鹿児島県立川薩清修館高等学校・坂口味穂(さかくちみほ)
筆者が所属する鹿児島県立川薩清修館高等学校は,ビジネス会計科と総合学科の2学科からなる学校である。生徒数は200人にも満たない小規模校ではあるが,勉強はもちろん,部活動にも力を入れており,生徒はそれぞれの個性を生かしながら学校生活を送っている。総合学科の科目のひとつである探究学習では,図書館・資料の使い方などをレクチャーする「探究オリエンテーション」を実践したり,図書館の資料を活用しての学習を行うなど,図書館・学校司書(以下「司書」)としてもやりがいのある学校である。
筆者が司書として力を入れている仕事のひとつに,図書だよりの作成がある。年11回(8月以外)毎月発行している。なぜ筆者が図書だよりに力を入れているのか。例えば,館内の工夫は図書館に来てもらわなければ見てもらうことはできない。しかし,図書だよりは無条件に全校生徒へ配布をしてもらえる。たとえ読書に興味がなく,図書館に来る機会を失っている生徒がいたとしても,図書館からの情報を届けることができるのである。そのため,図書館に来てもらうきっかけとして,図書だより作成に重きを置いている。
そう思いはじめたのは,生徒のある言葉がきっかけであった。現在の勤務校に赴任して数か月が経った頃,図書だよりを発行したときに「読まずに捨てている人がいたよ」と教えてくれた。はじめはただショックを受けるだけだったが,そのうちに「捨ててもいいような図書だよりを作っているのは私か」と考えるようになった。それからは今までの図書だよりを見直し,どう工夫するべきかを考えながら図書だよりを作るようになった。
はじめに考えたのは「活字に苦手意識のある生徒に向けて作成する」というものであった。図書だよりは読んでもらえなければ意味がない。そこで,情報を伝えるということを最優先に紙面作りをしようと決めた。まず行ったのは,紙面上の文字数を減らすことであった。そのため,最初に入れていた司書の挨拶文はカットし,そのスペースを本の紹介に活用できるようにした。本のあらすじ等も,可能な限り短い文章で伝えるように努力をしている。他にも,図書だよりに登場させるキャラクターを考案した。吹き出しでキャラクターに伝えてもらうようにすることで,重要な部分が他の文章に埋もれないよう工夫をしている。フォントも,基本的にはユニバーサルデザインのフォントを使うというルールを作った。文学以外の書籍も紹介したり,生徒が食いつくようなコーナーのタイトルを考えたりと,ひとつひとつに「そうすることの意味」を考えながら作成している。少しずつではあるが,生徒や職員の図書だよりに対する印象が改善していったように思う。2022年度からはQRコードを活用してアンケートを取る,読者参加型の企画を取り入れた。ちなみに5月号のアンケート内容は,5月21日の「探偵の日」にちなんで「あなたが思う『探偵』は誰ですか?」というものだ。小説や漫画,ドラマ,映画,ゲームなどにも様々な探偵がいるため,どんな回答が集まるか楽しみである。
様々な工夫を行う中で,図書だよりの中に8コマ漫画を入れることにした。目的は「毎月変わらず入っている楽しみ」な要素を入れるためである。この漫画も図書だよりに掲載し始めてから,今年で6年目に突入した。漫画の内容は,図書館での日常や司書の仕事中に起こった面白い出来事など様々である。生徒とのエピソードでは「この間の会話を漫画にしてもいい?」と断りを入れるのだが,生徒は大喜びで了承してくれる。中には自ら「ネタにしていいよ」と言ってくれる生徒もいる。職員も同様で「漫画に出演できる」と快諾してくれている。直接読書や本に関するエピソードばかりではないが,図書館の雰囲気を伝えることができている。
おそらく図書だよりが配布されるときは表面が上になるだろうと考え,漫画は裏面に掲載している。そうすることで,裏面の図書紹介も見てもらえるのではないかと考えた。徐々にではあるが「今月号に載っていた本はありますか?」と図書館に来てくれる生徒も増えた。また「今回も楽しかった!」「今月号はまだ出ないんですか?」と生徒は図書だよりを楽しみにしてくれているようだ。8コマ漫画を読んで,図書館ではもちろん,教室や職員室でも会話や議論が始まることもあるようで,話題提供としての役割を果たすこともある。毎月のネタ探しやイラストを描く作業は時間も気力も要するが,楽しみに待ってくれている人のために頑張っている。
2022年2月24日,その漫画を1冊の冊子にまとめて本校のウェブサイトで公開した。過去5年分の漫画から掲載する作品を図書委員に選んでもらった。冊子のタイトルは「うちの図書館」。これも図書委員が考えてくれたものである。冊子は近隣中学校に配布をしたり,本校ウェブページに掲載をしたりと学校PRに用いられ,ありがたいことにたくさんの反響があった。現在も本校ウェブページの専用バナーから閲覧ができる(2022年8月31日まで)。興味のある人はぜひ閲覧願いたい。
Ref:
“「うちの図書館」期間限定公開!”. 鹿児島県立川薩清修館高等学校. 2022-02-24.
http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/sensatsu/docs/2022022400086/ [1]
寿ジュリア. うちの図書館. 鹿児島県立川薩清修館高等学校, 2022, 35p.
http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/sensatsu/docs/2022022400086/file_contents/utitosyo1.pdf [2]
“04.図書だより”. 鹿児島県立川薩清修館高等学校 公式ブログ.
https://sensatsu.edu.pref.kagoshima.jp/category/bunrui/bunrui38/ [3]
鹿児島県立川薩清修館高等学校.
http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/sensatsu/ [4]
大阪府立水都国際中学校・高等学校・中田彩(なかたあや)
新潟県立図書館・稲垣彩(いながきあや)
SMILESプロジェクトは,オランダ,スペイン,ベルギーの図書館を含む関係機関が欧州連合(EU)からの資金提供を受けてフェイクニュースに対抗するアプローチの開発・テストを行う国際プロジェクトである。プロジェクトの第一段階として,3か国のデジタルメディアリテラシーや偽情報(disinformation)に関する状況が調査され,2021年9月に報告書が公開された。各国の報告では,まず,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が偽情報に与えた影響や対策が概観されている。続いて,ターゲットグループとされた図書館員,教師,若者に対する研修や教育の機会などが文献およびインタビュー調査によって明らかにされ,課題や今後に向けての推奨事項が提示されている。本稿では,報告された偽情報への対策の中で,特に図書館に関わる部分を紹介する。
インターネットやソーシャルメディア上のCOVID-19関連の偽情報の増加と悪影響の拡大から,3か国ともに偽情報への懸念が高まっている。対策としては,アクセス制限やファクトチェックの協力よりも,若者への教育や市民のデジタルメディアリテラシー獲得が重要とされる。図書館員は市民への情報教育の基本的な役割を担うと考えられている。
オランダでは,図書館と学校とが協力関係にあった。しかし,連携が構造化されていなかったり,連携の中心は読書活動で偽情報対策は十分ではないと感じた図書館員もいた。偽情報に関する授業を,単発ではなく,既存の人生哲学や情報科学等の授業科目に組み込むべきだという意見もあった。教師に自信を与え,まずは偽情報対策の重要性について教師と図書館員が話し合うなど,慎重な手順で学校に導入することが重要だと強調されている。図書館が開発・提供するプログラムとして,ユトレヒト公共図書館のフィルターバブルを阻止するアプリ開発の計画や教師向けのデジタルリテラシーネットワークの構築や,図書館の成功例を紹介した“Doe je digiding!”などのウェブサイトが紹介されている。
スペインでは,図書館員が保護者,教師と並んで介入対象の若者を支える重要なアクターだと認識されていた。一方で,大人向けの研修の多くは教師対象であった。インタビュー調査では図書館員に対する研修の必要性も言及されていた。その他,図書館に向けた提案として,オンライン研修資料の作成,ワークショップの開催,デジタルコレクションの強化による質の高いメディアの提供,収集方針を明確にする倫理規定の知識の強化等が挙げられている。
ベルギー(フランドル地方)では,若者向けの介入が数,種類ともに多く,その介入の環境として,学校の次に公共図書館がよく利用されていた。若者に向けた活動を実施する図書館もある一方,特定の対象を設けずにフェイクニュースに関する主題の活動を提供する図書館の方が多かった。教師や図書館員,保護者などの大人を対象とする介入の数は全体の3分の1で,図書館員だけを対象とした介入はごくわずかであった。
SMILESプロジェクトの第1段階の調査結果では,今後の実際のアクションに向けての推奨事項も示された。いくつかを取り上げる。
日本でもCOVID-19の流行等により偽情報に関する状況が悪化しているように見受けられる。その中で,GIGAスクール構想の追い風も受け,子どもが玉石混交のインターネット上の情報に触れる機会が増え,否応なしに偽情報を見分ける能力が必要となっている。偽情報を図書館が率先して取り組む課題だと認識するとともに,偽情報対策を取り巻く現状を把握する重要性をSMILESプロジェクトや米国の事例(CA1966 [12]参照)や英国の事例(E2438 [13]参照)から学ぶことができる。
SMILESプロジェクトは今回の調査を足がかりに,第2段階として研修プロジェクトの企画・実践を進めている。今後の動向も注視し,参考としていきたい。
Ref:
“About the Project”. SMILES.
https://smiles.platoniq.net/pages/description [14]
“Media literacy activities should be integrated in existing school subjects”. SMILES. 2021-09-30.
https://smiles.platoniq.net/processes/news/f/121/posts/13 [15]
“Baseline Study”. SMILES.
https://smiles.platoniq.net/processes/output1 [16]
Oomes, Marjolein; Smit, Sander; CamoBaseline, Dzenita. Baseline study: Country report The Netherlands. National Library of the Netherlands, 2021, 71p.
https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/141/ [17]
Anducas, Marta; Nadesan, Nadia. Baseline study: Country report --Spain. Fundación Platoniq, 2021, 29p.
https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/140/ [18]
Vanbuel, Mathy. Baseline study: Country report Belgium (Flanders). Media & Learning Association, 2021, 24p.
https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/142/ [19]
Helvoort, Jos van. Baseline study: Joint summary report. Erasmus+ Project SMILES, 2021, 12p.
https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/143/ [20]
“Training for teachers and librarians”. SMILES.
https://smiles.platoniq.net/processes/training [21]
“jaarverslag 2020”. De Bibliotheek Utrecht.
https://www.bibliotheekutrecht.nl/dam/2020Website/Klantenservice/stichting-de-bibliotheek-utrecht-financieel-verslag-2020.pdf [22]
doe je digiding!.
https://doejedigiding.nl/ [23]
総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課. 新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査. 総務省, 2020, 29p.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000693280.pdf [24]
“GIGAスクール構想の実現について”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm [25]
坂本旬. 英国の「オンライン・メディアリテラシー戦略」の概要と課題. カレントアウェアネス-E. 2021, (432), E2438.
https://current.ndl.go.jp/e2438 [26]
鎌田均. フェイクニュースと図書館の関わり:米国における動向. カレントアウェアネス. 2019, (342), CA1966, p. 12-16.
https://doi.org/10.11501/11423548 [27]
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・木下貴文(きのしたたかふみ)
2022年2月,Software Preservation Network(SPN)は,SPNが推奨する,ソフトウェアの記述に関するメタデータ項目を要約・定義した,“Software Metadata Recommended Format Guide”のバージョン1.0.0(以下「本ガイド」)を公開した。
SPNは,米国を中心とした,ソフトウェアの保存に関する団体である。ライセンス等の法的な側面から,メタデータの管理や記述に関する側面,エミュレーション等を用いた保存といった技術的な側面に関する取組まで幅広く活動を行っている。米・イェール大学図書館が主導するソフトウェアの動作環境維持のためのプロジェクトであるEmulation-as-a-Service Infrastructure(EaaSI)への協力でも知られている。
ソフトウェアのメタデータ記述方法の提案としては,これまでにも,CodeMetaプロジェクト等が知られている。その他,英国国立公文書館(TNA)がファイルフォーマットとソフトウェアのデータベースPRONOMを公開しており,そこに記載されている項目名等を参考にメタデータを記述することも可能である。しかし,前者は研究データの公開を背景としており,後者はファイルフォーマットとの関連付けを重視しているなど,想定する用途が異なる。また,メタデータの記述方法の提案資料は項目の羅列のような体裁となっていることが多く,それぞれの特性が一見ではわかりにくい。
本ガイドは,メタデータフォーマットとしてはコンパクトであり,異なる文脈で提案された項目との関連付けもなされている。そのため,比較的容易に読み解くことができる。
以下,構成に沿って本ガイドの内容を紹介する。
本ガイドは,図書館,文書館,博物館,機関リポジトリ等に関する業務に従事する者が,ソフトウェアについて記述する際に利用することを想定している。広くソフトウェア全般を対象としており,商用ソフトウェア等大規模なものから,研究データを解析するために作成した比較的小規模なものに至るまでをカバーしている。これらソフトウェアの発見,アクセス,再利用に必要な技術的・記述的なメタデータ項目を特定することが本ガイドの目標であるとしている。
ただし,本ガイドが提供するのは,おおよその枠組のみであり,厳密にスキーマ等の仕様を定めている訳ではない。そのため,利用者の特殊なニーズによっては,別のメタデータフォーマット等を参照した項目が必要となるうえ,実際の運用にあたっては利用者の裁量で判断すべき点も多いことに注意が必要であるとされている。
1. メタデータ項目
5つのセクションに分けてメタデータ項目を列挙している。各メタデータ項目に,名前,必須性(その項目が必須か,推奨か,任意か等),定義,留意点,例が付されている。各セクションの内容は次の通りである。
2. 本ガイドの適用例
フロッピーディスクに記録されたシェアウェア,研究で作成したプログラム,市場で広く流通したソフトウェア,メディアアートの4例について,上記の項目で記述した例が挙がっている。
3. 他フォーマットとの対応表
本ガイドの提案する項目と,汎用的なメタデータフォーマット(MARC, Dublin Core, MODS)や,ソフトウェアのメタデータ項目としてこれまでに使用された他の例(CodeMetaプロジェクト,Wikidataのプロパティ)の提案項目との対応表(crosswalk)が用意されている。
前述の通り,メタデータフォーマットに関する提案は項目の羅列になりやすく,全体として学習のハードルが高い。本ガイドは,例も豊富で平易であり,初学者用の手引としての活用が期待できると考える。
Ref:
“Software Metadata Recommended Format Guide (SMRF)”. SPN.
https://www.softwarepreservationnetwork.org/smrf-guide/ [39]
The CodeMeta Project.
https://codemeta.github.io/ [40]
“PRONOM”. The National Archive.
https://www.nationalarchives.gov.uk/PRONOM/ [41]
関西館図書館協力課・西田朋子(にしだともこ)
米国の大学では,研究情報管理(RIM)への投資が急速に拡大しており,RIMシステムの導入も進んでいる。しかし,国家的な研究評価事業に基づいて各機関が研究成果の収集と報告を行っている国々(E1745 [53]参照)と異なり,米国のRIMは,機関ごとに様々な目的で異なる関係者が取り組んでいるため作業の重複が頻発している。
このような経緯から,2021年11月付けで,OCLC Researchが,米国のRIMに関する報告書“Research Information Management in the United States”を公開した。5機関(ペンシルベニア州立大学,テキサスA&M大学,バージニア工科大学,カリフォルニア大学ロサンゼルス校,マイアミ大学)を対象に,図書館・研究管理・情報通信技術・教務等のRIM関係者に対して,インタビューを行い,RIMの実践について整理し,機関の意思決定者に向けた推奨事項を示している。
報告書は,“Findings and Recommendations”と“Case Studies”の2つのパートで構成されている。前者では,RIMシステムを「機関の研究活動に関するデータを透明性のある形で集約,キュレーション,利用することをサポートするもの」と定義した上で,その使用例,機能的・技術的要素,推奨事項がまとめられている。後者では,各機関の事例について,図書館等,各ステークホルダーの役割もまとめて紹介されている。本稿では前者の“Findings and Recommendations”について概要を紹介したい。
使用例を以下の6つに整理し,それぞれのメタデータの特徴についてまとめている。
RIMのプロセスについて,上述6例の「データ使用」と,その前段階として,データを収集する「データソース」の過程,収集したデータの編集を行う「データ処理」の過程があると整理している。各プロセスについて,具体的な作業内容と対応するデータの状態を説明しており,例えば,「データソース」については,出版物に関する情報は外部DBからの取得が容易である一方,職位や組織階層といった機関内のローカルな情報は整理されていないといったことが説明されている。
各機関の意思決定者に向けて,以下のような提言を行っている。
データの管理については,永続的識別子(PID)の採用を推奨している。また,RIMシステムへのデータ投入のための調整や,データの質の確保が必要であり,そのために専任職員が必要だとしている。また,データの質の確保については,メタデータの専門知識をもつ図書館員にRIMシステムのデータキュレーションを任せることを推奨している。
組織的な投資については,データキュレーションへ投資すること,部署横断的な連携をサポートすること,学務・財務・人事情報と同様にデータガバナンスの取り組みに研究情報を含めること,等を推奨している。
以上,報告書の“Findings and Recommendations”の内容を紹介した。大学におけるRIMの使用例について俯瞰的に知ることができるため,図書館の位置づけを考える上で参考になる報告書である。また,データ要件・プロセス等についての具体的な記載もあるため,実務者にとっても参考になるのではないかと思われる。今回紹介を割愛した“Case Studies”のパートも是非参照されたい。
Ref:
Bryant, R.; Fransen, J.; Castro, P.; Helmstutle, B.; Scherer, D. Research Information Management in the United States: Part 1—Findings and Recommendations. OCLC Research, 2021, 34p.
https://doi.org/10.25333/8hgy-s428 [54]
Bryant, R.; Fransen, J.; Castro, P.; Helmstutle, B.; Scherer, D. Research Information Management in the United States: Part 2—Case Studies. OCLC Research, 2021, 82p.
https://doi.org/10.25333/qv1f-9e57 [55]
武井千寿子. 研究評価における評価指標の役割:HEFCEの報告書より. カレントアウェアネス-E. 2015, (294), E1745.
https://current.ndl.go.jp/e1745 [56]
小村愛美. 研究支援における社会的相互運用性に関するOCLCの報告書. カレントアウェアネス-E. 2020, (403), E2329.
https://current.ndl.go.jp/e2329 [57]
日仏図書館情報学会・豊田透(とよだとおる)
2022年3月19日,日仏図書館情報学会主催の「フランス国立図書館(BnF)の電子図書館 Gallicaの利活用促進・創出戦略」がオンラインにより開催された。資料のデジタル化は日仏とも相当進み提供方法も洗練されてきた中で,新たな利用の掘り起こし,様々な利用者を想定した利活用機能の向上,さらなる魅力の創出戦略が求められている。本イベントは,Gallica(CA1193 [64],CA1905 [65]参照)の多彩で斬新なサービスを詳しく知り,日本におけるデジタルライブラリーの活動を踏まえて意見交換する機会となることを目的として企画された。
構成は,前半がBnF副館長補(デジタル担当)兼サービス・ネットワーク部長のボーフォール(Arnaud Beaufort)氏による講演「Gallica-その戦略のゆくえ」,後半はコメンテータとして参加した国立国会図書館(NDL)電子情報部長の大場利康氏とのディスカッション,参加者との質疑応答であった。Gallicaは知名度に比して日本語の情報が少なく,また担当責任者から直接に話を聞く貴重な機会であり,幅広い分野から178人の参加があった。
講演では,まずBnF及びGallicaの概要紹介があった。強調すべき点として,GallicaがBnFと多くのパートナー機関との協力によって構築されてきたことがある。2021年時点の収録数約890万点のうちパートナー機関から提供されているものが約20%を占める。また,この890万点のうち約300万点が1年に少なくとも1回閲覧されており,これは全体の30%に相当する驚異的な数字である。時宜的にコロナ禍の影響についても触れられ,外出規制があった2020年には訪問者数が1,900万件,前年比22%増に達した。
Gallicaの戦略は3つのテーマに沿って説明された。まず,Gallicaの拡大について。資料デジタル化やパートナー機関との協力の推進といった量的な拡大に加え,検索手段の高度化など質的な向上に努力が払われている。講演では,光学文字認識(OCR)によるテキスト化,画像検索ツールGallicaPix,新サービスである近傍検索の紹介があった。こうした努力は,Googleなどの単純な検索では見つからないことを見つけられる仕組みにより差異化を図ることで,国の文化財を提供する公共機関としての責務を果たす,という意識に基づいている。
これは,インターネットにおけるGallicaの位置付けという2つ目のテーマに関連する。「ウェブ上で見える,見つけられる」ことが重要であり,例えばBnFの蔵書目録とデジタル資料を統合的にLinked Open Dataとして提供するdata.bnf.frがインターネット上に公開され,BnFによる詳細な書誌データ,所蔵データ,著者情報などが利用でき,デジタル資料が閲覧可能なものはGallicaにリンクする。また,国の機関として著作権を尊重するため,Gallicaで閲覧できる資料の範囲は,インターネット上,BnF館内,職員で区別される。館内限定公開制度は“Gallica inter muros”と呼ばれ,考え方はNDLとほぼ同様である。なお,NDLにおける図書館向け・個人向けデジタル資料送信サービスに相当するサービスは,BnFでは行われていない。
3つ目のテーマとして,Gallicaが外部に対してどう開かれ,外部の力をどう取り込んでいくかが挙げられた。そのためには媒介者としてオープンに活動することが求められる。研究者から信頼を得ると同時に,Gallicaの資料が若い世代によりSNSで楽しくやり取りされる状況も望まれる。
多岐にわたったコメント・質疑について,数件紹介する。
Gallicaへの外部の貢献に関し,「里親制度」について質問があった。これは利用者がデジタル化を希望する資料を指定しそのための寄附をする制度で,寄附者の名を残すことができる。また,研究者が手稿をテキストに翻刻した場合にそれをGallica上で活用することの可否について,信頼性の問題が生じること,将来的には人工知能(AI)によるテキスト化が進むのではないかという回答であった。
Gallicaの画像でも対応しているIIIFにより研究者がアノテーションを付加することが可能となったが,それを国立機関として蓄積する意図はあるか,という質問に対して,両氏とも,現時点では技術の標準化に重点を置いており,学術研究成果の発表・流通・保存はより大きな仕組みで考える必要があるとの認識であった。
Gallicaの若い世代へのアウトリーチ戦略については,SNSでのプレゼンスを重視しており,その中でもTikTokなどのより新しいSNSサービスを注視している。また,親世代に向けた戦略も重要で,例えばGallicadabraというアプリケーションは親がおとぎ話を読み聞かせるのに利用でき,また俳優による語りを聞くこともできる。
本イベントでは,事業を展開する側の主体性という観点から「戦略」というテーマを掲げたが,それは実はユーザーに負うところが大きいと実感させられる機会であった。それは,大場氏の「研究者が使う,研究の発展に生かす,SNSで話題になる,つまりユーザーが電子図書館を支えてくれる」という言葉に端的に示されている。
Ref:
“日仏図書館情報学会創立50周年記念イベント”. 日仏図書館情報学会.
http://www.sfjbd.sakura.ne.jp/gallica_j.html [66]
Gallica.
https://gallica.bnf.fr/ [67]
GallicaPix.
https://gallicapix.bnf.fr/ [68]
data.bnf.fr.
https://data.bnf.fr [69]
“Gallicadabra”. BnF Éditions.
http://editions.bnf.fr/gallicadabra [70]
永野祐子. Gallica−フランス国立図書館による電子図書館の試み−. カレントアウェアネス. 1998, (226), CA1193, p. 2.
https://current.ndl.go.jp/ca1193 [71]
服部麻央. フランス国立図書館の電子図書館Gallicaの20年. カレントアウェアネス. 2017, (333), CA1905, p. 5-7.
https://doi.org/10.11501/10955541 [72]
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局
2022年3月3日,国立国会図書館は,「“続けること”が生み出すもの-継続的なデータ登録の工夫を探る-」をテーマに,第17回レファレンス協同データベース(レファ協)事業フォーラムをオンライン形式で開催した。本フォーラムは,レファ協でデータを蓄積・共有することの意義への理解を深め,参加館によるデータ登録の促進を目指したものである。
はじめに,「続けていることで生まれ出てくるもの」をテーマに,ウィキペディア編集者の日下九八氏によるオープニングスピーチが行われた。長年ウィキペディアに携わってきた経験を踏まえて,ウィキペディアとレファ協との共通点や相違点に触れながら,データを蓄積することの意義に関して説明があった。スピーチの中では,取組を長く続けていくことで生み出される価値について,またレファ協が今後目指すべき方向性や活用可能性について提案がなされた。
次に,近年継続的にデータ登録・公開に取り組んでいるレファ協参加館3館の担当者が登壇し,参加館報告が行われた。レファ協事業への参加からデータ登録作業の体制構築に至るまでの過程,データ登録・公開に関する具体的な運用方法,継続的なデータ登録による効果等について,それぞれの館の実態に即して報告された。各館の報告の概要は以下の通りである。
・德田恵里氏(関西大学図書館)
業務繁忙等により事例の登録が滞った時期もあったが,独自のガイドラインやマニュアルの整備,Twitterアカウントの活用などによって事例登録を再開し,現在の積極的な活用に至る。レファ協を活用することが,外部からの図書館サービスの評価につながっているが,職員のモチベーションの維持向上や人材育成が今後の課題である。
・上田茜氏(兵庫県伊丹市立図書館本館「ことば蔵」)
新人の頃から粘り強く館内調整を続け,レファ協事業への参加を果たした。クイックレファレンスも含めて多くのデータを登録する,Twitter上で話題にしてもらえるような文体で事例を作成するなど,事例の公開数とアクセス数の増加を目指してさまざまな取組を行っている。このような取組を継続することが,市民や行政からの評価につながっている。
・生友えり氏(兵庫県小野市立図書館(当時))
レファ協の活用は,職員の意識改革を最大の目的として始まった。データを作成・公開することが,業務の効率化や,日々の登録作業や研修での活用等を通じた職員の能力向上にも貢献し,ひいては利用者の図書館に対する信頼醸成へとつながっている。
この後,レファ協事業企画協力員の小熊ますみ氏(埼玉県立熊谷図書館)によるコーディネートのもと,参加館報告者3人を交えたフリートークが行われた。フリートークでは,参加館報告に関して寄せられた多くの質問に対して,時間が許す限り回答が行われた。データを一般公開するにあたって行っている工夫や,過去に作成した事例のメンテナンス,コロナ禍の業務への影響に関する質問などが取り上げられ,3館それぞれの取組や工夫が共有された。フリートークの中では,レファ協事業企画協力員の田子環氏(神奈川県立厚木清南高等学校)や坂井華奈子氏(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所学術情報センター)から,学校図書館や専門図書館ならではの取組や実情についても紹介がなされた。
フォーラムではそのほか,レファ協事務局から,レファ協に参加するメリットや,参加館がデータを登録・公開する際に意識するとよいポイントなどについての説明も行った。
フォーラム終了後には,初めての試みとして,オンラインでの交流会を実施した。交流会は,フォーラム登壇者,レファ協事業企画協力員,参加者を交えた少人数のグループに分かれて,リラックスした雰囲気で行われた。どのグループでも,参加者同士の交流や情報交換が活発に行われた様子がうかがえた。
事後アンケートの満足度調査では,満足との回答が大半であったが,中には対面での開催を求める声もあった。次回の開催方法については,今後事務局で検討していきたい。
フォーラム当日の様子は,国立国会図書館公式YouTubeチャンネルでアーカイブ映像を視聴することができる。また,レファ協ウェブサイトにてフォーラムの発表資料を掲載しているほか,後日,フォーラムの「記録集」も同ページに掲載する予定である。
Ref:
“第17回レファレンス協同データベース事業フォーラム“続けること”が生み出すもの-継続的なデータ登録の工夫を探る-”. レファレンス協同データベース.
https://crd.ndl.go.jp/jp/library/forum_17.html [81]
“第17回レファレンス協同データベース事業フォーラム「“続けること”が生み出すもの-継続的なデータ登録の工夫を探る-」”. YouTube. 2022-04-18.
https://www.youtube.com/playlist?list=PLXvKjMC1JnVuOKHHpncbeONjKzEFOhKc3 [82]
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局. 第16回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2021, (416), E2403.
https://current.ndl.go.jp/e2403 [83]
リンク
[1] http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/sensatsu/docs/2022022400086/
[2] http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/sensatsu/docs/2022022400086/file_contents/utitosyo1.pdf
[3] https://sensatsu.edu.pref.kagoshima.jp/category/bunrui/bunrui38/
[4] http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/sensatsu/
[5] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[6] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/806
[7] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/723
[8] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/365
[9] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/484
[10] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29
[11] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/38
[12] http://current.ndl.go.jp/ca1966
[13] http://current.ndl.go.jp/e2438
[14] https://smiles.platoniq.net/pages/description
[15] https://smiles.platoniq.net/processes/news/f/121/posts/13
[16] https://smiles.platoniq.net/processes/output1
[17] https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/141/
[18] https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/140/
[19] https://smiles.platoniq.net/processes/output1/f/142/
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