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E2234 - 「データ引用原則の共同宣言」:データ引用を学術界の慣習に

カレントアウェアネス-E

No.386 2020.02.27

 

 E2234

「データ引用原則の共同宣言」:データ引用を学術界の慣習に

文教大学文学部・池内有為(いけうちうい)
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社・野村紀匡(のむらのりまさ)
名古屋大学宇宙地球環境研究所・能勢正仁(のせまさひと)

 

 2020年1月,筆者らが所属する研究データ利活用協議会(Research Data Utilization Forum:RDUF;E1831 [1]参照)のリサーチデータサイテーション小委員会は,国際組織FORCE11(The Future of Research Communications and e-Scholarship)による「データ引用原則の共同宣言(Joint Declaration of Data Citation Principles:JDDCP)」の日本語訳を公開した。FORCE11は研究データの流通や利活用を推進する活動を行っており,2014年に公開された「FAIR原則」はデータ公開の指針として広く採用されている(E2052 [2]参照)。本稿で紹介するJDDCPは2014年に公開され,2020年2月1日現在,研究者などの個人280人,出版社,学協会,データセンターなど120機関が賛同している。以下では,データ引用の重要性と現状について述べた上で,JDDCPの概要と学術情報に関わるステークホルダーの取り組みを紹介したい。

 そもそも,なぜデータ引用は重要なのだろうか。論文などの出版物にその根拠となるデータの引用情報が掲載されていれば,読者は容易に元データにアクセスして再利用したり結果を検証したりすることが可能となるため,利活用の促進が期待できる。データの公開者にとっては,公開したデータが引用されることによって自身の研究の先進性や新たな研究への貢献を示すことができ,将来的には評価や研究資金の獲得につながる可能性もある。逆に労力をかけて公開したデータを引用せずに利用されてしまうならば,研究者にとってデータ公開のメリットはほとんどなくなってしまう。実際に,筆者(池内)らが行った日本の研究者を対象とした質問紙調査によれば,研究者がデータ公開に対して最も懸念を感じていたのは「データを引用せずに利用される可能性」であった。一方,研究者がデータ公開のインセンティブとして最も重視していたのは,「データに紐付いた論文の引用」,次いで「データの引用」であった。

 公開された研究データを再利用する際に,論文と同様に引用することによってデータへのアクセスを容易にし,利活用を促進し,公開者への評価やインセンティブを確立することが可能となる。しかし,現状ではデータ引用は十分に行われているとは言い難く,その記述も本文や謝辞に書かれている場合があるなどまちまちであるため,論文の被引用数と同様の方法で機械的に収集することが難しい。リサーチデータサイテーション小委員会は,2019年4月から5月にかけてインパクトファクターが高い原著論文誌のデータ公開ポリシーを調査した。対象は,自然科学及び社会科学の22分野各10誌,合計220誌であったが,データの引用ポリシーを掲げていた雑誌は121誌(55%)にとどまった。

 JDDCPはデータ引用の目的や効用,実践上の注意を示すことによって,こうした状況の改善に資するものである。具体的には,データ引用の(1)重要性,(2)クレジットと帰属,(3)エビデンス,(4)識別,(5)アクセス,(6)永続性,(7)特定性と検証可能性,(8)相互運用性と柔軟性の8項目について記述している。たとえば(4)では「データを引用する際は,機械が使用でき,グローバルに一意で,かつ学術コミュニティで広く用いられている永続的な識別方法を記述すべきである」としている。これを実現するためには,データ引用の際にDOIを用いることが望ましい。したがって,学術機関等のリポジトリがデータを公開する際には,DOIを付与することが重要となる(学術機関等がDOIを取得して公開データに付与するための方法については,E2233 [3]をご参照いただきたい)。

 リサーチデータサイテーション小委員会がJDDCPの翻訳を公開したねらいは,大学,図書館,学協会,出版社といった研究に関わるステークホルダーがデータ引用に関心をもち,啓発や普及に取り組む際に活用してもらうことにある。たとえば,2019年に地球科学分野の研究者コミュニティである地球科学情報パートナー連盟(Federation of Earth Science Information Partners:ESIP)は,JDDCPを踏まえたデータ引用に関するガイドライン(Data Citation Guidelines for Earth Science Data)を公開した。このように,ガイドラインを策定する際にJDDCPを参照することによって,データ引用について押さえておくべき事柄を確認することができ,国際的な取り組みであることを示すこともできるだろう。なお,前述のデータの引用ポリシーを掲げる雑誌121誌のうち,JDDCPに直接言及していたのは58誌(48%)であった。JDDCPの日本語訳が多くの人の目に触れることによって,データ引用が学術界の慣習となることを後押しできればと願っている。また,今回公開した日本語訳は,FORCE11によるJDDCPからもリンクでたどれるようになっている。この日本語訳を契機として多くの言語に翻訳され,よりグローバルな取り組みになることを期待している。

Ref:
https://japanlinkcenter.org/rduf/about/index.html#s004_0 [4]
https://doi.org/10.25490/a97f-egyk [5]
https://doi.org/10.11502/rduf_rdc_jddcp_ja [6]
https://doi.org/10.18919/jkg.68.9_467 [7]
https://doi.org/10.5281/zenodo.3666307 [8]
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.10025330 [9]
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.8441816 [10]
E1831 [1]
E2052 [2]
E2233 [3]

  • 参照(4918)
カレントアウェアネス-E [11]
研究データ [12]
学術情報流通 [13]
日本 [14]

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Source URL: https://current.ndl.go.jp/e2234

リンク
[1] https://current.ndl.go.jp/e1831
[2] https://current.ndl.go.jp/e2052
[3] https://current.ndl.go.jp/e2233
[4] https://japanlinkcenter.org/rduf/about/index.html#s004_0
[5] https://doi.org/10.25490/a97f-egyk
[6] https://doi.org/10.11502/rduf_rdc_jddcp_ja
[7] https://doi.org/10.18919/jkg.68.9_467
[8] https://doi.org/10.5281/zenodo.3666307
[9] https://doi.org/10.6084/m9.figshare.10025330
[10] https://doi.org/10.6084/m9.figshare.8441816
[11] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[12] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/797
[13] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/183
[14] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29