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No.327 (CA1865-CA1871) 2016.03.20

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小特集 東日本大震災から5年(CA1865-CA1868)

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カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

 

小特集 東日本大震災から5年

 

 2016年3月、東日本大震災の発生から5年を迎えました。

 これまでに行われた被災地の図書館の活動や取組を今後に生かすために、今号では小特集を企画しました。
被災地における図書館の事業継続への取組や移動図書館の活動、震災の記録を残す取組、また、被災図書館への支援活動を紹介します。

 

 

 


小特集, 東日本大震災から5年. カレントアウェアネス. 2016, (327), p. 2-19.

カレントアウェアネス [3]
災害 [4]
震災 [5]
日本 [6]
図書館 [7]

CA1865 - 震災時の図書館における事業継続への取組 ―仙台市図書館の経験から― / 村上佳子

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カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1865

 

 

震災時の図書館における事業継続への取組 ―仙台市図書館の経験から―

仙台市民図書館:村上佳子(むらかみ よしこ)

 

はじめに

 東日本大震災から5年が経ち、仙台市の復興事業もひとつの区切りを迎えている。

 筆者は、震災発生時、地区館である太白図書館に勤務していたが、2012年4月、若林区中央市民センターに異動となり、その後3年間、震災の被害が最も大きかった沿岸部の行政区で、区役所と公民館の職員という立場から、震災復興に向けたまちづくりと社会教育の業務に携わることになった。

 仙台市図書館ではその間、2012年3月に「仙台市図書館振興計画」(1)を策定し、これまでの図書館政策の課題を整理するとともに、今後進めるべき施策をまとめている。これは、震災前にほぼ完成していたもので、1年遅れの策定となったが、震災を受けての取組についてはごく簡単に触れるにとどまっている。

 現在、この計画の見直しを控えていることもあり、改めて震災をふまえた図書館の利用者サービスの継続といった視点から、現状と課題を考えてみたい。

 

仙台市図書館の現況

 仙台市図書館は7館ある(2)。いずれも複合施設で、4館が直営、3館が指定管理者による運営となっている。市民図書館の震災直後の状況については、すでに詳細な報告があるが(3)(4)、ここではまず、震災前後で施設や運営形態が変わった館を含め、各館の規模と2011年3月11日に発生した東日本大震災後の利用者サービス再開時期を示したい。

 比較的早い時期の再開が可能となった広瀬図書館を除き、各図書館では、施設の安全確認と修繕工事が終了する前に、屋外やロビースペースを利用した臨時窓口による貸出サービスを開始しており、最も早い太白図書館の臨時窓口開設と移動図書館の暫定運行は4月5日、震災から25日後であった。

 その後、広瀬図書館の4月19日を皮切りに、2か月以内に3館、5か月以内に6館が再開し、最も被害が大きかった泉図書館の再開には8か月以上を要した。

各図書館の被害状況は、『仙台市図書館要覧』(5)にその概要が記されているが、特に泉図書館では、外壁、内壁に多数の亀裂が入り、一部では室内の壁面から外が見える状態であった。

 

表 仙台市図書館

館名運営形態蔵書数(冊)職員数(人)施設再開日
臨時窓口開設日
広瀬指定管理*110万 134月19日
市民
(中央)
直営55万 445月3日
4月9日
太白直営20万 275月10日
4月5日
若林指定管理*223万 275月27日
4月6日
榴岡指定管理*37万 127月26日
5月12日
宮城野*4直営22万 218月5日
4月28日
泉直営52万 3611月30日
5月12日
移動図書館委託*53500(積載)
2台
95月31日
4月5日
(暫定運行開始)

蔵書数・職員数は2015年4月現在
*1 2008年4月から移行
*2 2015年4月から移行
*3 2012年4月から移行
*4 2012年10月に新館へ移転
*5 1999年10月から移行

 

施設維持のために

 震災後、図書館施設を復旧させるにあたって、最も時間を要したのは大小を問わず修繕工事であった。あまりに大規模な災害であったため、やむを得なかったところではあるが、今後も、自然災害に限らず様々な要因で施設の修繕が必要になることが予想される。

 仙台市では、公共施設の持続的提供のために「仙台市公共施設総合マネジメントプラン」(6)をまとめ、施設の長寿命化に向けた取組を始めている。「壊れた後で直す事後保全」から、「大切に長く使う計画保全」への転換により、施設の長寿命化を図り、事業の継続と長期的視野でのコスト削減をめざすものである。

 改めて図書館の施設管理を考えると、壊れる直前まで使用するのが通常となっており、仙台市の財政状況から見ても理想的に保全を進めるのはかなり難しいと思われるが、このプランで重要性が示されている点検の徹底については、現場での取組が可能と考えている。施設を熟知している職員による目視や、触ってみたり動かしてみたりして違和感がないかといった小さな確認作業の積み重ねにより、施設の安全性と職員の意識を高め、計画保全の取組につなげていきたい。

 

仙台市の事業継続計画

 仙台市では、2015年3月に「仙台市業務継続計画(BCP)[地震・津波災害対策編]」(7)を策定している。これは、東日本大震災がこれまでの想定をはるかに超える大災害であったため、被災直後からマンパワーが不足するとともに、災害対応業務と通常業務の配分や通常業務の再開時期が不明確であったことにより業務の遂行に多くの混乱をきたしたことを教訓としている。各部局の非常時優先業務として、災害対応業務と優先的通常業務の大枠が、発災から時系列で示されており(8)、教育局の社会教育施設である図書館は、所管施設の再開に向けた業務とともに、指定避難所の運営を担当することになっている。

 発災から3時間以内に着手する災害対応業務は、所管施設の保全・利用者保護・被害調査・応急復旧等と、避難所運営である。市内に約200か所ある指定避難所は、それぞれ運営を担当する課が決まっており、図書館も、直営館4館が所定の避難所を割り振られている。

 優先的通常業務は、発災の24時間後から72時間以内では社会教育施設所蔵資料の整理、1週間後から1か月以内では社会教育施設の管理運営の復旧、1か月後から2か月以内では社会教育施設の再開とされている。

 先に示した震災後の図書館の再開状況に照らしても現実的な計画といえるが、学校の再開が、72時間後から1週間以内とされていることをふまえ、これからも可能な限り早期の再開に向けた取組を考えていきたい。

 

図書館事業の継続のために

 2011年11月に開催された第13回図書館総合展におけるフォーラム「図書館のための事業継続計画(BCP)とは何か?-東日本大震災をふまえて」(9)のなかで、アカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真氏が、自治体職員が災害対策本部へ組み込まれることに触れている(10)。仮に避難所が開設されるような災害が発生した場合、仙台市でも直営4館の職員は先に記したように自治体の災害対応業務にあたることが優先され、市民図書館では、正職員が2名ずつ交代であらかじめ指定された担当の避難所での業務につくことになっている。それ以外の職員は非正規職員を含め、基本的に図書館の再開にむけた優先的通常業務につくことになる。これは東日本大震災時の対応の反省によるもので、非常時に担当する業務を計画に入れておくことで、関係する機関と日頃から情報共有をはかるとともに、本来の事業の継続をより確実することにつながると考えられる。

 図書館における利用者サービスの継続には、施設・資料・システムの三つの要件が確保されることが必要であろう。もちろん、それらを稼働させる職員が必要となるのは当然である。

 施設については前述のとおりだが、資料に関する業務を振り返ると、散乱した図書の排架等の作業は比較的短時間で着々と進められたように思う。各館とも耐震対策が徹底されていたため、書架の倒壊は無く、津波による被害も無かったことが幸いであった。割れたガラス片にまみれた一部の図書を処分することはあったが、200万冊近い蔵書は職員の手で次々と元の書架に収められていった。仮に、火災や津波にといった図書館そのものが損壊するような災害を想定すると、仙台市図書館でのみ所蔵している地域資料等を、電子化によりデータ化し複数館で保存していくといった対策が課題である。

 図書館システムの復旧は2週間後の3月25日であった。復旧作業の経緯は「東日本大震災の記録-3.11をわすれないために-」(11)に記されているが、建物の安全確認とサーバ室の空調機器が作動するまでに10日以上を要している。空調機器の復旧により連続作業が可能となった2日後には全館のシステムが稼働し、臨時窓口での貸出開始に向けて準備を進めていくことができた。2週間は決して短い期間ではないが、当時の状況のもとでは無理からぬところと思われた。今後も図書館システムの更新を控えており、関係者とともに様々な事態を想定した対応をしていかなければならない。

 県北部の沿岸部に位置する気仙沼市では、「2階部分が使えなくても、コンピュータが動かなくても、貸出ができなくてもいいではないか」と、3月30日に図書館を再開している(12)。仙台市でも、避難所への配本や児童館での読み聞かせ等をはじめていたが、仮にシステム復旧が遅れた場合であっても、もう一歩進めた取組をできたのではなかろうか。震災直後、停電や移動手段の断絶により接する情報が限られていた時に、新聞や週刊誌の報道が貴重なものであった。たとえば、地元書店組合に協力を要請し、災害直後に発行された出版物を優先的に納品してもらい、迅速に閲覧サービスを提供するなど、システムが動かない事態でも可能なサービスを検討することが重要である。

 仙台市図書館の職員は、直営館ではおよそ半数が市の正職員、残りの半数が図書館専任の嘱託職員と臨時職員である。正職員は非常時の災害対応業務を担当するが、非正規職員と指定管理館の職員はいずれも図書館業務に専心することになる。震災直後、正職員が被災者支援や施設の復旧に奔走する中で、嘱託職員や指定管理館の職員たちが協力し合い散乱した図書の排架や貸出サービスの準備にあたったことは図書館再開への大きな力となった。非正規職員の雇用や指定管理者制度の是非は、また別の大きな問題であるが、図書館が現在置かれている状況のなかで利用者サービスを継続していくためには、全館の職員の力を最大限活かした運営が不可欠と実感している。

 前掲のフォーラムの中で、日本図書館協会事務局長(当時)の松岡要氏が、非常時に図書館が事業を継続するためには図書館が日常的にどのようなサービスや取組をしているのかが問われるとの発言(13)をされているが、まさに、非常時の問題は、日常の問題の延長線上にあり、日常の取組のなかに減災・防災の新たな可能性があると思われる。

 

おわりに

 震災後、筆者が区役所の業務に携わっていた時、神戸市から派遣されていた保健師の話を聴く機会があった。保健福祉の分野でも、阪神淡路大震災後に顕著となった問題は、震災前からの問題が一気に顕在化して現れたのであって、問題の本質は震災にあるのではないとのことであった。

 図書館においても、市民の暮らしに直結したサービスを担う自治体の施設として、現状の課題の一つひとつに粘り強く向き合っていくことが重要であろう。震災後、臨時窓口を開設した初日にやって来た利用者に、「私にとって図書館はライフラインなの」と言われた言葉が改めて思い出される。多くの市民の暮らしにとって図書館が不可欠な存在となれるよう日々の業務に努めていきたい。

 

(1)仙台市教育委員会.“仙台市図書館振興計画 平成24年3月”
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/soumu/plan-pdf/41_toshokan-plan.pdf [9], (参照2016-01-05).

(2) 仙台市民図書館. “仙台市図書館要覧 平成27年度”. p. 1-2.
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/simintoshokan/youran/pdf/H27youran.pdf [10], (参照2016-01-28).

(3) 平形ひろみ.一司書が見た3・11-仙台市民図書館から.LISN:Library & Information Science News.2011, (149), p. 1-4.

(4) せんだいメディアテーク,仙台市民図書館.“東日本大震災の記録‐3.11をわすれないために”
http://www.smt.jp/toplus/wp-content/uploads/2012/03/45cfbf6b525bb3ffe80082b6db21c07d.pdf [11], (参照2016-02-08).

(5) 仙台市民図書館. “仙台市図書館要覧 平成27年度”. p. 4.
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/simintoshokan/youran/pdf/H27youran.pdf [10], (参照2016-01-28).

(6) 仙台市.“仙台市公共施設総合マネジメントプラン最終案 平成26年2月”.
http://www.city.sendai.jp/shisei/__icsFiles/afieldfile/2014/02/19/honbun.pdf [12], (参照2016-01-05).

(7) 仙台市.“仙台市業務継続計画(BCP)[地震・津波災害対策編] 平成27年3月”.
http://www.city.sendai.jp/kurashi/bosai/keikaku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/05/H2703_BCP_sendaiHP.pdf [13],(参照2016-01-05).

(8) 前掲.p. 3-45.

(9) 熊谷慎一郎, 宮川陽子, 松岡要, 岡本真.第13回図書館総合展 創業97周年記念フォーラム 図書館のための事業継続計画(BCP)とは何か?―東日本大震災を踏まえて.LISN:Library & Information Science News.2012, (151), p. 1-23.

(10) 前掲.p. 22.

(11) せんだいメディアテーク,仙台市民図書館.“東日本大震災の記録‐3.11をわすれないために”. p. 19-20.
http://www.smt.jp/toplus/wp-content/uploads/2012/03/45cfbf6b525bb3ffe80082b6db21c07d.pdf [11], (参照2016-02-08).

(12) 白幡勝美. 震災からの復旧・復興と気仙沼図書館. 図書館雑誌. 2012, 106(3), p. 148-149.

(13) 熊谷,宮川,松岡,岡本. p. 21.

 

[受理:2016-02-08]

 


村上佳子. 震災時の図書館における事業継続への取組 ―仙台市図書館の経験から―. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1865, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1865 [14]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917287 [15]

Murakami Yoshiko
Attempts for Business Continuity at the Library in Case of Disaster: The Experience at the Sendai City Library

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日本 [6]
公共図書館 [17]

CA1866 - 東日本大震災の被災地における移動図書館の役割 / 鎌倉幸子

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カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1866

 

 

東日本大震災の被災地における移動図書館の役割

アカデミック・リソース・ガイド株式会社:鎌倉 幸子(かまくら さちこ)

 

1. はじめに

 津波により図書館が壊滅的な被害を受けた岩手県沿岸部で、2011年7月から、筆者が所属していた公益社団法人シャンティ国際ボランティア会は移動図書館の活動を開始した。町中で復興に向けての大規模な工事が行われ、また仮設住宅が点在する被災地では、小回りの利く移動図書館が本を手にする機会を途切れさせない役割を担えると感じている。また、生活が一変してしまった土地での移動図書館車の巡回は、きめ細やかに利用者が直面している課題を聞き、選書をし、情報を届けることにより利用者の安心につなげることもできる。

 2015年12月、岩手県・宮城県・福島県の津波の被害を受けた自治体で移動図書館車を運行している15市町村17図書館にアンケート調査を実施した。アンケート用紙をメールまたはFAXでお送りしたところ、全館から回答をいただいた。全村避難している福島県飯舘村は沿岸部にはないが、海外から車両の寄贈を受け活動を開始(1)したことから、アンケートにお答えいただいた。アンケート項目は、図書館名、震災前の移動図書館の有無、移動図書館の活動再開日、移動図書館だからこそ被災者のためにできたこと、移動図書館活動を行う上での課題・困難な点、その他震災後の移動図書館活動で経験した心に残るエピソードの6問である。筆者の経験も踏まえ、本稿ではアンケート結果から見えた移動図書館の役割や課題についてまとめる。

 

2. 移動図書館車の運行開始・再開時期

 アンケート結果から、図書館の建物に被害がなかった自治体は、震災直後の早い段階から移動図書館の活動を再開していたことが分かる。数か月遅れて再開したところは、図書館員が避難所対応など緊急救援関連の業務に従事し、図書館業務に戻るまでに時間を要したことがその理由としてあげられる。

 民間企業から車両の寄贈を受け新たに運行を開始したところもある。岩手県大槌町(2)、宮城県女川町(3)は2012年、先述の福島県飯舘村は2013年になってから活動を開始している。

 

表 移動図書館活動実施図書館

 図書館名震災前の移動図書館車の
有無
移動図書館車の運行開始・
再開日
備   考
岩手県
久慈市久慈市立
図書館
有 2011年3月被害がなかったので通常通り発行
久慈市立
山形図書館
有 2011年3月被害がなかったので発災後すぐに再開
田野畑村田野畑村アズビィ楽習センター図書室有2011年6月8日 
宮古市宮古市立
図書館
有2011年4月6日 
大槌町大槌町
城山図書室
無2012年8月2011年9月からブックコンテナを用いて活動開始、
2012年8月から寄贈車両を活用して運行開始
釜石市釜石市立
図書館
有2011年6月16日 
大船渡市大船渡市立図書館有2011年7月11日 
陸前高田市陸前高田
市立図書館
有2011年7月 
宮城県
気仙沼市気仙沼市
図書館
有 2011年9月1日2011年4月から8月まで避難所へ団体貸出、
9月1日から移動図書館車で再開
気仙沼市
本吉図書館
有 2012年7月3日2011年9月から学校への巡回のみ再開、
2012年7月3日から移動図書館車で再開
南三陸町南三陸町
図書館
有2011年10月5日 
女川町女川町
図書室
無2012年4月3日再開ではなく新規
塩釜市塩釜市民
図書館
有2011年4月14日 
多賀城市多賀城市立図書館有2011年8月9日 
仙台市仙台市
図書館
有2011年4月5日 
福島県
いわき市いわき市立
いわき総合
図書館
有2011年5月2日2011年5月2日にいわき号、同年5月6日にしおかぜ号の運行再開
飯舘村 無2011年5月2日
2013年2月13日
2011年5月2日からいわき総合図書館の移動図書館車が巡回、2013年2月13日から寄贈車両を活用して運行開始

 

3. 被災地における移動図書館の意義・役割・機能

 土盛りの作業や移転先となる高台の整備がまだ続いている被災地では、住民の住まいが定まらないケースが多くみられる。2011年に避難所から仮設住宅に移る際、自治体によっては、震災前に同じ地域に住んでいた人たちを、同じ仮設住宅に住まわせたところもあるが、中には抽選によって仮設住宅を決めたところもある。そうなると見ず知らずの人同士でゼロからコミュニティを作る必要があった。震災後は窃盗が多発し、用もなく外に出て歩き回っていると不審者と思われる可能性もあるため、部屋に閉じこもりがちになる人もいた。そのような状況の中で本を積み巡回してくる移動図書館は、人と人とがつながる場、コミュニケーションをとる場になっていた。

 筆者が移動図書館車の巡回に同行していた時、「移動図書館では、一人で本を立ち読みしていても不自然ではないので、外に出る理由となる」とおっしゃった人もいた。同時に、知り合いになった人たちがおしゃべりを楽しむ場にもなっていた。一人でも、大勢でも楽しめる環境が移動図書館にはあるのではないか。

 

3.1. 読みたい人に読みたい本を届ける

 支援物資として本が避難所などに届いたが、一か所に滞留していては、その本が読みたい人の手に渡らないこともある。利用者と職員が対話しながら、利用者からリクエストを受けたり職員が本を薦めたりといった個々の利用者にきめ細やかに対応するサービスは、移動図書館ならではである。このように、担当職員が各ステーションの利用者の特徴や傾向をダイレクトに把握し利用者や地元に密着したサービスができるのが、移動図書館の強みである。

 本を読みたいと思うタイミングは人それぞれである。震災直後は、以前のように読書をする気になれないという人もたくさんいた。ただ5年に及ぶ仮設住宅での生活を余儀なくされている人たちにとって、読書は精神的な安らぎを得る上で大変役立っているようだという声もある。

 

3.2. アクセスの悪さへの対応

 震災後設置された仮設住宅は津波が来ないよう、沿岸部から遠く離れた場所に設置されるケースが多く見られた。市街地の近くに入居希望が集中したため、抽選でやむを得ずアクセスの悪い場所への入居を余儀なくされた人たちもいた。

 仮設団地を移動図書館の巡回場所に組み込むことで、これまで図書館を利用していたものの震災後は利用しづらくなった被災者の方にも、本に触れる機会を提供できる。また、車の免許を持っていない高齢者は遠方の図書館を利用することができないため、移動図書館は喜ばれている。さらに、交通インフラが整備中であり、図書館へ通う手段を持たない分散した仮設住宅などの住民へのサービスを提供することができたという声も寄せられている。このように移動図書館は、図書館へのアクセスが悪い地域に住む住民へ読書の機会を提供している。

 また、福島県飯舘村は、仮設住宅が福島市・伊達市・相馬市・南相馬市と散在している。避難して離散した住民の情報を双方に伝えることができたとの声が寄せられ、移動図書館は住民同士をつなげる役割も担っている。

 

3.3. 人と人とが出会う場

 屋外で活動する移動図書館は、誰でも気軽に立ち寄れる交流の場となり、本から人、人から社会へとつながる場となっている。抽選で入居した仮設住宅では、どこに誰が住んでいるのか分からない状況であった。ふと立ち寄った移動図書館の場で安否を確認し、知り合いと再会を喜び、抱き合って涙を流す場面がたびたびあったという報告もある。

 震災前から移動図書館車を運行していた自治体では、移動図書館の活動が再開された話を聞いて、遠方からステーションを訪れる住民もいた。さらに「震災時の状況について話を聞いてほしい利用者もおり、話を聞くことが多かった。震災前から積み重ねてきた関係があったので、被災した人に寄り添い話を聞くことができた」という報告もあった。また、震災前から運行していた自治体の職員が「移動図書館を通じて住民や学校のニーズをくみ取ることができるので、早く再開させたい」と震災直後に話していたことも思い出される。

 住民の生の声を聞くことができるということは、移動図書館の担当職員は利用者に近い存在となっているからと考えられる。

 

3.4. 情報の迅速な提供

 震災直後は電気やガスなどのインフラが遮断され、安否確認を含め情報の不足が人々を不安にさせていた。その中で「紙」の持つ価値を知らしめたのが、手書きで記事を書き「壁新聞」として避難所に届けた石巻日日新聞の活動であろう。

 被災地では、生活に必要な情報が、インターネットを利用しない高齢者には特に、リアルタイムに届きづらい傾向がある。仮設住宅にはテレビが支援物資として置かれていたが、市役所からのお知らせなどその地域の情報が常に流れるわけではない。インターネットへのアクセスが難しければ、地元のラジオかチラシなど「紙」が情報源となる。移動図書館の場にチラシを設置したり掲示したりすることで、情報の伝達場所となった。

 また、市民図書館の情報や、励ましのイベントを利用者と直接会話して伝えたケースもあった。既に述べたが、移動図書館が利用者に密着したサービスを提供することができるからこそ、必要としている資料の提供はもちろん、利用者が気晴らしのために行きたいと思っている催し物や役場の情報も対面で伝えることができる。

 

3.5. 自治体間の支援

 図書館が壊滅的な被害を受けた自治体に、近隣の自治体が移動図書館車を巡回し、市町村の枠を超えた支援運行が行われた地域がある。岩手県の内陸にある滝沢村(現:滝沢市)は、2011年4月14日から山田町、5月14日から大槌町へ移動図書館車の運行を実施した (4)。8月に運行を終了したが、その後北上市が山田町、花巻市が大槌町への運行を引き継いだ (5)。図書館の被害はなかった岩手県久慈市は、隣接している野田村へ2011年7月から2012年3月まで移動図書館車を運行した。

 

3.6. 図書館施設の代替

 地震による建物への被害と安全確認のために開館できなかった図書館もあった。宮城県多賀城市立図書館では建物の安全確認ができるまで、移動図書館車を利用して本館玄関前で貸出を行った。宮城県仙台市でも、建物の損壊により立ち入ることができなかった図書館の屋外に移動図書館車を設置して業務を行った。

 

4. 活動を行う上での課題

4.1. 道路状況の悪さ

 復興に向けた大規模な工事がいたるところで行われているため、道幅が狭かったり、路面状態が悪く運転の際に気をつけなければいけない場所が多々ある。工事の状況次第では巡回路を変更しなければいけなくなることもある。また沿岸部は比較的暖かく雪は少ないが、冬は路面が凍結する道もある。そのため運転技術の高さが求められるが、そのような運転手の不足に直面している図書館もある。

 

4.2. ステーションの確保

 仮設住宅の撤去や区画整理などにより、ステーションとしていた場所が利用不可になる状況が出てきている。車両を駐車するのに十分なスペースがある空き地が限られてきている。

 

4.3. 住民移動への対応

 仮設住宅から公営住宅や新築住宅への引越や、県外転出など住民移動が頻繁になってきている。そのため定期的にステーションや巡回ルートの見直しが必要となる。

 

4.4. 予算や人材の制限

 震災前から移動図書館車を運行している自治体では、車両が老朽化しているところも少なくない。そのため移動図書館車の維持・管理が課題となっている。新しく車両を購入するにもかなりの予算がかかるため、廃車となった後活動を継続できるのか要検討となっているところもある。

 また資料費の問題もある。図書館の資料購入予算は限られており、利用者のリクエストに応えていくには限界がある。震災後、本の寄贈が全国から寄せられた図書館もあるが、仕分け作業に時間がかかる。筆者自身、作業に立ち会ったこともあるが、箱を開けた瞬間にカビが舞うくらい古い本が送られてきたケースもあった。臨時に雇われた職員は、司書ではないので箱を開ける作業はできても、選書などはその図書館の職員に頼らなければいけない。数人の司書で何万冊の本を整理するには時間も労力も不足している。東日本大震災時に結成された、図書館等の被災状況や必要な支援のニーズを伝えるサイトであるsaveMLAKの有志による「本を送りません宣言」(6)も含めて、今後大震災が起こった時の本の送り方を考える必要がある。必要な本を必要な人に届けるために、現場の司書をサポートする支援が求められる。

 

5. まとめ

 東日本大震災の被災地では、住宅の確保が依然として課題となっている。復興庁によると、2015年度末になっても岩手県・宮城県・福島県の18市町村では住宅の確保に関する事業が完了せず、岩手県山田町、釜石市、大船渡市、陸前高田市、宮城県気仙沼市、女川町、石巻市は2018年度までかかる予定である(7)。原子力災害に伴い避難指示等が出された福島県田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村については、一部避難指示解除が出された地域もあるが住民の不安もあり、先の見えない状態が続いている(8)。

 震災後4年半が経過し、被災者の居住が避難所から仮設住宅、そして公営住宅等へと移りつつある。移動図書館もそれに伴い、巡回ステーションの改廃・新設の動きが続いている。ステーションを変えながら対応できるのが移動図書館の強みだろう。公営住宅に移ればまた違う生活のニーズが出てくるかもしれないので、その生活様式に合わせた選書をしていきたいという声もある。住民の生活に密着し寄り添いながら、その人にとって必要な一冊を届けられることが移動図書館の価値ではないか。

 ステーション変更の動きが続いているが、この流動が落ちつき巡回が固定化した時が復旧へ向けてのスタート地点であり、復興はまだ見えてこないとアンケートに書いてくれた司書もいた。被災地では、被害を受けた公共図書館の再建がいまだに行われていない地域もある。2016年は震災から5年の節目の年といわれるが、被災地では復興への一通過点に過ぎない。そして見えない復興への不安が広がるからこそ、生きるための情報、人の顔の見える関係が大切であり、アンケート結果から分かるように、引き続き「地域社会のネットワーク」としての移動図書館の役割が重要であると言えよう。これからも移動図書館の活動が継続されていくことを願ってやまない。さらに、生きるための情報の提供、人の顔の見える関係づくりの在り方は、被災地だけの課題ではないと感じている。今後は震災の経験を教訓として、移動図書館を通じた地域社会ネットワークについて議論をしていければと考えている。

 最後に、人と向き合い、声を聞きながら丁寧に本を届ける移動図書館活動を日々実践し、アンケートにご回答いただいた自治体の皆さまに心から感謝いたします。

 

(1) 在日オーストラリア大使館. “オーストラリア、福島県飯舘村に移動図書館車を寄贈”.
http://australia.or.jp/pressreleases/?id=524 [19], (参照2016-02-18).

(2) 株式会社ニッセンホールディングス. “東日本大震災復興支援プロジェクト 移動図書館車『なかよし共和国』を岩手県大槌町へ寄贈”.
http://www.nissen-hd.co.jp/ir/pdf/IR_12_02_17_1.pdf [20], (参照2016-02-18).

(3) 近畿大学. “「女川つながる図書館」オープニングならびに 「女川つながる移動図書館号」贈呈式 開催のお知らせ”.
http://www.kindai.ac.jp/topics/2012/03/post-302.html [21], (参照 2016-02-18).

(4) 鎌倉幸子. 走れ!移動図書館. 筑摩書房, 2014, p. 60.

(5) 岩手県立図書館. “震災からの再生を目指して-岩手県における図書館の被災と復旧・復興支援”.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/pdf/forum22_text6.pdf [22], (参照 2015-12-29).

(6) saveMLAK. “本を送りません宣言”.
http://savemlak.jp/wiki/%E6%9C%AC%E3%82%92%E9%80%81%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E5%AE%A3%E8%A8%80 [23], (参照 2015-01-29).

(7) 復興庁. “復興の現状と課題”.
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/150911_gennjyoutokadai.pdf [24], (参照 2015-12-29).

(8) 復興庁. “福島の復興に向けた取組”.
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/20150707_jikankouenshiryo_douyuukai.pdf [25], (参照 2015-12-29).

 

[受理:2016-02-22]

 


鎌倉幸子. 東日本大震災の被災地における移動図書館の役割. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1866, p. 5-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1866 [26]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917288 [27]

Kamakura Sachiko
Roles of the Mobile Library in the Disaster Stricken Areas after the Great East Japan Earthquake

カレントアウェアネス [3]
災害 [4]
震災 [5]
移動図書館 [28]
日本 [6]
公共図書館 [17]

CA1867 - 宮城県内の自治体による震災アーカイブの概況 / 眞籠 聖

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カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1867

 

 

宮城県内の自治体による震災アーカイブの概況

宮城県図書館:眞籠 聖(まごめ たかし)

 

1. はじめに

 東日本大震災から5年が経過し、被災した自治体による震災の記録を残す動きが多く見られる。自治体ごとに街の被災状況とその対応を記録誌にまとめ冊子体で発行するという従前の例が多いが、近年、インターネットを通して記録を直接参照できるようにしたデジタルアーカイブが普及したことに伴い、震災の記録をインターネットで公開する「震災デジタルアーカイブ」(以下「震災アーカイブ」という。)を構築する例も見られる。

 本稿では、筆者が図書館職員として「東日本大震災アーカイブ宮城」の構築に関わった経験を踏まえつつ、宮城県内の自治体による震災アーカイブの取組を概観し、今後の課題と展望を述べる。

 なお、記録誌を電子ファイルの形で自治体のウェブサイトにおいて公開する例も広義の震災アーカイブと捉えられるが、本稿においては、記録誌だけでなく写真や音声、動画、会議録、行政資料、被災者の体験談、測定データ、統計といった多様な形態の資料を長期にわたって参照可能な形で公開する事例に絞って概観したい(宮城県及び県内の自治体がインターネット上で公開する記録誌の一覧は宮城県総務部危機対策課がまとめている(1)(2))。

 なお、本稿の意見に属する部分は筆者個人のものであり、所属する組織を代表するものではない。

 

2. まず震災資料を集めることから

 あらゆる形態の資料を保存する震災アーカイブには、ボーンデジタル資料だけでなく、アナログな物理的資料をデジタル化した資料が含まれる。東日本大震災のような非常事態においては、電子媒体よりも紙やホワイトボード、掲示板といった物理的な媒体が主な記録・情報伝達手段となりやすく、これらの資料を横断的に参照することによって、震災直後の詳細な状況を多元的に理解することができる。

 忘れがちであるが、震災アーカイブを構築するためにはシステム開発以前に、まず対象となる現物資料を収集する必要がある(3)。チラシやミニコミ誌といった地域に根ざした情報が記録された出版物や、行政の広報などに注意深くアンテナを張り、「足で稼ぐ」ような地道な収集という準備段階が欠かせない。さらに、集めた資料に解説が無ければその資料を理解し活用することが難しいため、丁寧なメタデータ付与や解題作成等の編集作業が求められる。集めた資料が広く利活用されるためには、著作権等の権利処理も必要となる。たとえ電子資料であってもこれらの作業は変わらない。

 震災アーカイブは、地道な資料収集と資料公開に至るまでの膨大な準備作業があって初めて成り立つものである。各アーカイブ公開までの道のりを、資料収集の活動とともに追ってみたい。

 

3. 宮城県内の震災資料収集・公開活動

 宮城県に関係する震災アーカイブ公開の動きとともに、自治体を含めた各団体の主な震災資料収集の動きを表にまとめた(太字が自治体による震災アーカイブの取組)。公開の時系列に沿って、自治体による震災アーカイブを概観する。

 

表 宮城県に関係する主な震災資料収集・公開活動

 年 月 活 動 内 容
2011年5月せんだいメディアテーク、「3がつ11にちをわすれないためにセンター」開設(4)
仙台市民図書館、東日本大震災関連資料コーナー設置(5)
2011年6月せんだいメディアテーク、「3がつ11にちをわすれないためにセンター」ウェブサイト公開(6)
2011年7月防災科学技術研究所等、「311まるごとアーカイブス」公開(7)
2011年9月東北大学、「みちのく震録伝」始動(8)
2011年11月東松島市、「ICT 地域の絆保存プロジェクト」発足(9)
2012年2月仙台市民図書館、収集した震災資料を「3.11震災文庫」と命名(10)
2012年3月図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」実施(CA1815 [30]参照)
宮城県図書館、震災後から収集した資料を基に「東日本大震災文庫」開設(11) 東北大学附属図書館、「震災ライブラリー」設置(12)
2012年6月東松島市、公益財団法人図書館振興財団助成事業「ICT 地域の絆保存プロジェクト(【東日本大震災を語り継ぐ】事業)」開始(13)
2012年12月仙台市、フォトアーカイブ「東日本大震災-仙台復興のキセキ」公開(E1377 [31]参照)
東北福祉大学図書館、「東日本大震災関係資料コーナー」開設(14)
2013年1月河北新報社、「河北新報 震災アーカイブ」暫定運用開始(15)
2013年3月国立国会図書館、「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」正式公開(16)
東北大学、「みちのく震録伝」公開(17)
河北新報社、「河北新報 震災アーカイブ」正式運用開始(18)
国土交通省東北地方整備局、「震災伝承館」公開(19)
東北大学附属図書館、「震災ライブラリーオンライン版」公開(20)
東松島市、「ICT 地域の絆保存プロジェクト」ウェブサイト公開(21)
2013年5月学校法人東北学院、「東日本大震災の記録 Remembering 3.11」公開(22)
2013年7月多賀城市、「震災経験・記録伝承事業」開始(23)
2014年3月多賀城市、「たがじょう見聞憶」公開(24)
2015年4月気仙沼市、「けせんぬまアーカイブ」公開(25)
2015年6月宮城県・県内35市町村、「東日本大震災アーカイブ宮城」公開(26)

 

3.1. 仙台市

 発災から2か月足らずの2011年5月、仙台市の生涯学習施設「せんだいメディアテーク」(以下「smt」という。)は活動を再開し、「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(以下「わすれン!」という。)を開設した。わすれン!は、市民が専門家やスタッフと協働して、震災の体験や復興の道のりを記録・発信するためのプラットフォームとなることを目指している。市民の活動を通して震災記録の収集や体験の語り直し、映像制作による情報発信を行うなど、単に記録の収集だけを目的とせず、市民が施設とアーカイブを活用しつつ、記録と利活用の循環を図っている。

 アーカイブはわすれン!の一機能に過ぎず、市民活動の活発化と新たな市民参加の促進により、利活用の循環へ人々を巻き込むことが重視されている。結果として、アーカイブの継続的な成長が実現できているという点で、アーカイブ運用の良いモデルになっていると言えよう。

 smt再開と同時に仙台市民図書館も再開した。この時、市民が震災から立ち上がるきっかけを得る一助となるために、市民が語り聴きあう「ひろば」を設置し、子ども向けの読みきかせや震災関連資料等の展示、各種情報の提供を開始している。震災関連資料コーナーは2012年2月にリニューアルし、「3.11震災文庫」となった。

 2012年12月に、仙台市はフォトアーカイブ「東日本大震災-仙台復興のキセキ」を公開した(27)。市職員が震災発生時に撮影した写真が主なコンテンツとなっており、沿岸部と内陸部に分けた被害状況、救援復旧活動、市民生活、復興への歩みという4つのカテゴリで分類されている。震災直後の沿岸部で津波が街を飲み込む様子や津波が去った後の瓦礫の山、smtの7階の天井が崩落した様子、仙台市民図書館の本棚から本が全て落下した様子などの写真を高解像度で見ることができる。仙台市内の被災状況を広報する目的であればダウンロードして利用することができ、加工も可能とされている(28)。

 

3.2. 東松島市

 2013年3月に、東松島市は「ICT地域の絆保存プロジェクト」のウェブサイトを公開した。同プロジェクトを運営する東松島市図書館は、震災直後からチラシ等の収集を始め、2011年11月には同プロジェクトを発足させ、市民へ資料提供や体験談の寄稿を呼びかけた。2012年6月からは、公益財団法人図書館振興財団から助成を受け、資料収集やメタデータ作成、市民の体験談の撮影等を行った。これらの成果をまとめ公開したものが同プロジェクトの主なコンテンツとなっている。

 「まちなか震災アーカイブ」という取組では公共施設や商店の協力を得て、市内各所に同アーカイブへアクセスするためのQRコードを配布し貼ってもらっている。また、地域ごとに震災伝承看板を設置し、各地域の震災被害をQRコードから参照できるようにしている(29)。デジタルアーカイブはオンラインでの露出を意識しがちであるが、数百年前の教訓を現代に伝える震災石碑の例を見ても、物理的な震災記念碑とリンクしたPRは継続的な震災伝承に効果的と思われる。

 動画やテキストで記録された市民の体験談はダイジェスト版がウェブサイトで公開されているが、完全版は同図書館内のタブレット端末から閲覧することができる(30)。数十年後には地域の歴史を伝えるオーラルヒストリーとなるであろう同資料は、出版や図書館のあり方が変わりつつある現在において、今後の図書館に求められる電子コンテンツのひとつではないかと考える。

 

3.3. 多賀城市

 2014年3月に、多賀城市はウェブサイト「史都・多賀城 防災・減災アーカイブス たがじょう見聞憶 伝えよう千年後の未来へ。」(31)を公開した。同市は、2013年2月に東北大学災害科学国際研究所と、連携と協力に関する協定(32)を締結しており、同研究所が公開する「みちのく震録伝」(33)から独自に収集したコンテンツを公開している。

 みちのく震録伝は、総務省の「東日本大震災アーカイブ基盤構築プロジェクト」(34)の運用モデル実証プロジェクトに選定されており(35)、「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」とは、ひなぎくの公開当初から検索連携している(36)。

 災害対策本部会議録等の行政の記録や市民から提供された写真等のコンテンツは、「震災前の防災・減災」(東日本大震災以前の災害年表)、「震災直後の被災状況」(発災から1週間)、「震災直後の応急対応」(発災後1週間から1か月後)、「震災後の復旧・復興」(発災後1か月以降)の時系列で大きくまとめ、地区別にも見ることができる。他にも、特集コンテンツとして「防災・減災への指針 一人一話」(37)というインタビュー記事を作成している。市民だけでなく、企業や学校、各種団体、市職員、支援のため全国から派遣された官公庁職員に、当時の状況と対応をヒアリングしており、様々な立場から語られた貴重な震災体験談のコレクションとなっている。各々の言葉で語られる震災の記憶は時間や空間を超えて、読む者に当時の現場の空気を伝える。被災地から遠く、報道等によって空から俯瞰する形で被災状況を眺めた者にとっては、地上でどのようなことが起き、誰がどのような対応をしていたのかを知る意義深い記録となっている。

 

3.4. 気仙沼市

 2015年4月に、気仙沼市は「気仙沼市震災記録資料集 けせんぬまアーカイブ」(38)を公開した。このアーカイブは、独立行政法人防災科学技術研究所を中心とした産官学民のグループが2011年7月に公開した「東日本大震災・公民協働災害復興まるごとデジタルアーカイブス(311まるごとアーカイブス)」(39)が発端であった。ボランティアや市民有志によって撮影・提供された映像資料等は、同グループが事業継続のために設立した一般社団法人東日本大震災デジタルアーカイブス支援センター(40)に承継され、各自治体等で活用されることとなった。この中で気仙沼市に関連する資料約1万点が基となり、けせんぬまアーカイブとして公開された。

 写真の中には、気仙沼市を襲った津波火災(41) により震災発生日の明朝まで煙が上がる様子を捉えたものもある。その他に、震災以前に撮られたとみられるモノクロの日常写真も掲載されている。震災アーカイブは、震災に関する記録だけを伝えるものと思われがちだが、その地域でどのような生活が営まれ、どのような風景があったのかという過去の郷土資料も備えなければ、地域の未来の子どもたちや地域の外の人々に、実感を持って災害を理解してもらうことは難しいように思われる。また、災害の周期性を考えれば、過去の記録も今ある震災アーカイブに統合され、一連の繋がりとして語り継がれていくべきものではないかと考える。

 

3.5. 宮城県と県内市町村

 2015年6月、宮城県と県内35市町村は、「東日本大震災アーカイブ宮城」(42)を公開した。ひとつの都道府県内の全自治体が連携・協力して震災アーカイブを構築した全国でも初めての例となる。システムの共同利用とAPI連携によって、県・市町村を横断して宮城県全体の震災資料を検索することが可能となっている。行政の各部局から収集した資料が主なコンテンツとなっており、市民が撮影した写真とは異なる視点からの写真・映像資料となっている。各部局では、復旧・復興関連の予算要求のために被害状況を正確に把握する必要があることから、行政・学校の施設やインフラなどがどのような被害を受けたのかが分かる写真が多く含まれる。また、各部局が作成した文書には、災害対策本部の会議録や被害報、各所の復旧状況など、震災直後の状況と行政の対応を鮮明に伝えるものがある。各種申請書の様式などは、災害発生時にどのような行政事務が発生するのかを知る材料となる。宮城県広報課が提供した、震災当日の村井嘉浩宮城県知事による記者会見の音声を聞くと、尋常ではない状況を察知した生々しい現場の空気が伝わってくる。これらの多様なメディアによる震災記録は、後世へ震災を伝え多面的な理解を促す貴重なコレクションとなるだろう。

 コンテンツは、防災・減災対策や防災教育等に幅広く活用することを目的にしているため、包括的な権利許諾を行っている。各県・市町村の利用規約は、災害伝承や防災教育等の目的であれば、コンテンツの二次利用を可能としている(43)。今後は、全県の記録を対象に分析することによって、新たな防災・減災の知見が抽出されることを期待したい。

 

4. 今後の課題と展望

 震災アーカイブの目的が、震災の伝承と将来の防災・減災である以上、アーカイブのコンテンツは長期にわたって参照可能でなければならない。ウェブサイトの改修等によってコンテンツへのリンクが切れることは避けるべきである。

 国立国会図書館(NDL)の実施した、日本の府省ウェブサイトの残存率に関する調査(E1757 [32]参照)によると、ウェブ上のURL及びコンテンツは、5年を経過すると60%が存在しないとされる。事実、震災記録が掲載されていたURLも、現時点でリンク切れが発生しているものが見受けられる。自治体のウェブサイトは、長期的には改修やディレクトリ構成の変更が発生することはまず避けられず、URLの永続性を強いることは現実的では無い。ただし、自治体側にも以前のURLにアクセスがあったら新しいURLへリダイレクトする等の工夫が求められる。

 理想を言えば、公文書が公文書館へ移管されるように、ウェブサイトも自治体自身のアーカイブに移管される仕組みが望ましい。NDLは、インターネット資料収集保存事業(WARP)(E1046 [33]参照)を行っており、国・自治体のウェブサイトであれば許諾無く収集・保存することができる。また、東日本大震災後は、自治体のウェブサイトが頻繁に更新されるのにあわせて収集頻度を高め、収集・保存を行ってきた(44)(45)。ただし、自治体によっては、WARPによって収集されたウェブサイトがインターネット公開されておらず、NDL館内でのみの閲覧となる場合がある。NDLまで来館しなければ、自分が住んでいる自治体の過去のウェブサイトを閲覧できないというのは、不便を感じる人が多いと思われる。自治体がWARP上のコンテンツにインターネット公開の許諾を出すか、自治体自身が過去のウェブコンテンツを公開する仕組みを持つことを期待したい。

 その際、図書館は組織の継続性や資料管理の専門家としての司書の存在などの点から、公文書館が設置されない自治体において、ウェブコンテンツのみならず各種の電子資料も含めた電子情報全体の公文書館のような役割を果たす装置として、適しているのではないか(46)。郷土資料や行政資料の電子コンテンツを収集・保存することは、公共図書館が地域資料リポジトリとして、住民に新たな存在価値を見いだされるひとつの分野として開拓の余地が大きい。

 また、震災アーカイブに限らず、デジタルアーカイブにとって著作権許諾は公開の障壁となっている。現状、公的機関によるデジタルアーカイブは、厳密な許諾がなければ公開することができない。ある程度公開の条件が緩和され、オプトアウト等の仕組みを取ることが許されるのであれば、デジタルアーカイブの公開コンテンツはさらに増えるものと思う。

 デジタルアーカイブは、コンテンツの継続的な追加の仕組みを備える必要がある。わすれン!のような市民参加型デジタルアーカイブは、主に社会教育の場で記録と利活用、再生産を上手く循環させており、今後のデジタルアーカイブ利活用にとってモデルとなろう。さらに長期的な運営を可能とするためには、デジタルアーカイブが社会的に必要なインフラであるという共通の認知を得ることが求められよう。そのために、社会教育に加えて学校教育の分野でデジタルアーカイブを活用した学習活動が根付くことが期待される。蓄積された知識から適切に情報を取り出し、学習や研究を通して新たな知見を抽出し、個々人の自己実現を達成しつつ成果が社会へ還元されるという、デジタルアーカイブの活用パターンが社会全体で共有されたとき、知識インフラたるデジタルアーカイブの必要性が認識されるとともに、個々の学習活動を通じて知識の蓄積と再生産が行われる生涯学習が真に継続性を持つのではないだろうか。

 

(1) “東日本大震災 宮城の記録”. 宮城県.
http://www.pref.miyagi.jp/site/kt-kiroku/ [34], (参照2016-01-24).

(2) “宮城県内の市町村で発行された記録誌等”. 宮城県.
http://www.pref.miyagi.jp/site/kt-kiroku/kt-shichouson.html [35], (参照2016-01-24).

(3) 稲葉洋子. 震災記録のアーカイブの運用 : 「震災文庫」の経験から. 情報の科学と技術. 2014, 64(9), p.371-376.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009841431 [36], (参照 2016-02-19).

(4) “3がつ11にちをわすれないためにセンターとは”. 3がつ11にちをわすれないためにセンター.
http://recorder311.smt.jp/aboutus/ [37], (参照2016-01-24).

(5) 仙台市民図書館. “仙台市図書館要覧 平成25年度”.
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/simintoshokan/youran/pdf/H25youran.pdf [38], (参照2016-01-26).

(6) “災害ミュージアムを通した被災経験の語り継ぎと防災・減災”. 世界災害語り継ぎネットワーク.
http://tell-net.jp/jp/contents/download/tellnet_sendai_2015.pdf [39], (参照2016-01-24).

(7) “311まるごとアーカイブスの公式ウェブサイトがオープン!”. 311まるごとアーカイブス. 2011-07-10.
http://311archives.jp/?module=blog&eid=12019&blk_id=11876 [40], (参照2016-01-24).

(8) “東北大学による東日本大震災アーカイブプロジェクト「みちのく震録伝(しんろくでん)」本格始動”. 東北大学.
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20110912.pdf [41], (参照2016-01-24).

(9) “取り組み”. ICT 地域の絆保存プロジェクト.
http://www.lib-city-hm.jp/lib/2012ICT/ict_torikumi.html [42], (参照2016-01-24).

(10) 仙台市民図書館. “仙台市図書館要覧 平成25年度”.
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/simintoshokan/youran/pdf/H25youran.pdf [38], (参照2016-01-26).

(11) 宮城県図書館. “要覧 平成24年度”.
http://www.library.pref.miyagi.jp/about/publication/youran.html?download=234:yoran2012 [43], (参照2016-01-24).

(12) “東北大学附属図書館沿革”. 東北大学附属図書館.
http://www.library.tohoku.ac.jp/about/history.html [44], (参照2016-01-24).

(13) “ICT地域の絆保存プロジェクト(【東日本大震災を語り継ぐ】事業)”. 公益財団法人図書館振興財団.
http://www.toshokan.or.jp/josei/H24/higasimatsushima.pdf [45], (参照2016-01-24).

(14) “東日本大震災関係資料”. 東北福祉大学図書館.
https://www.tfu.ac.jp/libr/tosinsai/tosinsai.html [46], (参照2016-01-24).

(15) “J-RAPID終了報告シンポジウム 被災地の取り組み「東日本大震災アーカイブ ~ともに手を携え、後世に~」”. 科学技術振興機構.
http://www.jst.go.jp/sicp/ws2013_j-rapid/presentation/presentation_0306am_02_02.pdf [47], (参照2016-01-24).

(16) “2013年3月7日 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)を正式公開しました”. 国立国会図書館. 2013-03-07.
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2012/1199837_1827.html [48], (参照2016-01-24).

(17) “みちのく震録伝の3年間のあゆみと今後の展望について”. みちのく震録伝 震災アーカイブ.
http://shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/docs/symposium20150111/20150111tohokuuniv.pdf [49], (参照2016-01-24).

(18) “J-RAPID終了報告シンポジウム 被災地の取り組み「東日本大震災アーカイブ ~ともに手を携え、後世に~」”. 科学技術振興機構.
http://www.jst.go.jp/sicp/ws2013_j-rapid/presentation/presentation_0306am_02_02.pdf [47], (参照2016-01-24).

(19) “「東北地方整備局 震災伝承館」を開設~約1万点の写真が利用可能~. 東北地方整備局.
http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/kisya/kisyah/images/45106_1.pdf [50], (参照2016-01-24).

(20) 「震災ライブラリーオンライン版」を公開しました. 東北大学附属図書館報「木這子」. 2013, 38(2), p. 2.
http://area.library.tohoku.ac.jp/about/kiboko/38-2/kbk38-2.pdf [51], (参照2016-01-24).

(21) “取り組み”. ICT 地域の絆保存プロジェクト.
http://www.lib-city-hm.jp/lib/2012ICT/ict_torikumi.html [42], (参照2016-01-24).

(22) “学校法人 東北学院 デジタルアーカイブ「東日本大震災の記録 Remembering 3.11」が公開”. 東北学院大学. 2013-05-16.
http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/volunteer/?p=9382 [52], (参照2016-01-24).

(23) “震災経験・記録伝承事業”. 多賀城市.
http://www.city.tagajo.miyagi.jp/koho/kurashi/daishinsai/torikumi/kirokudensho.html [53], (参照2016-01-25).

(24) “東北大学災害科学国際研究所 活動報告書 2013年度”. 東北大学災害科学国際研究所.
http://irides.tohoku.ac.jp/media/files/annualreport/IRIDeS_annual_report_2013.pdf [54], (参照2016-01-25).

(25) “震災写真1万点 気仙沼市HPで公開”. 河北新報. 2015-04-23.
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201504/20150423_11011.html [55], (参照2016-01-24).

(26) “「東日本大震災アーカイブ宮城~未来へ伝える記憶と記録~」の公開について(生涯学習課ほか)”. 宮城県. 2015-06-15.
http://www.pref.miyagi.jp/release/ho20150615-7.html [56], (参照2016-01-25).

(27) “仙台市が東日本大震災のフォトアーカイブ公開-職員が撮影した被害状況など”. 仙台経済新聞. 2012-12-26.
http://sendai.keizai.biz/headline/1322/ [57], (参照2016-01-25).

(28) 仙台市. “写真の使用について”. フォトアーカイブ 東日本大震災―仙台復興のキセキ.
http://www.city.sendai.jp/soumu/kouhou/311photo/shiyou/ [58], (参照2016-01-25).

(29) “まちなか震災アーカイブとは”. ICT地域の絆保存プロジェクト.
http://www.lib-city-hm.jp/lib/2012ICT/shinsaiArchive_05_walk.html [59], (参照2016-01-26).

(30) “体験談(観る)”. ICT地域の絆保存プロジェクト.
http://www.lib-city-hm.jp/lib/2012ICT/shinsaiArchive_02_watch.html [60], (参照2016-01-26).

(31) たがじょう見聞憶.
http://tagajo.irides.tohoku.ac.jp/index [61], (参照2016-01-25).

(32) “多賀城市と連携と協力に関する協定を締結しました(2013/2/8)”. 東北大学災害科学国際研究所.
http://irides.tohoku.ac.jp/media/files/topics/20130208_report.pdf [62], (参照2016-01-25).

(33) みちのく震録伝 震災アーカイブ.
http://shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/ [63], (参照2016-01-24).

(34) “「東日本大震災アーカイブ」基盤構築プロジェクト”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/02ryutsu02_03000092.html [64], (参照2016-01-24).

(35) ”「東日本大震災アーカイブ基盤構築プロジェクト」の取組(平成25年1月11日)”. みちのく震録伝 震災アーカイブ.
http://shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/1c6a31ecb4532c9b324f0d50ce0be7d7.pdf [65], (参照2016-01-24).

(36) “国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)の公開”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000063.html [66], (参照2016-01-24).

(37) ”防災・減災への指針 一人一話”. たがじょう見聞憶.
http://tagajo.irides.tohoku.ac.jp/contents/special/%E9%98%B2%E7%81%BD%E3%83%BB%E6%B8%9B%E7%81%BD%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%8C%87%E9%87%9D%20%E4%B8%80%E4%BA%BA%E4%B8%80%E8%A9%B1 [67], (参照2016-01-26).

(38) けせんぬまアーカイブ.
http://kesennuma-da.jp/ [68], (参照 2016-02-18).

(39) 311まるごとアーカイブス.
http://311archives.jp/ [69], (参照2016-01-26).

(40) “一般社団法人東日本大震災デジタルアーカイブス支援センター(311まるごとアーカイブス・プロジェクト)―千年先の後世に伝える巨大災害の記録― 設立趣意書”. 一般社団法人東日本大震災デジタルアーカイブス支援センター.
http://311archives.jp/group.php?gid=10869 [70], (参照2016-01-26).

(41) “防災・減災を学ぶ 震災からわが身を守る 第4回「津波火災」の怖さ”. NHK東日本大震災アーカイブス.
http://www9.nhk.or.jp/311shogen/fa/se1/fourth.html [71], (参照2016-01-26).

(42) 東日本大震災アーカイブ宮城.
https://kioku.library.pref.miyagi.jp/ [72], (参照2016-02-18).

(43) “「東日本大震災アーカイブ宮城」の御利用について”. 東日本大震災アーカイブ宮城.
https://kioku.library.pref.miyagi.jp/about.html [73], (参照2016-01-25).

(44) “今月の特集(2013年3月) -東日本大震災-. 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業.
http://warp.da.ndl.go.jp/contents/special/special201303.html [74], (参照2016-01-26).

(45) “諏訪康子(国立国会図書館 電子情報部)インタヴュー|経験者たちの生の声を未来の防災教育に活用してほしい”. Rolling Stone 日本版. 2014-11-05.
http://www.rollingstonejapan.com/articles/detail/23285 [75], (参照2016-01-26).

(46) 武田和也. 海外動向との対比からみた日本のWebアーカイビングの課題と展望 : 国立国会図書館の取り組みを通して. 情報の科学と技術. 2008, 58(8), p.394-400.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006836862 [76], (参照 2016-02-19).

 

[受理:2016-02-25]

 


眞籠聖. 宮城県内の自治体による震災アーカイブの概況. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1867, p. 9-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1867 [77]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917289 [78]

Magome Takashi
Review of Prefectural and Municipal Disaster Archives in Miyagi Prefecture, Japan

カレントアウェアネス [3]
災害 [4]
震災 [5]
デジタル化 [79]
日本 [6]
公共図書館 [17]

CA1868 - 東日本大震災で被害を受けた公共図書館等への支援の動向 / 西村彩枝子

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カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1868

 

 

東日本大震災で被害を受けた公共図書館等への支援の動向

日本図書館協会東日本大震災対策委員会:西村 彩枝子(にしむら さえこ)

 

 東日本大震災から5年が経とうとしている。この間、被災地の図書館に対して外国からのものも含め、多くの支援が行われたが、今回の震災は被災範囲が広く、被害も甚大で多様であったことから、被災した図書館に対して行われた支援の全貌をつかむことは非常に困難である。本稿では、公共図書館に対してどのような支援が行われたかについてでき得る範囲で概観する。

 

1. どのような支援が行なわれたか

(1)落下した資料の整理

 地震発生直後、多くの図書館では書架からの資料の落下、建物本体の亀裂、照明等の設備の落下などがあった。建物については応急危険度判定が行われて「危険」と判定された名取市図書館(宮城県)(1)などの例もある。津波による被害を受けた図書館は、建物自体が流失した南三陸町図書館(宮城県)を始め、6館が報告されている。

 こうした大規模災害が発生した場合、ほとんどの自治体職員は災害対応業務を行うことになり、図書館業務に人員を割けないため、図書館の復旧はどうしても後回しになる。図書館自体が自然発生的に避難所となり、避難所運営業務に携わることになった石巻市図書館(宮城県)や併設施設が指定避難所であった大船渡市立図書館(岩手県)、東松島市図書館(宮城県)の例もある。

 こうしたなかで、落下した図書館資料を書架に戻す作業は、災害対応業務の合間をぬって自治体の他部署職員の応援により行われた例、災害対応業務につかない非常勤職員や臨時職員、また図書館業務の受託業者職員によって行われた例(2)や指定管理者の社員によって行われた潮来市立図書館(茨城県)の例(3)などがある。近隣自治体の図書館職員によって作業が行われた例もあったと聞く。公共図書館ではないが、東北大学図書館では、学生ボランティアにより資料の書架への再配架が行われた(CA1795 [81]参照)(4)。

 建物が「危険」と判定された名取市図書館(宮城県)の2階に置かれていた資料を搬出する作業を、石狩市や北広島市(ともに北海道)の図書館職員が支援した事例もある(5)。

 

(2)移動図書館による支援

 津波により移動図書館車が損壊して使用できなくなった気仙沼市(宮城県)へ三島市(静岡県)の移動図書館車「ジンタ号」が寄贈されたのを始め、気仙沼市へは、こども環境フォーラム、日本ユネスコ協会連盟などから移動図書館車が寄贈され、活動をした(6)。

 この他にも、岩見沢市(北海道)から名取市(宮城県)(7)、東近江市(滋賀県)から陸前高田市(岩手県)(8)、角田市(宮城県)から南三陸町(宮城県)(9)へ移動図書館車が寄贈された例があるほか、熊本市(熊本県)から東松島市(宮城県)(10)へ移動図書館車が無償貸与された例がある。しかし移動図書館車の寄贈は、積載する資料の継続的確保、メンテナンス費用の調達、運転手の確保など課題が多く、成立しなかった事例も多い(11)。

 移動図書館車の寄贈の他に、シャンティ国際ボランティア会は「走れ東北!移動図書館プロジェクト」を早くから開始、岩手・宮城・福島の各県で移動図書館による支援活動を継続している(12)。その他、凸版印刷株式会社の「ブックワゴン」(2012年12月まで運行)(13)、一般社団法人日本国際児童図書評議会(JBBY)などによる「子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト」(14)の「図書館バス」(2015年12月28日まで運行)(15)などが被災地で活動を行った。

 岩手県では、滝沢村(現在滝沢市)が震災から約1か月後の2011年4月から山田町に、5月から大槌町に移動図書館車「かっこう号」を運行させ、避難所6か所を訪問、出張貸出しを行った(16)。その後を引き継いで、12月まで北上市立中央図書館が山田町、花巻市立花巻図書館が大槌町で移動図書館車の運行を行った。その他、野田村では、久慈市立図書館が2011年7月から2012年3月まで、洋野町立種市図書館が2011年7月から11月まで移動図書館車を運行させた(17)。

 

2. 本を送る(贈る)ことについて

(1)本の支援

 震災発生直後から子どもたちに絵本を中心とした本を送る支援に多くの団体や個人が取り組んだ。末盛千枝子氏による「3.11絵本プロジェクトいわて」(18)、日本ユニセフ協会による「ちっちゃな図書館」プロジェクト(E1161 [82]参照)(19)、非営利組織ap bankによる「贈る図書館」プロジェクト(20)(21)、JBBYなどによる「子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト」など枚挙にいとまがない。

 

(2)図書館設置支援

 本を送るだけでなく、主として子どもを対象とした図書館もいくつか設置された(E1248 [83]参照)。陸前高田市(岩手県)には「ちいさいおうち」(運営:うれし野こども図書室)、「にじのライブラリー」(運営:子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト、<大震災>出版対策本部)、女川町(宮城県)には「女川ちゃっこい絵本館」(日本ユニセフ協会)(22)が設置されたほか、大槌町(岩手県)ではシャンティ国際ボランティア会による「いわての置き本」プロジェクトが実施された(23)。また、一般社団法人みんなのとしょかんによる「みんなのとしょかん」が被災地に14館つくられている(24)。

 震災により建物が使えなくなった名取市(宮城県)では、日本ユニセフ協会、東海大学「3.11生活復興支援プロジェクト」などの支援により子ども図書館「どんぐり子ども図書室」が設置された(E1248 [83]参照)(25)。

東松島市(宮城県)は、全国から寄贈された図書を利用して市内10か所の仮設住宅などに「小さな図書館」を設置している(26)。

 

(3)被災地における本のニーズ

 ある人が欲しいと思う本、読みたいと思う本をその人に渡すことが非常に難しく、支援と受援のミスマッチが最も起こりやすい支援のひとつに「本」の寄贈がある。阪神淡路大震災の教訓のひとつとして被災地にむやみに本を送るべきではないとの指摘があった(27)。日本図書館協会へも、一般の市民から図書館まで、様々な個人・団体から本を送りたいので送り先を紹介して欲しいなどの相談が大変多くあったが、ミスマッチが最も起こりやすい支援であること、被災地では送られた本の仕分けなどを行う人手が極端に不足していること、図書館で活用するためには分類をはじめとする目録作成、ラベル等の装備などの準備が必要なことなど、本を送ることの弊害について説明を行い、原則として送り先の紹介はしなかった。

 東松島市図書館(当時)の加藤孔敬氏は、「本の受入パターン」を整理するとともに、被災地における本のニーズについて時系列に沿って整理している(28)(29)。

 また、saveMLAK(博物館・美術館(M)、図書館(L)、文書館(A)、公民館(K)(M+L+A+K=MLAK)の被災・救援情報サイト)(30)のサイトで 2012年1月17日、有志による「本を送りません宣言」(仮称)が公表された。その中に「それでも『本を送る』際の目安10ヶ条」を掲載している(31)。

 

(4)本を送る(贈る)ための仲介組織

 今回の震災で大量の本が被災地に送られたが、送る前に送り先と調整しようとした取組がいくつかあった。

 遠野市(岩手県)の遠野文化研究センターは「三陸文化復興プロジェクト」を立ち上げ、本を送りたい人と必要とする人とを仲介する組織としての役割を果たした(E1210 [84]参照)(32)。約28万冊を集めた活動は2014年度で終了しており、最終的に残った本約7万5,000冊(33)のうち約4万冊は、河沼郡会津坂下町(福島県)に設立された「ふくしま本の森図書館」(34)で活用されている。

 立川市図書館(東京都)は、石巻市図書館(宮城県)に送る絵本を市民から募るために橋渡しの役割を果たした(35)。送る本の数が少ない場合の取組として今後も活かせると思われる。

 また、陸前高田市と株式会社バリューブックスによる「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト」は、本を送りたい人がバリューブックス社に本を送り、その売却代金を陸前高田市の図書館などの再建に充てる仕組みである(E1515 [85]参照)(36)。

 

(5)本や支援物資を送るためのシステム

 文部科学省は、「東日本大震災子どもの学び支援ポータルサイト」(2011年4月1日開設、2012年5月11日終了)を立ち上げた(37)。このサイトは、支援を必要とする人が必要な支援を掲載するとともに、支援を提供したい人が提供できる支援を登録することにより、被災地域での支援が円滑に行われることを目指したものである(38)。掲載された内容の多くは学校に関わるもので、図書館では活用しにくかったが、非常時には図書館でも活用できるシステムと思われる。図書館など社会教育機関も活用できるよう対象別の仕組みが構築されることを望みたい。

 アマゾンジャパン株式会社では、既存の「ほしい物リスト」サービスが震災時に活用され、約7,000か所以上の避難所、学校、非営利団体等に支援物資を送り届けたと報告されている(39)。図書館でも活用されたとの報告がある(E1200 [86]参照)。

 徳島県は、大規模災害の発生時に必要となる物資の情報の公開、物資の迅速かつ的確な調達を目的とし「災害発生時における支援に関する協定」をアマゾンジャパン社と結んだ(40)。

 本や支援物資を送るためのシステムとして「『花キューピット』(41)の本屋版ができれば」との指摘(42)もある。「花キューピット」は、贈り主が近くの花キューピット加盟花店に注文すると、届け先近くの加盟花店が花を届ける仕組みで、全国約4,300の花店が加盟している(43)。

 

3. 海外からの支援

 海外からの支援については、把握できている情報はあまり多くない(44)。

 陸前高田市立図書館(岩手県)に対して、在日イタリア人による支援組織「ITALIANS FOR TOHOKU」(東北復興のためのイタリア人会)より、移動図書館用のマイクロバス1台が2012年6月に寄贈され、7月11日から運行が開始された(E1328 [87]参照)(45)。

 また、2013年1月、南三陸町(宮城県)ではオーストラリア・ニュージーランド銀行の支援により、「南三陸町オーストラリア友好学習館(コアラ館)」が建設された(E1403 [88]参照)(46)。現在、仮設の南三陸町図書館はコアラ館内に設置されている。

 2013年1月、名取市(宮城県)では、「どんぐり・アンみんなの図書室」が、カナダ連邦政府、カナダブリティッシュ・コロンビア州政府、カナダアルバータ州政府、カナダ林産業界団体の支援で建設された(E1403 [88]参照)(47)。

 全村が避難をしている飯舘村(福島県)では、移動図書館車「こあら号」が、豪日交流基金、オーストラリアクィーンズランド州アイロンサイド高校の支援により寄贈され、2013年2月から運行を行っている(E1403 [88]参照)(48)。

 また、2014年9月、日本図書館協会に、米国図書館協会(ALA)から震災復興のため5,000ドルの寄附があった。陸前高田市立図書館(岩手県)再開のための支援費用として使っている。

 

4. 日本図書館協会東日本大震災対策委員会の支援活動

 日本図書館協会では、震災発生から1週間後の2011年3月18日に東日本大震災対策委員会が設置され活動を開始した。ここでは、主な活動について報告をする(49)。

 著作権法では認められていない著作物の公衆送信を被災地への送信に限り認める協力要請を関係28団体に対して行った(E1161 [82]参照)(50)(51)。これに呼応して国立国会図書館をはじめとする都道府県立図書館がレファレンスに応える旨をウェブサイトなどから発信したが、公衆送信の利用は少なかった(52)(53)。

 4月には、要望書「東日本大震災により被災した図書館の復旧、復興のための施策について」を文部科学省や当時の政権与党であった民主党に提出した(54)。

 4月、5月には気仙沼市(宮城県)で絵本の読み聞かせなどの直接支援を行ったが、6月以降は、直接支援から情報整理・発信、連絡調整、支援の仲介などを中心とする支援に切り替えた。日本図書館協会の役割について、再検討を行った結果である。

 7月13日には「東日本大震災に関する図書館支援窓口」を開設、支援を受けたい図書館などの機関のみならず、ボランティア希望者も登録でき、日本図書館協会が調整を行うウェブサイトをめざした。ボランティアに登録した人は約100人いたが、支援要請はなかった。同じような仕組みを構築していたsaveMLAK(55)など別の機関との協力を志向すべきであった。

 被災地の図書館で購読している新聞の欠号補充のために日本新聞協会へ協力を依頼した。また、全国各地に避難を余儀なくされた福島県の人々が避難先でも福島県の情報を得ることができるよう福島県の地方紙である『福島民報』『福島民友』を全国の公共図書館50館へ寄贈したり(2012年3月分まで)、陸前高田市(岩手県)で津波被害にあった地域資料について岩手県立図書館や、いわて高等教育コンソーシアムによる「きずなプロジェクト」などと協力して救済したりするなど、資料に関する支援を行った。また、フィルムコーティング講習会、製本・修理講習会などを被災地の県立図書館と協力しながら図書館の求めに応じて行った。

 被災地の県立図書館との「情報交換会」、図書館や読書に関連する支援を行っている団体や機関との「支援情報交換会」を現在まで継続して行っている。

また、震災と図書館に関わる研修や集会などで配布された資料の収集も行っている。現在は、それらの資料に加えて、支援活動を行ってきた団体の記録についても収集を呼びかけている(56)(57)。

 その他、被災地の図書館をめぐるツアーの開催や、学校図書館の再開支援(58)(59)(60)のほか、被災した図書館の写真を展示するために全国の図書館、市民団体などへ貸出す(61)など種々の取組を行っている。

 

5. 支援協定

 震災時には、災害協定や姉妹都市提携などに基づく支援が行われたが、震災後に結ばれた図書館に関わる支援協定を紹介する。

 

(1)関東地区公共図書館協議会の申し合わせ

 2012年3月9日、関東地区公共図書館協議会は、「大規模災害時における都県立図書館相互の応援に関する申合せ」を決議した(E1302 [89]参照)(62)(63)。これは、協議会に参加する11の都県立図書館が大規模災害時に相互に支援を行うことを申し合わせたものであり、広域にわたる図書館の申し合わせとしては初めてのものと思われる。

 

(2)岩手県

 2012年11月、岩手県では「岩手県公共・大学・専門図書館等連絡協議会の加盟館相互の応援について」(64)を制定した。災害時に応援体制を円滑に構築できるよう、取りまとめを行ったものである(65)(66)。

 

6. 今後の課題

(1)県域を越えた調整のための仲介組織

 今回の震災で被災地の県立図書館が果たした役割は大きい。被災した図書館の情報をとりまとめて発信したほか、市町村立図書館からの支援要請をとりまとめ、支援団体に引き継ぐなどの役割を果たした。県立図書館のあり方を再考する機会ともなった。

 一方で、日本図書館協会などが果たすべきであったと考えられる県域を越えた調整を、特に初期段階で行った機関がなかった(67)。「災害時における…(中略)…機能をあらかじめ規定し、社会的に共有していく必要がある」との宮城県図書館(当時)の熊谷慎一郎氏の指摘は重要である(68)(69)。調整機能がうまく働かなかった結果、「支援『情報』に関しても情報過多ともいえる状況にあり、情報の受取窓口の整備不足などから、被災地にとって業務の煩雑さを招くような事例もあった。」と福島県立図書館の吉田和紀氏は指摘している(70)。今後の大きな課題である。

 情報を共有し、状況に応じた支援を行うための仕組みを構築することが課題である。例えば、今回の震災で文部科学省が立ち上げた「東日本大震災子どもの学び支援ポータルサイト」の図書館版を文科省や日本図書館協会が立ち上げ、被災地の図書館が支援を要請する窓口システムを構築することなどが対策として考えられる。こうした仕組みを構築できれば、支援・受援窓口となるウェブサイトの一本化も可能となるのではないか。

 

(2)司書の派遣

 今回の震災では、全国の自治体から被災地に職員が派遣されたが、それは「ほとんど職務に関係なく、ローテーションで被災地に派遣」「専門的な業務を知らない自治体職員が、一般ボランティアレベルで、職務の専門性を活かせない形で派遣」されたものであったと長坂俊成氏は指摘している(71)。

 文科省初等中等教育局からは、2011年3月22日付で各都道府県教育委員会宛てに「東北地方太平洋沖地震の被害に伴う人的協力について(依頼)」という文書が出されているが、内容は学校教育を想定したものである(72)。

 被災地の図書館では、専門知識・技術を持つ人材の不足が言われ、震災直後には、「カウンターに座っていてくれるだけでいいからベテラン司書の支援が欲しい」と相談されたこともあった。また、現在では、図書館の再開に向けた業務について「ノウハウを持った司書を派遣してほしい」との要望も聞く。図書館の専門家である司書を派遣する体制の確立も課題である。

 

(3)まとめ

 被災地の図書館はようやく再開に向けて動き出したところである。福島県の原発事故により避難を余儀なくされている自治体の図書館はまだ復旧すらできていない。震災から5年がたつ2016年3月には、支援活動を「終了」する団体、機関があるかもしれないが、引き続き支援を継続する必要があると考える。

 最後に、図書館への支援について、今後の参考になると思われる記事を紹介したい。

 

①加藤孔敬. 東日本大震災と図書館: 復旧・復興出来たこと、出来なかったこと:挑戦・提案したいこと. 図書館界. 2012,64(2), p. 82-89.
*被災した市町村の現場という視点で、時系列で報告をしている。また、実際に市民から求められた支援を整理し、今後の課題を提示している。

 

②熊谷慎一郎. 東日本大震災と図書館 : 図書館を支援するかたち. LRG. 2014,(6), p. 8-54.
*①の文献が、市町村の現場からの視点で書かれているのに対し、市町村を支援する県立図書館の立場から、支援のあり方、課題を提示している。

 

③松岡要. “図書館の事業継続計画(BCP)」をつくろう”. みんなで考える図書館の地震対策. 『みんなで考える図書館の地震対策』編集チーム. 日本図書館協会, 2012, p. 100-104.
*本稿では触れることができなかったが、災害時であっても優先して行う自治体の業務をあらかじめ計画しておく事業継続計画のなかに、図書館をどう位置づけるかについて提案をしている。

 

④衛藤廣隆, 藤井広志, 船倉武夫. 大災害時における地域の公共図書館の役割とその支援体制. 千葉科学大学紀要. 2012, (5), p. 35-54.
https://cis.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=89&item_no=1&page_id=13&block_id=21 [90], (参照 2016-01-05).
*阪神淡路大震災と東日本大震災の記録から抽出した7項目について、図書館関係者等へのアンケートを実施。支援に関する問題を明らかにし、被災した公共図書館を支援する体制の検討を行っている。

 

(1) 熊谷慎一郎. 東日本大震災と図書館 : 図書館を支援するかたち. LRG. 2014, (6), p. 28.

(2) 井戸川保子. 東日本大震災から4年、阪神・淡路大震災から20年: いわき市立図書館-被災指定地域の住民受け入れ自治体における図書館サービス. 図書館雑誌. 2015, 109(3), p. 148.

(3) 2011年9月30日、潮来市立図書館(茨城県)で行われた日本図書館協会主催製本講習会時に館長から伺った、震災後の復旧活動についての話に基づく。

(4) 米澤誠. 特集・東日本大震災から1年: 東日本大震災後一年の大学図書館の動向:「震災記録を図書館に」にたどり着くまで. 図書館雑誌. 2012, 106(3), p. 153.

(5) 熊谷慎一郎. 前掲. p. 28.

(6) 白幡勝美. 東日本大震災から1年: 震災からの復旧・復興と気仙沼図書館. 図書館雑誌. 2012, 106(3), p. 149.

(7) 名取市図書館. “震災からこれまでの歩み”.
http://www.city.natori.miyagi.jp/tosyokan/wolk/H23_10.pdf [91], (参照 2016-01-31).

(8) 陸前高田市立図書館. “震災後の歩み”.
http://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/tosyokan/ayumi.html [92], (参照 2016-01-31).

(9) 熊谷慎一郎. 前掲. p. 19.

(10) 加藤孔敬. 東日本大震災と図書館: 復旧・復興出来たこと、出来なかったこと:挑戦・提案したいこと. 図書館界. 2012, 64(2), p. 85.

(11) 前掲. p. 19.

(12) “国内での活動”. 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会.
http://sva.or.jp/activity/domestic/ [93], (参照2016-01-05).

(13) “CSRレポート 2013”. 凸版印刷株式会社.
http://www.toppan.co.jp/library/japanese/csr/files/pdf/2013/csr2013.pdf [94], (参照 2016-02-16).

(14) “プロジェクトについて”. 子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト.
http://www.blog.jbby.org/ae/about/?lang=ja [95], (参照 2016-01-06).

(15) “移動図書館車の定期運行を終了いたします”. 子どもたちへ<あしたの本>プロジェクト. 2015-12-10.
http://www.blog.jbby.org/ae/category/book-mobile/?lang=ja [96], (参照 2016-02-16).

(16) 鎌倉幸子. 走れ!移動図書館. 筑摩書房, 2014, p. 60.
“〈東日本大震災津波〉滝沢村から山田町へ移動図書館車 満載図書に児童ら大喜び”. 盛岡タイムス. 2011-04-15.
http://www.morioka-times.com/news/2011/1104/15/11041504.htm [97], (参照 2016-01-05).

(17) 岩手県立図書館. “震災からの再生を目指して-岩手県における図書館の被災と復旧・復興支援”.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/pdf/forum22_text6.pdf [22], (参照 2015-12-29).
この段落の記述は、岩手県立図書館からの聞き取りによる。

(18) 末盛千枝子. 新春エッセー 岩手の地で、被災した子どもたちに絵本を届ける. 図書館雑誌. 2012, 106(1), p. 14-16.

(19) 加藤朱明子. ユニセフ「ちっちゃな図書館」プロジェクト. 図書館雑誌. 2011, 105(8), p. 510-511.

(20) “apbank、被災地に本を 『贈る図書館』プロジェクト設立”. ORICON STYLE. 2011-04-01.
http://www.oricon.co.jp/news/86210/full/ [98], (参照 2016-01-31).

(21) “贈る図書館”. ap bank Fund for Japan.
http://apfj.apbank.jp/library_gifts/ [99], (参照 2016-01-21).

(22) “「ちっちゃな図書館」が「ちゃっこい絵本館」に”.日本ユニセフ協会. 2011-05-11.
http://www.unicef.or.jp/kinkyu/japan/2011_0511.htm [100],(参照 2016-01-31).

(23) “いわてを走る移動図書館プロジェクト”. 走れ東北!移動図書館プロジェクト.
http://sva.or.jp/tohoku/iwate/bookbox.html [101], (参照 2016-01-31).

(24) みんなのとしょかんプロジェクト.
http://www.mintosho.org/ [102], (参照 2016-01-21).

(25) 熊谷. 前掲. p. 28-40.

(26) 加藤孔敬. 前掲. p. 85.

(27) 熊野. 《討議》東日本大震災と図書館. 図書館界. 2012, 64(2), p. 114.

(28) 加藤孔敬. 前掲. p. 82-89.

(29) 『みんなで考える図書館の地震対策』編集チーム編. みんなで考える図書館の地震対策. 日本図書館協会, 2012, p. 82-85.

(30) “saveMLAKについて”. saveMLAK.
http://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:saveMLAK%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6 [103], (参照 2016-02-16).

(31) “本を送りません宣言”. saveMLAK.
http://savemlak.jp/wiki/%E6%9C%AC%E3%82%92%E9%80%81%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E5%AE%A3%E8%A8%80 [23], (参照2016-01-05).

(32) 小笠原晋. 三陸文化復興プロジェクト・献本活動の取り組み. 図書館雑誌. 2014, 108(3), p. 173-175.
“三陸文化復興プロジェクト 「献本活動」ご報告”. 遠野文化研究センター. 2015-06-30.
http://tonoculture.com/dealing/category/reports/ [104], (参照 2016-01-05).

(33) 前掲. p. 175.

(34) “【会津坂下】拠点施設、待望のオープン ふくしま本の森プロジェクト”. 福島民友新聞社 みんゆうNet. 2015-09-27.
http://www.minyu-net.com/tourist/aidu/FM20150927-015885.php [105], (参照 2016-01-05).

(35) 小林里沙. 絵本を届けよう!~立川市図書館から石巻市図書館へ 子どもたちに新しい絵本を~-書店と市民を巻き込んだ図書館一大プロジェクトー. 図書館雑誌. 2012, 106(6), p. 421.

(36) 陸前高田市図書館ゆめプロジェクト.
http://books-rikuzen.jp/ [106], (参照 2016-01-05).

(37) “東日本大震災における「子どもの学び支援」に関するWebサイトを通じた情報発信等について”. 文部科学省. 2012-03-19.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/03/1318834.htm [107], (参照 2016-01-31).

(38) 文部科学省. 霞が関だより第91回. 図書館雑誌. 2011, 105(5), p. 288.

(39) “たすけあおうNippon”. Amazon.co.jp.
http://www.amazon.co.jp/gp/feature.html?ie=UTF8&docId=3077080786 [108], (参照 2016-01-05).

(40) “アマゾン ジャパン株式会社との「災害発生時における支援に関する協定」の締結について”. 安心とくしま. 2014-09-12.
http://anshin.pref.tokushima.jp/docs/2014091000021/ [109], (参照 2016-01-06).

(41) 花キューピット協同組合.
http://www.hanacupid.or.jp/ [110], (参照 2016-01-05).

(42) 加藤. 前掲. p. 87.

(43) “花キューピットのしくみ”. 花キューピット協同組合.
http://www.hanacupid.or.jp/hanacupid/ [111], (参照 2016-01-31).

(44) JLA東日本大震災対策委員会(文責・西村彩枝子).東日本大震災から4年、阪神・淡路大震災から20年: 東日本大震災対策委員会の活動 この1年. 図書館雑誌. 2015, 109(3), p. 145.

(45) 陸前高田市立図書館. “震災後の歩み”.
http://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/tosyokan/ayumi.html [92], (参照 2016-01-31).

(46) “ANZが南三陸町に全額寄附した学習施設の落成式が行われました-震災後町内で再建された初めての公共施設となりました-. オーストラリア・ニュージーランド銀行. 2013-01-21.
http://www.anz.co.jp/about-us/notices/img/130121_KoalaHouse_JPN.pdf [112], (参照 2016-01-31).

(47) 柴崎悦子. 宮城県名取市「どんぐり・アンみんなの図書室」活動開始. 図書館雑誌. 2015, 109(3), p. 153-155.

(48) 高木久子. 東日本大震災から2年: 「本」をとおしての心の癒し作戦. 図書館雑誌. 2013, 107(3), p. 154.

(49) 東日本大震災対策委員会の活動は、『図書館雑誌』の2012年から2015年の各年3月号の報告を参考にしていただきたい。また、日本図書館協会のウェブサイトで2011年から2015年までの支援活動について時系列で報告をしているのでそちらもあわせてご覧いただきたい。
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/content/shinsai/activities20151019.pdf [113], (参照 2016-01-21).

(50) “被災地域への公衆送信権の時限的制限の実施を働きかけ”. 日本図書館協会. 2011-03-25.
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/earthquake/20110325.html [114], (参照 2016-01-05).

(51) 松岡要. “日本図書館協会:著作物の公衆送信権の時限的制限”. 図書館年鑑2012. 日本図書館協会, 2012, p. 320-322.

(52) 常世田良. 図書館による被災地への情報提供と公衆送信. 図書館雑誌. 2011, 105(8), p. 506-507.

(53) 保坂泰子. 新潟だからこそできることを:「復旧復興関連文献の送信提供サービス」の実施. 図書館雑誌. 2011, 105(8), p. 512-513.

(54) “東日本大震災により被災した図書館の復旧、復興のための施策について(要望). 日本図書館協会. 2011-04-28.
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/kenkai/20110428.html [115], (参照 2016-01-05).

(55) saveMLAK. “これからボランティア・支援活動をしたい方へ”.
http://savemlak.jp/ [116], (参照 2016-01-31).

(56) 熊谷. 前掲. p. 50.でも支援団体の記録の収集の必要性が訴えられている。

(57) 東日本大震災被災地図書館支援活動記録の寄贈のお願い. JLAメールマガジン. 2015, (779).
http://www.jla.or.jp/tabid/262/Default.aspx?itemid=2784 [117], (参照 2016-01-06).

(58) 加藤孔敬. サマーサンタクロース作戦・学校図書館整備支援事業:強くたくましく、読書から豊かな言語能力を育み「生きる力」の一助とするために. 図書館雑誌. 2012, 106(10), p. 738-739.

(59) 池田桂子. ボランティアとして、東松島市の学校図書館整備に参加して. 図書館雑誌. 2012, 106(10), p. 740-741.

(60) 高梨富佐. 宮城県被災地における学校図書館整備支援について. 図書館雑誌. 2014, 108(3), p. 168-169.

(61) “東日本大震災被災地図書館の写真セットの貸出し”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/earthquake/tabid/434/Default.aspx#photo [118], (参照 2016-01-31).

(62) 安藤哲也. 大災害に備える:県境を越えた図書館相互応援の提案. 図書館雑誌. 2012, 106(3), p. 154-155.

(63) “大規模災害時における都県立図書館相互の応援に関する申合せ”. 日本図書館協会. 2012-03-09.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/content/shinsai/kyoutei20120309.pdf [119], (参照 2016-01-05).

(64) 正式名称は、岩手県立図書館による(2016-02-15 確認)。

(65) 全国公共図書館協議会. 公立図書館における危機管理(震災対策等)に関する報告書. 2014, p. 39-41.
http://www.library.metro.tokyo.jp/Portals/0/zenkouto/pdf/2013_chap02.pdf [120], (参照 2016-01-05).

(66) 菊池和人. 岩手県内図書館間の有事に備えた相互応援. 図書館雑誌. 2013, 107(2), p. 115.

(67) 熊谷. 前掲. p. 50.

(68) 熊谷慎一郎. 東日本大震災と図書館: 図書館の復旧と復興のための支援と受援:宮城県図書館の取り組みを通して. 図書館界. 2012, 64(2), p. 92.

(69) 熊谷慎一郎. 図書館がその役割を果たすために:東日本大震災後の宮城県内市町村図書館の状況から. 図書館雑誌. 2014, 108(3), p. 170-172.

(70) 吉田和紀. 東日本大震災から4年、阪神・淡路大震災から20年: 今、福島県の図書館では:震災からの復旧とこれからの課題. 図書館雑誌. 2015, 109(3), p. 146-147.

(71) 長坂俊成. 《討議》東日本大震災と図書館. 図書館界. 2012, 64(2), p.116.

(72) “東北地方太平洋沖地震の被害に伴う人的協力について(依頼)”. 文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課. 2011-03-22.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/03/__icsFiles/afieldfile/2011/03/24/1304117_2_1.pdf [121], (参照 2016-01-05).

 

[受理:2016-02-23]

 


西村彩枝子. 東日本大震災で被害を受けた公共図書館等への支援の動向. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1868, p. 14-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1868 [122]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917290 [123]

Nishimura Saeko
Trends of support for libraries after the Great East Japan Earthquake, especially public libraries

カレントアウェアネス [3]
災害 [4]
震災 [5]
日本 [6]
公共図書館 [17]

CA1869 - ジャンル・形式用語の動向 ―米国議会図書館の取組みをはじめとして― / 柴田洋子

  • 参照(8888)

PDFファイルはこちら [124]

カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1869

 

ジャンル・形式用語の動向 -米国議会図書館の取組みをはじめとして-

収集書誌部収集・書誌調整課:柴田洋子(しばた ようこ)

 

1. はじめに

 ジャンル・形式用語は、「ホラー映画」や「探偵小説」「詩」といった、その資料が「何であるか」(what a work is)を表す統制語彙である。その資料の「主題は何か」(what a work is about)を表す件名標目とは異なる用語である。よって,ジャンル・形式用語と件名標目は,同一の資料に付与することもできる。たとえば、観覧車をテーマにした詩集(書籍)であれば、「詩集」というジャンル・形式用語と「観覧車」という主題を表す件名標目が付与されうる。

 件名標目は、予め複数の統制語を結び付けた形で表現されることが多く、従来、ジャンルや形式を表す語は、主標目に細目として付加されていた。これは、資料の主題を詳細に表現するには適していたが、利用者の直感的な単語入力による検索に有用とは言い難かった。ジャンル・形式用語の場合、標目の補助的な役割ではなく、それ自体が単独でアクセス・ポイントとなりうるものである。また、その資料の内容や形式を直接表わす用語のため、より利用者の検索行動に馴染むものであり、これを書誌データに適切に付与することで、たとえば、OPACのファセット(検索結果からの絞り込み)機能を強化でき、効率的な検索の実現に資すると考えられる。

 また、ジャンルや形式を表す情報は、MARC21等のコード値として用いられてもいるが、これらは特定のフォーマットでしか機能せず、汎用性に限りがある。ウェブの世界では、単なる文字列の検索にとどまらず、データの意味や関係性を機械的に処理し、多様な観点による高度な情報アクセスを実現する技術への対応が志向されている。図書館の書誌データや典拠データも、資料へのアクセス手段としてだけでなく、ウェブ上で広く利用できる、意味のあるデータであることが求められ、Linked Data化して提供することが重要になってきている。

 このような状況において進められているジャンル・形式用語に関する様々な取組みの中で、本稿では、米国議会図書館(LC)の先進的な事例と、その他の国立図書館や関連機関等における検討・適用状況を紹介する。

 

2. LCの取組み

2.1. Library of Congress Genre/Form Terms for Library and Archival Materials (LCGFT)

(1) 経緯

 LCでは、1980年代からジャンル・形式用語を付与していた(1)。当時は、米国議会図書館件名標目表(LCSH)のほかに、LCの各部門が独自に作成した分野別のシソーラスや、米国図書館協会等の他機関による統制語彙をジャンル・形式用語として使用していた。また、米国内の各図書館は、独自のルールでジャンル・形式用語を付与しており、図書館間でベストプラクティスを共有できずにいた。そこでLCは、包括的な単一のシソーラスを構築し、標準的な適用方針を策定するため、2007年にジャンル・形式用語のシソーラス化の検討を開始した。このシソーラスが、LCGFTである(2)。LCGFTの構築は、LCの政策・標準部により、分野ごとに個別のプロジェクトとして進めることが決定され、まずは動画(映画、テレビ番組等)に付与する語彙の検討が開始されることになった。

 2010年には、ジャンル・形式用語をLCSHから正式に分離する作業が開始され、2011年5月にそのためのデータ処理が実施された。従来、資料のジャンル・形式を示すためにLCSHの形式細目が主として使われてきた。LCSHでは、予め意味のある順序で索引語を並べる事前結合方式が採用されているが、LCGFTは、資料への付与や検索時に組み合わせる事後結合方式に対応している。たとえば、農業に関する書目の逐次刊行物の場合、LCSHの「Agriculture—Bibliograp

hy--Periodicals」と、LCGFTの「Bibliography」と「Periodicals」がそれぞれ付与されうる。この分離は、ジャンル・形式用語が主題を表す件名標目とは異なる区分原理であることを明確にするためのものであった(3)。仮に、LCSHの索引語を用いて、単独のアクセス・ポイントとした場合、それが主標目と形式細目の両方で用いられる用語であれば、資料の主題または形式のいずれを表しているか容易に識別できない恐れがある。たとえば「Periodicals」の場合、逐次刊行物について論じた資料という意味か、その資料が逐次刊行物であるという意味か識別できない場合がありうる。そのため、ジャンル・形式用語を、主題を表す件名標目から区別する必要がある。

 主標目から検索するカード目録の時代には副次的な役割であったジャンル・形式用語が、件名標目から切り出され、機械可読形式で提供されたことにより、単独のアクセス・ポイントとして機能し、柔軟な検索に対応できるようになった点でこの分離の意義は大きい。

 

(2) 概要

 LCGFTには、2016年1月現在、8分野(動画、ラジオ番組、地図、法律、一般(総記)、音楽、文学、宗教)の語彙が収録されている。分野ごとに階層化され、後述の承認プロセスを経たものから統合される。前述のとおり、事後結合方式が採用されており、一つの用語に含まれる概念は一つである。一つの資料に対し複数のジャンルや形式を表すために、複数の語彙を付与することはできるが、LCSHのように語彙が細分化されることはない。

 

(3) 各プロジェクトの状況

 分野別の各プロジェクトで検討された語彙は、「候補リスト」(Tentative List)(4)に掲載され、意見公募が行われる。その結果が反映されたものが、LCによって承認され、「承認済リスト」(Approved List)(5)に掲載される。承認された語彙は、LC Linked Data Service(6)等でも提供される。プロジェクトは、LCによる資料への付与開始をもって完了とみなされる。付与作業を開始するには、マニュアル類の改訂作業が必要である。そのため、語彙の承認後、実際にLCで適用が開始されるまでには一定の時間を要する。各プロジェクトの状況は、表のとおりである。

 

表 各プロジェクトの状況(2016年1月現在)

分  野状  況
動画2009年1月付与開始
ラジオ番組2009年1月付与開始
地図2010年9月付与開始(7)
法律2011年6月付与開始
一般(総記)2015年1月承認(約190件)(8)
音楽2015年2月承認(約560件)
文学2015年5月・9月承認(9)(約390件)
宗教2015年9月承認(約40件)
芸術未承認(10)

 

 2008年12月、動画及びラジオ番組に対して2009年1月からジャンル・形式用語を付与することが発表された(E916 [125]参照)(11)。また、5分野(地図、法律、文学、音楽、宗教)を対象とした5か年計画も公表された(12)。進め方は、プロジェクトごとにその分野の関連機関(例:米国法律図書館協会)等と連携して検討した用語をLCが承認し、LCGFTに収録していく方法がとられた。実際には計画どおりには進まず、これらの分野の用語の承認・収録が完了する前に、新たな分野(一般、芸術)の語彙構築プロジェクトの立ち上げが検討された。2015年に4分野(一般、音楽、文学、宗教)の語彙が新たに追加されたことで、その収録語彙数は劇的に増え、従来の2倍以上になった。

 2016年1月、政策・標準部がマニュアル案を公開した(13)。これは、書誌レコード及び典拠レコードにジャンル・形式用語を適用する際のガイドラインであり、従来のガイドライン類はこれをもって廃止される想定である。また、政策・標準部は、LCGFTにおけるジャンル・形式の定義を改訂し、ジャンルと形式を区別せず、統合された単一の概念として扱うこととした(14)。

 

2.2.Library of Congress Demographic Group Terms (LCDGT)

 LCでは、ジャンル・形式用語のほかに、資料の著者等(creator/contributor)や資料の対象者(audience)といった人に関する属性(demographic)を示すために付与される用語LCDGTも検討している。たとえば、“A collection of poetry by several German authors”という資料の場合、著者の特性を示す“German”が付与され、“A child’s picture book”の場合、その対象者の特性を示す“Children”が付与される。これらをLCGFTやLCSH等の既存の統制語彙と区別して書誌データに記録し、OPAC等で利用できれば、たとえば、「小学生」「中学生」といった教育段階別に資料の対象者を絞り込んだ検索や表示に効果的である。

 LCは、2015年6月及び12月の2段階に分けて、合計約800件の語彙の承認作業を実施した。また、語彙の収録範囲や取組みの方向性を示した指針も公開した(15)。次の段階として、語彙の構築方針の検証作業の実施や、語彙の提案や付与、改訂に関する作業マニュアル案の公開等が予定されている(16)。

 

3. その他の取組み

3.1.主な国立図書館

 ドイツ国立図書館では、小説、詩集及び児童文学作品を対象にジャンル・形式用語(63件)を付与している(17)。

 フランス国立図書館では、映画、音楽、文学等のジャンル・形式用語として、件名標目RAMEAU(Répertoire d'autorité-matière encyclopédique alphabétique unifié)の収録語彙を使用している(18)。

 スペイン国立図書館では、LCGFT、RAMEAU、Art and Architecture Thesaurus (19)等を基にしたシソーラスを構築し、検索システムを公開している(20)。

 スウェーデン国立図書館では、LCGFTと対照させたSAOGF (Svenska ämnesord genre och form)を構築している(21)。

 

3.2.国際図書館連盟(IFLA)

 IFLAでは、ジャンル・形式用語が利用者のアクセス可能性を拡大しうるものであるにもかかわらず、その典拠データとしての具体的な位置づけが、FRBRファミリー(FRBR、FRAD、FRSAD)の参照モデル、国際目録原則覚書(ICP)、ヴァーチャル国際典拠ファイル(VIAF)、そしてResource Description and Access(RDA)のいずれにおいてもなされていないとの認識から、2013年から分類・索引分科会で検討を開始した(22)。その後しばらくの間、具体的な進展は見られずにいたが、2015年8月にケープタウンで開催された年次大会で、分類・索引分科会と目録分科会による共同ワーキンググループが設置されることが決まった。現在、ワーキンググループでは、各国立図書館におけるジャンル・形式用語の採用状況の調査を予定している。調査結果は、2016年の年次大会で公表される予定であり、今後、ワーキンググループで重点的に取組むプロジェクトでの検討に資することが期待されている。

 

3.3.OCLC

 OCLC ResearchとWorldCat.orgチームでは、共同でWorldCat Genresを開発し、試行的に公開している(23)。これは、WorldCatと連携し、「ミステリー」「SF」「ファンタジー」等の小説のジャンル用語から、それが付与されている書籍や映画等の資料だけでなく、関連する著者や主題、人物、場所等から資料を検索することもできるサービスである。

 

4. おわりに

 ジャンル・形式用語が、書誌データを構成する記述部分や件名標目等の要素とともに、それぞれの機能を適切に果たせば、検索の効率が向上するだろう。これらの要素を検索条件に設定できれば、資料のジャンルや年代、媒体等多様な観点から絞り込むことができる。RDAでは、統制語彙を記録する記述の要素として、content type、media type、carrier type、mode of issuance等がある(24)。たとえば、carrier typeには“audiocassette”や“videodisc”があり、検索条件を限定する役割を果たすと考えられる。このように書誌データを構成する各要素をあわせて考えるならば、各種の統制語彙と、それを定める標準の動向にも着目する視点が必要である。

 また、LCGFTのように、人間に理解しやすい「ことば」であり、語彙同士の関係が構造化され、機械にも理解しやすい「ことば」として特定のフォーマットに拠らずに表現できる統制語彙は、Linked Dataとしての利用価値が高まると考えられる。今後は、これらの統制語彙を活用した具体的なサービスの動向も注視していく必要がある。

 

(1) LCの取組みについては下記を参照。
The Library of Congress. “Genre/Form Headings at the Library of Congress”.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/genreformgeneral.html [126], (accessed 2015-12-04).
The Library of Congress. “Introduction to Library of Congress Genre/Form Terms for Library and Archival Materials”.
https://www.loc.gov/aba/publications/FreeLCSH/gftintro.pdf [127], (accessed 2015-12-04).
The Library of Congress. “Frequently Asked Questions about Library of Congress Genre/Form Terms for Library and Archival Materials (LCGFT)”.2011-06-06.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/genre_form_faq.pdf [128], (accessed 2015-12-04).
Janis L. Young & Yael Mandelstam. It Takes a Village: Developing Library of Congress Genre/Form Terms. Cataloging & Classification Quarterly. 2013. 51(1)-(3), p.6-24.
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01639374.2012.715117 [129], (accessed 2015-12-04).
Cataloging Policy and Support Office. “Report on the Moving Image Genre/Form Project”.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/movimgenre.pdf [130], (accessed 2015-12-04).

(2) LCGFTの名称が正式に使用されたのは、2010年からである。

(3) The Library of Congress. “Library of Congress to Reissue Genre/Form Authority Records”. 2011-05-09.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/gf_lccn.html [131], (accessed 2015-12-04).
この分離によって形式細目の使用が中止されたわけではない。

(4) The Library of Congress. “Subject Heading Tentative Monthly Lists”. Classification Web.
https://classificationweb.net/tentative-subjects/ [132], (accessed 2015-12-04).

(5) The Library of Congress. “Subject Heading Approved Monthly Lists”. Classification Web.
https://classificationweb.net/approved-subjects/ [133], (accessed 2015-12-04).

(6) The Library of Congress. “Library of Congress Genre/Form Terms”. LC Linked Data Service.
http://id.loc.gov/authorities/genreForms.html [134], (accessed 2015-12-04).

(7) The Library of Congress. “Frequently Asked Questions about Library of Congress Genre/Form Terms for Library and Archival Materials (LCGFT)”.2011-06-06.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/genre_form_faq.pdf [128], (accessed 2015-12-04).

(8) 約175件と予告されていたが、実際に「承認済リスト」に掲載された語彙は約190件である。
The Library of Congress. “Library of Congress to Approve "General" Genre/Form Terms”.
https://www.loc.gov/catdir/cpso/genre_form_general_terms.html [135], (accessed 2015-12-04).

(9) 当初は、2015年3月に約390件が承認される予定であったが、LC担当職員の作業負荷軽減のため、レビューが延期され、2回に分けて承認された。
The Library of Congress. “Library of Congress to Approve Genre/Form Terms for Literary Works”.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/genreliterature.html [136], (accessed 2015-12-04).

(10) 美術図書館協会北米支部(Art Libraries Society of North America)と連携して進められている。
The Library of Congress. “Introduction to Library of Congress Genre/Form Terms for Library and Archival Materials”.
https://www.loc.gov/aba/publications/FreeLCSH/gftintro.pdf [127], (accessed 2015-12-04).

(11) The Library of Congress. “Library of Congress to Implement Moving Image and Radio Program Genre/Form Headings in New Cataloging”.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/genreimplement.html [137], (accessed 2015-12-04).

(12) The Library of Congress. “Timeline and Plan for the Next Five Library of Congress Genre/Form Projects”.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/genretimeline.html [138], (accessed 2015-12-04).

(13) The Library of Congress. “Library of Congress Genre/Form Terms PDF Files”.
https://www.loc.gov/aba/publications/FreeLCGFT/freelcgft.html [139], (accessed 2016-01-22).

(14) 新たな定義は、2016年前半に公開予定のLCGFT最新版に掲載される予定であるが、既述のマニュアル案にも収録されている。
Morris, Young, Resser. News from Library of Congress.IFLA Metadata Newsletter.2015, 1(2), p. 20-27.
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/scatn/metadata-newsletter-201512.pdf [140], (accessed 2016-01-04).

(15) The Library of Congress. “Library of Congress Approves Initial Demographic Group Terms”.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/lcdgt-initial.html [141], (accessed 2015-12-04).
The Library of Congress. “Monthly List 17 (June 15, 2015)”. Classification Web.
https://classificationweb.net/approved-subjects/1517.html [142], (accessed 2015-12-04).
The Library of Congress. “Monthly List 19 (December 14, 2015)”. Classification Web.
https://classificationweb.net/approved-subjects/1519.html [143], (accessed 2016-01-22).
承認された語彙は、以下のLCのウェブサイトからMARCやRDF等の形式でダウンロードできる。ただし、LCでの適用時期は未定である。
The Library of Congress. “Library of Congress Demographic Group Terms”. Classification Web. 2015-10-29.
http://classificationweb.net/LCDGT/ [144], (accessed 2015-12-04).
The Library of Congress. “Library of Congress Demographic Group Terms”. LC Linked Data Service.
http://id.loc.gov/authorities/demographicTerms.html [145], (accessed 2015-12-04).
指針は、2015年5月に公開され、11月に改訂された。
The Library of Congress. “Library of Congress Demographic Group Terms: Introduction and Guiding Principles for the Pilot”. 2015-11-03.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/lcdgt-principles.pdf [146], (accessed 2015-12-04).

(16) The Library of Congress. “Library of Congress Accepts Demographic Group Term Proposals, Publishes Draft Demographic Group Terms Manual”.
https://www.loc.gov/catdir/cpso/lcdgt-acceptance-manual.html [147], (accessed 2016-01-22).

(17) Deutsche Nationalbibliothek. “Liste der in der DNB verwendeten Gattungsbegriffe”. 2012-07-25.
http://www.dnb.de/SharedDocs/Downloads/EN/DNB/servicelisteGattungsbegriffeEN.pdf?__blob=publicationFile [148], (accessed 2015-12-04).

(18) Bibliothèque nationale de France. “Subject reference systems”.
http://www.bnf.fr/en/professionals/anx_cataloging_indexing/a.subject_reference_systems.html [149], (accessed 2015-12-04).

(19) 米国ゲティ研究所による、建築の歴史、様式、技術等に関する収録語彙数約25万件のシソーラス。
The Getty Research Institute. “Art & Architecture Thesaurus® Online”.
https://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/aat/index.html [150], (accessed 2015-12-04).

(20) Biblioteca Nacional de España. “Autoridades de la B.N.: Búsqueda”. Catálogo BNE.
http://catalogo.bne.es/uhtbin/authoritybrowse.cgi [151], (accessed 2015-12-04).

(21) Viktoria Lundborg. “Genre and form”. Scandinavian Library Quarterly. 2014. 47(3).
http://slq.nu/?article=volume-47-no-3-2014-14 [152], (accessed 2015-12-04).

(22) IFLA. “IFLA Genre/Form Working Group”.
http://www.ifla.org/node/8526 [153], (accessed 2015-12-04).

(23) OCLC. “WorldCat Genres”.
http://www.worldcat.org/genres/ [154], (accessed 2015-12-04).

(24) また、著作の属性の要素としてnature of the contentがある。これは、統制語彙ではないが、著作の特質を記録するという点で同様の性質である。

 

[受理:2016-02-19]

 


柴田洋子. ジャンル・形式用語の動向 ―米国議会図書館の取組みをはじめとして―. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1865, p. 20-23.
http://current.ndl.go.jp/ca1869 [155]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917291 [156]

Shibata Yoko
Trends of genre/form terms: including the programs and activities of the Library of Congress

カレントアウェアネス [3]
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CA1870 - 動向レビュー:ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」 ―白熱する議論に向けて― / 小田光宏

PDFファイルはこちら [164]

カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1870

動向レビュー

 

ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」 -白熱する議論に向けて-

青山学院大学教育人間科学部:小田光宏(おだ みつひろ)

 

1 「枠組み」の登場

 2015年2月に、米国の大学・研究図書館協会(ACRL)は、2000年に制定した「高等教育のための情報リテラシー能力基準(Information Literacy Competency Standards for Higher Education)」(1)(以下、「能力基準」と記す)の改訂版に相当するものとして、「高等教育のための情報リテラシーの枠組み(Framework for Information Literacy for Higher Education)」(2)(以下、「枠組み」と記す)を策定した。本稿は、この「枠組み」の概要を紹介するとともに、特徴となる性格を指摘し、今後の議論の素材とするものである。

 ただし、正確に言えば、「枠組み」は「能力基準」の内容を引き継ぐものではあるが、「基準」としての性格を有するものとはみなしにくい。すなわち、「改訂」という位置づけをすることは難しい。それゆえ、「能力基準」の概要についても適宜触れ、「枠組み」との違いを浮き彫りにすることを試みる。

 「能力基準」改訂の過程は、おおむね次のようになる。すなわち、ACRLは、2011年7月に「情報リテラシー能力基準の点検タスクフォース(Information Literacy Competency Standards Review Task Force)」を組織し、「能力基準」の取り扱いに関して検討することを求めた。およそ1年の検討の結果、2012年6月にタスクフォースは、「能力基準」は改訂すべきであるという結論を提示した。

 この結論に基づき,同年8月には、「高等教育のための情報リテラシー能力基準タスクフォース(ACRL Information Literacy Competency Standards for Higher Education Task Force)」が発足し、改訂作業が進められた。このタスクフォースは、2014年2月及び4月に、それぞれ草案第1部、草案第2部を公開した。また、草案に対するパブリックコメントが、大学・研究図書館関係者から募られるとともに、同年6月の米国図書館協会(ALA)年次大会においても草案が取り上げられ、幅広く意見が求められた。こうしたプロセスを経て、2015年1月に最終版が整えられ、同協会の情報リテラシー基準の検討委員会に諮られた上で、理事会での承認手続がなされた。

 なお、「能力基準」の改訂が意図された最大の事由は、「能力基準」制定以降に生じた環境の変化であると言えよう。学術・研究図書館を取り巻く社会的情勢、デジタルネットワーク技術、高等教育における教育方法や教育メディアなど様々な関係要因が、この15年間で大きく変容している。こうした要因により、情報リテラシーの位置づけとその能力の見直しを余儀なくされ、改訂が促されたと言えよう。

 

2 「枠組み」を捉える視点

 「能力基準」からの展開を視野に入れて「枠組み」を考察するに当たって、筆者は5つの着眼点(キーワード)を設定した。すなわち、①状況依存、②教育活動、③メタ認知、④態度的能力、⑤学術研究である。これらは、前述のタスクフォースのレビュー記事(3)や関係する領域別の情報リテラシー基準(4)を渉猟・確認する過程で、認識したものである。とりわけ、兵藤(5)の指摘は、「枠組み」の検討が進められている時期に執筆されたことによる制約はあるものの、その特性を捉える視点を明快に示している。

 

①状況依存

 これは、「情報リテラシーとは何か」という問いかけとも重なる。情報リテラシーの一般的な能力基準そのものではなく、それぞれの状況(研究領域や活用の場など)に応じて、情報リテラシーの能力を展開して位置づけることが目指される可能性が高いということである。言い換えれば、情報リテラシーの形成プロセスの一般的なモデルや、汎用的・標準的な能力基準の提示は難しいということである。もちろん、これは、米国の高等教育における多様な実践状況に基づく判断であろう。ACRLは、「能力基準」制定後の十数年間に、前述のような領域別の情報リテラシー基準を作成してきた。これは、情報リテラシーの状況依存という側面を、まさしく表している。

 

②教育活動

 日本において、「能力基準」や「枠組み」を捉える際に「偏り」が生じるおそれがあると考え、あえてこれを設定した。「枠組み」そのものは、ACRLが制定したものの、図書館向けの旧来の基準にとどまるものではないと認識したからである。すなわち、「枠組み」の各所に見られることであるが、大学図書館が高等教育に携わる様々な立場の者と協同し、この「枠組み」に沿ったプログラムを高等教育機関として実施することが意図されているのである。したがって、「枠組み」に基づく活動は、高等教育機関における教育活動の一環と認識する方が妥当と考えられる。このように捉えると、教育学あるいは学習科学の知見を活用して、「枠組み」の論理を補強していることもうなずける。

 

③メタ認知

 これは、情報リテラシーに関係する個別の知識・技術が、示されるものではないことを意味している。個別の知識・技術とは、例えば、情報の探し方、活用のしかたといったものを指す。メタ認知的な側面からみると、こうした個別の知識・技術を修得する目的を意識し、それらの修得方法や応用手法自体についての知識・技術の修得が、「枠組み」が取り扱うものの核になるということである。

 

④態度的能力

 コンピテンシーの三要素(知識、技術、態度)の一つである、「態度」への着目である。すなわち、情報リテラシーの能力を修得・応用する際に、その主体(ここでは、高等教育機関の学生)が形成すべき資質や姿勢である。兵藤の表現を借りるならば、情意面の強調ということにもなる。

 

⑤学術研究

 具体的には、学術研究と情報リテラシーの接点についてである。高等教育の情報リテラシーを研究活動と関連づけた場合に、学術コミュニケーションに対する認識と理解が、情報リテラシー能力の育成の焦点となることが期待される。「能力基準」以降、高等教育における情報リテラシーについては、様々な学術領域の特性を踏まえて議論が行われ、領域別の情報リテラシー基準の策定が進められている。

 

3 「枠組み」の特徴

 「能力基準」は、5つの情報リテラシーの能力に関する基準を示した上で、それぞれに達成指標(Performance Indicators)を設定している。達成指標は合計22あり、また、全体で87に及ぶ成果(Outcomes)をそれぞれの達成指標で提示している。このように、「能力基準」は、基準、達成指標、成果という構成で組み立てられていた。

 一方、「枠組み」で掲げられているのは、以下の6つのコンセプトである。

 

 オーソリティは作られ、状況に基づいている
(Authority is Constructed and Contextual)

 プロセスとしての情報創成
(Information Creation as a Process)

 情報は価値を有する
(Information has Value)

 問いかけとしての研究活動
(Research as Inquiry)

 会話としての学術活動
(Scholarship as Conversation)

 戦略的調査活動としての探索
(Searching as Strategic Exploration)

 

 各コンセプトには要点が付され、さらにそれを敷衍した解説文が続く。その上で、「知識と実践(Knowledge Practices)」として、修得すべき知識・技術が列挙されている。また、「心構え(Dispositions)」(6)が示されている。ちなみに、6コンセプト全体で、「知識と実践」は45、「心構え」は38が記されている。

 「枠組み」の最大の特徴の一つは、上記の6コンセプトに順序はまったくなく、アルファベット順に並べられていることである。すなわち、6コンセプトをどのように組み立てて、情報リテラシー能力を育成するプログラムにするかは、各高等教育機関(大学図書館を含む)に委ねられている。情報リテラシーは、各分野の状況に依存しているがゆえに、共通の基準を提示しても効果的ではないことを、ここでは表しているとみなせよう。また、高等教育機関における多様な教育活動を許容していると理解することもできる。さらに、「能力基準」は、ある種のガイドラインまたはマニュアルとしての活用が可能であったと思われるが、「枠組み」においては、そうしたものと一線を画すことが意図されたとも想定できる。

 もう一つの大きな特徴は、「心構え」を、情報リテラシー能力として明記したことである。知識・技術とともに、コンピテンシーのもう一つの要素である「態度」を取り入れることは、人的資源開発の分野において潮流となって久しい。教育学や学習科学の成果を踏まえて「枠組み」の改訂作業が進められている以上、これは十分に予測できた。しかし、筆者が目を見張ったのは、その範囲が、6コンセプト全体で38にも及んでいたことである。「知識と実践」の45と比較しても、その比重がいかに大きいかを意識しなくてはならない。

 また、個別のコンセプトの内容を確認すると、前述の着眼点に関係する内容が各所に現れている。

 

・オーソリティは作られ、状況に基づいている
 情報資源は作成者の専門性と信頼性を反映したものであり、その情報のニーズと、その情報が用いられる文脈に基づいて評価されるとする。それは、それぞれのコミュニティにおいて、オーソリティとなるものや、オーソリティのレベルは異なるという考え方を基調にしている。ここでは、「文脈に基づく(contextual)」という用語を用いているが、それは情報リテラシー能力が、コミュニティの状況に依存するという捉え方をしていることになる。

・プロセスとしての情報創成
 情報の探索、生産、伝達のプロセスが多様であり、その結果として生み出された情報そのものも、プロセスの相違によってまた異なることを意識している。ただし、プロセスに着目しているものの、標準的なプロセス、あるいは、プロセスモデルを提示することを意図してはいない。むしろ、状況に応じた様々なプロセスを的確に捉える能力を修得すること、すなわち、メタ認知的な考え方が強調されていると言えよう。また、そうした能力の修得を促進することが、高等教育機関において課題として存在していることを表している。

・情報は価値を有する
 情報がそれぞれの文脈において、多様な役割を果たすことを前提に、その価値を認識し、尊重することを掲げている。また、情報が法的ないし社会経済的利益を有することに触れ、著作権をはじめ学術コミュニティにおいて扱われる諸権利への認識を強調している。

・問いかけとしての研究活動
 学術研究を、探究行為(問いかけに基づく行動)の反復・連続と位置づけ、広い視野に立って展開することを求めている。そこに示されている知識・技術も、個別具体的なものではなく、探求行為全体を取り扱うためのメタ認知的なものになっている。

・会話としての学術活動
 永続的な会話(言葉によるやりとり)を、学術コミュニティの核としている。「会話(conversation)」は、情報の交換とみなされるため、ここでは、学術情報の流通に関する能力の育成を扱っていると言えよう。

・戦略的調査活動としての探索
 情報の探索活動は、行きつ戻りつして行われることから、柔軟な姿勢が必要としている。また、そうした特性を有するからこそ、全体を俯瞰しながら、戦略的に調査を行う能力の育成が強調されている。

 

4 「枠組み」の課題

 前述したように、「枠組み」は、ガイドラインやマニュアルではない。また、「能力基準」との性質の違いが大きい。それゆえ、米国の高等教育の現場(大学図書館を含む)では、少なからぬ動揺が生じたものと推測される。実践の場において、各機関の状況に応じた情報リテラシー能力育成の教育プログラムを独自に組み立てることは、容易とは言えないからである。この点に着目すると、「枠組み」を現場において適用するための「ツール」に相当するものの開発が、今後の課題として浮上する。しかも、状況に応じた多様なツールが必要とされる。

 このとき、「枠組み」の付録の存在を見逃せないことに気づく。「枠組み」を活用する際の一般的な手順を示すとともに、高等教育機関の教員集団(faculty)と管理者(administrators)に向けて、「枠組み」の取り扱いに関する手立てを、提起しているからである。もちろん、それはマニュアルではない。しかし、実践のためのヒントとして活かすことができよう。

 一方、日本の現状に目を移すと、国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会がほぼ同時期に公表した『高等教育のための情報リテラシー基準』(E1712 [165]参照)(7)と、「枠組み」との隔たりが際立つ。この基準は、情報リテラシー能力の循環的(螺旋的)育成を希求するプロセスモデルを基調とし、標準的かつ個別具体的な情報リテラシー能力を示すことが中心になっていると考えられる。これは、「枠組み」がメタ認知の考え方に徹していることと対照的である。

 彼我の事情の相違を考慮に入れたとしても、両者のベクトルがあまりにも異なっていることは、極めて興味深いとともに、戸惑いの感を禁じ得ない。とりわけ、「枠組み」が理論的考察の成果に基づいているのに対し、日本においては「基準」という性質を超えて,大学図書館での適用措置に強く傾斜しており、向かおうとしている方向が大きく異なっているからである。今後は、欧州の基準(8)も含めて、それぞれの性格と有効性に関して、考察することが強く求められよう。

 

(1) Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Competency Standards for Higher Education”. 2000, 16 p.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/standards.pdf#search='Information+Literacy+Competency+Standards+for+Higher+Education' [166], (accessed 2016-01-22).
なお、下記のURLに、日本語訳がある。
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/InfoLiteracy-Japanese.pdf#search='ACRL%E9%AB%98%E7%AD%89%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%BC%E8%83%BD%E5%8A%9B%E5%9F%BA%E6%BA%96' [167], (accessed 2016-01-22).

(2) Association of College and Research Libraries. “Framework for Information Literacy for Higher Education”. 2015.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/issues/infolit/Framework_ILHE.pdf [168], (accessed 2016-01-22).

(3) ACRL Information Literacy Competency Standards Review Task Force. “Task Force Recommendations”. 2012.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/ils_recomm.pdf [169], (accessed 2016-01-22).

(4) 下記の基準がある。
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Standards for Science and Engineering/Technology”. 2006.
http://www.ala.org/acrl/standards/infolitscitech [170], (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Standards for Anthropology and Sociology Students”. 2008.
http://www.ala.org/acrl/standards/anthro_soc_standards [171], (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Standards for Teacher Education”. 2011.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/ilstandards_te.pdf [172], (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Competency Standards for Journalism Students and Professionals”. 2011.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/il_journalism.pdf [173], (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Competency Standards for Nursing”. 2013.
http://www.ala.org/acrl/standards/nursing [174], (accessed 2016-01-22).

(5) 兵藤健志. 米国における情報リテラシー教育の現状と展望. 情報の科学と技術. 2014, 64(1), p. 15-21.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009686622 [175], (参照 2016-01-22).

(6) “Disposition”は、「心性」「情意」「資質」などとも訳されるが、比較的平易な用語を原文が用いていることを考慮し、「心構え」と訳出した。

(7) 国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会. “高等教育のための情報リテラシー基準2015年版”. 2015, 26 p.
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/sftl201503b.pdf [176], (accessed 2016-01-22).

(8) 欧州の基準としては、国際図書館連盟(IFLA)の情報リテラシー分科会が作成した下記のガイドラインがある。
“Guidelines on Information Literacy for Lifelong Learning”.
http://www.ifla.org/publications/guidelines-on-information-literacy-for-lifelong-learning?og=81 [177], (accessed 2016-01-22).
“Guidelines for Information Literacy assessment”.
http://www.ifla.org/publications/guidelines-for-information-literacy-assessment?og=81 [178], (accessed 2016-01-22).

 

[受理:2016-02-08]

 


小田光宏. ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」 -白熱する議論に向けて-. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1870, p. 24-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1870 [179]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917292 [180]

Oda Mitsuhiro
Nature and Significance of the Association of College and Research Libraries (ACRL) “Framework” of Information Literacy for Higher Education: Toward a heated Discussion

  • 参照(9885)
カレントアウェアネス [3]
動向レビュー [181]
情報リテラシー [182]
米国 [159]
大学図書館 [183]
ACRL(大学・研究図書館協会) [184]

CA1871 - 研究文献レビュー:都道府県立図書館論 / 田村俊作

PDFファイルはこちら [185]

カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1871

研究文献レビュー

 

都道府県立図書館論

慶應義塾大学名誉教授:田村 俊作(たむら しゅんさく)

 

1. はじめに

 本稿では、都道府県立図書館に関する論考を概観する。公立図書館については、市区町村立の図書館が、市民にとってのあり方が問われてきたのに対し、都道府県立図書館をめぐる議論では、市区町村立図書館との関係の中でその存在がいかに正当化されるのかが問われてきている。長年に渡って予算が削減され、ほとんどが非常に厳しい運営を強いられている点も、近年の論の背景となっている。

 本稿では、研究論文のみに留まらず、都道府県立図書館の動向を考察・検討し、今後の可能性や取るべき方向を示唆する論考や行政・団体等による政策文書も取り上げる。対象を広く捉えるのは、その役割や機能に関する重要な提言を含む多様な見解は、厳密な意味での研究論文というよりは、このような論考や政策文書の中に表明されていると考えるからである。また、近年の動向の背景となった過去の議論についても、戦後に絞って簡単に触れる。

 なお、本稿は「研究文献レビュー」ではあるが、前述のように対象を広げて検討しているため、前稿(1)と一部内容に重複があることをお断わりしておく。都道府県立図書館論に限定せず、都道府県立図書館に関する2000年代の文献を広くレビューしたものに新出の論考(2)があり、参考になる。

 

2. 都道府県立図書館論の登場

2.1. 図書館法と都道府県立図書館

 1950年に施行された図書館法には、都道府県立図書館に対する言及がわずかばかりではあるが存在する。制定当初は国庫補助の基準等、現在よりも言及が多かったが、現行法では国立印刷局刊行の出版物の提供に関する第9条の規定があるのみである。条文を解説したものは存在する(3)ものの、都道府県立図書館の役割とその法的根拠といった観点からの議論はない。第9条は米国の連邦政府刊行物寄託図書館制度を想起させるような条文であるにもかかわらず、僅かに法制定時の文部省社会教育局長だった西崎恵が「都道府県立図書館は当該都道府県内の図書館奉仕の中心とならねばならない関係上、第一項においてその充実を図ろうとしたのである」(4)と、域内図書館のサービスセンターとしての役割を指摘しているのみで、2011年の調査(5)では提供すら十分に履行されていないことが明らかとなった。

 

2.2. 薬袋秀樹による論

 戦後の議論については、薬袋秀樹による非常に包括的なレビューが存在する(6)。薬袋は1980年代前半までの論を、①創成期(1945-1962)②模索期(1963-69)③<協力・援助型>都道府県立図書館論の萌芽期(1970-1976)④<協力・援助型>都道府県立図書館論の形成期(1977- )の4期に分けて検討している。

 薬袋は1963年の『中小都市における公共図書館の運営』(7)(以下、「中小レポート」)において、中小市立図書館を公共図書館の中心に据えるという価値の転倒が起こったとして、それに対応する都道府県立図書館論の必要性を主張している。

 薬袋は「中小レポート」と、後述する前川恒雄の論を基本的に同趣旨のものとして高く評価し(8)、都道府県立図書館のめざすべき方向を、市区町村立図書館の自立的発展を促し、支えるという「協力・援助型」の図書館であるとして、この図書館像を軸に時期区分を行なっている。この点で薬袋論文の主張は前川の論に沿ったものであるが、薬袋の論は前川の論と次の2点で違いがある。

 ①納税者である住民にサービスを提供するのとは異なり、市区町村立図書館に対する協力・援助については、法的・制度的根拠が必要である。

 ②市区町村立図書館と同じ業務をすることによって、都道府県立図書館は市区町村立図書館をよりよく理解することができると前川は言うが、住民・行政との関係が根本的に異なる以上、同一業務を行なっているからといってそれだけで市区町村立図書館を理解することにはならない。都道府県立図書館は市区町村立図書館とは異なる独自の直接サービスを提供すべきである(9)。

 薬袋の論考は都道府県立図書館の使命、機能、具体的なサービスまでも含む包括的な論考であり、この水準の論は未だに存在しない。

 

3. 市区町村立図書館のための図書館

3.1. 前川恒雄による論

 都道府県立図書館と市区町村立図書館とによる図書館協力網の形成と、それを通じた都道府県立図書館による市区町村立図書館に対する協力・援助については、すでに戦前から論じられてきた。しかし、前川は中央図書館制度に代表される戦前の道府県立図書館のあり方を、市区町村立図書館の上にあって指導する存在であろうとしたとして批判し、逆に、市区町村立図書館に学び、その要求に応えることこそが都道府県立図書館を発展させ、ひいては公共図書館全体を発展させると主張した(10)。

 1981年の著書(11)で前川は、都道府県立図書館の市区町村立図書館へのサービスとして、①市区町村立図書館の設置・普及②市区町村立図書館への貸出・レファレンス③町立図書館等への大量一括貸出④保存図書館⑤県内図書館間の相互貸借の中継⑥図書館関係研究会・団体等の世話、があり、都道府県立図書館独自の仕事として、⑦都道府県の土地柄に合った蔵書構築⑧市区町村立図書館を理解するための直接サービス、をあげている。1995年の論考(12)では、①市区町村立図書館と同様の直接サービス②市区町村立図書館の振興③協力車を基本的な搬送手段とする貸出と書誌情報の提供④資料保存⑤市区町村立図書館運営への協力⑥市区町村立図書館の擁護、があげられている。十数年の歳月の隔たりはあるものの、両者の基本は重なっており、かつ、都道府県立図書館の存在理由は市区町村立図書館の役に立つことである、という性格づけは一層明確になっている。

 知る自由を保障するものとして公共図書館による資料提供を据え,それを実現するのは市区町村立図書館であるとした上で,その自立的発展を支えることに都道府県立図書館の存在意義を見る前川の思想は、市区町村立図書館こそが公共図書館の中核であるとして、それまでの大図書館中心の公共図書館観を逆転した「中小レポート」と『市民の図書館』(13)の思想に沿うものである。

 

3.2. 「市区町村立図書館のための図書館」論への批判

 極めて少数であるが、以上のような「市区町村立図書館のための図書館」論に対する批判がある。1990年当時大阪府立中之島図書館長であった山代義雄(14)は、市区町村立図書館への援助が都道府県立図書館の第一義的機能であるとする考え方に対し、都道府県の事務の範囲を定めた地方自治法第2条6項(当時)によっては根拠づけることのできない、制度を外れたものであり、賛成できないとした。これに対し脇谷直博(15)(16)は地方自治法の趣旨と「市区町村立図書館のための図書館」論の意義をもとに反論している。

 6.で見るように、政策文書中でも市区町村立図書館への援助を都道府県立図書館の重要な役割とする見方は定着している。管見の限り、図書館界内部で地方自治制度面から援助を疑問視する声は近年までなかったし、まして都道府県立図書館の業務に影響を与えることはなかったようである。

 

4. 役割分担論

 前川が批判の対象とした同時代の論に役割分担論(以下、分担論)がある。前川は、都道府県立図書館は①レファレンスライブラリーになるべきで、貸出や児童サービスはしなくとも良いとするような機能面での分担論②児童の入館は認めないといった対象面での分担論③高度な専門書だけを買うべきで、小説や児童書は購入しないといった蔵書面の分担論、という3種類の分担論をあげている(17)。

 こうした分担論を都道府県立図書館論として肯定的に正面から主張したものは見当たらない。類似の用語として、藤井千年は1975年に「いわゆる県立図書館機能分離論」として分担論を紹介している。藤井は機能分離論を「一般市民を対象とした館内閲覧だとか、貸出中心主義から脱皮して...図書館というよりもインフォメーションセンター的なもの」(18)であろうとする論としている。

 1990年前後に実際に分担論として批判されたものに、例えば新潟県立図書館が新築移転する際に作成された整備構想(19)がある。大学図書館も含む情報ネットワークを構築し、児童サービスを廃止するという構想を、小谷恵子(20)は「空洞化された情報図書館構想」として批判している。1989年に公表された岡山県立図書館の新館構想をめぐっては、同様に、児童奉仕を廃止し、大学図書館と並ぶグレードの高いものをめざす、とする県知事・教育長の答弁が批判されている(21)。

 1985年から1989年までに公表された都道府県および政令指定都市による図書館将来構想関係文書を分析した田村ほかの調査(22)(23)では、都道府県立図書館の整備構想の中に高度な情報サービスの提供や専門書の収集をあげている都道府県が相当数あったと報告している。

 分担論に類似した用語に「第二線図書館」論がある。薬袋(24) は、有山崧(25)に始まるこの用語には市区町村立図書館への援助を機能の中心にすべきという肯定的用法と、①郊外の不便な場所への立地②直接利用の軽視③専門資料中心の蔵書構成④移動図書館の廃止など、市区町村立図書館が未成熟な段階で利用者から遠ざかろうとするような姿勢を問題視する批判的用法の二通りの用法があり、当初は肯定的に用いられていたのが、直接サービスを軽視する議論と「第二線図書館」概念が結びつくに及んで、批判的用法が登場したとしている。梅澤幸平(26)は分担論に基づく「第二線図書館」の実情を批判的に回顧している。

 こうした分担論の背景に、参考図書館たろうとした戦前からの伝統(27)を見ることができるかもしれないが、別の見方として、新(28)が論ずるように、二重行政を避けるための模索と見ることも可能である。

 

5. 都道府県立図書館・都道府県立図書館論の停滞

5.1. 都道府県立図書館論の停滞

 1980年代から1990年代にかけては、市町村立図書館支援論(以下、支援論)の立場から、都道府県立図書館の不十分さを批判的に論ずる論考が続く(29)(30)(31)(32)(33)。

 この時期には5.2.で見るように、都道府県立図書館にもそれなりの成長はあったようである。しかし、支援論と、分担論の混在(34)、そして戦前からの参考図書館論(35)などのさまざまな論が並立し、その役割について明確な方向性は見えなかった。

 大串夏身(36)は都道府県立図書館を「広域レベルでの唯一ともいえる責任ある事業執行機関」(p. 38)であり、都道府県が域内の図書館事業に関する総合調整機能・補完的機能を発揮する際の事業執行機関であるとした上で、9県の総合計画を検討して、そこに県立図書館の明快なビジョンの見えないことを指摘している。これは、東京都(37)や滋賀県(38)の図書館政策が、域内市区町村立図書館の振興策と併せて都立・県立図書館の充実を提言していることに通じる、重要な指摘である。

 

5.2. 都道府県立図書館の停滞

 単に理論面だけでなく、実績においても都道府県立図書館が市区町村立図書館に比べて見劣りすることは、1980年代から指摘がある。前田章夫(39)は、都道府県立図書館は1960年代半ばからの20年間に、大規模館への転換と、協力・援助型の図書館への転換という二つの質的転換を遂げつつあるとしつつ、協力・援助型の図書館になるには、職員数や質の面などでなお極めて不十分であると指摘している。その4年後に長谷川周(40)は、受入冊数や資料費は増加しているものの、貸出冊数や職員数は減少しつつあるとした。松岡要は1995年(41)と1996年(42)の記事で、職員数が減少傾向にあることに警鐘を鳴らしている。

 資料費は1995年がピークで、以後長期低落傾向が続いている。図書館雑誌編集委員会(43)は2009年の特集の冒頭で、資料費は1995年をピークに減少に転じたことと、職員の非正規化が進行していることを指摘している。

 

5.3. 都道府県立図書館のあり方を問い直す動き

 こうした低落傾向の中で、2000年くらいから都道府県立図書館のあり方を問い直す動きが続いた。背景にあるのは厳しい財政状況の下での事業全般の見直しと再編である。以下そのいくつかを取り上げてみる。

 東京都が2001年度に行なった行政評価で都立図書館は「抜本的見直し」との総合評価であった。指摘されたのは、①市区町村立図書館との役割分担の明確化(情報サービスの高度化と市区町村立図書館への協力支援機能の強化)②機能集中による運営の効率化③関係機関との連携の強化、という、運営の効率化を図りつつ従来のサービスの一層の充実を求めるという難しい要求であった(44)。これに対して作成された「今後の都立図書館のあり方」(45) (46)は、専門書・貴重書等を活用した高度・専門的なレファレンスサービスの提供、専門書・高価本等役割分担を踏まえた資料収集と、明確に分担論を展開している。

 高知県立図書館と高知市民図書館本館との合築では、直接サービスは市民図書館が、県内図書館協力網の管理は県立図書館が担当し、蔵書の構築・管理やレファレンスサービス等は共同で行なうこととされている。合築がもたらす可能性として、資源の集積による利用者の利便性の向上、専門資料の充実とそれに基づく課題解決支援や調査研究支援等のサービスの充実、資源や業務・サービスの一本化による効率化がうたわれている(47)。分担論をさらに進めて、県立図書館・市立図書館双方の業務を分析・再編することにより、サービスの充実と運営の効率化を図っている。

 長崎県立長崎図書館もまた、大村市立図書館との合築計画が進んでいる(48)。検討はすでに2000年頃から行なわれていた(49)。郷土資料センターを長崎市に新設するなど違いは見られるものの、役割分担と集積効果によりサービスの充実と運営の効率化を図っている点は高知の計画と同一である。

 神奈川県立図書館の再編計画は、県の緊急財政対策(50)の一環として提案された。当初案の骨子(51)は、①県立図書館の閲覧・貸出サービスを廃止し、市町村立図書館を通じて資料を提供する②県立図書館は専門書の収集、相互貸借システムの運営、司書の研修などバックアップ機能に特化する③県立川崎図書館は廃止し、蔵書は県立図書館に移管するというものであった。この当初案は修正された(52)が、「市町村立図書館との役割分担を精査しながら、県立図書館の機能を純化し、効率化に向けて検討」(53)するという、役割分担により効率化を図る方向は明らかである。

 大阪府の大阪府立図書館運営業務の市場化テストでは、窓口業務等多くの業務が俎上に上った(54)。高度なレファレンスサービスは対象外とされたものの、監理委員の中からコストがかかりすぎる、オーバースペックではないのかといった意見が出された(55)。役割分担論の中核的なサービスを批判する意見と取れるが、これについては図書館側の説明の不適切さを指摘する意見がある(56)。

 以上取り上げた事例で共通するのは、従来の都道府県立図書館論に理解を示しつつ、一層の効率性を求めている点である。市区町村立図書館支援について渡邉斉志(57)は、蔵書面でのバックアップである以上、本質的にリダンダンシー(冗長性)があるため、財政の効率化が強く求められるときには、縮小の圧力にさらされると指摘している。この論に基づくならば、単なる協力・援助型の論では経費削減と機能の縮小を免れない、ということになってしまう。

 

6. 政策文書の中の論

 都道府県立図書館論をめぐる新たな動きを論ずる前に、文部科学省や日本図書館協会等による全国レベルの政策文書の中で都道府県立図書館がどのように論じられているのかを見てみよう。

 

6.1. 「望ましい基準」の中の論

 文部科学省による「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(以下、「望ましい基準」)(58)では、市区町村立図書館への協力・援助が都道府県立図書館の主要な任務であるとされている。これを最初に明示したのは、1972年に報告された望ましい基準案(59)である。

 1972年の基準案は、社会教育審議会によって承認される際には大幅に修正され(60)、結局告示には至らなかった。その後再度の検討を経て、1992年に図書館専門委員会による報告(61)が文部省生涯学習局長によって通知された後、再度の改訂を経て2001年に正式に告示された(62)。図書館法の改正に伴い、私立図書館も対象とする「図書館の設置および運営に関する望ましい基準」が2012年に告示されている。

 1972年の基準案では、都道府県立図書館の機能として、①他の図書館との協力②参考業務③市町村立図書館への援助④未設置市町村への働きかけがあげられ、域内図書館との協力・援助と図書館振興の方向性が明確である。

 1992年の「望ましい基準」は、都道府県立図書館の運営の基本として、「(1)都道府県立図書館は、都道府県内の学習需要を広域的かつ総合的に把握して資料及び情報を収集、整理、保存及び提供する立場から、市町村立図書館に対する援助に努めるとともに、都道府県内の図書館間の連絡調整等の推進に努めるものとする。(2)都道府県立図書館は、住民の直接的利用に対応する体制を整備するものとする」と述べ、協力・援助型の図書館であるべきことを明確に示した。2001年に告示された基準も、援助と連絡調整を基軸にしつつ、未設置市町村への働きかけと他施設との連携を新たに加え、協力・援助型の図書館論を補強している。2012年の基準では、「域内の図書館」と援助の対象を広げているが、基本は変わっていない。

 

6.2. 「任務と目標」等における論

 日本図書館協会による政策文書「公立図書館の任務と目標」(以下、「任務と目標」)(63)は当初「望ましい基準」が告示されない中で、基準に代わるものとして作成されたものである。

 「任務と目標」中ではその役割について、「53 都道府県立図書館(以下「県立図書館」という)は、市町村立図書館と同様に住民に直接サービスするとともに、市町村立図書館の求めに応じてそのサービスを支援する。大多数の住民にとって、身近にあって利用しやすいのは市町村立図書館である。したがって県立図書館は市町村立図書館への援助を第一義的な機能と受けとめるべきである。県立図書館であるということを理由に、全く個人貸出を行わないとか、児童サービスを実施しないということがあってはならない」(64)と、協力・援助型の論を述べている。第5章では都道府県の図書館振興策について触れ、域内市区町村の図書館を振興するのは都道府県の責務であること、都道府県立図書館は都道府県の図書館振興策の一翼を担うべきことを述べ、都道府県の図書館行政における都道府県立図書館の役割を明らかにしている(65)。

 1995年に刊行された実践事例集(66)では、「第1章 県立図書館の在り方」で「県立図書館は、市町村立図書館への支援を通してのみ、設置の趣旨に適うサービスを提供することができるのである」(p. 6)と市区町村立図書館への援助を第一義的な機能とする立場を明確にしている。

 2006年に報告された「これからの図書館像」では、「4.(1)都道府県の役割」の中で簡潔に「都道府県立図書館は、調査・研究機能を活用して、市町村立図書館や地域の大学と連携協力し、図書館の新しいサービスやサービスの評価方法の調査・研究開発に努めることが求められる。また、市町村立図書館への支援や、公立図書館間や館種の異なる図書館間での連携の中心となること、域内の図書館職員への研修プログラムの開発・実施等に努めることが求められる」(67)と述べるのみである。市町村立図書館支援に言及しつつ連携協力や調査・研究が前面に出ている点、これまでの政策文書とは異なるものになっている。

 

7. 新たな時代の都道府県立図書館論

 これまで見てきたように、文献や政策文書においては、市区町村立図書館振興を最重要の使命としつつ、直接サービスも実施するという協力・援助型の論が主流で、分担論や調査研究図書館論は批判の対象とされてきた。一方、現実の都道府県立図書館では予算の削減が進行し、また、協力・援助型の図書館像とは異なる図書館を作ろうとする試みが生まれてきており、協力・援助型の論との齟齬が目立つようになってきた。

 この齟齬に対し、現実に起こっていることの方を、望ましい都道府県立図書館像からの逸脱ととらえるのは一つの考え方である(68)(69)。しかし、これを機会に、その役割と機能を根本から考え直そうとする論考も登場している。さらに、新たな発想に立った図書館サービスの実現をめざす館も現われてきた。ここでは、こうした新たな論のいくつかを取り上げる。

 2006年の『現代の図書館』の都道府県立図書館特集では、実践報告(70)(71)(72)と共に新(73)と渡邉(74)が注目すべき論を展開している。

 新は都道府県立図書館論の軸として、①直接サービス/間接サービスと、②機能分担論/全面的サービス論との二つの軸を設定する。ここで①は利用者に対する直接的なサービスか市区町村立図書館を通じた間接的なサービスかという軸であり、②は市区町村立図書館との機能分担を行うのかどうかという軸である。そして都立図書館再編問題を例に、間接サービスを縮小し、分担論に基づく高度・専門的な直接サービスへと運営方針が転換したと分析する。さらに、市区町村立図書館が発展する中で、都道府県立図書館の相対的優位性は失われつつあるため、直接サービスの発展は難しいとして、間接サービスの展開と、さらに従来の間接サービスの中心であった資料面でのサービスに加えて、発展への支援として、コンサルティング等の支援事業を実施する可能性を論じている。

 一方、渡邉は支援論が公共図書館界で定説化していることに疑問を呈する。市区町村立図書館の充実や都道府県の財政難の中で、市区町村立図書館支援が都道府県立図書館の最も重要な役割とは言い切れなくなっていることを指摘し、その具体例として、インターネットを通じて道民への直接サービスをはじめた北海道立図書館と、調査研究図書館サービスと行政支援を中核的機能として掲げた東京都立図書館をあげている。

 新(75)は両者の議論を比較して、都道府県立図書館と市区町村立図書館の機能には冗長性や二重性が存在するとする認識は共通するものの、渡邉は蔵書と協力貸出にそれを見出し、新は直接サービスに見出している点が異なっていると指摘している。

 2011年には加藤和秀(76)が都道府県立図書館不要論の可能性を論じている。加藤は都道府県立図書館が現在に至るまで、市区町村立図書館支援をうたいながら実際には市立図書館兼都道府県立図書館という中途半端な存在であるとする。さらに、児童サービス不要論とその論拠を検討した後に、同じ議論が都道府県立図書館不要論でも可能だとして、そうした存否を問う地点からこそ都道府県立図書館の役割を論ずべきだとする。

 都道府県立図書館不要論は以前から存在する。藤井は1975年に、すでに、「図書館は直接市町村の住民にサービスを行なう機関であって、県のような中間的行政機関が行なうものではない」(77)という不要論を紹介している。藤井(78)は兵庫県について、県立図書館がないために、県政に図書館政策が位置づけられていないとして、協力・援助型の県立図書館像が提案されていることを紹介している。菅原峻(79)の論考は、市区町村立図書館のために存在しないような都道府県立図書館は不要との論である。

 渡邉はその後もさらに持論を展開している。2014年の記事(80)では、都道府県立図書館の機能に関して、①二重行政批判にどのように応答するか②県政へのコミットメントをどうとらえるか③ガバナビリティの向上をいかに図るか④「文献提供」という機能をどうとらえるか、という4つの論点を提示している。また、2015年の第101回全国図書館大会の第1分科会で行った基調講演(81)では、地方自治法に基づいて都道府県立図書館が担いうる機能として補完、連絡調整、広域の三機能をあげ、都道府県立図書館の諸事業の制度的位置づけを3つの機能に照らして検討している。

 都道府県立図書館の法的・制度的検討の必要性は、すでに薬袋が述べていたが、都道府県立図書館の法的基盤を論じたものはほかには浅見勝也(82)がある。山代が地方自治法に基づき市区町村立図書館への援助に疑義を呈したことは3.2.で述べた。安藤哲也(83)は近年の地方分権改革の中で、都道府県と市区町村間の単純な二元論の時代が終わったことを述べている。

 

(1) 田村俊作. 特集, がんばれ!都道府県立図書館: 都道府県立図書館論の動向. 図書館雑誌. 2014, 108(6), p. 405-407.

(2) 新出. Ⅱ. 館種別状況, 公共図書館: 図書館協力とネットワーク, 県立図書館を中心に. 図書館界. 2010, 61(5), p. 334-345.

(3) 例えば,森耕一編. 図書館法を読む. 日本図書館協会, 1990, 277p.

(4) 西崎恵. 図書館法. 日本図書館協会, 1970, p. 73-74.

(5) 日本図書館協会図書館政策企画委員会. 都道府県立図書館への無償提供を求める政府刊行資料に関するアンケート調査の結果について〈報告〉. 現代の図書館.2011,49(3),p. 201-207.

(6) 薬袋秀樹. 戦後県立図書館論の系譜. 図書館評論. 1984, (25), p. 59-68; 1985, (26), p. 16-31; 1986, (27), p. 67-84.

(7) 中小都市における公共図書館の運営. 日本図書館協会, 1963, 217p.

(8) 薬袋. 前掲, 1984, (25), p. 60.

(9) 前掲. p. 66-67.

(10) 前川恒雄. “Ⅶ, のりこえるべき問題: 4, 岐路にたつ県立図書館”. われらの図書館. 筑摩書房, 1987, p. 227-229.

(11) 前川恒雄. “第三章. 都道府県立図書館について”. 図書館で何をすべきか. 図書館問題研究会大阪支部, 1981, p. 93-108.

(12)前川恒雄. “県立図書館序論”. 転換期における図書館の課題と歴史. 石井敦先生古稀記念論集刊行会編. 緑蔭書房, 1995, p. 3-15.

(13) 市民の図書館. 日本図書館協会, 1970, 151p.

(14) 山代義雄. 府県立図書館の地方自治制度上の位置づけ. 大阪府立図書館紀要. 1990, (26), p. 2-7.

(15) 脇谷直博. 地方自治法上に府県立図書館の位置づけを. 大阪府立図書館紀要. 1991, (27), p. 10-18.

(16) 脇谷直博. 大阪府立図書館紀要誌上における, 府県立図書館の在り方をめぐるやり取りと, 府県立図書館職員論(らしきもの). みんなの図書館. 1991, (171), p. 50-57.

(17) 前川恒雄. “Ⅶ, のりこえるべき問題: 4, 岐路にたつ県立図書館”. われらの図書館. 筑摩書房, 1987, p. 225-227.

(18) 藤井千年ほか. パネル・ディスカッション, 府県立図書館への期待. 図書館界. 1975, 26(5/6), p. 141.

(19) 新潟県立図書館整備構想. 新潟県教育委員会, 1987, 28p.

(20) 小谷恵子. 府県立図書館に児童奉仕はいらないのか?: 情報図書館, 新潟県の場合・大阪府の場合. みんなの図書館. 1989, (146), p. 82-86.

(21) 図書館問題研究会岡山支部編. だれのための県立図書館?: 「こりゃあいけん」で始まった岡山県立図書館運動奮戦記. 別冊みんなの図書館. 1991, (1), p. 10.

(22) 田村俊作ほか. 特集, 関西館構想: 3-1, 全国図書館ビジョン調査. 図書館研究シリーズ. 1993, (30), p. 134-260.

(23) 田村俊作ほか. 転換期を迎える県立図書館 その4: 都道府県の図書館構想と県立図書館. 図書館雑誌. 1990, 84(6), p. 366-368.

(24) 薬袋秀樹. 「第二線図書館」概念の形成: 有山崧の所説を中心に. 図書館学会年報. 1986, 32(4), p. 145-158.

(25) 有山崧. 図書館は生きている. 教育と社会. 1950, 5(1), p. 48-51.

なお、有山崧著作集 第l巻. 日本図書館協会, 1970, p. 77-82. に再録されている。

(26) 梅澤幸平. 都道府県立図書館の役割ってなんだろう: 現場で模索した県立図書館像. ず・ぼん. 2014, (19), p. 154-164.

(27) 永末十四雄. “第5章, 道府県立図書館と町村図書館”. 日本公共図書館の形成. 日本図書館協会, 1984, p. 197-265.

(28) 新出. 特集, 地方自治制度の変貌と都道府県立図書館: 県立図書館の「第一義的機能」. 現代の図書館. 2006, 44(4), p. 203-204.

(29) 前田章夫. 特集, 県立図書館よ めざめよ!!: 「日本の図書館」からみた県立図書館の20年. みんなの図書館. 1986, (109), p. 2-9.

(30) 長谷川光児ほか. 特集, 県立図書館はいずこへ: 県立図書館三題噺. みんなの図書館. 1989, (141), p. 2-6.

(31) 山本哲生. 特集, 県立という名の図書館: 県立図書館に期待したいこと. みんなの図書館. 1995, (214), p. 3-7.

(32) 山本哲生. 特集, 「変革期」に立ち向かう図書館: 県立図書館にもとめられるもの. 図書館界. 1995, 47(3), p. 140-146.

(33) みんなの図書館関西編集部. 特集, 県立図書館は, 今: 特集にあたって: 都道府県立図書館調査のまとめと最近の動き. みんなの図書館. 1996, (232), p. 1-3.

(34) 図書館問題研究会兵庫支部編. 都道府県立図書館調査 兵庫県立図書館篇. 図書館問題研究会兵庫支部, 1994, 53p.

(35) 奈良県立図書館整備基本構想. 奈良県教育委員会, 1995, 82p.

(36) 大串夏身. 特集, 県立図書館よ めざめよ!!: 県立図書館の新時代へ向けて: 長期計画の中の県立図書館の検討を通じて. みんなの図書館. 1986, (109), p. 37-41, 48.

なお、大串夏身.図書館経営・サービスをめぐる諸問題: 379市区町村の事例を中心に. 青弓社, 1987, p. 217-225. に再録されている。

(37) 図書館振興対策プロジェクトチーム. 図書館政策の課題と対策. 1970, 67p.

(38) 滋賀県図書館振興対策委員会. 図書館振興に関する提言. 1980, 72p.

(39) 前田. 前掲.

(40) 長谷川周. 転換期を迎える県立図書館 その3: 都道府県立図書館の24年を追う: 「日本の図書館」統計にみるその動向. 図書館雑誌. 1990, 84(4), p. 207-209.

  ただし,長谷川は1980年代の都道府県立図書館を停滞とみている。

(41) 松岡要. 特集, 県立という名の図書館: データ紹介: 少ない職員がさらに減っている; 県立図書館職員の実態. みんなの図書館. 1995, (214), p. 23-28.

(42) 松岡要. 特集, 県立図書館は, 今: データでみる県立図書館の十年. みんなの図書館. 1996, (232), p. 4-9.

(43) 図書館雑誌編集委員会. 特集, 都道府県立図書館のこれから: 特集にあたって. 図書館雑誌. 2009, 103(10), p. 684-685.

(44) 東京都知事本局.“事務事業名: 東京都立図書館の運営 (中央図書館、日比谷図書館、多摩図書館)”.13年度の行政評価結果(政策評価・事務事業評価).
本文書はInternet Archiveで閲覧可能である。
https://web.archive.org/web/20041103152452/http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/hyokahp/h13/h13PDF/28.pdf [186], (参照 2016-02-20).

(45) 今後の都立図書館のあり方. 都立図書館あり方検討委員会, 2002, 25p.

(46) 田村俊作. “都立図書館の成功と失敗”. 都立図書館は進化する有機体である. ライブラリーマネジメント研究会編著. ひつじ書房, 2003, p. 104-109.

(47) 新図書館(高知県立図書館,高知市民図書館本館)基本構想. 高知市教育委員会, 2011, p. 9, 11.
https://www.city.kochi.kochi.jp/uploaded/life/45032_pdf1.pdf [187], (参照 2016-02-23).

(48) 長崎県教育委員会ほか. 「県立・大村市一体型図書館及び郷土資料センター」(仮称)整備基本計画(抄). 図書館年鑑 2014. 日本図書館協会, 2014, p. 422-431.

(49) 図書館問題研究会長崎支部. 特集, 進化する県立図書館(期待をこめて): 長崎県立図書館の存続問題, その経過と今後. みんなの図書館. 2001, (285), p. 7-11.

(50) 神奈川県緊急財政対策本部. 神奈川県緊急財政対策. 2012, 36p.
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/703670_1766336_misc.pdf [188], (参照 2016-02-20).

(51) 神奈川県緊急財政対策本部. 県民利用施設の検討の方向性に関する説明資料.
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/703670_1766335_misc.pdf [189], (参照 2016-02-20).

(52) 神奈川県緊急財政対策本部. 緊急財政対策の取組結果. 2014, p. 26.
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/703670_2066413_misc.pdf [190], (参照 2016-02-20).

(53) 神奈川県緊急財政対策本部. 県民利用施設の検討の方向性に関する説明資料.
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/703670_1766335_misc.pdf [189], (参照 2016-02-20).

(54) 米谷優子ほか. 大阪府立図書館への市場化テスト適用の過程と課題. 大阪市立大学学術情報総合センター 情報学. 2012, 9(1), p. 86-108.

(55) “第18回大阪版市場化テスト監理委員会 審議概要”. p. 5.
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/3231/00008135/211002%20singigaiyou.pdf [191], (参照 2016-01-31).

(56) 古本おもしろがりずむ: 一名・書物蔵. 2009-09-16; 2009-09-17.
同サイトは現在プライベートモードに設定されているが、当該記事はInternet Archiveで閲覧可能である。
https://web.archive.org/web/20090924021026/http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20090916/p2 [192],
https://web.archive.org/web/20090925215919/http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20090917/p1 [193], (参照 2016-02-20)

(57) 渡邉斉志. 特集, 地方自治制度の変貌と都道府県立図書館: 投稿 都道府県立図書館の機能に関する言説の批判的分析. 現代の図書館. 2006, 44(4), p. 214-226.

(58) “図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)について”. 文部科学省生涯学習政策局社会教育課, 2012, 76p.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/001/__icsFiles/afieldfile/2013/01/31/1330295.pdf [194], (参照 2016-02-23).

(59) “公立図書館の設置および運営に関する望ましい基準: 基準案-1”. 図書館用語辞典. 図書館問題研究会編. 角川書店, 1982, p. 702-703.

(60) “公立図書館の設置および運営に関する望ましい基準: 基準案-2”. 図書館用語辞典. 図書館問題研究会編. 角川書店, 1982, p. 703-705.

(61) “生涯学習審議会社会教育分科審議会施設部会図書館専門委員会の「公立図書館の設置及び運営に関する基準について(報告)」の送付について”.
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19920617001/t19920617001.html [195], (参照 2016-02-23).

(62) 公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/009.htm [196], (参照 2016-02-23).

(63) 日本図書館協会図書館政策特別委員会編. 公立図書館の任務と目標解説. 日本図書館協会, 1989, 69p.

(64) 前掲. p. 41.

(65) 前掲. p. 57-65.

(66) 文部省. 県立図書館の役割と実践: 都道府県立図書館の実践事例集. 第一法規出版, 1995, 157p.

(67) これからの図書館の在り方検討協力者会議. これからの図書館像. 2006, p. 34.
本報告書は、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)で閲覧可能である。
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(68) 脇谷邦子. 特集, 岐路に立つ県立図書館: 中之島図書館から, 都道府県立図書館のあり方を考える. みんなの図書館. 2013, (430), p. 4-9.

(69) 梅澤. 前掲.

(70) 丸地真人. 特集, 地方自治制度の変貌と都道府県立図書館: 県立図書館の「実力」向上が必要: 専門知識を生かす「4要素」の強化. 現代の図書館. 2006, 44(4), p. 176-183.

(71) 小林隆志. 特集, 地方自治制度の変貌と都道府県立図書館: 地域住民に必要とされる図書館になるために: 鳥取県立図書館のミッション「人づくり」の実現に向けて. 現代の図

書館. 2006, 44(4), p. 184-189.

(72) 中島正明ほか. 特集, 地方自治制度の変貌と都道府県立図書館: 市町村合併が公共図書館サービスに及ぼす影響に関する検討: 広島県の事例. 現代の図書館. 2006, 44(4), p. 190-201.

(73) 新出. 特集, 地方自治制度の変貌と都道府県立図書館: 県立図書館の「第一義的機能」. 現代の図書館. 2006, 44(4).

(74) 渡邉.前掲.

(75) 新出. Ⅱ. 館種別状況, 公共図書館: 図書館協力とネットワーク, 県立図書館を中心に. 図書館界. 2010, 61(5), p. 338-339.

(76) 加藤和英. 県立図書館の存在意義を問い直す: 「県立図書館不要論」必要論. 現代の図書館. 2011, 49(1), p. 72-79.

(77) 藤井ほか. 前掲. p. 141.

(78) 前掲. p. 141-142.

(79) 菅原峻. 県立図書館はいらない. としょかん村. 2011, (7), p. 34-37; (8), p. 28-31; (9), p. 36-38.

(80) 渡邉斉志. 特集, がんばれ! 都道府県立図書館: 県立図書館の機能に関する論点の整理. 図書館雑誌. 2014, 108(6), p. 408-410.

(81) 渡邉斉志. “第1分科会 公共図書館 基調講演 都道府県立図書館の機能についての議論の論点整理”. 第101回全国図書館大会記録. 東京, 第101回全国図書館大会組織委員会, 2016, p.43-46.

(82) 浅見勝也. 府県立図書館法制序説. 大阪府立中之島図書館紀要. 1981, (17), p. 2-24.

(83) 安藤哲也. 個性的で元気な図書館へ: これからの県立図書館が向かう方向,図書館雑誌. 2012, 106(5), p. 299-301.

 

[受理:2016-02-25]

 


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Tamura Shunsaku
Review of Literature on Foundations and Services of Prefectural Libraries

This article reviews literature on prefectural libraries in Japan. It covers not only research articles investigating institutional foundations, roles and functions, and historical development but also publications explaining the policies and services of individual libraries, or expressing the philosophy of prefectural libraries. Prefectural libraries used to be major public libraries when city, town and village libraries were underdeveloped. As they have developed and became the main libraries, issues relating to the roles and functions of prefectural libraries have arisen originating from the intermediate nature of prefectures. The dominant answer to the issues is to define them as libraries serving city, town and village libraries. However, under the continual pressure of declining budgets, arguments have arisen criticizing the dominant definition and proposing alternatives based upon the roles of prefectures.

  • 参照(14423)
カレントアウェアネス [3]
研究文献レビュー [200]
図書館政策 [201]
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