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本シリーズは、昭和35年に第1号が刊行されていますが、資料保存関連の記事は昭和59年3月刊行の第24号における「紙の劣化と図書館資料の保存」=シンポジウムの記録=が初めてです。以下、時系列に沿って辿っていきますと、「<調査報告>書籍用紙の酸性度と劣化」(第26号、昭和61年)、「IFLAと資料保存」(第27号、昭和62年)、「米国議会図書館における大量脱酸処理法の開発」(第28号、平成元年)、「内外の保存図書館の動向とわが国における論調―文献紹介―」(第32号、平成7年)、「図書館における防災計画―資料救助を視野に入れて―」(第35号、平成10年)と続いています。
昭和35年から昭和59年まで、資料保存関係の記事は全く取り扱われていなかったのに、昭和59年以降たびたび取り扱われるようになったのは、酸性紙による資料の劣化問題に端を発して、資料保存に関する問題意識が急速な高まりを示したことの反映と言えます。
ただし、昭和56年刊行の第22号「特集 国立国会図書館における利用の現状と問題点(その1)」における「図書館『破壊』学入門」において、複写による資料の破損と資料の保存の問題が取り扱われており、資料保存に関する問題意識の萌芽を看取することができます。
当館の組織・機構の変遷を見ても、資料保存課が誕生したのは昭和61年の新館完成を契機とした機構改革の際です。それまでは関係する課としては製本課があるだけでした。
そうした館内外での資料保存への意識の高まりを背景にして、平成元年には、当館はIFLA/PACのアジア地域センターとしての活動を開始しております。
現在、資料保存という概念の対象領域は相当に広くなっています。当初は劣化・悪化した資料への対症療法が中心でしたが、今では予防的な措置までを含めた資料保存について調査研究が進んでいます。
今回、平成17年12月に開催された公開セミナー「スマトラ沖地震・津波による文書遺産の被災と復興支援」の記録集を第39号として刊行することとしました。
世界特にアジア地域において、津波・台風等の未曾有の大惨事により、図書館資料を含む文書遺産は破滅の危機に瀕しているわけですが、被災した資料への対処、防災計画等必要な知識・情報について充分な共有化が図られているとはいえない事態です。
今回の記録集は、被災者からの報告、実際の修復活動、IFLA/PACの活動とプログラムが柱となっていますが、この記録集の刊行がそうした知識・情報の共有化の一助となれば幸いです。
平成18年9月
関西館事業部長
岡村 光章
吉永 元信
(国立国会図書館収集部長)
公開セミナーの開催にあたりまして主催者といたしまして一言御挨拶申し上げます。本日はお忙しい中、公開セミナーに多数の皆様がご参加していただいたことに厚く御礼申し上げます。
空前の被害をもたらしたスマトラ沖地震・津波からはや1年が経とうとしております。様々な分野で復興活動が進められておりますが、被災国の図書館はどうなっているでしょうか。文化遺産の救出・修復は進んでいるのでしょうか。
我々はあの阪神大震災を経験し文化財の保存・修復がいかに大変なことかを学びました。また、その後、世界でアジアで多くの自然災害、人的災害が発生したことも知っています。しかし文化財の防災に関する情報の共有はなかなかに困難なものがあることも知りました。この問題意識のもとに、今回「スマトラ沖地震・津波による文化遺産の被災と復興支援」と題するセミナーを企画し、開催することといたしました。
国立国会図書館は、これまで、資料保存に関する様々な活動に取り組んでまいりました。その大きな柱が、国際図書館連盟(IFLA)が推進するコア活動のひとつであるPAC(Preserv-ation and Conservation)のアジア地域センターとしての活動であります。この地域センターをお引き受けしたのは1989年(平成元年)であり、今年で16年目を迎えております。
当館はこのセンターをお引き受けすると同時に、取り組むべき「保存協力プログラム」を策定し、資料保存に関する情報提供と技術援助を通じて、アジア地域における保存活動の推進と、アジアにおける保存協力事業に係る国内の関係団体との連携を目的とした活動に努めてまいりました。その一環として資料保存のシンポジウムを開催しその時々に適したテーマを選んで資料保存の現状と課題を議論していただいてきたところであります。
さて、本日のセミナーでございますが、まず初めにIFLA/PAC国際センター長であるバーラモフさんから、IFLA/PACコア活動として推進している防災プログラムについてご報告いただきたいと思います。
つづいて、インドネシアのラフマナンタ国立図書館長、スリランカのアマラシリ国立図書館長から被災国の実態と対応についてご報告いただき、また、インドネシアのアチェで実際に支援活動に従事されておられます東京修復保存センターの坂本さんに支援活動の実態のご報告をいただきます(坂本さんは現在アチェで支援活動中ですので、残念ではありますが本日は代読となります)。
最後に、IFLA/PACアジア地域センター長である当館の那須の方から、アジア地域センターの活動の報告をさせていただきます。
本日のセミナーが、今後の災害予防の大切さと、災害に対する復興支援のあり方について考える契機となることを期待すると同時に、アジア地域における保存協力・復興支援活動のネットワーク作りの更なる前進のために実り多いものとなるように、活発なご議論が広がることを期待している所です。
簡単ではありますが、これをもって開会のご挨拶に変えさせていただきます。
マリー=テレーズ・バーラモフ
(IFLA/PAC 国際センター長,フランス国立図書館)
Marie-Therese Varlamoff
IFLA PAC Director
このセミナーにお招きくださり基調講演の栄誉にあずかりましたことを黒澤隆雄国立国会図書館長にお礼申し上げます。また、国立国会図書館及び那須雅熙IFLA/PACアジア地域センター長におかれましては、インド洋地域の多くの図書館に被害をもたらした津波後のパートナーシップの強化を図るため、このような会合の場を率先して設けられましたことを、心よりお祝い申し上げます。
さて、自然災害や武力紛争は私たちにとって新しいことではありません。毎年、不測の事態によって、図書館、文書館、博物館で所蔵されている文化遺産が破壊され、私たちの記憶の一部が消滅しています。近年に至るまでこの間の劇的な事態を省みれば、文化遺産を脅かす危険が存在することは明らかです。イラク戦争によってイラクの重要な文化遺産が破壊されたのは文化関係者にとって衝撃的なことでした。洪水、火災、ハリケーン、地滑り等の自然災害は残念ながらなくなりません。インド洋地域の国々の海岸を襲った津波によって、私たちはみな、人間の生命のはかなさ、そして私たちが住んでいる世界のはかなさを思い知らされました。もし身の回りのものがすべて破壊されたら、皆さんの過去はすべて消え去ってしまうのです。皆さんはもはや存在しません。また、将来を描くことも大変難しくなります。経済的な損失を抜きにしても、災害は皆さんの文化的アイデンティティを奪い去るのです。
本日、私は防災対策におけるIFLA/PACの役割と諸活動についてお話したいと思います。また、図書館、文書館、博物館等の諸機関が力を結集して武力紛争や自然災害の被害を軽減するために、どのような決断を下していったのかをお話します。次に、ブルーシールドの概念の背景と、災害の被害を軽減するために予防的措置を取ることがなぜ大切なのかをお話します。最後に、IFLAの復興開発パートナーシップへの取り組みについてご説明します。
近年、頻発する多くの災害によって重要な文化遺産が被害を受けました。また、戦争や民族紛争、宗教紛争によっても、偶発的にあるいは意図的に重要な文化遺産が破壊されました。こうした事態を受けて、災害や戦争・紛争などから私たちの記憶をできるだけ永く保護し、将来世代へと継承するためのキャンペーンが必要とされたのです。忘却は将来のためになりません。図書館その他の文化機関は文書遺産の保護と保存に責任を負っていることから、IFLA/PACは2002年にグラスゴーで開催されたIFLA年次大会のすべての関連セッションをこの問題にあてることを決めました。セッションの記録は、“International Preservation Issues”No.4として英語とフランス語で刊行されました。タイトルは「ブルーシールド:危険に瀕する文化遺産の保護のために」です。この記録はIFLA/PACアジア地域センターである国立国会図書館によって日本語にも翻訳されました。また、ブルーシールドのポスターがポスター・セッションで展示されました。リーフレットも配布されました。こうした方法によって、文化財に関係するすべての人々が文化遺産の保護のために協働し、ブルーシールドに加わることの必要性を強調しようとしたのです。会議のおわりに、IFLA評議会は次のような決議を採択しました。「以下のように決議する。文化遺産を脅かす数多くの危険を考慮し、国家の重要なコレクションの保護に責任を負うすべての図書館は防災計画を策定し、検証し、また適用して定期的に更新すべきである。」この時期には、同時に、ヨーロッパ中部地域において洪水が発生し、多くの図書館コレクションが破壊されました。幸いなことに、プラハのチェコ国立図書館にはコレクションを救う時間的な余裕がありました。しかしながら、地下のIT関連設備は完全に浸水し、数週間にわたって稼動を停止しなければなりませんでした。この間、国立図書館は閉館を余儀なくされたのです。
2003年春、イラクで戦争が勃発し、苦痛、負傷、犠牲者など、多くの被害が生じました。とりわけ文明発祥の地であるメソポタミアで起こったため、被害は一層ひどいものとなりました。2003年8月にベルリンで開催されたIFLA年次大会では、元PAC国際センター長(1992〜1994年)のジャン=マリー・アルヌー氏がイラクの図書館・文書館の状況について報告しました。アルヌー氏は、第2次ユネスコ使節団に参加し、戦争終了直後にイラクに派遣された人物です。アルヌー氏は、ユネスコによって開催された東京の会議から戻ってきたばかりでした。この会議は、ユネスコがイラクに派遣した使節団から報告を受け、今後の方針を決定することを目的としたものでした。皆さんの中にはこの会議に参加する機会のあった人もいらっしゃるかもしれません。IFLA年次大会の終わりに、IFLA評議会はイラクの図書館に関する決議を採択しました。要点は次のようなものです。
以下のことを決議する。
ベルリンの決議は大変重要なものですが、それはベルリン大会におけるIFLA/PACの活動のほんの一部に過ぎません。IFLAの資料保存分科会とIFLA/PACの後援のもと、プレコンファレンス「最悪に備え、最良を求めて計画する−文化遺産を災害から守る」が開催されました。主催したのは科学アカデミー(Akademie der Wissenschaften)で、ベルリン国立図書館(Staatsbibliothek zu Berlin)と図書館情報資源振興財団(Council on Library and Information Resources)が協力しました。このプレコンファレンスは、管理者たちが適切に災害に備え、対処・対応し、災害から復旧できるように必要な情報を提供することを目的としたものでした。12ヵ国から16人の発表者が様々な話題を取り上げました。たとえば、全国計画の立案、災害対策のための全国政策・戦略、機関レベルの防災計画立案と災害への対処、被災事例研究、リスク評価と救助方針策定のためのモデル、様々な種類の資料の救助方法等の話題です。また、ブルーシールド国際委員会委員長でIFLAの事務局長を務めるロス・シモン(Ross Shimmon)氏が基調講演を行い、防災計画の重要性を語るとともに、文化財の領域における赤十字ともいえるブルーシールド活動について紹介を行いました。
このプレコンファレンスは、25ヵ国90名の参加者にとって、世界の国々の経験や専門的知識から学ぶ貴重な機会となりました。総括の議論では、次のような認識が示されました。すなわち、この数年間における防災や防災計画の進展には目を見張るものがあるが、実効性のある分野横断的な協働を推進し、文化遺産を十全に保護し保存していくことの必要性を認識してもらうためには、今後とも持続可能で効果的な戦略や技術に関する情報を集め、そして広めていくことが必要である、というものです。
世界の国立図書館の防災計画に関する調査が、2004年に行われました。IFLA/PACが質問票を作成し、177の国立図書館に送付しました。質問は次のような領域に関わるものです。過去5年間及び10年間に発生した災害とその数、種類、また、各機関はその所在地が自然災害の恐れのある地域か否か、どのような災害が予測されるかについて報告することが求められました。建物は質問の一項目に過ぎず、多くの部分は防災計画そのものに当てられました。73館(41%)が回答し、うち39館(53%)が防災計画をもっていました。28館(38%)は防災計画をもつ意図があり、関心がないのは6館だけでした。リスクとして多く挙げられたのは火災(61%)、洪水(41%)、地震(32%)でした。最終的な調査結果は昨年のIFLAブエノスアイレス大会で報告されました。IFLANET< http://www.ifla.org/IV/ifla70/papers/142e_trans-Varlamoff_Plassard.pdf [3] >や“International Preservation News”No.34でもご覧になれます。予想されたことではありますが、地理的な条件や経済状況によって回答が分かれました。私にとって驚きで予想もしなかったのは、主要な国立図書館の中に防災計画のない図書館があったことです。防災計画の立案が困難な理由として、図書館長はお手本とするモデルを見つけるのが難しいことを挙げています。この理由に私は大変驚きました。モデルは数百とは言いませんが、数十はあります。その中には大変洗練されたものもあります。ただし、その多くは西欧の図書館で作成されたものであり、英語で書かれています。また、財源が乏しい図書館では簡単には適用できません。
防災計画については既に数多くの出版物が出されていますが、調査の結果とカリブ地域でPACが開催した3つのセミナーでの議論を踏まえて、私は新たに防災計画に関する刊行物を作成することを決めました。『IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則』(“IFLA Principles forthe Care and Handling of Library Material”)をお手本とした基本的で実用的なマニュアルがもうすぐ完成します。このマニュアルでは、文書遺産を脅かす様々なリスクや防災計画を立案する際に考慮すべき問題などが取り上げられています。また、災害の被害を軽減するための実用的な方法も示されています。このマニュアルは、図書館員だけでなく文書館員も対象としたもので、2006年に3ヵ国語(英語、フランス語、スペイン語)で刊行されます。マニュアルの刊行を宣伝した途端に、イタリア語、ギリシャ語、アラビア語、ポルトガル語への翻訳の依頼がきました。その他の言語のPAC地域センターも、それぞれ日本語や中国語、ロシア語へと翻訳してくれるだろうと私は確信しています。
PACの刊行物とIFLA大会でPACが開催したセッション以外にも、防災計画の領域とブルーシールドの枠組みの領域において特別な成果があったことについて強調しておかなければなりません。ラテンアメリカとカリブ地域においては、地震とハリケーンが主要な災害です。これはまさしく日本と同じです。こうしたことから、PACは防災に関する一連のワークショップを開催しました。3つのワークショップは大きな成果をあげ、すぐれた発表のいくつかは“International Preservation News”に掲載されました。
最初のワークショップは2003年10月にメキシコで開催されました。様々な文化機関や市民社会の関係者が100名ほど参加して、地震被害に関するあらゆる問題を取り上げました。2つめのワークショップはトリニダード・トバゴで2004年5月に開催されました。地震や火山、ハリケーンなどカリブ地域を脅かす様々な災害に焦点を当てました。そして、2005年2月には、3つめのワークショップが、主にハリケーンを焦点としてハバナで開催され、キューバのすべての文化財に関連する領域から参加者を集めました。これらのワークショップでは、同一言語を話す参加者を、近隣の限定された地域から集めることを意図しました。災害発生時に相互に助け合える専門家・専門職のネットワークを、参加者が作り上げてくれることを私たちは期待しています。
皆さんの中には、ブルーシールドについてご存知でない方もいらっしゃると思います。手短に言いますと、ブルーシールドとは赤十字が人道的な目的のために行っていることを文化遺産のために行おうとするものです。
1996年に、ユネスコは「世界の記憶」プログラムの一環として、20世紀に破壊された図書館と文書館の調査を行い、「失われた記憶」というタイトルで報告書を刊行しました。完全に、または部分的に破壊された図書館のリストは恐ろしいものです。
第二次世界大戦の破壊によって世界の文化遺産は重大な被害を受けました。これに鑑み、ユネスコは武力紛争の際の文化財の保護のための条約を作成し、1954年にハーグで採択しました。条約に署名した国々は次のようなことに同意しました。
条約は議定書とともに採択されました。議定書は占領地域からの文化財の輸出を禁じ、持ち去られた文化財についてはもとの国へ返還することを求めています。また、戦後補償に文化財をあてることも明確に禁じています。2005年10月現在、114ヵ国がこの条約を批准しています。また、91ヵ国が第一議定書を批准しています。
文化財に対する野蛮な行為が1980年代から1990年代初めにかけて繰り返されたことから、条約の見直しが1991年に開始され、条約を改善する新たな同意がなされました。そしてハーグ条約第二議定書が1999年3月にハーグで開かれた外交会議で採択されました。第二議定書では文化財の保護が以前よりも強化されています。人類にとってとりわけ重要な文化遺産について強化された保護という新しいカテゴリーが設けられ、国レベルでの適正な法的保護と軍事目的での利用禁止が規定されています。また、文化財の重大な破壊に対して罰則を科すことや個人の刑事責任が適用される要件が規定されています。最後に、条約と第二議定書の適用を監視する12人の委員からなる政府間委員会を設立することになっています。この議定書の中で、ブルーシールド国際委員会(ICBS)は政府間委員会の任務に対する諮問機関のひとつとして公式に認められています。第二議定書は2004年3月9日に20ヵ国が批准し、発効しました。2005年10月現在、33ヵ国が第二議定書を批准しています。
近年勃発している新しい形の紛争(チェコスロバキア、ルワンダ、アフガニスタン、東ティモール)や深刻な自然災害(1966年のフィレンツェや1997年のポーランドの洪水、サンクト・ペテルブルグやロサンゼルスの火災、神戸の地震)を受けて、4つの非政府組織がICBSを設立しました。1996年に設立されたブルーシールドは文化財の赤十字に相当するものです。ブルーシールド(青い盾)は1954年ハーグ条約でシンボルに指定されたもので、武力紛争時の攻撃から歴史的文化史跡を保護することを象徴したものです。
ICBSは博物館、美術館、文書館、史跡、図書館を包含しています。ICBSは、国際文書館評議会(ICA)、国際博物館会議(ICOM)、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、そして国際図書館連盟(IFLA)という4つの専門職組織の知識、経験を結集して、国際的なネットワークを構築しています。これらの組織はいずれも、イラク戦争やカリブ地域のハリケーン被害のような事態に際して、助言や支援を行う比類なき専門職集団です。ICBSは国際的な独立した専門職組織なのです。
ICBSの主要な目的は次のようなものです。
先ほど述べましたように、ICBSのビジョンは、赤十字が人道的な保護において果たしている役割を、ゆくゆくはブルーシールドが文化遺産の保護において果たそうとする、というものです。ICBSは2000年4月にストラスブールで憲章を練り上げ、次のような原則を尊重することを決定しました。
ICBSの活動は3つの局面からなります。すなわち、紛争や災害の発生前、発生時、発生後の活動です。これまでのところ、ICBSの行動計画の中では予防面のことが最も進んでいます。その中には次のようなことが含まれています。
ICBSは、予防的措置が災害発生時のみならず日常的な管理運営においても有益であり、コレクションの保護に寄与するという事実を強調していきたいと考えています。
ブルーシールドの最も大きな強みは分野横断的な組織であることです。文化に関わる様々な領域の専門家や機関を結集しています。専門知識を持ち寄り、軍当局や緊急事態担当省庁を巻き込むことによって、ブルーシールドは災害リスクを国レベルで管理するための強力なモデルとなり得るものです。ICBSは赤十字国際委員会(ICRC)や文化財保存修復研究国際センター(ICCROM)などの組織を主要なパートナーとして活動を進めています。また、リスクへの備えや災害対応に関心をもつ様々な人々の関与も必要です。災害が起こったときだけでなく、その前に関与することが求められています。
国内委員会を設置すればICBSの活動が一層効率化されるということは、ICBSの創設時からわかっていました。国際的な活動は地域的な活動によって支持され、支援されなければなりません。ブルーシールド国内委員会は多くの国々で設立されています。また、現在設立されつつあります。ベルギーがブルーシールド国内委員会を設立した最初の国で、それにオーストラリア、ベニン、チリ、キューバ、チェコ、フランス、イタリア、マケドニア、マダガスカル、ノルウェー、オランダ、ポーランド、イギリス、ベネズエラが続きました。設立中の国々は、オーストリア、アゼルバイジャン、ボリビア、ブラジル、カナダ、コロンビア、韓国、ハンガリー、インド、メキシコ、ナミビア、ペルー、スロベニア、スウェーデン、ベネズエラです。
ブルーシールドの大きな強みは、リスクへの備え、緊急対応計画の立案といった問題について、文化遺産に関わるすべての専門家や専門機関の力を結集し協力を推進できることです。武力紛争の恐れが小さい国においても、ブルーシールドの活動は有益です。なぜなら自然災害への備えのために活用できるからです。
2004年12月26日のインド洋地震と津波によって広範囲に引き起こされた破壊は悲惨なもので、世界に衝撃を与えました。多くの国の人々や組織と同様に、図書館職員や図書館、情報サービス機関、図書館協会は津波被害を救援し、特に図書館情報サービスの再建を支援する意向を表明しました。
最も優先度が高いのは言うまでもなく負傷者や悲嘆に暮れる人々、避難民を助けることですが、重要な資料(たとえば、パームリーフ(貝多羅葉)の手稿、コーラン、地域コミュニティや州の記録文書)を将来の保存修復処置に備えて、可能な限り安全で安定な状態に保護することもまた重要なことです。こうした初動処置のほかに、建物やインフラ、コレクションを再建し、サービスを再開することや、また職員に助言を与えたり、研修を施すことも必要です。こうした活動はより効果的なサービスを構築する機会ともなります。それによって、コミュニティの基盤が強化され、21世紀の情報社会に応える能力を高めるのに役に立つでしょう。
IFLAにはそうした災害に効果的に応える仕組みが限られています。現在ある仕組みは主として、PACやALP(第三世界における図書館振興コア活動)やIFLA内のほかの下部組織によって提供される助言や研修、そして、ICA、ICOM、ICOMOSとのブルーシールドにおける連携を通じ、限られた範囲内ではあるものの、プリンス・クラウス基金の支援によって提供される緊急時優先割り当てです。プリンス・クラウス基金による限られた資金援助を除けば、被害の調査、被害への対応、復旧に必要とされる資金を提供する手段はありません。
多くのIFLA構成機関とその職員やメンバー、同僚たちは、もちろん、国内の救援機関や国際的な救援機関、たとえば赤十字などに寄付をしたことでしょう。しかしながら、そうした資金が図書館や情報サービス機関のニーズに振り向けられることはほとんどありません。コレクションやサービスの再興を手助けし、同僚を支援しようとする多くの情報専門家の望みはかなえられないのです。
よって、IFLAは次のような仕組みをつくるのが望ましいのではないかと考えています。つまり、津波後の復興において図書館情報部門を支援し、来るべき災害への備えを充実させ、またIFLAやそのパートナーが取り組んでいる図書館開発プログラムに資するような仕組みです。
IFLA復興開発パートナーシップ(IFLA-RDP)は津波被害からの復興ニーズを支援し、今後のニーズに応えるための枠組みとして提案されているものです。この仕組みの本質をなすものが、図書館情報サービスに対する支援を集め分配する国内IFLA基金等の資源です。それらの資源ができるだけ効果的・効率的に利用されるように、IFLAの下部組織を推進役として協働します。ALPとPACの事務局が、認可された組織からプロジェクトの申請を受け付け、基金に照会します。そして、両者に助言を与えて、基金が最大の成果をあげ、乱用を最小限にするようにします。ALPとPAC、地域センター、その他のIFLA下部組織は技術的な助言を行います。評価・研修・技術的助言といったプロジェクトが承認されて、それに対して基金の一部がIFLAの下部組織にあてがわれることもあるかもしれません。しかし、基本的には、説明責任を確保し各国の関連法規を遵守するために、国内IFLA基金の運営委員会で意思決定がなされるということが前提です。
国内IFLA基金を設けることは、寄付者に対して十分な説明責任を果たし、また寄付に対する税控除を可能にするうえで大変望ましいことです。税控除は国レベルで取り扱われなければならないからです。IFLAは図書館振興のためにALPまたは他の下部組織を通じて基金に申請することはできますが、多数の小額寄付を受領しお金の流れを記録するだけの余力はありません。津波被害を受けた国々の要請は緊急を要するものであったため、新しい基金を設立することはできませんでした。基金を設立するためには、多くの国々において長く複雑な過程を経る必要があるからです。したがって、IFLA年次大会を支援するために設立されている既存の国内IFLA基金の目的を変更して、国内IFLA復興開発基金を創設することが提案されているのです。
国内IFLA復興開発基金の目的は、災害(手始めに津波被害から)に対応し、また再建を支援し、そして長期的には世界の図書館情報サービスの発展を支援するための財源を提供することです。
最後に、皆さんが文化財に関連する場でご活躍の同僚の方々に働きかけてブルーシールド日本委員会を設立するようにお願いしたいと思います。また、日本政府にはハーグ条約と2つの議定書を批准するようにお願いしたいと思います。そして、IFLA復興開発パートナーシップ日本基金を創設するようにお願いしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
ダディP. ラフマナンタ
(インドネシア国立図書館長)
Dady P. Rachmananta
Director of the National Library of Indonesia
2004年12月26日の朝、インドネシアのスマトラ島最北部の沖で海底地震が起こり、津波が発生し、インド洋沿岸の多くの地域に壊滅的な打撃を与えました。スマトラ島の中でも、とりわけ被害が大きかったのは、アチェ州北西部の沿岸地域と北スマトラ州の一部でした。およそ15万人の死者・行方不明者が出たほか、数十万人が負傷し、数百万人が家を失いました。都市インフラ、人命、財産はもちろん、国家遺産や文化財も大きな被害を受けました。インドネシア政府はこの大惨事をインドネシア史上最悪の国家的災害であると発表しました。2005年3月28日には北スマトラ州のシムル島、ニアス島付近を震源とするマグニチュード8.2の地震が再び発生しました。また、その後数ヶ月の間、重大な被害はもたらさなかったものの無数の余震が続きました。
教育施設が破壊され、教師が死亡または負傷、あるいは行方不明となったために、教育・学習活動ができなくなってしまいました。津波は被災者に大きな苦痛をもたらしました。この津波による苦難を乗り越えるため、国家開発企画庁は、特に教育・図書館分野において、20の中央省庁およびアチェ州政府、大学、NGO、公人そして国際機関と、二者間あるいは複数者間で協力し、アチェ州およびニアス島、北スマトラ州等の被災地域における図書館やドキュメントセンターを含む保健・教育・社会福祉分野の復興・再建計画を準備しました。 インドネシア国立図書館は、被災地域におけるさまざまなタイプの図書館の復興・再建計画の立案を求められました。国立図書館としての主要な義務と使命にもとづき、また議会や国家開発企画庁(BAPPENAS)、社会福祉調整大臣、および国内外のその他の団体の要請に応え、国立図書館はアチェ州に実地調査に出かけました。調査団の主要な目的はバンダ・アチェ(アチェ州首都)近隣のさまざまな図書館やドキュメントセンターの一般的な状況を調査し報告することでした。図書館(とくに公共図書館や学校図書館)を対象とした復興・再建計画は、次のようなものです。
復興・再建計画の方針は次のようなものです。
図書館分野で採られた戦略は、以下のとおりです。
加えて、科学技術分野では次のような方針がとられています。
2005年2月2日までに、被害が報告された教育施設は1,755施設に上り、その中には学校、マドラサ(イスラム宗教学校)、大学が含まれ、災害前の教育施設のおよそ23.3%にあたります。また、被害を受けた学校教育外の教育施設は2,206施設に上り、その中には幼児教育施設(PADU)、公共学習活動センター(PKBM)、講座学校、コーラン教育センター(TPA)が含まれます。さらに、ペサントレンと呼ばれるイスラム寄宿塾174校も被害を受けました(表1参照)。
上記の数字は内務省の発表に基づくものです。被災当初、各地域の被害見積もりとして出された、アチェ州の学校またはマドラサ1,962校、ニアス島の学校またはマドラサ104校が被害を受けたとする数字とは異なります。教育施設そのものだけでなく、それを支える各種施設・インフラもまた地震によって被害を受けました。各州、各管区、各市町村にある教育品質管理機関(LPMP)、学習活動センター(SKB)、教職員宿舎などです。建物だけでなく、備品や設備機器も被害を受けました。図書館の蔵書や目録もまた、被害を受けたり、完全に破壊されたりしました。しかしながら、このような自然災害および人為災害は、関係者がこのような災害に対して備えていたならば予防できるものです。つまり、災害対策計画が用意されなければならないのです。
一方、地震・津波によって死亡または行方不明になった教師および教育従事者の数は、およそ2,500人です。また、死亡した生徒の数は40,900人です。およそ3,000人の教職員がその財産を失い、46,000人の学生が避難を余儀なくされ、すべての教育レベルを合わせると15万人の学業が中断しました。
No. | 教育レベル | 教育機関の数 | ||||
災害以前 | 災害後 | |||||
全壊 | 中規模被害 | 軽微な被害 | 計 | |||
1 | 幼稚園 | 823 | 102 | - | 1 | 103 |
2 | 小学校 | 5,061 | 930 | 8 | 282 | 1,220 |
3 | 中学校 | 1,062 | 228 | 2 | 36 | 266 |
4 | 高等学校 | 572 | 120 | 1 | 21 | 142 |
5 | 大学 | 不明 | 17 | - | 1 | 18 |
6 | 養護学校(SLB) | 10 | 2 | 1 | 3 | 6 |
小計 | 7,528 | 1,399 | 12 | 344 | 1,755 | |
7 | 幼児教育施設(PADU) | 不明 | 27 | - | - | 27 |
8 | 公共学習活動センター(PKBM)、 地域読書センター(TBM) | 不明 | 49 | - | - | 49 |
9 | 講座学校 | 不明 | 9 | - | - | 9 |
10 | イスラム宗教学校 | 201 | 59 | - | - | 59 |
11 | イスラム寄宿塾 | 877 | 174 | - | - | 174 |
12 | コーラン学校(TPQ) | 不明 | 936 | - | 936 | 1,872 |
13 | 学習活動センター(SKB) | 不明 | 11 | - | - | 11 |
14 | 教育活動開発センター(BPKB) | 不明 | 1 | - | - | 1 |
15 | 地方教育協議会(MPD) | 22 | 4 | - | - | 4 |
小計 | 1,270 | - | 936 | 2,206 | ||
合計 | 2,669 | 12 | 1,280 | 3,961 |
公共図書館や学校図書館、大学図書館における図書館サービスの運営を確保するため、政府は国内外の機関やNGOと協力して、既に2,400か所の避難キャンプ等に図書館の仮施設と図書資料を配置しました。とりわけ、アチェ州立図書館(Regional Library Agency of Aceh: BPD)については、サンポエルナ財団が、建物をはじめ、家具や電子機器など被害を受けた設備の修理と再建に貢献しました。オーストラリア国立図書館(ジャカルタのオーストラリア大使館を通じて)、マレーシア国立図書館、シンガポール国立図書館、インドネシア出版者協会(Indonesian Publisher’s Association: IKAPI)、そしてインドネシア国立図書館が図書資料を援助しました。
学校と一時避難地域において通常と同じ図書館サービスを保証するため、インドネシア国立図書館は首都バンダ・アチェのアチェ州立図書館に2台、ロクスマウェ市立図書館に1台の移動図書館を提供しました。アチェ州の図書館サービス復興のために必要な図書やそのほか必要な備品類の寄付を約束してくれた団体は他にもいくつかありました。バンダ・アチェ市外の被害状況の調査はいまだ進行中です。
図書館の復興・再建事業は、基本的には以下の方針に従って行われる予定です。
以下は図書館の復興・再建過程における達成指標です。
No. | 項目 | 教育分野 |
1 | プログラムの名称 | 読書推進活動、図書館の発展 |
2 | 活動の名称 | 読書推進活動、図書館の発展 |
3 | 目標 | ・施設とインフラを利用可能とする ・地域住民と学校の生徒の読書習慣を拡大する |
4 | 対象者 | 学校の生徒、地域の住民 |
5 | 対象地域 | 緊急対応・復興段階:被災地域に集中 再建段階:アチェ州のすべての区、北スマトラ州のリアウ及び南リアウ区 |
6 | 活動範囲 | 図書館及び地域読書センターの施設・インフラの調達 |
7 | 達成指標 | 施設とインフラが利用可能になる 地域住民と学校の生徒の読書習慣が拡大する |
8 | スケジュール | 緊急対応段階:2005年1〜6月 復興段階:2005年7月〜2006年12月 再建段階:2007年1月〜2008年12月 |
9 | 他プログラムとの関係 | ワーキンググループ Ⅰ (区画計画) ワーキンググループ Ⅱ (組織機構) ワーキンググループ Ⅲ (資金調達) |
10 | 実施機関・責任者 | 教育省、宗教省、国立図書館、アチェ地方教育局、アチェ地方宗教局、地方・市の教育施設、 各区・都市にある宗教省の地方局 |
11 | 費用見積 | 5,000億ルピア(500万米ドル) |
12 | 財源 | 国家予算 、地方予算、地域や民間セクターの出資、外国からの援助(補助金や貸付金) |
ニーズの変化に対応するため、ニーズ調査、監視、評価の活動は、次のような原則に従って緊急対策段階の最初から再建段階まで集中的にそして継続的に行われなければなりません。
アチェ州、とくに北部および北西部は地震の直撃とそれに続く津波によって大きな被害を受けました。住民の多くが亡くなり、行方不明者、負傷者もたくさんいます。多くの文化施設が破壊され、回復不可能になった施設もあります。
ウパリ・アマラシリ
(スリランカ国立図書館長)
Upali Amarasiri
Director General of the National Library and Documentation Centre of Sri Lanka
スリランカは、インドの南端に位置する熱帯の島です。スリランカは美しい自然を有していることで古くから知られ、昔の旅行者が「インド洋の真珠」や「地上の楽園(Serendib)」と名づけたほどです。またスリランカは他のアジア諸国と同じく古くから文明が発達し、経済・文化が高度に発展したことでも知られています。
スリランカの人口は約2千万人で、主なエスニックグループは、シンハリ族(70%)・タミル族(20%)・ムスリム(8%)の3つであり、その他が2%を占めます。
2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震に伴うインド洋津波は、アジアの多くの国々(すなわちインドネシア、スリランカ、インド、タイ、マレーシア、ミャンマー、モルディブ、バングラディッシュ)に甚大な被害をもたらしました。津波は、はるか東アフリカまで到達し、ソマリア、タンザニア、ケニアなどにも影響を及ぼしたのです。
東アジアや太平洋地域で津波が起こるのは珍しいことではありませんが、これほど大きな津波が東南アジアに発生したのは記録に残る限り初めてとのことです。
津波はスリランカの海岸地域の60%に深刻な打撃を与え、死者は3万8千名以上に及びました。8万戸の家屋が失われたほか、学校(182校)・大学(4校)・高等職業訓練学校(3校)・職業訓練施設(10施設)も被害をこうむりました。道路・鉄道・通信・電力・水資源・観光・漁業に与えた影響もきわめて深刻です。また、砂丘・ラグーン・海岸付近の植生にも多大な被害を与え、深刻な環境破壊を引き起こしました。
公的機関も人命やインフラを失っただけではなく、重要な記録・文書類の喪失という事態への対応を迫られました。人口密度が高い南部州の選挙人名簿すべてや、60万件に及ぶ土地調査部の不動産登記簿(地籍図)も、津波によって消滅してしまったのです。市民も重要な記録―不動産の契約書類や証明書、銀行関係の書類、教育・出生・結婚・死亡に関する証明書など―を失いました。
スリランカにおいて、津波によって失われた資産やインフラ被害は、米ドルに換算して10億ドル(GDP 5%相当)に及ぶと推定されています。また雇用の喪失も27万5千人に及ぶということです。
国内9,790校のうち、被災した学校は182校です。学校図書館も倒壊したり、深刻な被害を受けたりしました。さらに、282の学校が被災者の避難所として使用され、被害を受けました。
この大災害のために、学校図書館では約120万冊(図書や他の図書館資料)が失われたと考えられます。受入れ簿や図書館のカード目録も被災してしまったため、被災した図書や他の図書館資料の正確な数は確定できません。被害を受けた図書館資料は、図書、逐次刊行物、新聞、視聴覚資料などであり、学校図書館の中にはコンピューターやフロッピーディスクにも被害が及んだ館もありました。なお、いくつかの学校図書館は最近決定された学校図書館の発展・近代化プロジェクト(国際的な援助団体の支援を受けて政府が実施しているプロジェクト)の支援を受けている館でした。
950館の公共図書館のうち、62館が被害を受けましたが、特に28館の被害が深刻です。スリランカにおける最初の公共図書館の成立は1825年にさかのぼり、スリランカの公共図書館ネットワークは古くから発達しているといえます。スリランカの公共図書館を運営する地方自治体は、都市部(municipal council)、半都市部(urban council)、農村部(pradeshiya sabha)の3種類です。スリランカにおいては、早くも1931年に普通選挙制が敷かれ、議会制民主主義の導入も早かったのです。また政治参加も階層を問わず進んでおり、識字率も95%と高くなっています。さらに無償の義務教育制度も整備されており、1970年にはスリランカ国立図書館も創設されました。こうした条件が重なり合って、スリランカの公共図書館サービスは発展を遂げてきたのです。
スリランカでは、青年団・読書サークル・村落振興協会などの任意団体が各々独自の図書館を設置しています。これらすべての図書館が専門的に組織・運営されているわけではありませんが、これらの図書館は、それぞれの奉仕対象となる人々の読書振興に貢献するという形で、有意義なサービスを提供しています。こうした図書館のうち約40館が津波に襲われました。
海岸付近の多くの仏教寺院もまた津波の被害を受け、貴重な寺院図書館のコレクションも失われました。パームリーフ(貝多羅葉)文書やアーユルヴェーダ(Ayurvedha)と呼ばれるこの地域固有の伝統医学に関する珍しい資料が津波で消えてしまったのです。
上記の他に研究図書館数館も被災しました。スリランカ水資源研究機構(National Aquatic Research Agency)、スリランカ港湾局(Sri Lanka Harbour Authority)、スリランカ海軍・海事博物館(Sri Lanka Navy and National Maritime Museum)付属の図書館が、津波の被害を受けました。さらに、多くの私設図書館も津波に流されました。
津波を目撃した人の話によれば、2つの大波が数分の間に海岸を襲ったということです。波の速度は大変速く、波は建物を地面になぎ倒したり、激しく損壊させたりしました。最初の波では倒れなかった建物も第二の波に破壊されました。第二波のほうが、威力があったからです。
津波のもうひとつの特徴は、陸に向かう波と、海に向かう波の両方が起こったことです。海から陸へと押し寄せた波は、陸から海へ向かう波を起こすほどのエネルギーで引いていきました。引いていく水は、単にすでに弱った建物や地盤にダメージを与えただけではなく、本をはじめ他の多くのものを海に流し去ってしまいました。津波の当日海から戻った漁師は、膨大な数の遺体や家具や瓦礫が海に浮かんでいるのを目撃した、と語っていました。
「図書館・文書館のためのスリランカ災害対策委員会」(The Sri Lanka Disaster Management Committee for Library,Information Services and Archives:SL DMC for LISA)が、この予期せぬ非常事態に対応するために結成されました。この災害対策委員会には、スリランカ国立図書館、国立公文書館、スリランカ図書館協会、スリランカ科学財団(National Science Foundation)、その他図書館関係の主要教育機関や、関係団体などが参加しています。
災害対策委員会を支援するため、多くの特別チームが設立されました。たとえば救急支援、図書館設備・建設計画、IT計画、教育・訓練計画、保存修復、選書、学校図書館振興、公共図書館振興、一般図書館部門、さらに相互協力といったチームです。各チームは、8〜12名の図書館関係者・IT関係者・政府・関連分野の人々からなり、災害対策委員会への助言や担当の課題の計画立案をチームで行います。これらの特別チームを通じて、図書館や関連分野の専門家が、より広く参画できるようになっています。
国立図書館は、図書館に関する計画の立案や再建活動において、つねに草の根レベルと連絡をとっており、すべての図書館委員会、読者サークル、その他の図書館の付属団体などが再建に参加できるよう呼びかけてきました。図書館委員会が機能していない場合には、図書館員や自治体は緊急に新しい組織をつくるよう指示されます。以前の委員会メンバーを津波で何人か失ったため新しい委員会を作らなければならない図書館もあったそうです。国立図書館と災害対策委員会は、関係公務員や図書館員などとともに、復興対策を計画するため多くのセミナーを開催しました。
政府とNGOは、3つの段階をとって津波災害に対応しました。津波直後、非常時からの転換期、長期的な復興期です。
津波直後の段階での主な活動は、当座の避難場所・食料・医薬品・医療施設の確保や、心理的なケア、被害状況の把握です。第二の段階では、仮設住宅の提供や、インフラの回復(道路、鉄道、電気、水)などの対策がとられました。第三の段階では、より長期的な復興を扱うことになり、住宅の建設、学校や病院、道路の再建のほか、被災者の生計の回復などが計画されています。現時点で、すでに被災から約1年が経過しており、スリランカは目下第二、第三の段階にあるといえます。
土地の不足は、再建プログラムの実施にあたって政府・地方自治体の両方にとって大きな障害のひとつです。住宅、学校、図書館、病院、その他必要性の高いインフラ設備の建設には広大な更地が必要なのですが、安全性の観点から、政府は海岸から100メートル以内の住宅建設を法令で禁じており、このことが土地不足に拍車をかけています。特に土地不足が深刻なのは、人口が密集している西部州・南部州です。というのも、緩衝地帯の外の土地の大部分にはすでに建物が建ったり、大規模農地として作付け済みであったりするからです。また、避難者たちも元の居住地から遠くには移りたがりません。さらに、緩衝地帯の外部の土地所有者が価格をつりあげ、その価格高騰のため状況が悪化しています。政府だけでなく、外国人支援者もこの状況に不満を募らせています。
図書館そのものやコレクションを失ったり、よく知っている図書館利用者、そしてときには親類や友人を失ったりしたことで、被災した図書館でサービスにあたる図書館員は心理的に大きな衝撃を受けました。臨時の開館場所を探して一から図書館サービスを始めなければならなかった者もいれば、被災した建物を復旧させたり、被災したコレクションや、家具、設備を修理したりする必要に迫られた者もいました。学校や地方自治体など図書館の上部機関は、津波による無数の課題に動揺しており、図書館員は図書館サービスの復興にあたり、非常に苦労しました。救い出された図書館資料も利用者や図書館員の健康に害を与えることがあり、このこともさらに重荷となったのです。
津波特有の事情として挙げられるのは被災資料の保存や修復が難しいことです。津波で海底が崩れたため、海水には泥、砂、ミネラル、その他多くの物質が混ざっています。スリランカ国立公文書館の保存修復室で行われた実験によれば、津波に被災した紙は通常の海水で濡れた紙と比べて酸性物質をより多く含んでいます。ですから、津波に被災した資料の保存という未開拓の課題をさらに研究し、津波被災資料に対する特別な処置を模索していかねばならないのです。
復興活動の目下の課題のひとつは、政府官僚との連携や交渉です。津波の直後は、被災地近辺の公務員は、精力的に働かざるをえませんでした。そして彼らの多くは、世間からも国際的な団体からも高い評価を得ました。しかしながら、この未曾有の再建計画において決定や救済措置が必要になると、まさに同じ公務員が障害となってしまうのです。というのも、規則や規定に杓子定規に従おうとするからです。こうした状況を克服するために、政府は再建活動を調整し、再建を円滑に進める特別機関「国家再建のための特別チーム」(Task Force to Rebuild the Nation : TAFREN)を設置しました。それでも、一方で草の根レベルの公務員は、実質的な役割を果たしています。
安全と復興活動に取り組むNGOにも、多大な支援が寄せられています。諸外国の政府援助に広く不信感があるため、災害以後NGOが激増しています。政府の機構は、しばしば非能率的で、官僚的で、堕落していて、そしてあまり親切ではない、と思われてきました。スリランカで必ずしもあてはまるわけではないにせよ、一般論としてはそうかもしれません。しかしNGOの中には、この機会を資金集めに利用し、しかも集めた資金を自分たちのために使った団体もあります。NGO活動に対する規則や規制は皆無であり、不届きなNGOは、被災者の苦労につけこみ続けているのです。
国会議員や地方議員は、復興や、再建活動に重要な役割を果たしています。国会議員(特に与党議員)は政策決定のプロセスで発言権を有しているからです。時には野党議員から、自分たちの地域は継子扱いだという不満が出ることもあります。
津波直後には、政府、国際団体、NGOなどはまず最優先の課題として、必需品の供給やインフラの回復に集中していました。そのため、われわれは図書館の発展や復興の優先順位は相対的に低いのだと痛感させられました。こうした状況において、国立図書館と災害対策委員会は、図書館の復興がより長期的な展望の中で位置づけられるようにするべく、粘り強く働きかけを行いました。
現在、復興活動にあたって最大の障害となっているのは20年来のスリランカ内戦です。この紛争によって国内は二分してしまい、ひとつの国家としてまとまって計画を推進することが難しかったのです。政治的な問題がクリアできていれば、この緊急時に外国からの援助がもう少し速やかに得られたでしょう。
当然のことながら、被災した学校の再建は最優先課題とされており、この努力は政府と支援団体との間で締結された163の覚書に沿う形で、国内外の組織によって実施されつつあります。教育省の計画によると、ひとつの学校につき少なくとも4千万スリランカ・ルピー(40万米ドル相当)がかかり、この費用には理科実験室、マルチ・メディア教室、最新のコンピューター学習センター、大きな図書館、体育館が含まれているとのことです。これらのすべての学校は、独立した学校図書館を持つか、あるいは新しい建物の一部を図書館として使う形で設計されています。
学校図書館部門と異なり、公共図書館はそれぞれの自治体に所属しているため被災図書館の再建にあたって中心となる計画や復興のためのメカニズムを持っていません。その一方で自治体が被災者に住宅を供給するといったより切実な問題を抱えている場合、図書館再建の優先順位は低くなります。こうした事情を考慮し、スリランカ国立図書館は、現在公共図書館部門の支援に特に力を入れています。多くの外国のNGOが、その支援の対象を公共図書館の再建や施設・設備にまで広げました。スリランカ国立図書館は、数館に対しては図書館家具だけでなく図書館資料も供給しており、残りの図書館に対してもこのような支援を始めています。
国立図書館と災害対策委員会は、建設コストが安く、魅力的で、かつ機能的な新しい図書館を建築することを切望しています。津波に耐えられるような図書館建築(たとえば多くの柱に支えられた設計)を検討している図書館員もいます。すでに、沿岸地域の建物のデザインは、津波の影響を考慮に入れて変わってきています。こうしたわれわれの努力を支援するべく、ユネスコは図書館建築専門の建築家の派遣を承諾してくれたところです。
被災した図書館は図書等の図書館資料を緊急に必要としていますが、さまざまな支援者(学校の生徒、出版社、書店、篤志家、支援団体)のおかげで、この需要の一部は満たされました。スリランカ国立図書館も多くの図書を提供し、さらに海外在住のスリランカ人や、海外の関係団体からも古本が寄せられています。
国立図書館は、鍵のかかる貸出図書ボックスに貸出サービスのガイドを添えて、避難所や仮設住宅に図書類を提供しています。このサービスは、そうした場所の住民に読み物を提供するための一時的な対策と考えられています。図書館員の役割を果たす人は、各避難所等の住民の中から選ばれています。
先述したとおり、図書館の家具のかなりの量も津波の損害を受け、図書館家具については、館種を問わずあらゆる図書館から強い要望があります。図書館の建物がすでに崩壊したり、波に流されたり、津波の後の混乱や盗みによって家具がなくなったりしてしまったのはやむをえないとしても、学校の家具を薪にしてしまった被災者がいたことさえ判明しているのです。
この7ヶ月間、国立図書館は、閲覧机、椅子、各種の書架といった基本的な図書館家具を数多くの図書館に提供することに努め、基本的なサービスを再開できるように援助しました。また、次回配布分として700万スリランカ・ルピー(7万米ドル相当)の図書館家具が発注済です。
スリランカ国立図書館は、図書館員・校長・地方公務員向けに、既に多くのセミナーや、ワークショップ、ミーティング、訓練プログラムを実施しました。これらの活動の目的は、この未曾有の状況に立ち向かうための必要なノウハウの伝達だけでなく、精神的な援助を与えることにもあります。図書館資料の保存・修復のためのワークショップやセミナーは、被災した資料の修復に取り組んでいる図書館員の助けとなりました。
長期的な持続可能性を保証することを目指して、各被災図書館がそれぞれ2つの図書館と連携することが検討されています。ひとつの被災図書館がひとつの海外図書館及びひとつの地域の図書館と連携するのが理想型といえるでしょう。私たちはこの新しい三角協力モデルが、グローバルなレベルでの緊密な図書館協力につながることを望んでいます。支援にあたる2館には、専門的・物質的な援助を行ったり、状態を調査したり、一般的な支援を行ったりと可能な限り被災図書館を援助することが求められます。
津波で被災した子供たちのために良質な児童書を出版することを目的とした多くの計画も進行中です。最近、国立図書館は「津波被災児童のための本のプロジェクト」(Tsunami Children’s Book Project)という名前で、15冊の良質な児童書(シンハリ語7冊、タミル語5冊、英語3冊)を刊行する計画を立ち上げました。執筆者は、支援目的にふさわしい原稿の提出を求められています。このプロジェクトの目的は、勇気、決断、そして人生の障害の克服といったテーマの良質な児童書を世に送り出すことにあり、既に相当量の原稿が届いています。
概してスリランカはまだ津波の被害に懸命に取り組んでいる最中です。再建のための取り組みは、住宅の供給や、被災者の生計の回復、学校・病院・道路・その他のインフラ施設の再建に対して重点的に行われています。学校システムに不可欠なものとして学校図書館の再建は優先度が高いですが、他の館種の図書館も、スリランカ国立図書館やその他の支援者から実質的な援助を受けています。図書館界の再建というプロジェクトの成功のためには、都市や地域の再生、社会基盤の整備を含めた政府の復興目標全体が達成されなくてはなりません。その成否は、国際的な援助をいかに円滑に分配できるか、またこの援助をいかに有意義に利用できるか、そして安定した、物事を進めやすい環境が国内に広く行きわたるか、にかかっているでしょう。
坂本 勇
(有限会社東京修復保存センター代表)
Isamu Sakamoto
Paper Conservator, Director of the Tokyo Restoration and Conservation Center
昨年12月26日にスマトラ沖で発生した大地震・大津波から間もなく一年となります。世界の隅々にまで報道された、すべてを呑み込み押し流していく大津波の衝撃的映像が思い出されます。数十万人の失われた人命のためにも、発生から現在までの被災地への支援について、実際にどのようなことが出来たかということを振り返っておくことは、今後の災害対策に参考となると考えます。
振り返りますと、ちょうど阪神淡路大震災から10年の記念の日である1月17日に「スマトラ沖大地震・大津波被災文化遺産救済支援五人委員会アピール」を国内各機関、団体、個人に向けて、事態を憂慮した5名のメンバーの連名で出しました。アピール文はその後2月3日に「スマトラ沖大地震・大津波被災文化遺産救済支援五人委員会緊急第二次アピール」として出し直され、本日の配布資料にその両方の全文が入れてありますので、ご覧いただければと思います。
五人委員会の中で、青木繁夫、安藤正人、高山正也、坂本はいずれも阪神淡路大震災の際に、早い段階で被災地に入って救援活動を実際に行った共通体験を有しておりました。この神戸、阪神間での「被災地での経験」というものが、スマトラ沖大地震で未曾有の被害が伝えられた被災地への「何か具体的な支援をしよう」という思いを抱かせ、実際の行動に向かわせたと考えます。この神戸経験が、世界にたくさんの国々がある中で、より踏み込んだ今回の支援を実践させた特色になったように思います。
短く五人委員会の行いました活動を紹介しておきます。
1998年に調査で訪ねた時から7年が経っていますが、街のシンボルである立派なモスクも痛々しく傷つき、周囲の美しかった芝生や花壇は消え去っていました。前回見せてもらったイスラムの古文書の多くは津波で流され永遠に再会できなくなっていました。宿泊した大きなホテルも完全に崩れ去っている状況でした。
被災した通りの沿道では個人の本や写真を炎天下で広げて干している光景を見かけましたが、多くは急激な乾燥や処置の遅れで永久に使えなくなっていました。家族の思い出、地域の記憶が、今回もまた膨大に失われてしまったのです。
アチェ・イスラム国立大学(Ar-Raniri)や新聞社の重要な情報サーバーは、盗まれたり、塩害で腐食しずっと放置されている状況でした。過去の蓄積された重要デジタル情報があっけなく全て消え去ってしまったのです。
津波に1階を完全に流された図書館、文書館の被害では、貴重な一点しかない60年代スカルノ時代の写真アルバム300冊や、行政府の警察資料、裁判資料、税務資料など一旦救出されながらも「修復専門家が不足したため」永遠に失われたものが多々あったとされます。
今回の大災害が契機となって、失われた人命、文書、歴史遺産への鎮魂の思いで、残された文化遺産、文書などが積極的に保護され保存されていくことが願われます。
他国や他地域で発生した大災害に国際的な支援を差し伸べることが一般化し、プロフェッショナルに行われていく流れにあると思います。また、機会あるごとに蓄積されてきた経験の記録化と共有化も増えてきて、未経験地域の人々も過去の経験に学ぶことが可能となってきました。例えば1997年に大洪水を経験したコロラド州立大学図書館がまとめた600頁もの「図書館災害計画と復旧ハンドブック」はハワイ大学の災害時にも参考にされたといいます。これらは、今後世界的に大規模災害が多発していく情勢からも大事な評価される点だと思います。
しかし、その一方で今回のアチェでも苦い経験となった、保存修復専門家など特殊技能を有する専門家が迅速に動ける支援体制などの確立は今後の課題としてあります。度重なる災害発生や経済の低迷で「救援資金の不足」や「人材支援・派遣体制の欠如」は世界的に深刻な問題となっています。
ぜひとも、過去の反省と課題の上に、1歩でも前に現実的、実践的に踏み出していき、人材支援・派遣体制の確立に前進していくことが求められていると思います。
これまでに図書館、文書館、博物館などにおいて様々なネットワークが結ばれてきました。ネットワークの形成・発展を促進するインターネットなどの通信技術、インフラ整備は急速に発達してきています。
2004年9月の「ワイマールのアンナ・アマリア公爵夫人図書館大火」、同年10月に起こった「ハワイ大学アマノ校ハミルトン図書館鉄砲水災害」、同年12月に起こった「京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館配管破損事故」の例でも、迅速で具体的な災害対応が課題となり、困難を克服していきました。
今後求められていくのは、災害に直面した現場に必要な「具体的な支援」を可能にしていく「支援体制」です。すでに民間ではBELFORなどの災害復旧支援企業が実績を上げてきており、拡充されていくことと思われます。
では民間災害復旧支援企業が充実してくれば図書館、文書館自体では災害対策、国際的な支援体制など、どんどん軽減していけばよいのでしょうか。 答えはノーです。
特に、資料の中身を一番熟知しているスタッフが居られる図書館、文書館が担わなければならない専門的責任と互助精神が必要であり、人任せでは、助かるものも助からない悲劇が生まれます。
これまでの先例から私たちの学ぶべきこととして、世界の被災図書館などを支援することは、国内の災害にも強くなることを意味しています。
そして、このような世界各地での被災図書館の支援を円滑かつ効果的に行うためにも、IFLAおよびIFLA/PAC地域センターが「災害発生後すみやかに関係情報収集を開始し、アクセスコードを保有する登録会員間で信頼できる情報を共有化出来る機能」をWEB上に構築することが、まず望まれます。活発に機能できる機動性のあるコアが出来ることで、様々な財源確保や、BELFORなど災害復旧企業および修復専門家を擁するAIC(アメリカ修復保存協会)、CCI(カナダ修復保存協会)、IADA(国際修復家協会)、文化財保存修復学会などとの連携も現実的になってくることと考えます。
日本は今回のスマトラ沖大地震救援で神戸の経験をインドネシアに活かすことが出来ました。今回被災経験を有することになったスリランカやインドネシアの専門家の方々が、次には他国の災害に対して、その経験を活かして支援していく立場になって、支援の輪が世界中に張り巡らされていくことが願われます。
那須 雅熙
(IFLA/PACアジア地域センター長、国立国会図書館収集部司書監)
Masaki Nasu
Director of the IFLA PAC Regional Centre for Asia, National Diet Library
IFLA/PACアジア地域センター長として、今年の初めは、スマトラ沖地震と津波のことで頭が一杯でした。今、パキスタンの地震が大変気になっております。
当時、アジア地域センターは、先ず被災状況の情報収集にとりかかりました。東南アジア地域を一緒に担当しているIFLA/PACオセアニア・東南アジア地域センター長(オーストラリア国立図書館)のコリン・ウエッブ氏に相談したところ、彼は被災地の国立図書館にいちはやく連絡をとり、調べた被災状況を知らせてくれたのです。私は、インドに連絡をとりました。国内的には、関係機関との意思疎通に努めることとし、五人委員会や日本図書館協会と連絡を取り合い、また定期的に行っている「資料保存懇話会」で、国立公文書館等の代表の方々とも懇談しました。集めた情報は当館ホームページ、当館が編集しているアジア・オセアニア国立図書館長会議(CDNLAO)ニューズレター等を通じて関係者と共有を図りました。その後、IFLA本部は「復興開発パートナーシップ」を作成し、各国の図書館協会に協力を要請しました。
しかし、図書館や文書遺産の復興活動は、まだ広く展開されるところまでにいたっておりません。その理由としては、何人もの死者やけが人が出ているなかで、人命救助やライフラインの整備が文化的な復興よりも優先されざるを得なかったこと。図書館の被災は、施設、サービスシステムといった基盤そのものの崩壊が大半であり、資料の保存・修復という枠組みをはるかに超えたものであったこと等でありました。
現地ではようやく文化的な復興支援活動も始まりましたが、前のお三方の報告にもありますように、文書遺産、図書館、文書館、教育施設の復興はまだまだこれからなのです。日本からは5億ドルを投じた国の復興支援活動が行政府や国際協力機関を通じて実施されましたが、国際協力機構(JICA)による坂本勇氏たちの活動や学校建設を除いて図書館や文書遺産の復興支援協力はまだかと思います。本日のセミナーを梃子に、支援活動が広がり活発になってくれればと願っております。
10月8日に起きたパキスタン大地震から、2ヶ月が経ちました。インドネシアのラフマナンタ館長からメールをいただきまして、このセミナーのテーマにスマトラ沖だけでなくパキスタンも加えるべきではないかというご意見をいただきました。私もパキスタン国立図書館長にお見舞いのメールをお出しして、被災状況などがわかったら教えてくれるように申し上げましたが、今のところ、何のご連絡もいただけません。恐らく、今はそれどころではないということでしょう。被害にあった人々の救済が先決ですが、貴重な文書遺産や図書館、文書館の被害が少ないことを祈りたいと思います。
アメリカのハリケーン被害といい、世界のいたるところで、災害が頻発しています。かけがえのない貴重な文書遺産を護るために、私たちができることは何でしょうか。復興はどのようにしていったらよいでしょうか。被災はいつ何時起きるかもしれません。アジアで起きた二つの大きな災害から、私たちが学ぶべきことはとてつもなく大きいと言わざるを得ません。
アジア地域センターは、先ほどバーラモフ国際センター長が報告されたようなIFLA/PACの防災プログラムに協力し活動することを要請されています。センターの任務は、以下のようなものだと思います。
さらに、最近は、ブルーシールドの理念や「IFLA復興開発パートナーシップ」により、
IFLA/PACコア活動に対して、アジア地域センターは、あの神戸大震災を境に、毎年開いている「保存フォーラム」でずっと災害問題を取り上げてきました。さらに現在、順次、当館の資料防災計画を策定し、国のガイドラインとして他の図書館の参考にしてもらうべく努力をしています。また、スマトラ沖・津波に関しては、先ほど述べたような活動を行いましたが、坂本勇氏がIFLA/PAC発行の「International Preservation News」の最新号に、「地域センターが情報収集・提供を行い、支援ニーズを理解し、緊急支援をスタートするための救援基地として機能していたら、現地でうろたえている図書館や文書館の職員を元気付け、役に立ったであろう。」と述べておられるように、被災国とのコミュニケーション、情報提供の面で課題を残しました。
国内では、今年になって、文化庁と外務省で、戦後署名したハーグ条約の批准と国内法整備に向けて国会への法案提出をめざして検討が進められております。国内法に基づき、近くブルーシールド国内委員会が設置され運営されるものと思われます。「IFLA復興開発パートナーシップ」については、日本では、図書館や文書館における国際協力に関する予算が、その活動主体に直接配分される構造にはなっていませんので、IFLA基金を樹立することは現状からすれば極めて困難であろうかと思われます。しかし、少なくともJICAや国際交流基金等の国際協力機関や民間の各種財団により、途上国開発支援や災害被災国への救済支援が実施されており、一定のメカニズムはすでに形成されています。
要は、関係者の文化財保存や文化財の災害復興に対する理解と意識の向上、諸外国との日常的、積極的なコミュニケーション、災害支援に関して緊急対応できる組織の確立、イニシアチブをとり調整できる機関の存在とネットワークの形成が必要なのだと思われます。たとえば、行政府の方でも、2004年8月に策定された「文化財の国際協力の推進方策について」(文化財国際協力等推進会議)(文化庁文化財部伝統文化課、外務省大臣官房文化交流部)において、文化財の保存修復に関する文化財国際協力コンソーシアム(仮称)の構築が提言されており、さまざまな活動を調整する役割の重要性が指摘されています。
アジア地域センターとしては、今後、広くこのようなコンソーシアムと協働する仕組みを考えていくことが大事であるように思います。
では、この機会と場をお借りしまして、アジア地域センターのその他の活動について、簡単にご報告させていただきます。
PACの地域センターは、現在世界各地の12か所に置かれています。各地域センターはPAC国際センター長との間で協定書を取り交わし、それに基づいて運営されています。
国立国会図書館が、1989年にアジア地域センターに指定されてから既に16年になりました。アジアには、現在、当館と同時に指定されたオーストラリア国立図書館のオセアニア・東南アジア地域センターと、昨年指定された中国国家図書館の中国地域センターの3つの地域センターが活動しています。また、近年は東南アジア、南アジアにも地域センターの必要性が指摘されているところです。
アジア地域センターの機能・役割は、具体的には、その時期のIFLA/PACの戦略計画や協定書、これまでの活動による経験、地域内の保存ニーズや要望等によって定まります。現在の機能・役割は、以下のようなものだと思っています。また、数年前に各センターに得意分野が設けられ、アジア地域センターは、紙資料の保存の分野における貢献も求められています。
アジア地域センターは、この2〜3年、収集部資料保存課と連携して以下のような活動を行ってきました。
地域内の保存機関のダイレクトリー、メーリングリストの整備を図るため、各機関に情報提供を依頼したり、CDNLAO会議で呼びかけをしたりしていますが、なかなか情報が集まらないので、今後もありとあらゆる方法や機会を利用していきます。
国際協力機構(JICA)シニア・ボランティアとしてネパール国立図書館で協力活動をなさっておられた山田伸枝氏からの要請と、ネパール国立図書館長の依頼に基づき、現地調査を行ったうえで、JICAのご協力により2004年10月18日から12月1日まで同館職員のバッタライ氏に資料保存を中心とした研修を行いました。主な研修内容は、保存・修復方針の策定指導及び技術指導、国立図書館の役割・機能・活動について、ならびに公共図書館及び保存関係機関での研修や見学でした。また今回の研修が国立図書館だけでなく国全体に継承・定着できるように、国際交流基金の助成を得てカトマンズのアサ古文書館で巻物型パームリーフの修復・電子化を行なっている「アジア文化財保存修復会」が保存に関するセミナーを開いてくれるなど、現地の保存協力活動と連携し継続的支援を行っています。国際的な保存協力はこのように単発的なものでなく、現地でのさまざまな支援協力活動と連携する総合的、計画的、継続的な活動が必要であると認識しています。
当館における韓国からの研修グループの受入れに引き続いて、2004年11月に韓国国立中央図書館主催の「韓中日資料保存会議」が開催され、発表、懇談を通じて、東アジアにおける保存協力の推進に向けた第一歩を印しました。中国国家図書館は、昨年からIFLA/PAC中国地域センターを引き受けておりますが、センター間の協力のみならず、今後、韓国国立図書館を加えた3か国で、共通する保存問題について連携協力をしていきたいと思っています。
資料保存懇話会は、文書遺産を次世代に残すという課題に応えるため、情報交換を通じて知識・経験の共有を図るとともに、併せて、資料保存の全国的推進とIFLA/PACアジア地域センターの活動に資する目的で一昨年度から開催しています。図書館の枠を越えて公文書館、博物館、美術館、大学、企業に所属する資料保存に関する専門家及び研究者が集まり、既に3回の会合が重ねられました。
第1回の懇話会では、資料の保管要件、専門職員の養成、それぞれの機関の保存対策や直面している問題など実質的な意見交換を行ないました。第2回においては、文書遺産保存の最近の国際動向を中心テーマとして取り上げ、IFLAの資料保存関係会議、国際文書館評議会(ICA)大会の報告や「紙資料保存における湿度の影響と促進劣化法」の最新研究情報について報告があり、懇談しました。第3回では、昨年起きた新潟県中越地震及びスマトラ沖地震・津波による図書館等の資料の被災状況とその対応に関する問題を取り上げ懇談しました。被災した側がどこに資料救助を要請したらいいのか知らない状況も問題であり、緊急時に適切な情報収集・情報発信を行える、資料保存に関する総合的な窓口の必要性が指摘されました。
当館では、国内の新刊資料の中性紙使用率調査を1986年以来行っています。調査結果を公表することで、出版界、製紙業界に保存性の高い中性紙やパーマネントペーパーの生産、使用を呼びかけてきました。現在、第18回調査を実施中で、調査結果は今年度中に公表する予定です。ちなみに、2003年10〜11月にかけて行った第17回調査では、中性紙使用率は調査開始当初民間出版物で51%、官庁出版物で32%であったものが、全体で91.4%と初めて9割を超え、内訳は、民間出版物91%、官庁出版物92.3%、図書が94.6%、逐次刊行物では86.9%でした。調査対象のなかで再生紙の割合は7.4%と再生紙利用が増えておりますが、再生紙の中性紙使用率も93.3%と上昇しています。強度など再生紙のもつ問題点については、調査研究中です。
アジア地域センターとしては、これまでの成果に基づき、中性紙使用普及のためのマニュアルを作成し、アジア各国で参考にしてもらいたいと思っています。
広報活動としては、2003年に「IFLA Principles for the Care and Handling of Library Material」の日本語版「IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則」を日本図書館協会から刊行し、電子版を国立国会図書館のサイト、及びIFLANETに搭載しました。また、「International Preservation Issues」の4、5号を邦訳し、今年度は、「写真の保護、取扱い、保管」を来年度には「ブルーシールド―危機に瀕する文化遺産の保護のために」を刊行し、国立国会図書館のサイトやIFLANETでも見られるようにします。また、「International Preservation News」に時々論文を発表しております。最新号の36号には坂本勇氏に『文化財を含むスマトラ沖大地震・津波の被災』を寄稿していただくため編集協力をしました。その他、 NDL Newsletter (139)や CDNLAO Newsletter にも発表しています。また来年3月マニラで開催される予定の第13回東南アジア図書館人会議(CONSAL)資料保存セッションで私がペーパーを発表する予定です。
明日、当館において、本日講演していただいた方々にも出席していただいて「アジアIFLA/PAC地域センター長等会議」を開くことになっています。そこで議論されたことを踏まえて、今後の活動方針を定めることにしております。が、アジア地域センターは、その役割・機能に照らして、今後さらにアジアにおける国際的諸活動の強化を目指す必要があります。
アジアの国々に対し、ホームページを通じて、保存情報サービスを展開できたらと思います。そのために、保存関連情報の収集に努め、保存に関する調査研究を奨励しその成果を蓄積しておく必要があります。また、資料保存対策が必要な国々が主体的に保存ニーズを調査し、資料保存方針を定め、実行できるように、研修生の受入や職員派遣を通じて、それらの国々に対する支援協力活動を行っていく考えです。得意分野の紙資料の保存については、伝統的な紙に関する共同研究を実施するなどアジアの国々との連携協力の強化を図ります。災害対策とその復興に関しては、やはり、日常的な活動、日常的なコミュニケーションがあってこそ、緊急時の支援活動ができるのだと思います。
言うまでもなく、国際的な保存協力活動には予算や保存専門家といった相応の資源と関連する活動との調整が必要になります。アジア地域センターは、これまで、国立国会図書館の資源のなかでやりくりをし、加えて国際交流基金、JICA、民間の各種財団等のご協力により活動してまいりました。今後、さらにその活動を強化し効果的に展開していくためには、ODAによる文化協力、JICAによる技術協力、国際交流基金の文化財保存助成、ユネスコの活動、民間の国際的保存協力活動、各種民間財団、NPOといった諸活動と、もっと連携協力する必要があると考えています。
なお、来年の第72回IFLA大会は8月20日から24日まで隣国のソウルで開催されます。その直前の8月16日と17日に、この講堂におきまして、IFLAの資料保存分科会、アジア・オセアニア分科会、PACコア活動および当館のアジア地域センターが共催して資料保存に関するプレコンファレンスを開催する予定です。テ−マは、「アジアにおける資料保存」で2部構成とし、第1部はアジアの資料保存をめぐるさまざまな問題、第2部はアジアの文書遺産のマイクロ化、電子化を取り上げ世界各地からその分野における代表的な講師をお招きすることになっています。危機的な状況にあるアジアにおける資料保存の実態を把握し、保存ニーズを明確にして、現在の保存活動を調整するとともに将来の保存協力のあり方について論議したいと思います。引き続き、アジア地域センターの活動についてご支援をお願いいたします。
ジェニファー・ロイド
(オーストラリア国立図書館資料保存課長)
Jennifer Lloyd
Manager of the Collections Preservation, National Library of Australia
本日はお招きいただきありがとうございました。今回の津波において、オーストラリア国立図書館が行った活動を、IFLA/PACオセアニア・東南アジア地域センター長である当館のコリン・ウェッブ(Colin Webb)保存サービス部長の代わりに、簡単にご報告します。
【井坂(司会)】 質疑応答を行いたいと思います。ここからは司会席にもう一人、資料保存課の小林直子が入りますのでよろしくお願いいたします。
【小林(司会)】 それではこれから質疑応答の時間に入りたいと思います。質問票は2枚いただいております。ひとつ目はバーラモフさんに対してです。
「ハーグ条約の中で文化財保全のための特別部隊を軍隊の中に設けるという記述があるということですが、条約批准国で実際にそのような部隊を設置している国はあるのでしょうか。あるとすれば、その具体的な活動例を教えてください。」という質問です。
【バーラモフ】 非常に難しい質問です。どう答えたらよいでしょうか・・・すみません、この質問にはきちんとお答えできません。この特別部隊のことは、私は知らないのです。実際にハーグ条約は、膨大な文書からなっているとても難解な条約でして、私自身法律の専門家でもありませんので、知り尽くしているわけではないのです。ただ、イタリアが非常に活発な活動を行っていることは知っています。たとえばブルーシールドの国内委員会もできておりますし、いろいろな活動をしています。また、オランダもいろいろな活動をしています。というのもオランダは実際に陸軍にそういうユニットを設置しており、その軍のユニットが文書遺産の保護をしております。また、実際にイラクで国立図書館の救援にあたったということも聞いております。ただ、実際にいかなる機能を持っているかについては詳しいことは存知ません。
【小林】 ありがとうございました。それではもう一枚の質問票のほうにまいります。こちらは那須さんに対する質問です。
「“アジア地域センターの活動について支援”とは、市民レベルで行うにはどのようなことが望ましいのか。具体的に教えてください。」という質問です。もう少し具体的に質問の意図をおっしゃっていただけるでしょうか。
【飯沼】 私自身個人的には大した力があるわけではありませんが、資料の6ページの最後のご挨拶文に書いてあったことで、私たちがこれから何をすればいいのか、何ができるのか。市民レベルでの具体的なことをご提示いただければありがたいと思いまして質問しました。
【那須】 市民レベルで直接私たちのアジア地域センターの活動をサポートしていただくのは、ちょっと難しいのではないかと思います。このご支援という意味合いは、私たちが与えられたさまざまな任務を与えられた条件の中でやっていく活動について、他の機関の方あるいは他の専門家の方々が私たちの活動に関連性をもって何かしていただけることがあれば、ぜひともそういったご支援をお願いしたいという意味合いで申し上げました。
ちょっと冗談めいた言い方ですが、市民の方々一人ひとりが、「アジア地域センターはお金がなさそうだから、少し募金してアジア地域センターに寄付してやろうか」というふうにされましても、私たちはそれを受け取る立場にはありません。しかしながら市民レベルで活動をなさることが、将来的に私どもとどういう関連性を持って連携していけるのかということはまだよくわかりませんが、可能性としてまったくないということではないと思います。
【小林】 質問票で寄せられていたのは以上の二つですが、ここで会場のほうからご質問またはコメントなどをしていただける方はいらっしゃいますか。
【宮崎】 東京外国語大学のアチェ文化財復興支援室の宮崎でございます。われわれは文化財の復興支援というものを細々とやってきましたが、今回のセミナーに参加させていただいて、いろいろなところでいろいろな広がりを持ってやっていらっしゃることを知り、非常に心強く感じております。われわれの大学では研究者として何ができるかという立場から、現場にすっ飛んで行くのではなく、長期的、継続的にやれることは何かを考え、現地の人々にとっても、またわれわれにとっても重要な意味を持つ歴史文書の復興を支援する活動を今年の1月に始めました。
今日のお話は、大部分の話題が図書館という枠内で、ここにご出席の方も図書館関係の方が多いと思います。われわれが扱っているのは図書館の外にあるような文字文化財、文書遺産を含んだものであり、このセミナーの焦点から外れるかもしれませんが、われわれの活動において浮かび上がってきた問題点等々について若干お話しさせていただきたいと思います。
われわれは、先ほどの坂本さんのご報告にありました五人委員会の活動を引き継ぐかたちで、アチェ文化財復興支援室を立ち上げました。たしかに何を行うにしても資金というのは非常に大きな問題です。五人委員会はトヨタ財団の支援や募金を得て、またわれわれの支援室では文化財保護・芸術研究助成財団の支援や調査研究のための資金を用いて、インドネシアの専門家を災害直後にアチェに派遣したり、坂本さんをジャカルタに派遣したり、アチェに派遣したりということを行ってきました。来週になりますが、12月14日からバンダ・アチェで文書の修復保存のセミナーを行う予定でいます。
「なぜ文字文化財か」ということは、図書館関係の方には自明と思われますが、災害において失われるのは人命やモノばかりではなく、文化財とともに文化自体が失われてしまうことがあります。書かれたものが図書館というかたちですでに登録され、保存され、中身が明らかな場合は手を打ちやすいわけですが、アジアにおいては必ずしもそうなっていない地域が結構あります。とくに在地の固有文書については、私蔵されるかたちで非常に重要な歴史文書がある場合があります。したがって災害が起こった場合には、そういうものも視野に入れていかなければいけない。
われわれは災害以前にそういう在地の、その土地土地に埋もれている文書を掘り起こし、それも取ってくるのではなく、デジタル化し共有できる体制を作り上げる――という活動を始めていましたので、その延長線上でアチェの救援活動、支援活動に乗り出しました。先ほどのダディ館長の今後のプランにもありますが、アチェにおける写本の電子化のプランもわれわれの活動の中から出てきたものです。
こういう活動を始めた中で浮かび上がった問題点は、まず第1にタイミング、すなわち。初動の問題があります。これは那須アジア地域センター長のご報告にもありましたが、いつ動き出すかということが非常に難しい。政府は救援、復興という段階に関する宣言を出しますが、それにしても動き出すタイミングは非常に難しいものがあります。
それと密接に絡むのは第2番目の問題点、すなわち現地のニーズが何であり、こちらが何を提供できるか、ということの調整です。国立図書館という枠組みですとはっきりしてくるかもしれませんが、そうでない民間の文書になりますと、責任がはっきりしないことがあります。それから政治的な状況もあります。ご存知のようにアチェの場合にはアチェという地方(州)と中央政府は必ずしも良好な関係ではなかったという歴史的な状況があります。したがって、復興支援活動を行う上でも被災地と現地の政府、それから日本の政府、日本において復興支援を行う人たちのさまざまな関心や能力というものの調整が必要になってきます。
われわれの活動の中で、復興支援の対象となる文書を行政文書とするか歴史文書とするか、ということが、ある時点ではっきりと分かれてきました。坂本さんのご報告にもありましたが、坂本さんは当初、歴史文書の修復ということでインドネシアに行かれましたが、インドネシア政府の側の優先度は行政文書に置かれており、行政文書に関する支援要請をまず日本政府に行ったことから、そちらの活動に専念されることになりました。
インドネシア政府の要請ということから、これはある意味で当然のことでしたが、文化財に関しては宙に浮いた形になってしまいました。全体的な復興支援のスケジュールが明示され、文化財に関しても、もう少し早く動き出せる状況をつくり出すことが必要ではないかと思います。先ほど市民レベルでどういうことができるかというお話がありましたが、一般の方々の文化財への関心を高めていくことが必要ではないかと思います。われわれも10月2日にアチェの文字文化財復興に関するシンポジウムをやりましたが、一般の人たちの関心を高めるのはなかなか難しいことを痛感しました。
それから第3番目の問題点としては、状況の把握ということがあります。被災状況の把握は当然必要ですが、それとは別の状況把握として、先ほど申し上げましたように、元々どこにどのような文書があり、その重要性はどうか、という状況の把握が必要です。図書館の場合には、こういうことはそれほど問題になりません。しかし、図書館関係の方々は心外に思うかもしれませんが、図書館に所蔵されているものがすべてではありません。その他に貴重な文書がずいぶんあります。日本の場合にはすでにそういうものにも調査の手がかなり行きわたっていますが、アジア各地の場合にはそうではない。広い意味での文化支援、それから社会の復興を考えると、被災する前に歴史文書・文書遺産に関する調査活動をすることが、どこに何があって、その保存状態はどういうものかということを把握していれば、防災対策を施すことも可能になります。これを図書館という枠組みでやることなのか、あるいはもう少し広い枠組みでやることなのかということはまた別の議論ですが、文書全体ということになると、もう少し広いプラットフォームで考えていかなければいけません。
そういうことで諸問題から浮かび上がってくる課題は、第一に、現状の調査が必要であるということ。第二は、図書館が必ずしも制度化されていない、制度として十全ではない地域においても、歴史的な文書を修復保存して文化復興なり社会の支援に役立てていくことを考えますと、公的な図書館という制度自体からつくっていかないといけないことになります。そのためには計画的、継続的な支援が必要になってきます。図書館という制度の導入ということになると、図書館関係者の方々に非常にすぐれたものをつくっていただけるのではないかと期待しています。
それから第三番目の課題は、現地との折衝、コミュニケーション、それから関係各機関の調整です。日本側においては、先ほど那須アジア地域センター長が触れられた文化財をめぐるネットワークが省庁を超えたかたちででき上がりつつありますので、これには大きな期待が寄せられます。現地の、たとえばインドネシアあるいはスリランカの中でのコーディネションは先方に任せるしかありませんが、それを仕切っていく、連絡をしていく専門家、言葉のできる専門家、現地に詳しい専門家という存在がクローズアップされるのではないかと思います。手前味噌になりますが、東京外国語大学がアチェに関してそれができたのは、やはりインドネシア語のできるスタッフが何人もいるということがあります。東京外大では、これとは別にアフガニスタンでも文書の復興支援をやっていますが、これもペルシャ語、ダリー語ができる人材が豊富だからできることです。できれば、現地語ができ、現地の事情に詳しい人材を、様々な活動において活用していただければという希望もわれわれは持っています。
それからこれはセミナーの主題から外れてしまいますが、変な言い方ですが、災害のポジティブな面に注目することも重要です。今日のダディ館長が示された惨状の写真には非常にショックを受けられた方も多いかと思います。私自身も現地に行きまして非常なショックを受けました。しかし、今回の災害で、とりわけアチェにとってなにがしかでも得るものがあったとすれば。それはアチェが外に開かれたことです。先ほど申し上げましたように、政府と地方の関係が非常に険悪だったという状況があり、災害以前には外国の機関、個人があまり自由には入れませんでした。しかし、この災害を契機に海外の復興支援の団体が入ってくる、政府機関が入ってくるということで、アチェの地方が世界に開かれた存在になってくる。それと並行してアチェの反政府勢力と、それからインドネシア政府との間のピーストークも進みつつあります。被災文化財の復興に関しても、単にもともとあったものを元に戻すというばかりではなく、それについての調査・研究も進め、文化遺産としての意味をさらに高めていくことにより、文化の復興を超えた国際貢献、社会貢献にもなるのではないかと思っています。
【小林】 どうもありがとうございました。東京外国語大学の理事で、同学アチェ文化財復興支援室長の宮崎恒二さんからコメントをいただきました。もうひとつ発表があったような充実した内容でお話しいただけて本当にありがたかったと思います。
今回の公開セミナーは図書館の資料と限ったものではなく、「文書遺産の」被災と復興支援ということでしたので、いま宮崎さんがお話ししてくださったようなことも今日のテーマにピッタリのお話であったと思います。ではここで、図書館でもなく、研究者でもない、公文書館の世界からちょっとお話をいただけたらと思います。国立公文書館から何人かいらっしゃっていただいていますが、その中でどなたか、この問題に関してどんなふうに取り組まれたか、お話しいただけますでしょうか。
【大賀】 国立公文書館の大賀と申します。今日は国会図書館のスマトラ地震・津波による文書遺産の被災と復興支援ということで、ぜひ聞きたいと思いまして参加させていただきました。
きちんとした資料を今日は準備してきませんでしたので、もしかすると日付等に間違いがあるかとは思いますが。先ほどIFLAの関係で那須アジア地域センター長のほうからご紹介がありましたが、国際公文書館会議(ICA)という国際組織があります。津波が起こりましたときに、IFLAとICAの会長の連名でユネスコ等に宛てて、支援についてのレターが出されております。そのレターに関しては国立公文書館のホームページのほうにもかなり早い時期に―ちょっと日付をきちんと覚えていなくて恐縮ですが―紹介させていただいております。
そのあと、日本アーカイブズ学会のほうで4月にインドネシアの公文書館長の方をお招きしてセミナーを行った折に、当館においでいただきました。その際、当館で春の展示会を行っており、せっかくの機会ということで、来館者の方にも呼びかけて募金をさせていただきました。先ほど一市民の立場で何ができるかというお話もありましたが、たとえば図書のお話で「英語の本よりも現地語の本がほしい。そのためにはそれなりの財源が必要だ。」というお話もありました。特に日本の場合、日本語の本といってもなかなか直接的な、物理的な支援としては難しいわけです。そういうお話を聞いて、多少なりとも財源という点でお役に立てたのでは、とも思いました。
そのほか、先ほどお話のありました資料保存懇話会で博物館の方々とか東京芸術大学の先生と一緒に参加させていただき、垣根を越えて何ができるのかということを、いま模索している途中です。
最後にもう1点紹介させていただきますと、先ほど東京外語大学のアチェ担当の先生から発言がありましたが、最後にアフガニスタンのお話がありました。アフガニスタンにつきましては、今年の2月に外語大で関係者をお呼びになってセミナーをされました。それを引き継ぐかたちで外語大の方から修復についての研修をやっていただけないかという申し出があり、どのような協力ができるかという検討をいま始めているところです。
われわれは国会図書館とは桁が違い、40数人の組織です。こちらのほうから思い切ったことをなかなかできないこともありますが、最近いろいろな方とネットワークがつながりまして、お申し出を受けてこちらが多少とも準備できる部分、修復の研修なら修復の研修、あるいは見学なら見学、と対応しています。
公文書館は博物館、図書館に比べてあまり知名度もありませんので、そういう組織があること、そこが何をやっているかを理解していただければ、今回のような機会においても多少なりの援助ができます。援助というのは大変高い立場から言うおこがましい表現だとは思いますが、多少なりともご協力ができるのではないかと思って少しずつ始めさせていただいているところです。まとまりのない話で恐縮でございます。
【小林】 ありがとうございました。国立公文書館の大賀妙子さんからコメントをいただきました。それではバーラモフさんのほうからお手が挙がっていたようですが、どうぞ。
【バーラモフ】 いまお二人の方から、市民はどのような援助ができるか、そしてまたどのようなサポートができるかというお話がありました。この点に関係するのが、IFLAの復興開発のパートナーシップのプログラムです。災害が起こると多くの方々が参加したい、募金をしたいと希望なさります。ただ、普通はユネスコあるいは赤十字などに募金なさり、そのお金は文書館、図書館にはなかなか回りにくいわけです。でも、IFLA、ICAには専門家がいて、被災国から挙がってくる復興プロジェクトの申請を評価し、「これはいいプロジェクトだからお金をつけよう。」と言うことができます。
そして2番目に重要なのは、どうやって募金を受け取るか、です。たとえばIFLAに10ドル、20ドル送っていただいても、IFLAやICAの本部ではそうした小額のお金をきちんと管理するようなスタッフがおりません。そこで、私たちは国内のIFLA基金を基にしたIFLAの復興開発パートナーシップのプログラムを提唱しているわけです。
とにかくわれわれは、効率的な援助をしたいということで頑張っているわけですが、なかなか難しいです。とにかくコミュニケーションが必要です。使節団を次々に送る必要はありません。被災者のところに調査団が次々にやって来て「何が起きましたか」と問う、でもそのあと被災側には何も起こらない―そんな場面をみるのはつらいことです。これは被災者の求めていることではない。まず何が必要かということをはっきり言ってもらい、それをサポートする方法を見つけるというふうに順序だてて行っていくしかないと思います。いかがでしょうか。
【アマラシリ】 少し付け加えたいと思います。もちろんIFLAとして何かを組織することは良いことだと思います。プログラムをつくって支援をするということですが、直接インドネシアやスリランカにお金を送ることは非常に歓迎したいと思います。私のプレゼンテーションの中でも言いましたが、この1年間に国立図書館レベルにおいて、自分たちの基金を用意しました。ですからどれだけの寄付であっても歓迎でありまして、たとえば10ドルであっても、500ドルであっても、だれが寄付してくださったのか、それをどういうふうにして使うのか、についてウェブサイトで紹介します。そして、説明責任の一環としてどのようなプロジェクトがあるか―たとえばこれこれの図書館の備品を用意するために5,000ドルかかる。5,000ドルを使ってどこそこの図書館に図書を購入するということを、逐一説明しています。したがってスリランカにもインドネシアにも、そういうかたちで送っていただけます。直接送らなくてもどこかほかの組織を通じて送ることも結構だと思います。たとえばそれが5ドルであっても歓迎したいと思います。
【ラフマナンタ】 アチェに対しての援助ですが、実際に津波の数週間後にEメールがIFLA、ユネスコ、それからアメリカの図書館協会から来ました。そしてアチェの図書館を救うために何ができますかと言っていただきました。そしてわれわれは図書を送ってくださいとお願いしました。当時は図書が重要だったわけです。図書館の書架から図書がなくなってしまったからです。建物はなんとかできますが、災害で失われた図書を補充するのは、われわれには難しいことでした。オーストラリア国立図書館がまず最初に援助を送ってくれました。フラートン館長、本当にありがとうございます。
ほかにも国際機関等から「アチェの図書館を助けるために何を援助しましょうか。」と聞かれたので、私は「本を送ってください。」とお願いしました。しかし、約束はいただいておりますが、まだ何も受け取っておりません。
シンガポールとマレーシアの国立図書館は、それぞれの国の図書館協会を通じて図書を送ってくださいました。私は2週間前にシンガポール国立図書館の新館開館記念式に出席したのですが、そこで、私どもの図書館にアチェのための図書を寄贈してくださる特別の式典をしてくださいました。彼らは本当に図書を寄贈してくださり、われわれはいただいた図書をジャカルタに持って帰りました。後日アチェに送る予定です。これこそが援助だと思います。ありがとうございます。
会場のどなたでも、図書を送っていただける方がありましたら、ぜひそれを歓迎したいと思います。
【小林】 いろいろな種類の援助の仕方がいまお話に出てきましたが、「これでなくてはいけない」というかたちではなく、新しい提案、それからいまあるものを活用して、さまざまなレベルで支援が続けばということだと思います。
ほかにございますか。
【小泉】 立教大学図書館の小泉徹と申します。那須さんのお話の中で、日中韓で資料保存会議が始まったということで大変結構なことだと思います。距離的に近い3カ国で、資料保存のどういったことが共通なのか、ないしは違いがあるのか、資料保存の課題がそれぞれ違っているのか、共通したものがあるのか。まだ始まったばかりだと思いますが、そのへんの情報が何かありましたら教えていただければと思います。
【那須】 私のほうから中国国家図書館と韓国国立中央図書館に対しまして、「日中韓の協力をどういうふうに思うか」「その内容についてはどんなことをお考えか」という質問をすでにお出ししました。いただいた回答によりますと、協力の重要性については三者ともよく認識しているが、どういう共通の問題があるのかということに関しては、これから話していこうという段階にあるかと思います。
中国からは、紙の資料についてはそれぞれ3カ国が伝統的な紙を培ってきたわけですので、そのへんのことについて共通の課題があるのではないかとのご意見がありました。それぞれの国に固有の保存のあり方があり、環境等類似しているところもありますので、学ぶこと、協力していけることがあるのではないかと考えています。明日開かれるPACアジアセンター長等会議で、三者でその協力について話し合う予定です。
【井坂】 ありがとうございました。それでは時間になりましたので、これで質疑応答を終わらせていただきます。
那須 雅熙
本日は、お忙しい中、各方面から多くの方々にご参加をいただき、そして、長時間にわたりご聴講をいただきまして、誠にありがとうございました。また、講師の方々には、遠路はるばるお出でいただき、貴重なご講演、ご報告を賜りましたことを厚く御礼申し上げます。
世界では、一度にかけがえのない大量の文書遺産を消失させる、戦禍や地震、洪水が続いています。本日のテーマとしましたスマトラ沖大地震・津波に前後して、ワイマールのアンナ・アマリア公爵夫人図書館の大火、ハワイ大学ハミルトン図書館の水害、中越地震、ハリケーン「カトリーナ」、パキスタン大地震とそれこそ枚挙にいとまがないほどです。
災害はいつ何時やってくるかもしれません。危機に備えるために、私たちは災害予防に関する知識をもち、災害にすぐに対処できる方法を会得しなくてはならないでしょう。しかし災害は、のほほんとした日常生活からリアリティーをもってイメージすることは困難です。不幸にも災害に遭遇した図書館や文書館に対して、想像力を働かして共感の念を持たない限り、なかなかその怖さや実態を知ることはできないのです。言い換えれば、被災した図書館や文書館の復興を支援し、困難な復興のプロセスを共にしてこそ、私たちが災害に対してどのように対処したらよいかということを学べるのだろうと思われます。
保存関係の方々のところでは、現在、何時来てもおかしくはないと言われる大規模地震への対応が、喫緊の課題となっていることと存じます。本日の講演をそのための参考にしていただくとともに、日頃あまり文書遺産の保存というようなことにご関心が無かった方々には、「失われた記憶」、「失われようとしている記憶」の重大さを知っていただけたかと存じます。そして、これを機にスマトラ沖地震・津波の被災の復興支援の輪が広がりますことを心から祈念するものでございます。
アジア地域センターは、IFLA/PACの掲げるプログラムに基づいて、今後も防災活動を中心の活動に据え、それだけでなくさまざまな資料保存の問題に取り組んでいく考えでおります。どうぞ今後とも、アジア地域センターの活動につきましてご支援、ご協力を賜りますよう重ねてお願いし、閉会の挨拶に代えさせていただきます。
国際図書館連盟(IFLA: International Federation of Library Associations and Institutions)は、世界各国の図書館協会、図書館、関連機関を会員とする団体。約150か国、1,700以上の協会・図書館等が加盟している。日本からは、8団体・8機関が加盟。創立は1927年、本部はオランダ・ハーグ。
資料保存コア活動(IFLA/PAC: IFLA Core Activity on Preservation and Conservation)は、1986年、IFLAにおいて、図書館資料の保存に向けた世界的な協力に取組むことを目的に発足。ユネスコなど文化財保存に関する国際機関と連携し、幅広い活動を展開している。国際センターを核に、世界各地におかれた12の地域センターが活動している。
国立国会図書館は、1989年より、国際図書館連盟(IFLA)のコア活動のひとつである資料保存コア活動(IFLA/PAC)のアジア地域センターに指定されている。アジア地域における保存協力活動の推進と、アジアにおける保存協力事業に係る国内の関係団体との連携を目的に活動している。これまでの主な活動は、海外からの研修生受入、アジア地域への講師派遣、国際シンポジウムの開催、中性紙普及活動など。
ブルーシールド国際委員会(ICBS: International Committee of the Blue Shield)は、「武力紛争の際の文化財保護のための条約(1954年ハーグ条約)」(日本は批准・国内法整備を予定)の趣旨を受け、世界の文化遺産を災害から保護することを目的に1996年創設された。メンバーは、IFLA、国際文書館評議会(ICA)、国際博物館会議(ICOM)、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)。
IFLA-RDP:IFLA Relief and Development Partnership。スマトラ沖地震・津波による大規模な被災を契機に、2005年3月IFLA運営理事会で承認された。図書館界として地球規模の災害に備え、被災した図書館・情報機関の復興・再建を迅速に支援するための枠組み作りの必要性を指摘。既存のIFLAの組織(特にALP*とPAC)を活用し、国レベルで必要なまとまった資金を提供できるように基金設立等を提案。
* ALP: IFLAのコア活動のひとつ。第三世界における図書館振興。
リンク
[1] https://current.ndl.go.jp/../files/series/no39/lss39.pdf
[2] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/4
[3] http://www.ifla.org/IV/ifla70/papers/142e_trans-Varlamoff_Plassard.pdf
[4] http://current.ndl.go.jp/files/series/no39/sakamoto-html1.jpg
[5] http://current.ndl.go.jp/files/series/no39/sakamoto-html2.jpg