E1749 – 新ヘルシンキ中央図書館とその構想

カレントアウェアネス-E

No.295 2015.12.24

 

 E1749

新ヘルシンキ中央図書館とその構想

 

 筆者は,2015年9月7日から11日まで科研費助成事業「『場としての図書館』の統合的研究:日本の新しい21世紀型図書館パラダイムの提唱」の一環として,ヘルシンキ市図書館を訪れ,新ヘルシンキ中央図書館プロジェクトの計画責任者であるピルヨ・リパスティ(Pirjo Lipasti)氏ら図書館関係者から聴取りを行った。以下,本稿ではその内容を報告する。

 まず,ヘルシンキ市図書館の概況を述べると,地域コミュニティに応じた特色ある中小規模の37図書館のネットワークによって構成されており,フィンランド国内の全公共図書館の中核としても機能している,さらに,今後は,近隣国デンマークのオーフス市(2015年開館),ノルウェーのオスロ市(2017年開館予定)に次いで,ヘルシンキ市図書館に大規模な中央図書館(新ヘルシンキ中央図書館)が市内中心部に新設される予定である。 

 新ヘルシンキ中央図書館は,市と市民が主体となって計画を進めているが,2017年のフィンランド独立百周年を祝う国の公式メインプロジェクトとしても指定された。フィンランドにおいては,まさに「図書館が独立と百年に亘る国の存続の象徴としてふさわしい」からだとリパスティ氏は述べる。氏によると,ロシアからの独立後制定された憲法で保障された自己啓発と教育の機会均等,そして世界に誇る,国の重要戦略の一つである教育政策は,公共図書館によって支えられているという意識が,フィンランド国民の間に育まれているのである。なお,新ヘルシンキ中央図書館の開館は2018年12月6日(独立記念日)となる予定である。 

◯新ヘルシンキ中央図書館の立地と建物

 新ヘルシンキ中央図書館は,ヘルシンキ中央駅,国会議事堂,現代美術館,オペラハウスなどがあるトゥーロンラッティ(Töölönlahti)地区に建設中である。国内の最も重要な交通の要衝であるとともに,国及び市の政治,経済,文化の中心地でもある地区に立地することになる。そのアクセスの良さから1日1万人,年間250万人以上が訪れると試算され,この数は現在のヘルシンキ市内の全公共図書館の利用者数である年間約65万人をはるかに凌ぐ。 

 国際コンペの結果,市民の直接投票で選ばれたのは地元の建築設計事務所ALA Architectsの作品であった。コンセプトは,「雲を載せ,木を纏う図書館」で,雲のようにカーブした白い屋根を持ち,壁や床に木材が多く使用される。延床面積は1万平方メートル,建築費用は9,600万ユーロ(百周年メインプロジェクトになったため国から3,000万ユーロの補助が出る)である。2015年9月から開始された建設工事の様子はライブカメラで配信され,工事現場のフェンスにも覗き穴があり,誰でもいつでも直接工事を確認できる。また,北側フェンスには住民が自由にメッセージを書きこめるFree Speech(自由な言論)のセクションが設置されている。 

◯新へルシンキ中央図書館のサービス

 街頭キャンペーンや新館ホームページで,新図書館に対する市民の多くの「夢」を集め,カテゴライズした結果,最も要望が多かったのは,「静寂」であり,その次が「活動,イベント」であった。そのため,階によって全くコンセプトの異なる空間構成が考えられている。図書館1階は,ロビー,展示スペース,映画館,レストラン,カフェのある賑やかで活気にあふれた市民の出会いの場・憩いの場・自由な市民活動の場となる。2階は,音楽スタジオ,メーカースペース(3Dプリンターや編み物,手芸,工作などのコーナー),キッチン,ゲームコーナー,集会室,起業家のためのオフィスなどがある活動的でクリエイティブな場となる。3階は集中した勉強や研究,落ち着いた読書や思索ができる静寂な空間が創られる。そして,3階には広い児童室が設けられる。開館時間も大幅に延長され,デジタル資料の提供,IT講座などデジタル関連のサービスも充実させる。計画段階から導入の可否が注目されたサウナの設置は,図書館職員たちが,館内でのサウナの運営管理が困難であること及びサウナはすでに市内に多数存在することなどを理由に反対している模様である。 

◯新ヘルシンキ中央図書館プロジェクトの理念

 本プロジェクトは,建築デザインのコンペ,サービス構想,予算編成案まで市民参加で進められているが,その背景には「ヘルシンキ市戦略プログラム2013-2016」と国の「公共図書館評議会2011-2016戦略」の理念が存在する。前者は政策決定の透明性,市民参加,公平公正などを重視する市政の理念と方針を示すもので,後者は,利用者のニーズや社会の変化に伴う公共図書館サービスの利用者中心の新しいあり方や目標を示したものである。さらに,2017年には図書館法(1928年制定,最終改正1998年)の改正によって,市民の自己啓発や生涯学習等の機会均等の促進と,図書館ネットワークの構築という従来の理念に加えて,市民権と民主主義を支えるという図書館の役割が新たに強調される予定である。 

 このように,フィンランドの図書館関係者は,平等で公正な市民社会の強化や,市民参加型の直接民主主義を促進し支えるという図書館の重要な役割に対する社会からの大きな期待と要請に,新ヘルシンキ中央図書館プロジェクトを通して一層積極的に応えようとしていると感じられた。

神戸女子大学文学部・久野和子

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