CA1161 – 電子文献の発生,利用,保存−納本図書館の新たな闘い− / 飯倉忍

カレントアウェアネス
No.220 1997.12.20


CA1161

電子文献の発生,利用,保存
−納本図書館の新たな闘い−

紙の形態をとらない電子的な文献というものが増え続けている。国立図書館などの納本図書館は,これらの電子文献についても納本対象として目配りする必要に迫られはじめている。しかし,今まで対象としてきた既存の資料とは,発生から形態まで明らかに異なっているそれらを,どのようにして収集し,整理保存し,そして提供すればいいのかについてはまだ定まった様式というものが無い。

ベルギー王立図書館では納本図書館としての観点から,電子文献の発生から図書館のサービスに至るまでのワークフローを16の過程に分けて検討した。以下,その各過程を追いつつ,それぞれの注意すべき点を簡単に示してみたい。

1. Creation(著作,創作)

電子文献が様々な種類のソフトウェアを用いて作成される。

2. Review(審査)

多くは商業出版者によって内容が審査され,同時に刊行の準備がされる。

3. Production(刊行)

このステップで実際に著作がCD-ROM等に記録されるか,オンラインサービスに登録されて,一般の人達が入手できるようになる。ただし,著者が直接ネットワーク上に自分の著作を出せばこの2と3のステップは不用になる。最近のコンテンツプロバイダーと呼ばれる機関では,今までのような紙での刊行は行わずに直接オンラインでの提供を行うようになってきており,存在を確認するのが難しいものも増えてきた。

4. Selection(選択)

電子文献の選択基準は国毎に異なることになると思われるが,要は何を自国の全国書誌に載せるか,言い換えれば何を納本対象にするか,という点で基準を考えるべきである。今までの印刷形態の資料については一定の方式が確立しているが,電子文献の場合はメディアやフォーマットも頻繁に変化するなど,そのルール作りは複雑なものになるだろう。また,その内容(Contents)だけを保存するのか,媒体も含めて保存の対象とするのか,ということをはっきりさせることが大切になってくる。

5. Acquisition(電子文献の取得)

選択され納本の対象となったものは出版者から届けられるか,オンラインの場合,ホストからネットワーク経由で転送されることになる。ただし,このとき出版者や作製者側がこのことを知っておりかつそのことに同意している必要がある。

更に巨大なデータベースとなれば分割して転送出来るようにしておいた方が良いだろうし,データが更新されればその都度取得出来るようにしておかなくてはならない。

オンラインでのデータについてはリンクをはるということが考えられるが,この場合,最新のもののみが入手できるだけで,またホスト側が図書館に通知せずにシャットダウンするというリスクがあり,望ましいものではない。

6. Registration(登録)

納本図書館と出版者との間で,電子文献登録を推進するには,あらかじめ書誌情報を含めたその受け渡し手順について取り決めておくことが望ましい。

7. Installation(接続,立ち上げ)

オンラインであればホストへの接続を行い,オフラインであればワークステーションを立ち上げて必要なソフトをインストールすることになる。

8. Description(記述)

図書館員によって,電子的なタイトルページ相当部分の情報をもとに記述がされ,時に主題やコード類も併せて記録される。これらの情報はドキュメントの本体とリンクされ,後で同定作業や検索に利用できるようになる。

オフラインでは,販売されるときの外のパッケージに必要な書誌的事項が記録されているが,オンラインの場合,記述の拠り所とでも呼ぶべき標準の様式が決められていないという問題がある。図書館,利用者,出版者が一体となってこの「電子タイトルページ」とでも呼ぶべき標準様式を決めるべきである。

インターネットの世界では互いに識別できるユニークな情報としてURLやURIなどが記録されるようになってきているが,同様な情報として印刷物におけるISBNのような標準的なコードが電子文献に対して策定されるときには,図書館も積極的に関与すべきである。

また,目録作業にも変化がある。ステップ6で示したようなことができるようになれば,予め出版者等が電子文献の内部に決まった様式で書誌事項に当たる情報を記録しておき,それを図書館側は自動的に解析して記述出来るようになる。

9. De-installation(遮断,終了)

ネットワークの接続を切るか,端末を終了させる。

電子文献を実際に保存していくためには,それらの内容や必要なソフトについてチェックしていくことが必要になる。エラーが発生すれば訂正することになるが,場合によっては出版者にそのデータを返し,新しいバージョンを提供してもらうようなことも出てくる。技術的要件を出版者側は大体楽観的に考えているが,将来登場するかもしれないハード,ソフトでも使用できるためには,現在の技術的要件をしっかりと記録しておかなければならない。したがって,MARCフォーマットにそういった情報を記録できるフィールドを新たに設けることなどが必要である。

10. Technical Description(技術的要件の記述)

7と9のステップを踏まえて,技術,管理の情報が記述に加えて記録される。これは,技術的にアクセスが有効に行えるようにするとともに,時代遅れとなったハードやソフトを置き換えるのに必要となる。

ここまでのステップでようやく納本図書館での電子文献の保存が可能になる。このあとのステップは保存と利用に関するものである。

11. Migration(変換)

オリジナルの形態から,物理的に保存するために別の形態にその内容を移し替える。バックアップ用のコピーもさらに別のメディアで作成する。

12. Storage Handling(保管処理)

他のメディアへ保存する場合,利用の状況(頻繁に使われるか否か)毎に違ったメディア(頻繁にアクセスされるならハードディスク,そうでないならCD-ROMやテープ)を用いることになる。また実際の利用の状況によっては,改めてそれに合ったメディアに変えることも必要になるかもしれない。更に技術革新も早く,標準と呼べるものがまだ無い今の状況では,ハードやOSも「博物館化」しないための措置が必要になる。

13. Pathfinder(誘導)

電子文献にたどり着くために,格納された場所についての情報を記録しておく必要がある。

14. Indexing(索引作業)

ステップ8で記述された情報を基に,検索のためのインデックスが作成される。問題はインデックスを利用者が求めるものにうまく合わせられるか,にかかっている。

15. Access(アクセス)

利用者がソフトウェアにアクセスしているか否か,利用する上での制約があるかどうか,などを記録しておく必要がある。この記録が,文献の出所を証明したり,利用者への課金をするときなどに必要となってくる。

16. Services(提供,サービス)

電子文献の納本図書館は,ラストリゾートとして利用される事になるが,他方,出版者や作製者にとって,文献が商品価値を持つ間はもう一つの販路ともなりうる。さらに,図書館のサービスとしては直接的なアクセスから,ドキュメントデリバリー,あるいは要求に応じた紙での出力と配布などがあるが,これはディストリビュータとしての役割を果たすということにもなり,図書館に新しい機会を提供してくれることになる。

問題点を整理してみると,文献のフォーマットが多種多様で共通の形式がない,入手されたものが固定されたものではないため固定化する必要がある,内容が変更される度に入手しなくてはならない,そもそもいつ変更されたかわからない,再生するためにハードとソフトの2種類の仕組みを持たなくてはならない,そしてそれらもフォーマットと同様に多種多様である,しかもすぐに旧式化する,等があるだろうか。

この他にもさまざまな問題はあるが,いずれにせよ,図書館だけでなく,出版者から利用者に至るまで一体となって議論すべきである。そして恐らく図書館はそのまとめ役,あるいは調整役を果たさなくてはならないだろう。

飯倉 忍(いいくらしのぶ)

Ref: Feijen, Martin. Workflow for electronic publications in a national library. Libr Acquis 21 (3) 327-336, 1997