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No.352 (E2048-E2051) 2018.08.09

  • 参照(2072)

E2048 - 大阪府北部を震源とする地震による図書館等への影響

  • 参照(8286)

カレントアウェアネス-E

No.352 2018.08.09

 

 E2048

大阪府北部を震源とする地震による図書館等への影響

 

 2018年6月18日に大阪府北部を震源とする地震が発生し,様々な被害が生じた。本稿では,2018年8月8日までの情報を基に,地震の影響を受けた図書館等の状況を中心に紹介する。

●図書館への影響

 大阪府・京都府・和歌山県・兵庫県・奈良県内の多くの公立図書館,大学図書館が臨時休館または閉館時間の繰り上げを発表した。また,大阪府立中之島図書館(大阪市)をはじめ,被害を受けた幾つかの図書館が,ウェブサイトやSNSで,被害の状況を公表した。そのような中,大阪府立中之島図書館は,この地震に関する情報を発信するウェブサイト・ウェブページへのリンクのほか,同館及び大阪府立中央図書館(東大阪市)が所蔵する地震・災害関係の資料を紹介した過去のメールマガジンや展示へのリンクも掲載したページを公開している。
https://twitter.com/osaka_pref_lib/status/1008531793002180610 [1]
https://twitter.com/osaka_pref_lib/status/1008592204078518272 [2]
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jocxd46z1-510 [3]
https://twitter.com/suita_toshokan/status/1008939683441664001 [4]
https://twitter.com/OsakaUnivLib/status/1008985564056412160 [5]
https://twitter.com/OsakaUnivLib/status/1008985568888250369 [6]
http://www.library.pref.osaka.jp/site/osaka/osaka-jishin2018.html [7]

 その後,多くの館では数日で再開が発表されたが,被害等のために再開が遅れた館もあった。池田市立図書館本館(大阪府)は,書架の耐震補強工事及び安全確認のため6月22日まで,島本町立図書館(大阪府)は,天井の破損やひび割れの復旧のため7月9日まで,茨木市立図書館大池・豊川・太田分室(大阪府)は,施設が避難所となったため7月21日まで,臨時休館・休室した。なお,吹田市立図書館山田分室(大阪府)では,エレベーターが使用できないほか,一部近付けない本棚があったが,8月4日に復旧した。
https://twitter.com/ikedaokanouelib/status/1010065932952072192 [8]
https://www.town.shimamoto.osaka.jp/news/post_8.html [9]
http://www.lib.ibaraki.osaka.jp/?page_id=198 [10]
http://www.lib.suita.osaka.jp/index.php?key=jo3ltyrn2-1208 [11]
http://www.lib.suita.osaka.jp/index.php?key=joj7b1te4-1208 [12]

 現在も,休館中または資料や施設の利用に一部制限のある館が見られる。公立図書館では,寝屋川市立中央図書館(大阪府)が天井の破損等によるアスベスト対策のため休館している。高槻市立小寺池図書館・阿武山図書館(大阪府)では,地震による図書館施設の補修のため,館内閲覧を停止している。大阪府立中之島図書館では,地震の影響により,一部の資料の利用を停止している。茨木市立図書館白川分室(大阪府)では,本棚が一部破損しているため閲覧・貸出のできない図書がある。
http://www.city.neyagawa.osaka.jp/shisetsu/comyu/1422258506114.html [13]
https://www.library.city.takatsuki.osaka.jp/opw/OPW/OPWNEWS.CSP?PID=OPWNEWSLIST&DB=LIB&MODE=1&LIB=&TKAN=ALL&CLASS=1&IDNO=101138 [14]
https://twitter.com/osaka_pref_lib/status/1013697561989808128 [15]
http://www.lib.ibaraki.osaka.jp/?page_id=198 [10]

 大学図書館では,大阪大学附属図書館(大阪府豊中市,吹田市,箕面市)で,一部利用できないサービス・資料を公表している。関西大学人権問題研究室の図書資料室(大阪府吹田市)では,復旧中のため入室を停止し,職員を通じた資料提供を行っているほか,被害を受けたため利用できない資料がある。
https://www.library.osaka-u.ac.jp/unavailable_services/ [16]
http://www.kansai-u.ac.jp/hrs/news/2018/06/post-1.html [17]

 また,公益財団法人交通文化振興財団(大阪市)では,事務所の本棚の転倒等により,所蔵する書籍の公開を停止している。
https://twitter.com/kotubunka/status/1008891346814287872 [18]
http://blog.canpan.info/koutsubunka/archive/89 [19]

●博物館等への影響

 博物館,美術館,資料館等についても,多くの館が臨時休館を発表した。その後ほとんどの館が再開した一方,現在も休館中または資料の利用に一部制限のある館が見られる。高槻市立今城塚古代歴史館(大阪府)では,常設展示室の利用を停止している。国立民族学博物館(大阪府吹田市)では,休館を継続しているが,8月23日に本館展示場Bブロック(音楽,言語,企画展示場,南アジア,東南アジア)の展示及び図書室を再開し,9月13日に残りの本館展示場A,Cブロックの展示を再開することを発表している。なお,大阪大学が管理しており建物内で常設展示も行っている適塾(大阪市)では,一般公開を再開しているものの,当面傷ついたままでの公開となっている。
http://www.city.takatsuki.osaka.jp/ansin/kisyou_oshirase/sisetsu/1529399567443.html [20]
http://www.minpaku.ac.jp/ [21]
http://www.tekijuku.osaka-u.ac.jp/front-page/?searchterm=None [22]

●被災地を支援する動き

 6月18日から6月19日午前9時まで,南丹市(京都府)が,同市の中央図書館,文化博物館等47拠点で利用できる公衆無線LANサービス「Nantan Free Wi-Fi」の災害時用ネットワークを開放した。
https://www.facebook.com/city.nantan.kyoto/posts/594624807584548 [23]

 6月18日,国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)が,被災地における災害対応支援を目的として,同研究所が運用する府省庁防災情報共有システム(SIP4D)に収集された情報を目的別に集約・公開する「平成30年(2018年)大阪府北部を震源とする地震 クライシスレスポンスサイト」を公開した。
http://crs.bosai.go.jp/DynamicCRS/index.html?appid=7f61007cafa949708cd5471bc6c52188 [24]

 6月27日,日本医学図書館協会(JMLA)が,被災地の大学・病院・医療機関等に無償で文献複写サービスを提供するなどの支援を行っている会員館の情報をまとめたページを公開した。
http://plaza.umin.ac.jp/~jmla/info/info.html [25]
http://plaza.umin.ac.jp/~jmla/info/hisaichi_kanrentaio_2018.html [26]

●被災資料保全のための動き

 6月18日から,西日本自然史系博物館ネットワークが,自然史系博物館での被害状況を公開するとともに,被害等の情報や相談を受け付けている。
http://www.naturemuseum.net/blog/2018/06/2018618.html [27]

 6月20日から,歴史資料ネットワークが,緊急事務局体制を取り,歴史資料・文化財などの被害状況を寄せるよう呼び掛けるとともに,資料の処置方法に関する相談にも回答すると発表している。
http://siryo-net.jp/info/201806-osaka-eq/ [28]

●図書館等関係団体の動き

 6月20日,日本図書館協会(JLA)が,大阪府・京都府内の震度5強の揺れのあった公共図書館の開館状況・被害状況等に関する情報を掲載した。
http://www.jla.or.jp/home/news_list/tabid/83/Default.aspx?itemid=4056 [29]

 6月21日,全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)が,「大阪北部地震 資料保存利用機関等被災状況」を公表し,6月28日にも情報を更新している。
http://jsai.jp/rescueA/Osaka2018/201806EQ1.html [30]

 文部科学省が,学校施設,社会教育・体育・文化施設,文化財,同省関係の独立行政法人等における被害情報を公開している。
http://www.mext.go.jp/a_menu/osakahokubujisin/index.htm [31]

●刊行物

 『図書館雑誌』112巻7号(2018年7月)が,大阪府・京都府内の震度5強の揺れのあった公共図書館の6月20日現在の状況をまとめた「大阪北部地震 図書館関係情報」を掲載した。
NEWS 大阪北部地震 図書館関係情報. 図書館雑誌. 2018, vol. 112, no. 7, p. 437.

関西館図書館協力課調査情報係

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災害 [33]
地震 [34]
資料保存 [35]
地域資料 [36]
日本 [37]
公共図書館 [38]
公立図書館 [39]
大学図書館 [40]
専門図書館 [41]
博物館 [42]
JLA(日本図書館協会) [43]
文部科学省 [44]

E2049 - 東洋文庫ミュージアムでのコスプレイベントについて

  • 参照(5997)

カレントアウェアネス-E

No.352 2018.08.09

 

 E2049

東洋文庫ミュージアムでのコスプレイベントについて

 

●開催の経緯

 SNS(TwitterやInstagramなど)の利用者の拡大により,公益財団法人東洋文庫では「モリソン書庫でコスプレイベントを開催したら素敵な写真を撮れるのでは」という意見が多数寄せられるようになった。モリソン書庫は,東アジアに関する欧文書籍等約2万4,000点のモリソンコレクションを排架する書庫であり,人気の展示室である。3面を覆う本棚は,訪れた人を物語の世界に誘う,魅力的な空間であるようだ。

 東洋学の専門図書館・研究所である東洋文庫では,国宝・重要文化財を含め,貴重な歴史資料の数々を所蔵しており,ミュージアムではそれらを身近に感じられるよう,親しみのある展示を心がけている。しかし,一度も訪れたことのない方からすると,いかにも堅苦しい,敷居の高い施設に思われてしまうジレンマがあった。そこで,資料の魅力の前に,空間の魅力から興味を持ってもらおうということで,思い至ったのがコスプレイベントである。本物の歴史資料の重厚さと,フォトジェニックなミュージアムの空間,そして世界でも注目を集めているコスプレイヤーのパワーを融合させることで,SNSを通した新しい層の東洋文庫の認知度アップを図りたいとの考えから企画し,開催する運びとなった。

●開催方法

 コスプレイベントを開催したいと思っても,文庫職員には全くノウハウがないので単独開催は無理と判断し,コスプレイベント開催実績のある団体に協力を仰ぐこととした。今回協力を得たのは,重要文化財指定されている建物を含む歴史的建築物でのコスプレイベント開催経験がある,株式会社ココフリカンパニー(以下「ココフリ」)である。

●資料の安全確保のために

 持込可能な撮影機材をサイズで限定した。コスプレの小道具としての剣や杖,三脚,レフ板などは1メートル程度まで持込可能とした。この根拠は,モリソン書庫の書架から結界までの距離を1メートルとしていることからである。

 また,東洋文庫ミュージアムでは日頃よりフラッシュを使わない写真撮影は可能としている。今回はイベント開催時間に限り,モリソン書庫,1階展示室でのフラッシュ,ストロボ使用を可能とし,その他の展示室は従来通り不可とした。モリソン書庫,1階展示室でのフラッシュ,ストロボ撮影は,近年の照明機材はLEDであること,デジタルカメラであれば紫外線・赤外線はおおよそカットされていること,撮影主体は人物であるのでフラッシュ等は資料からかなり距離が離れていること,撮影は短時間であることなどを考え可能とした。

 イベントは,まず休館日に短時間での試験開催を2回(2018年4月10日(火)と4月24日(火)),本開催を開館日の6月17日(日)に1回,合計3回開催することとなった。

 試験開催の目的は,一番人気があるだろうモリソン書庫での撮影をどのように運営するかのシミュレーションと,参加者の動きの把握,ココフリスタッフの理解の促進がある。また,試験開催をすることで撮影機材の持込制限などが適正であるかどうかを判断するという狙いもあった。

 上記のことを確認することに重きを置いたため,試験開催では,撮影可能場所をモリソン書庫を含む2階の展示室とロビー付近に限り,1階展示室と屋外は不可とした。

 試験開催で人の動きが把握できたので,本開催日は十分なスタッフ数を確保することができた。本開催日は1展示室につき1名のスタッフを配置することとした。また,本開催日は午後3時で閉館し,その後貸切でイベントを開催した。なお,試験開催・本開催共に講演室を更衣室とした。

●参加者の反応

 試験開催の2回は,コスプレイヤーとカメラマンを合わせて各40名程度の参加,本開催では80名程度の参加があった。

 イベント開催前に,多くの参加者が通常入館で下見に訪れ,当日の撮影計画を練っていた様子がTwitterを通して見受けられた。参加者は「本物の資料を前に写真を撮ること」に価値を感じ,資料を尊重しその保護にとても気を遣っていた。ルールを順守しつつものびのびと撮影を行っていた。「素敵なロケーションでとても楽しかった」「次の開催があったら,また絶対に参加します」といった,イベントへの満足感がうかがえる声はもちろんのこと,撮影の合間に展示をじっくりと見る様子が多数見受けられ,「撮影ではない時にまたじっくり見に来ます」といった声がたくさん寄せられたことから,「空間の魅力を呼び水に,東洋学へ興味をもってもらう」という目的は十分に達成できたといえるだろう。

●イベント後の影響

 参加者へは「#ココフリ」「#東洋文庫」2つのハッシュタグをつけ,TwitterなどSNSに当日撮影した作品を投稿してもらえるようお願いした。これらの作品にはたくさんの反応がついており,「とてもいい空間だ」「行ってみたい」といった投稿が増加した。イベントが終了して1か月たった今なお「コスプレイベントに参加した方の写真を見て興味をもった」という投稿が散見され,普段東洋学への関心のない方への普及につながっている。

東洋文庫・篠木由喜,児玉真起子

Ref:
http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/museum_index.php [45]
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1760615653961588&id=288267604529741 [46]
http://cocofuri.net/event-3/toyobunko2.html [47]
https://twitter.com/search?q=%23ココフリ%23東洋文庫 [48]

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企画 [49]
図書館広報 [50]
SNS [51]
日本 [37]
専門図書館 [41]
私立図書館 [52]
博物館 [42]

E2050 - 鳥取県内の公共図書館でのデータベース共同利用が始まる

  • 参照(4869)

カレントアウェアネス-E

No.352 2018.08.09

 

 E2050

鳥取県内の公共図書館でのデータベース共同利用が始まる

 

 鳥取県立図書館(以下「当館」)では,県民への農業分野に関する情報提供機能強化のため,県内すべての市町村立図書館(分館含む)で一般社団法人農山漁村文化協会の農業や食に関する様々な情報を検索できるオンラインデータベース「ルーラル電子図書館」を利用可能とする契約を締結し,2018年6月から提供を開始した。

 利用を希望した18市町村24館で利用可能となっている。本データベースが都道府県内の公共図書館で幅広く利用可能となるのは,全国初の事例となる。

●経緯

 当館では,2004年からビジネス支援サービスを本格的に開始し,産業支援機関との連携,ビジネス分野の資料やレファレンス・サービスの充実を図り,仕事に役立つ図書館として様々な事業を展開してきた。サービス開始から10年以上が経過し,これからのビジネス支援の方向性を検討する中で農業に着目した。理由として,(1)2017年改訂の県の総合戦略である「鳥取県元気づくり総合戦略」で成長産業として,新規就農者の増加・担い手の育成が重点政策になっている,(2)公益財団法人鳥取県農業農村担い手育成機構と連携し,図書館で新規就農相談会を開催している実績がある,(3)農業に関する相談事例が他の分野と比較して少なく,新規開拓の余地がある,ということが挙げられる。

 これらの方向性を軸に,2018年度予算要求で図書館の農業支援に関する要求を行った。主な内容として,情報収集セミナーの開催,県内各地区でのミニ講座の開催,当館では2004年から導入しているルーラル電子図書館を県内の全市町村立図書館で利用可能とする契約,農山漁村文化協会が制作,販売している農業技術に関するDVDの収集,貸出を行うこととした。

●利用開始まで

 ルーラル電子図書館の契約に関しては,当館と農山漁村文化協会との間で,県内全市町村立図書館(分館含む)で利用可能となる契約を結び(当館が全額費用負担),各市町村立図書館へ利用希望の有無を文書で照会し,責任者・担当者・接続するIPアドレスを記載した申込書の提出を求めた。当館が申込書を取りまとめ,農山漁村文化協会がIDとパスワードの発行を行い,各館が利用するという流れである。発行後,各館での試用期間が必要と考え,正式な利用開始を6月1日とした。さらに,文書での照会と並行して,2018年度の各市町村訪問時に図書館及び教育委員会に対して,ルーラル電子図書館に関する説明を行った。費用負担はないこと,インターネット環境があれば利用できること,農業に関する様々な情報が入手可能なことを説明したところ,非常に好意的に受け入れられた。最終的には県内19市町村中18市町村から希望があった。

●利用開始後

 報道機関への資料提供,当館ウェブサイトで広報を行い,6月1日より正式に利用開始とした。地元紙からも取材があり,入手できる情報や当館の狙いなどを記事にしてもらうことができた。また,6月14日に,実際に操作することが多くなる市町村立図書館員向けにルーラル電子図書館の活用事例を中心としたデータベース活用講座を開催した。当館の相談事例をもとにカウンターでの利用イメージを持ってもらうことが狙いである。

●これから

 住民への広報機会として,農山漁村文化協会のDVDを用いた農業講座とルーラル電子図書館による情報収集講座を組み合わせた図書館活用ミニ講座を2018年8月26日に若桜町で開催予定としている。これまで,あまり図書館を利用されたことのない方へのアプローチとして行う,当館の農業支援に向けた試金石となる。この講座は今後,県内他地区でも開催予定としている。また,当館内のビジネス支援関連資料を集めた「ビジネスヒント!調査コーナー」の一角に「農業ビジネス」の棚を作り,資料の集約・見える化を進めている。

 当館の農業支援は,まだまだ十分ではない。今後は,関連機関との連携をさらに進め,これまで構築してきた図書館ネットワークの力を活かしつつ,仕事に役立つ図書館として県民に貢献していきたい。

鳥取県立図書館・岩崎武史

Ref:
http://db.pref.tottori.jp/pressrelease2.nsf/webview/0ABD5A3ABEA1FBEA49258298002CBE9F?OpenDocument [53]
http://www.library.pref.tottori.jp/info/post-82.html [54]
http://lib.ruralnet.or.jp/ [55]

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データベース [56]
ライセンス契約 [57]
ビジネス支援 [58]
図書館協力 [59]
日本 [37]
公共図書館 [38]
公立図書館 [39]

E2051 - Japan Open Science Summit 2018<報告>

カレントアウェアネス-E

No.352 2018.08.09

 

 E2051

Japan Open Science Summit 2018<報告>

 

 2018年6月18日から19日まで,学術総合センター(東京都千代田区)において,Japan Open Science Summit 2018(JOSS2018)が開催された。国内でオープンサイエンスに携わる関係者を対象としたカンファレンスである。基調講演,特別講演及び18のセッションで構成され,最後にパネルセッションが設けられたほか,主催及び協力機関がオープンサイエンスや研究データに関する各自の取組について紹介するポスター展示が行われた。本報告では,このうち,2つの講演と2つのセッションを中心に報告する。

 基調講演は,「オープンデータとその質保証に関するオーストラリアおよび国際的な視点」と題し,オーストラリア国立データサービス(ANDS)エグゼクティブディレクターのウィルキンソン(Ross Wilkinson)氏により行われた。データ研究に関するトレンドや,オープンサイエンスに関する国際的な動向が紹介され,今後は,データ利用のための調整を行う場として,信頼できるデータリポジトリやデータ市場の構築が課題となるだろうという予測が述べられた。また,ANDSがオーストラリア政府の研究インフラ整備戦略“NCRIS”に基づき実施してきた,研究データの管理・発見・関連付け・利活用を通じて研究データを資源化して価値を高める取組とこれまでの成果について説明があった。会場からは,データのオープン化や品質管理にかかる予算の問題について,また,オープンデータを取り巻く状況が大きく変化している中で,日本に対する示唆が欲しいといったコメントが寄せられたのに対し,ウィルキンソン氏からは,予算の確保が厳しいのは確かであるが,オープンサイエンス推進に向けては,インフラだけでなく各領域の価値を高めて国際的な連携を進めていくことが重要との回答があった。

 特別講演は,「AMEDのミッション:データシェアリングはなぜ難しいか?」と題し,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)理事長の末松誠氏により行われた。最初に,医学に関わるステークホルダーの現状について説明があった。その中で,医学分野ではデータの作成やデータを共有することによる研究への貢献を適切に評価できていない問題について述べられた。データを共有するための取組の一例として,AMEDが主導する未診断疾患イニシアチブでの積極的なデータシェアリングの紹介があった。発見された国内症例を世界に発信するだけではなく,国際的なデータシェアリングのネットワークに参加して共有することで未知の症例発見につなげているとのことであった。その他,EU一般データ保護規則(GDPR)の施行によりデータシェアリングが阻害されることへの懸念や,診療画像等のナショナルデータベース構築に向けた医学以外の分野との協力推進などが取り上げられた。

 「研究データのライセンス条件を考える:産官学ラウンドテーブル」セッションは,研究データ利活用協議会(RDUF)ライセンス検討小委員会が主催した。同小委員会は,研究データの公開者と利用者の双方にとって有用で分かりやすいライセンス条件の在り方を検討している。本セッションでは,まず,企業データ,公共データ,デジタルアーカイブの各関係者から,データの二次利用に係る状況と課題について発表があった。企業データについては,データ流通市場においてデータ利用の妨げとなる契約の存在やそもそも契約書の解読が難しい点をあげるとともにメタデータ流通基盤がなくデータの存在が分からないことに課題があること,公共データについてはオープンデータ化は進んでいるがPDFが多く機械判読可能なものが少ないことが課題であること,デジタルアーカイブについては権利表記がないため再利用できない状況が課題であることなどが報告された。同小委員会が研究者等に対して行ったアンケートの報告もあり,多くの研究者は自らのデータの利用に関し,引用・出典の明示,利用者や利用目的の報告を望んでいること,また,クリエイティブ・コモンズの認知度は半数程度だが使っているのは3割といったことなどが紹介された。ディスカッションでは,研究者同士ではうまくいかない場合の橋渡しをする「触媒役」が必要,ライセンス条件の標準をまずは決めることが重要,データ提供のインセンティブとしてライセンス等でデータ引用を徹底し新たな研究成果からも元データにたどれるようにすることが大事,分野を超えて失敗データも共有できるとよい,分野・機関を跨いでデータのライセンスについて相談できる問合せ先があるとよい,Open by Default(オープンを原則とする)の考え方を前提として条件検討を進めていくべきなどの議論が展開された。

 「研究における永続的識別子の現状と将来」セッションは,研究における永続的識別子(PID)の重要性についての説明から開始された。デジタルオブジェクト識別子(DOI),研究者識別子(ORCID),研究助成識別子(Grant ID)についての概要説明の後,生命科学分野における識別子の利用状況や,材料科学分野における識別子の付与対象の検討状況についての報告があった。各分野に共通する課題として,識別子の一意性の問題や識別子の背後にあるオントロジー等共通語彙の集積,構築の問題が挙げられた。ディスカッションにおいては,研究の現場において識別子とは目的でなく手段であり,データベース構築者の視点からの識別子の議論にとらわれるのではなく,研究者側の視点に基づいて分野独自のローカル識別子を広く許容し,それらをつなぐための最低限の共通性を持たせればよいのではないかという意見や,様々なローカル識別子をDOIのような汎用性のある識別子にマッピングしていけばよいのではないかという提案があった。

 パネルセッションは,展示会場の一角に設けられた「世界のオープンサイエンス」「日本のオープンサイエンス」をテーマに参加者が自由に意見や質問等を記入できる意見募集コーナーに寄せられた意見等に沿って進められた。オープンサイエンスには,研究のデジタル化,学術出版,政府の政策,市民科学等が大きく関わっているのではないか,オープンサイエンスとオープンデータの違いはなにか等の議論があり,オープンサイエンスが進むきっかけや,オープンサイエンスのプロセス等について議論がなされた。

 セッション内容や当日のスライド等は,一部を除いてウェブページから閲覧可能である。

電子情報部・伊東敦子
電子情報部電子情報企画課・徳原直子,中川紗央里
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・里見航
電子情報部電子情報流通課・奥田倫子

Ref:
http://joss.rcos.nii.ac.jp/ [60]
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0618/?id=se_90 [61]
https://www.amed.go.jp/program/IRUD/index.html [62]
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0618/?id=se_94 [63]
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0618/?id=se_91 [64]
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0619/?id=se_118 [65]

  • 参照(4747)
カレントアウェアネス-E [32]
オープンサイエンス [66]
オープンデータ [67]
研究データ [68]
医療情報 [69]
日本 [37]
オーストラリア [70]

Copyright © 2006- National Diet Library. All Rights Reserved.


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リンク
[1] https://twitter.com/osaka_pref_lib/status/1008531793002180610
[2] https://twitter.com/osaka_pref_lib/status/1008592204078518272
[3] http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jocxd46z1-510
[4] https://twitter.com/suita_toshokan/status/1008939683441664001
[5] https://twitter.com/OsakaUnivLib/status/1008985564056412160
[6] https://twitter.com/OsakaUnivLib/status/1008985568888250369
[7] http://www.library.pref.osaka.jp/site/osaka/osaka-jishin2018.html
[8] https://twitter.com/ikedaokanouelib/status/1010065932952072192
[9] https://www.town.shimamoto.osaka.jp/news/post_8.html
[10] http://www.lib.ibaraki.osaka.jp/?page_id=198
[11] http://www.lib.suita.osaka.jp/index.php?key=jo3ltyrn2-1208
[12] http://www.lib.suita.osaka.jp/index.php?key=joj7b1te4-1208
[13] http://www.city.neyagawa.osaka.jp/shisetsu/comyu/1422258506114.html
[14] https://www.library.city.takatsuki.osaka.jp/opw/OPW/OPWNEWS.CSP?PID=OPWNEWSLIST&DB=LIB&MODE=1&LIB=&TKAN=ALL&CLASS=1&IDNO=101138
[15] https://twitter.com/osaka_pref_lib/status/1013697561989808128
[16] https://www.library.osaka-u.ac.jp/unavailable_services/
[17] http://www.kansai-u.ac.jp/hrs/news/2018/06/post-1.html
[18] https://twitter.com/kotubunka/status/1008891346814287872
[19] http://blog.canpan.info/koutsubunka/archive/89
[20] http://www.city.takatsuki.osaka.jp/ansin/kisyou_oshirase/sisetsu/1529399567443.html
[21] http://www.minpaku.ac.jp/
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