調査研究図書館としての機能を特に重視するナショナル・ライブラリーにとって,選書を含めた資料の収集業務はその運営の根幹をなすとの考えから,英国図書館(BL)では外部の識者を混じえたチームを編成して,現行の収集業務の点検を行うとともに,今後のあるべき姿を明確にする作業を進めていたが,昨1989年にそのまとめを公刊した。このレビューは直訳すれば,“生き残りのための選択”(Selection for Survival)という,英国にしては大仰な標題付きのものである。これは先に1985年に公けにした「資料収集戦略」を引き継ぎ,1987年にまとめていた収集方針を重ねて見直しした結果でもある。
いかなる資料が現在及び将来のBL利用者の利用要求に応えうるものとなろうか。収集に当っての選択はもちろん単純には行えないが,このレビューはきびしい選書・収集の方針と,その実施のための体制を,従来にもましてより鮮明なものにする必要があるとの認識に立って作成したといわれる。
レビューは13章の本文と4つの附録とから構成されるA4判,104ページのもので,その大部分は現行業務の再点検,摘出した問題点,そして勧告から成立っている。既報(CA622 [1])のように,BLは英国出版物の網羅的収集という方針を放棄するのではないかと噂されてきたが,本レビューは放棄することを勧告している。
取扱われた事項のうち,主なものは,○資料収集と保管の役割・意義(レビューの中心テーマ),○現行の資料収集と保管方針における優先順位,長期保存対象資料の選別等についての方針,○納本制度,○資料の廃棄,○資料収集についての外部利用者の意見の聴取,○資料収集の問題点について,事例研究:EC資料,日本語資料(外国語資料のサンプルとして),科学技術資料,○デスクトップ・パブリッシング(DTP等)新しい技術の応用によって生産されるものへの対応,○資料の選択から保管管理までのコスト計算(Life cycle costing),等である。
以上の業務分析結果に基づく勧告の主なものを適宜整理すると次のとおりである。
これらの勧告から,BLはこれまでの資料収集と保管の方針を継承することは,期待されている調査研究図書館としての機能の発揮を阻むとの認識をもつに至っていることがよみとれよう。このレビューは各国のナショナル・ライブラリーに対して,その“経営”のありかたに何らかのヒントを与えることになるかも知れない。あるいはまた,資料の収集,保管及び貸出の分担を,国をこえて(例えばEC域内で)計画,実施することの意義が強調されるきっかけになるかも知れない。
高橋 弘
Ref. Enright, B., et al. Selection for Survival: A Review of Acquisition and Retention Policies. BL 1989 104p. £12.00
リンク
[1] http://current.ndl.go.jp/ca622
[2] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/1
[3] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/123
[4] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/34
[5] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/135