E1715 – 米国アーキビスト協会2015年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.289 2015.10.01

 

 E1715

米国アーキビスト協会2015年次大会<報告>

 

 2015年8月16日から22日まで,米国アーキビスト協会(Society of American Archivists:SAA)2015年次大会が,米国クリーブランドにて開催された。本大会には米国・カナダを中心として,アーキビスト(文書館等の専門職),アーカイブズ学の研究者・教育者・大学院生,企業関係者などが参加した。日本からは,平野泉(立教大学共生社会研究センター),橋本陽(同),元ナミ(学習院大学大学院)の各氏が,テキサス医療センター図書館(ヒューストン)との国際共同研究として「原爆傷害調査委員会(ABCC)」資料のデジタル・アーカイブズ構築プロジェクトについてセッションを開催した。また筒井弥生氏(一橋大学大学院非常勤講師)は国立国会図書館やNHKなどの東日本大震災関連のデジタル・アーカイブ運営の取り組みを素材として,「デジタル・アーカイブ」をめぐり,「アーカイブズの理論」に基づくか否かという日本内外のズレを検証するポスター発表を行った。さらに,齋藤歩氏(学習院大学大学院)は建築アーカイブズの資料組織化などに関する自身の研究を進めるため,このトピックに関するワークショップなどに参加した。筆者自身は,政府のオープンデータやオープンガバメントに関する自らの日本学術振興会の科研費研究の遂行,また,筒井氏のトピックと重なるが,「デジタル・アーカイブ(ズ)」に関する日米の概念の違いの検証も目的として,初めてSAAの年次大会に参加した。以下,筆者が関心をもったテーマに絞り,本大会について報告したい。

 今大会では,資料保存,目録作成・資料組織化,政策課題,電子化への対応など,多様なトピックに関してセッションが開かれたが,筆者が関心をもったもののひとつに,「研究データの保存・管理」をめぐる22日のセッションがあった。ここでは,イリノイ大学,パデュー大学,カリフォルニア大学デービス校での研究データの保存・管理の具体的事例が紹介された。筆者が,「研究データの保存・管理について教員や研究者からの理解を得るために,どのような働きかけを行っているか」と尋ねたところ,「研究データセットのダウンロード数や引用件数など,数字に訴える」「若手研究者に対し,「デジタル・スカラーシップ」(デジタル技術を活用した研究方法)を提示・教育する意義を示す」といった返答があった。もうひとつ,同じく22日には,カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のデュランチ(Luciana Duranti)教授が主宰するデジタル情報保存の国際研究プロジェクト「インターパレス」(InterPARES)のもと,「政府のオープンデータの取り組みと,クラウドサービスを用いたデータ保存・管理に関する課題」についてセッションが行われた。ここでも筆者が,クラウドサービスに適用される法制度の問題(どの国の法律が適用されるか)について尋ねたところ,登壇者から「データは自動的にサーバに移管・保存されているので,どの国におかれたサーバにデータが保存されているか分からない。それゆえ,どの国の法律が適用されるか分からないことが多い」「クラウドサービスと法制度の問題を解決するために,『インターパレス』の一環として契約モデルの策定に取り組んでいる」などといった返答があった。

 本大会ではこれらのセッションに加え,研究や実践に関するポスター発表や,企業・専門家団体・大学などによる展示,主題ごとのワークショップ・講習会,クリーブランド周辺の各種アーカイブズの見学会などが開かれたほか,SAAや出版社による書籍販売も,研究や実践をめぐる最新の成果を知るのに有益な機会であった。中でも重要と思う2点をここで紹介しておきたい。


  • Duranti, Luciana; Franks, Patricia C., eds. Encyclopedia of Archival Science. Rowman & Littlefield, 2015, 454p.

 アーカイブズ学に関する史上初の包括的な事典と銘打っており,伝統的な事柄から最新の動向に至る154項目について,国際的な観点で提示している。 

  • Bastian, Jeannette A., et al. Archives in Libraries: What Librarians and Archivists Need to Know to Work Together. Society of American Archivists, 2015, 137p.

 図書館の中で働くアーキビストや,図書館員・図書館長を主な想定読者として,アーカイブズと図書館との共通点・相違点を提示し,両者のよりよい協働を促すことを意図している。


   なお,「デジタル・アーカイブ(ズ)」に関しては,「デジタル・アーカイブズにおけるプライバシー・秘匿性をめぐる課題」と題する講習会が8月17日に開かれ,筆者と平野氏も参加したが,この内容についてはメールマガジン「人文情報学月報」no. 50(人文情報学研究所,2015年9月)にて詳しく紹介している。 

  次回のSAA年次大会は,2016年7月31日から8月6日まで,米国アトランタにて開催予定である。加えて,国際アーカイブズ評議会(International Council on Archives:ICA)による4年に1度の世界大会が,2016年9月5日から11日まで韓国ソウルにて開催されることになっている。「日本国外ではどのような事柄が話題になっているか,また日本での課題の解決のためにどのような点を参考にできるか」を知るきっかけとするため,日本からアーキビストのみならず図書館ほか関連領域の関係者からも,こうした国際的な機会に参加する方々が増えていくことを,筆者は願っている。 

天理大学人間学部・古賀崇

Ref:
http://www2.archivists.org/
http://archivists.org/am2015
https://kaken.nii.ac.jp/d/p/25244028.ja.html
https://kaken.nii.ac.jp/d/p/25730191.ja.html
http://www.interpares.org/
https://rowman.com/ISBN/9780810888104/Encyclopedia-of-Archival-Science
http://saa.archivists.org/store/archives-in-libraries-what-librarians-and-archivists-need-to-know-to-work-together/4700/
http://www.dhii.jp/DHM/
http://www.ica2016.com/eng/index.do