E1913 – 「阪急文化アーカイブズ」の公開について

カレントアウェアネス-E

No.325 2017.05.25

 

 E1913

「阪急文化アーカイブズ」の公開について

 

   池田文庫・逸翁美術館・小林一三記念館を運営する公益財団法人阪急文化財団は,2017年4月1日,収蔵品の一部を検索できる阪急文化アーカイブズ(以下,アーカイブズ)を公開した。アーカイブズは主に,池田文庫が所蔵する(1)阪急・宝塚ポスター,(2)浮世絵・番付,(3)民俗芸能資料の3カテゴリで構成され,それぞれ約1万5,000点,3万点,3,000点の資料が収録されている。加えて,逸翁美術館所蔵の美術品など,これらに属さない資料を閲覧できる(4)特集欄も設けられている。

●収録資料の概要

    池田文庫は,1949年,私立図書館として大阪府池田市に開館したが,その前身は1932年に,現在の兵庫県宝塚市に開設された宝塚文芸図書館で,さらに1915年開室の宝塚新温泉内図書室までさかのぼることができる。娯楽施設および社会教育施設として存在する一方,かねてより運営母体である阪急電鉄株式会社の史料,宝塚歌劇や歌舞伎をはじめとする演劇史料の収集にも努めており,その一部が(1)(2)のコレクションとして結実した。

(1)阪急・宝塚ポスター
    鉄道・歌劇・住宅・百貨店・ホテル・スポーツ・レジャーなど,1910年の開業以来阪急電鉄が手がけた事業に関するものや,寺社の年中行事など沿線のイベントを告知するものが含まれている。企業史や劇団史の枠にとどまらず,沿線に育まれてきた生活文化や,身近な歴史を伝える貴重な資料群と言えよう。

(2)浮世絵・番付
    江戸時代中期以降の歌舞伎に関するものが多く,役者絵のほか,劇場に掲げられた明治時代の絵看板も含まれている。池田文庫所蔵品の特色である上方絵(京・大坂で作成された役者絵)も6,000点以上公開している。浮世絵の愛好者はもちろん,演劇史研究にも寄与するところが大きいであろう。

(3)民俗芸能資料
    宝塚歌劇団の郷土芸能研究会が,その舞台化を目的に1950年代から1970年代にかけて取材した民俗芸能の録画・録音メディア,レポートなどで,2003年に池田文庫に移管されたものである。視聴は館内に限っているが,全国の民俗芸能の約7,000演目が収録されており,保存会や研究者による活用が期待される。

●制作にあたって

    アーカイブズを制作するにあたり,とくに重視したのは次の2点である。すなわち,利用のしやすさと,収蔵品管理システムの構築を最優先することである。

    前者については,操作の容易さに加えて,誰もが検索方法やキーワードに精通しているわけではないという前提で,いかにコンテンツを提示していくべきか検討を重ねた。その結果,レスポンシブウェブデザイン,上記(1)から(3)のカテゴリ横断検索,検索ワードの例示,検索実行前からのサムネイル画像先行表示,(1)における検索補助機能として,阪急電鉄の駅名で検索できる「路線図から検索」(PC版のみ)等を採用した。また,(4)は検索自体を不要とし,展覧会のように,あらかじめ選択した資料を表示させるようにした。

    後者について,当財団所有のデータベースシステムは必ずしも十全ではなかった。そこで公開に特化したシステムではなく,公開対象外も含む,多岐にわたる収蔵品を一元的に管理するシステムを構築するところから始めた。言わばデジタルアーカイブ隆盛の機運に乗って,資料の管理体制そのものを強化したのである。なお,管理システムは多様なメタデータ標準への対応や画像の一元的管理に定評のあるI.B. MUSEUMをベースとして用い,アーカイブズのインターフェースやデザインの作成,プロジェクトの進行管理等はアイテック阪急阪神株式会社に依頼した。

●メタデータおよび画像

    コンテンツを支えるメタデータと画像は,いずれのカテゴリも基本的に既存のものを利用した。(1)は簡易ながら1999年4月より館内端末で検索システムを運用していたし,(2)(3)には冊子体目録があり,かつ市販のデータベースソフトで管理していた。

    しかしながら,単にデータを流し込めばよいというものではなかった。既存のメタデータには誤記が多く,また各データ項目の定義自体も曖昧であったため,1点ずつ確認して修正するという膨大な作業が発生した。画像についても,画質に問題が認められるものも多く存在したが,資料保存の観点から必要と思われるものを除いて,今回のために再撮影などは行わなかった。

     新たに追加したメタデータもある。それは「路線図から検索」に対応する,(1)の最寄駅情報である。これもまた容易な作業ではなかったが,利用者の便を図りつつ,検索機能それ自体によって沿線の文化や歴史を物語る資料群の特性を示すことができたと思う。

●今後の課題

    公開から1か月間のセッション数は約1万1,000,ページビュー数は11万6,000で,滑り出しは順調と捉えている。今後の課題として,折々の話題に合わせて特集欄を更新し継続的な利用を促すこと,カテゴリを新たに追加してコンテンツを充実させることなどが挙げられる。またメタデータのみ提供している(2)の番付について,需要とコストと資料保存のバランスを考えながら,メディア変換あるいは再撮影により画像を公開することも想定している。

公益財団法人阪急文化財団・正木喜勝

Ref:
http://www.hankyu-bunka.or.jp/archive/
http://www.hankyu-bunka.or.jp/ikedabunko/about/
http://www.hankyu-bunka.or.jp/ikedabunko/collection/