約400回引用されているのに実は存在しない幻の論文”The art of writing a scientific article” 正体はElsevierの執筆ガイドラインのコピー(記事紹介)

2017年11月14日付けのRetraction Watch記事で、英国・ミドルセックス大学のAnne-Wil Harzing教授がブログで取り上げた「幻の論文への引用」が紹介されています。

Harzing教授はオランダ・ライデン大学のPieter Kroonenberg教授から「幻の論文への引用」の話を聞き、実態を調査しました。Kroonenberg教授が発見した「幻の論文」とは、”Journal of Science Communications”という雑誌に掲載された、”The art of writing a scientific article”という論文です。この論文は多くの他の論文から引用されており、被引用数の合計は約400回にものぼりましたが、Kroonenberg教授が調べたところ、そんな論文はどうも実在せず、それどころか”Journal of Science Communications”という雑誌自体、存在しなかったということです。

どういうことか調査したHarzing教授は、Elsevier社の論文著者向けガイドラインの中の、引用文献の書き方のセクションで、引用の書き方の例としてこの論文の書誌事項が使われていたことを確認しました。さらに、そのような存在しない論文がなぜ400回も引用されているのか、引用している論文を確認したところ、90%以上は国際会議の会議録掲載論文で、それもElsevier社が出版する会議録論文掲載タイトル”Procedia”に掲載されたものが3分の2以上であった、とのことです。

引用元の論文を詳しく調べると、いずれも論文としての質が低く、特に英語に問題があるものが多かったとのことです。どうやら、著者向けガイドラインの意味がよくわかっていなかった研究者たちが、ガイドラインにあるとおりそのまま引用文献を書いてしまい、それがそのまま会議録に掲載されてしまったことが「幻の論文への引用」増加につながったものと考えられる、とされています。

The “phantom reference:” How a made-up article got almost 400 citations(Retraction Watch、2017/11/14付け)
http://retractionwatch.com/2017/11/14/phantom-reference-made-article-got-almost-400-citations/

The mystery of the phantom reference(Harzing.com、2017/10/26付け)
https://harzing.com/publications/white-papers/the-mystery-of-the-phantom-reference

参考:
CA1829 – 査読をめぐる新たな問題 / 佐藤 翔 カレントアウェアネス No.321 2014年9月20日
http://current.ndl.go.jp/ca1829

SpringerとIEEE、機械生成されたでたらめな論文120本以上をプラットフォームから削除
Posted 2014年2月25日
http://current.ndl.go.jp/node/25553