E1632 – 「オープン世代」のScience<報告>

カレントアウェアネス-E

No.271 2014.11.27

 

 E1632

「オープン世代」のScience<報告>

 

 2014年10月21日,国立情報学研究所(NII)において第3回SPARC Japanセミナー2014「『オープン世代』のScience」が開催された。同セミナーはオープンアクセス・サミット2014の第1部であると同時に,世界各地でオープンアクセス(OA)に関連するイベントが開催されるオープンアクセスウィーク(OAW)にあわせて行われたものでもあった。2014年のOAWのテーマは“Generation Open”で,若手研究者のOAへの参加に焦点をあてていくとしていた。筆者は本セミナーの企画に参加し,他の企画者とも話し合い,OAWというある種の「祭り」に際して,日本国内で科学,研究のあり方を変えるような取り組みを行っている若手研究者にその活動を紹介してもらうとともに,図書館員と彼らの架け橋となる場を設けたいと考えた。以下,概要を報告する。

 冒頭で企画者の1人でもある大阪大学附属図書館の土出郁子氏から趣旨説明があった後,早稲田大学理工学術院の岩崎秀雄氏から,生命科学と芸術表現が「食い込み合う」,バイオメディアアートについて紹介された。生命とは何かを考えるのが生命科学だが,その問題は古来,文学や芸術が扱ってきた主題であった。生命科学の展開に興味を持つ芸術家は相当数存在し,近年では研究室を芸術家のアトリエにする,あるいはアトリエに生命科学者が入っていくバイオメディアアートが成立した。その中では高価な機材を使用する無菌操作を自宅のキッチンで安価に再現できる技術や,手軽に入手できる素材で青いバラを培養する技術など,これまで企業や大学に専有されていた技術を市民が手に入れる活動も現れていることが述べられた。

 明治大学米沢嘉博記念図書館の山田俊幸氏からは,「論文ったー」やニコニコ学会βの活動が紹介された。山田氏が開発した論文ったーは,Twitterで盛り上がっている話題に関する論文を紹介するサービスである。また,ニコニコ学会βはエンターテイメント性の高い研究発表の場で,山田氏も運営に参加している。論文ったー利用者の多くは研究者ではないと考えられ,ニコニコ学会βの発表者の約半数も職業的な研究者ではない,趣味で研究活動を行う人々である。ソーシャルメディアの登場で研究に興味があったり,趣味で研究をしていた人々が可視化され,さらに研究の成果を気軽に発表できる手段を得たことで,今後は研究がカジュアルになされる時代が来るのではないか,と山田氏は述べた。

 3人目の発表者はゼネラルヘルスケア株式会社の竹澤慎一郎氏である。竹澤氏からは同社が立ち上げた日本発のOA雑誌Science Postprint(SPP)が紹介された。創刊の経緯等に加え,SPP独自の試みとして研究者の資金調達を支援するため,企業ニーズに合致した論文投稿に対し資金が拠出される論文アワードや,論文1つずつに寄付ができる機能等が用意されていることが述べられた。

 奈良先端科学技術大学院大学の駒井章治氏からは,駒井氏自身が2014年 9月まで委員長を勤めていた日本学術会議若手アカデミー委員会の活動が紹介された。同委員会は29人の若手研究者から構成されるが、駒井氏はその他に各学協会の若手の会の代表に声をかけ,86団体から参加者を集め若手研究 者のネットワークも構築している。その活動として,高校生も参加し,議論 をしながら研究のアイディアを出すイベントの開催や,国際的な若手研究者ネットワークにも参加していること等が紹介された。また、駒井氏自身の考えとして,科学を当たり前にあるものとして楽しみ,享受するものにしたいという、「科学を文化に」というアイディアも紹介された。

 慶應義塾大学SFC研究所の堀川大樹氏からは,研究者が情報をオープンにすることの意義について話題提供がなされた。堀川氏は,大学からは給与を受けていない,いわゆる在野の研究者である。研究資金の獲得方法としてはブログで学術的な話題を無料で提供しつつ,メールマガジンやグッズ販売で資金を得ているという。そのように自身の活動をソーシャルメディア等でオープンに発信することで人々の注目が集まり,資金や研究へのフィードバックが得やすくなることが実例を交えて紹介された。また,同じように在野で生物学研究に従事する,「バイオハッカー」の活動も紹介された。

 最後に行われたパネルディスカッションでは,講演者に加えて3人目の企画者である近畿大学医学部の榎木英介氏がパネリストに,筆者がモデレータとなり,アカデミアの外で行われる研究とその発表方法のあり方,図書館や出版界はその如何なる支援が可能なのかといったトピックについて,パネリスト間で積極的な議論が交わされた。

 現在の大学図書館が直面する課題の中には,業績評価や研究者のキャリアパスのあり方等,研究コミュニティ自体が変わらなければ解決できないものも少なくない。「オープン世代」のScienceが今後どう発展していくのか,それによって既存のアカデミアに影響を与えうるのか,注視し続けていく必要があるだろう。

同志社大学社会学部・佐藤翔

Ref:
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2014/20141021.html
http://metaphorest.net/
https://twitter.com/ronbuntter
http://niconicogakkai.tumblr.com/
http://www.spp-j.com/
http://www.youngacademy-japan.org/
http://horikawad.hatenadiary.com/
http://biocurious.org/


 

 

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