長崎県教育庁生涯学習課新県立図書館整備室・吉田和弘(よしだかずひろ)
長崎県立長崎図書館/ミライon図書館・渡邉斉志(わたなべただし)
ミライon図書館は,「長崎県立長崎図書館」と「大村市立図書館」を施設区分や蔵書区分無く,県と市が共同で運営する一体型の図書館として,2019年10月5日,長崎県大村市に開館した。以下,両館が一体型の図書館となった経緯について述べる。
長崎県立長崎図書館は,1912年6月1日に創立,2012年には100周年を迎えた。ミライon図書館以前の建物(以下「旧建物」)は,官公庁やオフィスビルが立ち並ぶ長崎市中心部の一角にあり,長崎の伝統行事「長崎くんち」のメイン会場である諏訪神社にほど近い森に囲まれた閑静な場所に1960年に建設され,多くの県民に利用されてきた。
一方,大村市立図書館は,「私立大村図書館」を前身として1947年10月に創立,旧建物は1973年に建設され,JR大村駅から徒歩数分の場所であったことから,こちらも多くの市民に利用された。
その後,時の経過とともに両館の建物は老朽化が進み,耐震性も満たしていなかった。また,少子高齢化,グローバル化及び情報化が進む中において,図書館に求められる役割は多様化,専門化し,狭隘な施設では対応が困難となっていた状況や社会情勢の大きな変化を受け,将来にわたり長崎県民及び大村市民を支える知の拠点となる図書館を整備することが重要な課題となっていた。
このような中,長崎県教育委員会では,「長崎県立図書館在り方懇話会」(2006年6月から2007年3月)及び「長崎県立図書館再整備検討会議」(2010年2月から2011年3月)からの答申を受け,2013年3月に「長崎県の知の拠点として県民を支える図書館」を基本理念とする「新県立図書館整備基本方針」を策定し,県立図書館郷土資料センター(仮称)を長崎市に,当時建替え予定であった大村市立図書館との合築による図書館を大村市に建設することを決定した。なお,県立図書館郷土資料センター(仮称)は,2021年度中に開館予定である。
また,大村市教育委員会では,大村市立図書館に期待される役割を果たしていくために必要な機能及びサービス並びに施設の規模などについて,「新大村市立図書館整備検討懇話会」(2013年8月から9月)及び市内の図書ボランティア並びに高校生との意見交換会「大村市立図書館フォーラム」(2013年8月から9月)などの意見を踏まえた,「未来へつながる出逢いの広場」を基本理念とする「新大村市立図書館整備基本方針」を2013年9月に策定した。
これらの基本方針を基に,両教育委員会は,新たに整備する県立・大村市立一体型図書館及び県立図書館郷土資料センター(仮称)が期待される役割を果たしていくための基本的方向性,サービスや運営の考え方,建物の規模及び機能構成等を示す「「県立・大村市立一体型図書館及び郷土資料センター」(仮称)整備基本計画」を2014年7月に策定した。その後同計画に沿って長崎県及び大村市が整備を進め,今日に至る。
ミライon図書館は,「長崎県立長崎図書館」と「大村市立図書館」の一体型図書館の愛称として現在広く使われている。「ミライon」の名前の由来は「未来」と「ON」の単語を足し合わせた造語で,現在と過去について多く知ることで,未来の自分のためのスイッチをONにできる場所になってほしいという思いがこめられている。
延床面積は施設全体で約1万3,300平方メートル(うち1階に併設された大村市歴史資料館を除いた図書館部分は約1万1,700平方メートル),収蔵能力202万冊となり,県立長崎図書館の旧館と比較すると延床面積は約2.3倍,収蔵能力は約3倍となり,ともに大幅に増加した。
施設の大きな特徴は,1階から4階まで一部が吹き抜け空間となっており,訪れた利用者のための視認性が確保され,建物の構造を把握しやすくなっているため,目的の場所を容易に認識できることである。
1階は,開架4万冊の児童書を有する「こどもしつ」をはじめ,収容人数200人の「多目的ホール」,また大村市歴史資料館やカフェがあり,これらの場所は人々が行き交う空間となっている。2階は,学習スペースやグループ学習室,研修室,カウンター席等を設け,利用者の多様なニーズに応じた造りとなっている。3階は,本施設のメインとなる空間で,一般資料を21万冊開架し,新聞閲覧コーナーや予約本コーナー,対面朗読室を整備した。4階は,資料閲覧スペースで閲覧席は116席整備し,静かな環境で読書や研究を行うことができる空間となっている。この他,館内にFree Wi-Fiやコンセントを整備するとともに,閲覧スペース内のどこでもインターネットで調べることができるようにタブレット端末の貸出を行うなど,パソコン等での調査・研究も可能となっている。
ミライon図書館では,整備基本計画に基づいた業務分担により県と市がそれぞれの役割をもって業務にあたっている。県と市の図書館が一つになることの効果としては,管理・運営の効率化や経費削減もあるが,それ以上に,県市それぞれの職員が互いの役割を理解できるようにする点を挙げることができるだろう。例えば,県の職員は,市の職員と市民の距離感の近さから来る様々なノウハウ(ボランティアや各種市民団体との関わり方等)を日常的に得ることができ,それを県内の市町立図書館に対する協力業務に生かすことができるようになる。一方,市の職員は,大規模な蔵書の管理手法や探索スキル,市外の多様な機関との連携等から多くの気づきを得ると同時に,図書館の役割を広域的に捉える経験を通じて新たな視座を獲得することができる。こうした効果は,「広域自治体の視点」と「基礎自治体の視点」の両方の視点を持った職員の育成に繋がるため,中長期的に見れば図書館運営に大きな成果をもたらすはずである。
様々な視点を持った職員が一体となることで,職員の成長が促進され,図書館の潜在的な需要を掘り起こすとともに,図書館が保有する蔵書や情報が地域住民に一層活用されるようになることが期待される。
Ref:
https://miraionlibrary.jp/library/about/ [1]
https://miraionlibrary.jp/library/facility/ [2]
田原市中央図書館・河合美奈子(かわいみなこ)
田原市図書館(愛知県)では,2012年4月に「行政支援サービス」を始めた。2015年度にはこのサービスの枠組みを生かして議会支援を始め,2017年度,「行政・議会支援サービス」に名称を改めた。本稿では,実施に至るまでの経緯や現在の取組を紹介する。
2011年度,それまで行っていた地域に関する新聞記事をまとめて市役所に配布する「新聞記事速報」のサービスを,作業量や著作権の問題を理由に廃止した。その代替策として,2012年度,田原市に関する新聞記事の見出しを検索・閲覧できる「田原市新聞記事見出しデータベース」の運用を開始した。地方紙を含む5紙の収録に当たっては,新聞社から許諾を得ている。記事のチェックや見出しのデータ入力等,全ての作業を図書館で行っている。このデータベースに加え,何か図書館資源の利活用につながる新しいサービスを市役所職員向けに提供したいと考え,レファレンスや貸出など,既にあった図書館の手法をいくつか組み合わせた「行政支援サービス」が生まれた。
始めた当初は図書館の姿勢も受け身で,依頼数は少なかった。これではいけないと,改めて図書館の全職員向けにサービス内容と受付方法を周知するための説明会を開き,積極的なPRをスタートした。行政職員への地道な声かけや,利用する立場からの声を,申込書の簡素化やサービスの廃止・追加といった改善につなげる取組が功を奏し,徐々に依頼が増え始めた。2014年度と2018年度の統計を比較すると,全体の依頼件数は4倍に増加している。
「行政・議会支援サービス」では,「レファレンス(調査の援助)」,「資料の複写」,「資料の貸出」,「政策・イベントのPR展示」,「学校教育支援(調査の援助)」の5種類のサービスを展開している。対象は行政職員,議会事務局職員,議員,市内の小中学校教員,学校司書と幅広く,行政・議会・学校の3つの柱で成り立っている。申し込みには「申込書」の提出が必要で,サービス別に4種類の様式に分かれている。主に,参考郷土チームの5人が担当する。
レファレンスでは,企画立案など業務に関する調査の援助を行う。具体的には,郷土の歴史や新聞記事,先進事例,議会視察先の情報に関する依頼が多い。依頼内容によってはチーム全員で調査にあたるが,調査中や調査済みの資料・テーマを回答様式1枚で共有するなど,効率よく進める工夫をしている。展示では,市の事業やイベント,パブリックコメントの意見募集のPRに関する依頼が多い。写真やパネル,関連グッズなどを担当部署から借り受け,資料と一緒に並べるなど見せ方を工夫している。
2014年12月,議会事務局職員より「議会図書室を使ってもらえるように変えたい」という相談を受けたことをきっかけに,議会との連携が始まった。2015年度から,「資料の貸出」,「レファレンス」,「展示」と,毎年一つずつサービスを拡大していった。議会の特性を踏まえ,現在は,選書の参考に図書館の新刊案内や出版社目録を提供するなど「議会図書室の整備への協力」や「定例会にあわせた団体貸出」を,議会独自の支援として行っている。2019年8月には,議員,議会事務局,図書館の連携イベントとして,図書館を会場に,市民と議員が田原市のさまざまな課題について自由に意見を交換する「図書館で議員と語ろうホリデー」を開催した。
2018年度には,学校からの調査依頼に対応する仕組みが十分でないことがわかり,「学校教育支援(調査の援助)」のサービスを追加した。ここではレファレンスのみを行い,郷土に関する調査,新聞記事検索,授業テーマに関する調査の依頼などに対応している。複写物を含む回答や参考資料は,図書館以外に学校,移動図書館,学校司書経由でも受け取ることができる。
2019年11月,第5回図書館レファレンス大賞で文部科学大臣賞を受賞し,当館の「行政・議会支援サービス」や「レファレンスサービス」を多くの人が知る機会となった。しかし,まだこのサービスが全ての対象者に知られ,活用されているわけではなく,今後も効果的なPRを行っていきたい。また,「資料が役に立った」,「展示のおかげでイベントにたくさんの人が集まった」と声をかけられたり,繰り返し依頼してくれる利用者が増えたりと,この取組により図書館とサービス対象先との新たなつながりができている。行政・議会・学校は図書館事業の大切な協力者であり,今後も信頼できる関係性を継続して築いていきたい。
このサービスは,図書館や住民にとって,地域の課題や話題を身近なものにしてくれる。行政・議会の場で質の高い議論が行われ,住民がまちの課題と向き合い考えるきっかけになり,学校で子どもがふるさとの魅力的な資源を生かしたまちの将来を思い描くようになることは,地域の課題解決の促進にもつながるのではないかと考える。利用者のニーズに対応しながら,このサービスを継続していくことで元気なまちづくりを支えていきたい。
Ref:
https://www.libraryfair.jp/news/9513 [9]
http://www2.city.tahara.aichi.jp/section/library/newspaperDB.html [10]
http://www2.city.tahara.aichi.jp/gikai/douzo/4/pdf/73/gikai73_Part17.pdf [11]
名古屋大学宇宙地球環境研究所・能勢正仁(のせまさひと)
東京大学大学院人文社会系研究科・大向一輝(おおむかいいっき)
国立環境研究所環境情報部・尾鷲瑞穂(おわしみずほ)
東京学芸大学附属図書館・高橋菜奈子(たかはしななこ)
情報通信研究機構戦略的プログラムオフィス・村山泰啓(むらやまやすひろ)
研究データ利活用協議会(Research Data Utilization Forum:RDUF;E1831 [15]参照)は,オープンサイエンスにおける研究データ整備やその保存といった利活用体制の実現に向け,分野を超えて研究データに関するコミュニティの議論・知識共有・コンセンサス形成などを行う場として,2016年6月に設立された研究会である。RDUFでは,特定のテーマについて小委員会を設置し,研究データの利活用を図るためのガイドライン・ノウハウ集・事例集・提言のとりまとめ等,研究データに関わりのあるステークホルダーが,ボトムアップ的な活動を行ってきた。
「研究データの利活用の推進においては,データ公開者のインセンティブの確保が重要である」との認識から,リサーチデータサイテーション(Research Data Citation)小委員会が2019年1月に設置され,約1年間,データ引用・被引用を促進する方策の議論を行ってきた。小委員会の主な成果物としては,FORCE11が発表した“Joint Declaration of Data Citation Principles”(JDDCP)の邦訳,22学術分野にわたる学術雑誌のデータポリシー調査,研究データにDOIを付与する手順を説明したリーフレット製作が挙げられる。前2つの成果物の詳細な説明は他の機会(JDDCPの邦訳は,E2234 [16]参照)に譲り,ここでは,リーフレットについて説明する。
まず,研究活動から生産される研究データは,研究者コミュニティでは研究者が「所有」していると捉えられることが多いため,リーフレット製作においてもデータ「所有者」となる研究者の立場から検討を行った。FAIRデータ原則(E2052 [17]参照)をはじめ,データ引用・被引用において,データへの永続的識別子DOIの付与が重視される趨勢については,以前から議論されている(E1537 [18],CA1849 [19]参照)。しかしこれを実践するにあたり,「DOIを付与するための手続きや相談先が分からない」「実際にDOIを付与する際に要する手間や費用を知りたい」という声が研究者から上がってきた。研究者はその分野の研究やデータそのものについては詳しいが,データのマネジメントやデータ引用・被引用などの近年の潮流に関しては疎いことが少なくない。そこで,研究者がDOIを付与する際の参考となるよう,DOIの働きや仕組み・準備するもの・具体的な手続きなどの情報を盛り込んだリーフレットを製作することにした。リーフレットはA4サイズ・巻き3つ折りで,一目で伝わる形態にした。
外面では,研究者自身やその所属機関にとってのメリットを解説し,DOI付与のインセンティブの情報を提供している。DOIの付与により,研究データ引用の促進,研究業績としてのデータ被引用数の利用,研究費・データ整備予算獲得につながる好循環を図示した。また自分でサーバを運用するデータ提供者向けに,DOIの仕組みやDOIの恒久性保証のための留意点(リポジトリやランディングページ,メタデータの管理など)も載せている。
内面は,DOIを付与するための対応がわかるフローチャートになっている。質問に答えていくと,個々の状況に応じた対応が分かるよう工夫されている。「自分のデータセットにDOIを付与して公開・共有したい」場合と「根拠データにDOIを付与するように求められた」場合に分け,例えば所属機関でDOIの付与ができない場合には外部のリポジトリでDOIを取得する等,具体的な流れを示すよう意図した。
リーフレットは現在デザイン修正中で,2019年度中には印刷配布,RDUFのウェブサイト上での公開を予定している。このリーフレットが,研究データの引用・被引用を促進する一助になれば幸いである。
Ref:
https://japanlinkcenter.org/rduf/ [20]
https://doi.org/10.1038/sdata.2016.18 [21]
E1831 [15]
E2234 [16]
E2052 [17]
E1537 [18]
CA1849 [19]
文教大学文学部・池内有為(いけうちうい)
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社・野村紀匡(のむらのりまさ)
名古屋大学宇宙地球環境研究所・能勢正仁(のせまさひと)
2020年1月,筆者らが所属する研究データ利活用協議会(Research Data Utilization Forum:RDUF;E1831 [15]参照)のリサーチデータサイテーション小委員会は,国際組織FORCE11(The Future of Research Communications and e-Scholarship)による「データ引用原則の共同宣言(Joint Declaration of Data Citation Principles:JDDCP)」の日本語訳を公開した。FORCE11は研究データの流通や利活用を推進する活動を行っており,2014年に公開された「FAIR原則」はデータ公開の指針として広く採用されている(E2052 [17]参照)。本稿で紹介するJDDCPは2014年に公開され,2020年2月1日現在,研究者などの個人280人,出版社,学協会,データセンターなど120機関が賛同している。以下では,データ引用の重要性と現状について述べた上で,JDDCPの概要と学術情報に関わるステークホルダーの取り組みを紹介したい。
そもそも,なぜデータ引用は重要なのだろうか。論文などの出版物にその根拠となるデータの引用情報が掲載されていれば,読者は容易に元データにアクセスして再利用したり結果を検証したりすることが可能となるため,利活用の促進が期待できる。データの公開者にとっては,公開したデータが引用されることによって自身の研究の先進性や新たな研究への貢献を示すことができ,将来的には評価や研究資金の獲得につながる可能性もある。逆に労力をかけて公開したデータを引用せずに利用されてしまうならば,研究者にとってデータ公開のメリットはほとんどなくなってしまう。実際に,筆者(池内)らが行った日本の研究者を対象とした質問紙調査によれば,研究者がデータ公開に対して最も懸念を感じていたのは「データを引用せずに利用される可能性」であった。一方,研究者がデータ公開のインセンティブとして最も重視していたのは,「データに紐付いた論文の引用」,次いで「データの引用」であった。
公開された研究データを再利用する際に,論文と同様に引用することによってデータへのアクセスを容易にし,利活用を促進し,公開者への評価やインセンティブを確立することが可能となる。しかし,現状ではデータ引用は十分に行われているとは言い難く,その記述も本文や謝辞に書かれている場合があるなどまちまちであるため,論文の被引用数と同様の方法で機械的に収集することが難しい。リサーチデータサイテーション小委員会は,2019年4月から5月にかけてインパクトファクターが高い原著論文誌のデータ公開ポリシーを調査した。対象は,自然科学及び社会科学の22分野各10誌,合計220誌であったが,データの引用ポリシーを掲げていた雑誌は121誌(55%)にとどまった。
JDDCPはデータ引用の目的や効用,実践上の注意を示すことによって,こうした状況の改善に資するものである。具体的には,データ引用の(1)重要性,(2)クレジットと帰属,(3)エビデンス,(4)識別,(5)アクセス,(6)永続性,(7)特定性と検証可能性,(8)相互運用性と柔軟性の8項目について記述している。たとえば(4)では「データを引用する際は,機械が使用でき,グローバルに一意で,かつ学術コミュニティで広く用いられている永続的な識別方法を記述すべきである」としている。これを実現するためには,データ引用の際にDOIを用いることが望ましい。したがって,学術機関等のリポジトリがデータを公開する際には,DOIを付与することが重要となる(学術機関等がDOIを取得して公開データに付与するための方法については,E2233 [24]をご参照いただきたい)。
リサーチデータサイテーション小委員会がJDDCPの翻訳を公開したねらいは,大学,図書館,学協会,出版社といった研究に関わるステークホルダーがデータ引用に関心をもち,啓発や普及に取り組む際に活用してもらうことにある。たとえば,2019年に地球科学分野の研究者コミュニティである地球科学情報パートナー連盟(Federation of Earth Science Information Partners:ESIP)は,JDDCPを踏まえたデータ引用に関するガイドライン(Data Citation Guidelines for Earth Science Data)を公開した。このように,ガイドラインを策定する際にJDDCPを参照することによって,データ引用について押さえておくべき事柄を確認することができ,国際的な取り組みであることを示すこともできるだろう。なお,前述のデータの引用ポリシーを掲げる雑誌121誌のうち,JDDCPに直接言及していたのは58誌(48%)であった。JDDCPの日本語訳が多くの人の目に触れることによって,データ引用が学術界の慣習となることを後押しできればと願っている。また,今回公開した日本語訳は,FORCE11によるJDDCPからもリンクでたどれるようになっている。この日本語訳を契機として多くの言語に翻訳され,よりグローバルな取り組みになることを期待している。
Ref:
https://japanlinkcenter.org/rduf/about/index.html#s004_0 [25]
https://doi.org/10.25490/a97f-egyk [26]
https://doi.org/10.11502/rduf_rdc_jddcp_ja [27]
https://doi.org/10.18919/jkg.68.9_467 [28]
https://doi.org/10.5281/zenodo.3666307 [29]
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.10025330 [30]
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.8441816 [31]
E1831 [15]
E2052 [17]
E2233 [24]
アーバンデータチャレンジ2019京都府ブロック・青木和人(あおきかずと)
地域課題解決のために市民自身がITテクノロジーを活用して,行政サービスの問題や社会課題を解決する取り組みであるシビックテック(Civic Tech)が日本においても盛んになりつつある。このシビックテックの1つとして,一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会が,オープンデータを用いた地域課題解決コンテストである「2019アーバンデータチャレンジ」(UDC;E1709 [32],E1877 [33]参照)を開催した。そのUDCの地域拠点の1つであるUDC京都府ブロックと,国立国会図書館(NDL)との共催で,地方公共団体等が保有するオープンデータやNDLなどが公開する日本国内の美術館・図書館・公文書館・博物館分野のGLAMデータを用いた「2019アーバンデータチャレンジ京都 in NDL関西館」が,同関西館(京都府精華町)で開催された。このイベントでは,2019年11月9日にアイデアソン,同年12月7日にハッカソンが行われた。
アイデアソンとはアイデアとマラソンを組み合わせた造語で,多様な参加者が集まって新しいアイデアを生み出すために行われるイベントである。ハッカソンは参加者がマラソンのように数時間プログラミングに没頭し,ハックしてアプリケーションやツールを作るイベントである。アイデアソン,ハッカソンは関西館では初の試みであった。
アイデアソンでは,企業の開発者,行政のオープンデータの担当者や図書館員,大学教員や大学生など約20人が集まった。午前中はレファレンス協同データベース(以下「レファ協」),国立国会図書館デジタルコレクション,ジャパンサーチ(試験版;E2176 [34]参照)の説明と,NDL東京本館で2019年9月14日・15日に行われた「GLAMデータを使い尽くそうハッカソン」で作成された作品紹介があった。続いて,後援の京都府,京都市,精華町の各地方公共団体のオープンデータの紹介があった。
その後,3つのチームに分かれてチームビルディングを行い,各自が地域課題解決のためのサービスのアイデアを出し合った。関西館内案内の後,昼食にて大いにコミュニケーションを図った。
引き続き午後は,各アイデアをチームとしてブラッシュアップした。災害に強く安心して住める場所を選びたい,ウィキペディアタウン(CA1847 [35]参照)での情報発信で地域振興を図りたい,子どもに京野菜の良さを伝えたいなどの地域課題解決のアイデアが3つにまとまり,最後にプレゼンテーションにて披露された。
ハッカソンでは,アイデアソンのチーム関係者と新たな参加者も加わって,アイデアソンで披露された3つのサービスのアプリケーションやツールが終日,試作された。その結果,京都府や京都市,精華町が公開するオープンデータに加え,NDLが提供するレファ協に登録されたデータ,国立国会図書館デジタルコレクションに登録された古書等の画像データ,さらにはジャパンサーチが提供するGLAMデータを利用して,以下の3作品が作成された。
今回の取り組みでは,ハッカソンというイベント名称やエンジニア向けの告知サイトで広報したこともあり,NDLに初めて来たという企業や学生エンジニアの多数の参加を得ることができた。これらの人材が今までその存在を知らなかったNDL等のGLAMデータと地方公共団体のオープンデータを組み合わせて,地域課題解決のためのサービスのアプリケーションを作成することができたことに今回のイベントの意義がある。
講師を務めたUDC2019実行委員の柴田重臣氏からも,1日のハッカソンで3チームすべてが成果を出せたことは素晴らしい,是非,このままUDC2019コンテストの作品応募へつなげてもらいたいとの期待が寄せられた。
各チームはハッカソン後にも活動を継続して,コンテストに作品を応募し,2020年2月現在,審査中である。また,今回,コンテストにはNDLのデータを用いた作品を対象とする特別賞も設けられた。2020年3月14日に東京大学で行われる最終審査会での評価が期待されるところである。
Ref:
https://lab.ndl.go.jp/cms/UDC2019 [36]
https://connpass.com/event/152526/ [37]
https://connpass.com/event/152528/ [38]
https://lab.ndl.go.jp/cms/hack2019 [39]
https://lab.ndl.go.jp/dataset/UDC2019/ideathon1_MyPlace.pdf [40]
https://lab.ndl.go.jp/dataset/UDC2019/ideathon2_rehacchi.pdf [41]
https://lab.ndl.go.jp/dataset/UDC2019/ideathon3_KyoYasai.pdf [42]
https://urbandata-challenge.jp/2019submitstart [43]
https://urbandata-challenge.jp/news/2019ndl [44]
E1709 [32]
E1877 [33]
E2176 [34]
CA1847 [35]
収集書誌部資料保存課・小野智仁(おのともひと)
2019年12月19日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館において第30回保存フォーラム「収蔵資料の防災―日頃の備え・災害対応・連携協力」を開催した。保存フォーラムは資料保存の実務者による知識の共有,情報交換を意図した場である(E2109 [58]ほか参照)。
日本では近年,自然災害が頻発し,各地の図書館や文書館等でも収蔵資料が被災している。今回のフォーラムは,日常の備えや発災後の初期対応,地域内外・他機関との連携の枠組みや事例についての報告を受けて,収蔵資料の救済に関する各自の防災・減災の意識を高め,取り得る対策について理解を深めることを目的とした。
以下,当日の内容を紹介する。
新井氏は,埼玉県地域史料保存活用連絡協議会(以下「埼史協」)での活動及び防災アンケートからみた防災対策について説明した。過去の被災経験等により緊急時の搬出用箱の重要性を認識し,現在は県内4か所に独自開発した保存箱を保管しつつ,全国的な無償提供も行っていると述べた。また,埼史協が2013年に埼史協会員及び全国歴史資料保存利用機関連絡協議会機関会員に対して実施したアンケートから,河川付近に立地する施設の割合が多い点や防災マニュアルのない機関が9割も占めた点等を示し,これらの課題に対して,ハザードマップの確認など各地の実情に即した防災マニュアルの作成が必要と指摘した。
網浜氏は,2017年に同県で策定された「災害時等の県立公文書館、図書館、博物館等の市町村との連携・協力実施計画」について,発災時の具体的なフローや平時の対応等について説明した。災害時には県の諸機関と市町村や地域の歴史研究会,資料を所有する個人等が連携して情報収集及び共有を行い,支援要請後に現地での状況調査を行うと述べた。一方,平時には関係機関の連絡会議や資料の緊急避難先一覧の作成,そして被災時に必要な資機材の備蓄等を進めていることを紹介した。このような連携に図書館が加わる意義として,職員の危機意識向上や館内の危機管理対応の促進を指摘した。
加藤氏は,歴史資料ネットワーク(CA1743 [59]参照)での活動の経験から,日常的にも関係を保ちながら市民とともに資料保全活動を行う重要性と現在の活動の広がりについて説明した。災害からの資料保全にはボランティアとともに持続的に活動することが重要と述べ,現在の活動では,2019年の台風第19号(E2208 [60]参照)で被災した栃木県など地域の歴史資料ネットワークがない場所への支援も行っていると報告した。一方で2018年の台風第21号(E2070 [61]参照)による被災時には大阪周辺の歴史的資料の被災情報がほとんど入ってこない状態に陥ったため,京阪神におけるネットワークのあり方を見直す必要性についても言及した。
岡田氏は,文化庁所管の独立行政法人として全国的な文化財防災のためのネットワーク構築の推進役を担う立場から文化財防災体制の考え方を説明した。文化財防災には現実を見据えた対策が重要であり,様々な災害を全て想定することが必要と述べ,それらの情報を詳細かつ具体的に整理しておく必要があると指摘した。実態を正しく認識した上での危機管理が必要であり,リスクに対処できない場合も含めた,考え得る現実的な「防災のための体制」を示し,構築することが重要だと強調した。
佐藤から,IFLA2019年年次大会(E2205 [62]参照)オープンセッションで発表された海外の防災事例を中心に説明した。フランス国立図書館(BnF)では,主要2施設がセーヌ川沿いに立地するため,防災計画策定・コンクリート防水壁・事前の保存箱への収納等の対策を講じており,ギリシャ国立公文書館では,経費削減による施設整備難のため老朽化に伴う施設内事故の懸念から,そのリスク分析と評価結果を可視化し,事故発生時,誰でも対応可能なように書架へリスク評価の結果を示す印を付ける等の対策を講じたと報告した。
報告終了後の質疑応答では,(1)被災資料レスキュー時の各機関・団体等の対応,(2)被災資料のトリアージ等についての質疑が交わされた。(1)については,被災した地方公共団体に知人がいれば直接情報を集めるが,そうでない場合は大学や学会連合などの関係各所から情報収集に努めているとの紹介があった。(2)については,劣化状況によって,迅速な処置を要するもの,後の処置で対応可能なもの,凍結保存にて時間を稼ぐものというような形で区分可能だが,現場での情報とその場での判断力が大切との指摘がなされた。
当日の配布資料はNDLのウェブサイトで公開している。
Ref:
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/preservationforum30.html [63]
https://monjo.spec.ed.jp/埼玉県地域史料保存活用連絡協議会 [64]
https://www.pref.tottori.lg.jp/269967.htm [65]
http://siryo-net.jp/ [66]
https://ch-drm.nich.go.jp/ [67]
E2109 [58]
E2208 [60]
E2070 [61]
E2205 [62]
CA1743 [59]
リンク
[1] https://miraionlibrary.jp/library/about/
[2] https://miraionlibrary.jp/library/facility/
[3] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[4] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/69
[5] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/73
[6] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29
[7] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/35
[8] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/335
[9] https://www.libraryfair.jp/news/9513
[10] http://www2.city.tahara.aichi.jp/section/library/newspaperDB.html
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