E1603 – 庭先の本棚 “Little Free Library”,世界へ,そして日本へ

カレントアウェアネス-E

No.266 2014.09.11

 

 E1603

庭先の本棚“Little Free Library”,世界へ,そして日本へ

 

 2009年,米国のウィスコンシン州の田舎町ハドソンのとある家の庭先に,鳥の巣箱のような小さな本箱が設置された。設置したのはトッド・ボル氏。学校の教師であった母へ捧げるものだった。当初ボル氏は,この本箱をたくさん作るつもりなどなかった。しかし翌年庭でガレージセールを開いた時,地域の人たちが気に入ってくれたのを目にした。これはマジックのようなものだと感じ,地域に広めることを決意した。その非営利の活動は,地域へ,そして今や世界75か国へとひろがった。これまでに設置された本箱の数は20,000個を超え,なお増え続けている。

 2014年8月末,ボル氏は,第2回マイクロ・ライブラリーサミットにあわせ来日し,Little Free Libraryについて,その誕生の話から始まる講演をおこなった。講演内容を交えつつ,Little Free Libraryの活動を紹介する。

 ハドソンから始まったLittle Free Libraryは,そこからほど近い都市であるミネアポリスやマディソン,その他のコミュニティに設置の動きが広がった。そのルールはシンプルである。“Take a book, return a book”。つまり,小さな本箱の中に本を並べ,近所の人が,誰でも自由に持っていったり,置いていったりすることができるようにする。それだけである。しかしその小さくてシンプルな仕掛けが,地域の人たちの交流を生み出した。政治や宗教やメディアなどにより分断されがちな地域の人たちが,本を通じて理解しあうきっかけとなった。空調のある快適な部屋に皆が閉じこもるのに代わり,子どもが本を読む姿が,庭先で見られるようになった。

 たしかに“マジック”のようだが,そこには試行錯誤もあったという。初期には“return a book”ではなく,“leave a book”というルールにしていた時期もあった。自分の本を持参し他人の本と交換するかのようにも読めるそのルールに,戸惑いがあったのか,うまくいかなかった。また各所での事例を蓄積していく中で,情熱を持つ人の存在が必ずあること,地域の人が本の提供などの形で関わっていることなど,うまくいく上での秘訣を学んできたという。

 普及の大きな推進力となったのは,たくさんのメディアに取り上げられたことだった。地域にLittle Free Libraryが設置されると,その地域のメディアが取り上げる。大手のメディアも取り上げる。最近では,毎日のようにどこかのメディアに掲載されるようになっている。ボル氏のお気に入りの記事は,Reader’s Digest誌で2013年に掲載されたランキング“50 Surprising Reasons We Love America”だという。「スライスしたパン」に次いで,Little Free Libraryが11位にランクインし,その下位にはボン・ジョヴィやビル・ゲイツが名を連ねている。またLos Angeles Times紙では,“見知らぬ人を友人に変え,人間味のない地区をコミュニティに変える”と紹介された。もちろん図書館界も注目している。Library Journal誌では2013年のMovers & Shakers(E1546E1587参照)において,ボル氏と協力者のリック・ブルックス氏を選出している。図書館員にはこの活動のファンも多いようである。

 Little Free Libraryでは,本棚を作成するキットを用意し,それをインターネット上で販売している。現状,世界の35%のLittle Free Libraryは,これを購入し設置したものである。販売用のキットは,大企業によるものではなく,アーミッシュの人たちなどの協力を得て作られたものである。残りの65%は,設置者たちが自ら作成したものである。家族で作ったもの,友達同士で作ったもの,芸術家が作ったもの,建築家が作ったもの,個性あふれる本箱が設置されている。

 この活動はものづくりの観点でも注目され,イベント性を帯びた企画も行われるようになった。2013年にはニューヨークで,10チームのアーティストが斬新なデザインのLittle Free Libraryを作成し,街中に設置するという企画が行われた。2014年にはシアトルでLittle Free Libraryのデザインコンテストが開催されている。企業や地域の団体などにより本箱作りのイベントが催されたり,学校でデザインコンペティションを実施しその優秀作品を地域の人たちが作るという企画が行われたりしているという。設置されたLittle Free Libraryは,地域の人たちのお気に入りのスポットとなり,ツーリングやハイキングのコースになったりもしている。写真はPinterestやFlickerなどの写真共有サイトで共有されている。Facebookでは,写真やエピソードが日々共有されている。また,2013年には動画コンテストも行われている。

 この世界的なネットワークに正式に参加するには,登録を申請する必要がある。登録されると,Little Free Library公認のサインを掲示することができ,また世界地図の上にデータが登録され,そのネットワークとつながることになる。登録には,一図書館あたり,34.95米ドルかかる。経済状況によっては,支払いが難しいこともあると思われるが,支援が行われることもあるという。

 第2回マイクロ・ライブラリーサミットの席上,今回のボル氏招へいの立役者である礒井純充氏から,まちライブラリー(CA1812参照)がLittle Free Libraryと連携し,そのすべてが公認のLittle Free Libraryとなることが発表された。小さな図書館により人々の交流を生み出す活動が,相互につながり,大きな広がりを見せている。

関西館図書館協力課・依田紀久

Ref:
http://littlefreelibrary.org/
http://littlefreelibrary.org/pressresources/
http://littlefreelibrary.org/wp-content/uploads/2013/09/Sept15th-newsletter.pdf
http://littlefreelibrary.org/stewards-friends/how-to-information/
http://new.livestream.com/machilibrary/mls2014/videos/60634343
https://www.rotary.org/ja/do-it-yourself-libraries
http://articles.latimes.com/2012/jun/27/local/la-me-little-free-library-20120628
http://lj.libraryjournal.com/2013/03/people/movers-shakers-2013/todd-bol-rick-brooks-movers-shakers-2013-innovators/
https://web.archive.org/web/20130615083815/http://archleague.org/2013/05/little-free-library-nyc-2/
http://worldvoices.pen.org/event/2013/03/20/little-free-library-walking-tour
http://awb-seattle.org/projects/libraries-on-the-loose/
https://web.archive.org/web/20130822130052/http://www.littlefreelibrary.org/little-free-library-film-festival.html
https://www.youtube.com/results?search_query=%23LFLFF
http://www.pinterest.com/search/?q=LFLFF
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