国文学研究資料館・入口敦志(いりぐちあつし)
2019年8月3日,立命館大学衣笠キャンパス(京都市)で開催された立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)シンポジウム「超長期的視点から見た人口・環境・社会」の特別企画として,「古代の甘味「あまつら」の復元とその試食~清少納言も愛でたあまつらかき氷の再現」が行われた。その経緯と当日の催しについて報告する。
「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(略称:歴史的典籍NW事業;E1754 [1]参照)は,人文社会科学分野初の文部科学省大規模学術フロンティア促進事業として採用された。2014年から10年の年月をかけ,国内外の歴史的典籍約30万点を画像データ化する基盤整備を行い,国際的な共同研究のネットワークを構築することを目的とする。更に,画像データを活用した異分野融合の研究を行っているが,神松幸弘(R-GIRO助教)が代表を務め,筆者も参加する「料理・調味料の復元と活用に関する研究」もその一つである。その共同研究の成果を記念し,本イベントが行われた。
本共同研究は,特に古代甘味料「あまつら(甘葛煎)」に焦点を絞って行った。筆者による古典籍の探索と,神松による実地に採集されたものの化学的成分分析に基づいて,古代の「あまつら」の具体像を探ろうとするものである。「あまつら」は平安時代には諸国から朝廷への献納品として『延喜式』にも記載されており,利用されていたが,中世以降砂糖の普及とともにその姿を消してしまった。従って江戸時代以降はその原料や製法はわからなくなっており,畔田翠山『古名録』のツタ原料説,藤原清香『甘葛考』の野生ブドウの果実説など,原料についてもいくつかの説が提唱されてきた。しかし,畔田のツタ原料説が一般に広まったため,ツタについては近代においても多くの分析や認証が行われてきたが,それ以外の候補植物については比較・分析されることはほとんどなかった。
そこで本共同研究では,江戸時代の古典籍にあげられるツタなどの有力な原料植物候補4種とその近縁のツルアジサイなど5種に加え,メープルシロップなど樹液利用が知られるものを含めた13種を研究対象とし,採集効率・糖度(Brix値)を調べた。そのうち糖度の高いものについては,HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による主要糖類の定量分析を行った。また,樹液を豊富に得られた種では,「あまつら」の復元も試みた。さらには,本共同研究において過去に樹液を採取した場所における原料植物の再生状況などの実地調査も行っている。樹液の糖分量,樹液の採集効率,持続可能性など一連の結果を総合的に判断し,「あまつら」は砂糖や片栗粉などと同様に食品の名称であり,単一の植物だけを原料とするものではなく,複数の原料によって生産されていた可能性が高いことを明らかにした。
イベント当日は,神松によって原料の異なる2種類の「あまつら」が用意され,かき氷にかけて来場者に配布し,試食してもらった。これはイベントのサブタイトルのとおり,『枕草子』に記述されたかき氷を再現したものである。再現に当たって,収量の少ないものについては化学分析に基づいて成分等を付加し,分量を確保した。それぞれの味の違いは来場者にもはっきりわかるほどで,風味の違いは大変興味深い結果となった。
かき氷を味わってもらいながら,イベントの趣旨説明と「古典籍と科学の出会い」(筆者)と「あまつらの再検討─文献と化学分析からわかったこと」(神松)の報告を行った。神松は上記研究の概要を,スライドを使いながらわかりやすく報告した。
筆者の報告は,平安時代の古典籍にあらわれた記述から,「あまつら」がどのようなものとして位置づけられていたかを探ったものである。「あまつら」の記述には,その保管にも(『宇津保物語』「金の瓶(かめ)」),かき氷として食べるときにも(『枕草子』),芋粥として食べるときにも(『厨事類記』「銀の提(ささげ)と銀の匙(さじ)」),金属の食器がセットになって登場する。『枕草子』が「あてなるもの(高貴で上品なもの)」として「削り氷にあまつら入れて,あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる」と記述しているのは典型であろう。貴重な金属食器に貴重な氷,それに貴重な「あまつら」をかけるという当時最高の贅沢をあらわしていると考えられる。また,夏の暑い盛りに,あえて金属器にかき氷をいれることで,その冷たさを掌で感じ,金属器同士が当たって発する音をも愛でていたのである。まさに,五感を動員して楽しんでいたと言って良いだろう。
2019年度の冬に「あまつら」を使った芋粥の再現・試食のイベントを予定している。共同研究自体は2019年度末で終了するが,これまでの成果を受け,休耕田等を利活用するための原料植物の栽培,効率的な収量の確保,地域名産品への利用など,地域振興に寄与するような展開も計画している。
Ref:
https://www.nijl.ac.jp/news/2019/07/31.html [2]
http://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=208 [3]
https://www.nijl.ac.jp/news/img/amatsura_press.pdf [4]
http://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=1463 [5]
E1754 [1]
利用者サービス部図書館資料整備課・大久保玲(おおくぼれい)
2019年10月24日,ドイツにおける「図書館の日」に,ドイツ図書館協会とドイツテレコム財団が決定する“Bibliothek des Jahres(Library of the Year)”の授賞式が行われた。ドイツの“Library of the Year”は,分野や規模を問わず,ドイツの特に優れた図書館に毎年贈られる賞で,ドイツにおいて図書館に贈られる国家的な賞としては,唯一のものである。そして,その受賞館として,2019年度はベルリン中央州立図書館(Zentral- und Landesbibliothek Berlin:ZLB)が審査委員会の満場一致で選出された。ここでは,特に高く評価され,選出の理由となった参加型サービスとデジタルサービスを中心に,ZLBの概要を紹介したい。
ZLBは,アメリカ記念図書館とベルリン市立図書館が,1995年に合併して誕生し,現在は財団法人によって運営されているが,いまも各館は元の名前で呼ばれている。アメリカ記念図書館は,1954年,ソヴィエト連邦によるベルリン封鎖を耐え抜いた記念として,米国民からベルリン住民に贈られた公立図書館に起源を持ち,移民やアーティストの多いクロイツベルク区に位置する。ここには,人文科学や芸術に関する資料が集められ,児童サービスもこの館において行われる。他方,100年を超える歴史を持つベルリン市立図書館は,首都機能が集積するミッテ区に位置する。ここには,自然・社会科学分野の資料に加え,ベルリンに関する膨大な地域資料が集められる。開館時間は両館共に,平日の10時から21時,及び土曜の10時から19時であり,更にアメリカ記念図書館は2017年9月以降,日曜の11時から17時にも開館する。両館への来館者数の合計は,年間およそ150万人にものぼる。
ZLBにおける参加型サービスは,社会問題に関するイベントを実施し,市民意識の育成を目指す“Community-Projekte(Community Project)”や,市民の余暇活動を充実させるような日曜日のイベント等,多岐にわたる。
“Community Project”は,館内のオープンなデザインスペースにおいて多様なイベントを実施し,市民相互の意見交換を促すプロジェクトである。当スペースには児童とアーティストの共同作業によって,ベルリン都市社会の諸相についての展示がなされることもあれば,ジャーナリズムの諸問題について,報道の現場で働くジャーナリストと市民が話し合うための交流会が開催されることもある。それぞれ,開催の背景には,移民の流入により引き起こされたベルリン都市社会の変化や,「フェイク・ニュース」の跋扈を受けたジャーナリズムへの関心の高まりがある。
他方で,「楽しむこと」に主眼を置いたイベントは,アメリカ記念図書館において,日曜日に開催される。同館は,日曜日には自動貸出返却機による資料提供を行う一方(レファレンスカウンター等は休業),参加型サービスの一環として,ラフターヨガ講習会や子どものための人形劇等,多彩なイベントを開催している。これらの取り組みは,図書館を「地域社会のための広場」とすることを狙いとしており,「市民意識の育成」を主目的としていた“Community Project”に比べ,イベント内容の自由度が高いことが特徴である。
ZLBは“Digitale Welten(Digital Worlds)”というプロジェクトのもと,大規模な資料のデジタル化を進めた。その成果として,専用のアプリを取得すれば,館内で日刊紙・雑誌類を含む各種デジタル資料を,タブレットやスマートフォンで閲覧することができるようになった。また,ベルリンの地域史に関するデジタル化されたリソースは,専用ウェブサイト上で公開されている。その他にも,映画については“filmfriend”というストリーミングサービスにより,古典映画,ドキュメンタリー映画,児童向け映画等がオンデマンド方式で配信されており,ドイツ国内及びスイスの参加館の利用者は,IDとパスワードによりログインすれば,館内外を問わず,これらの映画を視聴することが可能となっている。更に,ZLBは,デジタル資料の提供だけでなく,IT技術そのものの普及にも力を入れており,市民は館内でプログラミングや仮想現実(VR)等の技術について学ぶこともできる。
以上のような取り組みによって,ZLBは,都市コミュニティのハブとなる図書館像の確立に成功した。同館が提供する多様なサービスは,それぞれが現代社会の問題解決に向けた明確な目的を持ち,資料提供のみにとどまらないことが印象的である。市民のニーズを探求し,求められる図書館像を考え抜いた上で提供されるこれらのサービスは,まさに次世代の図書館にふさわしいといえよう。
Ref:
https://www.zlb.de/ [10]
https://www.zlb.de/ueber-uns/presse/pressemitteilung-detail/news/forum-fuer-die-stadtgesellschaft-die-zentral-und-landesbibliothek-berlin-ist-bibliothek-des-jahre.html [11]
https://www.bibliotheksverband.de/dbv/presse/presse-details/archive/2019/may/article/forum-fuer-die-stadtgesellschaft-die-zentral-und-landesbibliothek-berlin-ist-bibliothek-des-j.html [12]
https://www.telekom-stiftung.de/presse/forum-fuer-die-stadtgesellschaft-die-zentral-und-landesbibliothek-berlin-ist-bibliothek-des [13]
https://www.bibliotheksverband.de/dbv/auszeichnungen/bibliothek-des-jahres.html [14]
https://www.berlin.de/sehenswuerdigkeiten/3561110-3558930-amerika-gedenk-bibliothek.html [15]
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06082211.htm [16]
https://windgategermany.jp/distinations/エリア紹介/ [17]
https://digital.zlb.de/viewer/ [18]
https://www.intranda.com/portfolio-item/zlb/ [19]
高森町立高森北小学校・宮澤優子(みやざわゆうこ)
2019年9月7日から8日にかけて,大阪市立中央図書館にてCode4Lib JAPANカンファレンス2019が開催された。7度目の開催(E2069 [26]ほか参照)である今回は過去最高の103人(1日目77人,2日目87人)が参加し大変盛会であった。台風第15号の影響で新幹線の運休が決まり,2日目の午後はあわただしく会場を後にする参加者も多かったが,2日間で基調講演2件,発表9件,ライトニングトーク18件が行われた。また1日目の午前中には2件のチュートリアルが開催され,参加者が実際に情報技術活用にチャレンジした。本稿では,筆者が関心を抱いた発表について一部紹介し,報告としたい。
基調講演の2件は,大阪市立図書館の,図書館内部にとどまらない外部団体との取り組みや,職員が外へ飛び出すことで構築した市民との関係の中から出てきたテーマであったかと思う。松原茂樹氏(大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻)と山川みやえ氏(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻)による「図書館環境の評価手法の開発-「キャプション評価」の方法とデジタル化の開発に向けて-」は,大阪市立図書館での実践報告と,図書館のさまざまな活動のありようを測るひとつの方法論の提示であった。キャプション評価とは,評価する人がそれぞれ館内の気になる場所の写真を撮り,その写真にキャプションを付けるという環境評価の手法である。原田祐馬氏(UMA/design farm)と中川和彦氏(スタンダードブックストア)による「“中の人”じゃない人と考える 図書館×本×デザイン」は,利用者や一般市民として図書館周辺で活動をしていながらも,図書館の運営側ではない立場からの視点や観点を置いての講演であった。またそれに続くアンカンファレンスも図書館の「中の人」ではない「外の人」の視点を持ち込んでの,図書館や公共についての議論となった。
発表では,前回までのカンファレンスで発表された新しい技術やそれを使ったアイデアの実装が印象に残った。南雲知也氏(株式会社ブレインテック)による「OpenBookCameraを用いた書影およびOCRデータによる図書館蔵書の大量一括遡及データ作成の試み」は,2018年のカンファレンスで,吉本龍司氏(株式会社カーリル)により「背を撮影できる書影撮影デバイスの開発」として発表されたOpen Book Cameraを使った取り組みである。このOpen Book Cameraは,さらにさかのぼった2013年のカンファレンス(E1486 [27]参照)で,やはり吉本氏によって「カーリルブックカバープロジェクト/背も撮影できる書影スキャナの開発」として報告されたものであり,それがいよいよ実用化された事例である。この視点で過去のCode4Lib JAPANカンファレンスの発表を振り返ってみると,2013年の田辺浩介氏(物質・材料研究機構),2015年(E1721 [28]参照)の江草由佳氏(国立教育政策研究所),2017年(E1964 [29]参照)の田辺氏によるオープンソースの図書館システムNext-L Enjuに関する一連の発表をはじめ,継続や応用による実現や拡張が見て取れる。また2014年の基調講演,福島幸宏氏(京都府立総合資料館=当時,現・東京大学大学院情報学環)による「文化資源のデジタル化とその課題」は,今回「アーカイブズ構築のスリムモデル」として同氏と天野絵里子氏(京都大学学術研究支援室)によって,たとえば対象資料の決定や公開に関する課題に関して,解決の糸口が示された。Code4Lib JAPANの活動がスタートして10年が経過し,この活動が「図書館における情報技術活用を促進し,図書館の機能向上と利用者の図書館に対する満足度向上」(Code4Lib JAPAN公式ウェブサイトより)を目指してきた成果が見て取れたカンファレンスであったと思う。
同時に,さまざまな技術やアイデアが次々に発表され,図書館の情報技術活用において新しい取り組みがいくつも生まれる中で,それらに関する情報が図書館の現場でどの程度収集され,認知され,活用されているのかは大変気になるところである。そのような中で,松村友花氏(神戸大学)による「スマホ入館はじめました」や,大河原信子氏(津山市立図書館(岡山県))による「図書館×地元企業「カリコレ」共同開発」(E2124 [30]参照)のように,日頃の運営の中から出てきた課題を情報技術活用によって,かつ,図書館が主体的に解決した事例の発表もあり,大いに参考になった。
当日の会場の様子はインターネット上で動画配信され,SlackやTwitterによる活発なリアルタイムコミュニケーションに参加も可能,発表スライドは一部を除きウェブサイトで公開,というように,当日でもその後でも,カンファレンスの内容に容易にアクセスが可能なところも,このイベントの特徴であろう。
米国を中心に活動する,図書館の情報技術活用に関するエキスパート集団であるCode4Libであるが,その日本支部を目指すCode4Lib JAPANでは一般の図書館職員に広く門戸を開放している。図書館の運営にかかわるすべての職員は,その立場がどのようなものであっても,情報技術活用を常に意識し知見を広めるための努力をしたいものである。次回のCode4Lib JAPANカンファレンスは,例年より時期を早め2020年6月20日から21日にかけて愛知県豊橋市で開催される。今回以上の積極的な図書館職員の参加を期待したい。
Ref:
http://www.code4lib.jp/ [31]
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2019 [32]
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2019/program [33]
https://www.facebook.com/Code4LibJAPAN/ [34]
https://www.youtube.com/watch?v=augiXmmDYoE [35]
https://www.slideshare.net/AkikoSawaya/slides-at-code-4-lib-20190907 [36]
https://researchmap.jp/muc0v99in-16665/?block_id=16665&active_action=multidatabase_view_main_detail&multidatabase_id=1555&content_id=25479 [37]
https://braintech.co.jp/news/obc20190908_c4ljp.pdf [38]
https://speakerdeck.com/yukam/started-the-entering-with-your-smartphone-service [39]
E2069 [26]
E1486 [27]
E1721 [28]
E1964 [29]
E2124 [30]
都道府県立図書館サミット実行委員会・子安伸枝(こやすのぶえ)
2019年8月25日,県立長野図書館にて都道府県立図書館サミット2019を開催した。このサミットは2016(E1828 [44]参照)に続き2回目の開催である。テーマを「都道府県と基礎自治体の関係-『協力』のスタンダードを築く」とし,都道府県立図書館は域内の図書館にどのように関与し,その図書館行政に貢献していくのか,現場での取り組みをもとに学び合い考える場とした。なお,サミットは県立長野図書館が継続的に開催している「信州発・これからの図書館フォーラム」にも位置付けられている。
サミットは基調講演と6つのセッションから構成されており,セッション1から6はできるだけ開かれた議論ができるよう,登壇者同士や参加者との対話形式を取り入れた。
基調講演「秋田県立図書館の支援・協力とはなにか」では,山崎博樹氏(元・秋田県立図書館副館長)から,相互貸借担当1人という状況から,やがて資料だけでなく人材交流,研修,図書館運営のコンサルテーションといった幅広い支援・協力活動を行うようになるまでの過程について報告があった。上司や同僚,市町村立図書館の職員との対話をベースに必要なことを実行していくという支援・協力のありかたは,相互貸借のサービス向上だけでなく,秋田県立図書館全体のサービスアップ,市町村立図書館との密な関係作りにつながったという。
セッション1の論点整理「秋田県からまなべること」では,福島幸宏氏(東京大学大学院情報学環)が山崎氏の講演から重要なキーワードを抜き出す形で論点整理を行った。足元を固める,資料と情報を届ける,人を届ける,人を育てる,成果,市町村との関係,今後の都道府県立の役割(情報ハブ/新サービスなど)と整理されたキーワードの中で,よりよい協力・支援活動を展開していくためにはどの活動にどういう時間のかけ方をするか,どういう人材を求めるか,の2点に議論が集約された。
セッション2のキーノートクロストーク「なぜ,いま都道府県立図書館サミットか」では,サミットの共同実行委員長である平賀研也氏(県立長野図書館長)と岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役)によるサミット開催の動機が語られた。ここ数年,都道府県立図書館の新館開館ラッシュが起こっている(CA1932 [45],E2114 [46]参照)。そんな中で,図書館振興から文化政策,地域振興へとつながる図書館像を描いていく必要性があるのではないか,そのビジョンを描くために必要な対話や思考の場としてサミットを位置付けたと語られた。
セッション3の都道府県立図書館レポート「生涯学習課での6年から-宮崎県の図書館行政」では,清家智子氏(宮崎県立図書館)から宮崎県教育庁生涯学習課での取り組みが報告された。清家氏は学校事務から県立図書館そして生涯学習課へと異動した経験を持つ。県の総合計画に明記された「日本一の読書県」実現を目指し,政策を作っていくことの難しさやその成果,また行政の立場になってサービスから政策に視点を転換し,発展させていった取り組みを語った。
セッション4の都道府県立図書館レポート「隠岐諸島での図書館設置100%達成の舞台裏」では,大野浩氏(島根県立図書館)から特に島嶼部への支援について報告があった。島根県は実質図書館設置100%を実現した都道府県のひとつである。全市町村に図書館があれば県立図書館の役割が減少するのではなく,それぞれの市町村のキーパーソンを支える必要がある。そのためには市町村のことを肌感覚で知ることが大切であると語った。
セッション5の都道府県立図書館レポート「都道府県立図書館の使命を再定置する」ではセッション2から4を受けて,再び福島氏による都道府県立図書館の論点整理が行われた。都道府県立図書館の将来像として大きく3つの方向性(1)紙資料を中心とした従来路線の継続路線,(2)「場としての図書館」路線,(3)デジタルと物理資料のハイブリッド化を通じた情報ハブへの路線があるとした。特に(3)では県紙を中心とした地域情報のアーカイブ機能や,域内の市町村立図書館等へ電子書籍のプラットフォームやデータベースを提供していくコンソーシアムとしての機能が重要になってくるだろう,そして地域社会が縮小していく中で,情報へアクセスする機会を確保することこそが特に都道府県立図書館の役割であろうと結んだ。
セッション6のラップアップ「各都道府県で何を取り入れ,いつから始めるか」は,福島氏,新出氏(富谷市図書館開館準備室(宮城県)),小澤多美子氏(県立長野図書館)による鼎談から,会場内との対話となった。「何を」も「いつから」も簡単には結論がでないだろうとしながらも,新氏から,都道府県立図書館のコンサルテーション機能は重要であろう,しかし意志・能力の両面においてコンサルタントたりえるかという提起があった。小澤氏からは,長野県ではコンサルタントという立ち位置よりも一緒に考えるという姿勢を取っているという紹介があった。会場からは,このような支援を行う図書館の評価指標は社会的活動を行うNPOなどの評価指標に近いのではないかという発言や,都道府県立図書館が発展していく未来像にマッチした人材は図書館内に存在するのか,また今の都道府県立図書館にコンサルタントとしての能力はあるのか,学校図書館への視点がもっと求められているといった問いや提言がされた。最後に,福島氏から図書館はあるべき社会像を構想するところから始めてはどうかという投げかけがあった。
会場内では今回のテーマに合わせ,都道府県立図書館の活動を支援・研修・協働の3つの枠組みで紹介するポスターセッションも行われた。実行委員としてポスターセッションの準備からこのサミットに関わった筆者にとっては,47都道府県立図書館をポスターセッションによって俯瞰することができ,その上多くの都道府県立図書館関係者と対話する機会を得たサミットだった。
Ref:
http://www.library.pref.nagano.jp/futurelibnagano_190825 [47]
E1828 [44]
E2114 [46]
CA1932 [45]
CA1871 [48]
関西館図書館協力課・木下雅弘(きのしたまさひろ)
2019年5月,ユネスコは,英・電子情報保存連合(DPC)と共同で作成したオンラインのガイド“Executive Guide on Digital Preservation”(以下「本ガイド」)を公開した。組織の意思決定者に対し,デジタル保存の重要性を分かりやすく示すための各種情報を提供するものである。デジタル保存に関しては,マイグレーション・エミュレーションのような技術的課題に注目が集まりがちだが,担当人員や予算の不足,コンテンツ管理体制の不備といった組織的課題もまた,デジタル保存の大きな障害となる。本ガイドは後者の課題に焦点を当て,意思決定者からの理解・支援の獲得を最終的な目的としている。以下,その概要を紹介する。
本ガイドは,ユネスコの事業「世界の記憶」の一部として進められている電子情報保存プロジェクト“PERSIST”が作成に携わり,その専門知識とDPCのリソース,ユネスコとその加盟国のニーズを組み合わせて作成されたものである。2015年11月に,第38回ユネスコ総会で採択された「デジタル形式を含む記録遺産の保護及びアクセスに関する勧告」の各国における導入を支援するものとして位置づけられている。構成は主に「組織の種類」「組織にとっての動機」「デジタル保存とは何か」「デジタル資料を保存しないリスク」「デジタル資料の保存がもたらすチャンス」「デジタル保存には何が必要か」「事実と数字」の7つの章からなり,最後に,デジタル保存とは何かを説明するためのスライドと,意思決定者にデジタル保存の強化を訴えるための上申書のテンプレートが付属している。これらのテンプレートは各章の内容と対応しており,各章に盛り込まれた情報を利用し,自らの組織にあわせてカスタマイズできるようになっている。
本ガイドでは,対象とする組織を「全ての組織」「アーカイブ」「企業」「高等教育及び研究」「図書館」「博物館・美術館」の6類型に,組織にとってデジタル保存に取り組むべき動機を「説明責任」「信頼性」「事業継続性」「コンプライアンス」「組織又は文化の記憶」「費用」「研究への活用」「評判」「収益」「セキュリティ」「技術」の11類型に区分している。組織や動機,リスクやチャンスといった各要素は相互に関連付けられており,「組織の種類」から「デジタル資料の保存がもたらすチャンス」までの章では,各章の主題を切り口として,関わりのある要素を参照できるようになっている。例えば「組織の種類」の章では,組織類型を一つ選ぶことができ,その組織に紐づけられたリスク,チャンス,動機等の情報だけを表形式で一覧できる。
本ガイドの特徴としては,様々な角度から意思決定者にアピールできるよう工夫が凝らされていることが挙げられる。保存に取り組むべき動機の網羅性,保存しなかった場合のリスクだけでなく保存により生じるチャンスまで示していること,そして,組織類型にあわせたリスク・チャンスの書き分けはその例である。例えば,「法的文書,組織の歴史,意思決定の先例にアクセスできなくなる」というリスクは「高等教育及び研究」のものとされ,「利害関係者が記録にアクセスしやすくなり,透明性の向上を示すことができる」というチャンスは「企業」と関連付けられている。ただ,特定の組織に紐づけられたリスク・チャンスには他の組織にも当てはまるものも多く,書き分けはあくまで参考として捉えるべきものであろう。
「デジタル保存には何が必要か」の章では,「支援的政策と規制環境」「組織インフラ」「技術インフラ」「リソース」の4点を挙げるとともに,その具体例を示している。例えば「支援的政策と規制環境」では,政策立案者等が,デジタル保存の重要性を理解し,不作為がもたらす悪影響を把握する必要があること,立法面での必要な支援を行うべきことを挙げる。「事実と数字」の章では,これまで実際に起きたデジタル保存の失敗例等が参考情報として示されている。
国内の話になるが,デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会は,2017年4月に報告書「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」を公表した。「第4章 残された論点」では,過去には保存が行われず消えてしまったデジタルアーカイブも多いこと,長期利用・永続的アクセスを意識した取組についても検討が必要であることを述べている。近年,デジタルアーカイブの構築・活用に関する議論が広がりを見せる一方で,デジタル保存が論点となる機会は未だ少ないように思われる。本稿で紹介したような海外の動向も視野に入れつつ,国内での検討がより一層深まってゆくことを期待したい。
Ref:
https://en.unesco.org/news/unesco-and-dpc-release-executive-guide-digital-preservation [51]
https://dpconline.org/our-work/dpeg-home [52]
http://www.mext.go.jp/unesco/009/1393877.htm [53]
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/houkokusho.pdf [54]
国際子ども図書館資料情報課・林嘉信(はやしよしのぶ)
国立国会図書館国際子ども図書館は,「国際子ども図書館調査研究シリーズ」のNo.4として,『読書・学習支援コンテンツ構築及び利活用に関する調査研究』と題した,全5章からなる報告書を2019年7月16日付けで刊行した。国際子ども図書館は,国立国会図書館のデジタルコンテンツを活用するとともに,館外のデジタルコンテンツにも分かりやすくナビゲートする読書・学習支援コンテンツの構築を検討している。この報告書は,その検討に資するため,2018年度に外部委託により実施した調査研究の成果をまとめたものである。以下では,報告書の概要を紹介する。
第1章では,国内におけるICT教育の変遷及び動向並びに国内外のデジタルコンテンツに関する先行研究等を概観している。
第2章は,国内の読書・学習支援のデジタルコンテンツ提供機関の事例調査として,(1)国の機関,(2)地方公共団体の教育研究所等,(3)各種図書館・文書館・大学等,(4)民間という4種類に調査対象を分類した上で,ウェブ調査の結果及び国内46機関から回答を得たアンケート調査の分析結果のほか,異なる機関種別から1つずつ選んだ4機関に対して行ったインタビュー調査の結果について報告している。アンケート調査の内容は,コンテンツの内容や特徴,作成状況,運営状況等を問うものであり,インタビュー調査では,それらの内容についてのより詳細な聞き取りを行った。
第3章は,国内の読書・学習支援のデジタルコンテンツ利用機関のニーズ調査として,ICT教育先進校の小・中・高等学校8校(中高一貫校を含む)のコンテンツ利用状況や必要とされる内容,国立国会図書館に対する要望等のインタビュー調査の結果を報告している。さらに,インタビューを行った小・中学校が属する地方公共団体の中から,ICT教育を推進している2つの地方公共団体の教育委員会に対して行ったインタビュー調査の結果について報告している。
第4章は,米国議会図書館(LC),米国デジタル公共図書館(DPLA;CA1857 [58]参照)及びEuropeana(CA1785 [59],CA1863 [60]参照)の教育活動など,海外関係機関におけるデジタルコンテンツを巡る現況について文献調査を行った成果を報告している。米国及び欧州では,教育分野において,一次資料としてのデジタルコンテンツ利用の普及に係る取組がなされている(CA1943 [61]参照)。
第5章は,調査研究結果を総括し,デジタルコンテンツの作成・利用に関する課題及び今後の在り方の可能性についてまとめている。作成・利用に関して必要な点としては,以下のような点が明らかになった。
また,今後のデジタルコンテンツの在り方の可能性としては,以下のような点に留意すべきことが示されている。
「国際子ども図書館調査研究シリーズ」は,全国の都道府県立図書館や関係機関に配布している。また,既刊の号は全て,国立国会図書館デジタルコレクションに全文を掲載しており,国際子ども図書館ウェブサイトからも閲覧できる。御参照いただければ幸いである。
Ref:
https://www.kodomo.go.jp/about/publications/series/index.html [62]
https://doi.org/10.11501/11334848 [63]
CA1857 [58]
CA1785 [59]
CA1863 [60]
CA1943 [61]
リンク
[1] https://current.ndl.go.jp/e1754
[2] https://www.nijl.ac.jp/news/2019/07/31.html
[3] http://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=208
[4] https://www.nijl.ac.jp/news/img/amatsura_press.pdf
[5] http://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=1463
[6] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[7] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/804
[8] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/45
[9] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29
[10] https://www.zlb.de/
[11] https://www.zlb.de/ueber-uns/presse/pressemitteilung-detail/news/forum-fuer-die-stadtgesellschaft-die-zentral-und-landesbibliothek-berlin-ist-bibliothek-des-jahre.html
[12] https://www.bibliotheksverband.de/dbv/presse/presse-details/archive/2019/may/article/forum-fuer-die-stadtgesellschaft-die-zentral-und-landesbibliothek-berlin-ist-bibliothek-des-j.html
[13] https://www.telekom-stiftung.de/presse/forum-fuer-die-stadtgesellschaft-die-zentral-und-landesbibliothek-berlin-ist-bibliothek-des
[14] https://www.bibliotheksverband.de/dbv/auszeichnungen/bibliothek-des-jahres.html
[15] https://www.berlin.de/sehenswuerdigkeiten/3561110-3558930-amerika-gedenk-bibliothek.html
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