E1506 – 米国大学図書館における電子書籍と冊子体の価格差調査

カレントアウェアネス-E

No.249 2013.11.21

 

 E1506

米国大学図書館における電子書籍と冊子体の価格差調査

 

Bailey, Timothy P., Cost Differentials between E-Books and Print in Academic Libraries. College & Research Libraries. (2013年10月受領,プレプリント)

 米国アラバマ州にあるAuburn University at Montgomery(AUM)は,学生数約5,000人,34の学位プログラムと25の修士課程プログラムを持つ中規模大学である。本稿ではこのAUMの図書館が行った,冊子体と電子書籍の購入価格差の調査結果をまとめた報告書について紹介する。

 AUMの図書館は,増加する図書館コレクションと収蔵スペースの制約のため,冊子体よりも電子書籍を選ぶようにしており,以前からACLS Humanities collections やSpringer e-books collections等を利用していた。これらの電子書籍のコレクションはパッケージで購入,もしくはライセンス契約され,図書館は個別購入を必要としていなかった。

 2012年,収蔵スペースの制限と,モノグラフ購入の必要性に対処するため,AUMの図書館では利用者主導型の購入(PDA;CA1777E1310参照)の検討を開始した。それに際して,電子書籍と冊子体の購入に費用差が生じるかを測定するため,2012年の秋学期に,図書館は主な図書購入希望者である教員からの図書購入リクエストについて調査を行った。同期間中,購入リクエストがあった462冊の図書のうち,57%にあたる264タイトルが電子書籍でも利用可能であった。これらについて価格の調査を行った。

 価格を調べるために使用されたのは,Baker & TaylorのTitle Source 3である。Title Source 3は米国における出版物の無料書誌情報データベースである。調査に使われた電子書籍の費用は,ディスカウント等の条件が最も良い購入方法を想定して測定された。また,ディスカウントがないタイトルは小売価格が使用された。分析は単一ユーザー価格に基づいて行われている。なお,調査終了までに,Title Source 3はTitle Source 360にアップグレードされている。

 この価格調査によって,電子書籍は冊子体よりも購入費用が高額であることが示されている。冊子体の平均購入価格は$53.50,電子書籍の平均購入価格は$73.50となり,両者の価格差は$19.17であった。

 調査結果を出版社別にみると,大学出版局から出版された冊子体平均価格は$41.96,電子書籍の平均価格は$61.13であった。また,大学出版局ではない出版社(商業出版社,大学の学部の出版局等)から出版された冊子体平均価格は$59.07,電子書籍の平均価格は$84.83であった。いずれも電子書籍は冊子体よりも平均価格が高額であることがわかった。

 大学出版局から出版されたものについてLC分類により区分し,各分類項目の平均価格を分析すると,LC分類における宗教・哲学(BJ-BT)と社会科学(H-HV)を除く全ての分類で,電子書籍の平均価格が冊子体の平均価格よりも高かった。中でも最も価格差が大きかったのは家族・女性と結婚(HQ)と,社会病理学と犯罪学(HV)であった。

 さらに,人文科学,社会科学,科学に分類してみていくと,いずれの分野においても,冊子体よりも電子書籍の平均価格の方が高額であることがわかった。なお,科学分野はどちらの平均価格も,3分野の中で最も高かった。

 最後に,リクエストのあった書籍についての一連の調査データから示唆されたこととして,AUMは以下の4点を挙げている。
1)印刷版と同時に出版される電子版は増えている。
2)電子書籍は一様に冊子体よりも安いわけではない。電子書籍の購入やライセンス契約の当初支払い額はメンテナンスにかかる費用を考慮していない。
3)図書館は電子書籍へのアクセス継続のために必要なコストに対して,冊子体にかかる保存と物理的プロセスに必要な費用も計算しなければいけない。
4)図書館は電子書籍のアクセスに関する便益コストのために充分な資金供給をされなければいけない。

 出版物が電子形態へと移行していくことは,不安定な経済状態の小規模,中規模大学図書館にとって重大な課題である。AUMはPDAを図書館コレクションの発展の継続と,利用者が求める資料の提供のための合理的な手段としている。そして,図書館が資料利用の増加により,より大きな投資価値を示せば,大学の経営組織に資金供給を要求することができると述べている。

(関西館図書館協力課・安原通代)

Ref:
http://crl.acrl.org/content/early/2013/10/23/crl13-542.full.pdf
CA1777
E1310