E2163 - 起業における図書館活用(3)農業を通して広がった社会貢献

カレントアウェアネス-E

No.374 2019.08.08

 

 E2163

起業における図書館活用(3)農業を通して広がった社会貢献

やさい直売おあしす・山中真知子(やまなかまちこ)

 

 私は農家の次男であった夫との結婚を機に,少しずつではあるが5ヘクタールを栽培する稲作農家の義父母の手伝いをしながら農業に携わるようになった。

 さらに深く関わることになった大きな転機が,私の長男が義父母の後継者として就農したことである。当然長男も農業の実践経験もなく,不安のなかでのスタートとなったが,私が全面的に手伝うことで長男も納得したようである。ただし,稲作だけでは経済的に厳しいことから,知り合いの農家より露地ナスとレタスの栽培方法を教えてもらった。

 長男の助手として働きだした私だが,自分の栽培した野菜が美味しいのかそれともそうではないのかとの反応を知りたくて,かつ,新鮮,安全で美味しい野菜を多くの人に提供したいと思い,直売所の開設を思いついた。

 どのように直売所開設を進めていいのかと思案していた折,小山市立中央図書館(栃木県)で起業したい人向けのセミナーがあることを知り,早速応募することにした。正直なところズブの素人にできるだろうかとの不安があったが,複数回の講義を受講するうちに販売ノウハウや経営についての理解が深まった。特にどのような農産物や加工品を販売できるのかの情報を得て,食品衛生責任者の資格を取得した。そして,2009年に小さいながらも農産物直売所「やさい直売おあしす」を開設した。

 直売所は,金曜日と土曜日の10時から17時営業とし,主に自分で栽培した無農薬野菜と,長男の友人の若手農家が栽培した野菜を対面方式で販売している。単に野菜を販売するだけでなく,対話を通して野菜の調理方法や栄養についての知識も提供している。その情報を得るために図書館に通い,高名な医師の監修による減塩調理法や健康レシピ本などを参考にした。

 また,図書館で事業として行われた各種講座にも積極的に参加し,他業種の講師の体験談や知識を,直売所の運営に活かしてきた。特に,醤油店に嫁いだ講師が漬物を通して新たな女性起業家育成に取り組んでいることに感銘を受けた。その講師の話のなかで紹介された簡単にできる漬物作りに興味が湧き,実践したうえで直売所で紹介している。

 このような活動を通して,さらに農業を通して社会に貢献できるものはないかと思っていた折,市役所から農作業に携わる障害者雇用を打診された。実は我が家には,知的障害のある次男がおり,次男は一時期一緒に農業に従事していた経験がある。その情報を市役所がキャッチしたようであった。長男と協議の結果,この申し出を快く引き受けることになり,障害者数人を受け入れ農業体験を行った。

 また,市内の中学校からは生徒の職場体験の実習先として受け入れてくれないかとの話があり,2014年から毎年,農業に興味のある生徒数人を受け入れ,2日間の農業実習をしながら,食の大切さを感じ取ってもらった。たった2日間ではあるが,実習した生徒からは,将来野菜作りをしてみたいとの言葉があり,社会的に大きな課題となっている農業の担い手不足に少しだけだが貢献できていることに喜びを感じた。

 今,直売所での販売のほかに夫が勤務する会社(病院)で毎週金曜日のお昼休みを利用して「金曜マルシェ」を開設し,忙しくてなかなか買い物に行けない職員向けに野菜の販売を行っている。

 正直,経営的には儲かっているとは言えないが,とにかく,安全安心で美味しい野菜の販売ができること,また,農業体験等を通して食の大切さなどを訴えられることが私にとってとても励みになり,楽しく推進できる業務であることを痛感する。

 さらに,健康志向が高まるなか,医食同源の言葉のとおり,食に関しての知識を深め,健康で長生きできる食の重要性をピーアールしていきたい。

Ref:
http://library.city.oyama.tochigi.jp/document/index.html
http://library.city.oyama.tochigi.jp/document/agricultural.html