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図書館調査研究リポート

  • 参照(356926)

ISSN 冊子版:1348-6780 / オンライン版:1348-7442  『図書館調査研究リポート』は、図書館界や図書館情報学に関して国立国会図書館が実施した調査研究の成果をご報告するものです。  各号とも、以下のリンクから全文をHTML形式またはPDF形式でご覧いただけます。


正誤情報 [1]

No.18 地域の拠点形成を意図した図書館の施設と機能

  • 参照(18273)

 本調査研究では、「地域の拠点形成を意図した図書館の施設と機能」をテーマとして取り上げました。

 近年、まちづくりや地域コミュニティの形成・再生等を目的の一つとして、図書館が新設・更新されることが多く、これらの図書館は、多くの人を集める魅力的な存在として注目されています。本調査研究では、それぞれに特色を有する公立図書館5 館を取り上げ、その施設が地域の拠点として実際にどのように機能しているかを調査分析しました。

 具体的には、気仙沼図書館(宮城県)、大和市立図書館(神奈川県)、田原市中央図書館(愛知県)、瀬戸内市民図書館(岡山県)、伊万里市民図書館(佐賀県)を対象館とした事例調査と、図書館施設についての文献調査を実施しました。事例調査では、実地調査や関係者へのインタビュー等により、施設面の特徴や、その施設が地域の拠点形成の面でどのように機能しているかを分析しました。文献調査では、建築分野における図書館研究の動向、図書館建築に関する先行研究、近年新築又は改築を行った国内公共図書館の情報等を整理しました。

 この調査研究の報告書が、今後図書館の新設・更新を予定している地方公共団体や図書館等における検討に資するとともに、図書館が展開する多様なサービスを支える「器」である図書館施設への知見を深める一助となることを願っています。

リポート(全文、PDF)の閲覧は、国立国会図書館デジタルコレクションの掲載ページ [2]へ

※EPUB形式の電子書籍でもご利用いただけます。
epubファイル(29.7MB, 163ページ) [3]

【目次】

本調査研究の概要
Research Study Outline

第1章 地域の拠点としての図書館施設
1.1 本調査研究の背景と目的
1.2 欧米における公共図書館とその建築の動向
1.3 日本の公立図書館の建築を取り巻く環境の変化
1.4 求められる図書館と図書館施設

第2章 事例調査
2.1 調査対象館選定の考え方
2.2 気仙沼図書館(気仙沼図書館・気仙沼児童センター)
2.3 大和市立図書館(大和市文化創造拠点シリウス)
2.4 田原市中央図書館
2.5 瀬戸内市民図書館
2.6 伊万里市民図書館

第3章 調査のまとめ―地域の拠点となる図書館施設をつくる
3.1 五つの図書館の特徴と共通点
3.2 図書館施設を整備する際のポイント
3.3 おわりに

付録資料1-1 建築分野における図書館研究の動向
付録資料1-2 図書館建築に関する文献リスト
付録資料2 2010年以降に新築または改築を行った公共図書館のリスト
付録資料3 日本図書館協会建築賞受賞館の顕彰ポイント

図書館調査研究リポート [4]
図書館政策 [5]
図書館建築 [6]
図書館サービス [7]
地域 [8]
日本 [9]
北欧 [10]
公共図書館 [11]
公立図書館 [12]

No.17 公共図書館における障害者サービスに関する調査研究

  • 参照(26203)

本調査研究では、「公共図書館における障害者サービス」をテーマとして取り上げました。

平成29年度に、国内の全公共図書館を対象として、障害者サービスの実施状況に関する質問紙調査を実施しました。1,397館に質問紙を送付し、その82.5%に当たる1,152館から回答を得ることができました。

調査結果の分析では、全14章からなる報告書を作成しました。 当館では、平成22年度にも全国の公共図書館における障害者サービスに関する質問紙調査を実施しました。その後、2016年4月には障害者差別解消法が施行され、公立図書館は合理的配慮を提供する義務を課されるなど、公共図書館を取り巻く状況は大きく変化しています。本報告書では、この間の推移も分析の対象としました。

本報告書の分析の特色としては、調査結果全体の傾向を分析するために「指標1」「指標2」という2つの指標を設定したことが挙げられます。 指標1は、利用者が図書館に来館せずとも録音資料を利用できるかどうかに焦点をあてたものです。次の3要件を全て満たす図書館を「指標1適合館」としました。

①録音資料(DAISY形式のCD又はテープ)の貸出を行っており、実績もある
②特定録音物等郵便物の発受施設の指定を受けている
③録音資料(DAISY形式のCD又はテープ)の郵送貸出サービス又は宅配サービスを行っており、実績もある

指標2は、音訳者の維持に密接に関わる録音資料の資料製作と、対面朗読の実施体制の整備に焦点をあてたものです。指標1の3要件に加え、次の④と⑤も全て満たす図書館を「指標2適合館」としました。

④録音資料(DAISY形式のCD又はテープ)又はマルチメディアDAISYの資料製作をしている
⑤対面朗読サービスの実施体制が整っている(実績の有無は問わない)

本調査研究が、各図書館における障害者サービスの向上に資することを願っています。
 

報告書


・「公共図書館における障害者サービスに関する調査研究」報告書(PDF 2.45MB) [13]
・「公共図書館における障害者サービスに関する調査研究」報告書(EPUB 1.87MB) [14]
 

目次

第1章 調査の概要
第2章 調査結果の要説
第3章 都道府県立図書館の取組
第4章 障害者サービスの利用者
第5章 蔵書構築
第6章 資料提供、サービスの体制
第7章 対面朗読
第8章 病院・施設・学校等へのサービスの実施状況
第9章 資料製作
第10章 施設・設備
第11章 職員体制
第12章 広報・イベント
第13章 障害者差別解消法施行を受けての各図書館の取組
第14章 障害者サービスのこれから(実態調査から見えてきたこと)
資料編
付録資料 質問紙調査 調査票
 

調査票


・質問紙調査調査票(PDF 571KB) [15]
 

集計表


本調査結果の集計表をXLSX形式で公開します。

・資料編(XLSX形式、42KB) [16]
 報告書資料編に掲載された集計表です。

・指標1適合館及び指標2適合館に限定した集計表(XLSX形式、69KB) [17]
 指標1及び指標2の適合状況と、指標1適合館、指標2適合館に限定した集計表です。
 

館ごとの回答


各館の回答(2016年度の状況、所蔵数は2017年3月末時点)をXLSX形式で公開します。館名とともに回答を国立国会図書館ウェブサイト上で公開することをご許諾頂いた館のみ公開しています。

・館ごとの回答(公開の許諾を頂いた分のみ)(XLSX形式、1.29MB) [18]
 

主な更新履歴


[2020年5月13日]
・報告書のEPUB版について一部体裁の変更を行いました。

[2019年9月6日]
・館ごとの回答(公開の許諾を頂いた分のみ)を掲載しました。

[2018年12月26日]
・報告書のEPUB版を掲載しました。

[2018年9月4日]
・報告書のダウンロードリンクを変更しました。
・XLSX形式の集計表2点にシート「更新履歴」「集計方法の説明」を追加しました。 
 
図書館調査研究リポート [4]
図書館サービス [7]
障害者サービス [19]
日本 [9]
公共図書館 [11]
公立図書館 [12]

No.16 超高齢社会と図書館~生きがいづくりから認知症支援まで~

  • 参照(46217)

 本調査研究では、「高齢化社会における図書館サービス」をテーマとして取り上げました。

 日本社会の高齢化の急速な進展に対応して、外部機関と連携して高齢者にサービスを提供したり、地域の高齢者と協働してサービスを提供したりするなど、公共図書館のサービスと地域の高齢者との関係に新しい動向が見られます。このような背景を踏まえ、今回の調査研究では、高齢者との関係が先進的あるいは特徴的な図書館サービスを提供している公共図書館の事例をいくつか取り上げ、調査分析を行いました。

 具体的には、調査対象機関を3機関選定し、現地調査などの事例調査を行いました。また、事例調査対象の3機関のうち2機関について、サービス提供地域に居住する高齢者にインタビュー調査を行いました。報告書では、事例調査の3機関が提供しているサービスの概要や、サービスを実施するに至った経緯などを紹介しています。また、高齢者へのインタビュー調査の結果を踏まえ、高齢者の図書館利用の現状と今後のサービスのあり方について、6つの観点から考察しています。そのほか、日本の図書館サービスにおける高齢者の位置付けの変遷や、超高齢社会における図書館サービスの実態・課題など、超高齢社会と図書館についての論考を掲載しています。

 この調査研究の報告書が、地域社会の高齢者と図書館との関係を考えるすべての方々に広く活用されることを願っています。

リポート(全文、PDF)の閲覧は、国立国会図書館デジタルコレクションの掲載ページ [20]へ

※EPUB形式の電子書籍でもご利用いただけます。
epubファイル(31.4MB, 221ページ) [21]

【目次】

概要
Summary

第1章 調査研究の背景と目的

第2章 超高齢社会とは
2.1 高齢化の現状
2.2 超高齢社会の課題
2.3 未来へ繋ぐための「今」

第3章 図書館サービスにおける高齢者の位置づけの変遷
3.1 障害者サービスの中の高齢者
3.2 一つの利用者カテゴリーとしての高齢者
3.3 変化の要因

第4章 超高齢社会における図書館サービスの課題とこれから
4.1 高齢者を対象とした図書館サービスの実態
4.2 図書館における高齢者をとりまく課題
4.3 超高齢社会における図書館サービスに関するガイドライン
4.4 超高齢社会における図書館サービスのこれから

第5章 サード・エイジ:超高齢社会を支える高齢者と図書館
5.1 生涯学習社会とサード・エイジ
5.2 サード・エイジの図書館ニーズ
5.3 サード・エイジを対象とした図書館サービス
5.4 生涯学習拠点としての図書館

第6章 フォース・エイジ:認知症と図書館
6.1 高齢期における心身機能の低下
6.2 認知症とは
6.3 これからの認知症支援:Dementia Friendly Community に向けて
6.4 イギリスの図書館における認知症支援の取組み

第7章 ケーススタディ:超高齢社会における図書館サービス
7.1 高齢者が活躍する場としての図書館:横浜市立都筑図書館 「つづき図書館ファン倶楽部」
7.2 図書館からアプローチする認知症支援:川崎市立宮前図書館
7.3 福祉行政からアプローチする認知症支援:日向市大王谷コミュニティセンター図書室

第8章 高齢者の図書館サービス利用とニーズ
8.1 調査の概要
8.2 調査結果
8.3 考察

第9章 まとめ

謝辞

研究会等開催記録および委員名簿、協力者一覧
付録資料1 高齢者調査関連書類
付録資料2 高齢者と図書館に関する文献リスト

図書館調査研究リポート [4]
図書館サービス [7]
地域 [8]
高齢者サービス [22]
日本 [9]
公共図書館 [11]
公立図書館 [12]

No.15 地域活性化志向の公共図書館における経営に関する調査研究

  • 参照(39673)

本調査研究は、地域活性化への貢献をめざし革新的なサービスを提供している公共図書館のうち、特に萌芽期にあるサービスを提供している図書館を取り上げ、そのサービス実現のプロセスをたどることによりサービスの成立条件を明らかにすることを目指し、実施したものです。 

● リポート(全文、PDF) ⇒ 掲載ページ(国立国会図書館デジタルコレクション)へ [23]

※EPUB形式の電子書籍でもご利用いただけます。
こちら(→epubファイル(11.1MB, 241p) [24])からダウンロードしてください。 

 

第3章から第6章では、萌芽期にあるサービスを提供している図書館の4事例について、各館の担当者が詳述しています。各章のさいごには、図書館情報学研究者の視点によるまとめが掲載されています。第3章では、紫波町図書館の農業支援サービス、第4章では、東松島市図書館のICT 地域の絆保存プロジェクト「東日本大震災を語り継ぐ事業」、第5章では、田原市中央図書館の高齢者福祉施設訪問サービス「元気はいたつ便」、第6章では、東近江市立八日市図書館のリトルプレス「そこら」の作成を取り上げています。これら国内4事例に続いて、第7章では、海外との比較として、米国のピッツバーク・カーネギー図書館の事例について、図書館情報学研究者が詳述しています。

最後の第8章は、図書館情報学研究者が各事例をレビューし、そこから得られる知見等について、とりまとめを行ったものであり、サービスの成立条件、地域活性化への貢献についての考察が示されています。

  【目次】 

本調査の概要

English Summary

第1章 地域における課題解決と公共図書館

第2章 研究の枠組みと方法

第3章 農業支援サービス事始め (紫波町図書館の取組み)

第4章 東日本大震災を語り継ぐ (東松島市図書館の取組み)

第5章 元気はいたつ便 (田原市中央図書館の取組み)

第6章 リトルプレス「そこら」 (東近江市立八日市図書館の取組み)

第7章 ピッツバーグ・カーネギー図書館の事例分析

第8章 図書館による地域活性化とサービス策定過程

 

※2014年7月10日最終更新

 

図書館調査研究リポート [4]
図書館経営 [25]
日本 [9]
公共図書館 [11]

No.14 日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望 (Issues and Perspectives on Reference Services in libraries of Japan)

  • 参照(45268)

本研究は、図書館の情報サービスの核とされるレファレンスサービスについて、その実態を把握するとともに、国民のこのサービスに対する認識を明確にしようとするものです。その上で、これからの日本社会に図書館が貢献するための方策を導き出せるように、得られたデータや見解を分析し、課題と展望に関して指摘することを目指しています。

  【目次】

研究の趣旨と構想

調査結果の概要

English Summary

第1章 図書館におけるレファレンスサービスの実態はどうなっているのか?

  1.1 質問紙調査の内容

  1.2 質問紙調査の結果

第2章 情報・調査を必要とする者の認識はどうなっているのか?

  2.1 調査手法の意義(パイロット調査としての位置づけ)

  2.2 聴取調査記録

  2.3 聴取調査に基づくグループ別の情報・調査ニーズについての分析

第3章 情報・調査ニーズに応える図書館の実現へ向けて、何を志向すべきか?

  3.1 各種サービスの実践とレファレンス質問の受付件数との関係

  3.2 図書館が取り組むことのできるサービスの可能性

  3.3 図書館に対する認識を新たにするアプローチ

  3.4 リスク社会を支える活動に対する貢献

レファレンスサービスの展望:おわりに代えて

付録資料1 質問調査票

付録資料2 先行研究文献リスト

  • リポート ⇒ PDF掲載ページへ [26](各章別)
  • 集計表及び回答データ ⇒ zipファイル [27](16.2M byte)

  ※報告書の第1章本文では、適宜参照できるよう、関連する集計表の番号を示しています。報告書とあわせてご活用ください。

* * *

This study on reference services – the core of library information services – aims to understand the current situation of these services while at the same time making clear the level of awareness of these services among the people. Moreover, in order to derive a plan in which libraries may contribute to Japanese society in the future, this report also aims to analyze collected data and opinions and clearly identify current issues and perspectives.

The report is available here [26].

(The English Summary includes "Research Plan and Aims," "Summary of Survey Results," and "Issues and Perspectives on Reference Services: Concluding Remarks," originally written in Japanese by Oda Mitsuhiro, the leader of this project.)

図書館調査研究リポート [4]
レファレンスサービス [28]
日本 [9]
国立図書館 [29]
公共図書館 [11]
大学図書館 [30]
専門図書館 [31]
国立国会図書館 [32]

No.13 東日本大震災と図書館 (The Great East Japan Earthquake and Libraries)

このリポートは、「東日本大震災」と「図書館」という2つのキーワードを軸に、震災によって図書館に起こったことと、震災と図書館に関する情報について可能なかぎり網羅的に調査し、参考情報を整理したものである。

リポートの全文PDFはこちら [33]。

* * *

Using “the Great East Japan Earthquake” and “libraries” as two pivotal keywords, this report organizes reference information and studies as comprehensively as possible information related to the earthquake and libraries, as well as incidents occurring at library facilities due to the earthquake.

The report is available here [33]. (The summary and chapter 9 are for English readers.)

  • 参照(92290)
図書館調査研究リポート [4]
災害 [34]
日本 [9]

No.12 中国国家図書館の現況

 国立国会図書館が2008年度に実施した在外研究及び2009年度の実地調査にて、中国国家図書館の概況、業務実態等についての調査研究を行い、その成果をまとめた。

リポートの全文PDFはこちら [35][約10MB]

目次のPDF版はこちら [36]
資料編のPDF版はこちら [37]
統計編のPDF版はこちら [38]

※資料編と統計編はPDF版のみ

  • 参照(31579)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

0. はじめに

 PDF版はこちら [41]

 

 急成長する中国と共に、中国国家図書館は急成長を続けている。電子図書館サービスをはじめ、新たなサービスを次々と打ち出し、大胆に、かつ融通無碍にそれを実現する。中国国家図書館の取組みとその成果は、国外からの注目度も極めて高い。国立図書館のあり方を考える上でも、我が国の図書館サービスについて考える上でも、参考になる点が少なくない。

 国立国会図書館(以下、「当館」という。)は1981年から毎年、中国国家図書館との間で業務交流を実施している。約30年にわたる業務交流を通じて、中国国家図書館の業務やサービスについて多くの情報を入手してきた。人的交流の実績も豊富である。中国国家図書館について当館が蓄積している情報は、単なる文献調査や一過性の参観見学では得られない信頼性を有していると言えるだろう。当館では今後、その蓄積をより広く共有できるようにしていきたいと考えている。本書では、そのような取組みの一環として、中国国家図書館の現況と最近の動きを、実地調査報告と最新の公表資料により紹介する。

 本文編は、中国国家図書館の概況、収集整理業務、利用者サービス、電子図書館事業等についての調査報告である。特に、収集整理業務についての体系的な紹介、注目すべき新たな利用者サービスの動向に重点を置いた。実地調査の結果をありのまま記述することを主眼としたので、言及のない業務やサービスもある。所蔵資料の詳しい紹介なども割愛した。また、既出の調査報告等を再構成した部分があるため、記述に若干の重複が生じているが、あえて調整は行わなかった。巻末の資料編・統計編には、本文中で紹介した業務に関係する基本文書や主な業務統計を掲載した。

 本書の執筆は当館の前田直俊(関西館電子図書館課)と岡村志嘉子(関西館アジア情報課)が担当した。前田担当部分は、当人が関西館アジア情報課在職中、2008年10月10日から2009年1月10日までの間、「中国国家図書館の収集組織化と提供サービスならびに中国における書誌作成に関する調査研究」をテーマとして実施した在外研究の調査報告である。在外研究時点の情報を基本とするが、特に必要な場合はその後の動きについても注記した。岡村担当部分は、中国国家図書館ホームページから得られる情報をはじめ中国国家図書館の最新の公表資料を基礎とし、2009年10月の短期間の実地調査、同年11月の両館業務交流などを通じて中国国家図書館側から得た情報をそれに付加している。資料編の翻訳、統計の編集及び全体の調整は岡村が担当した。

 なお、中国国家図書館は中国国内では「国家図書館」と称され、対外的な呼称として必要な場合のみ「中国」を冠するのが通例である。本書においても、本文中では多くの場合、「国家図書館」と表記している。

 中国国家図書館について、また、中国の図書館事情について調べる際の基本資料の一つとして、本書を活用していただければ幸いである。

(岡村志嘉子)

 

凡例

  1. 本文中の統計、金額等の数値で、特に記載のないものは、前田の在外研究(2008年10月~2009年1月)時点のものである。
  2. 本文中の組織人員は、「4. 1. 電子図書館業務」については2010年8月現在、それ以外の章・節で特に記載のないものについては、前田の在外研究時点の人数である。
  3. 本文中の写真は、全て前田が在外研究中に撮影したものである。
  4. 本文中の【 】内は中国語表記を示す。中国語資料の表記は、本文中では原則として日本漢字を用いた。
  5. 1元は約12.4円(2010年9月現在)。
  • 参照(6287)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

1. 中国国家図書館概況

 PDF版はこちら [42]

 

1. 1. 役割・機能

 中国国家図書館は中華人民共和国唯一の国立図書館であり、文化部(「文化省」に相当する。)が所管する。

 その機能としては、「国の総書庫」「国家書誌センター」「国家古籍保護センター」の3つが掲げられている。このうち「国家古籍保護センター」機能は、国の重点政策として2007年から推進されている「中華古籍保護計画」と連動する形で新たに加えられたものである。

 3つの機能は、より具体的には次のように説明されている(1)。

  • 国内外の出版物の収集と保存を責務とし、全国の資料保存事業の指導と調整を行う。
  • 中央政府機関、社会団体及び一般公衆に対し、文献情報とレファレンスサービスを提供する。
  • 図書館学理論及び図書館事業についての研究を行い、全国の図書館の業務を指導する。
  • 対外的に文化交流機能を発揮し、国際図書館連盟(IFLA)その他関係国際機関に参加し、国内外の図書館の交流協力を促進する。

 

1. 2. 略史

 国家図書館の前身は、清朝末期に創設が決まった京師図書館である。1909年(宣統元年)9月9日、宣統帝によって京師図書館設立の裁可が下された。翌1910年(宣統二年)には、中国で初めての図書館法規となる「京師及各省図書館通行章程」も制定された。京師図書館は広化寺を庁舎と定め開館準備を進めたが、完成を見ぬうちに清朝は滅亡する。正式に開館するのは、辛亥革命を経て中華民国に移管された後、1912年8月27日のことであった。1916年には正式に国内出版物の納本を受け入れるようになり、国立図書館としての機能を拡充していく。1928年には館名が国立北平図書館と変更された。所在地も幾度か変遷した。1931年になって文津街庁舎が完成し、当時の中国国内で最大規模の、最も先進的な図書館となった。

 中華人民共和国成立後、1950年3月6日、国立北平図書館は国立北京図書館と名を改め、1951年6月12日には北京図書館と改称された。文津街の庁舎は増築を重ねたが、蔵書の増加と業務の拡大に伴い手狭となり、周恩来首相の指示の下、1975年3月、北京図書館新館の建設が決まった。新館が落成したのは1987年、所在地は北京市西部の白石橋である。1998年12月12日、北京図書館は国家図書館と改称され、対外的には中国国家図書館と称されることになった。2004年12月からは、国家図書館二期プロジェクトとして国家デジタル図書館の建設が進められた。国家デジタル図書館は2008年9月9日に開館し、国家図書館はまた新たな段階に入った(2)。

 

1. 3. 組織・人員

 国家図書館は文化部が所管する非営利の事業単位(3)で、2009年末現在の職員数は、館長1名、副館長5名を含め、計1,365名である。

 内部組織は行政部門と業務部門の2つに大別され、計26の部署で構成される。行政部門の各部署は総務、人事、会計、庁舎管理、国際協力などの事務を司る。業務部門の各部署は収集整理、レファレンス、閲覧などの図書館業務を司る。さらに、中国図書館学会事務局、国家図書館出版社など、組織上の位置付けは直属ではないが、国家図書館内に事務所を置いて密接な関係を有している機関もある(図1.1、巻末「資料2. 中国国家図書館組織一覧」参照)。

 

図1.1 中国国家図書館組織図(2010年9月現在)

図1.1 中国国家図書館組織図(2010年9月現在)

 

 行政部門は業務部門の監督・調整も行っており、その担当部署として業務管理処が設置されている。業務部門に属する各部は、館全体の基本指針である五か年計画(4)に基づき、毎年初めに1年間の具体的な業務遂行計画を策定して、業務計画書を作成・提出する。業務管理処はこの計画書を基に、半年ごとに各部の業務遂行状況について評価を行い、その結果によっては、報奨金または課徴金の措置がなされる。評価の対象となる指標は、例えば収集部門では収集率、納本率など、目録作成部門では作成データの質、作成にかかる時間、資料供用の正確さなど、外国語資料部門では選書の質や重複率などである。そのほか、複数の部門にわたる事項の調整についても、業務管理処が担当している。

 組織運営においては、各部門が職員採用の裁量を有しており、また部門ごとに給与体系が異なっているなど、各部門の独立性が強い点に特徴がある。部門間の人事異動は、それほど頻繁には行われない。

 職員は年頭に契約書を提出することが義務付けられており、年末に1年間の総括報告を行って、業績評価が下される。

 職員の身分体系としては、①給与に係る等級、②ライン(部長、副部長など)、③職称の3系統がある。職称は、図書館業務については「研究館員」、「副研究館員」、「館員」、「助理館員」、「管理員」の5つに分けられており、学位、勤続年数、発表論文数などに基づく評価制度によって認定される。

 国家図書館は、政府の推進する「文化体制改革」のモデル機関の1つに指定され、近年、政府の方針に基づき、組織運営、人事管理などについて新たな制度の試行的な導入が進められてきた。人事管理面では幹部職員の若年化と能力主義の徹底が図られ、かつての年功序列的な組織形態は様変わりした。管理職の任命には、館内外を対象とした公募制が実施され、その任期は3年である。また、新卒者の採用は、大学院修士課程修了以上を基本としている。

 

1. 4. 施設

 現在の国家図書館は、表1.1のとおり北京市内の2か所に分かれている。市内西部の文教地区にある本館は、1987年完成の一期館と2008年完成の二期館からなる。また、北京市中心部、故宮近くにある元の文津街庁舎が現在、古籍館となっている。

 建物延べ面積約25万m2は、世界の国立図書館で第3位の大きさである。

 

表1.1 中国国家図書館の庁舎

 建物延べ面積完成年所在地
本館  北京市海淀区中関村南大街33号
 一期館(南区)14万m21987 
 二期館(北区)8万m22008 
 計  22万m2  
古籍館3万m21931北京市西城区文津街7号
 総計  25万m2  

 

図1.2 本館二期館

図1.2 本館二期館

 

図1.3 本館一期館

図1.3 本館一期館

 

図1.4 古籍館

図1.4 古籍館

 

1. 5. 所蔵資料

 国家図書館は国内出版物を網羅的に収集している。正式出版物だけでなく、市場に流通しない非正式出版物の収集も重視される。国務院学位委員会の指定する学位論文所蔵館でもある。台湾・香港・マカオで刊行された資料については専門の資料室を設けている。外国資料は1920年代から購入が開始され、現在、外国資料の所蔵は中国国内で最も多く、言語の種類は115に上る。国際連合資料の寄託図書館にも指定されている。

 2009年末現在の蔵書総数は27,783,105点である。また、2009 年の年間資料受入点数は829,106点である。貴重な蔵書としては、甲骨資料、敦煌遺書、『趙城金蔵』、『永楽大典』、『文津閣四庫全書』、1470年代のインキュナブラなどがある。

 近年はデジタル資源の構築も重視され、データ総容量は2009年末現在、327.8TBに達している。そのうち、2.02TBが電子新聞の納本、70TBがデータベースの購入、239.1TBが蔵書のデジタル化、16.18TBがウェブアーカイビング等によるものである。電子資料の所蔵点数は、電子図書約1,515,000冊、電子ジャーナル約44,000タイトル、電子新聞約3,100タイトルなどである(5)。

 

1. 6. 納本制度

 1916年3月6日、中華民国教育部から「国内で書籍を出版するときは出版法に基づいて必ず登録を行い、登録された図書はいずれも1部を京師図書館(訳注:現国家図書館)に納めなければならない」という内容の通達《教育部片奏内务部立案出版之图书请饬该部分送京师图书馆收藏摺》が出された。これによって、国家図書館に対する出版物の納本が正式に制度化された。以来今日まで一貫して、法令(通達等により国家図書館は納本資料の受入機関に指定されている。

 現行法では、「出版管理条例」(国務院令第343号)をはじめとする関係法規に納本規定がある。具体的な納本部数、納本期限、罰則等については、1991年に新聞出版署から出された「『図書・雑誌・新聞見本の納入方法について』を再通知する通知」((91)新出図字第990号)などに定められている。

 1990年代以降、電子出版物や録音映像出版物の納本が正式に開始された。また、学位論文は「中華人民共和国学位条例暫定実施方法」(1981年5月20日)に基づいて納本され、ポストドクター研究報告書も国家図書館の納本対象と規定されている。

 

1. 7. 利用者サービス

 国家図書館は1年365日開館し、1日当たりの平均利用者数は延べ約12,000人である。利用資格は満16歳以上で、利用者カードの種類に応じて館内閲覧、貸出などのサービスが利用できる。また、本館二期館内には2010年5月、6~15歳を利用対象とする少年児童図書館もオープンした。

 2008年9月の本館二期館、即ち、国家デジタル図書館の開館を機に、国家図書館の利用者サービスは新たな段階に入った。本館一期館は外国語資料や国内外の専門資料を中心に、専門性の高い図書館サービスが行われる。本館二期館は中国語資料や電子資料を中心に、一般閲覧サービスが行われる。古籍館では古典籍資料が利用に供される。

 レファレンスサービスは、有料サービスも含め、主題検索、科学技術文献最新情報調査、委託調査、情報配信サービスなど幅広く業務を拡大している。オンラインでのチャットレファレンスも実施している。近年特に重視しているのが立法・行政に対するサービス機能の強化であり、新たに設置された立法・政策決定サービス部がこの業務を担当している。また、ホームページの拡充により、インターネットを通じた情報発信を強化するとともに、展示会や講演会、セミナーなどの活動にも力を入れている。

 

1. 8. 業務機械化とデジタル化の歩み

 国家図書館で業務機械化に向けた検討が開始されたのは、新館の建設が決まった1975年のことである。1980年代に入ると書誌作成をはじめとして業務機械化への取組みが本格化した。中国語書誌データベースの構築は1987年から始まり、1989年には大型コンピュータ総合管理システムが稼働した。1995年からはデジタル化とネットワーク構築に向けた検討が始まった。1995年に電子閲覧室が開室、1997年には国家図書館ホームページが開設され、また、1999年にはギガレベルの館内LANが本格稼働している。図書館システムに関しては、2003年以降、Ex Libris社のALEPH500図書館統合管理システムが採用されている。

 デジタル図書館の構築に関する研究開発は1996年から始まった。その後、「国家デジタル図書館プロジェクト」が立案され、国家図書館におけるデジタル資源の構築と利用提供体制の整備は、国家重点プロジェクトとして計画的に進められ、今日に至っている。

(岡村志嘉子、前田直俊)

 

注

(1) “关于国图 历史沿革”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/gygt_lsyg.htm [43], (参照 2010-09-02).

(2) 中国国家図書館の沿革は、以下の記述による。
陈源蒸ほか編. 中国图书馆百年纪事(1840-2000). 北京图书馆出版社, 2004, p. 2.
李致忠編. 中国国家图书馆. [中国国家图书馆], 1999, p. 6-8.
“关于国图 历史沿革”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/gygt_lsyg.htm [43], (参照 2010-09-02).

(3) 主に公益性の高い分野で実事業を担当する組織・機関。

(4) “关于国图“十一五”规划纲要”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/gygt_ghgy.htm [44], (参照 2010-09-02).

(5) “Annual Report to CDNL 2010”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/meetings/pdf/CR2010_China.pdf [45], (参照 2010-09-02).

  • 参照(11978)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

2. 収集整理業務

  • 参照(5420)
図書館調査研究リポート [4]

2. 1. 中国における書誌作成と中国国家図書館の役割

 PDF版はこちら [46]

 

2. 1. 中国における書誌作成と中国国家図書館の役割(1)

 

2. 1. 1. はじめに-CIPと全国書誌-

 CIP(Cataloging In Publication)とは、出版者から提供される事前情報に基づいて全国書誌の作成機関などが作成した書誌データあるいはその提供元情報を、出版物の標題紙裏などに印刷して出版することである。世界の多くの国々で導入され、アジア地域においても既に8か国で実施されている(2)。

 一方、全国書誌は1つの国における出版物についての包括的な記録の集積であり(3)、多くの場合、納本制度で収集された資料に基づいて、国立図書館など国を代表する書誌作成機関によって作成される出版物の最終的なリストである。

 書誌作成の過程を、出版界から図書館界までの大きな枠組みの中で時系列に捉えた場合、出発点がCIPで終着点が全国書誌といえよう。CIPから全国書誌にいたる流れを眺めれば、その国の書誌作成の実際がみえてくる。

 本節では、中国のCIPと全国書誌の作成に携わる新聞出版総署情報センター及び国家図書館を取り上げて、中国における書誌作成の現状を概観し、そこからみえてくる課題及び今後の展開について述べる。

 

2. 1. 2. 中国におけるCIPの導入過程

 

(1) 導入前史

 中国では、既に1970年代末から海外のCIPの実施事例が紹介され、図書館界を中心に活発に議論されていた。また、一部では実験的な試みも行われていたものの、総体としては理論としての枠組みを越えるものではなかった(4)。その後、1983年から1985年にかけて「文献著録総則」「普通図書著録規則」「文献主題標引規則」など書誌情報に関する国家規格が相次いで整備されたことを受けて、CIP導入に向けての動きが本格化することになる。

 1985年に実施の可能性に関する予備調査が行われ、翌年から導入に向けての具体的な検討が開始された。1987年には関連規格の制定のため、新聞出版署標準室、北京図書館(現国家図書館)、中国科学院図書館、北京大学図書館、人民出版社、機械工業出版社、新華書店本店、信息分類編碼研究所からなる起草班が編成され、同年末に草案が作成された。次いで出版界及び図書館界からの意見聴取を経て、1989年に「図書在版編目数据」及び「図書書名頁」の2つの国家規格が策定された。そして、強制規格(5)として、それぞれ[GB12451-90]、[GB12450-90]の規格コードが付与され、1990年7月に国家技術監督局の認可を経て、1991年3月より施行されることとなった。

 

(2) 2つの国家規格

 「図書在版編目数据」は、CIPデータに記載すべきデータ項目、区切り記号、記述フォーマットなどを定めたものである。データ項目は記述データと検索データの2種類から成り、前者には書名、著者名、版表示、出版事項、シリーズ情報、附注、ISBNなどが、後者には書名や著者名などのアクセスポイント、分類記号、件名などが含まれる(図2.1)。

 

図2.1 CIPデータの例

図2.1 CIPデータの例

 

 一方、「図書書名頁」は、世界標準のISO1086-87“Documentation: Title-leaves of a book”に準拠し、図書の標題紙(標題紙裏を含む)に記載すべき項目について定めたもので、書名、著者名、出版事項、版権説明、版本記録(6)、CIPデータ、形態情報、印刷発行記録などが必須項目として挙げられている。

 

(3) CIPの実施

 国家規格が定められたことにより、出版者が図書を出版する際には、これら規格に定められた項目を、定められた形式で当該出版物に記載することが義務付けられた。

 しかしながら、中国における初めての試みであり、かつ全国500余の出版者に関わる大事業であることから、実施は一足飛びではなく段階的に行われた。

 まず、1992年に北京地区の出版者を中心に41社を選定して研修会を開催し(7)、対象地域や出版者を増やしながら(8)数年間の試行による経験を重ねた後、1994年から北京地区の全ての出版者を対象とした(9)。当時、手引書として出版された許綿主編『図書在版編目工作手冊』(人民出版社 1994)には、CIPの概念や意義、データの作成手順、国家規格の本文と解説、関連する通達文書、実例集などが掲載されている(10)。最終的には、1999年4月から全国規模での実施が始まり(11)、その結果、新刊図書の約90%にCIPデータが記載されるようになった(12)。その後、両規格は強制規格から任意規格へと変更され、2002年には改訂が行われている(13)。

 

2. 1. 3. 新聞出版総署情報センター

 CIPは、新聞出版総署情報センターが管理運営を行っている。同センターはその名が示すとおり新聞出版総署(14)の直属機関で、出版情報の作成と頒布に関する業務を主管している。同時に中国版本図書館という名称も併せ持つが、これは中国の組織機構によくみられる、いわゆる「1つの機構、2枚の看板」【一个机构两个牌子】(図2.2)で、実体は1つの組織でありながら、その果たす機能や役割によって、名称が使い分けられる。出版物を収集・保存する際には中国版本図書館と称するが、これについては2.1.4.で詳しく述べる。

 

図2.2 「1つの機構、2枚の看板」

図2.2 「1つの機構、2枚の看板」

 

(1) CIPデータの作成手順

 出版者が出版物を発行する際には、事前に新聞出版総署情報センターに申請をして、CIPデータを取得する。出版物の詳細が決まった段階で、「図書在版編目(CIP)数据工作単」(図2.3)に必要事項を記入して、担当部門である図書在版編目処に送付する。その際、記述は「普通図書著録規則」に拠り、主題分析には『中国図書館分類法』『漢語主題詞表』が用いられる。図書在版編目処では、出版者から送られてきたデータを検査し、修正・追加をした後に、出版者に返却する。そして、出版者は返却されたCIPデータを図書の標題紙裏に印刷するという流れである。「工作単」は、以前は郵送やFAXでやり取りされていたため、申請からデータ返送までに1か月以上(15)を要していたが、2003年からは専用システムの導入により、オンライン申請が可能になった。現在では申請から3~5日以内に出版者にデータを返送することを原則としている(16)。

 

図2.3 図書在版編目(CIP)数据工作単

図2.3 図書在版編目(CIP)数据工作単

 

(2) データベースと検査番号

 新聞出版総署情報センターのホームページではCIPデータベースが公開されており(17)、書名、著者名、出版者、ISBNのほか「CIP数据核字」で検索することができる。「CIP数据核字」とは、データ1件ずつに付与される検査番号のことで、CIPデータの最下行に記されている(図2.1)。

 因みに、海賊版や未申請の出版物には、偽造されたCIPデータが記載されている場合があるが(18)、このデータベースでその「CIP数据核字」を検索すると、ヒットしないかあるいは内容が合致しないデータがヒットする。逆に言うと、「CIP数据核字」で検索して該当データがなければ、正式出版物ではないと判断できるのである(19)。

 なお、このデータベースのほか、同センターが編集する新刊書の紹介雑誌『全国新書目』にもCIPデータが掲載されている(20)。

(3) CIPデータの品質

 中国では、これまでCIPに関する論文が数多く発表されているが、最も多く指摘されているのがCIPデータの品質の低さである(21)。分類や件名など、専門的な知識と技術を要するデータの誤りのみならず、書名、責任表示、出版年などの基本的な記述データでさえ、現物と異なる例が散見される(22)。

 こうした誤りが発生する原因としては、出版者の担当者が未習熟のため「工作単」を誤って記入すること(23)、図書在版編目処のデータ検査が現物を見ずに「工作単」のみで行われること、またCIPデータの取得後に変更があっても、出版者が報告を怠ってデータを修正しなかったり、改竄したりすることなどが挙げられる(24)。そもそもCIPは、出版者にとっては単なる手続きに過ぎず、正確なデータを作成しようとする意識は低い(25)。

 また、人員不足も問題である。年間のデータ作成数が約20万件であるのに対して、データ検査に従事する作業員は20余名しかおらず、1人あたりの作業量が膨大で、データ1件あたりに費やす時間が短い。多い時には1人で1日100件を処理することもあるという。

 さらには、作業員の技術的な水準が低いことや、書誌作成の専門知識と技術を有する図書館が運営に関与していないことなども原因として挙げられる(26)。2.1.2.(1)で紹介したとおり、CIPの導入にあたっては、図書館は理論的な側面から検討に参加したものの、その後の運営においては無関係の状態である。

 こうしたことから、図書館の目録作成現場におけるCIPデータに対する信頼度は極めて低い(27)。さらには、MARCフォーマットで頒布されていないなど、CIPデータは図書館でそのまま活用できる水準には達していないのが現状である。こうした状況に対して、フォーマットの改善やより効率的で正確なCIPデータの提供に向けたECIP(28)の研究が進められているものの、未だ理論の段階に留まっている(29)。

 

2. 1. 4. 中国版本図書館

 次に、新聞出版総署情報センターのもう1つの役割である出版物の収集・保存及び目録作成をみていこう。上述の通り、この場合の名称は中国版本図書館となる。

 

(1) 納本制度と中国版本図書館の役割

 中国版本図書館の歴史は長く、その前身である中央人民政府出版総署図書館が創設された1950年まで遡る。以来、大陸で出版された出版物を幅広く収集・保存し、幾度かの名称と所属機関の変更を経て、1983年に現在の中国版本図書館と称するようになった(30)。

 中国版本図書館の蔵書は全て納本によって収集されたものである。中国では「出版管理条例」(国務院令第343号)、「録音映像製品管理条例」(国務院令第341号)、及び新聞出版総署が出した複数の行政規則などによって納本に関する事項が定められており、出版物の納本先として国家図書館、新聞出版総署、中国版本図書館の3機関が指定されている(表2.1)。国家図書館に納本される出版物は公開を前提としているのに対し、新聞出版総署への納本は出版動向の把握と合法性についての検査が、そして中国版本図書館への納本は保存が目的とされる(31)。納本に係る規則が新聞出版総署の行政規則で定められていること自体が、出版物管理としての側面を強く表しているとも言えよう。こうした位置付けから、中国版本図書館の蔵書(約350万タイトル)は北京郊外に設けられた2つの書庫に保存されているだけで、一般には公開されていない。

 

表2.1 納本資料の受入機関、種類、部数

受入機関図書雑誌新聞音楽映像資料電子出版物
新刊増刷
中国国家図書館3部1部3部1部1部1部
新聞出版総署1部1部1部1部1部1部
中国版本図書館1部1部1部1部1部1部

 

(2) 収集と目録作成

 出版物の収集から保存までを担当する徴集管蔵処では、毎年約20万タイトル(新刊図書13万、増刷図書2万、音楽映像資料3万、その他2万)の納本資料を受け入れている。到着した資料は、登録処理を行った後、目録データを作成する(32)。約90%については、既に登録されているCIPデータを流用して、現物を確認しながら修正を行う。CIPデータがあるにもかかわらず納本されない出版物については、定期的に未納情報を抽出し、出版者に対して督促を行っている。

 

(3) 全国総書目

 作成された目録データは、1年ごとに編集・加工し、『全国総書目』として出版する。『全国総書目』の始まりは古く、1955年に新華書店本店から1949-1954年版と1955年版が出版され、翌1956年から中国版本図書館による編集となった。以後、文化大革命期の中断があったものの現在まで継続して刊行されている。冊子体は2003年で終了して、以後は電子版(CD-ROM及びオンライン)のみの刊行となっている。

 

2. 1. 5. 中国国家図書館における書誌作成

 以上、新聞出版総署情報センターでの書誌作成の概要をみてきた。続いて、国家図書館における書誌作成の現況をみていこう。

 国家図書館は、前述のとおり、新聞出版総署、中国版本図書館と並んで、納本制度による出版物の受入機関であり、購入、寄贈などによる収集を含めると年間約64万冊の新刊図書を受け入れている(33)。中国語図書の書誌作成は、館内に設置されている全国図書館聯合編目センターと連携して行われているため、先に同センターの概略から紹介する。

 

(1) 全国図書館聯合編目センター

 

①概要

 中国では1990年代後半から全国規模の総合目録ネットワークが形成され始めた。中国における図書館は、国家図書館、大学図書館、公共図書館、中国科学院図書館の4つの系統に大別することができるが、総合目録ネットワークもこの枠組みに沿って形成されている。主なものとして、国家図書館が運営する全国図書館聯合編目センター(OLCC: Online Library Cataloging Center、以下OLCC)、大学図書館を主な参加館とする中国高等教育文献保障系統(CALIS: China Academic Library System)、深圳図書館を中心に6つの省級図書館が共同構築する地方版聯合采編共作網(CRLnet: China Regional Libraries Network)や上海図書館が運営する上海市文献聯合編目センター、そして中国科学院国家科学数字図書館(CSDL: Chinese National Science Digital Library)の総合目録が挙げられる。

 そのうちOLCCは1997年10月の設立で、中国で最も早く創設された総合目録ネットワークである。書誌データの共同構築と共同利用、目録作成にかかるコストの削減、重複作業の低減、目録作業者の技術向上などを主旨としており、全国の公共図書館が主な参加館となっている。創設初期には収益重視の企業運営方式が採られていたが、2004年に実施された国家図書館の機構改革を契機に、公益性の重視へと運営方針を転換し、国家図書館の内部組織として位置付けられるようになった(34)。

 以後は、国家図書館内の中国語収集整理部総合目録組が中央センターを運営している。この中央センターの下に地方センターが設置され、さらにその下位に参加館が所属する三層構造となっている。地方センターは省級規模の公共図書館や蔵書に特徴のある図書館で構成されており、2008年6月現在で、広東省立中山図書館、広西壮族自治区図書館、四川省図書館、天津図書館、遼寧省図書館、浙江省図書館、福建省図書館、山東省図書館、吉林省図書館、黒竜江省図書館、安徽省図書館、中国社会科学院文献情報センター、天津少年児童図書館の13館である。参加館数は674館、ユーザー数は1,105、年間のアップロード・ダウンロードの総件数は249万件に及ぶ。

 

②データ作成

 OLCCが提供するデータベースは20種以上あり、それらのほとんどが国家図書館の作成した書誌データファイルで構成されている(35)。参加館はデータをダウンロードして利用することができるほか、中国語図書のデータベース「中文図書書目数据庫」は参加館が共同で書誌作成を行っている。データベースごとに利用料金が定められており(36)、例えば「中文図書書目数据庫」の場合、ダウンロード1件につき0.15元が課金される(最初の1,000件までは無料)。反対に、書誌データを作成してアップロードをすると1件あたり3元の収入となる。これが誘因となってか、ここ数年「中文図書書目数据庫」へのアップロード件数が増加しており、同データベースは参加館が作成したデータが約半数を占めるまでになった。ただし、アップロードは参加館の全てに認められているわけではなく、中央センターが実施する「アップロード資格認証研修」に参加して規定の課程を修了した後、中央センターによる品質検査に合格した参加館にのみ資格が与えられる。現在のところ、資格を有するのは25館である。

 

図2.4 OLCCと中国国家図書館の書誌データ作成概念図

図2.4 OLCCと中国国家図書館の書誌データ作成概念図

 

③データの品質管理

 データの品質管理は、中央センターで集中的に行われる。参加館がアップロードしたデータは、中央センターにおいて1日単位でリスト抽出され(図2.4①)、これをもとに中央センターの担当者が検査を行う。誤りのあるデータは修正を施し、作成館に連絡をした後に公開される(図2.4②)。また、既に公開されているデータに誤りが発見された場合は、発見館が中央センターに連絡をした後、中央センターによって調整及び修正が行われる。

 

④所蔵情報

 中央センターで使用しているシステムは、深圳市科図自動化新技術応用公司が開発した図書館統合システム(ILASⅡ)をカスタマイズしたものである。このシステムには、1書誌ごとに参加館のアップロード・ダウンロードの履歴が残されているものの、それらが所蔵情報として登録されていないため、正確な所蔵情報を確認することはできない。そのためOPAC機能がなく、一般には公開されていない。これは、「聯合編目」という名称が表すとおり、書誌データの共同構築を第一義としてきたためのシステム的な制約と考えてよい。近い将来には国家図書館の現行システムであるEx Libris社のALEPH500を導入することで、リアルタイムでのデータ更新を実現し、所蔵館情報とOPAC機能を搭載した総合目録データベースへと発展させる計画である。

 

(2) 国家図書館の自館目録

 国家図書館の自館の目録作成も、このOLCCを利用して行われている。書誌データの作成は資料受入及び目録作成の2過程で行われるが、それぞれの過程で「中文図書書目数据庫」を検索して、ヒットしたものをダウンロードし、必要な箇所を修正して自館データベースに取り込む(図2.4③)。現在、新刊書の書誌データの約6割がダウンロードにより作成されている。ヒットしない場合は自館で書誌データを作成する。そして、修正したダウンロードデータと自館作成データが混在する新規作成データを1日ごとに抽出し(図2.4④)、ISBN、書名、出版年を基にバッチ処理でOLCCのデータと重複調査を行い(図2.4⑤)、自館作成データのみを抽出した後、それらを「中文図書書目数据庫」にアップロードする(図2.4⑥)。

 

(3) 中国国家書目

 国家図書館が編纂する『中国国家書目』は、1987年に1985年版の刊行が開始されたものの、資金面での問題から、1994年を最後に冊子体の刊行が中止された。その一方で、1988年からデータベース化が開始され、1990年よりCNMARCとして頒布されている。また1998年には、上海図書館、広東省立中山図書館、深圳図書館との協力で、1949年から1987年までの遡及データ40万件の入力も完成した。現在は、これらのデータとOLCC作成のデータの集合が、冊子体『中国国家書目』に代わる電子版として位置付けられている(37)。

 

2. 1. 6. 課題と展望

 

(1) 併存する全国書誌

 以上みてきたように、中国においては、新聞出版総署情報センター(中国版本図書館)と国家図書館のいずれもが納本制度に基づいて出版物を大規模に収集し、それぞれが全国書誌に相当する書誌を作成している。

 中国版本図書館の『全国総書目』は、約半世紀にわたって出版され続けている出版物目録であり、長い間、事実上の全国書誌として扱われてきた(38)。しかし、もともと出版物に関する統計資料及び登記目録としての性格が強いため、記載項目が簡略過ぎで品質が低く、全国書誌としての要件を満たしていないともされる(39)。それに対して、国家図書館の『中国国家書目』は、目録作成の専門家である図書館員によって作成されており、その品質は相対的に高い。『中国国家書目』の出現は、それまでの『全国総書目』の全国書誌としての独占的地位を揺るがしたといえる。

 その一方で、収録率についてみてみると、『中国国家書目』よりも『全国総書目』のほうが高い(40)。何故ならば、中国版本図書館への納本率のほうが国家図書館への納本率よりも高いからである。出版機関を管理監督するのは新聞出版総署であるため、出版者は新聞出版総署ならびに同署所属の中国版本図書館への納本を優先する傾向にある。国家図書館は文化部に属しているため、仮に納本しない出版者があったとしても、組織上それらを直接に監督・指導できる立場にない(41)。さらに新聞出版総署との連携も弱く、制度の改善がなかなか進まない。結果として、国家図書館への納本率は低くなりがちで、購入など他の手段により欠本を補ってはいるものの、収集しきれない出版物が数多く残されることになる。

 そもそも、中国における納本率は全体的にみて高いとは言えないが、その原因として、納本制度が強制力に乏しく罰則規定が機能していないこと、また地方政府によってはさらに独自の納本制度を定めているところもあり(42)、出版者の経済的な負担が大きく、納本に対する積極的な理解が得られていないことなどが挙げられる(43)。

 このように、『全国総書目』は収録率は高いが品質が低く、『中国国家書目』は品質は高いが収録率が低い。どちらか一方のみをとって、中国を代表する全国書誌とは言えず、双方ともに全国書誌を自称しながら、過去20数年にわたって重複状態が続いている。

 こうした状況に対しては、当然のことながら『中国国家書目』が刊行された当初から問題視されており、1987年から1989年にかけて、中国版本図書館と北京図書館(当時)との間で全国書誌の共同編纂についての協議が行われた。しかし、結局は版本図書館側が『全国総書目』の存続を主張して物別れに終わっている(44)。また、組織編制の歴史を振り返ってみると、1970年代に版本図書館が一旦、北京図書館(当時)に合併されたものの数年後に再び分離しており、現在は縦割り行政の縛りから相互の関係は極めて薄い。

 このように2つの全国書誌が存在する背景には、その刊行の経緯のみならず、行政組織に係る構造的な問題も絡んだ根深い要因が潜んでいるのである。

 

(2) 図書館法の制定

 こうした状況を改善する契機として考えられるのが、図書館法の制定である。中国にはこれまでのところ、正式な図書館法は存在しない。そのため、十数年前から図書館法制定に向けての活動が行われており、2008年には第11期全国人民代表大会常務委員会立法計画に図書館法が盛り込まれるなど(45)、制定に向けた動きが目立ってきている。ただし、中国図書館界における複雑に絡んだ状況もあって、現在は行き詰まりの状態にあり、図書館法が最終的に成立するまでには暫く時間がかかると思われる(46)。とはいえ、図書館法の制定は法定納本制度の整備に向けての格好の機会であり(47)、これにより納本の枠組みが大きく変わる可能性もある。今後の動きに注目したい。

 

(3) 業種を跨ぐ書誌共有化

 もう1つ、今後の展開が注目されるのは、出版流通業界と図書館による書誌データの共同作成である。

 2005年10月、中国最大級の出版グループである中国出版集団は、在庫情報を提供する中版通公司を設立した。同社は、約120の出版者と契約を結んで、新刊書もしくはその電子版を入手し、それらの書誌データを、表紙・書名頁・版権頁・目次・本文の一部・裏表紙などの画像データと合わせて、ホームページで提供している(48)。

 現在、OLCCでは、この中版通公司が開発したシステムを利用して、書誌作成の新たな実験が進められている。同システムの提供する電子データを基に、国家図書館が目録規則に基づいて書誌データの補足・修正を行い、CNMARCに変換してOLCCのシステムに搭載し、参加館が利用できるようにしようという試みである(49)(図2.5)。これが実用化されれば、出版者や書店など、書誌作成の源流から品質の高いデータを提供することが可能となり、業界の枠組みを越えた効率化と標準化が期待できる。

 

図2.5 中版通とOLCCの試験システム

図2.5 中版通とOLCCの試験システム

 

2. 1. 7. おわりに

 書誌作成の過程を川の流れに喩えるならば、出版界、流通界、図書館界は、それぞれ上流、中流、下流といえよう。中国では長らく三者間の境界が、いわば堰き止められた状態であった。しかし、前段で紹介したように、最近は境界間に新たな流れが生まれてきている。社会全体での書誌情報の共有化と標準化を実現するためには、この流れをより本格化させ、さらには上流からの流れを取り込むことが必要となる。そのためには、CIPデータの改善、ECIPの実現、納本制度の改革など解決すべき課題は多い。

(前田直俊)

 

注

(1) 本節は、前田直俊. 中国における書誌作成の現状―CIPと全国書誌. アジア情報室通報. 2009, 7(2), p. 2-7. に若干の加筆修正を加えたものである。

(2) Knutsen, Unni. “Survey on the state of national bibliographies in Asia” IFLA.
http://archive.ifla.org/VII/s12/pubs/Survey-Asia_MiddleEast-report.pdf [47], (accessed 2009-05-08).

(3) Žumer, Maja ed. “Guidelines for National Bibliographies in the Electronic Age (draft)” IFLA.
http://archive.ifla.org/VII/s12/guidelines-national-bibliographies-electronic-age.pdf [48], (accessed 2009-05-08).

(4) 郝志平. 中国图书在版编目(CIP)的起步与进展. 图书馆理论与实践. 1998(2), p. 20-22.

(5) 強制規格は強制的な執行力を有し、コードが「GB」で始まる。強制執行力を伴わないものは任意規格で、コードが「GB/T」で始まる。

(6) 版本記録については、小島浩之. 現代中国書の書誌的特徴. 大学図書館研究. 2002, (64), p. 1-9. が詳しい。

(7) 新闻出版署. 关于实施CIP国家标准试点的有关问题的通知. 新出图. 1992-12-19, 1992(1936).

(8) 新闻出版署. 关于扩大实施CIP国家标准试点有关问题的通知. 新出图. 1993-03-04, 1993(173).

(9) 新闻出版署办公室. 关于在京出版社实施“图书在版编目(CIP)”有关问题的通知. 新出办. 1993-12-07, 1993(1611).

(10) その他、概説書として、陈源蒸. 图书在版编目・书目数据的标准化与规范化. 北京大学出版社, 1994, 156p. が出版された。

(11) 新闻出版署. 关于在全国各出版社实施图书在版编目(CIP)有关问题的通知. 新出技. 1999-03-08, 1999(185).

(12) 陈源蒸. 中文图书ECIP与自动编目手册. 北京图书馆出版社, 2003, 436p.

(13) 修訂後の規格コードは、「图书在版编目数据」が[GB/T12451-2001]、「图书书名页」が[GB/T12450-2001]。詳細は、傅祚华編著. 图书书名页标准解说. 北京, 中国标准出版社, 2007, 201p. を参照。

(14) 国内の出版やメディアに関する事業の監督・管理を行っている国務院直属の機関。また、著作権の保護・管理も行っており、その際は国家版権局の名称を用いる。

(15) 樊玉敬ほか. 我国图书在版编目(CIP)工作研究综述. 津图学刊. 2003(4), p. 14-19.

(16) 郝志平. 我国图书在版编目工作获突破性进展. 中国新闻出版报. 2005-09-29, 第001版.

(17) “CIP中心”. 中国新闻出版信息网. http://www.cppinfo.com/zxgk/jgjs/cipzx/index.shtml [49], (参照 2010-09-02).

(18) 偽造の理由の1つとしてISBNの不足が挙げられる。ISBNは前年の出版量に応じて、配布量が決められるため、出版者のなかには、ISBNが不足した場合に、異なる出版物に同じISBNを付与することがある。その際、CIPデータも偽造される。

(19) 正式出版物とは、新聞出版総署にISBN登録をして一般に流通する出版物という概念であり、合法非合法の判断規準ではない。反義の非正式出版物は、灰色文献の概念に近い。

(20) 1999年から2004年には『图书在版编目快报』(週刊)も刊行されていた。

(21) 唐开ほか. 20世纪90年代以来在版编目(CIP)研究论文统计分析. 全国新书目. 2007, (701), p. 79-81.

(22) 沈凌燕. 图书在版编目存在的问题分析及改进对策. 大学图书情报学刊. 2004, 22(3), p. 61-62. によると、記述の誤りは33%、分類の誤りは36%、件名の誤りは20%。

(23) 郝志平. 中国CIP:问题和对策. 中华读书报. 2000-10-11, 第043版.

(24) こうした事態に対処すべく管理体制の強化が図られている。例えば、提出された工作単の記載が不完全な場合は出版者に返却して、完全に修正されるまでデータ検査を保留する。さらには、出版後の図書のCIPデータの正確さを調査し、毎年の定期検査の項目に加えるなど。
新闻出版总署信息中心. 关于继续加强CIP工作,进一步提高数据质量的函. 新出信. 2006-08-11, 2006(53).

(25) 杨兰芝ほか. CIP存在的问题与ECIP计划的实施. 现代情报. 2007(6), p. 149-151.

(26) 张耀蕾. 中美在版编目的比较研究. 图书馆学研究. 2008(5), p. 47-51.

(27) 筆者が実務研修を受けた中国国家図書館の目録作成部門においても、CIPデータは参考程度に参照するだけで、情報源としては採用していない。

(28) ECIPとは、出版物の電子テキスト情報を基にCIPデータを自動生成し、より正確なデータ生成を行うこと。

(29) 前掲注(12)。

(30) 中国大百科全书 : 图书馆学、情报学、档案学. 北京, 中国大百科全书出版社, 1993, p. 555.

(31) 纪晓平ほか. 我国呈缴本制度的立法思考. 大学图书馆学报. 2006(3), p. 18-23.

(32) 独自開発のシステムを用いているが、Ex Libris社のALEPH500の導入が予定されている。

(33) 新刊図書は、基本的に納本で3部、その他の手段で2部、合計5部を収集する。

(34) 顾犇ほか. 全国图书馆联合编目工作的回顾与展望. 国家图书馆学刊. 2008, (65), p. 72-74.

(35) “数据库介绍”. 全国联合编目中心. http://olcc.nlc.gov.cn/proserv-sjkjs.html [50], (参照 2009-05-08).

(36) “服务范围”. 全国联合编目中心. http://olcc.nlc.gov.cn/join-fwfw.html [51], (参照 2009-05-08).

(37) Ben, Gu. “National Bibliographies: the Chinese Experience”. World Library and Information Congress: 72nd IFLA General Conference and Council 2006. Seoul, Korea, 2006-08-20/24, IFLA, 2006. http://ifla.queenslibrary.org/IV/ifla72/papers/109-Gu-en.pdf [52], (accessed 2009-05-08).

(38) 肖希明ほか. 《全国总书目》与图书馆文献资源建设. 图书馆. 2008(6), p. 26-29.

(39) 黄俊贵. 我国书目系统控制的流弊及其对策-从UBC与UAP说起-. 全国总书目2006 电子版使用手册. 2006, p. 1-23.

(40) 柯平ほか. 21世纪的国家书目控制. 全国总书目2005 电子版使用手册. 2005, p. 1-23.

(41) 赵志刚. 对国家图书馆接受呈缴本的思考-基于新制度经济学视角的分析. 信息资源建设中的图书馆采访工作:第二届全国图书采访工作研讨会论文集. 北京图书馆出版社, 2007, p. 139-145.

(42) 北京市、湖北省、内蒙古自治区、深圳経済特別区、上海市、浙江省、河南省など。

(43) 孙雷. “中外图书馆样本缴送制度比较分析”. 中国人大网. 2009-03-25.
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/rdlt/fzjs/2009-03/25/content_1495035.htm [53], (参照 2009-05-08).

(44) 前掲注(38)。

(45) “十一届全国人大常委会立法规划”. 中国人大网. 2008-10-29.
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/syxw/2008-10/29/content_1455985.htm [54], (参照 2009-05-08).

(46) 李常慶. 中国における図書館法制度の成立およびその課題. 情報の科学と技術. 2009, 59(12), p. 597-603.

(47) “图书馆法列入本届人大常委会立法计划:图书呈缴有望引入补偿机制”. 法制日报. 2008-08-03.
http://www.legaldaily.com.cn/bm/2008-08/03/content_915042.htm [55], (参照 2009-05-08).

(48) 书业公共数据交换中心. http://www.cbip.cn/ [56], (参照 2009-05-08).
なお、中版通公司は現在、2008年に設立された数字伝媒有限公司に統合されている。

(49) 聚焦跨业书目协作与共享. 新华书目报 社科新书目. 2008-08-18, (868), C1,C4-C7版.

  • 参照(7027)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

2. 2. 中国国家図書館における中国語資料の収集と組織化

 PDF版はこちら [57]

 

 本節では、中国国家図書館における中国語資料(図書、雑誌、新聞、学位論文、非正式出版物)の収集・組織化について、担当部署である中国語収集整理部【中文采編部】での業務内容を詳しく紹介する。

 同部内の組織構成と業務分担は次の通りである。図書の収集業務は中国語図書収集組が、目録作成業務は中国語図書書誌データ組が、装備は中国語図書装備組がそれぞれ担当する。逐次刊行物の収集整理業務は、中国語逐次刊行物収集整理組が行い、雑誌と新聞で担当グループが分かれている。学位論文は学位論文収集整理組が、非正式出版物は中国語資料組が担当している。その他、台湾・香港・マカオの出版物の収集整理を行う台湾・香港・マカオ文献収集整理組、著者名典拠や件名典拠のコントロールを行う典拠及び件名標目組、2.1.で述べた全国図書館聯合編目センターを運営する総合目録組、ISSNセンターを運営するISSN組、データ遡及を担当する遡及書誌データ組がある。

 

2. 2. 1. 図書

 

(1) 収集

 収集業務を担当する中国語図書収集組の職員は全23名で、そのうち正職員が11名、臨時職員が12名である。納本に係る連絡事務、地方志・図書館学資料・敦煌文献の処理、会計事務、欠本処理【补藏】、データ検査【校对】は正職員が担当し、現品検収・受入・登録などの定型業務は臨時職員が行う。

 

①収集経路と受入部数

 年間の受入量は図書約64万冊、CD-ROM約3万枚である。入手手段は納本、購入、寄贈の3種類で、ほとんどの資料について複数部数を収集する。一般図書の場合、基本的な収集部数は、納本3部、購入2部の都合5部であるが(図2.6A)、最大で6部まで受け入れる場合もある。その場合、受入れ順序によって処理が異なっており、例えば6部目が寄贈(図2.6B)もしくは納本(図2.6C)の場合は、蔵書として受け入れ、7部目以降は他の図書館に無償で提供する【调拨】。6部目が購入本の場合は書店に返却する(図2.6D)。

 

図2.6 収集経路と受入部数

図2.6 収集経路と受入部数

 

②納本

 納本される図書は、全国約580の出版社から国家図書館に直接送付される。納本率は約61%(1)である。新聞出版総署の行政規則では、出版後1か月以内に納本するよう定められているが、地方出版の場合は遅れることが多く、実際には3か月から1年を要している。納本部数は、定価100元未満が3部、100元以上及びセット価格1,000元以上が1部であるが、100元以上であっても、比較的安価な図書は3部納本されることが多い。

 

③購入

 購入本の納品業者は毎年入札によって決定され、2008年現在は取次業者の中国図書進出口総公司が一括して納品している。納品業者は毎年更新されるのが原則だが、実績が良ければ1年に限って延長することができる。

 基本的には2部を購入するが、定価500元以上の資料は、取次業者から送られてくるリストをもとに、1~2部を発注する。10,000元以上になると、業務管理処に報告書を提出し、さらに館長の決裁が必要となる。

 出版後3か月を経過しても納品されない新刊書、欠本補充、立法・政策決定サービス部向けの推薦書、年鑑類などは北京国図書店から購入している。また、法律出版社と機械工業出版社の出版物については、試験的に両出版社から直接購入している。

 

④寄贈

 個人や団体からの年間の寄贈受入数は約250冊である。受入にあたっては、正式出版物であることが第一条件となる。新聞出版総署情報センターのホームページ(2)で、図書のCIPデータに記されているチェック番号【CIP数据核字】を用いて検索し、当該データがヒットしなければ非正式出版物と判断してここでは受け入れない(3)。

 また、出版されて5年未満の図書は最大6部、5年を過ぎた図書は2部のみ受け入れることを原則としており、これらを超過する場合は受け入れない。仮にこの条件を超えた部数が寄贈された場合は、蔵書としては受け入れずに、他の図書館に無償提供する(4)。献詞の記された資料を他館へ提供する場合、寄贈者の本意と反することもあるため、寄贈者と相談の上、その可否を決定する。

 

⑤複本とその属性

 同一タイトルにつき複数部数を収集するため、資料を受け入れる際には、受入順序によって各部それぞれ異なった属性が割り当てられる。1部目が「保存本」、2部目が「基蔵本」、3部目が「閲覧本」、4部目が「貸出本」、5部目が「デジタル化」、6部目が「閲覧・貸出の代替本」である(図2.7)。

 

図2.7 受入資料の種別(図書)

図2.7 受入資料の種別(図書)

 

 保存本は永久に保存される資料で、本館一期館の保存本書庫に収められる。完全に保存用なので、他に複本が無い場合を除いて、原則として利用に供さない。

 基蔵本の「基蔵」とは、「基本蔵書」の略で、長期的に保存しかつ利用にも供する資料である。本館一期館の基蔵本書庫に収蔵される。同一資料が3部以上ある場合は、出版されてから5年以内は、3部目以降のみを利用に供して、基蔵本は利用に供さない。5年が経過すると3部目以降は除籍され、保存本と基蔵本のみが残されるので、以降は基蔵本を利用に供する。なお、5年以内であっても同一資料が合計2部しかない場合は、基蔵本が利用される。

 3部目は開架閲覧用で、出版されてから5年間、本館二期館の閲覧室に開架される。5年を過ぎると除籍され、状態の悪いものは廃棄され、状態の良いものは財政状況の厳しい地方の図書館などに寄贈される。

 4部目は貸出本である。出版されてから3年間、本館一期館の館外貸出閲覧室に開架されて、利用者は手続きをして館外に借り出すことができる。3年を過ぎると除籍され、廃棄もしくは他の図書館に寄贈される。

 国家図書館では、古典籍のみならず新刊書についてもデジタル化を進めており、この作業に5部目を使用する。

 6部目は閲覧本や貸出本が破損した際の代替本として5年間、保管される。5年を過ぎて残ったものは、地方の図書館などに寄贈される。

 

⑥受入処理

 到着した資料は現品検収の後、出版社別に区分して、ALEPH500で受入処理を行う。

 重複調査をしたのち、新規受入の資料について簡略な書誌データを作成する(図2.8)。その際、全国図書館聯合編目センターのデータベースに既存データがある場合はダウンロードして利用する(5)。

 

図2.8 ALEPH500目録作成機能 簡略書誌データ

図2.8 ALEPH500目録作成機能 簡略書誌データ

 

 さらに、別システム【采访拟定系统】を用いて、書店の提供するデータを取り入れて簡略書誌データを作成する実験も行われており、将来的には実用化する方向で検討が進められている。

 簡略書誌データの作成後、発注情報【订单】(図2.9)を作成し、さらに到着情報【登到】(図2.10)、個体情報【单册】(図2.11)を作成する。発注情報には入手方法(納本、購入、寄贈)、書店名、数量、価格などの情報を、個体情報には供用先の情報を入力する。これらデータを入力後、標題紙にバーコードを貼付し、蔵書印を押印して、受入処理が完了する。

 

図2.9 ALEPH500収集機能 発注情報

図2.9 ALEPH500収集機能 発注情報

 

図2.10 ALEPH500収集機能 到着情報

図2.10 ALEPH500収集機能 到着情報

 

図2.11 ALEPH500収集機能 個体情報

図2.11 ALEPH500収集機能 個体情報

 

⑦供用

 受入処理の完了後、1部目と2部目は、目録データ作成のため中国語図書書誌データ組に送られる。3、4、6部目は迅速に利用に供するため、中国語図書装備組でラベル貼付などの装備をした後、利用提供部門へ送られる。5部目はデジタル資源部にてデジタル化される(図2.12)。

 

図2.12 資料の流れ

図2.12 資料の流れ

 

⑧OPAC表示

 受入時に簡略書誌データを作成した段階で、OPACに当該データが公開される。各々の処理過程でデータが更新されると、ステータスが随時「受入処理中【记到处理中】」「目録作業中【编目中】」「装備中【文献加工中】」と変更される。「書架にあり【在架上】」となれば利用者が利用可能である。「受入処理中」から「書架にあり」までの目標期限は1か月と定められている。

 

(2) 目録作成

 中国語図書の目録作成を担当するのは、中国語図書書誌データ組である。

 

①目録規則

 基本規則は『中国文献編目規則』第二版(北京図書館出版社2005)に拠る。実務作業に当たっては、CNMARCの利用ガイドである『新版中国機読目録格式使用手冊』(北京図書館出版社 2004)や、その簡略版『中文図書機読目録格式使用手冊』(華芸出版社 2000)、及び事務細則『中文普通図書著録規則』などを使用している。

 著者名典拠【名称规范】の細則については、内部刊行の『中国機読規範格式使用手冊 ;中文図書名称規範款目著者規則 ; 中文図書主題規範数据款目著録規則』(国家図書館図書採編部 2001)及び事務細則『規範控制簡述』を使用している。また、西洋人名は中国語訳の姓を標目形とするため(例えばCharles Robert Darwinは达尔文)、中国語訳に『世界人名翻訳大辞典』(中国対外翻訳出版公司 2007)を用いる。

 

②目録データ作成

 目録データの作成に当たっては、2つの方法がある。1つは全国図書館聯合編目センターの総合目録データベースからダウンロードする方法【套录编目】、もう1つは自館作成【原编】である。詳細については2.1.5.(2)を参照。

 

図2.13 ALEPH500目録作成機能 図書書誌データ編集画面

図2.13 ALEPH500目録作成機能 図書書誌データ編集画面

 

③著者名典拠

 著者名典拠で特徴があるのは、東アジアの人名については、標目形の姓と名の間を分かたない点である。その理由について複数の担当者に尋ねたところ、中国において人名を呼称する場合、姓のみで呼称することはなく、姓名をあわせた全称で呼ぶのが習慣のためという回答が多かった。同姓同名が多い中国においては、仮に姓名を分離したとしても、検索や差異化の観点からすると有効ではないという理由である(6)。

 しかし、同様の呼称習慣を持つ台湾においては、例えば台湾国家図書館OPACの著者名標目は姓と名をスペースで区切っているなど、人名呼称の習慣は必ずしも標目形の姓名を分かたないことの積極的な根拠とは言い切れない。

 

図2.14 ALEPH500目録作成機能 著者名典拠データ

図2.14 ALEPH500目録作成機能 著者名典拠データ

 

 著者名典拠に関しては、国家図書館、中国高等教育文献保障系統(CALIS)、香港大学図書館長聯席会、台湾漢学研究中心の4機関が成員となり、中国語著者名典拠総合調整委員会【中文名稱規範聯合協調委員會】が毎年開催されている。同委員会のホームページ(7)では、参加4機関と米国議会図書館の著者名典拠データベースの一括検索プラットフォームを提供している。また、2008年11月に開かれた第6回会議において、著者名典拠の共同データベースを構築する方針が確認された。2009年には試験システム「中国語著者名典拠総合データベース検索システム【中文名称规范联合数据库检索系统】」が構築され、2010年に正式運用の予定である。今後は、標目形の統一化も含めた共通の典拠規則の制定について議論の進展が期待される。

 

④主題分析

 件名【主题词】と分類【分类号】の付与には『中国分類主題詞表』第二版 (北京図書館出版社 2005)及びその電子版を用いる(図2.15)。

 

図2.15 『中国分類主題詞表』第二版 電子版

図2.15 『中国分類主題詞表』第二版 電子版

 

 分類は、「中図分類号」と「排架分類号」の2種類を付与している。「中図分類号」は『中国図書館分類法』第四版(北京図書館出版社 1999)(8)に拠り、中国語図書書誌データ組による詳細な主題分析を経て付与される書誌分類である。もう1つの「排架分類号」は『中国図書館分類法簡本』第四版(北京図書館出版社 2000)に拠るもので、収集部門において付与される。これは「中図分類号」を簡略化したものである。

 請求記号【索书号】は「排架分類号」の前方に出版年、後方に図書記号を組み合わせて生成される。図書記号は書庫資料の場合は一連番号を、開架資料の場合は著者姓名の漢字拼音(ピンイン)の頭文字3字を採用している。書庫資料については、中国語図書書誌データ組にて「中図分類号」を付与した後に、「排架分類号」に一連番号を加えた請求記号順に書庫へ納架される。この過程には相応の時間を要するため、迅速な資料提供には向いていない。そのため開架閲覧及び館外貸出に供する図書については、中国語図書収集組にて「排架分類号」を付与後、中国語図書書誌データ組を経由することなく閲覧部門へ資料を流して利用に供している。また、著者名に拠る図書記号を採用することで同一著者を集中化させブラウジングの利便を図っている。

(請求記号の例)
書名/著者名:清代报人研究 / 程丽红著
中図分類号:G219.294.9
排架分類号:G219.2
書庫資料の請求記号:2008/G219.2/68
開架資料の請求記号:2008/G219.2/clh

 「排架分類号」は、排架を主眼としているため、主題分析にはさほど労力を割かず、CIPデータに記載されている分類をそのまま付与することが多い。ただし、2.1.3.(3)で述べた通りCIPデータには間違いが多く、特に分類については品質の低さが指摘されており、詳細な主題分析を経て付与される「中図分類号」と相違することが間々ある。しかし、「中図分類号」は書誌分類、「排架分類号」は排架分類と明確に区別されているため、両者間の違いが資料管理や閲覧業務に影響を及ぼすことはない。

 また図書記号についても、書庫資料は一連番号、開架資料は著者名拼音(ピンイン)と違いがあるため、書庫と開架で請求記号が異なるが、書庫資料が開架資料になることはなく、またその逆も無いため、これについても問題は生じない。

 

2. 2. 2. 雑誌

 逐次刊行物の収集整理業務は中国語逐次刊行物収集整理組が行い、雑誌と新聞とで担当が分かれている。

 雑誌の収集整理業務は、組長1名、収集担当3名、目録担当4名、チェックイン担当12名、その他の業務5名で行っている。

 

(1) 収集対象

 継続タイトル数は約1万種、年間の受入部数は約38万冊である。正式出版物は網羅的に収集するが、非正式出版物は積極的には収集していない(9)。両者の区別については、制度上は出版物を統括する新聞出版総署の認可を得たものか否かであるが、現物から判断する際に指標となるのは、ISSNと国内統一刊号である。

 中国国内のISSNは国家図書館内に設置されたISSNセンターで管理されており、ISSN組が実務を担当している。国内統一刊号とは中国国内の逐次刊行物に付与される記号で、「CN」の後に、規格で定められている行政区画番号(10)、一連番号、分類記号を加えて構成される。例えば、国内統一刊号「CN35-1139/J」の場合、「35」は福建省、「1139」は福建省のなかの一連番号、「J」は『中国図書館分類法』の芸術類を意味する。

 なお、逐次刊行物にはさらにもう1つの記号が付与されている場合がある。郵便発送番号【邮发号】と呼ばれるのもので、郵便局が定期購読を取り扱っているタイトルにはこの番号が付いている。

 

(2) 収集経路と受入部数

 収集経路は納本と購入の2種類である。行政規則で定められた納本部数は3部であるが、完全に納本されるタイトルは全体の約50%である。その他は、部数不足のタイトルが約30%、納本漏れが約20%である。督促をしても納本されないものは購入して補うほか、さらに複本が必要な場合も購入で収集している。

 

(3) 購入タイトル選定

 購入タイトルについて、毎年1度、選定作業を行う。取次書店8社(11)から送られてくる約6万件の雑誌データを精査し、重複を排除したのち、継続と新規に区別してタイトルを決定する。購入に係る年間予算は約300万元、新規タイトルは毎年500件~600件、打ち切りタイトルは約100件である。タイトル決定の後、購入タイトルを取次書店に通知し、価格交渉をして正式に発注を確定する。

 

(4) 発注情報の作成

 ALEPH500で、発注情報【订单】を作成する(図2.17)。同一タイトルを納本及び購入の2つの経路で入手する場合は、それぞれの経路ごとに発注情報を作成する。その際、書店情報に、納本分は出版者コードを、購入分は書店コードを入力し、「収集方法【采访方式】」に納本と購入を区別するコードを入力する。さらに、それぞれの発注データごとに、刊行頻度に基づいて1年間に予測される数量分だけ、受入用データを自動生成する【建立单册】(図2.18)。

 

図2.17 ALEPH500収集機能 発注情報の作成

図2.17 ALEPH500収集機能 発注情報の作成

 

図2.18 ALEPH500収集機能 受入情報の作成

図2.18 ALEPH500収集機能 受入情報の作成

 

 2008年までは、継続タイトル約1万種について、すべて手作業で処理を行っていたため、かなりの時間と労力を要していた。そこで、ALEPH500のサブシステムとして、APSS(ALEPH Preordering System for Serial)が開発され、2009年分からはバッチ処理にて自動処理が可能となった。タイトルリストのデータを流し込み、継続タイトルデータと突き合せをして、修正の必要のないデータについては、自動で受入用データの予測作成まで行う機能である。これにより労力の大幅な削減、並びにこれまで脆弱だった統計機能の向上が実現された。

 

(5) チェックイン作業

 到着した資料は、一般雑誌を人文社会科学・自然科学の2分野、紀要類を人文社会科学・自然科学の2分野、合わせて4分野に粗分けする。次にタイトルの頭文字の筆画数別に分類した後、さらに同一筆画数の中を「てん、よこ、たて、はらい【点・横・竖・撇】」の起筆別に細分して、同一タイトルを集中させる(図2.19)。その後、筆画数ごとに定められている担当者が、ALEPH500でチェックイン登録【记到(登到)】を行う(図2.20)。チェックイン時に新着資料が発見された場合は、目録担当者に回し、書誌作成を行った後に、チェックインする。

 

図2.19 チェックインの流れ

図2.19 チェックインの流れ

 

図2.20 ALEPH500収集機能 チェックイン画面

図2.20 ALEPH500収集機能 チェックイン画面

 

 発注情報の作成時に、年間の受入用データを予測して作成済みのため、チェックイン時には当該巻号を選択して、バーコードを読み込ませるだけで、受入順序に基づいて各個体の属性が決定され、個体情報として登録される(図2.21)。

 

図2.21 ALEPH500収集機能 個体情報の入力

図2.21 ALEPH500収集機能 個体情報の入力

 

図2.22 受入資料の種別(雑誌)

図2.22 受入資料の種別(雑誌)

 

 1部目と2部目はそれぞれ保存用と基蔵用で、チェックイン後に事務室に隣接する仮書庫【中文期刊周转库】に筆画順で納架する。3部目は閲覧用で、本館二期館の雑誌閲覧室【北区中文期刊区】で開架提供される(図2.22)。継続誌約1万タイトルのうち、約7,000タイトルが開架提供されている。2年が経過すると、1部目と2部目を製本し、1部目は保存用として、2部目は基蔵用として、正書庫【书刊保存本库、中外文期刊库】へ送られる。製本時には、ALEPH500にて、合冊製本の単位で個体データを再生成する【挂接】。開架用は、1、2部目の製本が終了した後(約2年半後)に除籍され、以後は基蔵用が利用に供される。4部目以降が到着した場合は、破損代替用及び他の図書館への無償提供用として【中文期刊流通本】、仮書庫内に別置して保管する【中文期刊复本库】。

 

(6) 排架方法

 チェックインならびに仮書庫への納架時には筆画順で、開架書架及び正書庫では請求記号順で排列される。これは、『中国図書館分類法』が制定される以前は、正書庫の排架も含めて全てが筆画順で処理されていたことの名残である。同分類法の制定後は、正書庫内の排架は分類順に改められたが、チェックイン作業は筆画順のまま現在まで至っている。

 全体的な作業工程の観点からすると、効率性に欠けるようにも思えるが、複本処理の効率化のためには、相応の理由が考えられる。つまり、チェックイン前に可能な限り同一タイトルを集中化させ、常に同一の担当者がチェックイン処理することで、納入状況を容易に把握し、欠号督促のタイミングが計りやすい。仮に別の方法を採用した場合、同一タイトルの同一巻号が、別の担当者や異なるタイミングで処理される可能性があり、納入状況の同期的な把握が難しい。複本の処理を前提に考えた場合、この方法のほうが効率が良いという判断である。また、作業の流れを根本的に変更することのコストと、変更によって得られる効果とを比較して考えても、現状維持が得策というのが現場の意見である。

 

(7) 目録作成

 基本規則は『中国文献編目規則』第二版(北京図書館出版社 2005)に拠る。実務作業に当たっては、CNMARCの利用ガイドである『新版中国機読目録格式使用手冊』(北京図書館出版社 2004)のほか、『中文連続出版物機読目録著録細則』(華芸出版社 2001)を使用している。

 請求記号は雑誌【期刊(qi kan)】を表す「Q」に続けて、「分類」「一連番号」「開始巻号」「開始年」から成る。

(請求記号の例)Q/I2/436/总1-/1984-

 

図2.23 ALEPH500目録作成機能 雑誌書誌データ編集画面

図2.23 ALEPH500目録作成機能 雑誌書誌データ編集画面

 

2. 2. 3. 新聞

 新聞の収集整理業務は、副組長1名、収集担当1名、チェックイン担当7名で行っている。

 

(1) 収集

 2008年末現在で、所蔵する総タイトル数は約1万種、継続タイトル数は約1,100種である。2008年に中国国内で出版された新聞の総タイトル数は1,943種(12)であるから、収集率は56%にとどまっている。

 中国国内で発行される新聞は、その発行地域と機関によって、①全国級、②省・部級、③地・市級、④県区級の4種に大別される。2008年の統計に拠ると、発行数は①224種、②826種、③877種、④16種である。

 国家図書館の資料収集方針書では「国内の市、地、専区及び自治州以上で発行された各種の新聞をできる限り集める」と定めており(13)、これに拠ると①②③が該当することになる。つまり、ほとんどの新聞が収集対象となるのだが、実際には級別が曖昧なものや不明なものが多く、収集漏れの原因となっている。また、45%という納本率の低さ(14)も収集率の低さの大きな原因である。その理由としては、新聞社の納本に対する理解が低いこと、及び新聞社自身の構造変化が激しく、担当者との連絡体制が不安定になりやすいことなどが指摘されている(15)。

 このように納本率が低いのに加え、納本部数が1部のみであること、さらに複本が3部必要なことなどから、新聞の収集においては、図書や雑誌など他の資料に比べて、購入による収集が大きな割合を占めている。

 毎年年末になると、次年度の購入タイトルを決定するリニューアル作業が行われる。前年度の実績及び『中国報紙名録』『郵発報刊簡明目録』などの関連資料を基に、次年度に購入予定のタイトル一覧表を作成し、収集する部数ならびに入手手段を記入していく。

 主な入手手段は、①郵便局、②新聞社からの直接購読、③配達員による配達、④赤帽【小红帽】、⑤納本の5種である。①郵便局分は、受け入れの仕分けの際に便利なよう、保存用を全国81局の一般郵便局に、閲覧用を近隣の魏公村局に分けて発注している。合訂本は②新聞社から直接購読し、北京の地元紙は③配達員により配達される。④赤帽は北京青年報社が運営する逐次刊行物の販売代理会社で、他の手段で入手できないものをここから購入する。

 

(2) チェックイン作業

 到着した資料は、チェックカードに受け入れ情報を記録して、紙面に青判を押印する。1部目と2部目はそれぞれ保存用と基蔵用で、チェックイン後は事務室に隣接する仮書庫に筆画順で納架する。ALEPH500では新着紙1部ごとのチェックインデータは入力しない。1か月ごとに紐で括ってまとめる際に(図2.25)、ALEPH500で個体データを作成する。2年が経過した後、製本して正書庫【报纸保存本库】へ納架する(図2.26)。

 3部目と4部目は閲覧用で、本館二期館の新聞閲覧室で開架提供される。約1,100タイトルの継続紙のうち、295タイトルが開架提供されている。最初の2か月間は3部目を未製本のまま提供し(図2.27)、2か月後はそれらを廃棄して、4部目を簡略製本して(図2.28)、2年間、開架提供する。保存用と基蔵用が製本された後に除籍され、他の図書館に無償で提供される。

 

図2.24 受入資料の種別(新聞)

図2.24 受入資料の種別(新聞)

 

図2.25 月単位でまとめられた保存用紙

図2.25 月単位でまとめられた保存用紙

 

図2.26 製本済新聞

図2.26 製本済新聞

 

図2.27 開架閲覧用の未製本紙

図2.27 開架閲覧用の未製本紙

 

図2.28 開架閲覧用の簡略製本紙

図2.28 開架閲覧用の簡略製本紙

 

(3) 目録作成

 目録作成は雑誌とほぼ同様である。請求記号は新聞【报纸(bao zhi)】を表す「B」に続けて、「地域コード」「一連番号」から成る。

(請求記号の例)B/CN11/0118

 

図2.29 ALEPH500目録作成機能 新聞書誌データ編集画面

図2.29 ALEPH500目録作成機能 新聞書誌データ編集画面

 

2. 2. 4. 学位論文

 学位論文の収集整理業務は学位論文収集整理組が担当し、職員は合計12名で、うち収集担当4名、目録担当4名、校正担当4名である。

 

(1) 中国における学位論文の分布

 中国国内の博士論文は、「中華人民共和国学位条例暫定実施方法」(1981年5月20日国務院批准)第23条により、以下のように定められている。

 

第二十三条 審査を通過した修士論文及び博士論文は、授与機関の図書館に1部を提出し保存しなければならない。審査を通過した博士論文は、さらに北京図書館及び関係の専門図書館に各1部ずつ提出し保存しなければならない。

 

 また、国務院学位弁公室により、人文社会科学分野の学位論文を中国社会科学院文献信息中心に、自然科学の学位論文を中国科学技術信息研究所に提出することが定められている(16)。

 このように、中国における学位論文は、授与機関である各大学や研究機関、そして全国規模の所蔵機関である国家図書館、中国社会科学院文献信息中心、中国科学技術信息研究所で主に所蔵されている。

 

(2) 国家図書館所蔵の学位論文

 2007年現在、国家図書館における博士論文の所蔵数は約18万7千件である。2007年の受入数は約4万件で、前年比30%の伸び率である。1999年から始まった高等教育の拡大政策により、大学院生の数が急増しており、その結果、博士論文の生産量も飛躍的に増加している。なかでも理工系、医学系が多く、北京大学、清華大学、浙江大学、武漢大学、復旦大学、同済大学などが論文生産量の上位を占める。修士論文は近年になってから収集を開始し、年間の増加量は約9万件である。さらに、ポストドクター研究員が所属を移動する際に提出を義務付けられているポストドクター研究報告書も収集している。また、海外における中国人留学生の博士論文や中国に関する博士論文も収集の対象にしているが、UMIなどから購入できるもの以外の収集量は多くない。

 

(3) 学位論文の収集

 学位授与機関から、教育部に対して授与者の名簿が提出され、教育部で取りまとめた後に国家図書館に名簿が送付される。名簿には姓名、題名、専攻分野、指導教官、発表時期、キーワードが記されている。国家図書館は名簿を受け取った後、各大学の学位授与部門や人事部門に連絡をして、北京市内の大学へは直接受け取りに行き、その他の大学からは郵送してもらう。ポストドクター研究報告書は大学から送られてくるほかに、著者自らが納本する場合もある。大学によっては、学位論文の認定条件として、国家図書館の受領証明書の提出を義務付けているところもある。

 国家機密に係る学位論文、軍事大学の学位論文、秘密保持期限がある学位論文(17)については、納期が遅れることがあるものの、最終的な納本率は98%に及ぶ。

 ところが、近年、中国科学院の内部規定が改訂され、2006年以降、同院所属の研究所が生産する博士論文が、同院所属の国家科学図書館にのみ送付されるようになった(18)。これにより、中国科学院から国家図書館に納本される博士論文の数が激減し、同院からの納本率が5%未満まで落ち込んでいる。国家図書館は、中国科学院に対して従来どおり納本するよう呼びかけ、両者間で妥協策を協議中であるが、2008年末現在は未解決のままである。

 また、商業データベース企業の台頭による新たな問題も発生している。近年、中国学術情報データベース(CNKI)を初めとする商業データベース企業が、学位論文を大規模に購入して商品化を進めているのにともなって、著者自らが学位論文をこれらの企業に売却してしまい、本来、国家図書館へ納本されるべきものが送られてこないという事態が起きている。また、大学によっては、著者から提出されたうちの1部をこれらの企業に売却してしまい、国家図書館に納本しないというケースもある。いまのところ、根本的な対処策はなく、所蔵大学にコピーを依頼するなどして、欠本を補っている。

 

(4) 受入及び目録作成

 収集した学位論文は、冊子ノート及びエクセルにて、授与機関、授与時期、数量、受理日などの簡単な項目を記録した後、ALEPH500で受入記録を作成する。

 博士論文の目録データは職員が作成し、修士論文の目録データ作成は外注している。現在は滞貨処理のため博士論文の一部分も外注しているが、これはあくまで滞貨解消のための一時的な措置である。

 目録データの作成にあたっては、記述部分と分類・標目部分とで担当を分けている。ヨミ(拼音(ピンイン))は付与していない。また、著者名典拠は、既存データにはリンクするが、新規作成はしていない。

 2.2.1.で述べたように、一般図書の場合は受入と同時にデータがOPACに表示されるが、学位論文は滞貨が多く、無用な混乱を避けるため、書誌作成が完了するまで非表示にしている。

 

(5) 閲覧提供

 目録データの作成と装備が終了した学位論文は、典蔵閲覧部へ供用され、閲覧に供される。秘密保持期限のある学位論文については、受け入れの際に保密室に別置し、制限期間が明けた後に目録を作成して公開する。秘密保持期限については、表示方法を定めた国家規格があるものの、大学によってその用語や年限指定が異なる場合もあることから、年限指定が曖昧な学位論文の公開に当たっては、必ず授与大学に確認をとり、公開許可の証明を得てから、公開をしている。公開の可否が曖昧なものは公開しない。

 

図2.30 学位論文閲覧室(閉架式)

図2.30 学位論文閲覧室(閉架式)

 

(6) 学位論文のデジタル化

 国家図書館では、博士論文と修士論文のデジタル化を行っている。インターネット及び館内PCで利用可能である。ただし、本文データは最初から24ページのみが閲覧可能で、全文を閲覧するためには、来館して原資料を利用する必要がある。

 その他、学位論文の電子データを提供している機関としては、国家科技図書文献中心、中国科学技術信息研究所、中国科学院国家科学図書館、そして各大学の機関リポジトリ、CNKIや万方数据などの商業データベースなどが挙げられる(19)。

 

図2.31 国家図書館の学位論文データベース

図2.31 国家図書館の学位論文データベース

 

2. 2. 5. 非正式出版物

 非正式出版物とは、市場に流通しない、いわゆる灰色文献に近い概念である。非正式出版物の収集については、近年、収集方針と収集体制の2つの側面から見直しが行われた。

 収集方針については、2003年に改訂された収集方針書「国家図書館文献採選条例」において、それまで限定的だった収集範囲の拡大を行った。

 まず、政府の非正式出版物について収集対象が明記された。重点的に収集するものとして、全国人民代表大会、政治協商会議、最高人民法院や最高人民検察院などの司法機関、国務院の各部・委員会及び直属機関が出版する公報、簡報、法律法規、業務報告、統計資料、資料集、調査成果などが挙げられている。

 また、学位論文も非正式出版物の一種として位置付け、「納本の対象となる国内の教育・研究機関が授与する博士論文及びポストドクター研究報告書は網羅的に収集」し、「海外の中国人留学生の博士論文及びポストドクター研究報告書、ならびに国内の教育・研究機関が授与する修士論文は重点的に収集する」とした。

 さらに、政府出版物と学位論文以外の非正式出版物については、省(市)級の機関、全国規模の学術団体、科学研究機関、重点大学、影響力の強い大企業、事業単位、権威ある出版機関などが編集出版したもの、及び学術性、資料性、参考性が高く収集する価値があるものを対象とする。

 収集体制については、2008年3月に非正式出版物の収集を担当する中国語資料組を中国語収集整理部内に設置し、収集対象となる機関に対して「国家図書館における非正式出版物の収集について」と題する通知を行い、収集活動を開始した。同年7月から10月までの4か月間に収集した資料は約500種1,300冊である。担当者によると、出版状況を把握することの難しさ、さらには著作権や秘密保持の問題、檔案との境界が曖昧なものがあるなど、軌道に乗せるにはある程度の時間が必要ということである。

(前田直俊)

 

注

(1) 全国政协委员、国家图书馆馆长周和平呼吁:加快公共图书馆立法. 中国文化报. 2010-03-16, 第2版.
http://news.idoican.com.cn/zgwenhuab/html/2010-03/16/node_24311.htm [58], (参照 2010-09-02).

(2) “CIP中心”. 中国新闻出版信息网. http://www.cppinfo.com/zxgk/jgjs/cipzx/index.shtml [49], (参照 2010-09-02).

(3) 非正式出版物については2.2.5. を参照。

(4) 施設・蔵書ともに整備が遅れている西部地域の図書館に贈られることが多い。

(5) 全国図書館聯合編目センターについては2.1.5. を参照。

(6) 著者名標目の差異化については、以下を参照。
顾犇ほか. “「中国文献編目規則」と「国際目録原則」”. 渡邊隆弘訳. IFLA目録原則:国際目録規則に向けて, 4. ティレット, バーバラ B.ほか編. München, K.G.Saur, 2007, p. 439-454, (IFLA Series on Bibliographic Control, 32).

(7) 中文名稱規範聯合協調委員會. http://www.cccna.org/ [59], (参照 2010-09-02).

(8) 2010年8月に第五版が出版された。

(9) 継続タイトル約1万種のうち、正式出版物は約9,000種、非正式出版物は1,000種弱である。

(10) 《中华人民共和国行政区划代码》(GB2260-1995)

(11) そのうち主な取次業者は、海天华教、人天、国图书刊公司、郵便局の4社。

(12) 中国出版工作者协会ほか編. 中国出版年鉴 2009. 北京, 中国书籍出版社, 2009. による。

(13) 担当者の説明による。資料収集方針書については、「北京图书馆书刊采选条例」(1996)制定の後、2003年と2006年に改訂版「国家图书馆文献采选条例」が制定されたが、内部刊行のため未見。2003年改訂版の概略は、汪东波, 赵晓虹. 完善文献采选政策,建设国家总书库—《国家图书馆文献采选条例》修订概述. 国家图书馆学刊. 2004年第1期, p. 7-11,20. で紹介されている。

(14) 前掲注(1)。

(15) 牛春兰, 陈国英. 从报业发展看国家图书馆中文报纸馆藏建设. 国家图书馆学刊. 2004年第2期, p. 13-17.

(16) 赵嘉朱. 中国学位论文管理的历史回顾与前景展望. 中国社会科学院研究生院学报. 2006年第4期, p. 136-141.

(17) 秘密保持の種類や保持期間については、国家規格《文献保密等级代码与标准》(GB/T7156-2003)で規定されている。

(18) 担当者の説明による。

(19) 陈传夫ほか. 我国学位论文服务模式调查与服务机制创新. 图书馆. 2008年第4期, p. 59-62.

  • 参照(9152)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

3. 利用者サービス

  • 参照(4843)
図書館調査研究リポート [4]

3. 1. 閲覧サービスと閲覧室

 PDF版(3章)はこちら [60]

 

3. 1. 閲覧サービスと閲覧室

 

3. 1. 1. 利用資格と利用手続き

 国家図書館は満16歳以上を利用対象としている。ただし、少年児童図書館の利用対象は満6~15歳である。

 週末の連休及び法定祝祭日には、中学・高校生、保護者同伴の小学生以下の子どもも館内見学ができる。小中高生の団体見学は常時可能である。

 閲覧室に入室するとき、サービスポイントでサービスを受けるときは、いずれも国家図書館利用者カードが必要となる。満16歳以上の中国国民は、第二代身分証(1)の提示により開架閲覧室での閲覧が可能である。少年児童図書館入館には少年児童図書館利用者カードが必要となる。利用者カード所持者は国家図書館資料利用規則その他関係規則を遵守しなければならない。また、高齢者や障害者には利用に際して優遇措置が講じられている。

 利用者カードの種類と機能、発行手続きは表3.1のとおりである。

 

表3.1 中国国家図書館利用者カード一覧

カードの種類カードの機能利用可能範囲申請条件発行手続き登録有効期限
利用者カード基本機能普通閲覧室(開架・閉架)閲覧機能普通閲覧室(開架・閉架)の閲覧満16歳以上の中国国民及び外国人有効な本人身分証明書(身分証、軍人証、パスポート、香港・マカオ通行証、台湾同胞帰郷証、戸籍簿)を持参し、「国家図書館利用者カード申請書」に記入すればその場で発行される。初回手続きは手数料不要。3年
少年児童図書館利用者カード開架閲覧室閲覧機能少年児童図書館満6~15歳の少年・児童有効な本人身分証明書(身分証、戸籍簿、パスポート、香港・マカオ通行証、台湾同胞帰郷証)、学籍カード、学生証を持参し、「国家図書館少年児童図書館利用者カード申請書」に記入すればその場で発行される。初回手続きは手数料不要。1年
第二代身分証開架閲覧室閲覧機能普通開架閲覧室での閲覧満16歳以上の中国国民第二代身分証を所持する本人が開架閲覧室に直接来室する。3年
利用者カードまたは第二代身分証拡張機能基蔵資料閲覧機能基蔵書庫所蔵の資料が閲覧できる。資料利用は当日のみ。貸出不可。満16歳以上の中国国民及び外国人利用者カードまたは第二代身分証を持参し、申請書に記入し保証金100元を納付する。貸出機能の手続きを行えば、本機能は自動的に付与される。3年
中国語図書貸出機能中国語図書貸出室所蔵図書3冊、附録ディスク3点の貸出が可能。満16歳以上の中国国民利用者カードまたは第二代身分証を持参し、申請書に記入し保証金100元を納付する。基蔵資料閲覧機能が自動的に付与される。3年
外国語図書貸出機能基蔵書庫所蔵の外国語図書3冊(出版後20年以上経過した図書を除く)、附録ディスク3点の貸出が可能。満16歳以上の中国国民利用者カードまたは第二代身分証を持参し、申請書に記入し保証金1,000元を納付する。基蔵資料閲覧機能が自動的に付与される。3年

出典:“办理借阅证”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/dzzn_bljyz.htm [61], (参照 2010-09-02). に基づき作成。

 

3. 1. 2. 閲覧室とサービスポイント

 国家図書館は原則として1年365日、法定祝祭日を含め毎日開館している。開館時間は次のとおりである。

 

本館南区(一期館)月曜~日曜9:00~17:00
本館北区(二期館)月曜~金曜9:00~21:00
 土曜、日曜9:00~17:00
古籍館月曜~金曜9:00~17:00

 

 各閲覧室及びサービスポイントで提供される資料とサービスの内容、サービス時間、利用条件は表3.2のとおりである。

 

表3.2 中国国家図書館閲覧室・サービスポイント一覧

名称提供資料サービス項目利用資格・カード要件サービス時間
本館北区(二期館・国家デジタル図書館)
総合レファレンスカウンター 来館及び非来館(電話)総合案内、一般的なレファレンス、蔵書検索支援 月~日
9:00-17:00
利用者カード受付 利用者カードの発行、第二代身分証の閲覧・貸出機能付与、機能変更、登録更新、チャージ等 月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00(利用者カード機能の手続きは毎日
9:00-16:30)
目録検索区 OPAC検索、貸出延長手続き、閲覧予約等 月~日
9:00-17:00
中国語図書区面積約7,000m2、閲覧席728、休憩席50
最近刊行された中国語の人文・社会・自然科学図書及び附録CD-ROM、計約50万冊(点)
閲覧(図書は開架、CD-ROMは閉架)、電子資源サービス、所蔵資料に関するレファレンス、複写サービス、研究室サービス等国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
参考図書区面積約2,000m2、閲覧席656
四庫全書及び関連叢書(影印版)、古典籍叢書、中国語・外国語参考図書、計約4万冊
開架閲覧、所蔵資料に関するレファレンス、複写サービス等国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
名著区面積540m2、閲覧席64、休憩席10
著名な受賞図書、名著、影響力のある現代の叢書、各分野の古典的著作等、計約2万冊
閲覧(図書は開架、CD-ROMは閉架)、電子資源サービス、所蔵資料に関するレファレンス、複写サービス等国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
アート・デザイン資料区面積1,100m2、閲覧席100、休憩席66
アート、デザイン関係の最近の中国語図書と附録CD-ROM、約7万冊
閲覧(図書は開架、CD-ROMは閉架)、電子資源サービス、所蔵資料に関するレファレンス、複写サービス等国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
中国語新聞区最近2年分の国内主要新聞295紙、OPAC検索可能でマイクロ化・電子化されていない建国後の国内刊行中国語新聞原紙(香港・マカオ・台湾及び外国刊行の中国語新聞を除く)開架閲覧、電子資源サービス、所蔵資料のレファレンス、複写サービス等国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
中国語雑誌区最近3年分の国内刊行中国語雑誌約7,000種、OPAC検索可能な基蔵書庫収蔵の合冊製本済中国語雑誌開架閲覧、電子資源サービス、所蔵資料のレファレンス、複写サービス等国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
デジタル共有空間インターネット学習区、デジタル研究区、特殊サービス区、電子ビジネス区、インターネット交流区、メディアセンター等のデジタルサービス空間デジタル資源・インターネットサービス、マルチメディア・録音映像資源の視聴、携帯型電子書籍リーダーの提供、障害者サービス、情報リテラシー研修等国家図書館利用者カードで有料閲覧(1人1日1時間は無料)月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
学術活動区学術報告ホール(面積315m2、300人収容)、レクチャールーム4室、会議室3室各種会議、講座、研修  
セルフ複写コーナー1、2、4階に各1箇所セルフ複写サービス、複写代行サービス(対象:高齢者・障害者・妊婦)国家図書館利用者カード(磁気・ICカード)、第二代身分証月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
サービス受付 スキャニング、印刷、写真撮影、製本等 月~金
9:00-21:00
土日
9:00-17:00
少年児童図書館面積約650m2、閲覧席80
少年・児童用の図書・雑誌・新聞・マルチメディアディスク・デジタル資源、約2万2000冊
図書・雑誌・新聞の開架閲覧、ディスク類の閉架閲覧、デジタル資源サービス、読書指導等少年児童図書館利用者カード、
同伴保護者(1名のみ)は有効な身分証を提示する。
月~日
9:00-17:00
本館南区(一期館)
利用者カードサービス
利用者カード受付 利用者カードの発行、第二代身分証の閲覧・貸出機能付与、機能変更、登録更新、チャージ等 月~日
9:00-17:00
(利用者カード発行と保証金返還は月~日
9:00-16:30)
レファレンスサービス
総合レファレンスカウンター2階に2箇所、4階に1箇所来館及び非来館(電話)総合案内、一般的なレファレンス、蔵書検索支援 2階:月~日
9:00-17:00
4階:月~金
9:00-17:00
文献提供センター 文献提供、図書館間貸出、国際貸出 月~金
9:00-17:00
社会科学レファレンス室 口頭・電話・文書レファレンス、事実調査、ビジネス情報検索等 月~金
9:00-17:00
科学技術レファレンス室 口頭・電話・文書レファレンス、事実調査、科学技術最新情報調査、ビジネス情報検索等 月~金
9:00-17:00
企業情報サービスセンタ― 専用のサービスプラットフォームによる企業関係情報提供サービス 月~金
9:00-17:00
検索サービス
OPACサービスコーナー2階と4階に各1箇所OPAC検索、貸出延長手続き、閲覧予約等 2階:月~日
9:00-17:00(土曜は予約サービスなし)
4階:日~金
9:00-17:00(予約サービスは
9:00-16:00)
カード目録検索コーナー2000年以前の中国語図書、2003年以前の外国語図書、電子閲覧室資料、マイクロフィルム、中国語・外国語雑誌のカード目録等  月~日
9:00-17:00
参考図書閲覧室主要言語の百科事典、常用参考図書、辞書、伝記資料、書誌等開架閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~日
9:00-17:00
中国年鑑閲覧室中国(香港・マカオ・台湾を含む)の総合・分野別・統計年鑑(創刊号から最新号まで)閉架閲覧国家図書館利用者カード日~金
9:00-17:00
閲覧サービス:一般資料
台湾・香港・マカオ文献閲覧室台湾・香港・マカオ及び国外刊行の中国語図書・雑誌・新聞閉架閲覧国家図書館利用者カード(資料によっては紹介状が必要)日~金
9:00-17:00
日本出版物文庫閲覧室最近2年間に整理された日本出版物文庫図書及び附録CD-ROM開架閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-17:00
外国語文献第一閲覧室最近3年間に整理された欧文人文・社会科学類図書(法律・文学・芸術類を除く)及び附録CD-ROM閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~日
9:00-17:00
外国語文献第二閲覧室最近3年間に整理された科学技術類図書及び附録CD-ROM、最近2年の外国語新聞閲覧(外国語新聞は閉架)国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~日
9:00-17:00
外国語文献第三閲覧室最近3年間の欧文雑誌及び附録CD-ROM(法律類を除く)閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~日
9:00-17:00
外国語文献第四閲覧室最近3年間に整理された日・露語図書(法律・文学・芸術類を除く)、日・露・韓国・朝鮮語雑誌、日・露語索引誌及び附録CD-ROM開架閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~日
9:00-17:00
閲覧サービス:専門資料
学位論文閲覧室国内の博士・修士学位論文及びポスドク研究報告書、海外学位論文、計約30万冊閉架閲覧国家図書館利用者カード日~金
9:00-17:00
マイクロ文献閲覧室各種マイクロフィルム・マイクロフィッシュ閉架閲覧国家図書館利用者カード(資料によっては紹介状が必要)日~金
9:00-17:00
国際機関及び外国政府出版物閲覧室1949年以降の国連及び国連専門機関、国連関係機関、EU、OECD、ADB、CRS、RAND、GPO、カナダ政府等の出版物閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-17:00
貴重書閲覧室古典籍貴重書(マイクロフィルム・影印本を含む)、新貴重書、外国語貴重書、金石拓片、少数民族語古典籍、中外地図等閉架閲覧、カード目録・オンライン書誌検索、レファレンス、複写サービス国家図書館利用者カード(保証金100元を含む)
原本閲覧には紹介状が必要
月~金
9:00-16:45(12:00-13:00は出納休止)
敦煌トルファン文献閲覧室敦煌・トルファン学研究資料閉架閲覧、所蔵資料に関するレファレンス、複写サービス国家図書館利用者カード月~金
9:00-17:00
中国少数民族語文献閲覧室少数民族語の図書・雑誌・新聞開架閲覧、カード目録・オンライン書誌検索、レファレンス、複写サービス国家図書館利用者カード月~金
9:00-17:00
保存本閲覧室中国語保存本(=永久保存)図書、3年以前の保存本雑誌、3年以前の台湾・香港雑誌及び内部資料閉架閲覧(貸出本、閲覧本、基蔵本、電子化・マイクロ化資料のいずれも利用できない場合のみ閲覧可)国家図書館利用者カード(内部資料閲覧には紹介状が必要)日~金
9:00-17:00(資料出納は
9:00-12:00、13:00-16:30)
法律参考閲覧室2003年以降の中国語法律図書、最近3年間の中国語法律雑誌、1993年以降の欧文法律図書、最近3年間の欧文法律雑誌、2000年以降の日・露語法律図書、最近3年間の日・露語法律雑誌開架閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証日~金
9:00-17:00
海外中国学文献研究センター1985年以降の欧文中国学図書、最近3年間の日・露語中国学図書、最近3年間の欧・日・露語中国学雑誌、国外中国学研究関係の中国語図書開架閲覧国家図書館利用者カード又は第二代身分証日~金
9:00-17:00
基蔵資料閲覧サービス
基蔵図書・雑誌出納台基蔵書庫所蔵の中国語・外国語図書及び外国語雑誌(中華人民共和国成立前の中国語図書・雑誌は含まない)閉架閲覧国家図書館利用者カード日~金
9:00-17:00
基蔵図書・雑誌閲覧室 基蔵図書・雑誌の閲覧国家図書館利用者カード日~金
9:00-17:00
基蔵外国語図書貸出出納台最近20年間の基蔵書庫所蔵の外国語図書館外貸出外国語資料貸出機能付き国家図書館利用者カード日~金
9:00-17:00
貸出サービス
中国語図書貸出室最近5年間の中国語図書(附録CD-ROMを含む)、約30万冊館外貸出中国語図書貸出機能付き国家図書館利用者カード又は第二代身分証月~日
9:00-17:00
24時間セルフ返却サービス南区東門に資料返却機を設置
厚さ6㎝、大きさ32㎝までの資料に対応
資料返却中国語図書貸出機能付き国家図書館利用者カード又は第二代身分証毎日24時間
その他のサービス
セルフ複写コーナー外国語文献第四閲覧室、海外中国学文献研究センター、国際機関及び外国政府出版物閲覧室に設置セルフ複写サービス、複写代行サービス(対象:高齢者・障害者・妊婦)国家図書館利用者カード(磁気・ICカード)、第二代身分証各閲覧室の開室時間
複写受付本館南区の利用者サービスエリア及び閲覧室複写、スキャニング、プリントアウト、マイクロフィルム引き伸ばし、写真撮影、製本、CD-ROM焼付 利用者サービスエリア:月~日
9:00-17:00
閲覧室:各閲覧室の開室時間
古籍館
利用者カード受付 利用者カード手続き 月~金
9:00-16:30
普通古籍閲覧室明・清・中華民国期の普通古典籍、中華人民共和国建国後に印刷された古典籍閉架閲覧、レファレンス、スキャニング、写真撮影、複写サービス国家図書館利用者カード(原本閲覧は修士課程在籍又は中級職称以上)月~金
9:00-17:00(資料出納は
9:00-12:00、13:00-16:30)
清史文献センター清史及び関連の大型史料叢書・研究書開架・閉架閲覧、複写サービス国家図書館利用者カード月~金
9:00-17:00(資料出納は
9:00-12:00、13:00-16:30)
地方志・家譜閲覧室1949年以前に編纂された地方志・家譜の原本閉架閲覧、レファレンス、複写サービス国家図書館利用者カード(原本閲覧は修士課程在籍又は中級職称以上)月~金
9:00-17:00(12:00-13:00は出納休止)
地方文献第一閲覧室1949年以降に編纂された全国各行政レベルの総合志、地方年鑑、地方志学研究参考書開架閲覧、レファレンス、複写サービス国家図書館利用者カード又は第二代身分証(16歳以上)月~金
9:00-17:00
地方文献第二閲覧室国内各業種志、地方政協文史資料、影印旧地方志、マイクロ化旧地方志、影印旧家譜、新家譜、関連参考書閉架閲覧、レファレンス、複写サービス国家図書館利用者カード月~金
9:00-17:00

出典:“读者指南 阅览室介绍”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆.
http://www.nlc.gov.cn/service/ylsjs.htm [62], (参照 2010-09-02). に基づき作成。

 

3. 1. 3. 本館二期館(国家デジタル図書館)の閲覧サービスモデル(2)

 国家デジタル図書館として2008年9月9日に開館した本館二期館は、最新のIT技術を駆使し、次のような新たなサービスモデルを展開している。

  • 館内全域を無線LAN化し、利用者が館内のどこからでも個人の携帯PCを使ってインターネット接続できる。
  • デジタル資源を利用しやすいように、利用者用PCを約500台設置した。うち、デジタル共有空間に約250台、残りは他の区域に分散配置されている。
  • RFID(Radio Frequency Identification=無線自動識別)技術により、二期館閲覧エリアの資料の現在の排架位置情報がOPAC上で利用者に即座に提供される。
  • 来館利用者が電子図書・雑誌・新聞等を閲覧するのに便利なように、携帯型の電子書籍リーダーを提供し、館内に電子読書ステーションを設置している。
  • 視覚障害者サービス専用エリアが設置され、視覚障害者は画面読み上げソフト対応PCや、国家図書館と中国障害者連合会が共同で構築した「盲人デジタル図書館」によって、健常者と同様にデジタル情報資源へのアクセスが可能である。
  • バーチャルリアリティ技術により来館利用者にバーチャルナビゲーションサービスを提供し、同時にインターネット上で非来館利用者に館内バーチャルナビゲーションを提供している。
  • 国家デジタル図書館展示システムを通じて、ユーザーにデジタル図書館システムの利用方法の研修を行うと共に、国家デジタル図書館構築の成果を展示している。

 

3. 1. 4. 本館の閲覧サービス概況(3)

 本館二期館は地下3階、地上5階で、ガラス張りの建物である(4)。地下1階から地上4階までが閲覧スペースで、地下2~3階は書庫、地上5階は事務スペースとなっている。

 吹き抜けの中央閲覧室には国内外の参考図書(2階)、古典籍及び一次資料類の影印叢書(1階)、四庫全書関連の影印叢書(地下1階)が開架されている(図3.1)。また、地下1階には、ガラス張りの保存書庫を設けて、四大貴重蔵書(5)のうちの1つである『文津閣四庫全書』の原本を保存する(図3.2)。普段は幕が下ろされていて、内部の様子を窺うことはできないが、記念式典の際には、幕を上げてガラス越しに一般に披露される。

 さらに、中央閲覧室の周囲を取り囲むかたちで、地下1階から地上3階まで、回字型の閲覧室があり、最近5年間に出版された中国語図書約60万冊が開架されている。また、4階には逐次刊行物の閲覧室が設けられ、最新2年分の中国語雑誌7,000タイトル及び中国語新聞約300タイトルを開架している。

 中国語図書にはすべてRFIDタグが貼付されており、OAPCを検索すると資料が排架されている書架と段数が図で表示され、入口からの最短経路が画面上に表示される。そのほか、タッチパネル式の大型閲覧器を10台設置し、毎日クローラを用いて採取した電子版の新聞約200紙を閲覧提供している(図3.3)。

 

図3.1 本館二期館の中央閲覧室

図3.1 本館二期館の中央閲覧室

 

図3.2 文津閣四庫全書を収める保存書庫

図3.2 文津閣四庫全書を収める保存書庫

 

図3.3 タッチパネル式大型閲覧器

図3.3 タッチパネル式大型閲覧器

 

 4階のデジタル共有空間には約250台のPCが設置され、国内外の電子ジャーナル、データベース、電子書籍、視聴覚資料など約130種類以上のコンテンツが提供されている。インターネットも利用できる。利用者カードのID・パスワードを入力すれば、1時間は無料で利用できるが、1時間を越えて利用する場合には、事前に利用者カードに料金をデポジットしておかなければならない。利用料金は1時間当たり3元である。さらに、携帯型の電子書籍リーダーの貸与も行っており、これに閲覧用PCから電子資料をダウンロードして、館内の随意の場所で利用することもできる。また、新館内には無線LANが張り巡らされ、持ち込みのPCで館内LANにアクセスすることもできる。

 一方、本館一期館には、外国語資料、学位論文、古典籍資料など、専門性の高い資料を配置する。また、館外貸出用の閲覧室を設置し、最近3年間に出版された中国語図書を館外貸出している。国立図書館が館外貸出サービスを提供していることに関しては、中国では公共図書館の整備が十分でなく、国家図書館に対して公共図書館としての機能を求める声が根強いという事情がある。ただし、そうした要請に応える一方、限られた予算と人的資源のなかで、これらのサービスにどのくらいの力点を置くべきか、また今後も継続していくべきかについては、館内でも議論されているようである。実際、2007年末の機構改革に当たって、従来3つあった貸出閲覧室を2つに減らすなど、貸出サービスにかける比重を減少させている。ある幹部職員によると、国家図書館が提供している公共図書館の機能のうち、少なくとも館外貸出については、今後の公共図書館の整備状況や電子図書など代替メディアの進展具合を見ながら、さらに縮小する方向で調整していくつもりだという。

(岡村志嘉子、前田直俊)

 

注

(1) ICチップが埋め込まれた新式の身分証。

(2) 中国国家图书馆. 中国国家图书馆读者指南. 2009, p. 5.

(3) 2008年10月~2009年1月の前田の現地調査による。

(4) ドイツのKSPエンゲル・ツィンマーマン建築設計と華東建築設計研究院の合同設計。

(5) 『四庫全書』、『永楽大典』、『敦煌文書』、『趙城金蔵』の4つ。

  • 参照(7740)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

3. 2. レファレンスサービスと文献提供

 PDF版(3章)はこちら [63]

 

3. 2. レファレンスサービスと文献提供

 

3. 2. 1. レファレンスサービス

 一般利用者に対するレファレンスサービスは、参考レファレンス部に属する総合レファレンス組、社会科学レファレンス組、科学技術レファレンス組の3組によって行われている(6)。

 

(1) 総合レファレンス

 総合レファレンス組は、総合レファレンスカウンターで来館利用者の振り分けや簡単なレファレンスを行うほか、電話レファレンスや、インターネットを通じたバーチャル・レファレンスを担当している。

 バーチャル・レファレンスは、2006年末から提供を開始した比較的新しいサービスで、平日の午前9~11時、午後2~4時の間に、職員2名が常駐して、オンラインで利用者からの質問に回答している。質問形式は2種類あり、1つはチャット形式、もう1つは質問票形式である。チャット形式で寄せられる質問は1日平均30~40件で、検索の方法や資料の利用方法に関する問い合わせが多い。質問票形式は1日10件程度である。

 

図3.4 バーチャル・レファレンス

図3.4 バーチャル・レファレンス

 

図3.5 チャット形式

図3.5 チャット形式

 

(2) 人文社会科学レファレンス

 社会科学レファレンス組は人文社会科学分野のレファレンスを担当しており、職員は8名である。利用案内や文献の探し方など、簡単な質問に対しては、無料で回答している。また、有料での委託調査も行っており、主な調査内容としては、特定主題についての網羅的な文献調査、法律に関する文献調査、事柄・人物などについての事実調査、解題書誌の作成などが挙げられる。料金は担当する職員のレベルに基づいて算出される。事前に、調査に必要なレベルや時間を見積もった上で、依頼者と協議をして決定する。そのため、固定された料金体系は存在しないが、文献目録作成で300~500元、過去数年間の網羅的な研究論文調査で2,000~3,000元がおおよその目安である。

 

(3) 科学技術レファレンス

 科学技術レファレンス組は12名の職員からなり、うち9名が正職員、3名が退職後の再任用である。専門知識が必要とされるため人事異動は少なく、近年は再任用も多い。これは、上述の社会科学レファレンス組においても同様である。

 レファレンス調査についても、社会科学レファレンスと同様、簡単な調査以外は有料で行っている。主なものとしては、顧客が実施予定の研究プロジェクトについて、他に類似のプロジェクトが過去や海外で行われていないかを調査し、その研究の意義・効果・水準について評価を行って総合的な報告書を作成する「科技査新」や、論文の引用状況を調査する文献引用調査証明、科学技術分野における事実調査、技術面からのビジネス情報調査などが挙げられる。依頼受理数は年間5,000~6,000件である。

 なお、「科技査新」については、国家図書館のほか、中国科学院、中国科学技術信息研究所、北京大学図書館、清華大学図書館、上海図書館などでも同様のサービスを提供している。

 

3. 2. 2. 企業向けサービス

 企業向けサービスは企業サービス組が担当し、職員は33名(うち半数は非常勤職員)である。主な提供サービスは「クリッピング・サービス」、「メディア追跡調査」、「企業情報調査」、「新聞記念品サービス」の4種で、すべて有料で提供している。

 

(1) クリッピング・サービス

 1998年から開始したサービスである。常用顧客は約60で、科学研究機関、政府機関、企業など様々である。顧客の要求に応じて、特定の業界や商品などを対象に、全国各地の新聞・雑誌・インターネット情報を追跡して情報を収集する。毎日、毎週、毎月など期間を区切って、その期間内の関連情報を網羅的に調査し、原紙のコピーとともに、発行量、発行地域、抄録、版面形式、字数、面積、広告価値、抄録などの付加情報を加える(図3.6-3.8)。サービス開始当初は文字通り紙の新聞を切り貼りして提供していたが、最近では電子媒体での提供が主流となっている。従来どおり冊子体での提供も行っている。また、最新の情報のみならず、過去の報道を遡って収集・整理するサービスも行っている。

 

図3.6 冊子体の報告書

図3.6 冊子体の報告書

 

図3.7 左が付加情報、右が原紙のコピー

図3.7 左が付加情報、右が原紙のコピー

 

図3.8 付加情報

図3.8 付加情報

 

(2) メディア追跡調査

 新聞・雑誌・インターネット等で公開された、特定の業界に関する報道、ニュース原稿、記者会見資料、広報活動資料などを追跡・収集し、要求に応じて選別・整理・分析を行うサービスである。ネット上の情報を収集する際には、事前にキーワードを設定して、自動で当該キーワードを含む情報を採取したのち、職員が選別する方法を採っている。提供にあたっては、顧客向けの専用ポータルサイトを設け、顧客自らがログインして、依頼した情報をオンラインで入手することができる。常用顧客数は約100である。

 

(3) 企業情報調査

 顧客の指定する業界や競争相手企業の最新情報、統計データ、文献情報などを調査し、報告書を作成するサービスである。ブランド商品のキャッチ・コピーや広告の投入状況を調査して、広告価値の評価も行っている。調査対象は公開された情報に限られる。大企業は自社で調査部門を設置しているところが多いため、中小企業の利用者が比較的多い。

 

(4) 新聞記念品サービス

 誕生日や記念日などの新聞を選び、感光製版や水晶鍍金で記念品を作成するサービスである(図3.9)。

 

図3.9 北京オリンピックの記事を使った記念品

図3.9 北京オリンピックの記事を使った記念品

 

3. 2. 3. 文献提供センター

 文献提供センターは1997年に設置された。以前は典蔵閲覧部に属していたが、2007年末の機構改革の際に、参考レファレンス部に編入された。職員数は25名である。

 

(1) 図書館間貸出と遠隔複写

 年間の処理件数は、図書館間貸出が約1,000件、遠隔複写が3~4万件である。

 図書館間貸出は、事前に申請・登録を行った機関のみが対象である。貸出の対象となる資料は、中国語図書の基蔵本ならびに出版後3年が経過した外国語図書に限られる。遠隔複写は機関、個人のいずれも申し込むことができる。両サービスとも国家図書館の蔵書で応えられない場合は、国内外の他館の所蔵を調査し、代理で処理をするサービスも提供している。

 

(2) 料金体系

 図書館間貸出と遠隔複写はいずれも有料サービスで、図書館間貸出は、中国語図書が10元/冊、外国語資料が15元/冊で、梱包費と郵送料が含まれている。遠隔複写の料金は、以下の計算式で算出される。

 

(検索料金+複写料金+梱包費)×手数料130%+郵送料

 

 検索料金は、利用者の申込情報に不備があった場合に課されるもので、国家図書館の蔵書検索については2元/件、他機関の所蔵調査については10元/件が課金される。通常は申込を受け付けてから2~3日で処理されるが、当日中の処理を希望する場合は、括弧内の料金が2倍となる。合計が50元以下は後払い、50元以上は先払いとなっている。また、他機関への代理処理の場合は、さらに図3.10のⒶ郵送料とⒸ利用料を利用者が負担する。Ⓑ郵送料は国家図書館と他機関の間で相殺処理される。

 

図3.10 遠隔複写のフロー

図3.10 遠隔複写のフロー

 

(3) 申込方法

 「図書館間貸出及び文献提供システム」【馆际互借与文献传递系统】(7)で、インターネットを通じて申し込むことができる。

(前田直俊)

 

注

(6) 参考レファレンス部は、その他、利用者カード組、企業サービス組、文献提供組、複写組からなる。

(7) CALISで使われているシステムを国家図書館向けに改修したシステム。2009年に導入された。
“馆际互借网关登陆”. 中国国家图书馆. http://202.96.31.83/gateway/index.jsf [64], (参照 2010-09-02).

  • 参照(5729)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

3. 3. 立法・行政に対するサービス

 PDF版(3章)はこちら [63]

 

3. 3. 立法・行政に対するサービス

 

3. 3. 1. 業務体制

 

 国の立法及び政策決定に必要な文献情報や各種レファレンスサービスの提供は、国家図書館が一貫して重要なサービス項目の一つと位置付けてきたものである。国家図書館は1998年の全館的な機構改革を機に、担当部局を一元化しサービスを大きく進展させた。

 1999年、中央国家機関の立法及び政策決定のためのレファレンスサービスを専門に担当する国家立法・政策決定サービス部が、参考研究部の中に置かれた。参考研究部が国家立法・政策決定サービス部という組織も併せ持つ形で、立法・行政に対するサービスを順次拡大していった。その後、2007年末に国家立法・政策決定サービス部は参考研究部から独立し、専門の部局による本格的なサービス実施体制が確立した。新たに設立された立法・政策決定サービス部は、2008年初頭の職員数が27名、2009年10月には48名まで増員された。さらなる業務拡大と人員増が今後の課題である。

 

3. 3. 2. 立法・政策決定サービス部の業務内容

 立法・政策決定サービス部では、国家図書館の豊富な文献情報資源を基礎に、多様な専門性を有するレファレンス担当職員を通じて、厖大な情報の中から有用な情報を検索、抽出、分析し、サービス対象に提供している。提供するサービスの種類は、クリッピング・サービス、世論分析、戦略情報分析、主題レファレンス、研究動向報告、サービスプラットフォーム構築、中央国家機関附設図書館の全体設計プラン策定、業務研修・講座開講などである。

 立法・政策決定サービス部はサービス拡充の一環として、海外中国学文献研究センターと法律参考閲覧室を2009年9月に開室した。また、2010年6月には、立法・政策決定サービスの質的向上を目的として、「国家図書館国情レファレンス顧問委員会」と「国家図書館国情レファレンス専門家委員会」を発足させた。顧問は、政府機関の要職にある者など34名、専門家は各分野の学者など19名が委嘱された。任期はそれぞれ3年である。これら外部有識者の参画によって、立法・政策決定サービスの一層の質的向上を目指している。

 

3. 3. 3. 重点サービス項目

 

(1) 中国共産党と国の主要指導者のための文献情報サービスの提供

 中国共産党と国の主要指導者に対するレファレンスサービスは、中華人民共和国成立当初から国家図書館の重要な業務と位置付けられ、実施されてきた。近年では恒常的な業務となり、件数も増加している。年間処理件数は少ない年で20件余、多い年には60件余に上る。2003年末、温家宝首相の訪米準備として、「和して同ぜず」について3万字の詳細な調査報告を作成したことが、その代表的な事例である。

 

(2) 全国人民代表大会代表と中国人民政治協商会議委員に対する文献情報レファレンスサービスの提供

 全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(中国では両者を併せて「両会」という。年1回、3月開催)の参加者に対し、審議参加、法案・議案作成に必要な文献情報やレファレンスサービスを提供する。1998年3月の「両会」会期中、全国人民代表大会情報センターと連携してサービスを行ったのが始まりである。翌1999年3月の「両会」会期中、「両会レファレンスサービス処」が初めて設置され、「サービス用語の規範化、業務手順の制度化、レファレンス回答は当日中に依頼者に届ける」という方針の下に、24時間レファレンスホットラインサービスを実施した。

 2001年以降、国家図書館は全国人民代表大会情報センターとの密接な協力の下、会議が開かれる人民大会堂と参加代表団の宿泊先にサービスステーションを設置し、レファレンス担当職員が直接各参加者に文献情報サービスを提供している。2008年3月、国家図書館立法・政策決定サービス全国人民代表大会プラットフォームがテスト稼働、同12月に本格稼働した。

 また近年、国家図書館の「両会」レファレンスサービスをサービスモデルとして、中国国内の各省立図書館も各省の「両会」代表に対するサービスに取り組むようになってきている。

 

(3) 全国人民代表大会の常務委員会と各専門委員会の委員に対するサービス

 全国人民代表大会の常務委員会と9つの専門委員会の委員に対する文献情報提供サービスは、2003年7月から開始された。年1回の「両会」会期中のみのサービスから通年のサービスに転換したことは、中国の最高権力機関ならびに立法機関である全国人民代表大会に対する国家図書館のサービスが、より実質的なサービスを提供する段階に入ったことを意味している。

 主なサービス内容は、全国人民代表大会常務委員会で審議中の法案に関する基本資料・背景説明資料、法律の基本概念・定義その他関連文献資料の提供のほか、法案の起草や検討に必要な主題に関するレファレンスなどである。

 

(4) 行政機関等への分館の設置

 国の行政機関等に国家図書館分館を設置し、国家図書館と各分館が自主、平等を基礎とし、人的・文献的資源の共同構築・共同利用という手段によって政策立案・政策決定に必要な情報サービスを提供する。制度整備に当たっては、当館の支部図書館制度が参考にされた。

 現在設置されている分館とその設置年月は次のとおりである。

 

  • 人事部分館(1999年6月)
  • マクロ経済分館(2000年7月)
  • 労働・社会保障部分館(2001年5月)
  • 財政部分館(2004年1月)
  • 中国民航分館(2006年6月)
  • 民政部分館(2008年8月)
  • 交通運輸部分館(2009年12月)
  • 中央社会主義学院分館(2010年6月)

 

(5) 「中南海ウェブサイト」デジタル資源構築プロジェクト

 2002年末、国家図書館は中南海(=中国共産党中央委員会と国務院の所在地。政権の中枢を指す。)各部門にサービスする「中南海ウェブサイト(国家図書館データベース)」デジタル資源構築プロジェクトを正式に始動させた。第一段階のコンテンツとして構築されたのは、「世界各国基本資料庫」「国際機関資料庫」「世界遺産資料庫」「ホットイシュー資料庫」「二十世紀大事典資料庫」「新刊書推薦」の計6種類の文字・画像・映像資料を一体化した主題データベースである。

 「中南海ウェブサイト」は2004年10月18日、国務院弁公庁において本格稼働したのに続き、中国共産党中央弁公庁に対しても、2007年4月26日から同様のサービスを提供している。

 

(6) 閣僚級指導幹部に対する歴史文化講座

 閣僚級指導幹部に対する歴史文化講座は、中国共産党中央国家機関工作委員会、文化部、中国社会科学院が共催し、国家図書館が実施主体となって2002年から開始された。内容は古今の哲学、歴史文化、民族宗教、文学芸術、時事問題、社会経済と多岐にわたり、各分野の著名な学者が講師を務める。開催回数は、2002年の初回から2008年までに100回を超えている。

 

(7) 国家図書館立法・政策決定サービスプラットフォーム

 国家図書館立法・政策決定サービスプラットフォームは、中央国家機関に対し立法・政策決定の参考情報を総合的に提供するデジタル化情報サービスプラットフォームとして、2008年12月に本格稼働した。全国人民代表大会及び各分館向けにカスタマイズされたプラットフォームが整備されている。

(岡村志嘉子)

  • 参照(4567)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

4. 電子図書館事業

  • 参照(4942)
図書館調査研究リポート [4]

4. 1. 電子図書館業務

 PDF版(4章)はこちら [65]

 

4. 1. 電子図書館業務

 電子図書館事業は、国家図書館が近年特に重点的に取り組んでいる事業の一つである。国家図書館では長らく、パッケージ系電子出版物、ネットワーク系電子出版物、デジタル化事業、ホームページ管理など、電子図書館事業関連の業務を担当する部署が複数に分散していた。2007年末の機構改革により、新たにデジタル資源部が設置され、電子図書館に関するこれらの業務は、全てデジタル資源部に集約された。電子図書館関連業務を一元的に担当するデジタル資源部は、その後も人員増など業務体制の強化が図られている。本節では、デジタル資源部の業務の概況を紹介する。

 同部内には、収集を担当するデジタル資源収集組、組織化を担当するデジタル資源組織化組、所蔵資料のデジタル化を担当する文献デジタル化組、利用提供を担当するデジタル資源サービス組、ホームページを管理するウェブサイト管理組、著作権を始め法律に係る業務を担当する著作権管理組、国家デジタル図書館分館に係る事務を担当する国家デジタル図書館分館サービス組の7つの組が設けられている。職員は107名である。

 

(1)収集

 デジタル資源収集組は、パッケージ系電子出版物【实体型电子出版物】の収集ならびに国内オンラインデータベースの契約事務を担当している(1)。職員は12名である。

 2008年度年報によると、パッケージ系電子出版物の年間の受入数は、録音映像資料が7,383種15,399点、その他の電子出版物が2,765種4,945点である。収集経費は、資料購入費全体の約8%を占めている(2)。

 電子出版物については、「電子出版物出版管理規定」(3)及び「録音映像製品出版管理規定」(4)によって、国家図書館、版本図書館、新聞出版総署に納本するよう定められている。従って、パッケージ系電子出版物の収集においては、納本が約70%と主な手段となっているものの、納本漏れも多く、管理体制の不十分さが指摘されている(5)。

 一方、オンラインデータベースについては、納本に関する法的な枠組みがないため、購入契約や許諾契約など他の方法によって収集している。

 

(2)組織化、インターネット情報の収集、ナビゲーションサービス

 デジタル資源組織化組は、パッケージ系電子出版物とネットワーク・データベースの組織化、インターネット情報の収集組織化、ナビゲーションサービスなどを担当している。職員は19名である。

 

①インターネット情報の収集

 国家図書館では、2003年1月より「ウェブ情報資源収集保存実験プロジェクト(Web Information Collection and Preservation:WICP)」を実施しており、主に政府ウェブサイトと主題ウェブサイトを対象とした選択的な収集を行っている(6)。

 政府ウェブサイトの収集は、「gov.cn」ドメインを対象とする。収集・組織化したウェブサイトは、収集した時点の状態のまま保存して館内PCで閲覧提供する。さらに、「中華人民共和国政府情報公開条例」(7)の施行にともない、政府情報の総合的な検索窓口としての機能を果たすため、2009年4月から「中国政府公開情報統合サービスプラットフォーム【中国政府公开信息整合服务平台】」(8)を公開し、WICPで収集した政府情報のほか、各政府機関ウェブサイトへのリンクなどを提供している(図4.1)。さらには、過去に紙媒体で出された政府出版物のデジタル化を行い提供することも視野に入れている(9)。

 主題ウェブサイトの収集は、北京オリンピックや四川大地震など、政治、文化、経済、科学技術などの分野において、その年の大きな出来事を中心に主題を設定し、関連ウェブサイトの収集を行っている。これまでに30主題500種のサイトを収集・保存している。収集したウェブサイトは「中国事典」(10)でインターネットを通じて提供している(図4.2)。

 

図4.1 中国政府公開情報統合サービスプラットフォーム

図4.1 中国政府公開情報統合サービスプラットフォーム

 

図4.2 中国事典

図4.2 中国事典

 

②ナビゲーションサービス

 ナビゲーションサービスは、「図書館界【图书馆界】」、「新農村建設【新农村建设】」、「電子逐次刊行物ナビゲーション【电子报刊导航】」の3種類がある。

 「図書館界」(11)は国家図書館が主体となって作成するポータルサイトで、図書館に関する最新情報、会議情報、研究動向、機関リポジトリサービス、そして図書館、文書館、類縁機関のホームページへのリンクなどを提供する(図4.3)。

 「新農村建設」(12)は農業科学院がコンテンツを作成しており、農林分野の最新情報、研究機関案内、論文、会議情報などを提供する(図4.4)。

 「電子逐次刊行物ナビゲーション」(13)はインターネット上で公開されている電子版の雑誌と新聞をナビゲートする(図4.5)。

 

図4.3 図書館界

図4.3 図書館界

 

図4.4 新農村建設

図4.4 新農村建設

 

図4.5 電子逐次刊行物ナビゲーション

図4.5 電子逐次刊行物ナビゲーション

 

(3)デジタル化事業

 所蔵資料のデジタル化事業は文献デジタル化組が担当している。

 国家図書館における資料デジタル化の嚆矢となったのは、国際敦煌プロジェクトの一環として、1998年から行ったデジタル化事業である。その後、2003年に科学技術部のデジタル化プロジェクトに参加するなどして、経験を蓄積してきた。2005年には国家デジタル図書館プロジェクト建設開始が国務院により承認され、「2003-2005年国家図書館デジタル資源構築計画」「2006-2010年デジタル資源構築計画」などの関連諸計画を策定して、所蔵資料のデジタル化を進めている。2008年末現在で、図書30万冊分、メタデータ54万件分のデジタル化が終了している。毎年のデータ増加量はメタデータ単位で14万件である。

 主なコンテンツは、地方志、甲骨資料、金石拓片、西夏文献、年画、民国図書、民国雑誌、民国法律などで、全て国家図書館のホームページで閲覧することができる(14)(図4.6)。また、2.2.でも紹介した通り、中国語の新刊書を年間5万冊、博士論文を年間3万冊の規模でデジタル化を進めている。最近では、民国期の新聞をデジタル化するプロジェクト「DiNeR」が開始され(15)、2008年には試験的に『益世報』400版面分のデジタル化と全文テキスト化が行われた(図4.7)。また、2006年からは、ネットで公開されているPDF版の新聞についても、新聞社の許諾が得られたものについて保存を行っている。

 

図4.6 地方志のデジタル化

図4.6 地方志のデジタル化

 

図4.7 新聞のデジタル化

図4.7 新聞のデジタル化

 

(4)著作権処理

 資料のデジタル化に係る著作権の処理は著作権管理組が担当する。法律の専門知識を有する職員6名のほか、外部の法律顧問2~3名から成っており、著作権処理に関する規程の策定や著作権処理の実務のほか、図書館全体の法律に関わる事項、及び図書館法の立法活動に関わる業務も担当している。

 また、内部刊行物『デジタル著作権通報』【数字版权传真】を発行して、国内外の最新動向を紹介するほか、館内の関係部署を対象に研修を開催するなどして、館内全体の著作権に対する理解の向上を図っている。

 

(5)閲覧サービス

 電子資料は、主に本館二期館の4階にあるデジタル共有空間で提供されている(図4.8)。同空間は、全体が7つのエリアに区分され(16)、約250台のPCが設置されている。設計当初はエリアごとに異なったコンテンツを提供する予定であったが、現在は実質的な区別はなく、一部を除いてほぼ全てのPCで同じコンテンツが提供されている。

 国内外の電子ジャーナル、データベース、電子書籍、視聴覚資料など約130種類以上のコンテンツが提供されており(17)、インターネットも利用できる。利用者カードのID・パスワードを入力すれば、1時間は無料で利用できるが、1時間を越えて利用する場合には、事前に利用者カードに料金をデポジットしておかなければならない。利用料金は1時間当たり3元である。さらに、携帯型の電子書籍リーダーの貸与も行っており、これに閲覧PCから電子資料をダウンロードして、館内の随意の場所で利用することもできる(図4.9)。

 インターネットが1時間無料で利用できるため、ネットサーフィンが目的の利用者が多く、常に満席の状態で空きがない。そのため、他の電子資料の利用に支障をきたしており、近い将来には、インターネットの利用は有料に、その他の電子資料の利用は無料に切り分けることを検討中である。

 

図4.8 デジタル共有空間

図4.8 デジタル共有空間

 

図4.9 携帯型電子書籍リーダー

図4.9 携帯型電子書籍リーダー

 

 商用データベースの中で利用率が高いのは、中国学術データベース(CNKI)(18)と方正電子図書(19)である(図4.10)。紙への複写ができるほか、契約で許諾を得ている電子資料については、USBメモリへ保存して持ち帰ることもできる。紙に複写する場合は、PCからネットワークを通じて複写センターに印刷指示を送信し、センターに設置されたリーダーに利用者カードを読み込ませて、複写物を受け取る。利用者カードにはデポジット機能が備えられているので、カードを読み込ませると同時に複写料金の精算も行われる(図4.11)。

 

図4.10 方正電子図書

図4.10 方正電子図書

 

図4.11 プリントシステム

図4.11 プリントシステム

 

(6)国家デジタル図書館分館

 国家図書館では2005年より、国家デジタル図書館分館事業を推進している。これは、国家図書館のデジタル資料を、ミラーリングや直接配信などの方法により、中国各地の図書館で利用できるようにする事業で、2010年8月末現在、四川省図書館、山西省図書館、陝西省図書館など合計16の図書館が分館となっている。また、電子図書館分野における人材育成を目的として、分館の職員を対象とした研修なども開催している。本事業に係る業務は国家デジタル図書館分館サービス組が担当している。

(前田直俊)

 

注

(1) 海外のオンラインデータベースの契約業務は外国語収集整理部が担当。

(2) 全資料費144,915,793元のうち12,055,311元(内訳:録音映像資料159,451元、電子出版物11,895,860元)。2008年末の為替(1元≒13.2円)で換算すると、全資料費約19億円のうち、約1.6億円となる。

(3) 新聞出版総署令第34号(2008年2月21日公布)

(4) 新聞出版総署令第22号(2004年6月17日公布)

(5) 王志庚. 国家图书馆的数字资源建设. 国家图书馆学刊. 2008年第3期, p. 18-22.

(6) 李春明. “中国国家図書館におけるネットワーク情報保存の現状と将来計画”. 国立国会図書館. 2009-11-26. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/theme1_nlc.pdf [66], (参照 2010-09-02).

(7) 概要と全文訳は、岡村志嘉子, 刈田朋子. 中国の政府情報公開条例. 外国の立法. 2008, (235), p. 146-168. http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/235/023505.pdf [67], (参照 2010-09-02).

(8) 中国政府公开信息整合服务平台. http://govinfo.nlc.gov.cn/ [68], (参照 2010-09-02).

(9) “国家图书馆专家谈政府公开信息资源的开发和利用”. CNET科技资讯网. 2009-02-06.
http://www.cnetnews.com.cn/2009/0206/1337541.shtml [69], (参照 2010-09-02).

(10) 中国事典. http://210.82.118.162:9090/webarchive/index.swf [70], (参照 2010-09-02).

(11) “图书馆界”. 中国国家图书馆・中国国家数字图书馆. http://www.nlc.gov.cn/yjfw/ [71], (参照 2010-09-02).

(12) 网络资源科学信息导航. http://navi.nlc.gov.cn:8080/science_navi/webcenter/index.jsp [72], (参照 2010-09-02).

(13) 电子报刊导航. http://navi.nlc.gov.cn:8080/newspaper_navi [73], (参照 2010-09-02).

(14) 各コンテンツの詳細については、以下を参照。
陳力. “中国国家図書館の中国語デジタル資源構築”. 国立国会図書館. 2007-11-06.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/nlc27_2_chen.pdf [74], (参照 2010-09-02).

(15) 李春. “中国国家図書館新聞デジタルリポジトリー(DiNeR)プロジェクト”. 国立国会図書館. 2007-11-07. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/nlc27_6_li.pdf [75], (参照 2010-09-02).

(16) 「eラーニングエリア」、「研究調査エリア」、「特別サービスエリア」、「ビジネスエリア」、「ネットワーク交流エリア」、「メディアセンター」、「全国文化情報資源共有プロジェクト体験エリア」の7つ。

(17) 提供コンテンツはホームページで確認できる。
数字资源检索系统. http://dportal.nlc.gov.cn:8332/nlcdrss/database/sjk_lb.htm [76], (参照 2010-09-02).

(18) 清華同方が提供する総合的な学術情報データベース。学術雑誌、新聞、学位論文、会議論文、年鑑などを収録している。

(19) 方正Apabiが提供する電子書籍データベース。

  • 参照(6788)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

4. 2. 国家デジタル図書館の発展構想

 PDF版(4章)はこちら [65]

 

4. 2. 国家デジタル図書館の発展構想

 国家デジタル図書館の現況と将来構想について、2009年11月に行われた国家図書館と当館との業務交流で中国側から報告があった。その報告資料(20)の要点を以下に紹介する。

 

デジタル資源の構築

 デジタル資源の構築に関する我々(筆者注:国家図書館)の全体目標は、中国語デジタル資源を網羅的・系統的に収集・組織化・統合し、中国語デジタル資源のメタデータ登録・高価値化・創出センターを構築し、中国語デジタル資源の調達・長期保存・サービスセンターとなることであり、また、必要な外国語デジタル資源を選択的に購入・所蔵し、サービスを提供することである。

 国家デジタル図書館のデジタル資源構築の原則は次のとおりである。まず、方正中国語電子図書、同方中国語逐次刊行物データベース、大型参考図書など、代表的な中国語全文データベースを収集する。次に、所蔵資料のデジタル化については、甲骨、拓片、年画、敦煌文献、地方志、民国文献など、中国の歴史や文化を代表する、特色のある文献を優先する。3番目として、ウェブページの収集・組織化を重視し、中国学、無形文化遺産や第29回オリンピックなど、重要なできごとや特定の主題に関する情報の収集に力を入れる。4番目として、国際敦煌デジタル化プロジェクトやワールドデジタルライブラリーのような、デジタル資源の共同構築・共同利用を積極的に展開する。

 国家図書館は1980年代に中国語及び外国語のデータベースと電子出版物の購入、所蔵資料の書誌データベースの大規模な構築を開始した。1998年には所蔵資料のデジタル化を開始し、2002年にウェブページの収集・保存・サービスに関する検討を開始した。2008年末現在、国家図書館のデジタル資源は計250TBに達した。そのうち自館構築の資源が200TB、デジタル化した文献は1億1,200万ページを超える。購入した中国語・外国語のデータベースは200種以上で、データ量は50TBに上る。

 

ネットワーク化情報サービス

 1990年代の初め、国家図書館は電子閲覧室を開設し、デジタル図書館とネットワーク情報サービスの検討と実験を開始した。1997年に館のウェブサイトを開設し、国家図書館のネットワーク情報サービスは急速に発展した。2008年9月9日、国家図書館二期及び国家デジタル図書館が開館し、ネットワーク情報サービスの発展がさらに促進されることになった。2008年の国家図書館ウェブサイトへのアクセス数は、2007年と比べ44.7%増加している。

 近年、国家図書館はコンピュータネットワークを基盤として、データベース検索、バーチャルレファレンス、情報配信、文献提供などのサービスを展開してきたばかりでなく、常にサービス方法の刷新に努め、次のような新たなサービスを展開している。

(1)基層図書館へのサービス

 2005年から全国各地で選択的に「国家デジタル図書館分館」を構築し、ミラーサイトや直接配信などの方法で、当館(筆者注:国家図書館)の質の高いデジタル資源を各市の分館に送信している。国家デジタル図書館の情報サービスネットワークは、ひととおり全国に行き渡った。

(2)モバイルデジタル図書館サービス

 2007年、先進的なモバイル技術を図書館サービスに導入し、携帯電話を媒体とする国家デジタル図書館モバイルサービス―てのひら国家図書館―を開始した。このサービスを通じて、利用者はいつでもどこでも図書館の資源とサービスを知り、また利用することができる。このプラットフォームによるショートメールサービス、携帯電話閲覧、国家図書館漫遊などのサービスが既に稼働している。

(3)視覚障害者デジタル図書館サービス

 2008年10月14日、国家図書館と中国障害者連合会情報センター、中国点字出版社が連携して共同構築した中国視覚障害者デジタル図書館のウェブサイトが正式に稼働した。

(4)デジタルテレビサービス

 国家図書館と北京歌華ケーブルテレビが提携し、デジタルテレビでの配信に適した図書館資源・サービスを、北京地域のケーブルテレビネットワークを通じて、300万戸のデジタルテレビ利用家庭に送り届ける。ユーザーは、デジタルテレビを通して「国家図書館講座」「国家図書館展覧」「テレビ閲覧」「国家図書館の名品」などのサービスが利用できるだけでなく、インタラクティブ・ポータルを通じて、さらに多くのカスタマイズサービスを受けることができる。

(5)タッチパネル式電子新聞閲覧サービス

 出力装置をタッチパネル式の端末に変更し、利用者がよりリアルに電子新聞やデジタル資源を閲覧できるようになった。現在、新聞200種、雑誌40種を閲覧に供しており(毎日更新)、利用者は紙面を自由に移動、縮小、拡大、ページめくりすることができる。

 

発展戦略構想

 

(1)戦略目標

 国家デジタル図書館は国の書誌センターであるだけでなく、インターネット上の国の情報・知識・サービスセンターとして、国の公共文化サービス体系を整備する上で不可欠の重要な役割を果たし、世界の中で信頼に足る中国語情報・知識資源センターとなることを長期目標とする。

 戦略目標として掲げるのは次の3機能である。

  • ①デジタル資源のアグリゲーター
  • ②国のデジタル情報インフラにおける情報資源センター
  • ③インターネット上の高品質な中国語デジタル資源サービスセンター
(2)戦略計画

 上記戦略目標を実現するため、デジタルコンテンツ、ブランドサービス、技術推進の三大戦略を策定・実施しなければならない。

 ①デジタルコンテンツ戦略 1つは国家デジタル図書館所蔵コンテンツの価値を高めることを目指した計画であり、もう1つは国家デジタル図書館所蔵コンテンツの優位性を向上・拡大する計画である。前者では、各種文献情報資源の統合・組織化を通じて、所蔵文献情報へのアクセシビリティを高めることにより、所蔵文献の社会的価値とサービス・パフォーマンスを効果的に向上させる。後者では、インターネットをベースに、中国に立脚し、世界に向けて、中国語文献・情報・知識のサービスプラットフォームを構築し、国家図書館の国内的、国際的な影響力を高める。

 ②ブランドサービス戦略 サービスは、いかなる図書館においても中核となる価値を最終的に体現するものであり、国家図書館も例外ではない。国家図書館は、国家デジタル資源ポータルの構築を加速し、良質な情報資源のナビゲーターとなり、より系統的、完全で、科学的な専門情報サービスをユーザーに提供していく。

 ③技術推進戦略 図書館の発展は、例外なく技術発展と密接に結び付いている。国家図書館は成熟した情報技術を利用して、文献・情報・知識コンテンツを収集・組織化・サービス提供し、完全な中国国家デジタル図書館デジタル情報資源アクセスシステムを構築する。

(岡村志嘉子)

 

注

(20) 詹福瑞. “中国国家デジタル図書館の発展構想”. 国立国会図書館. 2009-11-25.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/keynote_nlc.pdf [77], (参照 2010-09-02).

  • 参照(5773)
図書館調査研究リポート [4]
中国 [39]
国立図書館 [29]
中国国家図書館 [40]

No.11 電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究

  • 参照(113588)

 本調査研究は、近年急速に市場が拡大し、社会的な注目も高まっている電子書籍について、その流通・利用・保存の実態を図書館との関わりも視野に入れながら把握するために、湯浅俊彦・夙川学院短期大学准教授を中心とする研究会を組織して実施したものである。
 各種統計や歴史的経緯の分析に加え、出版社へのアンケート調査、電子書籍関連事業者(印刷、出版、携帯電話通信、コンテンツ作成・配信等)へのインタビュー調査、国立国会図書館職員へのアンケート調査を行うことで、流通・利用・保存の現状と課題を調査している。

PDF版はこちら [78][約4MB]

※本調査研究報告書は、2009年3月10日に公開いたしましたが、被インタビュー者の申し入れにより、冊子体版と異なり、文中の固有名詞4箇所を一般職務名に変更して、改めて公開しました。(2009-03-13)

図書館調査研究リポート [4]

概要

  • 参照(12269)

(調査の目的)

 近年、「電子書籍」の量的拡大、コンテンツの多様化、ネットワーク配信が進んでいる。統計によると市場規模は年々拡大しており、とりわけ携帯電話による電子書籍配信事業が拡大の一途をたどっている。そのようなコンテンツの1つ、「ケータイ小説」は若年層に広く受容されており、ネット上でのアクセス数の多い「ケータイ小説」が単行本として出版され、2007年にはベストセラーの上位層を占めるに至った。

 このような状況を踏まえ、2008年現在の国内における電子書籍の流通・利用・保存の現況について、図書館とのかかわりを視野に入れつつ調査を実施した。

(方法)

 質問紙調査によって、電子書籍の流通・利用・保存に関する実態・意識調査を、出版社を対象に実施した。さらに電子書籍関連事業者を対象にインタビュー調査を実施した。また利用者調査の代替として、国立国会図書館職員を対象に、電子書籍の利用実態および意識に関する質問紙調査を実施した。

(結果)

 各種統計や歴史的経緯の分析から、電子書籍の厳密な定義は困難である。そこで産業的実態から電子書籍を定義し、流通・利用・保存の現状分析を試みた。

 電子書籍の流通形態は、CD-ROMに代表されるパッケージ系電子出版物から、オンライン系電子出版物へと移行している様子が窺える。また2006年度には携帯電話向け市場が、それまでの主力であったパソコン向けの市場規模を上回るに至った。この動きに呼応して、携帯電話通信事業者と提携し、携帯電話にコンテンツを有償で提供するベンダ数も、増加の一途をたどっている。このような携帯電話向け電子書籍ビジネスの特徴として、携帯電話通信事業者によるコンテンツメニューの登録、課金、集金の管理が挙げられるが、通信事業者と提携せずにコンテンツを提供するベンダの登場や、多機能モバイル情報端末の登場により、この体制に変化が生じつつある。

 ハードウェア面では、読書専用端末の不成功、携帯電話やゲーム機に代表される携帯型汎用端末による読書の受容といった現象が特徴的である。紙や書籍の代替としての電子書籍は現在のところ、社会的に広汎には受け入れられておらず、携帯電話などによる電子書籍利用も電子書籍への全面移行を意味するものではないことを示唆するものと考えられる。

 電子書籍の利用に関して、個人利用に関する悉皆的なデータは、現時点で存在しない。また図書館における電子書籍の機関利用には、自館所蔵資料の電子化と公開、外部提供の電子書籍の導入と提供の2種類に分けることができる。

 電子書籍の保存に関しては、出版社やコンテンツプロバイダは、データの滅失や毀損に対しての安全性確保としての保存(バックアップ)が中心であり、そういった保存をも行っていない例もあるという結果が得られた。すなわち、電子書籍の長期的な保存に対する意識は、現在のところ薄いと考えられる。

図書館調査研究リポート [4]

Summary

  • 参照(10925)

Survey Objectives

Recent years have seen an increase in the quantity of “e-books” (electronic books) available, in the diversification in their content, and in their online distribution. According to the statistics, the size of the market is increasing year by year, and the e-book distribution industry is expanding steadily, with distribution by cellphone playing a significant role. One of the kinds of content involved in this trend is the “cellphone novel,” which has been enthusiastically received by the younger generation. Some of the more frequently-downloaded cellphone novels have been released in physical book format, and in 2007, several examples climbed high in Japan’s best-seller lists.

In view of this trend, a survey was conducted on the current state of distribution, use and preservation of e-books in Japan as of 2008. The engagement of libraries with e-books was included in the remit of the survey.

Survey Method

Using the questionnaire method, surveys of facts and attitudes of publishing companies toward the distribution, use and preservation of e-books were conducted. These were supplemented by interviews with people working in the e-book industry. Additionally, in place of a user survey, a questionnaire survey dealing with facts and attitudes regarding the use of e-books was conducted on members of staff at the National Diet Library.

Survey Results

It is difficult to arrive at a strict definition of an e-book based on various statistical and historical analyses. An attempt was therefore made to define the e-book, and to analyze the current state of its distribution, use and preservation, in terms of industrial realities.

In terms of distribution format, e-books seem to be shifting away from packaged digital publications, typically on CD-ROM, and towards online digital publications. In fiscal year 2006, its market for cellphones grew bigger than that for the personal computer which had until then been in the lead. In line with this trend, there has also been a steady increase in the numbers of vendors establishing alliances with communications companies serving the cellphone market, and using these alliances to supply premium cellphone content. While a marked feature of the cellphone-oriented e-book business is the fact that the registration of content menu, charging for contents and fee collection are administered by cellphone companies, this system is starting to change, because of the emergence of vendors supplying content without any alliance with a communications company, and the advent of multifunctional mobile data terminals.

On the hardware side, the most striking phenomena are the failure of dedicated reading terminals to catch on with the general public, and the accommodation of reading matter on general-purpose portable terminals typified by cellphones and game handsets. It seems to suggest that e-books have not yet gained widespread social acceptance as substitutes for books and other print media, and the facts of e-book usage by cellphones and other handheld devices do not imply a change from book to e-book.

As yet, no exhaustive data are available on e-book usage by private individuals. The institutional usage of e-books in libraries, meanwhile, can be divided into two categories: the digitization of local library holdings, and the introduction and offering of e-books that are in the public domain, provided by external suppliers.

As for the preservation of e-books, from the perspective of publishers and content providers, storage (i.e. backing up) revolves around ensuring that data is safe from loss and damage; the survey results show that in some cases, not even this much is done in the first place. In other words, general awareness of the importance of the long-term preservation of e-books seems at present to be extremely low.

図書館調査研究リポート [4]

1. はじめに

 PDF版はこちら [79]

1.1 本研究の背景および目的

 近年、出版コンテンツのデジタル化が急速に進展し、「電子書籍」への注目が高まっている。とりわけ2007年には電子書籍に関する複数のニュースが国内の図書館界を駆けめぐった。11月に東京・千代田区立図書館は電子書籍貸出しサービスを開始し、同じく11月には紀伊國屋書店とOCLCによる学術系電子書籍サービス「NetLibrary」に和書コンテンツが搭載されるなど、著作権の保護期間が満了していない日本語の電子書籍をインターネット経由で提供するタイプの図書館サービスが新たに登場したのである。

 一方、「魔法のiらんど」など携帯電話用ネットサービスに発表された「ケータイ小説」が主に若年層を中心に広く受容され、ネットでのアクセス数の多いケータイ小説が逆に単行本化され、大手取次のトーハン調べによる文芸部門ベストセラーの1位から3位を独占したのも2007年のことであった(1)。

 毎日新聞社の「第61回読書世論調査」(2007年6月調査)によると、「ケータイ小説」を実際に読んだ媒体について10代後半女性では「携帯電話」51%、「書籍」49%と(2)、本ではなく携帯電話で読む人の方が多いという逆転現象が起こっている。

 その後、毎日新聞社と全国学校図書館協議会の「第54回学校読書調査」(2008年6月調査)では、「ケータイ小説」を実際に読んだ媒体について、「携帯電話」が小学生5%、中学生8%、高校生33%であるのに対して、「出版された本」が小学生10%、中学生28%、高校生13%(3)、と高校生になると本よりも携帯電話で読む比率が高まってきていることが明らかになった。

 さらに『電子書籍ビジネス調査報告書2008』によると、2008年3月末時点でのPC向け、携帯電話向け電子書籍のタイトル数は電子書籍販売サイト間の重複を除いて約15万点(4)、市場規模はパーソナルコンピュータ(PC)向け72億円、携帯電話向け283億円の合計355億円と推計され、調査が開始された2002年度10億円から、2003年度18億円、2004年度45億円、2005年度94億円、2006年度182億円、2007年度355億円とじつに急速な市場拡大を続けているのである(5)。

 このような電子書籍の量的拡大とコンテンツの多様化、そして読者の受容という状況を踏まえ、国内における電子書籍の流通・利用・保存の現況について、図書館とのかかわりも視野に入れながら調査を行った結果が本報告書である。

 国内の各種図書館や関連機関、そして出版社、コンテンツプロバイダー(CP)、携帯電話キャリアなどのステークホルダーに対して、電子書籍に関する現時点での課題と今後の対応への知見を提供できれば幸いである。また併せて国立国会図書館におけるデジタルアーカイブや納本制度、全国書誌といった業務の今後の展開について検討する際の資料となることを願っている。

 

1.2 電子書籍の定義ならびに統計

 

1.2.1 電子書籍の定義

 本報告書で取り上げる「電子書籍」は、ほかにも「eブック」「e-book」「電子ブック」「電子本」などさまざまな名称があるが、その定義はきわめて困難である。

 「電子書籍」を含む概念として「電子出版」があるが、この言葉は日本の出版業界においては大きく分けて5種類の意味で使われてきた経緯がある。

 第1に、電子出版は、1980年代から本や雑誌を編集する過程を電子化する意味で使われていた。デスクトップ・パブリッシング(DTP)という言葉が盛んに使われ始め、電算写植システム(CTS)による文字情報のデジタル化とスキャナ(電子写真製版機)などを使った画像情報のデジタル化によって編集の電子化が進展し、そのことを電子出版と呼んでいた。

 第2に、CD-ROMのようなデジタル化された出版コンテンツをデジタルパッケージ化した新しい出版形態も電子出版と呼ばれた。1985年に日本で初めて三修社が『最新科学技術用語辞典』をCD-ROMで出版し、1987年には岩波書店が『広辞苑』をCD-ROMで発売してCD-ROM出版の認知度が高まったのである。

 第3に、1990年にソニーが8センチCD-ROMを活用した小型電子ブックプレーヤー「データディスクマンDD-1」を発売し、同時に「電子ブックコミッティ」加盟の出版社13社が18タイトルの8センチCD-ROMを発売した。この「電子ブック」(「電子ブック」はキャノンの登録商標(6))の機器を電子出版と呼ぶ場合もあり、このような呼び方はその後の「電子辞書」や松下電器(現パナソニック)の「∑(シグマ)ブック」、ソニーの「LIBRIe(リブリエ)」といった読書専用端末などにも継承されていくことになる。

 第4に、インターネット経由で出版コンテンツを配信するオンライン出版を電子出版と呼ぶようになり、現在では電子出版といえば一般的にこのビジネスモデルを指すことが多い。

 第5に、デジタル化された出版コンテンツを必要な部数だけ紙に印刷するオン・デマンド(on demand)本があるが、最近ではこれの出版形態を電子出版とは呼ばず、出版印刷の分野の進化形とみる方が一般的である。

 ところで電子出版は電子ジャーナルと電子書籍に便宜上、区分される。欧米の学術雑誌出版の世界では冊子体から電子ジャーナルへの移行が1990年代初めから開始され、今日では電子ジャーナルが冊子体を完全に凌駕しているという実態がある。さらに大学等の学術機関では、さまざまな研究成果を電子的な形態で集中的に蓄積・保存し、学内外に公開することを目的とした「学術機関リポジトリ」と呼ばれる学術情報資源の管理システムを運営しており、これまで紙媒体で発行していた紀要なども電子化され無償で市民に公開される傾向にある。

 図書館情報学の世界では学術雑誌については「電子ジャーナル」ということばが定着しているが、日本の出版業界では紙媒体の雑誌にあたるものは「デジタル雑誌」と呼ばれている。しかし、紙媒体の「雑誌」がそのまま「デジタル雑誌」に単純に移行しているのではないのと同様、書籍をスキャニングしたりテキスト入力したりしてデジタル化したものだけが「電子書籍」なのではない。下記のように、さまざまな形態があり、図書館としてどのように扱っていけばよいのかという課題がある。

  • (1)電子技術を利用してディスプレイで読む電子辞書
  • (2) 単行本など紙で出版された資料をデジタル化し、オンライン配信で提供されるもの
  • (3) 「ケータイ小説」のようにもともとデジタルコンテンツ(ボーン・デジタル)としてオンライン配信で提供されるもの
  • (4) 貴重書や郷土資料など図書館の所蔵資料をデジタル化したもの
  • (5) 「Yahoo! Japan辞書」のように検索エンジンに搭載されたもの
  • (6) 「JapanKnowledge」「化学書資料館」「NetLibrary」のように出版されたコンテンツを統合的に検索し、閲覧することができるもの

 つまり、出版コンテンツのデジタル化とネットワーク化の多様な展開の中で改めて「電子書籍」を位置づける必要があろう。

 

1.2.2 電子書籍の統計

 電子書籍に関して先行する調査には次のようなものがある。

 『出版年鑑』(出版ニュース社)では2004年版から電子書籍の収録を開始し、最新の2008年版では「電子書籍」21,364件が収録されているが、 これは多巻物を1件とカウントするためで、点数にすると78,675点である。ただこの数字は電子書籍を販売している10サイトから情報提供を受けたもの であり、タイトルとフォーマットごとのサイト間の重複は除いていない(7)。一方、『出版年鑑2008』に収録された紙の新刊書籍は76,978件で点数にすると80,595点である。なお、電子出版物はほかにもオーディオブック825点、CD-ROM/DVD-ROM344点、オンデマンド出版707点が収録されている。

 

 表1.1 『出版年鑑 2008』収録の電子書籍販売の10サイト

ウェブの書斎http://www.shosai.ne.jp/ [80]
SharpSpaceTownhttp://www.spacetown.ne.jp/ [81]
電子文庫パブリhttp://www.paburi.com [82]
eBookJapanhttp://www.ebookjapan.jp [83]
どこでも読書NTT DoCoMo、au、SoftBank
つや缶ありau、SoftBank
電子書店パピレスhttp://www.papy.co.jp/ [84]
Bitway-bookshttp://books.bitway.ne.jp/ [85]
Pdabookhttp://www.pdabook.jp [86]
いまよむhttp://imayomu.296g.net/ [87]

出典:『出版年鑑 2008 目録・索引編』[1308p]

 

 また、紙媒体の出版物の統計であれば『出版年鑑』と平行して挙げられる『出版指標年報』2008年版(全国出版協会・出版科学研究所、2008年4月刊)には「電子書籍の市場動向」の項目はある(8)が、そこには『電子書籍ビジネス調査報告書2007』の数字が引用されているだけで、独自のデータはない。

 その『電子書籍ビジネス調査報告書』は、インプレスR&Dが2003年から刊行している電子書籍市場の調査報告書である。最新版である『電子書籍 ビジネス調査報告書2008』(2008年7月刊)では、10の主な電子書籍販売サイト(PC向けと携帯電話向けの両方を手がけている電子書籍販売サイ ト)が販売しているタイトル数は単純合計で約28万点、それ以外のPC向け電子書籍販売サイトや携帯電話向け電子書籍販売サイトのタイトル数を加算すると 約32万点、各サイト間の重複を差し引いたタイトル数は約15万点と推定されるとしている(9)。

 

表1.2 『電子書籍ビジネス調査報告書 2008』収録の電子書籍販売の10サイト

順位サイト名タイトル数
1電子書店パピレス80,066
2楽天ダウンロード44,500
3DMM.Com39,000
4ビットウェイブックス31,200
5eBook Japan20,983
6PDABOOK.JP20,000
7Space Townブックス18,400
9Yahoo!コミック12,400
10電子文庫パブリ9,267
11ウェブの書斎5,101
合計280,917

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書 2008』16頁(順位は原文ママ)

 

 また、この調査報告書では電子書籍、電子コミック、電子写真集の携帯電話向けサイトを右のように集計している。

 

表1.3 『電子書籍ビジネス調査報告書 2008年』収録の「2008年6月現在における携帯電話電子書籍サイト数」

 iモードEZwebYahoo!ケータイ小計
電子書籍
(文芸・総合)
436940152
電子コミック7510290267
電子写真集257159155
合計143242189574

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書 2008』8頁

 

 『電子書籍ビジネス調査報告書 2007』ではダウンロード数が表にしてあり、それによると「eBook Japan」が300,000、「楽天ダウンロード」が70,000、「DMM.com」37,000、「Space Townブックス」20,000となっているが、そのほかのサイトは非公開と記されている(10)が、2008年版にはダウンロード数の調査結果は収録されていない。

 

 以上の点をまとめると次のようになる。

 第1に、日本の出版統計の世界では「電子書籍」は実際に電子書籍を販売しているサイトからの集計であること。

 第2に、統計によって収録しているサイトはまちまちであり、あるサイトを取り上げて、別のサイトを取り上げなかった客観的な理由を説明するのは難しそうなこと。

 つまり実際にはここには収録されていない「電子書籍」群が多数存在しているということである。

 

1.3 電子書籍に関する調査研究の方法

 以上の「定義」「統計」において述べた点を踏まえ、本報告書ではあらかじめ「電子書籍」を厳密に定義し、統計を用いて現状分析するのではなく、日本国内のステークホルダー(出版社、コンテンツプロバイダー、携帯電話キャリア)にインタビュー調査を行い、出版社アンケートを実施することにより、産業的実態から「電子書籍」を定義し、現状分析することを調査研究の方向性として位置づけた。

 本報告書における調査研究の方法は以下の通りである。

  • (1)電子書籍の流通・保存状況
    • 調査対象:ステークホルダー(出版社、コンテンツプロバイダー、携帯電話キャリア)
    • 調査方法:インタビュー調査、アンケート調査(出版社のみ)、白書、IT情報誌、関連論文等による情報の収集・整理
  • (2)電子書籍の利用状況
    • 調査対象:国立国会図書館職員
    • 調査方法:アンケート調査
  • (3)電子書籍の調査・統計
    • 調査対象:インプレスR&D、出版ニュース社
    • 調査方法:インタビュー調査

(湯浅俊彦)

 

注

(1) トーハン. “2007年年間ベストセラー 単行本・文芸”.
http://www.tohan.jp/cat2/year/2007_2/ [88], (参照 2009-02-08).

(2) 読書世論調査:第61回読書世論調査 第53回学校読書調査. 毎日新聞社, 2007, p60.

(3) Data Flash 第54回学校読書調査. SPACE. 毎日新聞社. 2008.11 373 p20-21.
http://macs.mainichi.co.jp/space/no373/pdf/flash.pdf [89]

(4) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p16, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(5) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p4, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(6) キヤノン株式会社. 電子ブック. 第2051620号. 1988-06-24.
なおソニーは、「EBOOK」を登録商標としている。
ソニー株式会社. EBOOK. 第2616249号. 1994-01-31.

(7) 出版年鑑2008 目録・統計編. 出版ニュース社, 2008, [p.1308].

(8) 出版指標年報 2008.全国出版協会出版科学研究所, 2008, p293-295.

(9) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p16, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(10) 電子書籍ビジネス調査報告書2007. インプレスR&D, 2007, p16, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

  • 参照(10360)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

2. 電子書籍概論

  • 参照(11708)

 

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]

2.1 出版社と電子書籍

 PDF版はこちら [91]

2.1.1 電子出版としてのCD-ROM

 1985年10月、三修社が『最新科学技術用語辞典』(定価6万円)を発売したのが、CD-ROMの商品化第1号と言われている。そして2年後の1987年7月に岩波書店が『広辞苑』CD-ROM版(定価2万8,000円)を発売したことで、広く社会に認知された。1988年には『現代用語の基礎知識』(自由国民社、定価2万円)、『職員録』(大蔵省印刷局、定価2万円)、『模範六法』(三省堂、定価12万円=CD-ROM3万円+検索ソフト9万円)などが刊行された。なお『広辞苑』『現代用語の基礎知識』『模範六法』は当初、富士通製日本語ワードプロセッサー「OASYS100-CD」でしか稼動しない「WINGフォーマット」のみであった。

 1988年4月に日本経済新聞社が日本電子出版協会の協力を得て開催した「EP’88 第1回電子出版システム展」では紀伊國屋書店、日外アソシエーツ、日立製作所の3社共同によるCD-ROMを使った電子出版情報サービス「電子書斎バイブルズ」をはじめ、CD-ROM商品を17社が出品するなど、1980年代後半にはCD-ROMを中心とする電子出版への期待が高まっていた

 「電子書斎バイブルズ」は図書内容情報、新聞雑誌記事情報、人物情報、辞典、事典、世界各国情報などをCD-ROMに収録したもので専用検索機、CD-ROMドライブ、検索ソフトと10種類の情報ソフトを含めたシステム価格は128万円(5年リース月額2万5000円)を設定し、企業、大学、官公庁などを対象に販売が行われた。

 また日本図書館協会は1988年4月、大日本印刷の技術協力により、国立国会図書館の『日本全国書誌』をもとにした「JAPAN MARC」のCD-ROM版『J-BISC』を発売した。1枚のCD-ROMに約10年間分、50万点の書誌データが収録されたもので、これまでの磁気テープ(MT)での提供では年4巻で80万円だったため大型コンピュータが導入された38機関に限られていたのが、CD-ROM化することによって年4回のデータ更新で年間12万円と公共図書館、短期大学、高等学校の図書館にも購入の道が開かれたのである。つまり、この時期には書誌情報検索の分野におけるCD-ROMの至便性も注目されたのである。

 このようなCD-ROM出版への期待を背景に、規格標準化の動きも急速に展開した。日本電子出版協会(前田完治会長=当時)は、ISO(国際標準化機構)で承認されたCD-ROMの国際的な標準規格を基に日本の実情に合わせて標準化を進め、1988年3月に開催した臨時総会で日本電子出版協会システム標準化委員会およびワーキンググループがまとめた「日本語対応CD-ROM論理書式に関する標準化案」を承認した。

 日本電子出版協会は、1988年9月には標準規格によるCD-ROMのサンプルディスクを1万枚製作し、CD-ROM商品および標準規格の普及を図ることに努めた。

 そして1989年7月、この標準規格に基づくCD-ROM「和同開珎」の開発に成功したと発表した。このCD-ROM「和同開珎」には通商産業省(当時)、国立国会図書館、アスキー、岩波書店、学習研究社、新学社、東洋経済新報社、日外アソシエーツなど22社・団体が提供した出版コンテンツを収録しており、「PC9800」(日本電気)、「FMR」(富士通)、「B16」(日立製作所)などをはじめとする、マイクロソフトの基本ソフト(OS)“MS-DOS”が動作するパソコンで読み出しができるようになったのである。ただし、個別コンテンツの対応については、なおハードウェアに依存するものであった。

 

2.1.2 「電子ブックプレイヤー」と「電子ブック」の登場

 CD-ROMを利用するためにはパソコンのほかにCD-ROMドライブやインターフェイスボードといったシステムが必要で、CD-ROMドライブだけでも当時の価格で20万円以上はしていた。そのため1980年代のCD-ROM出版は個人ユーザー向けではなく、図書館や研究所といった機関ユーザーを販売対象としており、CD-ROM自体の販売価格も非常に高額であった。このような制約を乗り越えて、個人ユーザー向けのCD-ROM市場を開拓したのがソニーであった。

 1990年7月、ソニーは8センチCD-ROM専用の電子ブックプレイヤー「データディスクマンDD-1」を発売した。付属の「電子ブック」は三省堂の『現代国語辞典』『ニューセンチュリー英和辞典』『クラウン和英辞典』『コンサイス外来語辞典』『ワープロ漢字辞典』が1つに入った8センチCD-ROMで、これらの辞書5冊で約17万語が収録されていた。そのコンテンツを検索するのが電子ブックプレイヤー「データディスクマンDD-1」であり、付属品としては電子ブックのほかにビデオ接続コード、充電式バッテリーパック、単3電池ケース、ACパワーアダプターがセットされていた。

 出版社はソニーの「データディスクマンDD-1」の発売に合わせて「電子ブックコミッティー」を共同で設立し、別売ソフトとして『広辞苑 電子ブック版』(岩波書店、7,500円)、『現代用語の基礎知識 電子ブック 1990年版』(自由国民社、3,800円)など18タイトルを発売し、その後もタイトルを増やした。本報告書のインタビュー調査でもPHP研究所が『間違いことばの辞典』、また小学館もコンテンツを提供したと答えている。

 ソニーに続いて三洋電機、松下電器産業、NECが電子ブックプレイヤーを発売するが、その後、パソコンにCD-ROMドライブが標準装備されるようになると、電子ブックプレイヤーはその役割を終えることとなる。例えば1995年にWindows版エキスパンドブックを発売したボイジャージャパン、新潮社、NECインターコンチネンタルの3社が『CD-ROM版 新潮社文庫の100冊』(CD-ROM1枚、1万5,000円)を共同制作し、冊子体よりも安価であったことから読者に受け入れられた。また縦書きルビ付き表示、マルチメディア注釈機能、検索機能などがコンピュータと読書を結びつける新しいスタイルとして注目された。

 電子ブックプレイヤーは、今日では辞書コンテンツを半導体メモリに収めた専用機としての電子辞書に引き継がれているといえよう。『電子書籍ビジネス調査報告書2007』によると、電子辞書市場は2007年に300万台、650億円、平均単価2.17万円と推計(カシオ計算機公表資料より/予測値)されているが(1)、本報告書では電子辞書を電子書籍に含めず、調査の対象とはしていない。

 

2.1.3 CD-ROM出版その後の展開

 1990年代に入り、CD-ROM出版に新たな展開があった。

 1991年9月、岩波書店、ソニー、大日本印刷、凸版印刷、富士通の5社は「EPWINGコンソーシアム設立発表会」を開催し、CD-ROMの標準規格として「EPWING規約」を制定し、この規約に基づくCD-ROM検索システムおよびCD-ROM出版物の普及を目指す機関としてコンソーシアムを1991年10月に設立した。この規約に則って出版されたCD-ROMは『CD-ROM最新医学大辞典』(医歯薬出版)、『角川新類語辞典』(角川書店)、『ニューセンチュリー英和・新クラウン和英辞典』(三省堂)、『ワードハンター―マルチROM辞典』(三省堂)、『現代用語の基礎知識1992年度版CD-ROM』(自由国民社)などである。

 また1992年、化学メーカーのクラレはこれまでのCD-ROM出版にくらべて数分の一のコストで出版を可能にする「PICTO-ROM」システムを開発した。また絶版や品切れ本、あるいは紙で復刻することを考えていた出版物をCD-ROM化することで再び読者に提供できないかという出版社の発想から、「PICTO-ROM出版研究会」(代表幹事:清田義昭出版ニュース社代表)も発足した。PICTO-ROMは、従来の文字情報を基本に検索機能を付加したシステムと異なり、光磁気ファイリングによって取り込んだイメージ情報をCD-ROMに転写し、ディスプレイ上では図版・写真など入力画面をそのまま再現するデータベースシステムである。このPICTO-ROMを経葉社が改良を重ねて「経葉」というソフトウェアを作り、その商品化第1号として大正・昭和初期の文芸投稿誌『文章倶楽部』が1995年8月に八木書店から発売された。続いて1996年11月には、活版印刷の衰退により当時絶版状態であった『マルクス=エンゲルス全集』が、大月書店から発売されて話題となった(2)。

 また百科事典の分野でもCD-ROM化が急速に進展する。すでに1988年10月、TBSブリタニカは『ブリタニカ国際大百科事典』(全29巻)のうち小項目事典6巻分を1枚のCD-ROMに収めた『賢作くん』を総合辞典の分野で初めて開発したと発表していた。しかし、1993年にアメリカで1枚のCD-ROMとして発売されたマイクロソフトのマルチメディア百科『エンカルタ エンサイクロペディア』の日本語版が、1997年2月に刊行され、百科事典分野におけるCD-ROM化が注目を集めたのである。

 『エンカルタ エンサイクロペディア』日本語版は、冊子体の百科事典とは異なり約1万8,000項目の解説文中に10万5,000を超えるリンクが張られ、瞬時に関連項目へジャンプすることが可能であった。百科事典のCD-ROM化はこのように保管場所をとらないということだけなく、これまでの知識へのアクセスのしかたそのものを変化させるものであったと言ってよい。

 日本の出版社は1997年に日立デジタル平凡社が『マイペディア97』、1998年に『世界大百科事典』をCD-ROMとして発売した。『世界大百科事典 CD-ROM プロフェッショナル版』(刊行記念特別定価5万7,000円)は、48万項目から索引検索、本文7,000万字から全文検索、人名、地名などのグループ1,600項目から項目グループ検索が可能で、同一画面で参照できるマルチウィンドウや必要なページを精細にプリントできる機能などを特徴としていた。

 小学館も1998年、『日本大百科全書』と『国語大辞典』を合わせてCD-ROM化、音声、動画、静止画も収録し、インターネットにアクセスできることを特徴とした『スーパー・ニッポニカ 日本大百科全書+国語大辞典 CD-ROM版』(4枚組、7万8,000円)として発売した。

 百科事典のCD-ROM化競争は1999年になると今度はDVD-ROM化へと進展していく。日立デジタル平凡社は全35巻の『世界大百科事典』をDVD-ROM1枚に収録した『世界大百科事典 第2版 プロフェッショナル版 プレミアム』(4万8,000円)、競合するマイクロソフトもDVD-ROM版の『エンカルタ総合大百科2000』(オープン価格)、小学館は2000年に『スーパー・ニッポニカ2001 日本百科全書+国語大辞典DVD-ROM版』(発売事前予約価格3万4,000円)を発売した。ちなみに現在では小学館の『日本大百科全書』は絶版であるが、2008年11月、Yahoo! JAPANと提携し、「Yahoo! 百科事典」として、毎月、新たな項目やマルチメディア・データを追加する形で、ウェブサイト上での無料公開を開始している(3)。これは2001年にアメリカで始まったWikipedia(ウィキペディア)のようなインターネット上にボランティアが作り上げる無料の百科事典とは異なり、各分野の権威の手で編纂されたことが強調されているネット百科である。

 一方、冊子体で1977年から発売されてきた日本書籍出版協会の『日本書籍総目録』が2001年版をもってその刊行を中止し、2002年版からCD-ROM化され『出版年鑑 2002年版』とセットで発売されたことは、「『本の本』が本でなくなる!?」と報道され話題を集めた(4)。これは1997年9月、日本書籍出版協会が書籍検索サイト「Books」(http://www.books.or.jp [92])を開設し、『日本書籍総目録』のデータを無料公開したため、冊子体の販売が激減したためであったが、CD-ROM版も『出版年鑑 2004年版』のセット販売を最後にその刊行を中止した。CD-ROMがパッケージ系メディアであることの制約から、データが日次更新される「Books」に移行したという点で、まさに情報検索の局面におけるCD-ROMの限界を象徴する出来事であったと言えよう。

 

2.1.4 「電子書籍コンソーシアム」の実証実験

 日本の出版業界における電子出版の歴史を語る上で欠かすことができないのが、「電子書籍コンソーシアム」の実証実験である。これはデジタル化された出版コンテンツを通信衛星の回線を用い、全国の書店、コンビニエンスストア、大学生活協同組合に配信し、そこに置かれた販売端末から「Clik!」という記憶媒体にダウンロードして高精細度液晶読書専用端末で読むという次世代電子書籍システムの実証実験であった。

 電子書籍コンソーシアムはこれまで先進的に電子出版にかかわってきた出版社が発起人企業となり、1998年10月の設立総会で正式に発足した。

 この電子書籍プロジェクトの特徴は、まず紙の本のもっている特性を継承させるために安くて持ち運びに便利な高精細度液晶の読書専用端末を開発したことである。また、書籍の電子化を安く大量に行うために紙の本を画像データとして取り込む技術を使ったこと。さらに、画像データの宿命である大容量化に対応するため、情報の配信経路としては通信衛星、光ファイバーなどを使ったことが挙げられる。

 このプロジェクトは1998年、政府の「先進的情報システム開発実証事業」に応募し、8億円の予算を獲得し「ブック・オン・デマンド総合実証実験」として始まった。実証実験の概要は次のようなものである。

  •  第1に、電子化センターで紙の本として発行された書籍を高画質の画像処理をしながらスキャナで画像として取り込む。実験期間中に約5,000タイトルの電子書籍が用意された。
  •  第2に、配信センターで電子書籍の情報を蓄積管理して、衛星やインターネットに配信する。
  •  第3に、販売端末を書店、コンビニエンスストア、大学生活協同組合に20台設置する。一方、インターネットで読者のパソコンに直接、配信することも実験に取り込む。
  •  第4に、読書端末は高精細度の液晶を使った読書専用端末を500台用意し、モニターに提供する。一方、パソコンで読む人のためにPCビューワを配布する。

 この実証実験は1999年11月1日に始まり、コンテンツの販売期間が2000年1月31日まで、電子書籍リーダーの利用機関が2000年2月19日まで、PCビューワの利用機関が2000年3月31日までとなっていた。また、募集人員は電子書籍リーダー協力読者が500人、PCビューワ協力読者が1,000人、コンソーシアムに参加している企業は145社であった。

 この「電子書籍コンソーシアム」が画期的であったのは、これまでのCD-ROMや「電子ブック」などのハードメーカー主導型ではなく、出版社主導型の組織であったこと。また、これまでのCD-ROMが検索機能や音声が出ることを強調されすぎたことの反省から、読書端末として文字が正しく表現できるモノクロの高精細度の液晶の開発に力点が置かれたことである。

 2000年3月、この実証実験の結果が『電子書籍コンソーシアム成果報告書』としてまとめられ、公表された。この報告書によると、テスト用データとしては販売に提供されたコンテンツ総数は3,464点であった。そして実験に参加した読者のアンケート結果では、電子書籍リーダーの評価は必ずしも高いものではなかった。読書専用端末が重く、片手で持ちにくいこと。電池寿命が短いこと。この実験のために開発された記憶媒体「Clik!」の容量が小さく、2枚目を購入しようとすると価格が高いこと。電子書籍の購入手順が煩雑で、購入に要する実時間が思ったよりかかること。また読書専用端末での読書そのものに抵抗感があること、などが指摘されている。

 電子書籍コンソーシアムの実証実験はその後、日本の出版業界の中でそのまま事業として立ち上げられたわけではない。しかし、この実証実験によって少なくとも国の予算で3,464点の電子書籍のコンテンツが出現したことの意義は大きく、その後の電子出版へとつながっていくのである。

 

2.1.5 「電子文庫パブリ」と出版社

 1999年12月、「電子文庫出版社会」が発足する。これは角川書店、講談社、光文社、集英社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋の8社が共同で「電子文庫」をインターネット経由でダウンロード販売することに合意し、2000年にオープンすると発表したのである。このように出版社が共同で電子書籍を販売することは日本の出版業界では初めての事例で、ネット上のモールの名称を「電子文庫パブリ」とした。

 2000年9月にスタートした「電子文庫パブリ」では、電子書籍コンソーシアムの実証実験とは異なり、画像データではなくテキストデータを扱い、パソコンやPDA(携帯情報端末)などの既存のインフラを視野に入れて事業展開を図った。

 その後、小学館、祥伝社、筑摩書房、双葉社、学習研究社が加わり、会員社は13社(2009年1月現在)となっている。

 今日では著者が出版社と交わす出版契約に「第1条(独占出版の許諾)」の「表記の著作物を独占的に複製・譲渡することを許諾する」の次に「2 前項の許諾には、オンデマンド出版またはオンライン出版で頒布することを含む」と明記していることが通例だが、電子書籍販売サイトが現れ始めたころにはこのような規定は一般的ではなかった。したがって、文庫を持っていない出版社が既刊の単行本を他社に「文庫化」されてしまう事態と同じように、「品切れ重版未定」の状態で置いていた出版社の頭越しに、著者がコンテンツプロバイダーの勧めに従って電子書籍化する契約を結ぶということも起こり得た。出版社が電子書籍をラインアップしておく今日の動向にはこのような戦略も垣間見られるのである。

 

2.1.6 読書専用端末と「電子書籍元年」

 2004年、読書専用端末であるΣブックとLIBRIeが発売され、これまで電子書籍に取り組んできた出版社、コンテンツプロバイダーなどの関係者からは今度こそ「電子出版元年」であると期待の声が高まった。

 2003年4月、松下電器は読書専用端末「Σ(シグマ)ブック」を発表し、出版社や印刷会社は2003年9月に任意団体「電子書籍ビジネスコンソーシアム」(発起人:勁草書房、松下電器産業・パナソニックシステムソリューションズ社、東芝、イーブックイニシアティブジャパン、大日本印刷、丸三書店、ハドソン、ソフトバンクパブリッシング、ケンウッド、弘文堂、旭川富貴堂、イースト、平凡社、デジタルパブリッシングサービス、図書印刷、原書房、旭屋書店、凸版印刷、岩波書店の19社)の発起人会を開催した。

 Σブック(本体希望小売価格3万7,900円・税別)は2004年2月、全国の46書店とその書店の通販サイトなどで発売された。Σブックのコンテンツ提供サイトやイーブックイニシアティブジャパンが運営する電子書籍販売サイト「10daysbook」などで購入した小説やマンガなどをSDカードに入れ、端末機で購読するしくみである。当時のカタログによると「持ち運びが便利:A5判とほぼ同じ大きさの約520gの軽量・コンパクト設計」「目に優しい:約7.2インチの反射型・液晶モニター」「長時間使える:単3電池2本で約3ヶ月使える日本初・記憶型液晶採用(1日約80ページ閲覧時)」「大容量メモリー:SDメモリーカードにお好きな本を記憶。自分だけの書棚が手のひらに!!」の4つのポイントが強調されていた。

 Σブックがなぜ家電店ではなく、まず書店で販売されたのかには理由がある。Σブックの開発に取り組んできた早川佳宏・パナソニックシステムソリューションズ社電子書籍事業リーダーは、コンテンツ配信系の新ビジネスを立ち上げるために協力を得ようとイーブックイニシアティブジャパンの鈴木雄介社長を訪ねた。そこで、見開きで印刷と同じくらい高精度でルビまで液晶に表示する読書専用端末の必要性、そして家電ではなく本として書店と協力することが大切だという鈴木社長の提案を聞いたからである(5)。

 Σブックは2004年2月、青山ブックセンター、旭屋書店、紀伊國屋書店、ジュンク堂書店、丸善、八重洲ブックセンターの6社・48店舗とそれぞれの書店サイト、そして松下電器産業のサイト「パナセンス」で予約受付、販売を行い、初回200台が発売早々品切れになる出足であったが、その後は売れ行き不振から販売を中止。Σブックに続き2006年12月に発売された第2世代の読書端末である「WordsGear(ワーズギア)」(松下電器、角川モバイル、東京放送の共同出資会社「ワーズギア」が発売・コンテンツは電子書籍サイト「最強☆読書生活」などが販売)は、書籍のほか音楽、動画、静止画が再生できるものであったが、これも現在では生産を完了している。

 一方、ソニーも読書専用端末「LIBRIe(リブリエ)」を2004年3月に発表し、それに先立つ2003年11月に電子書籍事業会社として「パブリッシングリンク」(講談社、新潮社、ソニー、大日本印刷、凸版印刷、筑摩書房、NOVA、読売新聞グループ本社、朝日新聞社、岩波書店、角川書店、光文社、ソニーマガジンズ、東京創元社、文藝春秋、15社が出資)を設立した。パブリッシングリンクが提供する電子書籍サービスは「Timebook Town」と呼ばれ、ダウンロードから2ヶ月間が過ぎると書籍データにはスクランブルがかかり、読めなくなる閲読期間限定のサービスである。月額210円で会員登録を行い、1冊につき315円の利用料金を支払うほか、割引サービスやサービスメニューも提供する。

 そして2004年4月、ソニーマーケティングからLIBRIe(オープン価格、市場販売推定価格4万円前後)が発売された。LIBRIeはパソコンにダウンロードした電子書籍データを本体内蔵メモリやメモリスティックに記録して閲覧するもので、本体内蔵メモリは約10MBで、1冊250ページの書籍なら約20冊分を記録することができる。表示部分には新たに開発した「E INK(イーインク)方式電子ペーパー」技術によって紙のような表示をめざしている。本体の厚さは13㎜で、重量は190g。単4電池4本で本体を標準モードに設定した場合、約1万ページの閲覧が可能という。

 2007年9月、パブリッシングリンクは電子書籍配信事業を独立法人化し、新会社「タイムブックタウン」を発足させたが、これはソニーがLIBRIeの新機種開発を凍結し、事実上読書専用端末事業から撤退することを受けたものであった。その後、Timebook Townは2008年4月1日付けで「サービス終了のお知らせ」を以下のようにサイト上で告知した(6)。

サービス終了日:終了するサービス
2008年09月30日:入会受付終了
2008年12月25日:コンテンツ販売終了
2009年02月28日:すべてのサービス(Timebook Townでのコンテンツ販売、会員向けサービス、Webサイト、カスタマーサポートを含むすべてのサービス)を終了

 パナソニック(松下電子産業が2008年10月1日付で社名変更)システムソリューションズ社も2008年10月1日付で「ΣBook.JP、最強☆読書生活(PC版)の、閉店のお知らせ」として、2008年9月30日の営業を最後に閉店したことをホームページ上で告知している(7)。

 このような読書専用端末の開発と販売中止の経緯を見ると2004年もまた「電子書籍元年」ではなかったことが判明するのである。

 

2.1.7 読書専用端末から汎用型デバイスへ

 日本における読書専用端末が相次いで挫折していく中、2007年9月にボイジャージャパンはオンライン書店や「青空文庫」からダウンロードしてiPod touchやプレイステーションポータブル(PSP)で読むサービスを開始し、任天堂は2007年10月にニンテンドーDSで読む『DS文学全集』(メーカー希望小売価格2800円)を発売している。つまり読書専用端末は読者に支持されず、携帯電話、iPod touch、PSP、DSといった汎用型デバイスが注目されているのが現状と言えよう。

 例えばDSに関しては、携帯ゲーム機の動画ソフトなどを販売する「am3」に大日本印刷が筆頭株主として資本参加し、2008年7月から「DSVision.jp」サービスというDS向けコンテンツの配信事業を開始した。これはインターネットを使ってDS及びDS Liteの端末にゲーム以外の電子書籍や動画、音楽などのコンテンツをダウンロードできるサービスである。ダウンロードには専用の「microSDカード」とカードを格納してDSで読み込めるようにする専用のアダプタ、カードをパソコンに接続するためのUSBカードリーダーが必要ではあるが、2ギガのカードに書籍4,000冊分、コミック200冊分、映画16本分の収録が可能である。

 また2008年7月に日本でも発売されたiPhone3Gは、これまでの多くの携帯電話とは異なり、キーパッドが存在せず、タッチパネルによるインターフェイスを採用している。電子書籍を読む場合、iPhone上からApp Store(AppleのiPhone 3GおよびiPod touch向けに開発された配信チャネル)にアクセスして、購入したいタイトルのページにジャンプする。そこから画面の指示にしたがって購入することになる。

 ところで読書専用端末が普及しないことについて、筑瀬重喜・朝日新聞大阪本社グループ戦略本部主査は「シグマブック以降のすべての読書端末は、『どれだけ画面が精細で紙に近いか』『どれだけペーパーライクか』を競っている」と批判的に検証し、実際に電子書籍コンソーシアム実証実験のモニターに参加した経験から次のように結論づける。

 

「電子書籍が受け入れられるのは、特定の種類の読書だけであり、それ以外では身体が拒むからである。つまり直読型文章を通読ないし検索する読書と、解読型文章を検索するタイプの読書は電子書籍に適している。だが、解読型の文書を通読するタイプの読書(これが大半の読書を占める)には、電子書籍は適合しないのである。」(8)

 

 ここでいう直読型文章とは「駐車禁止」のような瞬時に理解できるタイプの文、解読型文章とは文芸や教養書、新聞などの文であり、「解読型の文を通読の意図で持って読むこと」は書籍、「直読型の文を通読の意図を持って読むこと」はケータイ小説、「直読型の文を検索の意図を持って読むこと」は電子辞書、「解読型の文を検索すること」は文学研究などで調べる場合に対応すると、「文の性質」と「読み手の態度や姿勢」の二つの軸をもとにマトリックスを描いて説明している。

 つまり読書専用端末の失敗は、紙や書籍の代替としては社会に受け入れられないことにあり、ケータイ小説や電子コミックが受け入れられたとしても電子書籍への全面移行にはならないとする「読み手」を視野に入れる立場からの批判である。

 

2.1.8 アマゾン「Kindle」と「なか見!検索」

 日本では読書専用端末が一般読者に受け入れらないことが次第に明らかになってきた頃、2007年11月に米国のアマゾンが読書専用端末「Kindle(キンドル)」(発売当初価格は399ドル、約4万円)を販売した。Kindleは通信機能を有しているという点において、従来の読書専用端末と一線を画していた。利用者は無線LANで接続した端末を通じ、“amazon.com”に設けられた“Kindle Store”から書籍を選んでコンテンツを購入できる。アマゾンが用意した電子書籍は、発売当初の段階で9万タイトルにも及び、ベストセラー本も紙よりかなり安い9.99ドルで購入できる。つまり音楽コンテンツにおけるアップルのiPodとiTunesの関係と同じように、電子書籍の分野でブレークする可能性もあり得ると指摘する論者は多い。

 ところで日本で2005年11月にサービスが始まったアマゾンジャパンの書籍全文検索サービス「なか見!検索」は、2008年10月31日現在、参加出版社数約1100社、和書7万点が登録済みである。また2008年1月30日にアマゾンジャパンが発表した2007年と2006年の和書の出版社別売上げランキング上位100社のうち「なか見!検索」に参加している出版社は59社であった(9)。キーワードで検索して書籍の本文を確認するという購読スタイルは、いわば紙の本ではリアル書店の立ち読みに該当する。

 では紙の本をオンライン書店で取り寄せることなく、通信機能をもった読書専用端末で購入して、読むという読書スタイルははたして出現するのであろうか。

 米国で発売されたKindleはアマゾンによれば「1.読みやすいディスプレー(電子ペーパー採用)、2.直感的インターフェース(取扱説明書不要)、3.PC接続不要(携帯データ通信内蔵)、4.豊富なコンテンツ(書籍、新聞・雑誌:18.5万冊以上)」を特徴としている。日本での発売時期について筆者は2008年11月、アマゾンジャパンの関係者に直接質問したが未定とのことであった。

 

注

(1) 電子書籍ビジネス調査報告書2007. インプレスR&D, 2007, p206, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(2) “4万ページがCD-ROM7枚に 絶版のマルクス・エンゲルス全集”. 朝日新聞(夕刊), 1996-11-14, p.11.

(3) ヤフー. “新サービス「Yahoo!百科事典」を公開:小学館『日本大百科全書』を完全無料で検索できる”. http://pr.yahoo.co.jp/release/2008/1127a.html [93], (参照 2009-02-11).

(4)“「本の本」が本でなくなる!? 「日本書籍総目録」CD-ROMに”. 朝日新聞, 2002-01-21, p32.

(5) かつて松下電器のウェブサイト上で、「シグマブック/電子書籍への挑戦・Σの名のもとに」として公開されていたが、2009年1月26日現在確認できない。参考として、かつて筆者が披見した2004年7月30日付けの書誌を記載する。
松下電器. “シグマブック/電子書籍への挑戦・Σの名のもとに”. http://matsushita.co.jp/ism/sigmabook/html/00.html [94], (参照 2004-07-30).

(6) タイムブックタウン. “Timebook Townサービス終了のお知らせ”. http://www.timebooktown.jp/Service/info/2008/info_s080401_01.asp [95], (参照 2009-01-26).

(7) 本ホームページ自体も、すでに閲覧することができない。

(8) 筑瀬重喜. 読書端末はなぜ普及しないのか. 情報化社会・メディア研究. 2008, 5, p.39.

(9) “アマゾンジャパン 出版社別ランキング初公開 出版社別年間売上ベスト100”. 新文化, 2008-02-07. p3.

 

参照ウェブサイト

“iPhone3G”. アップルジャパン. http://www.apple.com/jp/iphone/ [96], (参照 2009-02-10).

“青空文庫”. http://www.aozora.gr.jp/ [97], (参照 2009-02-11).

“amazon.com”. http://www.amazon.com/ [98], (accessed 2009-02-11).

“Kindle Store”. Amazon.com. http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-magazines-blogs-newspapers/b?node=133141011 [99], (accessed 2009-02-11).

“DSVision.jp”. am3. http://www.dsvision.jp/ [100], (参照 2009-02-11).

“iモード”. NTTドコモ. http://www.nttdocomo.co.jp/service/imode/ [101], (参照 2009-02-11).

“Googleブック検索”. Google. http://books.google.com [102], (参照 2009-02-11).

“EZWeb”. KDDI. http://www.au.kddi.com/service/ezweb/index.html [103], (参照 2009-02-11).

“Yahoo!ケータイ”. ソフトバンクモバイル. http://mb.softbank.jp/mb/service/3G/yahoo_keitai/ [104], (参照 2009-02-11).

“e-Book Japan”. 電子書籍コンソーシアム. http://www.ebj.gr.jp/ [105], (参照 2009-02-11).

“電子文庫パブリ”. 電子文庫出版社会. http://www.paburi.com/ [106], (参照 2009-02-11).

“日本ペンクラブ電子文藝館”. 日本ペンクラブ. http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/ [107], (参照 2009-02-11).

“ブッキング”. http://www.book-ing.co.jp/ [108], (参照 2009-02-11).

“VOYAGER”. ボイジャージャパン. http://www.voyager.co.jp/ [109], (参照 2009-02-11).

“魔法のiらんど”. http://ip.tosp.co.jp/ [110], (参照 2009-02-11).

  • 参照(16426)
図書館調査研究リポート [4]
情報検索 [111]
出版 [112]
電子書籍 [90]
日本 [9]

2.2 携帯電話読書の進展と携帯電話キャリアの動向

  • 参照(8713)

 PDF版はこちら [113]

2.2.1  携帯電話向け電子書籍市場の急成長

 前述の『電子書籍ビジネス調査報告書2007』では、電子書籍の動向についておよそ次のように概説している。

 2002年度にPC向けに電子書籍市場が形を整え、PDA(携帯情報端末)向けの電子書籍販売サイトが相次いでスタートし、2003年度はPDA向け電子書籍市場が最盛期を迎え、2004年度はΣBook、LIBRIeといった読書専用端末の登場、2005年度に携帯電話向け電子コミックの伸びが顕著となり、2006年度に携帯電話向け電子書籍市場がPC向けを上回った(10)。

 

表2.1 電子書籍市場の売上高の推移(単位:億円)

年度PC向け携帯電話向け電子書籍市場合計
2002年度10010
2003年度170.518
2004年度331245
2005年度484694
2006年度70112182
2007年度72283355

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書2008』

 

 さらに『電子書籍ビジネス調査報告書2008』では「2007年度の電子書籍市場の市場規模は約355億円と推定され、成長率は95%と相変わらず大きかったものの、内訳はPC向けの電子書籍市場が約72億円とほとんど前年度と変わらなかったのに対して、携帯電話向けの電子書籍市場は約283億円と対前年度比2.5倍の規模に拡大。PC向けの電子書籍市場の成長に大きくブレーキがかかる一方で、携帯電話向けの電子書籍市場の成長にドライブがかかった一年であった」(11)と分析している。

 電子書籍市場の売上高は表2.1に示すように携帯電話向けの市場が牽引して、大きく伸びているのである。

 

2.2.2 携帯電話キャリアの動向

 『電子書籍ビジネス調査報告書2008』によると、携帯電話電子書籍のサイト数は以下のように推移している。

 

表2.2 携帯電話向け電子書籍サイト数の推移

表2.2 携帯電話向け電子書籍サイト数の推移

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書2008』p.8より作成

 

 本報告書を作成するにあたって実施したインタビュー調査において、その後も携帯電話キャリアにおいて電子書籍サービスを行うサイト数は増加し続けていることが明らかになった。

 NTTドコモが提供するiモードは、2003年より出版社によるiモード向け電子書籍サービスを開始している。すでにiモードがスタートした当初から複数のサイトでオリジナルの読み物を配信していたが、携帯電話で実際の小説が読める電子書籍サイトが立ち上がったのは2003年からである。2008年12月現在での電子書籍のサイト数はコミック79、アニメ/フィルムコミック7、小説(歴史、文芸なども含む)44、写真集32、その他4の合計166サイトである。

 KDDI(携帯電話サービスのブランド名はau)のEZWebは、2003年11月のWINサービス開始と同時に電子書籍サービスを開始している。電子書籍のサイト数2008年9月現在では総合(小説・コミックを含む)55、小説・文芸29、コミック106、写真集75の合計265サイトで、キャラクターなど別サイトで電子書籍を置いているものが23サイトある。

 ソフトバンクモバイルの携帯電話向けポータルサイトであるYahoo!ケータイでは、2002年4月の「新潮ケータイ文庫」から電子書籍サービスを開始している。その後、2004年12月からは電子コミックの配信を開始している。電子書籍のサイト数は2008年9月現在で書籍(文芸)48、コミック106、写真集69の合計223サイトである。

 いずれの携帯電話キャリアも他社との競合の中で電子書籍に対する期待は大きい。とりわけ出版社から売れ筋の新刊コンテンツの提供を受けることで、さらにダウンロード数を伸ばそうと考えているのである。そしてその背景にはコンテンツを豊富にすることによって契約者とダウンロード回数を増やそうという携帯電話キャリアの戦略が存在するのである。

 

2.2.3 「魔法のiらんど」とケータイ小説

 1999年12月に無料ホームページ作成サービスから始まった「魔法のiらんど」は、2000年3月から「ブック」機能で自分の書いた文章に表紙をつけ、目次をつくり、連載小説として発表できる携帯電話向けネットサービスを提供している。

 このサービスはユーザーの口コミで瞬く間に広がり、2008年8月現在では累計登録ID数600万、月間35億ページビューを超えるモバイル最大級のコミュニティ・サイトに成長している。いわゆる「ケータイ小説」の世界である。公開されている作品は100万作品とも言われている。

 このようなタイプのネット上の文芸作品は、紙の本があって電子書籍が作られるのではなく、まさにボーンデジタル(born digital)のコンテンツとして現出している。しかし、その実態の把握は困難である。

 「魔法のiらんど」の場合、アクセスランキングを日次更新し、ケータイ小説のポータルサイト「魔法の図書館」に掲載されている。作者は自分で描いたイラストや写真を掲載したり、句読点を画面上に散りばめ、涙が零れ落ちる様を表現したりするなど、ケータイ小説独自の表現方法を生み出している。またアクセスランキングの上位は書籍化され、すでに70タイトル以上、累計発行部数は1,300万部を超えているのである。(2008年3月末現在)

 

注

(10) 電子書籍ビジネス調査報告書2007. インプレスR&D, 2007, p1-2, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(11) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p2, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ)

 

参照ウェブサイト

“iPhone3G”. アップルジャパン. http://www.apple.com/jp/iphone/ [96], (参照 2009-02-10).

“青空文庫”. http://www.aozora.gr.jp/ [97], (参照 2009-02-11).

“amazon.com”. http://www.amazon.com/ [98], (accessed 2009-02-11).

“Kindle Store”. Amazon.com. http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-magazines-blogs-newspapers/b?node=133141011 [99], (accessed 2009-02-11).

“DSVision.jp”. am3. http://www.dsvision.jp/ [100], (参照 2009-02-11).

“iモード”. NTTドコモ. http://www.nttdocomo.co.jp/service/imode/ [101], (参照 2009-02-11).

“Googleブック検索”. Google. http://books.google.com [102], (参照 2009-02-11).

“EZWeb”. KDDI. http://www.au.kddi.com/service/ezweb/index.html [103], (参照 2009-02-11).

“Yahoo!ケータイ”. ソフトバンクモバイル. http://mb.softbank.jp/mb/service/3G/yahoo_keitai/ [104], (参照 2009-02-11).

“e-Book Japan”. 電子書籍コンソーシアム. http://www.ebj.gr.jp/ [105], (参照 2009-02-11).

“電子文庫パブリ”. 電子文庫出版社会. http://www.paburi.com/ [106], (参照 2009-02-11).

“日本ペンクラブ電子文藝館”. 日本ペンクラブ. http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/ [107], (参照 2009-02-11).

“ブッキング”. http://www.book-ing.co.jp/ [108], (参照 2009-02-11).

“VOYAGER”. ボイジャージャパン. http://www.voyager.co.jp/ [109], (参照 2009-02-11).

“魔法のiらんど”. http://ip.tosp.co.jp/ [110], (参照 2009-02-11).

図書館調査研究リポート [4]
日本 [9]

2.3 無料の電子書籍サイト

  • 参照(9443)

 PDF版はこちら [114]

2.3.1 「青空文庫」

 日本の出版業界における電子書籍についてここまで振り返ってきたが、業界とは別の位相で電子書籍の流れを形成してきた分野を見落としてはならない。1997年から開始した「青空文庫」はその良い例である。

 青空文庫は、著作権が消滅し、パブリックドメインに帰した文学作品を収集・公開しているインターネット上の無料サイトであり、一般読者への電子書籍の認知に大きな影響を与えたと思われる。

 青空文庫は2007年10月、「青空文庫10年の成果をすべての図書館に」と銘打って、これまで蓄積してきたコンテンツを収録したDVD‐ROMを全国の公共図書館、大学附属図書館、高等学校図書館などへ寄贈した。そのDVD‐ROM『青空文庫 全』には次のようにその役割が語られている

 

 「学校の図書館、地域の公共図書館の多くは、「文学史」に登場する作品群を収録している。しかし、閉架にあってアクセスがあまりよくなかったり、文字が小さく、本が古いことも多いことだろう。あまりに古い本は貸し出し禁止になっているかもしれない。青空文庫という試みは、こういったアクセスしにくい本へのアクセスをよくすることができる。」(12)

 

 ここにはいかに電子書籍化して対価を得るかではなく、著作権の保護期間を満了した文学作品を多くの人が共有できるようにしようとする文化的蓄積を活用しようとする視点がある。

 

2.3.2 「電子文藝館」

 日本ペンクラブの「電子文藝館」は、2001年11月26日の「ペンの日」に開設された。作家の秦恒平館長は「無料公開の大読書室であると同時に、日本ペンクラブ会員が一人一人その存在を作品により自己証明している場でもある」とその趣旨を語っている(13)。

 「電子文藝館」の総目次を見ると「歴代会長、詩、短歌・俳句、戯曲・シナリオ、ノンフィクション、評論・研究、随筆、小説、児童文学、オピニオン、翻訳、外国語、索引」となっている。完全に無料公開されており、閲覧だけではなくダウンロードも自由である。そして、ここに作品を発表することを日本ペンクラブとして会員に呼びかけているのである。

 このような試みは作品のデータベースとして機能するだけでなく、文学作品の生産、流通、保存という観点から新たな課題を提起せざるをえない。これまで出版社が職業文学者の生活を支えて来られたのは、雑誌→単行本→文庫→全集や著作集といった文芸作品を商品化する一定のサイクルがあったはずである。しかし、近年の雑誌の売上げ不振は顕著であり、また最初から文庫として出版される新刊群の存在や、全集や著作集の極端な販売不振という状況はかつての出版サイクルを成り立たなくしている。そのような商品としての文芸作品と、インターネットでの作品の無料公開が今後どのように折り合いをつけていくのか、また今後どのように価格付けの整合性を見出していくのか。文芸出版は新たな課題に直面しているのである。

 

2.3.3 「Googleブック検索」と絶版本の有料データベース化の動向

 グーグルが日本で書籍の全文検索サービス「ブック検索」を開始したのは2007年であった。すでにアマゾンジャパンが「なか見!検索」という同様のサービスを開始していたが、アマゾンがオンライン書店として検索した結果、書籍を販売するのに対して、グーグルはアマゾンも含めてオンライン書店や出版社サイトにリンク表示されるだけであるという違いがある。

 このような書籍の全文データベース検索に関して、2008年10月に新たな展開が見られた。米国でのグーグル「ブック検索(Book Search)」著作権訴訟の和解案がまとまったのである。

 2005年にグーグルが図書館の蔵書を全文スキャンし、デジタル化する図書館プロジェクトをハーバード大学、スタンフォード大学、ミシガン大学、オックスフォード大学、ニューヨーク公共図書館の参加を得て開始し、その年の9月に作家協会(Authors Guild)と全米出版社協会(Association of American Publishers)は著作権侵害を理由にグーグルを提訴していた。図書資料をスキャンすることは著作物の複製にあたり、著作権者の複製権を侵害すると主張したのである。これに対してグーグルは図書館の資料をデジタル化し、その一部を閲覧できるようにすることは著作権上認められたフェアユースにあたると反論した。

 和解案では、グーグルは引き続き著作権のある書籍をスキャンし、書籍データベースを作成するとともに、公共図書館や高等教育機関(大学や短期大学)の図書館に専用の検索端末を設置し、著作権が残存しているが絶版となっている書籍の全文を、オンライン上で提供すること、有料でプリントアウトサービスをおこなうことが認められる。また学校、企業、その他の機関に対しては、絶版書籍を収録したデータベースのオンライン提供が有料で認められ、消費者に対しても個別に書籍を販売することや、書籍と一緒に広告を表示することができるようになる。

 この和解案ではまた、著作者や出版社などの関係者代表が参加する、非営利組織の版権レジストリが創設され、スキャンした電子データの取り扱いを登録し、公開の方法をコントロールする条項も盛り込まれている。グーグルは著作権保持者に対して、“Book Search”事業で得た収益の63%を支払うことも合意しており、この中から版権レジストリの運営費用などが供出される。

 正式には2009年6月に裁判所による承認が必要だが、これが決定されると絶版になった書籍の巨大なデータベースが出来上がり、無料プレビュー表示か、有料で全文を販売するかなどを著作権者が設定できることになる(14)。

 日本では絶版書籍の市場として、デジタル化されたコンテンツを需要に応じて紙に印刷、製本して読者に届けるオン・デマンド出版が本格化したのが1999年10月のブッキング(日本出版販売と出版社29社が出資)、同じ年の11月のデジタル・パブリッシング・サービス(トーハンと凸版印刷の合弁会社)の相次ぐ設立からであった。絶版・品切れによる販売機会の損失について、デジタル・パブリッシング・サービスを立ち上げたトーハンの藤井武彦副社長は当時、出版業界紙の取材に対して次のように語っている。

 「平成10年4月から同11年3月までの1年間で、絶版・品切れ本による『事故伝票』が20万6000件発生したという。そのうち復刻の需要があるとみられる専門性の高い書籍は3万2000点、平均定価2200円で、月当り3件の注文があることを予測して、藤井副社長はトーハンだけで約25億円の売り損じがあったと分析し、これを同事業の市場規模と判断している」(15)

 グーグルの場合、すでに700万冊におよぶ書籍のスキャンを終了しており、そのうちの400万冊から500万冊が絶版本という。これが新たに電子書籍として全文が有料でダウンロード販売されたり、大学や図書館で閲覧されたりということになるかもしれない。

 これは現時点ではあくまで米国での話であり、米国国外は和解対象とはされていない。しかしBook Searchプロジェクトでは、米国の参加図書館が所蔵する日本語図書もスキャンが進んでおり、すでに多くの図書が検索可能である。また日本国内でも2007年7月、慶應義塾大学図書館が「ブック検索」に参加、協同で蔵書のうち著作権保護期間が満了した約12万冊のデジタル化を進めている。今後、日本の「ブック検索」においても米国と同様の展開が予想されるのである。(湯浅俊彦)

 

注

(12) 門田裕志. 青空文庫一〇年の成果をすべての図書館に:『青空文庫 全』寄贈計画が目指すもの. 青空文庫全:もう一つの読む自由. 青空文庫, 2007, p3. http://www.aozora.gr.jp/kizokeikaku/aozorabunko_zen_02.pdf [115], (参照 2009-02-06).

(13) 秦恒平. “電子文藝館の現況:2005ペン総会に当たって”. 日本ペンクラブ:電子文藝館. http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/information/information.html#inf_02 [116], (参照 2009-02-06).

(14) Authors Guild. “$125 Million Settlement in Authors Guild v. Google”. http://www.authorsguild.org/advocacy/articles/member-alert-google.html [117], (accessed 2009-02-11).
Authors Guild. “Authors Guild v. Google Settlement Resources Page”. http://www.authorsguild.org/advocacy/articles/settlement-resources.html [118], (accessed 2009-02-11).
Google. “Google Book Search Settlement Agreement”. http://books.google.com/intl/en/googlebooks/agreement/ [119], (accessed 2009-02-11).
Book Rights Registry. “Google Book Search Settlement Notice to Rights-holders: Books & Inserts Registry”. http://www.googlebooksettlement.com/ [120], (accessed 2009-02-11).

(15) “トーハン オンデマンド事業参入”. 新文化. 1999-10-14, p3. .

 

参照ウェブサイト

“iPhone3G”. アップルジャパン. http://www.apple.com/jp/iphone/ [96], (参照 2009-02-10).

“青空文庫”. http://www.aozora.gr.jp/ [97], (参照 2009-02-11).

“amazon.com”. http://www.amazon.com/ [98], (accessed 2009-02-11).

“Kindle Store”. Amazon.com. http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-magazines-blogs-newspapers/b?node=133141011 [99], (accessed 2009-02-11).

“DSVision.jp”. am3. http://www.dsvision.jp/ [100], (参照 2009-02-11).

“iモード”. NTTドコモ. http://www.nttdocomo.co.jp/service/imode/ [101], (参照 2009-02-11).

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“Yahoo!ケータイ”. ソフトバンクモバイル. http://mb.softbank.jp/mb/service/3G/yahoo_keitai/ [104], (参照 2009-02-11).

“e-Book Japan”. 電子書籍コンソーシアム. http://www.ebj.gr.jp/ [105], (参照 2009-02-11).

“電子文庫パブリ”. 電子文庫出版社会. http://www.paburi.com/ [106], (参照 2009-02-11).

“日本ペンクラブ電子文藝館”. 日本ペンクラブ. http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/ [107], (参照 2009-02-11).

“ブッキング”. http://www.book-ing.co.jp/ [108], (参照 2009-02-11).

“VOYAGER”. ボイジャージャパン. http://www.voyager.co.jp/ [109], (参照 2009-02-11).

“魔法のiらんど”. http://ip.tosp.co.jp/ [110], (参照 2009-02-11).

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]
Google [121]

2.4 視覚障害者の読書と電子書籍の可能性

 PDF版はこちら [122]

 本節では、視覚障害をもつ人の読書と電子書籍の可能性について取り上げる。

 厚生労働省によると、2006年の日本の視覚障害者は、約31万人であると推計されている(1)。また日本眼科医会の推計によると、高齢化などによる強度の視力の衰えに悩む「ロービジョン」と呼ばれる人々は、約100万人にのぼるという(2)。

 このように視覚障害をもつ人々は、情報をどのように入手しているのだろうか。厚生労働省の調査では、視覚障害者の約3分の2はテレビ放送から、55%が家族・友人からと答えている。だが一般図書・新聞・雑誌を情報源と回答している人々も少なくなく、全体の約4分の1を占めている(3)。

 活字を大きな活字にしたり、音訳や点字に点訳することで、視覚障害者の利用可能性は高まる。パソコンの普及により、テキストデータを使用して読んだりすることも、技術的には容易に可能となっている。

 

2.4.1 視覚障害者の「読書」とDAISY

 多くの人々の努力により、録音・点字図書の整備は進められてきた。とりわけ録音図書は、カセットテープの時代を経て、現在では“DAISY”と呼ばれるデジタル情報に変化した。DAISYの詳細は他に譲るが(4)、従来のカセットテープに代わり、CDに録音することからスタートしたシステムで、音質の劣化がなく、一枚のCDに約50時間と長時間の録音が可能である。章や節、ページ単位での移動や目次からのジャンプ、本文中の文字列からの検索も容易である。またパソコンを利用して、音声とともに、画面上で本文や表紙、文中に使用した絵や写真等も同時に表示できる、マルチメディアDAISYと呼ばれる規格も存在する。

 利用者も視覚障害者はもちろん、いままで通常の方法による読書が困難とされてきた学習障害者や、本をめくることのできない重度の身体障害者でも、特殊なキーボードやマウス、ジョイスティックやアイコンタクト(瞬きでパソコンを操作する方法)等で読書を楽しむことが可能になる。さらに最近の研究では、その人専用に開発された使い慣れたジョイスティックやフットスイッチ、果てはボイスコマンドでパソコンをプレーヤーの如く動かせる研究も進んでいる。そして読み書き、計算などについての発達性障害をもつ子どもたちも活用できるように実証実験が進められている。

 だがDAISYには大きな課題が存在する。DAISYは録音図書の1種であり、「音訳」と呼ばれる方法で作成される。音訳とは墨字資料の原本から視覚情報を読みとり、音声にして伝えることである。正確な表現はもちろんであるが、文章だけではなく、図やグラフ、写真などのすべての視覚情報を、正確にわかりやすく伝える技術も要求される。そのため作成には、多大な時間や手間を要する。視覚障害者は読みたい本をすぐに入手することが叶わないのである。新刊書や音訳されていない本の「読書」に要する、視覚障害者と健常者のタイムラグを、できる限り少なくすることが、重要な課題として浮かび上がる。

 

2.4.2 「電子書籍」と視覚障害者の「読書」

 近年、駅や自動販売機など生活のさまざまな場面で、機械による合成音声を耳にすることが多い。アクセントや単語のつながりに、違和感を感じることもあるが、それも徐々に改善されている。

 これはコンピュータの「自動音声読み上げ」機能の典型的な活用例である。あらかじめ準備されているテキストデータからテキストデータが再生され、音声情報を得ることができる。すでに、パソコン上で表示するテキスト、HTMLをはじめ、パソコンの操作画面、手順など画面に表示する一切の情報を読上げるソフトが開発されている。これらのソフトは一般に「スクリーンリーダー」と呼ばれており、OSに備わっているものもある。視覚障害者のあいだでは、このスクリーンリーダーが普及しており、約12%がパソコンを使っている(5)。

 そのために電子書籍のもっている可能性は極めて大きいといえる。電子書籍の多くには、テキストデータが埋め込まれているのである。テキストデータがパソコン上で読上げ可能であることは上記のとおりであるが、これに極めて近い形で、健常者向けに出版されている電子書籍を音読に利用することが、技術的に可能である。

 一方で、本は文字情報の連なりによってなされた作品であり、著作物として保護を受ける。電子出版にとって著作物を保護するということは非常に大切な仕事である。すなわち、作品として一定の完成された形を持つ情報は、単なる文字情報の固まり=テキストデータとして加工・改ざんされうる状態になっていたり、あるいはその状態に戻されたりすることを認めることはできない。詳細は後述するが、電子書籍の多くは著作物の同一性を保持し、不正なコピーを防止する措置がとられている。

 だがスクリーンリーダーによる読み上げは、ほとんどの場合、書籍の内容をシンプルなテキスト情報として把握して、スクリーンリーダーの「エンジン」に渡すのが普通である。この方法では改ざんやデータの抜き取りが可能になってしまう。読上げのために電子書籍の原データを書出したり、あるいは電子書籍の原データをそのまま販売・配布することは著作権の保護上多くの問題をかかえてしまうことになる。

 このような問題を解決する方法として、(1)スクリーンリーダーの開発者と電子書籍フォーマット開発者が連携する、(2)電子書籍を閲覧させるビューア・アプリケーションからスクリーンリーダーへ情報を伝える過程で不正行為を防止する、という仕組みが開発されている。こうした仕組みで、読み上げとコンテンツ保護を両立しており、すでに現実のものとなっている(6)。

 日本の代表的な出版社の多くが、電子書籍をつくっている。ベストセラーを含む多くの出版物を、読み上げられる電子書籍を遅滞なく提供すれば、紙の本の出版と同時に視覚障害者が読書を楽しむ「バリアフリー出版」が実現することになる。電子書籍は、これまで「読者」になることが困難であった人々を、新たな「読者」として迎え入れる可能性をもたらしているといえよう。(萩野正昭)

 

注

(1) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部. 身体障害児・者実態調査結果. 平成18年. 2008, p.3. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01_0001.pdf [123], (参照 2009-02-13).

(2) 日本眼科医会. “ロービジョンの現状と展望”. http://www.gankaikai.or.jp/info/08/01.html [124], (参照 2009-02-13).

(3) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部. 身体障害児・者実態調査結果. 平成18年. 2008, p.26. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01_0001.pdf [123], (参照 2009-02-13).

(4) 日本障害者リハビリテーション協会. “エンジョイ・デイジー”. http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/index.html [125], (参照 2009-02-12).

(5) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部. 身体障害児・者実態調査結果. 平成18年. 2008, p.27. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01_0001.pdf [123], (参照 2009-02-13).

(6) アルファシステムズ. “電子本の音声読上げ対応開始について”. 2006-10-11. http://www.alpha.co.jp/ir/pdf/press/20061011.pdf [126], (参照 2009-02-12).
高知システム開発. “MyBookのご案内”. http://www.aok-net.com/products/mybook.htm [127], (参照 2009-02-12).
ボイジャー. “目の見えない人に本を届ける:視覚障碍者の読上げソフトとドットブックが手を結ぶ”. 2008-11-21. http://www.voyager.co.jp/hodo/081121_hodo.html [128], (参照 2009-02-12).

  • 参照(24731)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
視聴覚資料 [129]
日本 [9]

2.5 コンテンツプロバイダーの動向

 PDF版はこちら [130]

2.5.1 コンテンツプロバイダーの事業

 日本で初めて「オンライン電子書籍サービス」を開始したのはパピレスである。天谷幹夫代表取締役は、富士通に在籍していた当時、社内で新しい事業の企画募集があり、これにネットワーク発信事業で応募。1995年3月に富士通のベンチャー支援制度を利用してフジオンラインシステムを設立し、1995年11月にパソコン通信で「電子書店パピレス」を開始している。日本最大規模の電子書籍販売サイトで、小説、コミック、趣味・実用書、写真集、音声ブック、ビジネス等約9万点のコンテンツをPC向けに配信、2003年10月からはEZWebで携帯電話電子書籍サイトも開設している。

 またイーブックイニシアティブジャパンは、2万6000点を超える電子書籍のうち95%がコミックという、PC向けコミックでは日本最大級の電子書籍販売サイト「eBookJapan」を運営するコンテンツプロバイダーである。鈴木雄介代表取締役は小学館で雑誌や書籍の編集に長く携わったあと、1998年10月から2000年3月まで主力メンバーとして活動した「電子書籍コンソーシアム」の実証実験の経験やノウハウを活かして、2000年5月にイーブックイニシアティブジャパンを設立、2000年12月より当初は「10days book」のサイト名で電子書籍の販売を開始した。紙の本を出版する上での制約であった印刷費や紙代、倉庫代といったコストや返品問題のような流通の非効率から解き放たれた電子書籍を、液晶技術の向上によってマンガを読むのにふさわしい高精細度のモバイル端末で読めるようにするという方針に向かって活動を続けている。

 一方、携帯電話を中心に事業展開しているコンテンツプロバイダーとしてエヌ・ティ・ティ・ソルマーレがある。もともとNTT西日本の光ファイバーサービスを普及させる事業の一環として街頭端末を設置し、小説、動画、マンガなどのコンテンツのダウンロードサービスを始めたところ、マンガのダウンロード数が最も多く、また携帯電話の急速な普及とパケット定額制のサービス開始が背景となり、携帯電話向け電子書籍サービスに事業を特化したという経緯がある。携帯電話向け電子コミックサイトとして、「コミックi」「コミックシーモア」を運営し、国内最大のタイトル数を誇り、2008年5月には累計3億ダウンロードを達成している。

 またビービーエムエフは、2006年4月に携帯電話向け電子コミックサイトの「ケータイ★まんが王国」、2006年12月に携帯電話向け電子写真集サイトの「写真王国」、2008年9月から携帯電話向け電子書籍サイトの「小説王国」をスタートさせている。

このようにPC向け、携帯電話向けというデバイス、あるいは「文字もの」「コミック」「写真集」というコンテンツによって様々なコンテツプロバイダーの競合と棲み分けがなされているのが、日本における電子書籍販売市場の実態である。

 

2.5.2 電子書籍における取次事業の展開

 さまざまな経済分野においてIT革命は流通の中抜き現象をもたらすと語られてきた。しかし、デジタル化とネットワーク化を特徴とする今日の世界では情報の新たな仲介業が必要となるのである。例えば西垣通は次のように書いている。

 「たとえば、米国では既に、多くの自動車メーカーのデータを集めてウェブ上で顧客に提供し、顧客が購買すると仲介手数料をとるというビジネスが行われている。物流のかわりに情報流における仲介業―これは今後の流通業が向かう一つの方向を示している」(1)

 電子書籍ビジネスも例外ではない。紙の本の取次にあたる業態が新たに出現したのである。例えばビットウェイは1997年6月に凸版印刷の「コンテンツパラダイス」として出版社系コンテンツのネット配信からスタートし、2000年3月にPC向け電子書籍販売サイト「ビットウェイブックス」を運営し、2005年10月にビットウェイとして分社化したコンテンツプロバイダーである。そのビットウェイが電子書籍の取次事業を展開したのである。

 電子書籍販売における取次の必要性は、出版社、コンテンツプロバイダーの双方にあり、そのしくみは完全にパッケージ化されている。売れるようなファイルの形、表紙画像、書誌情報、内容紹介の4点セットを凸版印刷のサーバから電子書籍販売サイトに送っている。利用者は電子書籍販売サイトにアクセスして、電子書籍をダウンロードしていると思っているが、じつは凸版印刷のサーバのファイルを見に行っていることになる。

 またモバイルブック・ジェーピーは2000年9月に前述の「電子文庫パブリ」の受託配信サービスを開始したところから始まり、その後自社サイト「どこでも読書」「つや缶あり」「PDABOOK.JP」「音の本棚」を開設したが、2006年4月から電子書籍の取次サービスに事業を展開し、これを主軸事業と位置づけている。

 取次サービスでは電子書籍の流通経路を確立することで、運用コストの削減、販路の拡大など出版社と電子書店の売上げ向上をめざしている。電子書籍は携帯電話キャリアごとにフォーマットが異なり、さらに出版社にすれば電子書店運営事業者にコンテンツを預けてしまうと不正な複製や流通への懸念が生じる。そこで電子書籍の取次会社が一元的に管理するプラットフォームを提供するのである。モバイルブック・ジェーピーの流通プラットフォーム事業取次サービスでは、文芸、コミック、オーディオブック、写真集のカテゴリーで延べコンテンツホルダー140社、18,000タイトル、コンテンツプロバイダー300サイトの取引を展開している。そして、今後はB2C(企業と消費者の取引)だけでなく、B2B(企業と企業の取引、具体的には図書館、病院、企業等)についても事業展開を想定しているのである。

 一方、パピレスも紀伊國屋書店、ジュンク堂書店、ヤマダ電機などに対して電子書籍の取次事業を行っている。販売商品を選定し、自社のサイトにあわせた販売サイトのデザインを決定し、自社サイトから販売ページTOPにリンクをはれば電子書籍の販売が開始できるというシステムである。

 

2.5.3 コンテンツプロバイダーと読書

 ボイジャージャパンは1992年10月、『エキスパンドブック日本版』を発売したが、これは日本における電子出版の最初のツールであった。

 その後1998年、電子書籍ビューワ(閲覧ソフト)「T-Time」を開発し、また「ドットブック」(.book)というファイル形式(出版フォーマット)であらゆる液晶デバイスにデータを流し込み、本とすることを可能とした。さらに2006年、携帯電話向けのビューワとして「BookSurfing」をセルシス、インフォシティと提携して開発、導入し、現在では日本の代表的携帯電話キャリアの公式サイトにおいて90%以上の利用率を占めている。このボイジャージャパンは当初から、誰でも出版でき、また誰でも読むことができる方法としてデジタル技術を提供することを使命としてきたという特徴がある。

 2006年2月から「T-Time」の標準機能として視覚障碍者等の使用を配慮した文字拡大、輝度反転などの機能を付加し、さらに『理想書店』では2008年11月より、販売される電子書籍ドットブックのすべてが音声読上げ対応となりユニバーサルデザイン(UD)をめざす電子書店とするなど、紙の本が売れないからデジタルに移行するという危機回避的な考え方ではなく、読みたくても読めない人たちの読書への切実さに依拠して活動しているのである。

 電子書籍について考えるとき、この視点はきわめて重要であろう。つまりこれは「紙に比べて読みにくい」という一般的な電子書籍の見方とは対極に位置するものである。

これまでの紙の出版物がもっていた物理的制約、あるいは出版流通上の制約から解き放たれているという点で電子書籍の可能性は確かに存在すると思われるのである。

 

注

(1) 西垣通. IT革命. 岩波書店, 2001, p.48.

 

参照ウェブサイト

“eBook Japan”. イーブックイニシアティブジャパン. http://www.ebookjapan.jp/ [131], (参照 2009-02-11).

“エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ”. http://www.nttsolmare.com/ [132], (参照 2009-02-11).

“NetLibrary ebook”. 紀伊國屋書店. http://www.kinokuniya.co.jp/03f/oclc/netlibrary/netlibrary_ebook.htm [133], (参照 2009-02-11).

“電子書店パピレス”. http://www.papy.co.jp/ [84], (参照 2009-02-11).

“NetAdvance”. http://www.netadvance.co.jp/ [134], (参照 2009-02-11).

“Bbmf”. ビービーエムエフ. http://www.bbmf.co.jp/ [135], (参照 2009-02-11).

“ビットウェイ”. http://www.bitway.co.jp/ [136], (参照 2009-02-11).

“化学書資料館”. 丸善. https://www.chem-reference.com/ [137], (参照 2009-02-11).

“MobileBook.jp”. モバイルブック・ジェーピー. http://www.mobilebook.jp/ [138], (参照 2009-02-11).

  • 参照(8921)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

2.6 学術系の電子書籍サービス

  • 参照(7772)

 PDF版はこちら [139]

 学術系の電子書籍サービスでは新たな動向が見られる。小学館系のネットアドバンスが運営する辞書検索サイト「JapanKnowledge」はすでに利用者が定着し、安定的な成長を見せているが、それ以外にも丸善と日本化学会が運営する「化学書資料館」や紀伊國屋書店と米国OCLCによる「NetLibrary」などがある。

 「化学書資料館」は国内で出版された化学書を統合的に検索し、閲覧することができるサイトである。現在、日本化学会の編集による専門書・便覧・辞典が147冊、約83,300ページ相当の情報が集められている。

 また「NetLibrary」は学術系eBook(電子書籍・電子図書・電子ブック:和書・洋書)を17万タイトル以上含むコレクションで、日本・欧米の出版社500社が参加して、大学図書館、公共図書館、研究所など世界112カ国で16,000の機関が利用している。2007年11月より和書コンテンツが搭載され、2008年8月現在、40社547タイトルを提供している。

 NetLibraryは、(1)紙媒体に近い利用が可能、(2)全文横断検索、書籍内全文検索機能により、必要な情報をすばやく見つけることができる、(3)付箋をつけるイメージでマーキングできる、(4)コンテンツサーバーなどハードウェアを図書館に確保する必要がない、(5)購入した図書目録をOPACにロードすることにより、紙媒体と電子媒体を同一プラットフォームから提供できる、という利点が強調されている。

 またグーグルとは異なり、画像スキャンで書籍データを取り込むのではなく、書籍のDTP組版データの有無、DTP組版データからPDF作成可否、使用フォントのPDF埋込み可否、PDF埋込みフォントのエンコードの特殊性などの状態に合わせてNetLibrary搭載用データの作成方法を紀伊國屋書店が出版社に指示し、出版社が書籍データを作成するため、文字コードの問題なども含め検索精度が高いのが特徴である。(湯浅俊彦)

 

参照ウェブサイト

“eBook Japan”. イーブックイニシアティブジャパン. http://www.ebookjapan.jp/ [131], (参照 2009-02-11).

“エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ”. http://www.nttsolmare.com/ [132], (参照 2009-02-11).

“NetLibrary ebook”. 紀伊國屋書店. http://www.kinokuniya.co.jp/03f/oclc/netlibrary/netlibrary_ebook.htm [133], (参照 2009-02-11).

“電子書店パピレス”. http://www.papy.co.jp/ [84], (参照 2009-02-11).

“NetAdvance”. http://www.netadvance.co.jp/ [134], (参照 2009-02-11).

“Bbmf”. ビービーエムエフ. http://www.bbmf.co.jp/ [135], (参照 2009-02-11).

“ビットウェイ”. http://www.bitway.co.jp/ [136], (参照 2009-02-11).

“化学書資料館”. 丸善. https://www.chem-reference.com/ [137], (参照 2009-02-11).

“MobileBook.jp”. モバイルブック・ジェーピー. http://www.mobilebook.jp/ [138], (参照 2009-02-11).

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]
OCLC [140]

3. 電子書籍の流通・利用・保存の現状

  • 参照(12198)

 

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]

3.1 流通

 PDF版はこちら [141]

 日本における電子書籍流通はどのようになされているのか。実態に即した把握を試みてみたい。その実情をどうとらえるかにあたり、いくつかの前提を設けておくことにする。一般的に電子書籍のカバーする範囲・境界は茫洋としており極めて近い将来の対応なども含めるとますます広い範囲を想定せざるを得なくなる。従って、本調査においては第1章において触れられている定義を前提に、

  • 1)現在の市場において、有償で流通するもの
  • 2)現在の市場において、無償で流通するもの一般
  • 3)無償で流通するもののうち、今回調査対象となった代表的な事例

以上の3項目を中心に言及するものである。

 1)の「有償で流通するもの」とは、原則として対価を設定し販売に供しているもののことをいう。対価とは対象となる作品に対して個別に設定・請求されるものだけではなく、包括的に一定の期間内、あるいは数量的な一定作品数に対する料金設定なども含まれる。会員料金などを設定し、会員登録によって対象読者を特定し、作品個別の料金設定をすることなく、読者に対して包括的な対価を徴収するやり方である。

 2)の「無償で流通するもの」とは、基本的にコンテンツを利用する読者から対価をとらず、読者がコンテンツを無償で利用できるもののことをいう。サイト運営者はアクセスする「集客」を前提に広告効果を期待するクライアントにサイト内の領域を販売するものと原則理解していい。たとえば、民間放送のテレビの仕組みでは視聴者から放送料金を徴収しておらず、代わりにテレビ局は番組にあるいは番組と番組の間に広告領域を設け、広汎な番組視聴者を対象とした広告宣伝を機能させている。これと同じと言っていいだろう。

 3)の無償で流通するもののうち、「今回調査対象となった代表的な事例」とは、主に「魔法のiらんど」(株式会社魔法のiらんど)と「モバゲーTOWN」(株式会社ディー・エヌ・エー)が行っている投稿参加型の無償コンテンツの配信についてである。2)との違いはコンテンツの提供過程が参加者に対してオープンになっており、誰もが無償のコンテンツ提供者になることを前提としている点である。いわゆる「書込み」型の投稿サイトと言っていいだろう。コミュニティーまたはSNS(Social Network System)と呼ばれているものとも極めて近い構造と考えられる。

  • 参照(6728)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

3.1.1 主要な媒体の分析

  • 参照(5724)

 PDF版はこちら [142]

 本節の目的は、日本における電子書籍の流通をになう媒体について、媒体の現状を明らかにし、それぞれの媒体のもつ特徴を明示することである。ここではデバイスに備えられた(または追加した)通信機能を介してコンテンツを入手し利用する、以下の媒体を取り上げることとした。パッケージ媒体として流通する「パッケージ系」についてはここでは言及しない。

  • 携帯電話
  • PC
  • モバイル情報端末(通話・通信機能を含む情報端末およびゲーム端末など)

 

3.1.1.1 携帯電話

 

(1)配信キャリア

 携帯電話の通信事業者は通称、配信キャリアとか、単にキャリアと呼ばれている(以下本稿では、「キャリア」と記す)。総務省認可を受けた事業者であり、現在日本には5社存在する。エヌ・ティ・ティ・ドコモ(docomo)、KDDI(au)、ソフトバンクモバイル(SoftBank)、ウィルコム(WILLCOM)、 イー・モバイル(EMOBILE)である。

 主なキャリアの通信規格(方式)は右の通りである。

 

表3.1 携帯電話の通信規格

 2G世代3G世代
日本PDCCDMA2000
cdmaOneW-CDMA
韓国cdmaOneCDMA2000
 W-CDMA
GSM(850/1900MHz)CDMA2000
cdmaOneW-CDMA
D-AMPS 
iDEN 

 

 a)累計契約数(2008/9現在・推移)

 

表3.2 携帯電話契約件数

 2007年9月2008年3月2008年9月
携帯電話契約数99,333102,724104,833
携帯IP接続契約者数86,53188,68689,727
3G契約数79,32288,09793,653
定額制加入者数31,03336,18039,734
3.5G契約数18,69729,77038,599

※モバイルコンテンツフォーラムが電気通信協会と各社発表資料をもとに推計したもの

 

 携帯電話は、アナログ方式の「第1世代」(1G世代)、次いで登場したデジタル方式の「第2世代」(2G世代)、「第3世代」(3G世代)を経て、現在(2009年1月)の主流は、3G世代に高速データ通信規格に対応した、いわゆる「3.5世代」(3.5G世代)と呼ばれるものに、急速に移行している。

 通信方式は各世代内においても、複数の規格が並立しており、2G世代携帯電話はGSM方式が世界的に主流であったが、日本では、GSM方式は採用されなかった。そのために日本は携帯電話において独自の閉鎖的な環境のなかで市場が形成されていった。3G世代携帯電話では、2G世代携帯電話での全世界共通化が実現されなかった反省から、同一規格の採用が試みられたが、結果としてW-CDMA方式とCDMA2000方式が並行採用という形となった。

 

 b)デバイス機種

 現状携帯端末の機種は、主要3キャリアで合計340機種ほどが、市場に存在していると言われている。但し『ケータイ白書2009』のデータから、各キャリアの人気の上位31機種の販売割合を計算すると、docomoで56%、auで63%、SoftBankで75%となり、いずれも多数を占めている。従って現有する機種の種類の多寡について特別な意味があるわけではなく、極めて早いスピードで新機種への移行が進んでいく市場であることが特徴と言えよう。また各キャリアとも上位31機種のなかに占める3.5G機種の割合は極めて高く、auにおいては全機種が3.5Gとなっている(1)。

 

 c)売上推移(コンテンツ全体)

 

図3.1 電子書籍の市場規模の推移(単位:億円)

図3.1 電子書籍の市場規模の推移(単位:億円)

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書2008』 4頁

 

 『電子書籍ビジネス調査報告書2008』によると、携帯電話でのコンテンツ市場を含む、電子書籍全体の販売規模は、2007年度で355億円といわれる。このうち携帯電話コンテンツは283億円を占めるとされている(2)。参考として、同報告書の刊行が開始された2002年度以降の市場推移を、図3.1に示す。

 当然のことながら、これらの売上推移は有償販売コンテンツをもとに示されたものであり,販売コンテンツに対する対価を集積したものである。いわゆる配信サイトの広告収入などについては一切含まれていない。

 

 d)一人当たり月額使用料(全体と電子書籍)

 『電子書籍ビジネス調査報告書2008』には、1ヶ月当たりの電子書籍平均購入金額についての調査が示されている。これによると有償電子書籍利用者のうち、月額300円以下が35.0%、月額500円以下が26.8%、月額1000円以下が18.9%であるという(3)。購入冊数も月間2冊以内が全体の46.7%を占めている。一般的に女性の購入冊数は男性のそれにまさっており月間3冊が22.4%、年代的には男性10代で月間購入2冊以上が75%を示しているのに50代では50%までとなっている(4)。

 

(2)配信コンテンツとしての電子書籍

 

 a)電子書籍配信公式サイト数

 携帯電話のコンテンツ配信に関してはキャリアが公認する「公式サイト」がある。ここではキャリアの定める基準にしたがってコンテンツの流通が行われると同時に、料金の徴収もキャリアの通信料金と一緒に行われる仕組みとなっている。一方で料金徴収をキャリアに頼らず、独自の方法や基準でコンテンツ配信する「一般サイト」が存在する。キャリアの基準とは別に独自(勝手)に運営するという意味から、通称「勝手サイト」とも称される。

 「公式サイト」は一般にはコンテンツプロバイダ(CP)と呼ばれている。このCPの数は2005年には50サイト程度であったが、2008年12月の段階で600サイト以上にものぼっている。

 

 b)電子書籍配信:公式サイトと一般サイトの課金の仕組み

 公式サイトとなるためには各キャリアの定める基準をクリアする形で申請・認定のプロセスを経る必要がある。認定されることによって公式サイトとして販売サイトの運営が認められ、キャリアは当該サイトのコンテンツ販売の料金を代行徴収する。キャリアは一定期間ごとに代行徴収した売上を当該CPに支払う。この際キャリアは当該CPの売上からキャリアの代行手数料を差引くことになる。

 一般サイトはキャリアの運営するコンテンツ配信サービスを受けることなく、しかし原則キャリアの基準とは異なる独自の基準にしたがって配信サービスを行うものであり、キャリアによる料金徴収代行のサービスを受けることはできない。従って一般サイトは独自の決済機能を準備するか、決済代行を行うサービス提供会社との契約によってコンテンツの販売・配信を行うことになる。

 

図3.2 公式サイト・一般サイト配信図

図3.2 公式サイト・一般サイト配信図

 

 c)ビューア・アプリの実態

 携帯電話で電子書籍コンテンツを利用できるようにするためのビューア・アプリケーションはさまざまに存在する。ここでは現状市場に影響力を持つ代表的なビューアであるブックサーフィン(BookSurfing)、ブンコビューア(XMDF)、フラッシュ(Flash)を念頭におき言及したい。

 携帯電子書籍ビジネスの流れを見ると、出版社(権利元)とコンテンツ関連各社(取次・コンテンツ制作会社・コンテンツプロバイダ)に分類される。さらに、コンテンツ作成の過程においては、紙やコンピュータデータなど、さまざまなフォーマットからなるコンテンツのオリジナルソースから、専用ビューアで利用できるようにするためのコンテンツ制作ツールが準備されている。コンテンツを制作あるいは準備する側は、この制作ツールに依拠する形で生産を進めることによって、配信・課金に深く関わるキャリアの推奨するビューアで円滑な利用環境を提供することができる。専用ビューアに対応するフォーマットで制作されたコンテンツはキャリアに渡され、専用ビューアを通じて利用者(読者・ユーザー)のコンテンツ利用を可能とする。

 これが一般的な公式サイトを利用したコンテンツ配信の流れである。ここでは公式サイトを管理運営するキャリアとビューアメーカーが強い提携を保っている。推奨とまでいかないまでも、キャリアは実勢として人気コンテンツを送り出すビューアを無視することはできない。ビューアを通じて人気コンテンツが提供される、すなわちビューアはコンテンツを囲い込んでいる状態といえよう。したがって、ビューアの選択如何が、売上に関わる問題となる。さらに有力なコンテンツを提供するするビューアによって、サービス上のトラブルを未然に防止し、コンテンツ流通の秩序をある意味で制御することも可能となると考えられる。その意味において積極的、あるいは何らかの協力関係をもってキャリアは専用ビューアの推奨をはかっていく立場にあるといえる。

 

図3.3 キャリア公式サイトを通じたコンテンツ配信の流れ

図3.3 キャリア公式サイトを通じたコンテンツ配信の流れ

 

 一方で一般(勝手)サイトでの電子書籍ビジネスにおいては、ビューアはむしろ携帯電話の端末本体(ハード)にあらかじめ組込まれたものを前提に流通している。すなわち、CPは端末ハードに組込まれたビューアを前提に、電子書籍コンテンツを配信すればよいことになる。しかし、あらかじめ組込まれたビューアである以上、バグ等による修復変更、バージョンアップについては大きな問題を抱えざるを得ない。たとえばアドビ(Adobe)のFlashプレーヤーは、ハードに組込まれたビューア・アプリケーションとして有名だが、新しい端末と従来の機種では、アプリケーションのバージョンはまちまちになる傾向が、現実に存在する。またFlashは電子書籍専用のビューアだとはいえない。さまざまな表現に活用できるアプリケーションを電子書籍のビューアとしても利用しているに過ぎない。したがってコンテンツ配信にあたっては、送り手側に課せられる複雑な負担は、避けられない。

 

 d)コンテンツ数及びコンテンツ・ジャンル(特徴・数量)

 携帯電話向け電子書籍のもっとも大きな特徴は、漫画コミックの圧倒的な多さであろう。売上の大きさもこれに準じている。出版界の売上低減の状況を反映して、出版社は紙媒体の雑誌での連載、「コミックス」と呼ばれる単行本の刊行、文庫本での出版、そして電子版という従来の展開順序から、相対的に電子媒体を格上げして、展開順や時期を従来よりも早め、コンテンツ数も強化する傾向にある。そのような戦略変更のもと、携帯電話向け漫画コミックコンテンツの数量は、飛躍的に上昇している。

 今回の調査により主な出版社から報告されたコンテンツの数量は以下の通りである。

 

表3.3 取次店におけるタイトル数

取次店名2007年新刊タイトル数
(1月~12月)
これまで販売してきた
電子書籍総タイトル数
現在提供中の
総タイトル数
モバイルブック・
ジェービー
―約16,000タイトル/30,000話数(2008.3末)―
エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ3,707タイトル
(新規に刊行したタイトル数)
9,833タイトル携帯電話:9,833タイトル
ビットウェイ―約30,000点PC:30,000タイトル
携帯電話:20,000タイトル
パピレス8,400タイトル
(PC、携帯電話の重複除く)
90,000タイトル
(PC、携帯電話の重複除く)
―
iNEO約2,000タイトル
(2007.11、千代田WEB図書館)
約4,000タイトル
(2008.4現在)
―

 

表3.4 出版社における主なコンテンツ分野

出版社名コミック写真集文字物その他
講談社○
(少年、青年、少女、
レディース、ホラー)
○○ 
集英社○ ○ 
小学館○○○
(フィクション、
ノンフィクション)
 
PHP研究所  ○
(ビジネス、自己啓発、文芸、児童書)
○
(絵本)
イーブックイニシアティブジャパン○(95%)○(3%)○(3%) 

 

表3.5 出版社におけるタイトル数

出版社名2007年新刊タイトル数
(1月~12月)
これまで販売してきた
電子書籍総タイトル数
現在提供中の
総タイトル数
講談社PC:680タイトル
携帯電話:400タイトル
――
集英社411タイトル
(話数:36,947話)
――
小学館101点以上2,000タイトル弱
(コミックが大半)
PC・携帯電話:1,200タイトル
CD/DVD-ROM:30タイトル
PHP研究所約250点895タイトル
(PC、携帯電話共通
タイトル数)
左記の他
CD-ROM:50タイトル
DVD-ROM:100タイトル
専用端末:140タイトル
イーブックイニシアティブジャパン約7,500作品―PC:26,000作品
携帯電話:350作品

 

 一方独自に調査したところ、主要3キャリアでの携帯電話向け電子書籍コンテンツの配信ファイル数は、230万ファイルを越えているものと思われる。この数字は、3キャリア合計のものであること、また携帯配信のファイルは、ファイル容量を通常1.5MB以下にパッケージする場合がほとんどであることから、単行本1冊分を複数ファイル(多くは6~10ファイル程度)に分割している場合が多い。これらを考慮してタイトル数を推計すると、現在市場で流通する携帯電話向け電子書籍のタイトル数は、およそ15万作品程度ではないかと考えられる。ここでいう作品とは単行本の1冊を単位としたものである。

 

3.1.1.2 PC

 

(1)PC向けコンテンツ配信及び販売の実態

 

 a)販売サイト(有償市販コンテンツ)

 『出版年鑑』2008年版には、電子書籍21,364点が収録されている(5)。この数字は1章でも取り上げているが、電子書籍を販売する10サイトからの情報を収集したもので、各サイト間の重複は除いていない。多巻物を1点とカウントしているため、それを展開すると78,675点、さらにオーディオブック825点、CD/DVD-ROM344点、オンデマンド出版707点も電子出版物として収録されている。インプレスR&Dの『電子書籍ビジネス調査報告書2008』では、10の主な電子書籍販売サイト(PC)のタイトル数単純合計が28万917点、これ以外のPCおよび携帯サイトのタイトル数も加算して32万点、重複を差引約15万点と推定されるとしている(6)。

 このような出版統計は、電子書籍を実際に販売しているサイトからだけの集計である。収録されていない電子書籍群が多数存在している。

 

 b)ファイルフォームとビューア(Viewer/Reader)

 PCをベースとした電子書籍コンテンツのファイルフォーマットとビューアには、現在のところさまざまな種類が存在する。

 全世界的に普及するものとしてはアドビのPDFが有名である。もっともPDFは多岐な用途として利用されているものであり、そうした利用の1つとして電子書籍のフォーマットとする方法があるということである。

 

 c)ダウンロードファイルのDRM

 デジタル著作権管理(Digital Rights Management:DRM)についての概要は他に譲るとして、限定的にユーザー(読者)にダウンロードされた電子書籍ファイルのセキュリティ、不正コピーの防止という観点からのみ言及したい。

 現在のDRMの考え方は多岐にわたり一様にとらえられるものではない。一般的に完全なDRMというものは存在しない。また先端技術の特徴として、先端ほど古びやすいという矛盾のなかにあり、厳密に技術に依存すればするほど、技術的な陳腐化を招きやすく、かえってコンテンツそのものの商品価値を減ずる結果を引き起こす。またDRMに含まれる高度な技術は、それを利用するものへのライセンス料金へとはね返ってくる。何よりも問題となるのは、読者に複雑な操作を求めるという決定的な負荷が生じてしまうことだ。悪意を持つユーザーはともかく、善意の読者に対する使いにくさは、もっとも回避したいことであり、利用手順の複雑化は読者にとって何のメリットもない。しかし善意と悪意を区別することは現実的に不可能であり、一様に操作性をダウンさせざるをえない。たとえばパソコンの全システムをカバーすることはできず、DRMのためにWindowsにのみ対応、Mac OSは切り捨てというようなことが罷り通っているのが現状である。

 著作物の保護に関連して、漫画コンテンツ等の画面のキャプチャー(静止画像)作成に対する拒否感が、版元には強く存在する。しかしこれを防止する有効で低廉な方法はなく、無理に導入しても上記に示した操作の複雑化は免れない。漫画は画像コンテンツであることから当然といえば当然だが、平然と印刷物からスキャンして不正流通が横行している現実を無視して、電子書籍コンテンツのDRM導入に執心すること自体大きな矛盾を孕んでいると言わざるを得ない。DRM導入による操作感の悪化と、コンテンツ保護への要求の着地点として、PC向けのDRMとして定着しているのは「ゆるやかな」DRMであり、何らかの形で出所を明示する、通称「フットプリント」と呼ばれる方式である。購入者に関する情報が電子的に刻印され、コンテンツの不正コピーとともに、刻印もまたコピーされるという抑制効果を狙ったものである。

 

表3.6 主要電子書籍フォーマット、ビューアと対応DRM一覧

フォーマットビューワ対応OS特徴DRMについて問題点
.bookT-TimeMac
Win
WindowsMobile
ダウンロード型。縦書き横書き自在。ウィンドウサイズに合わせた再レイアウト。読み上げ対応(Winのみ)。携帯BookSurfingコンテンツへのコンバート可能WindowsのPrintScreenキーは無効にしている。コピーの物理的なプロテクトは行なっていないが、ファイルにフットプリントを埋め込む事で、心理的なコピープロテクトをかけている。物理的なコピーは可能
CrochetMac
Win
非ダウンロード型。Webブラウザのプラグインにて動作。大容量のコミックコンテンツも瞬時に表示可能。ユーザーごとに閲覧ページ数の制限などの立ち読み設定が可能。ファイルとして取得することはできない。WindowsのPrintScreenキーは無効にしている。システムの構築の必要あり。
XMDFブンコビューワWin
WindowsMobile
携帯電話
ザウルス
アクオス
電子辞書
ダウンロード型。Macには非対応ではあるが、母体がメーカーなので、シャープの製品(PCの他、携帯電話、ザウルス、WindowsMobile、電子辞書、液晶テレビのアクオス)などのビューワも用意している。ファイルの物理的なコピープロテクトは行なっていない。ファイルにフットプリントを埋め込む。Mac版のビューワがない。
Ebiebi.BookReaderWin
iPhone
ダウンロード型だが、ファイルアクセスをサーバで管理。文字ものでも、画像化された版面を表示する。WindowsのPrintScreenキーは無効にしている。サーバでファイルの管理をしているので、コピープロテクトは行なっている。トランクルームという機能を使って、サーバ上で購入したコンテンツ管理ができる。別の端末にコンテンツを移したら、戻さなければ再度読めない。
PDFAdobeReaderMac
Win
WindowsMobile
携帯電話
ダウンロード型。印刷用のDTPデータをそのままPDFにできる。対応プラットフォームも多いが、携帯などのデバイスでは縦書きなどが正しく表示されない事がある。暗号化してパスワードを入力しないと表示できないようにする機能あり。印刷用のDTPデータからそのままPDFにするのは簡単だが、DTPデータの転用ではPC上読みにくい。最初からPC上でみることを前提にして制作したものならその問題はない。
Keyring PDFキーリングライブラリ+AdobeReaderWin標準のPDFに対して、閲覧するための鍵(キー)をつけてコピープロテクトを実現したもの。キーリングライブラリを使ってファイルに鍵を付けるコピー防止方式。Macで使用できない。
swfFlash PlayerMac
Win
携帯
非ダウンロード型。Flash Player(Webブラウザのプラグイン)で表示する。本来はゲームやアニメーション向けのものなので、表現力は豊か。以前は、通信されるデータを抜き出す事が簡単にできたが、現在では暗号化したデータを送受信する事も可能になった。しかし暗号化したファイルのデコードにやや時間がかかるため、動作が重く感じることがある。Flash Playerに依存していることにより、Flash Playerのバージョンアップ、仕様変更などによる影響を受けることがある。
FlipBookFlipViewer(最新版はFlashを使用している)Mac(2008/10でサポート終了)
Win
本のインターフェイスでページをめくるようなイフェクトで読む事ができる。 採用例が少ない。動作速度が遅い。

 

 ダウンロード型の典型的な販売サイトとして、イーブックイニシアチブジャパンの「eBook Japan」がある。

 販売電子書籍コンテンツ数は、2008年1月現在26,649作品である。「eBook Japan」は独自開発のファイルフォーマットとビューアがあり、DRMも施されている。対応システムはWindowsのみ、Mac OSでは機能しない。PC中心に展開しており、携帯電話向けコンテンツの販売は外部に委託している。ただし携帯電話向けのコンテンツ数はPCに及ばない。PCを中心に販売コンテンツの権利処理を行っていたことと関係すると思われる。

 最近同社は、eBook Japanで購入した作品を、“iPhone 3G”(以下、原則としてiPhoneと表記)でも利用できる仕組みを開発し公開しているが、こうした他媒体への対応を電子書店側の判断で行うことに難色を示す出版社・版元もある。そのため全ての作品がiPhoneで利用できるようにはなっていない。なおiPhone関連事項は後述する。

 

 d)非ダウンロード型(期限付き閲覧許諾など)

 従来、電子書籍はユーザーが対象コンテンツを自分のPCへダウンロードして利用することが基本的な「かたち」であった。だが近年のPC用電子書籍の傾向として顕著になってきたのは、インターネット接続環境が進化して、「どこでも」接続型の環境が徐々に浸透してきたことにより、電子書籍コンテンツ利用のスタイルに変化が生じていることである。すなわちコンテンツをダウンロードしない、インターネットへの常時接続を前提とした読書スタイルの浸透である。この場合、コンテンツ配信側のサーバに自分の「本棚」をつくり、どこからでもアクセスできるようにする。購入した電子書籍は「本棚」に納められ、たとえ使用するPCが自分のものでなかったとしても自身のID/パスワードでコンテンツの利用が可能となる。この方法ではそもそも、ダウンロードという考えはないのであって、したがってダウンロードされたコンテンツの不正コピー等を防止するDRMへの対応の必要性もない。さらにユーザーの購入したコンテンツを一定の期間だけ利用可能とする「時間制限閲覧」のような販売方法も可能になる。

 講談社は「コミックプラス」という自社運営サイトにおいて、非ダウンロード型の書籍サイトを公開している。ここでは講談社発行のマンガ雑誌のほとんどが、冊子版の発行と同時に「立ち読み」として公開され、一定限のページ数を読むことが可能である。これを冊子版の販売促進につなげている。またシステムによる制限はなく、Windows/Mac OSともに問題なく利用できる環境も、提供可能となった。一定時間の経過後は冊子版から電子へと有償販売のターゲットを切替え、引き続き展開する。すなわちPC上ではまず、冊子版の新刊プロモーションとして電子書籍を活用し、しかる後にPCや携帯電話向けを含む電子媒体による販売の流れが築かれている。かつて雑誌連載から単行本、文庫本と流れていった紙媒体での販売スタイルが、ここでは電子に置き換わり同じような流れを形成しつつあるといえるだろう。

 「Yahoo!コミック」は同様に非ダウンロード型のいわゆる広い意味での「ストリーミング」式の販売サイトを構築している。Yahoo!コミックの場合、講談社のような出版社とは異なり、純粋に書店としてのビジネスを進めることができる立場にある。したがって、出版各社の電子書籍コンテンツを広汎に集めて取扱うことが容易にできる強味を持っている。取り扱いタイトル数は当然にも増大する。ただし対応システムはWindowsのみである。

 

 e)サービスの特徴(立ち読み、印刷の可否、書棚管理、音声読上など)

 電子書籍の基本的な特徴は、物理的な形状を保持しない純粋コンテンツであるということができるだろう。つまり電子書籍コンテンツ自体に物理的な形態や重量はなく、記憶媒体のなかに格納される性質のものである。一方で、だからこそ可読に際しては表示のためのデバイスを必要とし,コンテンツを格納するメモリーあるいは情報を取り込む通信機能を必要とする。

 以上の前提に立って電子書籍の特徴的なサービスについて言及する。

 

立ち読み:

 物理的な形状をもたないコンテンツの中身は、読者が購入前にあらかじめ見あらためることに適していない。これは通常の本(書籍)との決定的な違いであろう。本の場合、書店に陳列される商品としての「本」そのものが見本である。そこで電子書籍では、立ち読みとしての見本を本来の商品とは別に用意し、一定の制限(多くは部分的な利用)をもって提供している場合が多い。あるいは時間制限を設けて、全ページを一覧できるサービスを提供しているものもある。

 

印刷の可否:

 購入した電子書籍をプリントアウトして読めないかという読者の要望がある。電子書籍を印刷できるようにすることは、技術的に可能である。しかしこれを許容するかしないかは出版側の判断による。多くの出版社の判断は印刷を拒絶している。出版社は基本的に紙媒体の書籍を販売しており、同一作品の電子書籍を発行した場合のプリントアウトの許可は、紙媒体の作品との営業的競合を生じるという判断をしているからだと思われる。

 将来、紙媒体を販売しない出版社は当然に出現するであろう。その際、この出版社はプリントアウトを拒否するだろうか? 印刷の可否は書籍それ自体の営業的な軸足がどの媒体にかかっているかによって、判断が大きく揺れ動くことだろう。

 

書棚管理:

 従来からの電子書籍ビジネスではファイルのダウンロードが主流であった。インターネットの常時接続環境が徹底するなかで、必ずしも読者のパソコンにファイルをダウンロードすることもなく、読者が必要なとき書棚にアクセスすることで閲覧が保証できるようになってきた。読者にとってみれば購入した電子書籍を保守管理する必要もなくなり、また一方で出版元としては不正コピーへの複雑なDRMの対処からも解放され、本を一定時間の閲覧権として販売もできるというメリットも得ることになる。その意味でバーチャルな自分の書棚を持つことは今後ごく普通の読書スタイルとして当たり前に浸透していくのではないだろうか。購入した電子書籍は一定期間あるいは半永久的にネット空間の何処かに格納されており、読者を判別するID/パスワードによって、ネットにアクセスできるどのマシンからでも読めることになる。当然「しおり」を挟んだり、メモ書きをしたりという付加サービスの発展にもつながる諸機能を有することになるだろう。

 

音声読上げ:

 パソコン上のテキスト情報を読上げるスクリーンリーダー機能は、徐々に当たり前のものとして浸透してきている。この点は2章の視覚障害者の読書と電子書籍の可能性で触れたとおりである。視覚的な障害をもつ人ばかりではなく、高齢化などによる視力の低下などによって、電子書籍の音読の必要性は明らかになってきている。電子書籍は特にパソコンでの音読には適した条件を備えていると言ってよい。すでに視覚障害者向けのさまざまな音読ソフトも開発されている。こうした技術と電子書籍のフォーマットやビューアの開発技術が手を組むことによって、健常者、視覚障害者の区別なく、同一の電子書籍が両者の読書を可能にする状況が生まれつつある。

 

3.1.1.3 モバイル情報端末(スマートフォン、通信機能付き携帯ゲーム機)

 

 プラットフォームのオープン化に従って、日本の携帯電話キャリアが先行して推進してきたネットワークと端末が一体で提供される垂直統合型プラットフォームは転換の岐路に立たされている。次世代高速通信技術のモバイルWiMAXは2009年に開始予定であり、2010年には3.9Gと呼ばれるLTE(Long Term Evolution=3Gの長期的進化・発展と称する延命策)に携帯電話はシフトしていく動きを見せている。両者は要素技術において非常に似通ったものを共有するため時期を同じくして導入が図られていくものと考えられている。

 パソコン向けCPUの最大手ベンダーであるインテル(intel)社が提唱する、新世代のモバイル・インターネット・デバイス(MID)の浸透もあり、圧倒的に優位を誇ってきた携帯電話市場は、パソコンに侵食され、あるいは取り込み、融合しながら機動性の高いモバイル情報端末として発展していく様相を示している。巷間いわれている「Beyond PC」「Beyondケータイ」の世界である。

 2008年7月に世界的に導入開始となった“iPhone 3G”やそれを追うかたちの“Android”を搭載するモバイル機は、こうした動きの先駆けとなった。以下こうしたモバイル情報機器としての端末(ゲーム機等を含む)について言及する。

 

(1)「スマートフォン」と総称されるモバイル情報端末(iPhone、Windows MobileやAndroid搭載端末など)

 日本ではかつてPDA(Personal Digital Assistant)というモバイル情報端末が人気を得た時代があった。携帯電話の隆盛と高機能化によってPDAは日本では姿を消したかに見えていたが、PDAに通話・通信機能を搭載したものが米国を中心にして広く普及をしている。こうしたPDAに電話機能が備わったものを「スマートフォン」と総称している。

 アップルは2007年夏に携帯電話と“iPod”を融合させたiPhoneを導入、翌2008年夏には3G世代携帯電話に対応したiPhone 3Gを日本を含む世界で導入した。グーグルは携帯電話向けOSとしてAndroid(アンドロイド)を無償提供し、これを搭載した携帯電話機能を持つモバイル情報端末は2008年秋から、米国で導入が開始されている。このようなスマートフォンの流れは、“Windows Mobile”でも、世界的な大手の携帯電話メーカーであるノキア(Nokia)の採用する“Symbian(シンビアン)OS”でも既に実施あるいは計画されている。ここでは既に市場での実績と期待をもって迎えられているiPhoneとAndroidについての配信・流通の概要について触れる。

 

 a)アップルのiTunesとApp Store

 日本においてiPhoneは、携帯電話としてソフトバンクモバイルが販売を行っている。しかしiPhoneを使ったコンテンツ配信に関しては、アップルが直接管理運営するiPhone向けのアプリケーションダウンロードサービスである“App Store”を通じて行われている。App Storeでの電子書籍コンテンツの販売を行うためには、コンテンツを制作する開発者としての登録(認定)を行い、アカウントを取得しなければならない。これはiPDP(iPhone Developer Program)と呼ばれる手続きによって行われる。電子書籍コンテンツの配信をしようとすれば、このiPDPを独自に取得するか、iPDPを既に取得している第三者のアカウントを利用することになる。

 

図3.4 App Storeの配信

図3.4 App Storeの配信

 

 b)グーグルのAndroid Market

 グーグルのAndroidは携帯電話端末のOSを提供することから、アップルのiPhoneとは異なり“Android OS”を搭載する複数のメーカーによる複数の端末が市場導入される可能性が高い。その意味では複数のメーカーによる複数の端末に向けたアプリケーションあるいはコンテンツの配信に対しては、“Android Market”と呼ばれる配信サービスが準備されている。電子書籍コンテンツに関して言及するならば、アップルのように単一の配信・販売の仕組みの中でビューア・アプリケーションやコンテンツを管理する方式ではなく、ここではAndroid端末へのビューア・アプリケーションと電子書籍コンテンツとは分離した形で、Android OS搭載端末に配信されていくであろうと考えられる。

 

(2)携帯型ゲーム機

 携帯型のゲーム機は強力な画像・映像表示能力を持ったハイエンドな情報機器であるといっていい。とりわけ近年では小型化、高機能化への長足の進歩を遂げている。また新しいゲーム機のほとんどは通信機能を保持しているものが多い。任天堂のDSiやソニーのPSPなどはWi-Fi接続可能な無線LAN機能を装備しており、この通信機能を介してそれぞれの販売サイトへ直接アクセスでき、コンテンツを購入する仕組みが準備されている。通信機能を持たないものでも微小なメモリーカード等を介してPCからゲーム機専用のコンテンツをダウンロードさせることもできる。このようなことから、ゲーム機は必ずしもゲームだけの専用機ではなく、モバイル情報端末としても十分な機能を有していると言ってよい。従って漫画やアニメ、写真集、ライトノベル等のコンテンツが、ここで大きな市場を形成するであろうことは予想されることである。また家庭用ゲーム機である任天堂WiiやMicrosoftのxboxも含め、ゲーム機へのコンテンツ配信はすでにスタートしている。

 コンテンツ配信をおこなう運営会社は、コンテンツを供給する出版社との提携関係を強化し、配信条件に合致したコンテンツ制作のツールなどを提供する、または制作そのものを請負う形をとっている。また配信会社が出版社との合弁会社をつくる例もある。

  • a. 任天堂DS→配信会社:am3
  • b. 任天堂Wii→配信会社:リブリカ(講談社、小学館、集英社、角川書店、トーセ)
  • c. PSP   →配信会社:ソニー・コンピュータエンターテイメント
  • d. Xbox   →配信会社:Microsoft

 

(3)読書専用端末

 第2章でも取り上げたように、これまで日本において導入された読書専用端末は、いずれも成功したとは言い難い。ここではそうした失敗例については触れないが、日本にはまだ導入は始まっていない、アマゾンの読書専用端末“Kindle”については、言及しておきたい。

 Kindleには今までの読書専用端末の失敗を踏まえた対応がなされている。そのもっとも特筆すべき点として、Kindleには3G世代携帯電話のデータ通信を内蔵したことである。Kindleはダイレクトに電子書籍販売の「書架」に直結しており、欲しい本をPCを介さずに、Kindleだけで即購入できる仕組みを備えている。「書架」とは、いうまでもなくアマゾンのネット上の書籍販売システムのことを指している。3Gということでそれなりの通信速度もあり、1冊分1分以内のダウロードが可能であるとされている。また販売サイトへ導くために、“Amazon.com”には“Kindle Store”と名付けられた専用ページが用意されており、定期購読された雑誌、新聞などは、リアルタイムでPush型に配信されてくる。コンテンツはKindle発売当初約9万タイトルであったが、発売して約1年で約19.5万タイトルに成長している。これらの中にはニューヨークタイムズ紙が紹介するベストセラーの90%がカバーされているという。

 

注

(1) モバイル・コンテンツ・フォーラム監修. ケータイ白書2009. インプレスR&D, 2008, p. 40-42.

(2) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p.4, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(3) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p.233, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(4) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p.231-232, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(5) 出版年鑑2008 目録・統計編. 出版ニュース社, 2008, [p.1308].

(6) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p.16-17, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ)..

 

参照ウェブサイト

“iNeo”. http://i-neo.jp/ [143], (参照 2009-02-11).

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“ニンテンドーDSi”. 任天堂. http://www.nintendo.co.jp/ds/series/dsi/index.html [161],(参照 2009-02-11).

“PHP Book-Chase Digital”. PHP研究所. http://www.book-chase.com/DIGITAL/index.html [162], (参照 2009-02-11).

“Bbmf”. ビービーエムエフ. http://www.bbmf.co.jp/ [135], (参照 2009-02-11).

“Bitway”. ビットウェイ. http://www.bitway.co.jp/ [136], (参照 2009-02-11).

“魔法のiらんど”. http://ip.tosp.co.jp/ [110], (参照 2009-02-11).

“マンガ「MiChao!(ミチャオ)」”. 講談社[モウラ]. http://moura.jp/manga/ [163], (参照 2009-02-11).

“MobileBook.jp”. モバイルブックジェーピー. http://www.mobilebook.jp/ [138], (参照 2009-02-11).

“モバゲーTOWN”. DeNA. http://www.mbga.jp/ [164], (参照 2009-02-11).

“Yahoo!コミック”. ヤフージャパン. http://comics.yahoo.co.jp/ [165], (参照 2009-02-11).

“リブリカ”. http://www.librica.co.jp/ [166], (参照 2009-02-11).

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]
Google [121]

3.1.2 流通フォーマット

  • 参照(6868)

 PDF版はこ ちら [167]

 

(1)携帯電話でのコンテンツ配信の仕組み(図解)

 3キャリアを中心とした配信システムの仕組みを理解する。

 

図3.5 docomoの仕組み

図3.5 docomoの仕組み

 

図3.5 docomoの仕組み

 

図3.6 auの仕組み

図3.6 auの仕組み

 

図3.7 SoftBankの仕組み

図3.7 SoftBankの仕組み

 

 いわゆる「ケータイ総合ポータルサイト」と言われる「モバゲーTOWN」や「魔法のiらんど」の仕組みはどうなっているか。ここではモバゲーTOWNを例にとり、概要について簡単に触れておきたい。

 モバゲーTOWNはSNS、無料ゲーム、ケータイ小説などの投稿コーナーに加えて、情報系コンテンツ(ニュース、天気予報、乗換案内など)も提供する総合的なポータルサイトを構築している。投稿コーナーでは小説だけでなく作曲された音楽や動画も公開されている。会員数は1,100万人を越え、1日の平均ページビューは150万件にのぼる。小説は45万作品が公開されており、そのうち11作品が書籍化され発売された。コンテンツを有償販売することを目的とはしておらず、タイアップ広告などを実施して広告主のサイトや実際の店舗へ顧客を誘導するプラットフォームだといえる。

 ビジネスの仕組みは以下の通りである。

  • a.広告(バナー・メルマガ)掲載収入
  • b.成果報酬型広告収入
  • c.アバター販売収入

 

図3.8 モバゲーTOWNのビジネスモデル

図3.8 モバゲーTOWNのビジネスモデル

 

3.1.2.2 PCでのコンテンツ配信の仕組み(図解)

 

a.)出版社直営PCサイト

 

図3.9 講談社の仕組み

図3.9 講談社の仕組み

 

 b)取次系PCサイト

 

図3.10 ビットウェイの仕組み

図3.10 ビットウェイの仕組み

 

 c) 一般ネット書店

 

図3.11 イーブックイニシアチブジャパンの仕組み

図3.11 イーブックイニシアチブジャパンの仕組み

資料提供:イーブックイニシアチブジャパン

 

(3)読書専用端末Kindleによる配信の仕組み(図解)

 Kindleによるコンテンツの配信は、現在のところ日本では行われていない。だが日本においても導入計画が存在するであろうことは、想像に難くない。またその場合の配信の仕組みも、現在の北米でのそれと著しく異なるとは考えられない。その意味でもKindleでの仕組みを明らかにしておくことは重要であると考える。

 

 b)取次系PCサイト

 

図3.12 Kindleの仕組み

図3.12 Kindleの仕組み

 

参照ウェブサイト

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“Kindle Store”. Amazon.com. http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-magazines-blogs-newspapers/b?node=133141011 [99], (accessed 2009-02-11).

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“小学館オンライン”. 小学館. http://www.shogakukan.co.jp/ [157], (参照 2009-02-11).

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ソニー・コンピュータエンターテイメント. “「プレイステーション・ポータブル」情報”. PlayStation.com(Japan). http://www.jp.playstation.com/psp/ [159], (参照 2009-02-11).

“SoftBank”. ソフトバンクモバイル. http://mb.softbank.jp/mb/ [160], (参照 2009-02-11).

“DSVision.jp”. am3. http://www.dsvision.jp/ [100], (参照 2009-02-11).

“電子書店パピレス”. http://www.papy.co.jp/ [84], (参照 2009-02-11).

“ニンテンドーDSi”. 任天堂. http://www.nintendo.co.jp/ds/series/dsi/index.html [161],(参照 2009-02-11).

“PHP Book-Chase Digital”. PHP研究所. http://www.book-chase.com/DIGITAL/index.html [162], (参照 2009-02-11).

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“魔法のiらんど”. http://ip.tosp.co.jp/ [110], (参照 2009-02-11).

“マンガ「MiChao!(ミチャオ)」”. 講談社[モウラ]. http://moura.jp/manga/ [163], (参照 2009-02-11).

“MobileBook.jp”. モバイルブックジェーピー. http://www.mobilebook.jp/ [138], (参照 2009-02-11).

“モバゲーTOWN”. DeNA. http://www.mbga.jp/ [164], (参照 2009-02-11).

“Yahoo!コミック”. ヤフージャパン. http://comics.yahoo.co.jp/ [165], (参照 2009-02-11).

“リブリカ”. http://www.librica.co.jp/ [166], (参照 2009-02-11).

図書館調査研究リポート [4]
日本 [9]

3.1.3 流通の担い手、ステークホルダー

 PDF版はこちら [168]

 

 電子書籍の担い手は大きくわけて以下4つの領域がある。すなわちコンテンツ領域、フォーマット領域、デリバリー領域、ハード領域である。

 コンテンツの領域とは、現状では主に、既存メディアでのコンテンツホルダーである出版社や映画会社、テレビ局が支配している。フォーマット領域は、ビューア、制作ツールを担っており、ソフトウェア開発部分といえる。デリバリー領域は、携帯電話では配信に関わる通信事業者キャリアが独占している世界であり、そしてまたPCにおいては豊富なコンテンツを揃える大手取次や大書店が占有する世界である。ハードの領域は代表的な大企業メーカーが担っている。

 これらを前提とすると、電子書籍流通に関係する担い手は、主にコンテンツ領域とデリバリー領域にある出版社、印刷系取次・書店、ベンチャー系取次・書店、それにキャリアの4者に代表されると言えるであろう。以下個別に分析する。

 

3.1.3.1 通信事業者(キャリア)

 

 極めて限定された流通の担い手であり、特定が可能である。日本では現在、以下の5社が該当する。なおカッコ内は展開しているブランド名である。

  • エヌ・ティ・ティ・ドコモ(docomo)
  • KDDI(au)
  • ソフトバンクモバイル(SoftBank)
  • ウィルコム(WILLCOM)
  • イー・モバイル(EMOBILE)。

 日本の場合「公式サイト」と呼ばれる、キャリアが直接運営する強力なコンテンツの流通の仕組みがあり、キャリアはここでコンテンツの流通とともに、ユーザーへの課金を代行する役割をも果たしている。しかし前出のiPhoneの例にあるように、コンテンツ配信にあたってキャリアは配信経路としてのネットワークの提供に徹し、コンテンツへの課金はあくまでも販売サイト・書店が行う方式が現れてきている。この傾向はAndroid OS搭載の機種、そしてまたKindleのような新たな読書専用端末の日本への上陸によってますます普及浸透していくことだろう。

 

3.1.3.2 出版社

 

 電子書籍のコンテンツを供給する大きな源となるのは、既存メディアでコンテンツとして定評を獲得しているものであるといえる。その意味では現在、本という既存メディアにおいて人気を得てきた漫画やノベルを大量に保持する出版社の存在は、極めて大きい影響力をもっている。従って最も積極的に電子書籍コンテンツに関わっているのは、漫画コンテンツの大手である小学館、集英社、講談社、角川書店、双葉社、秋田書店、白泉社、少年画報社、リイド社などの出版社である。これらの出版社はコンテンツの配信にあたり、より多くの販売展開を願っており、複数の電子書籍取次を通じた、ネット上の多店舗への流通を基本スタンスとしている。さらに、電子的な流通の非地域性、非距離性という特徴を生かす形で自社独自の専用サイトを構え、売上に直結させる意図も明らかで、これを強化する傾向にある。これは、潜在的に多くの顧客を想定できる今後のネット社会を考えると、自社のコントロール下においてコンテンツ販売のトータルなプロモーションを画策する意味もある。売上向上や販売促進の観点から、独自の自社専用サイトの存在は無視できないものとなっている。

 

3.1.3.3 電子書籍の「取次」

 

 書籍流通を仕切ってきた大手の取次は、電子書籍の流通に関して積極的な姿勢を示してこなかった。基本的に書店に対して「モノ」としての本を流通してきた書籍取次にとって、書店を介さずにユーザーがネットワーク経由で直接コンテンツを取得する方法は、書店の利益からもっともかけ離れたビジネスのスタイルであった。従って書籍取次は、パッケージ化された電子書籍コンテンツ以外の流通に、積極的な対応を行うことはなかった。

 その一方で、電子書籍コンテンツの流通にいち早く目をつけたのは、印刷工程に位置し、書籍の制作を担う企業だった。彼らは本の印刷という生産過程においていち早く電子化技術を取り入れ、工程の効率化を図った人々でもあった。すなわち自身の経験から、電子化の及ぼす影響力と将来生じるであろう紙媒体の伸び率の限界を察知できる立場であったとも言えよう。巨大サーバを構築してネット配信する新しい取次は、こうして印刷会社を基盤として、あるいは印刷企業の資本参加によって生まれていった。

 電子書籍取次の大手であるビットウェイ(BitWay)は凸版印刷との間で、資本背景を有している。同様にモバイルブック・ジェーピー(MBJ)は大日本印刷系、デジタルカタパルトは共同印刷系と、それぞれ資本背景をもつ。

 印刷系の企業は当然にも出版社との結びつきを強く持っている。出版社のコンテンツを紙媒体に印刷する工程で、効率化に向けた電子化の動きは早くから浸透してきた。ここで生まれる電子データを新しい媒体に転用・応用することは、コスト面での大きな武器となり、出版社、印刷会社の双方に利益を見込めるものであった。このように電子書籍においても、両者の結びつきは深まり、印刷系の企業が印刷という生産過程での役割から、配信流通までをも担う立場にも、進出するようになったのである。

 

3.1.3.4 ベンチャー系の電子書籍書店、版元

 

 代表的な書店・版元として、NTTソルマーレ、ビービーエムエフ(Bbmf)、パピレス、イーブックイニシアチブジャパン(EBI)、Yahooコミックなどが挙げられる。

 いづれの各社も、他社に先行して電子書籍ビジネスに参入し、成功を収めるとともに、積極的な事業拡大を進めている。多くの電子書籍コンテンツを集め、充実した「書店」形成によって集客力を増すと同時に、新しいコンテンツ創造という企画力を保持している。そのために書店・コンテンツ流通という役割以上に、自社内にコンテンツ制作できる生産システムを持ち、出版版元としてクリエイターを集め、電子媒体における生産・販売流通・宣伝を一貫して担う新しい出版社へと成長する姿勢を示している。

 その意味においては、コンテンツ創出のための作家を育ててきた出版社と、紙媒体と電子の両分野に渡って生産を一手に引き受けてきた印刷会社との関係の間に割り込んできた新勢力だということができる。作家を取り合うという面においては、既存出版社とは対立することになるが、販売力という面においては既存出版社もこれを利用する関係となる。生産力という観点からは、コスト削減の強化を打ち出し、中国をはじめとする、人件費の低廉なアジア諸国に制作拠点を設けている。早く安くものを仕上げる能力を保持しており、既に電子化されたデータを持ち優位に立っていた印刷会社の立場を揺るがす勢いだといえる。

 

 上記してきたキャリア、出版社、取次、書店等の電子書籍流通の運営にあたっては、サーバ運営、決済・課金、売上管理をはじめとするさまざまな情報管理を受持つ業務分野があり、これに特化した担い手が大きな事業会社として存在する。但しこれは電子書籍に限った仕事とはいえず、広くネットビジネスに介在する業務部門であるために、ここでは除外して触れていない。

 

参照ウェブサイト

“iNeo”. http://i-neo.jp/ [143], (参照 2009-02-11).

“iPhone3G”. Apple. http://www.apple.com/jp/iphone/ [96], (参照 2009-02-11).

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“Kirtas”. http://www.kirtas.com/ [153], (accessed 2009-02-11).

“Kindle Store”. Amazon.com. http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-magazines-blogs-newspapers/b?node=133141011 [99], (accessed 2009-02-11).

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“小学館オンライン”. 小学館. http://www.shogakukan.co.jp/ [157], (参照 2009-02-11).

“セルシス”. http://www.celsys.co.jp/ [158], (参照 2009-02-11).

ソニー・コンピュータエンターテイメント. “「プレイステーション・ポータブル」情報”. PlayStation.com(Japan). http://www.jp.playstation.com/psp/ [159], (参照 2009-02-11).

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“DSVision.jp”. am3. http://www.dsvision.jp/ [100], (参照 2009-02-11).

“電子書店パピレス”. http://www.papy.co.jp/ [84], (参照 2009-02-11).

“ニンテンドーDSi”. 任天堂. http://www.nintendo.co.jp/ds/series/dsi/index.html [161],(参照 2009-02-11).

“PHP Book-Chase Digital”. PHP研究所. http://www.book-chase.com/DIGITAL/index.html [162], (参照 2009-02-11).

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“Bitway”. ビットウェイ. http://www.bitway.co.jp/ [136], (参照 2009-02-11).

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“マンガ「MiChao!(ミチャオ)」”. 講談社[モウラ]. http://moura.jp/manga/ [163], (参照 2009-02-11).

“MobileBook.jp”. モバイルブックジェーピー. http://www.mobilebook.jp/ [138], (参照 2009-02-11).

“モバゲーTOWN”. DeNA. http://www.mbga.jp/ [164], (参照 2009-02-11).

“Yahoo!コミック”. ヤフージャパン. http://comics.yahoo.co.jp/ [165], (参照 2009-02-11).

“リブリカ”. http://www.librica.co.jp/ [166], (参照 2009-02-11).

  • 参照(8086)
図書館調査研究リポート [4]
出版 [112]
電子書籍 [90]
日本 [9]

3.1.4 ビジネスモデル

PDF版はこちら [169]

 

3.1.4.1 資金回収モデル

 

 回収モデルの大枠は有償課金モデルと無償広告モデルに大別される。

 この2つは入口こそ違うが、到達点は一致している。前者は有償課金に広告モデルをいかにとり込んでいくか、後者は広告モデルの成功から、いかにコンテンツの有償課金化を導入していくか、という構図である。

 既に述べた通り、ネットを介した電子書籍はその実体性が希薄で、「モノ」としての価値を認識しづらいという側面を長く引きずってきた。これは新しい商品の持つ宿命と言ってもよいもので、人が日常生活で身につけてきた「常識」からくる距離感というものであろう。だからこそ、実体のないものから対価を求める有償課金モデルの定着には、相当の時間を要した。有償モデルの成功は、携帯電話の通信料と一緒にコンテンツ料金を徴収する課金モデルだったことは明らかであり、そのプロセスの中で個別対価よりもむしろ、一定期間内(1か月など)の定額料金を前払いする、集合課金方式の定着によって成り立ってきた。

 無償広告モデルは、民間テレビ放送が導入された時と同じように、コンテンツを無償で提供し、それを見るために画面の前に集まる人々への広告効果を期待するビジネスモデルだといえる。コンテンツの享受者からではなく宣伝広告のスポンサーから売上を見込むものである。コンテンツが無償であることから、集客は得やすく、集客できれば広告料も増大するという好循環を期待する図式である。無償広告モデルでの電子書籍の配信・流通は、いち早く成功例をつくり出した。モバゲーTOWNや魔法のiらんどがこれにあたる。モバゲーTOWNの会員数約1,100万人、1日のページビュー(PV)平均約150万という数字は、一般的な広告掲載収入から始まり、アクセス頻度に準じた成果報酬型広告収入の道を生み出し、「アバター」と呼ばれるネット内にのみ存在する自分の分身キャラクターなどを販売するビジネスをつくりあげた。

 生み出された人気コンテンツは当然にも他媒体への展開というビジネスの波に乗り、2007年の「ケータイ小説」ブームにつながったことは記憶に新しい。一度成功が生まれると、集客を前提とした広告宣伝をはじめとする多種多様なビジネスの可能性が広がってゆく。

 もっともそのすべてを、一貫して担う1人のプレーヤーということよりも、複数のプレーヤーが連携し、それぞれの強味を導きだしているのが現実といえよう。

 

3.1.4.2 新人作家の掘り起こしのビジネスモデル化

 

 ケータイ小説の成功(2007年)は、典型的な新人作家の発掘として特筆すべき例であろう。その意味では魔法のiらんど、モバゲーTOWNの投稿サイトでの事例が最適となる。

 ネットから出現した普通の若者の小説が、ネット上で反響を呼び、共感や励ましのメッセージにつながり、それを読んだ作者が連載に反映するという相乗効果を生んだ。読者の圧倒的な支持を獲得したという実績を背景に、紙の本となり100万部を越えるベストセラーに躍り出る例が、2007年の出版業界では顕著に現れた。ケータイ小説の勢いがどこまで続いていくのかは不透明である。このブームは2008年売れ行きベストテンには反映されていない。流行(はや)り廃(すた)り「徒花」と化すことも十分考えられる。その点で過剰な期待は危険だともいわれる。

 しかし、出版社が従来の新人発掘の方法とは路線を変更して、ネット上に新たな登竜門を、新人に対して提示する例は少なくない。

 出版社系では、講談社「MiChao!」が特筆に値する。MiChao!は出版社が試みた「デジタル発(Born Digital)」の成功例として注目されている。出版社の編集部が介在し、新人、ベテランを戦略的に編成して市場への訴求を企図し、一定期間PCでの無償提供、携帯・PCでの有償販売、ゲーム機、iPhoneを含むモバイル情報端末での有償販売、そして最後に紙の本とする、出版社としては新しい挑戦をおこなっている。詳細は3.1.5.3「各社の取り組み」で触れる。

 

3.1.4.3 キャリアによる課金モデル

 

 携帯電話キャリアによる課金モデルは、キャリアを頂点に垂直統合化されるビジネスモデルから、通信基盤をさまざまなプレーヤーが利用発展させていく、オープン化の流れにある。いわば従来からのキャリアによる課金モデルは大きな変化の時期に差し掛かっている。これはすべて端末と一体化した通信ネットワークが市場を先導してきた時代から、プラットフォームのオープン化へのシフトを意味している。その先駆けとしてiPhone3Gなどの例も現れてきている。

 今後、携帯課金の方法も多様化していく様相が見られ、キャリアだけが専用として行ってきた課金方式に準じるスマートな方法の出現も考えられている。そしてまたiPhoneをはじめとした新しいタイプのモバイル情報端末の普及が次世代高速通信として注目を受けるWiMAXや3.9G、またLTE(Long Term Evolution)というコンセプトに総称される新技術の導入と相まって、電子書籍コンテンツの流通を飛躍的に拡大させていくであろうことが推測される。

 

参照ウェブサイト

“iNeo”. http://i-neo.jp/ [143], (参照 2009-02-11).

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“リブリカ”. http://www.librica.co.jp/ [166], (参照 2009-02-11).

  • 参照(6222)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

3.1.5 電子書籍流通に関するトピック

PDF版はこちら [170]

 

3.1.5.1 コンテンツの取り込み・OCR処理

 

 基本工程の前処理、OCR処理は、下記の工程で処理される。

  前処理 ⇒ スキャン ⇒ ノイズ除去・傾き補正(スキュー)等の後処理
  ⇒ OCR処理 ⇒(テキスト・パターン辞書作成を同時並行) ⇒ 校正

 本来であればカラーデータをOCR処理するのがあるべき姿だが、基本的にモノクロ2値画像がOCR処理の対象となっている。カラーデータではデータ量が大きすぎるため、処理に時間を要しコストが合わないのが実情である。

 ノイズ除去・スキュー補正等の画像処理のツールは複数あり、この処理によりOCR精度は大きく左右される。ただし日本語OCR(この場合活字)は数社しか開発をしていないため、OCRエンジンは自ずと限られてくる。重要なのはドキュメント毎の辞書作成であり、辞書の精度により認識率は大きく左右される。

 スキャナの種類はOCR処理をしたい書籍・雑誌等の対象物によって、フェイスアップスキャナ、フラットベッドスキャナ、オートドキュメントフィーダ等、変えるのが現実的であると考えられている。

 消化量であるが、OCR処理そのものはバッチ処理のため、大量処理を行っても問題はない(もちろん、モノクロ2値画像であることが前提である)。ただし校正処理は人間がしなければならないため、最近は中国等に処理ラインを設け、労働集約型処理のコスト低減が図られている。アマゾンやグーグルは、フィリピンやインド等で処理をしていると言われているが、処理言語は英語であり日本語ではない。日本語処理は漢字文化圏で行うのが現実的だというのが一般的な認識である。なお料金などの詳細は更なる調査を必要とする。

 近年、書籍や雑誌の電子化の文脈から「スキャニング・ロボット」が話題にされている。アマゾンの「Search inside this book」(日本では「なか見!検索」)の電子データ化で利用されていると言われている。「スキャニング・ロボット」には、Kirtasのシステムがある。

 Kirtasのスキャニング・ロボットは、撮像(現バージョンはキャノン製一眼レフデジタルカメラ)方式で解像度が低く、英語など形が単純な文字にはそれなりの画像が作成できるが、日本語(画数が多い、ルビがある等々)に対しては、対象物にもよるがあまり良好な結果はでていない。また、自動ページ送り機能についても、壊れてもよい本には使用できるが、貴重書などに対しては、覚悟が必要となる。

 

3.1.5.2 カラーリング

 

 今までの傾向としてカラーリング(着色)作業は、印刷会社を中心に行われてきた。ただし、印刷会社の厳密な品質、労働集約体質から価格はかなりのものにのぼっていた。この価格を維持して量産化が可能なほど、電子書籍市場はまだ成長していない。また、印刷会社のこうした品質管理からくる権利主張が災いして、ある出版社は全工程を印刷会社に任せることを停止し、中間データでの納品に切替えた。そしてそこから最終段階までを、自社配下のプロダクションへ流し、著作権上の権利確保を図った。

 また、ソフトウェアでのカラーリングは進化しており、ツールにはカラーリング機能を実装する傾向がうまれてきた。セルシスの開発した「Ready Paint」は、その先鞭をつけた。

 問題は出来上がりの品質をどう評価するかであるが、市場での評価(売上)と専門的な評価(作家・編集者)との間に整然とした一貫性があるとは思えない。作家・編集者が思うほどに市場の判断は厳密ではないかもしれないし、あるいは相当に厳しいものかもしれない。この判断は現状では明確に下されているわけではない。

 ただし事実として、カラーリングソフトの出現で作業単価は飛躍的に下落している。今後はこうしたソフトウェアを駆使した量産化による単価競争が激化するであろう。中国、ベトナムなどの労賃を利用した単価の大幅な低廉さをアピールする、新興諸国の営業攻勢もある。

 価格、納期、品質、著作権管理(不正コピー防止)などを網羅して、実態詳細を調査するには、なお相当の時間を要する。

 そもそもモノクロで描かれた漫画を後から着色してカラー化させる行為は、一度終了した創造行為の時間を巻き戻すことと同じである。そのことに掛ける時間、エネルギーが作家本人にある場合は、コストの問題だけかもしれないが、作家以外の人がこれを担うとしたら、結果が承認されるまでの道のりは単純ではなく、多くの労力や時間が費やされざるを得ない。

 カラーリングソフトは、そもそもデジタルで描き起こす漫画やアニメのツールに付属するものとして設計され、いかに合理的に効率を重視するかに力点をおいて開発されたソフトウェアである。当然にも携帯用コンテンツの制作ツールとは連動しており、カラー化された電子書籍コンテンツを低価格でつくりあげる方法だといっていい。但し、上記したようにカラー化の品質は創造行為の一環であり、このツールでつくられたカラー化の品質がどのレベルであるかは、あくまでも品質をチェックする作家、編集の判断による。

 

3.1.5.3 各社の取り組み

 

 ここでは日本の最大手の出版社であり、特に漫画において突出した集英社、講談社の例を今回調査のインタビューに基づき例示する。両社の電子書籍に対するそれぞれの考えを見ることによって、電子書籍に取組む姿勢を立体的に認識できるだろうという意図によってである。

 

 a)集英社

 出版社のなかで人気の高い漫画作品を保持することから、電子化コンテンツに対しての徹底したコスト投入を行っている。具体例としては、他社よりも一層高解像度のデータの取り込み、カラーリング、そしてそれぞれの媒体・ハードウェア・デバイスごとに最適化された表示品質、見栄え、動き、効果などを付加している。とにかく制作コストを十分に投入し、絶対的に優位な作品パワーをあらゆる面で突きつける考えといっていいだろう。

また集英社は電子書籍の販売を、自社が運営する「マンガカプセル」で展開してきた。最近になって取次を経由して販売が始まった。

 

 b)講談社

 講談社は集英社と比べて電子書籍コンテンツの制作、品質については、特別な原則を設けることはなく、柔軟な態度で臨んでいる。重視していることは現状あるいは近未来における自社コンテンツのマスター管理であり、このマスターさえ十分に吟味されたものであればいかなる電子媒体への展開にも対応可能だとする認識である。その意味では、現状の技術的基準をあまり肥大化して受取っておらず、極端な品質至上主義には陥っていない。むしろリーズナブルなコストに重点を置く。

 電子媒体で販売する作品をすべてカラー化して電子配信するようなことは考えていない。むしろデジタル発の新作をカラーで企画し、ヒットを目論む。これを実践しているのが前出のMichao!である。作品内容の品質とカラーが一致していることを重要視しており、カラーであるからいい作品、あるいは売れる作品という判断基準は持っていない。実際、Michao!ではカラー作品もモノクロ作品も混在して制作、販売されている。

 販売は取次を経由した書店展開を当初から行ってきており、自社で運営する講談社コミックプラスでの直販をはじめたのは最近のことである。

 

3.1.5.4 既存作家の進出

 

 出版産業の長期低落、特に雑誌メディアの売り上げ急落や、雑誌そのものの休刊という、従来の出版の「生産システム」に変動が生じている。これによって既存作家の活躍の場は、徐々にデジタルへシフトしてきた。出版社と作家の蜜月時代はすでに終わっており、一部の作家を除いては作家の出版社への依存度は低いものになっている。現在ではこうした傾向とデジタルがいかに出会い、調和したビジネスを形成していくのかの過渡期にあるといえる。

 ただしこのことは言葉通りにはいかない。デジタル化をもって事業を推進しようというベンチャーにとって、事業モデルとして既存作家の取込みと、コンテンツの新媒体での展開は大いにあったとしても、これを幾多の失敗を乗り越えて推進していくだけの事業基盤を確保できているかは疑問である。「一発屋」として当て込んだ対応であれば、失敗は即撤退へと通じている。その場合、作家そしてコンテンツは利用される立場でしかなく、運良く再生産の仕組みを形成できる確立は極めて低いと考えなければならない。この関係に作家が離反していくことは大いに考えられることである。その点、既存出版社にはいくつかの蓄積と経験が残されており、同じレベルでの対応が新興勢力にとっては対抗できない事実も明らかであろう。

 おそらく、既成、新人を問わず、新しい作家の進出には、短期的な成功と数多の失敗を繰り返す「場」の創造が必須であり、そこでの再トライ、再生産の試行錯誤がついて回る。そのためには、低リスクでの挑戦の仕組みをいかに提供していくかに掛かっているのではないだろうか。まさに漫画が出現してきた歴史と同じ道のりをたどることではないのだろうか。漫画は歴史的に紙芝居、貸本という流通と深く関わってきたのであり、また一方で映画という当時として「花形産業」へのクリエイターたちの憧れも影響して成長してきたと言われる。底の厚い創造基盤を幸運にも打ち立てた日本の漫画は、ある意味で新しいコンテンツ創造がどのように生まれていくのかを象徴的に示唆していると思う。

 電子媒体の浸透はチャレンジという意味で極めて大きな可能性を提示している。この仕組みを強化し新しいものとして生み出していく「場」の創造とは、既存メディアだとか新興メディアだとか関係なく一様に与えられている課題であろう。(萩野正昭)

 

参照ウェブサイト

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“App Store”. Apple. http://www.apple.com/jp/iphone/appstore/ [144], (参照 2009-02-11).

“Android”. Google. http://www.android.com/ [145], (accessed 2009-02-11).

“Android Market”. Google. http://www.android.com/market/ [146], (accessed 2009-02-11).

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  • 参照(6438)
図書館調査研究リポート [4]
出版 [112]
電子書籍 [90]
日本 [9]

3.2 利用

  • 参照(5718)

 PDF版はこちら [171]

 第1章冒頭の本研究調査の背景及び目的でも述べたように、電子書籍の定義は定まっていない。長らく広く普及してき、今も多くの出版がなされている紙媒体の書籍からのアナロジーからは、「電子媒体の本」であろうが、現在では電子ファイルの媒体型配布(CD-ROMなど)流通、利用から、サーバー蓄積コンテンツへのアクセス型やダウンロード型への急速な変容が生じている。

 ビジネスモデルとしては、無償提供型・広告モデルとコンテンツ有償配布型に二分される。さらにコンテンツ有償配布型は、対象組織限定の年間固定契約モデルと対象コンテンツごとのテンポラリーな課金モデルに分かれる。テンポラリーな課金モデルは、書籍出版物の流通慣習を反映した「出版物理単位」での課金、連続小説やまんがなどでの1話単位、雑誌などの連載物の1回単位など、販売の粒度は多様である。

 本節では、電子書籍の利用について取り上げるが、主として「書籍」コンテンツを中心対象とし、「雑誌」については割愛をする。

図書館調査研究リポート [4]
日本 [9]

3.2.1 電子書籍の個人利用

 PDF版はこちら [172]

 電子書籍の個人利用の悉皆的なデータはない。インプレスR&Dによる『電子書籍ビジネス調査報告書2008』(1)では、「ケータイを用いてインターネットを行っている11歳以上の個人」を対象に2008年6月13日~7月2日の約2週間の調査を行っている(サンプル数11,632)。対象は「ケータイ電子書籍」であるので利用のデバイスは携帯電話に限定されており、PC利用や専用デバイス利用は対象外である。

 同調査の概要は次の通りである。

 ケータイ電子書籍の認知度は91.9%であり、高い認知状況である。ケータイ電子書籍の利用率では、29.6%(21.7%:2007年同調査、以下同様)であり、また有料コンテンツ購入については7.9%(3.9%)と前年比倍増の延べであると共に、大きな潜在成長市場が期待される。利用率では、特に女性の10代で約50%、20代で約40%強と利用率が特出しており、また有料コンテンツでは30代女性を中心に高い。

 ケータイ電子書籍の分野は、マンガ系が75.8%と突出しており、ついでテキスト系統読み物(小説、ライトノベル、ノンフィクションなど)が41.0%と続く。評価の高いコンテンツとして多くの支持を集めたのは、『恋空』を始めとして、『DeepLove』、『赤い糸』などの話題を呼んだケータイ小説が上位にある。

 利用者属性では、有料コンテンツ利用者は無料コンテンツのみの利用者よりも紙媒体の書籍の利用も高いことがうかがえる。

 電子書籍の満足度では、「どちらともいえない」が57.0%と高く、ついで「大変満足」2.9%、「満足」28.2%を併せて満足層は31.1%と約1/3である。逆に、「大いに不満」2.4%、「不満」9.5%を併せると11.9%である。ビジネス属性別では、有料利用者の47.9%が満足層であり、無料コンテンツのみの利用者層の24.9%の満足層と差異が見られる。

 電子書籍に対する不便な点では、「眼の疲れ」、「画面が小さい」、「電源容量」などのハードウェア環境関係が約35%前後の選択あり、また「ダウンロード時間が遅い」約40%などの通信環境への不満も多い。ただし、これらは情報通信端末の技術革新と次世代ネットワーク環境の整備の中で解消されていく問題と考えられる。また、コンテンツ面に対する不満としては「タイトル数が少ない」が21.0%あるが、過去のVTR普及の立ち上がり時期と同様な現象と考えられる。

 2007年度あたりから一種の社会現象として取り上げられてきたケータイ小説では、全体の利用率は10.2%と1/10程度であるが、利用中心層では、女性10代38.7%、女性20代19.8%が突出している。

 またケータイ小説の単行本購入者は19.9%であり、電子書籍全体での単行本購入者の約10%と比較して2倍程度と高い。

 以上、インプレスR&Dの調査に基づき携帯電子書籍の個人利用をまとめてみた。主なコンテンツ分野は趣味・娯楽分野であり、ここから電子書籍市場の全体像を結論付けることはできない。本報告書の冒頭でも触れていたように辞書・辞典類などは、初期のCD-ROM媒体時代(例えば、平凡社『世界大百科事典CD-ROM版』)、CD-ROM媒体+追加コンテンツのインターネット提供(例えば、マイクロソフト『エンカルタ』)などの過渡期を経て、国内では電子辞書提供2社(カシオ計算機・シャープ)による寡占化と、インターネット上の検索エンジンの内部辞書に概ね収束している(2)。また、インターネット上のCGM(Consumer Generated Media)として著名な“Wikipdelia”プロジェクトなどの存在も見逃せない(3)。

 また過去には二次情報データベース提供サービスとして独立したビジネスモデルであった情報検索データベースが一次コンテンツそのものを取り扱うようになり、電子書籍市場との境目は溶解しつつある。この意味では、1990年代以降の情報提供環境、ビジネスモデルの急激な変容の中において、「新しい技術、サービスは過去の似姿で登場する」ことを経験しているとも言えよう。それは初期の活版印刷本が写本の似姿で登場したのとも符合しよう。

 こうした意味で本調査が対象としている電子書籍を始め、電子雑誌(電子ジャーナル)、電子新聞等々のラベルも過去の似姿からの名称とも言えよう。

 

注

(1) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p.192-193, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(2) 旧モデルを引き継ぐ、現在のネット上での個人向け各種デジタルコンテンツ検索サービスの代表的なものに、日立システムアンドサービスの「ネットで百科forブロードバンド」などがある。
日立システムアンドサービス. “ネットで百科 for ブロードバンド”.
http://www.kn-concierge.com/netencybb/ [173], (参照 2009-01-15).
 「知のコンシェルジェ」を標榜し、コンテンツ間のクロスレファレンスと索引を有する威容的なシステムではあるが、ビジネスモデルとしてはどうであろうか。なおシステムの全体特徴など、詳細は次を参照されたい。
三分一信之, 藤井泰文.“知のコンシェルジェ:百科知識によるコンテンツ検索”. 知のデジタル・シフト:誰が知を支配するのか?. 石田英敬編. 弘文堂, 2006.

(3) Wikipediaプロジェクトはラリー・サンガー、ジミー・ウェールズが2001年1月に提唱した。名称は、オープンソースソフトウェア“Wiki”とエンサイクロレディアの後半“Pedia”の合成語で、直訳すれば「Wikiによる学び」の意味である。日本語版は、下記のとおり。
“メインページ”. フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』.
http://ja.wikipedia.org [174], (参照 2009-01-15).
 また姉妹プロジェクトに辞書プロジェクト「Wiktionary」、電子図書類の有機的構築プロジェクト「Wikibooks」、テキスト文献のアーカイブ「Wikisource」、画像、音声、動画などの集積「Wikimedia Commons」などがある。

  • 参照(6213)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

3.2.2 電子書籍の機関利用―図書館―

  • 参照(21881)

 PDF版はこちら [175]

 図書館における電子書籍は大きく2種類に分かれる。第一は、所蔵資料類の自館等による電子化とそのネットワーク公開であり、図書館の館種を問わず貴重書、文庫(コレクション)の電子化は一般的である。ただし、その大半は過去の「蔵書」類のデジタル化、ネットワーク公開であり、電子展示物の公開の範囲に留まっている。大学等においてはデジタル化されたコンテンツ類を媒介として、当該大学を核とした研究プロジェクトの推進や教育素材として活用されることが肝要である(4)。また、公共図書館では地域コミュニティの活性化への寄与などが強く求められている(5)。

 公共図書館では郷土資料類を中心としたコンテンツが多い。一定規模の図書館ではこうした電子化に取り組んでいるが、例えば岡山県立図書館の「デジタル岡山大百科」のようにコンテンツをオープンに募集しているといった例もある。大学図書館では、初期の京都大学附属図書館による重要文化財鈴鹿本『今昔物語集』が最初である。しかし、慶應義塾大学の『グーテンベルグ42行聖書』を核としたHUMIプロジェクトなどの一部を除いて、当該大学の教育・研究体制と有機的に結びついた電子化の事例報告は管見にして見当たらない。なお、「日本の記憶」として神戸大学附属図書館の「震災文庫」は特筆しておきたい(6)。

 第二は、外部提供の電子書籍の導入・提供である。図書館では商業ベースで提供されているコンテンツの一括契約が一般的であり、多くは出版社、またはアグリゲータのコンテンツサーバへのアクセス契約であるが、例外として後述の東京都千代田区立図書館などのケースもある。ここでの問題は、コンテンツサーバへのアクセス契約はID/パスワード数単位での契約(同時アクセス数は制約される)であれ、IPアドレス単位での契約(アクセスは組織内のIPアドレスに制約される)であれ、閲覧等への制限が契約上かかり、広くネットワーク公開はもちろん、図書館間相互協力の対象とすることが困難であることである。

 なお、大学等の研究機関を中心に、組織で生産・使用・形成された教育・研究資源の電子アーカイブと公開を目的とした「学術機関リポジトリ」の構築が進んでいるが、本報告では取り上げない。

 

3.2.2.1 公共図書館における電子書籍の提供

 

 公共図書館における電子書籍の導入、提供は未だ端緒についたところである。代表的な図書館としては、東京都千代田区立図書館の活動があげられる(7)。同図書館は2007年4月、指定管理者制度を導入し、民間企業が運営している。2007年5月に開館し、オープン半年で利用者が50万人を突破、2008年5月頃には100万人を超え、注目を集めた。地域特性を活かした日本初の図書館コンシェルジュ・サービスと銘打って、「神保町古書店案内」、周辺レストランや文化施設を紹介する「街案内」などのサービスも提供している。

 電子書籍提供サービスは、2007年11月26日に稼動した。約3,000タイトルを小学館など16社の出版社から400万円で購入、提供している。利用には、「利用登録→利用券取得→千代田区Web図書館のサイトからメールで個人アカウントを作成→アカウントとパスワードを取得後、サイト内にログイン」という流れになる。利用者1人につき上限5冊を2週間まで電子的に「帯出」できる。電子書籍の画面印刷はソフトウェアによりロックされており不可能である。2週間の貸出期間過ぎるとパソコン上から自動消滅する仕組みを導入し、同時アクセスの制御を行っている。区内在住者限定でサービスを開始し、2008年7月から区内在勤・在学者にサービス拡大した。

 また、奈良県生駒市立図書館では、全国の公共図書館で初めて、新しい読書スタイルとして小説・実用書など約2,900タイトルを揃え、携帯型の電子書籍専用端末機の閲覧・貸出を実施したが、貸出用の電子書籍用専用端末の使用モデルであったため、2007年度の専用端末使用ビジネスモデルの崩壊、撤退に伴い、過渡期の電子書籍サービスのモデルとなった(8)。

 なお以上は例示であり、検索エンジンやリンク集を利用して他の電子書籍提供サービスを確認できる。

 

3.2.2.2 大学図書館における電子書籍の提供

 

 大学図書館における電子書籍の提供は、学術研究資源が中心であり、例えばNetLibrary、Springer eBook、Wiley InterScienceなどが一般的な導入コンテンツである。年間契約制で、学内LANフリー(IPアドレス制御方式)での提供である。但し、大学の学部構成やさらには財政規模などによって大きな差異が見受けられる。

 また、これはビジネスモデルの視点から考えると、図書館のコレクション構築ではなくアクセス権の契約であり、従来の図書館での有料データベース契約と同様である。

以下、いくつかを素描しておく。例えば、京都大学図書館機構の蔵書検索システムで検索可能な電子書籍は、20万タイトル以上(2008年12月現在)とされているが、そのうち約13万6,000タイトルは、18世紀に刊行された英語・英語圏刊行物を収録したGaleのコレクション“Eighteenth Century Collection Online(ECCO)”であり、一般的な利用対象コンテンツは、“Ebsco host Business Source Premier”約7万5,000タイトル、“OCLC NetLibrary”約3,800タイトルほかである(9)。

 九州大学附属図書館の渡邊は、「大学図書館における電子リソース・サービスの推進―九州大学附属図書館のコンテンツ整備・きゅうとサービス・組織再編―」(10)で、電子情報資源提供の現状報告と今後の展開考察を実践的な立場から行っている。著者抄録の抜粋で要点を紹介する。ただし、年々減少傾向にある各図書館の人的資源を考えるとき、個々の図書館単独でのリンクリゾルバの常時維持は困難な課題である。

 

 大学図書館が電子リソース・サービスを推進するために必要なことについて、九州大学附属図書館の事例に基づき提案する。コンテンツの整備では、コレクション構築のための財政基盤の確立とそれに伴う図書館の責務を自覚することが重要である。利用環境の整備では、ナレッジベースを構築し、リンクリゾルバ、電子ジャーナル集、OPACといった電子的サービスを相互に連携させることで、電子ジャーナルの視認性を向上させることが可能になる。

 

 主題分野を絞った電子書籍の導入にはネットアドバンスのJapanKnowledgeによる『東洋文庫』シリーズや丸善による「化学書資料館」などがある。例えば高知大学総合情報センター(図書館)では、「化学書資料館」を導入している(11)。また、実践女子大学では、「青空文庫」、「Project Gutenberg」各官公庁ウェブサイト上の白書、オープンアクセス雑誌などの公開コンテンツの統合検索ができるOPACを提供している(12)。

 電子書籍導入後の利用実態については、慶應義塾大学の報告がある(13)。短信であるが、「電子ブック増加の背景」、「契約モデルと価格」、「利用動向」などが素直に語られており参考になる。なお、同図書館は2007年7月6日、Gooleブック検索の図書館プロジェクトに参加を表明した。プロジェクトにおいて慶應義塾図書館が提供するのは、著作権保護期間の満了した約12万冊である(14)。

 

注

(4) 例えば、慶應義塾大学のHUMIプロジェクトや、メリーランド大学「プランゲ文庫1945-1949: The Gordon W. Prange Collection」などがある。
“HUMI Project, Keio University”.
http://www.humi.keio.ac.jp [176], (参照 2009-01-15).
“The Gordon W. Prange Collection, University of Maryland”.
http://www.lib.umd.edu/prange/html [177], (参照 2009-01-15).

(5) 例えば、デジタル岡山大百科などがある。
岡山県立図書館. “デジタル岡山大百科”.
http://www.libnet.pref.okayama.jp/mmhp/index.html [178], (参照 2009-01-15).

(6) 神戸大学附属図書館. “神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ【震災文庫】”.
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/ [179], (参照 2009-01-15).

(7) 東京都千代田区立図書館. “千代田区立図書館”.
http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/ [180], (参照 2009-01-15).

(8) 生駒市図書館. “電子書籍”.
http://lib.city.ikoma.lg.jp/ebook/index.html [181], (参照 2009-01-15).
 なお奈良先端科学技術大学院大学が、東京大学出版会の一部書籍の電子化を行い、館内アクセスに限定して提供しているが、デモンストレーション的な状況にある。

(9) 京都大学図書館機構. “京都大学図書館機構「KULINE」で検索可能な電子ブック”.
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=404 [182], (参照 2009-01-15).

(10) 渡邊由紀子. 大学図書館における電子リソース・サービスの推進:九州大学附属図書館のコンテンツ整備・きゅうとサービス・組織再編. 情報管理. 2007, 50(6), p.343-353.
http://hdl.handle.net/10.1241/johokanri.50.343 [183], (参照 2009-02-02).

(11) 高知大学総合情報センター(図書館). “デジタル図書館閲覧サイト「化学資料館」の利用開始について(2007.10.1)”.
http://www.lib.kochi-u.ac.jp [184], (参照 2009-01-15).

(12) “実践女子大学図書館、OPACから『青空文庫』等の書誌データを検索可能に”. カレントアウェアネス-R. 2007-10-31.
http://current.ndl.go.jp/node/6761 [185], (参照 2009-01-15).

(13) 保坂睦. 電子ブック導入その後:メディアセンターにおける利用と展望. MediaNet. 2007, (14), 2007, p11-13.
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/014/01400110.html [186], (参照 2009-01-15).

(14) 慶応義塾. “慶應義塾が「デジタル時代の知の構築」にむけたGoogleとの連携による図書館蔵書のデジタル化と世界にむけての公開を決定”.
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2007/kr7a43000000a5sr-att/070706.pdf [187], (参照 2009-02-11).

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
デジタル化 [188]
日本 [9]
公共図書館 [11]
大学図書館 [30]

3.2.3 リンク集

  • 参照(5111)

PDF版はこちら [189]

 リンク集やメタリンク集も多くの図書館で提供されている。例示で取り上げておこう。例えば琉球大学附属図書館「電子化資料を提供しているサーバー」(15)や埼玉大学図書館の「電子ジャーナルリンク集」(実態はメタリンク集)(16)などや、Sun-Inet「電子図書館」(17)などがある。リンク集やメタリンク集の探索には、検索エンジンの使用が有効である。

 

注

(15) 琉球大学附属図書館. “電子化資料を提供しているサーバー”.
http://www.lib.u-ryukyu.ac.jp/erwg/denshika.html [190], (参照 2009-01-15).

(16) 埼玉大学図書館. “電子ジャーナル・eBook”.
http://www.lib.saitama-u.ac.jp/reference/ej/ej.html [191], (参照 2009-01-15).

(17) [岡崎図書館を考える会]. “公共図書館/電子図書館関係”.
http://www.sun-inet.or.jp/~pp-katoh/link01.html [192], (参照 2009-01-15),

図書館調査研究リポート [4]
日本 [9]

3.2.4 国立国会図書館職員の電子書籍に対する意識

  • 参照(6860)

 PDF版はこちら [193]

 本調査の一つとして、国立国会図書館職員を対象に「電子書籍の利用の実態・意識に関するアンケート」を実施した。詳細は巻末の参考資料2「電子書籍の利用の実態・意識に関するアンケート調査結果」を参照されたい。ここではアンケート結果の概要と若干の考察を記すのみとする。

 なおこの調査はあくまで国立国会図書館職員を対象としたものであるため、館種の異なる大学図書館職員や公共図書館職員を代表するものではない。いわば「ラストリゾートとしての図書館の職員」の現在における電子書籍に対する意見分布として見る必要がある。

 

 調査対象:国立国会図書館職員 923名
 調査期間:2008年10月22日~11月5日
 調査方法:国立国会図書館内、Webアンケート方式による調査
 回答数:373名 (40.4%)

 

 回答者の属性は、年齢層では31~40歳(42.1%)が最も多く、~30歳(23.9%)、41~50歳(22.0%)、51歳~(12.1%)と続く。男女の割合はほぼ同数である。

 電子書籍の認知度については、ほとんどのアンケート回答者が「知っている」と回答されている。もっとも約40%の回答率であるので、電子書籍に対する関心が高い層が回答を寄せているとも推測される。

 電子書籍の利用・購入状況では、過去1年間で業務以外に電子書籍を利用したことがあると回答した者は、約34%であり、利用デバイスは、「パソコン」(80.8%)が飛び抜けて多い。これは、次の設問である電子書籍の利用ジャンルとの関係で、コンテンツ供給状況やコンテンツのデバイス依拠状況の反映と考えられる。

 電子書籍を利用しているジャンルは「ノンフィクション」や「学術書」が多く、社会一般の最も多い利用ジャンルである「コミック・マンガ」とは明らかに異なるものであった。

なお、回答者のプロフィールによるクロス集計の結果では、電子書籍の主な利用者は、21~40歳の比較的若い世代が中心であったが、性別などよる違いはほとんど見られなかった。

 利用者の電子書籍の利用経験者の意見をまとめておく。電子書籍が便利だと感じている点では、「保管場所を取らない」、「いつでもどこでも読める」といったモバイル性に関する回答が上位を占めた。この傾向は概ね、どのデバイスでも同様であったが、電子書籍専用端末では、「検索ができる」が上位を占めた。

 ただし、先の電子書籍の利用デバイスを80.8%が「パソコン」と回答した点とを考え合わせると、現状のラップトップ・パソコンの重量、立ち上げ時間、電源持続時間、ネットワーク接続帯域等はモバイル性において携帯電話やスマートフォンに比較してはるかに劣ることから、ユビキタスなCloud Computing環境を想定・期待した回答であるかもしれない。

 反対に、電子書籍が不便だと感じる点では、「目が疲れる」、「ぱらぱらページがめくれない」といった一般的に電子機器特有のデメリットと言われる内容が上位を占めた。この傾向は利用デバイスによって違いはなく、共通的な回答であった。

 一方、紙媒体の書籍の購入・利用状況について、過去1年間で入手した書籍の点数について調査したところ、「1~23」点の利用が、入手先に関わらず、最も多くの割合を占めた。これは年齢別に見ても、どの年齢層においても概ね同様の傾向であるが、購入先として「オンライン書店で購入した」点数では、「0」点が51歳以上の年齢層を除いて、最も多くの割合を占めた。

 将来予測として、電子書籍の今後の動向を尋ねた。電子書籍が普及するにつれ、紙媒体の書籍が売れなくなるとの意見に対する職員の感じていることに関する設問では、「あまり思わない」が最も多く(52.8%)の割合を占めた。次いで「やや思う」(27.6%)となっており、「その通りだと思う」は2.9%と少数にとどまった。なお、これを年齢別に見ても、どの年齢層でも、概ね同様の傾向であった。

 総じて、国立国会図書館職員内、本アンケートの回答者の素描は、電子書籍に対しての関心は高く、個人購入・使用者も回答者の1/3程度存在するが、利用ジャンルはノンフィクションや学術書という教養主義的コンテンツが中心である。また、使用デバイスはPCが圧倒的であり、実際には電子書籍のモバイル利用を頻繁に行ってはいないが、将来的な展開として電子書籍のモバイル利用環境に期待が高い。また、紙媒体書籍の将来に対しては悲観的ではない。概ね電子書籍に関しては「アーリー・アダプター(初期受容者)」ではなく、「アーリー・マジョリティ(初期多数受容者)」層と考えられる。

 最後に、図書館の電子書籍との関わり方についての意見では、(国立国会)図書館として電子書籍とは関わりを持つべきとの意見が多いが、制度的な部分や技術的な課題等、クリアすべき課題を乗り越えることを条件としてあげる意見が多く見られた。これは、最終設問の「電子書籍について感じておられること」での自由記述でも同様の傾向が見られた。(北 克一)

 

図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]
国立図書館 [29]
国立国会図書館 [32]

3.3 保存

 

  • 参照(6444)
図書館調査研究リポート [4]
電子情報保存 [194]
日本 [9]

3.3.1 電子書籍保存の現状と展望

  • 参照(9765)

 PDF版はこちら [195]

 残念ながら、電子書籍の保存については本調査でもあまり体系的に把握できているとはいえない。これは、調査の問題というより電子書籍の保存そのものについてステークホルダー間に相互理解が深まっていないことに起因すると思われる。

 日本国語大辞典によると、保存とは「そのままの状態でたもっておくこと。原状のままに維持すること」(1)とされている。また図書館情報学用語辞典(第3版)では、資料保存を「図書館資料や文書館資料の現在と将来の利用を保証するため、元の形態のまま、あるいは利用可能性を高めるためにメディアの変換などを行うなどして、維持を図ること」(2)と定義する。後者は図書館あるいは文書館資料を射程としているが、すでに紹介したように、千代田区立図書館ではWebを通じた電子書籍の「帯出」サービスがスタートし、構築支援を行ったiNEOには、問い合わせが寄せられていることが、本研究のインタビュー調査からも明らかになった。

 そこで本調査では、ネットワークを経由した図書館による将来的な電子書籍提供サービスも視野に入れつつ、図書館情報学用語辞典の「資料保存」の定義を準用して、電子書籍の「保存」を論じていくこととしたい。

 

3.3.1.1 今回の出版社調査の結果

 

 本調査で出版社に行ったアンケート調査、および電子書籍関連事業者へのインタビュー調査では、保存についての設問項目は1項目、電子化したコンテンツの保存体制について質問を行った。

 出版社アンケートの結果によると、出版社の「外部で保存している」が69.4%、「内部で保存している」が26.4%と、7割近くが社外で保存を行っているということが判明した。この設問についてのさまざまな項目とのクロス集計結果については、サンプルが少ないこともあり、有意な差はないと考えられる。

 もちろん外部での保存が内部より多いということから、データの保全をより確実にする志向があると考えることは可能で、それ自体はデータの保全と安全性について歓迎すべきことといえる。しかし、その内容については、先に挙げた保存の認識とは異なるのではないかと思われるものであった。

 それを端的に示しているのが、電子書籍関連事業者へのインタビュー調査の結果である。この項目への回答を寄せたほとんどの事業者が、「コンテンツの保存」をバックアップに関する事項であると捉えている。たとえば講談社は保存について、「自社内と社外(製版会社と印刷会社)に分散してコンテンツを保存している」と述べている、また集英社は「バックヤードとして(中略)(他社に)保管している」と述べている。これは保存という言葉を、データの滅失や毀損に対しての安全性確保としての保存と想定しているものと考えられる。

 内部保存についても、ある程度は予想していたが、ソフトウェア、ハードウェアの対応や人的、組織的体制など、データの長期保存を意識した回答は、残念ながら得ることができなかった。たとえば小学館からは、「自社内保存のみ」との回答が寄せられた。またPHP研究所は「社内のサーバーでダブルに保管、暗号化して関係者以外さわれないようにしている」と答えている。

 一方で特筆すべきは、ケータイ小説を主力とする魔法のiらんどが、「常にユーザである作家が編集・削除可能な状態にあ」り「どの時点で作品が完全に完結し、保存するべきかの判断は、作家であるユーザに一任している」と回答しつつも、「新たなメディアとして確立されていることは周知のとおりであり、それに準じた保存機関として、図書館がその役目の一部を担うことは賛成」と答えていることである。新たな表現形態を生み出している事業者からこのような回答が寄せられたことは、興味深い。

 出版社アンケートや電子書籍関連事業者へのインタビュー調査を総合すると、電子化したコンテンツの保存について、出版社や電子書籍関連事業者はコンテンツ保持への考慮や漏洩防止措置といった内容であると認識しているのではないか、との結論に至った。

 内部保存や取引先の印刷会社、外部のデータサーバの保存では、倒産や天変地異などに抗すすべもないが、アンケートやインタビューの結果からは、出版社等のコンテンツに対する配慮を感じることは困難であった。ただ、これは紙の本においても似た傾向を示すであろうと考えられる。出版社それ自体は、今現在出版しようとしているものについては熱心に保全するが、いったん出版されたあと、絶版となってしまってからの保存はそれほど熱心ではない。かつて自社が刊行した出版物を、再版あるいは復刊のために古書店で探しまわっているという、笑えない話を耳にする。

 

3.3.1.2 国立国会図書館職員の意識

 

 出版社の回答が保存に対し、冷淡あるいは無関心であるのに対し、国立国会図書館(NDL)職員は、全く異なる反応を示している。

 NDL職員に対するアンケート調査では、図書館と電子書籍についての自由記述欄を設定したところ、186名から意見が寄せられた。これらの記述は、あくまでも職員の個人的意見の域を超えないものであるが、電子書籍の保存に関するNDL職員の意識が窺えて興味深い。以下、その内容を紹介したい。なお以下で紹介する記述は、実際の回答を要約したものである。

 まず「保存」に関して、反対する意見はあまり見られなかったのに対して、積極的な収集・保存を求める意見は多く見られた。また一見消極的と思われるような意見でも、とりあえず保存するとした上で、利用に供することについて留保するという意見であって、保存することそのものを否定する意見は少数であった。提供方法などは今後の課題、図書館は保存にフォーカスすべき、といった内容の記述が見られたことは、それを象徴している。保存収集そのものに消極的と思われる意見も、税金の無駄になる可能性から慎重に、と時期尚早を指摘する内容であり、いずれは必要になるという認識となっている。

 この結果から、電子書籍の保存に対する、NDL職員としての使命感が感じられるといってよい。特に、紙媒体がそもそも存在していないボーンデジタルのデータについては、その増加と関連づけて保存を求める意見が見受けられるなど、危機感が強い。また電子書籍は、紙媒体の書籍以上にコンテンツが消失しやすいメディアであるという回答も見られた。ボーンデジタルデータがインターネットの中で、紙のような物理的実態のないままに飛び回る今、このような情報が図書館の網の目からどんどん漏れ落ちることについてのNDL職員の焦燥感は深く、それだけに図書館の役割は大きいと、回答したNDL職員は認識している。

 ただ、実際の保存法はというと、収集・保存だけでそのままで読める紙の本と違い、電子書籍では読むための機器が必要になることから、さまざまな意見がみられる。たとえば、一般の電子資料以上に保存方法への配慮の必要性、永続的保存方法の研究、マイグレーションへの不安、電子書籍に関する基準作成への関与、などである。おそらくCD-ROMなどのパッケージ系電子書籍収集の際に苦労があったのか、収集データの形式や半永久的保存方法の具体策について懸念したり、方策の開発を求める意見が目立った。とまどいといって良いかもしれない。実際問題として、「収集・保存することは重要」と言うことはたやすいが、電子書籍といっても非常に多岐にわたり、それを網羅的に収集することはWEBページの収集以上に困難が予想される。技術決定論に振り回されないようにしないといけない、という意見は的を射ているし、ソフト、ハードの面からも難しいので手掛けたくない、という正直な意見もあった。

 逆に、公開についてはむしろ慎重な意見が目立つ。電子書籍の図書館による公開は、無限の無料コピーを配布することに等しく、紙の書籍の公開以上に出版者への影響が大きい。それだけ出版社の反発も強いことが予測されるからだろう。このような意見の代表例として、紙媒体と電子媒体の提供方法の差別化、市場や利用者のニーズに従った対応、従来の紙の書籍と同様のスキーマでの提供に対する否定的見解、図書館を通じた電子書籍の無償提供による販売者の損失拡大、法制や他業種との関係を踏まえた事業モデル形成の必要性、などが指摘されている。

 電子書籍の利用に関しては、著作権への言及もある。現在の著作権の考え方がそもそも電子書籍のような利用法を想定していないため、新たな法的枠組みが必要と考えられているのである。すなわち、著作権侵害の容易さを踏まえた補償の検討、著作権問題へのポリシー作成と法制化の検討、などである。

 

注

(1) “保存”. 日本国語大辞典 第12巻. 第2版, 小学館, 2001, p.114.

(2) 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編. 図書館情報学用語辞典. 第3版, 丸善, 2007, 122-123p.

図書館調査研究リポート [4]
図書館員 [196]
資料保存 [197]
電子情報保存 [194]
電子書籍 [90]
日本 [9]
国立国会図書館 [32]

3.3.2 電子書籍の保存の社会的意義

  • 参照(10727)

 PDF版はこちら [198]

 図書館に収集されている資料は、ランガナタン(Shiyali R. Ranganathan)の「図書館学の五法則」のひとつ「図書は利用するためのものである」に示されるよう(1)に、利用されるために存在している。たとえ現時点において、利用者に利用されていない資料であっても、未来に重要な意味をもつことになる可能性がある。過去、歴史研究において、図書館の果たした役割はきわめて大きい。明治以後、書籍が図書館で収集・保存されていればこそ、今に生きる我々も、明治、大正時代の実相を知ることができる。そして我々、現在に生きる者には、現在の資料を未来に残す責務があるといえる。

 ところが今、図書館の紙の資料だけでは、時代の実相を知ることはできなくなっている。以前は印刷された情報さえ収集してあれば、その時代時代に発生し利用されていただろう情報がほぼ網羅できたが、現在では膨大な情報が紙の上にはない。すでにデータのみで紙に印刷されない形式の出版物であるCD-ROMが普及しはじめて20年が経過した。年鑑や統計集のような膨大なデータだけから構成される資料は、紙に印刷されることすらなくなりつつある。そしてインターネットの上を流れている情報についてはその全体像をつかむことはもはや不可能である。

 インターネットの情報については国立国会図書館のWARPプロジェクトが知られているが(2)、網羅的な収集にはいたっておらず、公的機関サイトなどの収集にとどまる。今後、順次その対象の拡大が図られるとしても、課題は多い(3)。まず、網羅的に収集すること自体が著作物の複製であり、現行法のまま収集するには著作権処理の問題が生ずる。著作権処理をサイト運営者に逐一確認の上、行うことは膨大な労力を必要とする。また収集対象と想定されるウェブサイトは、全てが日本国内のサーバ上に格納されているわけではない。さらに克服すべき技術的課題も多い。

 NDLはウェブサイト「電子情報の長期的な保存と利用」において、以下の理由を挙げて「電子情報」が脆弱であると述べている(4)。

  • 紙媒体と比較して、記録媒体の寿命が著しく短い
  • インターネット情報は消失する可能性が高い
  • 電子情報を利用するためには、それに対応する特定の再生機器やPC・OS・アプリケーションプログラムが必要であるが、これらは絶えず進歩し、古いものは使えなくなることが多い。
  • 情報の改ざんが容易。
  • オリジナルであることを保証することが困難。

 

3.3.2.1 パッケージ系電子書籍の保存問題

 

 電子情報の長期的利用と利用の保障という課題を克服するために、NDLでは2002年度から電子情報の長期的な保存と利用保証のための調査研究に取り組んでいる(5)。その調査研究の一環として、2003~2004年度にかけて、CD-ROMやフロッピーディスクなど、パッケージ系電子出版物の利用可能性の調査が実施された(6)。

 2003年度に実施されたパッケージ系電子出版物の利用可能性調査では、1990年度以前に受け入れた電子資料のうち、2003年度当時でも利用可能なものは3%にすぎなかった。1999年度受入分でも55%であった(7)。またアプリケーションソフトウェアが原因で利用できなかった電子出版物41件のうち6割以上にあたる26件が、電子書籍(ただし電子ブックやEPWINGフォーマットの電子辞書)ファイルで、6件はPDFファイルであった(8)。この結果から、電子出版物は特別な長期保存と長期アクセスのための対策を採らない限り、相当数のものが利用不可能になる、との分析を示している。引き続き2004年度に実施された調査では、プログラムやデータを同種の新たな媒体に移行させる「マイグレーション」、動作環境を他の環境上で擬似的に再現し、旧式環境用のソフトウェアを動作させる「エミュレーション」が実際に行われた。その結果、マイグレーション、エミュレーションともに、(当時は)実際的な対策ではないと結論づけたものの、再生環境が多種、多様で、媒体などの規格の移り変わりが激しい電子情報の長期保存には、マイグレーション、エミュレーションは不可欠であること、ファイル形式や再生環境に関するメタデータの付与が、必須であることが指摘されている(9)。

 この点、紙の本は現在の技術的視点から見ると、媒体と再生機器が一致しているという優れた特質をもっていることになる。紙という媒体を劣化からさえ守れば再生機器がなくても、コンテンツについては永続的に読むことができる。紙の本は保存という側面に関してはきわめて優れた媒体といえよう。

 

3.3.2.2 電子ジャーナルの長期保存

 

 民間サーバーに蓄えられた電子データの滅失や接続不能という問題は、早くから電子化の進展していた学術電子ジャーナルの世界では、当初から指摘されていた。まず認識されたのは契約上の問題だった。電子ジャーナルは出版社とのサーバー閲覧契約期間が切れるとサーバーそのものへのアクセスができなくなり、結果として過去に講読した電子ジャーナルのバックナンバーまでも読めなくなる。これは一旦購入すれば、所蔵する限り利用可能な紙媒体の雑誌との根本的な違いである。

 これを解消するために出版社と顧客の間で結ばれたのが、永続的に電子ジャーナルにアクセスできる権利を契約にもりこむ“Perpetual Access”(10)である。個々の出版社はたとえ契約が切れた顧客であっても、契約期間に閲読可能であったジャーナルを制限はあるが永続的にも閲読可能とする。

 ただし、個々の出版社が自社のサーバーにあるデータへのPerpetual Access を保証したとしても、出版社が営利企業体である限り、倒産や事業中止といった事態にあっては、実際に「永続的」にアクセスを保証できるということはありえない。従って、字義通りPerpetual Access を保証するためには出版社とは独立した、なんらかの公的機関による保存システムが必要となる。この保存システムとして具体化した体制が、電子ジャーナルのアーカイビングである(11)。

 公的機関による電子ジャーナルアーカイビングの動きはオランダ国立図書館(Koninklijke Bibliotheek:KB)の“e-depot”(12)が早い事例(2002年)として知られる。これは出版社がKBに無償で電子ジャーナルコンテンツを提供し、KBはそれを永続的に保管する。通常時には出版社の経営保護のため、読者への供給は行われないが、コンテンツ出版社が災害や倒産にみまわれた場合、e-depotに保存されたコンテンツが提供されるという仕組みとなっている。また単に保管するにとどまらず、記録内容と読み取りソフトとの両面にわたりマイグレーションの責任を持つとしている。

 後藤(13)によるとKBの例をはじめ、米国や英国などで電子ジャーナルを中心に公的な電子ジャーナルのアーカイビングが進められている。後藤が引用した“E-Journal Archiving Metes and Bounds”では、オランダ、米国、カナダ、ドイツ、オーストラリアの12の電子ジャーナルアーカイブが紹介されている。

 このうち“LOCKSS(Lots of Copies Keep Stuff safe)”(14)は、単純にデータを1カ所の図書館にアーカイビングするのではなく、複数箇所(主に図書館)に保存し、お互いに内容をピアツーピアで比較しあい精度を維持するという分散型の保存システムである。作業は図書館員ではなく、オープンソースソフトウェアであるLOCKSS(従ってこの名称自体はアーカイビングの名称ではなく、ソフトウェア集合の名称である)が自動的に行う。出版社が正常な機能を保持している、すなわち通常に営業している限りにおいては、LOCKSSに保存されたコンテンツは使用されず、出版社のコンテンツがそのまま利用者に提供される。だがいったん出版社が倒産や災害などにあった場合は、LOCKSSのネットワークからただちにコンテンツが読者に対して供給される。ここでもe-depotと同じく、出版社の商業性と公的な保存性を両立したシステムとなっている。また公的サーバーといえど、災害や革命・戦争に遭遇すれば、出版社のサーバーと同じく滅失の危険性は常にあるわけで、分散保持の意味は大きい。当然、この分散保持のネットワークは大きければ大きいほど安全であり、使用機関は全世界に拡がっている。

 2005年10月には、米国研究図書館協会(ARL)は声明「学術的電子ジャーナルの保存に必要な緊急行動(Urgent Action Needed to Preserve Scholarly Electronic Journals)」を発表し,電子ジャーナルアーカイブが提供すべきサービスや図書館が取るべき行動等に関する勧告を行っている(15)。

 この勧告自体は簡単なものであったが、これを受けて,ARLと図書館情報資源振興財団(CLIR)の委託により行われたコーネル大学のレポートが、後藤の紹介したE-Journal Archiving Metes and Bounds(16)であり、詳細な調査にもとづく提言を行っている。この中の図書館に関する提言では、以下が述べられている。

  • 図書館や図書館コンソーシアムは、出版社にアーカイブに加盟し必要な権利義務を譲渡するよう求めるべきである。
  • 図書館は、電子ジャーナルのアーカイビングについて、情報を共有すべきである。
  • 学術機関は、すくなくともひとつのアーカイブに参加すべきである。
  • あらゆる規模の学術図書館は自らの希望に沿うよう、アーカイブに団結して主張するべきである。
  • 図書館は、アーカイブされた学術出版の記録簿(レジストリ)の開発に参加するべきである。

 図書館はアーカイビングを利用するだけなく、アーカイブのために積極的に活動すべきであると主張が行われているのがみて取れる。アーカイブはアーカイブの作成者が独善的にすすめるのではなく、関係者がお互いによりよいものを作るよう積極的に参加発言していくことが求められている。

 

3.3.2.3 ネットワーク系電子書籍の保存上の脆弱性

 

 物理媒体をもつパッケージ系電子書籍以上に、出版社のインターネットサーバーから供給される形式のネットワーク系電子書籍は、その永続的な保存と言うことでは問題が多い。媒体材質の劣化という問題からは一応免れてはいるものの、出版社が倒産や災害に見舞われた場合、サーバーごとコンテンツが逸失してしまう危険性からは免れえない。ネットワーク系電子書籍の場合、物理的な電子書籍が読者の手元なり図書館なりに供給され資料がローカルに存在するのではなく、情報の実際の保管場所は出版社のサーバーであり、必要に応じてそのサーバーから資料データを受信する形式をとる。この形式は個々の読者に物理的な実態を配布する必要がなく、紙の本を凌駕するさまざまな利点があるのは論を待たないが、いざサーバーそのものが倒産や災害に遭遇、滅失した場合、そこに蓄えられたコンテンツもサーバーごと失われ、一切読者のところにデータが供給されなくなってしまうというきわめて脆弱な性質を持っている。

 倒産や災害以前の問題として、経営的理由などでサーバーからの提供を出版社が中止してしまうだけでも、今まで読めていた資料が読めなくなる。サーバーからの情報提供は出版社の任意であり、事業中止もまた出版社の任意であるから、これを防ぐことはできない。最近では2008年から2009年にかけて、電子書籍端末「シグマブック」や「リブリエ(LIBRIe)」に対するコンテンツ提供が中止されたことは、記憶に新しい。くわえて、パッケージ系電子書籍と同様に、ソフトウェアやOSの変化という問題からも免れることはできない。

 これまでの図書館の収集対象であった紙媒体の「本」は、それを出版した会社が倒産に追い込まれても、天変地異による被害を受けたとしても、いったん発行された本は図書館に保存されている限り、失われることがなかった、しかも先述のとおり、紙は表示機器再生機器の機能を兼ねそなえており、長期に保存したとしても、物理的に紙やその上にのったインクが滅失しない限り、永続的に閲読が可能である。この紙の本の特質をまったく裏返した形で、ネットワーク系電子書籍はきわめて脆弱な基盤の上に成立しているといえよう。

 

3.3.2.4 電子書籍保存の技術的・社会的問題

 

 現在のところ、電子書籍保存に関して、電子ジャーナル保存ほどの危機感をもって語られてはいない。なぜなら、電子書籍はまだ、同じコンテンツの紙の本が別にあり、それをサーバー上でも読めるようにしたという段階にあるからである。保存という視点からすると、紙版と電子版の両建ての段階では紙をさえ従来形式で保存しておけば、少なくともコンテンツは保持できる。しかし、これは過渡的な現象であって、電子書籍についても、ケータイ小説で顕在化しているようにボーンデジタルで画面上でのみ読まれ、紙の本としては出版されないものも増えている現状を鑑みると、今後は電子ジャーナルと同じ危機感をもって保存を図らねばならないであろう。

 一方で電子書籍は技術的にみると、標準的なHTML、XMLファイルやPDFファイルでは記述されていないものが多いことに注意しておく必要がある。標準的なファイルであれば、かなりの年月そのエミュレーションソフト等が供給される可能性が大きく、そうした形式のままでも閲読が可能だろう。だが、現在の電子書籍はパッケージ系、ネットワーク系を問わず、さまざまな音声出力や検索など多彩な機能が付加されている。当然それらは個別のソフトウェアに依存し、OSに依存する。パッケージ系の電子書籍の項で述べたようにソフトウェア環境、OS環境は変化を続けるから、長期保存にあたっては外部環境の変化に耐えうる標準化が必要となる。つまり、電子書籍の保存にあたっては、単純に現在「ある」ものを保存するだけではなく、長期の保存を見据えた上での変換をほどこして保存せねばならない。

 まずは、特殊なファイル形式で発行された電子書籍を標準的なファイル形式に変換していくことが重要と思われる。その過程で、本来の電子書籍のもつ、音声や検索といった機能は失われるかもしれないが、コンテンツの保持を優先して次善の策に徹すべきだろう。ただ、どの機能を捨て、どの機能を活かすかの判断は機械的には難しく、実際の作業という点では解決すべき問題が多い。もちろん標準形式であったとしても超長期的には閲読不能となると考えられ、さらなる長期保存用の形式に変換することが重要性をもつ。現状では超長期保存に適したファイル形式といったものは存在していない。

 また出版社も、各社が独自にバラバラな規格で電子書籍を作るのではなく、長期保存やデータの共有ということを可能にする標準化フォーマットに沿った出版を意識する必要があろう。

 もちろん、このような考えを抱くのは、筆者だけではない。日本機械工業連合会とビジネス機械・情報システム産業協会は2005年3月、共同で『拡大する電子ペーパー市場と機械産業の取り組みについての動向調査研究報告書』(17)を刊行した。この報告書の射程は、「電子ペーパー」およびそれを用いた電子書籍端末であるが、電子書籍のファイル形式の標準化と互換性確立の必要性を指摘し、「ファイル形式を統一しなければ、電子書籍を未来にわたる共通財産とすることが困難である」と述べる。ファイル形式の標準化と互換性の確保は、現時点では「夢物語」の域を出ないものであるが、今後課題として検討を行う価値はあろう。

 

3.3.2.5 電子式年遷宮

 

 一方で、ソフトウェアやハードウェア環境の陳腐化とは別に、コンテンツそのものを格納する物理媒体の劣化という問題を見逃すことはできない。現在の電子媒体のデータ保持期間は20~30年と言われており、つまりはほぼ1世代ごとにデータを新たな媒体へと移し替える必要がある。今後、超長期保存にも耐えうる媒体が出現してくる可能性はあるが、どのような媒体であるにしても、完全で欠落のない保存が可能かどうかは、実際に時がたつまで保証できない。従って、かなりの期間、媒体変換を繰り返すことは必須であって、現状の技術での媒体変換だけでなく、その次の世代の媒体変換も見据えた保存体制が必要だろう。100年以内(媒体変換回数が3~4回程度)ならば、図書館の制度として媒体変換が保証できるかもしれないが、千年単位の保存と言うことになると、社会体制や図書館という組織の変化そのものが予想できず、制度だけでは無理がある。たとえば保存資料そのものにマイグレーションを要求するような機能、あるいはデータそのものが新たな居場所をもとめて自己複製によるマイグレーションを繰り返すような機能が必要なのではないか。もちろん、千年単位ではコンピュータの技術はどのような発展を遂げるか全く想像もつかず、マイグレーションも相当に様相のかわったものとなることが予想される。荒唐無稽なようにも思われるかもしれないが、千年という単位での保存を考えることは今までの図書館の役割を考えると当然に必要な行為である。

実は内容物の劣化を防ぐために、容器をあらたなものに移し替えるという行為は日本では長く行われてきた。神社の式年遷宮である。たとえば、伊勢神宮は20年ごとに本殿を建て替えるという行為を通じて、木材の劣化から神社そのものを守ってきた。それが持統天皇時代(690年)以来1,200年以上にわたって営々と営まれてきたことを考えると、デジタルデータの式年遷宮も条件さえ整えれば充分に可能ではないかと思われる。いずれにしても文化活動には千年単位の超長期的視点が必要と思われる。

 

注

(1) 邦訳は『図書館ハンドブック』第6版から引用した。
日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編. 図書館ハンドブック. 第6版, 日本図書館協会, 2005, p.63.

(2) 国立国会図書館関西館事業部電子図書館課. インターネット情報の収集・保存に関する実験事業の終了と今後の取り組みについて. 国立国会図書館月報. 2006, (546), p.10-14.

(3) 廣瀬信己. Web情報のデジタル・アーカイビング:WARPを中心に. 情報管理. 2005, 47(11), p.721-732.

(4) “電子情報の長期的な保存と利用”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation.html [199], (参照 2009-02-16).

(5) “電子情報の長期的な保存と利用”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation_02.html [200], (参照 2009-02-16).

(6) 国立国会図書館. パッケージ系電子出版物の長期的な再生可能性について. 2006, 71p.
http://current.ndl.go.jp/files/report/no6/lis_rr_06.pdf [201], (参照 2009-02-16).

(7) 国立国会図書館. パッケージ系電子出版物の長期的な再生可能性について. 2006, p.8.
http://current.ndl.go.jp/files/report/no6/lis_rr_06.pdf [201], (参照 2009-02-16).

(8) 国立国会図書館. パッケージ系電子出版物の長期的な再生可能性について. 2006, p.13.
http://current.ndl.go.jp/files/report/no6/lis_rr_06.pdf [201], (参照 2009-02-16).

(9) 国立国会図書館. パッケージ系電子出版物の長期的な再生可能性について. 2006, p.57.
http://current.ndl.go.jp/files/report/no6/lis_rr_06.pdf [201], (参照 2009-02-16).

(10) OXFORD JOOURNALS. “Perpetual Access”. Oxford University Press.
http://www.oxfordjournalsorg/for_librarians/perpetual_access.html [202], (accessed 2009-01-10).

(11) 後藤敏行. 動向レビュー:電子ジャーナルのアーカイビング:海外の代表的事例から講読契約に与える影響まで. カレントアウェアネス. 2006, (288), p.15-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1597 [203], (参照 2009-01-10).

(12) “e-Depot and digital preservation”. Koninklijke Bibliotheek.
http://www.kb.nl/dnp/e-depot/e-depot-en.html [204], (accessed 2009-1-10).

(13) 後藤敏行. 電子ジャーナルのアーカイビングの現状:E-Journal Archiving Metes and Boundsを中心に. カレントアウェアネス, 2007, (294), p.16-19.
http;//current.ndl.go.jp/ca1645, (参照 2009-01-10).

(14) “What is LOCKSS Program”. LOCKSS.
http://www.lockss.org/lockss/Home [205], (accessed 2009-01-10)

(15) Waters, Donald J. “ARL Endorses Action to Preserve E-Journals” ARL Bimonthly Report, 2005, (243), p.18-19.
http://www.arl.org/bm~doc/arlbr243.pdf [206], (accessed 2009-02-18).

(16) Kenny, Anne R. et al. E-Journal Archiving Metes and Bounds: A Survey of the Landscape. Council on Library and Information Resources, 2006.
http://www.clir.org/pubs/reports/pub138/pub138.pdf [207], (accessed 2009-1-10).

(17) 平成16年度 拡大する電子ペーパー市場と機械産業の取り組みについての動向調査研究報告書. 日本機械工業連合会, ビジネス機械・情報システム産業協会, 2005, p.79-82.
http://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/pdf/2005/16sentan_04.pdf [208], (参照 2009-02-16).

図書館調査研究リポート [4]
資料保存 [197]
電子ジャーナル [209]
電子情報保存 [194]
電子書籍 [90]
著作権 [210]
日本 [9]
ARL(北米研究図書館協会) [211]
国立国会図書館 [32]
KB(オランダ王立図書館) [212]

3.3.3 まとめに代えて

 PDF版はこちら [213]

 現在の電子書籍の発行者の多くは、その長期保存について、その必要性も重要性もあまり理解されていないように思われる。電子媒体は紙媒体の本よりさらに散逸・滅失する危険性が高いのにも関わらず、発行者にそれが永続的価値のあるものであるという認識が薄い。図書館員はその保存の重要性に気がついているものの、紙のようにとにかく書庫という場所をさえ用意すれば保存できるものではなく、有効な対策はとられていない。媒体変換や長期保存の体制の確立などの問題点はまだ、充分に認識されているとはいえない。

 全般に、本調査にあっては保存という観点での質問がごく少なく、定量的な分析は困難である。本調査自体「現状把握」が主であり、過去の集積や未来への伝達といったことがあまり意識されていない。これは電子書籍の蓄積がまだ始まったばかりであり、文化的資産としての認識がまだ市民や研究者自身にも薄いことに起因すると思われる。

 すべての文化資産は、それが生まれたときから保存を考えておかねばただちに散逸してしまう。本調査が、電子書籍の保存に関して、注意を喚起するものであることを望む。(中西秀彦)

 

  • 参照(4928)
図書館調査研究リポート [4]
電子情報保存 [194]
電子書籍 [90]
日本 [9]

3.3.4 国会図書館におけるパッケージ系電子出版物の法定納本

  • 参照(9787)

 PDF版はこちら [214]

 

3.3.4.1 はじめに

 

 2008(平成20)年は、1948(昭和23)年の国立国会図書館(以下、NDL)創立から60周年に当たる年であった。そして、国立国会図書館法(昭和23年法律第5号)に基づくわが国の納本制度発足から60年が経過した。

 これまでNDLは、国内で刊行される出版物について、国政審議等の利用や国民共有の文化的財産の保存を目的として、この納本制度の安定的、実効的な運用を図ることにより、網羅的な収集に努めてきた。納本制度60周年を記念し、1948年の納本受付を実際に開始した日である5月25日を「納本制度の日」と定めて各種の広報活動を行うなど、納本制度の普及に積極的に取り組んでいる。

 さて、納本制度の目的に鑑みると、情報通信技術の発達に伴う出版物の変化に的確に対応して、納本制度の対象となる出版物の範囲を定めていく必要があるが、納本制度発足当初からしばらくは、紙媒体による出版物が専らの中心であった。その後1980年頃からの、いわゆる電子出版の導入と広がりに相まって、CD-ROMを始めとする新たな媒体が出現、普及し、また特に1990年代後半からは、パソコンの普及に伴ってインターネットの普及も大きく伸び、膨大な情報量のコンテンツを有するインターネット情報はもとより、電子ジャーナルやオンラインデータベースなど、ネットワークを通じて提供される様々な電子出版物が普及するに至っている。本報告書が調査対象としている電子書籍もその1つであり、書籍のデジタルデータを、インターネットを通じて、パソコンや携帯情報端末(PDA)、携帯電話などでアクセス可能にしているが、近年は特に「ケータイコミック」、つまり携帯電話向け電子コミックのマーケット拡大が顕著である。

 出版・情報流通に係る社会的情勢の変化が著しいなか、NDLはどのように対処してきたか。その大きな足跡として挙げられるのが、1999(平成11)年2月の納本制度調査会答申であり、これを踏まえた翌2000(平成12)年の国立国会図書館法の一部改正である。

 

3.3.4.2 納本制度調査会答申(1999年2月)の概要

 

 電子出版物の増大に対応するため、NDLでは1997年から、館長の諮問機関である納本制度調査会、1999年4月以降は同調査会を改組した納本制度審議会において、調査審議を進めてきた。

 1999年2月、納本制度調査会答申「21世紀を展望した我が国の納本制度の在り方-電子出版物を中心に-」が館長に提出された(1)。本答申の概要は下記のとおりである。

  • (1) CD-ROM等の有形の媒体に情報を固定した「パッケージ系電子出版物」について、従来の紙媒体等による出版物と同様に納本の対象とすること。
  • (2) ネットワークを通じて情報を送受信する「ネットワーク系電子出版物」については、当分の間、納本の対象外として、契約により選択的に収集すること。
  • (3) 著作権者等・発行者と協議の上、電子出版物の利用環境の整備を図ること。

 つまり、様々な電子出版物をその特性により「パッケージ系電子出版物」(以下、「パッケージ系」と略す。)と「ネットワーク系電子出版物」(以下、「ネットワーク系」と略す。)とに定義、区分し、パッケージ系は紙媒体等の出版物と同様に納本制度に組み入れることが適当であるとされ、ネットワーク系はその時点においては納入対象とせず、NDLが契約により積極的な選択収集に努めることを提言しているのである。

 なお、上記(2)に関して、NDLはその後の電子図書館事業の一環として、契約によるネットワーク系の収集と保存、提供に取り組んできている。さらに2004(平成16)年12月には納本制度審議会答申「ネットワーク系電子出版物の収集に関する制度の在り方について」が提出され、そこでは、ネットワーク系を制度的に収集しようとする場合、後述する「納本制度の根幹的要素」を備えることは困難であり、また納本制度には置かれていない著作権の制限が必要不可欠となることから、ネットワーク系を納本制度に組み入れることは困難であるとの結論が出され、別の新しい制度によって収集することの可能性についての検討がなされている。また、上記(3)に関して、NDLに納入されたパッケージ系は著作権法の規定に従って利用に供されることとなるが、紙媒体等の出版物とは異なり、LAN等によるネットワーク利用が可能であるなどの特性を有することから、1999年2月の答申は、NDLに対し、著作権者等の権利保護、発行者が被る経済的不利益にも十分留意し、同時に利用者の利便性についても考慮することが必要であると言及しており、その後の関係団体との協議による合意内容に基づき、利用提供を開始した経緯がある。本稿では以下、上記(1)のパッケージ系の収集に焦点を当てて取り上げる。

 

3.3.4.3 パッケージ系電子出版物の収集と「納本制度の根幹的要素」

 

 1999年2月の納本制度調査会答申においては、電子出版物の納入をめぐる法律上の諸問題の検討に際し、現行納本制度の根幹をなす本質的要素と考えられる次の3点について十分留意する必要があるとしている。

  • (1) 納入における到達義務の履行(納入義務者は、その出版物の所有権を館に移転するだけでなく、当該出版物を館に実際に到達させる義務をも負うこと。)
  • (2) 網羅性の維持(内容による選別を行うことなく、納入の対象となる範疇に属する出版物すべてに納入義務を課することにより、国内出版物を漏れなく収集することができること。)
  • (3) 納入義務者の特定(納入義務者が、出版物を実際に製作し、その費用を負担している発行者であること。)

 これらの諸点について、パッケージ系の収集にフォーカスすると、次のように対応する。

  • (1)’ パッケージ系にあっては、著作者等及び発行者の自由意思により、当初から内容が何らかの媒体に「固定」された形で発行される。従って、到達義務との関係でいえば、媒体の質こそ違うものの、従来の紙媒体等による出版物と同様に取り扱うことが可能である。
  • (2)’ パッケージ系については、当該出版物が「物」として流通する必要があるために、発行に至るまでの過程で選別がなされ、発行点数がある程度絞られることになると考えられることから、従来の紙媒体等による出版物と同様に網羅的な収集を予定することが十分可能である。
  • (3)’ パッケージ系は、「物」としての製品流通が前提とされており、発行者が当該出版物に要する費用を負担している場合が多いと考えられることから、代償金との関係でも、納入義務者を発行者とする現行制度の維持が可能と考えられる。

 なお、ネットワーク系については、上記の3点を満たすことはできないため、現時点においてはこれらを納入の対象とはせず、契約により積極的な選択収集に努めることとされた。

 

3.3.4.4 パッケージ系電子出版物の収集に関する他の納本制度審議会答申

 

 1999年7月には、答申「パッケージ系電子出版物の納入に係る代償金の額について」が提出された。納入出版物代償金は、国立国会図書館法第25条第3項の規定に基づき、いわゆる民間出版物の納入者に対し、「当該出版物の出版及び納入に通常要すべき費用に相当する金額」が交付される。パッケージ系の納入に対する損失補償としての代償金の額は、パッケージ系の生産に要する費用(利潤を除いた総費用額を製作部数で除した額に相当する金額)に対する補償の考え方が採られ、これは、紙媒体による出版物の場合と同様の考え方である。

 また、2000(平成12)年8月には、答申「納入すべきパッケージ系電子出版物の「最良版」について」が提出された。「最良版」とは、長期保存及び利用という納本の目的に最も適するものを指す。国立国会図書館法第25条第1項により、民間出版物の発行者に対して「最良版」の納入を義務付ける規定があり、様々な版により発行されることが多いパッケージ系の「最良版」について、明確な決定基準を設ける必要があったためである。

 

3.3.4.5 2000年の国立国会図書館法一部改正

 

 2000年4月7日、国立国会図書館法の一部を改正する法律(平成12年法律第37号)が制定公布され(同年10月1日施行)、新たにパッケージ系がNDLへの納入義務の対象となった。

 この改正法において、パッケージ系は、「電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつては認識することができない方法により文字、映像、音又はプログラムを記録した物」(第24条第1項第9号)として規定されている。旧法第24条第1項第7号に規定されていた「録音盤その他音を機械的に複製する用に供する機器に写調した著作物」については、改正法の第24条第1項第8号に規定される蓄音機用レコードを除き、この第24条第1項第9号の規定に含まれることとなる。

 なお、音楽CDや磁気テープ(カセット・テープ等)について、NDLは、旧法第24条第1項第7号に規定されたレコード類の延長との解釈で納入対象としてきたところであったが、この法改正により、パッケージ系の一種として取り扱うこととなった。

 

3.3.4.6 パッケージ系電子出版物の収集実績等

 

 2000年10月の改正法施行後、2008(平成20)年9月末までの8年間における、パッケージ系の受入点数は約225,000点に上る。ただしこれは、図書館資料受入・所蔵統計の上での数値であり、すなわち物品としての資料管理上、パッケージ系の種類品目は、「非図書資料」のカテゴリーのうち、「映像資料」や「録音資料」、「機械可読資料」に分類されており、その総計である。図書や逐次刊行物本体の付属物としてのパッケージ系の場合には、ここには分類されない。

 2007(平成19)年度の受入・所蔵状況は表1のとおりである。

 

  表1. 図書館資料受入・所蔵状況(2007年度)

表1. 図書館資料受入・所蔵状況(2007年度)

 

 また、同じく2007年度の納入出版物代償金交付状況は表2のとおりである。図書とは異なり、取次経由の納入は少なく、従って納入出版物代償金は発行者へ直接交付されるケースがほとんどである。

 

  表2. 納入出版物代償金交付状況(2007年度)

表2. 納入出版物代償金交付状況(2007年度)

 

 なお、国立国会図書館分類表(NDLC)における分類上は、「YH」(電子資料・機械可読資料)、「YL」(録音テープ・映像資料)、「YM」(楽譜・音盤)、「YU」(組み合わせ資料)の一部などがパッケージ系に該当する。

 東京本館では、パッケージ系は主として電子資料室及び音楽・映像資料室において利用に供されており、新館書庫内に保管している。

 パッケージ系の利用には、データそのものを記録した媒体の保存とともに、再生環境(アプリケーション・ソフトウェア、OS、再生用機器など)を維持していく必要がある。しかしその再生環境は多種多様であり、規格の変化も早いので、長期的な再生可能性の確保が大きな課題となっている。

 

3.3.4.7 2007年度実施の納入率調査結果

 

 2007年度にNDLでは、国内出版物の納入率を推定するとともに、納入促進のための対応策の検討に資することを目的として、納入率調査を実施した。調査対象は、2005(平成17)年中に刊行された出版物である。

 音楽・映像資料については、音楽出版社が提供する国内最大の音楽・映像資料のデータベース・ソフト「HY-SFY(ハイ・スフィー)」を使用して、当館所蔵資料とマッチングさせるサンプル調査を行ったが、サンプルデータ数14,655に対して、その納入率は39.1%にとどまった。国内出版物全体の納入率が、販売ルート等に流通しているもので8割以上という調査結果からも、他の資料群に比較して音楽・映像資料の納入率の低さが浮き彫りになった。この納入率調査に先行して2006(平成18)年度に実施した調査(ハイ・スフィーのデータを元に当館所蔵の有無をチェックしたサンプル調査)においても、やはりほぼ同様の結果であった。

 音楽・映像資料の場合、例えば、いわゆるインディーズなどの多種多様な音楽資料をいかに納入していただくか、その流通経路の把握と、納本制度の普及にさらに積極的に取り組んでいく必要がある。

 

3.3.4.8 おわりに

 

 パッケージ系を納入対象とする制度改正について概観したが、1999年2月の納本制度調査会答申にも言及があるように、納本制度の実効性を確保し、円滑な利用を促進するためには、著作権者等、発行者、利用者各々の便益の均衡を図ることが重要である。パッケージ系、ネットワーク系を問わず、電子出版物の収集及び利用を考える時、とりわけ著作権者等及び発行者の理解と協力が不可欠となる。

 NDLは、納本制度の十全な運用に引き続き努めるとともに、デジタル情報社会における出版・情報流通の変化に的確に対応して、デジタル情報の収集と保存、利用提供の実現に尽力していきたい。(倉橋哲朗)

 

注

(1) 納本制度審議会における調査審議の経緯、答申・議事録等は、NDLホームページの「納本制度審議会」ページを参照のこと。
“納本制度審議会”. 国立国会図書館. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit_council_book.html [215], (参照 2009-02-19).

図書館調査研究リポート [4]
電子ジャーナル [209]
電子書籍 [90]
日本 [9]
国立図書館 [29]
国立国会図書館 [32]

4. まとめ

  • 参照(9798)

 

図書館調査研究リポート [4]

4.1 出版社系電子書籍の刊行実態

 PDF版はこちら [216]

 今回実施した、日本書籍出版協会および出版流通対策協議会加盟出版社へのアンケート調査「日本における電子書籍の流通・利用・保存に関する実態・意識調査」によって、電子書籍の刊行について次のような実態が明らかになった。

 

■電子書籍の刊行状況

 現在、何らかの電子書籍を刊行している出版社が27.1%、かつて刊行していたが現在は手がけていない出版社が1.2%、刊行していない出版社が71.8%と、刊行していない出版社の方が圧倒的に多い。そして電子書籍の刊行状況と出版社が扱っている書籍の分野には相関関係があまりなく、刊行規模が影響していると考えられる。

 つまり年間新刊図書刊行規模が大きな出版社ほど電子書籍を刊行している。

 

■電子書籍の刊行実績

 電子書籍を刊行している、あるいは過去に刊行していた出版社では、電子書籍で提供しているメディアは「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」63.9%、「PC向け」40.3%、「携帯電話向け」31.9%、「電子書籍専用端末(Σブック、LIBRIeなど)」19.4%、「ゲーム機(DS, PSP,)iPodなど」9.7%、「その他」12.5%となっている。

 すなわち現時点ではパッケージ系電子出版物がオンライン系電子書籍を刊行実績において上回っている。

 

■電子書籍の提供開始年

 出版社の電子書籍の提供開始年については、「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」では「1999年以前」が最も多く、「2005年以降」に提供を開始した出版社は少ない。「携帯電話向け」では「2000年~2004年」が最も多く、2008年から提供を開始している出版社も存在する。「電子書籍専用端末」では「2000年~2004年」に提供を開始した出版社が多いが、これ以降新たに提供を開始した出版社はない。「ゲーム機、iPodなど」では2008年になってから提供を開始した出版社が最も多くなっている。

 これらのことから電子書籍を閲覧するための端末は、従来のパッケージ系電子出版物や電子書籍専用端末から、携帯電話、あるいはゲーム機、iPodなどのデバイスに移行している様子が窺える。またPC向けの提供開始年は「1990年以前」、「2000年~2004年」「2005年~2007年」がほぼ均等になっており、2008年から提供を開始した出版社もある。

 

■2007年(1月~12月)追加提供タイトル数

 出版社が2007年1月~12月に追加提供した電子書籍のタイトル数は「電子書籍専用端末」が平均追加提供タイトル数は32.5タイトルと最も多く、次いで「携帯電話向け」が平均26.1タイトルとなっている。

 

■現在提供中の総タイトル数(概数)

 出版社が現在提供中の電子書籍の総タイトル数では「電子書籍専用端末」が平均324.4タイトルと最も多く、次いで「携帯電話向け」が平均189タイトル、「PC向け」平均170.4タイトルとなっている。

 つまり刊行実績と異なり、オンライン系電子書籍がパッケージ系電子書籍を現在提供点数では上回っている。

 

■力を入れているメディア

 出版社が力をいれている電子書籍のメディアのうち第1位と第2位のメディアを一本化して、集計した結果をまとめると「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」が最も多く、次いで「PC向け」、「携帯電話向け」の順である。

 

■電子書籍サービスを手がけることになったきっかけ

 出版社が電子書籍を手がけることになったきっかけは、「社内の企画」(43.1%)が最も多く、次いで「社外の企画、または社外からの提案」(29.9%)となっている。

 

■主たるコンテンツ分野

 出版社が提供する電子書籍のコンテンツ分野は「その他」を除いて「ノンフィクション」が最も多く(31.3%)、次いで「フィクション」(9.0%)、「コミック」(6.3%)、「写真集」(1.4%)の順となっている。

 

■コンテンツの元の形態とコンテンツの電子化を担当している業種

 出版社が提供する電子書籍のコンテンツの元の形態と力をいれているメディアとの関係を見ると、「携帯電話向け」と「ゲーム機、iPodなど」では、「出版用に作成した電算組版/DTPデータ」が最も多いが、「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」や「PC向け」では、「紙媒体からのデジタル化」が最も多くなっており、各メディアにより、コンテンツの元の形態に違いが見られる。

 コンテンツの元の形態とコンテンツの電子化を担当している業種との関係を見ると、「ベンダー」の場合、「紙媒体からのデジタル化」が「出版用に作成した電算組版/DTPデータ」よりもかなり割合が高くなっている。一方で、「印刷・出版」、「自社」でコンテンツの電子化を行っている場合は、「出版用に作成した電算組版データ/DTPデータ」の割合が「紙媒体からのデジタル化」よりも多くなっている。

 

■エンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマット

 出版社がエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマットについては、「PDF形式」が最も多く(26.4%)、次いで「テキスト形式」(18.1%)、「HTML形式」(15.3%)、「XMDF形式」(13.2%)、「.BOOK形式」(4.9%)、「コミックサーフィン形式」(4.9%)、「FLASH形式」(3.5%)、「携帯書房形式」(1.4%)の順となっている。

 なお「CD-ROM・DVD-ROMなどのパッケージ系電子出版物」や「PC向け」では「PDF形式」の割合が最も多いが、「携帯電話向け」や「電子書籍専用端末」では「XMDF形式」の割合が最も多くなっており、メディアによって採用されているフォーマットに違いがあることが分かる。

 さらにエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマットとコンテンツの電子化を担当している業種との関係を見ると、「印刷・出版」や「ベンダー」では「PDF形式」が最も割合が多くなっているが、「自社」の場合、「XMDF形式」が最も割合が多くなっているといった違いが見られる。

 

■エンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツの保護方法

 出版社がエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツの保護方法では、「複製の限定や禁止の設定」が最も多く(44.4%)、次いで「利用方法・利用期限の限定」(22.9%)、「電子透かしなどの埋め込み」(6.9%)となっているが、「特に対策を施していない」という回答も11.6%となっており、1割程度の出版社ではコンテンツ保護の対策が講じられていないことが分かる。

 

■コンテンツの有償/無償

 出版社が提供する電子書籍のコンテンツの提供について「有償」が66.0%、「無償」が5.6%と圧倒的に「有償」が多い。

 

■ビジネスモデルとしての電子書籍の見通し

 ビジネスモデルとしての電子書籍の現時点における見通しについては、「積極的な展開を図りたい」が最も多く(34.7%)、「静観している」(28.5%)、「懐疑的に感じている」(0.7%)、「わからない」(5.6%)となっている。

 なお「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」や「電子書籍専用端末」では「静観している」との回答の割合が「積極的な展開を図りたい」とする割合よりも多い、もしくはほぼ同等といった結果になっているが、「PC向け」や「携帯電話向け」では逆に「積極的な展開を図りたい」との回答の割合が、「静観している」の割合をかなり上回る結果となり、メディアにより電子書籍の見通しに差があることが窺える。

 

■電子書籍への関心状況

 電子書籍を刊行していない出版社は、「刊行を検討していない」(64.5%)と電子書籍分野への進出には慎重な姿勢となっている。

 

■書籍の一部分を電子的に検索、閲覧できるサービスへの参加状況

 書籍のテキスト検索への参加状況は、「参加していない」(60.0%)が最も多く、次いでアマゾン「なか見!検索」(27.1%)、グーグル「ブック検索」(8.6%)、その他のサービス(7.1%)と続くが、電子書籍を刊行している出版社の方が刊行していない出版社より参加率が高い傾向が見られる。

 

■電子書籍の普及と紙媒体への影響

 電子書籍が普及するにつれ、紙媒体書籍が売れなくなると考える出版社は、「その通りだと思う」(10.2%)、「やや思う」(37.6%)を合わせて47.8%と約半数を占め、「あまり思わない」(33.7%)、「全く思わない」(9.8%)の43.5%をやや上回っている。

 

  • 参照(9080)
図書館調査研究リポート [4]
出版 [112]
電子書籍 [90]
日本 [9]

4.2 把握することが困難な非出版社系コンテンツの電子書籍サイトの実態

 PDF版はこちら [217]

 国内で提供されている電子書籍のコンテンツは出版社系だけではない。例えばインタビュー調査を行った「魔法のiらんど」が運営する「魔法の図書館」のように無料でコンテンツを提供しているサイトが存在する。

 

■魔法のiらんど

 「魔法のiらんど」は、携帯電話やPCから無料でホームページが作成できるサービスであり、このサービスによってブログ、掲示板、プロフィール、そしてケータイ小説が生まれるきっかけとなったBOOK(小説執筆機能)が提供される。

 

■魔法の図書館

 「魔法のiらんど」のサービスによって作られたケータイ小説の作品は「魔法の図書館」で読むことが可能で、今一番読まれているケータイ小説が分かる「ケータイ小説ランキング」、ケータイ小説を探せる「BOOKナビ」、話題の作品について語ることができる各種「掲示板」、自分の作品をアピールできる「Myケータイ小説宣伝板」などがあり、作家であるユーザーの活動の支援と読者であるユーザーの楽しみ方を提供しているのである。

 「魔法の図書館」には100万タイトルのケータイ小説があるというが、これは「BOOK」(小説執筆機能)に登録したID数が根拠となっている。「BOOKナビ」に登録され、検索可能になっている作品数は約10万タイトルである。

 「魔法の図書館」にアップロードされているケータイ小説作品の「版」と「点数」の概念は複雑である。なぜなら作品は作家自身が運営管理するホームページ上で公開されているため、作家自身がいつでも作品を書き始めたり、また書き直したりしたりすることが可能である。作品がすべて完結してから公開するケース、また途中段階のものでも随時公開するケースがあり、また一つの作品を公開し、それにまつわるサイドストーリーや続編を作成したり、また急に中止して消去したりするケースがある。

 

■魔法の図書館Plus

 2006年10月、NTTドコモのiモード・FOMA向けの総合携帯電子書籍サイトとして「魔法の図書館plus」が開設され、書籍化されたケータイ小説を中心に小説やコミックを電子書籍として有料配信(月額315円と月額525円の2種類のメニュー)を行っている。「魔法の図書館」と「魔法の図書館Plus」では利用者があまり重複していないという。

 出版社が介在しないこのような出版コンテンツの登場は、デジタル時代における新しいコンテンツ流通のあり方を象徴するものであるが、特に「魔法の図書館」のケータイ小説は電子書籍の統計にはカウントされず、実態把握が困難な領域である。

 

  • 参照(6744)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

4.3 デバイスと電子書籍の流通

PDF版はこちら [218]

■携帯電話

 電子書籍の流通については、携帯電話、PC、モバイル情報端末という主要な媒体がある。

 携帯電話のコンテンツ配信に関しては携帯電話キャリアが公認する「公式サイト」があり、キャリアが定める基準にしたがってコンテンツの流通と課金が行われる仕組みとなっているこの公式サイトからの提供が、携帯電話向け電子書籍の主流である。携帯電話キャリアとしては、エヌ・ティ・ティ・ドコモ(DoCoMo)、KDDI(au)、ソフトバンクモバイル(SoftBank)、ウィルコム(WILLCOM)、 イー・モバイル(EMOBILE)の5社が、総務省の認可を受けた事業者である。萩野によると、2008年12月現在の電子書籍の公式サイト数は、600サイト以上になっている。

 

■PC

 PC向けの電子書籍サイトについて正確な数字はない。『出版年鑑』(出版ニュース社)や『電子書籍ビジネス調査報告書』(インプレスR&D)では主要な電子書籍販売サイトのタイトル数をカウントしているが、ここには収録されていない電子書籍サイトと電子書籍群が多数存在することに留意すべきである。また、電子書籍を閲覧する方式としてこれまで主流であったダウンロード型だけでなく、インターネット技術の進展によってどこでも接続できる環境が徐々に浸透し、コンテンツをダウンロードせずにインターネットへの常時接続を前提とした非ダウンロード型(期限付き閲覧許諾など)の電子書籍の読書スタイルが出現した。コンテンツ配信側のサーバに自分の本棚をつくり、購入した電子書籍を納め、どこからでもID/パスワードでアクセスすることが可能である。この場合、ダウンロードしないためコンテンツの不正コピー等を防止するDRM(Digital Rights Management)対応の必要はない。

 

■読書専用端末

 日本において導入された読書専用端末はこれまでのところすべて成功しなかったといってよい。2004年に「電子書籍元年」とまでいわれその普及が電子書籍にコンテンツを提供する出版社からも期待された「Σブック」「LIBRIe」はすでに生産を完了している。しかし、2007年11月、米国・アマゾンが発売した「Kindle」は3Gデータ通信機能を内蔵した点でこれまでの読書専用端末と異なっており、PCを介することなく欲しい本をダウンロードできるために注目を集めている。しかも提供されるコンテンツは発売当初で9万タイトル、発売から約1年で19.5万タイトルになっており、しかもニューヨークタイムズで紹介するベストセラーの90%が確保されているという。ただ日本での発売時期は現時点では未定である。

 

■モバイル情報端末

 モバイル情報端末とは、iPhoneのようなスマートフォンやニンテンドーDS、PSP(プレイステーション・ポータブル)などの携帯型ゲーム機を指し、これらの読書専用端末ではない汎用型の機器を使って電子書籍を読むことができる。そして、もっとも積極的に電子書籍コンテンツ供給に関わっているのは大手コミック出版社である。

 

  • 参照(5950)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

4.4 増加する電子書籍の利用

  • 参照(8579)

 PDF版はこちら [219]

 

■個人利用

 電子書籍の個人利用の悉皆的なデータはない。『電子書籍ビジネス調査報告書 2008』では、「ケータイを用いてインターネットを行っている11歳以上の個人」を対象に「ケータイ電子書籍」について調査を行っている。(2008年6月13日~7月2日調査、利用率調査11,632サンプル、利用者実態調査1,172サンプル)

 この調査によると、ケータイ電子書籍の認知度は91.9%に達し、ケータイ電子書籍の利用率は29.6%(2007年調査では21.7%)、有料コンテンツ購入は7.9%(同3.9%)であり、有料コンテンツ購入が伸びていることが分かる。また利用率では女性の10代で5割、20代で4割強、購入率は30代女性を中心に高い。購読されている電子書籍のジャンルは「コミック・マンガ」75.8%、「小説やライトノベル、ノンフィクションなどのテキスト系読み物」41.0%となっている。電子書籍に対する不満点や要望では、携帯電話端末や通信環境といった技術的な面への不満が上位を占め、「タイトル数が少ない」といったコンテンツやサービスに対する不満も多いことが分かる。(『電子書籍ビジネス調査報告書 2008』インプレスR&D、2008、p.192)

毎日新聞社の「第61回読書世論調査」(2007年6月調査)によると、「ケータイ小説」を実際に読んだ媒体について10代後半女性では「携帯電話」51%、「書籍」49%と、本ではなく携帯電話で読む人の方が多いという逆転現象が起こっている。

毎日新聞社と全国学校図書館協議会の「第54回学校読書調査」(2008年6月調査)では、「ケータイ小説」を実際に読んだ媒体について、「携帯電話」が小学生5%、中学生8%、高校生33%であるのに対して、「出版された本」が小学生10%、中学生28%、高校生13%、と高校生になると本よりも携帯電話で読む比率が高まってきていることが明らかになった。

 

■機関利用

一方、電子書籍の機関利用では、2007年11月からスタートした東京都千代田区立図書館における電子書籍貸出しサービス、また大学図書館では同じく2007年11月から紀伊国屋書店とOCLCによる学術系電子書籍サービス「NetLibrary」に和書コンテンツが搭載されるなど、新しい展開がある。今後この分野での利用実態が明らかになっていくことと思われる。

 

■国立国会図書館職員の利用意識

 国立国会図書館職員を対象とした「電子書籍の利用の実態・意識に関するアンケート調査」(2008年10月~11月5日実施、回答者373名)の結果では、「過去1年間に業務以外に電子書籍を利用したことがある」という回答が約34%、利用デバイスはPCが80.8%、利用ジャンルは「小説」や「学術書」が多いといった結果となっている。また「図書館と電子書籍との関わり」「電子書籍について感じていること」の自由記述では、図書館は関わりを持つべきとの意見が多いが、制度的な部分や技術的な課題等、クリアすべき課題を乗り越えることを条件としてあげる意見が多く見られた。

 

図書館調査研究リポート [4]
図書館員 [196]
電子書籍 [90]
日本 [9]
国立国会図書館 [32]

4.5 対策が必要な電子書籍の保存

PDF版はこちら [220]

 

■印刷資料だけの保存では不十分

現在では紙の資料だけでは、時代の実相を知ることはできなくなっていることは明らかである。今日の図書館は印刷資料だけではなく、膨大な電子資料の収集を視野に入れる必要がある。

 

■CD-ROM等パッケージ系電子出版物の保存

 紙媒体の出版物の付属物としてのフロッピーディスクやCD-ROMなどや、電子媒体を主とするパッケージ系電子出版物の増加に伴い、2000年10月に国立国会図書館法の一部改正法によって従来の紙媒体などの出版物のほかに国内で発行されたパッケージ系電子出版物についても、納本制度により網羅的に収集することとなった。

 

■電子書籍の保存の現状

 本調査による出版社、コンテンツプロバイダー、携帯電話キャリアに対するインタビュー調査ならびにアンケート調査では、電子書籍の保存について体系的に現状把握するまでに至らなかった。出版社アンケートにおける保存についての設問に対しては、「外部保存」が69.4%、「内部保存」が26.4%と7割近くが外部保存を行っていることが判明しただけである。図書館情報学における資料保存の概念とは異なり、データの滅失や毀損に対しての安全性確保としての保存を想定していると考えられる。

 また「魔法のiらんど」のように、「どの時点で作品が完全に完結し、保存するべきかの判断は、作家であるユーザに一任している。」と、保存を行っていないと回答したコンテンツプロバイダーもある。

 

■電子書籍の保存の必要性と出版社への配慮

 電子媒体は網羅的に収集・保存しなければ紙媒体の資料よりもさらに散逸・滅失の危険性が高い。だが現在の電子書籍の発行者はその長期保存については関心が低いように思われる。図書館員は保存の重要性に気がついているものの、有効な対策はとられていない。電子媒体は網羅的に収集・保存しなければ紙媒体の資料よりもさらに散逸・滅失の危険性が高い。

 PCや読書専用端末など媒体そのものが違っていることがあり、PCだけをとってもデータフォーマットが統一されていない。だが媒体変換や長期保存の体制の確立などの問題点はまだ、充分に認識されているとはいえない。保存に対する注意の喚起が必要である。

 国立国会図書館職員のアンケート調査結果でも言及されているが、利用に関しては出版社の反発が強いことがすでに明らかになっており、法の整備も含め、著作権者や出版社に配慮した慎重な対応が求められる。

 

  • 参照(8824)
図書館調査研究リポート [4]
資料保存 [197]
電子情報保存 [194]
電子書籍 [90]
日本 [9]

4.6 研究調査を終えて

 PDF版はこちら [221]

 「電子書籍」の概念はあいまいである。したがって本研究調査にあたってはその産業的実態の把握に努めることとし、インタビュー調査、アンケート調査に重点を置いた。文献を中心とした研究とは異なり、実態にもとづいた日本における電子書籍の流通・利用・保存の現状を多面的に分析・検討しようとしたのである。

 今回の調査を通じて明らかにできた事項は、以下の3点である。

  • (1)電子書籍の流通に関してはコンテンツプロバイダーや携帯電話キャリアが新たなプレーヤーとして登場し、デジタル時代の出版メディアにおいては従来の取次・書店に替わって大きな影響力を持つようになっている。
  • (2)電子書籍と紙の書籍の間には二者択一的な関係だけではなく、相互補完的な関係を構築することが可能であり、その方向での様々な模索が始まっている。
  • (3)読書デバイスについては機器の短命さと機器の多様化という状況があり、出版コンテンツの流通もその影響を受けている。

 電子書籍については出版社、コンテンツプロバイダー、携帯電話キャリアという紙の本とは違うステークホルダーの存在、PC、PDA(携帯情報端末)、読書専用端末(Σブック、LIBRIe)、携帯電話、スマートフォン(iPhone)、携帯型ゲーム機(ニンテンドーDS、PSP)などのデバイスの多様性、文字もの、コミック、写真集といったコンテンツ分野の特性、有償か無償か、ダウンロードか非ダウンロードかといったビジネスモデルの相違など、さまざまな位相が複雑に絡み合い、その解明は容易ではない。

 また本研究でも取り上げた、電子書籍の個人利用の悉皆的データの欠如や、電子書籍の長期保存に対する意識の合意など、今後の課題として残されている。また海外における電子書籍の流通・利用・保存の事例についても、今後調査および比較、検討が必要になるであろう。

 以下私見であるが、今回の調査対象の周辺に存在する、今後検討が必要になると思われる事項である。

  • 1. コンテンツの生産、流通および著作者の権益の保護、調整に対する出版社の役割。
  • 2. 出版社がおこなう、編集や校閲を通した信頼度の高い出版コンテンツ生産に対する、社会的な役割とその保護。
  • 3. 著作をキーにした書誌データの整備。とりわけ電子書籍に対するISBN(国際標準図書番号)、あるいは桁数を固定しない新たなコードの付与や、冊子版とのリンク。
  • 4. 紙の書籍や電子書籍を販売することを阻害しない、むしろ普及するようなしくみをもたらす、図書館での電子書籍の利用。
  • 5. ボーン・デジタルの出版コンテンツに対する、利用者ナビゲーション環境の整備。
  • 6. 電子書籍の長期的保存体制の構築に向けた研究。
  • 7. 海外における電子書籍の流通インフラの調査研究。

 本報告書を機にさらなる調査、分析、提言が行われることを望みたい。

 

 この研究調査を終えるにあたって、まずインタビュー調査、アンケート調査に応じていただいた出版社、コンテンツプロバイダー、携帯電話キャリア、調査報告書刊行社の方々に心から感謝申し上げたい。

 また本研究調査のために有益な情報や資料を収集・提供し、研究の方向性について共に議論を交わし、報告書の作成のために多大なご尽力をいただいた国立国会図書館関西館の村上浩介氏、上山卓也氏、堤恵氏と、財団法人関西情報・産業活性化センターの山岸隆男氏、牧野尚弘氏にお礼申し上げたい。

 本報告書が、読者・利用者のために出版社、コンテンツプロバイダー、携帯電話キャリアと図書館が協力しあえる関係を構築していくひとつのきっかけになればと、心から願う次第である。(湯浅俊彦)

 

  • 参照(8460)
図書館調査研究リポート [4]
電子書籍 [90]
日本 [9]

No.10 子どもの情報行動に関する調査研究

  • 参照(114342)

 本調査研究は,今後の子どもたちへの図書館サービスのあり方,また近い将来の成人向け図書館サービスのあり方を考えるための基礎資料とするべく,堀川照代・島根県立大学短期大学部教授を中心とする研究会を組織して,実施した。
 本調査研究では,統計データをもとに,子どもの情報環境の現況を整理するとともに,青少年関連機関が実施した先行調査,図書館情報学・教育工学・教育学・心理学・社会学の各分野の先行研究をレビューし,子どもの情報環境を巡る論点を調査した。また,子どもの読書活動推進,情報リテラシー教育,有害コンテンツ対策の3トピックについて,近年の日本の政策動向をレビューした。さらに,これらを背景とした学校・図書館・博物館等の注目に値する動きも紹介している。

PDF版はこちら [222][約11MB]

図書館調査研究リポート [4]

はしがき

  • 参照(24219)

 わが国では,平成12(2000)年の「子ども読書年」や平成13(2001)年の「子どもの読書活動の推進に関する法律」(平成13年法律第154号)制定・施行などを契機に,子どもの読書に関する社会的な議論・取り組みが増加してきています。これらの議論・取り組みにおいて,公共図書館や学校図書館,また国立国会図書館国際子ども図書館が果たしている役割は,決して小さくはありません。

 しかしながら,これらの議論・取り組みの前提とすべき子どもたちの実態,とりわけ子どもたちがどのような読書環境にあり,どのように読書を行っているか,またテレビやゲーム,インターネットなど,読書以外の,時に読書を阻害するものとして批判される情報メディアにどのように接触しているのかに関しては,いくつかの調査研究が実施されてはいるものの,まだ十分に整理されているとは言いがたい状況です。今後の子どもたちへの図書館サービスのあり方,また近い将来の成人向け図書館サービスのあり方を考える上で,現在の子どもたちの情報行動に関する知見を整理しておくことは,大変有益であると考えられます。

 そこで国立国会図書館では,平成19年度の「図書館及び図書館情報学に関する調査研究」として,現在の子どもの情報行動に関し,図書館及び類縁機関,また図書館情報学及び関連する学問分野の先行研究・事例の調査・整理を行い,その成果を『図書館調査研究リポート』第10号として取りまとめました。

 調査は株式会社シィー・ディー・アイに委託しましたが,実施にあたっては,以下のメンバーによる研究会が担当しました。

主査: 堀川 照代 (島根県立大学短期大学部教授)
委員: 鈴木 佳苗 (筑波大学大学院図書館情報メディア研究科准教授)
     岩崎 れい (京都ノートルダム女子大学大学院人間文化研究科准教授)
     河西 由美子(玉川大学通信教育部・教育学部講師)
                  (以上敬称略,所属は調査実施時のもの)

 また報告書の執筆にあたっては,研究会にオブザーバーとして参加した当館職員(岸 美雪,堤 恵,村上 浩介)及び株式会社シィー・ディー・アイの研究員(岡本 一世)も,一部を担当いたしました。

 末筆ながら,本調査をご担当いただいた委員各位に,厚くお礼申し上げます。

平成20年6月

国立国会図書館関西館図書館協力課長
本吉 理彦

執筆者一覧

  • 参照(21839)

執筆者一覧

(※所属は調査実施時のもの)

  堀川 照代 (島根県立大学短期大学部教授)
    第1章、第4章1、第6章、第7章を担当

  鈴木 佳苗 (筑波大学大学院図書館情報メディア研究科准教授)
    第3章、第4章4、第5章4を担当

  岩崎 れい (京都ノートルダム女子大学大学院人間文化研究科准教授)
    第4章3、第5章2を担当

  河西 由美子(玉川大学通信教育部・教育学部講師)
    第4章2、第5章3を担当

  岡本 一世 (株式会社シィー・ディー・アイ主任研究員)
    第2章を担当

  岸  美雪 (国立国会図書館国際子ども図書館企画協力課主査)
    第4章6を担当

  村上 浩介 (国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係長)
    第5章1を担当

  堤   恵 (国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係員)
    第4章5を担当

概要

  • 参照(18431)

 わが国では,平成13(2001)年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」(法律第154号)が制定・施行されるなど,2000年ごろから学力低下問題とも関連して,子どもの読書に対する社会的な関心が高まっている。現在の子どもたちをとりまく情報メディア環境,子どもたちの読書行動,テレビやインターネットなど活字以外の情報メディアとの接触状況とその影響に関しては,多様な観点から相当数の調査研究が行われており,各専門領域において一定の成果が蓄積されつつあると思われるが,これらの研究成果を包括的に概観する取り組みは,わが国においてはこれまで積極的に行われてこなかった。

 以上のような問題意識に基づき,本研究は,子どもの情報メディア利用に関する調査研究を中心に文献をレビューするとともに,関連する統計や調査,政府・自治体等の施策や事業をもとに,このテーマの環境的・背景的なことについてとりまとめている。このように,子どもの情報メディア利用に関する近年の論点及び研究動向を整理することにより,本報告書は,国際子ども図書館をはじめ,わが国の図書館の子ども向けサービスや子どもの読書推進事業に資する基礎資料とするものである。

 本報告書は,以下のような7つの章から構成される。

 「第1章 はじめに」では,本研究の背景・目的及び「子どもの情報行動」というテーマのとらえ方について述べている。

 「第2章 子どもの情報環境の現況」は,本研究の社会的背景を説明し研究の基礎とするために,子ども及び情報メディアの現況及び各情報メディア業界の動向を主要統計資料に基づきまとめてある。

 「第3章 先行調査レビュー」は,過去20年間の子どもの情報行動に関する主な調査をリストアップし,年代ごとに調査内容の動向をレビューしている。

 「第4章 先行研究レビュー」では,過去約20年間の子どもの情報行動に関する研究をレビューしている。このテーマは学際的なものであるので,図書館情報学の研究を中心に,教育工学,教育学,心理学,社会学の領域の研究を視野に入れて,「公立・学校図書館に関わる子どもの情報行動」,「子どものウェブ情報検索行動」,「子どもの読書に関する教育学的研究」,「各種メディアの心理学的な影響・発達的研究」,「「子どもの情報行動」に関する社会学的研究」「米国の研究動向」の6つに分けてまとめている。

 「第5章 読書及び情報教育関連政策」では,「日本の情報政策の展開」と「子どもの読書活動推進」,「情報リテラシー教育」「有害コンテンツ対策」,という4テーマをとりあげ,施策の概要や動向を分析している。

 「第6章 「子どもと情報・メディア」に関わる現場の動き」では,関連する国内外の図書館及び関連機関での取り組みの事例を紹介する。

 「第7章 おわりに」では全体の総括として,子どもの情報行動に関する研究動向から見えてきたことをとりまとめ,図書館が子どもたちに提供し得るサービスの可能性を探る。

SUMMARY

  • 参照(24100)

   In Japan, since around 2000, there has been increasing concern about children’s reading activities, partly because of a decline in academic achievement and, in 2001, the Law Concerning the Promotion of Reading Activities among Children (2001, Law No. 154) was proclaimed and enforced. There has been a substantial amount of research from a range of perspectives on the information-media environment surrounding children, children’s reading activities, and how children use information obtained from the non-print media such as TV and the Internet and how these media affect children. Although results from a number of specialized fields have been obtained, few studies that review such results comprehensively have been conducted in Japan.

   To fill this gap, this study reviews research on children’s information-media usage and, by utilizing related statistics and surveys and by examining the policies and programs of central and local governments, it also gives an outline of the environment and background to this issue. By putting different arguments and research trends related to children’s information-media usage in perspective, this report aims to contribute to services for children at the International Library of Children’s Literature and other libraries and to reading promotion programs in Japan.

   This report consists of the following seven chapters.

   “Chapter 1: Introduction” describes the background and purpose of this study and provides a clear description of “children’s information behavior”.

   “Chapter 2: Current information environment surrounding children” explains the social background of this study and, to provide a foundation for the present work, summarizes the current situation of children and information media and trends in the information-media industry using key statistics.

   “Chapter 3: Review of previous surveys” lists key surveys on children’s information behavior during the past 20 years and reviews trends in the surveys by period..

   “Chapter 4: Review of previous research” reviews research on children’s information behavior over the past 20 years. Since this paper has adopted an interdisciplinary approach, the chapter discusses the following six topics: “children’s information behavior in relation to public and school libraries,” “children’s web information search behavior,” “pedagogical studies on children's reading,” “developmental studies on the psychological influence of the various forms of media,” “sociological studies on children’s information behavior,” and “research trends in the U.S.” The discussion is conducted from the perspectives of research into educational technology, pedagogy, psychology, sociology, with a special emphasis on library information science.

   “Chapter 5: Policies on reading and information education” discusses the following four topics: “development of information policy in Japan,” “promotion of children’s reading activities,” “information literacy education,” and “measures against harmful content,” and analyzes policy outlines and trends.

   “Chapter 6: Trends in libraries' and related organizations' activities on children and information media” introduces approaches that libraries and related organizations both in Japan and overseas have been taking, examines children’s reading and media usage.

   As a general overview, “Chapter 7: Conclusion” provides a comprehensive discussion of the issues emerging from research trends on children’s information behavior in recent years and seeks to identify services that libraries can provide to children.

1. はじめに

  • 参照(19947)

1.1. 本研究の背景及び目的

 近年の情報通信技術の発達は,子どもたちの生活や教育などさまざまな面に大きな影響を与え,子どもたちの身の回りには,情報やそれを伝達するメディアがあふれている。例えば,2001年と2006年の子どもの携帯電話とパソコン及びインターネットの利用率は表1のとおりである。この数字からは,とくに13~19歳の子どもたちが,情報やメディアに慣れ親しんでいる姿が浮かびあがる。

表1 子どもの携帯電話,パソコン及びインターネットの利用率

2001年 2006年
携帯電話 6~12歳 5.9% 24.9%
13~19歳 49.2% 78.4%
パソコン 6~12歳 32.3% 55.5%
13~19歳 43.1% 80.5%
インターネット 6~12歳 49.2% 67.9%
13~19歳 72.8% 93.0%

 1986年の臨時教育審議会第2次答申に「情報活用能力」という概念が「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質」として紹介され,1991年には『情報教育に関する手引』が発表された。情報教育は,IT戦略本部が策定した「e-Japan重点計画」等に基づいて急速に進められ,「2005年度までに,すべての小中高等学校等が各学級の授業においてコンピュータを活用できる環境を整備する」ことが目標とされ,「教育用コンピュータの整備やインターネットへの接続,教員研修の充実,教育用コンテンツの開発・普及,教育情報ナショナルセンター機能の充実などが」進められてきた。

 一方,子どもの読書離れ・活字離れが憂慮され,1993年に「子どもと本の出会いの会」及び「子どもと本の議員連盟」という2つの会が設立されて以来,子どもの読書や学校図書館に関わる施策が幅広く展開されてきた。そうしたなかで,2000年に実施されたOECDの生徒の学力到達度調査(PISA)の結果が発表され大きな反響をよんだ。PISAの結果によると,わが国の15歳児の読解力は,2000年8位,2003年14位,2006年15位と下がってきており,PISA型読解力(自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発展させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考する力)への関心が大いに高まってきている。

 子どもたちの読書・情報環境は大きく変化してきた。

 1992年に,Healy (1990)の著書Endangered Minds: Why Our Children Don’t Thinkが翻訳されて,『滅びゆく思考力』として出版された。本書は発達心理学・教育心理学の立場から,テレビが子どもの思考力を奪っていることを指摘したものであった。続く1998年の彼女の著書Failure to Connect: How Computers Affect Our Children’s Minds, for Better and Worse(『コンピュータが子どもの心を変える』)では,コンピュータの子どもの心への影響が述べられていた。テレビやコンピュータというメディアの子どもへの影響に関するHealyの著書は反響を呼んだが,近年では,脳科学の発達によって,特に映像メディアが子どもの脳の前頭前野に及ぼす影響が指摘されてきている。

 子どもと情報・メディアに関わる者にとっては,子どもの情報・メディア環境における変化とそれが子どもに及ぼす影響に無関心ではいられない。無防備にITに晒されている子どもたちに対して,子どもの情報やメディアの利用に関わる図書館をはじめとする現場においては,今後,どのように対応していくべきかが,大きな課題である。これに対処するためには,まずは,子どもの情報環境がどのようになっているのか,子どもたちは情報やメディアをどのように利用しているのかという実態を知り,それに対して各方面からどのような議論がなされているのか,その論点を把握し,そして今後の具体的課題は何か,どのように対応していくべきなのかを,しっかりと見据えておく必要がある。

 本報告書は,子どもの情報行動に関してこれまでなされてきた諸研究を概観し傾向を把握し,わが国における今後の課題を探り,それへの対応を考えるきっかけを提供することを目的としている。この成果を共有し,本書をもとにさらに研究が進められるとともに,現場においては,計画策定やその実践等に役立てていただければこの上ない喜びである。

1.2. 「子どもの情報行動」に関する先行研究

 わが国では,子どもの情報行動に関する研究を包括的に概観したものはこれまでに見当たらない。このテーマは,図書館情報学や教育工学,心理学などのさまざまな分野に関わるものであり,それぞれの分野において研究が進められ,雑誌に特集が組まれ,シンポジウム等が開催されてきた観がある。

 米国では,レビュー文献がいくつかみられる。

 Abbas(2003)がEncyclopedia of Library and Information Science (2nd ed.) のなかの1項目として“Children and Information Technology”を10ページにわたってまとめている。Abbasは,子どもとITに関する72論文を,①ITのインタラクションと利用,②サービスと実践,③学習と教育への影響,の3つに分けてレビューしている。この文献は,本報告書の内容と対応するものであり,大変有用と思われるので,「4.6. 米国の研究動向」として紹介してある。

 この他に,Annual Review of Information Science and Technologyのvol.39(2005) にはLargeが“Children, Teenagers, and the Web”というタイトルで子どもとウェブに関する181の研究を46ページにわたってレビューしている。これは,①全国的利用者調査,②情報探索行動,③コンテンツと個人の安全の問題,という大きく3つに分けてまとめてある。その他,Library Trends(54(2)) は,“Children’s Access and Use of Digital Resources”というタイトルで特集を組み9本の論文を掲載している。

1.3. 「子どもの情報行動」のとらえ方と研究方法

 まず,「子どもの情報行動」という概念をどのように考えるかを押さえておこう。

 情報行動は“Information Behavior”の訳語であり,Wilsonによれば「情報源や情報伝達に関係する人間の行動全体をいう」(中島2002)。そこには,能動的および受動的な情報探索と利用が含まれており,図1のように表されている。また,「これまでの情報研究では,読書(reading)を情報利用行動として正面から取りあげていない」(田村 2001)というが,本研究では,「図書」というメディアを用いる「読書」も情報行動のひとつとして位置づけた。この「読書」は,子どもと情報・メディアに関わる諸機関にとっては重要な要素であると考えられる。

図1 Wilsonの情報行動一般モデル

図1 Wilsonの情報行動一般モデル

 本研究においては,「子ども」を0歳から19歳までの範囲としてとらえている。そして,子どもの情報行動に関わる「メディア」には,活字メディア(図書,雑誌,マンガなど),視聴覚メディア(テレビ,携帯電話,DVDなど),電子メディア(インターネット,CD-ROMなど)を含めて考える。そのほか,図書館や博物館といった機関もまた,全体としてひとつのメディアととらえることができる。

 また,「情報メディア」という語は,レビューした文献中において,大きく2つの意味合いに使用されていた。「情報メディア」が,①「情報・メディア」や「情報とメディア」を示している場合と,②娯楽メディアやデジタルメディアなどの場合と同様に,「情報の(ための)メディア」「情報的メディア」という意味をもつ場合がある。本報告書文中における「情報メディア」の使用については,レビュー文献の文脈に依拠している場合が多く,両者の意味合いが混在していることをお断りしておきたい。

 さて,子どもの情報行動に関する研究について考えるとき,図2のようにその概念図を描くことができる。まず,大きく分けてとらえると,3つの要素が考えられる。①「子ども」,②「情報・メディア」,そしてこれら2つを取り巻く③「環境・背景」である。

図2 「子どもと情報行動」研究概念図

図2 「子どもと情報行動」研究概念図

 このテーマは,学際的な性質が強い。本研究は,「図書館情報学」の研究を中心に,「教育工学」「教育学」「心理学」「社会学」の領域の研究を視野において,「子どもの情報行動」に関する文献をレビューしたものである。加えて,環境・背景的なものとして,読書や情報教育に関する政府の施策や現場の動向についても関連文献を調査しまとめてある。なお,レビュー対象とする文献は過去20年間以内のもので,日本の子どもの情報行動を扱った日本語文献を第一の対象とし,必要に応じて海外の子どもの情報行動を扱った日本語/外国語文献も含めた。(堀川)

参考文献

Abbas, J. (2003). “Children and information technology”. Encyclopedia of Library and Information Science, vol.1. M.A.Drake ed. 2nd ed, Marcel Dekker, p.512-521.

Healy, Jane M. (1990). Endangered Minds: Why Our Children Don’t Think. Simon and Schuster.(= 滅びゆく思考力. 西村弁作, 新美明夫編訳. 大修館書店. 1992, 377p.)

Healy, Jane M. (1998). Endangered Minds: Why Our Children Don’t Think. Simon and Schuster.(= コンピュータが子どもの心を変える. 西村辨作, 山田詩津夫訳. 大修館書店. 1999, 383p.)

Large, A. (2005). Children, Teenagers, and the Web. Annual Review of Information Science and Technology. Vol. 39, p.347-392.

中島幸子 (2002). “意味構成アプローチ”と情報行動研究. 同志社大学図書館学年報. 28号別冊, p. 96.

田村俊作 (2001). 情報探索と情報利用. 勁草書房, p.291.

2. 子どもの情報環境の現況

  • 参照(24398)

2.1. 子どもの現況

 本節では,子どもの情報行動を論じる際の前提となる指標のうち,子ども人口,子どもの生活時間,子ども関連市場について,主要統計データに基づき1990年代後半以降のおおむね10年間の動向を概観する。なお,本報告書では0歳から19歳までを子どもと定義しているため,各統計の属性別データのうち,この範囲に含まれる年代を子どもとみなしている。

 2.1.1. 子ども人口

 『平成19年版 青少年白書』(内閣府 2007a)によると,日本の子ども人口は15歳未満人口,未成年人口とも第二次ベビーブーム以降四半世紀以上にわたる減少が続いており,2006年の未成年人口は2,386万人,総人口に占める割合は18.7%と2割を切っている。1997年から2006年の10年間で未成年人口は351万人減少しており(減少率12.8%),特に10歳~19歳までの年代の減少が著しい。団塊ジュニア世代が出産適齢期を迎えていることもあって,2006年には6年ぶりに出生率が回復の兆しを見せているものの,価値観やライフスタイルの変化による晩婚・晩産化の流れに大きな変化はなく,2050年ごろまでは総人口,子ども人口ともに減少が続くと予想されている(国立社会保障・人口問題研究所 2007)1 。子ども人口の減少に比例して世帯当たりの子ども数や児童・生徒数も減少しており,家庭や学校,地域社会,市場等もそれに応じた変化を余儀なくされている(内閣府 2004) 2。

 2.1.2. 子どもの生活時間

 この10年間に学齢期の子どものライフスタイルに大きな影響を与えたと考えられるのは,2002年に導入された完全学校週5日制とゆとり教育である。総務省の『平成18年 社会生活基本調査』(総務省統計局 2007)に基づき10年間の子どもの生活時間(総平均時間)の推移を見ると,曜日別では土曜日で「睡眠」が大幅に増加している(25分増)のに対して,「通勤・通学」「学業」はそれぞれ大幅に減少しており,完全学校週5日制導入の影響が顕著である 3。他方で「学業」については,土曜日の減少に対して平日では大幅な増加が見られる(10~14歳26分増,15~19歳32分増)。学齢期別集計では,小学生がおおむね横ばいであるのに対して,中・高校生で2001年以降の増加幅が大きい。この項目には学習塾での勉強が含まれることから,学業時間増加の背景に学校以外での勉強時間の増加があるものと推測され,平日の在宅時間の減少などとも合わせて,塾通いも子どもたちのライフスタイルに影響を及ぼしているものと思われる 4。

 余暇時間の過ごし方としては,1996年から2006年にかけて週平均で「休養・くつろぎ」(10~14歳16分増,15~19歳15分増)と「趣味・娯楽」(10~14歳10分増,15~19歳18分増)が増加しているのに対して,「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」が著しく減少(10~14歳32分減,15~19歳38分減)しており,マスメディアの視聴等が他の活動へと置き換わっている様子がうかがえる。2006年の「趣味・娯楽」の行動者率を見ると,10代全般でテレビゲーム,CDなどによる音楽鑑賞,DVDなどによる映画鑑賞,映画鑑賞が上位を占めており,以下10~14歳では「趣味としての読書」「遊園地,動植物園,水族館などの見物」,15~19歳では「カラオケ」「趣味としての読書」が続く。情報メディアとの接触は子どもたちの趣味・娯楽活動の中心になっているといえる5 。

 2.1.3. 子ども関連市場

 子どもをターゲットとする市場については,子ども人口の減少にもかかわらず,2000年以降景気回復とともに拡大傾向を示している。その背景として,子ども数の減少により子ども1人当たりの支出が増加していることに加えて,祖父母,子どもを持たないおじ・おばなど複数の大人の支出が1人の子どもに集中する「シックス(テン)ポケッツ」と称される現象が生じており,高品質の高額商品やファミリー向けのサービスが増加していることがあるとされている。他方で,品質や機能を重視する消費者の選別が進み,価格は二極化する傾向にある(矢野経済総合研究所 2007)6 。

 分野別には「ゲームセンター・娯楽施設」や「スポーツ教室」など子どもの余暇活動のためのサービスのほか,「幼稚園・託児所・ベビーシッター」「携帯電話」「防犯サービス」など,子育てをサポートする商品・サービスの伸びが著しい。「食品」「衣料品・身の回り品」「日用品・生活雑貨」といった衣食住に関する物品市場が少子化の影響を受けて縮小傾向にあるのに対して,「娯楽用品・レジャー」「教育サービス・用品」「ベビー・子ども向けサービス」は拡大傾向を示しており,モノからサービスへと消費の比重が移ってきている様子がうかがえる 7。

2.2. 情報メディアの現況

 「情報メディア」はハードウェアやソフトウェアから,コンテンツ,ネットワークインフラ等情報伝達に関するあらゆるカテゴリーを含みうる広範な概念であるが,ここでは1990年代後半以降のインターネットの普及とそれに伴う環境変化に焦点を絞り,主要統計資料に基づき情報メディア機器,通信関連サービス,コンテンツ市場及び日本人の情報メディア利用の動向を紹介した後,子どもたちの接触頻度が高い情報メディアのなかから,特に「活字メディア(書籍,雑誌,コミック誌・コミックス)」「映像メディア(テレビ,ビデオソフト)」「インターネット」「携帯電話」の4分野を取り上げ,各分野における業界動向と子どもに関する主要指標及び近年のトピックスを紹介する。

 2.2.1. 情報メディアの動向

 (1)情報メディア機器

 情報メディア関連機器では,この10年間で携帯電話とDVD,パソコンほかデジタル機器の普及が急速に進んでおり,内閣府『消費動向調査』によると,2007年3月末で携帯電話は88%,パソコンは71%,DVDは65%の世帯保有率に達している(内閣府 2007b)。また,テレビ,携帯電話については1世帯当たり保有台数が2台を超え,家族で利用する世帯メディアから個人で利用するパーソナル・メディアへの移行が進んでいる。

 (2)インターネット関連サービス

 この10年間に個人や家庭生活,社会や産業等あらゆる分野に最も大きな変化をもたらした情報メディアがインターネットであることは衆目の一致するところであろう。総務省『通信利用動向調査』によれば,1997年末に9.2%にすぎなかったインターネットの人口普及率は2006年末には68.5%に達しており,インターネット接続可能な高機能携帯電話の普及に伴い急速に利用者の裾野が拡大してきた(総務省 2007a)8 。また,2006年にはインターネット利用者に占めるブロードバンド回線の利用者の割合が6割を超えると推計されており,特にここ数年は光ファイバー網への切り替えが進んでいる。音声や映像等の大容量コンテンツの配信サービスの拡充もあって,一時期停滞していたパソコンからのインターネット利用も増加傾向にある。

 (3)オンラインコンテンツ市場

 インターネットの普及や端末の高性能化に伴い,文字や図像だけでなく動画や音声などの大容量コンテンツのオンラインでのユーザーへの配信が可能になり,映像系ソフトを中心にオンラインコンテンツ市場は急速に拡大する傾向を見せている。パッケージや放送によって流通するコンテンツとは比較にならない小さい規模ではあるが,既存メディアのコンテンツ市場がおおむね縮小傾向にあるのに対して,インターネットによる音楽・映像配信やオンラインゲーム,携帯電話向け電子書籍などの市場は著しく伸長しており,また,それに伴い新聞や出版,放送などの既存メディアも巻き込んだコンテンツのマルチユース化が進んでいる(デジタルコンテンツ協会 2007)9。

 (4)情報メディア利用の動向

 情報メディアの利用動向に関してはさまざまな主体による多様な観点からの調査が行われているが,いずれの調査においても接触率,接触頻度,接触時間,情報メディアとしての重要度ともに「テレビ」が特権的地位を占めている10。それ以外の情報メディアでは,高齢者は「新聞」「ラジオ」,若年者は「雑誌・コミック・本」「インターネット」のウエイトが相対的に高いなど年代による利用傾向の違いが顕著であり,ライフステージや世代による情報ニーズの違いや,保有する情報機器,情報メディアに対するリテラシーの違いを反映しているものと推測される。

 インターネットが情報メディアとして注目され始めたのは近年のことであるが,比較的短期間の利用率の推移からもインターネットが急速に情報メディアのなかでの存在感を増していることがうかがえる。娯楽性や速報性ではマスメディアが圧倒的に優位であるが,趣味での情報収集や必要な情報の選択性については相対的にインターネットの評価が高く,日常生活で接する情報メディアが多様化するなかで,目的によってメディアが使い分けられるようになった。さらに,テレビを見ながらパソコンを検索し,携帯電話でメールを送るというような情報メディア利用の複合化,相互補完的な利用が進んでいる(白石ほか 2005)。

 2.2.2. メディア別の動向

(1)活字メディア

 出版物の販売額・販売部数は1997年以降減少基調にある。近年の販売不振の要因としては,少子化と経済環境の悪化,所得減少や雇用不安定化がもたらす将来への不安による購買意欲の低下があげられる。それに加えてテレビの多チャンネル化,インターネットや携帯電話の普及による消費者の可処分時間・所得の減少,それらに伴う情報収集や生活スタイルの変化,新古書店やマンガ喫茶,公立図書館の利用増加に見られる「所有」から「サービス」への価値観のシフトなどの環境変化が複合的に作用していると分析されている(全国出版協会出版科学研究所 2004)。

 以下に全国出版協会出版科学研究所『出版指標年報』(1997~2006年版)に基づき,出版各ジャンル別の近年の動向及びトピックスを,概況と子ども向け市場に分けて紹介するとともに,毎日新聞社『学校読書調査』に基づき,基本指標となる子どもの読書率の動向についても簡単に触れておく11。

 1)書籍

 (概況)

 書籍については,近年,販売額及び読書量の増減がベストセラーやヒット作の有無に大きく左右され,テレビで紹介されたものやドラマ・映画の原作に売れ行きが集中するなど,メディアミックスによってメガヒットが生まれる傾向が強まっている。また,電子掲示板「2ちゃんねる」の書き込みを書籍化した『電車男』のヒット以降,個人のウェブサイトやブログなどネット発のコンテンツが出版され,ベストセラーとなる事例が増えている。

 (児童書の動向)

 1999年に刊行が始まった『ハリー・ポッター』シリーズが牽引役となり,映像化とタイアップした翻訳ファンタジーや『かいけつゾロリ』など国内読みものシリーズを中心に,児童書マーケットは拡大傾向にある。また,学校での「朝読運動」の浸透を背景として,2004年ごろからローティーン層をターゲットとした『青い鳥文庫』等の児童文庫やティーン向け小説の出版が急増しているほか,ここ数年は女子中高生を中心とする「ケータイ小説」の流行が注目されている。絵本については古典作品の人気が高いが,マスメディアでの紹介が契機となって新作が定番化するケースも見られ,『チャレンジ ミッケ!』シリーズなど「読まない本」にも根強い人気がある。また,近年は児童書の対象年齢が拡大しており,子ども向けの廉価な商品と大人の読者を意識した高価な商品とに価格が二極化する傾向にある。

 (子どもの読書の動向)

 毎日新聞社『第53回学校読書調査』によると,本を読まない児童・生徒の割合(不読率)はこの10年で大幅に減少しており,2007年には所定の1か月間に1冊も本を読まなかった児童・生徒の割合は小学生5%,中学生15%と1954年の初回調査以来最低を記録し,高校生についても過去20年間で2004年に次ぐ低い水準(48%)となった。ただ,小学生が月平均9.4冊の本を読むのに対して高校生の半数近くは1冊も読んでおらず,成長とともに読書から離れていく傾向には歯止めがかかっていないとされる。また,小・中学生での読書率の回復の背景には,ケータイ小説の人気とともに,「朝の読書」など学校での読書指導の充実があると分析されている(毎日新聞社 2007a)。

 2)雑誌(コミック誌を除く)

 (概況)

 雑誌は1990年代半ばをピークに販売額・部数ともに減少が続いている。定期購読離れ,既読者の高齢化に加えて,インターネットやフリーペーパーなど他メディアとの競合,中小書店の廃業といった環境変化のなかで新規読者の開拓が進んでいないことがその背景にあるとされる。

 (子ども向け雑誌の動向)

 子ども向け雑誌の市場は,少子化による対象読者数の減少に伴い急激に縮小しており,なかでも年数万人単位で減少している12~18歳人口を読者とするティーン向け雑誌が急落している。販売低迷の原因としては,ゲームの普及等による子どもの娯楽の多様化,1990年代後半の『ポケットモンスター』に匹敵する魅力的なキャラクターの不在などがあげられる。また,コミック誌の購読者が低学年中心であるのに対して,情報誌・ファッション誌の購読者は中・高校生が中心であり,インターネットなど他媒体での情報入手が容易になったことが,高学年での雑誌離れを加速させていると分析されている。

 (子どもの雑誌購読の動向)

 雑誌(コミック誌を含む)についてはこの10年間で中・高校生の不読率が急増している。1995年には小中高を通じて約1割程度だった雑誌不読率が2000年には約2割となり,小学生ではその後若干回復が見られるものの,2007年には小学生の約2割,中・高校生の約3割が所定の1か月間に1冊も雑誌を読んでいない。平均購読冊数は2007年にはすべての年代において回復しているが,10年間の推移を見ると小学生ではほぼ横ばい,中・高校生では減少傾向にある。男子及び女子小学生ではコミック誌,中学生以上の女子ではファッション誌が購読の中心であり,コミック誌以外の雑誌の講読率は,2007年では小学生18%,中学生33%,高校生40%となっている(毎日新聞社 2007b)。

 3)コミック誌・コミックス

 (概況)

 1990年代前半にはアニメ番組と連動して原作を掲載するコミック誌が部数を伸ばし,出版市場全体の牽引役となっていたが,人気連載の終了を機にメジャーな雑誌が大幅に部数・販売額を減らしており,主力である少年向け週刊コミック誌の減少幅が著しい。コミック誌離れの背景には,少子化に伴う新規読者の減少に加えて,通信費の増加等の影響で定期購読していた若者層の可処分所得が減り,他方でマンガ喫茶や新古書店の出現,コンビニエンスストアを販路とする廉価軽装版の普及によって,「読みたい作品のみを安く購入し一気に読む」スタイルが定着したことがあるとされる。2005年には史上初めてコミックスがコミック誌の販売金額を上回り,以後両者の差は拡大している。

 コミックスについては書籍と同様,1990年代後半からテレビドラマや映画など映像化されたメディアミックス作品が爆発的に売れる傾向が強い。また,ここ数年はペーパー市場の落ち込みに対して携帯電話を中心とするコミックの電子配信市場が急成長しており,特に10代から20代の若い女性を主要読者とする「ケータイコミック」の伸びが注目されている12。

 (子ども向けコミック誌・コミックスの動向)

 子ども向けコミック誌・コミックスは長期低落傾向にあり,特に『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』など発行部数の多い少年向けコミック誌の減少幅が大きい。少年向けコミック誌が売れない要因として,少子化の影響以外に,需要の中心が大人に移り子どもたちにとって魅力のある作品が少なくなっていること,テレビゲームや携帯ゲームの出現によって子どもの娯楽におけるコミックの地位が低下していることがあげられる。また,これまで子どもたちの購買意欲を支えていたアニメ番組が,ゴールデンタイムから姿を消したことも子どもたちのコミックに対する関心の低下に影響していると分析されている。

 (子どものコミック購読の動向)

 2007年の所定の1か月間にコミック誌を1冊も読まなかった児童・生徒は,小学生30%,中学生52%,高校生60%と,年齢が上がるとともにコミック誌の不読率は高くなっている。それに対して,コミックスは小・中・高を通して「よく買う」が3割程度(「たまに買う」を合わせると約7割)と一定の購読率が保たれている。コミック誌を全く読まずにコミックスを買う児童・生徒も少なくないことから,「コミックは雑誌で読まずにコミックスで」と考える子どもが増え,たくさんの作品を連載で読むより,興味のある作品だけまとめて読むことを子どもたちが好むようになっているとされる(毎日新聞社 2007b)。

(2)映像メディア(テレビ,パッケージ)

 1)テレビ

 (概況)

 テレビについてのこの10年間の大きな変化としては,多チャンネル化とデジタル化があげられる。従来の地上波放送に加えて,ケーブルテレビやCS・BSデジタル放送などの出現で多チャンネル化が進み,視聴者の選択肢は増えている13。また,地上波放送については2011年に予定されているアナログからデジタルへの完全移行を視野に入れ,「通信と放送の融合」 14の名のもとに情報通信ネットワークと連携した新しいサービスが模索されているが,番組コンテンツの二次利用における著作権処理をはじめ法制面での課題も多い。

 1980年代にはテレビ視聴時間が短くなる「テレビ離れ」が問題になっていたが,近年は高齢者を中心にテレビ視聴時間は長時間化する傾向にあり,国民の9割以上が毎日視聴するテレビは依然マスメディアとしての影響力を維持している。他方で,高視聴率番組は少なくなり,ゴールデンタイムから早朝や深夜の時間帯に視聴時間帯が分散する傾向が見られるなど,視聴者のテレビ視聴スタイルは多様化している。近年の視聴時間の長時間化の要因の1つに「ながら視聴」の増加があげられるが,若年層ではリモコンによるザッピングやハードディスク内蔵型テレビ録画機による「CMとばし」なども高率で行われており,ブロードバンド放送など異業種の参入もあって,視聴率を基本とした広告収入による無料放送というテレビ放送のビジネスモデルも変更を迫られている(NHK放送文化研究所 2007,デジタルコンテンツ白書 2006)。

 (子ども向け番組の動向)

 1980年代後半から,それまで大量に放映されていたアニメを中心とする民放の子ども向け番組の放送時間が減少し,子ども番組枠だった平日の朝夕の時間帯が大人向けのワイドショーや報道番組,バラエティ番組に替わり,子ども番組は週末などに集中して放送される傾向が強まっている。その背景には,ビデオやテレビゲームが普及したこと,ライフスタイルの変化によって従来の子ども番組枠にテレビを視聴できない子どもが増えていることなどのほか,人口減少の進む子どもではなく大人を対象とした番組のほうが視聴率をとりやすく,アニメ等子ども向け番組の制作費負担が大きいといった放送主体側の事情があるとされる。このため,近年では子ども番組の放送主体が視聴率に左右されないケーブルテレビや衛星放送に移ってきている。

 テレビが子どもの非行や暴力を助長するとのテレビ批判は1960年代からあったが,視聴率競争のなかでの番組内容の過激化や,また「やらせ報道」等マスメディアとしてのモラルを問われる不祥事が相次いだことで,社会的な批判が高まっていった。これに対応するため,業界では「放送と青少年に関する委員会」を設置して青少年が視聴する番組の監視に当たるほか,子ども向けの報道番組やメディアリテラシー教育のための番組を制作放送するなどの取組が進められている(NHK放送文化研究所 2003)。

  (子どものテレビ視聴の動向)

 NHK放送文化研究所『国民生活時間調査』によると,2005年では10代(10~19歳)の88%が平日に約2時間半テレビを視聴している。土日は平日と比較して行為者率が若干低く,視聴時間は30分から1時間程度長い。ただし,平日,土日とも6割前後は「ながら視聴」である。1995年から2005年の10年間では,男性で土曜日の平均視聴時間が増加しているほかは,行為者率,時間ともほぼ横ばいか減少傾向を示している(NHK放送文化研究所 2006)。なお,同研究所が毎年2回行っている『全国個人視聴率調査』によると,2005年のテレビ視聴時間は7~12歳で137分,13~19歳で135分となっており15,調査時期により約10分前後の変動はあるものの,この10年間おおむね横ばい傾向である(日本民間放送連盟 1996-2007)16。

 また,全国個人視聴率調査と同時に実施されている『幼児視聴率調査』によると,2~6歳の幼児のテレビ視聴時間は週平均1日当たり約2時間であり,子ども向け番組がなくなったことの影響から平日の視聴時間の減少が見られるとされている(増田 2007)。

 2)ビデオソフト(ビデオカセット・DVD)

 (概況)

 この10年間はビデオカセット等からDVDへの移行期に当り,再生機器の普及により家庭やレンタルビデオ店でのソフトの切り替えが進んだ。2001年にビデオカセットとDVDのシェアが逆転し,2005年にはDVDのシェアが9割を超えている。同時に,既存ビデオソフトのDVD化,ソフトの低価格化が進んだことによりセル市場(店頭での一般小売販売市場)が伸びている(電通総研 2007)。

 DVD売上高は映画館興行収入の2倍以上を占めており,近年は映画の製作・企画段階からDVD化を視野に入れたプロモーションが展開されることが多い。その結果,劇場公開からDVD販売までの期間が短くなり,劇場用映画とビデオソフトが連動してビッグセールスを記録する傾向が顕著になっている。一方で,映画会社にとってケーブルテレビ事業者へのVODコンテンツ提供がDVD販売に代わる有益な二次利用ビジネスとなりうるため,将来的に動画配信サービスの利用が進めばビデオソフト市場の縮小を招く可能性も指摘されている17。

 (子ども向けタイトルの動向)

2002年公開の映画『千と千尋の神隠し』以降,アニメの大作や,『ハリー・ポッター』シリーズのような洋画のカテゴリーの家族向けファンタジー,特撮ものが売上ランキングの上位を占めており,子ども向けタイトルについても,メディアミックスの影響が顕著である(矢野経済総合研究所 2007)。

 (子どものビデオ視聴の動向)

 2005年の10代のビデオ視聴率は平日で9.5%,土日で14.3%となっており,行為者の平均時間は平日で1時間17分,土日で約2時間弱である。10年間では,平日は行為者率,平均視聴時間ともほぼ横ばいであるが,土日の行為者率は微減傾向にある。なお,10代女性のビデオ視聴率は,10年間を通じて他の年代層に比べて相対的に高い(NHK放送文化研究所 2005)。

 また,幼児の週平均1日当たりのビデオ再生時間は約30分であり,年齢が低い子どもほど長時間ビデオを視聴する傾向が見られる。(増田 2007)。

(3)インターネット

 (概況)

 インターネットの利用者が総人口の約7割に達し,携帯電話からの接続とパソコンからの接続がともに増加していることは既に見たとおりである。パソコンからの接続が増加している背景にはブロードバンドの普及と,無料動画配信サービスの開始や投稿ビデオサイトの人気があると考えられるが,コンテンツによってユーザーがパソコンと携帯端末を使い分ける傾向が強まっているため,携帯電話とパソコンの併用者がインターネット利用者の7割に上る(総務省 2007a)。

 また,ここ数年の「Web 2.0」と総称される技術を用いた消費者発信型メディア(CGM)の隆盛は,ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等を通したユーザーによる主導的なコンテンツの提供と相互のコミュニケーションによって,企業のマーケティングや消費者の購買行動に革新をもたらした。他方で,インターネット利用の急速な拡大の負の側面も現れており,「Winny」等のファイル共有ソフトを経由して広まる「暴露ウィルス」による情報漏えい事件や,架空請求詐欺をはじめとするネット上の犯罪,匿名での誹謗中傷などのトラブルが多発し,大きな社会問題になっている(総務省 2007b)。

 (子ども向けインターネットサービスの動向)

 子どものインターネット利用率が高まるにつれ,「キッズgoo」など子ども向けポータルサイトや子ども向け検索エンジン等のサービスが提供されるようになっており,低価格の子ども用パソコンや,パソコンを使うエデュテイメントソフト,パソコンに接続すると自動的に子ども専用モードに切り替わる周辺機器等も多数市販されている。しかしながら,いずれも年少者向けの仕様であり,学年が進みネット習熟度が高まるにつれて,大人向けポータルサイトやSNS,コミュニティサイトの掲示板,ブログなどを頻繁に利用するようになり,それに伴い出会い系サイトや自殺サイト,わいせつ動画像等の有害情報やネットでのいじめに遭遇するケースも増える傾向にある(内閣府 2007c)18 19。こうした状況を受けて,子どものインターネット利用に関しては,ここ数年,有害情報を遮断するフィルタリングソフトの普及促進が課題となっている。

 (子どものインターネット利用の動向)

 2006年末における子どものインターネット利用率は13歳から19歳(以下「年長者」)で93.0%,6歳から12歳(以下「年少者」)でも67.9%である。利用頻度も高く,インターネットを毎日少なくとも1回利用する子どもは,年長者ではパソコンからの利用者で40.1%(年少者15.5%),携帯電話からの利用者で60.0%(同21.7%)に達しており,小学生以下と中学生以上では利用率に顕著な差が見られるものの,いずれも携帯電話からの利用がパソコンからの利用を上回っている(総務省 2007a)。1日の平均利用時間は,パソコンでインターネットを利用する子どもでは,小中学生で40~60分,高校生で約70分,携帯電話でインターネットを利用する子どもでは,中学生で70分以上,高校生女子では2時間以上にもなるという報告もあり,年長になるにつれ携帯電話を使ってインターネットを高頻度に長時間利用する傾向が見られる。利用目的としてはホームページやブログの閲覧,宿題などの調べもの,メールが小・中・高校を問わず上位を占めているが,年齢が上がるにつれて宿題などでの利用は減少する傾向にある(内閣府 2007c)20。

(4)携帯電話・PHS

 (概況)

 1997年に46.0%であった携帯電話の世帯保有率は1999年の「iモード」のサービス開始を機に急増し,端末や通信料金の低価格化が進んだこともあって,2003年末には9割を超えた。世帯保有率については近年微減傾向にあるが,2006年の全世代平均での利用率は7割を超えている(総務省 2006a)。従前は文字通り移動時の通話に使われていた携帯電話であるが,高速データ通信を可能とする第3世代携帯電話の普及により,現在ではカメラ,ゲーム,テレビ電話,位置確認,音楽再生,決済,テレビ放送受信等,多様な機能が搭載された高機能携帯情報端末に変貌している。

 携帯電話は操作が容易で携帯できる情報機器として電車の待ち時間などに利用されることが多く,地図や乗り換え情報などの実用サービス以外に「暇つぶし」用のコンテンツ・サービスへのニーズが高い。通信料金体系の変化等を背景にモバイルコンテンツ市場は拡大しており,「着メロ」「着うた」などの音楽配信,モバイルゲームに続くコンテンツとして,ここ数年は携帯電話向けの電子書籍・電子コミック市場が急成長している。また,「おサイフケータイ」など携帯電話型電子マネー,携帯電話向けワンセグ放送についても,今後急速な利用拡大が見込まれている(NTTドコモモバイル社会研究所 2007)。

 (子ども向け携帯電話サービスの動向)

 従来はプリペイド式の使用上限があるものや,「ココセコム」のような居場所確認用に特化したものを「子ども向け携帯電話」と総称していたが,子どもが犯罪に巻き込まれる事件が多発したこともあって,近年では通話やメールなどの基本的機能にGPS機能や防犯ブザーが搭載された低学年用の専用端末が,各社から相次いで発売されている。小学校中学年で約半数,高学年で約3割が「キッズケータイ」「ジュニアケータイ」等の子ども専用携帯電話を保有しているが,高学年になるに従い大人と同じ端末を持つ率が増え,高校生では自分専用の携帯電話の保有率も9割以上に上る(NTTドコモモバイル社会研究所 2007)21 22。携帯電話では移動しながら手軽にインターネットに接続できるため,パソコン以上に有害情報との接触を通じて犯罪に巻き込まれる危険度が高いことから,近年は法規制等も視野に入れた検討が進められており,新規契約時に18歳未満の利用者にはフィルタリングサービスへの加入を促すなど業界での取組が進んでいる。

 (子どもの携帯電話利用の動向)

2006年末における子どもの携帯電話利用率は13歳から19歳で78.4%,6歳から12歳では24.9%となっており,2001年調査時(年長者49.2%,年少者5.9%)から5年間で子どもたちの携帯電話利用率も急増している(総務省 2007a)。また,携帯電話やPHSを使用している小・中・高校生の大半は携帯電話でインターネットを利用しているという結果が出ている(内閣府 2007c)。小学生以下と中学生以上では利用率に顕著な違いが見られるが,携帯電話の機能のなかでは全体的にメールとカメラの利用率が高いほか,小学生では子ども専用機の搭載機能を反映してGPSが,中・高校生ではインターネット機能や音楽ダウンロード機能,ゲームの利用率が相対的に高い(NTTドコモモバイル社会研究所 2007)。(岡本)

  1. 中位推計によると,2055年には未成年人口は1,057万人(総人口に占める割合11.7%),14歳以下は752万人(同8.4%)と現在の半数以下になると予測されている。
  2. 内閣府『少子化社会白書(平成16年版)』では,少子化の影響を「社会的影響」と「経済的影響」の2つに分類し,家族形態の変容,子どもの社会性の減退,地域社会の活力低下,経済社会の活力低下,社会保障負担の増加という5つの観点から分析している。
  3. 生活時間に関して全国規模で実施されている主要な長期統計調査としては,ほかにNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」があるが,同2005年調査では,完全学校週5日制の影響として10代での土曜の在宅時間と睡眠時間の増加及び学業時間の減少が著しいという結果が報告されている。
    NHK放送文化研究所(2006). 2005年国民生活時間調査報告書.
    http://www.nhk.or.jp/bunken/research/life/life_20060210.pdf [223], (参照2008-03-20).
  4. 文部科学省が全国の小学校第6学年及び中学校第3学年を対象に実施している「全国学力・学習状況調査」(平成19年度)によると,過去の調査との単純比較はできないものの,いずれも1日当たりの児童・生徒の学校の授業以外の学習時間は増加傾向にある。また,同調査によると「通塾率(学習塾での勉強,家庭教師を含む)」は小学生約45%,中学生約60%,学校の授業以外に1日当たり1時間以上勉強している子どもは,小学生58.2%,中学生65.2%となっている。なお,学校外学習に関する主要な長期統計としては,別に文部科学省の「子どもの学習費調査」があるが,平成18年調査によると「通塾率」(1円以上「学習塾費」の支出がある家庭の割合)は,小学校・公立で43.3%(私立68.2%),中学校・公立で71.6%(私立53.6%)と,全国学力・学習状況調査とほぼ一致する結果が出ている。
    文部科学省(2007). 平成19年度全国学力・学習状況調査【小学校】調査結果の概要.
    http://www.nier.go.jp/tyousakekka/1hp_tyousakekka_gaiyou_shou.htm [224], (参照2008-03-20).
    文部科学省(2007). 平成19年度全国学力・学習状況調査【中学校】調査結果の概要.
    http://www.nier.go.jp/tyousakekka/2hp_tyousakekka_gaiyou_chuu.htm [225], (参照2008-03-20).
    文部科学省(2007). 平成18年度「子どもの学習費調査」.
    http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/006/07120312.htm [226], (参照2008-03-20).
  5. 同調査では2001年以降メディア接触に関連して「インターネット利用」という横断的調査項目が別に設けられているが,2006年のインターネット利用の行動者率は15~19歳では89.7%(2001年調査時77.2%)と「趣味・娯楽」のいずれの項目よりも高く,10~14歳では65.4%(同54.2%)とテレビゲームに次ぐ高い割合となっている。
  6. 野村證券が首都圏と京阪神の子どものいる700世帯を対象に実施している「家計と子育て費用調査」(2007)では,「エンジェル係数」(消費支出に占める子育て費用の割合)は1993年以降減少し続けている(1993年33.4% → 2007年26.2%)ものの,1人の子どもに対してかける費用が減少しているわけではなく,「年収の二極化」「1家庭当たりの子ども人数の減少」が主因であろうとしている。また,同調査では,第8回調査(2003年)から祖父母や親戚からの援助額についての調査項目を設けているが,2007年調査では物品・金銭を合わせて平均で年間約20万円相当の援助を受けているという結果が報告されている。祖父母からの援助内容では「お小遣い・現金」「衣類等身の回り品」「おもちゃ」などでの援助が多く,金額では「預貯金」「習い事」「学校教育」が大きい。情報行動に関連した項目では,「子どものパソコン・関連機器」「携帯電話(料金)」があるが,これらについて祖父母の援助を受けている人は極めて少数である。
    野村證券株式会社(2007). 第10回 家計と子育て費用調査, 84p.
    http://www.nomura.co.jp/introduc/csr/pdf/angel-10.pdf [227], (参照2008-03-20).
  7. 平成17年版『国民生活白書』は「子育て世代の意識と生活」を副題に掲げ,総務省「家計調査」に基づき,子どもの年齢層別に子どものいる世帯といない世帯の月平均消費支出額を比較しているが,それによると一人の子どもにかける費用は過去5年間(1999-2003年)では横ばい傾向である。情報行動に関しては,住宅ローンの返済額と並んで交通・通信費が伸びている点に着目し,携帯電話やインターネットの普及による電話料金の増加がその主要因であろうと分析している。
    内閣府(2005). “子育てにかかる費用と時間”. 平成17年版 国民生活白書「子育て世代の意識と生活」, p. 126-127.
    http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h17/10_pdf/01_honpen/pdf/hm030102.pdf [228], (参照2008-03-20).
  8. NTTドコモ「iモード」のサービス開始が1999年,同社「FOMA」のサービス開始が2000年である。後者は第3世代携帯電話では世界初の商用サービスとされる。
  9. 総務省・情報通信政策研究所が2007年6月に公表した「メディア・ソフトの制作及び流通の実態~ネット配信の普及等を背景に市場は拡大~」によると,「マルチユース」とは一次流通(ソフト制作時に最初に流通させることを想定した経路(メディア)での流通)に対して,最初に流通させたメディアとは別のメディアでの流通を意味する。同調査によれば,2005年のわが国におけるメディア・ソフトの市場規模は総額112,947億円(対前年比約2%増)で,そのうち通信系ソフト市場は8,067億円(対前年比約17%増)と約7%を占めている。また,マルチユース市場はメディア・ソフトの市場の約21%,通信系ソフト市場では約65%を占めている(対前年比はそれぞれ約9%,28%の増加)。
    総務省情報通信政策研究所(2007). メディア・ソフトの制作及び流通の実態~ネット配信の普及等を背景に市場は拡大~.
    http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2007/2007-1-02-2.pdf [229], (参照2008-03-20).
  10. メディア別・世代別のメディア接触傾向を長期にわたって比較できる全国規模の統計調査としては,NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」,毎日新聞社「読書調査・学校読書調査」,日本新聞協会「全国メディア接触・評価調査」などがあげられる(子どものみに対象を絞った調査については,本報告書第3章参照)。
  11. 出版指標年報の各年版「概況」及び「書籍の出版傾向」を参考にした。なお,出版指標年報の「概況」における出版不況の要因分析の記述は,2005年版以降は簡略化されている。また,書籍及び雑誌に関しては毎日新聞社「読書世論調査」も参考とした。
  12. ㈱インプレスR&Dインターネットメディア総合研究所の調査によると,2006年度のケータイ向け電子コミックの市場規模は約82億円で前年の約3.6倍,ケータイ向け市場の73%,電子書籍市場全体の45%を占めている。
    株式会社インプレスR&D. ニュースリリース2007年11月16日.
    http://www.impressrd.jp/news/071116/eb [230], (参照2008-03-20).
  13. NHK「日本人とテレビ」調査(白石ほか 2005を参照)によると,自宅で10チャンネル以上民放チャンネルが視聴可能な人は2000年の21%から2005年には32%に増えている。
  14. 「通信と放送の融合」については,総務省『情報通信白書』(平成13年版)において,1)インターネット放送のような通信と放送の中間領域的サービスの登場(サービスの融合),2) CATVネットワークのような1つの伝達手段を通信にも放送にも用いることができる伝達手段の共用化(伝送路の融合),3) 電気通信事業と放送事業の兼営(事業体の融合),4) 通信にも放送にも利用できる端末の登場(端末の融合)の4つに整理されている。
    総務省(2001). “特集 加速するIT革命~ブロードバンドがもたらすITルネッサンス~”.平成13年版 情報通信白書, p.31-32.
    http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h13/pdf/D0110100.pdf [231], (参照2008-03-20).
  15. 男・女,6月・11月の単純平均値による。
  16. 若年層ほど従来型放送(BS含むNHK,民放)から他の動画視聴への移行が進んでおり,10代では全動画視聴に占める従来型のテレビ放送のリアルタイム視聴時間の割合は6割程度,「テレビがなくなっても構わない」とする人の割合が3割に達するなど,動画配信サービスの拡充とともに「若者のテレビ離れ」が進んでいるとする調査結果もある。
    ただしいずれもウェブアンケート調査であり,10代のサンプル数は少ない。
    NTTレゾナント, 三菱総合研究所(2007). 第6回ブロードバンドコンテンツ利用実態調査gooリサーチ結果. No.152.
    http://research.goo.ne.jp/database/data/000517/index.html [232], (参照2008-03-20).
    岡田有花. “2015年,テレビは「ニコ動」化する?-NRIが示す未来像”. ITmedia News. 2008-02-05.
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/05/news094.html [233], (参照2008-03-20).
  17. 米国・フォレスタ・リサーチの調査によれば,VOD利用はDVD販売を脅かす存在にはなっていないという結果も報告されている。
    テレビ朝日アメリカ・インク編集(2006). VOD,DVD販売に影響無し. アメリカンメディア. 430号.
    http://www.tv-asahi.net/html/a_media/430.html#TOP [234], (参照2008-03-20).
  18. 子どものインターネット利用に関しては,関連企業が子どもやその親を対象に継続的に実施している実態調査が多数見られる。最近の調査では,8割が保護者の目の届かないところでネットを利用しており,4割が子ども向けポータルサイトを,3割が大人のポータルサイトを利用している(ネットスター 2007),「見たくない(ポルノ,出会い系,暴力的な画像,反社会的行為の助長,自殺の肯定などが出ている)サイトを目にしたことがある」と回答した子どもは45.3%に上る(奥山 2007)といった結果も出ている。
    ネットスター株式会社(2007). 8割の子どもが保護者の目の届かないところでネットを利用~第5回「家庭におけるインターネット利用実態調査」で子どものネット利用にあたっての注意点が明らかに~.
    http://www.netstar-inc.com/press/press070201.html [235], (参照2008-03-20).
    ネットスター株式会社(2007). 中学生の4割がネットでのいじめを実際に見聞き,1割がファイル交換ソフトを利用~ネットスターの独自調査で,子どもたちのインターネット利用の問題点と今後の課題が明らかに~.
    http://www.netstar-inc.com/press/press070726.html [236], (参照2008-03-20).
    gooリサーチ(2007). 第5回小学生のインターネット利用に関する調査.
    http://research.goo.ne.jp/database/data/000672/ [237], (参照2008-03-20).
    マイクロソフト(2007). 子供と親のインターネット利用意識調査 2007.
    http://download.microsoft.com/download/E/B/F/EBFEF226-9A44-48A3-9C95-ED6252F863A3/kids_research07.pdf [238], (参照2008-03-20).
    奥山順子. “子どものネット利用,有害サイト経験は5割”. CNET Japan. 2007-03-22.
    http://japan.cnet.com/research/column/market/story/0,2000067181,20345529,00.htm [239], (参照2008-03-20).
  19. 2007年3月の文部科学省の発表によると,「学校裏サイト」(学校管理者が公式に運営しているホームページと違い,中高生の利用を想定した公開型のサイトやスレッド)が2008年3月11日現在,39都道府県で計約3万8千件あることが報告されている。また,内閣府『青少年白書』(平成19年版)によると,「出会い系サイト」を利用した犯罪の被害に遭う少年も増加傾向にある(2006年1,187人,対前年比9.7%増)。
    “学校裏サイト3万8000件 文科省調査,中傷2割で確認”. 読売新聞. 2008-03-14.
    http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20080314nt07.htm [240], (参照2008-03-20).
    内閣府(2007a). “青少年の健康と安全”. 平成19年版 青少年白書, p.18.
  20. ネットスターが実施した第5回「家庭におけるインターネット利用実態調査」によると,小・中学生がよく使っているサイトとして,ゲームサイト(55.8%),子ども向けポータルサイト(42.1%),マンガ・アニメサイト(41.9%)があがっている。中学生のみを対象とした調査では,ほぼ毎回利用するサイトとして,大人向けポータルサイトのほか,女子でブログなどコミュニティサイトの使用率が高いという結果が出ている。
  21. この調査は全国小学校3年~高校3年の子どもとその親2,000組を対象としたウェブ調査である。
  22. 金融広報中央委員会が全国の児童・生徒を対象に実施した「子どものくらしとお金に関する調査」(2005年度)によると,自分専用の携帯電話を持っている子どもは小学校中学年で12.1%,同高学年13.5%,中学生50.4%,高校生94.6%という結果が出ている。また,中学生の約半数,高校生の約8割が携帯電話でウェブサイトを見ていると回答している。
    金融広報中央委員会(2006). 子どものくらしとお金に関する調査(平成17年度).
    http://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/kodomo2005/pdf/05kodomo.pdf [241], (参照2008-03-20).

参考文献

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毎日新聞社 (2007a). 毎日jp. 特集:第53回学校読書調査(その2)1カ月の読書量・書名/読まない理由ほか. http://mainichi.jp/life/edu/archive/news/2007/10/20071027ddm010040174000c.html [243], (参照2008-03-20).

毎日新聞社 (2007b). 毎日jp. 特集:第53回学校読書調査(その3)全校読書…生徒の8割, 好評価. http://mainichi.jp/life/edu/news/20071027ddm010040173000c.html [244], (参照2008-03-20).

増田智子 (2007). 減少した“幼児のテレビ視聴時間”~平成19年6月「幼児視聴率調査」から~. 放送研究と調査. 57(10), p. 66-67.

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全国出版協会出版科学研究所 (2004). 出版指標年報 2004年版, 382p.

3. 先行調査レビュー

  • 参照(17934)

 本章では,最近約20年(1987年~2007年)の間に日本国内で実施された子どもの情報メディア利用に関する調査をレビューする。レビュー対象の調査は,文部科学省スポーツ・青少年局が1989年から毎年作成している『青少年問題調査年報』(文部科学省 1989-2007)を利用し,「情報」,「メディア」,「コンピュータ」,「インターネット」,「携帯電話」,「ウェブサイト」,「パソコン」,「ゲーム」,「テレビ(TV)」,「メディアリテラシー」,「読書」,「本」「雑誌」,「マンガ」,「音楽」,「映画」,「CD」,「DVD」という語が調査の主題に含まれているものとした。なお『青少年問題調査年報』は,当該年に実施された「青少年問題全般における最も新しい調査の概要を集約し,一般の利用に供することを目的」に作成されている資料である。

 なお,以下では,計71件の調査を年代ごとに分け,メディアの種類別,対象年齢別に整理する。以下でレビューした調査以外に,1954年から現在(2007年度)まで,毎年継続して全国の小学生から高校生までを対象として,「学校読書調査」が実施されている。この調査では,毎年の読書量や内容が報告されており,経年比較が可能になっている。また,年によって他のメディアの利用状況が報告されている。

3.1. 1987~1989年に実施された調査

 1987年~1989年に実施された調査には,次の8件([1]~[8])がある。これらの調査を対象メディア別に整理すると,マスメディアへの接触,また,個別のメディア利用では,テレビテレビゲームやコンピュータゲーム,パソコン,マンガ,有害情報や暴力性の高いテレビ番組の視聴に分けることができる。(注:調査の出典の番号は,年代順。)

・マスメディアへの接触 [1]
・テレビ [7]
  暴力性の高いテレビ番組の視聴  [6]
・テレビゲームやコンピュータゲーム [2][3][8]
・パソコン [3]
・マンガ [4][7]
・有害情報 [5]

 また,年齢別に整理すると,小学生,中学生,高校生,保護者や家族を対象とした調査に分けることができる。

・小学生 [1][2][3][4][5][6][7]
・中学生 [1][2][3][4][5][7][8]
・高校生 [2][3][4][5][8]
・保護者や家族  [1][5][7]

[1] 神奈川県立教育センター学校課題プロジェクトによる「児童・生徒をとりまく情報環境に関する調査研究」(1987) 
 小学生,中学生,保護者483名を対象として,マスメディアとの接触度,接し方,生活への役立て方などを尋ねた調査。

[2] 東京都生活文化局による「大都市青少年のニューメディアとのかかわりに関する調査(テレビゲームを中心に)」(1987) 
 小学校4・6年生,中学校2年生,高校2年生5,684名を対象として,テレビゲームやメカなどについて尋ねた調査。

[3] 神奈川県立教育センター教育機器利用研究会による「コンピュータ利用における児童・生徒の意識と情意・健康面の内容」(1987) 
 小学生,中学生,高校生1,027名を対象として,パソコンやコンピュータゲームの利用状況や,コンピュータゲームによる影響について尋ねた調査。

[4] 浜松医科大学精神科神経科による「マンガに見る性の世界―大人の視点と子どもの視点の比較を中心に―」(1987) 
 小学生,中学生,高校生287名を対象として,好きなマンガ,どういうところがすきか,どういうところをいやらしいと思うかについて尋ねた調査。

[5] 愛知県青少年問題協議会 愛知県総務部青少年婦人室による「青少年に関する意識調査―高齢化・情報化・国際化社会と青少年の関わり―」(1988) 
 小学生,中学生,高校生とその家族10,085名を対象として,一般情報や青少年活動に関する情報の入手方法,有害情報の接触状況とその影響,青少年が望んでいる情報と青少年に提供すべき情報,情報化社会に対するイメージなどについて尋ねた調査。

[6] 国立精神・神経センター精神保健研究所による「暴力性の高いTV番組視聴が子どもと家族に及ぼす影響の5年後追跡調査」(1989) 
 小学校4・5年生124名(5年前に年中,年長の児童)を対象として,暴力性の高いTV番組視聴頻度,TV視聴時間の長さ,健康状態,精神的健康度,暴力行動,対処行動,支援ネットワークなどについて尋ねた調査。

[7] 東京都生活文化局婦人青少年部企画係による「東京都子ども基本調査『大都市における児童・生徒の生活・価値観に関する調査』」(1989) 
 小学生,中学生およびその保護者2,096名を対象として,テレビ,マンガ,規範意識,友人関係,親子関係など(小学生,中学生調査),子どもへの関心,しつけ,学習塾,子どもとの会話など(保護者調査)について尋ねた調査。

[8] 総務省青少年対策本部調査係による「青少年の友人関係に関する国際比較調査」(1989~1990) 
 アメリカ,西ドイツ,日本の中学生,高校生2,912名(日本:1,674名)を対象として,友人関係,テレビゲームの接触状況などについて尋ねた調査。

3.2. 1990年代に実施された調査

 1990年代に実施された調査には,次の25件([9]~[33])がある。これらの調査を,対象メディア別に整理すると,メディア所有・利用,情報機器・情報通信機器,電子メディア,雑誌,新聞,本を読む時間や内容,テレビ,ラジオ,ビデオ,テレビゲーム,マンガ,パソコン・インターネット,CD,電話・ポケットベル,携帯電話に分けることができる。また,青少年が取り入れる情報の量・内容と,それらが問題行動などに及ぼす影響([19]),有害メディア接触への許容意識([20]),インターネット利用に対する意識([29])について検討した調査も見られる。

・メディア所有・利用 [15][18][25][26]
・情報機器・情報通信機器  [29][30]
  情報接触 [16]
・電子メディア [28]
・雑誌,新聞,本を読む時間 [9]
  内容 [10][12]
・テレビ [13][17][20][21][22][24][31][32]
  視聴するテレビ番組の内容  [10]
  視聴態度 [11]
  見せたい番組・見せたくない番組  [24]
  テレビの影響 [32]
  Vチップ [32]
・ラジオ [20]
・ビデオ [14][20][26]
・テレビゲーム [22][26][28][31]
・マンガ [11][16][22]
・パソコン・インターネット [18][28][29][30]
  ポルノ・残虐画像 [30]
  フィルタリングソフト [30]
・CD [26]
・電話・ポケットベル [23][26][27]
  テレクラなど [23][27]
・携帯電話 [33]

 年齢別に整理すると,小学生,中学生,高校生,短大・大学生,大学生以上,保護者を対象とした調査に分けることができる。この他には,学校([29][30]),レンタルビデオ店([14])を対象とした調査もある。

・小学生 [13][14][15][17][18][21][22][26][28][29][31][32]
・中学生 [10][12][14][15][16][18][19][20][23][25][26][27][29][31][32]
・高校生 [9][11][14][15][16][18][19][20][23][25][26][27][30][32][33]
・短大・大学生  [14][15][25][30]
・大学生以上 [15][25]
・保護者 [14][18][20][21][23][24][26][29][30][31][32][33]

[9]財団法人日本青少年研究所事務局による「高校生の読書調査―日米比較―」(1990) 
 
アメリカと日本の高校生計2,086名(日本:1,093名)を対象として,雑誌,新聞,本等の時間,読書量,本・マンガの好き嫌い,好きな作家,感動した本,面白かった本などについて尋ねた調査。

[10]福武書店教育研究所モノグラフ担当による「情報化社会と教育研究所」(1990) 
 
中学生2,713名を対象として,見るテレビ,新聞,雑誌の内容について尋ねた調査。

[11]東京大学教育学部教育社会学研究室による「高校生の生活と意識に関する調査」(1990~1991) 
 高校生1,215名を対象として,テレビの視聴態度,マンガ,1日の行動パターン,友人関係,性役割観,自己意識などについて尋ねた調査。

[12]福武書店教育研究所モノグラフ担当による「中学生にとっての読書」(1991) 
 中学生1,425名を対象として,読書が好きか,読んでいる雑誌の種類について尋ねた調査。

[13]千葉県総合教育センター教科領域部による「子どもの生活実態を採る調査研究」(1991) 
 
小学校高学年2,807名を対象として,テレビ,塾,習い事,1日の時間の過ごし方について尋ねた調査。

[14]東京都生活文化局婦人青少年部企画課による「ビデオソフトの青少年に与える影響に関する調査」(1991) 
 小学生,中学生,高等生とその保護者(1,748名),短大・大学生(318名),レンタルビデオショップ(64店舗)を対象として,ビデオ利用状況,性格,生活態度,問題行動,性的行動,ホラー,アダルトビデオの利用状況と影響,保護者のビデオに対する意識などについて尋ねた調査。

[15]総務省青少年対策本部調査係による「第2回情報化社会と青少年に関する調査」(1991) 
 10~29歳4,575名を対象として,青少年のメディアとの接触状況について尋ねた調査。

[16](財)日本性教育協会による「青少年とマンガ・コミックスに関する調査」(1991) 
 中学生,高校生計1,800名を対象として,情報接触,マンガ,性情報メディアと性意識・性行動,性のイメージと性情報,友人関係と家庭イメージ,青少年文化的意識とメディア,非行少年とメディアについて尋ねた調査。

[17]福武書店教育研究所による「モノグラフ・小学生ナウ テレビ」(1991) 
 小学校高学年1,699名を対象として,テレビ視聴時間,テレビのマルチメディア利用,メカ所有,テレビに関する気持ち,テレビを見るきまりについて尋ねた調査。

[18]東京都生活文化局女性青少年部青少年課による「青少年をとりまくメディアに関する調査」(1992~1993) 
 小学校高学年,中学生,高校生とその保護者計3,584名を対象として,メディア機器の保有状況,パソコン利用やパソコンに対するイメージなどについて尋ねた調査。

[19]総務省青少年対策本部調査係による「情報化社会における非行少年の意識に関する研究調査」(1993) 
 一般少年(中学生,高校生)1,390名,非行少年1,175名を対象として,情報の取り入れを制御する要因,取り入れる情報の量・内容,青少年の意識・態度,行動について尋ね,情報化社会が青少年の意識・行動,非行等の問題行動にどのように関係しているのかを検討した調査。

[20]総務省青少年対策本部非行対策係による「青少年とアダルトビデオ等の映像メディアに関する調査研究」(1993) 
 中学生・高校生1,914名と保護者1,914名を対象として,適応性,テレビ,ラジオ,アダルトビデオ,ホラービデオへの接触,残酷・エッチなビデオへの接触,異性との交流,性役割に対する意識,有害メディア接触への許容意識(青少年調査),有害性が懸念される映像メディアへの子供の接触に関する配慮と認知など(保護者調査)について尋ねた調査。

[21]愛知教育大学養護教育教室による「生活リズムにおけるテレビ視聴と疲労」(1993) 
 
小学校5年生とその保護者349名を対象として,生活時間,疲労感,親の子どものテレビ視聴への認識,子どものテレビ視聴に関する自己評価,親の子どものテレビ視聴との関連などについて尋ねた調査。

[22]NHK放送文化研究所世論調査部による「第3回NHK『小学生の生活と文化』」(1994) 
 
小学校高学年1,043名を対象として,テレビ,マンガ,テレビゲーム,アニメ,学校生活,親子関係などについて尋ねた調査。

[23]総務庁青少年対策本部非行対策係による「青少年と電話などに関する調査研究」(1995) 
 中学生・高校生2,348名とその保護者2,348名を対象として,電話,ポケットベル,電話,テレクラやツーショットダイヤルの認知,利用実態,倫理観などについて尋ねた調査。

[24](社)日本PTA全国協議会による「子を持つ親がテレビに期待すること」(1995) 
 
全国の小・中学生の子どもをもつPTA会員1,200名を対象として,テレビの視聴状況,テレビ番組嗜好,見せたい番組,見せたくない番組,しつけなどについて尋ねた。

[25]総務庁青少年対策本部調査係による「情報化社会と青少年に関する調査」(第3回)(1996) 
 青少年(12~29歳)3,803名,調査対象の青少年のうち12~17歳までの父母1,642名を対象として,青少年のメディアとの接触状況(青少年調査),親のメディアとの接触状況(保護者調査)などについて尋ねた調査。

[26]青森県環境生活部青少年課による「青少年の意識に関する調査(青少年のメディア所有・使用状況とメディア観)」(1996) 
 県内の小学生(349名),中学生(340名),高校生(293名)とその保護者(982名)を対象として,メディア所有,メディアの使い方,テレビゲーム,CD,電話,ホラービデオの視聴(青少年調査),メディアの使い方,メディアの使用経験,テレビゲーム,CD,電話,ホラービデオ等の影響(保護者調査)などについて尋ねた調査。

[27]山梨県教育委員会学校教育課による「中・高校生の電話などに関する調査」(1996) 
 
中学生,高校生計7,928名を対象として,電話,ポケットベル,テレホンクラブやツーショットダイヤルへの接触状況や倫理観について尋ねた調査。

[28](株)ベネッセコーポレーション「子どもとメディア」(1997) 
 小学校5・6年生2,514名を対象として,電子メディア体験,テレビゲーム,パソコン,メディアと友だちづきあいなどについて尋ねた調査。

[29]総務庁青少年対策本部企画調整係による「青少年の情報通信を活用したコミュニケーションに関する調査」(1997) 
 小学生・中学生(2,287名)とその保護者(2,246名),学校(31校)を対象として,情報通信機器の所有・使用状況,インターネットの利用に対する意識(小・中学生に対する調査),情報通信機器の使用状況,子どもが利用することに対する意識(保護者),パソコン等の設置状況など(学校)について尋ねた調査。

[30]総務庁青少年対策本部非行対策係による「青少年とパソコンに関する調査」(1997) 
 
高校生・大学生(2,008名),高校生の保護者(1,521名),高等学校(1,078校)を対象として,情報機器所有(青少年調査),パソコン,インターネットの関わり,ポルノ画像や残虐画像への接触状況など(青少年調査,保護者調査),パソコン設置・利用状況,インターネットの利用状況,フィルタリングソフト,インターネット上のポルノ画像や残虐画像に対する意見などについて尋ねた調査。

[31]総務庁青少年対策本部非行対策係による「青少年とテレビ等映像メディアに関する調査」(1998) 
 小学生・中学生(3,243名)とその保護者(3,131名)を対象として,学校・家庭生活(青少年調査),テレビ視聴,テレビゲーム(青少年調査,保護者調査),規制・対策(保護者調査)について尋ねた調査。

[32]社団法人日本民間放送連盟による「テレビと児童・青少年に関する調査」(1998) 
 
首都圏の小学生とその母親(145組),中学生とその母親(148組),高校生(145名),小学1~2年生の子どもをもつ母親(144名)を対象として,テレビとの接触状況,テレビの影響(子ども,母親),テレビ視聴への親の関心・管理,格付け・Vチップへの反応(母親のみ)などについて尋ねた調査。

[33]総務庁青少年対策本部非行対策係による「青少年と携帯電話に関する調査」(1999) 
 
高校生(3,113名),保護者(2,881名)を対象として,携帯電話の利用などについて尋ねた調査。

3.3. 2000年代以降に実施された調査

 2000年代に実施された調査には,次の38件([34]~[71])がある。これらの調査を,対象メディア別に整理すると,メディア所有・利用,読書,新聞,マンガ,テレビ,テレビゲーム,パソコン・インターネット,携帯電話・PHSに分けることができる。

 また,メディアからの情報([52]),テレビ番組のモニタリング調査([51]),テレビ・ゲーム・パソコンのルール([58]),情報リテラシーの状況と課題([62])について検討した調査も見られる。

・メディア所有・利用 [38][41][43][52][54][55][61][64][68][69][70][71]
  メディアへの関心 [41]
  子どもへの影響 [41]
・読書 [34][66]
・新聞 [37]
・マンガ [62]
・テレビ [36][37][42][43][46][47][48][49][53][54][55][57] [60][62][65][66]
  「子どもに見せたくない」テレビ視聴の実態  [45]
・テレビゲーム [36][43][46][48][54][62][66]
・パソコン・インターネット [36][38][42][50][52][53][62][63][65][67][71]
  フィルタリング・サービスの認知 [71]
・携帯電話・PHS [35][36][37][38][39][40][42][44][45][50][52][56] [59][62][63][65][71]
  出会い系サイト・テレクラ [39][53]
  マナー・指導 [40]
・有害情報 [38]

 年齢別に整理すると,小学生,中学生,高校生,短大・大学生,大学生以上,保護者を対象とした調査に分けることができる。この他には,学校([40]),教員([59]),校長([63])を対象とした調査もある。

・小学生 [34][35][40][41][42][43][45][46][47][48][49][52][53] [54][57][60][62][64][65][66][68][71]
・中学生 [34][35][36][38][39][40][41][42][43][44][45][49][50] [52][53][54][55][57][59][62][64][65][66][69][71]
・高校生 [34][36][37][38][39][40][41][44][50][55][56][59][64] [65][67][70][71](15歳以上[52])
・短大・大学生  [38][71]
・大学生以上 [38][71]
・保護者 [35][36][38][41][42][43][45][51][52][53][54][56][57] [58][59][60][61][62][65][71]

[34]公文教育研究会くもん子ども研究所による「読書について」の調査(2000) 
 小学校高学年から高校生まで計669名を対象として,読書が好きか,父親・母親の読書状況などを尋ねた調査。

[35](株)ライフデザイン研究所による「子どもの携帯電話利用に関する調査」(2000) 
 
10~14歳の子どもとその母親(482組),8~9歳の子どもの母親(136名)を対象として,携帯電話の利用状況(子ども,保護者),携帯電話に対する意識(子ども),家庭における電話利用のルール,子どもの携帯電話利用に対する懸念(母親)などについて尋ねた調査。

[36]社団法人日本PTA全国協議会による「家庭におけるテレビメディア・社会環境についての意識調査」(2000) 
 保護者4,070名,中学生・高校生4,347名を対象として,テレビ,パソコン,ゲーム機,携帯・PHSなどの利用や,メディア利用への意識などについて尋ねた調査。

[37]ベネッセ教育研究所による「高校生とメディア」調査(2001) 
 高校生1,929名を対象として,携帯電話・PHS,音楽,ことば,新聞・テレビのニュースについて尋ねた調査。

[38]内閣府政策統括官青少年調査担当による「情報化社会と青少年に関する調査」(第4回)(2001) 
 青少年(12~29歳)3,486名,調査対象の青少年のうち12~17歳までの父母1,111名を対象として,メディアとの接触状況,携帯電話(PHS)・インターネットの利用実態および意識(青少年調査,保護者調査),有害情報への関心(保護者調査)などについて尋ねた調査。

[39]秋田県教育庁義務教育課による「中高生に対する携帯電話等に関するアンケート」(2001) 
 中学生,高校生計1,168名を対象として,携帯電話,出会い系サイト,テレクラについて尋ねた調査。

[40]千葉県教育庁学校指導部指導課による「携帯電話等に関する調査」(2002) 
 千葉県内の小学生,中学生,高校生計18,995名と学校を対象として,携帯電話,携帯電話所持による生活の変化,マナーに関する意識等(児童生徒に対する調査),指導の状況,保護者等に対する協力依頼状況等(学校に対する調査)を尋ねた調査。

[41]東京都生活文化局都民協働部青少年課による「青少年をとりまくメディア環境調査」(2001) 
 東京都内の小学生,中学生,高校生およびその保護者計4,495名を対象として,各種メディアの利用(テレビ,ゲーム,パソコン,携帯,インターネット,携帯を通じた出会い,特殊な情報へのアクセス,メディアへの関心)など(児童・生徒への調査),各種メディアの利用,子どもへの影響など(保護者への調査)について尋ねた調査。

[42]社団法人日本PTA全国協議会による「家庭におけるテレビメディア 青少年とインターネットなどに関する意識調査」(2001) 
 小学生,中学生とその保護者計10,590名を対象として,テレビ,パソコン,インターネット,携帯・PHSの利用などについて尋ねた調査。

[43]放送と青少年に関する委員会による「青少年へのテレビメディアの影響調査」(第1回)(2001) 
 小学生とその保護者(1,006名),中学生とその保護者(216名)を対象として,子ども専用の機器所有,テレビ視聴時間,テレビ観,テレビゲーム観・使用状況,生活習慣,社会観・規範意識などについて尋ねた調査。4年間の追跡調査を実施。

[44]警察庁安全局少年課企画係による「青少年の意識・行動と携帯電話に関する調査」(2002) 
 中学生,高校生,また,調査期間内に各都道府県警察の少年部門で取り扱った触法少年,検挙された犯罪少年(中学生,高校生)のうち,同意が得られた者(計4,384名)を対象として,携帯電話利用状況,放課後の生活状況,暴力欲求などについて尋ねた調査。

[45](社)日本PTA全国協議会による「家庭教育におけるテレビメディア 青少年とインターネット等に関する意識調査」(2002) 
 小学生,中学生,その保護者計10,042名を対象として,テレビ視聴,パソコン,インターネット,携帯・PHS,「子どもに見せたくない」テレビ番組のテレビ視聴の実態などについて尋ねた調査。1995年(平成7年)より継続して実施。

[46]お茶の水女子大学大学院人間文化研究科による「テレビ・テレビゲームの暴力が児童の攻撃性に及ぼす影響」(2002) 
 小学生679名を対象として,テレビ視聴時間・視聴シーン,テレビゲームで遊ぶ時間・接触シーン,攻撃性,共感性,暴力抑制規範などについて尋ねた調査。

[47]お茶の水女子大学大学院人間文化研究科による「テレビ番組が子どもの認知能力と情報活動の実践力に与える影響」(2002) 
 小学校5年生172名を対象として,テレビ接触量,認知能力,情報活用の実践力について尋ねた調査。NHKなどによる「子どもによい放送プロジェクト」の一環として行われた調査。

[48]お茶の水女子大学大学院人間文化研究科による「テレビ・テレビゲームの暴力の保護者への教育的介入効果」(2003) 
 小学校6年生523名を対象として,テレビ・テレビゲームの時間制限・内容制限・共視聴,テレビ・テレビゲームへの態度などについて尋ねた調査。

[49]お茶の水女子大学大学院人間文化研究科による「テレビ番組が子どもの認知能力と情報活用の実践力に与える影響」(2003) 
 小学生,中学生計294名を対象として,テレビ接触量,認知能力(小学生のみ),情報活用の実践力について尋ねた調査。NHKなどによる「子どもによい放送プロジェクト」の一環として行われた調査。

[50]神奈川県教育庁教育部高等教育課による「携帯電話・PHS及びアルバイトに関する調査」(2003) 
 中学生(携帯電話についての調査3,688名),高校生(携帯電話についての調査17,145名,アルバイトについての調査15,849名)を対象として,携帯所有,利用内容,利用頻度,自分の変化(中学生,高校生の携帯電話についての調査),パソコンの利用目的(高校生の携帯電話についての調査)などについて尋ねた調査。

[51](社)日本PTA全国協議会による「テレビ番組のモニタリング調査」(2003) 
 全国の小学生,中学生の保護者9,754名を対象として,意識調査の結果に基づく6番組のモニタリング調査を実施。

[52]大阪府生活文化部子ども青少年課による「青少年メディア環境調査」(2003) 
 大阪府在住の小学生,中学生,15歳以上の青少年,その保護者を対象として,メディアの利用,携帯電話・PHS,パソコン,メディアからの情報,生活などについて尋ねた調査。

[53](社)日本PTA全国協議会マスメディア調査委員会による「青少年とインターネット等に関する意識調査」(2003) 
 小学生,中学生,その保護者計10,097名を対象として,1日のテレビ視聴時間,よく見るテレビ番組のジャンル,保護者のテレビ視聴への関与,パソコン,インターネット,電子メールの利用状況,出会い系サイト・アダルトサイトの認知と利用などについて尋ねた調査。

[54]放送と青少年に関する委員会「青少年へのテレビメディアの影響調査」(第4回)(2004) 
 小学生(301名),中学生(778名),その保護者を対象として,子ども専用の機器所有,テレビ視聴時間,テレビ観,テレビゲーム観・使用状況,生活習慣,社会観・規範意識などについて尋ねた調査。

[55]お茶の水女子大学子ども発達教育研究センターによる「変容する電子メディア環境における青少年の人間形成長の諸問題と,その支援に関する社会臨床論的研究」(2004) 
 中学生,高校生1,623名を対象として,メディアの使用時間,パーソナリティ,対人関係等に関する項目について尋ねた調査。

[56]鹿児島大学教育学部家庭科教育研究室による「情報化社会における家族のコミュニケーションのあり方について」(2004) 
 高校生とその保護者計1,111名を対象として,携帯の保有状況,使用状況,家族のコミュニケーションのあり方の変化,携帯電話に関する教育のニーズについて尋ねた調査。

[57]社団法人日本PTA全国協議会による「子どもの心に影響を与える有害情報問題の取り組み」(2004) 
 小学生(2,469名),中学生(2,567名),PTA会員(4,790名)を対象として,テレビ,インターネットの利用状況,子どもの教育のための社会環境について尋ねた調査。

[58]島根県地域家庭教育推進協議会生涯学習課による「家庭における親の子どもへの関わり方と意識に関する調査」(2005) 
 島根県の幼児,小学生,中学生の保護者(2,173名)を対象として,生活,テレビ・ゲーム・パソコンのルール,自主性,積極性,忍耐力などについて尋ねた調査。

[59]国立大学法人群馬大学による「青少年を対象とした携帯・インターネット・リテラシーの研究」(2005) 
 中学生,高校生,PTA,教員を対象として,携帯電話利用実態調査(中・高校生調査),指導能力など(保護者,教員向け調査)を尋ねた調査。

[60]武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科による「子どもの生活習慣と意識」(2005) 
 西宮市の小学生(24,849名)とその保護者(19,175名)を対象として,テレビの視聴時間と自尊感情などについて尋ねた調査。

[61]ベネッセ教育研究開発センター教育調査室による「幼児の生活アンケート 東アジア5都市調査」(2005) 
 東京・ソウル・北京・上海・台北で行われた,幼児の生活の様子,保護者の子育てに関する意識と実態(メディアとのかかわりを含む)に関する調査。

[62]社団法人日本PTA全国協議会による「子どもの心に影響を与える有害情報問題の取り組み」(2005) 
 小学生(2,014名),中学生(1,933名),その保護者(3,682名)を対象として,テレビ,携帯,インターネットの利用状況,ゲーム・マンガの接触状況,情報リテラシーの状況と課題について尋ねた調査。

[63]全国連合小学校校長会事務局による「『少年非行』に関する問題と未然防止のための方策」(2005) 
 各都道府県の校長10名ずつ(計463名)を対象として,少年非行の内容と件数,携帯電話所有率,パソコン使用率,インターネット等の掲示板・チャットの利用,問題事例などについて尋ねた調査。

[64]青森県青少年・男女共同参画課による「青少年の意識に関する調査」(2006) 
 青森県内の小学生,中学生,高校生計1,494名を対象として,家族,学校,友だち,メディア・コミュニケーションなどについて尋ねた調査。

[65]岡山県青少年課による「青少年の意識等に関する調査」(2006) 
 岡山県内の小学生,中学生,高校生計2,267名とその保護者2,311名を対象として,生活実態(テレビ,携帯,インターネット等),勉強,学校,悩みなど(青少年調査),子どもとの接触状況,子育て,しつけなど(保護者調査)について尋ねた調査。

[66]神戸市教育委員会による「児童生徒の学習に対する意識・生活実態調査」(2006) 
 神戸市内の小学生,中学生計2,517名を対象として,学習時間,睡眠時間,テレビやテレビゲームの時間,読書,ボランティア体験などについて尋ねた調査。

[67](財)日本青少年研究所による「高校生の意欲に関する調査―日・米・中・韓4ヶ国比較―」(2006) 
 高校生(対象人数不明)を対象として,進路と希望,生活意識と人生目標,インターネットの利用などを尋ねた調査。

[68]Benesse教育研究開発センターによる「第4回学習基本調査(小学生版)」(2006) 
 小学生2,726名を対象として,好きな教科,学習の方法,学習上の悩み,社会観・価値観,メディアの利用などについて尋ねた調査。

[69]Benesse教育研究開発センターによる「第4回学習基本調査(中学生版)」(2006) 
 中学生2,371名を対象として,好きな教科,学習の方法,学習上の悩み,社会観・価値観,メディアの利用などについて尋ねた調査。

[70]Benesse教育研究開発センターによる「第4回学習基本調査(高校生版)」(2006) 
 高校生4,464名を対象として,好きな教科,学習の方法,学習上の悩み,社会観・価値観,メディアの利用などについて尋ねた調査。

[71]内閣府政策統括官(共生社会政策担当)による「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査」(2007) 
 青少年(10~29歳)2,468名,調査対象の青少年のうち10~17歳までの保護者1,145名を対象として,メディアの利用状況,携帯電話(PHS),パソコン,インターネットの利用状況(青少年調査),子どもの携帯電話(PHS),インターネットの利用状況,フィルタリング・サービスの認知,利用など(青少年調査,保護者調査)について尋ねた調査。

3.4. おわりに

 本章では,最近約20年(1987年~2007年)の文献を年代別に分け,メディアの種類別,対象年齢別に整理した結果,いくつかの年代を通じての特徴,年代ごとの特徴が示唆された。

 年代を通じての特徴としては,次の2点があげられる。まず,第1には,読書(「学校読書調査」を含む),テレビ,テレビゲーム,パソコン,マンガへの接触についての項目が共通して見られること,第2には,1980年代から継続して,数は多くなかったものの,有害情報への接触,有害情報への意識,テレビ番組のモニタリングなど,子どもたちにネガティブな影響を及ぼしうる情報についての調査が見られることである。

 年代ごとの特徴としては,年代が進むと,パソコン・インターネットや,携帯・PHSの利用についての調査が多くなっていた。

 調査対象の年齢の特徴としては,小学生から高校生までが多かったことに加えて,保護者を対象とした調査も多いことが指摘できる。

 今後は,同様の項目を用いた継続調査の実施が望まれる。レビューした調査の中には,「情報化社会と青少年に関する調査」や「家庭教育におけるテレビメディア 青少年とインターネット等に関する意識調査」のように,複数回,複数年続けて行われている調査もあったが,その数は少なかった。冒頭で述べた「学校読書調査」のように,50年以上に渡り同じ項目を用いて継続調査を行うことは難しいが,その時代ごとの子どもたちのメディア利用行動の特徴を捉えていくために,読書以外にも,「日本人の生活時間」(NHK放送文化研究所)のように一定間隔(5年ごとなど)で,同じ年齢を対象とし,同じメディア項目を用いた大規模な調査が実施されていくことを期待したい。(鈴木)

参考文献

文部科学省 (1989-2007). 青少年問題調査年報1-20. 文部科学省スポーツ・青少年局.

4. 先行研究レビュー

  • 参照(27356)

4.1. 公立・学校図書館に関わる子どもの情報行動

  • 参照(23286)

 本節では,公立図書館および学校図書館に関わる子どもの情報行動についての研究を,次の6つに分けて概観する。すなわち,1.利用者研究・調査,2.利用者教育と情報リテラシー教育,3.検索ツール・システム,4.図書館ホームページ,5.電子図書館,6.図書館担当者,である。

 なお,本研究では「子ども」の範囲を0歳から19歳までとしているが,ここでは,大学生の大学図書館利用に関するものは除外した。

4.1.1. 利用者研究・調査

(1)図書館利用研究と情報利用研究

 利用者研究は,1960,70年代に盛んに行われてきた領域で,厳密に言えば,利用者研究・調査(user study / survey)と利用研究・調査(use study / survey)に分けられる。

 田村俊作(2001)は「情報利用をめぐる研究」のなかで「図書館利用者調査」と「図書館利用調査」の概念を次のように整理している。「図書館利用者調査は,利用者や非利用者の意見・態度・行動に焦点をあわせた調査で,図書館利用調査は貸出しやレファレンス・サービスなどの図書館サービスの利用に焦点をあわせた調査のことを言うが,実際のところは両者がさほど厳密に区別されて使われているわけではない」1。したがって,田村の述べる「実際のところ」を考慮して,以下では両者を含めて,「利用者研究・調査」という語を用いることとする。

 また,利用者研究においては,一般に「図書館利用」と「情報利用」は区別して考えられている。「図書館」という枠を設定した図書館利用研究に対して,情報利用研究はさらに拡大した研究範囲をもつ。田村(2001)は, Wilsonの文献を紹介して情報利用研究の範囲を次のように記している。「情報探索行動,図書館情報サービスの利用,利用結果に対する満足・不満足,他の人々との情報交換,他の人々への情報伝達など,非常に広範に渡っている」2。情報利用研究は,とくに1974年にZurkowskiが「情報リテラシー」という概念を提唱して以来,顕著になってきた研究領域である。この情報利用研究については,「4.2.1.情報行動研究の流れ」で詳しく取り扱っているため,本節では「図書館利用」に関する利用者研究・調査を主に扱う。

 利用者研究の動向については,渡辺智山(1996)が,方法論という観点から,行動主義的観点と認知的観点に分けて考察している。1960年代から1970年代の利用者研究は「貸し出し記録であるとかレファレンスに於いてなされた質問の記録などを基盤にした研究,言い換えれば“利用量”を主眼においた研究」3で,行動主義的な見方による研究であった。1980年代初頭には「情報探索行動モデル」の構築に関する研究が出てくるが,1980年代半ばに,「情報の要求を分析するという流れと,図書館を含む研究環境および社会環境の“コンピュータ・機械”化という流れとが結び付き,利用者を“心的”観点から捉えようとするアプローチが台頭してきた」4と,渡辺は捉えている。

(2)学校図書館に関わる利用者研究・調査

 これまでの研究では,公立図書館や大学図書館における利用パターンや利用者満足度調査が実施され報告されてきた。これらは理論的研究というより実態調査がほとんどであり,しかも児童生徒を対象としたものは数少ない。

 児童生徒を対象としたものとしては,まず,古賀節子(1992a, 1992b)の調査がある。都立高校2校の1年生338名,私立高校2校の3年生366名を対象に,興味・関心の対象とそれに関した情報の入手経路及び学校図書館の利用状況との関わりを明らかにすることを目的に実施したアンケート調査である。興味・関心のある事柄についての情報の入手経路は,4校の男女とも(1)「本や雑誌を買う」(2) 「テレビ(ラジオ)を見る(聴く)」,(3) 「友人に聞く」の上位3位は共通であった。全体的に(1) と(2) で7割を占め,「図書館利用」は6.6%,「学校図書館の利用」は3.3%にすぎなかった。

 学校図書館をあまり利用しない理由として「読みたい資料がないから」と回答した生徒の興味・関心は,男女合わせると,(1) スポーツ,(2) 音楽,(3) 車・バイク・鉄道・飛行機,(4) 料理・手芸・ファション・インテリアの上位4位で全体の60%を占める。このような生徒たちにどのように対応し,「図書館本来の教授・学習機能を発揮できるようになるか」について,図書館として考えられる策を古賀は6項目挙げている。

 全国学校図書館協議会と毎日新聞社では毎年,読書調査を実施しているが,1995年の調査のなかに,「知りたいこと,疑問に思うことの解決法」という質問項目があった。小学生では「両親など家の人に聞く」(77.8%)が多く,高校生では「友人に聞く」(74.2%)が多い。中学生は「両親など家の人に聞く」(57.6%)と「友人に聞く」(54.6%)がほぼ同数であった。「学校図書館で調べる」(小5%,中1.7%,高2%),「公共図書館で調べる」(小6%,中3.6%,高2.1%),「本を買って調べる」(小3.3%,中4.5%,高5.5%)は少数であった。また,教科等の学習で図書館を使って調べている児童生徒は小78.0%,中54.0%,高33.7%とかなりの数字が見られたが,学校図書館で「調べることはほとんどない」という回答の理由の1位は「特に調べる必要を感じない」であり,学年が進むにつれてその傾向が強くなっていた(全国SLA調査部 1995)。

 桑田てるみ(2006)は,生徒の読書材選択行動と選択要因の特徴を調査した。選択要因として28項目を設定し,中学・高校の女子生徒1,000名を対象として質問紙調査と,行動観察およびインタビューを行った。面白い読書材を読みたいと思っても他人に尋ねずに自分で探す,ぶらぶらと展示を眺めながら読みたい読書材を決めている,読書量の多い生徒は本棚に直接行くことが多いなどの特徴が明らかになった。桑田は「学校図書館における読書案内方法が,面白い読書材を尋ねてくる生徒に応答する相談型の読書案内だけでは,多くの生徒の行動に対応できない。そこで,学校図書館は単に要求に答える場としてだけでなく,要求を明確にする場,あるいは要求を掘り起こす場として機能すべきである。同時に,図書館外での読書ニーズをどう掘り起こすのか,援助の方法を模索する必要もあろう」と述べている。

 学校図書館の利用について 教師を対象に調査したものもある。これは「子どもの情報行動」ではないが,学校図書館サービスにとっては教師も利用者であり教師の行動は直接・間接に子どもへ影響を与えるものであるから,ここに含めておきたい。

 安藤由美子(1991)は,教師が利用している記録情報(図書や雑誌などの記録された情報源)を12種類に分け,どのような記録情報が教育活動でどの程度利用されているかを,217名を対象に質問紙調査を行った(回答数92,回答率約42%)。その結果,教科指導においては,「特定の主題分野の知識を得るための雑誌や図書」の利用が最も高く,続いて「教科書の指導書」「教育実践に関する専門書」「研修や講座などでの配布資料」「一般の雑誌や新聞」の利用が多かった。安藤は,特別活動と生活活動における記録情報の利用についても統計を取り,記録情報の内容を「研究-実践」「背景的な知識-具体的アイデア」「教育-教育以外」という視点から分けてその利用程度を分析した。

 木村牧ほか(1994)は,箕面市の教師(小学校303名,中学校208名)と枚方市の教師(小学校83名,中学校54名)の学校図書館に関する意識や利用程度を,1993年に調査した。学校図書館の利用の仕方で小学校で最も多いのは,箕面市,枚方市ともに「自由読書」であり,次いで箕面市では「調べ学習」,枚方市では「読書指導」であった。中学校では.箕面市は「一斉利用なし」(40.4%)と「読書指導」(39.4%),枚方市では「調べ学習」(38.9%),「一斉利用なし」(31.5%)が多かった。教師自身の利用目的は,小中とも7割以上が「授業用の資料を探すため」である。利用の多かった資料は,教育専門の雑誌や新聞,教育の実践・事例集,絵や写真の載った一般図書,教科書の指導書,視聴覚資料であった。

 全国学校図書館協議会は,2006-7年度に文部科学省の新教育システム開発プログラム事業を受け,その一環として小学校35校505名の教員,中学校21校354名の教員を対象に学校図書館利用状況を調査している(全国学校図書館協議会 2007)。図書館を利用する教員が感じる学校図書館の問題点として,「必要な資料がない」「資料がみつけにくい」「児童・生徒が利用に慣れていない」「指導の支援者がいない」が上位に挙げられている。総合的な学習の時間に学校図書館を利用しない理由として,小学校教員では「教育内容から考えて利用する必要がない」と「利用できる学校図書館資料がない,または少ない」が比較的多い。また,中学校教員では「教育内容から考えて利用する必要がない」が最も多く,「利用できる学校図書館資料がない,または少ない」がそれに続くが,この2つの回答数の差は大きいという。

(3)公立図書館に関わる利用者研究・調査

 『年報子どもの図書館』(児童図書館研究会編)は子どもの図書館活動の動向を約5年ごとにまとめて刊行されるものである。この1992年版において,田中公夫(1994)は,子どもの読書離れ調査についてまとめている。児童図書館研究会が「児童の図書館利用減が人口減以上に進んでいるか」という問題意識をもとに1988年末に公立図書館の利用に関する調査を行った。その報告書(児童図書館研究会編 1989)には,「児童人口1人当たりの貸し出し冊数」「児童登録率の推移」「図書館統計を人口で割って比較すると」などが記載されているが,結論としては,「児童の図書館利用は人口以上に減っているとは一概には言えない」ということであった。

 同1992年版に,辰巳義幸(1994)は,公共図書館の子どもの利用状況についてまとめている。貸出登録者のうち児童の占める比率は,1981年に市区立図書館で49.5%,町村立図書館で51.0%であり,児童の登録率は全利用者の約半数であった。それが1990年には3分の1に減少しており,特に大都市やその周辺の都市の図書館にはこの傾向が強く見られたと指摘している。

 谷嶋正彦,久保田正啓(1995)は,1994年に近畿地方の2府4県の公立図書館245館に対して,学校からの図書館訪問(見学)状況をアンケート調査した(回答数189館,回答率77.1%)。1993年に学級を見学に招待したり図書館見学を受け入れたりした館は92.6%。受け入れたと回答した166館のうち小学校の受け入れが165館で,小学校3年生が圧倒的に多かった。図書館の対応方法としては(複数回答可)(1) 図書館利用の説明・案内(172館),(2) 実際に本を貸し出す(104館),(3) 図書館員の仕事の説明・体験(102館),(4) 紙芝居・読み聞かせ・ストーリーテリング(88館),(5) 実際に資料を探すなどの実習(23館)であった。実施後の図書館利用については(複数回答可),(1) 利用が増えた(123館),(2) 利用の仕方がうまくなった(49館)という。

 小川隆章(1997)は大学生312名を対象に,高校時代の図書館利用についてアンケート調査を行った。公立図書館よりも高校図書館の利用頻度が多いのは137名(43.9%),公立図書館のほうを多く利用したのは64名(20.5%),2つの図書館の利用頻度が似ているのは111名(35.6%)で,高校図書館は勉強場所として利用されたこと,授業に関連する本よりも他の本のほうが閲覧されることが多かったことが明らかになった。また,高校図書館を勉強場所として多く利用した者は公立図書館の利用も多い傾向があり,大学図書館でも多く勉強をする傾向を示したという。

4.1.2. 利用者教育と情報リテラシー教育

(1)利用者教育から情報リテラシー教育へ

 利用者教育(user education / instruction)は利用者研究と対となる概念といえる。利用者の探索行動や情報ニーズを把握してこそ,効率的・効果的な図書館の利用方法や情報・メディアの利用方法を伝え支援・指導することができるからである。

 『図書館情報学用語辞典 第3版』(日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編 2007)には,「利用者教育」の項目はなく「図書館利用教育(library use education)」となっているが,それは「図書館の利用者および潜在的利用者の集団を対象に計画実施される,組織的な教育活動」と定義されている。その利用者教育の内容を,野末俊比古(2001a)は(1) 図書館オリエンテーション(library orientation),(2) 図書館利用指導(library instruction),(3) 文献利用指導(bibliographic instruction),(4) 情報管理教育(information management education)の4つに分類しており,「今日では,(4) を指して「情報リテラシー教育」と呼ぶ場合が多いと考えられる」5としている。

 情報リテラシーとは,「さまざまな種類の情報源の中から必要な情報にアクセスし,アクセスした情報を正しく評価し,活用する能力」(日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編 2007)である。この同義語に「情報活用能力」という語がある。これは1986年の臨時教育審議会の「教育改革に関する第2次答申」のなかで,「情報活用能力(情報リテラシー・・・情報および情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質)」と明記されているので同義といえるが,欧米での「インフォメーションリテラシー」の概念とは若干,異なっている。この点については4.2.で詳述している。なお本節では,日本の文脈での概念の理解の仕方や欧米での概念の理解の仕方の違いなどに注意を払いつつも,便宜的に情報リテラシーという語を用いる。

 野末(2001a)は,図書館と情報リテラシーの関わりかたとして,2つを挙げている。「一つは,利用者が情報リテラシーを発揮する場としての役割を図書館が果たすことであろう。すなわち,利用者が情報リテラシーという知識と技術を使って情報を探索・利用するための環境を図書館が提供することであり,もう一つは,「図書館が情報リテラシーの育成機関,すなわち情報リテラシーを習得・向上する場としての役割を果たすことである。また学校図書館における情報リテラシー教育は,(1) 目標となる情報リテラシーの到達点・達成点を設定しやすい,(2) 対象者である児童・生徒の能力や経験などがある程度一律に想定できる,(3) 図書館員(司書教諭・学校司書)の教育的役割が期待され,また発揮しやすい,という条件を基盤に,利用者教育の目標を情報リテラシー教育の中に位置づけてゆくというかたちで展開されている」6と述べている。

 利用者教育は従来,図書館及び図書館資料に関する利用法の指導が中心であったが,今や学校図書館という枠を越えて,学校全体における情報リテラシー教育に関わることへと拡大してきた。利用者教育は,情報リテラシーという概念をもとに,再構築されてきているとも言える。

 なお,日本図書館情報学会による図書館情報学に関する文献データベース「BIBLIS」を用いて,ディスクリプタによる検索を行うと,「児童図書館 利用者教育」「児童図書館 利用教育」は共に0件,「学校図書館 利用者教育」15件,「学校図書館 利用教育」51件であり,この領域の研究は,主に学校図書館でなされていることがわかる。 

(2)レビュー文献

 海外の利用者教育や情報リテラシー教育に関する研究のレビューはこれまでになされてきたが,2001年以降の利用者教育に関する日本語文献をレビューした野末(2003)は,国内の研究を対象としたレビュー研究が登場したことに注目している。

 しかし,学校図書館における利用者教育や情報リテラシー教育に関する研究のレビューは少ない。まずは,野末(2001b)が,米国における利用者教育の動向について,大学・学校図書館における基準や指針をとりあげて概観しているものがある。

 そのほか安藤友張(2002)が,1999年から2001年のこの領域の研究をまとめているなかに,「学校図書館」の部分がある。そこでは,海外の研究を含めて9つの研究が紹介されている。

 増田和子(2003a)は,各国の情報リテラシー教育事情を紹介し,情報リテラシー研究の流れを押さえているが,とくに「日本の情報リテラシーに関する研究」のなかで「学校図書館と情報リテラシーの育成」や「初等教育における情報リテラシー育成の研究」をまとめている。

 なお,児童生徒を対象にしたものではないが,情報リテラシー全般に関わる研究を詳しくレビューしたものとして,Loertscher & Woolls(2002)によるInformation literacy: a review of the research: a guide for practitioners and researchers ( 2nd ed.) がある。これには258の研究がレビューされ6章にまとめられている。

(3)理論的・実証的研究

 わが国の学校図書館に関する理論的研究には,海外研究を基にしたものが多い。学校図書館界における利用教育から情報リテラシー教育への流れは,海外研究の紹介によってもたらされたといえる。

 まず福永智子(1993)が,米国における学校図書館を対象にした利用者教育研究の動向を,利用者教育の制度化と理論化という2つの面から整理した。利用者教育の制度化として,利用者教育と学校教育の関係を「関連なし」「関連」「統合」の3段階ととらえ,さらに理論化として,そのアプローチからやはり3段階としてとらえた。

 続いて福永(1994)は, Kuhlthauの情報探索プロセスモデルに関する研究を中心に,米国のこの領域の研究の理論化をはかった。Kuhlthau は,1980年代の米国の利用者教育研究の転換により出現した「第2世代[研究者]の中で・・・もっともまとまった研究業績をあげている研究者」7といわれ,情報探索プロセスモデルを,「感情」「思考」「行動」の面から分析したところに特徴がある。

 次に平久江祐司(1996)が,米国の教育界で関心の寄せられている批判的思考の意義を考察し,情報の評価スキルとして批判的思考が応用できること,批判的思考は学ぶ力の中核となる能力であること,わが国の学校図書館利用教育に批判的思考の概念を取り入れることが情報活用能力の育成に有効であることを示した。

 さらに平久江(1997)は,学校図書館利用教育モデルとして,Eisenbergの情報問題解決モデルをとりあげ,学校図書館利用教育の体系化と教科教育との統合化という視点から考察した。

 海外の研究を参考に,日本図書館協会では,『図書館利用教育ガイドライン学校図書館(高等学校)版』を1998年に発表した。これは,大学図書館版や公共図書館版等とともにまとめられて『図書館利用教育ガイドライン合冊版』(日本図書館協会図書館利用教育委員会編  2001)として2001年に出版された。これには,利用教育の目標と方法が,「印象づけ」「サービス案内」「情報探索法指導」「情報整理法指導」「情報表現法指導」の5領域に分けて表示されている。

 米国では,1920年を初めとして1925,1945,1960,1969, 1975, 1988, 1998年に学校図書館基準が発表されてきた。1975年以降の基準は,翻訳刊行されている(アメリカ・スクール・ライブラリアン協会, 教育コミュニケーション工学協会共編 1977, 1989, 2000)。1998年に発表されたInformation power : building partnerships for learning (邦訳は,アメリカ・スクール・ライブラリアン協会, 教育コミュニケーション工学協会共編 2000の『インフォメーション・パワー:学習のためのパートナーシップの構築』)に関して,岩崎れいほか(2002)が,1999年から2001年の学術雑誌に掲載された関連文献(英文)16件を分析して,このガイドラインがどのように評価・言及されているかを考察した。

 一方,須永和之(1999)は英国のモデルについて,「英国では,1970年代末から個別学習の重要性と学校図書館の利用教育が問い直され,80年代の初頭にかけて情報活用能力に関する研究報告書,研究論文が発表された」8とまとめている。須永は,英国,米国,豪州で発表された情報活用モデルをたどりながら,それらを統合してHerringが作成したPLUSモデルについて考察した。

 日本図書館学会の『論集・図書館学研究の歩み』第14集(1994)は,利用者教育がテーマであった。このなかで渡辺信一(1994)は,学校図書館界では「利用指導」と呼ばれてきたこの語の定義や意義を述べ,問題提起をしている。

 日本図書館情報学会(旧日本図書館学会)の新シリーズ「シリーズ・図書館情報学のフロンティア」No.5は『学校図書館メディアセンター論の構築に向けて』という題名で2005年に刊行され,学校図書館が取り上げられた。そのなかで須永(2005)は,情報活用教育の基底にある教育の問題を明らかにし,情報活用教育の3つの局面に共通する問題点を指摘している。同書において野末(2005)は,情報リテラシーの概念や,種々のリテラシーとの関連を押さえ,情報リテラシー教育と学校図書館との関わりを理論的に検討した。

 その他には,照井恒衛(2000)の研究がある。照井は,学校図書館教育の内容として7項目挙げたが,そのひとつが情報リテラシーであり,その情報リテラシーの構成要素のひとつとしてメディア・リテラシーを捉えた。そしてメディア・リテラシーの教育プログラムの試案(高等学校版)を提示した。

 平久江(2001)は,図書館利用教育において情報の評価能力を育成することが必要であり,そのためのプログラムに求められる条件として,次の3点を示した。すなわち(1) 教科学習や調査研究等における問題解決のための情報行動を支援すること,(2) 情報探索の一般的なモデルを通して情報探索戦略のプロセスを習得させること,(3) 情報の評価のためのスキルを習得させることである。

 有吉末充(2002)は,学校図書館で情報メディア教育を行うメリットは,図書館自体をひとつの教材として活用できることだという。図書館を利用した情報メディア教育では,(1) 異なる意見を比較することができる,(2) 時間をさかのぼって情報の比較ができる,(3) メディア間での情報の比較ができる,(4) マスメディア以外の情報源を利用できるとし,情報の評価・分析法の指導の方法として,(1) 授業のなかで比較・分析法を指導する,(2) 日常的な指導のなかに比較・分析を意識的に取り入れる,(3) 生徒の独習用の教材を図書館で用意・提供する,ことを提案している。

 実証的研究としては,小田光宏ほか(2000)の研究がある。(1) 「調べ学習」の学習課題設定にマルチメディアを利用した教育方法の有効性を検証すること,(2) 一貫教育における学習履歴情報を活用した教育方法の有効性を検証すること,を目的に学習教材開発を行い,青山学院初等部4年生を対象に,実証実験を行った。

 また,原勝子(2004)は,『学校図書館利用教育に関する実証的研究』として,自身の6本の論文を1冊の本にまとめている。第1部「学校図書館の利用教育に関する日・米・加・事情の一考察」として,「インフォメーション・スキル教育の定着過程」「小学生への図書館利用教育に関する日加教師の意識比較調査」「学校図書館の実態調査から見た司書教諭講習養成カリキュラムの一考察」を掲載し,第2部「授業方法の違いによる能力開発差の一考察」として,トロント大学大学院オンタリオ教育研究所で研究中(1991~1996)に発表した3本の論文を掲載している。

(4)実践報告・事例紹介

 実践報告や事例紹介は,『学校図書館』や『情報の科学と技術』などの雑誌に多く発表されており,ここで紹介するのはほんの一部である。

(1) 学校図書館の利用者教育

 ある特定の学校図書館の利用者教育の全体像を把握できるのが,高橋元夫(1994)と青山比呂乃(2005)の事例である。

 高橋は,慶應義塾幼稚舎(小学校)の学校図書館が実施している教員向けと児童向けの利用者教育(「案内・指導」として実施)の内容・方式・展開について述べ,評価と改善に関する考察をしている。

 青山は,専任司書教諭としての実践を紹介している。勤務校の千里国際学園は帰国生徒・在日外国人生徒・一般生徒が同じ建物のなかに共存し,諸教育活動を共に行っている。青山は,情報リテラシー教育と司書教諭としての学習支援サービスとの関係を,教科教員とのコミュニケーション,コレクション評価・構築へのフィードバック,蔵書データベースとしての目録構築,情報・資料検索の実際と指導のポイント,検索語(件名など)の概念把握,の5つの面から述べている。

 『学校図書館』599号(2000)では,「件名目録の作成と利用」の特集を組んでいる。そのなかで,白井文子(2000)は,慶應義塾幼稚舎児童図書室による5年生への件名目録検索の指導について報告している。件名目録検索の指導は,(1) 調べたい事柄の概念を国語辞典や百科事典で大まかにつかんでおく,(2) 検索できない標目はその上位概念をわかるようにする,(3) 時の話題については自分なりに件名標目を考える,ことを児童に理解させることが必要である。5年生の「図書館探検」という実習で,延べ127題の質問に挑戦した結果,調べるために用いられた資料は,目録71件(うち件名目録は45件),分類表38件,資料5件,その他16件であった。

 小高さほみ・平井雅子(2000)は,図書館オリエンテーションに家庭科を融合させて,5つのステップで件名検索を指導した。件名標目は,教育課程の変更や授業の新しい試みにより概念の大小を調整したり(例:環境→環境汚染,環境政策など),新しい語を増やしたり(例:遺伝子組み換え)する必要があり,また,語の変更があったりするので(例:成人病→生活習慣病)適切な見直しが大切であると述べている。

 検索コンテストについて報告しているのは品田健(2001)である。中学・高校において,(1) 図書検索の技術向上,(2) インターネット検索の技術向上,(3) 情報の正確さの比較検討の経験,(4) グループでの共同学習経験,を目的としたもので,3人1組で問題を解く。予選でクラス代表を選出し,決勝では国語・英語・科学情報・社会・保健スポーツ・生活一般の各ジャンルから5問ずつ計30問が出題されるというものである。

 清水理恵(1998)は,教職員向けのオリエンテーションについて述べている。教職員から声があがり,図書館や司書の役割に関する校内研修会を実施した。1年目はテーマの本を集めてほしいという依頼が最も多かったが,具体的選択は司書任せで,依頼する時には「仕事があるのにごめんなさい」,他機関から取り寄せた時には「そこまでしてくれなくてもよかったのに」という声が聞かれた。2年目には,近隣の学校では同一教科書を使用しており,必要な資料の利用時期が重なってしまうため,資料の利用時期を他校とずらしたり,司書と一緒になって資料を選択するようになるなど,教師の変化が見られたという。

 吉本智津子(2005)は高校図書館におけるパスファインダーについて紹介している。パスファインダーとは特定のトピックに関連する資料の探し方をまとめたリーフレットのことである。その内容は,「手がかりとなるキーワード」「入門的な情報源・テーマの理解」「図書:清田高校の図書館から」「新聞記事」「雑誌・パンフレット」「インターネット」の項目で構成されている。

(2) 教科学習と学校図書館

 村上浩子(2002)は,小学校全体で情報リテラシー教育に取り組んだ事例を報告している。学校図書館教育部と情報教育部が連携をとって,「学校図書館の情報・資料を活用した学習計画」を,情報教育部のコンピュータ活用の指導計画を含めて作成し,さらに「学校図書館を利用した授業の年間計画」を作成して実施した。

 総合的な学習と学校図書館の関わりについての実践報告も多い。例えば,佐藤幸江(2002)は,小学校6年生の実践を報告している。「20年後の大口の町づくり:入江川に自然を」というテーマで,「テーマ設定→川の調査方法を決める→入江川を調査したり調べる学習をしたりして問題点を明らかにする→インターネットで交流している清川村立宮ヶ瀬小学校と川についての情報交換を行う→川遊び探検をする→問題点を解決する方法をさぐる→ホームページで多くの人に発信していく」という見通しをもち活動した。

 また佐藤正代(2003)は,全日制普通科高校の実践を報告している。1,2年生の総合的な学習の時間にレポート発表を行うための利用指導をもとに,今後は具体的な指導案を準備して自習時間を活用する方法と,来年度(当時)から始まる教科「情報」と連携する2つの方法が考えられる。「情報」に対する学校図書館の優位性は,経験的にみて4点(概念を展開し整理していく図書館学の知識・技術の蓄積,著作権の知識,図書の特性,利用指導についての研究・実践の蓄積)が考えられるとしている。

 総合的な学習と図書館の連携のほか,特定の教科と学校図書館との連携についても,多くの事例がある。例えば,作田澄子(2000)は高校の保健科の課題学習と学校図書館活動について,佐久間朋子(2000)は中学の数学科と学校図書館との連携について報告している。

 海外の事例報告や紹介も『学校図書館』や『あうる』などの雑誌に多く発表されている。例えば,関口礼子の「カナダのリソースベース学習:アルバータ州の指導要領を読む」(関口 2006a)や「ペアレンティングによる図書館利用・読書指導(海外レポート)」(関口 2006b)などがある。これらは,わが国の実践や研究にさまざまな手がかりやヒントを与えてくれる。

(3) インターネットを活用した学習活動

 インターネットを活用した授業は,「100校プロジェクト」や「こねっとプラン」などで実践されてきており,教育工学などの分野での発表が多い。ここでは,特に学校図書館との関連を強調しているのではないが,図書館情報学関連誌に掲載された研究をとりあげる。

 苅宿俊文(1999)は,学校図書館の情報化に向けた試みのひとつとして,ネットワーク機能を最大限に生かした読後感を共有できる「インターネット対応の再構成型データベース系ソフトウェア」の構想を述べている。このソフトウェアは,今後増加が予想されるデジタル化された児童書を使用することが前提となっており,子どもたちは,自分が読んだところで気に入ったところをマークしたり,印象度カードを俯瞰的に並べたり,「読みの短冊」を構造化したりして,自己の「読み」を深め,「読み」を構造化したものをホームページにしたり,「読み」の違いについて意見を交換したりしながら「読み」の構造を有機的に共有することができる。

 苅宿(2000)はまた,子どもが必要なページを見つける時間を短縮するために,ホームページカスタマイズサービスを始めた。そのひとつであるアイデアノートは,読売新聞社と協力して始めたもので,その構成は,「(1) 目次,(2) 新聞記事,(3) ホームページひとっとび,(4) 新聞ほんやくロボ,(5) プロにきけ,(6) 博士にちょうせん,(7) 特派員新聞」となっている。

 増田(2003b,2003c)は,実際の川崎市長選を素材に,小学校での模擬投票を実施し,その考察・分析を行った。この学習では,学習者が模擬投票する手段(インターネット,郵送,FAX)が用意され,子どもが情報収集するためのポータルサイトが作成され,候補者に会う機会が用意された。情報収集の方法は,各候補者のホームページを読む,検索エンジン・選挙広報・市政だより・新聞記事などを活用する,候補者ヘメールで質問することなどであった。授業後のアンケートによると,児童の情報媒体には偏りがなくまんべんなく情報源が用いられており,インターネット上の即時性の高い情報をうまく使うことで,躍動感のある学習が可能になったという。

 大貫和則ほか(2006)は,高校の情報科 における情報モラル育成の授業設計を行った。

 チャットを用いた生徒自身のなりすまし体験(受信者として相手を推測する体験と,送信者として他者を演じる体験)を重視した授業と,教師による事例紹介を中心とした授業を別々のクラスに実施し,生徒が記述した内省文から,授業方法による匿名性についての気づきや違いを検討した。

4.1.3. 検索ツール・システム

 子どもの情報要求の特性を考慮して,それに対応するための組織化や検索システムの開発がなされてきたが,それらのツールやシステムは,当初は子どもに対応する図書館員が用いるためのものであった。近年では,IT及びインターネットの普及により,子どもたち自身が利用するツールやシステムの開発へと変化してきた。

(1)組織化

 矢野光恵(2006)は,幼稚園の絵本の分類について考察している。幼児向け絵本は主題を特定するのが難しい。日本十進分類法(NDC)のように細分化するよりは包括的な分類にとどめておくほうが絵本には向いていると考え,ある私立大学附属幼稚園の絵本を対象に予備調査をし,その課題を明確にして,実際に7つの大分類,そのもとでの中分類,小分類の分類表を作成した。

 新井栄子(1990,1994)は,読書相談に対する図書館側のツールが何もないことから,市立図書館のコンピュータシステムのバージョンアップを契機に「児童図書の件名目録」を作成した。見計い選定時に主人公と主題を抽出し,書誌データに加える。「『件名検索』の意義は,本の内容を検索できることであり,書名中のキーワード検索とは意味が違う」9。しかし,科学絵本や動物記などは各分野に分類・配架するので件名検索の対象とならないこと,児童書を選定する側の価値観や感情に左右されやすいことを問題として挙げている。

 横山敦子(2000)は,小学校の実践を報告している。図書館管理ソフト(株式会社トーハンの「探検隊」)を導入した際に,そこに用意されている50の件名のほかに,目次や内容から子どもたちが検索しそうな語を追加した。子どもたちは,書名検索では1冊しか見つからなかったものも,件名検索では何冊も本があることを理解した。

 芳賀カズ子(2000)は,高等学校図書館の件名付与について報告している。件名を決定するためのルールとして,(1) 利用度や蔵書の性格を考慮する,(2) 教科書の目次・索引を参考にする,(3) 適切な標目がない場合は同義語か類語を探したり追加件名を設定する,(4) 件名分析(分出)をする,(5) 固有名詞,人名,地名は常用表現とする,(6) 地域性が主体のものは国名・地名のもとに主題区分する,など10項目を挙げている。

 鈴木史穂(2003)は,オンライン情報をNDCを用いて分類することを試みた。オンライン情報のリンク集をNDC分類で作成し,子ども用相関索引データベースを提供することができれば,子どもたちをオンライン情報にナビゲートすることに加え,NDCで分類された図書館の本,新聞,雑誌,CD-ROMなどのパッケージ型情報にも複合的にナビゲートすることができる。子どもが通常使う言葉によるシソーラスを構築できれば,子どもが入力したキーワードから,統制語に導くことも可能である。オンライン情報をNDC分類するにあたっては,画像の分類,音声の分類,地理区分,コンテンツのリライト,オンライン情報の組織化・保存,の問題が明らかになった。

 また,金沢みどりほか(2002)は,学校図書館ホームページのOPACについて,教育上望ましいウェブ版OPACのあり方を検討し,「フレッド(FRED)」という評価基準を考案した。すなわち,(1) 検索システムの機能の柔軟性(Flexibility),(2) 検索システムから利用者 への応答(Response),(3) OPACの検索法についての説明(Explanation),(4) 検索システムの機能の多様性(Diversity),の4つの評価基準である。この基準によって,全米50州の学校図書館1,517校のホームページを調査して,ホームページにOPACが掲載されている229校のうち,自由にアクセスできた125校のものに関して調査し,傾向を調べた。

(2)児童図書検索システム

 田中芳彦ほか(1986)の図書館情報大学(現・筑波大学)の研究チームは,公共図書館における新しい読書相談サービスの構想に,専門家の持つ柔軟で効率的な問題処理能力をコンピュータ上で実現することを目指す,エキスパートシステムの手法を取り入れた。読書相談に必要な知識として,読書能力(読みのレディネス,読字力,語彙力,文法力,読解力),読書興味(子守歌期,昔話期,寓話期,童話期,物語期,伝記期),読書分野(赤ちゃん絵本,物語絵本,知識の絵本など18分野)の知識を整理し形式化した。この児童図書館読書相談エキスパートシステムは実際にシステムとして構築されたが,これには視聴覚形態の情報を処理する機能はなかった。幼児を対象にした場合,絵や音楽を適切に交えたインタビューによって子どもから必要な情報を聞き出すことが必要であり,この観点から,今後このシステムの再構築を進めるとした。

 この研究チームは,メンバーが入れ替わりながら,10年余りにわたって児童図書の選択システムの構築を追求している。田畑孝一ほか(1987a)は,読書相談のために児童図書を物語の内容に即して分類することを試みた。選択書誌を利用して,児童図書を11の要因(主題,印象,国,舞台,地名,時代,時期・季節,主人公など)によって分析した。特に主題と印象の要因は分析者の主観に左右される可能性があるが,この2要因について評価を行った結果,この方法の合理性が認められたとしている。

 続いて,田畑孝一ほか(1987b)は,児童の発達課題からみた児童図書の評価を行い,それをもとに,田畑孝一ほか(1996)は,親の立場で子どもに望むいくつか特定の発達課題の育成に役立つ児童図書を選定するためのシステムを開発した。

 また,杉本重雄ほか(1992)は,4~6歳程度の子どもたちに絵本を紹介するシステムを開発した。絵や写真などの子どもに理解できるイメージを対話に利用する方法で,物語背景選択→登場人物選択→絵本提示という手順をとる。また,小学校高学年向きには,主題選択→背景選択→登場人物選択→物語の提示,というシステムを開発した。子どもを対象とするシステムでは,イメージを利用した柔らかな対話環境が必要であり,誤操作が多いなど成人向けシステム以上に厳しい利用条件がある。この研究の延長上に,阪口哲男ほか(1996)は,インターネット上での児童図書選択を支援するシステムを構築した。このシステムは,2つの選択過程がある。画像や音声により提示された物語の背景や登場人物を選ぶことをとおして子どもの読書興味を引き出して図書を選択する過程と,親の立場で子どもの発達課題の育成に役立つ図書を選択する過程である。

 以上の研究チームのほか,久松勉(1994)は,探している本を検索するのではなく,本を楽しみながら探せるためのプログラムを,アップル社のハイパーカードを利用して試作した。データは,「作品名,著者名(訳者名),発行所名,表紙の画像,主人公の挿絵の画像,書き出しの文(文と朗読),主人公の紹介(文と朗読),同じ作者の書いた本の題名,関連した画像」で,視覚と聴覚に訴えるものが見られる。この製作には,子どもたち6人が参加した。「学校の図書室が情報の発信地であるためには,子どもたちもその発信源になる必要がある」と久松は述べている。

 伊藤路子ほか(1999)は,幼児の興味関心に基づいて絵本を選択,紹介する質問応答システムを作成し評価実験を行った。絵本に関する知識データとして,登場人物,場所,背景,出来事,印象に関する単語を登録し,4つの質問(すきなものはなあに?,だれとあそんでみたいかな?,どんなところへいってみたいかな?,なんでもできるとしたらなにをしてみたいかな?)のうち1つを幼児に選んでもらう。評価実験の19の対話場面のうち絵本紹介に至ったのは5対話場面であった。これは,辞書登録語数が不十分であるためであった。

(3)感性語による検索システム

 英国のwhichbook.net(http://www.whichbook.net/ [252])は,図書の内容から感じる感情や雰囲気など幅広い観点から検索できるサイトである。「happy-sad」「funny-serious」「safe-disturbing」などの12の対語が検索項目として用意され,例えば,とてもhappyな話を探したいのか,ややsadな話を探したいのかなど2つの語の間の段階(11段階)を矢印を移動させることで示すことができる。また12の対語を組み合わせて検索することもできる。このwhichbook.netに啓発されたとみられる研究として,近年では下記のような論考が発表されている。

 田辺久之・加藤安英(2004)は,「こんな感じの本を読みたい」「こんな気分を含んだ本はないか」という高校生の要求に応えるためのツールを開発した。高校生800名を対象に(1) 「どんな気分のときにどんな本を読みたいか」を調査し,(2) 抽出した生徒に読んだことのある本についてキーワード化してもらい,データベース化した。

 桑田(2004)は,whichbook.netの仕組みを日本の学校図書館で読書案内に利用する意義を認めているが,そのまま使えるわけではなく以下のような修正する必要があるとしている。(1) 本の雰囲気や感情を示す項目の追加。例えば「元気が出る」「恐い」「驚く」など,(2) 読みやすさや話の展開のテンポなど,(3) テーマやジャンル,(4) 対象年齢,読解力などの生徒に関する特性,(5) 教科学習との関係を示す項目。

 原田隆史(2005)は,児童書及びヤングアダルト(YA)図書の書評中で使用された図書の印象を表す語(感性キーワード)に基づいて図書を自動分類する実験を行った。まず『ヤングアダルト図書総目録』とアマゾンに収録されている児童・YA図書の22,765冊のうち,書評が作成されている図書6,724冊を抽出し,それに対して,人間の印象を表す15項目の概念について人手で付与されたデータをもとに図書を分類する。次に,書評中から形容詞を抽出して感性キーワードを人により決定する。さらに,感性キーワードが図書の分類にどのように影響するかを主成分分析によって明確にし,分類のためのルールを作成する。最後に,書評中から抽出された感性キーワードを用いて図書の自動分類実験を行い,この手法の有効性を実証した。

 桑田てるみほか(2006)は,わが国には,図書の雰囲気,印象,読後感などの感性を元に検索できる,読書指導で利用可能な実用レベルのシステムはまだないとして,whichbook.netを分析し,日本に適した感性語項目を作成することをめざした。アマゾンとビーケーワンで公開されている書評を利用して,11,423冊の児童書・YA図書を対象に,感性語項目8項目と入力用15項目の感性語を用いて検索できるシステムを構築した。彼らは,この図書初期データを,学校図書館担当者が確認し修正を加えていくことで質の向上を図ろうとしている。

4.1.4. 図書館ホームページ

(1)ホームページの作成 

 村上(2003)は,小学校における学習に役立つホームページのリンク集作成の実践報告をしている。まず,各学年の年間指導計画に照らし合わせて学習に活用できるホームページを選択し,次に学校のホームページにリンク集を作成し,そして「学校図書館を活用した授業の年間計画」にホームページ名を書き加え,これを利用して授業を行った。授業後のアンケートでは,96%の児童がホームページを使って学習してよくわかったと回答した。

 『学校図書館』654号(2005)では,「ホームページの作成と活用」が特集されている。設楽敬一(2005)は「学校図書館ホームページの作成と管理運営の留意点」として,学習に役立ち情報通信技術を育むためのホームページについて,その作成と指導,リンク集の整備と活用についてまとめている。小林透海(2005)は「学習に役立つリンク集の作成」のなかで,その意義を(1) 検索に要する時間を短縮できる,(2) 児童が家庭学習で利用できる。(3) 個々のパソコンに設定する必要がない,を挙げている。
(2)ホームページの評価

 丸山有紀子・金沢みどり(2006)は,わが国の公共図書館701館のホームページを調査してホームページのユーザビリティの現状と問題点を明らかにした。児童対象のホームページを持っている館は701館のうち123館(17.5%)。児童サービスに関しては,(1) 児童にふさわしい図書館資料に関する記述,(2) 児童を対象としたスペース・担当者,(3) 児童を対象としたサービスに関する記述,(4) 児童を対象としたプログラムに関する記述が掲載されており,実態よりは記載率はかなり低かった。評価項目として,(1) 視覚的な読みやすさに関する項目,(2) 子どもの発達段階に配慮した読みやすさに関する項目,(3) 記載内容に関する項目,(4) ナビゲーションに関する項目,を設定した。

 金沢みどりほか(2001)は,学校図書館ホームページとしてどのようなコンテンツが必須であるかという観点から,シーライ・コンテンツ・モデルを考案した。学校図書館ホームページが備えるべき機能は,(1) 広報機能,(2) レファレンス機能,(3) 教育支援機能,(4) 研究支援機能,(5) 統合機能である。これらの機能を実現するために,ホームページのコンテンツとして,コア・コンテンツ,インフォメーション・ツール・コンテンツ,レファレンス・ツール・コンテンツ,リサーチ・ツール・コンテンツ,インストラクショナル・ツール・コンテンツが必要であり,これらの頭文字をとってシーライ・コンテンツ・モデル(CIRRI Contents Model)と名づけた。このシーライ・コンテンツ・モデルに基づいて米国50州の1,150校の2割にあたる230校の学校図書館ホームページの現状を調査した結果,シーライ・コンテンツ・モデル型(33.5%),外部情報源重視型(18.7%),広報活動重視型(11.3%),学習支援重視型(7.0%),自立的利用者育成型(6.1%)に分類することができたという。

4.1.5. 電子図書館

 電子図書館については,国際子ども図書館と,海外の図書館に関する文献がある。

(1)国際子ども図書館

 国際子ども図書館に関する文献は,いずれも国立国会図書館の関係者によるものである。

 まず,田中久徳(1997)が,電子図書館機能をめぐる議論に焦点を合わせて国際子ども図書館構想について述べている。1995年に提出された『児童書の図書館(仮称)の電子図書館化に関する調査報告書』には,電子図書館機能として,(1) 書誌データベースの構築や資料の電子化等の基盤整備,(2) 研究者・一般利用者のための知的作業環境の支援,(3) マルチメディア検索システムや映像システムの整備によるこども文化育成環境の構築,の3つが基本機能として提案され,電子図書館プロジェクトとして,児童書書誌データベースの整備など4項目が示された。

 亀田邦子(1998)は,国立国会図書館が1996年に策定した「国際子ども図書館計画」の概要と,この図書館の重要課題である電子図書館化への取り組みについて紹介した。電子図書館化の目標は,(1) 書誌・所在情報の整備や情報資源のデジタル化等ネットワーク環境における情報提供機能の強化,(2) 子どもの文化特性を考慮したマルチメディア情報サービス,(3) 情報流通の国際化や関係諸機関との双方向の協力関係の基盤となるネットワーク整備等,である。電子図書館システム開発のパイロットプロジェクトとして,(1) 児童書の電子図書館基盤システムの構築,(2) インターネット対応児童書多言語提供システムの開発,(3) 児童書検索システムの開発が挙げられている。

 阿蘓品治夫(1998)は,国際子ども図書館の電子図書館サービス実施のために,デジタル化及びインターネット提供するために行った著作権処理作業について報告している。国立国会図書館の13万冊以上の児童図書のうち,1955年以前の約9,500冊について,文章,挿絵,装丁などの著作物に関連する6,000名余の著作者に利用許諾を求め,最終的に約9,000件の著作物が可能になった。

(2)海外の子ども向け電子図書館

 『カレントアウェアネス』235号(1999)には,「子どもと読書,図書館,情報社会」が特集されていた。そのなかで,原田圭子(1999)は,米国議会図書館による電子図書館プロジェクト「アメリカン・メモリー」を紹介している。アメリカン・メモリーには「学習のためのページ」が用意されているが,そのなかには,コンテンツを教育現場で生かして使っていくための指導案が示されているコーナーがある。そのコーナーを作成するのはアメリカン・メモリー・フェローと呼ばれる教師・司書・メディアスペシャリストなどの集団で,毎年公募される。

 『カレントアウェアネス』同号のなかで,田中久徳(1999)は,EU欧州委員会のCHILIAS(Children in Libraries-Information-Animation-Skills) プロジェクトを紹介している。このプロジェクトは,情報社会の変化のなかで,9~12歳の児童を主対象とした新しい形態の図書館サービスのモデルを創出することを目的に,1996年8月から1998年9月に,「分析」→「プロトタイプ開発」→「評価検証」の3段階で進められた。子どもたちは,希望するトピックのマルチメディア情報の利用,関連サイトへのリンクや地域の図書館への案内サービスを受けることが出来る。そのほか,ウェブ上でお話を作り発表したり,「遊びながらアルファベットやデューイ十進分類法,質問式や情報の識別能力などの情報検索能力を学ぶことができる」。

 酒井貴美子(2006)は,ICDL(子どもの本の国際電子図書館)の活動について述べている。ICDLは,米国メリーランド大学のHuman-computer Interaction Laboratoryが非営利団体Internet Archivesとともに立ち上げたプロジェクトで,2002年に開設された。100の文化から100冊ずつ本を集めることを目標にし,2006年4月現在,35言語928冊が所蔵されている。ICDLの蔵書とインターネットを使って,異文化の子どもたちの交流を進める「ICDLコミュニティ」構想では,本を読んだ子どもが自ら話を作ったりするのに役立つ“storymaker”,読んだ本の感想を語り合う“communication area”が用意されている。

 これらの海外の電子図書館の事例紹介は,今後のわが国の図書館サービスへ,大きなヒントを提供してくれるであろう。

4.1.6. 図書館担当者

 ここでは,図書館担当者の養成と必要な知識・技術などに関する研究を扱う。

 平久江祐司ほか(2004)は,つくば市の16の児童館の図書室の活動と職員の意識を調査した。14館51名の回答を集計した結果,「(1) 多くの児童館において,図書等の原簿を作成するなど物品としての管理は行われているが,選書や相互貸借などの運営面においては消極的な意識が見られること,(2) 読書活動やその支援の重要性は認識しているが,外部支援者に依存する傾向や職務の範囲外と認識していること」10が明らかになった。

 図書館担当者の養成について,公立図書館児童サービス担当者の養成に関しては,いくつか文献が見られるが,特に「子どもとIT」との関連で論述したものは見当たらない。

 学校図書館担当者については,その養成科目について本間ますみ(1999)の考察,提案がある。本間は,政府の懇談会や調査協力者会議の提言・報告に触れ,司書教諭の専門科目を提案しているが,そのなかには「情報技術・利用教育」「情報教育法」という科目が挙げられている。斉藤浩一・石崎忠純(2004)も,司書養成のためのメディア教育の在り方を提言している。

 日本図書館情報学会では,創立50周年を記念してLIPERプロジェクトを2003年から2005年にかけて展開した。これは,情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究で,図書館情報学教育班,大学図書館班,公共図書館班,学校図書館班に分かれて,改革案を提案したものである。学校図書館班では,「学校内情報メディア専門家」(仮称)の可能性を探るために,研究者へのヒアリングや学校図書館担当者へのアンケート調査を行い,とくに,「学校教育論」「学習情報メディア論」「学習環境デザイン論」「教授・学習支援論」「子ども読書論」の5領域の知識や技術が必要であるとした(上田2006)。

 中村百合子,芳鐘冬樹(2002)は,インターネットは学校図書館においてレファレンスサービスの可能性を広げるツールとなりうるものであるとして,ページ検索に関する説明を行った上で,生徒へのインターネット検索の指導について,指導の意義と指導の焦点についてまとめている。指導の焦点となるものは,情報検索の「本質」を理解した上でその「思考法」を理解することであるという。

 桑田(2003)は,学校図書館関係者22名を対象にアンケートとインタビューを行い,読書案内における知識やノウハウについて,読書案内の「準備」段階と「実行」段階の2つの視点から明らかにし,学校図書館員がこれまでに培ってきた読書案内に対応する知識の枠組みを提示した。準備時では,まず一般的な評判と経験から得た生徒の評判を考慮し,次に自分が読んでおもしろいかどうかを判断基準とする。実行時には,生徒の表面的な情報要求を聞きだすだけでなく,潜在的な生徒の能力なども加味して読書案内を行っていることが明らかになった。

 以上のように,図書館担当者の養成に関するもの以外,図書館担当者自身を対象とした研究は少ない。

4.1.7. まとめ

 これまで,「利用者研究・調査」「利用者教育と情報リテラシー教育」「検索ツール・システム」「図書館ホームページ」「電子図書館」「図書館担当者」に焦点を合わせて文献をレビューしてきたなかで,いくつか気がついた点を述べていきたい。

 まず,「子どもの情報行動」という語が用いられる以前は,「子どもの図書館利用行動」であったはずである。この図書館利用行動は,情報行動に包含されるものであり,海外の利用者研究では,従来から,観察法,質問紙法,利用記録,日記法,面接法,インタビューなど多様な方法がとられてきた。

 例えば,情報探索行動のモデルを発表したKuhlthauは,成績の良い27名の高校生を被験者として,図書館において2つの研究課題を探求するプロセスを1年間にわたって検討した。被験者のうち6名に対しては,研究プロセスの途中でインタビューを実施し,ケーススタディも行った。観察,インタビュー,質問紙調査,日記を分析した結果として,6段階の情報探索プロセスモデルが打ち出されたのであった(福永 1994)。

 わが国で利用者研究・調査というと,質問紙調査によって全体の傾向を把握することを目的とした研究調査がほとんどであった。それは,特定の個人を研究対象とすることは,プライバシーに触れる問題があるとして,タブー視されてきたことに無関係ではあるまい。レファレンスインタビューを記録して分析する研究なども,わが国では消極的であった。

 しかし,最近では行動観察やビデオ記録,発話分析,フォーカスグループインタビューなどという方法が見られるようになってきた。これは「情報行動」という個人の行動や内面の動きを対象としなければ解明できない内容に,学問的関心が移ってきたからである。

 また,子どもたちがシステム開発の研究に被験者ではなく協力者として参加することが海外でもわが国の研究でも見られた。例えば,ICDLのインターフェイスの作成にあたっては,7歳から11歳までの7人の子どもたちを協力者として意見を収集し,その結果を生かして検索画面には文字や説明をなくし,図を豊富に取り入れたという。この「研究へ子どもが協力者として参加する」視点は今後さらに重要となると考えられる。

 次に,図書館情報学の領域の研究内容として,「子どもの情報行動」そのものに焦点が合わされるものよりも,「子どもの情報行動に資するためのもの」が研究の対象となる場合が多い。子どもが利用するための組織化,システムなどである。そもそも図書館は資料の組織化を主業務としてきたものであるから当然ではあるが,だからこそ,利用者サービスを考えるときには,「利用者」という人間を対象とする学問領域の助けを借りる必要があるのである。また,情報リテラシー教育の評価や指導法の研究が非常に少ない。これは,まだこの領域が研究領域として新しいこと,そして図書館担当者が情報リテラシー教育に責任をもつことの認識がまだ低いことを表していよう。(堀川)

注

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  2. 田村俊作 (2001). “情報利用をめぐる研究”. 情報探索と情報利用. 田村俊作編. 勁草書房, p.3.
  3. 渡辺智山 (1996). 利用者研究史と情報探索過程モデル. 同志社大学図書館学年報. 22 別冊, p.39.
  4. 渡辺智山 (1996). 利用者研究史と情報探索過程モデル. 同志社大学図書館学年報. 22 別冊, p.44.
  5. 野末俊比古 (2001a). “情報リテラシー”. 情報探索と情報利用. 田村俊作編. 勁草書房, p.243.
  6. 野末俊比古 (2001a). “情報リテラシー”. 情報探索と情報利用. 田村俊作編. 勁草書房, p.245.
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  9. 新井栄子 (1990). 児童文学における主人公・主題の情報入力とアクセスについて--春日部市立図書館の実践から. 現代の図書館. 28(2), p.105.
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4.2. 子どものウェブ検索行動

  • 参照(10108)

4.2. 子どものウェブ1検索2行動

 1990年代後半からの教育の情報化3の波の中で,それまで視聴覚教育やメディア教育という枠組みの中で取り扱われてきた教育メディアの中に,新たにデジタルメディアとしてのインターネットが加わった。政府はミレニアム・プロジェクト4などの各種の情報化推進事業の中に教育を位置づけ,「2005年までにすべての教室にインターネットを」とのスローガンの下,情報環境整備が急速に展開された。2008年現在は基盤整備の目標達成も一段落した観があり,「ポスト2005」として,既存教科と連携しながら学力の育成に貢献できる情報技術の活用がねらいとされている。

 しかしながら,学校の内外で,子どもたちがどのようにインターネットを活用しているのか,その情報探索プロセスの実態に迫った基礎研究が日本には乏しいことが問題点として挙げられる。

 情報探索や情報検索にまつわる研究は,人工知能や各種の検索システム開発など工学分野での研究に加え,インタフェースなどのデザイン領域の研究など多くの領域にわたっているが,その多くは,システム・アプローチと称される,人間の外的な環境により問題解決を図る手法である。一方システム・アプローチに対して,人間の検索行動に焦点化し,いわばシステム開発のための基礎データを提供する役割となるヒューマンファクターの研究は,ユーザ・アプローチと呼ばれ,欧米諸国においては図書館情報学分野の情報行動研究がその研究成果として実証的なデータを示してきた。

 本稿では,後者の図書館情報学分野における情報行動研究を中心に文献を紹介する。過去10年間の子どもの情報行動のうち,特にウェブ情報検索に関する主な文献を取り上げるが,日本では,学校図書館分野の実践研究者の層が薄いこともあってか,図書館情報学分野において,特に子どもの情報行動に焦点を当てた研究はいまだ限られているのが現状である。

 こうした研究成果の偏りのため,特に初期の研究については英語圏の研究成果が中心となることをあらかじめことわっておく。

4.2.1. 情報行動研究の流れ

 英語圏における information science5が図書館情報学の一領域として発展を見たのは,20世紀前半の科学技術情報の飛躍的な増大がその背景として挙げられる。学術雑誌や抄録誌の増大とその流通上の諸問題が科学情報の計量的な研究の発端となったという指摘がある(田村 2001)。その意味で,学術情報の提供機関としての図書館が研究の出発点となったため,システムによる情報問題解決やシステム構築を目的する工学的(システム・アプローチ)ではない,利用者側が情報の探索や検索にあたって直面する問題点の解明,というユーザ・アプローチが主流となった。

 情報行動の研究の起源は1948年にロンドンで開催された “Royal Society Scientific Information Conference”という会議とされている(Wilson 1999)。当該分野の研究動向については,情報学分野の年刊のレビュー誌であり「情報要求と利用」という章が割かれているAnnual Review of Information Science and Technology (ARIST)が引用されることが多い(田村 2001,岡澤 1998,徳永 1999)。

 田村(2001)によれば,1960年代に研究分野として自立した情報利用研究は,初期には行動科学の影響を強く受け,1970年代・80年代には,科学技術分野での研究の飽和状態から,社会の他の領域に対象を拡大し,情報マネジメントという発想から経営学との複合を試みる動きなどが起こってきた。1970年代から1980年代の情報利用研究をリードした存在として英国シェフィールド大学のWilson等を挙げている。質的研究への取り組みなどもこの時期以降シェフィールド大学で開拓された分野であり,田村は1980年代以降にWilsonらの影響を受けた次の世代の研究者たちは「情報の利用を個人による意味創出過程」としてとらえており,従来の計量的方法に対する批判と質的方法への共感を共有している点が特徴的であるとしている。米国では,10年以上にわたる高校の授業における実証的なデータを基に情報探索の研究を行ったKuhlthau6がこの分野での実証的な研究の代表者とされる。

 渡辺(1996,1997)はKuhlthauの研究を「利用者研究の認知的なアプローチ」と位置づけており,利用者研究初期の1960年代から1970年代は貸し出し記録やレファレンス記録などの利用量を主眼に置いたアプローチであったが,その後心理学の手法を援用する形で,行動主義心理学の影響を受けた時代が長く続き,1980年代半ば以降になって認知的なアプローチが登場したとしている。

 英語圏以外では,デンマークやフィンランド等の北欧諸国で情報検索・情報利用に関する研究が非常に熱心に行われていることも特筆に価する。一方で,ドイツやフランスなど,独自の図書館学の伝統を持つ国で情報利用研究がほとんど存在しないことも指摘され,図書館学の研究成果が実務レベルで直接的な意義をもつことをアピールしていけるかが,この分野の発展の鍵であることが示唆されている(田村 2001)。

4.2.2. インターネット利用研究の動向

 田村(2001)は,KuhlthauやDervin(1983)らによる当分野の研究が,学校における情報リテラシー教育や公共図書館のサービスなどに密着した形で始められたことを指摘し,同様の背景を持たなかった日本における当該分野の過去の低調を認めている。その後日本においても高等学校の教科「情報」の成立などにより体系的な情報教育がうたわれることとなったが,図書館情報学との接点は少なく,田村が指摘した状況に大きな変化は見られない。

 Kuhlthauに代表される米国の学校現場での実証研究は,学校図書館の専門職員の存在に支えられ,今日に至っている。Kuhlthau自身の研究は,情報探索研究の一例として,また数少ない実証に支えられたものとして高い評価を得ており,学校図書館分野の研究としては引用機会も多い。その集大成の出版は1993年であり,収集されたデータはそれ以前に遡ることから,インターネットの登場を踏まえたものではない。ただしKuhlthau以外の研究にも言えることだが,インターネット以前のOPAC7やデータベースの検索システムにおける研究において情報探索および検索の過程における基本的な問題や課題の指摘は既になされており,ウェブ検索の内容との共通性,相違点などを抽出するための素材を豊富に提供している。Kuhlthau以後,インターネットの普及までは,従来的なデータベースやOPACの検索システムを主題にした研究(Solomon 1994, Nahl & Harada 1996)が主流であったが,1996年頃から初等教育におけるウェブ検索指導などを扱うものが見られるようになった(Kafai & Bates 1997)。

 米国の情報検索研究において2000年前後のウェブ研究を概観したものとしては,Jansen と Pooch による研究がある(Jansen & Pooch 2001)。 Jansen と Pooch は,ウェブ研究の内容を,1.検索エンジンに関するもの,2.特定のウェブサイトを対象としたもの,の2種類に分類しているが,ここでは数量的な分析がほとんどであり,一回の検索の時間の長さや,キーワードの数などを抽出し比較している。Jansen らは,伝統的な情報検索システム(データベースなどを対象としたもの)やOPAC とウェブ検索を比較した研究も紹介しているが,それぞれの情報集合体の特徴がそのまま検索動向に出現していることを示すもので,特に新しい発見は見られない。同研究は,将来的なウェブ研究のための枠組みを提示することを目的の一つにあげているが,ウェブ研究がいまだ未成熟な領域ゆえに,1.情報の記述,2.分析提示,3.統計分析の項目の設定や記述方法,にばらつきがあり,研究成果自体の比較や相互参照が成り立たない状況であることを指摘している。特に記述に関してはセッションの定義や用語の未統一という問題を指摘し,今後の課題としている。

 Jansen と Poochによるレビュー以後,インターネット検索を対象とした研究はおびただしく増加した。2000年から現在に至るものについては4.2.4.および4.2.5.において詳しく述べることとする。

4.2.3. 子どもとメディアに関する研究

 本論は,子どもの情報行動について,現在流通しているデジタルメディアの代表的なものとしてインターネットを対象としているが,広い意味での子どもとメディアの接触に関する研究も1990年代以降,メディアの多様化を受けて盛んに行われてきた。ここでは代表的なものをいくつか紹介しておく。

 1999年には無藤隆と白石信子による「子どものメディア利用と生活行動の変容―小・中・高校生調査による最近の動向と考察」が発表されているが,これは1980年代後半から1990年代にかけてNHK放送文化研究所が行った小・中・高校生のテレビ視聴に関わる複数の世論調査を再分析し,子どもとテレビの関係の変容について報告したものである。

 2005年にはNTTドコモのモバイル社会研究所による調査で,下田博次による「中高生の携帯インターネット利用実態調査と利用問題解決に向けた提言」が出されている。この調査は全国の中学生14,000人と保護者と教員2,000人を対象としている。同調査については遊橋裕泰による「中高生及び保護者等の携帯電話利用実態調査レポート」も公開されており,集計データを閲覧することができる。それによれば,携帯電話利用目的の多くはeメールであり,携帯からのインターネット利用,いわゆるウェブアクセスについては,中学校の15%および高校生の30%に「まったく利用しない」層が存在し,利用者の80%以上が1日あたり30分未満の利用に留まっている。携帯電話からのウェブ利用は限定的なものであることが示されている。

 2006年には教育関連企業であるベネッセによる「平成17年度総務省委託調査『ICTメディアに係る子どもの利用実態及び利用環境等に関する国内外調査研究』報告書」が刊行されており,質問紙調査とヒアリング調査,保護者へのウェブアンケートにより小・中学生の携帯電話所持率や,パソコン利用の実態とその問題点などが示されている。調査によれば,中学生のパソコンの利用目的の大半はインターネットでの情報検索であり,小学校中学年まではゲームでの利用,それ以降もゲームに「はまる」一部の子ども以外は,情報検索に移行していくことが述べられている。

 日本PTA全国協議会では,2004年の「家庭教育におけるテレビメディア調査 青少年とインターネット等に関する調査 調査結果報告書」から, 2006年の「子どもとメディアに関する意識調査 調査結果報告書」に至るまで毎年子どものインターネット利用に関する調査を行っている。内容的にはインターネット利用の目的が年齢が上がるに従って情報検索に移行するというベネッセ調査の利用傾向を裏付ける結果となっている。

 内閣府が2006年度に実施した「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査」は10歳から29歳までの青少年を対象にしたものではあるが,集計は,小・中・高校生ごとになされており,1日あたりの情報メディア活用の傾向がわかる。テレビの視聴時間がいずれの層も一日2時間半から3時間弱に及んでいる。さらに携帯電話からのインターネット利用が,前述のドコモ調査よりもはるかに多く,高校生女子で約2時間,高校生男子で約1時間半と長時間に及んでいる。同調査内で行われている2001年度調査との経年変化については,ウェブアクセス,メール利用ともに増加しているのとは対照的に,新聞閲読,ニュース視聴については,まったく読まない・見ない層の増加とともに,長時間利用する人が増えているという格差傾向が浮き彫りとなった。

 幼児期から児童期のメディアリテラシー教育について発達心理学の見地から研究を行っている駒谷(2006)は,近年の子どもを取り巻くメディア環境に質的・量的な変化が生じている点を指摘している。その一つにメディア接触の早期化という現象があるが,駒谷は以下の複数の調査から,その実態を分析・考察している。

 NHK放送文化研究所の幼児生活時間調査(2003)によれば,幼児の3人に2人は0歳からテレビ視聴を開始しており,メディア接触の早期化が指摘されている。

 コモ編集部(2004)による記事では,テレビゲームの開始時期も幼稚園児の66%が年少か年中段階となっており低年齢化が進んでいることが指摘されている。

 その他,市民団体では,FCTメディアリテラシー研究所8が,子どもとメディアリテラシーの見地から各種研究プロジェクトを展開している。

 

4.2.4. 子どものウェブ情報検索に関する研究 (海外)

 4.2.2.のインターネット利用研究の動向において,図書館情報学分野の情報行動研究領域において情報探索プロセスに焦点化したミクロな研究調査が実践されてきたことを述べた。以下では特に2000年前後から現在に至る当該分野の研究動向について概観する。

 前述のとおり,この分野では大学院レベルでの図書館情報学専門教育で情報行動研究が行われている英語圏や北欧の一部で活発な研究活動が行われている。情報行動研究それ自体を概観する理論概説書としては,2005年にFisherらの編集による Theories of Information Behaviorが出版されている。特に子どもの情報行動を分析する際に用いられる KuhlthauやEisenbergらの各種のプロセスモデルを含め,本稿でも引用した Dervin やBates などによる72項目にわたる情報行動理論が簡潔に紹介されている。

 インターネットの世界的な普及から10年が経過した2005年前後にはこうした概説的な論文が複数刊行されている9。2005年には,Largeによる子どもとティーンエイジャーとウェブに関するレビュー論文が発表された。当該論文は,米国を中心とした国単位のインターネット利用者調査から,社会や教育との関連やフィルタリングや法的な問題に至るまで,子どもとウェブについての問題を幅広く取り扱っている。またここで扱われる「子ども」は小学校から高校までをカバーしており,学齢に準じて取り扱われている。その中の「情報探索行動」の章について以下に要約する。

 Large論文の範囲は,前述の Kuhlthauの1991年の研究の引用を除けば,ほぼ1990年代後半から2003年までをカバーしている。まず小学校レベルのウェブ利用研究が紹介されているが,小学1年生からの極めて年少の子どもを対象としたものは,Kafai と Bates(1997)の研究のみであり,効果的に検索エンジンを使い,論理演算を用いるのは小学校低学年では難しく,高学年生のみが成功したという結果が発表されている。子どもたちは検索には熱心であるが,ウェブコンテンツ自体の内容が大人向きで難解であることも指摘されている。

 このレビューにおけるその他の研究はおおよそ10歳以上の年齢層を対象としたものである。学年であれば小学校の5年生から6年生を対象としたもの10が多い。これらの研究結果に共通したものは,子どもたちが論理演算やadvanced search(上級者向き機能)を使うことがほとんど無く,検索エンジンを適切に使いこなせていないことや,適切なキーワードやボキャブラリーを有さず,有効な検索戦略を立案するに至らないこと,などが指摘されている。

 中学生を対象とした研究も存在する。Agosto(2002)は,研究者の側が,分析に際し,子どもの意思決定過程についての深い知識を要することを指摘している。Large自身はPiagetの発達心理学で指摘された内容が子どもの情報探索行動にも適用できると指摘している。

 そのほかにもジェンダーによる差異,子どもと大人の情報探索行動の差異などについての問題提起はあるが,残念ながらどの研究も決定的な結論を出すには至っていないことが報告されている。またこれらの多くの研究が学校を舞台に実施されており,自然環境での子どもや大人の情報探索行動研究がほとんど存在しないことも批判点となっている。この点は成人を対象した研究のほうがより深刻であり,被験者のほとんどは大学関係者や図書館関係者,利用者に限られ,調査の対象に偏りがあることが構造的な問題として指摘されている。

 結論として子どものウェブ探索行動に共通する問題点としては,

  • 適切な検索キーワードを用いることの困難さ
  • 検索結果のページを漫然と閲覧するのみで,内容をじっくりと読んで理解することができない
  • 探し当てた結果について適切な評価ができない

などが挙げられている。

 この分野の重要な情報源として,前述のWilsonが主催する電子ジャーナル Information Research11を紹介しておく。1995年から刊行されている情報行動研究を中核テーマとした査読制度を伴う論文誌である。一方で,WilsonやKuhlthauなど1980年代以降,情報行動研究のムーブメントを形成した研究コミュニティが1996年から2年に一度開催する国際会議 ISIC (Information Seeking in Context 筆者訳:文脈に即した情報探索)がある。2006年にオーストラリアで開催されたのを除き過去の大会はすべてヨーロッパで開催されてきた。10名の常任理事には,本論でも引用したWilson,Kuhlthau,Fisherのほか, フィンランドからVakkari12,日本からは三輪眞木子13が名を連ねている。ISICの主催が情報行動研究をリードしてきたWilsonであることもあり,ISICにおける発表とInformation Researchには強い関連性があり,いずれも情報行動研究の動向を知る上で他では得がたい情報源となっている。

 Information Researchに近年掲載された,子どもとウェブに関する論文には以下のようなものがある。

 2005年のEnochssonによる“The development of children's web searching skills - a non-linear model”では,1998年から2003年という長期にわたって,スウェーデンの6歳から17歳までの生徒計110名の観察,質問紙調査,会話,インタビュー,コンピュータのログなどを素材として,エスノメソドロジーの手法を用いて研究が行われた。その結果として,子どもたちのウェブ検索スキルとしては,年少の生徒ほど,言語や技術的な知識を重視し,年齢が上がるほど,情報探索の多様な方法や,検索エンジンの働き,検索目的の設定,批判的に思考すること,などの認識を行っていることが明らかとなった。欧米の情報行動研究においては,研究方法論に関する議論も盛んなため,情報探索行動に関する新しい研究アプローチについても情報を得ることが出来る。

 Information Researchには中等教育の生徒を対象とした研究論文も存在する。そのうちの1編,2006年のHeinstroemによる“Fast surfing for availability or deep diving into quality - motivation and information seeking among middle and high school students”は,米国の6年生から12年生までの574名の生徒を対象に,探究型の学習プロジェクトにおいて,(1)浅い,(2)深い,(3)戦略的な,学習のアプローチを持つ3つのグループに分類し分析を行っている。結論としては,探究型の学習の結果,浅いアプローチの生徒たちは,事実関係の情報入手に留まり,深いアプローチのグループは,学習の過程で自らの情報スキルを伸ばすことができた。戦略的アプローチのグループは,組織的に情報探索を行い,その結果を他のグループよりも高次のレベルでまとめることができたとしている。探究型の学習とは,本稿でもたびたび紹介してきたKuhlthauが,近年提唱している学習モデルであり,Kuhlthauと Todd(2005)によるguided inquiry(導かれた探究)は,情報スキルや情報リテラシーをより効果的に学習の中に導入する方法として注目されている。

 近年学校図書館分野においてもエビデンスに基づいた研究が提唱されており(Loertscher & Todd 2003),既存教科の学習への影響を分析する上でもこうした実証研究の果たす役割は大きいと考えられる。

4.2.5. 子どものウェブ情報検索に関する研究(国内)

 前項まで海外の英語論文を概観してきた14が,日本における,学齢期の子どものウェブ検索過程に関する実証研究は,中村(2004)や後藤(2006)が指摘するように,河西(2001, 2002, Kasai 200715)の「インターネット利用が情報探索過程に及ぼす影響について―高校生のウェブ検索における失敗の研究―」以前はほとんど存在しなかったといえる。

 河西(Kasai 2007)論文は,高校1年生2クラス約90名の「情報」の前身にあたる科目16での探索課題におけるウェブ検索の過程を,検索画面のログと検索者の発話17から分析し,主としてその失敗行動に着目して,ウェブ検索初心者にとっての検索上の課題を発見することを目的としている。失敗の定義は,海外の先行研究における定義18に,日本語検索における独自の項目を加味して設定された。有効データ70名中,65名がなんらかの検索上のミスを発しており,まったく問題なく20分間程度の授業内検索課題を終了できたのは5名のみという結果が得られた。河西は,その結果から,ウェブ検索には事前指導などが必ずしも有効に働かず,検索過程における支援や仲介が有効であると仮定し,情報リテラシー担当職の必要性や,検索支援インタフェースの開発などを提案している(河西 2003, 2008)。

 2002年以降,吉岡によるメタ認知とインターネット情報検索行動を結び付けた一連の研究(2001, 2002, 2005, 2007)や,2003年には齋藤・三輪による「問題解決活動としてのWWW情報探索:科学的発見の枠組みに基づく検討」,さらに齋藤・橋本(2006)による「Web情報探索におけるブラウジングプロセスの分析:探索内容の明確さの違いによる検討」が発表されており,ウェブ探索プロセスの分析が研究の対象および方法として着目されてきた経緯を追うことができる。しかしながらこれらの研究はいずれも研究対象が大学生以上である。

 唯一前述の後藤(2006)の研究「高校生のWeb情報探索行動に批判的思考の志向性が与える影響」が高校生を対象としている。ウェブ検索は非常に多くの要素をはらむプロセスであるので,前述の河西が失敗行動,吉岡がメタ認知と関連付けて分析を行ったように,後藤は批判的思考の観点からプロセス分析を行っている。

 河西の研究がウェブ検索過程を行動観察と発話によって量的質的に分析したのに対し,後藤は,質問紙調査によってあらかじめ被験者となる各生徒の情報環境背景と,コンピュータスキル,批判的思考態度尺度の測定を行い,コンピュータスキルの差による影響を避けるため,同スキルが同程度で,批判的思考の志向性の幅の大きい群を被験者に設定する手法を採用している。2005年(公立校)と2006年(私立校)の2回にわたり,異なる集団において同様の質問紙およびビデオ記録観察による調査を実施している。

 最終的に批判的思考の志向性の高低がある生徒4名について分析が行われ,観察および半構造化面接における判定では,批判的思考の志向性の高い生徒2名は,情報の信頼性,論理性,多面性,なぞり読み19について,低い生徒よりも複雑な評価を行っていることが示唆された。しかしながら,被験者数が少ないこともあり,批判的思考の志向性の程度と,選択された(検索結果としての)情報源の評価には関連がない(すべての被験者がある程度信頼性の高い情報を使用していた)ことが示され,顕著な結果を導くには至らなかった。類似の研究が少ないこともあり,子どものウェブ検索過程の研究について,研究命題の設定や対象の焦点化などに,研究側の困難が生じていることが推察される。

4.2.6. 子どもの情報行動研究の課題

 今回,子どものインターネット利用に焦点化し,特にウェブ検索活動のミクロな実態について取り扱った文献を中心に概観したが,海外の事例に比較すると,日本における学術論文は極めて少なく,継続した体系的な研究として評価が確立されたものはほとんど存在しない厳しい現実が明らかとなった。

 米国の情報検索研究における2000年前後のウェブ研究を概観したものとして,Jansen と Pooch による研究(2001)を紹介したが,当時の「ウェブ研究の領域がいまだ未成熟な領域ゆえに,(1)情報の記述,(2)分析提示,(3)統計分析の項目の設定や記述方法,にばらつきがあり,研究成果自体の比較や相互参照が成り立たない状況」や,「特に記述に関してはセッションの定義や用語の未統一という問題」の指摘は,日本の研究においてはまさに現在も直面している課題といえる。

 Jansen と Poochによるレビュー以後,インターネットの利用における個人的な差異の問題(Ford, Miller & Moss 2001)や検索者の記憶や認知スペースに関する研究 (Spink, Wolfram, Jansen & Saracevic 2001)なども登場し現在に至るが,日本の状況を見る限り,ウェブ研究としての明確な枠組み,それも子どもを対象とした研究の枠組みが示されるのはもう少し先になるのではないかと思われる。

 近年個人情報保護の観点から,学校現場における実践研究の制約が厳しさを増す傾向にあり,実践研究のフィールドを確保し調査することの困難はその度合いを増している。しかしながらこのままでは情報行動研究において国内外の研究格差がますます開いていくことが懸念される。日本において学力論議がかまびすしい今こそ,読書活動や学校図書館における調べ学習によって培われる,読解力をはじめとした「見えない学力」20について,議論の基盤となるべき基礎研究が,心理学,教育学,図書館情報学といった分野を超えて学際的に展開されるべき必然性を強く感じるものである。(河西)

注

  1. 英語論文では一般に日本語よりも「インターネット」と「ウェブ」の用語を厳密に使い分ける傾向がある。インターネットはメールやチャットなどの機能を含んで用いられるが,ウェブはWWW (World Wide Web) の略語として,情報検索の対象の情報源としての意味合いに限定して用いられる。本稿でも2つの用語を使い分けることとする。
  2. 情報の探索 (seeking) と検索 (search, retrieval) は区別して用いられる。探索は広義の探し求める行為を指し,検索はデータベースやウェブなど具体的な対象を設定したより狭義の探索行動を指す。
  3. 教育の情報化については,以下のサイトに簡潔な解説がある。
    日立「電子行政用語集」. http://www.hitachi.co.jp/Div/jkk/glossary/0194.html [253], (参照2008-3-18).
  4. ミレニアム・プロジェクト:1999年に首相官邸主導で立案された技術革新のためのプロジェクト。その冒頭に「教育の情報化」がある。
    http://www.kantei.go.jp/jp/mille/index.html [254], (参照2008-3-18) .
  5. 日本では information science を「情報科学」と翻訳し,その範囲を数学的,工学的な研究分野に限定する傾向があるために,英語の本来の information science の持つ社会的な広義の意味合いを理解しにくいと徳永(1999)は指摘している。
  6. Kuhlthau, C.C. (1989). Information Search Process: A Summary of Research and Implications for School Library Media Programs. School Library Media Quarterly 22(1). など。
    Kuhlthau の日本語表記には,クールトー,クルーソなど多様性がある。
  7. online public access catalogueの略。文献目録のオンライン版。
  8. FCTメディアリテラシー研究所ホームページ. http://www.mlpj.org/ [255], (参照2008-3-18).
  9. 2005年にはLibrary Trends (54(2))の特集として Allison Druin を編集担当とする特集号 Children’s Access and Use of Digital Resources が刊行された。この中には9つの論文が採録されているが,大半が子どものための検索インタフェースや電子図書館の構築についての論文,あるいは特定の情報源やシステムの事例研究であり,子どもの情報行動についての実証研究が含まれていないため,個別の論文については本稿では取り扱わないこととした。
  10. Hirsh, S.G. (1999). Children’s relevance criteria and information seeking on electronic resources. Journal of the American Society for Information Science, 50(14), p.1265-1283 など,10歳前後を対象とした6本ほどの研究論文が紹介されている。
  11. Information Researchは以下から閲覧可能である。
    http://informationr.net/ir/index.html [256], (参照2008-3-18) .
  12. 松林正己による,動向レビュー:「情報哲学(the Philosophy of Information)」の誕生:図書館情報学理論研究における新たな動向. カレントアウェアネス. 2005, No.283, CA1554に引用がある。
    http://current.ndl.go.jp/ca1554 [257], (参照2008-3-18).
  13. 三輪眞木子 (2003). 情報検索のスキル: 未知の問題をどう解くか. 中公新書, 214p.
  14. 情報行動研究については北欧などの研究も英語で発表されているため,世界的な動向および主要な研究成果については英語情報においてほぼ網羅されていると言える。
  15. Kasai, Y. (2007). Learning with Missteps: Japanese Student Web Search Processes. Synergy. Vol. 05 No.02 2007. School Library Association of Vistoria, Australia.
    前述の河西(2002)論文の英語抄訳版に当たる。
  16. 1999年に告示された学習指導要領において高等学校に情報科が設置されたが,施行は2002年以降であったため,当該研究実践時はまだ情報科は設置されていなかった。
  17. 発話思考法(Thinking Aloud Method) と呼ばれる手法により,発話プロトコルと呼ばれる発話データを収集し,分析を行った。
  18. Lannuzzi, P., Mangrum, C.T. & Strichart, S.S. (1999). Teaching Information Literacy Skills. Allyn & Bacon. など国内外の文献に所収のスキル項目が複数引用されている。
  19. 「なぞり読み」の出典は,
    種市淳子・逸村裕 (2004). 短期大学生の情報行動の分析. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集, p.37-40.
  20. 岸本裕史 (1994) . 見える学力,見えない学力. 改訂新装版. 大月書店, 207p. による。テストや通知簿で示される学力が「見える学力」であり,見える学力を伸ばすにはそれを支えている「見えない学力」をゆたかに太らせる必要がある,というのが岸本の論である。

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4.3. 子どもの読書に関する教育学的研究

  • 参照(21689)

 教育における子どもの情報行動は,「読書」「学習」「情報」の3つの側面からとらえることができる。このうち,本稿では,読書を学校教育の側面から捉えた論考などを中心に整理した。

4.3.1. 学校教育における読書の位置づけ

 読書に関わる研究は,理論,実験,調査の3種類に大別することができる。また,そのアプローチの側面も教育,心理,言語学,社会学など多様である。本稿では教育の側面からのアプローチを中心に,子どもの読書に限定して整理する。

 学校教育の側面から見た場合,「読書」そのものを対象におこなわれている研究は,学校図書館をフィールドとして扱われたものや認知心理学的アプローチのものが大半である。学校教育のカリキュラムに深く関連するものは,主に国語科教育との関連が深い。この関連の深さは,教育関係の逐次刊行物における特集の組み方を見るとよくわかる。読書に関する特集のほとんどには国語科教育1が,国語や読解に関する特集には必ずと言っていいほど読書2がキーワードとして登場する。その点では,学校教育のカリキュラムというフィールドで読書を捉えるとすれば,現在までの歴史の中で,その中心的役割を担ってきたのは国語科教育であるといえるであろう。そこで,次節では国語科教育における「読み」の指導の変遷をおおまかにとらえてみたい。

4.3.2. 国語科教育における「読み」の指導に対する捉え方の変遷

 過去20年間の国語科教育に関する議論を概観すると,大きく分けて2つの時代があるといえる。1980年代後半から1990年代前半にかけての,「読者論」に基づく「読み」の指導が注目された時代と,2000年以降の,PISAの結果をもとにした議論の多い時代である。また,後者に関しては,2000年ごろからしばらくは国語科教育における読書の重要性について,2004年ごろからは「PISA型読解能力」の育成についての議論が活発になっているといえるだろう。

 前者の「読者論」に基づく「読み」の指導に関する研究については,教材研究が多く,竹長吉正がその主な文献の解題を作成している(竹長 1995)。国語科教育における「読者論」への注目が1980年代であることは,国語科教育における「読者論」を扱った文献の集中ぶりからもうかがえるが,1960年代にはすでに外山滋比古によって「読者論」が紹介されている(外山 1961)。ここで外山は,「修辞的残像」ということばを使って,「読む」という行為を説明している。つまり,もともと一つ一つ断絶した単位のつながりから成っている言葉は,その隣接の単位との間につねに言語空間が認められるにもかかわらず,「読む」作業の中で人間はその言葉を連続したひとつの流れの中でとらえる。この働きを助けるのが「修辞的残像」またその逆の動きを示す「遡像作用」であり,論理的な思考だけではなくイメージする力が加わって初めて可能になる。そして,原型のテクストの残曳とそれに加えられたヴァリエーション3を知的快感とするには,読者の側にある程度の洗練が必要であるとしているのである。1960年代当時,この「読者論」を取り入れた国語教育論は皆無ではなかったものの,あまり目立たなかったのは,現場に十分浸透するほどこの理論が成熟していなかったためであろうと竹長は分析している。(竹長 1995, p.7-8)。

 1980年代を中心に,国語科教育の中で論じられたこれらの「読者論」の多くは,一般的な読書研究の流れの中で,Jauss(1970)や Iser(1976)によって提唱された受容理論をもとにしたものである。1980年代から1990年代にかけては,「読者論」に基づく国語科における「読み」の教育が注目された時期といえるだろう4。

 国語科教育の指導方法では,この「読者論」をもとにして,ただひとつの「正しい」解釈にたどりつくという従来の読解指導から,主体的な読み,すなわち個々の人生における体験が基礎となる読みを文学教育の中で導き出そうとする「読み」の指導への変革を図る国語科教育が注目された。この考えは,当時の国語科教育界にひとつの新風を吹き込んだものの,じゅうぶんな成果を挙げられなかったとも考えられており,その理由として浜本純逸は,主体的な読みを探りながらも最後には「主題を読みとる」ことを求めてしまう日本の文学教育にその原因があるとしている(浜本1986)。井上一郎は,国語科教育界において,この「読者論」には賛否両論があったが,「読者論」は作品論・作家論と並んで受け入れるべき文学理論であり,むしろ「読者論」は文学理論であるのに国語教育論と同義のように受け取るケースがあることに注意を促している(井上 1993)。そして,(1)国語科教育の関連において,読書行為成立の条件と過程の両面から「読者論」に考察を加える必要があること,(2)授業は文学理論が対象としている個人の読書行為とは本質的な差異があるため,授業という特殊な集団読書における読みのパラダイムの本質を究明する必要があること,(3)授業の中の指導対象としての子どもを一人の読者として捉え直す必要があること,など7つの指導の研究課題5を挙げ,国語科教育に「読者論」を取り入れるためには,そのままを取り入れるのではなく,教材研究論や授業研究論と統合する必要があることを示唆している。また,この時期の国語科教育における「読者論」の捉え方や位置づけの変遷は田近洵一が整理している(田近2000)。さらに,田近は近年,この「読者論」に基づく「読み」の教育が廃れてきた背景には,1980年代後半に取り入れられた「読者論」は国語科教育の中では,読者に視点を置き,読者の「読み」の主体性を尊重してきたものの,教材である文学作品と読者との関係や読者の読書行為については,その位置づけを曖昧にしてきたために,「主体的な」読者ではなく「孤独な」読者を生み出してしまったことがあるとしている。

 後者のPISAの結果をもとにした議論は,2000年のPISA については,読書そのものの意義を重視する点が注目されているが,2003年のPISA 及び2006年のPISAの結果からは,情報を活用する力や思考力と深く結びつく形での「読解能力」の育成6が注目されている(笹山 2008)。この転換に関しては,桃原千英子らが,2000年の読解リテラシーの調査結果にくらべ2003年のそれが日本の15歳に関しては低下したことによる「PISAショック」を原因として挙げており,このことによって教室における言語行為の質の転換が求められたと指摘している(桃原, 松本 2007)。転換後に関しては,特に,国語科以外の教科7において,批判的思考力や科学リテラシーなどの概念とともに,「読解能力」ということばが従来の国語科教育における読解ではなく,統計などを含めた情報を読み取る力として使われている点が興味深い(奥谷ほか 2007, 大西 2007)。2000年以前には,国語科教育の中で文学作品や説明文を読み,理解するという意味で使われていた「読解」という語が,統計や図表の読み取りも含めた文章の理解へと転換されたと考えることができるであろう。このことは国語科教育における読解指導の変換にもつながっており(佐藤2007),さらに,この「読解」というキーワードを軸に持ってくることによって,今まであまり関係のなかった国語科と理科の連携(中山2007)など,新しいカリキュラムの相関関係が登場してくるなどの動きが見られる。また,この議論においては,学術研究よりもむしろ教育施策や教育現場における指導の方向性や方法としての議論が活発であるといえるだろう。

 この20年間における国語科教育と読書との関連を見ると,この2者は決して切り離されたものではなく,常に相互関連があるものととらえられていることがわかる。しかし,具体的な内容をみていくと,「読書」と「読解」が別のものである8とされながらも,その区別が非常に曖昧であることがうかがえる。1980年代から1990年代における「読み」というキーワードによる「読書」と「読解」の曖昧さから,現在は「読解リテラシー」というキーワードによる学校教育カリキュラムの中の「読解」の意味や教科の広範化など,いくつかの要素が交じり合って,学校教育における「読書」の位置づけをより不明確にしているとも捉えることができ,この区別の明確化,もしくは関連性の明示が,国語科教育における読書の位置づけを考える際の重要な課題となるといえるだろう。

4.3.3. 子どもの読書に関する研究の動向

 前節では,国語科教育と関連の深い読書研究について述べたが,この節では,その周辺も含む全体の傾向を簡潔に整理する。子どもの読書に関する研究は,そのアプローチの方法から,理論研究・実験的研究・調査の3種類に大別でき,また,文献としては,事例報告が大きな割合を占めることもひとつの特徴といえるだろう。

 理論研究は,割合としては少なく,上記の「読者論」に関する文献以外では,代表的なものを挙げるとすれば,古いもので,阪本一郎(1977),近年では立田慶裕(2004-2006,2006)の研究を挙げることができるだろう。また,米国の文献ではあるが,Rossら(2005) は,これまでの読書研究を整理し,教育や図書館との関連性に言及しているだけではなく,子どもたちの読書習慣の形成や新しいメディアとその読みの関係,ヤングアダルトや成人の読書の形態についても整理している。

 実験的研究は,主に認知心理学分野や教育心理学分野でおこなわれている。その研究テーマは,(1)幼児の言語獲得を含む読書・読解能力の発達過程を分析したもの,(2) 子どもの読書行動に家庭環境などが及ぼす影響を分析したもの(嘉数ほか 2003) が主として挙げられ,その他に眼球運動や脳への言葉の伝達など身体的発達に関するもの(三根ほか 2007) などがある。(1)に関しては,ハンディキャップを持つ子どもたちの言語獲得の研究もあり,主に自閉症9や失読症(鳥居 1981)のケースの実践研究などが見られる。音声や文字と言語獲得との関連を示す研究(小林 1998)はあったが,読書や読み聞かせに関する学術的な研究はほとんど見られなかった。就学前後と小学生児童の読解能力の発達過程に関しては,ひらがなの読みの習得時期や語彙力と読解能力の関連を連続して調査した高橋登の一連の文献(高橋 1996a, 1996b, 1999, 2001)がある。(2)には,親がどのように子どもたちに絵本を読んでいるか,を調査分析した谷川賀苗の論文(谷川 2006)や 絵本の読み聞かせを含む家庭の読書環境が幼児の社会的認知や心の理論に及ぼす影響について分析しようとした嘉数朝子らの論文(嘉数ほか 2004)がある。また,秋田喜代美が質問紙調査を通して実施した小中学生の読書行動に家庭環境が及ぼす影響の分析(秋田 1992)に対し,家庭環境には遺伝的要素も大きいとして,行動遺伝学的観点から質問紙調査をおこなった安藤寿康の追試(安藤 1996)があり,並べて読むと視点の違いがわかって興味深い。

 子どもの読書に関する調査で,継続的におこなわれているのは,全国学校図書館協議会と毎日新聞社がおこなっている学校読書調査10である。学校読書調査は,1954年以降毎年実施され,すでに50年分を超えるデータが蓄積されている。この調査では,「読んだ本の冊数」「読んだ雑誌の冊数」「本を読まない児童生徒の人数」「読んだ本の書名」「読んだ雑誌の誌名」が毎年継続して調査され,それ以外に,2007年度はコミック本の購入状況や一斉読書の時間の有無を尋ねるなど,その年ごとに違う質問項目もある。これらの結果の経年変化を見ていくと,たとえば児童・生徒の読書傾向は,新しく登場したメディアや社会的な話題に影響されていることがわかる。例えば,近年の特徴として2002~2007年を見てみると,2002年の第48回学校読書調査の結果では,ちょうど『ハリー・ポッター』全盛期で,『ハリー・ポッターシリーズ』をはじめとし,『指輪物語』など,映画化されたファンタジーがよく読まれていることが明らかになった(毎日新聞社 2003)。また2004年の第50回学校読書調査では『世界の中心で,愛をさけぶ』などのメガヒットの出版物が人気の上位に入っている(毎日新聞社 2005)。さらに2007年の第53回学校読書調査の結果では,読書傾向のひとつの特徴としてケータイ小説が挙がっている(全国SLA研究・調査部 2007)。これ以外に,子どもやヤングアダルトの読書に関連した調査として,新しいタイプのケータイ読書などと関連する調査11や子どもの読書習慣形成に家庭が与える影響を考えるためにおこなわれた調査(日本経済研究所 2005)などが見られる。しかし,その多くは,その時期のニーズに合わせておこなわれているという点では興味深いが,継続的におこなわれているものが学校読書調査以外ほとんどないために,時代の変化や子どもの成長という多様な視点から,多様な調査結果に基づく分析が十分にできず,その点がこれからの課題であるといえるだろう。

 これらの研究は,それぞれの分野や機関が独立しておこなっているために,実験や調査の結果が相互に結びついて,理論研究に成熟するケースがほとんどない。特に調査においては,それぞれの調査に関する分析は実施されているものの,経年的な変化や子どもの発達段階を追跡して,実験や調査を分析し,その結果を理論化し,それを現場で適用する,というシステムができあがっていない。このようなシステム化は,海外では,Booktrust12やNational Literacy Trust13などが手がけており,今後その研究成果が期待できるところである。

4.3.4. おわりに

 今回は,教育という側面から読書をとらえた文献を整理した。この流れを整理していく中で,今回の研究テーマ「子どもの情報行動」を教育的側面から整理するにあたっての課題がひとつ浮き彫りになった。それは,1.3.で堀川が述べているように「読書」を「情報行動」の一部としてとらえることができるにもかかわらず,教育学的な研究を概観すると,「読書」と「情報利用」が,そのほとんどで切り離されて論じられていることである。「読書」については,学校では学校図書館か国語科教育の中で論じられる。もしくは,読書の推進をメインと考えるところからは,学校図書館の利用もしくは朝の読書の促進がその中心である。それに対して,「情報利用」については,国語科教育ではほとんど論じられることがなく,その多くは,「総合的な学習」「情報科」「理科」「社会科」など別の教科と結びついており(清水ほか 2003,井上, 林2003),また,子ども自身の「情報利用」よりも,教員の「情報機器の利用」による教育の変革という側面14からとらえられていることが多い。しかし,情報源もしくは情報メディアには通常活字メディアも含まれ,その点では,「情報」の概念が教育界において若干錯綜しているともいえる。

 今後,子どもの情報行動を研究していく際に,教育的アプローチにおける「情報行動」の範囲の明確化がなされていく必要があるだろう。(岩崎)

注

  1. 子どもの読書に関する特集に国語科教育に関する記事が掲載されている主な文献には以下のものがある。

    (1) 学校図書館.特集 読書の質を高める. 2006, 669, p.14-42.
    国語科教育関連の記事としては,充実した読書を生む国語の授業(荒木 久美子, p.28-30)などがある。
    (2) 日本語学. 特集 読書活動と学校. 2005, 24, p.6-196.
    国語科教育関連の記事としては,国語力を高める読書(甲斐睦朗, p.6-11)などがある。
    (3) 日本文学. 特集 変容する読書論・読者論. 2003, 52(1), p.1-5.
    国語科教育関連の記事としては,国語教育における「読書」「読者」の位置づけ(上谷順三郎, p.51-57)などがある。
    (4) 教育と医学. 特集 子どもと読書. 1997, 45(1), p.2-69.
    国語科教育関連の記事としては,国語教育と読書指導--個性読みの育成を(野地潤家, p.41-46)などがある。
    (5) 児童心理.特集 情報化社会と子どもの読書. 1991, 45(12), p.1449-1562, p.1567-1594.
    国語化教育関連の記事としては, 読書好きな子をつくる国語の授業 (吉川 五男,p.1497-1500)などがある。

  2. 国語科教育に関する特集に読書に関する記事が掲載されている主な文献には以下のものがある。

    (1) 初等教育資料. 特集 学校教育全体で取り組む国語力の育成. 2007, 821, p.1-41.
    読書関連の記事としては,指導事例 読書活動を生かした国語力育成のための学習指導(福岡市立東光小学校 p.22-27)などがある。
    (2) 教育時評. 特集 これからの国語教育. 2007, 11, p.2-33.
    読書関連の記事としては,学校における国語教育の実践「読書指導」(中田義弘 p.30-33)などがある。
    (3) 教育委員会月報. 特集 これからの時代に求められる国語力. 2005, 57(3), p.2-37.
    読書関連の記事としては,楽しくなければ読書じゃない(阿刀田高 p.2-4),事例紹介 「マイブック」を持った喜びが子どもを変える ブックリレーションの試み(村上 淳子 p.30-33)などがある。
    (4) 教職研修. 特集 「国語力」の向上をどう図っていくか--文化審議会国語分科会「審議経過の概要」をふまえて. 2005, 31(9), p.29-77.
    読書関連の記事としては,読書活動をどう充実するか(蛭田 正朝 p.62-65)などがある。

  3. ここで,外山は,そろそろお伽話に飽きてきた子どもに,桃太郎の「おじいさん」が山ではなく川に洗濯に行った話をすると新鮮な刺戟を感ずることができる,という例を挙げている。
  4. 「読者論」という語の入った文献が多く見られる。(以下はその一部である。)

    (1) 田近洵一, 浜本純逸, 府川源一郎編 (1995). 「読者論」に立つ読みの指導 小学校低学年編. 東洋館出版社.
    (2)田近洵一, 浜本純逸, 府川源一郎編 (1995). 「読者論」に立つ読みの指導 小学校中学年編. 東洋館出版社.
    (3)田近洵一, 浜本純逸, 府川源一郎編 (1995). 「読者論」に立つ読みの指導 小学校高学年編. 東洋館出版社.
    (4)田近洵一, 浜本純逸, 府川源一郎編 (1995). 「読者論」に立つ読みの指導 中学校編. 東洋館出版社.
    (5)萬屋秀雄(1997). 読書感想文の読者論的研究. 明治図書.
    blockquote>
  5. 本文に挙げた他,以下4つの課題を提示している。

    (1)実際の指導法に見られる教師の読みのパラダイムの理論的解明
    (2)読者論を踏まえた多様な読みの授業の構想
    (3)読書行為の実践の結果の提示
    (4)読者論から見た国語学力・読解力の解明

  6. 笹山(2008)は,読解リテラシーと批判的思考力との間に相関関係があると結論付けている。
  7. 奥谷ほか(2007)では,PISAの示す読解リテラシー調査の目的は,読解の知識や技能を実生活で直面する課題にどの程度活用できるか評価することであるとして,小学校の理科の授業の中でルーブリックを利用した読解リテラシー育成を実地に行い,それをまとめている。
  8. 高木(2000)は日本の国語科教育における「読解指導」の変遷を整理しているが,その中でも「読書指導」の中に「読解指導」が含まれるという文献もありながら,「読み」=「読解」という理解があることをうかがい知ることができる,としている。
  9. たとえば,以下の論文がある。
    田実潔(2005). 軽度自閉症児に対する他者の心情理解と表現についての実践研究 : 絵本を用いた表現言語獲得指導事例. 北星学園大学社会福祉学部北星論集. 42. p. 117-126.
  10. 学校読書調査の結果は,速報が毎年『学校図書館』11月号や毎日新聞にその年のうちに掲載され,翌年単行書『読書世論調査』(毎日新聞社発行)に全結果が収載される。また,1970年の調査分までは,現在大空社から復刻されている。
  11. TOHAN. 電車内の読書〈でんどく〉事情を調査―前回調査より読書率上昇. 2007.11.29. http://www.tohan.jp/tohan-news/07-11-29b.html [268], (参照2008-03-20).
    年代別の結果(http://www.tohan.jp/tohan-news/07-11-29b-002.jpg [269])を見ると,20歳未満の年代では20~59歳の年代と比べて,書籍を読む人の割合が半分強であるのに対し,携帯電話の利用率は圧倒的に多く,特に女性層では2倍以上になっていることがわかる。分析では,この利用率の違いが,ケータイ小説のヒットを生む一因となったのでは,としている。
  12. Booktrust は,学術的な関心が寄せられ続けたことがブックスタートの成功や向上に役立ったとして,ブックスタートに関する学術論文や調査をホームページ上で公表している。また,実際に使用したブックスタートパックの中身の評価も実施している。なお,成果は下記のURLで公開されている。
    http://www.bookstart.co.uk/Press-and-Research/Research [270], (参照2008-03-20).
  13. National Literacy Trust は,研究結果を研究者,実施者,行政担当者に公表することで,実施するプログラムを向上できるとして,学術論文や報告書をホームページ上で公表している。この中には,子どもの読書の実態調査やPISAの結果に基づいて実施された子どもの社会的環境と読書との関連の研究成果などがある。なお,成果は下記のURLで公開されている。
    http://www.literacytrust.org.uk/Research/researchindex3.html [271], (参照2008-03-20).
  14. 例として,以下の文献がある。

    (1) 田代久美, 成田忠雄(2002). マップ型学習調査システム利用による総合的な学習「バリアフリーのまちづくり」の開発・支援. 電子情報通信学会技術研究報告. 101(609), p.33-38.
    (2) 天野純子, 力宗幸男(2004).読み書きに困難をもつ子どものための学習支援システムの構築.電子情報通信学会技術研究報告. 104(310), p.7-12.
    (3) 加藤尚裕, 高野勉, 二階堂朝光, 櫻井誠(2006). 小学校理科Web配信型デジタル教材の開発とその利用. 九州女子大学紀要. 人文・社会科学編. 43(3), p.33-49.

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4.4. 各種メディアの心理学的な影響・発達的研究

  • 参照(80265)

 今日,家庭や学校へのメディア普及が進み,子どもたちは幼い頃から多くの時間をさまざまなメディアとともにすごしている。子どもたちのメディア利用の実態については,いくつかの大規模調査が参考になる。たとえば,NHK放送文化研究所が5年ごとに実施している全国的な生活時間調査によれば,2005年の日本の小学生,中学生,高校生のマスメディア(テレビ,ラジオ,新聞,雑誌・マンガ,本,CD・テープ,ビデオ)接触量は,平日1日あたり,それぞれ2時間50分(小学生),3時間1分(中学生),4時間51分(高校生)であるという(NHK放送文化研究所 2006)。読書については,毎年,毎日新聞社と社団法人全国学校図書館協議会が「学校読書調査」を行っており,1か月に本(教科書,マンガ,雑誌などを除く)や雑誌を読んだ冊数が調査されている。2007年の調査では,1か月に読んだ本の平均冊数が,小学生9.4冊,中学生3.4冊,高校生1.6冊であったことが報告されている(全国SLA調査部 2007)。

 子どもたちへのテレビゲームやコンピュータの普及も進んでおり,2006年11月に行われた日本PTA全国協議会の調査によれば,日本の小中学生のテレビゲーム所有率は,約9割であるという。また,総務省が2006年12月に行った「小中高生情報通信機器利用状況実態調査」では,小学3年生以上の85.4%,中学生の86.7%,高校生の83.3%が自宅にパソコンがあると答えている(「情報モラル教育」指導手法等検討委員会 2007)。また,小学3年生以上の18.6%,中学生の50.7%が自分用の携帯電話を所有していることが報告されている。高校生になると,9割以上が携帯電話を所有しているという報告もある(Benesse教育研究開発センター 2005)。

 こうしたメディア利用の影響については,テレビの暴力シーンの視聴によって認知発達が阻害されたり,暴力的な人格になる,テレビゲームやインターネット使用によって社会的不適応性が高まるなど,悪影響が懸念されている。しかし,この懸念に一致する結果は必ずしも実証的に示されていない。一方,メディア利用のよい影響として,テレビ視聴によって認知能力が高まったり,むしろ攻撃性が低下する場合や,テレビゲームによって社会性や認知的処理能力が上昇したり,インターネット使用によって情報活用能力や社会性が上昇したり対人関係が拡大するといった結果も報告されている。また,読書については影響研究が他のメディアよりも少ないものの,他のメディアと同様に,よい影響も悪影響もあることが示唆されている。

 メディアの悪影響を避け,よい影響をできるかぎり引き出すことができるよう,有効的に利用していくためには,どのような状況,条件でメディアがよい影響を及ぼすのか,あるいは悪影響を及ぼすのかを理解することが有用であると考えられる。そこで,本節では,それぞれのメディアの影響について,学力的側面への影響と,社会・対人的側面への影響に分け,最近20年の日本における研究を中心にレビューし,メディアがよい影響を及ぼす条件,悪影響を及ぼす条件を知るための参考となる研究についても紹介する。

4.4.1.読書の影響

(1)学力的側面への影響

 学力的側面への読書の効果については,Krashen(1996)が約100年にわたってアメリカ,イギリス,カナダなどで発表された研究をまとめている。この中では,自由読書と読み書き能力の相関関係が一貫して見られることが示されている。たとえば,読書活動と読解力の関係については,41の実践例を取り上げ,自由読書(読みたいから読む,読みたくない本は読まず,別の読みたい本を選ぶという読書)プログラムと従来の国語科指導(指示された教科書を読む,文法,語彙,読解,つづりの直接的な指導に重点をおく授業)の読解力テストの結果を比較している。その結果,実施期間の長さにかかわらず,自由読書プログラムの効果は従来の授業と同じかそれ以上の場合が多いという結果が示されている。また実施期間が長くなると,自由読書プログラムのほうが,成績が上昇する事例が多くなる傾向があり,児童生徒が自分の力で本を選べるようになるにはしばらく時間がかかるため,継続して自由読書を実施することが重要であることも示唆されている。ただし,「読み書き能力」の書く能力については,必ずしも効果的でないという結果も報告されている。読み慣れている人は,既存の知識に基づいて推測したり,文章の内容が確認できる最小限度の文字だけを読んだりするために,読み手の注意が必ずしも全ての文字に向けられておらず,つづり,句読点,文法の間違いなど,書き言葉を完全には修得できないという限界もあるという。

 日本の研究では,足立にれかほか(1999)が,中学生と高校生を対象としたパネル調査1を行い,読書量(1日あたりの本・雑誌を読む平均時間)が情報活用能力に及ぼす影響を検討している。その結果,中学生では,本・雑誌などの読書量が情報活用能力の中の「情報処理能力(加工能力)」や「情報理解」を高めていることが示されている。

 また,漢那憲治(1979)は,小学校1年生を対象として,1年間毎週1回放課後に読み聞かせをする群と,読み聞かせをしない群を設定し,読み聞かせを始める前と終了後にそれぞれ読書力テスト(語の理解, 図形の弁別, 音節の分解, 音節の抽出, 文字の認知, 文・文章の理解)を実施した。その結果,読み聞かせをした群のほうが音節の抽出や全般的な読書力の伸びが見られ,読み聞かせが読書力に効果的であることが示唆されている。

(2)社会・対人的側面への影響

 日本の研究では,読書が思いやり意識や共感性などに及ぼす影響についての研究がある。たとえば,佐々木良輔(1998)は,小学校6年生を対象とした調査で,読書量の多さと思いやりの気持ちの高さに関係性があることを示している。さらに,佐々木(1999)は,思いやりの気持ちと深く関連している同一化の機構に注目し,内容を同一化しやすい読書材を読ませる群と,同一化しにくい読書材を読ませる群,統制群の3群を設定し,読書材を読む前,読後,時間を置いた後の3時点で思いやりの気持ちを測定し,同一化しやすい読書材を読ませる群では,読後に思いやりの気持ちがより高まることが示された。ただし,この効果は長くは見られず,数編の読書材では効果に限界があることが示唆されている。

 また,鈴木佳苗(2007a)は,小学生と中学生を対象としたパネル調査を行い,読書が共感性に及ぼす影響を検討している。この研究では,小学生,中学生に共通した結果として,(1)読書が共感性や社会的スキルを高める,(2)男子では,推理小説を読むと,共感性の下位尺度のファンタジー(仮想の状況・場面に自分を置き換えて想像する傾向性)が高まる,(3)女子では,ファンタジーを読むと,共感性の下位尺度の気持ちの理解が高まることなどが示されている。

4.4.2.テレビの影響

(1)学力的側面への影響

 テレビ視聴が学力的側面に及ぼす影響2については,学力,創造性への影響を検討した研究がある。テレビ視聴の長期的影響3を検討した海外の研究では,テレビ視聴が小学生の読解力の発達を抑制するという結果や,高校生の数学の成績を抑制する効果があることが示されている(Koolsta et al. 1997,Aksoy & Link 2000)。しかし,テレビ視聴が高校生の学力に及ぼす影響を検討した結果,数学,語彙力,読解力のいずれにおいても影響が見られなかったという研究結果も見られる(Gaddy 1986)。

 日本の研究では,テレビ視聴の悪影響を支持する結果も支持しない結果も見られる。たとえば,2001(平成13)年11月より,“子どもに良い放送”プロジェクトが発足し,2002年に約1,200名の0歳児を対象として映像メディア接触が発達に及ぼす影響が縦断的に検討されてきている(NHK放送文化研究所 2003,2005,2006,2007)。調査は毎年1回行われ,2007(平成19)年には,3歳になった子どもについて,第4回調査が行われている。これまでの調査では,メディアの影響に関するさまざまな結果が報告されている。たとえば,第2回調査では,小学校2年生,5年生,中学校2年生を対象として,テレビ,ビデオ,テレビゲームへの接触が子どもの認知能力への影響を検討している。その結果,いずれの年齢においても認知能力への影響は見られていない。

 テレビ視聴と学力との関連を検討したメタ分析4研究では,子どものテレビ視聴時間が1週間に10時間未満の場合にはテレビ視聴が多いほど学力が高くなるが,10時間以上の場合には学力が低くなることが示された。この研究からは,テレビ視聴自体が問題ではなく,一定時間以上のテレビ視聴が問題なのではないかということが示唆されている。

 また,テレビ視聴が創造性に及ぼす影響を検討した坂元桂ら(1998)の研究では,小学生と中学生を対象としたパネル調査を行い,テレビ視聴が創造性に及ぼす影響を検討している。その結果,日曜日のテレビ視聴が子どもの創造性の発達を抑制することが示されている。

 このように,テレビ視聴が認知能力に及ぼす影響については,研究間で結果が一致しているわけではなく,影響を規定する要因の検討を含めて,さらに研究を行っていく必要がある。この影響を規定する要因の1つに,番組の種類をあげることができる。番組の種類の影響としては,これまでに,多くの実験や調査によって教育番組が子どもの認知能力を高めることがある程度示されてきている(Fisch 2002)。また,暴力的な番組の視聴と男子の学力に負の相関があることを示した研究もあり(Huesmann & Eron 1986),今後,暴力的な番組の視聴が認知能力に及ぼす影響関係についても,さらに検討を行っていくことが望まれる。

(2) 社会・対人的側面への影響

 テレビ視聴が社会・対人的側面に及ぼす影響5については,攻撃性,向社会性(社会の役に立とうとする,人を助けようとすること)への影響を検討した研究がある。特に,攻撃性については,数多くの実験,調査研究が行われており,これまでに行われた海外の実験研究(Bandura et al. 1963,Berkowitz & Alioto 1973),縦断調査研究(Eron et al. 1972,Huesman et al. 2003),メタ分析(Hearold 1986,Paik & Comstock 1994)の結果は,テレビ番組の暴力描写が短期的,長期的に人々の攻撃性の学習を促進するといった悪影響を及ぼす場合があることを示唆している。

 しかし,逆の結果も報告されている。たとえば,日本の研究では,上記の“子どもに良い放送”プロジェクトの第2回調査では,小学校2年生,5年生,中学校2年生を対象として,テレビ,ビデオ,テレビゲームへの接触が子どもの攻撃性に及ぼす影響も検討されている。その結果,小学校5年生では,テレビ接触時間が長いほど,攻撃性が低まることが示されている(NHK放送文化研究所 2005)。

 向社会性については,先行研究のレビューの結果,テレビ視聴が幼児・未就学児の向社会的行動に及ぼす効果について,有意なものは見られなかったことが報告されている(Friedrich-Cofer et al. 1979)。日本の上記の“子どもに良い放送”プロジェクトの第2回調査でも同様に,向社会性への影響は見られていない。これに対し,向社会的行動の一部にテレビ視聴の効果があることを示唆する研究もある(Stein et al. 1981)。

 このように,テレビ視聴が攻撃性,向社会性に及ぼす影響についても,認知能力と同様に,研究間で結果が一致しているわけではなく,影響を規定する要因の検討を行っていく必要がある。こうした影響の規定因としては,テレビ番組の暴力描写,向社会的行為描写の文脈的要因や,子どものテレビ視聴に対する親の態度・行動をあげることができる。

 テレビ番組の暴力描写,向社会的行為描写の文脈的要因については,海外においても,日本国内においても,詳細な内容分析研究6が進んでいる。この内容分析の手法と縦断調査を組み合わせた研究として,2003~2006年度にかけて行われたJTVS(Japanese Television Violence Study)がある。小学生の攻撃性の学習に対する影響としては,身体的手段による暴力,魅力的なキャラクターによる暴力の描写が間接的攻撃性を高める一方で,言語的攻撃の描写が間接的攻撃性を低めることなどが示されている。また,中学生の攻撃性の学習に対する影響では,間接的攻撃の視聴が攻撃性を高める一方で,被害者の家族・友人の悲しみの描写の視聴が攻撃性を低めることなどが示されている(鈴木 2007b, 2007c)。

 子どものテレビ視聴に対する親の態度・行動の影響については,上記の“子どもに良い放送”プロジェクトの第4回調査で検討が行われている。この調査では,社会性の指標として,「協調性・共感性」,「能動性・自己主張性」が用いられ,テレビ接触量,父親あるいは母親のテレビ共有機能(「子どもと一緒に見る」「見ている内容について子どもと話す」)と統制機能(「見てよい番組が決まっている」「見てはいけない番組が決まっている」「見せたくない内容はチャンネルを変える」)による影響についての検討が行われた。その結果,テレビ接触量が社会性に及ぼす影響は見られなかったが,母親のテレビ共有機能は弱いながらも「協調性・共感性」,「能動性・自己主張性」に影響を及ぼしており,統制機能も「協調性・共感性」に影響していることが示された。このように,テレビをどのように子どもに見せるかという親の態度や行動が幼児期の社会性の発達に影響を及ぼすことが示唆されている(NHK放送文化研究所2007)。

4.4.3.テレビゲームの影響

(1)学力的側面への影響

 テレビゲームの使用が学力的側面に及ぼす影響7については,視覚的知能(空間視覚化8),情報処理能力,創造性,論理性などへの影響を検討した研究がある。テレビゲーム使用の影響を検討した海外の実験研究では,テレビゲーム使用が空間視覚化や情報処理能力を高めることが示されてきている。

 日本の研究では,湯地宏樹(1996)が幼稚園児を対象として,テレビゲーム使用と情報処理能力(平行処理)の関係を検討している。この研究では,テレビゲームで頻繁に遊び,熱中度が高いプレイヤーグループのほうが,テレビゲームで頻繁に遊ばず,熱中度も低いノンプレイヤーグループよりも,コンピュータディスプレイ上に順番に提示された2つの刺激が同じかどうかをより早く判断しており,反応の正確さには差がなかった。したがって,テレビゲーム使用は,情報処理能力(平行処理)を高めることが示唆されている。

 このほかには,創造性・論理性について,小学生を対象とした研究が行われている(Sakamoto, A. & Sakamoto, T. 1993,坂元章ほか 1998)。その結果,テレビゲーム使用は創造性には影響しないことが示されている。また,論理性については,小学生女子で低下するという結果が見られているが,いずれについても研究数が少ないため,結論を出すにはさらなる研究が必要である。

(2)社会・対人的側面への影響

 テレビゲームの使用が社会・対人的側面に及ぼす影響については,攻撃性,社会的不適応性などへの影響を検討した研究がある。テレビゲーム使用と攻撃性については,米国を中心に研究が行われており,実験研究では,暴力的テレビゲームをすると,攻撃的になることが示されてきている(佐々木, 堀内 2007)。また,メタ分析による研究では,テレビゲーム使用は攻撃性を高めることが報告されている(Sherry 2001,Anderson & Bushman 2001)。

 日本でも,テレビゲームが攻撃性を高めることを支持する結果が報告されている。たとえば,2000(平成10)年に内閣府政策統括官(共生社会政策担当)によって実施された「青少年とテレビ,ゲーム等に係る暴力性に関する調査研究」では,小学校6年生と中学校2年生を対象として調査を実施し,ゲームセンターでのゲーム,家庭でのゲームのいずれにおいても,ゲームに関与することと暴力経験との間に何らかの関係があることが示唆される結果が得られた。性別に見ても,男女ともゲームへの関与の度合いが大きいほど,暴力経験が多くなる傾向が見られる。また,ゲームへの関与と非行・問題行動の有無との間にも関連が見られ,ゲームをしている時間が長い者ほど,非行・問題行動のある割合が高くなる傾向があるという(内閣府 1998)。

 しかし,テレビと同様に,テレビゲームの場合にも,コンテンツによってその影響は異なると考えられる。海外の研究では,血の描写があるゲームのほうがないゲームよりも攻撃的認知を高めることが示されている(Farrar et al. 2006)。

 また,先のJTVSでは,テレビゲームについても検討が行われており,言語的攻撃の視聴によって身体的攻撃の増加が見られること,繰り返しの暴力の視聴によって,男子では身体的攻撃の増加が見られること,ユーモアのある暴力の視聴によって間接的攻撃の増加が見られることが示されている(鈴木 2007c)。

 攻撃性以外に,テレビゲームの悪影響として懸念されている問題の1つに,テレビゲームの中でより単純で思い通りにしやすい登場人物と付き合うことで,現実の人間関係を築く機会や意欲を失い,人付き合いができなくなるといったことがある(坂元章 1999)。

 テレビゲーム使用と社会的不適応の因果関係を検討した研究は多くはないが,これまでのところ,テレビゲーム使用が社会的不適応を招くことを示した研究は少ない。木村文香らの研究では,高校生と大学生を対象とした縦断調査を行い,大学生ではテレビゲームを使用するほど,共感性が低下することが示されている(木村ほか 2000)。また,テレビゲーム使用と学校適応について,先述の“子どもに良い放送”プロジェクトの第2回調査で検討が行われている。その結果,中学校1年生で,学校で反社会的傾向にある子どもは,1年後のテレビゲーム使用時間が長いことが示されている。さらに,中学校1年生でのテレビゲーム時間の多さが1年後の孤立傾向の高さにつながるという結果も示されている(NHK放送文化研究所 2005)。

 これに対して,テレビゲーム使用が社会的不適応を招くのではなく,むしろ,もともとの社会的不適応性が高いとテレビゲーム使用が多くなるという逆の因果関係を示した研究もある(Sakamoto, A. 1994) 。

 さらに,テレビゲーム使用が社会的不適応を低減するというよい影響を示している研究もある。梅原宣子らは,中学生を対象とした縦断調査を行い,テレビゲーム使用はむしろシャイネスを低減することを示している(梅原ほか 2002)。また,上述の木村らの研究では,高校生ではテレビゲームを使用するほど,社会的不安が低下することが示されている。

 このように,テレビゲームが社会的不適応に及ぼす影響については,一貫した結果は見られず,テレビゲームが社会的適応を高めるという悪影響論は支持されているとはいえない状況にある。全体的な研究数が少なく,これまでの研究から明確な結論を導くことは難しい状況にあり,今後,さらなる影響研究が行われていくことが望まれる。

 また,近年,テレビゲームは,娯楽としてだけでなく,有効利用の可能性が指摘されるようになってきた(坂元章 2000)。たとえば,教科教育において,子どもたちの学習意欲を高めるために用いられたり,高齢者のリハビリテーションや心理臨床現場でのコミュニケーションのきっかけとして用いられるといったことがある。こうした教育的利用の方法や効果についても,実証的に検討していくことが期待される。

(3)テレビゲームと脳

 テレビゲームと脳については,EEG(Electro Encephalo Graphy:脳波),FMRI(Functional Magnetic Resonance Imaging),PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影法),NIRS(Near Infrared Spectroscopy:近赤外線分光法)などの方法を用いて,テレビゲーム使用時の脳活動を測定した研究が行われてきている9。

 テレビゲームと脳への研究は,脳への悪影響論を契機に大きな注目を集めるようになった。脳への悪影響論のきっかけの1つに,川島隆太(2001)の研究がある。この研究では,大学生を対象として,全身を使うゲームとクレペリン検査を行い,PETを用いて,脳イメージングを行った。その結果,テレビゲーム中は,単純な足し算をしているときよりも脳の活動範囲が狭く,活動レベルも低く,特に前頭前野10の活動が低下するということが見られた。この研究結果は,「テレビゲームは子どもの脳の発達を阻害する」というタイトルで報道され,大きく取り上げられた。

 その後,森昭雄(2002)による『ゲーム脳の恐怖』の出版により,テレビゲームの脳への悪影響論が高まった。森は,自己開発した脳波計を用いて,子どもから20代の約240名を対象として,α波とβ波11の測定を行った。このα波とβ波の出現パターンから脳のタイプを「(1) ノーマル脳:全くテレビゲームをしたことがなく,テレビゲームを始めても脳波に変化がない」「(2) ビジュアル脳:テレビゲームはしていないが,毎日テレビやビデオを1~2時間見る。テレビゲームを始めると,一時的に脳波は若干落ちるが,やめればすぐに元にもどる」「(3) 半ゲーム脳:テレビゲームを週に2~3回,1回1~3時間している。テレビゲームを始める前も終わった後も,β波がα波のレベルにまで落ちている」「(4) ゲーム脳:テレビゲームを週に4~6回,1回2~7時間している。テレビゲームをしていないときも,脳は働かず,数値が測れないほど脳波が低下している」の4つに分類した。

 このように,川島(2001)や森(2002)からは,テレビゲームは脳に悪影響を及ぼすことが示されているように見える。しかし,実際には,テレビゲーム時のみの脳の状態から子どもの認知発達への影響を議論することは難しく,また,脳の狭い範囲での活性化は熟練者が効率よく作業するときにも見られることから,テレビゲームと脳の発達の関係については,さらに検討していく必要があると考えられている。

 その後の研究では,テレビゲームの種類によって脳の活性化の状態が異なることも示されている。松田剛ら(2003)は,近赤外線分光法を用いて,4種類のテレビゲーム(シューティング,リズムアクション,ブロック落とし,サイコロパズル)のそれぞれの操作中,および前後の局所血流変化を計測し,加算作業と比較している12。その結果,加算作業に比べて,テレビゲーム中は脳の広範囲で血流が減少し,特にリズムアクションでは,全ての部位で血流が減少することが示された。田中美帆ら(2006) は,テレビゲームの熟練者(長期利用者)と初心者の大学生を対象として,テレビゲームの習熟度が脳活動に及ぼす影響を脳波計測によって検討している。この研究では,リズムゲーム(画面の記号と音楽に合わせて太鼓をたたくゲーム),パズルゲーム(さいころを転がし,隣り合うさいころの目をそろえるゲーム),カーレース,アクションゲーム(戦国時代の武将になり,敵を倒しながら進めるゲーム)を用いて,それぞれのゲームプレイ中のガンマ帯域13の脳波を比較した。その結果,リズムゲームは,他のテレビゲームよりも,前頭部におけるガンマ帯域の増加が有意に低いことが示されている。

4.4.4.インターネットの影響

(1)学力的側面への影響

 インターネットの使用が学力的側面に及ぼす影響については,認知能力,情報活用能力,国際理解などへの影響を検討した研究がある。

 認知能力については,10歳から18歳までを対象とした海外の縦断研究(Jackson et al. 2006)において,インターネットの利用がより高い学業成績や読解力を予測したことが報告されている。しかし,研究数が少ないために,現状では明確な結論を出すことは難しく,今後の研究が待たれるところである。

 情報活用能力の育成については,準実験14やパネル調査という方法を用いた研究がある。たとえば,学校におけるインターネット使用の効果について,内藤ら(2001)は,準実験の手法を用いて,インターネット活用校(光ファイバー導入によって,インターネットを利用した授業が多く行われるようになり,授業内容が充実した中学校)の生徒と,インターネット非活用校(光ファイバーが導入されておらず,インターネットを使用した授業が行われていなかった中学校)の生徒の間で,情報活用の実践力に伸びが見られるかどうかを検討している。その結果,インターネット活用校の生徒のほうが,非活用校の生徒よりも情報活用の実践力が全体的に高まっていたことが示された。また,情報活用能力の下位能力では,収集力,判断力,処理力,発信・伝達力が高まっていたことが示された。

 そのほかの研究でも,情報活用の実践力,情報の科学的理解の一部は,インターネット利用によって伸びることが示唆されている(近江ほか 2005,坂元桂ほか 1999)。しかし,情報社会に参画する態度については,こうした効果は見られず(橿淵ほか 2003),インターネット使用をただ増やすだけではなく,体系的な授業の必要性が示唆されている。

 国際理解の育成についても,パネル調査を用いた研究がある。鈴木ら(2001)は,高校生を対象として,日本語,あるいは外国語でのインターネット使用が国際理解に及ぼす影響を検討した。その結果,男子では,外国語でのインターネット使用が意識(人権の尊重,世界連帯意識の育成)を高めることが示された。一方,女子では,知識(他国文化の理解,外国語の理解)が外国語でのインターネット使用を高めることが示されている。

(2)社会・対人的側面への影響

インターネット使用が社会性に及ぼす影響については,インターネットに関する初期の研究では,悪影響を示唆するものが見られたが,近年ではむしろよい影響を示唆する研究のほうが多く見られるようになってきている。海外では,3回の縦断調査を行った結果,インターネット使用によって,コミュニケーション,社会参加,心理的幸福感などによい影響が見られたことが報告されている(Kraut et al. 2002)。

 日本において,インターネット使用が社会性に及ぼす影響を実証的に検討した研究は多くないが,近年,少しずつ研究論文が見られるようになってきた。鈴木ら(2003)および安藤玲子ら(2004)は,情報系専門学校の男子生徒を対象として,インターネット使用が社会性に及ぼす影響を検討している。鈴木ら(2003)では,インターネット使用が社会的スキルに及ぼす影響について検討している。この研究では,インターネットのさまざまなアプリケーションの中で,電子メールとネットワークゲームの利用が社会的スキルを高めることが示されている。

 安藤ら(2004)は,インターネット使用がネット上の対人関係や社会的効力感,心理的健康に及ぼす影響について検討している。この研究では,インターネット利用をチャットのような同期ツールと,電子メールや掲示板のような非同期ツールの利用に分けて分析を行い,(1)同期・非同期ツールを多く使用するほど,ネット上での対人関係は多くなる,(2)同期ツールを多く使用すると,人生満足度と社会的効力感は低くなるが,(3)同期ツールを多く使用してネット上の異性友人数が多くなるほど,人生満足度は高くなり,(4)同期ツールを多く使用してネット上の知人数や同性友人数が多くなるほど,社会的効力感は高くなる,(5)非同期ツールを多く使用してネット上の知人数が多くなるほど,社会的効力感が高まることが示されている。

4.4.5.おわりに

 本節では,読書,テレビ,テレビゲーム,インターネットの影響についての研究を紹介してきたが,先行研究では,メディアの影響はよい影響も悪影響も見られている。テレビゲームやインターネットと社会的不適応のように,社会的には悪影響が危惧されていても,実証されていない,あるいは,逆の方向の影響が見られることもある。本節で紹介したメディアの影響研究の領域の中で研究数が全体的に少ないものについては,まず,どのようなメディアでどのような影響が見られるのかについて,短期的,長期的な影響に関する知見を蓄積していく必要がある。特に,発達という観点からは,長期的な影響の検討が必要であると考えられるが,いずれのメディアの影響研究の領域でも長期的な影響を検討した研究数は多くはなく,今後の研究が期待される。

 メディアの影響の方向性を規定する要因として,本節では,コンテンツ,保護者の態度・行動を取り上げてきたが,このほかにも,利用状況,個人差などによって,メディアの影響は変わることが示されている。こうした影響の規定因,また,影響プロセスなどについても検討を重ねていくことによって,家庭,教育や臨床現場でのメディアの有効利用につながる知見が広く提供されていくことが望まれる。(鈴木)

注

  1. パネル調査とは,同一の研究対象者に同一の調査を2回以上行うことによって,変数間(読書量と情報活用能力など)の因果関係を推定する研究手法のことである。
  2. テレビ視聴が認知能力に及ぼす国内外の実験,調査研究のレビューとしては,以下の文献がある。

    近江玲(2003). “テレビと認知能力”. 坂元章編. メディアと人間の発達. 学文社, p.23-38.

    近江玲(2007). 認知能力 メディアが青少年に及ぼす影響に関する研究の動向 ―文献調査―(研究代表者:坂元章). 平成18年度文部科学省委託「青少年を取り巻く有害環境対策の推進」調査研究事業, p.173-182.

  3. 長期的影響は,縦断研究(ある対象者に調査を一度行った後,ある程度の時間間隔を置き,同じ対象者に対して複数回,同じ調査あるいはその一部を行う研究方法)によって得られたデータに対して,一定の方法で分析することによって,ある程度影響関係を特定できるといわれている。複数回行った調査が基本的に同一のものである場合には,先述(注1)のように,「パネル調査」という。
  4. メタ分析とは,同じテーマで行われた複数の研究結果を統計的手法によって統合し,全体としての効果を推定する方法のことである。

    テレビ視聴と学力との関連を検討したメタ分析研究として,以下の文献がある。

    Williams, P. A. Haertel, E. H., Haetel, G. D., & Walberg, H. J. (1982). The impact of leisure time television on school learning: A research synthesis. American Educational Research Journal, 19(1), p.19-50.

  5. テレビ視聴量が攻撃性に及ぼす国内外の実験,調査研究のレビューとしては,以下の文献がある。

    佐々木輝美,堀内由樹子(2007). 暴力メディアが青少年に及ぼす影響に関する研究の動向 ―文献調査―(研究代表者:坂元章)平成18年度文部科学省委託「青少年を取り巻く有害環境対策の推進」調査研究事業, p.103-120.

  6. 内容分析とは,メディアが提示している情報やメッセージの1つ1つを分類したり,評価したりすることによって,その特徴を定量的に捉えようとする分析方法である。

    テレビ番組の暴力描写,向社会的行為描写の内容分析研究としては,以下の文献が参考になる。

    (1)岩男壽美子(2000). テレビドラマのメッセージ : 社会心理学的分析. 勁草書房, 257,4p.
    (2)佐渡真紀子,坂元章, 鈴木佳苗(2004). テレビ番組における暴力および向社会的行為描写の分析. 日本教育工学会論文誌. 28(Suppl), p.77-80.
    (3)坂元章(2007). テレビ番組の暴力描写に対する評価システムの構築 ―内容分析と縦断的調査に基づいて―. 文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書. 研究課題番号: 15203026.
    (4)Gunter, B., & Harrison, J., & Wykes, M. (2003). Violence on Television: Distribution, Form, Context, and Themes. Lawrence Erlbaum Associates.
    (5)Smith, S. L, Wilson, B. J., Kunkel, D., Linz, D., Potter, J., Colvin, C. M., & Donnerstein, E. (1998). “Violence in television programming overall: University of California, Santa Barbara study”. National Television Violence Study. Vol.3. M. Seawall (Ed.). Sage Publications, p.5-220.

  7. テレビゲーム使用が認知能力に及ぼす国内外の実験,調査研究のレビューとしては,以下の文献がある。
    井堀宣子(2003). “テレビゲームと認知能力”. メディアと人間の発達. 坂元章編. 学文社, p.80-94.
  8. 視覚的注意,空間的視覚化について,注7の文献では,以下の定義が紹介されている。
    視覚的注意とは,多くの異なる物体の動きを追い続ける能力であるとされる。また,空間視覚化とは,「物体を頭の中で回転させたり,回転した2,3次元の物体を操作する能力」,「2,3次元的物体や物体と環境との関係を知覚したり,想像上で保持する能力」とされる。
  9. テレビゲームと脳活動に関する国内外の実験,調査研究のレビューとしては,以下の文献がある。
    坂元章(2008). 「シミュレーションゲームの脳活動と認知への影響の研究」研究報告書(研究代表者:坂元章). 財団法人科学技術融合振興財団平成17年度調査研究助成研究.
  10. 前頭前野は,行動をコントロールし,記憶や感情,学習能力を発達させるのに重要な役割を果している。この前頭前野の発達には,20歳までに十分な刺激が与えられることが必要で,この時期にそれが阻害されると一生そのダメージを負うことになる。
  11. α波は,人の脳波の8~13Hz周波数成分のことであり,安静時,閉眼時に他の周波数成分よりも多く見られるとされる。β波は,14~30Hz周波数成分のことであり,日ごろの活動時に多く見られるとされる。
  12. 下記URLも参考のこと。
    松田剛. テレビゲームが脳に与える影響.
    http://ardbeg.c.u-tokyo.ac.jp/~hlab/pc/studies/matsuda.html [277],(参照2008-03-20).
  13. ガンマ帯域は,20Hz~30Hz以上の周波数帯域であり,認知的活動性(注意,特徴統合,知覚学習,記憶など)との深いかかわりがあるという実験結果が示されている。
  14. 準実験とは,現実場面において,被験者をランダムに振り分け,統制群や他の条件との比較を通して仮説を検証するという方法を用いることが難しい場合に,ランダム配置と統制群の設定を満たさないが,実験の形態をとるものをいう。

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4.5. 子どもの情報行動に関する社会学的研究

  • 参照(13976)

 歴史学・社会学の古典とも呼べる研究のひとつ,『〈子供〉の誕生:アンシャン・レジーム期の子供と家族生活』のなかでAriesが明らかにしたように,近代化の過程で,子どもは「小さな大人」から「純真無垢であり,特別な庇護を受けるべき存在」へと変容を遂げた(Aries 1980)。一方,情報メディアの発達は,近代に生きる人びとを直接的に経験可能なリアリティの場から引き剥がし,抽象化された情報空間のもとに置いてきた(Lippman 1987)。そして同時に,この抽象化された情報空間では「本物」を見失う危険性があるという認識が醸成された。

 このような「純真無垢な子ども」と「本物を見失わせる情報メディア」という認識枠組みは,「本物を見失わせる情報メディアは,子どもに悪影響を与える」という言説へと繋がっていく。こうした考え方は,テレビやゲーム,携帯電話(ケータイ)が登場した当時の社会の反応を見ても明らかなように,新興メディアが登場したときに特に顕著に表れる。ここでは,何をもたらすか予測ができない「新しさ」と従来のスタイルとの「断絶」がとりわけ強調される。

 しかし,こうした電子的な情報メディアだけが「悪」と位置づけられるわけではない。今では娯楽の1つとして一般化し,さらには「芥川賞」や「直木賞」などをはじめとする栄誉ある表彰の対象にもなっている小説も,かつては「俗悪メディア」と見なされていた。高橋一郎は,明治期には人に悪影響を及ぼす「俗悪メディア」と価値づけられていた小説が,次第に「教育的メディア」へと転換を遂げていく過程を,知識社会学の枠組みを用いながら考察している(高橋 1995)。またパオロ・マッツァリーノは,時代によって「悪役」になるメディアが,日本では本 → 映画 →テレビと移り変わってきたことを指摘している(マッツァリーノ 2004)。

 彼らが明らかにしているように,小説や本,情報メディアの価値はそれだけを単独で取り出して論じられるものではなく,社会的,時間的,政治的な文脈など,その背景と密接に関わりあっている。また,私たちは新しく登場したメディアをその都度受容し,環境の中に組み込んできた。つまり情報メディアが一方的に私たちの社会を変容させてきたのではなく,それを受容してきた人間や社会の側の働きも同じように重要であり,注目する必要があるだろう。

 社会学は,「私たち自身の生活や他の人びととの生活を形づくる諸々の影響作用について,自分個人の世界観を抜きにもっと注意深く考察する」1(Giddens 2004)ことを1つの思考スタイルとし,当然そうあるべきものとして日常生活のなかに溶け込んでいる規範や仕組みそのものを論題として俎上へ乗せ,一度解体し,その自明性を成立させている様々な要素について分析する。そこで本稿では「子どもの情報行動」をめぐる社会学的研究のレビューとして,「子どもの情報行動」,すなわち本を読む,テレビを見る,ケータイを使う,インターネットを使う・・・といった行為を,社会的,文化的,政治的,経済的,時間的,空間的な文脈と密接な結びつきをもったものとして捉え,考察している近年の成果を紹介する。

4.5.1. 子どもと情報メディア環境

 テレビ,本,マンガ,ゲーム,インターネット,携帯電話,オーディオ機器など,様々な情報メディアで構成されている現代の情報メディア環境と子どもたちの関係は,どのように理解することができるのだろうか。ここでは,情報メディア環境と子どもの関係の歴史性や,情報メディアが子どもたちのコミュニケーションに与える影響について分析した研究を紹介する。

 小林直毅,毛利嘉孝編の『テレビはどう見られてきたのか:テレビ・オーディエンスのいる風景』は,日常生活に溶け込み自明化してしまったために,依然情報メディアの1つとして重要な位置を占めているにもかかわらず,議論の素材として取り上げられることの少なくなったテレビと,その「オーディエンス」の関係,つまり「具体的にどのような空間と時間のもとにテレビが置かれているか」,「テレビを見ることによって,具体的に何をどのように体験しているか」,「具体的にそうした体験を通じて,どのような人が,どのようにしてテレビ・オーディエンスとして存在することになるのか」に焦点を当てた論文集となっている。そのなかでも小林直毅は「若者」というオーディエンスの誕生について(小林直毅 2003),小林義寛は「家族団らん」とテレビの関係について論じている(小林義寛 2003)。

 佐藤卓己は,歴史的な文脈から「メディア」を論じる代表的な論者であるが,情報メディアの歴史的変遷が子どもと大人の関係にもたらした影響について,次のように指摘する。書物による情報伝達では読み書き能力に優れた大人と,その能力が未熟な子どもという大人優位の関係が成立し得たが,映画,ラジオに始まる電子メディアはその関係を変質させ,子どもと大人の境界は消滅してきた。その要因としては,電子メディアが提供する情報は,文字ほどの抽象性を持っておらず,年齢にかかわらず理解可能であり,また伝達される内容も明確に「大人向け」,「子ども向け」と区分されてはいないことなどがあるという(佐藤 2006)。

 以上の論考は,それぞれのメディアの社会における位置づけが変化していることに留意せず,情報メディアについて論じることや,大人を優位とする大人と子どもの関係を出発点とし,子どもと情報メディアの関係を理解しようとすることが,時として的外れに終わる危険性に気付かせてくれる。子どもと情報メディアの関係や大人と子どもの関係は,決して静態的なものではなく,歴史の網の目のなかでダイナミックに変容していくものであり,このことに注意を払う必要があるだろう。
また,情報メディアと子どものコミュニケーションとの関連に注目した研究として,下記などが挙げられる。

 橋元良明は,情報メディアが友人を中心とする対人関係に全体的な影響を及ぼす,という考え方には留保を示しながらも,若者の特質とメディア利用が何らかの関係を持っていることは十分考えられるとし,ポケベル・ケータイの利用者では,非利用者よりも人との共感性が高く,現実体験を重視する傾向にあること,テレビゲーム利用者は,非利用者よりも共感性が低く,現実体験を軽視する傾向にあることを実証データから明らかにしている(橋元 1998)。

 松田美佐はケータイが仲介する若者のコミュニケーションの構造について分析を行い,その特質を「選択的」に結びつけられる対人関係であるとし,従来の人間関係の広い/狭い,深い/浅いとは位相の異なるものであることを指摘している(松田2000)。ケータイとコミュニケーションのあり方との関わりを論じている論者として,松田のほか辻大介などが挙げられる(辻 1999, 鈴木・辻 2006)。

 浅野智彦はインターネット上のコミュニケーションの特質を押さえた上で,現代の若者のアイデンティティについて論じ,「今や自己は抽象的・規範的な他者というクッションを間におくことなく,あれこれの具体的な他者との諸関係にストレートに接続するようなものになってきている」2こと,またその自己像の特徴として,「一貫性や統合性を失い,無数の諸関係の中に緩やかにほどけて行きつつある」3と指摘している(浅野 2005)。

 橋元,松田,辻らによる一連の研究は,「若者は人間関係が希薄である」という言説が現実に妥当かどうかを意識しながら,こういった言説と距離を取りつつ,実証的で冷静な分析を行ったものとして位置づけられよう。

4.5.2. 子どもの身体と情報メディア

 メディアを受容する側のありように注目した視点として,社会があるメディアを受容していく過程で私たちが組み込んでいく身体感覚への注目がある。「身体感覚に注目する」とはどういうことか,読書を例に示してみよう。書を読むときの基本スタイルはかつて「音読」であったが,明治期以降の近代化の過程のなかで,人びとは「黙読」というスタイルを自明化してきた,言い換えれば「黙読」というスタイルが私たちの身体にビルトインされてきた(御手洗 1999, 2002, 山梨 2001)。同じようなことが,テレビやゲーム,ケータイなど他のメディアとの関係でも言えるのではないか。こうした着眼点のことを指している。

 藤村正之は,1990年代以降におけるメディア環境と子ども・若者たちの身体というテーマを,(1)背景,(2)言説,(3)感覚という論点に整理し,説明している。(1)では,メディア環境が子どもや若者たちの生活や意識にもたらす比重の増大を,メディア自体の影響力に求めるのではなく,希薄化した人的環境との相関関係のもとで大局的に論じ,(2)では,メディアと子どもをめぐる議論の言説が「メディア・バッシング」と「メディア・アドボカシー」に2極化していることを取り上げ,どちらの言説においても背景となる社会状況への洞察が十分でないために,実情を適切に反映してはいないことを指摘している。(1),(2)を押さえたうえで,(3)でメディアのハードとしての表現形態や機器がもたらす身体感覚(インタラクティヴ感,身体の記号化,身体の感覚化など)について検討している(藤村 1998)。

 吉見俊哉は,テレビアニメ,テレビゲーム,ディズニーランドといった子どもたちのメディア環境を取り上げ,それぞれを歴史的に振り返りつつ,1960年以降「子どもたちの日常のリアリティそのものが,メディアによって取り囲まれ,映像的に構成されるようになってきている」4,「テレビ映像的な世界像は,すでに子どもたちの世界の外側から影響を及ぼしているというよりも,子どもたち自身がさまざまな自分たちの物語を作り出していくときの規定的なコードとなっている」5とし,メディア環境の歴史的変遷が子どもの身体感覚にどのような影響を及ぼしたか,また,新しい身体感覚を身に付けた子どもの実践が,周囲の環境にどのような作用を及ぼしているのか,ということを分析している(吉見 1995)。吉見は日本におけるカルチュラル・スタディーズの代表的な論者である6。カルチュラル・スタディーズでは文化を,「統一的・一貫的な原理で構成されるものというより,さまざまな諸要素がぶつかる戦場のようなものであり,矛盾や亀裂が発生し,ねじれや妥協を包含しながら,あたかも結果的に所与であるかのように構成されていく」7政治性をおびた実践プロセスであると考える(藤村 2007)。吉見が示しているように,カルチュラル・スタディーズの分析枠組みを用いることにより,情報メディアがもたらす能動的な環境変化だけでなく,情報メディアを使用する側が環境を構成していく実践に注目した分析にまで,考察の幅を広げることができる。

 水越伸は,新興メディアを積極的に使いこなそうとし,工夫を加える利用者に注目する。無線やラジオ,パソコンの草創期を取り上げながら,メディアの「遊び」としての利用,すなわち「可能なる利用法」を模索する積極的な利用者の活動の重要性を歴史的分析から示している(水越 2002)。

 技術を受容する身体へ注目することは,昨今注目されることが多いメディア・リテラシー教育についても新しい可能性を示唆する。吉見は現在の子どもが有している想像力,身体感覚,共同性を前提としたメディア・リテラシー教育を提唱しており,単に情報メディア機器の使い方を学ぶだけでなく,メディアを媒介として成立する世界のあり方を自覚し,能動的に再編していく方法を身につける必要性を主張している(吉見 1995)。水越はメディアを利用する際に「『あな』や『すきま』を見いだし,そこに主体的に棲息する力」としてのメディア・リテラシーが必要であるとしている。水越は技術が使い方を規定するのではなく,人が技術の使い方を規定すると捉え,メディアへ能動的に関わっていくリテラシーの必要性を主張している(水越 2002)。

4.5.3. 「子どもと情報メディア」をめぐる言説の分析

 本論の冒頭で,「本物を見失わせる情報メディアは,子どもに悪影響を与える」というイメージについて触れた。このような言説は,ことあるごとにマスメディアによる報道などによって増幅し,私たちのなかに定着してきたように思われる。一方で,子どもと情報メディアの関係をポジティブに捉える言説がある。「新しい情報技術やメディアは輝かしい未来社会を実現する」といったものである。北田暁大・大多和直樹が整理しているように,子どもとメディアの関係というトピックをめぐっても,このような否定的な言説と,肯定的な言説が,お互いに摩擦することなく併存するという状況がある(北田,大多和 2007)。特に,子どもとメディアというトピックが話題になる機会が多い教育の文脈においては,明確に現れると考えられる。しかし,現実をこのような二極化の枠組みで捉えることは難しく,大多和が指摘しているように,二元論に回収されることなく,より冷静で深遠な議論を繰り広げていくことが求められており,ここではそういった試みを紹介する。

 教育界の情報メディアに対する価値付けの恣意性とその恣意性が正当性を獲得するメカニズムを明らかにしたものとして,冒頭で紹介した高橋の論考がある(高橋 1995)。

 大多和は高橋の研究に着想を得,「メディアが価値付けられる現象に着目することにより,教育界と社会がいかなる関わり方をしているのかについて考察する」8という観点から,メディアの悪影響論とメディアの教育への導入という相容れない2つの現象が同時進行しているという現代的なメディア状況の理解を試みている(大多和 1997)。また別の論稿において,主にテレビを中心にテレビゲーム等も含めながら,戦後の教育界においてメディアに対し,どのような言説が生成されていったのか,3つの時代区分(1950年代~1960年代後半,1960年代後半~,1980年代~)について整理し,知識社会学の視座から検討を加えている。そのうえで現在の教育分野の議論では,メディアがもたらす「ヴァーチャル」な世界に対する,教育的価値の相対的に高い「リアル」な世界,リアルな世界を思考力を育むことによって豊かにする「イマジナリ」な世界,という見方が主流になっていると指摘している。このような想定のもとでは,現実世界のリアル性,体験教育を過剰に評価してしまうきらいがあるが,ヴァーチャルがすでに現代の経験を枠づけている要素の1つであると考えられる現在では,そこを出発点とした教育の創出が必要なのではないか,と示唆している(大多和 1999)。そのほか情報化と若者の描かれ方について,1980年代後半から1990年代前半にかけて検討を加えたものとして,新井克弥の研究がある(新井 1993)。

 また言説の生成過程を歴史的に分析するのではなく,言説が根拠としている「事実」の危うさを指摘する研究もある(阿久津ほか 1989, 1990, 1991)。阿久津善弘らは,子どもに悪影響を与えるとされる暴力番組の暴力刺激が一様に扱われてきたことの問題性を指摘し,どのような暴力番組が,視聴者にどのような影響を与えるのかを暴力番組の類型化の試みを通して明らかにしている。

 八尋茂樹は,印象論のみでテレビゲーム批判/擁護論を唱えるのではなく,議論の足場を固めてからゲームの効用や悪影響について論じる必要性があると指摘し,ゲームに対する批判的見解と肯定的見解が,実際のゲームのどのような内容と関連しているのかを,エスノグラフィーの手法を用いて明らかにしている(八尋 2005)。八尋によると,情報提供者の語りの内容は,状況(会話が大人同士/子ども同士/大人と子どもで行われたか)によって,否定的/肯定的と使い分けられており,それらの語りを多面的に捉え,立体的に構築していくことにより,ゲームに対する人々の見解を社会的・家庭的・教育的な文脈から理解することが可能になるとしている。

 前述のマッツァリーノは,子どもの読書の通説の1つとも言える「小中高と学校段階が上がるにつれて読書量が減る」という読書調査の結果に対し,異なる学校段階では,読書する本の難易度や量が大きく異なることが考えられ,読書冊数のみから「読書量が減った」という結論を導くやり方の危険性を指摘している。
これから子どもの情報行動についてより深遠な議論を展開していくためには,言説の歴史性や言説の拠り所である各種データやその結果分析の危うさを自覚し,言説についてじっくり吟味していく必要があるのではないだろうか。

4.5.4. 子どもの情報行動に潜在する階層性

 観察し易い形で現れないために見過ごされがちではあるが,子どもの情報行動の根本的な部分に,社会構造の階層性がある程度反映されていると考えることができる。

 出身階層が何であれ,本人の才能と努力次第では,「いい学校」や「いい会社」に入ることができる―このことが真実であって欲しいと願う人は少なくないだろう。しかし,教育社会学の研究者が明らかにしてきたように,教育達成度と出身階層の間には少なからず関連性があるという(苅谷 2001)。これには経済的な富裕度などのほかに,親の学歴の高さ,話し方の作法,どのような趣味を持っているかなど,日常の生育環境のなかで身についていく有形・無形の文化的環境や条件もまた,重要な影響を及ぼしている。つまり文化が一種の資本(文化資本)として作用し,その多寡が学校教育や就業などの場面で階層性を再生産(文化的再生産)する契機となっているのである(Bourdieu 1990, 1991)。

 子どもの情報行動も例外ではなく,個々の子どもたちの情報行動の背景には文化資本の多寡という問題が潜在しているということに注意を払う必要があるだろう。家にどのくらい,どのような本があるかということや,テレビ,パソコン,ゲーム機器類の有無,親の情報行動はどのようなものであるか,こういった要素が子どもの情報行動のありようや,情報メディアの選好などに与える影響をも含めて議論していく必要があると考えられる。

 現在のところ,このような観点から子どもの情報行動を検討している研究はほとんどない。示唆を与えてくれるものとして,学歴の再生産について論じている論者のなかには,出身家庭の文化資本,文化環境を測定する尺度の1つとして,「家族が本を読んでくれたかどうか」を採用し,この「読書資本」がその後の教育達成過程に与える影響についても考察している片岡栄美の研究や(片岡 2001),「家庭にある家財・資材の所有率」を尺度として採用し,そのなかでパソコンやファックスなどの情報機器の所有率と文化的再生産の関連について述べている大前敦巳の研究などがある(大前 2002)。

4.5.5. まとめ

 私たちはすでに,常に,重層的な情報メディア(本,テレビ,ケータイ,インターネット…)に囲まれており,その中でそれらを利用して生活している。しかし情報メディアとの私たちの社会の関わり方は,所与のものではないし,不変のものではないだろう。私たちが情報メディアを使用することによって,情報メディアと社会の関わり方は一定の形式を生みだしながら,同時に不断に作りかえられている。つまり,情報メディアを重要な構成要素とする社会のありようは刻々と変化し続けているのである。このような認識を前提とし,子どもがどのようにその社会を生きているかを仔細に見ることは,単純な情報メディア悪玉論/善玉論では見えない,豊かな知見をもたらすことができるのではないだろうか。本稿で紹介した論考はそのための,問題の「読み解き方」を私たちに示唆してくれる。(堤)

注

  1. Giddens, Anthony (2004). “社会学とは何か”. 社会学. 第4版. 松尾精文ほか訳. 而立書房, p.41.
  2. 浅野智彦 (2005). ネットは若者をいかに変えつつあるか. 大航海. No.56, p.179.
  3. 浅野智彦 (2005). ネットは若者をいかに変えつつあるか. 大航海. No.56, p.179.
  4. 吉見俊哉 (1995). “メディア環境のなかの子ども文化”. 共生する社会. 佐伯胖. 藤田英典, 佐藤学編. 東京大学出版会, p.21, (シリーズ学びと文化, 4).
  5. 吉見俊哉 (1995). “メディア環境のなかの子ども文化”. 共生する社会. 佐伯胖. 藤田英典, 佐藤学編. 東京大学出版会, p.21, (シリーズ学びと文化, 4).
  6. 詳しくは,吉見俊哉. カルチュラル・スタディーズ. 岩波書店, 2000, 132p.などが参考になろう。
  7. 藤村正之 (2007). “文化と再生産”. 社会学. 長谷川公一ほか編. 有斐閣, p501.
  8. 大多和直樹 (1997). メディアと教育のパラドクス-メディアの教育への導入と悪影響批判の同時進行状況をめぐって. 東京大学大学院教育学研究科紀要. 第37巻, p.102.

参考文献

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阿久津善弘ほか (1990). “テレビ暴力番組の類型化に関する研究(2):利用と満足研究の応用”. 日本教育社会学会大会発表要旨集. (42), p.103-104.

阿久津善弘ほか (1991). “テレビ暴力番組の類型化に関する研究(3):利用と満足研究の応用”. 日本教育社会学会大会発表要旨集. (43), p.67-68.

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4.6. 米国の研究動向:図書館情報学百科事典のレビューから

  • 参照(6525)

 Encyclopedia of Library and Information Science(図書館情報学百科事典)の第2版が2003年に出版された。そのなかに,「子どもとIT」という見出しのもとに,Abbasが10ページにわたって72の文献をレビューしている。ここではそのレビュー文献を紹介し,それに対するコメントを述べたい。

 このレビューは,1995年から2003年までの間の子どもと情報技術に関する研究動向を示している。主な論文を逐一レビューする,というものではなく,研究領域を「相互作用・技術利用」「サービス・実践」「学習や教育」の3つに分けて,諸研究の成果に見られる課題を総合的に示している。なお,子どもと情報技術,という大きなテーマを扱っているが,元来が図書館情報学分野の百科事典中の記事であるので,図書館サービスを構築する上で参考になる点が多い。

 最も詳しく扱われている「相互作用・技術利用」の項目は,「OPAC利用・OPACの再設計」「OPACで利用される統制語彙」「マルチメディアCD-ROM」「インターネットとWWW」「サーチエンジン」「電子図書館」「子どもたちをパートナーとした電子図書館の設計」「PDAとe-book」「電子メールやチャットルーム」「情報氾濫」の10項目を扱い,学校や公共図書館を研究対象とした図書館OPACおよびWWWのサーチエンジンにまつわる子どもたちの情報探索行動の課題を述べている。情報探索において,検索語の選択や探索戦略の組み立ては,総じて子どもたちにとって大人が思うよりも難しい作業であること,キーワード検索とブラウズ手法には一長一短があるが,キーワードの選択だけでは成功しないこと,子ども向けの効果的な統制語彙や件名標目などの開発についての研究が少ないこと,などが指摘されている。また,英文文献のレビューではあるが,ドイツやデンマーク,スウェーデンなど諸外国での先駆的な生徒用のプロトタイプやインターフェイスにおける調査事例も紹介されている。インターネット利用についての項目では,ウェブ検索を私的に使う場合と学校の目的で利用する場合とでの検索行動の違い,利用するジャンルの男女での差,なども指摘されている。「PDAとe-ブック」では,全米の教室でどちらかの装置は使われているにもかかわらず,これらの利用についての研究データはまだないということが指摘されている。

 「サービス・実践」では,「インターネットとWWWのアクセス」「図書館員とスタッフの訓練」「蔵書構築方針」「情報リテラシー」の4項目に分け,米国の新通信法(Telecommunications Act, 1996)に端を発する情報化政策と図書館の関係,児童インターネット保護法(CIPA: Children’s Internet Protection Act, 2000)とフィルタリングの問題についても言及している。

 最後の「学習や教育」については,課題にごく簡単に触れている。

 どの項目の研究にも共通して指摘されていることは,子どもたちが大人と違う情報ニーズを持つこと,発達段階に応じた適切な内容のものを提供することが重要であること,で,情報専門職はそれらを認識した上で,ITは継ぎ目がなく子どもたちの毎日の生活のなかに取り込まれていることも踏まえ,これらの情報の中で情報氾濫を起こさないようするための効果的な検探方法の提供や,とりわけウェブ上で行きついた情報を評価する力を育てることが必要とされている。

 以下は,Abbasのレビューを読みながら,わが国の研究状況について考えたものである。

 4.1.3.や4.2.で取り上げられているように,日本でも子ども向け図書館OPACインターフェイスの利用調査や子ども向け(生徒向け)の情報行動の先行研究が行われている。しかし,まだ,子ども向けOPAC検索の実用化や普及については途上にある。こうした外国の先行事例をもとに,統制語検索とブラウズのメリット/デメリットを,日本語の検索においても検証していくことは,現在進行している学校図書館の蔵書目録のOPAC化,域内学校間での総合目録化,などの実践に対しても,「専門職や仲介者向け」なのか「生徒自身がつかうのか」という議論の着地点にも資するのではないか。

 また,紹介されている研究においては,抽象概念を取得する以前の子どもたちの学習段階を意識した分類,テーマ分けの試みがある。ともすると,日本十進分類法の十進分類を前提に利用者教育が行われている現状であるが,大人用の学問体系に準拠した検索語彙や十進分類体系では子どもたちの情報行動に不便をきたすところはどこか,という点は,今後の研究領域としては重要であると思われる。

 また,いずれの文献においても,使っている情報の質や根拠について評価する力の大切さが訴えられており,子どもの情報行動の中で,情報探索の力がもっとも試されるのは,この「情報の評価」の面であろう。では,どうやったらそれができるのか,または,その評価力を体系的に教授できるか,ということは,もうひとつ新しい課題になると思われる。(岸)

参考文献

Abbas, J. (2003). “Children and information technology”. Encyclopedia of Library and Information Science, vol.1. M.A.Drake ed. 2nd ed, Marcel Dekker, p.512-521.

5. 読書及び情報教育関連政策

  • 参照(14297)

5.1. 日本の情報政策の展開

  • 参照(9549)

 本章では,「子どもの情報行動」に関係する各種施策のうち,特に(1)子どもの読書活動推進,(2)違法・有害コンテンツ規制,(3)インフォメーションリテラシー・情報活用能力の涵養の3つを取り上げて,背景,経緯,動向について紹介する。その上で,これらの施策のもと,学校や図書館,図書館類縁機関がどのような活動を行っているのかについて,現況を紹介する。

 これに先立ち本稿では,これら個別の施策に通底する,府省を横断した政府全体の情報政策,戦略スキーマについて,1990年代後半から時系列で概観する。個別の施策については,特に「子どもの情報行動」に関係のあるものについて,その概要を紹介する。ただし各種審議会での議論及び答申については,本稿では取り扱わない。

 なお本稿では,金容媛に倣い,情報政策の概念を「政府が,情報社会の実現のため設定した,情報生産・情報流通・情報応用・情報制度などの目標達成のため行うすべての促進的または規制的計画・活動」と定義する1。IT(Information Technology)政策,ICT(Information and Communication Technology)政策などと呼ばれるものも包含して紹介する。

5.1.1. 高度情報通信社会推進に向けた基本方針(1995~1998年)

 日本政府による高度情報通信社会のための政策は,1994年8月に内閣に高度情報通信社会推進本部を設置したことを嚆矢とする。米国でクリントン大統領・ゴア副大統領が就任し,全米情報基盤(National Information Infrastructure),情報スーパーハイウェイ(Information Superhighway)構想を掲げた1993年の1年後である。同本部は翌1995年に「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」2(平成7年2月21日 高度情報通信社会推進本部決定)を発表し,情報通信インフラ整備の必要性を提起するとともに,その実現に向けた課題と対応策,そのための行動原則,官民の役割,政府の取組の在り方などを示した(高度情報通信社会推進本部 1995)。「子どもの情報行動」に関するものとしては,当面対応すべき具体的な政策課題「公共分野の情報化等」の中で学校・大学等における情報機器・ソフトウェア等の整備が,また同じく「人材の育成」の中で児童生徒の情報処理・活用能力の向上が,必要な施策として挙げられている。なお,この1995年基本方針には,行政の情報化,防災の情報化,情報化の進展に対応した著作権等の施策の展開,セキュリティ対策,プライバシー対策,相互運用性・相互接続性の確保,ソフトの供給など,後に実現する,又は重要な課題として議論される政策課題が数多く盛り込まれており,興味深い。

 この1995年基本方針から3年後の1998年,「想定し得なかったスピードで経済・社会の諸分野におけるネットワーク化が進展してきている」ことを受けて,改訂版の「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(平成10年11月9日 高度情報通信社会推進本部決定)が策定された(高度情報通信社会推進本部 1998)。この基本方針では,当面の目標として(1)電子商取引普及,(2)電子的な政府の実現,(3)情報リテラシー向上,(4)情報通信インフラ整備の4つが掲げられた。また1995年基本方針で挙がった各課題に加え,電子商取引等推進のための環境整備及びハイテク犯罪への対策の必要性が特記されている。「子どもの情報行動」に関する観点からは,情報リテラシー向上が目標として明記されたこと,電子商取引等推進のための環境整備の1つとして「違法・有害コンテンツ対策」の必要性が提起されていることが注目に値する。後者については,コンテンツの充実という項目においても,青少年の健全な育成に配慮したコンテンツの制作・利用体制の整備が必要とされている。

 1995年基本方針で掲げられた情報社会実現のための政策課題は,「子どもの情報行動」に関するものに限れば,金の言う「促進的計画・活動」のみであった。これに対し,1998年基本方針では,違法・有害コンテンツ対策という「規制的計画・活動」が加わっている。以後,促進/規制の両面での政策展開・議論が行われていく。

5.1.2. 基本方針アクション・プラン及びミレニアム・プロジェクト(1999~2000年)

 翌1999年には,1998年基本方針に基づく情報通信関連施策全体の進捗状況を測る指標として,また関係省庁の施策推進に資するものとして,「高度情報通信社会推進に向けた基本方針: アクション・プラン」(平成11年4月16日 高度情報通信社会推進本部決定)が策定された(高度情報通信社会推進本部 1999a)。これは,基本方針の4つの当面の目標と,その他の課題との各々に対し,具体的な施策事項とその目的や期待される効果,措置内容,連絡先省庁を示したものである。「子どもの情報行動」に関係するものとしては,「違法・有害コンテンツ対策」として郵政省・通商産業省・警察庁などの施策が,「情報リテラシーの向上および人材育成」「教育の情報化」「コンテンツの充実」として文部省・郵政省・通商産業省などの施策が挙げられている。例えば「教育の情報化」においては,2001(平成13)年度までにすべての公立学校をインターネットに接続する,公立学校においては小学校で22台(児童2人に1台で指導),中学校・普通科高等学校で42台(生徒1人に1台で指導)の教育用コンピュータを整備する,と年限を明記した形で,施策事項とその目標設定がなされている。なおこのアクションプランにおいて,警察庁による「少年に有害な情報に関する研究」として情報と少年非行との関連についての実態把握・分析が,郵政省による「青少年と放送に関する調査研究」としてメディア・リテラシーに関する議論の蓄積が,各々必要だと提起されていることにも目を向けておく必要があろう。

 アクションプランで掲げられた施策事項のうち,「教育の情報化」など4つの事項(他は自動車保有関係手続のワンストップサービス,政府調達手続の電子化,行政事務のペーパーレス化)については,1998年12月に設けられた内閣総理大臣直轄の省庁連携タスクフォース「バーチャル・エージェンシー」によるプロジェクトとして検討が進められ,1年後の1999年12月,内閣総理大臣に対して最終報告が行われた(バーチャル・エージェンシー 1999)。「教育の情報化プロジェクト」の報告では,世界的な趨勢を見ても「教育の情報化は,日本の教育における最重要課題」であるという認識のもと,情報化の推進によって「子どもたち」「授業」「学校」がどのように変わっていくのかという姿を目標として設定するとともに,その目標を達成するための具体的な取り組みと,それを進めていく上で配慮すべき事項が提示されている。ここでは,「主体的に学び考え,他者の意見を聞きつつ自分の意見を論理的に組み立て,積極的に表現・主張できる」ように「子どもたちが変わる」ための前提として, (1)情報に関するモラルやルール等のための教育の実施,(2)心の教育の充実,(3)教育のための技術の研究開発の3点に配慮しながら,2005年を目安として,ハード・ソフト両面での具体的な取り組みを施策として推進すべきと提言している。また「教育情報ナショナルセンター」を整備する必要性も提言されている。

 なおこの報告には,「情報化の「影」の部分への対応」という表現が登場する。情報化により,子どもたちのコミュニケーション能力が飛躍的に高まる一方で,「子どもたちがバーチャルな空間に埋没することによって,自然体験・社会体験の不足,人間関係の希薄化,現実感の欠如を招くなど,いわゆる情報化の「影」の部分も懸念される」とする。そして,この事態に対応するために,より一層の「心の教育」の充実,子どもたちに自然にネチケットを身に付けさせていくことが重要だとされている。この「情報化の「影」の部分への対応」という表現は,以後の文部科学省による「教育の情報化」施策の方針にも登場し続けている。

 このバーチャル・エージェンシーによる報告を受けて同1999年末,「バーチャル・エージェンシーの検討結果を踏まえた今後の取組について」(平成11年12月28日 高度情報通信社会推進本部決定)が発表された(高度情報通信社会推進本部 1999b)。これは各施策について,目的・目標,具体的な方策,実施に当たっての課題,スケジュール,推進体制等を定めるものであった。内容はほぼ,報告の提言に従うものであったが,以下の3つの事項についてスケジュール(年限)が具体的に示されたことに注目したい。

  1. 平成13年度(2001年度)までに,すべての公立小中高等学校等がインターネットに接続でき,すべての公立学校教員がコンピュータの活用能力を身につけられるようにする。
  2. 平成14年度(2002年度)に,我が国の教育の情報化の進展状況を,国際的な水準の視点から総合的に点検するとともに,その成果の国民への周知を図るため,国内外の子供たちの幅広い参加による,インターネットを活用したフェスティバルを開催する。
  3. 平成17年度(2005年度)を目標に,すべての小中高等学校等からインターネットにアクセスでき,すべての学級のあらゆる授業において教員及び生徒がコンピュータを活用できる環境を整備する。

 1999年10月19日,「新しいミレニアム(千年紀)の始まりを目前に控え,人類の直面する課題に応え,新しい産業を生み出す大胆な技術革新に取り組む」プロジェクト「ミレニアム・プロジェクト」の基本的な枠組みと構築方針が,内閣総理大臣決定により発表された(内閣総理大臣 1999a)。そして同年12月19日,「ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について」(平成11年12月19日 内閣総理大臣決定)として正式に始動した(内閣総理大臣 1999b)。これは,「我が国経済社会にとって重要性や緊要性の高い情報化,高齢化,環境対応の三つの分野について,技術革新を中心とした産学官共同プロジェクトを構築し,明るい未来を切り拓く核を作り上げるもの」であり,特に情報化の分野においては,教育の情報化,電子政府の実現,IT21(情報通信技術21世紀計画)(仮称)の推進と,高度情報通信社会推進本部によるアクション・プラン(1999年)と深く関連する3つのテーマが定められている。

 ミレニアム・プロジェクトにおける「教育の情報化」プロジェクトの目標は,上述の「バーチャル・エージェンシーの検討結果を踏まえた今後の取組について」(1999年)の内容とまったく同じである。このミレニアム・プロジェクト「教育の情報化」の推進体制として,内閣内政審議室,文部省,通商産業省,郵政省,自治省の関係局長レベルからなる「教育の情報化ミレニアム関係省庁連絡会議」が,また評価・助言機関として,有識者等で構成する「教育の情報化評価・助言会議」が設置された。バーチャル・エージェンシーの体制に引き続き,ミレニアム・プロジェクトの枠組みで行う事業を遂行すべく,省庁横断的な連携体制が構築されたのである。

 なお翌2000年5月には,高度情報通信社会推進本部がアクション・プランに対するフォローアップを行っている(高度情報通信社会推進本部 2000a, 2000b)。ここでは,アクション・プランの進捗状況の評価とともに,アクション・プラン策定時以降の状況変化と新たに生じた課題の整理が行われているが,とりわけ,行政機関等のサーバーに対する攻撃が行われた事件などを背景として,ハイテク犯罪・セキュリティ対策の必要性が特記されている。「教育の情報化」については,バーチャル・エージェンシーでの検討成果とそれを受けたミレニアム・プロジェクトの枠組みで具体的な施策目標が設定されたとし,最終目標である2005年度に向け,着実に実施すること,とされている。

5.1.3. IT基本戦略及びIT基本法(2000~2001年)

 2000年7月7日,閣議決定により,高度情報通信社会推進本部が廃止され,新たに内閣に情報通信技術(IT)戦略本部が設置された。あわせて,この本部の下に,「IT革命の推進について,戦略的かつ重点的に検討を行う」ため,有識者によるIT戦略会議が設けられた。この両者が6回にわたり合同会議を行い,2000年11月27日,IT戦略会議名の戦略スキーマ「IT基本戦略」を発表した(IT戦略会議 2000)。

 この戦略はまず,コンピュータや通信技術の急速な発展とともに世界規模で進行するIT革命により,「世界は知識の相互連鎖的な進化により高度な付加価値が生み出される知識創発型社会に急速に移行していく」という認識から始まる。そして,インターネットの普及率が主要国の中で最低レベルにあるなど,IT革命への取り組みにおいて世界各国から遅れを取っているとし,5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指すべく,国家戦略の必要性を説く。それは,知識創発型社会を目指すべき社会とし,これを実現するための新しいIT国家基盤として,(1)超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策,(2)電子商取引と新たな環境整備,(3)電子政府の実現,(4)人材育成の強化,の4つを重点政策分野に集中的に取り組む,というものである。

 この戦略の中で,「子どもの情報行動」に関連する施策は「人材育成の強化」の中に盛り込まれている。「小中高等学校及び大学のIT教育体制を強化するとともに,社会人全般に対する情報生涯教育の充実を図る」という目標のもと,「情報リテラシーの向上」を実現すべく,政府は以下の方策を講ずるとしている。

 ミレニアムプロジェクト「教育の情報化」を早期に達成し,小中高等学校のインターネット接続の環境を整備し,ITを利用した教育を可能にする。また,図書館,公民館等の公共施設にインターネット接続可能な環境を整備するとともに,教育用コンテンツの充実を図る。

 ITを使った授業やITの倫理・マナー教育を充実する。インターネット時代にますます重要となる英語教育を充実させるとともに,数学や理科などの科目を重視して論理的思考力を育てる。同時に,自己表現能力を培い,創造力の涵養に努める。

 学校単位でインターネットを活用した国内外の他地域の学校との交流を促進し,異なる文化・立場を持つ人々とも協働できるような人材を育てる。

 このIT基本戦略から遅れること2日,2000年11月29日に,「情報通信技術の活用により世界的規模で生じている急激かつ大幅な社会経済構造の変化に適確に対応することの緊要性」を背景に,高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する基本理念,施策の策定に係る基本方針を定めることなどを目的とした「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年12月6日法律第144号)」が成立した。通称「IT基本法」と呼ばれるこの法律は翌2001年1月6日に施行され,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が内閣に設置された。これは,内閣総理大臣を本部長,内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当),内閣官房長官,総務大臣,経済産業大臣を副本部長とし,内閣官房情報通信技術(IT)担当室が事務を担当する体制である。なお同日,中央省庁の再編が行われるとともに,内閣府に「重要政策に関する会議」の一つとして科学技術に関する総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を担う総合科学技術会議が設置されている。

5.1.4. e-Japan戦略及び関連する重点計画(2001~2002年)

 IT戦略本部は2001年1月22日,IT基本戦略とほぼ同内容の「e-Japan戦略」を発表し(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 2001),次いで同年3月,この戦略を具体化し,高度情報通信ネットワーク社会の形成のために政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策の全容を明らかにするものとして「e-Japan重点計画: 高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する重点計画」を策定した(IT戦略本部 2001a)。このe-Japan重点計画では,必要とされる制度改革や施策を2001年からの5年間に迅速かつ重点的に推進するとしている。中でも,(1)世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成,(2)教育及び学習の振興並びに人材の育成,(3)電子商取引等の促進,(4)行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進,(5)高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保の5つを,集中的に取り組む重点政策分野として挙げている。

 このうち,「子どもの情報行動」に関連する施策は,主に「教育及び学習の振興並びに人材の育成」に含まれている。その冒頭は現状と課題の分析であるが,ここで小中高等学校等でのパソコン,インターネットの普及状況の遅れに対する危機意識が強く表明されている。「小中高等学校及び大学等のIT教育体制を強化するとともに,社会人全般に対する情報生涯教育の充実を図る」という目標のもと,「学校教育の情報化等」として,ア)学校のIT環境の整備,イ)IT教育の充実等,ウ)IT指導力の向上,エ)教育用コンテンツの充実,オ)教育用ポータルサイトの整備等の5つについて,具体的施策が示されている。各々,「2001年度中に,すべての公立小中高等学校,盲・ろう・養護学校等がインターネットに接続できるようにし,2005年度までに,すべての小中高等学校等が各学級の授業においてコンピュータを活用できる環境を整備するとともに,授業や家庭・地域・他校とのコミュニケーションへのネットワークの積極的活用を支援する。」などの,年限・数値を明示した目標が設定されている。数が多い(e-Japan重点計画全体で220項目)ため,本稿ではすべては紹介しないが,学校におけるインターネットの整備,情報・コンピュータ・著作権・インターネット上のモラルや倫理に関する授業の実施,教員のコンピュータ・リテラシーの向上,教育用デジタルコンテンツの整備などについて,目標が設定されている。このほか重点政策分野に横断的な課題として,学校のバリアフリー化,青少年の健全育成,違法・有害情報の流通への対応も挙がっている。

 同2001年6月にはIT戦略本部が,e-Japan戦略及びe-Japan重点計画の内容を各府省の2002年度の施策に反映する年次プログラムとして「e-Japan2002