E1911 – 北米の公共図書館におけるサービスやプログラムの効果を測る

カレントアウェアネス-E

No.324 2017.04.27

 

 E1911

北米の公共図書館におけるサービスやプログラムの効果を測る

 

 2016年10月,米国図書館協会(ALA)の1部門である公共図書館協会(PLA)が,公共図書館支援のためのプロジェクト“Project Outcome”の年次報告書を公表した。“Project Outcome”は,利用者調査及び調査結果分析のための無料のオンラインツールを提供することで,図書館が自館の主要なサービスやプログラムの実際の効果を測ることを支援するとともに,調査結果を業務に役立てるための研修や,各館の取組を共有する機会等を提供するプロジェクトである。公共図書館では,自館のサービスやプログラムが地域にどのような効果をもたらしているかを裏付けるデータが不足しているとされており,そのようなデータを得て図書館の業務改善を支援しようというものである。2015年6月の開始以来,米国及びカナダの1,000館以上の公共図書館から2,000人以上の職員が参加している。

 このプロジェクトは,PLAに設置された図書館サービスの効果測定のための作業部会(Performance Measurement Task Force)による2013年からの取組が基になっている。この作業部会では,公共図書館のサービスの効果を測る調査手法を構築するため,まず,PLAが公共図書館の財政や利用状況等について毎年実施している調査の2013年の調査データを集約し,それを基に選定した調査項目について,2014年後半に27館を対象とした試行調査を実施した。そして,最終的な調査項目として,図書館サービスの7つの領域(住民/地域への関与,デジタル学習,幼児のリテラシー,経済的発展,教育/生涯学習,職業能力,夏休みの読書)を定めた。その後,2015年6月に,図書館のプログラムやサービスの終了直後に調査することで利用者に対する即時の効果を測る「即時調査」のツールの公開をもってこのプロジェクトが開始され,2016年6月に,プログラムやサービス終了の4週間から8週間後に行って利用者の行動の変化や効果の継続を調査する「追跡調査」のツールが公開された。

 これらのツールにより,1年間で4万件を超える利用者調査が行われ,計1万7,000人を超える回答が得られたという。その結果,全体的に見て,利用者が図書館に来るのは読書のためだけでなく,新しい技能の習得や生活の変化の助けとなるようなプログラムに参加するためでもあり,回答者の約80%が,図書館のプログラムやサービスによって生活に良い影響があったと考えていることが明らかになったとしている。

 また,報告書では,調査で判明した図書館サービスの提供を受けた結果が,前述の7つの領域ごとに次のようにまとめられている。「住民/地域への関与」では,回答者の75%が,地域社会にもっと関わろうとする意思を持つようになった。「デジタル学習」では91%がデジタル資源の利用に関する知識が増えたと感じており,「幼児のリテラシー」では92%が子どもと過ごす時間を増やそうと考えている。「経済的発展」では86%が起業に関して自信が持てるようになったと感じており,「教育/生涯学習」では94%が新たに有用なことを学んだとされている。「職業能力」では87%が学んだことを就職活動で生かそうとしており,「夏休みの読書」では80%が図書館をもっと利用したいと考えるようになった。また,図書館のプログラムで最も一般的なものとしては,例えば「住民/地域への関与」及び「デジタル学習」の領域では,コンピュータ研修・ソフトウェア講座,「幼児のリテラシー」ではお話し会・工作教室,「経済的発展」ではマーケティング講座・事業計画書作成といったものが挙げられている。

 加えて,利用者が図書館のプログラムに求めているのは,新しい活動や新たな技能の習得といった教育的側面であり,また,もっと頻繁に,新しい内容の講座やプログラムを実施することが求められているとしている。各館の利用者調査で得られたデータは,実際に,自館のプログラムの改善や,補助金申請時,また自館のプログラムの効果を管理者・出資者と議論する際などに使用されたという。

 現時点では,このプロジェクトは州立図書館をはじめとする公共図書館が対象となっているが,今後対象を広げていくとしている。また,2017年5月には,利用者調査の質問の追加やテンプレートの作成が可能になるといった改善が施された,新たな調査用ポータルが提供される予定である。さらに,長期的な効果を測るためのガイドラインが今後公開されることになっている。このように,プロジェクトは現在も進行中であり,得られたデータが今後の各図書館のさらなる改善に繋がることが期待される。

関西館図書館協力課・久常香織

Ref:
http://www.ala.org/news/member-news/2016/10/pla-releases-first-project-outcome-annual-report
https://www.projectoutcome.org/annual-report
https://www.projectoutcome.org/about
http://publiclibrariesonline.org/2015/05/project-outcome-launch-seven-surveys-to-measure-impact/
https://www.projectoutcome.org/pages/2