米国図書館協会(ALA)は2006年4月3日,年次刊行物としては初めて,米国の図書館の現状を概括する報告書を発表した。2005年末にAmerican Libraries誌が選んだ「10大ニュース」(E439 [1]参照)と多くが重なっているが,米国の図書館界が直面している問題を端的に知ることができる。
報告書では,米国の図書館がいかに社会に貢献しているかが繰り返し強調されている。2005年8月のハリケーン「カトリーナ」(E369 [2],E396 [3]参照)や後続の「リタ」が襲来した際に,図書館は避難場所,救援物資の集積場,そして安否情報・生活情報の提供施設として十二分に機能した。またALAは,全国から30万ドル(約3,500万円)を越える募金や,サービス提供のためのブックモービルを集めたほか,2006年の年次大会を予定どおりニューオーリンズで開催することをいち早く発表し,雇用と税収を生み出すことによるコミュニティ復興支援を行うとした。また,子どもに見せたくない資料を遠ざける運動(E342 [4]参照)に対する抗議や,愛国者法における図書館条項の修正(E462 [5]参照)など,読書の自由や利用者のプライバシーを守るための活動も精力的に行った。
その一方で,予算の削減による図書館の閉鎖危機(E370 [6]参照),図書館員および司書養成課程教員の高齢化(CA1583 [7]参照),雑誌などの集合的著作物を遡及してデジタル化する際に著作権許諾を必要とするか否かに関する法廷論争,学校図書館・司書を教室・教員として位置づけるか否かに関する論争など,課題の多い状況も紹介している。
報告書は最後に,Googleの時代においても米国の図書館・図書館員は時代遅れの存在ではなく,コミュニティセンター,また情報提供者や情報アドバイザーとして,欠くことのできない役割を果たし続けていく,と締めくくっている。
Ref:
http://www.ala.org/ala/pressreleases2006/march2006/stateoflibraries.htm [8]
http://www.libraryjournal.com/article/CA6322516.html [9]
E342 [4]
E369 [2]
E370 [6]
E396 [3]
E439 [1]
E462 [5]
CA1583 [7]
学術論文の検索,閲覧が簡単にできるGoogle Scholar(E273 [14]参照)をはじめ,Googleは次々に新サービスを打ち出しているが,米国マイクロソフト社も,これらGoogleによるサービスに対抗しうる新たな検索サービスを開始すると発表した。RSS(CA1565 [15]参照)やAjax(Asynchronous Javascript and XML)といったWeb2.0的技術を採用したインターネットサービスで,3月から試験公開されている“Windows Live Search”の新メニュー“Windows Live Academic Search”である。
Windows Live Academic Searchは,2006年4月11日から米国,英国,ドイツ,イタリア,スペイン,オーストラリアおよび日本の7か国でベータ版の利用が可能になった。学術雑誌等に掲載された論文をキーワードから検索するもので,一般に公開されている論文には全文へのリンクも張られている。検索結果の一覧には著者名や論文の要旨といった詳細情報が示され,同じ著者が執筆したほかの論文も見ることができる,概要が容易に把握できる(Google Scholarの検索結果一覧は,検索語が出現する箇所の周辺2〜3行のみを表示)などの機能も有している。このほか,文献を引用する際に活用できるよう,BibTex,Endnote形式による書誌事項フォーマットも用意されている。
なお,マイクロソフト社はこのほか,Googleの“Froogle”(注)と似たサービスである“Windows Live Product Search”や,画像検索サービスなどの提供も予定している。
(注)オンラインショッピングサイトで取り扱われている商品の情報やサイト別の価格比較など,オンラインショッピングの際に参考となりうる情報を紹介するサービス。
Ref:
http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/apr06/04-11WLAcademicSearchPR.mspx [16]
http://www.itworld.com/App/255/060407mssearch/pfindex.html [17]
http://weblogs.elearning.ubc.ca/googlescholar/archives/025077.html [18]
http://www.liveside.net/comments.php?catid=2&shownews=144 [19]
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/03/08/11155.html [20]
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2006/04/13/100.html [21]
CA1565 [15]
E279 [14]
英ガーディアン紙によると英国図書館(BL)はこのほど,2001年以降の紛失・盗難資料の概要を,2005年1月に施行された情報公開法(Freedom of Information Act ; E289 [24]参照)に基づく情報公開請求に応じて公表した。
盗難資料は金額にして10万ポンド(約2,080万円)に及ぶ。この中には,サッカーチーム,マンチェスター・シティーに関する1905年以降の試合のプログラム,レッド・ツェッペリンのCDやローリング・ストーンズのレコード,貴重な古地図や,古い本の挿絵が含まれる。特にプロの窃盗犯は,貴重書の挿絵や古地図を標的に選んでおり,鋭利な刃物を館内に持ち込み,切り取って盗み出すので,甚大な被害が発生しているという。
排架間違いなどの紛失資料は2,216点で,全蔵書の0.0015パーセントに相当する。この中にはシェークスピアの戯曲も4点含まれている。またこの統計とは別に,多数の未返却資料が存在するが,罰金の支払いを示唆した督促状を送付すると,大半は返却されるということである。
BLの広報担当者によると,入館には事前申請が必要で,調査概要と居住地を証明する書類を提出させているという。しかも入館後はカメラによる監視下に置かれ,指定されたプラスティック・バッグに携行物を入れなければならない。さらに貴重書は監視のもとでしか閲覧が許されず,一部は原本ではなくファクシミリ版でのみ閲覧を認めるなど,盗難や紛失への対応策はとられているという。だがすべての本にセキュリティ・タグをつけるなどの対策は,時間とコストがあまりにかかり過ぎるために考えられない,としている
Ref:
http://books.guardian.co.uk/comment/story/0,,1746542,00.html [25]
E289 [24]
韓国では,ソウル大学を中心にして結成された学位論文全文共同利用協議会が,加入している全国158大学の学位論文全文データベースを構築し,2004年6月からインターネットで無料提供していた。ところが,このサービスに対し,著作権信託管理団体である複写伝送権管理センターからクレームがつき,同協議会や各大学がサービスを縮小する事態になっている。
韓国の著作権法第28条では,補償金を徴収することによって,著作権者の許諾を受けずに図書館でデジタル資料を出力したり,図書館から他の図書館にデジタル資料を送信したりすることができると定められている。国立中央図書館や国会図書館は,この通称「図書館補償金制度」のもと,販売資料は1ページ当たり5ウォン,非売資料は3ウォン(それぞれ約0.5円,0.4円)の補償金を利用者に負担してもらって,デジタル資料の印刷サービスを提供している。またこのサービスは館内の特定PCからのみ利用可能,と限定されている。
これに対し同協議会やソウル大学は,「図書館補償金制度施行(2004年)以前の論文は補償金の対象ではない」として,利用許諾を受けていない学位論文に対しても,補償金を取ることなくインターネットから無料で利用できるようにしていた。2006年2月,この見解に異を唱える複写伝送権管理センターが著作権法違反で両者を訴えた結果,両者は3月から,5千万ウォン〜8千万ウォン(約600万〜1千万円)かかるデジタル著作権管理(DRM)装置の導入,利用許諾を受けていない論文の学外への提供停止といった措置を余儀なくされている。
Ref:
http://www.segye.com/Service5/ShellView.asp?TreeID=1052&DataID=200604031542000152 [29]
http://www.cnbnews.com/category/read.html?bcode=6425 [30]
http://www.copycle.or.kr/library/lib.asp [31]
http://thesis.or.kr/content.jsp?content=board_view.jsp?tableName=board_notice&userGubun=user&num=118 [32]
http://library.snu.ac.kr/freeboard/boardNoticeView.jsp?tablename=board_notice&num=368 [33]
http://library.snu.ac.kr/freeboard/boardNoticeView.jsp?tablename=board_notice&num=371 [34]
失踪・虐待児童のための国際センター(International Center for Missing & Exploited Children" : ICMEC)と国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)は,Interpolに加盟する184の国・地域を対象に,児童ポルノに対する立法状況についての共同調査をおこない,その報告書(Child Pornography:Model Legislation & Global Review 2006)を公表した。
この報告書によると,ICMECは立法状況を審査するにあたり以下の5つの基準を設けたという。
これらの基準をすべて満たしているのは米国,フランス,オーストラリアなど5ヶ国に過ぎず,ISPに関する基準以外の残り4つを満たし,「実質的に満たしている」とされているのも22の国・地域だけであるという。
逆に児童ポルノに関する明確な規定が全く存在しない国・地域は95に上り,うち児童ポルノに関する法律上の定義が存在しない国・地域が54,コンピュータを利用した児童ポルノに刑罰を科していない国・地域が27,配布を目的としない児童ポルノの所持を犯罪としていない国・地域が41,それぞれ存在すると報告書は伝えている。
報告書では最後に,このような現状を踏まえて,児童ポルノの(1)定義付け, (2)違反, (3)通報義務, (4)制裁や処罰,をふまえた立法モデルを提示している。
Ref:
http://www.icmec.org/en_X1/pdf/ModelLegislationFINAL.pdf [38]
カナダ国立図書館・文書館(Library and Archives Canada:LAC)はこのほど,2月1日付でLAC運営委員会の承認を得た「デジタル・コレクション構築方針」(Digital Collection Development Policy)を発表した。この方針は,2004年制定のカナダ図書館・文書館法(E226 [40]参照)に定められている収集対象のうち,ウェブサイトなどデジタル形式の資料の収集・保存を主眼としている。
近年,カナダにおいても最初から電子形式で発行される(ボーンデジタル)資料や,従来印刷体形式で出版された資料を電子化したものが増加している。このため,従来の媒体だけでなく電子資料も収集・保存することが必要であると認識されており,電子資料はLACの重点収集分野(注)にも加えられている。「デジタル・コレクション構築方針」に基づいてLACが収集する資料は,電子出版物(オンラインで入手できるもの,CD-ROMなどの記録媒体に保存されたものを問わず),LACが印刷体で所蔵している資料をデジタル形式で複製したもの,ウェブサイトなどを対象としている。ウェブサイトについては収集対象のガイドラインが定められているが,その他の媒体のガイドラインは作成中のようである。
(注)「蔵書構築の枠組み:主な方向性2005-2010」(Collection Development Framework: Key Directions, 2005-2010)では,特に重点的に収集する分野として電子資料,原住民関係資料など5分野を設定している。
Ref:
http://www.collectionscanada.ca/collection/003-200-e.html [41]
http://www.collectionscanada.ca/collection/024/003024-204-e.html [42]
E226 [43]
これからの図書館の在り方検討協力者会議. [文部科学省]. これからの図書館像−地域を支える情報拠点をめざして−. 2006. 34p. (オンライン), 入手先< http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm [47] >, (参照2006-04-24).
文部科学省は2005年4月,今日の図書館の現状や課題を把握・分析し,生涯学習社会における図書館の在り方について調査・検討を行うため,図書館関係者や有識者による「これからの図書館の在り方検討協力者会議」を設置した。この協力者会議による調査・検討の成果報告書が取りまとめられ,2006年4月に公開された。
報告書はまず,地方公共団体,図書館職員,地域住民,各種団体・機関への「よびかけ」から始まる。図書館は地域の発展を支える情報拠点であり,地域の課題解決を支援する役割を積極的に担っていく存在であるとして,よりいっそうの図書館利用と,図書館への支援・協力をよびかけている。地域住民だけでなく,議会・行政・学校などの機関に対しても働きかけを行う必要があると繰り返し強調している点が,本報告書の特徴のひとつである。
第2章では,これからの図書館の在り方についての提案がなされている。レファレンスサービスの充実や資料・情報の効果的な提供による地域の課題解決支援,電子媒体や雑誌,新聞,音楽映像資料といった多様な資料の提供,学校との連携・協力や児童・青少年サービスの充実,図書館間協力や他の機関との連携・協力の推進などが提案されている。またこれからの図書館経営に必要な視点として,経営資源の見直しや評価,広報,図書館職員の教育・研修など,管理運営方法についても,どのように改善すべきかが示されている。さらに,このような図書館の新しいサービスや運営に際し,都道府県,国,国立国会図書館が果たすべき役割についても述べられている。
なお,この第2章では,ビジネス支援,ハイブリッド図書館,行政支援など,これからの図書館サービスとして位置づけられている各サービスや望ましい経営について,9つの先進的事例を紹介している。また,同じく文部科学省の委託により,この報告書に即した形で実践事例を調査した『これからの図書館像−実践事例集−』でも,23の事例が紹介されている。
報告書ではまた,図書館が未整備の町村がまだ多い,資料購入費が削減される傾向にある,図書館業務のオンライン化は十分に進んでいない,運営形態が多様化しているなど,公共図書館をめぐる状況も分析している。このような状況の中,図書館がどのように対応していくべきかを示す指針として,これらの報告書や各事例集の持つ意義は非常に大きいと考えられる。
Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06040513.htm [48]
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06040715.htm [49]
リンク
[1] http://current.ndl.go.jp/e439
[2] http://current.ndl.go.jp/e369
[3] http://current.ndl.go.jp/e396
[4] http://current.ndl.go.jp/e342
[5] http://current.ndl.go.jp/e462
[6] http://current.ndl.go.jp/e370
[7] http://current.ndl.go.jp/ca1583
[8] http://www.ala.org/ala/pressreleases2006/march2006/stateoflibraries.htm
[9] http://www.libraryjournal.com/article/CA6322516.html
[10] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[11] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/66
[12] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/31
[13] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/133
[14] http://current.ndl.go.jp/e273
[15] http://current.ndl.go.jp/ca1565
[16] http://www.microsoft.com/presspass/press/2006/apr06/04-11WLAcademicSearchPR.mspx
[17] http://www.itworld.com/App/255/060407mssearch/pfindex.html
[18] http://weblogs.elearning.ubc.ca/googlescholar/archives/025077.html
[19] http://www.liveside.net/comments.php?catid=2&shownews=144
[20] http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/03/08/11155.html
[21] http://pcweb.mycom.co.jp/news/2006/04/13/100.html
[22] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/91
[23] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/83
[24] http://current.ndl.go.jp/e289
[25] http://books.guardian.co.uk/comment/story/0,,1746542,00.html
[26] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/32
[27] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/34
[28] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/135
[29] http://www.segye.com/Service5/ShellView.asp?TreeID=1052&DataID=200604031542000152
[30] http://www.cnbnews.com/category/read.html?bcode=6425
[31] http://www.copycle.or.kr/library/lib.asp
[32] http://thesis.or.kr/content.jsp?content=board_view.jsp?tableName=board_notice&userGubun=user&num=118
[33] http://library.snu.ac.kr/freeboard/boardNoticeView.jsp?tablename=board_notice&num=368
[34] http://library.snu.ac.kr/freeboard/boardNoticeView.jsp?tablename=board_notice&num=371
[35] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/105
[36] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/116
[37] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/33
[38] http://www.icmec.org/en_X1/pdf/ModelLegislationFINAL.pdf
[39] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/90
[40] http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.pho?itemid=232
[41] http://www.collectionscanada.ca/collection/003-200-e.html
[42] http://www.collectionscanada.ca/collection/024/003024-204-e.html
[43] http://current.ndl.go.jp/e226
[44] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/131
[45] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/16
[46] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/145
[47] http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm
[48] http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06040513.htm
[49] http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06040715.htm
[50] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/156
[51] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29
[52] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/35