E2058参照),媒体劣化状況の調査(2018年度・2019年度)を実施した。いずれも報告書を当館ウェブサイト上で公開している。
●本計画の概要
以上の取組を踏まえ,本計画では引き続き,パッケージ系電子出版物の保存対策の実施を中心に掲げている。前計画からの変更箇所のうち,特に重視している取組事項について,次に示す(括弧内は本計画の対応箇所)。
- 所蔵資料の状態検査(6(1))および合理的な保存環境の整備(6(5))
- 上述のとおり,光ディスクの劣化状態調査は重要な課題であり,引き続き検査手法の検討や体制整備を進める。また,デジタル化資料の保存用データを格納している膨大な枚数のBD-Rの管理が難しくなっているため,より合理的な保存媒体の採用・データ移行等も検討する。
- 再生環境の維持(6(6))および利用環境の整備(6(7))
- 長期的な利用保証を目的として,再生装置の状態の定期的な確認等を行う。また,マイグレーション等の保存対策後のデータを利用提供するための環境の整備も行う。エミュレーション等技術の採用も検討し,必要に応じて古いOS・再生ソフトウェアの収集も実施する。
- 技術的調査研究(7)
- デジタル化資料の保存用データ等で新規に採用する保存媒体の特性や評価,より合理的なマイグレーション手法,長期利用保証のための技術など,具体的な保存対策の推進に寄与する事項について,引き続き調査研究を実施する。
●今後の取組
デジタル資料は紙の資料と比べ進展や変化が目覚ましい。その分,既存の媒体やファイルフォーマット,標準等が廃れるのも速い。本計画は2025年度までを対象期間とするものだが,当館は,今後も最新の技術動向に注意しながら,より長期に利便性高く資料を保存できるよう取り組んでいく。
Ref:
国立国会図書館. 国立国会図書館デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025. 2021-03-03.
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/dlib/pdf/NDLdigitalpreseravation_basicplan2021-2025.pdf
“電子情報の長期利用保証に関する調査研究”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/dlib/research.html
里見航. NDL,2016年度電子情報の長期保存対策調査の概要報告書を公開. カレントアウェアネス-E. 2017, (328), E1933.
https://current.ndl.go.jp/e1933
里見航. NDL,2017年度電子情報の長期保存対策調査の概要報告書を公開. カレントアウェアネス-E. 2018, (354), E2058.
https://current.ndl.go.jp/e2058