E1329 – 学術情報の国際発信・流通力強化のための基盤整備に向けて

カレントアウェアネス-E

No.221 2012.08.23

 

 E1329

学術情報の国際発信・流通力強化のための基盤整備に向けて

 

 文部科学省は,科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会による「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」と題した文書(2012年7月付)を公表した。これは,同作業部会が2011年3月以降審議を重ねてきた,日本の学術情報の国際発信・流通力強化のための基盤整備,システム改革に必要な課題や対応策をまとめたものである。

 学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備を検討する背景には,日本においてはインパクトファクターの高い,国際的に認知された学術雑誌が少ないため,日本の学術コミュニティに基礎を置く国際的な学術雑誌が必要であるとの考えがある。また,日本で生産された学術情報の電子化,ネットワーク化,オープンアクセス化の理念を踏まえて,第4期科学技術基本計画でも指摘されている「知識インフラ」構築(E1149参照)に向けた取組みを実施していくことが望まれているからでもある。

 文書では,以下に挙げる4点を学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備上の課題であると指摘している。以下,それぞれの内容を紹介する。

(1)科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の改善
 まず現行の科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の課題として,それが活用できる媒体が紙媒体の雑誌を前提にしたものであり電子ジャーナルの進展に十分対応できていないこと,評定基準や審査体制が不十分であること等が指摘されている。そのため,電子化の進展を踏まえた助成対象や応募対象経費を見直すことや,オープンアクセス(OA)の取組みへの助成,当該助成事業自体を拡充していくこと等が改善の方向性として提示されている。

(2)科研費等競争的資金による研究成果のOA化への対応
 ここでは,OAの必要性と2通りの方法が述べられ,それぞれの課題が示されている。OA雑誌による公表では,国内の科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の助成を改善し,OA雑誌としての評価が確立するまで必要経費を助成すること等が提言されている。また,セルフアーカイブによる公表では,機関リポジトリをその受け皿として活用すること,著作権を保有する学協会等と交渉することで,雑誌論文の発表時期と近い時期に,出版版に近い内容で公表できるように努めること等が重要であるとされている。

(3)機関リポジトリの活用による情報発信機能の強化
 この項では,大学等の生み出す多様な知的生産物を社会で共有・活用するための機関リポジトリの役割や意義,そして現状がまとめられた後,その機能強化のための課題や留意事項が述べられる。最重要課題である登載コンテンツの拡充のために各大学等で行われている取組みを共有化することや,学術情報を社会に還元すべきであるというように大学や研究者の意識改革を行うこと,機関リポジトリによる情報発信の取組みを大学や研究者に対する評価の観点に組み入れること等が指摘されている。

(4)学術情報基盤の強化のための環境整備に関わる機関の連携・協力
 学術情報の流通・発信力の強化に関し,国立情報学研究所(NII),科学技術振興機構(JST),国立国会図書館(NDL),日本学術振興会(JSPS)が,限られた資源の中で効率的・効果的に施策を展開するために,連携・協力,役割分担等を進めつつ,事業の拡充・強化を図る必要があるとされる。その具体的な事業として,ジャパンリンクセンターによる国内の学術情報に対するDOIの付与,JSTのJ-STAGE3を日本発の電子ジャーナルプラットフォームとして一層の強化を図ること,SPARC Japanを活用した国際化の促進等が挙げられている。

 以上の4項目のほかに,電子ジャーナルの利活用の情報共有のため継続的な統計の収集分析の必要性,ビッグデータの流通や知識インフラの整備活用を意識した学術情報基盤整備の在り方についての検討などが審議課題であるとしている。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1323857.htm
E1149