CA1143 – 英国日本語出版物総合目録(2)−日本関係情報の現状(3)− / 小山騰

カレントアウェアネス
No.216 1997.08.20

 

CA1143

英国日本語出版物総合目録(2)
−日本関係情報の現状 (3)−

2.現状

A.目的

さて,歴史的な説明の部分が少し長くなったが,ここでは本題の英国日本語出版物総合目録の現状を報告してみよう。まず,プロジェクトの目的であるが,もちろん文字通り総合目録作成である。しかし,それだけにとどまらず,各メンバー図書館の日本語コレクションをコンピュータ化することも目的の一つである。要するに英国にある主要な図書館の日本語コレクションのコンピュータ化を共同して統一的に進めることによって,同時に総合目録も作成しようとするのがこのプロジェクトである。総合目録の作成と個別図書館のコンピュータ化がリンクしているのである。

B.メンバー

ケンブリッジ大学図書館,オックスフォード大学ボードリアン図書館,英国図書館東洋インド省部,スターリング大学図書館,シェフィールド大学東アジア研究図書館およびロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)図書館。これらは英国の主要な日本語コレクションを所蔵する図書館であり,かつ日本図書館グループの中心メンバーである。このうち,SOAS図書館の参加状態については,他のメンバーとは事情が少し異なるので,説明を加える必要がある。同館の日本語資料は英国では最も大きなものの一つで,どうしても英国日本語出版物総合目録にその所蔵データを含めたいコレクションである。しかし,SOASの場合,日本語資料をコンピュータ化する方法で英国日本語出版物総合目録プロジェクトのやり方とは多少整合しない部分が存在する。以下,その点をもう少し詳しく説明する。

通常,日本語コレクションをコンピュータ化する場合,およそ三種類の方法が考えられる。一つは,まったく他の図書館資料(多くの場合英語などの西洋語の資料)と同一に処理する方法である。この場合,日本語をローマ字のみで表現する方式を取らざるをえない。次に,東アジアの漢字圏の資料(いわゆる中国語,日本語そして韓国語のCJK)を一緒に処理する方法である。北米などのRLIN CJKやOCLC CJKなどが採用する方法がこれに当たる。そして最後の方法は日本語資料のみを単独にコンピュータ化する方法である。日本の多くの図書館および英国日本語出版物総合目録プロジェクトで採用している方法である。

SOASは現段階では最初の方法を採用しており,日本語資料を含めて全図書館資料を統一的にコンピュータ化している。SOAS図書館のコンピュータ化の基本方針として,日本語資料だけを別個扱いにするのを許していないのである。SOAS以外の他のプロジェクト参加館では,日本語資料を英語などの主要な図書館資料とは別扱いにしてコンピュータ化してもよいという前提があり,その前提のもとに英国日本語出版物総合目録プロジェクトが成立しているのである。以上のような事情のため,現時点では,自館の日本語資料をコンピュータに入力するのが同時に日本語出版物総合目録への登録を意味するというプロジェクトの仕組みが,SOASではうまく機能しないのである。すなわち,SOASでは自館から直接NACSIS-CATへデータを入力することが行われていない。そこで,総合目録にSOASのデータが必要なプロジェクト側としては,SOASの目録作業とは別にNACSIS-CATにデータを入力した。

C.費用

英国日本語出版物総合目録を作成するような長期にわたるプロジェクトには,その活動を支える財政的な支援が必要である。このプロジェクトの大部分の費用は日英ダイワ基金からの援助でまかなわれている。日英ダイワ基金とは別に,漢字が出るオンライン目録を作成するという部分に対しては,HEFCs(Higher Education Funding Councils)から資金を受けている。HEFCsは英国政府の大学への財政資金を配分する四つの機関(HEFCE, SHEFC, HEFCW, DENI)の総称であり,日本の私学振興財団のような役割を果している。もちろん,その対象は私立大学だけを対象とする日本の場合とは異なり,英国(イングランド,スコットランド,ウェールズ,そして北アイルランド)の全ての高等教育機関である。プロジェクトのための両方の資金はケンブリッジ大学図書館で管理している。

D.総合目録の形態

現在,一応三種類の形態でサービスしている。一つはローマ字のみのオンライン目録,二つ目は漢字が出るオンライン目録そして第三番目はCD-ROM目録である。ローマ字のみのオンライン目録は現在ケンブリッジ大学図書館のOPACの一部として提供されている。ローマ字のみのオンライン目録には二種類のファイルがある。一つはNACSIS-CATからのデータを使用するものであり,もう一つはJ-BISCからのデータを利用したものである。NACSIS-CATの分については,学術情報センターの宮沢彰教授が書いた変換プログラムを使用し,NACSIS-CATのフォーマットからUK MARCのフォーマットにデータを変換し,ケンブリッジ大学図書館のOPACに導入している。ローマ字のみのオンライン目録はTelnetとthe Webで提供している。また将来ケンブリッジ大学図書館のOPACの中ではなく,漢字で出るオンライン目録と一緒にして,一つのアクセス・ポイントで両方の目録を利用できるようにする計画を持っている。

二つ目の漢字が出るオンライン目録は基本的には第三番目のCD-ROM目録をネットワーク化したものである。CD-ROM目録は学術情報センターが中小図書館向けに作成している個別版CD-ROM目録を英国用に流用したもので,個別図書館ではなく,総合目録参加館のすべてのデータが収録されている。プロジェクト側では現在5セットを購入している。データの更新回数は年4回である。また,このCD-ROM目録にはPCなどにNACSIS-CATからダウンロードされたデータを使用する機能があり,CD-ROMのタイムラグを埋めることができる。漢字が出るオンライン目録はケンブリッジ大学図書館のダン(Peter Dunn)氏によって作成され,CD-ROM目録を同館のノヴェル・サーバにのせ,オンライン化したもので,検索ソフトそのものはCD-ROM目録のソフトをそのまま使用している。これを利用するには,現在のところDOS/V(日本語のMS-DOS)とIP Tunnelが必要であり,接続するのにも多少専門的な知識が必要である。プロジェクト参加館のうち,1館を除いてすべての図書館が接続している。また,(株)ジャスト・システムの特別のご好意により,ATOK8を無償でこの目録に使用させていただいている。

E.登録状況

NACSIS-CATへのプロジェクト参加館からの登録状況は1997年6月20日現在で以下のようになっている。この数字はNACSIS-CAT上での数え方により,J-BISCの場合とは異なる点に留意していただきたい。また,英国日本語出版物総合目録全体の書誌データは1997年7月3日現在で,図書は70,224件,逐次刊行物は2,131件である。

日本語図書
オックスフォード:35,908
ケンブリッジ:27,657
ロンドン大学東洋アフリカ学院:11,467
英国図書館:11,129
スターリング大学:2,841
シェフィールド大学:2,595
合計:91,597件

日本語逐次刊行物
オックスフォード:1,081
ケンブリッジ:1,056
英国図書館:480
合計:2,617件

F.個別図書館のコンピュータ化の問題点

目的のところで述べたように,プロジェクトでは総合目録の作成とプロジェクト参加館の日本語コレクションのコンピュータ化とは密接に関係している。個別図書館のコンピュータ化の問題は,SOASの参加問題のところでも触れたようにプロジェクトの根幹に関係しているので,おろそかにできない課題である。そして,海外で日本語コレクションをコンピュータ化しようとする場合の最大の問題でもある。すなわち,コンピュータで利用できる書誌データ,たとえばJ-BISCのデータなどは海外でも簡単に入手することができるが,その書誌データを使う目録システムとか図書館のシステムを構築するとなると話はまったく別になる。要するにそれは非常に難しい問題なのである。日本で使用されているシステムなどを海外に持ち出すことも考えられるが,メンテナンスなどの点で不可能な場合が多い。

参加館は大きく分けて二つの方法でこの問題を解決している。一つはケンブリッジに代表される方法で,英国日本語出版物総合目録をそのまま自館のコンピュータ化された目録として利用する方法である。英国日本語出版物総合目録の漢字が出るオンライン目録やCD-ROM目録の場合,検索の初めで検索対象館を限定することができるので,総合目録を自館の目録として使用することはまったく問題がない。二番目の方法はオックスフォードなどが採用しているやり方で,ドイツで開発され,オックスフォードで英国化されたAllegroというPCをベースにした目録システムを利用する方法である。

G.これからの方法

最後に,この英国日本語出版物総合目録をどのように発展させようと考えているか,我々の希望を述べてみたい。まず最初,ケンブリッジ大学図書館から提供されている漢字が出るオンライン目録を新しいサーバに移す準備をしている。そして,その新しいサーバにはいずれローマ字のオンライン目録も移動させる予定であり,また,漢字が出るオンライン目録も現在の通信のやり方(ノヴェル)からウィンドウズNTを使用した通信方法に移行する予定である。それによって生まれる主な改良点は,通信のスピードの大幅な改良と,マックなども端末として使用できる点である。今後もいろいろ困難な問題がおきると思われるが,できるだけ早い時点で以上のような発展を実現させたいと希望している。

ケンブリッジ大学図書館:小山 騰(こやまのぼる)

Ref: Carnell, Peter. Check-List of Japanese Periodicals Held in British University and Research Libraries. 2nd ed.Sheffield University Library, 1976-77.
英国内の日本語出版物総合目録の実現可能性に関する調査研究プロジェクト:実験段階でのNACSISへの報告 学術情報センター紀要(5) 113-161, 1992
Perry, Brian. 英国CATプロジェクト最終報告 学術情報センター紀要(8) 385-434, 1996