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No.332 (CA1897-CA1903) 2017.06.20

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No.332の 表紙 [1]と 奥付 [2](PDF)

CA1897 - 公共図書館における郵送・宅配サービスの動向 / 中山愛理

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カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 

CA1897

 

 

公共図書館における郵送・宅配サービスの動向

大妻女子大学短期大学部:中山愛理(なかやま まなり)

 

はじめに

 公共図書館における郵送・宅配サービスは、決して新しいサービスではなく、日本では障害者に対するサービスの一環として取り組まれてきた(1)。近年、郵送・宅配サービスの対象者を障害者から高齢者、子育て世代、一般市民へと拡大する公共図書館が増えつつある。本稿では、文献やウェブサイトで確認できた郵送・宅配サービスについて、図書館サービスでの位置づけを踏まえつつ、対象者別に、申込み方法、郵送・宅配方法、費用負担、サービス内容等の点から整理し、紹介していく。

 

1. 郵送・宅配サービスの図書館サービスでの位置づけ

 「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)では、市町村立図書館(都道府県立図書館にも準用)による「利用者に対応したサービス」の1つとして、「(図書館への来館が困難な者に対するサービス)宅配サービスの実施」が例示されている(2)。同基準では、どのような理由で図書館への来館が困難であるかは明示されていないことから、来館困難の理由やそれに基づく対象範囲は各都道府県・市町村立図書館の判断にゆだねられている。

 また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律への対応策を日本図書館協会(JLA)障害者サービス委員会がまとめた「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」(E1800 [4]参照)には、合理的配慮の一例として、「自宅に出向いての貸出」や「職員による宅配サービス:来館が困難な人が対象(主に市町村立図書館)」と記されている(3)。

 

2. 障害者サービスにおける郵送・宅配サービス

 日本の公共図書館の多くは、肢体不自由者や視覚障害者に向けて、何らかの方法で郵送・宅配サービスを実施している。

 サービス対象者は、身体障害者手帳、療養手帳、精神障害者福祉手帳の交付を受けている者とし、対象等級は1・2級とする場合が多い。このほか、戦傷病者手帳の交付や介護保険法の要介護5の認定を受けた者を対象に含める図書館もある。対象者の細かな条件は図書館ごとに異なる。サービスの申込み方法は、直接来館のほかに、郵送や代理人による申請を認めることで、来館が困難な対象者に配慮している。郵送・宅配料について、点字郵便物、特定録音物等郵便物は郵送料が無料とされており、重度の身体障害者・知的障害者を念頭におく心身障害者用ゆうメールは基本料金の約半額に減免されている。図書館の費用負担が比較的少ないこともあり、郵送・宅配料を図書館負担とすることが一般的であるが、返送は利用者負担としているさいたま市立図書館(4)や静岡市立図書館(5)のような図書館も存在する。また、ボランティアによる宅配によって利用者の費用負担を生じさせない工夫をしている新宿区立図書館(東京都)(6)や藤沢市図書館(神奈川県)(7)、生駒市図書館(奈良県)(8)のような図書館もある。これらの図書館ボランティアによる宅配は、次節で紹介する高齢者や要介護者もサービス対象に含まれている。

 

3. 高齢者や要介護者を意識した郵送・宅配サービス

 塙町立図書館(福島県)(9)では、2009年4月より「高齢者世帯宅配」を実施している。高齢化率が約32%の塙町において、高齢者の生きがいづくりサポート事業と読書活動の推進を図ることを目的として、町内の70歳以上の1人世帯へ、図書館の資料を月2回、10冊まで図書館員が宅配して貸出しを行っている。

 府中市立図書館上下分室(広島県)(10)では、2013年10月より分室周辺の地区に居住する70歳以上の高齢者を対象に1回10冊まで1か月貸出す際に、図書館員が宅配するサービスを実施している。

 これらの事例では図書館員が宅配することで利用者に費用負担が生じないような工夫がみられる。

 

4. 子育て世代を意識した郵送・宅配サービス

 大分県立図書館(11)では、2006年9月より大分県に居住する乳幼児の保護者や妊婦、子育て支援活動者等を対象に「おすすめ絵本・育児書の宅配セット貸出」を実施している。定評のある育児書やおすすめの絵本等を5冊セットにして1回4セットまで、貸出期間30日以内で提供するもので、宅配料はすべて利用者負担となっている。

 宝塚市立図書館(兵庫県)(12)では、後述するすべての市民を意識した郵送・宅配サービスを利用者負担で実施しているが、2012年6月より子育て世代に対しては、無料郵送貸出(育児・介護サポートサービス)として月1回5冊程度を無料で郵送するサービスを実施している。

 

5. すべての市民を意識した郵送・宅配サービス

5.1 実施状況

 筆者が、各館のウェブサイトで郵送・宅配サービスの実施状況を調査した限りでは、都道府県立図書館のうち、すべての住民を対象として郵送・宅配サービスを実施している図書館は、北海道立図書館「インターネット予約貸出サービス」(13)、秋田県立図書館(14)及び山形県立図書館(15)「図書宅配サービス」、福島県立図書館「資料宅配サービス」(16)、埼玉県立図書館「図書及びCD郵送サービス」(17)、神奈川県立図書館「宅配貸出サービス」(18)、県立長野図書館「宅配による貸出」(19)、宮崎県立図書館「図書館資料宅配サービス」(20)等があり、特に東日本で取り組まれている傾向がみられる。また、県庁所在地及び政令指定都市での実施状況をみると、宇都宮市立図書館(栃木県)「図書宅配サービス」(21)、横浜市山内図書館「有料宅配サービス」(22)、広島市立図書館「有料図書宅配サービス」(23) 、高松市図書館(香川県)「資料郵送貸出サービス」(24)等がある。

 さらに、全国の自治体に目を向けると、恵庭市立図書館(北海道)「高齢者等図書宅配サービス」(25)、つくば市立中央図書館(茨城県)「図書送付貸出しサービス」(26)、鎌倉市図書館(神奈川県)(27)及び横須賀市立図書館(神奈川県)「図書宅配便」(28)、宝塚市立図書館「郵送貸出」(29)、筑後市立図書館(福岡県)「だれでも利用できます!宅配サービス」(30)、出水市立図書館(鹿児島県)「宅配サービス『本で見守り隊』」(31)等ですべての市民を対象に郵送・貸出サービスを実施している。

 

5.2 方法や費用負担

 郵送・宅配サービスを利用するためには、事前にサービス申込書を来館・郵送・FAX等で提出し、利用登録を求める図書館が多い。郵送・宅配してもらう資料は、電話や図書館ウェブサイトの資料予約ページから申し込む例が多い。貸出冊数や期間は、各図書館の規程を準用するところが多いが、窓口での通常の貸出期間よりも長く貸出し、郵送期間を考慮して柔軟に対応する図書館もある。

 費用負担については、利用者に配送料を着払いで負担してもらい、返送も利用者負担としていることが一般的である。なお、返却は、直接図書館窓口へ持参してもよいとしている図書館が多い。そうしたなかで、筑後市立図書館は、市内の商店街が運営する宅配サービス「ちくごいきいき宅配便」(32)を活用することで、利用者が宅配料を負担することなく利用できるようになっている。

 

5.3 背景

 すべての市民を対象に郵送・宅配サービスを実施する背景には、障害をもつ以外にも何らかの要因で来館できない潜在的利用者を取り込もうという意識が窺える。具体的には、来館を困難にさせる要因をどのように想定してサービスを実施しているのだろうか。

 恵庭市立図書館では、「子どもが小さいと図書館に行くのが大変。特に冬は、雪が降ると外へ出るのがおっくうだ」という市民の声に対応するためであった(E1742 [5]参照)。宇都宮市立図書館では、遠隔地に居住しているなどの理由により開館時に利用することが困難な場合を想定している(33)。つくば市立中央図書館では、図書館・交流センター・自動車図書館を開館中に利用できない市民や遠隔地の住民による所蔵資料活用促進を意図している(34)。また、鎌倉市図書館では、「図書館が遠い」、「なかなかいけない」と図書館と縁遠くなってしまっている市民(35)、宝塚市立図書館では、読みたい本はいっぱいあるのに、忙しくてなかなか図書館まで行けないという市民(36)、高松市立図書館では、高齢者や身体障害者に加え、遠隔地に住んでいるなどの理由で、図書館を利用しにくい市民(37)、出水市立図書館でも、高齢に加え、交通手段がない等の理由で図書館に行けない市民(38)を想定しており、市民の生活スタイルにあった方法へとサービスの幅を広げている。

 

おわりに

 本稿でみてきた郵送・宅配サービスは、アウトリーチサービスとしても捉えることができる。そもそも、「外部へなにかを届ける」という意味をもつアウトリーチサービスとは、対象者の潜在的なニーズに基づく、伝統的な図書館サービスに加えて行われる、実験的、試行的、臨時的サービスである。従来の図書館サービスでは、十分にフォローできていなかった子育て世代や開館時間中に来館できない利用者に向けた新たな試みは、まさにアウトリーチサービスの考えに合致するものである(39)。アウトリーチサービスは、人手と費用を要するという特徴があり、その経費の一端である郵送・宅配料の負担を利用者に求めることで、新たな予算の確保をせずともサービスとして成り立たせようとしている。

 また、公共図書館における郵送・宅配サービスは、近年注目を集めている「シェアリングエコノミー」の考え方や方法とも親和性をもっている(40)。「シェアリングエコノミー」には、インターネットを通して申し込まれた被服や鞄といったものを申込者へ郵送・宅配により届け、利用後に返送してもらう方法が含まれている。このような商業的サービスが社会に広まりつつあることは、一般市民が公共図書館における郵送・宅配を受け入れる素地が整ってきていることを意味している。

 

(1) 障害者サービスの一環として、1957年4月、秋田県立秋田図書館で墨字図書の郵送貸出を実施した例がある。
渡辺勲. “日本における図書館の障害者サービス年表”. 図書館と国際障害者年: 情報へのアクセスの平等を求めて: 1981-1990. 河村宏編集日本図書館協会, 1982, p.110.

(2) 文部科学省生涯学習政策局社会教育課. “図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成24年文部科学省告示第172号)について”. 文部科学省. 2012. 76p.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/001/__icsFiles/afieldfile/2013/01/31/1330295.pdf [6],(参照 2017-04-20).

(3) “図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン”. 日本図書館協会. 2016. 18p.
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/sabekai_guideline.pdf [7],(参照 2017-04-20).

(4) “宅配による貸出サービスについて”. さいたま市図書館.
https://www.lib.city.saitama.jp/contents;jsessionid=CEBA5B8C2F3AB0EEB9732A49F9772F6F?0&pid=771 [8], (参照 2017-04-20).

(5) “郵送等による図書の貸出”. 静岡市立図書館.
http://www.toshokan.city.shizuoka.jp/?page_id=235 [9], (参照 2017-04-20).

(6) “図書館に来ることが困難な方へ”. 新宿区.
https://www.city.shinjuku.lg.jp/library/index12.html [10], (参照 2017-04-20).

(7) “ハンディキャップサービス”. 藤沢市図書館.
https://www.lib.city.fujisawa.kanagawa.jp/guide_30.html [11], (参照 2017-04-20).

(8) “「本の宅配ボランティア」がおもてなし…来館困難者に手渡しサービス 奈良県生駒市”. 産経WEST. 2015-06-19.
http://www.sankei.com/west/news/150619/wst1506190029-n1.html [12], (参照 2017-04-20).
“催し物案内:来館するのが困難な人に本の宅配サービスをしています”. 生駒市図書館.
http://lib.city.ikoma.lg.jp/toshow/moyoosi.html [13], (参照 2017-04-20).

(9) “町立図書館 本を自宅へ配達します”. 塙タイムス. 2010-07-23.
http://blog.livedoor.jp/hanawatimes/archives/51569519.html [14], (参照 2017-04-20).
“本の宅配サービスのご案内”. 図書館だより. 2017. 平成29年2月号.
http://www.town.hanawa.fukushima.jp/data/doc/1486605942_doc_10_1.pdf [15] , (参照 2017-05-01).

(10) 筒井晴信. 市立図書館上下分室 お年寄りに本を配達: 難しい外出 利便性図る. 中国新聞. 2014-06-17, 朝刊, p.23.

(11) “いつでも、どこでも、誰でも 読みたい本をお届けします大分県立図書館の「宅配貸出」のお知らせ”. 大分県立図書館豊の国情報ライブラリー.
http://library.pref.oita.jp/kento/guide/service-guide/posting_service.html [16], (参照 2017-04-20).
要覧(抜粋版). 平成27年度, 大分県立図書館, 39p.
http://kyouiku.oita-ed.jp/syakai/H27大分県立図書館要覧(抜粋版).pdf [17], (参照 2017-05-01).

(12)“郵送貸出”. 宝塚市立図書館.
https://www.library.takarazuka.hyogo.jp/guide/yuusou.html [18], (参照 2017-04-20).

(13) “インターネット予約貸出サービスとは”. 北海道立図書館.
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/service/reserve/ [19], (参照 2017-04-20).

(14) “図書宅配サービスについて”. 秋田県立図書館.
https://www.apl.pref.akita.jp/guide/takuhai.html [20],(参照 2017-04-20).

(15) “図書宅配サービス”. 山形県立図書館.
https://www.lib.pref.yamagata.jp/?page_id=260 [21], (参照 2017-04-20).

(16) “資料宅配サービス”. 福島県立図書館.
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/riyoannai/takuhai.html [22], (参照 2017-04-20).

(17) “図書及びCD郵送サービスのご案内”. 埼玉県立図書館.
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/service/yuso_service/tosho_yuso_service.html [23], (参照 2017-04-20).

(18) “宅配貸出サービスのご案内”. 神奈川県立の図書館.
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/common/takuhaia.htm [24], (参照 2017-04-20).

(19) “利用案内”. 県立長野図書館.
http://www.library.pref.nagano.jp/guidance/usage [25],(参照 2017-04-20).

(20) “宮崎県立図書館 図書館資料宅配サービスについて”. 宮崎県立図書館.
http://www2.lib.pref.miyazaki.lg.jp/?page_id=460 [26], (参照 2017-04-20).

(21) “図書宅配サービス”. 宇都宮市立図書館.
http://www.lib-utsunomiya.jp/?page_id=263 [27], (参照 2017-04-20).

(22) “青葉区における有料宅配サービスのご案内”. 横浜市山内図書館.
http://yamauchi-lib.jp/about/images/takuhai.pdf [28], (参照 2017-04-20).

(23) “利用案内”. 広島市立図書館.
https://www.library.city.hiroshima.jp/information/guide/ [29], (参照 2017-04-20).

(24) “図書館サービス”. 高松市図書館.
https://library.city.takamatsu.kagawa.jp/use/service.html [30], (参照 2017-04-20).

(25) “図書宅配サービス”. 恵庭市立図書館.
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1449136654541/index.html [31], (参照 2017-04-20).

(26) “図書送付貸出しサービス”. つくば市立中央図書館.
http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/14214/14274/9054/009235.html [32], (参照 2017-04-20).

(27) “図書宅配便内”. 鎌倉市図書館.
https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/riyo_guide01.html [33], (参照 2017-04-20).

(28) “図書宅配便の利用案内”. 横須市立図書館.
https://www.yokosuka-lib.jp/contents/ksaku/takuhai.html [34], (参照 2017-04-20).

(29) “郵送貸出”. 宝塚市立図書館.
https://www.library.takarazuka.hyogo.jp/guide/yuusou.html [18], (参照 2017-04-20).

(30) “利用あんない”. 筑後市立図書館.
http://library.city.chikugo.lg.jp/riyou.html [35], (参照 2017-04-20).

(31) “宅配サービス”. 出水市立図書館.
http://www.izumi-library.jp/takuhai.html [36], (参照 2017-04-20).

(32) “図書館の本などを商店街の宅配サービスで配送 【福岡県筑後市・羽犬塚商店街・中央商店街】”. EGAO. 2013-11-26.
http://syoutengai-shien.com/news/201311/26-01.html [37], (参照 2017-04-20).

(33) “図書宅配サービス”. 宇都宮市立図書館.
http://www.lib-utsunomiya.jp/?page_id=263 [27], (参照 2017-04-20).

(34) “図書送付貸出しサービス”. つくば市立中央図書館.
http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/14214/14274/9054/009235.html [32], (参照 2017-04-20).

(35) “図書宅配便内”. 鎌倉市図書館.
https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/riyo_guide01.html [33], (参照 2017-04-20).

(36) “郵送貸出”. 宝塚市立図書館.
https://www.library.takarazuka.hyogo.jp/guide/yuusou.html [18], (参照 2017-04-20).

(37) “図書館サービス”. 高松市図書館.
https://library.city.takamatsu.kagawa.jp/use/service.html [30], (参照 2017-04-20).

(38) “宅配サービス”. 出水市立図書館.
http://www.izumi-library.jp/takuhai.html [36], (参照 2017-04-20).

(39) 例えば、青森県立図書館では、障害者等配本サービス(アウトリーチサービス)として、図書の宅配・郵送サービスとアウトリーチサービスを同義に使用している。
“ご利用に際して”. 青森県立図書館.
http://www.plib.pref.aomori.lg.jp/top/guid/infomation.html [38], (参照 2017-04-20).

(40) レイチェル・ボッツマン, ルー・ロジャース. “所有よりもすばらしい”. シェア: <共有>からビジネスを生みだす新戦略.関美和訳. NHK出版, 2010, p.130-157.

[受理:2017-05-15]

 


中山愛理. 公共図書館における郵送・宅配サービスの動向. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1897, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1897 [39]
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369296 [40]

Nakayama Manari.
Books by Mail Service and Delivery Service in Public Libraries.

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CA1898 - 学校図書館の情報交流紙『ぱっちわーく』の24年―学校図書館研究の情報源としての意義― / 高橋恵美子

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カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 

CA1898

 

 

学校図書館の情報交流紙『ぱっちわーく』の24年
―学校図書館研究の情報源としての意義―

法政大学キャリアデザイン学部:高橋恵美子(たかはし えみこ)

 

はじめに

 『全国の学校図書館に人を!の夢と運動をつなぐ情報交流紙 ぱっちわーく』(以下『ぱっちわーく』とする)が、2017年3月、286号をもって終刊となった。創刊は1993年5月、全国の学校図書館の充実と「人」の配置を実現する夢と運動をつなぐ情報交流紙として、国の動きや各地の運動、新聞記事などを、原資料の転載も含め、丁寧に伝えてきた。『ぱっちわーく』は、全国各地の学校図書館充実運動を支えるうえでも、また学校図書館研究のための情報源としても、大きな役割を果たしてきた。『ぱっちわーく』発行を支えたのは、事務局を担当する岡山市の小中学校司書(元学校司書を含む)であり、全国に広がる発行同人であった。当事者の視点からの記事には、発行人であった梅本による記事がある(1)が、本稿では、学校図書館研究の情報源としての『ぱっちわーく』の意義や重要性をまとめてみたい。

 

1.『ぱっちわーく』の創刊と活動

 『ぱっちわーく』は、創刊号から3号まではこの名称だったが、4号(1993年9月8日)からは『全国の学校図書館に人を!の夢と運動をつなぐ情報交流紙 ぱっちわーく』となった。『ぱっちわーく』の名称は、兵庫県の元学校司書土居陽子が名付けたものという。発行当初は隔月刊を考えていたとのことだが、2号から月刊となった(2)。創刊時の1993年は、学校図書館に「専任の専門職員を」という運動が全国各地に広がりつつあった時期で、運動のための情報交流紙が求められていた。1990年代以降の小中学校への学校司書配置実現の背景には、全国の「学校図書館を考える会」といった市民運動の存在があった。そうした運動を結びつけ、必要な情報を提供した『ぱっちわーく』の活動の意義は大きい。

 『ぱっちわーく』は情報交流紙であったが、それ自体が、学校図書館充実のための運動体の側面もあった。たとえば、1994年から95年にかけて、創刊1周年記念「全国縦断 学校図書館を考えるつどい」(富山市、鳥取市、札幌市、東京都北区、長崎県時津町、香川県丸亀市)を開催している。学校図書館に関心のある市民、PTA等の保護者、教師、司書などを集め、学校図書館に「人」がいることで何ができるかを伝え、話し合うつどいである。開催地によって内容が異なるが、ビデオ『本があって、人がいて』(1991年制作)の上映が行われたり、岡山市の小中学校の司書による実践報告が行われたりしたつどいもあった。

 ビデオ『本があって、人がいて』は、学校司書がいる岡山市の小中学校の学校図書館の姿や子どもたちの様子、司書の活動を具体的に伝える内容だった。当時各地の学校図書館を考える会は、この「ビデオを見る会」から活動を始めるところが多かった。『ぱっちわーく』は1994年6月から、購読者に対してこのビデオの貸し出しを始めている。この活動もまた『ぱっちわーく』の運動体としての側面を伝えるものである。

 「全国縦断 学校図書館を考えるつどい」は、2000年から2001年にかけて「Part2」(埼玉県所沢市、横浜市、札幌市)が取り組まれた。

 

2.学校図書館研究の情報源としての『ぱっちわーく』

 『ぱっちわーく』が伝えてきた情報は、1993年以降の学校司書及び学校図書館をめぐる状況を研究するうえで欠かせない情報となっている。掲載記事の内容は、大きく三つに分けられる。(1)全国各地の運動や動向、(2)国の動向、(3)その他、である。

 

2.1 全国各地の運動や動向

 全国各地の運動や動向を伝えることは、『ぱっちわーく』創刊の目的でもある。具体的には「わたしの街・町・まちから」、「新聞あんな記事こんな記事」「学校図書館の「人」をめぐる動き」などの記事があげられる。「わたしの街・町・まちから」は創刊号から終刊号までほぼ継続した記事で、全国各地の運動や会の活動、イベントのお知らせや報告を伝える記事である。運動を伝える記事では実際の要望書・請願書等も含めて伝えている。

 「新聞あんな記事こんな記事」は、折々の学校図書館の動きをコンパクトに伝える記事とともに、通常目にすることのない全国紙の地方版や地方紙の学校図書館関係の記事がとりあげられているのが、貴重である。記事は新聞社の許可を得て転載している。

 「学校図書館の「人」をめぐる動き」は、当初は自治体ごとに行われた司書配置の情報を短文で伝える記事だったが、2007年ごろから求人情報の形式に変わっていく。この記事に関して、発行同人の一員でもある大阪教育大学名誉教授の塩見昇は終刊号(286号)に「通覧すると、いまの「学校司書」がいかに多様で、雇用条件に格差が大きいかをリアルに語っており、貴重な動向記事である」(3)と書いている。

 また「Piece Quilt 全国で学校図書館づくりにとりくんでいる会一覧」は、『ぱっちわーく』でなければできない記事である。「考える会」同士の情報交流のために、名称、代表者、連絡先、活動内容などをまとめている。32号(1996年1月21日)、63号(1998年8月16日)、114号(2002年11月27日)、161号(2006年10月15日)に掲載されている。掲載後に追加記事(会の追加、訂正等)がある場合もあるが、一覧掲載時の会の数は、それぞれ51(32号)、59(63号)、63(114号)、86(161号)となっている。学校図書館づくりに取り組んでいる会が年々全国に広がっていることがわかる。

 各地の動きでは、1990年に全校配置された日野市(東京都)の学校司書(学校図書館事務嘱託員)について、同市の教育委員会が、1997年の学校図書館法改正後に平成15年(2003年)3月31日限りで打ち切ることを決めたことに対して、制度継続を訴えるアピール(日野市の学校図書館をよくする会)を69号(1999年2月21日)に掲載している。学校図書館法改正時の附帯決議で「現に勤務するいわゆる学校司書がその職を失う結果にならないよう配慮する」(4)とあるにもかかわらず、制度を廃止した事例があったことや、それへの反対運動があったことを知ることができる。

 また2006年から毎年1回掲載された学校図書館を考える全国連絡会「東京都公立小・中学校の学校図書館職員(学校司書等)配置状況」も貴重な資料である。2006年、東京都で学校図書館職員を配置した自治体(区・市等)の数は28(掲載は158号、2006年7月16日)、2016年では47(掲載は280号、2016年9月18日)であり、職名や配置形態(専任・兼任等)、資格要件などが、表で示されている。

 

2.2 国の動向

 国の動向についても、詳細な資料を含め充実した記事を掲載している。たとえば、学校図書館の機能を読書センター、学習情報センターと位置付けたのは、文部省(当時)が設置した児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議が1995年に公表した「児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議 報告」である。この報告は28号(1995年9月27日)に、その前段階の「児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議 中間まとめ」は18号(1994年11月13日)に、それぞれ全文掲載されている。

 また、1997年、2014年の学校図書館法改正の動きについても、国の動き、新聞報道、国会会議録、各関係団体の見解などを伝えている。1997年の法改正に関しては、この改正が「学校司書の制度化」を内容としていないことを説明する自由民主党「学校司書教諭に関する小委員会」調査報告、学校司書を専任の司書教諭とする「社会民主党法案」の二つが、34号(1996年3月17日)に掲載されている。2014年の法改正の際には、230号(2012年7月15日)及び号外(2012年7月16日)において、法改正の動きに関する記事や、関連資料を紹介している。

 また近年の文部科学省「学校図書館担当職員の役割及びその資質能力の向上に関する調査研究協力者会議」(2013年度)「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」(2015~2016年度)、それぞれの報告について学校図書館関係者がどう読んだかを伝える特集も組んでいる。前者(5)については252号(2014年5月18日)、後者(6)は283号(2016年12月18日)である。

 

2.3 その他

 その他では、折々の連載記事がある。以下にあげる。

  • 日本全国学校図書館を考える会のこんなことしてます 全14回 1993年~2000年
    各地の「考える会」の活動を紹介する記事。
  • 学校図書館取材日記 全9回 1994年~1995年
    長野県の地方紙の記者による取材日記。
  • 実践から見えてくるもの 全6回 1997年~1998年
    学校司書が自分の実践と実践から考えたことを伝える記事
  • シリーズ 各県高等学校図書館の現状 全10回 1999年~2000年
    職員問題を中心にした各県の高等学校図書館の現状を伝える記事
  • シリーズ ボランティアから学校図書館を考える 全7回 2000年~2002年
    文部省1999年、2000年度「学校図書館ボランティア活用研究実践指定校事業」により、小学校を中心にボランティア活用が広がったことに対し、ボランティアと学校図書館の問題を掘り下げた記事。
  • シリーズ 「司書教諭養成」 全8回 2003年
    司書教諭本格発令の年にあたり、大学で司書教諭養成に関わる先生に、養成カリキュラム、司書教諭、司書教諭と学校司書の関係などをテーマに執筆を依頼。
  • 連載:学校図書館うおっちんぐ 全17回 2007年~2009年
    市民の読者の声に応えて、日常の学校図書館での子どもたちや教師の様子を伝える記事。
  • シリーズ 実践から学校図書館を考える 全5回 2011年~2012年
    実践から学校図書館のあり方、学校司書の専門性を考える記事。

 上記連載記事のほかには講演録、イベント案内、イベント参加報告等がある。
 『ぱっちわーく』には、年1回Scrap Quiltという名称の「記事と新聞記事索引」がある。都道府県ごとにどのような記事と新聞記事があったかを示すもので、特定の地域にしぼって情報を探すことができる。
 

 以上見てきたように、『ぱっちわーく』は、学校図書館の、特に学校司書に焦点を当てて研究する研究者には、貴重な情報源であった。2017年3月をもっての終刊は惜しまれるが、日本の学校図書館の歩みを知る上で、これからも貴重な資料である。

 

(1) 梅本恵. 特集, トピックスで追う図書館とその周辺: 『ぱっちわーく』終刊:学校図書館の「人」をめぐる情報交流を続けて. 図書館雑誌. 2017, 111(2), p.82-83.

(2) 梅本恵. 編集後記. ぱっちわーく. 1993, (2), p.20

(3) 塩見昇. 『ぱっち』の終刊と学校図書館運動の課題. ぱっちわーく. 2017, (286), p.3-7.

(4) 第百四十回国会衆議院会議録第四十一号. 官報(号外). 1997-06-03. p.16.
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/140/0001/14006030001041.pdf [52], (参照2017-04-19).

(5) 学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議. “これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/099/houkoku/1346118.htm [53], (参照:2017-04-19).

(6) 学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議. “これからの学校図書館の整備充実について(報告)”.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/houkoku/1378458.htm [54], (参照:2017-04-19).

[受理:2017-05-15]

 


高橋恵美子. 学校図書館の情報交流紙『ぱっちわーく』の24年―学校図書館研究の情報源としての意義―. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1898, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1898 [55]
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369297 [56]

Takahashi Emiko.
24 years of School Library Campaign News Letter “Pacchiwaku” and the Significance of School Library Research.

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CA1899 - レファレンス協同データベースの登録事例から垣間見る日本のレファレンスサービス / 佐藤 翔, 吉田光男

  • 参照(11345)

PDFファイル [63]

カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 

CA1899

 

 

レファレンス協同データベースの登録事例から垣間見る日本のレファレンスサービス

同志社大学免許資格課程センター:佐藤翔(さとう しょう)
豊橋技術科学大学情報・知能工学系:吉田光男(よしだ みつお)

 

はじめに

 レファレンス協同データベース(レファ協)は国立国会図書館(NDL)が全国の図書館等と協同で構築する、調べ物のためのデータベースである。参加する各図書館等におけるレファレンス事例等の調査内容を登録・蓄積し、インターネットを通じて提供することで、図書館等におけるレファレンスサービスはもちろん、一般利用者の調査研究活動をも支援することをその目的としている(1)。

 2005年4月の本格運用開始から10年以上を経て、レファ協は参加機関が700館以上、登録事例が18万件以上、一般公開事例に絞っても10万件を超える、大規模なデータベースとなっている。レファ協に関する研究も複数行われており(2) (3) (4)、中でも谷本は、登録データはもちろんのこと、参加館に対する質問紙調査等も実施し、事例登録をめぐる問題点や障害に関する丹念な報告を行っている(5)。一方で、レファ協を通じて公開されているレファレンス事例の中身についての詳細な検討は、必ずしも行われてはいない。谷本の指摘のとおり、多くの図書館は未だ事例を登録していないとは言え、公開されている事例だけでも10万件にのぼるレファ協のデータは、日本の図書館のレファレンスの現況を知る材料としても貴重なものになっていると考えられる。そこで本稿では、レファ協で公開されているデータの内容を分析することで、日本のレファレンスサービスに寄せられる質問とそれに対する回答の傾向を垣間見ることを試みたい。

 レファ協には参加機関で行われた質問回答サービスの記録であるレファレンス事例に加え、調べ方マニュアル(特定のテーマ等に関する情報源の調べ方)、特別コレクション(参加機関が所蔵する個人文庫などの特殊コレクションの情報)、参加館プロファイル(参加機関の情報)の計4種類の情報が登録されている。このうち本稿で分析の対象とするのはレファレンス事例の情報である。分析対象データはレファ協のAPI 2.0(6)を用いて取得した、一般に公開されている事例とする。データ取得は2017年2月中旬に実施した。取得時点での参加館のみまたは自館のみが参照できる事例を除く一般公開事例9万6,504件を分析した(7)。分析に使用したデータ及びAPIから最新のデータを生成するプログラムについてはZenodoにて公開している(8)。

1. 事例登録年、登録図書館

 図1は登録年ごとの事例数を示したものである。館種別等の詳細は前述の谷本による調査(9)が詳しいのでここでは割愛するが、基本的に登録データは2010年以降、年間8,000から9,000件程度で推移している。2011、2012年の登録数が突出して多いのは、滋賀県立図書館等、この時期にまとめて過去分までデータ登録を行った図書館があるためである。

 

図1 登録年ごとの事例数(縦軸は件数、横軸は登録年。2017年は2月中旬までの値)

 

 表1は公開されている登録事例数が多い図書館を上位10位まで示したものである。NDLが最も多いのは当然として、2位の埼玉県立久喜図書館を筆頭に、都府県立図書館が10館中7館を占める。大学図書館では近畿大学、市町村立図書館では豊中市(大阪府)の公開事例数が最多である。また、表には含まれないが、専門図書館では日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館(1,016件登録)が最多である。

 

表1 登録事例数上位10機関

図書館名 登録事例数(件) 公開事例中の割合(%)
国立国会図書館 14,145 14.7
埼玉県立久喜図書館 7,994 8.3
近畿大学中央図書館 6,954 7.2
滋賀県立図書館 4,569 4.7
香川県立図書館 3,736 3.9
岡山県立図書館 2,565 2.7
大阪府立中央図書館 1,675 1.7
岐阜県図書館 1,626 1.7
豊中市立図書館 1,576 1.6
東京都立中央図書館 1,428 1.5

 

2. 分類・キーワード

 レファ協では主題による検索を実現するため、レファレンス事例にその事例に該当する日本十進分類法(NDC)の分類記号を任意で付与することができる(最大3つまで)。本稿で対象とする9万6,504件のうち、なんらかの分類記号が付与されていたのは6万7,936件(約70%)であった。

 表2は特に付与件数の多い分類記号上位10位を、表3は0類(総記)から9類(文学)までそれぞれの登録件数と割合を示したものである。レファ協においては付与するNDCは第三次区分(要目)までとすることとされており、4桁以上の記号を付与している例はなかった。表2に示した第三次区分の水準だと、最も多い「210 日本史」を筆頭に、日本の歴史・地理に関わる分類や、日本の文学に関わる分類が付与されている事例が多いことがわかる。一方で、表3に示した通り、第一次区分(類目)の水準で見ると、最も多いのが2類(歴史)に関する事例であることは第三次区分の上位と同様であるが、次に多いのは3類(社会科学)であり、2類(歴史)にひけをとらない事例数が存在する。3類(社会科学)については特定の要目に集中せず、社会に関する様々な質問が寄せられているものと考えられる。逆に事例数が少ないのは0類(総記)、1類(哲学)、8類(言語)などで、特に言語に関する事例は全事例数の3%未満にとどまっている。

 

表2 登録事例数上位の分類記号(10位まで)

分類記号 項目名 登録事例数(件)
210 日本史 6,423
289 個人伝記 2,706
291 日本(地理. 地誌. 紀行) 2,592
911 詩歌(日本文学) 2,103
913 小説. 物語(日本文学) 1,273
910 日本文学 1,137
090 貴重書. 郷土資料.
その他特別コレクション
1,129
213 関東地方 1,078
767 声楽 1,035
386 年中行事. 祭礼 935

 

表3 NDC第一次区分(類目)ごとの事例登録数

類目 登録事例数(件) 公開事例中の
割合(%)
0類 総記 5,671 5.9
1類 哲学 4,276 4.4
2類 歴史 20,051 20.8
3類 社会科学 18,096 18.8
4類 自然科学 6,800 7.0
5類 技術 7,601 7.9
6類 産業 6,223 6.4
7類 芸術 9,176 9.5
8類 言語 2,766 2.9
9類 文学 8,051 8.3

 

 また、レファ協では分類記号と同じく主題による検索を実現するために、「レファレンス事例の中心的な内容や主要な概念を表現している語」を「キーワード」として付与することができる(付与するか否かは任意で、自由語を複数登録できる)。なんらかのキーワードが付与されていた事例は6万6,486件(公開事例の約69%)で、分類記号と同程度の付与状況であった。

 表4は付与件数の多いキーワード上位5位を示したものである。「城跡」、「香川県」、「郷土資料」、「歴史」など、地域や歴史に関するキーワードが多いことがわかるが、最も付与数が多いキーワードでも「城跡」の874件にとどまった。付与されたキーワードは全体でのべ10万4,522件に及び、登録されている事例の内容は多様であることがうかがえる。

 

表4 登録事例数上位のキーワード(5位まで)

キーワード 登録事例数(件)
城跡 874
香川県 681
郷土資料 626
歴史 569
統計 503

 

3. 解決状況

 レファ協にはレファレンス質問が解決したのか、未解決のままなのかを任意で付与できる、「解決/未解決」の項目がある。解決状況が登録されていた事例は7万8,229件(公開事例の約81%)で、そのうち解決済みのものは7万2,815件(解決状況登録事例の約93%)、未解決のものは5,414件(同じく約7%)であった。レファ協登録事例のほとんどは解決済みの事例であることがわかる。

 若干ではあるが、分類によって解決状況には異なる傾向が見られる。表5は付与されている分類記号(第一次区分)ごとに、解決事例数、未解決事例数、未解決事例の割合を示したものである。なお、分類記号は一事例に複数付与できるため、表5の事例数の合計は全事例数に一致しない。3類(社会科学)の事例で未解決の割合が5.9%と低い一方で、0類(総記)、8類(言語)などでは未解決の割合が約10%に至っている。類ごとに統計的有意差を見ると、3類(社会科学)に属する事例は他の事例より統計的に有意に未解決割合が低く(カイ二乗検定、片側検定、p<0.01)、0類(総記)、6類(産業)、7類(芸術)、8類(言語)、9類(文学)は有意に未解決割合が高かった(カイ二乗検定、片側検定、p<0.01)。レファ協登録事例に限って言えば、3類(社会科学)に属する質問はより解決済みのものが多い一方、0類(総記)、6類(産業)、7類(芸術)、8類(言語)、9類(文学)は未解決のものがより多いと言える。

 

表5 NDC第一次区分(類目)ごとの解決状況

類目 解決数(件) 未解決数(件) 未解決数の
割合(%)
0類 総記 4,271 489 10.3
1類 哲学 3,143 248 7.3
2類 歴史 14,576 1,076 6.9
3類 社会科学 12,566 785 5.9
4類 自然科学 4,513 313 6.5
5類 技術 5,364 392 6.8
6類 産業 4,328 409 8.6
7類 芸術 6,426 576 8.2
8類 言語 1,850 205 10.0
9類 文学 5,848 559 8.7

 

4. 質問・回答文の長さ

 10万件近くにも及ぶ(データ取得時点)レファレンス事例中の質問・回答について、詳細な内容分析を行うには時間がかかるが、単純に質問文と回答文の長さを分析するだけでも、一定の知見を得ることができる。

 表6は質問文、回答文それぞれの単純な統計量を見たものである(10)。質問文は平均値約66文字、中央値40文字に対し、回答文は平均値約402文字、中央値220文字で、当然ながら質問文よりも回答文の方が長く、5倍程度になっている。また、これも当然と言えば当然ではあるが、質問の長さと回答の長さには有意な正の相関関係があり、質問が長いほど回答も長い傾向がある。ただし、両者の相関は必ずしも強くはない(スピアマンの順位相関係数。p<0.01、ρ=0.222)。なお、質問文・回答文ともデータの偏りが大きく(一部の極端に長い文が平均値に影響している)、正規分布していないことから、以下の分析では代表値として中央値を、統計的検定にはノンパラメトリック検定(データが正規分布していることを前提としない検定)を用いる。

 

表6 質問文・回答文の統計量

  質問文(文字) 回答文(文字)
平均値 65.7 401.9
中央値 40 220
標準偏差 84.77 560.43

 

 分類によって、質問文・回答文の長さには異なる傾向がある。表7は付与されている分類記号(第一次区分)ごとに、質問文・回答文の長さの中央値をまとめたものである。質問文については1類(哲学)・2類(歴史)に属する事例では短く、0類(総記)・9類(文学)に属する事例で長い傾向がある。一方で回答文については5類(技術)が最も長く、その他6類(産業)・1類(哲学)・4類(自然科学)で長く、8類(言語)や9類(文学)では短い。この分類による傾向の違いは、8類(言語)における質問文の長さを除き、全て統計的に有意である(マン・ホイットニーのU検定、p<0.05)。詳細については文の内容の分析に踏み込む必要があるが、主題によって質問や回答の長さには異なる傾向があるようである。

 また、レファレンス事例の解決状況と質問文・回答文の長さにも有意な関係が認められる。表8は解決状況と質問文・回答文の長さの中央値をまとめたものであるが、表のとおり、回答文についてはわずかな差であるが、質問文については未解決事例の方が顕著に長い。この差はいずれも統計的に有意である(マン・ホイットニーのU検定、p<0.05)。より長い質問の方が、解決しない事例が多いことがここからうかがえる。

 

表7 NDC第一次区分と質問・回答文の長さ(中央値)

類目 質問文(文字) 回答文(文字)
0類 総記 45 192
1類 哲学 31 265
2類 歴史 31 188
3類 社会科学 37 237
4類 自然科学 35 252
5類 技術 35 279
6類 産業 36 265
7類 芸術 36 207
8類 言語 37 178
9類 文学 43 174

 

表8 解決状況と質問・回答文の長さ(中央値)

解決状況 質問文(文字) 回答文(文字)
解決 42 222
未解決 62 227

 

5. 言及URL

 レファ協には回答を作成するにあたって参考にした資料を登録する「参考資料」欄が設けられているが、同欄は主に人間が閲覧することを前提にした、自然言語による情報の登録がなされており、機械的にその内容を分析することは(例えば登録されている資料が図書なのか論文なのか等を特定し、書誌事項を同定することは)必ずしも容易ではない。しかしその中でウェブページのURLについては、機械的に同定し、よく言及されるウェブサイト等を特定することが比較的容易である。そこでなんらかのURLを含むレファレンス事例について、そのURLを抽出し、分析した(なお、ここではあえて参考資料欄に限ることはせず、質問文・回答文中などのURLも分析に加えている)。なんらかのURLに言及していたレファレンス事例は3万3,204件(公開事例の約34%)で、言及されていたURLののべ数は11万2,742件であった。

 表9はレファレンス事例からの言及数が多いFQDN(完全修飾ドメイン名。Fully Qualified Domain Name)上位10位までを示したものである。最も多いのは国立国会図書館サーチのURLで、2万5,000件以上と群を抜いている。次いでCiNii(ArticlesとBooks、Dissertationsのすべてを含む)、国立国会図書館デジタルコレクション、レファ協自身と続く。そのほかリサーチ・ナビやWebcat Plus、NDL-OPACなど、NDLをはじめ国立情報学研究所(NII)など、図書館関係のリソースへの言及が多いのは予想の範囲内である。一方で、Yahoo!百科事典、コトバンク、Wikipedia日本語版など、オンライン事典類への言及も一定程度以上、存在する。ここで特徴的なのは一般により広く普及していると考えられるWikipedia日本語版よりも、Yahoo!百科事典(『日本大百科全書』をベースとしたオンライン事典。2013年にサービス終了)やコトバンク(朝日新聞社が主体となって運営するオンライン事典)への言及の方が多いことである。レファ協に事例を登録する図書館において、オンライン事典に言及する場合であっても、編集・運営者の素性が重視されていることがここからうかがえる。

 

表9 言及数上位のFQDN(10位まで)

FQDN ウェブサイト名 言及数
iss.ndl.go.jp 国立国会図書館サーチ 25,745
ci.nii.ac.jp CiNii 4,082
dl.ndl.go.jp 国立国会図書館デジタルコレクション 3,050
crd.ndl.go.jp レファレンス協同データベース 2,574
100.yahoo.co.jp Yahoo!百科事典 1,927
kotobank.jp コトバンク 1,918
rnavi.ndl.go.jp リサーチ・ナビ 1,722
webcatplus.nii.ac.jp Webcat Plus 1,104
opac.ndl.go.jp NDL-OPAC 1,074
ja.wikipedia.org Wikipedia日本語版 1,039

 

おわりに

 本稿ではレファ協に登録・公開されているレファレンス事例9万6,504件の分析から、日本のレファレンスサービスにおける質問・回答の概況を示すことを試みた。あくまでレファ協参加機関が、公開しても構わないと考えた事例のみに基づく結果ではあるものの、一定の傾向は垣間見えたと言えよう。分析結果からわかった主な傾向は以下のとおりである。

  • 分類としては2類(歴史)、3類(社会科学)に関する質問が多い。2類(歴史)の中では日本の歴史・地域の歴史や郷土に関する質問が多い。0類(総記)、1類(哲学)、8類(言語)に関する質問は少ない。
  • 登録された質問の大多数は解決済みである。中でも3類(社会科学)は解決済みの質問が多いが、0類(総記)、8類(言語)については未解決の質問も1割程度、登録されている。
  • 質問・回答の長さには分類によって異なる傾向がある。また、未解決の事例は質問文が長い傾向がある。
  • なんらかのURLを記載する場合、国立国会図書館サーチやCiNiiをはじめ、図書館関係のリソースか、オンライン事典類がよく参照されている。オンライン事典の中ではWikipediaよりもコトバンク等、編集・運営者が確かであるものへの言及が多い。

 本稿では扱わなかったが、事例登録館を区別しての分析(例えばNDLと都道府県立図書館、市町村立図書館、大学図書館、専門図書館など)や、質問文・回答文の内容の分析にまで踏み込めば、より有益な知見を見出すこともできるであろう。レファ協のデータはAPIを通じて誰でも利用できる状況にあり(11)、日本のレファレンスサービス研究の共通のデータ基盤としても、レファ協の存在には大きな意義がある。

 

(1)国立国会図書館. “レファレンス協同データベース事業実施要項”. レファレンス協同データベース.
http://crd.ndl.go.jp/jp/library/documents/collabo-ref_guide.pdf [64], (参照 2017-03-17).

(2)谷本達哉, 兼松芳之. レファレンス事例データベースの協同構築事業におけるデータ登録の現状と問題点: 国立国会図書館「レファレンス協同データベース」を対象として. 図書館情報メディア研究. 2013, 11(1), p.11-21.
http://hdl.handle.net/2241/120075 [65], (参照 2017-03-17).

(3)谷本達哉, 兼松芳之. 図書館の情報サービスが持つ可能性 :国立国会図書館レファレンス協同データベース事業, その軌跡と展開. 図書館界. 2012, 64(2), p.142-153.
http://doi.org/10.20628/toshokankai.64.2_142 [66], (参照 2017-05-24).

(4)谷本達哉. 国立国会図書館レファレンス協同データベース事業に関する研究. 筑波大学, 2016, 博士論文.
http://hdl.handle.net/2241/00145213 [67], (参照2017-03-17).

(5)前掲.

(6)国立国会図書館. “外部提供インタフェース(API1.0,API2.0)”. レファレンス協同データベース.
http://crd.ndl.go.jp/jp/help/crds/api.html [68], (参照 2017-03-17).

(7)“レファレンス協同データベースのインターネット公開件数が10 万件を突破しました!”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2016/__icsFiles/afieldfile/2017/03/01/pr170303.pdf [69], (参照 2017-03-17).

(8)Collabolative Reference Database as of 2017-02-17.
https://doi.org/10.5281/zenodo.573265 [70], (accessed 2017-06-01)

(9)谷本. 前掲.

(10)質問文・回答文の文字数については全角・半角を問わずに集計している。そのため、質問文・回答文中にURLを含む場合などには文字数を見かけの長さよりも多めに計算している場合がありうる。また、回答に至るまでのプロセスについては回答そのものとは別に、「回答プロセス」(ans-proc)項目に記述されている場合があるが、回答プロセスについては回答文の長さの集計には加えていない。

(11)レファ協のAPIの使用にあたっては、以下のマニュアルが用意されている。
国立国会図書館. “レファレンス協同データベース・システム操作マニュアル(一般利用者用)”. レファレンス協同データベース.
http://crd.ndl.go.jp/jp/help/general/api.html [71], (参照 2017-03-17).

[受理:2017-05-15]

 


佐藤翔, 吉田光男. レファレンス協同データベースの登録事例から垣間見る日本のレファレンスサービス‐. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1898, p. 8-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1899 [72]
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369298 [73]

Sato Sho, Yoshida Mitsuo.
Current Status of Reference Services in Japanese Libraries Analyzed with the Collaborative Reference Database .

カレントアウェアネス [41]
レファレンスサービス [74]
データベース [75]
電子情報資源 [76]
日本 [48]
公立図書館 [50]
大学図書館 [77]
専門図書館 [78]
国立国会図書館 [79]

CA1900 - 国立国会図書館による博士論文収集の現況と課題 / 渡部 淳

  • 参照(10470)

PDFファイル [80]

カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日



CA1900

 

 

国立国会図書館による博士論文収集の現況と課題

関西館電子図書館課:渡部淳(わたなべ じゅん)

 

1. はじめに

 2013年4月1日に、学位規則の一部を改正する省令(平成25年文部科学省令第5号)が施行され、博士の学位の授与に係る論文(以下「博士論文」という)は、インターネットの利用により公表することとされた(E1418 [81] 参照)。

 国立国会図書館(NDL)は、電子形態で公表される博士論文について、学位授与機関からの送信による収集を2014年2月4日に、機関リポジトリからの自動収集を2015年2月1日に開始した。

 本稿は、収集開始から3年が経過したのを機に、NDLにおける学位規則改正後の博士論文の収集状況を紹介するとともに、学位授与機関における博士論文のインターネットによる公表状況についての調査結果を報告する。

 

2. NDLにおける博士論文の収集

2.1. 収集方法

 NDLは、学位規則改正後の博士論文について、公表形態に応じて、以下のように収集している。

 第一に、所定の条件(1)を満たした機関リポジトリで公表される博士論文は、国立情報学研究所(NII)の学術機関リポジトリデータベース(IRDB)と連携し、システムにより自動収集する(2)。

 第二に、学位授与機関のウェブサイト等で公表される博士論文は、当該学位授与機関からの送信により収集する。

 第三に、学位規則で定める「やむを得ない事由」があり、全文がインターネット公表されない博士論文については、電子形態であれば当該学位授与機関からの送信により収集し、冊子形態であれば学位規則改正前と同様、冊子形態のものを学位授与機関からの送付により収集する。

 なお、文部科学省では、教育研究成果のオープンアクセス(OA)化を含め知的情報の蓄積・発信のための重要な手段として機関リポジトリを位置付けており、機関リポジトリでの博士論文公表を原則としている(3)。NDLにおいても、学位授与機関からの送信・送付作業が不要となるため、可能な限り機関リポジトリで博士論文が公表されることを期待している。

 

2.2. 収集状況

 NDLにおける学位規則改正後の博士論文の収集実績(2017年3月末現在)は表1の通りである。

 

表1 博士論文の収集実績(2017年3月末現在)

  収集件数(文字)
自動収集 22,229
電子形態の送信 9,042
冊子形態の送付 4,746
合計 36,017

(注)2013年度以降学位授与分

 

 文部科学省によれば、2013年度の学位授与件数は1万5,427件であるが(4)、2014年度以降の学位授与件数については、まだ公表されていない。そこで、NDLが受領した学位授与報告書の写し(5)を利用して、収集率を試算した。

 NDLが2017年3月末までに受領した学位授与報告書の写しの件数は4万4,068件である。よって、収集率は81.7%、未収集件数は8,051件であり、18.3%が収集できていないと推測される。

 

2.3. 未収集の原因

 2016年4月に、収集率が20%未満かつ未収集の論文が20件以上ある34大学の2,950件の博士論文について、未収集の原因を調査した。結果は表2の通りである。

 

表 2  博士論文の未収集の原因

原因 大学数 論文数
(1)機関リポジトリで博士論文全文を公表しているが、「著者版フラグ」に「ETD」と入力されていない。 7 602
(2)機関リポジトリで博士論文全文を公表しているが、junii2 ガイドラインで定められた書式と異なった記述をしているため、IRDB へのハーベストがエラーになっている。 6 445
(3)上記(1)(2)の原因が重複している。 11 1,189
(4)機関リポジトリで博士論文全文を公表しているが、機関リポジトリがIRDB へのハーベスト対象外である。 2 55
(5)機関リポジトリで博士論文全文を公表しているが、機関リポジトリの仕様により、PDF ファイルではなくHTML ファイルが収集されてしまう。 1 159
(6)機関リポジトリでも大学のウェブサイトでも博士論文全文を公表していない。 7 500
合計 34 2,950

 

 まず、IRDBとの連携により自動収集の対象となるのは、NIIが策定したメタデータ・フォーマット“junii2”(6)に対応している機関リポジトリに登録されている博士論文のうち、以下の2つの条件を満たすものである。

  • 「著者版フラグ(textversion)」(7)の値が「ETD」
  • 「学位授与年月日」が「2013-04-01」以降の日付

 すなわち、機関リポジトリに博士論文全文を登録していても、「著者版フラグ」の値が「ETD」以外だと、NDLに自動収集されない。

 また、junii2ガイドラインで定められた書式と異なった記述をしているため、機関リポジトリのIRDBへのハーベストがエラーになることがある。例えば、junii2バージョン3.1では、学位授与番号は「10100甲第123456号」のように、「科研費機関番号(5桁)+[甲|乙|*]+第*+報告番号+号」(*は0字以上の任意の文字列)の形式で記述するルールとなっている(8)。科研費機関番号を入力せず、「甲第123456号」とのみ記述すると、エラーが発生し、IRDBにハーベストされず、NDLが博士論文を自動収集できない。

 NDLでは、未収集の原因を特定後、表2の(1)から(3)の原因を有する大学に対しては、正確なメタデータ処理をするよう依頼している。表2の(4)から(6)の原因を有する大学に対しては、電子形態の博士論文を送信するか、又は郵送により冊子形態の博士論文を送付するよう依頼している。

 

2.4. 収集すべきでないデータの誤収集

 NDLでは、機関リポジトリから自動収集した博士論文について、メタデータ・全文ファイル等を確認した上で、国立国会図書館デジタルコレクション(9)で公開している。しかし、本来収集対象ではないファイルが誤って収集されているケースがある。2017年3月までに誤って収集されたデータは2,108件に達し、自動収集による収集件数全体の8.7%に相当する。

 誤収集の主なケースは以下の通りである。

  • 要約又は要旨のみの公表であるが、「著者版フラグ」に「ETD」と入力されている。
  • 別の著者の博士論文が誤って登録されている。
  • 博士論文本文へのリンクURLが誤っているため、PDFファイルではなく、HTMLファイルが収集される。

 これら収集対象外のデータについては、国立国会図書館デジタルコレクションでは公開していない。

 その他にも、著者名やタイトルに誤字脱字やスペルミスがある、学位授与番号や学位授与年月日が学位授与報告書の記載と一致していない等のメタデータの誤りも散見される。

 NDLでは、以上のような状況が判明した場合、学位授与機関に対してメタデータの修正を依頼している。

 

3. 学位授与機関におけるインターネット公表状況

 学位規則の改正によって、博士論文は原則として、その全文がインターネット公表されることになった。しかし、博士論文が立体形状による表現を含む場合や、全文の公表により学位授与者に明らかな不利益が生じる場合など、「やむを得ない事由」があると学位授与機関が承認した場合には、博士論文の全文に代えて、その要約を公表することができると定められている(10)。

 機関リポジトリ推進委員会の調査によれば、2013年度学位授与の博士論文について、2014年11月3日時点での全文公表率は約28%であった(E1707 [82] 参照)。

 そこでNDLでは、学位規則改正後の博士論文について、2017年3月末時点での学位授与機関におけるインターネット公表の状況を調査した。

 博士論文全件の公表状況を調査するのは困難なため、まず以下のように類型化し、「公表」又は「未公表」と判定した。

  • (1)NDLが機関リポジトリから自動収集した博士論文→「公表」と判定。
  • (2)NDLが学位授与機関から電子形態の送信により収集した博士論文
    • 「掲載URL」入力あり→サンプル調査を実施。
    • 「掲載URL」入力なし→「未公表」と判定。
  • (3)NDLが学位授与機関から冊子形態の送付により収集した博士論文→「未公表」と判定。
  • (4)NDLが未収集の博士論文→サンプル調査を実施。

 (2) について、NDLでは学位授与機関に対して、インターネット公表している博士論文を送信する場合、メタデータ項目の「掲載URL」を入力するよう、依頼している。

 ただ、「掲載URL」が入力されていても、博士論文全文ではなく、要約のみ公表の場合があるので、「掲載URL」入力ありの博士論文については、サンプル調査を実施し、全文を公表しているかどうかを調べた。一方、「掲載URL」入力なしの博士論文については、「未公表」と判定した。

 電子形態の送信により収集した博士論文は9,042件であり、このうち「掲載URL」の入力があるものは327件であった。この327件のうち無作為に抽出した30件を調査したところ、博士論文全文のインターネット公表が確認できたのは、22件(73.3%)であった。よって、327件×73.3%=240件を「公表」と推計した。

 (4) について、NDLが未収集の博士論文でも、NDLが収集できていないだけで、インターネット公表している場合がありうる。そこで、「2.3 未収集の原因」の表2で挙げた34大学の博士論文を用いて、サンプル調査を実施した。34大学2,950件のインターネット公表状況は、表3の通りである。

 

表 3  未収集博士論文のインターネット公表状況

インターネット公表状況 大学数 論文数
機関リポジトリで博士論文全文を公表している。 27 2,450
大学のウェブサイトで博士論文全文を公表している。 0 0
機関リポジトリでも大学のウェブサイトでも博士論文全文を公表していない。 7 500
合計 34 2,950

 

 インターネット公表が確認できたのは、2,450件(83.1%)であった。「2.2 収集状況」で算出した通り、未収集の博士論文は8,051件である。よって、8,051件×83.1%=6,690件を「公表」と推計した。

 以上をまとめると、以下の表4の通りである。全体のインターネット公表率は66.2%程度と推測される。

 

表 4  博士論文全文のインターネット公表率

  件数 公表件数 公表率
自動収集 22,229 22,229 100%
電子形態の送信 9,042 240 2.7%
冊子形態の送付 4,746 0 0.0%
未収集 8,051 6,690 83.1%
合計 44,068 29,159 66.2%

(注)「電子形態の送信」「未収集」の公表件数については推計値

 

おわりに

 学位規則の改正によって、原則として、すべての博士論文がインターネット公表されることになった。しかし、インターネット公表の状況は完全とはいえない。個人情報の保護、多重公表を禁止する学術ジャーナルへの掲載等、「やむを得ない事由」がある博士論文が多いためと推測される。博士論文全文をインターネット公表できない場合には、その要約を公表することとされているが、今回の調査の過程で、全文も要約も公表していない学位授与機関が確認された。博士論文は、高い学術的価値を有する貴重な文献資料である。教育研究成果の電子化及びOAの推進という、学位規則改正の趣旨に則り、インターネット公表の徹底が望まれる。

 一方で、NDLは資料を広範に収集し、後世に伝えるという使命を持っている。しかし、電子形態の博士論文については、機関リポジトリにおけるメタデータの誤りのため、本来収集すべきものが収集されず、収集すべきでないものが収集されてしまう事態も生じている。機関リポジトリ推進委員会は「博士論文登録時に間違いやすい3項目」を作成し、注意を喚起している(11)。NDLが博士論文を網羅的に収集し、後世に永く保存するために、学位授与機関におかれては、正確なメタデータ処理に協力していただけると幸いである。

 

(1) NIIの学術機関リポジトリデータベース(IRDB)にメタデータを提供していること、NIIが策定したメタデータ・フォーマット“junii2”の改訂版(バージョン3.0以降)に対応していること、の2つの条件がある。

(2) 自動収集の仕組みは次の通りである。(1)IRDBが学位授与機関の機関リポジトリから博士論文のメタデータをOAI-PMHにより収集する。(2)NDLがIRDBから博士論文のメタデータをOAI-PMHにより収集する。(3)NDLが博士論文のメタデータ内に記述されたURLに基づき博士論文の電子ファイルを収集する。

(3) “学位規則の一部を改正する省令の施行等について(通知)(24文科高第937号 平成25年3月11日)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakuin/detail/1331796.htm [83], (参照 2017-03-13).

(4) 文部科学省高等教育局大学振興課. “平成25年度博士・修士・専門職学位の学位授与状況”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/01/26/1299723_10.pdf [84], (参照 2017-03-13).

(5) NDLでは学位授与機関に対して、学位規則第12条の規定により文部科学大臣に提出する学位授与報告書の写しを、NDLにも電子メールで送付するよう依頼している。
“国内博士論文の収集”. 国立国会図書館.
http://ndl.go.jp/jp/aboutus/hakuron/index.html#chap4 [85], (参照 2017-03-13).

(6) junii2 の詳細は次のウェブページを参照。
“メタデータ・フォーマット junii2”. 国立情報学研究所.
https://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/junii2.html [86], (参照 2017-03-13).

(7) 著者版フラグとは、登録されている博士論文のバージョンを示すメタデータ項目である。博士論文の全文ファイルを含む場合は「ETD」と記入し、要約や要旨などの場合は「none」と記入する。
“junii2ガイドラインバージョン3.1”. 国立情報学研究所.
https://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/junii2guide_ver3.1.pdf [87], (参照 2017-03-13).

(8) “国会図書館へ提出するメタデータのフォーマットチェック”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/irdb_harvest.html#8 [88] , (参照 2017-03-13).

(9) “国立国会図書館デジタルコレクション”. 国立国会図書館.
http://dl.ndl.go.jp/ [89], (参照 2017-03-13).

(10)学位規則第9条第2項の規定による。
“学位規則(文科省令第23号 平成28年4月1日)”. 電子政府の総合窓口 e-Gov.
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S28/S28F03501000009.html [90], (参照 2017-03-13).

(11)‟博士論文登録時に間違いやすい3項目”. 機関リポジトリ推進委員会.
https://ir-suishin.repo.nii.ac.jp/?action=common_download_main&upload_id=879 [91], (参照 2017-03-13).

[受理:2017-05-12]

 


渡部淳. 国立国会図書館による博士論文収集の現況と課題. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1900, p. 13-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1900 [92]
DOI:
http://doi.org10.11501/10369299 [93]

Watanabe Jun.
The Current Status and Problems Concerning the Acquisition of Doctoral Dissertations by the National Diet Library.

カレントアウェアネス [41]
学術出版 [94]
機関リポジトリ [95]
デジタルアーカイブ [96]
メタデータ [97]
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国立国会図書館 [79]

CA1901 - 動向レビュー:デジタル教科書の導入と著作権制度 / 大谷卓史

  • 参照(10891)

PDFファイル [98]

カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 


CA1901

動向レビュー

 

デジタル教科書の導入と著作権制度

吉備国際大学アニメーション文化学部:大谷卓史(おおたに たくし)

 

1. なぜデジタル教科書か

 2011年、文部科学省が公表した、2020年に向けての教育の情報化の基本方針である「教育の情報化ビジョン」においては、教育の情報化とは、(1)子どもたちの情報活用能力を育成する「情報教育」、(2)「教科指導における情報通信技術の活用」、(3)「校務の情報化」の3つの側面を通して、教育の質の向上を目指すことだとされている(1)。

 (2)「教科指導における情報通信技術の活用」を扱う同ビジョン第3章「学びの場における情報通信技術の活用」によると、情報通信技術の活用によって、従来の「一斉指導による学び(一斉学習)」に加え、「子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)」、「子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)」の推進を目指すとしている。

 同章において、デジタル教科書は、「いわゆるデジタル教科書」として、次のように定義される。

  • 「デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除などの基本機能を備えるもの」(2)。

 さらに、「いわゆるデジタル教科書」は、教員が電子黒板等により子どもたちに提示して指導するための「指導者用デジタル教科書」と、主に子どもたちが個々の情報端末で学習するための「学習者用デジタル教科書」の2つに大別されるとする。

 今後登場が予定される後者の「学習者用デジタル教科書」は、とくに、個別学習や協働学習への寄与が期待されている。

 個別学習に関しては、学習履歴の把握・共有による個別指導(3)や、デジタル教材との組み合わせによって、必要な情報や機能を選び抽出して利用することで、子どもたちがその特性や発達の段階、興味・ニーズに応じて学べるなどのことが期待されている。また、弱視や識字・学習の障碍などを持つ子どもが、文字の拡大機能や読み上げ機能などを活用して、効果的な学習を進めることも強く期待される点である。

 一方、協働学習においては、ネットワークを介してデジタル教科書を仲立ちとして、教員と子どもたち、または、子どもたち同士が双方向にコミュニケーションすることが想定されている。現在電子書籍で実現されているソーシャルブックマークやネットワークを介する書き込みの共有などが、「いわゆるデジタル教科書」には、基本的な機能として求められることとなりそうである。

 2016年12月に公表された「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議 最終まとめ」(以下、検討会議まとめ)では、「デジタル教科書(教材)」は、ICTを活用する授業を実現する教材の一つとして位置付けられている。ICT活用授業は、児童生徒の資質・能力等をさらに育み、効果的・効率的な授業運営を可能にすることなどから、「主体的・対話的で深い学び」の実現に大きく貢献するものとされる(4)。

 

2. 「いわゆるデジタル教科書」

 ところが、すでにみたように、文部科学省の文書においては、デジタル教科書は「いわゆるデジタル教科書」(または、「いわゆる『デジタル教科書』」)と、一定の留保付きの表記が行われている。このように、留保付きの表現であるのは、その教科書としての位置付けがいわば宙に浮いているからと考えられる。

 一般的な認識では、デジタル教科書とは、小・中学校の義務教育課程および高等学校における検定済教科書をデジタル化したものと見なされ、これまで特定の教科や単元、テーマについて制作され、試行的・実験的に活用されてきた。ところが、その一方で、そもそも「検定済教科書をデジタル化したもの」に検定が必要か、それが検定済教科書とどのような関係にあるのかなど、その位置付けが決まっていなかった。つまり、制度上「(検定済)教科書」(5)とはいえない宙に浮いたものだった。それゆえ、「いわゆる」という留保付きの表現で語られてきたと考えられる。

 検討会議まとめにおいても、「いわゆる『デジタル教科書』」と表現され、「教科書発行者から補助教材として制作・販売されている『デジタル教科書』を、便宜上、『デジタル教科書(教材)』と呼ぶ」(6)としている。

 検討会議まとめにおいては、デジタル教科書は紙の教科書と同一の学習内容(コンテンツ)であって、それゆえにビューワの活用でレイアウトの変更が可能であるとしても(7)、改めて検定を経る必要がないものとする一方、あくまでも紙の教科書と併用する補助教材という位置付けとされている(8)。

 

3. デジタル教科書の著作権制度上の課題

 本章においては、デジタル教科書にかかわる著作権制度上の課題にはどのようなものがあるか検討する。

 

3.1. 「いわゆるデジタル教科書」と著作権法第33条

 検定済教科書等における著作物の利用に関して、「学校教育の目的上必要と認められる限度において」著作権者に許諾の必要がないと定めた著作権法第33条においては、対象となる「教科用図書」は、初中等教育における「児童用又は生徒用の図書であつて、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するもの」としている。

 ところが、「いわゆるデジタル教科書」は、すでに見たように、検定教科書と同一内容であるものの、検定の必要がないなど制度上の取り扱いが教科書と同一ではない。すなわち、学校教育法上使用義務がある教科用図書ではないことから、著作権法第33条の権利制限規定の対象とはならない可能性が高い(9)。

 著作権者に許諾を得たうえで、著作物掲載の(補償金ではなく)著作権使用料を支払うこととなることを考えると、一般的に、報酬が高額になる可能性が考えられる。著作権使用料支払いが高額になることで、「いわゆるデジタル教科書」の制作費も高騰し、価格は高いものとなるかもしれない。

 デジタル教科書に関しては無償供与が望ましいとの意見が強いものの、義務教育諸学校の教科用図書の無償供与措置の対象となることは直ちには困難であるとされる(10)。上記の著作権使用料支払いの高騰による高価格化は、家計の教育費負担を増加させるだろうし、無償供与措置対象となる場合にも、価格高騰を許せば財政に負担を及ぼすこととなる。逆に、価格高騰を抑えるため、検定教科書と同様に、デジタル教科書の購入価格(制作費)の上限を定めるならば、著作権使用料が支払えないため、貧しい内容となる可能性がある。また、デジタル教科書の内容は検定教科書と同一内容であるという条件を考えれば、検定教科書の内容も貧しくなる可能性もあるだろう(11)。

 

3.2. デジタル教科書と公衆送信権・伝達権

 著作権法第23条は、著作者がその著作物を公衆送信する権利と受信装置を用いて公に伝達する権利を専有すると定める(12)。

 ところで、著作権法第35条第1項においては、授業の過程での使用を目的とする複製(13)、同法第38条第1項においては、著作物の非営利・無料・無報酬での上演・演奏・上映・口述ができるとする。そして、同法第38条第3項においては、放送される著作物は、(営利かつ公衆から視聴料金を取る場合も)通常の家庭用受信装置を用いて公に伝達することができるとされる(14)。

一般的に、インターネット上で提供される著作物を閲覧する場合、その電子データをクライアント(PCやタブレットPC、スマートフォンなど)にダウンロードする。このとき、このダウンロードした著作物はハードディスク等に再び閲覧できる形で保存されていて、インターネットへの接続を切っても、繰り返し閲覧ができる。この場合、著作権法上、サーバーからクライアントに対して複製が行われていることになる。

 デジタル教科書においては、本文や写真・図表等にハイパーリンクを埋め込むことができるので、教員や生徒・児童が教室において、電子黒板等にインターネット上の著作物を表示することができる。この著作物がクライアントにダウンロードされる場合、自動公衆送信→受信→ダウンロード(複製)→表示(上映)の手順を経ることから、著作権法第35条第1項・第38条第1項の規定から、無許諾での複製および上映は適法と解釈できる(15)。

 ところが、学校教育法上の学校における授業の過程での利用目的であっても、ストリーミング方式(16)の映像(音楽を伴うものも含む。以下同様)に関しては、インターネット上の著作物をスクリーンやディスプレイ等で表示して、学校教育法上の学校において授業を受ける者(学生・生徒・児童等)に視聴・閲覧させることは、著作権法上(少なくとも形式的に)違法となる可能性がある(17)。

 なぜならば、教室における電子黒板等によるストリーミング方式の映像の提示は、自動公衆送信→受信→表示(伝達)と解釈する余地があって、このように解釈すると、著作権法第35条第1項・同法第38条第1項による著作権の制限の対象とはならないからである。

 まず前提として、次の2点を確認しておこう。

  • (1) 公衆送信された著作物が複製(自動公衆送信の場合、ダウンロード)されたうえでディスプレイ・スクリーン等に表示された場合には、著作権法上は「上映」(第2条第1項第1号、第22条の2)に当たる。
  • (2) 一方、放送・有線放送された著作物が、複製されることなく、ディスプレイ・スクリーン等に表示された場合は、「伝達」(同法第23条第2項)に当たる。

 悩ましいのは、ストリーミング方式による映像の提示が、「上映」に当たるか、「伝達」に当たるか解釈に迷う点があることである(ただし、結論としては「伝達」と解釈するしかないと筆者は考える)。

 なるほど、ストリーミング方式による映像の提示の過程では、物理的には、メモリ・ハードディスクへの一時的蓄積が生じている。法律上この一時的蓄積=複製が生じていると認めれば、適法に複製・アップロードされた映像をストリーミングによって視聴する場合は、著作権法第47条の8(著作物の情報処理に伴う複製における著作権の制限)から、たとえ一時的蓄積=複製が生じていたとしても、この映像の視聴に伴う複製行為は、無許諾で行っても著作権侵害には当たらない(18)。

 ところが、ストリーミング方式の映像の視聴の過程で複製が生じているとしても、これをディスプレイやスクリーンに表示して視聴者に提示する行為は、「伝達」と解するしかない。

 まず、自動公衆送信される著作物が受信装置を用いて伝達されるとする条文がある。著作権法第39条第2項においては、時事問題に関する論説について、「自動公衆送信される論説は、受信装置を用いて公に伝達することができる」と規定する。また、第40条第3項においては、政治上の演説等について、「自動公衆送信される演説又は陳述は、受信装置を用いて公に伝達することができる」とする。

 さらに、そもそも著作権法第2条第1項第17号において、「上映」を定義して、著作物を「映写幕その他の物に映写すること」とするものの、「(公衆送信されるものを除く。)」としている。したがって、上記の著作権法第47条の8を仲立ちとして、自動公衆送信された著作物をディスプレイやスクリーンに映写する行為を「上映」とする解釈はありえない。

 したがって、ストリーミング方式の映像のディスプレイやスクリーンへの映写は、その前段階として一時的蓄積=複製が生じているとしても、「上映」とはいえないから、第23条第2項に規定されているように、自動公衆送信された著作物の受信装置による伝達と解するしかない。

 そうすると、授業の過程で使用するとしても、ストリーミング方式の映像を学生・生徒に視聴させる行為は、自動公衆送信された著作物を公衆に向けて(複製物の上映ではなく)「伝達」することとなる。だから、著作権法第35条第1項・同法第38条第1項の著作権の制限の対象とはみなされない。

 さらに、同法第38条第3項においては、放送・有線放送された著作物を受信して「受像装置で公衆に視聴させる」行為は、伝達権が制限されるとするものの、自動公衆送信による伝達を著作権の制限対象としていない(放送のインターネットによる同時再送信は、同項による著作権の制限対象である)(19)。

 ただし、いったんハードディスク等にストリーミング方式の映像を複製したうえで、電子黒板等に表示するならば、これは、上記の複製→上映の過程を経ることとなるので、著作権法第35条第1項・同法第38条第1項による著作権の制限を受けることとなる。

 

4. まとめ

 本稿においては、いわゆるデジタル教科書の制度上の位置付けのあいまいさと現行の著作権法における公衆送信にかかわる著作権の制限規定の不在によって、デジタル教科書の高度かつ効果的な活用が制限される可能性を示した。

 検定教科書のオープンアクセス(OA)化がときに話題となるが(20)、その場合にも、本稿で指摘したような問題が考えられる。さらに、オンデマンド方式による授業への対応等も必要である(21)。

 デジタル教科書による学修をより高度かつ効果的にするためには、いわゆるデジタル教科書の制度上の位置付けに関してさらに整理を進めるとともに、少なくとも著作権法第47条の8とのかかわりから「上映」「伝達」の定義を見直し、自動公衆送信と伝達にかかわる著作権の制限規定を改正することが必要と考えられる。

 

(1)“教育の情報化ビジョン ~21 世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~”. 文部科学省. 2011-04-28. p. 5.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/__icsFiles/afieldfile/2011/04/28/1305484_01_1.pdf [99], (参照 2017-04-19).

(2)“教育の情報化ビジョン ~21 世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~”. 文部科学省. 2011-04-28. p. 10.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/__icsFiles/afieldfile/2011/04/28/1305484_01_1.pdf [99], (参照 2017-04-19).

(3)ただし、学習履歴の把握・共有に関しては、個人情報保護・プライバシー保護の課題が生じるものと考えられる。

(4)「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議. “「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ”. 文部科学省. 2016-12. p. 2-3.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2017/01/27/1380531_001.pdf [100], (参照 2017-04-19).

(5)「教科書の発行に関する臨時措置法(昭和23年7月10日法律第132 号)」によれば、教科書とは、「小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及びこれらに準ずる学校において、教育課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、教授の用に供せられる児童又は生徒用図書であつて、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義を有するもの」とされる。
“教科書の発行に関する臨時措置法(昭和二十三年七月十日法律第百三十二号)”. 電子政府の総合窓口 e-Gov.
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO132.html [101], (参照 2017-04-19).

(6) 「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議. “「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ”. 文部科学省. 2016-12. p. 1.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2017/01/27/1380531_001.pdf [100], (参照 2017-04-19).

(7)現行検定制度においては、レイアウトも教科書検定における検定対象である。
「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議. “「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ”. 文部科学省. 2016-12. p. 11.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2017/01/27/1380531_001.pdf [100], (参照 2017-04-19).

(8)また、次期学習指導要領実施との関連における教科書の改善という観点から見た「デジタル教科書」のあり方に関しては、次も参照。
教科用図書検定調査審議会. “教科書の改善について(論点整理)”. 文部科学省. 2017-01-23. p. 12-15.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/106/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2017/03/24/1383603_002.pdf [102], (参照 2017-04-19).

(9)「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会 中間まとめ」においては、デジタル教科書においても、その著作物の利用に当たっては、著作権法第33条に該当するもので、補償金支払いを行うべきとする。しかしながら、本文で述べたように、デジタル教科書が初中等学校で利用される教科用図書であるかどうかに関しては、まだあいまいさが残り、補償金よりも著作権料支払いを受けるべきとする著作権者などの権利者との間で議論が起きる可能性がある。
文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会. “「デジタル教科書」に係る著作権制度に関する論点(案)”. 文化庁.
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h28_04/pdf/shiryo_6.pdf [103], (参照 2017-04-19).
文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会. “文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会 中間まとめ(案)”. 2017-02, p. 39-40.
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h28_06/pdf/shiryo_2.pdf [104], (参照 2017-04-19).

(10) 「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議. “「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ”. 文部科学省. 2016-12. p. 14.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2017/01/27/1380531_001.pdf [100], (参照 2017-04-19).

(11)著作物を教科用図書(教科書)等に掲載するための補償金額に関しては、文化庁長官から文化審議会に対して毎年諮問が行われ、決定されている。一方で、いわゆる「疑似著作権」の対価を求められることがあると言われる。「疑似著作権」問題とは、神社仏閣等の建築物の外観や書画等の古典的作品の所有者がそれらの撮影や、美術作品が写った写真提供に当たって高額の対価を求める事例があり、これらの請求の根拠として「著作権」が主張されることをいう。実際のところ、こうした主張があっても、建築物の外観は著作権法第46条により著作権が制限されるし、古い建築物や古典的美術作品は著作権保護期間が経過していれば、著作権が消滅している。 ただし、建築物の撮影に際しては、建物所有者の敷地内での撮影が必要であれば、敷地を使用する対価請求は、敷地の所有権を根拠とすることができるだろう。また、著作物が撮影された写真の貸与に当たっても、写真という有体物の貸与の対価請求は、所有権が根拠となる。
このように、所有権を根拠とする報酬・対価の請求による教科書制作費増の問題に関しては、著作権法・制度とは別の枠組みにおいて解決が図られる必要がある。 この問題に関しては、次の文献を参照。
『著作権の世紀』の著者、福井健策弁護士に聞く 「疑似著作権」広がり懸念. 産経新聞. 2011-01-10. 東京朝刊12頁.
“先生!それは疑似著作権とは違うと思います。”. 花水木法律事務所. 2011-01-12.
http://hanamizukilaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-6cd5.html [105], (参照 2017-04-06).

(12)著作権法において「公衆」とは、特定少数者を除く、不特定多数者・特定多数者・不特定少数者を指す。「公に」とは、公衆に対しての意である。公衆送信においては、電話回線やインターネットなど、特別の資格や結びつき(血縁や深い友人関係など)がなくても加入できるサービスの利用においては、送信先が限定されていても、公衆送信と見なされる。次の判決を参照。
東京地判平成19年5月25日(判時1979号100頁)(MYUTA事件)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/696/034696_hanrei.pdf [106], (参照 2017-05-13).
最三小判平成23年1月18日(民集第65巻1号121頁)(まねきTV事件上告審)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/012/081012_hanrei.pdf [107], (参照2017-05-01).

(13)さらに、同法第47条の10により、授業の過程での使用を目的として複製した著作物の複製は、公衆への譲渡が無許諾でできるとされているので、授業の過程において授業を受ける者に配布することができる。

(14)この解釈に関しては、次を参照。
加戸守行. 著作権法逐条講義. 六訂新版, 著作権情報センター, 2013, 1070p.

(15)学校教育法上の学校(非営利組織)の教室における著作物の公の上映(大型ディスプレイやスクリーンへの表示など)は、教員によるものであっても、上映そのものに対する料金支払い・報酬は生じていないとの解釈から、非営利・無料・無報酬の上映と解釈される。
大谷卓史. 情報倫理――技術・著作権・プライバシー. みすず書房, 2017, p. 229.

(16)ストリーミングとは、インターネット上のサーバーから映像・音楽等を受信しながらクライアントで再生する方式のコンテンツ配信を指す。

(17)この論点に関しては、我妻潤子氏(株式会社シュヴァン、知的財産管理技能士)の示唆から着目することとなった。

(18) “平成21年通常国会 著作権法改正等について 4.改正法Q&A 問10”. 文化庁.
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h21_hokaisei/ [108], (参照 2017-04-19).

(19)著作権法第38条第3項括弧書きでは、公衆送信における伝達権が制限される場合に関して、「(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)」とする。ところが、この括弧書きは、放送される著作物がそれと「同時に」自動公衆送信される場合を想定しているものであって(いわゆる、「放送のネット同時再送信」)、放送された著作物をオンデマンドで自動公衆送信する場合は含まない。
加戸守行. 著作権法逐条講義. 六訂新版, 著作権情報センター, 2013, p.306-307.

(20)芳賀高洋, 鈴木二正, 大谷卓史. 検定済教科書等のデジタル化に関する課題の検討 ~デジタル(検定済)教科書の無償化やオープンアクセス化の可能性~. 電子情報通信学会技術研究報告. 2014, 114(116), SITE2014-25, p. 221-228.

(21)著作権法第35条第2項において、遠隔地の教室において同時受信される授業における著作物の公衆送信に関しては、著作権の制限対象とされているものの、オンデマンド方式の公衆送信はその対象ではない。

[受理:2017-05-17]

 


大谷卓史. デジタル教科書の導入と著作権制度. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1901, p. 16-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1901 [109]
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369300 [110]

Otani Takushi.
“So-calledDigital Textbooks” and Their Copyright Problems.

カレントアウェアネス [41]
デジタル教科書 [111]
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日本 [48]
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CA1902 - 動向レビュー:学校図書館専門職関連施策の動向と課題―2014年法改正を中心に― / 米谷優子

  • 参照(11605)

PDFファイル [113]

カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 

CA1902

動向レビュー

 

学校図書館専門職関連施策の動向と課題
―2014年法改正を中心に―

関西大学:米谷優子(まいたに ゆうこ)

 

 現行の学校図書館法では、学校図書館の職務を担う人員として、1953年の成立時から第5条で司書教諭が、そして2014年の改正により第6条で学校司書が規定されている。

 本稿では、学校図書館法の歴史的経緯(1)を簡単に振り返ったうえで、2014年の学校司書法制化に関わる動向を中心に概観し、現在の課題を探る。

 

1. 学校図書館法の流れ-2014年法改正以前

 学校教育法施行規則(1947年)に学校に必置と書き込まれて以後構想された学校図書館は、米国の影響を受けて、担当者として、免許制による専任司書教諭とそれを補佐する事務職員が想定されていた。しかし、これに基づいて1953 年3 月上程予定であった法案(2)は衆議院解散によって幻に終り、8月に成立した学校図書館法(3)では、事務職員の記載は消失し、講習で資格を取得できる司書教諭のみが第5条に「学校図書館の専門的職務を掌る」職務として「教諭をもって充てる」と定められ(充て職)、必置を定める条文にもかかわらず附則に「当分の間」の配置猶予条項が設けられた。

 学校図書館業務担当の事務職員は、法成立時既に「数千人という単位」で現場に存在し、法成立後も、担任等をもつ司書教諭が学校図書館の職務を全うするのは困難という現実を受けて、事務職員が学校司書として実質的に学校図書館業務を担う位置に就く場合も少なくなかった(4)。

 学校図書館を担当する専門職について、司書教諭とそれを補助する学校司書の二職種制を主張するグループと、学校司書を司書教諭と対等の教育職と位置づけるグループが、1960年代から1970年代にかけて法案提出を試みるなどしたが、法改正には至らなかった。その間も学校司書は活動実践を続け、1980年代頃から集会活動や出版物で広く知られるようになり、それがまた多くの実践者の拠り処となった。個人単位の参加による組織として学校図書館問題研究会(学図研)、各地の学校図書館を考える会とその全国連絡会、情報交流紙『ぱっちわーく』(CA1898 [55]参照)などが挙げられる(5)。

 1993年「学校図書館図書整備5か年計画」等の国の学校図書館関連施策が始動し、1997年の学校図書館法改正によって、附則の司書教諭の配置猶予規定に12学級以上の学校には2003年3月末までの期限が設けられた。学校司書については関係者の合意がないことを理由に取り上げられなかった(6)。

 法改正後「情報教育推進の一翼を担うメディア専門職」と位置づける司書教諭とボランティアによる学校図書館運営が想定されたが(7)、司書教諭が充て職である規定に改変はなく行き詰まりを見せた(8)。この間も学校図書館活動を実質的に支えた多くは学校司書の活動であった(9)。日本図書館協会(JLA)学校図書館部会の学校図書館問題プロジェクト・チームは、1999年3月、将来的には単一の学校図書館専門職の配置が望ましいとする報告書(10)を出している。2009年3月、文部科学省設置の「子どもの読書サポーターズ会議」はその報告書(11)で「学校司書」の配置を主張した。
 

2. 2014年学校図書館法改正

2.1 法再改正への動き

 2011年6月、子どもの未来を考える議員連盟(当時)、文字・活字文化推進機構、学校図書館整備推進会議で構成される「学校図書館活性化協議会」が、政策課題として学校図書館法の再改正を打ち出し、これに呼応して複数の団体が要請書を提出した(12)。12月発表の新たな「学校図書館図書整備5か年計画」では、学校司書配置として初めて150億円(13)が計上された。

 2013年6月、子どもの未来を考える議員連盟(当時)が、学校に「専ら学校図書館の職務に従事する職員(学校司書)」を置くよう努めること、学校司書の資質向上のための研修等の措置を講ずるよう努めることを内容とする学校図書館法改正の骨子案(14)を提示した。これに対して、専任・専門・正規や必置を盛り込むべきとする要望や意見が、さまざまな団体から出された(15)。

 文部科学省は学校司書配置への期待の高まりを背景に、「学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議」を設置して2013年8月から計7回会議を開催し(16)、その結果を、2014年3月に「これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)」(以下「2014報告」)にまとめた(17)。

 「2014報告」に対して、学校司書の職務を整理したことや教育指導への支援を挙げたことは高く評価されたが、高い水準を求める一方で資格要件についての記述がなく正規職員での配置が想定されていないなどの課題も挙げられた(18)。

 

2.2 2014年学校図書館法改正-学校司書法制化

 2014年4月、学校図書館議員連盟は全国学校図書館協議会(全国SLA)、学校図書館整備推進会議、JLA、学図研、学校図書館を考える全国連絡会の5 団体に学校司書の法制化についてヒアリングを実施、審議を行ったのち、6月11日、衆議院文部科学委員会に、骨子案に附則として学校司書の職務内容が専門的知識・技能を必要とするものであること、学校司書の資格や養成の在り方等については今後の検討とすることなどを付加した、学校図書館法改正案(19)を提出。衆議院・参議院とも附帯決議を付して可決され(20)、6月27日公布された(E1597 [114]参照)。

 法改正を受けて、JLAは7月、「学校図書館法の一部を改正する法律について(見解及び要望)」(以下「JLA見解」)(21)を公表し、将来望ましい学校図書館職員制度として学校司書と司書教諭が合流して創設する、図書館情報学と教育学の専門教養を習得した単一の学校図書館専門職員制度を掲げた。学校図書館議員連盟、文字・活字文化推進機構、学校図書館整備推進会議は7月、司書教諭と学校司書は対等な関係であり、事業者が雇用し学校図書館に勤務する者は法の規定する「学校司書」には該当しないなどとする「改正学校図書館法Q&A」(22)を作成した。

 

2.3 法改正後

 文部科学省により、2015年8月から「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」が計8回開催された(23)。学校司書の資格・養成等の在り方については、当会議の下に設置された「学校司書の資格・養成等に関する作業部会」で3回審議された。

 同会議の審議の進行に併行して、JLA学校図書館職員問題検討会が9月に養成カリキュラム2案を含む報告書(24)をまとめたほか、他団体においても議論がなされ、養成カリキュラムの提案やそれについての論考が発表された(25)。

 同会議の審議は、2016年11月に「これからの学校図書館の整備充実について(報告)」(以下「2016報告」)(26)としてまとめられ、文部科学省によって「学校図書館ガイドライン」「学校司書のモデルカリキュラム」とともに教育委員会教育長等宛てに通知された(E1896 [115]参照)。

 なお、2015年12月には、中央教育審議会が、答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(27)を公表、学校司書は「授業等において教員を支援する専門スタッフ」の一つとして記述された。また、学校司書配置に総額約1,100億円(単年度約220億円)を措置する2017年度からの新たな「学校図書館図書整備5か年計画」(28)も発表された。

 

3. 2014年法改正ならびに関連施策への論点・評価と課題

 2014年の法改正ならびに「2016報告」を含む一連の関連施策については様々な立場から評価や論考が公表されている。以下、論点となる項目に分けて、評価と課題を記す。

 

3.1 努力義務にとどまる配置

 法改正以前は協力者会議やその報告「2014報告」においても用いられていなかった「学校司書」の名称が、条文に明記されたことを評価する向きはある。しかし、配置が努力義務となったことについては、「JLA見解」が、専任・専門・正規の学校司書実現に課題が残るとし、他からも今後の配置につながるか疑問もあがっている(29)。

 「2016報告」は全体的に現状の追認という様相で、「学校図書館ガイドライン」もそれを出るものではなかった。このことは、次に掲げる学校図書館業務の専門性の掘り下げ不足や非正規配置・地域格差拡大への懸念に繋がる。

 

3.2 学校司書の職務と司書教諭との関係

 法の附則にではあるが学校図書館の職務が「専門的」とされたことは、関係団体の要望の反映でもあり、肯定的な評価(30)がある一方、専門性に対する規定・内容の審議が不十分(31)との声もある。

 職務を総括する司書教諭と補佐の学校司書という従来の関係を踏襲しその二職種で支えていくことを明示した点に大きな意義がある(32)とする一方、二職種いずれもが専任・正規の条件を満たさず学校の中で専門職としての地位が得られない危惧(33)や、学校司書は、司書教諭の補助と位置付けられ、「極めて限定された「専門的」知識を活かして授業の支援・協働をするだけ」になると懸念する声(34)もあった。専門性や二職並置の議論を深めないまま「二度の改正を行ったツケがここにきて一層鮮明になった」と述べて、学校司書の「専門性を強調しようとすればするほど司書教諭との差別化がつかなくなるという矛盾」があることを指摘した論考(35)もある。

 JLAを初めとして単一の学校図書館専門職を理想と掲げる論は少なくない(36)が、今回の法改正がその方向への第一歩となったかといえば、そうではないという見方が大勢のようである。

 なお、学校司書の職務を「国民の生命・健康・安全に関わるものではない」とした「2016報告」の記述には、「情けない施策であり、国としての自覚や責任を放棄するもの」(37)「拭いきれない汚点」(38)などの声や「2014報告」において教育的支援を担うとされた職務に対する見解と矛盾するという疑問が挙がった(39)。

 

3.3 財政的根拠の不足と非正規化の拡大・委託化への懸念

 法改正にあたり専任・専門・正規での配置に関する条文の記載への要望が複数の団体から出されたが、結果として「正規」は改正法では盛り込まれておらず、財政的根拠も地方財政措置しかない。「JLA見解」は「1人あたりの配置単価年105万円は明らかに非正規職員」であることに危惧を示し、専任で有資格・正規職員での学校司書配置を可能とする財政措置の必要性を訴える。教育職への位置づけ・公立学校の給与の保障の欠落を指摘して、非正規職員の配置拡大を懸念したり、財政措置の算定根拠を非正規職員に置く法改正に落胆を表したりする声(40)もあった。

 2016年10月発表の全日本教職員組合学校図書館職員対策部による非正規学校司書の調査結果(41)は低賃金・短時間勤務などの実態を示し、さらに教員との打ち合わせ時間がなく授業での活用ができないなどの影響も示唆している。法改正後の学校司書募集記事の勤務条件調査でも低賃金・短期雇用の傾向が示された(42)。非正規学校司書は大半が女性であり、非正規職と女性労働の問題が重層化している。今後その視点での考察・対策も必要であろう。

 事業者雇用で学校に勤務する者は法律上の学校司書には該当しないとする「改正図書館法Q&A」の記述などはあるが、民間委託を否定しているとまではいえず公立図書館等との学校施設の複合化から民間委託拡大の可能性に注意喚起する声(43)もある。自治体担当者の知識が十分ではない場合に民間事業者への採用・研修業務の委託が合理的との見解(44)もあるが、業務委託の進む東京都の公立高等学校からの、図書委員会活動の維持や授業との連携には困難があり、たとえ開館時間が延びても「学校図書館の内容が充実したとは言い難い」(45)という声には耳を傾けたい。

 なお、2017年度からの新たな「学校図書館図書整備5か年計画」では、新聞の複数紙配備の対象に高等学校は含まれているが、学校司書配置では含まれていない。小中学校の学校司書(学校図書館担当職員)配置率が増加傾向にあるのに対して(2006年:小学校32.9%/中学校35.2%→2016年:小学校59.2%/中学校58.2%)、高等学校では減少傾向にある(2006年:71.2%→2016年:66.6%)(46)という現実もあり、高等学校への対応にも今後注意が必要だろう。

 

3.4 学校図書館と「知る自由」の保障

 改正法及び「2014報告」「2016報告」について、「資料提供」に関する理念が読み取れない、知る自由の保障への言及がない、という批判(47)も見られた。

 学校図書館での資料提供について、「IFLA/ユネスコ学校図書館宣言」(48)に鑑み、JLAの「図書館の自由に関する宣言」は学校図書館にも妥当する、即ち学校図書館も知的自由の尊重を基本原理とする「図書館」であるとする考え方(49)がある一方で、「教育的配慮」から資料の閲覧制限などを否定しない見方もある。

 学校司書法制化が話題となり始めた2013年夏、『はだしのゲン』問題が起こった(50)。教育委員会からの要請で一旦書庫に移された同書は、結局手続き上の問題があったとして開架に戻されたが、「教育的配慮」の考え方が時に権力的に現場を襲うということが露呈した事例ともいえ、これについて複数の見解や論考が発表された(51)。現場ではこのようなとき「図書館」の基本を説くことのできる専門職が必要であるが、非正規の学校司書では、発言の機会が保障されなかったり、校長や教育委員会に対応するだけの権限を持たなかったりする(52)。今回の法改正やガイドラインはその体制に変化をもたらすものではなかった。

 学校図書館は、2017年3月に公示された新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」に貢献できる機能を有している。「対話」の対象として、インターネットや、データベースへを整備してアクセス可能とする必要があるが、それらも含めた幅広い情報資源について、知る自由の保障を使命の一つとする図書館としての在り方を今一度確認する必要がある。「学校図書館が多様な資料を収集し、子どもたちや教職員一人ひとりの自由な学びを保障することは、学校司書が意識して覚悟しておこなわなくてはなりません」(53)という言葉をかみしめたい。

 

3.5 校長・一般教員の理解と同僚性の育成

 文部科学省の通知では運営に関して「校長のリーダーシップの下」と記述されたほか、報告書・ガイドラインでもこの文言が度々登場している。これに関して違和感を示す声があった(54)。学校図書館の在り方やその活用は、校長の学校図書館に対する認識の影響を受ける。学校図書館の役割に関して校長への啓発や研修が重要になろう。

 学校司書の職員会議や校内研修への参加について、報告書・ガイドラインに明記されたことは、会議参加への後押しになりそうだが、現状では同僚教員とのコミュニケーションの少なさや学校図書館への理解不足を訴える学校司書は少なくない。「チーム学校」としての連帯感、学校内での同僚性をいかに育むか、各学校での取組みのほか、教育界全体としての取組み(55)も必要であろう。

 

3.6 地域格差の拡大

 改正法・ガイドラインは、学校司書配置の地域格差の縮小に対して効力を持つものにならなかった(56)。

 文部科学省による全国調査のほか、『ぱっちわーく』等でも各地域の学校図書館を考える会等による学校司書配置状況調査が発表されているが、設置者の裁量に委ねられているためか自治体間の格差が大きい。配置ありとなっていても、複数校配置のため1校あたりでは実質週1、2日の勤務というところもある。児童生徒が学校図書館の人的サービスを受けられる時間の調査などの現状把握と、公教育の平等に基づいた国レベルでの対応が必要であろう。

 

3.7 養成・研修 

 養成については、通知の別添資料として、科目と単位数を示すモデルカリキュラムが付された。

 さまざまな提案を受けて提示されたモデルカリキュラムの内容についての論考は今後を待つことになるが、公立図書館司書や図書館員養成の立場からは、司書資格を司書職共通の基礎資格とする提案(57)があった。県立高等学校の学校司書と県立図書館司書の採用を一括し人事交流を実施している自治体もあり、学校司書と図書館司書の資格をいかに扱うか検討が待たれる。

 一方、研修については協力者会議では大きな議論はなく、実施主体の工夫に委ねられることになる。日本図書館研究会の学校図書館研究グループが実施した研修内容アンケート(58)で指摘された、学校司書対象研修は、読書活動推進、公立図書館との連携に偏っており個人情報保護の研修がない、一般教諭・管理職対象の研修があまり実施されない、等の問題点に目を向けたい。数年を見通した体系的な研修企画の必要性が提唱される(59)一方、大半が短期契約という現実の雇用条件との矛盾を訴える声(60)もある。訓練を受けていないことを求められ困惑する学校司書の体験談(61)もあり、現場のニーズに沿った研修が必要となろう。

 ただし、研修は養成教育の代替にはなり得ない。学校司書採用の事例紹介記事で、採用時に資格要件を求めず研修の充実を強調した例があったが、数日間の研修受講を資格保有と同列に扱うのでは専門性の軽視と言わざるを得ない。自治体には専門職配置の責務を真摯に果たす姿勢が望まれる。

 

4. 課題解決に向けて

 法改正によって、学校図書館現場に非正規・非専門の学校司書が増加しそれで問題が解決したと認識されることを懸念する声(62)に共感すること大だが、この矛盾を含んだ法改正が成立した現状を踏まえ、次を考えていくしかない。

 複数の論考(63)にもみられるように、学校図書館が目指すべき在り方の共通理解を深めることの必要性を説く意見を真に受け止め、現場からは専門性をもつ人材による実践についての発信が今後も求められよう。また、専門性向上のため立場を超えてまとまる必要性も指摘されている(64)。集会等に現場の非正規司書の参加が少ないとの声が聞かれる。当事者である学校司書が知識を蓄え生かしていけるよう、雇用形態に関わらず連帯できるような仕組みが必要であろう。

 

(1) 学校図書館専門職に関する歴史的経緯は、次の文献等でも確認することができる。
塩見昇. 学校図書館職員論: 司書教諭と学校司書の協同による新たな学びの創造. 教育史料料出版会, 2000, 207p.
高橋恵美子. 1950年から2000年にかけての公立高校学校司書の図書館実践:教科との連携と「図書館の自由」の視点から. 東京大学, 2013, 修士論文.
http://hdl.handle.net/2261/53608 [116], (参照2017-03-29).
杉浦良二. 地方自治体における学校図書館政策の動向から見た学校図書館専門職の考察:学校図書館支援センターと民間委託の事例を中心に. 愛知教育大学, 2015, 修士論文.
塩見昇. 特集, 学校図書館法60周年 : 今、求められる学校図書館職員像: 学校図書館法と学校図書館の歩み : 専門職員整備の視点を主に. 図書館雑誌. 2013, 107(11), p.682-685.

(2) 当法案の条項及び解説を次の資料で参照することができる。
松尾弥太郎. 学校図書館法案解説. 学校図書館. 1953,(30), p.8-15.

(3) 「人と金に関するこの間の変化が成立後の学校図書館に苦難の基を残した」と塩見は述べている。
塩見昇. 特集, 学校図書館法60周年 : 今、求められる学校図書館職員像. 学校図書館法と学校図書館の歩み : 専門職員整備の視点を主に. 図書館雑誌. 2013, 107(11), p.682-685.
この他、以下の文献の解説や対照表がある。
塩見昇. 学校図書館職員論: 司書教諭と学校司書の協同による新たな学びの創造. 教育史料出版会, 2000, p.51-56.
塩見昇. 日本学校図書館史. 全国学校図書館協議会, 1986, p.173. (図書館学大系, 5).

(4) 高橋恵美子. 1950年から2000年にかけての公立高校学校司書の図書館実践:教科との連携と「図書館の自由」の視点から. 東京大学, 2013, 修士論文.
http://hdl.handle.net/2261/53608 [116], (参照2017-03-29).
高橋はその後の「学校司書」数を種々の統計からまとめグラフ化しており、また「学校司書」の名称の経緯についても詳細に述べている。「学校司書」は現場では「学校図書館事務職員」、「学校図書館支援員」「学校図書館担当職員」などさまざまな名称で呼ばれてきたが、本稿では、高橋と同様に、学校図書館の専門業務を担う教諭以外の職を「学校司書」として論を進める。

(5) 学図研は、1985年に図書館問題研究会(1955年~)を母体に発足し、研究会報告集を『がくと : 学校図書館問題研究会機関誌』として毎年発行しているほか、『教育を変える学校図書館の可能性:子どもたち一人ひとりが主人公』(教育史料出版会、1998年)を著すなどしている。
1991年から2014年にかけて活動した、学校図書館を考える会・近畿は、学校図書館講座を開催し、塩見はこれを「市民が人を育てる研修講座を企画・実施するというのもきわめてユニーク」と評価し、大阪府・市の学校司書研修がこれを機に開始したという成果を紹介している。
塩見昇. 学校図書館の教育力を活かす:学校を変える可能性.日本図書館協会, 2016, p.40-43.(JLA図書館実践シリーズ, 31).学校図書館を考える会は全国各地で生まれ、その全国連絡会も1997年に発足した。そして実践者間の情報交流に大きな役割を果たしたのが、2017年3月をもって終刊した『ぱっちわーく:全国の学校図書館に人を!の夢と運動をつなぐ情報交流紙』であった。

(6) 塩見昇. 特集, 学校図書館法60周年: 今、求められる学校図書館職員像: 学校図書館法と学校図書館の歩み: 専門職員整備の視点を主に: 図書館雑誌, 2013, 107(11), p.682-685.

(7) “情報教育の実践と学校の情報化~新「情報教育に関する手引」~”. 文部科学省. 2002-06.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/020706.htm [117], (参照 2017-05-11).

(8) 後藤暢. 特集, 教育の未来をひらく 学校司書のしごと: 学校司書法制化の可能性は?. 図書館雑誌. 2012, 106(12), p.822-825.

(9) 高橋恵美子. 1997年から2015年までの学校司書の職務内容の変化: 文部省・文部科学省の見解及び会議報告と学校図書館現場の実態から. 生涯学習基盤経営研究. 2015, (40), p.19-42.
高橋恵美子. 特集, 学校図書館法60周年 : 今、求められる学校図書館職員像: 1997年学校図書館法改正後の司書教諭・学校司書の職務分担を追う. 図書館雑誌, 2013, 107 (11), p.686-687.

(10) “学校図書館専門職員の整備充実に向けて‐司書教諭と学校司書の関係・協同を考える”. 日本図書館協会学校図書館問題プロジェクト・チーム. 1999-03-29.
http://www.iinan-net.jp/~tosyokan/tosyokan/170303 tosyokan.htm [118], (参照2017-03-29).

(11) 子どもの読書サポーターズ会議. ‟これからの学校図書館の活用の在り方等について(報告)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/meeting/__icsFiles/afieldfile/2009/05/08/1236373_1.pdf [119], (参照2017-03-29).

(12) 『ぱっちわーく』の224号(2012年1月)に、各団体からの要請書が転載されている。

(13) 150億円の算出根拠は、1週当たり30 時間の担当職員を概ね2校に1名程度配置することが可能な規模(直近の学校図書館担当職員の配置実績1万4,300 人〈小学校9,800人、中学校4,500人〉)に、1人当たりの配置単価(105 万円)を乗じたものである。1人当たりの配置単価の考え方は、「1時間1千円×1日6時間×1週5日×1年35 週=105 万円」となっている。
“平成24年度からの学校図書館関係の地方財政措置における考え方について”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/03/17/1360321_3.pdf [120], (参照2017-03-29).

(14) 『ぱっちわーく』の242号(2013年7月)に転載されている。

(15)“「学校図書館法の一部を改正する法律案(仮称)骨子案」への要望書”. 学校図書館問題研究会. 2013-08-29.
http://gakutoken.net/opinion/action=cabinet_action_main_download&block_id=305&room_id=1&cabinet_id=2&file_id=28&upload_id=225 [121], (参照2017-03-29).
この他、『ぱっちわーく』の245号(2013年10月)、246号(2013年11月)、252号(2014年5月)に各団体からの要望書が転載されている。

(16) “学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議 議事要旨・議事録・配付資料”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/099/giji_list/index.htm [122], (参照2017-03-29).

(17) 学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議. “これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)”. 文部科学省. 2014-03-31.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/099/houkoku/1346118.htm [53], (参照2017-03-29).

(18) 塩見昇. 特集, 学校司書法制化以降: いま「学校司書」に求める専門性・その具体化: 学校司書法制化がもたらしたもの. 図書館雑誌. 2014, 108(11), p.737-739.
田村修. 学校司書法制化論議のなかで思うこと これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)(案)を読んで. 出版ニュース. 2014, (2339), p.4-9.
成田康子. ブック・ストリート 学校図書館 学校司書は非常勤でできるのか. 出版ニュース. 2014, (2339), p.16.
この他、『ぱっちわーく』でも、252号(2014年5月)、253号(2014年6月)において、6名の意見を掲載している。

(19) “学校図書館法の一部を改正する法律(衆議院 第186回)”. 衆議院.
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18601033.htm [123], (参照2017-03-29).

(20) “第百八十六回国会衆議院文部科学委員会会議録第二十三号”.国会会議録. 2014-06-11.
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/186/0096/18606110096023.pdf [124], (参照2017-03-29).
“第百八十六回国会参議院文教科学委員会会議録第二十号”.国会会議録. 2014-06-19.
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/186/0061/18606190061020.pdf [125], (参照2017-03-29).

(21) “学校図書館法の一部を改正する法律について(見解及び要望)”. 日本図書館協会. 2014-07-05.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/kenkai/20140704.pdf [126], (参照2017-03-29).

(22) “改正学校図書館法Q&A:学校司書の法制化にあたって”. 学校図書館整備推進会議.
http://www.gakuto-seibi.jp/pdf/2014leaflet4.pdf [127], (参照2017-03-29).

(23) “学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議 議事要旨・議事録・配付資料”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/giji_list/index.htm [128], (参照2017-03-29).

(24) 日本図書館協会学校図書館職員問題検討会. “学校図書館職員問題検討会報告書”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/content/information/gakutohoukoku2016.pdf [129], (参照2017-03-29).

(25) 小川哲男.学校司書の資格と養成・研修. 日本学校図書館学会, 2015, 14p.
小川哲男. 学校図書館の在り方と学校司書制度に関する基本的な考え方. 学校図書館学研究. 2016, (18), p.1-3.
頭師康一郎, 岡田大輔. 特集, 第56回研究大会グループ研究発表: 学校司書カリキュラムについて考える. 図書館界. 2015, 67 (2), p.140-146.
ワークショップ報告 学校図書館専門職員制度化の課題について考える. 図書館界. 2016, 67(5), p.322-324.
(「学校司書養成教育カリキュラム(塩見案)」が掲載)
桑田てるみ. 特集, これからの学校図書館: 新しい学校図書館像の構築と専門職養成に関する一考察: 学校図書館法改正を受けて再考する. 現代の図書館. 2015, 53(3), p.113-11.
川瀬綾子, 北克一. 学校図書館法改正と学校司書養成の課題. 情報学(大阪市立大学). 2015, 12 (1), p.63-78.
川瀬綾子, 北克一. 学校司書養成と学校司書研修についての諸案の検討. 情報学(大阪市立大学). 2015, 12(2), p.124-134.
野口武悟. 特集, 「学校司書法制化」を考える. 大学における学校司書の養成はどうあるべきか. 子どもの本棚. 2014, 43(6), p.28-30.
鎌田和宏. 特集, これからの学校図書館職員の専門性とその養成を考える: 学校図書館法の改正とこれからの学校図書館専門職の役割をめぐって. 現代の図書館. 2015, 53(1), p.3-11.
岡田大輔, 頭師康一郎, 川原 亜希世. 特集, 第57回研究大会グループ発表: 学校司書養成カリキュラムについての各科目の内容の検討. 図書館界. 2016, 68(2), p.116-122.
川瀬綾子, 西尾純子, 森美由紀, 北克一. 「学校図書館職員問題検討会報告書(案)」等の学校司書養成カリキュラムの検討. 情報学(大阪市立大学). 2016, 13(2), p.39-56.
狩野ゆき. 特集,第57回研究大会グループ発表: 学校図書館職員の職務内容及び養成・研修の内容について. 図書館界. 2016, 68(2), p.124-133.
全国学校図書館協議会. 学校司書の資格について. 学校図書館. 2016, (794), p.73-76.

(26) “これからの学校図書館の整備充実について(報告)(28文科初第1172号)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380597.htm [130], (参照2017-03-29).

(27) 中央教育審議会. “チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)”. 文部科学省. 2015-12-21.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/02/05/1365657_00.pdf [131], (参照2017-03-29).
当答申では、学校図書館業務は「教員以外の職員が連携・分担することが効果的な業務」とされており、担当者についての記述は、学校司書が「授業等において教員を支援する専門スタッフ」として登場する箇所で初出し、司書教諭もその項で記述されている。教員・指導教諭・養護教諭と同列で栄養教諭・学校栄養職員が記述されているのとは異なる趣である。

(28) 学校司書に関しては、小・中学校等の概ね1.5校に1名程度の配置として単年度約220億円(総額約1,100億円)の地方交付税措置がなされている。
“学校図書館を、もっと身近で、使いやすく”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/03/22/1360321_4.pdf [132], (参照2017-03-29).

(29) 野口武悟. 学校図書館法は改正されたが・・山積する先送りされた課題. ぱっちわーく. 2014, (255), p.2-4.
加藤暉子. 法改正をふまえ、これから学校図書館をどう構築していくのか. ぱっちわーく. 2014, (255), p.19-20.

(30) 「JLA見解」のほか、以下の文献などがある。
山本宏義. 特集, 学校司書、法制化成る: 学校司書法制化に寄せて. 学校図書館. 2014, (766), p.21-24.

(31) 梅本恵. 学校司書法制化をふまえて:学校図書館づくり運動のこれから. 出版ニュース. 2014, (2351), p.4-7.
平久江祐司. 特集, 司書教諭と学校司書の連携: 司書教諭と学校司書の連携の在り方. 学校図書館. 2014, (766), p.41-44.
森田盛行. 特集, 学校司書法制化以降: いま「学校司書」に求める専門性・その具体化学校司書法制化とこれから. 図書館雑誌. 2014, 108(11), p.742-743.

(32) 森田盛行. 平成26年度(第100回)全国図書館大会(東京大会)報告. 第8分科会学校司書の法制化を考える. (日本図書館協会)学校図書館部会報. 2014, (47), p.4-6.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/bukai/学校図書館部会/Bukaiho47.pdf [133], (参照 2017-05-11).
平久江. 前掲.

(33) 中山美由紀. 学校司書の法制化をめぐって(第3回)学校図書館の未来を支える職の確保と養成. 図書館雑誌. 2013, 107(6), p.358-359.

(34) 中村崇. 学校図書館法「改正」を受け、我々は何を考えなすべきか. ぱっちわーく. 2014, (255), p.14-18.

(35) 塩見昇. 学校図書館専門職員制度化の課題. 図書館界. 2015, 66(6), p.382-390.

(36) 名称や基礎とする免許・資格等にはバリエーションがあるが、単一の専門職制度確立を目指すとする意見には、2011年以降に限っても「JLA見解」のほか、たとえば以下のようなものがある。
塩見昇. 学校図書館専門職員制度化の課題. 図書館界. 2015, 66(6), p.382-390.
中村百合子. 学校司書の法制化をめぐって(第1回)なにが学校図書館職員「問題」なのか. 図書館雑誌. 2013, 107(2), p.104-105.
桑田. 前掲.

(37) 塩見昇. 特集, この困難な時代にあって図書館は何をすべきか: この困難な時代にあって図書館は何をすべきか. 図書館界. 2017, 68(6), p.336-343.

(38) 須永和之. 『これからの学校図書館の整備充実について(報告)』を読んで. ぱっちわーく. 2016, (283), p.10-11.

(39) 山口真也. 学校司書の「モデルカリキュラム」に関するノート:地方の(沖縄の)私立大学・司書課程担当者の立場から. ぱっちわーく. 2016, (283), p.12-14.

(40) 後藤暢. 学校図書館法改正が示すもの. 子どもと読書. 2014, (407), p.2-5.
江藤裕子. あきらめずに続けてきた運動の未来が絶ち切られた思いです. 子どもと読書. 2014, (407), p.9-11.
東谷めぐみ. 特集, 学校司書法制化以降, いま「学校司書」に求める専門性・その具体化: あらためて学校図書館の教育的意義を考える:「学校図書館の教育力7項目」の検証から. 図書館雑誌. 2014, 108(11), p.746-747.

(41) 出版界スコープ 「公立小中学校の学校図書館において非正規で働く方の勤務実態に関するアンケート」集計結果・分析および主張: 全日本教職員組合(全教)学校図書館職員対策部 2016年10月. 出版ニュース. 2016, (2432), p.42-45.
学校図書館職員対策部. “「公立小中学校の学校図書館において非正規で働く方の勤務実態に関するアンケート」集計結果・分析および主張”. 全日本教職員組合. 2016-06-11.
http://www.zenkyo.biz/modules/senmonbu_torikumi/detail.php?id=546 [134], (参照2017-03-29).

(42) 米谷優子. 「学校司書」の雇用条件の現況と課題. 日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集. 2016, p.75-78.

(43) 梅本恵. 特集, いきいき学校図書館: 学校司書をめぐる現状と課題:「改正学校図書館法」をふまえて. こどもの図書館. 2016, 63(2), p.9-11.

(44) 杉浦良二. 学校図書館の民間委託に関する一考察: 三重県内公立小中学校における株式会社リブネットの事例から. 学校図書館学研究. 2015, (17), p.23-31.

(45) 千田つばさ. 特集,「学校司書法制化」を考える: 都立高校図書館と学校司書. 子どもの本棚. 2014, 43(6), p.30-33.

(46) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課. “平成28年度学校図書館の現状に関する調査”. 文部科学省. 2016-10-13.
http://www.mext.go.jp./a_menu/shotou/dokusho/link/1378073.htm [135], (参照2017-03-29).
文部科学省初等中等教育局. “学校図書館の現状に関する調査結果について”. 文部科学省. 2007-04-27.
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1621348/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/04/07050110.htm [136], (参照 2017 -03-29).

(47) 次のような論考が例として挙げられる。
松井正英. これからの学校図書館を考えるために、法改正をどう見るか. ぱっちわーく. 2014, (255), p.2-4.
後藤敏恵. 学校図書館法「改正」について. ぱっちわーく. 2014, (256), p.6-8.
永井悦重. 学校図書館像学校司書像の再構築を!:学校司書法制化を通して考えたこと. 子どもと読書. 2014, (407), p.6-7.
梅本恵. 学校司書法制化をふまえて 学校図書館づくり運動のこれから. 出版ニュース. 2014, (2351), p.4-7.
宮崎健太郎. この「職員像」に、いかに魂を込めるか:協力者会議報告に思う. ぱっちわーく. 2014, (253), p.26-27.

(48) 「IFLA/ユネスコ学校図書館宣言」(1999年)は学校図書館の使命として「情報がどのような形態あるいは媒体であろうと、学校構成員全員が情報を批判的にとらえ、効果的に利用できるように、学習のためのサービス、図書、情報資源を提供する」と掲げている。
https://www.ifla.org/archive/VII/s8/unesco/japanese.pdf [137], (参照2017-03-29).

(49) 塩見昇. 学校図書館の教育力を活かす:学校を変える可能性.日本図書館協会. 2016, 178p, (JLA実践シリーズ, 31).
松井正英. 学校司書の法制化をめぐって(第2回)「深層」から考える学校図書館職員問題. 図書館雑誌. 2013, 107(4), p.234-235.
永井悦重. 学校図書館はこれでいいのか:文科省の報告を読む. ぱっちわーく. 2014, (253), p.26-27.

(50) 2012年12月に、島根県の松江市教育委員会が『はだしのゲン』の一部描写が過激で悪影響を及ぼすとして同書を学校図書館から除去することを求め児童生徒への提供を制限するよう要請していたことが2013年夏発覚し、子どもの「自主的な読書活動」を尊重する観点から問題になった。

(51) 日本図書館協会図書館の自由委員会. “中沢啓治著「はだしのゲン」の利用制限について(要望)”. 日本図書館協会. 2013-08-22.
http://www.jla.or.jp./portals/0/html/jiyu/hadashinogen.html [138], (参照2017-03-29).
堀岡秀清, 高橋恵美子. 『はだしのゲン』閲覧制限問題をめぐって. 日本図書館協会学校図書館部会報. 2014, (45), p.27-28.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/bukai/学校図書館部会/JLA_GakutobukaihoNo45.pdf [139], (参照 2017-05-15).
渡邊重夫. 学校図書館の対話力:子供・本・自由. 青弓社, 2014, 241p.
山口真也. 図書館ノート(44)オミットされる「図書館の自由」:「教育再生」のなかの学校司書法制化.みんなの図書館. 2015, (457), p.54-59.

(52) 杉浦良二. 松江市立小中学校図書館における『はだしのゲン』閲覧制限: 地方教育行政と学校図書館専門職の問題.中部図書館情報学会. 2014, (54), p.55-62.

(53) 加藤容子. 特集, 私たちののぞむ学校図書館とは: 学校司書の専門性: 一人ひとりの自由な学びを、資料提供で実現する. 子どもと読書. 2014, (407), p.7-9.

(54) 今野千束. 「これからの学校図書館の整備充実について(報告)」をどう読んだか. ぱっちわーく. 2016, (283), p.21-23.

(55) たとえば、野口は、「教育方法学のテキストにおける学校図書館の扱いを調べたところ8冊のうち5冊には記述がなかった」調査結果を示し、「(略)機能を向上させるためには、学校図書館の側から教員や教員集団への働きかけが重要である」としている。これは学校図書館界、そして教育界全体として求められることであろう。
野口武悟. 特集, 学校図書館から見た「アクティブ・ラーニング: 学校図書館活用を教育方法として明確化するために: アクティブ・ラーニングを見据えて. 学校図書館. 2016, (794), p.29-31.

(56) 杉浦良二. 学校図書館の格差 : 公立学校図書館の条件整備における国の責任. 学校図書館学研究. 2016, (18), p.38-44.
今野. 前掲.

(57) 清水明美. 特集, いま、学校司書をめぐって: 「学校司書の法制化を考える全国の集い」に参加して: 公共図書館員の立場から . みんなの図書館. 2013, (429), p.4-9.
種村エイ子. 学校司書法制化とこれからの図書館員養成. ぱっちわーく. 2014, (255), p.2-4.

(58) 羽深希代子. 特集, 第56回研究大会;グループ研究発表: 学校図書館に関する研修内容の提案. 図書館界. 2015, 67(2), p.128-133.

(59) 森田盛行. 特集, 学校司書法制化以降, いま「学校司書」に求める専門性・その具体化: 学校司書法制化とこれから. 図書館雑誌. 2014, 108(11), p.742-743.

(60) 今野. 前掲.

(61) 岩橋能二. 足立から学校司書を考える. 子どもと読書. 2015, (407), p.11-13.
座談会 学校司書について. 子どもと本. 2015, (141), p.30-38.

(62) 水越規容子. 特集, 「学校司書法制化」を考える. 学校図書館法改正をどう考えるか. 子どもの本棚. 2014, 43(6), p.21-23.

(63) 塩見昇. 特集, 学校司書法制化以降. いま「学校司書」に求める専門性・その具体化: 学校司書法制化がもたらしたもの. 図書館雑誌. 2014, 108(11), p.737-739.
疋田久美子. 図問研のページ 学校司書法制化をめぐる学習会報告: みんなの図書館. 2014, (450), p.72-74. (『ぱっちわーく』事務局長、梅本恵氏の講演記録)

(64) 清水. 前掲.

[受理:2017-05-15]

 


米谷優子. 学校図書館専門職関連施策の動向と課題―2014年法改正を中心に―. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1902, p. 20-25.
http://current.ndl.go.jp/ca1902 [140]
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369301 [141]

Maitani Yuko.
Trends and Issues of School Library Specialists:focusing on revision of the law in 2014.

カレントアウェアネス [41]
学校司書 [58]
司書教諭 [59]
学校図書館 [57]
子ども [45]
ヤングアダルト [60]
専門職制 [142]
日本 [48]
学校図書館 [61]
文部科学省 [62]
JLA(日本図書館協会) [143]

CA1903 - 動向レビュー:研究助成機関によるオープンアクセス義務化への大学の対応―英国の事例― / 花﨑佳代子

  • 参照(9563)

PDFファイル [144]

カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 

CA1903

動向レビュー

 

研究助成機関によるオープンアクセス義務化への大学の対応
―英国の事例―

神戸大学附属図書館:花﨑佳代子(はなざき かよこ)

 

1. はじめに

 英国では近年、RCUK(英国研究会議)やHEFCE(イングランド高等教育助成会議)などの主な研究助成機関により、オープンアクセス(OA)義務化ポリシーが発表されている。本稿では、英国において、これらの研究助成機関のOAポリシーを背景にOAが進展する中で発生している新たな課題と、その課題への大学およびその関連機関による対応について紹介する。

 筆者はその課題への対応方法を調査するため、2016年9月に、英国におけるOAに関するサポートの中心的役割を担うJiscおよび研究助成機関のOA義務化へ対応しOAに関するワークフローを改善したインペリアル・カレッジ・ロンドンを訪問しインタビューを行った。本稿の内容は、訪問時およびその後のメールでの確認を含めた2機関へのインタビューおよび文献調査に基づいており、特に注のない記述はインタビューによるものである。

 

2. 背景

2.1. 英国の研究助成機関によるOAポリシー

 英国における大学などの高等教育機関向けの研究費は、HEFCEによる基盤的経費配分およびRCUKによる競争的資金配分が構成するデュアル・サポート・システムにより実施されている。2014年度は高等教育機関向け研究費78.9億ポンドのうち、HEFCEおよびその他3機関が構成するHEFCs(1)が約23.4億ポンド、RCUKが約21.4億ポンドを助成し、海外の研究助成機関や非営利民間研究助成機関が配分額においてそれらに続いている(2)。

 これまで英国では、生物医学分野で英国最大の非営利民間研究助成機関であるウェルカム財団(Wellcome Trust)による2005年のOA義務化ポリシー発表(E338 [145]参照)に続いて、RCUKを構成する各研究会議がそれぞれグリーンOAによるOA義務化ポリシーを発表するなどの動きがあったが、2012年にRIN(英国研究情報ネットワーク)がFinchレポート(3)と呼ばれる報告書を発表したことが、英国のOAに関する方針における大きな転換点となった。この報告書では、グリーンOAでは再利用における権利上の制限やエンバーゴがあることを理由に、ゴールドOAおよびハイブリッドOAによるOAの実現を提唱している。これを受けRCUKは2012年7月に、ゴールドOAおよびハイブリッドOAを優先し、妥当な投稿先がない場合にのみグリーンOAを認めるOAポリシー(4)を発表した。このポリシーは、RCUKの助成により2013年4月以降に投稿される査読ありの雑誌論文および会議発表論文に関し、クリエイティブ・コモンズ(CC)のCC BYライセンスを適用して出版されると同時に論文が公開される雑誌、もしくはこれが不可能なら、非営利での再利用を制限しない条件で出版後6か月(人文社会科学分野は12か月)以内に著者最終稿をリポジトリへ登録することを認める雑誌へ投稿することを要求している。RCUKは、助成する全論文がOAとなるまでに5年間の移行期間を設定し、その期間に発生する論文処理費用(APC)およびその他OAの実現に必要な経費のための補助金を各大学へ配分すると発表した。RCUKはOAポリシー適用状況のレビューを実施すると定め、2014年実施のレビューのために助成を受けた論文のOAポリシー順守状況やOA補助金の使用額についての報告を各大学に課した(5)。その後も各大学は同様の内容について毎年報告を要求されている(6)。

 また2014年にはウェルカム財団が他の5つの研究助成機関と共同でCOAFと呼ばれるAPC助成のための基金を設立した。大学はCOAF助成によりAPCを支払った場合、その論文を報告する必要がある(7)。

 続いて2014年に発表されたHEFCEのOAポリシー(8)は対象とする論文の範囲が広く、かつ要求する条件が厳しい。このポリシーでは、2016年4月以降に受理されたISSNを持つ雑誌論文および会議発表論文の、受理後3か月以内のリポジトリへの登録およびその後(もしくはエンバーゴ終了後)1か月以内での公開を要求している(9)。対象となる論文は、HEFCEが研究費の傾斜配分のために6-7年ごとに実施しているREF(Research Excellence Framework:研究卓越フレームワーク)と呼ばれる評価の次回実施時(2021年を予定)に提出される論文である。REFにおいて各大学は、教員による論文またはその他の研究成果を、REFの評価対象の一つとして提出する(10)。つまり、HEFCEのOAポリシーを順守していない論文は、次回REFにおいて評価対象として大学から提出することができないため、REFへの提出の可能性がある論文はすべて、受理後3か月以内にリポジトリへ登録しておく必要がある。

 

2.2. 英国におけるOAポリシーの影響

 では、研究助成機関のOAポリシーはどのような影響をもたらしているのだろうか。

 2013年4月から2014年7月までを対象にしたRCUKのOAポリシーに関する第1回目のレビューの結果は、 表1の通り報告されている(11)。

 

表1 RCUKのOAポリシー順守状況に関する55機関の回答

OA率がRCUKが示した2013/2014年度の目標値である45%以上の機関数(*1) 43機関
グリーンOAよりゴールドOAの比率の方が高い機関数(*1) 39機関
RCUK助成による論文数(*2) 20,580点
ゴールドOAの論文数(*3) 9,297点
グリーンOAの論文数(*4) 3,355点
OAポリシーを順守していない論文数(*5) 5,121点
APC支払総額 1,040万ポンド
上記APCにより出版されたゴールドOAの論文数 6,504点

※(*1)は、比較可能な回答を提示した46機関を対象としている。
※55機関へのOA補助金は英国におけるOA補助金全額の93.5%を占める。
※各機関からの報告において(*2)~(*5)のいずれかの数値が示されていない場合や見積もりに基づく場合があるため、(*3)~(*5)の合計が(*2)と一致しない。

 

 なお、同時期の英国全体のOA率については、2015年8月に発行されたRINの報告書に、2014年から過去2年間を対象に算出された英国と世界のOA率の見積もりがあり、英国は世界の数値を上回っている(表2)(12)。

 

表2 論文のOA率(2014年)

出版後経過期間(月) 0 6 12 24
世界(%) 17.9 19.9 24.9 27.3
英国(%) 19.9 23.9 32.1 35.0

 

 さらに、HEFCEのOAポリシーは対象とする論文が多いため、今後OA率の向上がみられることも予想される。

 このように、主要な研究助成機関によるOAポリシーによってOA義務化の対象となる論文数が増加するとともに、各OAポリシーの定める要求に対応するため、APCの支払状況やOA率の把握・報告などの新たな業務が各大学において発生している。RCUKのレビューでは、OAポリシー順守状況の確認を行うために必要な大学全体の出版物の情報やそれと紐づいた助成金の情報を把握するシステムを、レビュー実施時には多くの大学が保持していなかったことが指摘され、多くの大学でREFも視野に入れてそれらのシステムの導入が進行中であると記されている。そして同レビューでは、RCUKだけではなく他の研究助成機関のOAポリシーへの順守状況確認にも役立つ形で、さらに事務コストを抑制した上でそれらのデータを収集する方法の確立の必要性が提唱されている(13)。

 

3. Jiscによる対応

 上記の課題に対する、Jiscおよびインペリアル・カレッジ・ロンドンの対応のうち、本章では、JiscによるOA推進のためのプロジェクトを紹介する。Jiscでは、前章で述べた研究助成機関によるOA義務化への対応に関し、様々なツールやサービスの開発・提供を行っている。

 

3.1. Open Access Good Practice Project

 Jiscの主導により2014年5月から2016年7月まで実施された Open Access Good Practice Project(14)は、各大学が研究助成機関のOAポリシーを順守する際の負担を軽減するため、グッドプラクティスを創出・共有することを目的としている。

 このプロジェクトの実施期間中に、約30機関によって構成された9つのグループが各テーマに基づいて自機関の取り組みをブログやイベントで共有したほか、多数のツールや資料などの成果物を生み出した(15)。参加機関やテーマは、大学の規模や研究分野によってOAに関するニーズが異なることを前提に、その多様なニーズに応えられることを重視して選定され、中には後述するJiscの新しいサービス開発のためのパイロットの役割を果たす場合もあった。

 

3.2. Publications Router

 2015年半ばからの開発期間を経て2016年8月に正式にサービスを開始したPublications Router(16)は、論文のメタデータおよびフルテキスト(著者最終稿あるいは出版社版)を出版社などから各大学のCRIS(E1791 [146]参照)や機関リポジトリへ通知・転送するためのシステムである。メタデータおよびフルテキストは、Publications Routerの参加機関があらかじめ設定した、機関名、助成金の課題番号、ORCID(CA1740 [147]参照) iD、著者のメールアドレスなどを条件として判別の上、出版時またはそれ以前のタイミングで各機関に通知・転送される(17)。

 2017年3月現在、メタデータおよびフルテキスト(出版社版原稿)の提供者は、eLife、 PLOS社、 Springer Nature社(配信時期:出版時)およびEurope PMC(配信時期:出版30日後)であり、PubMedはメタデータのみを提供している(18)。今後出版社が、受理のタイミングでの著者最終稿の転送へ対応すれば、HEFCEのOAポリシーの順守における大学の負担軽減につながると考えられる。

 

3.3. Jisc Monitor

 Jisc Monitor(19)は、APCの管理・記録と研究助成機関のOAポリシーの順守状況確認のためのツール開発を目的として2014年に開始されたプロジェクトである。この成果物として2016年11月にMonitor Local(20)とMonitor UK(21)という2つのクラウドサービスが稼働し始めた。

 Monitor Localは、Monitor Localの各参加機関が、グリーンOAとゴールドOA双方を含む自機関の論文情報とAPCの価格情報を記録・管理し、また研究助成機関のOAポリシーの順守状況を確認する機能を持つ。開発時に想定されていた情報源は、出版社の原稿公開許諾ポリシー参照のためのSHERPA RoMEO(22)、OAポリシー順守状況確認のためのツールであるLantern(23)、機関リポジトリアグリゲーターのCORE(24)、雑誌情報を保持するナレッジベースのKB+(CA1860 [148]参照)(25)、書誌情報を持つCrossref(26) などであるが(27)、2017年3月現在は、参加機関の意見を反映の上、実際のデータの流れの確定に向け検討が進んでいる。KB+やCrossrefとの連携はすでに一部実現されている。これらの情報に加え各機関は手入力もしくはCSVファイルからの一括登録によりAPCの情報を入力する。

 情報入力については、たとえば投稿時に論文情報を入力して事前にHEFCEのOAポリシーの順守状況の確認を行うなど、そのタイミングを選択可能とすることが想定されている。また投稿後には研究助成機関への報告書作成のためにCSV形式のデータを出力することも可能である。各種情報源との連携の一部は自動化されていないが、Monitor Localを利用することで、たとえば購読費とAPCの二重取り(ダブルディッピング)の可能性を把握し確認できることが重要であると示唆を受けた。

 Monitor UKはMonitor Local上の情報を集めてAPCに関するベンチマーキングを可能とする機能を持つ。使用するデータはMonitor Localから集約されるほか、各機関が保持するAPCのデータをCSV形式のファイルを利用して直接入力することも可能とする想定であったが、2017年3月現在はMonitor Localとの連携方法を検討中のためサービス提供を停止している。公開されているプロトタイプ(28)では、出版社別および参加機関別のAPC支払額と件数や、研究助成機関別のゴールドOAとハイブリッドOAのAPC支払額と件数、ゴールドOAとなった論文のうち、グリーンOAでも研究助成機関のOAポリシーを順守できた件数などが自動的に算出・可視化されている。Monitor UK参加機関はこれらのデータを利用し自機関の状況を他機関や国の平均と比較したり、APCの価格やOAポリシー順守に対するサポートの面で出版社を評価したりすることが可能となる。

 Monitor LocalとMonitor UKのいずれかのみの参加を選択することも可能である。

 

4. インペリアル・カレッジ・ロンドンによる対応

 インペリアル・カレッジ・ロンドンは、工学、医学、自然科学の3学部およびビジネススクールを有し、年間1万本以上の論文が発表される(29)研究大学である。2016-2017年の世界大学ランキングでは、Quacquarelli Symonds(QS)社により9位、Times Higher Education(THE)社により8位(英国内では3-4位にあたる)と位置づけられている。2015/2016年度にはRCUKからOAのための補助金として154万4,569ポンドの配分を受けた(30)。

 

4.1. OA推進の体制

 インペリアル・カレッジ・ロンドンは2012年1月に大学のOAポリシー(31)を発表し、すべての論文の著者最終稿を機関リポジトリにアップロードすることを義務づけた。またゴールド OA 誌への投稿時に利用可能なAPCファンドも学内に整備されている。

 学内では、2012年設立のOpen Access Publishing Working Groupと、2013年設立のOpen Access Implementation Groupという 2つの組織(32)が中心となってOAを推進してきた。前者はAssociate Provostが率い、図書館や研究推進部門を含む複数の部署のメンバーにより構成され、大学のOAに関する戦略を決定する。後者は研究推進部門の学術コミュニケーション担当官(Scholarly Communications Officer)が率い、図書館やICT部門からのメンバーを含み、OAに関する戦略を実践する。

 図書館の職員数は約100名であるが、図書館内のOA担当者は、RCUKと学内の助成によるAPC管理のために約1名増員された後、HEFCEのOAポリシー発表をきっかけに機関リポジトリ登録業務のために約2名増員され、2017年3月現在、ゴールドOA担当2名、グリーンOA担当3名、双方を管理するマネージャー1名の計6名である。なお、OA担当者がサブジェクトライブラリアン向けに月に1回、OAに関する情報のアップデートを行っている。

 

4.2. ゴールドOAとグリーンOAに対応するワークフロー

 インペリアル・カレッジ・ロンドンでは、HEFCEのOAポリシーへの対応をきっかけとして、教員の負担を減らすシンプルなワークフロー(33)を導入した。教員に要求される行動は、ゴールドOAとグリーンOAのどちらであっても、論文が受理された際、論文情報および著者最終稿の登録をCRIS(Symplectic社のシステムElements(34))から行い、APC助成の希望があれば該当の助成金を選択することのみである。なお、すでに外部のリポジトリに論文の原稿を登録済であればそのリンク先を入力することで原稿の登録に代えられる。この際教員が入力する情報は、掲載誌と論文のタイトル、受理された日付、DOIおよび助成金情報であり、残りの情報は図書館員が確認の上入力する。また人事や助成金に関する情報はあらかじめCRIS上で保持されている。その後、論文情報と原稿は、CRISの機能を使用して機関リポジトリへ転送される。

 このワークフローにより、これまで教員がASK OAという学内独自のAPC管理システムを利用して行っていたAPC助成の申請を、論文情報登録と同時に行えるようになった。教員がCRISで論文情報を入力する際、RCUKやCOAFなどの助成金や学内のAPCファンドから該当の助成金を選択し申請すると、ASK OAに情報が転送され、そこで発行された識別番号を教員が出版社に通知することで請求書が大学に送付される仕組みである。教員はこのワークフローに従うことで、助成を受けた研究助成機関やOAの方法(グリーンOAもしくはゴールドOA)によって取るべき手順を変える必要がないということが、重要な点である(35)。

 このワークフローの試行期間中には、HEFCEのOAポリシーが定める期限内に機関リポジトリへ登録した論文数が増加したと報告されている(36)。

 

4.3. APCの記録・管理とOAポリシー順守状況の確認

 このワークフローは、教員だけでなく、図書館および研究推進部門の負担軽減にも役立っている。大学はRCUKへOA補助金の使用状況とOA率を、またCOAFへAPC助成を受けた額とその対象論文を報告する必要があるが、このためのデータの収集がこのワークフローによって可能となったためである。

 たとえばAPCの価格情報はCRISには保持されていないが、CRIS上の論文情報とASK OA上のAPC価格情報を特定の識別番号で紐づけることが可能となった。また、このワークフローでは助成金の情報の入力を教員へ要求していることから、論文と研究助成機関の情報が紐づくことにより、研究助成機関への報告にも役立つことが期待されている(37)。

 またHEFCEのOAポリシーの順守状況の確認には、CRISが保持する機能Open Access Monitorモジュール(38)を使用している。この機能では、各論文情報に対して、本文の有無やエンバーゴ、原稿のバージョンの情報などを入力し、HEFCEのOAポリシーを順守しているか、またこのポリシーにおける例外(39)に該当するかどうかについて図書館が管理できる(40)。CRIS上で管理した情報は、Imperial College Analytics(41)という大学の分析ツールを利用し、学部別のOAポリシーの順守状況をダッシュボードで表示し把握することができる。

 

4.4. ORCID

 インペリアル・カレッジ・ロンドンでは、2015年の英国のORCIDナショナルコンソーシアム発足に先立ち2014年から実施されたJisc-ARMA ORCID pilot project(42)(E1687 [149]参照)の一環として、ORCIDを学内全教員に付与するプロジェクトを2014年11月より行い、以下の事項が報告された(43)。

 まず、ORCID iDの作成方法は、ORCIDメンバー機関が利用可能なAPIでの一括付与とした。最終的には全教員4,347名のうち、オプトアウトを選択した教員や作成済の教員などを除く3,226名のORCID iDを作成し、CRIS上の研究成果情報約24万件をORCIDのレジストリへアップロードした。その後学内で周知の結果、2015年10月20日までには2,088名の教員がORCID iDの承認手続きを完了した。

 現在、ORCID iDを含む論文情報を外部のデータベースからCRISに自動で取り込む機能の実装を準備中である。

 

4.5. 課題および今後の展望

 HEFCEのOAポリシーは、論文の受理後3か月以内の機関リポジトリへの原稿の登録を求めているため、インペリアル・カレッジ・ロンドンではそれまでに確立していた出版後の論文情報登録のワークフローが機能しなくなった(44)。CRISが持つ論文情報のアラート機能は、あらかじめ設定したキーワードに合致する論文情報を教員へ通知するが、これは出版後の通知であるためHEFCEのOAポリシーが定める時期に間に合わない場合がある。そのため現在は教員が受理後すぐに論文情報をCRISに手入力する必要があるが、この時点では巻号や出版日の情報が不明であることもあるため、教員や図書館員は出版時に、アラートされた情報と既存の受理時の情報を手動でマージしたり情報を手入力したりしている。さらにHEFCEのOAポリシーを順守しているかどうか確認するのに必要な受理日や出版日などの情報は把握自体が困難である。

 これらの問題を解決するため、インペリアル・カレッジ・ロンドンではさらなるワークフローの改善の展望がある(45)。受理後の論文情報が、出版社やCrossrefを通じて、下記のような流れで大学のCRISへ転送されるという仕組みである。

  • (1) 著者がCRIS上でORCID iDを紐づけ
  • (2) 著者がORCID iDおよび研究助成機関の情報を出版社に通知
  • (3) 受理時に出版社が論文にDOI付与
  • (4) 出版社がORCID iDや研究助成機関の情報をCrossrefに通知
  • (5) Publications Routerを通じて出版社などからCRISへ論文情報や原稿を転送、もしくはORCID iDを条件にCRISを通じてCrossref上の論文情報を検知

    ※受理時にDOIが付与されていれば、受理時の入力情報を出版時の情報で自動アップデートすることも可能となる。

 このワークフローが実現すれば、論文情報が、論文や著者が識別可能な状態で受け渡され、情報の入力や更新をする教員や図書館の負担が軽減される。このワークフローが機能するためには、Publications Routerへ情報を提供する出版社の増加やCRISによる機能上の対応などいくつかの課題があるが、すでに進展のみられる部分もある。たとえば投稿時にORCID iDの提示を要請する出版社が増加しており(46)、またCrossrefによる受理時のDOI発行も開始される予定(47)である。インペリアル・カレッジ・ロンドンにおける全教員へのORCID iD一括付与も、このワークフローにおいて最終的にCRISや機関リポジトリが論文の情報を受け取るための重要な要素となる。

 

5. おわりに

 以上、英国において研究助成機関のOAポリシーを背景にOAへの要請が高まる中で生じている課題と、大学およびその関連機関によるそれへの対応について、Jiscおよびインペリアル・カレッジ・ロンドンの事例を報告した。英国では現在、大学全体の出版物の情報やそれと紐づいた助成金の情報およびAPCの使用額の把握、またそれらの情報をもとにしたOAポリシーの順守状況の確認や研究助成機関への報告が課題となっている。また複数の研究助成機関のOAポリシーへの対応や、これらの業務にかかる事務コスト抑制の必要性も指摘されている。

 これらの課題を解決するため、JiscではMonitor Local、Monitor UKやPublications Routerなどのサービスの提供が開始され、またインペリアル・カレッジ・ロンドンでは、CRISや大学独自のAPC管理システムなどを活用し、教員や大学全体の負担を軽減するワークフロー導入の試みがなされてきた(図1)。

 

図1 OAに関する新たな課題へのJiscとインペリアル・カレッジ・ロンドンの対応

※筆者作成

 

 日本は、英国のように主要な研究助成機関がOAを義務化する状況にはないが、今後そのような状況になればこれらの対応が参考になると思われる。

 

※参照URLの最終確認日は、記載のあるものを除きすべて2017年5月4日である。

(1) HEFCs(Higher Education Funding Councils)は、HEFCEおよび各地域でHEFCEと同様に高等教育機関向け基盤的研究経費配分を行うウェールズのHEFCW(Higher Education Funding Council for Wales)、スコットランドのSFC(Scottish Funding Council)、北アイルランドのDEL(Department for the Economy, Northern Ireland)の総称である。本稿では、HEFCs合同でHEFCEを中心に発表されたOAポリシーにつき、HEFCEのOAポリシーと記述する。

(2) “UK Gross domestic expenditure on research and development: 2014”. Office for National Statistics.
https://www.ons.gov.uk/economy/governmentpublicsectorandtaxes/researchanddevelopmentexpenditure/bulletins/ukgrossdomesticexpenditureonresearchanddevelopment/2014/ [150].

(3) Finch, Dame Janet et al. “Accessibility, sustainability, excellence: how to expand access to research publications: Report of the Working Group on Expanding Access to Published Research Findings”. 2012-06.
https://www.acu.ac.uk/research-information-network/finch-report-final [151].

(4) 移行期間中は、APC支払いにOA補助金を利用できない場合には著者最終稿のリポジトリ登録までに12か月(人文社会科学分野では24か月)のエンバーゴが許可されている。
RCUK. “RCUK Policy on Open Access and Supporting Guidance”. 2013-04-08.
http://www.rcuk.ac.uk/documents/documents/rcukopenaccesspolicy-pdf/ [152].

(5) “Data required by RCUK to support compliance monitoring”. RCUK.
http://www.rcuk.ac.uk/documents/documents/compliancemonitoring-pdf/ [153], (accessed 2017-05-16).

(6) Wright, Andrew; Hicks, Pamela. “Guidance on RCUK open access compliance and financial reporting 2016-17”. RCUK. 2017-04.
http://www.rcuk.ac.uk/documents/documents/oa/rcukoareportingguidance-pdf/ [154].

(7) “COAF information for research organisations”. Wellcome.
https://wellcome.ac.uk/funding/managing-grant/coaf-information-research-organisations [155].

(8) “Policy for open access in Research Excellence Framework 2021”. HEFCE. 2016-11.
http://www.hefce.ac.uk/media/HEFCE,2014/Content/Pubs/2016/201635/HEFCE2016_35.pdf [156].

(9) 2016年4月からは、リポジトリへの登録は受理後ではなく出版後3か月以内とする緩和措置が取られている。受理後3か月以内の登録は2018年4月以降に受理された論文から適用される。
“Open access in the Research Excellence Framework: Extension of flexibility”. HEFCE. 2016-11.
http://www.hefce.ac.uk/pubs/year/2016/CL,322016/ [157].

(10) 2014年に実施されたREFでは、アウトプット(評価割合65%)、インパクト(20%)、研究環境(15%)の3つの基準で5段階(4段階および評価なし)での評価がなされ、アウトプットについては2008年1月から2013年12月に出版された研究成果から教員1人当たり最大4点が提出された。提出された研究成果総数は19万1,150点である。
山田直. “2015年1月号「大学の研究への公的評価:REF2014」<2014年度公的研究評価結果:HEFCE資料より>”. SciencePortal. 2015-01.
http://scienceportal.jst.go.jp/reports/britain/20150105_01.html [158].
“REF2014 Key facts”. HEFCE.
http://www.ref.ac.uk/media/ref/content/pub/REF%20Brief%20Guide%202014.pdf [159].

(11) “Review of the implementation of the RCUK Policy on Open Access”. 2015-03.
http://www.rcuk.ac.uk/documents/documents/openaccessreport-pdf/ [160].

(12) Jubb, Michael et al. “Monitoring the Transition to Open Access: A report for the Universities UK Open Access Co-ordination Group”. 2015-08.
https://www.acu.ac.uk/research-information-network/monitoring-transition-to-open-access [161].

(13) “Review of the implementation of the RCUK Policy on Open Access”. 2015-03.
http://www.rcuk.ac.uk/documents/documents/openaccessreport-pdf/ [160].

(14) “Open access good practice”. Jisc.
https://www.jisc.ac.uk/rd/projects/open-access-good-practice [162].

(15) Blanchett, Helen; DeGroff, Hannah. “Moving open access implementation forward: A handbook for open access good practice based on experiences of UK higher education institutions”. 2016-12.
http://repository.jisc.ac.uk/6565/1/JISC_OAGP_OUTPUTS_HANDBOOK_FINAL.PDF [163].

(16) Publications Routerについては2016年9月にインタビューを実施しておらず、記載の情報は文献調査および2017年4月の担当者へのメールでの確認による。
Publications Router.
https://pubrouter.jisc.ac.uk/ [164].

(17) “Technical information”. Jisc publications router.
https://pubrouter.jisc.ac.uk/about/resources/ [165].

(18)Springer Nature社の場合は出版時もしくは出版前にオンライン版が入手可能になった際に各機関に通知される。
“Current content providers”. Jisc publications router. 2017-01.
https://pubrouter.jisc.ac.uk/about/providerlist/ [166].

(19) “Monitoring open access activity (Jisc Monitor) ”. Jisc.
https://www.jisc.ac.uk/rd/projects/monitoring-open-access-activity [167].

(20) “Monitor Local”. Jisc.
https://monitor.jisc.ac.uk/local/ [168].

(21) “Monitor UK”. Jisc.
https://monitor.jisc.ac.uk/uk/ [169].

(22) SHERPA RoMEO.
http://www.sherpa.ac.uk/romeo/index.php [170].

(23) Lantern.
https://lantern.cottagelabs.com/ [171].

(24) CORE.
https://core.ac.uk/ [172].

(25) Knowledge Base+.
https://www.kbplus.ac.uk/kbplus/ [173].

(26) Crossref.
https://www.crossref.org/ [174].

(27) Manista, Frank C. “Jisc Open Access Services: Jisc Monitor”. PASTEUR4OA. 2016-05-17.
http://www.pasteur4oa.eu/sites/pasteur4oa/files/generic/Frank%20Manista.pdf [175].

(28) “ALL APC”. Cottage Labs.
http://apc.ooz.cottagelabs.com/ [176].

(29) Reimer, Torsten. Your name is not good enough: introducing the ORCID researcher identifier at Imperial College London. Insights. 2015, 28(3), p. 76-82.
http://doi.org/10.1629/uksg.268 [177].

(30) “RCUK announces 2015/16 Block Grant for Open Access”. RCUK. 2015-03-05.
http://www.rcuk.ac.uk/media/news/150305/ [178].
2016/2017年度は、過去の支給額の利用が少ない機関には追加配分が実施されず、インペリアル・カレッジ・ロンドンは配分額のリストに記載がない。
“RCUK announces 2016/17 Block Grant for Open Access”. RCUK. 2016-10-19.
http://www.rcuk.ac.uk/media/news/161019/ [179].

(31) “Imperial's open access policy”. Imperial College London.
http://www.imperial.ac.uk/research-and-innovation/support-for-staff/scholarly-communication/open-access/oa-policy/ [180].

(32) この2つの組織は2016年までで解体され、現在は新しい体制となっている。
“Imperial's open access policy”. Internet Archive.
http://web.archive.org/web/20160205134826/http://www.imperial.ac.uk/research-and-innovation/support-for-staff/scholarly-communication/open-access/oa-policy/ [181], (accessed 2017-05-11).

(33) Reimer, Torsten. “Making Open Access simple – The Imperial College approach to OA”. Open Access and Digital Scholarship Blog. 2015-07-28.
http://wwwf.imperial.ac.uk/blog/openaccess/2015/07/28/making-open-access-simple-the-imperial-college-approach-to-oa/ [182].
Dobson, Helen. “Approaches to Deposit: Imperial College”. opeNWorks. 2016-04-11.
https://blog.openworks.library.manchester.ac.uk/2016/04/11/approaches-to-deposit-imperial-college/ [183].

(34) “Elements”. Symplectic.
http://symplectic.co.uk/products/elements/ [184].

(35) HEFCEのOAポリシーは、ゴールドOAの場合は著者最終稿をリポジトリに登録しないことも認めており、その場合インペリアル・カレッジ・ロンドンではCRISで受理日の登録を行う必要がある。
“Post-2014 REF: open access requirements”. Imperial College London.
https://www.imperial.ac.uk/research-and-innovation/support-for-staff/scholarly-communication/open-access/post-2014-ref/ [185].
インペリアル・カレッジ・ロンドンにおいては、APC助成の申請をする場合は著者最終稿の登録が必須となっている。助成の申請を受けた後に図書館が確認を行った結果、それぞれのAPC助成金が助成対象とする基準に該当しない場合には図書館が助成申請を許可せず、登録された著者最終稿をもってグリーンOAとする場合もあるためである。またHEFCEのOAポリシーに対応して著者最終稿のリポジトリへの登録を教員に習慣づけるためでもある。

(36) Dobson, Helen. “Approaches to Deposit: Imperial College”. opeNWorks. 2016-04-11.
https://blog.openworks.library.manchester.ac.uk/2016/04/11/approaches-to-deposit-imperial-college/ [183].

(37) Reimer, Torsten. “Making Open Access simple – The Imperial College approach to OA”. Open Access and Digital Scholarship Blog. 2015-07-28.
http://wwwf.imperial.ac.uk/blog/openaccess/2015/07/28/making-open-access-simple-the-imperial-college-approach-to-oa/ [182].

(38) “Introducing our latest Elements module – the Open Access Monitor”. Symplectic. 2015-05-01.
http://symplectic.co.uk/elements-updates/introducing-open-access-monitor/ [186].

(39) 例外にあたるケースは、HEFCEのOAポリシーの中の項目“Exceptions” (37-41)に記載されている。
“Policy for open access in Research Excellence Framework 2021”. HEFCE. 2016-11.
http://www.hefce.ac.uk/media/HEFCE,2014/Content/Pubs/2016/201635/HEFCE2016_35.pdf [156].

(40) RCUKやCOAFのOAポリシー順守の確認にはOpen Access Monitorモジュールは使用せず、教員からのAPC助成申請時にSHERPA FACTやSHERPA RoMEOを利用して投稿先の雑誌が該当のOAポリシーを順守しているかの確認が行われる。

(41) “Imperial College Analytics (ICA)”. Imperial College London.
https://www.imperial.ac.uk/admin-services/ict/self-service/research-support/research-support-systems/ica/ [187].

(42) JISC-ARMA ORCID pilot project.
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(43) Reimer, Torsten. Your name is not good enough: introducing the ORCID researcher identifier at Imperial College London. Insights. 2015, 28(3), p. 76-82.
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(44) Reimer, Torsten. “Lessons from the Road to 100% Open Access”. 2015-03-18.
http://www.slideshare.net/TorstenReimer/lessons-from-the-road-to-100-open-access [189].

(45) Reimer, Torsten. “Automate it - open access (compliance) as by-product of better workflows”. 2016-05-11.
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(46)宮入暢子. 研究者識別子ORCID:活動状況と今後の展望. 情報管理. 2016, 59(1), p. 19-31.
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[受理:2017-05-17]

 


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