E1137 – OCLC,利用頻度の低い資料の共同管理に向けたレポートを刊行

カレントアウェアネス-E

No.186 2011.01.20

 

 E1137

OCLC,利用頻度の低い資料の共同管理に向けたレポートを刊行

 

 2011年1月6日にOCLCが,“Cloud-sourcing Research Collections: Managing Print in the Mass-digitized Library Environment”と題するレポートを公開した。これは,大学・研究図書館が所蔵しているあまり使われていない印刷資料の管理を,共有サービス提供機関に外部委託することについて検証したものである。なお,この研究は,OCLC Research,米国を中心とした大学による共同デジタルリポジトリHathiTrust,ニューヨーク大学Elmer Holmes Bobst図書館,印刷資料を保存するReCAP(Research Collections Access & Preservation Consortium)による共同プロジェクトである。

 報告書の主たる主張は,印刷資料のコレクションを最適な形で管理することによって,図書館の経営状況を改善させることができ,また,図書館の持つリソースを別の利用に振り分けることが可能となるため,大規模デジタル化資料群が研究図書館の事業を変えるものであるということにある。研究機関が利用頻度の低い印刷資料の管理を,HathiTrustのような共有サービス提供機関に外部委託することで,研究図書館は図書館スペースの確保や維持管理コストを節約することができるという。

 しかし,実現への課題があることも指摘している。HathiTrustの電子図書館に登録されている資料のうちパブリックドメイン資料の割合は小さく,それも図書館にあまり所蔵されていない資料が主であることから,HathiTrust等との交渉 によって管理コストを下げられる図書館は多くないということ,そして,パブリックドメインの資料が,研究図書館のコレクションの傾向とは異なるものであることから,研究機関における印刷コレクションを代替できないという現状も指摘されている。そのほかに,一つの印刷資料の共有サービス提供機関だけでは,図書館スペースの確保や維持管理コストの節約は不可能であり,共有サービス提供機関のネットワークに依拠せざるを得ないということ,そして,集中管理された印刷資料に基づいた資料発見・提供サービスを欠いていることも指摘し,印刷資料の管理方針の変化への障害になっているという。

 そのため報告書では,上述の課題を乗り越えるために,コレクション管理に関わる抜本的な改革が必要であると訴えている。そしてその改革の規模や影響範囲を判断する際の基準として,次の調査結果を挙げている。北米研究図書館協会(ARL)加盟の大学図書館の所蔵資料とHathiTrustの登録資料の重複率が30%を超えていることから,米国の研究図書館で購入された資料の3分の1がすでにデジタル化されリポジトリで共有されているということ,所蔵資料のデジタル化のスピードが新たに資料を購入するスピードを上回ることで,図書館の運営や人員配置,館内スペースの要件に変化が起こりうるということ,そして,これまで資料が占めていたスペースに余裕が生まれるようになると,学習や研究用の共有スペース,メディアラボ,教員や機関外の研究者のための研究用スペースに十分な空間を確保できるようになること等である。

 報告書の結論部分では,印刷資料の管理の外部委託には,研究図書館のコミュニティのリーダー達の指導が不可欠として,関係機関に対する提言をまとめている。図書館長や管理者に対しては,著作権保護期間中のデジタル化資料にアクセスできるようなライセンス契約を主張すべきであるということ,図書館の伝統的な機能を選択的に外部委託することが,大学や研究の使命を果たす組織としての能力を高めることにつながるものであるということを,教員や大学職員に対して直接,説得力のある方針で説明すべきであるということ,HathiTrustが大規模デジタル化資料群の利用を市民に拡大させようとしている動きを支援すべきであるということを指摘している。

Ref:
http://www.oclc.org/research/publications/library/2011/2011-01.pdf
http://www.oclc.org/research/news/2011-01-06.htm