E1953 – Beaconを活用した図書館アプリ「びーこん館」の取組

カレントアウェアネス-E

No.333 2017.09.21

 

 E1953

Beaconを活用した図書館アプリ「びーこん館」の取組

 

●はじめに

   高知工業高等専門学校今井一雅研究室では,以前より研究の一環としてBLE(Bluetooth Low Energy)を用いた発信機であるBeaconを活用したスマートフォンアプリの開発を行い,全国高等専門学校プログラミングコンテストでの最優秀賞(2014年)や,第6回ものづくり日本大賞の内閣総理大臣賞(2015年)を受賞するなど,活発な活動を行ってきた。今回は現在開発中のBeaconを活用した図書館アプリ「びーこん館」について紹介する。

●「びーこん館」開発まで

   「びーこん館」開発の経緯は,木星電波の研究をしている高知工業高等専門学校の図書館長でもある今井教授が,2018年夏に開館予定の「高知みらい科学館」(以下,科学館)のアドバイザーに2013年12月に就任したのがきっかけであった。

   当初は,科学館のアドバイザーとしての申し出を受け,科学館の利用を促進する,Beaconを活用したスマートフォンアプリの開発を検討していた。しかし,実際に科学館が開館するまでには数年あるため,それまでの間にアプリ開発に役立つような実証実験はできないかと考えた。そこで,科学館が入居する予定の建物「オーテピア」には,高知県立図書館と高知市立市民図書館本館が合築する図書館「オーテピア高知図書館」も入ることから,既存で一定の広さがある高知県立図書館をフィールドとしてアプリ開発実験をという提案を行い,高知県立図書館長が快諾して2015年にプロジェクトがスタートした。

   当面の目標として,全国高等専門学校プログラミングコンテストへの参加を考えていたため,今井研究室所属の5年生4人がチームとなり,図書館の利用を促進するようなBeaconを活用したスマートフォンアプリをテーマに決めてコンテストに応募し,2015年7月に予選を通過したことで開発がスタートした。

   高知県立図書館は都道府県立図書館としては面積が狭いが,1,000平方メートル程度の開架スペースに80個のBeacon(Aplix社,MyBeacon汎用型MB004AC)をメッシュ状に設置し,検索した本の位置を館内マップに表示して,自分の位置をBeaconで表示しながら本の場所まで誘導するナビゲーション機能を持つアプリ開発を行った。なお,開発は4人で分担して行い,コンテストには,iOS版とAndroid版の両方を出品した。

●「びーこん館」実証実験へ

   コンテスト後の2016年度は,就職や進学などのため,チームメンバー4人のうち,研究室に残ったのは専攻科に進んだ1人となったが,iOS版との並行開発を止め,Android版に絞ることで開発を継続することになった。そして,図書館職員の意向も確認しながら,利便性に疑問があるコンテスト向けの機能は削り,より実用的な機能を中心に改善を行った。

   実用的な機能の中でも「読書通帳」(CA1841参照)機能という,図書館で借りた本の情報をアプリに履歴として記録(図書館入口のBeaconにスマートフォンをかざすか,アプリ側で自動的にチェックを実施するか選択できる)し,感想をメモすることもできる機能は,アプリの目玉と考えている。これは,国内の複数の図書館で提供されている,機器を必要とする紙の読書通帳や,サーバ側で保存するWebOPACの履歴機能などとは異なり,アプリとして履歴情報の保存ができるという点が大きなメリットである。

   また,借りた本の返却期限をプッシュ通知して知らせる機能も追加した。そして,2階の開架書架のみの対応ではあるが,館内マップに検索中の本の位置と利用者の現在地を表示させることで,目的の書棚までたどり着ける機能も,Beaconの位置精度を高める地道な作業で実用性を向上させ,アプリとしての完成度を高めた。

●実証実験を開始して

   開発から2年が経過した2017年の6月23日に実証実験を開始した。開始初日は複数の地元メディアで報道された。実験開始から約3か月経過し,利用する端末の種類やOSのバージョンによって機能が正しく動作しない現象の改善や,iOS端末用アプリの開発への要望などが寄せられている。現在は,これらに対応できるよう改善作業を続けている。

●さいごに

   「びーこん館」の実証実験は年内に終了する。2018年夏開館予定のオーテピア高知図書館で利用できるアプリとして正式なリリースを目指すには,iOS版の開発,長期的なメンテナンス体制,メンテナンス費用の確保などの課題が残されている。しかし,スマートフォン世代の高専学生の感性で作った「びーこん館」には,いわゆるベンダーまかせとも,Beacon活用の先行事例である鯖江市図書館(福井県)の「さばとマップ」(E1783参照),共立女子大学のスマートフォンアプリ「リブコモ!」などとも異なる,学官が連携し学生自身で開発した事例として,スマホ世代の若者の公共図書館利用を補助・促進できる可能性があると感じている。

   一方で,検索機能等ではWebOPACに実装されているAPIを活用しているものの,読書通帳機能等の便利な機能はHTMLを解析するWebスクレイピングで実現しているものも多く,検索用APIだけではなく,アプリの開発が容易なインターフェースを持ったWebOPACの開発が望まれる。

   来館や利用者登録をしないと使えない機能も多いが,アプリのダウンロードは誰でも可能である。アプリ内では,アンケートも実施しており,機能の改善のため,是非ご意見をお寄せいただきたい。

高知工業高等専門学校・今井一雅,水野裕晴
高知県立図書館・上岡真土

Ref:
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.pipo3944.beacon_kan&hl=ja
http://kochi-toshokan.hatenablog.com/entry/2017/07/06/Beaconを活用したスマホ向け図書館アプリ「びーこん
http://www.pref.kochi.lg.jp/press2/2017061400036/
https://www.kochinews.co.jp/article/107727/
http://www.procon.gr.jp/?p=1791
http://www.u-presscenter.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=11280
E1783
CA1841