E1766 - 「デジタル脚本アーカイブズ」の試行研究

カレントアウェアネス-E

No.298 2016.02.18

 

 E1766

「デジタル脚本アーカイブズ」の試行研究

 

〇はじめに
 「脚本アーカイブズ活動」とは,テレビ・ラジオの放送番組制作に使用した脚本・台本を収集,保存,管理,公開する活動をいう。2011年5月18日,文化庁と国立国会図書館(NDL)の間で「我が国の貴重な資料の次世代への確実な継承に関する協定」が締結され,「テレビ・ラジオ番組の脚本・台本」も保存等の対象の一分野となった。テレビ・ラジオも放送初期は映像や音声の残存率が非常に低い。特に1980年以前のテレビ番組の映像は,録画に使われたビデオテープが高価だったため,何度も上書きされて現存せず,脚本・台本は,当時の放送番組を知る大きな手がかりとなる。この協定を受け,2012年,日本放送作家協会から活動を継承し,日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム(代表理事・山田太一;以下コンソーシアム)が設立された。そして1980年以前の脚本・台本約2万7,000冊をNDLに寄贈し,東京本館の音楽・映像資料室で公開中であり,また,1981年以降の脚本・台本は川崎市市民ミュージアムで2016年度中に公開予定である。

 本稿では,文化庁からの委託研究「文化関係資料のアーカイブ構築に関する調査研究」により,コンソーシアムが手がけた「デジタル脚本アーカイブズ」の取組について紹介したい。

〇第一弾「市川森一の世界」
 デジタル脚本アーカイブズとは,デジタル化した脚本をインターネットで公開する試行研究である。「市川森一の世界」では脚本アーカイブズ活動の提唱者である故・市川森一氏の執筆脚本をデジタル化し,2012年12月から2013年3月末まで期間限定で,インターネットで無料公開した。急逝した市川氏への追悼を込め,『作家は作品の中で永遠に生き続ける』と題して1周忌に合わせて公開した。脚本について限定公開とした理由は,原作作品のウェブ利用規定および特撮シリーズの権利の関係上,限定公開であれば許諾を得ることができたためである。また,電子書籍として脚本が販売される可能性を考慮したからでもある。

 ウェブサイトは次の3つで構成した。

 「脚本を読む」:187冊(9,111ページ)のデジタル化された脚本のほか,自筆の手書き原稿のデジタル化資料も公開
 「市川森一の足跡」:プロフィールのほか,写真や市川氏の肉声も聴くことが可能
 「関係者インタビュー」:市川氏と共に仕事をした関係者へのロングインタビューのほか,俳優や作家仲間など50名から寄せられた追悼文も掲載

 アクセス数は公開期間の4か月で9万件を超え,海外からのアクセスも見られた。また,SNS(特にTwitter)からアクセスが広がったことが興味深かった。現在,「脚本を読む」以外の部分はインターネットで閲覧可能である。なお,国立国会図書館インターネット資料収集事業(WARP)のウェブサイトでは,脚本全文が公開されていた当時の状態が保存され,NDL館内において閲覧や複写も可能となっている。

〇第二弾「藤本義一アーカイブ」
 「藤本義一アーカイブ」は,直木賞作家でありテレビ番組「11PM」の司会者でもあった藤本義一氏が,数多くの人気番組の脚本を執筆したことに焦点をあてた。藤本氏の命日に合わせ,次のような構成で公開した。ウェブサイトの設計は,「文化遺産オンライン」や「想・IMAGINE Book Search」等を手がける国立情報学研究所(NII)・高野明彦教授の研究チームに依頼した。

 「作品を読む」:約150冊のデジタル化脚本を順次公開予定。演出家の自宅から発見された自筆の手書き原稿のデジタル化資料も公開
 「藤本義一の足跡」:略歴のほか,写真には藤本夫人自らが手がけたキャプション付き
 「藤本義一を語る」:関係者の追悼コメントのほか,座談会「藤本義一を語る」の動画も公開

 2つのウェブサイトで大きく異なる点は公開期限と,データの公開形式である。

 まず「藤本義一アーカイブ」は期限を設けず,永久に無料公開することを目指している。また,脚本のデータ形式については,「市川森一の世界」において利便性とセキュリティの面からpdf形式を採用したが,データコピーを防止する設定により,MacOSやiOSの環境では脚本が閲覧できないという問題があった。この反省を踏まえ,「藤本義一アーカイブ」ではJPEG画像を使用し,NII開発の閲覧システム“eReading”をカスタマイズして使用した。これにより,スマートフォンやタブレット端末などでも閲覧可能なものとなった。

〇デジタル脚本アーカイブズの有用性
 2つのウェブサイトに共通する特徴は,脚本の現物を所蔵機関や所蔵者からコンソーシアムが借り受けてデジタル化した点にある。市川氏の脚本・資料はすべて長崎県諫早市立諫早図書館の所蔵資料であった。また藤本氏の脚本は兵庫県にある「藤本義一の書斎-Giichi Gallery」の所蔵品である。この2つの事例により,現物はそれぞれの所蔵機関や所蔵者の手許にのこしたまま分散保存し,デジタル化資料のみを公開利用するというモデルが確立された。将来的には,所有者や所蔵館が現物を寄贈せずにデジタル化したデジタルデータのみを電子書籍のようにNDL等に寄贈または納本することも可能であると考えている。今回のデジタル脚本アーカイブズに関しても,「国立国会図書館デジタルコレクション」と同様の仕様でデジタル化を行った。脚本のデジタル化については,権利者が脚本家(原作者含む)のみであり,公開する場合も許諾が取りやすく,有用なデジタルコンテンツになり得るであろう。

 デジタル脚本アーカイブズの取組は,海外からの利用可能性を秘めている。セリフで構成される脚本は,小説よりも実際の会話に活かすことのできる表現も多く,日本語を学ぶ上でも有用であり海外の日本研究の資料としても活用できる。

 今後は,脚本家や作品を紹介する小規模なデジタル脚本アーカイブズを集積し,NDLの電子展示会「近代日本人の肖像」の脚本版をイメージした「デジタル脚本全集」の構築等を目指し,コンソーシアムとして研究を行っていきたい。

日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム・石橋映里

Ref:
http://ichikawa.nkac.or.jp/
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8280289/nkac-ichikawa.jp
http://fujimotogiichi.nkac.or.jp/
http://db.nkac.or.jp/
http://www.nkac.jp/
http://giichigallery.net/
http://bunka.nii.ac.jp/
http://imagine.bookmap.info/index.jsp
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2011/__icsFiles/afieldfile/2011/05/17/pr20110518.pdf