2016年8月,米国・ハーバード大学図書館の学術コミュニケーション室(Harvard Library Office for Scholarly Communication)が,購読料収入で運営する学術雑誌をオープンアクセス(OA)に転換する方法について体系的にまとめた報告書を公開した。
本報告書の最大の目的は,OAへの転換のさまざまなシナリオを提供することである。主題分野や財務状況などの環境条件はジャーナルごとに異なるので,多くの選択肢を示すことは,個々のジャーナルがOAへの転換について十分な情報を持った決断(informed decision)を行うことにつながるからである。シナリオの内訳は,論文処理費用(APC)が資金源のシナリオが10,APC以外が資金源のシナリオが5である。各シナリオについて,「関連のある出版者のタイプ」「前提条件」「関連のある分野」「転換の目的」の4つの項目に加えて,SWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析が示されており,自らのケースに関連の深いシナリオを確認しやすくなっている。これらを簡略に整理した表を研究データ公開プラットフォームfigshare上に公開しているので適宜参照されたい。以下,それぞれのシナリオの概要を紹介する。
著者に対して投稿料とAPCの両方を課すか,投稿料のみを課す方法。APCは論文が受理された著者のみに課されるが,投稿料は受理の可否にかかわらず投稿したすべての著者に課される。投稿料は一般的には50~200USドル程度で収入としては大きくないが,本気でない(non-serious)投稿を減らし,査読の負担を軽減する効果が期待される。
・ハイブリッドOAを経由するシナリオ
購読モデルを維持しつつ,著者がAPCを支払うことによって論文単位でOA化を選択できる方法。財政的に安定した状態で著者層のAPCモデルへの関心を評価できる一方で,購読料とAPCの二重取り(double dipping)によって学術コミュニティの負担コストが増える恐れがある。
・APCを機関購読契約と組み合わせるシナリオ
大手学術出版社との電子ジャーナル機関購読契約にAPC免除もしくは割引の条項を含める方法(E1790 [1]参照)。ハイブリッドOAの二重取り問題の1つの解決方法であり,オフセットモデル(offsetting deals)とも呼ばれる。
・Delayed OAを経由するシナリオ
出版後に一定のエンバーゴ期間(購読者のみが利用できる期間)が経過してからOAにする方法。エンバーゴ期間は6か月から2年程度のケースが多い。完全なOAへの転換に向けたリスク評価手段として有効かどうかは意見が分かれている。
・ジャーナルのブランド再構築および対象領域を変更するシナリオ
ジャーナルの立ち位置を調整し,より多くの投稿を得ることを狙う方法である。投稿数の増加によって安定したAPC収入につながる可能性がある一方で,変更内容によっては投稿数の減少や現在ジャーナルを支持している層の離反を招く恐れがある。
・明確に定義されたセクションを別ジャーナルに分離するシナリオ
既存の購読型ジャーナルのうち明確に定義された1セクションを,別の新しいOAジャーナルとして分離独立させる方法。母体となるジャーナルも含めた完全なOA化に向けた足掛かりとして活用できる。新しく革新的なツールやプロトコルを扱う,電子版にのみ掲載のセクションを分離した“American Journal of Botany”の事例が紹介されている。
・同じ出版者に留まるシナリオ
この方法には,編集者を含めた転換前からの出版インフラを維持できるメリットがある。そのジャーナルが出版社に所有されている場合や出版契約を結んでいる場合には,学術コミュニティの意図と出版社の経営戦略との合致が必要になる。
・出版者を変更するシナリオ
非常に一般的な方法であり,購読モデルを提供する出版者から,APCモデル中心の出版者への移行がよく行われる。また,学会の資源やボランティアの協力を得て,学会自らが出版する方式へ移行するというケースもある。
・低コストの出版社・出版事業者と出版契約を結ぶシナリオ
OAに特化した多くの出版社が費用対効果の優れた出版サービスを提供している。コストを減らすことは追加の収入を生むのと同程度に効果的であるので,小規模な学会・組織にとって大きな助けとなる方法である。
・大手学術出版社と出版契約を結ぶシナリオ
日本を含むアジアのSTM系英語ジャーナルが主な例である。質の高い非欧米圏ジャーナルを手に入れたい出版社と,認知度や権威の向上を狙う学会の意図が合致したときに取りうる方法である。
APCは課さず,学会の他の収入源を出版費用に充てることでOA化する方法。学会員や著者からのOA化への圧力により比較的よく発生する。予算の使途変更により,学会の他の活動に影響を及ぼすため,広く学会員の意見を集めた上で判断する必要がある。
購読料収入に代わる安定した資金源が見込めず,APCもなじまないようなジャーナルで活用される方法。ボランティアやオープンソースのシステムなどを活用することで,コストを大幅に減らす。ボランティアの継続的な確保と育成が課題となる。
購読型冊子の販売は続けながら,電子版を,ラテンアメリカのSciELO,日本のJ-STAGEなどの各国・地域のプラットフォームを使ってOAで公開する方法。この種のプラットフォームは公的助成を受けていることが多く,低コストで利用することができる。
SCOAP3(E1845 [2]参照)やOpen Library of Humanities(E1395 [3],E1469 [4]参照)のような図書館の広域コンソーシアムを結成し,これまでジャーナルの購読費として使っていた費用をOA出版経費に振り替えるという方法。比較的新しい方法だが,各図書館の追加の出費を抑えつつ,多くのジャーナルをまとめてOA化する潜在的可能性を持つ。
広告料収入や,募金・クラウドファンディング,無料のHTML版に対する有料のPDF版といった付加価値サービスなど。いずれもその手法のみでは必要な運営資金を得られそうにないが,追加の収入源となる可能性がある。
海外の事例が中心ではあるが,OAへの転換を考えている日本のジャーナルにとって,参考になる報告書であるだろう。また,図書館員にとっても,普段は断片的な事例として接している数々のOA転換ルートを包括的にとらえ,OAの推進に向けてより説得力のあるメッセージを発信するための有益な基礎資料となっている。
神戸大学附属図書館・藤江雄太郎
Ref:
http://nrs.harvard.edu/urn-3:HUL.InstRepos:27803834 [5]
https://osc.hul.harvard.edu/programs/journal-flipping/ [6]
https://dx.doi.org/10.6084/m9.figshare.4299446 [7]
http://www.scielo.org/php/index.php [8]
https://www.jstage.jst.go.jp/pub/html/005_jp_menu_.html [9]
https://www.nii.ac.jp/sparc/scoap3/ [10]
E1790 [1]
E1845 [2]
E1395 [3]
E1469 [4]
研究データのオープン化が進み,分野や地域を超えたデータの再利用によって新しい知見を生み出すことが期待されている。しかし,複数のデータセットの利用条件が異なる場合は,どのように再利用すればよいのだろうか。また,研究データには著作権が認められない場合が多いが,作成者の権利をどのように示せばよいのだろうか。こうした疑問に答えるガイドライン(Legal Interoperability of Research Data: Principles and Implementation Guidelines)を,研究データ同盟(RDA)と科学技術データ委員会(CODATA)が共同設置する法的相互運用性分科会(RDA-CODATA Legal Interoperability Interest Group)が公開した。
ガイドラインは公的助成を受けた研究によるあらゆるタイプのデータを対象としており,データにかかわる研究コミュニティ―すなわち資金提供者,データセンター,図書館員,アーキビスト,出版者,政策立案者,大学の管理者,研究者,法律顧問―にとって有益な示唆が含まれている。本文は(1)6つの指針と細目の要約,(2)実施のためのガイドライン,(3)用語集に分かれているが,本稿は6つの指針に主要な細目とガイドラインの重要な点を補いながら紹介する。
公的資金による研究データは公的なものであり,世界的な公共財であるとも考えられる。研究データへのアクセスと再利用はオープンで制限を設けないことを基本として,可能な限り制限を少なくするべきである。政府,学術機関,研究者は,研究データの再利用を制限しないよう,政府間合意やクリエイティブ・コモンズのCC0ライセンスを活用するといった方法でパブリックドメインとすることができる。CC0やPDDL(オープンデータコモンズのパブリックドメインライセンス)による権利放棄は,研究データの法的相互運用性を高めるためには望ましい手段であるが,データを広く普及させようとする場合にはCC BY 4.0(表示)とすることもできる。利用条件を課す場合は,経済的に不利な人々を含めたすべての利用者がデータを公平に利用できるようにしなければならない。
研究データの公開者は,誰がデータに関して権利を持っているのかを公開前に規定する必要がある。一方,研究データの利用者は,データの収集や利用の際の条件を遵守しなければならない。また,利用にあたっては最も制限が厳しい条件に準拠するが,制限のない他のデータとは分離することも可能である。関連機関は研究データの権利と責任に関する研究者向けの教育プログラムを開発し,実施するべきである。
一般に,国家安全保障,個人情報,機密事項,絶滅危惧種,保護すべき文化資源などに関するデータは公開の対象外となる。それ以外の公的に資金提供された研究データは知的財産権をできる限り放棄するべきであり,もし政府や公的研究機関が追加の制限を課す場合は,そのことを正当化する必要がある。また,政策立案者が公的資金による研究データへのアクセスや利用の規則を策定する際には,公共の利益を考慮に入れるべきである。公的な研究助成機関と公的な研究データの権利保持者は,彼ら自身が研究に利用するためのエンバーゴ期間を必要最小限に抑えるべきである。
広範な利用者が理解できるように,また機械処理できるように,研究データに法的な権利がある場合は標準化された電子的なステートメントを利用する。また,利用に関する特別な契約条件がある場合は,利用者に知らせるべきである。
分野や地域によって異なる研究データに関する権利を調和させるために,トップダウンとボトムアップ,あるいは両方を組み合わせた方法が可能である。政府による活動がない場合,クリエイティブ・コモンズのようなボトムアップの活動は有効なアプローチとなりうるが,細分化されており調和が取れていない。トップダウンの調和,たとえば多国間条約や行政協定,国内法制や機関による規則といった「強制力のある(hard)」法は,広範な調和のための手法として役立つ。
公開された研究データを利用する際には,データの作成者を謝辞や引用で明示する。また,こうした研究データの帰属の明示は法による要求ではなく,論文の引用のような学術界の慣習であることが望ましい。ただし,データの引用は検討が重ねられ,FORCE11(研究データの流通や活用を推進する国際イニシアティブ)による共同声明などが公開されているものの,充分に普及していない。
本ガイドラインは法的拘束力こそないものの,政策立案者,研究機関の管理者,研究者,図書館員,データセンターの職員といった多様な参加者の合議によって作成されている(CA1875 [17]参照)ため,データ公開や再利用,規則策定の際に参照する価値が高いと考えられる。特に指針4の権利の明示は,公開者と利用者双方の懸念を解消し,データの広範な利用を推進するために重要であるといえよう。国立情報学研究所(NII)が策定した,研究データに適用されるjunii2のメタデータフォーマット(ver. 3.1),ジャパンリンクセンター(JaLC)の研究データの登録メタデータ仕様(ver. 2.0),DataCiteのメタデータスキーマ(ver. 4.0)のいずれにおいても「権利(rights)」の入力は必須ではないが,利用者がひと目で分かるライセンスの明示を期待したい。
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為
Ref:
https://doi.org/10.5281/zenodo.162241 [18]
https://creativecommons.jp [19]
http://opendatacommons.org [20]
https://www.force11.org/group/joint-declaration-data-citation-principles-final [21]
https://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/junii2_elements_guide_ver3.1.pdf [22]
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_tech_meta_lab_data.pdf [23]
https://schema.datacite.org/meta/kernel-4.0/doc/DataCite-MetadataKernel_v4.0.pdf [24]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/59/4/59_241/_article/-char/ja/ [25]
CA1875 [17]
筑波大学附属図書館は,2006年に亡くなった歴史学者の二宮宏之氏の旧蔵書を二宮文庫として公開した。これは二宮氏の没後に立川孝一筑波大学教授(フランス史・肩書きはいずれも当時)の仲介によって,約9,000冊の旧蔵書が同館へ寄贈され,2016年9月に受入作業が終了したものである。二宮氏は戦後日本を代表する歴史学者であり,特にフランスを対象とした社会史の研究で多くの歴史家に影響を与えている。
本稿では中井えり子氏が指摘する,大学図書館における特殊コレクション(特定の主題,資料の種類で構成されたひとまとまりの資料群や,歴史的人物や著名な人物が収集した資料からなる文庫)の3つの課題,補完・管理・利用(CA1842 [28]参照)を念頭におきながら,研究者の旧蔵書コレクションの受入れと活用に関する新たな事例として,同館の取組を紹介する。
二宮文庫は,600冊ほどの貴重書を保存設備の整った筑波キャンパスに所在する中央図書館の貴重書庫で所蔵し,それ以外の資料を東京キャンパスに所在する大塚図書館で所蔵している。また,貴重書の電子化については,今後検討される予定である。
二宮文庫の最大の特徴は二宮氏の旧蔵洋書の大半を受け入れ,二宮氏の書斎における配置をほぼ踏襲して大塚図書館で開架している点にある。
この公開方法を実現するため,通常とは異なる請求記号が付与されている。蔵書の背ラベルの一段目にはNDC分類を,二段目に二宮文庫としてのまとまりを優先して,一律に二宮氏の著者記号を記載している。また三段目には,二宮氏自身による分類を反映させるため,書斎における排列に基づく独自の13種類の分類を記載している。この請求記号により,NDC分類と二宮氏独自の分類を両立させ,研究者の旧蔵書を一括で所蔵する特色を活かしながら,NDCの体系に組み込むことに成功している。本来であれば膨大な作業を必要とする整理方法であるため,二宮氏ご遺族の協力により実現できたという。
二宮文庫は蔵書の内容とその排列をとおして二宮氏の知の体系を詳らかにすることを教育上の狙いの一つとしている。利用者は二宮氏が研究で参照した資料を閲覧することで,二宮氏の思考の過程を自らたどることができる。さらに,二宮氏の蔵書排列を追うことで,二宮氏が見出していた著作どうしの関連を学ぶことができる。
二宮氏の蔵書は充実したものであり,専門領域であるフランス絶対王政期の制度史や思想史に加えて,フランス革命史や社会史の主要文献を網羅していることから,二宮文庫の公開に当たって蔵書の補完はしていない。
中央図書館では,受入作業の終了に合わせて,蔵書の一部を二宮氏の研究者としての足跡とともに紹介する特別展「歴史家 二宮宏之の書棚」を開催した。会期中には関連企画として座談会やギャラリートークを行ったほか,SNS等を用いて積極的に広報した。一見すると専門的な内容でも,専門家が多様な視点でその魅力を発信することで,多くの人の関心を惹くものになり,結果として例年の特別展並みの入場者を得ることができた。特に二宮文庫の受入れを担当した津崎良典筑波大学准教授(フランス哲学)や,かつて二宮氏から学問的訓練を受けた林田伸一成城大学教授(フランス史)と高澤紀恵国際基督教大学教授(フランス史)がギャラリートークや図録の解説文,座談会などで二宮氏の人柄と業績を紹介することによって,二宮氏を直接知らない人にとっても親しみやすいものとなったのではないだろうか。
フランス史の研究者の間では,図書館の既存の排列に従って文庫を解体し再配置するのではなく,文庫としてのまとまりを保ち二宮氏の排列を踏襲して公開したことへの評価が高い。さらに,他の大学図書館には所蔵されていない数多くの蔵書を整理し,OPACで公開していることから,既に図書館間貸出しで利用実績がある。
旧蔵書コレクションの受入れは大学図書館にとって多くの作業を必要とするため,研究者の旧蔵書が大学の教育・研究にもたらす有効性が,その作業に見合うだけのものであると示していく必要があると考えられる。教育への利用に関しては筑波大学の人文学系の学生が所属する筑波キャンパスではなく,東京キャンパスの大塚図書館に二宮文庫が存在することから,直接的な効果は現在のところ不明である。すでに実績のある図書館館貸出しに加え,教育への利用を中心に,さらなる活用方法が模索されているという。
また,今後同様の規模の文庫が出現した際に,図書館が資料受入れのための環境を整えることができるかどうかが大きな問題となる。二宮文庫の場合は大塚図書館の改修後に排架場所を確保できたが,多くの図書館では予算の削減と資料収蔵スペースの狭隘化が問題になっており,大規模な個人コレクションを一括して受け入れ,所蔵し,利用提供する環境を整備するのは難しいだろう。
特別展座談会に出席された二宮素子夫人が「人の儚い命に比べて,ものは残る。残ったものを様々な人に利用していただけることがうれしい」とおっしゃっていたことが印象的だった。文庫の価値を理解した研究者と,文庫の性質に適した分類,整理,公開方法を採用した図書館員の協力によって,研究者の知の足跡がこのように公開されたことを高く評価できよう。二宮文庫の事例のように貴重な研究者の旧蔵書が活用される場としての大学図書館に期待したい。
利用者サービス部図書館資料整備課・田幡琢磨
Ref:
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/ja/collection/bunko-collection [29]
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/exhibition/2016nino/ [30]
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/ja/information/20160906/ [31]
https://twitter.com/tulips_tenji [32]
https://www.facebook.com/tsukubauniv.lib [33]
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001070838&cycode=0 [34]
CA1842 [28]
特集, 二宮宏之氏を悼む. 思想. 2006, 986, p. 127-146.
“World e-Parliament Report 2016”(以下「本レポート」という。)は,列国議会同盟(IPU)及びチリ議会下院が2016年6月に共催した“World e-Parliament Conference 2016”へ向けてまとめられたレポートである。議会機能の強化と透明性等の向上のため情報通信技術(ICT)を活用する議会,すなわち電子議会(e-Parliament)を推進するIPUの活動の一環である。2008年の最初のレポート以降,2010年及び2012年に引き続き4回目の刊行となる。
読みやすく洗練されたデザインの中に,世界88か国,114の議会及び33の議会モニタリング組織(Parliamentary Monitoring Organizations:PMOs)から得たアンケート調査の結果がまとめられており,議会におけるICTの活用状況を地球規模で俯瞰することができる。ここではオープンデータ及びPMOsに関する調査の2つに絞って紹介するが,調査結果及び分析は多岐にわたる。是非レポート本文を参照されたい。
このレポートにおいてオープンデータとは,機械による判読が容易なデータ形式で,自由に使えて再利用もでき,かつ誰でも再配布できるようなデータないし情報であって,作者のクレジットを残す以外に条件のないものである。“World e-Parliament Conference”は発足当初より議会文書におけるXMLの採用を推進してきた。XMLを利用することで,文書交換の単純化・自動化,検索機能の改善,文書へのリンク・再利用の簡易化,多様な提供形態への対応等の恩恵が得られ,議会の透明性,開放性やアクセシビリティの向上,パブリック・エンゲージメント(国民関与)の促進に寄与するという。
本レポートによれば,現在XMLで文書を公表している議会は26%(回答数106)に留まる。PDFで文書を公表している議会が80%(回答数106)に上ることと比べれば,XMLの普及は途上であろう。しかし,XMLに対応した文書管理システムを使用している議会は,2010年レポートの調査から倍増したという。今後,XMLの利活用がますます広まると思われるが,その普及における課題としては職員の知識・養成面の不足やソフトウェアの導入・開発の困難さなどがあり,低所得国にとっては予算制約の問題も大きなハードルとなっている。加えて,オープンデータ等の新しい分野については,国内外の議会や政府機関からのサポートを十分に得ることができないという分析結果も示されている。新技術の利活用について,そのノウハウの共有をいかに行うかも課題であるとされている。
ここで注目したいのは,本レポートで報告された議会図書館ネットワークの広がりである。議会図書館の80%(回答数103)が国際図書館連盟(IFLA)をはじめとする何らかの国際的ネットワークあるいは地域的ネットワークに参加しているという。議会図書館の連携は,図書館だけでなく,立法関係機関のICT導入に重要な貢献を果たすだろうと本レポートも述べる。XML等のICTの利活用について,図書館ネットワークは情報交換の場として有効に機能するだろう。
本レポートでは,2012年のレポートに引き続き,PMOsに注目している。PMOsとは,議会情報を収集,分析,発信することで議会機能を高め,パブリック・エンゲージメントを促進する市民社会団体である。議会によるオープンデータの発信とPMOsによる利活用が活発になれば,PMOsの機能もそれだけ強化されることになり,議会機能の向上に資することが期待されている。代表的団体として英国のハンサード協会があるが,本レポートでは近年のPMOsの具体的な活動の例として,日本を含む世界中の国会議員とそのFacebook,Twitterアカウント等の情報を検索できる“EveryPolitician”や,市民活動をサポートするデジタルツールを提供する“Poplus”が紹介されている。
パブリック・エンゲージメントを促進するには,アクセスしやすく,わかりやすい議会情報を提供するだけでなく,国民の教育・啓発,調査研究の支援など,政治及び議会に対する国民の関心を高める地道な活動が求められる。こうした活動は議会単独では成し得ず,地域コミュニティ,メディア,教育機関等との協力が不可欠である。議会のパートナーとしてPMOsが注目されているが,情報提供及び研究支援は図書館も得意としてきた領分ではないだろうか。
本レポートは国の議会とその周辺機関について述べられたものであるが,示された議論は地方議会にも応用できる。ICTは国会・地方の議会と国民・市民との間の壁を取り除く可能性を持っている。その可能性を実現するために,新しい技術の情報交換の場として,議会と国民・市民とを繋ぐ仲介者として,図書館が果たすことのできる役割は大きい。
調査及び立法考査局議会官庁資料課・松澤貴弘
Ref:
http://www.wepc2016.org/en/wepr2016 [39]
http://doi.org/10.11501/3751406 [40]
http://www.publications.parliament.uk/pa/cm201314/cmselect/cmpubadm/75/75.pdf [41]
http://elibrary.worldbank.org/doi/abs/10.1596/978-1-4648-0327-7_ch8 [42]
https://www.ndi.org/files/governance-parliamentary-monitoring-organizations-survey-september-2011.pdf [43]
https://www.hansardsociety.org.uk/ [44]
http://everypolitician.org/ [45]
http://poplus.org/ [46]
https://assets.contentful.com/u1rlvvbs33ri/6mhRiacA8wQ4m2OumU2gMu/8e451383204344f99cf8e6079a0727b0/Publication__Connecting-Citizens-To-Parliament-2011.pdf [47]
CA1825 [48]
CA1839 [49]
John Carlo Bertot ; Brian Real ; Paul T. Jaeger. Public Libraries Building Digital Inclusive Communities: Data and Findings from the 2013 Digital Inclusion Survey. The Library Quarterly. 2016, 86(3), p. 270-289.
2013年9月から11月にかけて,米国図書館協会(ALA)とメリーランド大学情報政策アクセス・センター(iPAC)は共同で,全ての人がICT技術の恩恵を受けて,生活の質を維持・増進することができるデジタルインクルージョン(包摂)社会を支える公共図書館(以下,図書館)の役割を立証するために,全国調査“The Digital Inclusion Survey 2013”を行なった。本文献は,その実施担当者が,調査によって明らかになった知見・分析結果等を取りまとめたものである。そこでは,パソコンやWi-Fiの無償提供(E1580 [55]参照),デジタルリテラシーに関する講習の実施,失業者の就職活動・政府情報の入手・医療保険/失業給付の電子申請に対する支援(E1346 [56]参照)といった図書館の取組が紹介され,それらが米国内で広く行われていることから,図書館が地域社会のデジタルデバイドの解消,住民のデジタルリテラシーの促進にとって重要な役割を担っており,図書館はデジタル包摂社会を支えていると結論付けている。
一方,本文献では,図書館がデジタル包摂社会を支えるにあたっての課題についても言及している。本稿では,それらの課題について,図書館サービスの地域間格差と,図書館の資金不足の2点に注目し紹介する。
地域間格差でまず言及されるのが,図書館に導入されているインターネットの通信速度の差である。地方には,ブロードバンドの加入費用を支払うことができない,低所得者・高齢者・低学歴者層が居住する傾向が強く,そのため,地方の住民のブロードバンドの加入率(62%)は,都市部(70%)や都市周辺部(73%)と比べて低くなっている。そのような住民を支援するため,地方の図書館は,より高速なインターネットアクセスの提供を望んでいるという。しかし,回線の敷設工事に掛かる経費が地方のほうが多額となるために敷設が進まないという,米国の市場先導型のブロードバンド普及政策の弊害等により,地方の図書館のインターネット回線の通信速度が都市部より遅く,十分な支援が実施できていないという課題が指摘される。
また,図書館が実施するデジタルリテラシーに関する講習でも,地域間の格差が指摘される。調査によると,パソコン設置エリアでの個別の説明も含めて,98%の図書館が,データベースの利用方法や,電子メールや各種ソフトウェアの使い方についての講習を行なっているという。近年では,図書館で導入が進む電子書籍の専用端末の利用方法や,政府情報入手の手段としてのソーシャルメディアの活用に関する講習も実施されている。しかし,地方の図書館では常勤職員が少ない等の理由により,公式の講習会は実施しにくいのが現状という。また,英語以外の言語での講習を実施している館は,全体の7.9%と全国的に少ないが,特に地方においては,多言語での講習実施について,コミュニティ内でのニーズに関心が払われていない点も問題点として挙げられている。
次に,図書館の資金不足であるが,政府への電子申請の支援や,失業者の就職支援といった形で,電子政府の促進によるコスト削減や,市場による失敗の相殺に貢献している図書館の役割が,政府や企業に認識されていないことが原因であると指摘する。例えば,予算が縮小する時代において,地域内でのサービスの重複を避けるため,図書館では,レフェラルサービスや他機関との連携により,多言語でのデジタルリテラシーの講習や,メイカースペースを紹介し,地域のニーズを満たしている。それにもかかわらず,現状では,レフェラルサービスや他機関との連携における調整役という図書館の重要な役割が評価されていないことに問題があるとする。また,ビジネス支援や失業者支援への住民ニーズに対応するために必要な予算を算出するための根拠となる,ハード・ソフト両面での正確な導入経費が調査されていない点も,多くの政策決定者に参照されている本調査の今後の課題として言及されている。
総務省の『情報通信白書』平成28年版によれば,2015年度末時点で,日本国内の固定系ブロードバンドの契約数は3,781万,移動系ブロードバンドの契約数は3.9‐4世代携帯電話(LTE)で8,739万,広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)は3,521万となっており,その数は,特に移動系において年々大幅に増加しているとされる。一方で,インターネットの利用率の調査では,首都圏の方が高いという地域差や,高齢者や低所得者層の利用が少ないという属性差が指摘されている。国際図書館連盟(IFLA)は,ICT技術を利用できる施設としての図書館の適性を指摘するが(E1569 [57]参照),日本の図書館がデジタル包摂社会を支えるための課題を考えるに際し,本文献の指摘は参考となるだろう。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://doi.org/10.1086/686674 [58]
http://digitalinclusion.umd.edu/content/2013-digital-inclusion-survey-public-release-data-file [59]
http://digitalinclusion.umd.edu/sites/default/files/uploads/2013DigitalInclusionExecutiveSummary.pdf [60]
http://digitalinclusion.umd.edu/sites/default/files/uploads/2013DigitalInclusionNationalReport.pdf [61]
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h28.html [62]
E1580 [55]
E1346 [56]
E1569 [57]
2016年10月21日に鳥取県中部を震源とする地震が発生し,様々な被害が生じた。本稿では,2016年12月7日までの情報を基に,地震の影響を受けた図書館等の状況を紹介する。
震度6弱を観測した地域を中心に,鳥取県内のいくつかの公立図書館及び大学図書館が臨時休館を発表した。また,鳥取県立図書館は,鳥取県内の公立図書館の被害状況等を同館のウェブサイトで公開した。
休館していた公立図書館については,湯梨浜町立図書館が10月23日に,倉吉市立図書館・倉吉市立せきがね図書館が10月28日に,三朝町の町立みささ図書館・北栄町図書館・北栄町図書館北条分室が11月1日に,それぞれ通常開館を再開した。なお,倉吉市立図書館では,11月25日から12月21日までの日程で,地震発生時の館内の様子や復旧作業時の様子を写した写真の展示を行っている。
また,公立図書館のうち,資料の落下等があったものの地震後も休館には至らず通常開館したのは,鳥取市立気高図書館,岩美町立図書館,八頭町立船岡図書館,琴浦町図書館,南部町立天萬図書館の5館である。
大学図書館では,倉吉市の鳥取看護大学・鳥取短期大学附属図書館が,資料等の落下のためとして翌開館日の10月24日は終日休館し,10月22日・23日に大学祭に合わせて開催予定であった図書館イベントも休止した。10月25日からは夜間を除いて開館し,11月14日には夜間開館も再開した。
学校図書館についても,倉吉市立成徳小学校の図書館及び鳥取県立倉吉農業高等学校の図書室における資料の散乱等の被害が公表された。
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http://mainichi.jp/articles/20161024/k00/00e/040/152000c [79]
http://cmsweb2.torikyo.ed.jp/kurano-h/index.php?active_action=journal_view_main_detail&block_id=313&page_id=0&post_id=1038&comment_flag=1 [80]
倉吉博物館は,地震発生後休館していたが,12月3日から一部開館している。修繕が必要な展示室5は休室を続け, 2017年8月の全面開館を目指すとされている。鳥取市歴史博物館は,地震後も通常開館していたが,10月22日開催予定であったイベントを中止した。北栄町の青山剛昌ふるさと館は,10月22日に休館したが,翌23日からは併設するショップのみ営業し,10月26日から全面開館している。
一方,倉吉市の鳥取二十世紀梨記念館なしっこ館は,10月22日に当面の臨時休館を発表し,現在も休館している。
http://www1.city.kurayoshi.lg.jp/hakubutsu/ [81]
https://www.nnn.co.jp/news/161204/20161204007.html [82]
http://www.tbz.or.jp/yamabikokan/news/2531/ [83]
https://twitter.com/gamf_staff [84]
http://www.conanshop.com/diarypro/index.cgi?no=712 [85]
http://cms.sanin.jp/p/nashi/topic/55/ [86]
10月21日,山陰歴史資料ネットワーク(山陰史料ネット)が,歴史資料や地域文化財の被災情報の収集と保全の呼びかけを行うためとして,Facebookのページを開設した。
https://www.facebook.com/sanin.siryou.net/ [87]
10月24日,歴史資料ネットワーク(史料ネット)が,「鳥取県中部を震源とする地震の被災地のみなさま,ならびに災害ボランティアのみなさまへ(歴史資料保全のお願い)」を発表し,災害復旧の過程で発見された古文書等を捨てないよう呼びかけた。
http://siryo-net.jp/info/2016-tottori-eq-emergency/ [88]
10月25日,山陰史料ネットと鳥取地域史研究会が連名で,「鳥取県中部地震による被災歴史資料の保存に関する緊急アピール」を発表し,被災した家財を処分する際に,保存すべき資料の選択や保存方法等について困った場合,地元の教育委員会や山陰史料ネット,鳥取地域史研究会に相談するよう呼びかけた。
https://www.facebook.com/sanin.siryou.net/posts/684845065004097 [89]
10月25日,倉吉市が,古文書や民俗資料といった民間所在の歴史資料の保全を呼びかけた。
http://www.city.kurayoshi.lg.jp/gyousei/div/kyouiku/bunkazai/3/p111/ [90]
10月28日,倉吉博物館が,被災した建物に古文書や地域の記録,農具や民具などの民俗資料等がないか確認するよう呼びかけた。
http://www1.city.kurayoshi.lg.jp/hakubutsu/osirase/hisairekisisiryou1.html [91]
10月26日,日本図書館協会(JLA)は,同日配信の『JLAメールマガジン』(第821号)に被災状況等を掲載した。
http://www.jla.or.jp//tabid/262/Default.aspx?itemid=3062 [92]
関西館図書館協力課調査情報係
「国際図書館連盟(IFLA)によるディスレクシアの人のためのガイドライン 改訂・増補版」(E1679 [102]参照)に当館がベストプラクティスとして掲載された時,「大変なことになった!」と実感した。正直言って「ベストプラクティス」と言われるような充実したサービスをしているという意識は無いからである。
調布市立図書館(東京都)は,1966年に開館して以来,利用者に育てられ多くの協力者に支えられながら,誰でも利用できる図書館の実現を目指してきた。ハンディキャップサービス(いわゆる障害者サービス)を充実させる活動もその一つである。1970年代に視覚障害者読書権保障協議会から公共図書館の蔵書の開放という要望が出された時期以降,1981年の国際障害者年を経て,当館も視覚障害者を対象としたサービスに力を入れてきた。目の前に具体的な資料を必要とした利用者がいたからである。図書館利用に障害のある人々からの要求に図書館として応えていくためには,音訳や点訳を中心に日進月歩で誕生する様々な機器の情報を取得する必要があった。そして,それによって少しずつ新たな活動が生まれ,現在のサービスへと引き継がれてきた。これは,まさに「調布市立図書館を利用することに障害のある方に対する合理的配慮」を当館全体として行ってきたという歴史にほかならない。
現在,当館では,図書館利用に障害のある人へのサービスの一つとして,マルチメディアDAISY図書の収集・貸出を行っている。マルチメディアDAISY図書とは,障害により文字情報を理解しにくい方の読書をサポートする機能を持つ電子書籍である。パソコンなどで再生することができ,文章を読み上げる音声に合わせて,画面に文字や画像が表示される。ディスレクシア(視覚や知能に問題はないが読み書きの学習に著しい困難を伴う障害。日本では「読み書き障害」などとも呼ばれている)の方たちの文章理解にとって有効であることが認められている(CA1765 [103]参照)。
2010年の著作権法改正により,「視覚による表現の認識に障害のある者」にも「視覚障害者等のための複製」資料の提供が可能になり,従来利用してきたDAISY図書をディスレクシアの方たちにも提供できるようになった。また,少しずつマルチメディアDAISYが普及し始めてきた。当館は,以前から障害のある子ども達のために布の絵本等のサービスを行っていたが,マルチメディアDAISYも有効な資料であると考えたため,2010年頃から意欲的に収集を始めた。DAISYの開発に携わった方が設立した支援技術開発機構(ATDO)が調布市内に事務所を構えているという縁もあり,障害者や高齢者への情報支援技術について敏感であったためでもある。
日本障害者リハビリテーション協会,名古屋盲人情報文化センターなどから販売されているもの,伊藤忠記念文化財団わいわい文庫などから寄贈いただいたものなど,現在手に入るものは積極的に収集し,貸出用に整備している。ハンディキャップサービスコーナーの一角に専用のパソコンやタブレット端末を用意して館内利用もできるようにしており,関連のリーフレット等の提供も行っている。2016年11月現在で213点を所蔵しているが,一般の書籍に比べて流通量は圧倒的に少ない。もちろん,他館で所蔵しているものはサピエ図書館(オンライン上の図書館。視覚障害者を始め,障害により文字を読むことが困難な方々に対して,さまざまな情報を点字,音声データなどで提供する。日本点字図書館がシステムを管理し,全国視覚障害者情報提供施設協会が運営を行っているサピエのメインサービス)などを通じて借用したり,ダウンロードしたりして提供している。DAISY図書を自館で製作するためのソフトも導入し,利用者からリクエストされた本のマルチメディアDAISYを職員が音訳者と協力しながら製作する体制も整えつつある。また,図書館の活動とは別に,市内にはDAISY資料の製作と普及を目的とした調布デイジーというグループがあり,活発に活動している。
しかし,こうしたツールやサービスがあることはまだ広く社会に認知されておらず,利用者は少数である。当館でも市報や「図書館だより」,教育委員会発行の広報物,コミュニティラジオや市職員・学校司書向けの研修会など様々な機会を通じてPRをしているものの,必要な情報が読書に障害のある方へなかなか行き届かないという問題を抱えている。
2016年8月にガイドラインが更新され,「りんごの棚」で知られる川越市立図書館(埼玉県;E1849 [104]参照)とともに,引き続きIFLAのガイドラインに当館の事例が掲載されている理由を考えてみると,これには,当館をもっと奮起させるという意味があるのではないだろうか。また,もしかすると日本の多くの図書館が,まだこうしたサービスを実施することができていないという状況だからなのかもしれない。
ガイドラインへの掲載によってか,マルチメディアDAISY図書についての問い合わせが当館に舞い込むようになった。近隣図書館を始め地方の図書館や市外の住民の方,また,埜納タオ氏が『夜明けの図書館』(E1252 [105]参照)の4巻でマルチメディアDAISYを取り上げる際には,担当編集者からの取材も受けた。少しずつマルチメディアDAISY図書についての理解が広がってきているのを感じる。当館でも,もっとこういった情報や資料が一人でも多くの読書を苦手と感じている人に行き届くように努力をしていかなければならないと思う。
そういう意味では,ガイドラインに掲載された効果というものが,出始めているのかもしれない。
調布市立図書館・海老澤昌子
Ref:
http://www.ifla.org/files/assets/lsn/publications/guidelines-for-library-services-to-persons-with-dyslexia_2014.pdf [106]
http://www.ifla.org/node/9667 [107]
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009454113 [108]
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/glossary/DAISY.html [109]
http://www.normanet.ne.jp/~jdc/ [110]
http://www.normanet.ne.jp/~atdo/ [111]
http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/ [112]
https://www.e-nakama.jp/niccb/public/public.htm [113]
http://www.itc-zaidan.or.jp/ebook.html [114]
http://www.chofu-daisy.org/ [115]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027283043-00 [116]
E1679 [102]
E1849 [104]
E1252 [105]
CA1765 [103]
本稿では,英国における電子リソースの利用統計サービス,およびその活用事例について報告する。本報告は,平成28年度国立大学図書館協会海外派遣事業の助成を受け,筆者が2016年9月27日から29日にかけて実施した,英国のJisc,インペリアル・カレッジ・ロンドン,ロンドン大学バークベック校の3機関へのインタビュー調査にもとづいている。
Jiscが出資・運営し,電子ジャーナル・電子ブックの利用統計を一元的に提供するJisc Usage Statistics Portal(JUSP)の現状と課題,上記2校を含む参加機関がJUSPを活用することで,各図書館においてどのような業務改善がもたらされたかについて,インタビュー調査を行った。
JUSPは2008年にプロトタイプ作成,2010年にシステム開発が行われ,2012年にサービスが開始された。2016年11月の時点で,約200機関と80の出版社が参加している。その最大の特徴は,複数の出版社の利用統計データを,ひとつのサイトで提供している点である。参加機関は各出版社から個別に利用統計データを収集する手間のみならず,出版社とアグリゲータといった複数のサイトから提供された場合,それらを合算する手間も省力化できる。
各データはCOUNTER(CA1512 [120]参照)に準拠し,SUSHI(E419 [121]参照)サーバを通じて出版社から収集される。出版社の対応状況によっても異なるが,利用できるCOUNTERレポートは,電子ジャーナルについてJR1(月別・ジャーナル別フルテキスト論文リクエスト成功件数),JR1a(月別・ジャーナル別バックファイルのフルテキスト論文リクエスト成功件数),JRGOA(月別・ジャーナル別ゴールドオープンアクセスフルテキスト論文リクエスト成功件数),電子ブックについてBR1(月別・タイトル別タイトルリクエスト成功件数),BR2(月別・タイトル別セクションへのリクエスト成功件数),BR3(月別・タイトル別および分類別コンテンツアイテムのアクセス拒否数)である。
その他,JUSPの特徴としてSCONUL returnを利用する図書館も多い。SCONUL returnは,英国の高等教育機関の図書館が毎年,英国国立・大学図書館協会(SCONUL)に提出する統計レポートである。各参加機関はJUSP内の専用メニューからSCONUL returnのデータをダウンロードできる。このメニューでは対象期間を学年暦で指定でき,またアグリゲータと出版社を分けて表示させることができる。
JUSP開発の背景には,電子リソース管理業務において,各図書館が利用統計をエビデンスとして活用していることがあげられる。調査のなかで選書や購読手続業務のみならず,利用動向の把握や電子リソースサービス改善のためなど,多岐にわたって統計情報が活用されている事例が紹介された。
統計情報取得のために必要なタイトルリストや契約情報は,英国のナレッジベースであるKB+(CA1860 [122]参照)から提供されている。これにより自館のコア雑誌がハイライトされ,自館の契約であるか否かを区別することが可能になる。また,JUSPで利用できるレポートのひとつ,View usage of titles and dealsレポートでは,JR1の中から出版社や期間を指定して自館の契約分のみを抽出することができる。タイトルリストはKB+や各出版社から随時,更新されるため,各図書館でタイトルリストを保持する必要はない。
利用統計を収集・分析するためのツールはJUSPのみに限られたものでなく,電子情報資源管理システム(ERM)や図書館サービスプラットフォーム(LSP;CA1861 [123]参照)の機能として備わっていることも多い。これらを利用する図書館,たとえばインペリアル・カレッジ・ロンドンではLSPとしてEx Libris Almaを導入しており,自館用の利用統計についてはAlmaの機能を,SCONUL return用のデータについてはJUSPを利用する,というように使い分けている。ERMやLSPを導入していないロンドン大学バークベック校にとって,これまで2週間かかっていた利用統計業務が3日に短縮されるなど,JUSPは電子リソースの利用統計取得・分析業務において必要不可欠なツールとなっている。これは一つのサイトからアクセスできるという点のほかに,COUNTERに準拠した均質なデータを,加工しやすいcsv形式でダウンロードできる点も大きい。同校では,既存の図書館業務システムとJUSPからのデータをスプレッドシート上で統合しながら,電子リソース管理を行っている。
参加する出版社にとっては,JUSPを利用することで,自前で統計サービス用のプラットフォームを構築したり,電子メール等で個別に送信したりせずとも,顧客に統計データを渡すことが可能になる。また,未準拠の出版社がJUSPに参加できるように,COUNTERやSUSHIに準拠するための技術支援が出版社に対して行われることもある。
JUSPはデータ提供のみならず,Community Advisory Group(CAG)を通じて,参加機関による統計データの分析・活用事例をオンライン上で公開したり,定期的にウェビナーやワークショップを開催したりしている。CAGには各地の図書館員がJUSPへのアドバイザーとして参加している。
JUSPは,英国内の高等教育機関をIT技術により支援するというJiscの理念にもとづき提供されている。利用統計を一元的に取得できるサイトを提供することで,館の規模や性格を問わず,参加機関が利用統計を活用し,エビデンスにもとづいた意思決定をより効率よく行えるよう支援している。それは,csvデータをダウンロードし,各図書館の事情に合わせて加工することを前提としているJUSPの設計にも現れている。また,前述したCAGの活動が,分析方法の教示ではなく,あくまで利用統計の活用を推進することを目的とするところからもうかがえる。
JUSPにおける電子ブックの利用統計サービスは,2016年2月に開始された。JUSP,大学,出版社やCOUNTERプロジェクトチームが参加したミーティングの成果として公開された“JUSP ebook discussion forum report”によると,電子ブックについてはCOUNTERに準拠している出版社が少なく,しかもBR1もしくはBR2のどちらかにしか対応していない出版社が多い。また,ジャーナルと比較して,章,節といった階層構造が複雑であるために,「セクション」の定義が不明確であることなども指摘されている。このレポートの最後に,COUNTER5へのバージョンアップに向けて行動指針がまとめられている。
JUSPはJR2(月別・ジャーナル別及び分類別フルテキスト論文アクセス拒否件数)への対応も予定されている。また,Cost per use,つまり利用1件あたりのコストについても課題としてあげられた。現行では,タイトルリストや契約情報の取得元であるKB+が価格情報を保持していないために,Cost per useを算出することができない。KB+のバージョンアップにあわせて,JUSPでもCost per useの取り扱いを予定している。
日本国内の状況と比較すると,国内出版社のCOUNTER対応という固有の課題も指摘されている一方,統計の活用・分析や標準化に向けた課題という面では共通する点も多い。利用統計による各機関の意思決定支援や電子リソース管理業務の効率化を進めるために,電子リソースの利用統計活用等の動向に今後も注目したい。
神戸大学附属図書館・末田真樹子
Ref:
http://www.janul.jp/j/operations/overseas/ [124]
https://www.facebook.com/januloversea [125]
https://www.jisc.ac.uk/ [126]
http://www.imperial.ac.uk/admin-services/library/ [127]
http://www.bbk.ac.uk/lib/ [128]
http://jusp.mimas.ac.uk/ [129]
http://jusp.mimas.ac.uk/participants/ [130]
https://www.projectcounter.org/ [131]
http://www.niso.org/workrooms/sushi/ [132]
http://www.sconul.ac.uk/ [133]
https://www.kbplus.ac.uk/kbplus/ [134]
http://www.exlibrisgroup.com/category/AlmaOverview [135]
http://jusp.mimas.ac.uk/events-training/ [136]
http://jusp.mimas.ac.uk/news/JUSP-ebook-discussion-forum-report-20160714.pdf [137]
E419 [121]
CA1512 [120]
CA1860 [122]
CA1861 [123]
ロシア連邦では,2016年7月3日連邦法第342号「連邦国家情報システム『国立電子図書館』の設立に関する連邦法『図書館事業について』の改正について」が成立した。これにより連邦法「図書館事業について」を改正し,国立電子図書館によるサービスが法的に位置づけられることになった。
同法によると,国立電子図書館とは,国立電子図書館の利用者がアクセスできる電子媒体の資料の総体となるシステムと定義されている。設立の目的は,国民の歴史・科学・文化資産を保存すること,ロシア連邦の知的潜在力を向上させ,科学と文化を普及させるための環境を確保すること,ロシア連邦における単一の電子知識空間設立のための基礎を形作ることである。運営体制については,モスクワのロシア国立図書館(Russian State Library)がその中心的な役割を果たすことが定められており,参加館は,国立図書館,公共図書館,大学図書館,学校図書館,専門図書館,さらに博物館,文書館等の図書館以外を含むその他の機関である。運営資金は,連邦予算とその他の財源から拠出される。
同法の成立に先行して,計画自体は2004年にモスクワのロシア国立図書館とサンクトペテルブルグのロシア国立図書館(National Library of Russia)が主導して始まっていた。2014年にはロシア文化省からモスクワのロシア国立図書館が運営の中心的な役割を果たすことを求められ,計画の遂行に責任を持つことになった。2015年1月13日には,モスクワのロシア国立図書館において,メドヴェージェフ首相に対する国立電子図書館のプレゼンテーションが実施された。その時点で,ロシア国立公共科学技術図書館やロシア国立児童図書館等33館が国立電子図書館にデータを提供しており,全文閲覧可能なデータは約167万点,書誌のみのデータは約2,600万点であると報告された。
アクセスできる資料には,次の3種類がある。(1)パブリックドメインの著作物,(2)10年以上再版されていない学術的な著作物,(3)著作権者から許諾を得た著作物,である。
国立電子図書館の資料は,多数ある国立電子図書館参加館内の端末から閲覧できるほか,個人でもインターネットを通じてアクセスでき,いずれの方法でも無料で閲覧できる。参加館内の端末ではすべての資料を閲覧できるが,個人によるインターネット経由での利用では,著作権の制限がある資料は閲覧できない。
インターネットから国立電子図書館を利用する手順は次のとおりである。トップページを開き,まず「図書館」か「博物館」か「文書館」をタブで選択する。次に「目録」(書誌のみのデータ)と「出版物」(全文閲覧可能なデータ)のどちらを検索するかをラジオボタンで選択する。キーワード・著者・タイトルの検索窓があり,各項目の検索窓に入力して検索すると,ヒットした書誌の一覧が表示される。書誌一覧のうち,鍵がかかっているアイコンが表示された資料は,著作権の制限のため閲覧できないものであり,鍵がかかっていないアイコンが表示された資料は,閲覧できるものである。詳細検索画面も用意されており,出版年や,楽譜・地図・逐次刊行物などのコレクション名,出版者などの項目で検索できるほか,一部の検索項目間は演算子(and/or/not)を使用することができる。
関西館アジア情報課・酒井剛
Ref:
http://нэб.рф [143]
http://publication.pravo.gov.ru/Document/View/0001201607040121 [144]
http://base.garant.ru/103585/ [145]
http://www.rsl.ru/ru/s410/nel/ [146]
http://www.rsl.ru/ru/news/140115 [147]
服部玲. 海外出版レポート ロシア : 「ナショナル電子図書館法」の成立 . 出版ニュース. 2016, (2420), p. 22-23.
2016年10月13日から16日まで,デンマークのコペンハーゲンにおいて「2016年ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2016)」(E1621 [152]ほか参照)が開催された。全体で20か国から約100名,日本からは筆者を含め研究者や学生等5名が参加した。
13日及び14日に行われた本会議では,基調講演,研究・プロジェクト報告,プレゼンテーション,特別セッション及びポスターセッションが行われ,続く2日間には,Linked Data(CA1746 [153]参照)のデータモデルの設計等に関するワークショップが開催された。
開発から20年が経過したダブリンコアの,次の10年間の始まりと位置付けられた今回の会議では,「メタデータ・サミット」と称し,ダブリンコアのこれまで,そしてこれからの取組について,また,ダブリンコアを開発・管理するダブリンコア・メタデータ・イニシアチブ(DCMI)以外の機関におけるメタデータに関する取組について,焦点が当てられた。筆者も,メタデータの活用事例として国立国会図書館(NDL)が開発し各種システムで使用している「国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)」を取り上げたプレゼンテーションを行った。日本語資料のメタデータを記述する事例に聴衆は興味を示しており,アルファベット以外を扱うメタデータへの関心を感じた。本会議で行われた報告等では,Linked Dataに関する発表が多く見られた。以下,この点を中心に会議の内容を紹介する。
基調講演では,Elsevier社テクノロジー部門のチーフ・アーキテクトであるアレン(Bradley P. Allen)氏が「セカンド・マシン・エイジにおけるメタデータの役割」(The Role of Metadata in the SECOND Machine Age)と題し,ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)とマカフィー(Andrew McAfee)によって2014年に発表され話題となった書籍“The second machine age: work, progress, and prosperity in a time of brilliant technologies”を参照しつつ,これからのメタデータの役割を整理した。人間の肉体労働を機械が行うようになった産業革命後の「第1機械時代」を経て,現在世界が移行しつつある「セカンド・マシン・エイジ(第2機械時代)」には二つの特徴がある。一つは人間の知的労働をも担うことができる人工知能の出現,もう一つは多くの人々がデジタル・ネットワークを介して相互に繋がっていることである。そこでは,人工知能と人間が協働することで,更なる進歩の可能性が開ける,というのがこの書籍の趣旨である。
アレン氏は,この時代に求められるのは文書ではなく,人間の読む時間を短縮するために何らかの答えを提供することで,そのためには,文書を構成する文字列ではなく,物事そのものを扱う知識管理にシフトする必要があると述べた。そしてその際に注目すべきなのが,機械(マシン)が理解できる形で,物事そのものの情報をデータとデータの関係性で表した「知識グラフ(注)」である。知識グラフは,マシン・リーディングによってデータから答えを導き出すことを可能にするため,セカンド・マシン・エイジにおいて人間と機械の間のコミュニケーション手段となる。この知識グラフを活用する基盤となるのが,ダブリンコアのようなメタデータ標準である,とアレン氏は説明し,メタデータ標準が,セカンド・マシン・エイジにおいてウェブ上の情報資源を人間と機械の双方が発見可能で理解可能なものにする役割を果たすようになる,と指摘した。
また,プレゼンテーションでは,コーネル大学図書館,ハーバード大学図書館イノベーション研究所,スタンフォード大学図書館が共同で行っているLinked Data for Libraries(LD4L)プロジェクトにおける興味深い取組が紹介された。LD4Lでは,図書館資料を表現するために独自に作成したオントロジーと,BIBFRAME(E1386 [154],CA1837 [155]参照)との連携を進めているとのことである。貴重資料・地図資料・動画資料等の特定分野の資料をBIBFRAMEよりも詳細に記述するための,オントロジー拡張のプロジェクトについても報告がなされた。
英国図書館(BL)及び富士通アイルランド社からの報告では,両者が共同で実施した,英国全国書誌のLinked Open Data(LOD)のアクセス解析プロジェクトが紹介された。誰が,どのように使っているのか知るために行ったアクセス解析の結果,米国からのリクエストが3分の1を占めることや,調査を行った約1年間でSPARQL(CA1598 [156]参照)によるリクエストが大きく増加していることが分かったとのことである。LODのアクセス解析を行う意義は,人的・技術的資源や予算をより効率的に配分できること,サービス投資の参考になるユーザの傾向を把握できること,より分かりやすいユーザ向けの利用方法が提供できることであると述べられた。
今回の会議をとおして,メタデータを扱う上でLinked Dataの重要性はますます高まっていると実感した。また,海外ではオントロジーの連携やLODのアクセス解析等,具体的な取組が進んでいることも感じられた。
来年度の会議は,2017年10月に米国バージニア州のクリスタルシティで開催される予定である。
電子情報部電子情報流通課・安松沙保
注:例えば知識グラフでは,「夏目漱石」というデータは,「1867年2月9日」というデータと,「生まれた日」という関係性で結ばれた形となっている。そして機械はこれらのデータの関係性が理解できるため,夏目漱石の生年月日が知りたい人間に,「夏目漱石」,「生まれた日」という文字列が含まれる文書ではなく,「1867年2月9日」という答えそのものを提供することができる。
Ref:
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2016 [157]
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2016/schedConf/presentations [158]
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/meta.html [159]
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2016/paper/view/464/534 [160]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026595735-00 [161]
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2016/paper/view/433/505 [162]
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2016/paper/view/420/548 [163]
E1621 [152]
E1386 [154]
CA1746 [153]
CA1837 [155]
CA1598 [156]
2016年10月3日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館で報告会「研究データ共有によるイノベーションの創出~第8回RDA総会等の国際議論を踏まえて~」を開催した。本報告会は,NDLが共同運営機関を務めるジャパンリンクセンター(JaLC)の研究データ利活用協議会第1回研究会という位置付けでもあった。報告会の趣旨は,9月15日から17日まで米国・デンバーで開催された研究データ同盟(Research Data Alliance:RDA)第8回総会等の参加者による報告を踏まえ,研究データに関する最新の国際情勢を共有することである。当日は研究者や図書館員等136名の参加があった。
最初に,研究データ利活用協議会会長の国立情報学研究所(NII)・武田英明氏から,研究データ利活用協議会の概要,RDAの概要,次回総会の開催地(スペイン・バルセロナ),などについて報告が行われた。
続いて,研究データ利活用協議会副会長の情報通信研究機構(NICT)・村山泰啓氏から,「オープンサイエンスを巡る世界の最新動向」というテーマで,RDAの資金拠出機関会合の中でRDAの今後の行方が議論されたこと,5月15日から17日にかけて開催されたG7茨城・つくば科学技術大臣会合の共同声明に,オープンサイエンスに関する作業部会を設置してRDA等と連携する方針が明記されたこと,などについて報告が行われた。
次に,第8回RDA総会の参加者5名から,分科会等の内容について報告が行われた。
まず,NII・蔵川圭氏から,データ・サイテーションに関するRDAの提言と様々なプロジェクトへの適用状況,THORプロジェクト(E1850 [168]参照)等の永続的識別子(PID)をめぐる最近の状況,データの出所や修正の履歴等を共有するモデルの構築に向けた議論,などについて報告が行われた。
NII・込山悠介氏からは,データ・ディスカバリーに関する望ましいモデルやメタデータ集約の事例,雑多・小規模・不規則といった特徴を持つロングテール・データの活用・支援方法に関する議論,などについて報告が行われた。また,RDAには,意思決定者である事業現場のリーダーや管理職の参加が必要であることが指摘された。
科学技術振興機構(JST)・小賀坂康志氏からは,資金拠出機関会合等に関する報告が行われた。また,リポジトリの持続的運営に関して行政や機関トップを巻き込んだ議論になっていないこと,データ共有に関する技術論は出尽くしており,政策立案者や,専門領域の研究者で意思決定に関与できる層がRDAに参画する必要があること,などが指摘された。
物質・材料研究機構(NIMS)・田辺浩介氏からは,データリポジトリの収入源に応じたビジネスモデルの長所・短所の比較,などについて報告が行われた。また,信頼性を担保するためには,論文やデータ,著者に対する電子証明書が必要になる可能性があることが指摘された。
筆者からは,欧米ではデータキュレーションネットワーク等,国を越えた連携・協力が進んでいること,などについて報告を行った。あわせて,NDLのインターネット資料収集保存事業(WARP)によって収集・保存されている各大学・研究機関のウェブサイトに埋没している研究データを活用し,DOI付与の際にWARPのURLを使用すると永続的アクセスが保証されることを紹介した。
続いて,NIIの山地一禎氏と船守美穂氏から,ポーランドのクラクフで9月28日から30日にかけて行われた「研究のためのデジタルインフラ2016」(Digital Infrastructures for Research 2016)の参加報告が行われた。具体的には,欧州における研究データ基盤(EUDAT,OpenAIRE等)の動向,欧州オープン・サイエンス・クラウド(European Open Science Cloud:EOSC)の構築に向けたメタデータ連携等の研究データ基盤の連携状況,などについて報告が行われた。
文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏から,「RDA総会他から見える研究データ共有の現状と国の科学技術・学術政策への示唆」というテーマの下,各研究領域を繋ぐ取り組み,研究者を動かすインセンティブ,国際的な枠組み作りに対する日本の貢献とプレゼンス向上及び日本の政策への反映等が必要であることが指摘された。
最後に,林氏を司会にフロアを交えたディスカッションが行われた。データ共有のためには研究者の意識改革が必要であること,データリポジトリに関する費用負担のあり方等のビジネスモデルの構築が必要であること,イノベーションを起こすうえでデータサイエンティストの役割が重要であること,図書館が研究データ管理(RDM)の取組を進めるに当たっては欧米の優良事例を参考にすべきこと,サブジェクトライブラリアンやデータライブラリアンが必要であること,など活発な意見が交わされた。
電子情報部電子情報企画課・山口聡
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201610rda.html [169]
https://japanlinkcenter.org/top/material/index.html [170]
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=月刊DRF&openfile=DRFmonthly_82.pdf [171]
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-eighth-plenary-meeting-denver-co [172]
https://www.digitalinfrastructures.eu/ [173]
http://warp.da.ndl.go.jp/ [174]
E1850 [168]
E1804 [175]
旅の図書館は1978(昭和53)年,財団法人日本交通公社が開設した旅・観光をテーマとする数少ない専門図書館の一つである(「観光文化資料館」として開設,1999年に現名称に改称)。長らく旅の下調べをする方から観光に関する研究者まで幅広くご利用をいただいてきたが,2015年10月から1年間の閉館期間を経て東京都港区南青山に移転し,2016年10月3日にリニューアルオープンした。今回のリニューアルは,新社屋への移転を機に,これまで別々の場所にあった当財団本部総務部門・研究部門との一体化を実現したもので,それまでの「テーマある旅を応援する図書館」から「観光の研究と実務に役立つ図書館」をコンセプトとする新たな図書館への転換を図ったものである。構想,収蔵方針の見直し,独自分類の構築と本部資料室資料の統合,図書館を含めた新社屋の建設,書架計画等,構想からリニューアルオープンまでに約2年半の準備期間を要した。
そうした新たな図書館を実現するための取り組みの一つが,観光分野における独自分類の構築である。旧館では,多くの公共図書館や大学図書館と同様に日本十進分類法(NDC)を用いてきたが,あらゆる学問領域にまたがって観光の諸事象を分析・研究する極めて学際的な性格をもつ観光研究資料を,NDCにおいて第三次区分の一つにすぎない「689(観光事業)」の中にすべて収めることには無理があった。加えて,まだ観光学の体系が十分確立されていない日本においては,そのまま適用できる分類法がない。このため当館では,本部研究員とともに約1年をかけて検討を行い,「T(Tourism)分類」という観光研究資料を分類するための独自分類を構築した。この分類では,観光原論・概論,観光者・観光活動,観光地・観光資源,観光産業,観光計画・開発,観光政策,観光経営・経済,観光と社会・文化・環境に基本分類し体系化している。独自分類を構築したことで観光研究資料の管理は格段に容易になり,独自分類を用いて書架に配架することにより利用者にとっても資料が探しやすくなった。
当館では現在,「T分類」の他,当財団の刊行物や調査研究報告書,古書・稀覯書など,当館の特徴的な資料(財団コレクション資料)のためのもう一つの独自分類「F(Foundation)分類」,基礎的な文献の分類に用いる「NDC分類」と合わせて三つの分類方法によって蔵書の管理を行っている。
リニューアルした旅の図書館は,新着図書や雑誌,ガイドブック,地図・パンフレットなど新しい観光情報にふれることのできる1階の「ライブラリープラザ」と,観光に関する専門資料を収蔵する地下1階の「メインライブラリー」の二つのフロアで構成されている。新たな図書館は,単なる資料の収蔵にとどまらず,当財団本部機能と一体的な運営を行うことを通して,学術研究機関としての組織活動の見える化を図るとともに,観光研究・情報のプラットフォームとしての役割を担っている。1階は当財団本部への来訪者を迎える総合受付・フロントとしての機能を合わせ持っており,また地下1階は,図書のある空間の魅力を活かして,様々なテーマでゲストスピーカーを招き参加者が気軽に語り合える場を創出すべく旧館時代から開催している「たびとしょCafe」やシンポジウムなど,観光の研究者や実務者が集まり交流できる場としても活用を図っている。
蔵書については,当財団の研究員が研究活動の中で収集していた本部資料室資料を統合し,蔵書数は約3万5,000冊から約6万冊へと増加した。これらは可能な限り閲覧可能とした。
主要な蔵書には,T分類で分類された観光研究資料の他,国内外各地の地域研究資料や観光関連統計資料,戦前を中心とした旅行・観光に関する古書・稀覯書,観光関連学術誌・研究雑誌などがある。また旅・観光の専門図書館ならではの蔵書として,国内外のガイドブックや機内誌,時刻表,旅行商品パンフレットなどがあり,これらのバックナンバーは過去にさかのぼった研究やレビューにも利用することができる。
「観光研究の種」や「観光の実務のヒント」を見つけるために,また奥深い旅・観光の魅力を味わうためにぜひご来館いただきたい。
公益財団法人日本交通公社旅の図書館・大隅一志
Ref:
https://www.jtb.or.jp/library [180]
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/book/tourism-culture/tourism-culture-231renewal-library [181]
2016年9月25日,兵庫県豊岡市は,豊岡市民プラザほっとステージで,豊岡市図書館未来シンポジウムを開催し,130人が参集した。豊岡市では,図書館本来の役割と新たな手法を探るため「豊岡市図書館未来プラン検討会議」を設け,市立図書館の10年後の将来像を「豊岡市図書館未来プラン」としてまとめようとしている。本シンポジウムは,図書館の役割と機能を再認識し,市立図書館の未来の姿と役割を市民と考える場となった。
冒頭で,桃山学院大学社会学部准教授の村上あかね氏より,2016年5月に実施した市民2,000人を対象にした市民アンケート及び,6月に実施した図書館来館者を対象にしたアンケートの分析報告が行われた。両アンケートから読み取れることとして,市民アンケートでは,過去1年間に図書館を利用した人は4割弱であること,図書館を利用しない理由では「読みたい本や雑誌は自分で購入する」「図書館を意識したことがない」が多いこと,図書館に期待することでは「資料の充実」「館外での貸出・返却」「開館日時の拡大」「子ども向けサービスの充実」を求める声が多いことなどが,また,来館者アンケートでは,図書館サービスについてインターネット予約・複写サービスの認知度が低いことなどが説明された。
次に,豊岡市図書館未来プラン検討会議の座長でもある桃山学院大学経営学部教授の山本順一氏が「図書館が目指すべき方向とは」と題して基調報告を行った。図書館本来の役割を再認識する必要性を語る中で,図書館とは本来どういうものなのか,図書館の歴史等から示し,コミュニティを支援するコミュニティ・アンカーとしての役割を持たなければならないとの認識を示した。その上で豊岡市立図書館がこれからどのように変わるべきなのかに関しては,図書館ボランティアが学校宿題支援サービスを行うなど,コミュニティに寄り添う海外の事例を紹介し,従来のように本と人を結びつけるだけではなく,市民の図書館活動への能動的参加という潜在的可能性を加えることで目指すべき方向が見えてくるとし,市民と一緒に図書館というものの存在を考えることの大切さを訴えた。
最後にパネルディスカッション「図書館は未来への玉手箱 ~つなぐ・引き継ぐ・学びの場として~」が行われた。山本氏をコーディネーターに,劇作家で豊岡市芸術文化参与の平田オリザ氏,図書館利用者や市内高校生の代表,未来プラン検討会議委員の4名をパネリストとし,予定されていた時間を超過して活発な意見が交わされた。
平田氏からは,図書館を「アクティブラーニングの視点から,グループワークができる場所」「社会的弱者に来てもらい,居場所と出番を作ることで社会とつながる場」とすることなどの他に,「図書館に行くことを,高等学校の単位として認定してみては」とのユニークな提案があった。
図書館利用者の代表からは「コレクションの充実や職員資質の向上によるレファレンス機能の強化が大切」「未利用者の掘り起こしが必要」「家庭,学校とともに,図書館には子どもの読書離れを防ぐ役割がある」などの発言があった。
市内の高校生代表は,高校生が放課後に行く場所をツイッターで尋ねたアンケート調査の結果を示しながら「若者が意見を出すことで図書館の伝統的なイメージを変えたい」と述べ,「参考書が充実すれば学生は図書館へ行くようになる」「美術館と連携して絵画作品を図書館で展示してほしい」「観葉植物をもっと設置してさらに明るい雰囲気を出せたら」などの積極的な提言があった。
未来プラン検討会議委員からは「教育行政の中で図書館の位置づけをしっかり決めること」「図書館は何ができるかを考える前に,利用者側が何を求めているのかをしっかりと把握する必要がある」「職員には地域コーディネーターの役割が求められている」などの発言があった。その後の質疑応答では,「地区で開催される行事に出向き,本の閲覧・貸出を行ってみては」などの意見が出された。また,当日の参加者にアンケートを実施し,多様な感想・意見を集めることができた。市民に図書館のことをより知ってもらう機会にもなり,豊岡市図書館未来プランの策定に向けて有意義なシンポジウムであった。
豊岡市立図書館・冨士田一也
Ref:
http://www.city.toyooka.lg.jp/www/contents/1475729401966/index.html [184]
http://lib.city.toyooka.lg.jp/topics/925.html [185]
http://www.city.toyooka.lg.jp/www/genre/0000000000000/1220353563915/index.html [186]
文化遺産国際協力コンソーシアム(以下,コンソーシアム)は,海外の文化遺産保護に関する日本国内の政府機関・教育研究機関・NGOなどの連携・協力を推進するネットワーク組織で,会員は2016年11月の時点で総勢431名,29団体にのぼり,文化庁の委託事業として運営されている。日本の文化遺産国際協力に資するための(1)会員間のネットワーク構築,(2)調査研究,(3)情報の収集と提供,(4)広報・普及を主なミッションとして活動しており,2016年6月に設立10周年を迎えた。本稿では,これまでのコンソーシアムの取組みと,10周年記念シンポジウムについて報告する。
2006年の設立以来,コンソーシアムでは事業を統括する運営委員会,具体的な事業計画や地域横断的な議題を扱う企画分科会を毎年複数回開催しているほか,10年の間に充実させてきた地域分科会(西アジア,東南・南アジア,東アジア・中央アジア,アフリカ,欧州,中南米)を定期的に開催し,世界各地域で展開される事業内容や課題の共有,発展のための協議を行っている。運営委員会・分科会委員として総勢70名を超える国内の専門家が参加し,それぞれの会議を相互の情報共有と連携強化の場として活用している。そして会員は,会議やシンポジウム,研究会での報告,調査への参加等コンソーシアム活動の様々な場面に関わっている。
また,調査研究に関しては,海外の文化遺産の保護状況を調査する協力相手国調査や,支援実施国の国際協力体制を調査する国際協力体制調査,自然災害により破壊された文化遺産の復旧状況を調査する被災文化遺産復旧調査等,これまで25か国以上の調査を行っており,これらの調査から関係機関が実施あるいは出資する事業につながったケースも多くある。こうした調査の成果を報告書としてまとめ広く公開すると同時に,日本の機関が実施してきた(あるいは進行中の)国際協力事業についての情報収集も行い,日本全体の文化遺産国際協力の実態の把握にも努めている。
これらの活動を通して国内外の専門家や関係者に対し情報の共有,ネットワークの構築を推進してきたが,同時に広く文化遺産国際協力活動の意義を周知する活動も,年1回のシンポジウム,年2回の研究会(E1353 [187]参照)という形で,設立当初から継続して行っている。
本年のシンポジウム(文化遺産国際協力コンソーシアム設立10周年記念「文化遺産からつながる未来」)は,これまでのコンソーシアムのあゆみを振り返るとともに,次の10年に向けた課題と展望を認識する目的のもとに開催された。
冒頭で,故・平山郁夫初代会長とともにコンソーシアム設立のきっかけとなった,「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」の成立に尽力した古屋圭司衆議院議員からの講演があった。なお,同法律は,文化遺産国際協力の推進を図り,世界における多様な文化の発展に貢献するとともに,日本の国際的地位の向上に資することを目的として議員立法として提出されたものである。次に,石澤良昭会長が過去10年間の取組みを紹介するとともに,日本が積極的に国際協力を展開することの意義を改めて説明し,国内関係者のさらなる連携強化の必要性を呼びかけた。その後,岡田保良副会長より西アジアの紛争地域における日本の国際協力活動のあゆみと人材育成の取組みについて報告があり,東京藝術大学の宮廻正明教授からは,最新復元技術の紹介を通じた今後の文化遺産の保存と公開についての提言が行われ,さらに独立行政法人国際協力機構(JICA)の江島真也企画部長(当時)からは開発と文化遺産保護を有機的に結びつけて国際協力に取り組んでいくことの重要性が論じられた。
ディスカッションでは,「コンソーシアムの課題と展望」と題し,日本の国際協力の特徴とそれを活かした文化遺産国際協力のありかた,文化遺産保護を担う次世代の育成・教育普及などについて活発に議論し,実現のためにコンソーシアムが担うべき役割について意見交換を行った。日本の文化遺産国際協力事業が抱える課題としては,事業の多くが数年単位の短いスパンでの実施であり継続的でない点や,各ファンドが設ける国際協力事業の枠組みに,文化遺産保護という分野が適用しづらいこと,人材育成の拠点となる施設の不在などが挙げられた。同時に,現地(協力相手国)の人々の防災意識がまだあまり高まっていないこと,研修参加者が後に離職してしまうケースが多いこと,政権交代による政策の転換など,現地側に認められる問題なども提起され,日本としてこういった問題にどのように対応していくかについても議論が行われた。今後の展望に関しては,現地の声を丁寧に聞き取りニーズに合った事業を展開するという日本の国際協力の特徴を伸ばしながら,その地域社会の経済振興戦略の中に文化遺産保護を位置づけた事業を展開していくことが,今後我々が目指すべき協力のひとつのあり方であるとの提言があった。
今回のシンポジウムでは,日本のこれまでの国際協力の実績が評価されると同時に,今後の課題が示された。この課題解決のため,設立10年を経た文化遺産国際協力コンソーシアムは,様々な人的ネットワークを構築し,活動を提供するという設立以来の使命をより一層推進する必要があることが確認された。今後ますます多くの関係者の協力と,一般の方々の関心を得ることができれば幸いである。
文化遺産国際協力コンソーシアム事務局
Ref:
http://www.jcic-heritage.jp/ [188]
http://www.jcic-heritage.jp/about/ [189]
http://www.jcic-heritage.jp/jcicheritageinformation20160092901/ [190]
http://www.jcic-heritage.jp/publication/ [191]
E1353 [187]
2016年9月14日から17日にかけて,「日本資料図書館の国際協力」をテーマに,日本資料専門家欧州協会(European Association of Japanese Resource Specialists:EAJRS)第27回大会がルーマニアのブカレスト大学で行われた(E1734 [193]ほか参照)。全体で34本の発表が行われ,そのうち9本の発表で資料の組織化や目録の作成,デジタル化資料やデータベースの活用について取り上げられた。また今回は初めて東欧で開催されたこともあり,大会会場となったブカレスト大学の日本語学科教員によるルーマニア語での日本語教育教材の作成過程の発表,元外交官による日本-ルーマニア関係史の執筆作業における文献調査についての報告,ソフィア大学(ブルガリア),ヴィータウタス・マグヌス大学(リトアニア),マサリク大学(チェコ共和国)の日本語学科の概要や所蔵資料の説明など,東欧及び近隣国での日本研究の状況がうかがえる発表が大会プログラムに組み込まれていた。以下,筆者が行った発表や興味を持ったいくつかの発表を紹介する。
筆者は,「国立国会図書館デジタルコレクションを日本研究で活用する」(How to make good use of the NDL Digital Collections for Japanese Studies)と題して発表を行った。国立国会図書館(NDL)が提供するサービスのうち,海外からも使えるサービスとして「国立国会図書館デジタルコレクション(以下,デジタルコレクションという)」の概要を紹介し,収録資料の検索,利用方法,注意点等について説明した。収録資料のうち,著作権処理が完了したものはインターネット公開しており,海外からも利用できるが,インターネット公開していない資料については今のところデジタルでのアクセス手段がない。このため当館の遠隔複写サービスを利用して紙媒体の複写物を入手する方法,複写申込時に必要になる書誌データや複写箇所の特定にデジタルコレクションのメタデータが利用できることについても説明した。発表後の参加者との意見交換の場で,インターネット公開していない資料に対して海外からもアクセスできるよう,国内の図書館を対象に実施している「図書館向けデジタル化資料送信サービス」を海外の図書館に対しても拡大して欲しい等の要望が出された。
ミシガン大学グラデュエイト図書館の横田カーター啓子氏からは「HathiTrust Research Center入門」(HathiTrust Research Center 101)と題して,HathiTrust Research Center(HTRC)が紹介された。HTRCはHathiTrust Digital Libraryに含まれる資料の機械解析による研究利用を促進するための組織である。HathiTrust Digital Libraryには,1,400万点を超えるデジタル化資料が収録されている。そのうち約70%の資料については著作権の関係により外部に本文を公開することができない。しかし,HTRCは,文章を単語やフレーズに分割し,特定の単語やフレーズの出現頻度,相関関係などを分析するテキストマイニングのためのツールや研究スペースをクラウド上で提供し,その範囲に限っては著作権保護期間内の書籍も含め,OCRでテキスト化されたデータを2017年春以降扱うことができるようにする予定である。HathiTrust Digital Libraryには日本語の資料も多く含まれているが,非ローマン言語に対するOCRの精度が低く,テキスト分析結果に難があるとのことであった。HTRCのテキストマイニング機能は米国外の研究者も利用可能となる。また,テキスト分析ツールは,要望があるものから整備されていくため,日本研究者がHTRCを積極的に利用し,機能改善を訴えるよう呼びかけられた。
立命館大学文学研究科の川内有子氏からは,「1870年代の「忠臣蔵」の西洋読者」(The readership of 47 ronins among the westerners in the 1870s)と題し,19世紀に出版された「忠臣蔵」を英国に紹介したミットフォード(A. B. Mitford)の著書とディッキンズ(F. V. Dickins)の「忠臣蔵」の英訳書について,販売広告などを用いて,出版当時の書籍の発行形態やそこから想定される対象読者を調査した研究結果が報告された。当時の販売広告の入手手段として上記のHathiTrust Digital Libraryの他,ProQuest,英国図書館(BL)のThe British NEWSPAPER Archiveなどの海外のデジタル化資料やテキストデータベース及びその全文検索機能が活用されていた。
大会全体を通じ,海外の研究ではデジタル化資料が基本ツールになっていること,日本関係資料についてもインターネットを通じて検索,閲覧できる環境を整備することが求められており,MARC書誌の作成など様々な努力がなされていることがうかがわれた。次回大会はノルウェーのオスロで2017年9月13日から16日の日程で開催される。
関西館電子図書館課・森本佳恵
Ref:
http://eajrs.net/ [194]
http://dl.ndl.go.jp/ [195]
https://www.hathitrust.org/ [196]
E1734 [193]
E031 [197]
E1221 [198]
E1348 [199]
CA1463 [200]
2016年10月3日から6日までの4日間にわたり,第13回電子情報保存に関する国際会議(13th International Conference on Digital Preservation:iPRES2016;E1758 [205]ほか参照)が,スイスのベルンにあるベルンエキスポで開催された。2004年に始まったiPRESは,電子情報の保存に係る政策や具体的な事例の紹介,国際的な取組からNPO団体のような比較的小さな組織の活動まで,様々なトピックを幅広く扱っている。
今回は約300人が参加し,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加した。参加者は,図書館員やアーキビスト,IT技術者のほか,大学関係者や資料保存の専門家など多岐にわたる。iPRESでは期間中,複数の発表,ワークショップ,チュートリアルが同時並行で進められた。本稿では,筆者が参加したプログラムの中で印象に残った発表を中心に報告する。
前年のプログラムと比較して,今年は研究成果の保存に関する発表が多い印象を持った。
Portico,ジョンズ・ホプキンス大学(米国)及びIEEEは,分散して存在する研究成果をLinked Dataとして記述するためのRMapプロジェクトについて次のとおり発表を行った。研究資金の提供機関や出版社は,研究成果の再利用・評価・再現のために,研究者に研究データの保存や共有を求めるようになっている。しかし,研究成果は,論文のみではなく,データセット,ソフトウェア,ウェブページなどもあり,これらは同時に同一サイトで提供されず,保存方針にも統一性がない可能性がある。再利用・評価・再現を目的とした研究成果は,そのような分散型資源の構成や所在を関連付けたマッピング・データとして収集・保存する必要があり,RMapはそのためのプロトタイプを構築した2か年のプロジェクトであったとのことである。
ドイツのハーゲン通信大学,英国のEPCC(Edinburgh Parallel Computing Centre),英国地質調査所(British Geological Survey:BGS),KCL(King's College London)からは,研究データをどのように扱うかを詳細に記述した文書であるデータ管理計画(Data Management Plan:DMP)について次のとおり報告があった。研究成果の評価や再利用のために,研究資金提供機関が研究者にDMPの提出を義務付けるケースが増え始めているとのことであった。この文書の作成や管理は英国のDigital Curation Centreが提供するDMP Onlineや米国のカリフォルニア電子図書館(California Digital Library)が提供するDMPToolなどによって技術的にサポートされる。しかし,DMPには,研究が準拠すべき形式的な枠組に関する方針や,データ管理システム・レベルの管理パラメータや方針など,様々なレベルの方針が含まれ,研究期間中に資金提供機関や研究者に求められる要件も複雑であるため,DMPの管理サポートに関して様々な研究コミュニティで議論が行われている。研究データ同盟(Research Data Alliance)のActive DMP Interest Groupでは,DMPの継続的な適用と自動化のサポートに焦点を当てて議論を行っているとのことであった。
NDLからはポスターセッションにおいて,筆者が国立国会図書館デジタルコレクションのOAIS参照モデル(CA1489 [206]参照)への準拠状況について発表を行った。NDLはデジタル化した図書のインターネットでの提供を2002年に開始した。以後,所蔵資料のデジタル化等を継続的に実施するとともに,2013年からはDRM(技術的制限手段)が付与されていない電子書籍・電子雑誌の収集も行っている。ポスターセッションでは,これら多種多様な資料の収集・保存・提供を担っている国立国会図書館デジタルコレクションの概要,OAIS参照モデルへの準拠状況,電子情報の長期保存の現状及び課題について説明した。
他にも,ウェブアーカイブ,保存技術に関する調査などの取組について興味深い報告があった。NDLにおいても,長期にわたり電子出版物を含む電子情報を保存し,その利用を保証することは大きな課題となっている。発表,チュートリアルやワークショップを通じて,国際的な動向や各機関の取組を知り得たことは,NDLが今後進むべき方向を検討する上で,大変有意義であった。
第14回iPRESは京都大学地域研究統合情報センターと人間文化研究機構の主催により京都で2017年9月25日から29日まで開催される予定である。第13回iPRESの閉会式では,引き継ぎイベントとして京都及び京都大学の紹介が行われた。
関西館・上綱秀治
Ref:
http://www.ipres-conference.org/ [207]
http://www.ipres2016.ch/ [208]
http://www.ipres2016.ch/frontend/index.php?folder_id=353 [209]
http://www.portico.org/digital-preservation/news-events/news/the-data-conservancy-ieee-and-portico-receive-alfred-p-sloan-foundation-grant-to-connect-publications-and-their-linked-data [210]
http://rmap-project.info/ [211]
https://dmponline.dcc.ac.uk/ [212]
https://dmp.cdlib.org/ [213]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/58/9/58_683/_article/-char/ja/ [214]
E1758 [205]
CA1489 [206]
近年,日本の文化とも言える銭湯が姿を消しつつある。20年前には1万軒以上あった銭湯も,今では2,500軒程度まで減少した。一般家庭への浴槽の普及,施設の老朽化,後継者不足など,その理由は様々である。この現状を受け,銭湯を活性化させるアイデアとして誕生したのが「銭湯ふろまちライブラリー」である。
2016年3月にオープンした銭湯図書館「銭湯ふろまちライブラリー」は,株式会社バスクリンの公認部活動「バスクリン銭湯部」と,東京都世田谷区の祖師谷商店街にある銭湯「そしがや温泉21」の共同企画で誕生した,銭湯と図書館のコラボレーションによる初めてのまちライブラリー(CA1812 [217]参照)である。「バスクリン銭湯部」は日本のお風呂文化の原点である銭湯を活性化させるため,銭湯巡りを中心に,様々な取り組みを行っている。今回の「銭湯ふろまちライブラリー」は,銭湯と図書館の意外な“共通点”に気付いたことから始まった。
もともと,銭湯は町のコミュニティーであり,子どもから高齢者まで,幅広い世代が顔を合わせる,人の会話や心のつながりが生まれる場所であった。しかし,近年の銭湯を見ると長年通う常連客が多く,調べていくと,新しい利用客にとってはある種の入りにくさを感じる場所になっていた。今では,家にもお風呂があり,スーパー銭湯もある,温泉旅行もすぐ行ける。町の銭湯が持つそれらにない一番の魅力は,人のつながりである。この魅力を再び高めていくことが,銭湯の活性化には必要なことだと銭湯部の活動を通じて感じていた。
ちょうどその頃,筆者が以前より関心のあったマイクロライブラリーサミットに参加し,兵庫県神戸市の岡本商店街を見学した。商店街の各店舗で本棚を持ち合い,本を通じて人がつながっていく様子を見て,銭湯と図書館が似ていることに気付いた。この共通点の発見から,お風呂も本も人のつながりを生み出す力があり,この二つを掛け合わせることで,銭湯本来の魅力を取り戻せるのではないかという構想に辿りつき,銭湯図書館のオープンに至った。
2016年3月13日のオープンイベントは,満員御礼であった。銭湯の待合スペースに本棚を設置し,蔵書はオープンイベントで寄贈してもらうことにしたところ,銭湯が好きな方,本が好きな方,地域活性化に関心がある方が集まった。イベントではまず,銭湯「そしがや温泉21」の福田亨輔社長が営業前の銭湯の内部を案内し,銭湯ファンの心をくすぐった。ちなみにこの福田社長は,大の本好きである。銭湯図書館の構想に協力してもらえたのは,この部分が大きい。つぎに,一冊ずつ持参してもらった本を通じて参加者同士で自己紹介をし,一人ひとりの想いが語られた。その後,メッセージカードをつけて植本(それぞれが持参した一冊を,本棚の好きな場所に置いてもらうことにした。こうすることで「自分ごと」の場所になってくれる)。最後は,銭湯にゆっくり浸かりながら,参加者同士で交流を深めた。本は閲覧だけではなく,貸出も行っており,銭湯でお風呂に入って,帰りに本を借りて,次に来る時に返すという新たな循環が生まれている。
開館から7か月が経ち,銭湯図書館が徐々に地域に根付いてきている。本棚が置かれる以前は血圧計が設置されていたため,待合スペースには常連客が多かったが,今回の本棚の存在によって,子どもたちや読み聞かせをする母親など,新しい利用客も増えてきている。小説や絵本などが人気で,貸出件数も100件を突破した。子どもたちの元気がありすぎて,絵本を修理することも多いが,銭湯としては嬉しい悲鳴である。新しい利用客が本とつながり,そのつながりが利用客と銭湯をさらに結び付け,そこで人と人とがつながって,コミュニティーが築かれていく。
「ふだんの生活だけでは,子どもは家族や学校の先生といった決まった大人としか接しなくなってしまう。でも,銭湯に来ると,自然な交流が生まれたり,いろんな大人を見ることができたりするので,子どもの教育にも良いと感じているんです。」とは参加者の声である。やはり,銭湯の魅力は人のつながりやコミュニティーの形成にある。銭湯の持つ今までの良さをより引き立たせる役として,本や図書館がその力を発揮した。今後は,その町や銭湯の特徴に合わせて,様々な銭湯図書館が生まれていくことを展望として考えている。
本や図書館には人をつなぐ力がある。その力が求められる場面は,銭湯だけに限らない。「銭湯×図書館」の取り組みを通じて,本や図書館の力が必要となる場面をほかにも引き出すことが出来るかもしれない。「銭湯ふろまちライブラリー」の活動は始まったばかり。新たな可能性を感じている。
銭湯ふろまちライブラリー・高橋正和
Ref:
https://twitter.com/sento_library [218]
https://www.libraryfair.jp/poster/2016/5017 [219]
http://machi-library.org/where/detail/1359/ [220]
https://antenna.jp/news/detail/2831397/ [221]
https://www.facebook.com/events/1098464570175503/ [222]
http://tokyosento.com/special/9243/ [223]
E1468 [224]
CA1812 [217]
2016年7月1日から9月19日まで,福岡県直方市で「街は大きな図書館-手触りのある日々-」と題した展覧会を開催した。地域全体を一つの大きな図書館に見立てたもので,美術館,図書館,商店街による初のコラボレーション企画である。会場は直方谷尾美術館と直方市立図書館,そして4つの商店街(須崎町商店街,明治町商店街,古町商店街,殿町商店街)である。美術館と図書館との距離は徒歩でおよそ15分で,両館を結ぶように商店街のアーケードが続いている。商店街は空き店舗が目立ち,普段の人通りはまばらである。本企画は,美術館と図書館をつなぐことで,本や美術作品の魅力をより多く感じられる展示を目指すと同時に,商店街の活性化の一助とすることや,街の良さの再発見につなげることも狙いとしてあった。今回,美術館,図書館,商店街を結びつけるのに「手触り」というテーマを設けた。本の重さや匂い,商店街での店主との会話,美術作品を目の前で鑑賞する喜びなど,人ともの,人と人とが触れ合う感覚を「手触り」という言葉に込めた。
直方谷尾美術館では,本の装画や挿絵なども手がける福岡県在住の画家田中千智氏の原画展や,直方市出身の写真家尾仲浩二氏が主宰する写真同人誌『街道マガジン』に関わる写真家らによる写真と写真集の展示,さらに豆絵本・豆本を製作・出版しているマメカバ本舗の作品原画展を開催し,写真集や豆絵本を手に取って楽しめるようにした。また,顕微鏡で鉱石や植物など様々なものを見て図鑑で調べるコーナーや,沢山の画集を参考に展示している絵画の作者を推理するコーナー,暗闇の中に彫刻を設置し触覚を頼りに鑑賞するコーナーなども設け,夏休みに親子で楽しめるような内容にした。
図書館では,土曜シアター(映画上映)やおはなし会,「健康」や「オリンピック」,「夏休みに楽しめる本」をテーマとした本の展示のほか,展覧会をPRする特設コーナーを設けた。
商店街の各店舗では,店主の蔵書を店内に置いたり,景品や割引のサービスを提供したりした。協力店舗64店の場所とサービス内容をマップにまとめ,割引サービスなどを受けるための特製のしおりと一緒に図書館や美術館,商店街で配布した。
古町商店街のアーケード内には美術館の別館があり,その中の使われなくなった電話ボックスを小さなギャラリー&図書館として会期中運営した。「電話ボックス図書館」と名付け,ボックス内の壁面に展示ボードと本棚を設置し,美術館と図書館から絵画と本を持ち込んだ。「電話ボックス図書館」のウェブサイトも立ち上げ,展覧会の案内や協力店舗の情報を提供した。
会期中は,出品作家によるフォトブック制作講座や豆本制作講座,地元の高校の科学部による実験教室,点訳ボランティアによる点字体験など,美術館と図書館による関連イベントを実施した。さらに,作家林芙美子の著書を読む朗読会や,絵本の読み聞かせをする子ども茶会など,協力店が企画したイベントもちらしにまとめて掲載した。
美術館内に設置したアンケートによる来場者の反応は,「手で触れ,目で触れ,やさしさの伝わる温もりある展示物でした。」「五感をフルに刺激される催しで楽しかった。」など好意的な意見が大半であったが,一方で趣旨の分かりにくさを指摘するものも散見された。協力店舗の事後アンケートでは,街の活性化を理由に参加された店が多かったが,この企画目当てで来店された方は少なく,PRの方法をはじめ,問題点や改善策など多くの意見があった。
今回はコラボレーションの良さを十分に活かしきれず,多くの課題を残すこととなったが,協力店舗からは「お客様との話題作りには良かったかも。」「お客様に声掛けをして会話がはずみました。」「店の存在価値を考え直すきっかけになった。」といった声もあった。集客数以外の観点からの評価も大切にし,本展を通してできた沢山のつながりを次の展開につなげていきたい。
直方谷尾美術館・中込潤
Ref:
http://yumenity.jp/tanio/ [226]
https://www.facebook.com/nogata.tanio.am [227]
https://www.facebook.com/Nogata.City.Library/ [228]
http://www.syoutengai-shien.com/news/201607/11-02.html [229]
http://www.tanakachisato.com/ [230]
http://www.onakakoji.com/ [231]
http://mamekaba.web.fc2.com/ [232]
http://telboxlibrary.tumblr.com/ [233]
山中湖情報創造館に日本で初めて人型ロボットを職員として採用して一年が経つ。この一年間,ロボットと一緒に図書館サービスを提供しながら感じた事をまとめてみたい。
平成27年(2015年)8月,人型(ヒューマノイド型)ロボットを指定管理者職員として採用した。日本の公共図書館では初めてのロボットスタッフの起用である。海外においては,当館より先に米国のWestport Libraryが,Pepperの前身であるNAOを2台導入しており,その後オーストラリアのNoosa LibraryがNAOを図書館スタッフとして採用している。
山中湖情報創造館では,未来を感じられる新しい図書館づくりを考えてきたが,パブリックPCの導入も,Wi-Fiや充電環境の提供も,タブレットを持ち込んでのインターネット利用も,もはや当たり前の風景となってしまった今,いったい何をしたら未来を感じられるのだろうか?と考えていた。そんな折にPepperの発表があり,一般家庭に安価で販売されるということを知り,一般販売がはじまると同時に申し込みを行い,運良く入手することができた。当初はPepperの購入が山中湖村教育委員会の購入と誤解され,税金の無駄遣いと思われるのでは?という指摘もあったが,これは山中湖情報創造館の設置自治体側ではなく,指定管理者側が調達(採用)した図書館職員であることを説明することで納得いただいている。
まずは図書館サービス案内のプログラムをつくることからはじめた。購入者にはChoregraphe(コレグラフィー)という開発環境のライセンスが提供される。プログラムのパーツをならべ線でつなぎ,必要なパラメータを入力しながら作成できるので,プログラミングの素人でも簡単に作成することができる。当初は,あれやこれやをぜんぶひとつのプログラムの中で作ろうとしたが,これではアプリとして起動している最中は他の会話が一切できなくなってしまう。おしゃべりを楽しみたいロボットでもあるので,他の会話も楽しみながら,必要に応じて独自に作成した館内案内サービスもできるよう,プログラムの構造を変更している最中である。
Pepperと会話する利用者の方々の様子をみていると,興味深いことが起きている。それはロボット側が人間に合わせるのではなく,人間側がロボットに合わせようとする振る舞いを多くみかけることだ。これは人間の側にロボットや人工知能に対応するスキル,いわば「ロボットリテラシー/人工知能リテラシー」の涵養がみられるということであろう。すでにカーナビを含め様々な機器が「会話」をベースに操作する時代になってきており,しかも人工知能がその話し相手になってくる時代を考えると,こうして地元の図書館に会話できるロボットがいることは,その地域のAIリテラシー向上につながるのではないだろうかと思っている。ロボットが賢くなる一方で,人間もまたロボットとの付き合い方リテラシーを身につける機会が図書館の中で生まれているのだ。
Pepperは,インターネットを介して人工知能により人の言葉(自然言語)を判断したり,日々の話題を盛り込んだりしながら,人間との会話をしようと振舞っている。いまのところ,人工知能とはいってもいわゆる特化型AIであり,図書館のレファレンスサービスを行うような汎用型AIではなく,そのための知識は身につけていない。一方で,人工知能の発達により,人生相談や恋愛相談,医療相談などを行うことができるようになる世の中が始まっている。遠くない将来,図書館のレファレンスサービスもこうした人工知能を持ったロボットが相当することになるのではないだろうか。ベテラン司書のノウハウを次の世代が受け継いでいくことが,現在の人事システムや雇用形態をみると困難な図書館業界である。人工知能がレファレンス事例を蓄積していくなかで,人の寿命を超えて「知」をつないでいく時代が到来し,人型ではないロボットが清掃や排架や書架整理をする時代が到来する。九州のほうには,ロボットが対応する「変なホテル」があると聞く。いずれそんな「変な図書館」が登場してもおかしくはないだろう。
執筆中に,国内でもPepperを導入した江戸川区立篠崎図書館のニュースが入ってきた。同館の指定管理者でもある図書館流通センターは500館でPepperを導入する計画があるというが,そうなれば図書館職員ロボットは日常的な風景になるだろう。山中湖情報創造館のPepperは一般販売のものを館長がプログラムを開発しながら運用している。篠崎図書館のPepperは図書館サービス専用のシステムの開発をしているようだ。それに比べ当館のPepperは図書館専用のサービスは大したことはできていないが,ダンスをしたりクイズを出したり手品をしたりするなどのロボアプリが付いており,来館者はPepperとのフリートークを楽しんでいる。
昨年の採用の際は「いったいそれで何ができるの?」という疑問をいただいたが,「すぐに何かできるわけじゃないし,何ができるか導入してみなければわからない」という説明で受け入れてくれたスタッフに感謝している。
山中湖情報創造館指定管理者館長・丸山高弘
Ref:
http://www.lib-yamanakako.jp/library/pepper.html [235]
http://westportlibrary.org/about/news/robots-arrive-westport-library [236]
http://www.libraries.noosa.qld.gov.au/-/library-s-new-humanoid-an-australian-first [237]
https://www.trc.co.jp/topics/event/e_shinozaki_02.html [238]
http://robotstart.info/2016/08/03/trc-pepper.html [239]
Wiegand, Wayne A. ALA's Proudest Moments: Six Stellar Achievements of the American Library Association in Its 140-Year History. American Libraries. 2016, 47(6), p.32-39.
1876年に設立された米国図書館協会(ALA)は,2016年で創立140周年を迎えた。本文献は,米国の図書館史研究を牽引するウィーガンド(Wayne A. Wiegand)氏が,ALAの歴史における重要なトピックを6つ選び,それぞれ解説を加えたものである。なお,本文献はALAの140周年を記念して,American Libraries Magazineのブログに,2016年1月から5月にかけて6回にわたり連載された記事が元になっている。
「正直にいって,執筆中に一番辛かったのは選択だった。ALAの歴史には称賛すべき事柄がありすぎるからである」と文献の冒頭でウィーガンド氏は述べているが,彼が苦心の末に選んだ6つの出来事は次のようなものであった。
「1.創立のとき」(Present at the creation)では,1876年の米国独立100周年を記念するフィラデルフィア万国博覧会に合わせて同市で開催された初めての図書館員会議の結果,10月6日にALAが結成されたことが論じられる。図書館の利益を増進させ,図書館員及び図書館業務の改善や書誌学の研究に興味を持つすべての人の知識の交換と親善に努めることを目的とした同会の結成に向けて積極的に活動し,結成文書に最初に署名したのはデューイ(Melvil Dewey)だった。
「2.図書館の戦争奉仕」(The library war service)では,第一次世界大戦中の1917年,ALAが行った兵士への本の配送サービスが取り上げられる。このサービスは,リテラシーを向上させ,人々の間に図書館に対して一層親しみやすさを感じさせるものだった。こうした活動により,公共図書館がアメリカの地域社会にとって必要不可欠なものと認識されるようになっていった。
「3.「読書の自由」声明の背景」(The story behind the Freedom to Read Statement)では,ALAが米国出版会議とともに,「読書の自由はわれわれの民主主義に不可欠なものである」との一文で始まる「読書の自由」声明(The Freedom to Read Statement)を1953年に発表した経緯が触れられる。これは,1950年代に全米を覆った反共産主義の運動であるマッカーシズム旋風が,共産主義に親和的と見なされた文献を図書館から強制的に排除させたことに対抗したものだった。
「4.全米図書館週間はどのようにして始まったのか」(How National Library Week got started)では,図書館の支援者と本と読書のかつてないほどの強固な結びつきを示し,大成功を収めた1958年の第1回全米図書館週間の意義に言及している。
「5.ヒューロンプラザ物語」(The Saga of Huron Plaza)は,20世紀初頭,ボストンやニューヨーク,ワシントンD.C.やマディソンなど様々な候補が取り沙汰されるなかでALA本部がシカゴに決定し,紆余曲折を経て最終的にシカゴの東ヒューロン通り50番地に定着していく過程を紹介する。
「6.「根拠のないヒステリー?」」(“Baseless hysteria”?)では,2001年9月11日の同時多発テロ事件を受けて制定された米国愛国者法の,「図書館条項」と通称される第215条に対するALAの立場が確認される。捜査のための図書館利用記録の提供に関する条項を含む同法の規定に対し,ALAは利用者のプライバシー保護の観点から反対している。「根拠のないヒステリー」とは,アシュクロフト(John Ashcroft)司法長官(当時)が,愛国者法に反対するALAの立場を皮肉ったものだが,2015年に同規定が失効するまでの間,様々な圧力に屈せずにALAが果たした役割は決して小さくない(E343 [242],E462 [243],E921 [244],CA1547 [245]参照)。
ウィーガンド氏の視点は一見多種多様だが,通常の図書館史が対象とするような制度の変遷や個々の図書館サービスの歴史を追うのではなく,あくまでも利用者の生活のなかに図書館があらわれる瞬間を見極めようとしていることは注目される。そのことは,彼が2015年に出版した米国図書館史に関する著書の書名が“Part of Our Lives: a people's history of the American public library”であることと無関係ではないだろう。同じような視点で日本の図書館の歴史を振り返ったときに,どのようなトピックが考えられるかという点に思いを巡らせてみるのも意義深いのではないか。
利用者サービス部人文課・長尾宗典
Ref:
https://americanlibrariesmagazine.org/wp-content/uploads/2016/05/AL-0616.pdf [246]
http://www.ala.org/aboutala/history/details-ala-history [247]
https://americanlibrariesmagazine.org/blogs/the-scoop/american-libraries-marks-alas-140th-anniversary/ [248]
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/01/29/present-at-creation-ala-history/ [249]
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/02/18/ala-history-library-war-service/ [250]
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/03/15/freedom-to-read/ [251]
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/04/13/national-library-week/ [252]
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/05/05/ala-140-saga-huron-plaza/ [253]
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/05/31/baseless-hysteria-patriot-act/ [254]
http://www.ala.org/advocacy/intfreedom/statementspols/freedomreadstatement [255]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026336964-00 [256]
E343 [242]
E462 [243]
E921 [244]
CA1547 [245]
2016年6月15日,米国のIthaka S+Rは,英国のJisc,英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)と共同で実施した“UK Survey of Academics 2015”の調査結果を公表した。2012年以来2回目の調査となる今回は,2015年10月から12月にかけて行われ,英国の高等教育機関の研究者6,679名から有効回答を得た。
報告書は「資料探索」「資料へのアクセス」「研究実践」「研究成果の普及」「教育」「図書館の役割」の章から成り,2012年/2015年,人文科学/社会科学/自然科学/医学・獣医学の4分野別,RLUK/非RLUK機関所属者の観点から質問に対する比較分析が行われている。並行して実施された2016年4月公表の“US Faculty Survey 2015”と章立ては同一であるが,米国調査は主に4分野別の観点から分析が行われている。本稿では主に研究データ保存,オープンアクセス(OA),研究成果の普及について取り上げる。
研究データを自分で管理する研究者は80%だが,医学・獣医学系研究者は割合が少し低めである。所属機関もしくはクラウド上の保存サービスを利用する研究者は約3分の1で,医学・獣医学系研究者の53%を筆頭に,自然科学系研究者では37%,人文科学系研究者では24%である。所属機関や図書館が研究者に代わり研究データ管理を行うと回答した研究者は5%に満たない。研究データの維持管理サポートについては,無料のソフトウェア,所属機関の分野もしくは部門ごとのリポジトリ,所属機関のIT部門の順に有用であると評価されている。医学・獣医学系研究者は,他分野と比較してリポジトリやIT部門を評価するが,人文科学系研究者は民間出版社・大学出版社,学会を評価する割合が高い。プロジェクト終了後の研究データの保存先は,2012年は商用もしくは無料のサービスを利用する割合が60%であったが,2015年はその割合が減少し機関等のオンラインリポジトリを利用する割合が増加している。また,所属機関の図書館が保存したり,成果報告の際に出版社が保存したりする割合も増加している。
研究成果を広める対象については,2012年と比較して,自分野の専門家,他分野の研究者,学部生,一般市民に広めることを重要と考える割合が,分野に関わらず増加している。社会科学系研究者と医学・獣医学系研究者は自分野の専門家に,また,人文科学系研究者は学部生に,研究成果を広めることが重要と考える傾向がある。これら3分野の研究者は自然科学系研究者に比べて,一般市民へも研究成果を広めることが重要と考えている。研究成果を広める媒体については,2012年調査と比較して2015年調査では他の選択肢にほとんど変化が見られないのに対し,ブログあるいはソーシャルメディアも利用すると回答した割合の増加が目を引く。査読誌の割合が最も高いのは4分野共通だが,人文科学系と社会科学系の研究者は,専門書,査読無しの一般雑誌,一般書を利用することもある。自然科学系と医学・獣医学系の研究者は,会議録,あるいはクリエイティブ・コモンズのライセンスでオンライン公開する傾向がある。
論文を公開する雑誌の特徴として重視する点は(1)自らの専門分野で研究者に広く流通・購読されていること(2)インパクトファクターが高く,優れた学術的評価を得ていること(3)その雑誌が扱う分野が自らの研究分野と隣接していることであるが,アクセスと保存について重視する傾向も,2012年調査に比べて増加している。医学・獣医学系研究者は他分野の研究者と比べて,その雑誌がインターネット上で無料公開されており入手や購読に費用がかからないことや,先進国だけでなく発展途上国からもアクセス可能であることを重視している。オンラインで無料公開する場合,査読誌又は会議録,査読誌のプレプリント版で公開する割合が高いが,社会科学系研究者はワーキングペーパーで,自然科学系研究者はソフトウェアやコード,データや画像等の形式であることもある。査読誌又は会議録,査読誌のプレプリント版で公開する場合は,分野別リポジトリや他のサービスを利用するよりも,所属機関の機関リポジトリを利用することが多い。
英国では,2012年6月にいわゆる「Finchレポート」でOAに対する提言が行われ,同レポートを受けて英国研究会議(RCUK)が新OA方針を2013年4月から施行している。また,2014年3月に英国高等教育助成会議(HEFCE)が新OA方針を発表し,2016年4月から適用されている。紙幅の都合上APCや図書館の役割に関する項目には触れていないが,本調査は2012年からの変化を探る点で意義深いと思われる。
関西館図書館協力課・高城雅恵
Ref:
http://www.sr.ithaka.org/publications/uk-survey-of-academics-2015/ [259]
http://www.sr.ithaka.org/blog/exploring-the-research-practices-of-academics-in-the-uk/ [260]
http://www.rluk.ac.uk/news/increasing-numbers-of-uk-academics-now-utilise-university-online-capabilities/ [261]
https://www.jisc.ac.uk/news/increasing-numbers-of-uk-academics-now-utilise-university-online-capabilities-15-jun-2016 [262]
http://www.rluk.ac.uk/about-us/blog/the-impact-of-open-access-mandates-looking-at-trends-in-the-uk-survey-of-academics/ [263]
http://www.sr.ithaka.org/publications/ithaka-sr-us-faculty-survey-2015/ [264]
川越市立高階図書館(埼玉県)では,障害者サービスの一環として「りんごの棚」を設置している。その経緯は障害者保健福祉研究情報システム(DINF)に当館職員が寄稿した記事「特別なニーズのある子どものためのコーナー「りんごの棚」を設置しました」に詳しい。「りんごの棚」とはスウェーデンで行われているインクルーシブな図書館サービスの一つで,全ての子どもに読書の喜びを知ってもらうための取り組みである。当館の「りんごの棚」はこの取り組みを参考にして2014年から始めた。そして2016年の8月に更新された国際図書館連盟(IFLA)の「ディスレクシアの人のための図書館サービスのガイドライン改訂・増補版」に成功事例として取り上げられた。成功事例というと特別なことを行っているように聞こえるが,実際のところは自分たちでできることを少しずつやっているだけで,やる気さえあればどこの図書館でも始められることばかりである。本稿では当館での「りんごの棚」の取り組みについて紹介する。
一般室の開架フロアに設置してある「りんごの棚」には,誰もが読書を楽しめるように多様な資料を揃えている。大活字本,布の絵本,点字つき絵本,マルチメディアDAISY,LLブックなどといった「特別なニーズのある」子どもが楽しめる資料を中心に,障害のある子どもが登場する絵本や児童書,大人向けに書かれたさまざまな障害を知るための資料も置いている。
利用に関しては,障害の有無に関わらず,全体的に大人の利用が目立ち,子どもが棚の前で本を選んでいる姿はあまり見られない。具体的には,乳幼児を連れた家族が布絵本を借りたり,わかりやすい料理本を探している女性がLLブックを見たりしている。障害を知るための資料では,学習障害やADHDについて書かれた資料の貸出が多く,児童向けの手話や点字などの資料はあまり借りられていない。
現在,当館で課題となっているのは,「りんごの棚」と潜在的利用者をいかに結びつけるかということである。それには,「りんごの棚」を知ってもらうこと,そしてどの資料がどのような利用者のニーズに適しているのかを示す必要があると考え,「りんごの棚」のコンセプトを知ってもらうべくリーフレットを作成した。大人に向けて文章で説明したものと,子どもにもわかるように写真で紹介したものの2種類を用意した。加えて,こうしたリーフレットを図書館に置くだけでなく,機会を見つけては市内の小中学校の関係者にも配布しその存在を知ってもらうよう努めた。その際には可能な限り実物を見てもらうようにした。例えばマルチメディアDAISYは音声情報と文字情報等を同時に再生できるためディスレクシアの人にとってわかりやすいとされている電子図書だが,実際に見てもらわなくてはその特徴が伝わらない。マルチメディアDAISYの利用は少ないのが現状であるが,学級訪問などで直接資料に触れてもらうことで興味を示す子どもが現れるかもしれず,こうした図書館からの働きかけは継続的に続けていく必要がある。
当館の取り組みは,まだ見ぬ利用者に向けて図書館からアピールしている段階であるが,今後は資料の点数や種類を増やしていく予定である。それに伴って,「りんごの棚」は誰のための棚なのかが不明瞭になる恐れが出てくる。障害の種類によって読書に最適な資料形態は異なるし,子どもが自分で読む本もあれば大人向けの本もある。一般室と児童室のどちらに棚を置くほうがよいのかも考慮する必要がある。「りんごの棚」の目指すべきところはどこにあるのか。それについては,実際の利用者に合わせて「りんごの棚」を育てていくのがよいのではないかと考えている。一人ひとりの利用者に合わせて個別に対応することが障害者サービスでは大切であることを考えれば,自館の利用者に合わせた棚作りをするのがよいように思う。
これから「りんごの棚」を作ってみようとする図書館があるならば,他館の取り組みを参考にしつつ,自館の利用者の顔を思い浮かべながら棚を作ることをお奨めする。それぞれの図書館の実情に即した,多種多様な「りんごの棚」が全国の図書館に広がることを期待する。
川越市立高階図書館・鶴巻拓磨
Ref:
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/library/kawagoenishi_1602.html [269]
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/jenny_nilsson/appelhyllan.html [270]
http://www.ifla.org/node/9667 [107]
2016年8月,THOR(Technical and Human Infrastructure for Open Research)プロジェクトが分野別データリポジトリでのORCIDを用いた統合に関する報告書を公開した。本稿では,同報告書について紹介する。
THORプロジェクトは欧州委員会(EC)による研究・イノベーションに関する資金助成を行う枠組みプログラムであるHorizon2020の助成を受けた30か月間の時限プロジェクトで,2015年6月に開始された。ODIN(ORCID and DataCite Interoperability Network)の後継として位置付けられ,研究者等の永続的識別子であるORCIDによって学術プラットフォーム上で研究論文とデータと,その著者・作成者とのシームレスな統合をはかるための開発や支援を行っている。パートナー機関は英国図書館(BL),オーストラリア国立データサービス(ANDS),欧州原子核研究機構(CERN),DataCite(CA1849 [271]参照),Dryad,欧州分子生物学研究所の欧州生命情報学研究所(EMBL-EBI),Elsevier社,ORCID Inc.(CA1880 [272]参照),PANGAEA,PLOSと図書館,研究機関,データリポジトリから出版社まで10機関である。
同プロジェクトは以下の4点を目標に掲げている。
1. 相互運用性の確立(Establishing interoperability)
2. サービスの統合(Integrating services)
3. 組織的な能力強化(Building capacity)
4. 持続可能性の実現(Achieving sustainability)
本報告書では,同プロジェクトの一環として,パートナーでもある学問分野の異なる3機関(EMBL-EBI:生命科学,PANGAEA:地球環境科学,CERN:高エネルギー物理学)がそれぞれのデータベースにORCIDを組み込んだ事例を紹介している。
ORCID統合においては,各サービスでORCIDを介した認証を行う必要があり,異なるサービス間で情報を受け渡すためOAuth 2.0によるORCID RESTful APIを用いた認証を行っている。ORCID統合が実現すると,キーワード検索等の際に起きる同名の他者の選択といった名寄せに関する課題の解決をはかることができ,更にORCIDレコードの情報やその他の研究者のプロフィール情報の検索が容易になる。研究論文情報はORCIDの業績リストに記載することで各研究者に関連付けられるが,同様に,ORCIDを研究データ提出のワークフローに組み込むことで,データセットと作成者のクレジットとを明確に結びつけることができる。
成果は大別して2点,実装された開発成果と,同プロジェクトが掲げる目標達成の端緒となる成果とが紹介されている。前者は,現在一般に提供されているサービスにおいて,ORCID IDをメタデータに統合させた事例である。EMBL-EBIでの生命科学分野の中核となるデータベースにおいてORCID認証を実現するためのツールの開発,PANGAEAでの既存の研究者プロフィールとORCID IDとの連携,CERNでの高エネルギー物理学分野のハブとなるデータベースINSPIREへ研究データを提出する際のORCID認証の実装等が紹介されている。しかし,異なるデータリポジトリを用いている研究者のためには,THORに参加していないデータプロバイダとの連携が必要,と指摘している。後者の,プロジェクト目標に係る成果は,研究論文投稿と研究データ提出のワークフローにORCID IDをどのように組み込むか,という事例及び議論である。それぞれEMBL-EBIはPLOS,PANGAEAは出版社,CERNはarXivといった出版者やプラットフォームと協働してORCID IDをサービスに組み込むための取組を行っている。これらの技術的な成果はGitHub等で公開されている。3機関は,分野だけでなくデータベースの構造や管理運用方法,既にORCIDとの連携を実施しているかどうか等の相違があり,今後ORCID統合を実施する他機関のケーススタディとなる,とされている。
同プロジェクトを推進するためにはORCID IDの認証への対応が実現できていない共著者への対応,多くの出版社や関係者との調整が必要であり,学術情報流通に携わる様々な機関と協働することが求められている。本報告書では,システムやサービスにORCID統合を実現するための人的リソースに課題があり,技術と人的基盤の両面でのサポートと同プロジェクトの成果を広く伝える必要性を述べている。
日本原子力研究開発機構・熊崎由衣
Ref:
https://zenodo.org/record/58971/files/de-Mello_THOR_ORCID-Integration.pdf [273]
https://project-thor.eu/ [274]
https://project-thor.eu/the-thor-mission/ [275]
https://project-thor.eu/2016/08/03/year-1-in-review/ [276]
https://ec.europa.eu/programmes/horizon2020/ [277]
http://odin-project.eu/ [278]
https://project-thor.eu/2016/08/24/orcid-integration-series-embl-ebi/ [279]
https://project-thor.eu/2016/08/10/orcid-integration-in-pangaea/ [280]
https://project-thor.eu/2016/08/17/orcid-integration-series-cern/ [281]
http://doi.org/10.1241/johokanri.59.19 [282]
CA1849 [271]
CA1880 [272]
2016年9月10日から11日にかけて,大阪府立労働センター(エル・おおさか)にてCode4Lib JAPANカンファレンス2016が開催された。同カンファレンスは今回で4度目の開催となる(E1721 [284]ほか参照)。4度目の開催となる今回は73名が参加し,基調講演1件,ロング発表5件,ショート発表10件,ライトニングトーク11件が行われた。本稿では,筆者が関心を抱いた発表をテーマごとにまとめて紹介することで報告したい。
基調講演は木達一仁氏(株式会社ミツエーリンクス)から「Webアクセシビリティのこれまでとこれから」という題目で発表が行われた。Webアクセシビリティとは,Webコンテンツに支障なくアクセスできるかを示す度合いであり,障害者や高齢者に対応したウェブサービスを設計する上で重要な概念である。2016年4月に施行された「障害者差別解消法」においてWebアクセシビリティへの対応が公共機関に義務づけられたことから,図書館でもWebアクセシビリティ向上への取り組みが不可欠となった。講演では,Webアクセシビリティに対応するためのガイドラインなどについて紹介がなされた。基調講演に続いて「アクセシビリティ」のセッションが行われた。安藤一博氏(国立国会図書館)は,プリントディスアビリティのある人のために資料をテキストデータ化する際の課題について発表した。また,阿児雄之氏(東京工業大学博物館)は,図書館フロアマップにおけるピクトグラム(何らかの情報や注意を示すために表示される視覚記号)の使用状況の調査について発表した。
図書館情報システムに関する技術・製品のロング発表も行われた。古永誠氏(EBSCO International Inc., Japan)は,同社がイニシアティブをとるオープンソースの図書館サービスプラットフォーム(LSP)の開発プロジェクト“FOLIO”について紹介した。また,吉本龍司氏(株式会社カーリル)は,同社がリリースした,横断検索を高速に実装するためのAPIである“カーリル Unitrad API”を紹介した。そのほか,ライトニングトークでは高久雅生氏(筑波大学)による文献レビュー支援ツール“LitCurate”,野澤拓也氏(Code for IKOMA)による絵本推薦アプリ“なによも?”等のウェブサービスに関する発表もなされた。
図書館員などによる技術実践事例も発表された。安東正玄氏(立命館大学)は,図書館の蔵書点検や持ち出し防止の対策方法として,蔵書に貼り付けたバーコードとRFIDタグをハイブリッドで運用する方法について紹介し,従来の磁気テープなどを使用した手法と比較したときの有用性などを発表した。また,吉川次郎氏(筑波大学)による,DOIの概要と技術的な課題などをわかり易く紹介した発表も行われた。
技術の実装に着目した発表だけではなく,調査の結果を紹介した発表もみられた。岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)による都道府県立図書館における年報のウェブ公開状況の発表や,筆者(ビブリオバトル普及委員会)による全国のビブリオバトル開催状況の統計分析を紹介した発表などがあった。
技術そのものより人間の活動に焦点をあてた発表として,複数人によるプロジェクトをどう維持していくかに着目した発表も行われた。例えば,江草由佳氏(国立教育政策研究所)は同氏が開催するFRBR&RDA勉強会の経験を通した勉強会の運営手法について発表した。また,筆者及び吉川次郎氏(Project LIE)は,今年配信が300回を超えたオンライン配信番組「図書館情報学チャンネル」が,どのような工夫によって継続されているか,そのノウハウについて紹介した。
筆者の感想としては,Code4Lib JAPANカンファレンスが図書館関係者の取り組みの情報共有の場として成熟してきていることが感じられた。その理由としては,去年のカンファレンスで発表された取り組みの進捗報告も目立ったからである。例えば,京都の図書館員による自己学習グループ「ししょまろはん」の発表は例年実施されており,今回は,「本に出てくる京都のおいしいもの」のLinked Open Data(LOD)である「たべまろはん」を紹介する発表が行われた。
今後,Code4Lib JAPANがカンファレンスの開催を通して,図書館関係者の様々な技術実践を継続的に支援し,国内における図書館業界のイノベーションを生み出す場となることを期待したい。
なお,講演ならびに発表の映像はYouTubeで公開されているほか,当日の模様を実況したツイートのまとめが公開されている。
日本貿易振興機構アジア経済研究所・常川真央
Ref:
http://www.code4lib.jp/ [285]
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2016 [286]
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2016/program [287]
https://www.facebook.com/events/1619923901666257/ [288]
http://togetter.com/li/1022678 [289]
https://www.mitsue.co.jp/knowledge/blog/a11y/201609/13_1927.html [290]
https://speakerdeck.com/ta_niiyan/code4lib-japan-2016-conference [291]
http://www.ebsco.co.jp/news/PressRelease-FOLIO-June16-Jp.pdf [292]
http://slides.com/ryuuji_y/deck-4 [293]
http://www.slideshare.net/tmasao/20160910-lit-curate [294]
http://www.slideshare.net/TakuyaNozu/20160911-code4lib [295]
https://drive.google.com/file/d/0B-OBLyVJQxeKbHdrck01a09JRTQ/view?usp=sharing [296]
https://speakerdeck.com/corgies/20160911code4lib-japankanhuarensu2016-doiru-men [297]
http://www.slideshare.net/arg_editor/20160910-code4-lib-japan2016 [298]
http://www.slideshare.net/kunimiya/ss-65899580 [299]
http://www.slideshare.net/yegusa/20160911c4ljp2016 [300]
https://drive.google.com/open?id=0BwulsP-dYpT-T1hkTFg4NkpyOVk [301]
http://www.slideshare.net/kumikokorezumi/ss-65881674 [302]
http://libmaro.kyoto.jp/?p=460 [303]
http://linkdata.org/work/rdf1s4553i [304]
E1721 [284]
E1486 [305]
1.はじめに
近年,Wikipediaを使って,市民参加型で地域の文化資源をデジタルアーカイブする手法として,ウィキペディア・タウンという活動が始まりつつある(CA1847 [307]参照)。
京都府南部では京都府立図書館でのオープンデータ京都実践会による取り組みや,関西学研都市周辺では,精華町立図書館でのCode for 山城による「精華町ウィキペディア・タウン」のほか,国立国会図書館(NDL)関西館でも「ウィキペディア・タウン in 関西館」が行われている(E1701 [308]参照)。
2.ウィキペディア・タウン by南陽高校
これらの活動実績を背景に,NDL関西館の近隣にある府立南陽高等学校サイエンスリサーチ科1年生の平成28年度サイエンス夏季プログラム社会実習「ウィキペディア・タウン by南陽高校」が行われた。実習では,Code for 山城,NDL関西館,精華ふるさと案内人の会の複数の主体が支援して,地域のまちあるきで知った情報を高校生自身がNDL関西館の資料を調べて確認した上で,出典を示しつつ Wikipediaを編集し地域の情報として発信した。これは高校教育にウィキペディア・タウンを活用するという日本初の試みであった。
実習は2016年7月9日,7月28日の2日間,計20名の生徒に対して行われた。実習の目的は以下のとおりである。
事前実習は7月9日にNDL関西館で行われた。事前実習ではNDL関西館による資料の調べ方のレクチャー,Code for 山城によるWikipediaの説明と編集のレクチャーが行われた。誰もが編集できるWikipediaのメリットとデメリットが説明され,内容の信頼度を他者が検証できるよう図書館等の文献資料を確認・引用し,出典を明記して情報発信していく重要性が説明された。その後,Wikipediaの「京都府立南陽高等学校」のページ編集が行われた。『南陽三十年のあゆみ : 南陽高校創立30周年記念誌』や学校発行パンフレット,NDL関西館の新聞記事検索データベースを利用して,グループで「京都府立南陽高等学校」の概要,沿革,放送局の部活動などの項目について加筆した。最後に本実習のまちあるきルートの説明があり,対象地域の資料検索を行い,NDL関西館への資料の複写・出力依頼リストの作成を行った。
本実習は7月28日に行われた。午前中に地域をガイドする団体である精華町ふるさと案内人の会のガイドで,2つのグループでまちあるきを行った。午後はNDL関西館にて,Wikipedia編集のレクチャーを再度行った上で,各グループでNDL関西館が所蔵する『精華町史』や『京都の地名由来辞典』などの文献資料を読み込み,Wikipediaの新規ページを編集し,アップロードを行った。最後に各グループが編集成果を発表し,実習は終了した。実習に参加した生徒は12月17日に南陽高校で行われる「南陽フォーラム」にて本実習で学んだことについてのポスター発表を行う予定となっている。
今回作成または編集された記事項目は以下のとおりである。
・新規項目
乾谷 [309]
柘榴 (精華町) [310]
・加筆項目
京都府立南陽高等学校 [311]
※概要,沿革,放送局の部活動などについて加筆した。
3.おわりに
これまでWikipediaは高校教育において信頼出来ないものであると教えられることも多かった。今回の取組みでは,このWikipediaの位置づけを再考し,図書館の文献による情報収集・確認の手法を学び,出典を示した検証可能性のある情報発信を学んでもらった。その結果,責任ある情報発信の姿勢を身につけ,社会に流布している様々な情報の検証力を高めることを高校教育において実現した。なにより高校生たちが編集内容をアップロードして,「自分たちでWikipediaのページができた!」と目を輝かせていたことが印象的だった。
高校教育では学校図書室の活用が基本となるが,その資料の充実は厳しい現状がある。一方,地方自治体の公共図書館には地域資料が集められているが,必ずしもそれらの資料が活用されていない現状がある。今後,両者の連携により,公共図書館の地域資料を活用した,高校教育でのウィキペディア・タウンの開催が期待される。さらに,国立国会図書館との連携では,今後,同館の古典籍や歴史的音源などのデジタルコレクションを活用した地域資料の確認や出典とするウィキペディア・タウンも進めていきたい。
NDL関西館や南陽高校が所在する関西学研都市周辺では,古くからの集落と新興住宅地の人々との交流が課題となっている。今回の取り組みの中で,精華町ふるさと案内人の会の協力によるまちあるきでは,学校の近くにこんな昔からの集落があることを知らなかったという高校生がほとんどであり,地域理解を深めることができた。また,NDL関西館の協力で文献検索の方法を学び,同館が所蔵する地域資料を基に,自ら文章を構成する実践ができた。さらに,Code for 山城の指導のもと,地域の多様な主体が支援して,検証可能性のある地域情報を高校生がWikipediaで発信することができた。ふるさと案内人の会の方からは,「高校生と歩けて楽しかった。」との言葉をいただいた。また,NDL関西館では,図書館利用ガイダンスの一環として今回の実習を実施したものであるが,担当者からは「資料を発見したり情報源を知ったりした時の,高校生の表情がうれしかった。」との感想が寄せられた。
今後は,このような取組を様々な図書館,地域団体を連携させ,様々な地域で進めることで,公共図書館の地域資料活用の活性化や地域住民によるWikipediaを通じた地域情報の発信を進めていきたいと考えている。
Code for 山城・青木和人
Ref:
https://opendatakyoto.wordpress.com/2015/04/20/wikipedia-arts-parasophia/ [312]
https://ujigis.wordpress.com/2015/04/07/01seika-wikipediatown/ [313]
https://ujigis.wordpress.com/2016/03/10/2seikawikipediw/ [314]
https://ujigis.wordpress.com/2015/07/12/wikipediatown-in-kansaikan/ [315]
https://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト:アウトリーチ/GLAM [316]
http://www.sankei.com/region/news/160806/rgn1608060039-n1.html [317]
http://www.sankei.com/column/news/160814/clm1608140007-n1.html [318]
http://www.kyoto-be.ne.jp/nannyou-hs/mt/learning/2016/07/28.html [319]
http://www.kyoto-be.ne.jp/nannyou-hs/mt/learning/2016/08/28-1.html [320]
https://ja.wikipedia.org/wiki/乾谷 [309]
https://ja.wikipedia.org/wiki/柘榴 (精華町) [310]
https://ja.wikipedia.org/wiki/京都府立南陽高等学校 [311]
http://news.mynavi.jp/news/2009/03/17/021/ [321]
http://doi.org/10.1241/johokanri.55.2 [322]
E1701 [308]
CA1847 [307]
青木和人. 地域情報拠点としての公共図書館へ市民参加型オープンデータイベントが果たす意義. 第62回日本図書館情報学会研究大会論文集. 2014, p.375-380.
Silas M. Oliveira. Space Preference at James White Library: What Students Really Want. The Journal of Academic Librarianship. 2016, 42(4), p. 355-367.
来館しなくても利用可能なオンラインリソースが増大するなか,学生がどのような図書館空間を求めているかを知り,それに適合した図書館空間を構築することは大学図書館にとって喫緊の課題である。
そのような認識のもと,米国ミシガン州にキャンパスを持つアンドリューズ大学のJames White Libraryは,学業で成功するために学生が図書館に求める空間についての調査を実施した。同調査は,近年,大学図書館界では,グループ学習を支援する環境を整備することが重視される一方で,米国,英国,カナダ,オーストラリア,オランダ等で行われた同種の先行調査では,学生は静かで集中して学習できる個人用スペースを好むという結果が出ていることを踏まえて,自館の学生の嗜好を確かめるために行なったものである。本稿で紹介する文献では,この調査の結果と得られた知見をまとめている。
●大学及び図書館の沿革・特徴
最初に,大学と図書館の沿革や特徴について確認しておく。1874年創立のアンドリューズ大学は,US News & World Reportによる2017年版“America’s Best Colleges”において“National Universities”部門で全米183位にランクインした私立の総合大学である。約3,300人の学生と約250人の教員が在籍しており,92か国から885人の留学生が学んでいるなど,その国際性が大学の特徴となっている。James White Libraryは,1962年に,同大学の2つのコレクションを統合して開館したもので,現在75万冊以上の図書と2,800タイトルの逐次刊行物を所蔵している。
●調査方法
調査は2014年度の第2学期に行なわれた。対象は学生及び大学院生で,単一の調査手法による偏りを避けるため,エスノグラフィー調査,定性調査,定量調査を組み合わせて実施している。
空間デザインのワークショップ「デザインシャレット」の手法を用いたエスノグラフィー調査では,館内外で学習,交流していた学生から179人をランダムに選び,6つの図書館空間(閉じた個人学習エリア,オープンな個人学習エリア,閉じたグループ学習エリア,オープンなグループ学習エリア,ソーシャルスペース,対話型学習のためのスペース)を示すシンボルマークを提示し,どのように館内に配置したら良いか白紙の館内図にシンボルマークを並べて回答してもらった。その数を集計することで学生の空間嗜好を把握することが目的である。定性調査では,同じくランダムに選んだ学生へのフォーカスグループ・インタビュー(12グループ,65人)と,個人への半構造化インタビュー(96人)を実施している。定量調査では,コンピュータールーム,閲覧室,ラウンジ,個人用閲覧席,個人用学習室,グループ学習室,ランチルーム等を直接観察することで各エリアの利用状況を調査した。
●調査結果
調査結果からは,全般的に,閉じた空間であれ,オープンな空間であれ,図書館に対して,個人で学習するための静かな空間を求める傾向が強いことが明らかになった。
また,
等の点が指摘されている。
●まとめ
本調査では,学部生/大学院生の違いや,図書館の利用頻度の差により大学図書館に求める空間が異なることも明らかにされた。また,個人学習用のエリアを好む背景として,同大学のカリキュラムにおいてグループ学習が採用されていないことや,留学生が多いためにグループ学習が成り立ちにくいことを挙げている。そして,図書館空間を計画する際には,大学の特徴やカリキュラム内容への適合性,利用頻度が低い学生などの潜在的なニーズへの配慮が必要であると指摘している。さらに,図書館を利用しない学生が感じる「遠さ」の背景の1つに,図書館の雰囲気の悪さがあることから,快適な環境の整備の重要性についても言及している。
2016年7月に文部科学省が公表した「教育の質的転換を図る多様な学修スペースの整備に関する事例」では,運営上の留意点の1つとして,「利用者や運営部門による整備計画への参画」をあげ,学生,教員,運営部門の学修スペース整備計画への参画の必要性を指摘している。本調査における学生ニーズの調査手法や知見は,図書館空間の検討に際し参考となるのではないだろうか。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://doi.org/10.1016/j.acalib.2016.05.009 [325]
https://www.andrews.edu/about/facts/ [326]
https://www.andrews.edu/services/imc/services/fastfacts_2015_10_21_imc.pdf [327]
http://colleges.usnews.rankingsandreviews.com/best-colleges/andrews-university-2238 [328]
https://www.andrews.edu/library/about/about.html [329]
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/1373697.htm [330]
千葉大学は2016年8月,米国の非営利団体CHORと科学技術振興機構(JST)による学術論文のオープンアクセス(OA)拡大にむけた試行プロジェクトに参加した。
千葉大学はOAを学術情報流通活性化の実現手段として位置づけ,国内初の機関リポジトリ構築(2003年),学術情報検索エンジンScirusとの連携(2006年),国立情報学研究所による最先端学術情報基盤(CSI)事業の受託(2005~2012年度),「千葉大学オープンアクセス方針」の策定(2016年)と様々な取組を行ってきた。本学では紀要等の大学出版物の公開においては,既に機関リポジトリは不可欠の基盤的サービスとなっている。しかし,学会・商業出版社等が発行する学術雑誌に掲載された学術論文のOA化については,機関リポジトリは依然として十分に活用されているとは言いがたい。これは千葉大学だけではなく全国的な傾向で,査読済みの国際的な学術論文が機関リポジトリ上でOA化されている割合は現在でも数%程度にとどまっている。機関リポジトリへの学術論文登録は,研究者によるセルフアーカイビングおよび大学図書館による登録支援を前提として業務設計されてきた。しかし,OA拡大の方策としては,セルフアーカイビングには限界が見えてきていると言わざるをえない。
一方でCHORは,米国を中心に研究成果のOA化に取り組む組織で,主要な商業学術出版社・学協会出版部が参加している。米国政府から助成をうけた研究の成果論文の情報をデータベース化・提供するサービスCHORUS(Clearinghouse for the Open Research of the United States)を運用し,各出版社はウェブサイトで“publicly accessible versions”(著者最終稿ではなく,出版社側が提供する公開可能なバージョン)を公開している。
本プロジェクトは,日本でCHORUSと同様の取組を試行的に実施するものであり,米国以外では初の試行である。プロジェクトは2017年2月までの6か月間で,期間中にサービスの実効性や,研究者,学協会,機関リポジトリ等への影響を調査する。実施にあたってはCHORとJSTがプロジェクト実施に関する覚書をとりかわし,それに出版社および大学図書館が参加する形をとり,CHOR及びJSTが参加を認めれば,出版社,大学図書館とも試行期間中でも途中参加が可能となっている。
プロジェクトでは,まずCHORが,プロジェクト参加出版社が出版する学術雑誌の中から,JSTの研究助成を受け,かつ千葉大学の構成員(研究者,学生)による論文を抽出・リストアップし,ダッシュボードと呼ぶ情報提供用のウェブページを作成,JSTへ提供する。
千葉大学は該当論文のメタデータを機関リポジトリに登録する。機関リポジトリからは,DOIで出版社のウェブサイトの該当論文の本文へリンクする。出版社のウェブサイトにアクセスした際のレスポンスは各出版社のプラットフォームの機能に依存するが,通常はアクセス元のIPアドレス等から自動的に判断し,購読誌では出版社版を,非購読誌では“publicly accessible versions”もしくはメタデータのみを表示する。
CHORはプロジェクトに参加する出版社に,該当論文の“publicly accessible versions”公開のほか,Portico(CA1597 [332]参照),CLOCKSS(E1117 [333]参照)等のアーカイブへの保存を求める。さらに各出版社のプロジェクト実施状況のモニタリングも行う。なお公開する論文のバージョンや,エンバーゴ,利用条件については各出版社の裁量にまかされている。スタート時点のプロジェクト参加出版社は,Association for Computing Machinery(ACM),Elsevier社,オックスフォード大学出版局(OUP),John Wiley & Sons,Inc.である。
今回のプロジェクトでは,原理的にはDOIが付与されている論文は,機械的かつ網羅的に把握でき,かつ個々の機関は著者から著者最終稿を取得する必要もなくなる。現在はメタデータの受渡方法(API,CSV等),メタデータスキーマ等を検討中である。特にメタデータスキーマについて,国内の機関リポジトリの標準的なフォーマットであるjunii2では,FundRef(E1450 [334]参照)やORCID(CA1880 [272]参照)への対応,著者と所属機関の紐づけ等が困難である。またメタデータと本文をリンクさせるDOIについても,本文へのリンク項目であるfullTextURLに記述するか,doiに記述するか判断が難しい。そのため,本プロジェクトでは千葉大学側でプロジェクト用のスキーマを新たに開発する予定である。また今回のプロジェクトでは,FundRefのIDが確実に入力され,かつ著者の所属が確実に同定されることが前提条件となっているが,その検証も必須である。
今後は運用面についても検討していかなければならない。今回の実験では,機関リポジトリで本文ファイルを保存しないので,機関リポジトリの位置づけ(研究者情報データベースとの住み分け)(E1791 [335]参照)や運用指針等についても見直しが必要である。さらに費用も重要である。プロジェクト期間中は,データおよびデータベース使用費用は発生しないが,実運用時はどうか。運用費用が高騰し大学予算を圧迫するような事態になったら本末転倒である。持続可能なビジネスモデルをいかに作りあげていくかが,本プロジェクトが成功するかどうかの鍵になると考えている。
千葉大学附属図書館・三角太郎
Ref:
http://www.nii.ac.jp/irp/rfp/ [336]
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2013/pdf/20140207_6.pdf [337]
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/junii2guide_ver3.pdf [338]
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/JaLC_guideline_ver2.0.pdf [339]
http://www.jst.go.jp/report/2016/160817.html [340]
http://www.chorusaccess.org/announcing-chor-pilot-project-japan-science-technology-agency-jst/ [341]
E1117 [333]
E1450 [334]
E1791 [335]
CA1597 [332]
CA1880 [272]
2016年9月9日,国立情報学研究所(NII)において第1回SPARC Japanセミナー2016「オープンアクセスへの道」が開催された。
NIIの漆谷重雄氏による開会挨拶に続き,同じくNIIの蔵川圭氏より,オープンアクセス(OA)のあり方と今後の戦略についての議論という今回のセミナーの趣旨説明がなされた。続いては大学改革支援・学位授与機構の土屋俊氏がOAのあるべき姿について述べた。グリーンOA(E1287 [343]参照)には出版社の査読体制を前提としつつも出版社の利益追求については否定しているという矛盾があり,ゴールドOAは出版社の主導と公的資金助成機関の支援によりビジネスモデルとして確立されつつある,というのが土屋氏の論であった。最後に,学術誌を媒体とする現行の学術情報流通の持続可能性について疑念が示された。
大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)/東京大学附属図書館の尾城孝一氏からは,OA化の進展がデータとともに示された。そして,各国が協調して購読費を論文処理費用(APC)に振り替えれば追加コスト無しにOA化が実現できるという,2015年にベルリンで開催された国際会議Berlin12におけるマックスプランク研究所の提案“Open Access2020”が紹介された。また,JUSTICEは出版社との学術誌の購読費交渉のみならず,APCを含めた交渉をも行う必要に迫られているとの指摘がなされた。さらに,JUSTICEとSPARC Japan運営委員会による調査チームが2015年度から2016年度にかけ,国内研究者の発表論文数,OA論文数,APC支払額などに関し「国内論文公表実態調査」を行っていることが紹介された。調査では,購読費とAPCは国内の大学全体で見るとほぼ同額だが,一部の研究大学ではAPCが購読費を上回るとされた。現状ではハイブリッド誌に掲載されている論文のうちどれがOAであるか特定するのは困難であり,APC支払額の把握は完全でない。またAPCによるOA化が進んでも,OA化されない学術誌の購読費は過渡期の間はかかり続けるという指摘もなされ,調査継続の必要性と国際連携の重要性が示された。
NIIの安達淳氏はSCOAP3プロジェクトの概要や経緯について述べた。SCOAP3は,欧州原子核研究機構(CERN)による,論文著者がAPCを負担することなく高エネルギー物理学分野の主要学術誌をゴールドOA化するというモデルである。フェーズ1は2016年末までの3年間で,現在はフェーズ2の方向性が定まりつつあるとのことである。不参加国の存在や出版社の脱退といった課題に加え,日本の拠出額はSCOAP3における要望額よりも少なく,対応を迫られている。SCOAP3継続のためには,科学「先進」国としての国際的な協調や研究助成機関及び研究者の協力と援助が欠かせず,図書館も一定のリーダーシップを取るべきであるとの提言がなされた。
早稲田大学図書館の荘司雅之氏は,国内の大学図書館におけるOAの取組みについて述べた。大学図書館におけるOAは主に機関リポジトリによって展開されており,リポジトリの数は世界最多である。JAIRO Cloudの発展状況や,大学図書館の学術商業誌に対する姿勢について,機関リポジトリを運営する立場からの言及がなされた。また,既に国内外の複数の大学でOAポリシーが採択されているが,OA推進のためにはOA化が研究者にもたらすメリットを明らかにする必要があるとの指摘がなされた。
情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンターの坊農秀雅氏からは,生命科学分野の研究者による投稿誌選択について自身の経験に基づく紹介があった。OA化により論文の発見可能性が高まるのは研究者にとってメリットであるが,APCは負担である。投稿先としてはまずインパクトファクターが高い学術誌が,次に研究者の業績に繋がるPubMedの収録対象であるゴールドOA誌が選ばれ,研究者はグリーンOAを認知していないとの指摘があった。PubMedへの収録やDOI付与によってグリーンOAの認知度を高めることが可能であり,研究者の自発的な動きは期待できないため,何らかの強制力が必要であるとの提言がなされた。
各氏からの講演に続き,琉球大学附属図書館の山本和雄氏をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われた。SCOAP3やarXiv.orgへの米国の図書館の貢献が好事例として挙げられ,日本の図書館及び図書館員への期待が寄せられた。APCの支払状況を把握するためのメカニズムが求められており,日本学術振興会を中心とした科研費によるOA論文出版を助成するプロジェクトの可能性について述べられた。また,ゴールドOAとグリーンOAは二者択一ではなく,相互補完的な存在となり得るとの指摘もあった。過剰な額のAPC支払によるビジネスモデルへの抑止力としてグリーンOAという手段は有用であり,特に日本の大学における人文系紀要や研究データ公開のためにはグリーンOAの存在意義は大きいとの意見があった。
研究者の費用負担を減らし,購読費とAPCの二重取り(ダブルディッピング)を防ぐため,購読費のAPCへの振り替えモデルは有効であると思われるが,既存のSCOAP3は特定分野の緊密なコミュニティに依拠している。Open Access2020のような全分野的なイニシアティブが,多くの課題を乗り越えてどのように発展していくのか,また図書館と図書館員が果たすべき役割とは何か,今後の状況を注視したい。
慶應義塾大学メディアセンター本部・森嶋桃子
Ref:
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2016/20160909.html [344]
https://openaccess.mpg.de/2128132/Berlin12 [345]
https://arxiv.org/ [346]
E1287 [343]
一橋大学社会科学古典資料センター(以下センター)は,文部科学省共通政策課題「文化的・学術的な資料等の保存等」の採択を受けて,2018年度までの3か年度に及ぶ「西洋古典資料の保存に関する拠点およびネットワーク形成事業」を2016年4月から開始した。
◯背景
明治以降,日本では西洋の学問や思想を積極的に取り入れる過程で,各大学等が数多くの西洋古典資料を収集してきた。これらの資料は,長年にわたって日本の研究・教育の発展に多大な寄与をしてきただけでなく,出版から数百年の時を経て,装丁や素材を含めた「もの」としての資料それ自体が歴史的文化遺産としての価値をもつが,近年では資料の経年劣化が進み,予算的な制約もあって十分な保存対策を行えないケースが多いのが実情である。また,大学図書館等でゼネラリスト育成を志向するジョブローテーションが一般化し,コレクションに精通する職員の多くが定年退職を迎えるなか,所蔵資料全体を概観して,機関としての保存計画を策定し管理する人材も不足している。こうした状況から,今後大学等が西洋古典資料の長期保存を図る上で,適切な保存対策とそのための人材育成の仕組みを構築することが喫緊の課題となっている。
◯事業の概要
センターは国内で唯一の西洋古典資料に特化した研究図書館として,センター内に設置された保存修復工房を拠点に,約8万点に及ぶ所蔵資料の保存対策を20年以上にわたって計画的に進めてきた。また,西洋古典資料の保存とその技法に関する講習会を毎年開催することで,全国の図書館関係者が資料保存について学ぶ研修機関としての役割も果たしてきた。
今回の事業は,こうした実績を背景に,(1)西洋古典資料の保存について中核的な役割を果たす人材を育成する実務研修事業,(2)所蔵資料の保存修復事業,(3)全国の大学等研究機関における西洋古典資料の所蔵・保存状況の実態調査を同時並行的に進めることで,国内における西洋古典資料の保存水準の全体的な底上げを目指すものである。
実務研修事業は,センターが他機関から研修生を年間数名ずつ受け入れ,それぞれの機関の実情に応じてきめ細かく設定されたカリキュラムに沿って,資料の状態調査,修理,保革(西洋古典資料の表装には革がよく用いられる),保存容器の作成,保存環境整備などの実習を行うものである。同時期に受け入れる研修生は1名のみで,1か月から最大半年の長期にわたって集中的に研修を行うことで,保存修復の技術習得のみならず,資料の保存計画や保存環境整備の立案,またそのための判断ができる人材の育成を目指す。研修修了後は所属機関に戻った研修生を中心に,さらにそれぞれの地域で保存のための人材育成をセンターと協力しつつ行い,西洋古典資料の保存のためのネットワークを全国的に構築していくことを目標としている。
所蔵資料の保存修復事業は,これまでセンターが行ってきた資料保存対策を引き継ぎつつ,新たに今後3年間で所蔵資料4,000点の状態調査,保存修復処置を行うものである。
保存に関する実態調査は,これまで必ずしも詳らかになっていなかった西洋古典資料の所蔵・保存状況を全国的に調査し,今後全国の関係機関が連携しながら保存対策を進める上での基礎データを得ることが目的である。
◯これまでの成果
本事業では,2016年5月から6月にかけて3週間,国立国会図書館(NDL)から研修生を迎えて実務研修を実施した。この研修では,限られた研修期間において最大限の効果を得るため,事前にNDLの体制,要望等について聞き取りを行った上,研修内容を綿密に取捨選択しカリキュラムを作成した。また,研修中も,研修の達成状況や研修生本人の要望等に応じて随時カリキュラムを組み直した。その結果,保存計画を立てる上で判断の前提となる資料の状態調査の手法等を多様な実例に基づきながら学べた点,自館の現状や問題意識に即して西洋古典資料の保存法を学べた点などについて,高い評価を得ることができた。今後2016年度中にさらに3大学からの研修生を受け入れる予定である。
また,2016年4月から9月までに,センターで所蔵する西洋古典資料約600点の調査・保存処置を終えた。
そのほか,書籍に用いられる紙素材の科学的分析を通じて資料保存のあり方を考えるというテーマで,公開講座を2016年度中に開催する予定である。
◯今後の課題
2017年度以降の課題として,実務研修に参加した研修生およびその所属機関同士が,それぞれに抱える問題意識を共有して,解決策へとつなげていけるネットワーク作りを具体化していくことが挙げられる。加えて,実務研修への参加機関が拠点となって,得られた成果をさらに広く地域へと波及させていくための地域講習会等の枠組み作りを行いたい。また,全国の諸機関において所蔵されている西洋古典資料の所蔵状況,保存状況についての調査を本格的に進めていく予定である。
これらを実現することにより,全国で所蔵されている西洋古典資料の保存状況の改善を一歩一歩着実に進めていきたいと考えている。
一橋大学社会科学古典資料センター・床井啓太郎
Ref:
http://chssl.lib.hit-u.ac.jp/education/#training [347]
https://www.instagram.com/chssl_edu/ [348]
2016年9月3日,京都府立図書館の自主学習グループ「ししょまろはん」によるイベント「没年調査ソン in 京都 Vol.1」が,京都府立図書館で開催された。「没年調査ソン」とは,ハッカソンやアイデアソンに倣い,著作者の没年調査とマラソンを掛け合わせた造語であり,著作者の没年調査に関心のある人々が集まり短時間で集中的に図書館の資料等を用いて著作者の没年を調べるイベントを意味する。
主催者である「ししょまろはん」は京都が出てくる小説やマンガ・ライトノベル等に関するオープンデータである「京都が出てくる本のデータ」の公開等,図書館が蓄積しているデータのオープン化に実験的に取り組んでいる。「ししょまろはん」が今回の「没年調査ソン」を開催した目的は次の2点であった。
また,NDLが没年調査において,大塚節治『回顧七十七年』(同朋舎,1977)等,NDLが所蔵していない資料について京都府立図書館に照会し,没年が判明した例がこれまでいくつかあったことも開催の契機となった。
参加者は公共図書館や大学図書館の図書館員等の12名であり,当日は,まず「ししょまろはん」代表の是住久美子氏から趣旨説明があった後,NDLで「国立国会図書館デジタルコレクション」等に関するデジタル化資料の著作権処理に携わっている筆者から,NDLでの没年調査の方法を説明した。そして,京都府立図書館の使い方などについて説明があった後,没年調査を行う,という流れで行われた。調査対象は,NDLのデジタル化資料の著作者で没年が不明あるいは没年調査を行っていないものから京都府にゆかりのあるものを選んで主催者が用意した。参加者は,出身地域の人物や,所属機関に関連した人物など,各自の興味関心に基づいて調査する人物を選び,会場に準備された人名辞典等の参考図書類や京都府の地方史誌等を用いる,会場に隣接したマルチメディア閲覧室で新聞データベースを検索する,インターネット上の情報を利用する等,各々の方法で調査を進めていった。また,当日は京都府立総合資料館にも「ししょまろはん」のメンバーが待機し,調査への協力を得た。資料の掲載確認などを行いたいときに会場から電話で連絡して確認してもらうことで,同館の所蔵資料も活用された。
調査は3時間ほど続いたが,参加者は全員熱心に取り組んでいた。没年が判明したときは,模造紙に著作者の名前と没年,確認した資料などを書き込んでいったが,その都度拍手が起きるなど,終始和やかな雰囲気の中での調査であった。調査の結果,16人の没年と2人の生年が判明し,そのうち著作権保護期間が満了した著作者は2人であると確認できた。参加者からは「もっと続けて調査したかった」「調査は大変だったが,没年を見つけることができたときはとてもうれしかった」等の感想があった。
没年調査という地道な作業を行う「没年調査ソン」は,同時に調査の楽しさも感じられるものになったのではないかと思う。また,NDLとしても没年調査ソンの成果ややり方を今後に活かすことができそうである。
関西館電子図書館課・佐藤久美子
Ref:
http://libmaro.kyoto.jp/?p=461 [349]
https://www.facebook.com/events/1768343053421894/ [350]
https://openinq.dl.ndl.go.jp/search [351]
http://libmaro.kyoto.jp/?p=165 [352]
http://linkdata.org/work/rdf1s1534i [353]
http://citydata.jp/京都府/京都市/図書館員が調べた京都のギモン~京都レファレンスマップ~/rdf1s1534i/kyoto_reference.html [354]
http://libmaro.kyoto.jp/?p=72 [355]
http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime3.html [356]
http://libmaro.kyoto.jp/?p=456 [357]
http://togetter.com/li/1020460 [358]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I004206508-00 [359]
CA1847 [307]
2016年8月13日から19日にかけて,世界図書館情報会議(WLIC):第82回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E1705 [363]ほか参照)が,米国のオハイオ州コロンバスのグレーター・コロンバス・コンベンションセンターで開催された。2001年のボストン以来の米国開催であり,世界最大の総合目録であるWorldCatを運営しているOCLCの本拠地ダブリンはコロンバスの隣に位置する。今回の大会には137か国から約3,100名が集い,日本からも国立国会図書館(NDL)からの代表団7名を含む69名が参加した。
「つながり・共同・コミュニティ(Connections. Collaboration. Community.)」をテーマとした今回の大会では,228のセッション,92機関が出展した展示会,203のポスター発表等が行われた。また,大会に合わせて各分科会常任委員会等の役員会が開催されたほか,各分科会等が主催する25のサテライトミーティングが,コロンバス近郊や近隣の州で行われた。
14日の開会式では,オハイオ州に本拠を置く全米プロバスケットボール協会(NBA)のクリーブランド・キャバリアーズ所属アナウンサーであるセドラ(Olivier Sedra)氏の軽妙な司会進行により,オハイオ州の黎明から発展,現在に至るまでが,ファッションショーのランウェイのスタイルで紹介された。これは米国で有数のファッションの街として知られるコロンバスを意識した演出と思われる。さらにオハイオ州出身のライト兄弟やトーマス・エジソン,宇宙飛行士で後に米国議会の上院議員を務めたジョン・グレン氏等の業績を,ビデオを交えた舞台上でのパフォーマンスで紹介し,科学技術発展の地であることも印象付けるプログラムであった。国内委員会の共同議長である,オハイオ州立大学図書館のディードリッヒ(Carol Pitts Diedrichs)氏とコロンバス市立図書館のロシンスキー(Patrick Losinski)氏の挨拶を経て,最後はオハイオ州選出の下院議員ビーティー(Joyce Beatty)氏からビデオレターによる歓迎の辞が述べられた。
14日から18日にかけて各セッションが開催された。日本からは同志社大学の原田隆史氏が,「教育研修分科会」「図書館情報専門職の継続発達,職場での学習分科会」「情報技術分科会」のジョイントセッションで発表されたほか,獨協大学の井上靖代氏,鶴見大学の角田裕之氏ほか4名がポスター発表に参加された。NDLからは計2名が国会に対する調査サービスの向上にむけた取組みと,印刷物を読むことに障害がある人々を対象とした日本の電子図書館サービスについて,それぞれサテライトミーティングで発表を行った。
また今回の大会では,2015年に採択された国際目標「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」に定められた持続可能な開発目標(SDGs;E1763 [364]参照)がいくつかのセッションで議題に取り上げられ,図書館がSDGsに対して起こすべき行動について,分科会の枠を超えて話し合われた。
16日には国立図書館長会議(CDNL)がコロンバス美術館で開催され,田中久徳NDL電子情報部長が館長代理として出席した。CDNLではデジタル市場における国立図書館がテーマに取り上げられ,NDLからは,大規模デジタル化事業の取組みと,当該事業の日本のデジタル出版市場への影響について発表し,パネルディスカッションに参加した。
17日に行われたIFLA総会では,IFLAの活動報告,財務報告等が行われた。18日の閉会式では,RDA運営委員会の議長でLinked Dataの分野等で活躍するダンサイア(Gordon Dunsire)氏らがIFLAメダルを受賞したほか,ポスター発表の最優秀賞にカザフスタンの公立図書館が選ばれた。2018年の大会がマレーシアのクアラルンプールで開催されることが発表された後,次回の開催地であるポーランドのヴロツワフから歓迎の挨拶があり,大会は閉幕した。
大会の各セッションの予稿はIFLAの機関リポジトリ“IFLA Library”で,写真はFlickrで公開されている。なお,今大会の詳細は『国立国会図書館月報』の2016年12月号で報告される予定である。
収集書誌部収集・書誌調整課・津田深雪
Ref:
http://2016.ifla.org/ [365]
http://library.ifla.org/1550/ [366]
http://library.ifla.org/ [367]
https://www.flickr.com/photos/ifla/ [368]
E1705 [363]
E1763 [364]
2016年8月8日,同志社大学寒梅館ハーディホールで第25回京都図書館大会が開催された。本大会(E1337 [372],E1714 [373]参照)は館種を越えた図書館関係者の連携を図り,研鑽を積むことを目的として1992年から年1回開催されている。第25回大会では図書館の空間や場所としての機能に注目し,人や情報が集まる場としての図書館のあり方を探るため「場としての図書館」をテーマとし,基調講演に続き異なった3つの館種に所属する登壇者から事例発表がなされた。
午前中は神戸女子大学文学部の久野和子氏より「第三の場(サードプレイス)としての図書館」と題して基調講演が行われた。久野氏は場としての図書館に関する先行研究に触れつつ,米国の社会学者R.オールデンバーグの「第三の場(サードプレイス)」の定義や特徴について紹介した。第三の場とは,職場,家庭に続く住民の日常生活における居場所,お気に入りの場所のことなどを指す言葉である。そして,現代社会では人とのふれあいやつながりを感じられる場が必要とされており,人々に出会いの場を提供する第三の場の必要性が増していると述べた。図書館は利用者にとって魅力のある社交の場へと変わっていくべきであると語り,海外の図書館の事例を紹介しながら,心地よく会話や雰囲気を楽しめる空間と,それを維持管理する優れた図書館員の存在により,図書館が人と人との結びつきを創りだす生活の場となりうると述べた。
午後からの事例発表では瀬戸内市民図書館もみわ広場の嶋田学氏より「瀬戸内市の図書館づくり~もちより・みつけ・わけあう広場をめざして~」と題し,2016年6月1日に開館した同館での取組が紹介された。同館では,市民がもちよる「必要」や「課題」に応える居場所を目指し,開館前から市民参画による図書館計画の策定を進めていた。同館が市民や行政と共同で行ったイベントの実践事例などを紹介しながら,嶋田氏は,市民に情報と場所を提供し,気づきを共有することで自治の担い手である市民の当事者意識を育て,人を支える場所を目指したいと語った。
立命館大学図書館の安東正玄氏からは「学びの空間『キャンパス全体がラーニング・プレイス(Commons)』の中での図書館内コモンズの役割と課題」と題し,国内の大学図書館の現状と立命館大学の各図書館におけるラーニング・コモンズでの取組が紹介された。社会の変化とともに学生の意識も変化し,大学が生き残りをかけた政策としてラーニング・コモンズに対する期待が高まっている現状に触れ,ラーニング・コモンズは議論をする場であるだけではなく,同じ目的の学生が集うことで,お互いが刺激しあい,学びあい,学生自身の意識も変化する空間でもあると述べた。大学図書館は出会いや学びを促進し,そこから発展して大学全体が学生の成長に寄与できる学びの場となりうると語った。
京都女子大学附属小学校司書の坂下直子氏からは「学校図書館は異空間~好奇心に応える営みの中で~」と題し,自身の経験をもとに小学校図書館での取組が紹介された。小学生ならではの疑問から生まれた豊富なレファレンス事例とともに,児童の興味や好奇心を引き出そうと寄り添いながらも,その熱意に巻き込まれて自身も学習者となっている経験について語った。学校図書館と学校司書が児童たちにとって,学校(セカンドプレイス)の中での心地よい居場所(サードプレイス)となっていることがうかがえる発表であった。
質疑応答では,場としての図書館を運営するために必要な図書館員の資質や,国内外の図書館の具体的な取組についてなど,各講演に対して多くの質問がよせられた。参加者の関心の高さをうけて久野氏は,熱意ある大会の参加者自身が,図書館づくりを発展させる原動力となりうると締めくくった。
様々な館種での取組に触れることで,今後の図書館のあり方や方向性について,一つの可能性が示された有意義な大会であったと感じた。
京都府立図書館・中島美奈
Ref:
http://www.library.pref.kyoto.jp/?page_id=30 [374]
http://lib.city.setouchi.lg.jp [375]
https://lib.city.setouchi.lg.jp/SHISETSU/MOMIWA3.HTM [376]
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/mr/lib/plr/index.html [377]
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/mr/lib/hml/5feature/ [378]
http://crd.ndl.go.jp/jp/library/column_h26_02_report2.html [379]
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdsearch/index.php?page=detail_list&type=reference&dtltbs=1&mcmd=25&st=update&asc=desc&tt_lk=1&tcd_lk=1&tt=5300001&tcd=5300001 [380]
E1337 [372]
E1714 [373]
CA1804 [381]
2016年7月30日,国立国会図書館(NDL)東京本館で,「NDLデータ利活用ワークショップ~ウェブ・アーカイブの自治体サイトを可視化しよう~」を開催した。これは,「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」(WARP)の利活用促進を目的としたイベントで,当日は,システムエンジニア,ウェブデザイナー,会社員,学生など幅広い層から41名の参加を得た。
WARPは,インターネット上で公開されている数多くの有用な情報資源を,文化遺産として将来の世代のために保存するプロジェクトである。2002年に始まり,2010年からは国立国会図書館法に基づき公的機関のウェブサイトについて網羅的な収集を開始した(E1046 [382]参照)。今回のイベントは,地域の課題解決に向けた公共データ利活用コンテストである「アーバンデータチャレンジ2016」(E1709 [383]参照)に合わせて開催した。WARPに保存されている地方公共団体のウェブサイトのメタデータなどを使って,データ可視化(Data Visualization)を行うイベントであった。「データ可視化」とは,データに含まれる情報(事実・示唆)を発見し,それらを視覚に訴える画像・グラフ・図・表で表現することであり,多様で大量なデジタルデータの活用が盛んになっている昨今,注目を集めている。今回のイベントは,NDLが提供するデータの利活用の可能性を広げることも意図し,データ可視化に焦点を当てた参加型のワークショップを開催した。
当日はイベントの冒頭でアーバンデータチャレンジやWARPとそのデータセットの概要,データの可視化に関する説明を行った。
ワークショップでは,参加者は個人やグループに分かれ,WARPで保存した地方公共団体のウェブサイトを,それぞれの切り口から可視化できるように,テーマを探し出す作業を最初に行った。参加者により,「福島」「ごみ」「まちづくり」「畜産物」「結婚」など,多岐にわたるテーマが挙がった。テーマに沿って集めたデータの整形から,具体的な可視化まで,4時間半ほどの作業を行った。外部講師の矢崎裕一氏と瀬戸寿一氏,NDL職員はテーブルをまわり,データの探し方や整形・可視化の手法についてアドバイスした。
データを可視化した経験が無い,あるいはあまり慣れていない参加者には,データの集め方から可視化ツールの使い方まで,講師から丁寧にレクチャーし,最終的にはウェブアプリを利用した可視化作品を作り上げた。ワークショップの最後に,各グループや個人で成果を発表した。初心者でもデータを使って自力でアウトプットまでつなげられ,モチベーション高く参加できたという声も聞こえた。
ワークショップを通じて,全国各地のご当地キャラクター「ゆるキャラ」が地方公共団体のウェブサイトに登場する回数をグラフ化した作品や,公表されている待機児童数と各地方公共団体のウェブサイト内にある「待機児童」という語が含まれるウェブページ数とを日本地図上で比較した作品など,各地方公共団体の隠れた特徴や意外なつながりが分かる可視化作品がいくつも生まれた。なお,成果の詳細はNDLラボのウェブページで見ることができる。
参加者からは,データの可視化を体験できて良かった,いろいろなデータセットにふれて可視化してみたい,地方公共団体ごとに産業を分析するイベントがあれば面白そう,といった感想が寄せられた。今回のイベントでは,WARPで保存したウェブサイトを利用する中で,インターネット上に存在する情報が変化・消滅しやすいということを改めて実感する参加者も多かったようである。今後もこうしたイベントを開催することで,NDLが提供するサービスやデータの利活用を促進していきたい。
電子情報部NDLデータ利活用ワークショップ事務局
Ref:
http://urbandata-challenge.jp/ [384]
http://lab.ndl.go.jp/cms/?q=visualize2016 [385]
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/opendataset.html#warp [386]
http://warp.da.ndl.go.jp/contents/reccommend/collection/webjpn.html [387]
http://warp.da.ndl.go.jp/contents/reccommend/collection/bubble.html [388]
http://warp.da.ndl.go.jp/contents/reccommend/collection/preflink.html [389]
E1046 [382]
E1709 [383]
E1757 [390]
2016年6月,文部科学省は,2015年度の委託調査として株式会社浜銀総合研究所が行った「地域における読書活動推進のための体制整備に関する調査研究」の報告書を公開した。本調査研究は,次の2点を目的として実施された。
(A)小学生,中学生,高校生の読書の実態や不読の背景・理由等を把握するための調査を実施し,課題を明確にするとともに,不読解消のための方策等について検討する。
(B)各自治体(都道府県,市区町村)で実施されている子供たちの読書推進に関する取組のうち,地方公共団体,学校,図書館,民間団体,ボランティア等の連携・協力により実施されている取組について,その連携・協力手法等に着目して調査・分析を行い,特徴等を明らかにする。
(A)については,小学生,中学生,高校生及び保護者を対象とした質問紙調査で「1日あたりの読書時間,1か月に読んだ本の冊数,学校図書館(室)・地域の図書館の利用頻度,認識,どのようにすればもっと本を読みたくなると思うか」などが調査された。
(B)については,自治体,学校等を対象とした質問紙調査に加え,ヒアリング調査が行われた。子供の読書推進に取り組む自治体,図書館,学校・教育機関の事例が紹介されている。
本稿ではこの中から,調査結果の一部を紹介する。まず,小学生から中学生,高校生になるにつれて,読書をする子供の割合が減少することが確認された。そして,高校生については,平日,休日ともに,半数以上が本を全く読んでいない状況にあり,1か月間に1冊も本を読まない子供の割合も半数近くにのぼる。高校生では,学校図書館(室)や地域の図書館を利用しない者の割合も小学生や中学生に比べて高い。
不読の背景としては,小学生や中学生はTVやインターネット,ゲームなど読書以外の娯楽・趣味等に時間がとられている割合が相対的に高いことが明らかになった。中学生や高校生は,読書習慣が身についていないために本を読まなくなっている子供が多いのではないかとも考えられている。高校生では,勉強や部活動・生徒会活動等に時間がとられていることを不読の理由として挙げている者も多い。
小学生・中学生は,登校日には本を読むが,休日には読まないという層が比較的多く存在する。背景には,学校で行われている一斉読書の時間などの取組により本を読むようになっている子供が一定程度いることが報告書では推察されている。
高校生の不読率(調査において,1か月で読んだ本の冊数が0冊と回答した生徒の割合)は高いが,必ずしも全員が本を読まないわけではないことが分かる。その差異には,不読率は男子が高いなど性別の差や家庭の蔵書数,読書推進に関する学校・図書館の取組における充実度などが関連していると報告書では述べられている。
調査結果からは,学校における読書に関する取組が不読解消に一定の影響を及ぼしていることが明らかになっている。また,小学生,中学生,高校生共に本を読む場所・環境の整備を望む割合が高い。家庭,学校,自治体・図書館が連携しながら協力し,引き続き子供の読書環境整備に取り組むことが重要であることを改めて示している。
豊中市立岡町図書館・小西知美
Ref:
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=41 [393]
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=40 [394]
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=39 [395]
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=38 [396]
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=37 [397]
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=36 [398]
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=35 [399]
2016年6月,Europeanaは,“White Paper on Best Practices for Multilingual Access to Digital Libraries”を公開した。このホワイトペーパーは,文化遺産のデジタルコンテンツへのアクセス方法を多言語化するための,研究成果・参考文献などのリソースやベストプラクティスを集約している。また,デジタルアーカイブシステムを多言語化する際の課題や,システムの多言語機能の評価方法なども解説している。
ホワイトペーパーでは,データ,インターフェース,ユーザーとの相互作用という,システムの3つの構成要素に焦点があてられているので,本稿ではそれに従い,コンテンツへのアクセス方法を多言語化する方策について紹介する。
◯データ
まず,メタデータの記述言語を明確に示す。これはメタデータが複数の言語で記述されているとき特に有効である。また,メタデータの記述に多言語の語彙を使用する。単一の言語の語彙を使用する場合は,他の言語あるいは多言語の語彙へマッピングしたり,語彙自体を他の言語に翻訳したりする。とくに語彙の翻訳は,他の言語のリソースが存在しないきわめて専門的なコンテンツに対して有効である。そもそも,メタデータやコンテンツ自体を翻訳して多言語化することもありうる。
◯インターフェース
ヘルプや問い合わせなど,静的な内容のウェブページの翻訳は,まず最初に着手すべきことであり,また簡単に行える。プロの翻訳者を雇い,原文をその翻訳者の母国語に翻訳してもらうのがよい。それが無理なら,ネイティブスピーカーに校正してもらう。翻訳サービスの要件を定めた国際標準(ISO 17100:2015)もあるので活用する。
可能であれば自動検出機能を使用して,ユーザーの使用言語を検出する。また,ユーザーが使用言語を容易に選択できるようにして,その設定を保存する。これらにより,インターフェースや静的なウェブページの言語を変更する。使用言語の選択に際しては,言語を国旗で示すのではなく,その言語による言語名(日本語なら「日本語」,英語なら“English”,中国語なら「中文」,韓国語なら「한국어」)あるいは国際標準の言語コードの規定(ISO 639-2:1998)などに従い表示すべきである。また,検索結果が多言語のコンテンツで構成される場合,異なる言語のコンテンツを混在させて表示することは避ける。
◯ユーザーとの相互作用
検索語のオートコンプリートやサジェスト機能は,その言語を理解できるユーザーに有効である。また,自動翻訳機能を活用して,ユーザーが入力した検索語と翻訳された検索語をOR検索する。翻訳の際は,翻訳元・翻訳先の言語の決定や,システムが提案する複数の翻訳候補からの選択などにユーザーが関与できるようにすべきである。
ブラウジングはコンテンツを視覚的に一覧できるという点で言語に依存しておらず,探す意図がなかったコンテンツを偶然に発見することが可能になる。
検索やブラウジングの際に,コンテンツを言語別にフィルタリングすることで,ユーザーが理解できない言語のものを除くことができる。フィルタリングの方法を説明する言語をユーザーが選択できるようにすることや,フィルタリングする言語はコンテンツの言語かメタデータの言語かを明確に示すことが重要である。
これら以外にコンテンツへアクセスする方法として,時系列に沿って表示したり地図上に表示したりするなど,言語に依存しない方法もある。
そのほか,ウェブページをさまざまな言語で用意して,検索エンジンの検索結果にそのユーザーにとって適切な言語のページを表示させることや,検索エンジンから,自身が理解できない言語のページを訪問したユーザーのために,ページの言語を切り替えるプルダウンメニューなどの機能を見つけやすくすることが重要である。
ソーシャルメディアやタグ付けによって,ユーザーにコンテンツを翻訳したり多言語のタグを付与してもらったりすることがあるが,その場合,オートコンプリートによって統制されたタグを付与するよう誘導したり,ユーザーによる翻訳であるときはそのことを明確に示したりすることが重要である。
◯おわりに
多言語化は,コンテンツへのアクセスにおいて言語の障壁を乗り越えるひとつの手段であるが,このホワイトペーパーでは,多言語化のほかに非言語的なアクセス方法も紹介している。米国では,スマートフォン向けのゲームアプリ「ねこあつめ」が,メニュー等が日本語で表示されるにもかかわらず,日本語が理解できなくてもプレイできる非言語的なインターフェースも持っていることが話題となった。デジタルアーカイブでも多言語化や非言語的なアクセスを実現して言語の障壁を乗り越えるために,このホワイトペーパーが重要な役割を果たすであろう。
関西館図書館協力課・阿部健太郎
Ref:
http://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Publications/BestPracticesForMultilingualAccess_whitepaper.pdf [403]
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail.htm?csnumber=59149 [404]
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=4767 [405]
http://www.loc.gov/standards/iso639-2/ [406]
http://acrlog.org/2015/06/15/collecting-cats-library-lessons-from-neko-atsume/ [407]
Karen Smith-Yoshimura. Analysis of International Linked Data Survey for Implementers. D-Lib Magazine. 2016, 22(7/8).
2015年6月1日から7月31日まで,OCLCの研究開発部門であるOCLC Researchが,2014年(E1625 [409]参照)に続きLinked Dataを用いたプロジェクトやサービス(以下プロジェクト)の実態調査を,プロジェクトの実務担当者を対象に行った。本稿では,その結果をまとめた文献を紹介する。
◯調査の概要
71機関から回答を得ており,168件のプロジェクトが報告された。そのうち,文献では一定程度詳細な回答が得られた112件のプロジェクトを分析対象としている。また,71の機関のうち国立図書館が14館,学術図書館が23館,公共図書館が5館を占め,行政機関や学術的プロジェクトなども回答した。また,国別で見ると米国が43%(39件)を占め最も多く,続いて,スペイン,英国,オランダなどであった。
◯プロジェクトの概況
現在稼働しているものは67%(75件)で,そのうち2年以上継続中のものが61%(46件)を占める。Linked Dataを使用及び提供しているものが64件で,また,使用するだけのものは38件である。そして,69%(77件)が,大学や研究機関,図書館など外部と連携している。また,98件が現有の人員にプロジェクトを担当させている。プロジェクトの資金については,約4分の3(82件)が図書館や文書館のほか母体となる機関からの資金提供を受けている。また,助成金を獲得しているものが25件あった。
その他,調査ではプロジェクトの成功についても尋ねている。多くは初期の段階にあるため,「成功」「おおむね成功」と回答したものは46件にとどまる。また,どういった点で成功であるかという点も,データの再利用,発見可能性の向上,多言語対応などによって新しい知識がうみ出される,Linked Dataに取り組むというリーダーシップの提示,セマンティックWebに向けた準備,など様々である。
◯Linked Dataの提供
提供するデータは,書誌(56件)や典拠(45件)が多く,記述メタデータ(43件)がそれに続く。その他,オントロジー・語彙(30件),デジタルコレクション(26件),地理データ(18件),データセット(16件),博物館の所蔵品に関するデータ(10件)なども挙げられている。また,各プロジェクトが提供するデータセットは小規模なものが多い。データセットの大きさについて回答があった67のプロジェクトのうち,トリプル数(RDFで記述されたデータの基本単位)が1,000万未満のプロジェクトが39件を占める。一方でトリプル数が10億以上であったプロジェクトは3つ(書誌・典拠・図書館とその関連機関に関するデータを提供する,ドイツのノルトライン=ヴェストファーレンライブラリーサービスセンターの“lobid”,ノルウェー科学技術大学(NTNU)の書誌や典拠データ等を提供するプロジェクト,OCLCのWorldCat.org)にすぎなかった。なお,提供する理由についても言及があるが,2014年の調査とあまり変わらない結果となり,ウェブ上でのデータの存在感を高めることなどが挙げられている。
データを表現する語彙やオントロジーには様々なものが用いられている。使用頻度の高い順に,SKOS(Simple Knowledge Organisation System),FOAF(Friend-Of-A-Friend),DCMIメタデータ語彙,ダブリンコアメタデータ基本記述要素集合(The Dublin Core Metadata Element Set:DCMES),schema.orgとなっている。また,ライセンスは,何も表示しないものと“CC0 1.0 Universal”を表示しているものがそれぞれ26件ずつで最も多かった。また,Linked Dataを提供する74件のプロジェクトのうち,19件は機関内でのみアクセス可能なものである。残り55件は,複数の方法を用いて公開しており,ウェブサイトが最も一般的である。続いて,コンテントネゴシエーション,SPARQLエンドポイントなどで提供している。Linked Dataを提供する技術は様々で,10以上のプロジェクトで使用されているのは,SPARQL, Java, XSLT, Zorbaである。提供の際の課題としては,スタッフの技術習得,古いデータの不整合性,データを表現する適切なオントロジーの選択などが挙げられている。
また,提供するLinked Dataの利用状況については,過去6か月間で,利用が1日平均で1,000件未満にとどまるプロジェクトが大半である。その一方,1日に10万件以上の利用があるデータセットもあり,Europeana,ゲティ研究所の用語データベース“Getty Vocabularies”,米国議会図書館(LC)の“id.loc.gov”,日本の国立国会図書館サーチ(NDL Search),“lobid”,WorldCat.org,バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)などである。
◯Linked Dataの使用
よく用いられるLinked Dataのデータソースは,VIAF,DBpedia(Wikipediaの情報をLinked Open Data化したもの),GeoNames(地名に関するデータベース),id.loc.gov,自機関のデータの順となる。文献では,図書館のプロジェクトはDBPediaとGeoNamesなどを除き,図書館以外のデータソースを使用しないことが指摘されている。
Linked Dataを使用する目的は,利用者へのサービス向上,Linked Dataを用いることによる自機関等のデータの拡張が挙げられている。また課題としては,データソースとLinked Dataのマッチング,語彙のマッピング,Linked Dataが再利用できない場合があることやURIの欠落,典拠コントロールの欠如,データセットが更新されないこと,などが挙げられている。
◯まとめ
文献では調査結果から,Linked Dataをめぐる状況は未だ発展途上にあると結論づけられ,より良いサービスのためには,多様なデータソースを活用し,他分野のデータセットを統合することが求められるであろう,としている。また,組織内にLinked Dataの専門家がいない場合など,他機関との連携の有効性も指摘している。そして最後にプロジェクト実施を検討する人々に向け,技術的なスタッフではなく,達成したいことを重視すべき自らの所属する機関等を巻き込むなどしながら,他の機関等にないデータを用いて特色ある価値を付加するプロジェクト開始当初から法的な問題にも目を配り,情報を集めながら,Linked Dataの構造や利用できるオントロジー,自機関が保有するデータに関する理解を深めるという提言とともに,“Start now! Just do it!”と呼びかけ,締めくくっている。
関西館図書館協力課・葛馬侑
Ref:
http://doi.org/10.1045/july2016-smith-yoshimura [410]
http://hangingtogether.org/?p=5672 [411]
http://www.oclc.org/content/dam/research/activities/linkeddata/oclc-research-linked-data-implementers-survey-2014.xlsx [412]
http://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/ [413]
http://lobid.org [414]
http://www.ntnu.no/ub/data/ [415]
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/index.html [416]
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/translation.html [417]
http://doi.org/10.1241/johokanri.58.127 [418]
E1625 [409]
E1192 [419]
CA1746 [153]
2016年7月3日,神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(大阪市)を会場に,歴史資料ネットワーク(以下,史料ネット;CA1743 [421]参照)主催のシンポジウム「資料保全と活用の長い道のり―熊本地震によせて―」が開催された。参加者は約60名であった。本稿では,企画者の1人として,このシンポジウムでの議論をまとめることとしたい。
2016年4月14日以来の熊本地震をうけ,現地の歴史文化関係者によって4月21日に「熊本被災史料レスキューネットワーク」(以下,熊本ネット)が設立された。こうした動きをうけ,関西に拠点を置く史料ネットは,熊本ネットと協議のうえ,活動支援募金の受付業務を代行することとなった。
以上のような経緯を踏まえ,このシンポジウムでは,災害前から資料保全活動に携わる人々の地域とのかかわりの重要性,災害発生時の被災地周辺地域からの支援のあり方,自治体の初動のあり方など,歴史資料の保全をめぐる様々な課題を振り返りながら,熊本地震の被災地への支援のあり方を考えようとした。その一方で,東日本大震災の被災地において現在も続く資料保全をめぐる諸問題に目をふさぐわけにはいかない。福島県では,「東日本大震災・原子力災害アーカイブ拠点施設」の設置が具体化されるなど,新たな段階に入っている。地道に続けられてきた福島の資料保全活動と,その活動によって明らかとなった地域の多様な歴史文化を,これからいかに大切にし続けられるかが,現在進行形の課題としてある。こうした課題を見つめることは,これから資料保全が本格化する熊本の現場において,地域の豊かな歴史文化を守ることに必ずつながるものと考えた。
まず史料ネット事務局の永野弘明氏の報告「熊本地震における被害状況と資料保全活動」では,現地視察や熊本ネット事務局からの聞き取りをもとに,熊本県内の被災状況をはじめ,熊本ネットや資料所蔵機関,大学による取り組みについて報告した。そして国立文化財機構,熊本県教育委員会,県内関係機関を中心とし,被災した熊本県内の文化財等を調査し保全する「熊本県被災文化財救援事業」が進められつつあることが報告された。
地域史料保全有志の会の白水智氏による報告「結果論からの史料保全―何をしていたことが生きたのか」は,2011年3月12日に発生した長野県北部地震で被災した栄村での資料保全活動について,その成り立ちと展開を振り返った。震災前からの歴史資料調査を通じた地域との関わりをもとにした活動や,被災建物を復元した施設で救出資料を展示活用する際に救出当時の現状記録が役立ったことなど,栄村における白水氏の活動を現在の視点から振り返ることで被災資料保全活動のキイポイントが示された。
山形文化遺産防災ネットワークの小林貴宏氏の報告「変わったこと,変わらなかったこと」では,2008年の同ネットワーク発足宣言に込められた当初の活動理念や目的を再検証することを通じて,あえて活動の「核」を持たず,ゆるやかに横に広がっていく点に同ネットワークの活動の特質があることが述べられた。
兵庫県佐用町教育委員会の藤木透氏の報告「文化財レスキューと資料保全―自治体職員の立場から」では,2009年の台風9号による豪雨で被災した兵庫県佐用町での被災資料保全について,自治体職員の視点から,被災資料の応急処置や一時保管などの課題が振り返られ,水害後の日常的な資料保全の展開についても報告された。また,自治体における地域防災計画や職員行動マニュアルの役割など,具体的な災害対策のあり方が述べられた。
ふくしま歴史資料保存ネットワークの菊地芳朗氏の報告「福島の震災ミュージアム構想の現在」は,福島第一原子力発電所事故の避難区域から救出した資料を保存しつつ,震災と事故の歴史もあわせて継承する施設が必要となっている福島県の現状が紹介された。その上で,地域の多様な歴史文化をどのように伝えるかという内容で,被災資料保全の根源にかかわる報告であった。
以上,各報告においては,これまでそれぞれが取り組んだ災害対応事例に徹底的に即して,資料保全活動において共通する課題と不可欠な方法が具体的に示され,それをもとに議論が行われた。
報告者5名による総合討論では,熊本地震被災地の現状や,資料保全を始めるタイミング,地域住民からの理解をどのように得るかといった点が特に議論された。歴史文化を救うことが,地域のこれからの復興を長期的に支えるものであるということについて地道に理解を得る必要があり,救出した資料を地元と連携しながら活用することで理解を深めていくという方法について具体的に議論された。
なお,熊本ネットへの活動支援募金の受付は現在も継続しているので,詳細は史料ネットのホームページを参照されたい。読者諸賢のご協力をお願いしたい。
歴史資料ネットワーク・吉原大志
Ref:
http://siryo-net.jp/info/2016-kumamoto-eq-emergency/ [422]
http://siryo-net.jp/disaster/kumamoto_siryonet/ [423]
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https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11055b/archive2015.html [428]
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2016062003.html [429]
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2016062003_besshi03.pdf [430]
http://yamagatabunkaisan.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/2008125-4ea7.html [431]
CA1743 [421]
2016年の世界図書館情報会議(WLIC):第82回国際図書館連盟(IFLA)年次大会では,文書遺産の所在情報を集約するIFLAのプロジェクト“Risk Register”や災害時の資料保全活動をテーマとしたセッションが催された。本稿では,“Alliance for Response Pittsburgh”(AFR Pgh)が,持続可能な地域資料保全活動団体へと転換するために行った様々な取組に関する報告を,大会の予稿をもとに紹介する。
AFR Pghは,米国の文化遺産保存団体“Heritage Preservation”が,資料保存機関間の連携強化,地域資料保全活動の改善,地域資料保全活動団体の創設支援等を目的に2003年に立ち上げた事業“Alliance for Response”(AFR)の支援を受け,2008年にペンシルバニア州ピッツバーグで創設された団体である。AFR Pghでは,同地で直面することが多い資料の水損被害への対応に焦点を当てた活動を行ってきたが,2010年頃から活動が組織面で衰退し始めたことを感じるようになる。団体の崩壊を避けるため,2011年から様々な取組が実行された。
当時の運営委員会は,3つの大学図書館とピッツバーグ市からの固定メンバーによって担われていた。しかし,将来にわたって活発な活動を維持するためには,個人の熱意に依存した組織運営から脱却し,多様なメンバーで構成され,指導性を発揮できる組織に転換する必要があると考えられた。そこで,任期1年の運営委員会のメンバーを,会員の互選とし,図書館,ミュージアム,文書館,地域の歴史協会,地方政府といった多様な組織から選出するように改めた。また,運営委員会を,議長,副議長,幹事,会計,プログラム委員長,企画委員長,メンバーシップ/マーケティング委員長という構成とし,会員数の拡大,プログラムの実施,マーケティング活動への従事,連邦・州レベルのAFRの会議への出席,近隣地域の地域資料保全活動団体との連携やその創立の支援といった面で指導力を発揮できるよう位置づけた。
活動の拡大のためには,地域の歴史協会や史跡の関係者,危機管理担当者・地方政府の職員の参加が必要と考え,彼らをターゲットとした会員数拡大活動を行った。前者は,この活動により最も恩恵を受ける住民であるが,活動が非公開で,ウェブ上に情報が存在せず,人脈を形成することが難しかった。そこで,彼らが興味を持つワークショップを開催し,参加してもらうことを通じて人脈を形成した。後者は,米・国土安全保障省による地域の安全保障に関する取組を支援する制度“Protective Security Advisor”の担当者をイベントの講師に招くことで人脈をつくり,そこから地方政府の職員との人脈を形成した。このつながりは,情報源として貴重であるだけでなく,地方政府の危機管理計画や日常の緊急事態対策に資料保全活動を組み込むなどのメリットを生んだ。
会員数の拡大・維持には,多様な資料保全に関するプログラムの提供が大切であると考え,創設以来,講座・見学会・ワークショップという3つのタイプのイベントを20回実施してきた。その際,会員のキャリアに応じたプログラムの継続的な実施や,プログラムの記録のアーカイブ化も行うよう配慮した。米国図書館協会(ALA)の“Preservation Week”(4月)等,関連が深い他のイベントにあわせてプログラムを実施するのが参加促進のためには効果的であった。運営資金が乏しい同団体では,無料のプログラムを継続するため,図書館団体への加盟,スポンサーの確保など,ネットワークの形成に取り組んだ。
会員への最新情報の提供や会員との頻繁なコミュニケーションが重要であると認識し,そのための取組も行った。メーリングリストの開設,ウェブサイトの拡充,ニュースレターの発行を行ったが,Facebookの活用は,組織,イベント,地域,市政,災害等に関する情報を会員間で共有することを促進するという点で大きなメリットがあった。
本報告は,世界の資料保全活動団体の多くが,資金不足・組織基盤の脆弱性・会員活動の弱体化により,その維持が困難となっていることを指摘し,そのような課題に対処することに成功したAFR Pghの知見を共有することを目的としたものである。日本の同種の活動においても,類似の知見や課題が報告されている(E1834 [433],CA1630 [434],CA1743 [421]参照)。自然災害は世界各地で発生するため,地域資料の保全活動は世界的に重要な取組である。その活動の持続可能性に関する課題については,国・地域ごとの独自性も含めて共有し,対処していかなければならないであろう。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://library.ifla.org/view/conferences/2016/2016-08-18/717.html [435]
http://library.ifla.org/1430/ [436]
http://library.ifla.org/1430/1/211-nixon-en.pdf [437]
http://www.heritageemergency.org/ [438]
https://sites.google.com/site/afrpittsburgh/ [439]
https://www.facebook.com/afrpgh/ [440]
https://www.dhs.gov/protective-security-advisors [441]
http://www.ala.org/alcts/preservationweek [442]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023347749-00 [443]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I025156985-00 [444]
E1834 [433]
CA1630 [434]
CA1743 [421]
韓国国立中央図書館(NLK)は,2004年1月に韓国国内のオンライン資料の収集・保存プロジェクトOASIS(Online Archiving & Searching Internet Sources)の試験運用を開始し,2005年から本格的な収集を行っている。2006年2月からは一般にも公開され,現在では,資料の有用性,希少性等を判断基準として,政府,地方公共団体,教育研究機関,商業機関,民間団体や,選挙・災害といったテーマごとのウェブサイト等を選択的に収集している(E457 [445]参照)。
OASISの運用開始以降も,オンライン資料の収集・保存の法的根拠が不十分な状況での収集が続いていたが,2009年3月,図書館法が改正され,図書館資料としてのオンライン資料の定義(情報通信網を通じて公衆送信される資料)(第2条),NLKによる,保存価値の高いオンライン資料の選択的な収集・保存等に関する規定(第20条)が新設され,法的根拠が明確となった(E976 [446]参照)。ただし,この時の改正では,オンライン資料の納本制度の法制化にまでは至らなかった。
2009年の図書館法改正とは別に,2007年9月,「オンラインデジタル資料の納本及び利用に関する法律案」が国会に提出された。同法案の準備過程にはNLKも関わっており,オンライン資料の納本制度の導入が目指されたが,国会審議において納本主体,納本対象などが不明確といった法案の不備が指摘され,2008年5月に審議未了により廃案となった。
その後も,オンライン資料の網羅的収集に向けた動きは継続し,大統領直属の図書館情報政策委員会が図書館発展のために5年ごとに策定する(E797 [447]参照)「図書館発展総合計画(2009~2013)」,「第2次図書館発展総合計画(2014~2018)」や,NLKの中期計画「国立中央図書館2014~2018」において,オンライン資料の納本制度の導入が目標に掲げられた。
2016年2月,図書館法が再改正され,同年8月4日に施行された。部分的ではあるが,図書館界の念願であったオンライン資料の納本制度の導入が実現した。オンライン資料の納本に係る主な改正点は以下の2点である。
前者の改正は,オンライン資料のうち,電子ブックと電子ジャーナルを納本の対象とするものであり,有償・無償,DRM(技術的制限手段)の有無に関わらず納本が義務付けられる。なお,DRM(技術的制限手段)がある資料は,すでに2009年の図書館法改正において,原則,当該オンライン資料の提供者が,技術的制限手段の解除等に関するNLKの協力要請に応じることが義務付けられている(第20条の2第2項)。
後者の改正は,国,地方公共団体及び公共機関の研究報告書,事業報告書,白書,年鑑,統計,便覧等をデジタルファイルでも納本させることにより,効率的にデータベースを構築することを意図している。
オンライン資料の納本制度の定着のため,納本主体,納本対象,納本方法,納本代償金,資料データの流出防止策,NLKでの資料の提供方法,利用活性化案の策定等の体系的な整備や,オンライン資料の納本制度に対する利害関係者の理解と協力を得ることの必要性が指摘されている。
また,これまで電子出版物の資料番号は,出版文化産業振興法施行令(第3条第2項但書)により,国際標準資料番号の代わりに,社団法人韓国電子出版協会が付与する識別番号を用いることも認められていたが,今回の法改正により,国際標準資料番号に一元化されていくのではないかとの見方が出版関係者からは出ている。
調査及び立法考査局海外立法情報課・藤原夏人
Ref:
http://www.oasis.go.kr/ [448]
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https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin8-1-1.php [450]
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http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/cooperation/pdf/nlk11_3_ko.pdf [452]
http://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_J0Z7L0J9L0P6G1B5M1C7S0W7J7Q6X2 [453]
http://doi.org/10.4275/KSLIS.2010.44.4.435 [454]
http://www.mcst.go.kr/web/s_data/deptData/deptDataView.jsp?pSeq=106 [455]
http://www.mcst.go.kr/web/s_data/deptData/deptDataView.jsp?pSeq=205 [456]
http://www.nl.go.kr/servlet/contentPdf?site_code=nl&file_name=2014-2018.pdf [457]
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/cooperation/pdf/2014_kankoku_theme1.pdf [458]
http://www.mcst.go.kr/web/s_notice/press/pressView.jsp?pSeq=14936 [459]
http://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_W1N5X1T2S0I4O1Q8J3C1Q0U9X3L7G7 [460]
http://likms.assembly.go.kr/law/jsp/law/Law.jsp?WORK_TYPE=LAW_BON&LAW_ID=A0742&PROM_DT=20160203&PROM_NO=13960 [461]
http://www.nl.go.kr/nl/commu/libnews/notice_view.jsp?board_no=8670¬ice_type_code=1&cate_no=1&site_code=nl [462]
http://www.kla.kr/jsp/fileboard/cultureboard.do?procType=view&f_board_seq=49639 [463]
http://blog.naver.com/parkisu007/220618881894 [464]
E457 [445]
E797 [447]
E976 [446]
ジェームズ・マタラッツォ(James M. Matarazzo)氏とトビー・パールスタイン(Toby Pearlstein)氏が,2016年5・6月号の“Online Searcher”に“New Management Realities for Special Librarians”と題した論文を発表している。両氏は,長年,米国の企業図書館のありようを調査し,数多くの提言を行ってきた専門図書館界の重鎮である。
シモンズ・カレッジ図書館大学院名誉教授のマタラッツォ氏の名前を一躍有名にしたのは,1981年発表の“Closing the Corporate Library: Case Studies on the Decision-Making Process”である。著作は,閉鎖された5つの企業図書館を取り上げ,実際にそこで働いていたライブラリアンと,決定を下した経営者への取材をもとに,各社でどのようなプロセスを経て図書館の閉鎖が決定されたのかを赤裸々に再現し,続いて,どこに問題があったのかを考察している。経営者はその時,何を考え,ライブラリアンは何をしたのか。経営者の決定を覆すことはできなかったのか。閉鎖を避けるためにライブラリアンは何をすべきだったのか,どこで間違ったのか。
成功事例の紹介が主流だった図書館界において,むしろ「図書館の閉鎖」という究極の“失敗事例”から学ぼうとする手法の新鮮さは,業界で話題となり,議論を呼んだ。この功績を讃えられ,マタラッツォ氏は1983年,米国専門図書館協議会(SLA)からSLA Professional Awardを受けている。
その後マタラッツォ氏は,コンサンルティング会社ベイン&カンパニーで情報サービス部門のトップを務めていたパールスタイン氏とコンビを組み,数多くの企業図書館経営に関する論考を発表してきた。直近でも2013年に,“Special Libraries: A Survival Guide”と題し,企業図書館が生き残っていくために必要なことは何かを著している。
一貫しているのは,経営者の置かれている状況に注意を払い,それに随時対応していくことが肝要だという考え方である。経営者の関心事を図書館運営に反映させ,いかに図書館が経営方針の実現に貢献できるかを証明し続ける努力を怠ってはならない,それができなければ企業図書館は閉鎖されるしかない,という主張は,30年余,強化されこそすれ,弱まることはなかった。
今回発表された論文でも,まずは世界の経営者の動向が,ベイン&カンパニーの調査結果を引用しながら紹介されている。2013年には経営者は自信喪失傾向にあり,意思決定においてリスク回避,増収・増益と経費削減を重視する傾向が強まった。2015年には中国の低成長と地政学的不安定化を目の当たりにして,南北アメリカの経営者たちは景気の見通しに悲観的になっている。
それゆえ企業図書館もまた,この直近の経営実態に即して自らの役割を今一度問い直し,サービスを変化させなくてはならない,と論文は説く。そして厳しい口調で畳みかける。「今,この問題を正しく認識していないとしたら,あなたのキャリアは近く終わりを迎えるだろう」と。
論文は,SLAが2014年に企業経営者に対して行った調査結果も引用している。そこでは,経営者の3分の2が企業図書館の価値について分からないと答えたという。「これは四半世紀前に行った調査と変わらない」と論文は指摘する。そしてSLAの初代会長を務めたジョン・コトン・デイナが1914年に語った言葉「古いタイプの図書館は,知の進化によってもたらされた新しいニーズに応じて変化しなければならない」を引用し,警告が100年にわたって繰り返されてきたことを告げている。
時代の変化に敏感であるか?ニーズの変化に対応できているか?サービスを常に見直しているか?100年前も今も,ライブラリアンたちが自らに問わなければならない問いは,常に同じである。いや,同じ問いを100年以上にわたり,不断に問い続けてきたからこそ,米国において企業図書館は,その地位を確立してきたのだ,ともいえる。
マタラッツォ氏は,米国経営者の3分の2が企業図書館の価値を分かっていない,と嘆いた。しかし日本で今,図書館の価値について語れる経営者が何人いるだろうという問いに思いを馳せてみれば,逆に米国で,3分の1の経営者は企業図書館の価値を認識しているという,その数値の高さに驚嘆せざるを得ない。
日本でも,今日まで数多くの企業図書館が閉鎖されてきた。日本にも,なぜ図書館が閉鎖されたのかを研究し,その運営を不断に見直していく必要性を唱える,マタラッツォ氏がなしたような研究が求められているように思う。
バーソン・マーステラ・豊田恭子
Ref:
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http://www.bain.com/publications/articles/management-tools-and-trends-2015.aspx [471]
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Matarazzo James M.; Toby Pearlstein. Special Libraries: A Survival Guide. Libraries Unlimited, 2013, 167p.
Cindy Shamel. Reference Management and Sharing: Trends and Tools for Researchers. Online Searcher: Information Discovery, Technology, Strategies. 2016, 40(3).
本文献は,文献管理ツールをめぐる動向について,特に出版社の企業戦略の観点から論じたものである。1990年代後半から2000年代初めの欧米において,主に大学の研究者らが開発に携わってきた文献管理ツールとして,QUOSA,Zotero,Papers,Mendeley,ReadCubeを挙げた上で,Elsevier社によるQUOSA取得(2012年)を端緒に今やその大半が出版社の製品と化していることを指摘し,その背景について考察するとともに各社の動向を概観している。
出版社の企業戦略において文献管理ツールが重視され始めた背景には,生物医学と科学出版との親和性があるとしている。中でも生命に関わる製品を開発する,薬学,診断学,医療機器,バイオ産業の分野では,製品の安全性を担保するため,研究が文献に大きく依拠している。製品を政府の規制に適合させるには,開発から認可申請,市販後の安全性モニタリングに至るまで,関係するあらゆる文献を捕捉し,関係者間で共有することが重要となる。ここで技術的解決をしてくれるのが文献管理ツールである。Elsevier社は,QUOSAを特に製薬業界向け文献管理ツールと位置付け,いくつもの大手製薬会社から採用されている。
Elsevier社はその企業戦略において,研究の発展には情報技術が不可欠であるとの認識を示している。コンテンツの取得・生産・管理・普及を包括的に扱うコンテンツビジネスにとって,コンテンツへのアクセスやその分析,検索の利便性向上を求める利用者のニーズに応えるためには,最先端の情報技術とコンテンツの組み合わせが必要であり,文献管理ツールはその包括的研究支援の一端に組み込まれていると言えるであろう。
なお,Elsevier社は,2012年のQUOSA取得に続き2013年にはMendeleyを取得しているが,前者が機関契約モデルを取るのに対し,後者は個人向け無料ツールとして研究者個人をメインターゲットとするという差異化を図り,高いシェアを誇っている。
Elsevier社とはやや異なるアプローチを取るのがSpringer Nature社である。この出版社は,Springer Science+Business Mediaと,Macmillan Science and Educationの大半の事業の合併により2015年1月に誕生したが,この合併内容もSpringer Nature社における文献管理ツールの展開と関連している。元々,Macmillan社は子会社であるDigital Science社を通してReadCube(2011年公開)の開発に出資し,Springer社はPapersを取得し(2012年),各々で文献管理ツールを展開していたが,Digital Science社は合併対象に含まれなかった。合併後,Springer Nature社は,2015年7月にReadCubeと提携関係を結び,コンテンツのインデクシングや付加機能による利便性向上により,学術コミュニティのニーズを捕捉しようとしている。2016年3月にはPapersもReadCubeへ売却され,Springer Nature社が独自に保有する文献管理ツールはなくなった。
ReadCubeは特定の出版社傘下にないことから,様々な出版社との提携が可能であるというメリットを持っている。実際に,提携先はElsevier社を含め65社以上で,4,000万本を超える論文がEnhanced PDF(ReadCubeが提供する,論文本文中における引用のハイパーリンク化等が可能なフォーマット)で利用でき,ユーザ数は1,530万を超えるとされる。
さらにReadCubeは,文献管理ツールとしての基本機能を提供するにとどまらない可能性を見せている。本文献はNature Publishing Groupが購読ユーザ・非購読ユーザ間におけるコンテンツ共有のプラットフォームとしてReadCubeを利用していることに言及しているが,この他,ReadCubeは有料コンテンツの購入・レンタルサービスのプラットフォームとしても活用されつつあることが想起されよう。
研究や学術情報流通の有り様の変化と出版社の企業戦略は密接に関連している。出版社は研究活動を包括的に支援するための構成要素としての意義を文献管理ツールに見出したが,今後も時代の変化に応じ多機能化等を図っていくことが予想される。文献管理ツールと大学図書館の関わりについては,2012年に詳細なレビューがなされているが(CA1775 [476]参照),以後も,国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会による「高等教育のための情報リテラシー基準2015年版」(E1712 [477]参照)に,例としてではあるが文献管理ツールの活用について言及が見られる等,研究・学習活動に不可欠のツールとしての位置づけが一層高まりつつある。図書館がスムーズな利用者サービスを行うためには,その動向に引き続き注視していく必要があるであろう。
鹿児島大学附属図書館・西薗由依
Ref:
http://www.infotoday.com/OnlineSearcher/Articles/Features/Reference-Management-and-Sharing-Trends-and-Tools-for-Researchers-110758.shtml [478]
http://jp.elsevier.com/online-tools/quosa [479]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I8855402-00 [480]
http://www.natureasia.com/ja-jp/info/press-releases/detail/8560 [481]
https://www.readcube.com/publishers [482]
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/sftl201503b.pdf [483]
E1712 [477]
CA1775 [476]
2016年7月1日,長野県の塩尻市市民交流センター(えんぱーく)で「信州発・これからの図書館フォーラム・都道府県立図書館サミット2016『直接・間接・併用の議論を超えて-新しい都道府県立図書館モデル』」が開催された。本イベントは県立長野図書館の事業「信州発・これからの図書館フォーラム」の一環として,全国の都道府県立図書館の現状と将来像を集約・共有し,これからの時代の都道府県立図書館のモデルを確立することを目指して開催されたものである。当日は,全国34の都府県立図書館の職員を含む150名の参加があった。
◯キーノートクロストーク
「なぜ,いま都道府県立図書館サミットか」まず,アカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真氏と県立長野図書館館長の平賀研也氏との間で,本イベントの開催経緯や問題意識について語られた。岡本氏からは,神奈川県立図書館の再整備を巡る活動に携わった経験から,都道府県立図書館の役割に関する新しい枠組みの必要性を感じたこと,この課題を議論していくための最初の試みとして本イベントが構想されたことが述べられた。平賀氏からは,都道府県立図書館が市区町村立図書館や地域の人々にとって役に立つ施設であるかが問題なのであり,直接サービスか間接サービスかという二元論を超え,地域の「知る」に貢献できる第三の道はないのだろうか,という問題提起がなされた。
◯都道府県立図書館クロスレビュー「都道府県立図書館のいま」
続いて,議論のための情報共有を主な目的として白河市立図書館(福島県)の新出氏と岡本氏によるクロスレビューが行われた。新氏の米国における州立図書館の役割についての論考をもとにした14の観点から,新氏からは俯瞰的な,岡本氏からはその補足と,各館を訪問した実体験に基づくコメントがよせられた。
◯都道府県立図書館パネルトーク「私たちが描くこれからの都道府県立図書館」
都道府県立図書館の館長・職員8人に進行役の岡本氏を交えて活発な議論が行われた。クロスレビューを受けて,奈良県立図書情報館の乾聰一郎氏からは都道府県と市区町村といった行政的な垂直の枠組みが図書館にも存在することを再認識したこと,第三の道を模索するためには,支援する側・される側といった関係性や,支援の多寡といった数量的な評価指標を再考する必要があることなどが述べられた。青森県立図書館館長の佐藤宰氏からは,図書館に赴任してから都道府県ごとの図書館の状況の多様さに驚いたことが述べられ,各館がそれぞれの状況にあう解決策を探さなければならないとの意見がよせられた。
都道府県立図書館によるネットワークづくりという観点からは,京都府立図書館の是住久美子氏から同館が複数の組織と協力して実施している研修会「シラベル」の紹介があった。今後はこうした取組をパッケージ化し,市町村,特に図書館未設置地域に展開して,活動の基盤になる知識や技術が不足している個人や団体と伴走していきたいとの意気込みが語られた。これを受け,都道府県立図書館においては直接サービスをただの直接サービスにとどめるのではなく,実践の中でうまくいったことを市区町村の図書館などへ展開するというやり方もあるのではないか,という意見が佐藤氏から出された。
フロアコメンテーターである京都府立図書館の福島幸宏氏からは「都道府県立図書館は図書館サービスの実験場たり得るのではないか」との問いかけがなされ,そのような事例として鳥取県立図書館の小林隆志氏から「音読教室」,三重県立図書館の中川清裕氏から「東北に行こうキャンペーン」といった市町村立図書館などを巻き込んで実施した取組の紹介があった。岡本氏からは,これらの活動は都道府県立図書館の指導や助言によるものではなく,その成果がうまく共有され広がった事例であるとの指摘がなされた。
また,広がるという観点では,乾氏からは,結びつきのゆるやかさという点で「アメーバのようだ」と例えられた奈良県におけるビブリオバトル部の活動の広がりについて,福島氏,是住氏からは京都府立図書館のサービス計画における職員の館外活動の位置づけ,岡山県立図書館の森山光良氏からは職員による自主的な課外活動「トショカン・ヨコの会」などが紹介された。
セッションの終盤は,ここまでに議論された価値をどのように評価すべきか,という福島氏からの問いかけを中心に議論がなされた。平賀氏からは,都道府県立図書館が何を期待されているかをふまえること,岡本氏からは,あらゆるサービスの実施を目指すのではなく明確な役割像を打ち出すこと,小林氏からは,自館の理想の絵を描きぶれないこと,が必要なこととして挙げられた。
◯クロージング
「都道府県立図書館サミット宣言(案)」が読み上げられ,会場内からの盛大な拍手とともに採択された。主催者であるサミット実行委員会からの説明によると,本宣言はアドボカシーを意図している指針であり,本サミットの参加者等に対して特に強制力を持つものではないとのことである。
なお,サミットの会場外には全国の都道府県立図書館によるポスターやブースが設置された。開催時間を通じて参加者でにぎわい,積極的な議論や情報交換が行われていた。
電子情報部システム基盤課・水野翔彦
Ref:
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CA1847 [307]
CA1871 [499]
◯選ばれた2つの図書館複合建築
日本建築学会の作品賞は,戦後間もない1949年に創設され,以来60年以上にわたって,日本の建築界において最も権威のある賞として数多くの建築を選出してきた。2016年は,受賞対象として,「近年中,国内に竣工した建築(庭園・インテリア,その他を含む)の単独の作品であり,社会的,文化的,環境的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの,あるいは新たな建築の可能性を示唆するもので,時代を画すると目される優れた作品」と規定した。応募総数は49件に上り,書類審査を経て8件が現地審査の対象となり,10人の審査員による厳正な審査を経て,千葉県流山市の「流山市立おおたかの森小・中学校,おおたかの森センター,こども図書館」(2015年竣工),東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」(2011年竣工),高知市の「竹林寺納骨堂」(2011年竣工)の3件が選ばれた。
応募作品は,集合住宅やチャペル,宗教施設や超高層ビルまで,規模も内容も多岐にわたる中で,偶然とはいえ,2件の図書館の複合施設が選ばれた。そこには,もしかしたら時代の求める新しい図書館像や公共建築の姿が投影されているのかもしれない。本稿では,賞の審査に携わり,設計者から現地で話を聞く機会のあった立場から,これら2件の,大きく性格を異にする建物の特徴を紹介し,建築という側面から図書館の現在について考えたい。
◯流山市立おおたかの森小・中学校,おおたかの森センター,こども図書館
流山市立おおたかの森小・中学校,おおたかの森センター,こども図書館は,つくばエクスプレスの開通で首都圏へ30分でアクセスできるようになり人口の急増が著しい流山市のニュータウンに計画された。敷地の北側には大鷹が生息する豊かな森が広がる。建物は,将来的に最大1,800名の子供たちが通える小・中学校を併設した学校施設,地域の交流センター,学童保育所等から構成される延床面積が約2万2,000平方メートルの大規模複合施設である。その中に,学校図書館に併設する形で「こども図書館」が設けられた。建物全体が地域コミュニティの形成を促す開かれた公共施設として位置付けられている。そのため,正面の道路沿いには,地域住民が気軽に利用できる音楽ホールやランチルーム,多目的室が設けられる一方,「こども図書館」は小・中学校の昇降口のある校庭へと抜ける「風のみち」に面する場所に配置された。蔵書数8,000冊程度の小さな図書館だが,学校図書館と隣り合わせで,目の前を行き来する子供たちの姿も見えるので,就学前の幼児と親たちが学校という空間にごく自然に馴染むことができるだろう。竣工から1年,今後どのように地域に根づいていくのか,その行方を見守りたい。
◯武蔵野プレイス
一方,武蔵野プレイスは,さまざまな世代が気軽に通うことのできる「居場所としての公共空間」を目標に掲げ,図書館を中心にしつつ,生涯学習,市民活動,青少年活動を支援する機能を併せ持った複合施設として計画された。そのために,多様な人々がそれぞれの活動を通して時間を共有できる空間構成の実現が,設計上の最大のテーマとされた。注目されるのは,静かに本を読む場所としての従来の図書館像を見直し,交流とコミュニケーションの場としての新しい図書館の在り方を求めた点にある。「ルーム」と名づけられた細胞のような9メートル角のドーム状の単位空間が連続しながら上下につながっていく構成で,延床面積が約9,800平方メートルであるにもかかわらず,人々にとって居心地のよい空間が醸成されている。
興味深いのは,約12万冊の蔵書を持つ図書館の機能が,アート&ティーンズ,メインライブラリー,マガジンラウンジ,テーマライブラリー,こどもライブラリーと,地下2階から2階まで4層に分散し,他の市民や青少年の活動を支援する機能と入り混じる形で配置されていることである。また,前面の芝生の公園から入る1階エントランスの中央には,新着・返却本架と共にカフェが設けられ,適度のざわめきと賑わいのあるカジュアルな雰囲気がつくり出されている。計画から竣工まで10年を費やし,市民との議論を尽くして機能の構成や配置が考え抜かれた成果であろう。竣工から5年,人口約14万人の都市で年間の来館者が160万人を超える活気ある公共施設として親しまれている。
◯図書館を中心とする新時代の公共施設の模索
これら2つの建物は,図書館という誰もが特に用がなくとも自由に過ごすことのできる公共空間が,市民に強く求められていることを教えてくれる。そして,図書館を組み込んだ新しい建築のかたちを模索することによって,さまざまな世代が交流する居場所をつくることの意味にも気づかせてくれる。図書館建築の新しい在り方を模索する動きが広がりつつあるのだと思う。
京都工芸繊維大学・2016年日本建築学会賞選考委員会作品部会・松隈洋
Ref:
https://www.aij.or.jp/2016/2016prize.html [500]
https://www.aij.or.jp/images/prize/2016/pdf/2_2award_note.pdf [501]
https://www.aij.or.jp/images/prize/2016/pdf/2_2award_001.pdf [502]
https://www.youtube.com/watch?v=gi5Cpur0sIw&feature=youtu.be [503]
http://www.subaru-shoten.co.jp/tosho/kodomo/index.html [504]
https://www.aij.or.jp/images/prize/2016/pdf/2_2award_002.pdf [505]
https://www.aij.or.jp/jpn/design/2016/data/2_2award_musashino_place.pdf [506]
https://www.aij.or.jp/nihonkenchikugakkaihyousyouseido.html [507]
http://www.musashino.or.jp/place.html [508]
2016年7月27日,日本における機関リポジトリの振興とオープンアクセス(OA)並びにオープンサイエンスの推進を目的とした「オープンアクセスリポジトリ推進協会」(Japan Consortium for Open Access Repository:JPCOAR,以下協会)が発足した。
◯設立の背景と経緯
日本の機関リポジトリ設置機関数は600を超え(2016年7月現在,国立情報学研究所(NII)調査),世界有数のリポジトリ大国となっている。ここに至るまで,デジタルリポジトリ連合(DRF)や機関リポジトリ推進委員会などが,それぞれ様々な活動を展開して,大学等の学術研究機関のOA推進の一端を担ってきた。
一方,欧米をはじめ世界規模で公的研究資金の助成を受けた研究成果に対するOAの義務化が進みつつある。日本においても2015年3月に内閣府が公表したオープンサイエンスに関する報告書(E1681 [510]参照)は,論文のOA化推進に加え,研究データの公開についても言及している。その後,文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会の報告書「学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)」,日本学術会議による「オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言」などが相次ぎ,OAに寄与することは,単なる図書館の活動にとどまるものではなく,個々の研究者や大学・研究機関にとって必須となりつつある。この急速な時代の変化に対応するには,国内の大学・研究機関の力を結集する新しいコミュニティが必要となっている。
以上のような認識に基づき,2015年10月,機関リポジトリ推進委員会の下に設置された「機関リポジトリ新協議会(仮称)設立準備会」は,新しいコミュニティの組織形態・重点目標・活動計画等について検討を続けてきた。そして2016年4月,会則・規程案を公表し,参加機関の募集を開始した。
◯設立総会
2016年7月27日,学術総合センター(東京都千代田区)において設立総会を開催し,事前に参加の意思を表明した376機関のうち137機関(委任状提出:228機関)から179名が出席した。初めに会則案が審議され,一部の記述修正が事務局預かりとなったものの,骨格部分は承認され,正式に発足した。その後,会則に従い会長の選出が行われ,初代会長館には早稲田大学が選出された。早稲田大学図書館長の深澤良彰氏からは「重点目標をしっかり実行していくため,協力をお願いしたい」との挨拶があり,以降は深澤館長による司会で議事が進行した。監事館には立教大学と信州大学が選出された。引き続き,運営委員会規程,会費規程の審議でも活発な質疑が交わされ,会則案等についての一部修正は事務局が後日報告することを条件に承認されて設立総会は終了した。
◯協会の概要
◯今後の展望
事務局では,あらためて2016年秋に参加機関を募集することにしており,2016年11月には第18回図書館総合展でフォーラムを開催する。
今後,予定している活動は以下のとおりである。
重点目標(1):オープンサイエンスを含む学術情報流通の改善に関して,会員機関が取り組むべき課題の情報を共有する。
重点目標(2):システム基盤の高度化を図る。導入機関の多いJAIRO CloudについてはNIIと共同運営とし,サポートの充実,利用機関の要望に基づく機能改善等を行う。
重点目標(3):会員機関相互の情報交換の場を創設し,リポジトリ運用上の工夫やシステム機能改善に関して情報共有を行う。また,機関リポジトリやOAの普及のための広報・普及活動を行い,リポジトリコンテンツのさらなる充実を図る。
重点目標(4):会員機関における運用上・システム上の課題解決・情報共有のために,担当者の習熟段階や担当主題に応じた研修を実施する。集合研修への参加が難しい機関に配慮し,オンライン環境で自己学習できる環境を整備する。
重点目標(5):海外動向の収集・紹介,国際会合への参加および事例発表を通じ,国際的な取組みに対して積極的に連携する。
このほか,年度ごとに事業計画を立案し,総会の承認を得て実施していく。
機関リポジトリ推進委員会・江川和子
Ref:
https://www.nii.ac.jp/content/cpc/org/pdf/0_kyotei.pdf [511]
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/ [512]
https://ir-suishin.repo.nii.ac.jp/ [513]
https://ir-suishin.repo.nii.ac.jp/?page_id=27 [514]
http://www.nii.ac.jp/content/cpc/ [515]
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/ [516]
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/1368803.htm [517]
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t230.pdf [518]
E1681 [510]
2016年6月3日,「研究データ利活用協議会」(以下「協議会」)が発足した。近年,日本においても,内閣府の「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」や,日本学術会議「オープンサイエンスの取組に関する検討委員会」において検討が行われ,第5期科学技術基本計画にも明記されるなど,オープンサイエンス推進の気運が高まっている。この状況下,協議会は,研究データの利活用について関心を持つさまざまなステークホルダが会し,各々の活動や知識を共有しつつ議論を行うことにより,オープンサイエンスへの意識を醸成し,日本における推進に寄与することを目的としている。
◯設立の経緯
オープンサイエンスが目指すイノベーション創出に向けて,従来連携が行われてきた分野を超えて,研究データの利活用が求められている。たとえば,国際的には研究データ同盟(RDA;CA1875 [17]参照)が2013年から研究データ共有に関わる幅広い議論をすすめている。こうした研究データのオープン化と共有の実現にあたって,研究情報の識別子(ID)やメタデータの整備,それらを検索する基盤の必要性,重要性はますます高まっている。
デジタルオブジェクト識別子(DOI)登録機関であるジャパンリンクセンター(JaLC)においても,従来,主に論文に対して登録してきたDOIを,研究データにも登録することを開始した。開始に当たっては,2014~2015年にかけて1年間の実験プロジェクトを行い,「研究データへのDOI登録ガイドライン」をとりまとめた。プロジェクトには,研究者,図書館や行政機関といった異なる立場の関係者が参加し,分野横断的に実務レベルの研究データ担当者がともに議論できる,これまでにないコミュニティが形成された。
協議会では,このコミュニティを基盤としながら,DOI登録だけでなくオープンサイエンスの実現に向けさらなる検討や活動を継続,推進し,RDAをはじめとする国際的な活動との協調を目指していきたいと考えている。
◯体制
本協議会への参加形態には,機関参加と個人参加がある。
現在の参加機関は,JaLCを運営する科学技術振興機構(JST),物質・材料研究機構(NIMS),国立情報学研究所(NII),国立国会図書館(NDL)の4機関と,協議会の設立に携わった情報通信研究機構(NICT),産業技術総合研究所(AIST,参加準備中)の計6機関,およびその後加わった千葉大学(附属図書館,アカデミック・リンク・センター)である。会長はNII・JaLC運営委員長の武田英明氏,副会長はNICTの村山泰啓氏が務める。
参加機関から選出されたメンバーが運営グループを組織し,運営に関する意志決定を行っていく。運営グループには,設立準備から個人として参加している科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏も加わっている。
また個人については,研究データ利活用やオープンサイエンスに関連する事項に関心があれば,誰でも自由に参加することができる。参加にあたっては,会費等の費用は発生せず,またとくに義務などもない。関連の研究会・イベント情報,最新情報の連絡網づくりという側面もある。
◯活動計画
活動内容として,年に2,3回程度の研究会(ゼミ形式の勉強会や,講演会,討論会など),年1回程度の報告会(一般に対する成果発表),メーリングリストを利用した情報交換などを考えている。機関,個人とも,研究会や報告会に積極的に参加し,活発な議論を行っていただくことを期待している。メーリングリストへの参加は会員に限られるが,研究会および報告会は,原則,会員でなくても参加可能である。
今年度は,7月25日にキックオフミーティングを開催した。また,9月下旬頃に第8回RDA報告を兼ねた研究会,JSTが開催するサイエンスアゴラにおける11月4日の公開シンポジウム,年度末に報告会を,それぞれ開催する予定である。
◯キックオフミーティングの開催
全国から70名以上の参加があり,その所属は大学・研究機関,図書館,企業,官公庁・行政機関等さまざまであった。多様なステークホルダが研究データの利活用に関心をもっていることがわかる。ミーティングでは,参加機関からの発表の後,グループディスカッションを行った。今後の研究データ利活用の期待や,不安,当面の課題などについて,参加者全員による意見交換や意識共有の場となった。
本協議会は,今後のオープンサイエンスの発展へ向けた取り組みの1つであり,議論を進めていくにあたっては,オープンネスや参加者の多様性を保つことが欠かせない。会員および研究会等イベントへの参加者は随時募集している。今後ますます多くの皆様に関心を持っていただき,ご参加いただければ幸いである。
科学技術振興機構・中島律子
Ref:
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/ [516]
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/openscience/openscience.html [520]
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html [521]
https://japanlinkcenter.org/top/index.html#top_kyogikai [522]
https://japanlinkcenter.org/top/index.html#top_event [523]
http://doi.org/10.1241/johokanri.58.763 [524]
http://doi.org/10.11502/rd_guideline_ja [525]
http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/ [526]
E1681 [510]
CA1875 [17]
Internet Archive(IA)は2016年に,同団体によるウェブアーカイブ事業の開始から20年を迎えるにあたり,世界のウェブアーカイブの動向を把握し今後のサービスを見直すため,現在のIAのサービスの使われ方や,IAに対する期待等について調査を実施した。調査期間は2015年11月から2016年3月までで,調査対象は国立図書館18館を中心とした30機関と個人である。調査は,直接の面談やメール・Skypeを通じたインタビュー方式で行われた。このたび調査報告書“Web Archiving at National Libraries - Findings of Stakeholders’ Consultation by the Internet Archive”が公開されたので,その概要を紹介する。
◯国立図書館でのIAのサービスの使われ方
近年,電子出版物の収集を国立図書館の法的義務の一部とみなす国が増加し,国立図書館では,法律に基づくウェブ情報の収集が主要な業務になってきている(E1634 [527],E1662 [528],E1793 [529]参照)。IAがアーカイブしたウェブ情報の多くは無料の閲覧サービスWayback Machineから利用でき,国立図書館は,自館で保存していないコンテンツの閲覧やレファレンス等にこのサービスを利用している。また,有料のウェブアーカイブコレクション構築サービスArchive-Itも多くの国立図書館等で利用されている。IAが国立図書館に代わって収集を行うサービスもあり,これまでに8つの国立図書館が利用した。さらにIAは,収集ソフトHeritrixや収集データの再生ソフトWaybackの開発・保守,各館のウェブアーカイブ事業開始以前にIAが収集したデータの提供といった点でも協力している。
◯本調査で得られた知見
・実施する組織の観点
紙資料を納本制度で収集してきたこととの一貫性の保持,外部サービスへの依存に対する永続性やセキュリティ上の懸念,法律の規定等に基づき,多くの国立図書館は独自にウェブアーカイブを実施している。ウェブアーカイブについて法的義務を負う国立図書館は,選択収集に加えて自国ドメインの包括収集を行い,法的義務を持たない機関は選択収集を行うことが多い。多くの国立図書館は予算とシステム資源が限られているため,進化するウェブ情報のアーカイブのために必要なツールの持続的な開発が困難になりつつある。
・コレクションの質と網羅性の観点
ツール開発が進み,収集,再生し,組織化することが可能なウェブ上のコンテンツは増えたが,機械的に収集できないストリーミングやアプリを利用するコンテンツ,ソーシャルメディア等もますます増加している(E1815 [530]参照)。国立図書館は,自国のウェブ情報の一部と考えられるソーシャルメディアの収集を強く望んでいる。
・閲覧と研究利用の観点
ほとんどの国立図書館のウェブアーカイブは館内や特定の場所での閲覧に限られている。このため利用は極めて少なく,これが予算の減額にしばしば繋がっている。しかし,多くの国立図書館はウェブアーカイブの研究利用を促進したいと考えており,英国図書館(BL)では学術研究コミュニティへの利用の働きかけ等,先進的な試みを行っている。
・事業開始から20年が経過した観点
実施機関の増加やビッグデータとしての研究利用が進展した一方で,この10年以上,ウェブの技術の進化に比してアーカイブ技術について革新的な進歩がないという共通認識もあった。ウェブアーカイブの発展のため,国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC;E1819 [531]ほか参照)に対してさらなる指導力の発揮を求める声が多数あがった。
・IAに対する期待の観点
多くの国立図書館がソーシャルメディアや埋め込み動画といった新たなコンテンツの収集に関するIAの取組に関心を示した。また,ウェブアーカイブのツールについてのサポートに加え,IIPCにおけるHeritrixとWaybackの共同開発の主導に特に強い期待が寄せられた。
◯ウェブアーカイブの共通課題
本調査で明らかになった課題として以下の点が挙げられている。
・コレクションの質と網羅性への対応
技術的に収集できないコンテンツに対応するツールの開発・改良や,自国ドメイン以外のドメインで発信される自国情報の収集に対応する必要がある。
・アーカイブの処理過程の統一
ほとんどの国立図書館は,選択収集と包括収集を組み合わせているが,一般的に利用者インタフェースも含め両者は別々に処理される。IAにおいても,Wayback MachineとArchive-Itは別々に収集と閲覧を行っている。一方で,オーストラリア国立図書館は,選択収集と包括収集,IAに依頼する収集の処理過程の統合を進めており参考とすべき事例である。
・ウェブアーカイブと既存の図書館システムの統合
図書館が所蔵する他のデジタル化資料や紙資料とともに同一のシステムでウェブアーカイブを取り扱うためには,他の資料と同様のメタデータ記述,保存,検索と閲覧の仕組み等が実現されなければならない。既に一部の図書館ではメタデータの共通化等の取組がなされているが,この点において国際的に連携した取組はほとんど行われていない。
・ウェブアーカイブによる収集業務の効率化
電子出版物の多くはウェブサイトの中に存在するため,ウェブアーカイブとして一括して収集することで収集業務の効率化が期待できる。
・アクセスと利用の改善
国立図書館は,アーカイブしたデータへのアクセスと利用に関する様々なレベルの法的課題を解消しなければならない。国別ドメインで発信されるウェブ情報について深い知識を持つ国立図書館の協力を得て,IAが確実に全世界のウェブ情報を収集できれば,国立図書館とその利用者はWayback Machineからも自国のコンテンツを利用できるようになる。その他,BLやデンマーク王立図書館のように,アーカイブされたコンテンツそのものへのアクセスを必要としないメタデータ情報の提供といった活用法もある。
調査結果に基づきIAが提示する今後の新しいサービスに注目したい。
関西館電子図書館課・當舍夕希子
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E1819 [531]
CA1733 [539]
2016年5月9日から13日まで,ニュージーランドのウェリントンでISO/TC46(International Organization for Standardization/Technical Committee 46)の国際会議(E1693 [543]ほか参照)が開催された。TC46は「情報とドキュメンテーション」を担当する専門委員会である。今回はTC46総会と5つの分科委員会(Subcommittee:SC)の総会及び作業部会が開催され,日本から4名が参加した。筆者は「識別及び記述」(Identification and Description)を担当する第9分科委員会(SC9)の国内委員としてSC9の作業部会,総会及びTC46総会に参加した。以下SC9の会議内容を中心に報告する。
今年のSC9の日本に関連する主なトピックとしては2点が挙げられる。1つはISO 20247国際図書館資料識別子(International Library Item Identifier:ILII;CA1872 [544]参照)のCD(Committee Draft:委員会原案)投票が今回の作業部会を契機として開始されたことである。2015年9月にWD(Working Draft:作業原案)がSC9事務局に提出されていたが,その後の進捗が確認できなかったため,作業部会で原因を確認したところ,SC9事務局のスタッフ側の事務手続き上の問題で進捗が滞っていたことが判明した。開発を速やかに進めるため,CD投票の開始期限を今年のSC9総会での決議に加えるよう提案がなされ,SC9総会において採択された。これにより5月16日に各国宛にCD投票の手続き開始が通知された。その後7月16日に投票が締め切られ,結果は賛成15,コメントつき賛成3,反対1,棄権12で可決された。今後はコメント内容をWG内で精査し,12月頃にDIS(Draft International Standard:国際規格案)投票を開始できるよう準備を進める予定である。ISO規格の開発は,本来こうした調整や確認を必要とせず,所定のルールに従いシステマチックに進むものであるが,今回のように膠着の原因が不明確な場合,対面で状況を確認し,対応を協議することも必要であると実感した。
もう一つは,日本から提案予定の規格(Description and Presentation of Rights Information in Digital Collections)について,SC9総会で国立情報学研究所名誉教授の宮澤彰氏によるプレゼンテーションが行われたことである。この提案は,デジタルアーカイブの構築と利用が進む中で,著作権や権利に関する情報の不明瞭さが二次利用の際の障壁となっている現状を改善し利活用を活発化させるために計画された。デジタルアーカイブの権利や著作権の情報は,一般的にデジタルアーカイブが掲載されたウェブページ上に記載されるが,どこにどのような形で掲載されているかは千差万別であり,利用者が見つけ出すのが困難なこともしばしばである。そこでデジタルアーカイブの個々のアイテムの画面上に権利情報そのもの,あるいは,記載があるページへのリンクを表示することで,著作権や利用に関する条件を利用者が一目で分かるようにガイドラインを定めることが本規格の趣旨である。プレゼンテーションに対しては様々な質問やコメントが寄せられ,参加者の関心の高さが窺えた。中でも,対象となるデジタルアーカイブに商用のものも含まれるのか,という質問は国際規格の開発において重要な指摘であると感じた。規格の原案では,日本国内におけるデジタルアーカイブの多くが大学をはじめとする研究機関や公的機関によって運用されているため,商用のものは主な対象としては想定していなかった。しかし諸外国においては必ずしも日本と同じ状況ではなく,提案段階では商用のものを主に想定しない記述ではあっても,今後の国際規格化にあたり,提案に対するコメント等を検討して方針を定める必要がある。また各国のデジタルアーカイブをめぐる状況を精査し,それらに対応することが必要であると感じた。なお,宮澤氏から新業務項目提案(NWIP)として2016年6~7月頃に提出予定である旨報告された。その後,7月3日に予定どおりNWIPが提出された。近くNWIPの投票手続きが始められる予定である。
その他のSC9での話題としては,国立国会図書館が日本センターとして,国内における番号の付与や維持管理を行っている国際標準逐次刊行物番号(ISSN)に関する規格ISO 3297の改訂がある。ISO規格は5年ごとに定期見直しが行われ,ISSNは2016年が改訂の年に当たるが,それに先立ってISO 3297の部分改訂が開始され,今年4月にISSNの付与を無料とする旨の文言の削除が可決された。ISSN国際センターの担当者からは,ISO規格の規定上,料金(契約)に関する内容を規格本体に記載できないためという説明がなされたが,この改訂は将来的にISSN付与の有料化を招く危険性があり,日本の国内委員会は部分改訂投票に反対票を投じている。
筆者は昨年に引き続き本会議に参加したが,印象に残ったのは中国・韓国からの参加者の増加とその活動の活発化である。今回中国は20名,韓国は15名が参加登録を行っており,活動面でも,統計及び評価を担当する第8分科会(SC8)の事務局長を今年から韓国標準協会のメンバーが務めるなど存在感を示している。近年は日本も新規格の提案を行うなど積極的な活動を行っているが,標準化に関する活動を担う人材の裾野を広げ,こうした国際会議により多くのメンバーが参加できれば,日本の存在感も高まり,より一層の貢献が可能ではないかと思われた。
次回のISO/TC46会議は2017年5月に南アフリカのプレトリアで開催される予定である。
収集書誌部収集・書誌調整課・松田稔広
Ref:
http://www.iso.org/iso/standards_development/technical_committees/list_of_iso_technical_committees/iso_technical_committee.htm?commid=48750 [545]
http://www.iso.org/iso/home/standards_development/list_of_iso_technical_committees/iso_technical_committee.htm?commid=48836 [546]
http://www.infosta.or.jp/iso/tc46/mctc46sc09.html [547]
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail.htm?csnumber=67408 [548]
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009975752 [549]
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=39601 [550]
http://www.iso.org/iso/iso_technical_committee?commid=48826 [551]
E1693 [543]
CA1872 [544]
Book!Book!Okitamaは,山形県の置賜地方(3市5町)で2014年から開催されているブックイベントである。図書館に集う人たちやミニコミ誌を作っている団体のメンバーが立ち上げた実行委員会の主催で,すべてボランティアで企画から運営まで行っている。「本と出会い 人,店,まちとつながる心が通う 9日間」をコンセプトに,(1)著者,編集者,装丁家,ブックコーディネーターといった本づくりや本に関わる方によるトークイベント,(2)一箱古本市(CA1813 [556]参照)や紙もの雑貨を販売する紙もの市をメインとした「読書と昼寝の日曜日」,(3)協賛いただいたカフェや書店などで「本」にまつわる限定メニューや企画展などをする「よりみちブックイベント」の三本柱で展開している。全く手探りではじめたイベントであったが,年を経過するごとに協賛店や参加者は増え続け,イベントをきっかけに新しいお店を知ったり,「本」の話題で友人や知人が増えたりと,様々な出会いのきっかけとなり,広く地域に根ざしたイベントとなってきた。
メイン会場となるのは川西町フレンドリープラザ。川西町出身の作家・井上ひさし氏から寄贈された書籍22万冊を収蔵する遅筆堂文庫,町立図書館,劇場が併設された文化施設である。作家の書き込みや付箋がそのまま残された本を直接手にすることができる文庫を備えた全国的にも稀有な図書館だ。
3回目となる今年は2016年6月25日から7月3日まで開催し,これまで以上に面白く,個性的なプログラムを用意した。中でも話題となったのは,特別企画「図書館に泊まろう!」である。書店に泊まるイベントは既にあったものの,図書館に泊まるイベントはなく,実行委員会のメンバーから話が持ち上がった。本に囲まれた空間で好きなだけ本を読みながら寝落ち……という夢のような企画。公共施設を使うため,実施にあたっては,町から許可を得た。
図書館では食事,寝具,シャワーなどの提供はできず,館内での食事も禁止だが,そのかわり,参加者に対して,事前に近場の食事処や銭湯の場所を案内する地図を郵送することとし,本を片手にまちにでかけるきっかけとしてもらうこととした。「全国初!図書館に宿泊できる」と銘打った企画が珍しかったのか,仙台市や関東地方など遠方からも申込みがあり,募集を開始してあっという間に定員の20名に達した。
7月2日の実施当日,遅筆堂文庫の学芸員による30分程度のガイダンスと書架の案内の後,参加者は思い思いに自分の好きな場所で持参の寝袋や毛布を広げ,寝そべりながら本を読み始めた。「わぁ~,『ももんちゃん』シリーズがある!私はここで寝ようっと」と絵本コーナーで寝転んでいる人もいれば,「江戸川乱歩全集のこの一角がいい。一晩中寝ることができないかも~」と少々興奮ぎみの人も。井上氏の生涯のテーマでもあった「演劇」「農業」関係の棚の間に寝て,同氏の想いを共有したいという人もいた。本棚と本棚の間に寝袋や毛布が敷かれ,参加者がごろごろしている風景は,昼間の図書館とは全く違った異空間へと様変わりした。
宿泊以外に,夜の図書館を利用したワークショップも開催した。ブックカフェ・6次元の店主であるナカムラクニオ氏による「断片小説ワークショップ」は,図書館にある様々なジャンルの本のタイトルを組み合わせて,30分で短編小説を作るというもの。夢と現実,空想が自由に交錯する不思議な空間と時間帯。何十万冊という本とことばに囲まれて,参加者は自分の内面に持っている「何か」を誘発されたようだった。生み出された小説は,素人とは思えないほど素敵な作品ばかり。ナカムラクニオ氏の狙いは,小説を誰でも気軽に書けるものとしてとらえてほしいということ。読み手だけではなく,書き手もいるというのが,「本の街」づくりになるのではないかとの考えからである。
上記以外のイベントでは,ライターで編集者の南陀楼綾繁氏と全国紙の整理部担当記者である加瀬賢一氏による,図書館の資料をコピーして,切り貼りしながら壁新聞を作るワークショップ「自分新聞を作ってみよう!」,ブックトーク,読書会など,「図書館」という舞台でできる様々な企画を用意し,参加者に楽しんで頂いた。
井上氏は遅筆堂文庫の堂則にこう書いている。「当文庫は有志の人びとの城砦,陣地,かくれ家,聖堂,そして憩いの館なり。我等は只今より書物の前に坐し,読書によって,過去を未来へ,よりよく繋げんと欲す」。遅筆堂文庫のような「本のある広場」の図書館や書店,ブックカフェなどでこそ,人と人とが繋がり,知が集積し,そこで問題解決の方法や未来への可能性を見出すことができるのではないかと筆者は思うのだ。
Book!Book!Okitama実行委員会・荒澤久美
Ref:
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CA1813 [556]
NPO法人共同保存図書館・多摩(通称「多摩デポ」)は,東京都の多摩地域に共同保存図書館を作ることで,多摩地域で最後の2冊以下となる資料を共同で保存し,各図書館の利用に供することを目指して活動している。その準備作業として多摩デポと株式会社カーリルは2014年度から多摩地域の各図書館の所蔵情報を仮想空間で共有し,除籍と保存の判断を効率的に行う「バーチャル共同保存図書館」に関する共同研究を進めてきた(E1673 [562]参照)。その中で2016年5月に多摩地域(29自治体が対象)にあるすべての図書館の蔵書を横断して検索できるシステム「多摩地域公共図書館蔵書確認システム」(通称:TAMALAS,Tama(多摩)地域でLast(最後)の本という意味)を多摩デポのウェブサイトで公開した。検索対象はISBNが付与されている資料に限られるが,カーリルが提供するAPIとReact(Facebook社が提供するオープンソースのフレームワーク)を組み合わせることにより,従来と比べて検索にストレスを感じないシステムを実現した。ISBNによって検索を行うシステムのため,バーコードリーダーによる連続作業を想定して,ラスト1冊あるいは2冊となったタイトルについてはアラート音を出すことで所蔵状況のフィードバックが得られるなど,作業負荷を軽減する仕組みを取り入れた。
このシステムによって,多摩地域の公共図書館全体で所蔵冊数が2冊以下となっている資料の検索が容易になった。このことにより,現実の共同保存図書館の実現に向けた足がかりになると考えている。瞬時に多摩地域の図書館における資料の所蔵状況を確認できるようになったことのメリットは大きい。また,ある図書館で除籍候補となった実際の資料をこのシステムにかけて連続処理作業を行い,多摩地域の公共図書館で2冊以下の資料を選び出すシミュレーションを行ったところ,この作業においても動作は良好であった。これらのシミュレーションもふまえ,図書館が除籍を行うにあたって,1,000冊以上になるような大量の除籍候補について,一括で所蔵を確認できるツールの開発を進めている。
多摩デポは,TAMALASの精度を東京都立図書館が運営する「東京都立図書館統合検索」や各図書館のWeb-OPACの検索結果と照合することによって検証した。一部のテストデータについては,ISBNだけではなく書名等を使って検証したが,これによって検索結果の精度に関する課題が3点見つかった。(1)ISBNの10桁と13桁の違いによるチェックデジットの扱いが図書館システムによって異なる(図書館によっては13桁のISBNの下10桁をISBNとしてそのまま格納しているケースがあり,これをそのまま検索した場合に誤った結果となってしまう)こと,(2)各図書館の所蔵検索システムがシステムメンテナンス等でシステムが停止していることもあるので,完全な検索結果が担保されないこと(3)各自治体の図書館が格納しているISBNの不備である。(1)は,チェックデジットの扱いによる検索結果の違いをTAMALAS側で吸収し,チェックデジットの扱いに違いがあっても同じ検索結果を表示する仕組みを付加することで解決できた。(2)は,図書館のシステムが稼働していない場合には,その旨を表示することで一定の解決を見た。(3)に関しては,検索結果の正確性を高めるためには各図書館のデータ精度を高める必要があり,ISBNの不備やISBNを取り込むときの各図書館システムとISBNの相性について継続的に検証されていく必要があるだろう。
現在,共同研究ではISBNの付与されていない資料について検索する仕組みの研究に入っている。ISBNによる所蔵確認では,ISBNをキーにした同定処理を高速に実行することで所蔵確認を自動化することを目指してきたが,ISBNが付与されていない資料について自動化による確実な同定は困難である。このため,同定作業の効率化を指向したツールを試作する予定である。除籍候補の資料に対して,各図書館や国立国会図書館の書誌情報から類似する書誌を提示することで,同定作業を効率化できるであろう。これらの書誌データを蓄積することにより,「バーチャル共同保存図書館」実現に向けてさらに一歩前進することができると考えている。
特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩・齊藤誠一
株式会社カーリル・吉本龍司
Ref:
http://www.tamadepo.org/calil.html [563]
http://lab.calil.jp/tamadepo/ [564]
E1673 [562]
2016年6月25日,同志社大学でシンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館 ~図書館利用行動を中心に~」が開催された。このシンポジウムは科学研究費基盤研究(C)プロジェクト(研究代表者は同志社大学の原田隆史氏)「人の真の情報ニーズを汲み取るコンシェルジュ型資料検索システムの構築」主催によるものである。このシンポジウムはUstreamによる中継も行われ,主催者発表によると,来場した参加者は約200名,中継のリアルタイムの視聴者は約100名にのぼり,テーマへの関心の高さが伺えた。
最初に,原田氏からは,図書館を利用する人々の行動について研究するにあたって,(1)図書館を利用する人々の行動に日米で差があるか,(2)日米の図書館の事情にはどのような違いがあるか,という2点の疑問を解決することがシンポジウムの趣旨であるとの説明があった。
シンポジウムの前半は,各パネリストからの講演であった。まずパネリスト4名から自身の勤務する大学図書館,自身の業務,自身が北米の大学図書館のライブラリアンとなるまでの経歴などについて自己紹介があった。
マクヴェイ山田久仁子氏からは,勤務しているハーバード・イェンチン図書館の紹介があった。また,自身の業務が蔵書構築とレファレンスであることや,現在の仕事に就いたきっかけなどについて説明があった。
続いてピッツバーグ大学図書館のグッド長橋広行氏から,ピッツバーグ大学が2013年,2014年に同学の学生を対象に実施した図書館利用行動に関する調査の報告があった。調査によると,2014年の時点で毎日図書館に来る学生が50%以上であることや,2010年以前は学生の来館が少なかったが近年増えてきたこと,利用のあり方としてはグループ学習よりも個人学習の方が多いこと,よく使われるサービスはデータベース・電子ジャーナルと同館のディスカバリーサービスであり,書誌管理ツールなどそれ以外のサービスは使わない割合が多かったという。
ハワイ大学マノア校図書館のバゼル山本登紀子氏からは,Ithaka S+Rが3年ごとに実施している調査の2003年から2015年までのデータを基にした,米国研究者の図書館利用状況に関する報告があった。学術研究をする際の出発点を問う調査では「図書館内」という回答の割合は減っているが「図書館のウェブサイトまたは目録」という回答の割合は2009年以降,増加したこと,「自分の大学図書館が印刷体の学術誌購読を中止し,電子版を購読してもかまわないか」という質問に対し,2015年時点で理系研究者の約80%と社会科学研究者の70%強,人文学研究者の60%弱が「かまわない」と回答したこと,「図書館のどの役割・サービスが重要だと思うか」という問いに対し,2015年時点で「学部生のリサーチ等の支援」を挙げる研究者の割合が高いことなどが紹介された。
ワシントン大学図書館の田中あずさ氏からは,ワシントン大学における日本人留学生の様子と,ワシントン大学の学生たち全体への図書館による支援についての報告があった。この報告では,ライブラリアンたちが日本人留学生たちのレポートのアイデアを一緒に考えたり,資料探しを支援したりしていることが語られた。田中氏が,日本をテーマとした研究を行っている学生を同学の東アジア図書館に学部を問わず集め,研究テーマの共有,レポート発表の練習をするという企画を実施している,ということについて発表があった。
後半は参加者が当日に記入した質問カードに登壇者が回答を行う形式で質疑応答が行われた。その中で,米国では教育目的であれば資料をスキャンして電子的に送信することも可能であることや,日本のデジタルアーカイブはディスカバリーサービスでの検索が困難であるため見つけにくいという意見があること,ピッツバーグ大学では個人の学習場所としての役割が図書館に対して求められていること等が明らかになった。
最後に司会をつとめた国際日本文化研究センター図書館の江上敏哲氏から,各パネリストに対し「今後,ライブラリアンと大学図書館はどのような将来像を目指すべきか」という質問が投げかけられた。大学教員同士を繋ぐ役割を果たすライブラリアン,多様性の重視,一次資料のコレクションの充実,学生の情報リテラシーの向上を目指すべきだ,といった回答があがった。今回のシンポジウムで米国の大学図書館の最新事情を知ることができたことは,自身が,今後,どのような図書館を作り上げていくことを理想とするかということを考える一助になった。
京都大学附属図書館・今野創祐
Ref:
http://www.slis.doshisha.ac.jp/topics/ [567]
http://www.library.pitt.edu/other/files/pdf/assessment/MyDayAtHillmanSurveyResults.pdf [568]
http://www.sr.ithaka.org/ [569]
http://www.sr.ithaka.org/publications/ithaka-sr-us-faculty-survey-2015/ [264]
http://www.slideshare.net/hirogood/ss-63590400 [570]
E1427 [571]
2016年6月,米国図書館協会(ALA)の情報技術政策局(OITP)が,起業や中小企業への支援を行う図書館に関する事例をまとめた報告書“The People's Incubator: Libraries Propel Entrepreneurship”を公開した。報告書では支援内容ごとにその意義と事例がまとめられている。本稿ではその一部を紹介する。
◯経営計画書の作成
米国では2013年時点で約38%の公共図書館が経営計画書作成を支援している。融資を受けるためには経営計画書に付随して信用報告書など様々な書類をそろえる必要があり,多くの場合専門家の助けが必要となる。そこで,図書館は書類をそろえる方法等についての情報や講座を提供する。
企業を退職した経営者らによるビジネス支援組織である“SCORE”などによる講座を開催する図書館もあるが,それ以外にも独自のサービスを行う例がある。ニューヨーク公共図書館(NYPL)の科学産業ビジネス図書館では,参加者のニーズに沿った経営計画書の作成に必要な調査方法に関し,ガイダンスを実施している。また,ミネソタ州ミネアポリス・セントポール地域の図書館の連合体であるMELSAは,地元の中小企業の女性オーナーを支援するNPOのWomenVentureと連携し,「経営計画書の書き方」などの無料講座を開講している。そのほか,ピッツバーグにあるカーネギー図書館は,中小企業の業種別の特徴,関連資料,経営計画書のサンプルなどの情報をまとめたウェブページ“Business Plans Index”を公開している。
◯資金調達
図書館は,図書館員の専門知識や所蔵資料を活用し,容易に資金調達ができるよう支援する。2013年の米国中小企業庁の報告書によれば,中小企業はその規模の小ささから資金を銀行のみに依存する傾向にあり,さらに,女性や,マイノリティ(黒人,ヒスパニックなど)がオーナーの場合,資金が十分に調達できない状況にあるという。
報告書では,図書館が金融機関と連携して経営計画書の作成と資金の獲得を同時に実現する取組が紹介されている。NYPLのブルックリン公共図書館は,シティグループのシティ財団をスポンサーとし,“PowerUp!”というコンテストを開催している。コンテストの参加者は経営計画書の書き方やマーケティングなど様々なテーマについて,専門家による講座を同館で受講し,所蔵資料等を用いて調査を行った上で経営計画書を作成するもので,同館はその中から受賞作を選出する。受賞者は賞に応じて1万5,000ドルから500ドルまでの賞金を獲得できる。
◯アイディアの具現化
デジタル機器を備える図書館を利用すれば,起業家は費用をかけずに自身のアイディアを具現化することができる。米国では3Dプリンターを設置する図書館が増加しており,公共図書館では,2014年時点で420館が設置している。ほかにも,レーザー加工機やCNC(コンピューター数値制御)の機械を置く図書館もあることが紹介されている。
事例としては,コネチカット州のウェストポート公共図書館のメイカースペース(E1378 [573]参照)が挙げられている。同館の3Dプリンターを用いて,もともと起業家ではなかった女性がサングラスを頭にのせているときのようなヘアバンドを作りたい,というアイディアから試作品を作ったところ,融資がついて起業したという事例や,携帯電話に装着するアイディア商品“SafeRide”の試作品を作った例が紹介されている。
◯ワークスペースの提供
米国では,2013年時点で1,000館以上の図書館がコワーキングスペースを提供している。自営業者やフリーランス,契約労働者などが増加していることから,決まった場所に働きに行くのではなく,別の場所で仕事をするというスタイルに変わりつつあること,特に起業したばかりの人は人脈形成などのために各地を飛び回る必要があることなどが報告書では触れられている。また,図書館がコワーキングスペースを提供するメリットとして,利用者が他の起業家と協力できる,オフィス設備に要する間接費が不要になるという2点が挙げられている。
ワシントンD.C.にあるコロンビア特別区公共図書館のマーチン・ルーサー・キングJr.記念図書館は,3Dプリンターや電子黒板,ビデオ会議室などを備えた“Dream Lab”を設置している。Dream Labを活用した事例として,地図上で歴史,文化などに関する様々な情報を共有できるプラットフォームを作成しようという大学生のアイディアから生まれた“MapStory”というコミュニティが紹介されている。MapStoryは,たまたま同館の資料の複写を利用したメンバーが広告を目にしたことからDream Labの会員となった。Dream Labの施設のほか,図書館のスタッフや資料を活用して活動を行っており,ワシントンD.C.の役所や他のDream Labの会員と連携してイベントも開催している。他にも,最新のコワーキングスペースとして,2016年4月にオープンしたオハイオ州のアクロン・サミット郡公共図書館のマイクロビジネスセンターが紹介されている。
図書館は遍在性と,あらゆる年齢層・立場の人々が無料で利用できるという公共性を有し,インターネットをはじめ,設備も整っている。報告書では,例えば農村部などにおいて,政府等による起業家や中小企業の支援が十分行き届いていないことが指摘されているが,そういった中で図書館は地域間の格差などを解消する役割を果たすことができるとされる。さらに図書館は,講座や情報,場所などを提供することで,それらがなければ地域の中に埋もれてしまっていたであろうアイディア,商品,サービスを汲み上げることができる。
関西館図書館協力課・葛馬侑
Ref:
http://www.ala.org/news/press-releases/2016/06/new-ala-report-highlights-libraries-engines-entrepreneurship [574]
http://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/ALA_Entrepreneurship_White_Paper_Final.pdf [575]
http://www.womenventure.org/ [576]
http://www.carnegielibrary.org/services/for-businesses/entrepreneurs-and-small-businesses/business-plans-index/ [577]
https://mapstory.org [578]
http://www.bklynlibrary.org/locations/business/powerup [579]
http://www.bklynlibrary.org/sites/default/files/files/pdf/business/powerup/PowerUPSlideshow2015%20Final.pdf [580]
http://www.raycomnewsnetwork.com/story/29337166/3d-printing-has-become-more-accessible [581]
https://www.facebook.com/Squarely-Alex-Headband-657521401026064/ [582]
http://www.gosaferide.com [583]
http://www.dclibrary.org/labs/dreamlab [584]
http://www.akronlibrary.org/locations/main-library/microbusiness-center [585]
http://doi.org/10.1241/johokanri.56.750 [586]
E1378 [573]
米国の大学・研究図書館協会(ACRL)では,大学・研究図書館(以下図書館)が設置母体に対してその価値を示すための活動“Value of Academic Libraries Initiative”(E1103 [588],E1298 [589]参照)に取組んでいる。その取組の一環として,ACRLは,2013年から,3年間のプロジェクト“Assessment in Action: Academic Libraries and Student Success”(AiA)を開始した。同プロジェクトでは,(1)大学の組織目標として掲げられる学生の学業面での「成功」に係る図書館の価値を立証・発信する図書館員の能力の向上,(2)学内外の利害関係者との連携強化,(3)大学の評価に対して図書館が貢献しうる戦略の策定・実行,を目標としている。2016年4月にACRLが公表したレポート“Documented Library Contributions to Student Learning and Success: Building Evidence with Team-Based Assessment in Action Campus Projects”は,2014年4月から2015年6月まで実施されたAiAの2年目のプログラムの成果をまとめたものである。
AiAでは,図書館が学内の他部門と連携したプログラムを実施することを原則としている。2年目のプログラムでも,参加したコミュニティカレッジ・総合大学・研究大学など様々な種類の大学の図書館64館に対して,図書館員をリーダーとする,少なくとも2名は教員や管理部門,IR部門,ライティングセンター等といった図書館外の職員が参加するチームを結成させている。各チームでは,所属する大学の組織目標と合致する学生の「成功」を示す14の成果と図書館の14の機能との関係を洗い出し,それを評価する手法・枠組みを作成するとともに,評価指標や評価データの収集方法を検討して,実際にそれらの関係性について評価を行なった。各チームがACRLに提出した報告書,21名のチームリーダに対して行ったフォーカスグループ・インタビューの結果,及び,1年目のプログラムから得られた知見を総合的に分析したものが今回のレポートである。
レポートでは,以下の4点において,学生の「成功」に図書館が貢献をしていることを示す証拠が得られたとしている。
例)ウェストバージニア州立大学:受講による学習能力,情報調査能力の向上
アワー・レディー・オブ・ザ・レイク大学:受講による情報調査・活用能力の向上
例)アーカンソー・テック大学:受講による批判的思考能力の獲得
テンプル大学:ミニテストで示される学習達成度の向上
例)イースタンケンタッキー大学:オンラインリソース活用による成績向上
イリノイ工科大学:図書館が提供する各種サービスの活用による成績向上
例)イースタン・メノナイト大学:学術支援センターと連携した個別指導プログラムによる学生在籍率の向上
ネブラスカ大学オマハ校:教務部の学生支援プロジェクトへの図書館員の配置による学術的自信の向上
続いて,報告書では,上記4点とは異なり詳しい調査がなされていないものの,分析結果からは,図書館による貢献が認められるものとして,次の5点を提示している。
専用ウェブサイトから閲覧できる,参加館の各チームがACRLに提出したレポートでは,学内での組織目標の共通理解の促進,学生の「成功」の定義やその評価基準に関する学内での合意の形成,図書館員のリーダーシップの向上,大学の組織目標に則った図書館の使命の構築といった観点から,図書館が大学評価に貢献するためには,学内の他部門と連携することが重要であると指摘されている。2015年9月に発表された,Gale社とLibrary Journal誌による図書館員と教員の関係性についての調査“Bridging the Librarian-Faculty Gap in the Academic Library Survey 2015”でも,学生の「成功」のためには,両者のさらなる連携・コミュニケーションが必要であるとの指摘がなされている。学生の「成功」のために,図書館は学内で連携することが求められているといえよう。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/issues/value/contributions_y2.pdf [590]
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/issues/value/y2_summary.pdf [591]
http://www.ala.org/news/member-news/2016/04/acrl-report-shows-compelling-evidence-library-contributions-student-learning-and [592]
http://www.acrl.ala.org/value/ [593]
http://www.ala.org/acrl/AiA [594]
http://news.cengage.com/library-research/new-survey-academic-librarians-and-faculty-need-more-collaboration-communication-to-influence-student-and-faculty-success/ [595]
https://s3.amazonaws.com/WebVault/surveys/LJ_AcademicLibrarySurvey2015_results.pdf [596]
https://apply.ala.org/aia/public [597]
E1103 [588]
E1298 [589]
東日本大震災後の図書館等をめぐる状況について,本誌での既報(E1797 [601]ほか参照)に続き,2016年4月上旬から2016年7月上旬までの主な情報をまとめた。
4月16日,岩手県立図書館が,同館の東日本大震災情報ポータルの関連資料目録に,ブックリスト「5年目の3.11~震災関連資料コーナーの資料から~」を掲載した。
https://www.library.pref.iwate.jp/books/booklist/list/201602_ex_sinsai.html [602]
4月28日,図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」が,震災の発生から5年を迎えた図書館(岩手県立図書館,福島県立図書館及び東北大学附属図書館の3館)が所蔵する震災関連の資料目録(2016年3月11日現在)を公開した。
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/index.html [603]
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/iwatepref-toshochirashi.pdf [604]
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/iwatepref-zasshi.pdf [605]
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/iwatepref-audiovisual.pdf [606]
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/fukushimapref.pdf [607]
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/tohokuuniv.pdf [608]
7月2日,岩手県の山田町が復興計画の中で商業・業務施設の集積地として位置づけた「復興拠点エリア」に複合施設「山田町ふれあいセンター」がオープンし,施設内に入居する山田町立図書館も開館した。
http://www.town.yamada.iwate.jp/kouhou/H28/6-1/10.pdf [609]
http://www.suntory.co.jp/news/article/12599.html [610]
http://www.reconstruction.go.jp/portal/chiiki/2016/20160401183326.html [611]
4月15日,首都大学東京渡邉英徳研究室と岩手日報社が共同で制作した,地震・津波の犠牲者の避難行動を可視化したデジタルアーカイブ「忘れない~震災犠牲者の行動記録」の英語版である“We Shall Never Forget”: Last Movements of Tsunami Disaster Victimsの公開が発表された。
http://iwate.mapping.jp/index_en.html [612]
http://www.iwate-np.co.jp/311shinsai/koudou/koudou_top.html [613]
5月27日,岩手県が,震災津波関連資料に関するデジタルアーカイブ「岩手県震災アーカイブ(仮称)」の構築と運用保守業務に係る一般競争入札を公告した。
http://www.pref.iwate.jp/nyuusatsu/it/045564.html [614]
2月16日から4月30日まで,Wiley社が,東日本大震災に関する23本の英語論文を無料公開した。
http://news.wiley.com/311GlobalJapan [615]
http://news.wiley.com/311Global [616]
http://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=34064 [617]
3月10日,Springer社は,災害・防災に関する世界中の研究を網羅的に集めたウェブサイト“Coping with Disaster - Future Directions”を公開し,3月11日から4月29日まで,収集した論文を全て無料公開した。
http://www.springer.com/jp/marketing/coping-with-disaster [618]
http://www.springer.com/jp/about-springer/media/press-releases/japan-press/news-from-tokyo/7819226 [619]
1月15日から5月18日まで,兵庫県立図書館で,阪神・淡路大震災と東日本大震災に関する資料を展示する企画展「本から学ぶ防災」が開催された。
http://www.library.pref.hyogo.lg.jp/event/tenji/shiryotenji.html#kikakutenji [620]
http://www.library.pref.hyogo.lg.jp/event/event2015/tenjikanren201507.html [621]
2月27日から4月6日まで,福島県立図書館で展示「東日本大震災5年展~あのとき そして これから~」が開催された。
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/event/tenji/28_2_shinsai5nen.html [622]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/library/kankobutsu.files/tayori198.pdf [623]
2月19日から4月10日まで,岩手県立図書館で,同館に常設されている「震災関連資料コーナー」の資料のほか,岩手県沿岸の人々の歩みを,海に関する所蔵古文書及び近代の津波災害に関する資料で振り返る企画展「5年目の3.11~震災関連資料コーナーの資料から~」が開催された。
https://www.library.pref.iwate.jp/info/evecale/kikakuten/20160219_sinsai.html [624]
2月25日から4月14日まで,千葉県立東部図書館で,展示「防災・震災―大切な命を守るために―」が開催された。
http://www.library.pref.chiba.lg.jp/information/east/post_76.html [625]
3月1日から4月16日まで,山形県立図書館で,企画展示「3.11を忘れない」が開催され,東日本大震災及び福島原子力災害関係の資料600点や「避難者向け借上げ住宅」関係行政資料が展示された。
https://www.lib.pref.yamagata.jp/files/attach/files688_1.pdf [626]
3月1日から5月31日まで,公益社団法人全国市有物件災害共済会が運営する防災専門図書館において,企画展「東日本大震災から5年~資料からみた復興への途上~」が開催された。
http://www.city-net.or.jp/library/archives/1566 [627]
http://www.city-net.or.jp/library/files/2016/02/78ceadd4f19dfae666dff1ff0a0237f8.pdf [628]
http://www.city-net.or.jp/library/archives/1820 [629]
3月7日から4月1日まで,福島県いわき市の福島工業高等専門学校附属図書館で,特別写真展「東日本大震災といわきの文化遺産-大切なものを守り,伝えること-」が開催された。
https://www.facebook.com/531420180300292/posts/853867501388890 [630]
3月8日から4月4日まで,横浜市立中央図書館で,「東日本大震災関連企画展示「震災から5年」」が開催された。
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/event/bunsche/201603.html [631]
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/bunka/harucam/2016/chirashi2016haru.pdf [632]
3月11日から6月24日まで,宮城県図書館で,企画展「東日本大震災文庫展Ⅵ いつまでもわすれないために 未来へ伝える記憶と記録」が開催された。
http://www.library.pref.miyagi.jp/latest/events/entertainments/692-201603moyooshi.html#tenji [633]
http://www.pref.miyagi.jp/release/ho20160309-6.html [634]
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/348159.pdf [635]
3月18日から4月5日まで,仙台市の宮城球場(楽天Koboスタジアム宮城)の外に設置されたドーム施設「イーグルスドーム」で,株式会社楽天野球団(東北楽天ゴールデンイーグルス)と福井県立恐竜博物館,株式会社東急ハンズの共催により,東日本大震災から5年を迎えることから,「不滅のパワーを復興に」をスローガンに「「“ふくいの恐竜たち”がやってくる!」~恐竜の不滅のパワーをKoboスタ宮城で受け取ろう~」と題した展示,イベントが開催された。恐竜の全身骨格標本や触れる実物化石などの展示と,ドームの天井に映像を投影する「ダイノシアター」などのイベントが開催された。
http://www.rakuteneagles.jp/news/detail/6104.html [636]
http://www.dinosaur.pref.fukui.jp/museum/press/20160303.html [637]
3月22日から5月13日まで,公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所の付設機関で,都市問題・地方自治に関する専門図書館である市政専門図書館で,東日本大震災関連資料の展示会が開催された。
http://www.timr.or.jp/news/東日本大震災関連資料展示会図録.pdf [638]
5月28日から7月3日まで,福島県白河市の福島県文化財センター白河館まほろんで,ふくしま震災遺産保全プロジェクト実行委員会及び公益財団法人福島県文化振興財団により,ふくしま復興展「震災遺産と文化財」が開催された。この展示は,震災遺産が文化財保護と同様の視点から保護されるべきものであることを伝え,文化財保護の意義を再認識することを目的としたものである。
http://www.mahoron.fks.ed.jp/bosyu/2016_shinsaiisan_tenji.htm [639]
http://www.mahoron.fks.ed.jp/bosyu/image1/2016_shinsaiisan_tenji/shinsaiisan.pdf [640]
6月4日から7月4日まで,山梨県立博物館で,岩手県陸前高田市で行われた,東日本大震災で被災した文化財のレスキューや,海水による損傷を受けた資料の応急処置・修復技術について,処置が行われた資料約100点とともに紹介する,シンボル展「よみがえる,ふるさとの宝たち―3.11被災資料の再生―」が開催された。
http://www.museum.pref.yamanashi.jp/5th_tenjiannai_symbol_032.html [641]
5月14日,福島市の福島県文化センターで,地方史研究者及び地方史研究団体の学会である地方史研究協議会により,被災地における歴史や文化の継承の取組の現状と課題を扱うシンポジウム「大震災からの復興と歴史・文化の継承」が開催された。
http://chihoshi.jp/symposium13.html [642]
6月25日,東京都の駒澤大学駒沢キャンパスで,「被災史料・震災資料の保存利用と公文書管理」をテーマとし,日本歴史学協会・日本学術会議史学委員会により,「史料保存利用問題シンポジウム2016」が開催された。
http://www.jsas.info/modules/news/article.php?storyid=264 [643]
『出版ニュース』2409号(2016年4月上旬号)が,長岡義幸氏の「ブック・ストリート 流通 震災時の書店支援にかかわる疑問」の記事を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027210842-00 [644]
『情報管理』59巻2号(2016年5月)が,今村文彦氏の「東日本大震災のアーカイブ「みちのく震録伝」の立ち上げと今後」の記事を掲載した。
http://doi.org/10.1241/johokanri.59.123 [645]
『月刊IM』543号(2016年4月)が,鈴木均氏の「時代のニーズに対応した文書情報マネジメントを紹介 浦安市立図書館における「浦安震災アーカイブ」の構築」の記事を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027430049-00 [646]
『専門図書館』277号(2016年5月)が,特集「東日本大震災から5年 図書館の復興と震災資料アーカイブの取組み」を掲載した。
http://www.jsla.or.jp/publication/bulletin/no277/ [647]
『子どもの文化』48巻5号(2016年5月)が,鎌倉幸子氏の「ゼロから図書館を作る : 難民キャンプから震災後の東日本での移動図書館活動」の記事を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027312133-00 [648]
『歴史評論』794号(2016年6月)が,阿部浩一氏の「歴史資料の保全・活用と地域社会 : 福島県での歴史資料保全活動を通じて」の記事を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027427940-00 [649]
『博物館研究』576号(2016年6月)が,中川寧氏の「平成27年度研究協議会テーマ2「東日本大震災から5年 : 被災地域博物館の現状と今後」に参加して」の記事を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027453959-00 [650]
『国立国会図書館月報』662号(2016年6月)が,2016年1月11日に東北大学災害科学国際研究所で開催された「平成27年度東日本大震災アーカイブ国際シンポジウム 地域の記録としての震災アーカイブ~未来へ伝えるために~」についての記事を掲載した。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9979212 [651]
5月10日,第62回青少年読書感想文全国コンクール課題図書出版社と公益社団法人全国学校図書館協議会は,東日本大震災被災地への支援事業の一環として岩手県・宮城県・福島県の小・中・高等学校,中等教育学校,義務教育学校,特別支援学校を対象に同コンクールの課題図書を寄贈することを発表した。また,6月1日に寄贈先を発表した。
http://www.j-sla.or.jp/contest/youngr/62thkansoubun-youkou.html [652]
http://www.j-sla.or.jp/news/sn/post-25.html [653]
http://www.j-sla.or.jp/pdfs/62kadaitosyo-kizousaki.pdf [654]
http://www.j-sla.or.jp/news/sn/ [655]
関西館図書館協力課調査情報係
2016年3月7日,筑波大学東京キャンパスにおいて,シンポジウム「認知症と図書館」を開催した。昨年の「インタージェネレーション:高齢社会における図書館」(E1669 [656]参照)に続く,同大学知的コミュニティ基盤研究センター主催の「高齢社会の図書館」を考えるシンポジウムの第二弾である。当日は,全国各地の公共図書館や大学図書館,福祉関係団体等から131名の参加を得た。
◯シンポジウムの概要
下記の5つの講演と,筑波大学の溝上智恵子氏をコーディネータとする講演者5名によるパネルディスカッションで構成した。
講演者らは,「認知症にやさしい図書館プロジェクト」を軸として連携している。同プロジェクトは,「図書館と認知症」について考え,実働し,支援する,セクターを超えた取組であり,図書館員のみならず,作業療法学や図書館情報学の専門家,自治体の福祉担当者,議員,企業が参加している。
紙幅の制限があるため本稿では当日の講演の中から,先進的な取組を行っている川崎市立宮前図書館の事例を報告する。
◯川崎市宮前図書館における「認知症の人にやさしいサービス」
団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」が間近に迫りつつある中、川崎市では健康福祉局を中心とし,「川崎市地域包括ケアシステム推進ビジョン」の理念に基づき,すべての市民を対象として,誰もが健康的に安心して暮らせるまちづくりの施策を推進している。宮前図書館の立地する宮前区内には,認知症専門病院が数年前に開業した。また,認知症の方など高齢者が,交流の場として集うことのできる「認知症カフェ」も,数か所で開設されている。
また宮前図書館には,認知症と思われる方の利用も少なくない。2008年5月に川崎市立図書館協議会答申「川崎市立図書館の運営理念と活動目標について」が出された。本答申の「市民の仕事や生活に役立つ図書館」という項目ではコミュニティ形成に貢献すべき情報提供機関として図書館が明記されている。このことから,宮前図書館は,認知症を含む病気の予防や治療後の生活など,市民の生活に結びつく「情報」の提供をこの答申の理念に基づいた業務と位置づけてきた。
近年の取組では,2015年8月から9月まで試行的に行った認知症に関する図書などのミニ展示がある。認知症関連資料のミニ展示は反響を呼び,関連資料も多く貸し出された。そこで,この取組について,市の健康福祉局地域包括ケア推進室に伝えたところ,宮前区役所の福祉セクションの職員等と図書館員の情報交換の機会を設けることとなった。その結果,市の進める地域包括ケアシステムを推進する上で宮前図書館の役割は,「情報提供」によって市民生活の充実を図ることであると改めて確認された。
2015年12月に宮前図書館は,認知症に焦点をあてた情報コーナーを常設する運びとなった。認知症の方を介護する家族や医療・福祉系の専門家を主たる対象とする福祉関係の資料,認知症を知るための医療関係の資料,成年後見など法律関係の資料,認知症に関する体験記などをひとつの小さな書架に集約し,「認知症の人にやさしい本棚」として設置した。また,各種セミナーや「地域包括支援センターだより」などのチラシやパンフレット類もコーナー近くに集めて図書館資料とともに提供できるようにした。
宮前図書館では,健康福祉局地域包括ケア推進室などと連携し、「土日祝日,さらに閉庁時間も開館している」「乳児からシニアまで誰もが来館でき,敷居が低い」という図書館の強みを活かしたサービスを充実させたいと考えている。また,地域の利用者ニーズを踏まえ,館の中で利用者を待つのではなく,市民も巻き込みながら高齢者デイケア施設で絵本の読み聞かせを行うなど、アウトリーチサービスを展開していくことも必要である。現在,宮前区内の地域包括支援センター連絡会に筆者(舟田)が出席し,人的ネットワークをつくることができたといえるが,今後さらに介護に関わる専門職集団,行政,市民,各種団体,企業など様々なセクターが横断的につながり,その中で図書館の立ち位置を考えながら,宮前区らしい取組を進めていきたい。
◯認知症と図書館
厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業の平成23年度~平成24年度総合研究報告書『都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応』(研究代表者は筑波大学の朝田隆氏)によると,日本全国の高齢者の認知症有病率は15%,推定有病者数は2012年時点で462万人と算出されている。2014年には,日本における認知症の社会的コストは14.5兆円であると発表された。2015年1月に厚生労働省より『認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)』が発表され,「認知症の人の意志が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現」が目指されている。
回想法などを取り入れる図書館が少しずつ増えてきているものの,日本では認知症に関する図書館の取組は緒に就いたばかりであるといえる。他のセクターとの協働が不可欠なこの分野において,コミュニティを支える図書館にできること,しなければならないことは何かについて,今後も継続して考え,取り組んでいきたい。
川崎市宮前図書館・舟田彰
筑波大学図書館情報メディア系・知的コミュニティ基盤研究センター・呑海沙織
Ref:
http://www.kc.tsukuba.ac.jp/lecture/symposium/2016d.html [657]
http://www.tsukuba-psychiatry.com/wp-content/uploads/2013/06/H24Report_Part1.pdf [658]
http://csr.keio.ac.jp/cmswp/wp-content/uploads/2015/11/2014年度認知症社会的コスト総括分担報告書.pdf [659]
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html [660]
https://www.library.city.kawasaki.jp/pdf/regulations/06katudouhoukoku_h18_19.pdf [661]
http://www.city.kawasaki.jp/350/soshiki/8-13-0-0-0.html [662]
http://www.city.kawasaki.jp/miyamae/cmsfiles/contents/0000067/67288/197.pdf [663]
E1669 [656]
国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC;CA1664 [664],CA1733 [539]参照)の総会(E1683 [665]等参照)及びウェブアーカイブ会議が,2016年4月11日から15日にかけて,アイスランドの首都レイキャビクで,アイスランド国立・大学図書館主催により開催された。IIPC非加盟機関からの参加者も含め約150人が参加し,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加した。
従来は総会期間中にオープンセッションがあり,一般参加者も参加できたが,今回から,加盟機関のみ参加可能な2日間の総会と,加盟機関以外の参加者に開かれた3日間の会議に,プログラムが明確に分けられた。
総会1日目は,今回の総会に先立って改訂された,今後5年間のIIPC協定及び新たに定められた細則の説明や,IIPCによる取組の最新状況の報告等が行われた。続いて,新たに細則に定められたツールの開発・参加機関の活動・連携及びアウトリーチ活動に関する3つのポートフォリオ(取組事項)について,各ポートフォリオのリーダーが現状と今後の方向性について報告を行った。その後3つのグループに分かれた参加者間を各リーダーが順番に回って方向性や課題について意見聴取や議論を行った。午後には加盟機関でウェブアーカイブの共同コレクションを構築するプロジェクトの課題,保存用ファイルフォーマットWARCの改訂等の現状報告があった。
総会2日目は,2会場に分かれ,グループミーティング,ワークショップ,パネルディスカッション,プレゼンテーションが実施された。コンテンツ開発に関するグループミーティングでは,現在進行中の第一次世界大戦・難民危機・国際機関・オリンピック/パラリンピックに関するIIPC共同コレクションについての詳細や新規参加者への収集対象ウェブサイトのURLの登録方法の紹介があった。また新たな収集テーマとして,各国のニュースサイトや研究プロジェクトサイトの収集が提案され,課題等が議論された。APIベースのウェブアーカイブシステム・サービスの構築に関するパネルディスカッションでは,大きくなり過ぎたウェブアーカイブのシステムを,APIで連携する小規模のシステム群にしていく必要性が提示され,各機関でのシステムやAPIの現状,今後の課題について議論された。その他,カリフォルニア電子図書館・ハーバード大学図書館・カリフォルニア大学ロサンゼルス校図書館によるウェブアーカイブのメタデータの共同プラットフォーム構築計画Cobwebを紹介するパネルディスカッション,オープンソースブラウザのプロジェクトchromiumの成果を用いて開発された収集機能等を備えたアーカイビングシステムbrozzlerの紹介,ブラウザ画面のないブラウザPhantomJSを収集クローラーHeritrixと共用してウェブサイトを収集する試み等が報告された。
会議1日目は,基調講演やパネルディスカッション,エミュレーションに関するセッション,ウェブアーカイブを題材にウォータールー大学で開催されたハッカソンの報告が行われた。
興味深かった講演としては,デジタルアートの保存に取り組む米国の団体Rhizomeのクレイマー(Ilya Kreymer)氏とエスペンシード(Dragan Espenschied)氏による,ウェブアーカイブをその当時のウェブブラウザごとエミュレートして再現する“oldweb.today”の報告がある。古いウェブサイトを現在のウェブブラウザで表示すると,レイアウトが崩れるなど適切に再現されない場合がある。oldweb.todayでは,URLとブラウザ,OSを選択してウェブサイトの公開当時の環境を選択して閲覧することができる。なお現在閲覧できるアーカイブは,Mementoプロトコル(CA1733 [539]参照)をサポートしているInternet Archive等14のウェブアーカイブのみである。Internet Archiveのケール(Brewster Kahle)氏は,基調講演で,これまで収集されてきた様々なコンテンツを振り返りつつ,得られた教訓を提示した。架空の国立図書館“National Library of Atlantis”のウェブサイトの擬似的なデモを通じて,各国の国立図書館が,様々な機関のウェブサイト,音楽,ニュース映像,デジタル化書籍等といった多様なデジタルコンテンツを有機的に提供する未来を示し,連携による収集プロジェクトの必要性を語った。またデモの中で,現在開発中の,ウェブサイトの変更規模等を可視化して一覧できる“Wayback Machine beta”を公開した。
会議2日目は,2会場で8セッション,22のプレゼンテーションが行われた。ウェブアーカイブの利用者ニーズに関するセッションでは,(1)研究者,図書館員への質問調査,(2)ペルソナ(ターゲットとするユーザ像)を設定してのユーザニーズ調査,(3)研究者の関心やサービスモデルの類型化と,研究者等がAPI等を通じて容易にアーカイブを扱えるようにするサービスモデルの構築事例,等が報告された。その他,ウェブサイト間のリンク関係の図式化,国ごとに割り当てられたトップレベルドメインを使用していない国内ウェブサイト収集の実践事例,アーカイブ再生ソフトウェア(Wayback Machine等)の性能比較,ソーシャルメディア・データの収集や解析の実践事例,収集終了から提供までの品質確認プロセスの自動化の実践事例,ウェブアーカイブを用いた歴史研究の事例等が報告された。
会議3日目は2会場で4つのワークショップ(UK Web Archiveで構築している検索エンジンSHINEインタフェース,WARCフォーマットの拡張,ウェブアーカイブツールWebrecorder.io,ウェブアーカイブ管理プラットフォームWarcbase)が開催された。
今回の総会及び会議では,ウェブアーカイビング,コレクション構築,ツール開発等における協力・協働をテーマに挙げるものが多かった。新しい協定と,次の議長に就任することが発表されたフランス国立図書館(BnF)のベルメス(Emmanuelle Bermès)氏のもと,より活発な協同・協働が行われることが期待される。
次回のIIPC総会及び会議は,2017年3月にポルトガル・リスボンで開催される予定である。
関西館電子図書館課・大山聡
Ref:
http://www.netpreserve.org/general-assembly/2016/overview [666]
http://www.netpreserve.org/general-assembly/2016/schedule [667]
http://www.netpreserve.org/general-assembly/2016/WAC [668]
http://www.netpreserve.org/sites/default/files/attachments/IIPC-Consortium-Agreement-2016-2020-final.pdf [669]
http://oldweb.today/ [670]
http://labs.rhizome.org/iipc2016/owt.html#/ [671]
https://archive.org/details/BrewsterKahleIIPC2016NationalLibraryOfAtlantisIMG3849480p [672]
https://waybackexplorer.archivelab.org/ [673]
http://rio.pensoft.net/articles.php?id=8760 [674]
E1683 [665]
CA1664 [664]
CA1733 [539]
研究データ管理の重要性が最近声高に叫ばれているが,研究データを読み取るには,研究機関で開発され研究目的で使用される研究用ソフトウェアをはじめとするソフトウェアが必要であることは言うまでもない。しかしそのソフトウェアの持続可能性,すなわちソフトウェアを将来にわたって利用できるようにする取組みについては,あまり注意が払われていない。ソフトウェアがないとデータを読み込んで解釈することができないが,ソフトウェアがあっても現在の環境で動作しなかったりバージョンが違ったりするとデータを正しく読み取れない可能性があるので,ソフトウェアの持続可能性は重要な問題となる。
2016年3月,高等教育・研究向けインフラの開発と活用を目的とするプロジェクトKnowledge Exchangeが,“Research Software Sustainability: Report on a Knowledge Exchange Workshop”と題する報告書を公開した。副題にもあるとおり,これは2015年10月1日・2日にベルリンで開催された,研究用ソフトウェアの持続可能性に関するワークショップの報告である。報告書では,ソフトウェアの持続可能性に関し,提言,利益,社会的・技術的課題などが解説されている。また,関連機関や各国の動向についても言及されている。
◯提言
研究の信頼性や再現性の向上のために,次の5つの提言がなされている。
・研究においてソフトウェアが果たす役割について意識の向上が必要である。それには,研究者のみならず,出版者,資金提供者,政策立案者などの利害関係者も関与しなければならない。
・研究用ソフトウェアを研究対象として認識すべきである。標準的な引用方法を確立して,出版物のように引用可能な成果物とすべきである。
・資金提供者は,資金をソフトウェアの維持管理にも使用できるようにすべきである。また,データ管理計画(Data Management Plan:DMP)のように,ソフトウェア管理計画(Software Management Plan:SMP)も研究者に策定させるべきである。
・研究コミュニティは関連技術を習得しなければならない。博士課程にソフトウェア工学の研修プログラムを組み込むなど,ソフトウェア開発の教育も実施すべきである。また,研究用ソフトウェア・エンジニアのキャリアパスも認知されるべきである。
・ソフトウェアの持続可能性に関する技術やノウハウを蓄積する組織を設立しなければならない。自国の研究コミュニティに適合した組織が各国で設立され,それらが連携すべきである。
◯利益
ソフトウェアの持続可能性が向上すれば,ソフトウェアの信頼性や研究結果の再現性が向上し,またそのソフトウェアが再利用しやすくなる。その結果,そのソフトウェアを使用した研究成果の信頼性が高まること,より多くの時間を研究に割けること,ソフトウェアが見つけやすくなること,資金が節約でき投資の回収率が高まること,研究データへのアクセスやその利用が長期的に可能になること,などが期待される。
◯社会的課題
社会的課題として,次の3つの点などが挙げられている。
・ソフトウェアのバージョンの識別
研究結果を再現するには,研究に使用されたソフトウェアの正確なバージョンを知る必要がある。各バージョンにDOIを付与できるGitHubのようなリポジトリでソフトウェアのバージョン管理をすることで,特定のバージョンの識別が容易になる。
・所有権やライセンスの理解
研究機関の多くは,所属する研究者が開発したソフトウェアの所有権に対する立場を明確にしていない。その立場を明確にすれば,ソフトウェアへのライセンス付与はかなり容易になる。
・明確なインセンティブとインパクト
研究者は直接成果を生み出すわけではないソフトウェアの開発にはほとんど時間をかけない。持続可能なソフトウェアを使用した研究にインセンティブを与えるようなインパクト指標を開発すべきである。
◯技術的課題
「良い」ソフトウェアを識別することの難しさ,ソフトウェアの発見可能性の低さが,技術的な課題として挙げられる。ソフトウェアについて,利用可能かどうか,適切に解説した文書があるか,ライセンスが付与されているか,バージョン管理されているか,動作が検証されているか,などの情報を明確にして,ソフトウェアの再利用を促すべきである。また,ソフトウェアのカタログや,研究者のニーズに合ったソフトウェアを紹介してくれる仲介者を利用して,ソフトウェアを見つけやすくすべきである。
そのほか,報告書では,専門的知識やノウハウを提供する組織として,英国のSoftware Sustainability Institute,オランダのDANS(Data Archiving and Networked Services)とSURFsaraを紹介している。また,ドイツ,オランダ,英国など各国の動向にも言及している。
研究用ソフトウェアと研究データは,その品質の判定や管理に共通する部分が多い。先行している研究データ管理の取組みを参考に,研究用ソフトウェアの持続可能性についての取組みが進展することが望まれる。
関西館図書館協力課・阿部健太郎
Ref:
http://repository.jisc.ac.uk/6332/1/Research_Software_Sustainability_Report_on_KE_Workshop_Feb_2016_FINAL.pdf [676]
https://github.com/ [677]
http://www.software.ac.uk/ [678]
https://dans.knaw.nl/en [679]
https://www.surf.nl/en/about-surf/subsidiaries/surfsara [680]
公共図書館(以下図書館)に関する調査の実施,図書館界に対する指導性の発揮,図書館サービスの再活性化支援を目的にコミュニティ・地方自治省に設置されている英国のLibraries Taskforceが,2016年4月28日,成人(16歳以上)の図書館利用の実態について調査した報告書“Taking Part, focus on: libraries”を公開した。
この報告書では,文化・メディア・スポーツ省が毎年実施している,国民の文化・スポーツ活動への参加状況に関する調査“Taking Part”の2015/16年調査のデータに基づき,過去1年間の図書館利用の有無,利用方法,利用者の属性,利用目的,サービスへの満足度等を分析している。本稿では,その分析結果の概要について紹介する。
まず,利用の有無であるが,利用したことがある成人は33.9%で,2005/06年調査の48.2%から大幅に減少している。特に16~24歳の年代では,51.0%から25.2%と減少が著しい。同日に公開された縦断的調査の報告書“Taking Part: Longitudinal Report 2016”では,図書館を利用しなくなった理由として,自由に使える時間の減少,購入等その他の方法での資料の入手,電子書籍の利用が挙げられている。
利用方法では,94.8%が直接来館をあげており,ウェブサイト・OPAC・データベース・電子書籍等ウェブサービスの利用(17.9%),電子メール・電話・FAX・手紙によるサービスの利用(9.7%),資料配達等アウトリーチサービスの利用(0.9%)など,非来館型サービスの利用割合は少ない。
サービスに対しては,94.2%が「とても満足」「おおむね満足」と回答しており,2010/11年調査(92.5%)から漸増している。一方,「不満足」の回答率は減少し,2.6%に過ぎない。不満足の理由としては,資料の選定内容と状態を挙げる人が最も多く(49.2%),次に職員が不親切(30.3%)であることが挙げられている。
次に,利用者の属性であるが,性別では,男性(29.4%)より女性(38.1%)の利用が,年齢別では,25~44歳(39.4%)の年代の利用が多い。報告書では,子どもの頃に図書館の利用経験があると成人した後も図書館をよく利用することが指摘されており,実際,子どもの頃に図書館を利用した経験のある人の割合は,性別では女性が(男性68.0%,女性79.3%),年齢別では25~44歳の割合が最も高い。白人(31.8%)より,黒人・少数民族(49.3%)の利用が多く,その差は,2005/06年調査より拡大している(17.5%)。また,下位の社会経済的階層(30.2%)より上位の階層(36.4%)の,就業者(31.3%)より無職(37.8%)の利用が多くなっている。
利用目的では,大多数の94.5%が余暇活動のためとしており,研究(9.6%),仕事(2.6%),ボランティア活動(0.6%)による利用は少数派である。ただし,研究目的での利用については,16~24歳(43.5%),無職(11.3%),黒人・少数民族(20.2%)では,他の属性と比べて高くなっている。
報告書では,子どもの有無と図書館利用に関する分析も行われている。図書館を利用している人の割合は,子どもがいない成人(28.9%)に比べ,子どもがいる成人のほうが高いと指摘されている(子どもが1人:39.9%,2人:49.7%,3人以上:47.5%)。上述の縦断的調査においても,図書館を頻繁に訪れるようになった成人の利用目的では,「子どもに読書を薦めるため」の割合が最も高い(20%)。
最後に,調査年度が異なることに留意しつつ,日本(国立国会図書館:2014年)(E1667 [681],E1747 [682]参照),米国(Pew Research Center:2013年,2015年)(E1519 [683],E1740 [684]参照),韓国(文化体育観光部:2015年)で行われた同種の調査と英国の調査を簡単に比較してみたい。
まず,過去1年間の図書館利用の有無では,利用した人の割合は,英国:33.9%,日本:40%,米国:48%(2013年),韓国:28.2%となっている。利用者の属性では,英国では,女性,社会経済的上位層,無職の利用が高かったが,日本でも女性,高所得者層,退職者,生徒・学生の利用が多く,同種の傾向を示している。また,英国の調査で示された,子を持つ親のほうが図書館を良く利用するという結果は,日本の調査データを用いた分析においても指摘されている。次に,利用方法では,英国では直接来館,ウェブサービスの利用の順で多かったが,米国の調査(2015年)においても,同じ結果が報告されている。日本や韓国の調査でも,書籍の貸出・返却を目的に図書館を利用していると回答する割合が高く,両国においても直接来館して図書館を利用していることが多いことが示唆される。最後に,図書館を利用しない理由としては,英国では,自由に使える時間の減少,購入等その他の方法での資料の入手,電子書籍の利用が指摘されたが,韓国では,必要性を感じない,仕事で忙しいことが理由とされている。
さらに詳細に比較することで何か見えてくるものがあるかもしれない。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
https://www.gov.uk/government/groups/libraries-taskforce [685]
https://librariestaskforce.blog.gov.uk/ [686]
https://www.gov.uk/government/collections/taking-part [687]
https://librariestaskforce.blog.gov.uk/2016/05/10/changing-patterns-of-library-use/ [688]
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/519675/Libraries_short_story_-_FINAL.pdf [689]
https://www.gov.uk/government/statistics/taking-part-longitudinal-report-2016 [690]
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/519629/Taking_Part_Year_10_longitudinal_report_FINAL.pdf [691]
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9373202 [692]
http://www.mcst.go.kr/web/s_data/research/researchView.jsp?pSeq=1590 [693]
E1667 [681]
E1747 [682]
E1519 [683]
E1740 [684]
http://current.ndl.go.jp/FY2014_research [694]
http://current.ndl.go.jp/files/presentation/2015capforum_presentation2.pdf [695]
ビル&メリンダ・ゲイツ財団の資金援助を受け,2009年からOCLCによって米国内で繰り広げられたキャンペーン“Geek the Library”(「図書館に夢中」)が2015年6月に終了した。2009年からの6年間で参加した公共図書館の数は1,779(図書館システムでは959)にのぼる。キャンペーンはいくつかの段階を踏んでおり,2010年4月までは,ジョージア州,イリノイ州など5つの州にある100館ほどが参加する試行期間であった。その後,その結果を分析するとともに内容の改善を図り,2011年6月以降は全米の図書館が「図書館に夢中」に参加できるようになった。試行期間についての報告書は2011年に発表され,2016年4月にも報告書“Local Action and National Impact”(以下最終報告書)が発表された。最終報告書には2012年から2015年の3年間を調査期間として,「図書館に夢中」に参加した図書館員へのインタビューした調査の結果などが示されている。
「図書館に夢中」が始められた遠因は,2005年頃に公共図書館の運営資金が深刻な減少を見せたことにある。OCLCはこれを受け,2007年に公共図書館の運営資金確保の方策を見出すため,調査を実施した。その結果,OCLCは図書館の支援者層に対し,(1)図書館は人々の生活を一変させることができるという図書館の価値,(2)図書館が財政難にあること,の2点を印象付けるキャンペーンを実施すべきことが提言された(E818 [697]参照)。「図書館に夢中」はこれをもとに考案されたキャンペーンである。
このような経緯から,「図書館に夢中」は人々に公共図書館の価値を認識してもらい,図書館や図書館員への意識に影響を与えることによって,長期的に図書館の運営資金を増加させるまたは確保していくことが根本的な目的であった。一方で,人は誰も何か情熱を傾け,夢中になる(geek)ものがあり,公共図書館はそれを全面的に支援するのだという理念も込められている。
キャンペーンは,(1)宣伝・PRのツールを用いた地域コミュニティへの「図書館に夢中」の周知,(2)図書館員の住民や地域コミュニティの団体,企業,有力者などとの交流,関係性の構築,(3)ビジネス支援など図書館が果たし得る役割の主張と公共図書館の運営資金に関するメッセージの発信,という3ステップを踏むものであった。OCLCは,これらに取り組む図書館員や図書館の活動を様々な方法で支援した。図書館員への支援策としては,キャンペーンを進める上でのヒントや各館の取組を共有することができる場としてウェブサイト(geekthelibrary.orgなど)やSNSアカウントを設けたほか,図書館員からの相談を受け付けるスタッフなどを用意した。図書館の活動への支援策としては,宣伝・PR等に使用できる,プロが製作した「図書館に夢中」のグッズ(ポスターやTシャツなど)を提供したほか,イベントも開催した。また,最終報告書によれば,OCLCの支援のほかに独自に自館のウェブサイトや各種メディアを用いたり,イベントを開催したりして「図書館に夢中」に参加する図書館も多かったとされる。
最終報告書によればプロジェクトの成果は主に以下の3点である。
・図書館員のスキル向上
図書館に関するアドヴォカシー活動や広報,マーケティングを行うスキルが向上し,それらに自信を持って継続的に取り組めるようになり,また地域コミュニティと戦略的に連携できるようになったことが挙げられている。
・図書館への支援の獲得
利用者からの反応(図書館に寄せられる意見の数,SNSへの反応,来館者数など)が改善されたこと,学校,地元の企業,自治体との結びつきが強められたこと,図書館の代弁者として図書館を擁護してくれる人を獲得できたこと,が挙げられている。なお,擁護してくれる人との具体例としては,地方議員に対し,図書館について提言をしてくれた人,地方紙やSNSで図書館への支援を訴えかけてくれた人などが挙げられている。
・図書館運営資金の確保に向けたきっかけづくり
図書館員が地域にとっての図書館の価値を説明し,運営資金について触れる上で,キャンペーンがよいきっかけとなったとされている。
その他の成果として,例えばキャンペーンのキックオフイベントを地元の喫茶店で開催するなど,地域の企業や非営利組織などと互いにメリットがあるプログラムやイベントを実施することで協力関係を築くことができたという図書館や,キャンペーンを通じて自館に課題を見つけ,マーケティングに関する役職を設けたという図書館の事例が最終報告書で紹介されている。また,課題としては,例えば資金確保について広く図書館全体に対して支援するのではなく,特定のトピック(例えば建物の建て替えなど)について支援をする事例がみられたということが挙げられている。
キャンペーン終了後の調査では「図書館に夢中」に好意的な印象を持った図書館員は8割を超え,評価は高い。また,参加した図書館の約半数は,職員数がフルタイム換算値(FTE)1~5で,年間予算も30万ドル未満(2011年時点)であり,予算・人員の少ない図書館でも参加できるキャンペーンとして成功を収めたといえる。最終報告書では,OCLCによる支援策に関しては,ウェブサイトで事例やノウハウの共有をできるようにしたことが図書館員から好評であったとされ,キャンペーンが終わった今もSNSへの投稿は続いている。図書館員がウェブサイトやSNSでキャンペーンの知見を共有できる,一種のプラットフォームを用意したことが,「図書館に夢中」の成功に一役買ったのではないだろうか。
関西館図書館協力課・葛馬侑
Ref:
http://www.oclc.org/en-US/reports/geekthelibrary.html [698]
http://www.oclc.org/research/publications/2016/oclcresearch-geek-the-library-2016.html [699]
https://www.webjunction.org/explore-topics/geek-the-library.html [700]
https://web.archive.org/web/20160306223106/http://get.geekthelibrary.org/ [701]
https://www.webjunction.org/explore-topics/advocacy-in-action.html [702]
https://www.facebook.com/geekthelibrary [703]
https://www.flickr.com/groups/geekthelibrary/pool/ [704]
https://twitter.com/hashtag/geekthelibrary [705]
http://www.webjunction.org/documents/webjunction/advocacy-in-action/geek-the-library-case-studies.html [706]
http://www.ilovelibraries.org/librariestransform/ [707]
E818 [697]
E276 [708]
E370 [709]
秋田県仙北市は,角館の武家屋敷や田沢湖など,多くの名所に恵まれ,年間約600万人が訪れる県内屈指の観光拠点である。『解体新書』の図版を描いたことで有名な小田野直武や新潮社を創業した佐藤義亮,また近年は直木賞作家の千葉治平氏や西木正明氏を輩出するなど,重厚な文化と歴史にも恵まれており,2015年8月,温泉資源と医療の連携や国際交流の推進,国有林の民間利用,ドローンの活用などで,地方創生特区・近未来技術実証特区の指定自治体となった。
2011年には県下の市町村で初めて読書条例(CA1840 [712]参照)を制定し,市立図書館,市立の公民館図書室,市立小中学校の所蔵資料を一括で検索できる「学校公共連携横断検索システム」を完成させた。この横断検索システムはA小学校の子どもがB小学校の図書室に読みたい本がある,とわかった場合,教員や学校職員の連携作業でこれを必要な学校へ配送する想定のもと構築された。しかし,現実には中山間地域をはじめ,市内に点在する小中学校12校間の図書配送は,教員らの多忙さもあり子どもの要望に即時に対応することはできていない。そこで人に代わり,ドローンがこの役割を果たせないかと考え,その実証実験(「ドローンと秘匿通信による図書輸送の実証実験」)を仙北市,国立研究開発法人情報通信研究機構,ドローンメーカーの株式会社プロドローンの共同で行った。
事前の準備に当たっては,「事故の無い安全運行」を第一に考え,最悪の状況を想定した飛行プランを立てることを重視した。飛行コースの設定においては,地形,居住状況,風向き,風速,乱気流,電波状況,衛星状況などを十分に検討し,飛行前後の監視体制,事故発生時の連絡体制にも気を配った。
実験は,2016年4月11日に実施した。使用したドローンは直径1.4メートル、重さ15キログラム。回転翼が6つあり,リチウムポリマー電池で駆動し,最大積載量は約5キログラムであった。当日は,本体下部に備えた専用ケースに配送先の西明寺中学校からリクエストがあった本『星の王子様』3冊(約1キログラム)を搭載。子どもたちが見守る中,仙北市立西明寺小学校から離陸した。ドローンは上空約50メートルまで飛翔し,西明寺中学校までの直線約1.2キロメートルを毎秒約5メートルで飛行した。この実験の様子はSkypeを用いて中継し,西明寺中学校の生徒たちが体育館で映像を見られるようにした。ドローンが中学校に近づくと,リクエストした生徒はグラウンドへ移動し,無事届けられた『星の王子様』3冊を受け取った。受け取った生徒からはドローンを初めて間近に見た感動がうかがえ,また図書館で借りる本とは一味違う特別感に紅潮していた。実験に立ち会った筆者をはじめ関係者一同,子どもたちの様子をみて貴重な実験が出来たことを確信するとともに,この実験の成果を将来に繋げていきたいと感じた。
仙北市は「ドローンが図書も夢も未来も運んでくるまちづくり」に取り組んでおり,この一環として(1)教育現場に最先端技術の集積体と言えるドローンを導入することで子どもたちの科学に対する興味を引き出すこと,(2)子どもたちが多くの本と接することができる環境を整備し,読書推進をサポートする仕組みをつくること,を大きな目的として今回の実験を実施した。この実験のほかにも,仙北市は,ドローンに用いられる技術に子どもたちが親しめる機会を増やすため,プログラミング教室を開催するほか,全国規模のドローン競技会を2016年7月29日から7月31日まで開催する。ドローンは,火山活動監視や遭難者発見などの災害時の活用も期待されるなど,様々な可能性を秘めた近未来技術であり,仙北市では全国に先がけてドローン産業を育成していきたいと考えている。
仙北市総務部地方創生・総合戦略室室長・藤村幸子
Ref:
http://www.city.semboku.akita.jp/sousei/page02.html [713]
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/kinmirai.html [714]
https://www.prodrone.jp/archives/1558 [715]
https://www.nict.go.jp/press/2016/04/12-2.html [716]
CA1840 [712]
◯はじめに
秋田県鹿角(かづの)市は県内最北に位置する人口約3万3,000人の小さな市である。市内には花輪図書館と立山文庫継承十和田図書館の2館があり,そのうち,花輪図書館が,複合施設「鹿角市文化の杜交流館コモッセ」内に移転し,2015年4月16日,リニューアルオープンした。同時に両館の運営主体が鹿角市から指定管理者の株式会社リブネットへ移行したことで,民間事業者による独自サービスや話題性のある様々な企画の提供を行ってきた。
鹿角市立図書館(以下当館)が2016年4月に発売開始したLINEスタンプ「はなわんこ&トワダック」は,図書館により一層親しんでもらいたい,鹿角市のことを市内外の方々に知ってもらいたいという願いをこめて発案したものである。本稿では,当館におけるLINEスタンプの作成・発売について紹介する。
◯サービス内容について
LINEは,無料通話やメッセージの送受信が出来るコミュニケーションアプリである。「トーク」と呼ばれるテキストチャットの利用が多く,チャット上で使用できるイラストのLINEスタンプは,誰でも制作・販売ができ,人気を集めている。
当館では花輪図書館のリニューアルオープン1周年を迎えるにあたり,市内外の方々に鹿角市のことを愛してもらえるよう,図書館のオリジナルキャラクターを発案しLINEスタンプとして発売することとした。これは指定管理者として,図書館の魅力のアピールに留まらず,「公立」の図書館として待ちの姿勢に終始することなく,「主体的に動き独自サービスで市民へ還元する」という施設づくりを目指したためである。売上金は,一旦,指定管理料上の収入とし,全額図書購入費に充て市民へ還元することにした。
◯LINEスタンプ発売までの経緯
リニューアルオープンにより花輪図書館は,多くの市民の注目を集めたが,社員やスタッフから,若年層を対象としてさらに図書館をアピールしていくため,図書館のオリジナルグッズを販売したいという声があがっていた。切手,布バッグ,風呂敷など様々な案が挙げられたが,その中から若年層の利用が多く,日常のコミュニケーションの中で使用できるLINEスタンプを採用することになった。
両館から選出されたスタッフ数名による「LINEスタンプ実行委員会」を発足させ,ターゲットとする年代や購買層を絞り,コンセプトやイラストパターンなどの話し合いを重ねた。
一番時間を費やしたのはキャラクターデザインである。「鹿角らしさ」「図書館らしさ」を出しつつも,LINEスタンプとして使いやすく,かつ市民に親しみやすいようなキャラクターにしたいと考えた。鹿角市の伝説や市の鳥をイメージしたもの,本をモチーフにしたキャラクターなど,たくさんの案の中から「はなわんこ」と「トワダック」が決定された。両館の館名から着想を得て,花輪図書館は犬をモチーフとし,立山文庫継承十和田図書館はアヒルをモチーフとした。
デザインは絵の得意なスタッフが担当してデータを作成していった。日常の中で使いやすいスタンプを意識しつつ,「おはようございます」「こんにちは」など汎用性の高いものを中心に,「図書館に行こう」「勉強中」といった図書館に関係したスタンプと「めんこい(かわいい)」「ぬぐい(暑い)」など鹿角弁を交えたスタンプを作成した。
◯発売後の状況と今後の展望
はなわんことトワダックは,二人組で図書館だよりやイベントの告知など,主に広報の場に積極的に登場させている。子どもの日には児童向けのシールや塗り絵の配布も行ったが好評だった。LINEスタンプの売上は発売初月が約80個と,滑り出しは好調であった。しかし,スタンプの認知度は十分ではなく,私たちの挑戦はまだ始まったばかりである。幸いこのような取組みは市民から好意的に受け取られており,市民に身近なキャラクターとして育てていきたいと考えている。
最後にこのような前例のない取組みを承認し応援してくださった鹿角市教育委員会生涯学習課の皆さま,そして鹿角市立図書館を利用してくださっている市民の皆さまに感謝申し上げたい。
鹿角市立図書館(指定管理者:株式会社リブネット)・川上翔
Ref:
http://www.kazuno-library.jp/archives/684 [718]
https://store.line.me/stickershop/product/1258878/ [719]
2016年6月3日,千代田区立日比谷図書文化館で「アーカイブサミット2016」が文化資源戦略会議により開催された。本稿では,そのなかの昼と夜にそれぞれ開催されたシンポジウムについて報告する。
パブリックドメインの社会・経済・文化的な意義と課題について,3名の登壇者によって意見が交わされた。
青空文庫の大久保ゆう氏は,パブリックドメインの作品を収録する青空文庫において公開された作品が朗読劇等で利用された事例などをもとに,パブリックドメインの社会・経済的価値を示した。また,北米日本研究資料調整協議会(NCC)の活動を引き,パブリックドメインとなっている研究資料情報へのアクセスの確保が海外の日本研究推進においても重要であるとし,学術的な価値についても強調した。
弁護士の野口祐子氏は,米国をはじめとする諸外国でのパブリックドメインの利活用と推進に関する実例紹介のなかで,作品の著作権を放棄し,パブリックドメインとして提供することを示すCC0で公開された大崎駅西口商店会のマスコットキャラクター「大崎一番太郎」を取り上げた。キャラクターの営利目的を含めた二次創作や二次利用は利用者だけでなく,クリエイター・権利者側にもメリットがあると指摘した。
劇作家・演出家/東京藝術大学の平田オリザ氏は,年齢や居住地域にかかわらず文化資本を享受できる環境整備の必要性を訴え,文化資源のデジタルアーカイブ化が文化資本の地域間格差の緩和や文化による社会包摂(文化的活動を通じて社会的弱者の社会参加を果たすこと)に役立つのではないかと期待を寄せた。また,TPP協定による著作権保護期間延長問題については,延長した20年分の著作権料を国際機関に寄付する,発展途上国は著作権料を無償にする,といった欧米にはない戦略をとり,日本がこれまで欧米から受けてきた恩恵を他国に還元することで,長期的な国益獲得や世界平和につながるのではないかと述べた。
司会の東京大学の吉見俊哉氏は,これらを受け,パブリックドメインの広まりやデジタル化は新たな経済的価値を生む可能性を持つと同時に,公共的価値や文化の価値に重きを置く社会への距離を埋める契機になるのではないか,として議論をまとめた。
社会資本としてのアーカイブの利活用を促進するための課題と方策について3名の登壇者によって議論がなされた。
ヤフー株式会社の映像エグゼクティブ・プロデューサーである宮本聖二氏は,近年いくつかの東日本大震災関連のデジタルアーカイブが利用の少なさゆえに人的資源や予算が維持できず閉鎖に追い込まれていることに触れ,個々のデジタルアーカイブをつなぐナショナルデジタルアーカイブを設置し,デジタルアーカイブ全体で利用者を増やすことの必要性を唱えた。そして,自身が「NHKデジタルアーカイブ」の構築・運営に携わった経験から,コンテンツの選択,収集や教育利用などに関し,利用者を増やす具体的方策を提示した。
漫画家の赤松健氏は,アーカイブ活用の問題点として,新しい試みを行う際に現れる「善意の検閲者」や,「正義をふりかざす無関係なひと」,「わずかな間違いも認めない完全主義者」といった人々に言及し“日本を席巻する「コンプライアンス至上主義」”を指摘した。また,既存の著作権者不明等の場合の裁定制度の改善策として(1)柔軟な権利制限規定,(2)円滑なライセンシング体制,(3)名目より「実益」を取る覚悟とその常識化,を挙げた。
日本写真著作権協会の瀬尾太一氏は,著作権者不明の孤児著作物(orphan works)の問題解決こそが日本のコンテンツが利活用されるうえで急務であるとし,その解決策として拡大集中許諾(拡大集中処理),裁定制度の拡張,現状の裁定制度の3つを組み合わせた制度設計を提案した。そして,その際には欧米のような契約社会・訴訟社会ではない日本社会にあった“アジア的なグラデーションのある対応”が望まれると述べた。
加えて,司会の弁護士の福井健策氏からは,現在の裁定制度の課題として,ほとんど現れない権利者のために多額の供託金が必要となる点が指摘された。
最後に2020年までに行うべき方策が議題となった。宮本氏はデジタルアーカイブの思想やその価値を広く国民で共有するため,著作権保護期間満了後も所有者が権利を主張する「所蔵権」問題の解決や,メタデータ整備,多言語対応,人材育成,スマートフォン向けアプリへの対応などの必要性を指摘した。また,瀬尾氏は全国のアーカイブの中心となる組織の設置を提言した。
7時間に及ぶプログラムであったにもかかわらず,昼夜ともに所定の時間をこえて議論が交わされ,昼の部では立ち見が出るほど盛況であった。論点は多岐にわたったが,パブリックドメイン及びデジタルアーカイブの価値の共有・醸成,法改正を含む環境整備が共通の課題として認識された。
東京大学大学院学際情報学府・逢坂裕紀子
Ref:
http://archivesj.net/?page_id=745 [722]
http://archivesj.net/?p=884 [723]
http://togetter.com/li/983220 [724]
E1645 [725]
2016年2月,英国の電子情報保存連合(DPC)が,TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアのデータ保存に関するレポート“Preserving Social Media”を公開した。このレポートは,ソーシャルメディアのデータ保存について,その戦略,課題,事例などを解説している。
◯戦略
基本となる戦略は,データを直接ソーシャルメディアのプラットフォームのAPI経由で収集することや,サードパーティのリセラー(再販業者)からAPI経由のデータの使用許可を受けることなどである。まれにプラットフォームと直接契約を締結することもある。
・API経由の収集
APIを利用すれば,プラットフォームから生データを抽出することができる。またリセラーは,API経由で収集したデータに基づいて製品・サービスを提供するが,プラットフォームによっては公認のリセラーがあり,プラットフォーム上ではアクセスできない過去のデータなどへのアクセスも独占的に提供する。一方,APIについての専門的な知識を必要とせず,高額の費用もかからないので,サードパーティの収集サービスと協力して収集する機関もある。
・プラットフォームとの直接契約
Twitter社と直接契約を締結した事例として,データを取得して長期保存することを目的とした米国議会図書館(LC)(E1042 [727],E1385 [728]参照)と,研究のためデータへアクセスすることを目的とした米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の“Laboratory for Social Machines”(LSM)の例がある。
また,研究者が作成したデータセットはAPIの規約により再利用が難しいので,生データの収集方法やそのデータの組織化の方法など,研究用データセットの作成方法を記述した文献や,たとえばTwitterのツイートIDやユーザーIDなどのデータの識別子を保存しておけば,データセットをある程度再現できる。
その他,自己のアカウントのデータをダウンロードしてバックアップすることができるセルフアーカイビングサービスも,データ保存の有効な選択肢となりうる。
◯課題
ソーシャルメディアには,プラットフォームの運営企業が商業的利益を保護している,ユーザーがコンテンツを作成している,という独自の性格がある。また,データ自体の性格もあり,これらがソーシャルメディアのデータ保存に特有の課題を生み出している。
・商業的利益の保護
プラットフォームの運営企業はデータを販売することで利益を得ているので,プラットフォームのほとんどは,API経由でリクエストできるデータ量や回数を規約によって制限しており,サンプルを抽出するアルゴリズムも公開していない。また取得したデータの共有も認めておらず,データの保存方法にも制限を加えている。そのため,データへのアクセスの確保が難しくなっている。
・ユーザーによるコンテンツの作成
ソーシャルメディアのデータには,個人のプライバシーに関する情報が大量に含まれているので,意図せず個人的な情報が開示されるというリスクがある。また,ユーザーはデータが研究に使用されたり,アーカイブされたりしていることを意識していないので,データの再利用や引用をする際,ユーザーとの間に問題が発生することがある。
ソーシャルメディアで行われているのは「会話」なので,会話がいつ終わっていつ次の会話が始まるかといった境界を識別して選択収集の基準を設定することは難しい。十分なメタデータを保存して,このようなコンテンツ間の文脈を理解できるようにしなければならない。また,コンテンツに埋め込まれたURLのリンク先など,プラットフォームの外部のコンテンツへのアクセスを長期間可能とするためには,その外部のコンテンツも同時に保存しなければならない。
その他,ソーシャルメディアのデータ量は膨大で,かつ急速に増え続けているので,あまりに多くのデータを収集してしまうと大規模なストレージが必要となり,かつデータの利用を可能にするための処理やインデックスの作成も非常に困難になる。また,クラウドのような外部のストレージにデータを保存することは規約により禁じられているので,保存方法にも課題がある。
上記の課題のほか,プラットフォームの運営企業は過去のデータよりも現在のデータに関心があり,またウェブコンテンツと同様にソーシャルメディアのコンテンツも急速に消滅しつつある状況なので,データの長期保存の必要性はますます高まっている。
◯事例
学術研究の事例から,英国カーディフ大学のSocial Data Science Labが使用している“COSMOS”の事例と,アイルランド国立大学(NUI)ゴールウェイ(Galway)校のInsight Centre for Data AnalyticsとDigital Repository of Irelandによるプロジェクト“Social Repository of Ireland”の事例を挙げている。COSMOSは,ソーシャルメディアのデータ研究の統合プラットフォームである。TwitterのストリーミングAPIを利用して毎日全ツイートの1%を取得している。またSocial Repository of Irelandは,アイルランドの主要な出来事に関連したソーシャルメディアのコンテンツのリポジトリについて,その可能性を探る研究を行っている。
また,アーカイブズや図書館などの事例として,研究者が作成したソーシャルメディアのデータセットのうちツイートIDのみを保存しているドイツのGESIS - Leibniz Institute for the Social Sciencesの事例と,英国政府公式のTwitterアカウントやYouTubeチャンネルのコンテンツやそのメタデータなどをAPI経由で収集し,ウェブサイト上で利用可能としている英国国立公文書館(TNA)の“UK Government Web Archive”の事例を挙げている。
◯結論と提言
そもそも,ソーシャルメディアのデータ分析は新しい学問領域であり,またデータ保存は新しい試みなので,標準的な方法やベストプラクティスがまだ存在しない。今後,データアーカイブに対するニーズを評価して,何をどの程度どのような形式で保存するか,その基準を策定する参考とすべきである。また,アーカイブはデータ量が膨大になるので,単独あるいは少数の大規模な中央機関がデータを保存するのがよい。
ソーシャルメディアのデータ保存の取組はまだ始まったばかりである。課題は多く,その性格も多様であるが,今後の進展に期待したい。
関西館図書館協力課・阿部健太郎
Ref:
http://dx.doi.org/10.7207/twr16-01 [729]
http://www.dpconline.org/newsroom/latest-news/1616-capturing-the-conversation-new-report-highlights-the-need-to-preserve-social-media [730]
http://socialmachines.media.mit.edu/ [731]
http://socialdatalab.net/ [732]
http://cosmosproject.net/ [733]
http://dri.ie/projects [734]
http://dri.ie/ [735]
http://www.gesis.org/en/home/ [736]
http://www.nationalarchives.gov.uk/webarchive/twitter.htm: [737]
http://www.nationalarchives.gov.uk/webarchive/videos.htm [738]
E1042 [727]
E1385 [728]
CA1733 [539]
Jonathan Griffin. “Access to Research”: how UK public libraries are offering access to over 15 million academic articles for free. Interlending & Document Supply. 2016, 44(2), p. 37-43.
英国研究情報ネットワーク(RIN)の「研究成果へのアクセス拡大に関するワーキンググループ」が2012年6月に公表した「Finchレポート」では,学術出版社が,公共図書館の利用者に,学術文献への無償でのアクセスを提供するよう求めている。それを受け,英国の出版社団体であるPublishers Licensing Society(PLS)が中心となって,公共図書館にオンラインの学術文献150万件を無償で提供する2年間のパイロットプロジェクト“Access to Research”(A2R)を開始したのは2014年1月のことであった(E1534 [740]参照)。
PLSは,プロジェクトの試行期間を終えるにあたり,その継続の可否を判断する参考資料とするため,イングランド芸術評議会(ACE)からの助言や財政支援を受け,利用者,公共図書館の職員などを対象に調査を実施した。今回紹介する文献は,プロジェクトの内容や調査結果の概要を解説したものである。
プロジェクトの実施にあたって,PLSは,必要な経費・人員を提供するとともに,図書館・出版社双方が合意可能な契約文書を策定し,学術出版社や,国内206の全図書館行政庁に対してプロジェクトへの参加交渉を行なった。学術出版社との契約は,利用可能な文献のリストや期間の設定ができ,いつでも退会可能という内容で,2年間で19の学術出版社がプロジェクトに参加している。また,182の図書館行政庁がプロジェクトへの参加を表明し,約2,500の公共図書館でA2Rの利用が可能となっている。
利用者を分析すると,所得・性別・民族といった面での特徴は見出せないものの,一般の図書館利用者と比べて高齢者・無職の割合が多く,また,高学歴層の割合も高い。次に,上位500位の検索語の解析からは,幅広い分野(歴史・考古34%,健康・生命・医学31%,社会科学28%,法律・政治・行政21%,哲学・宗教19%)で用いられていることがわかった。利用目的に関する調査では,「調査研究のため」(55%),「個人的な関心」(53%)の利用が多く,「ビジネスのため」(26%)が続く。A2Rのサービス内容に関しては,利用者はおおむね好意的に評価し,調査では90%が,同サービスで得た情報は有益であったと答えている。
次に,公共図書館の職員を対象とした調査では,A2Rを利用者に積極的に紹介したい職員(42%)や,普及・支援が自身の役割であると考えている職員(19%)がいる一方,利用者への紹介が消極的である職員(24%)や,サービス内容を理解していない職員(13%)が存在することが判明した。また,利用者を支援したかという質問に対して,52%の職員が支援していないと回答しており,支援したとの回答の大半も,サービスが利用できると伝えただけであったことが明らかになった。利用者を対象としたアンケート調査でも,「サービスを利用する際,職員から案内や支援があったか?」という設問に対して「なかった」と回答した人の割合は68%であり,職員による利用者支援が不十分である実態が垣間見える。その背景として,プロジェクトの責任者でもある本文献の著者は,サービスの普及を目的に国内各地で実施している研修やウェビナー(ウェブセミナー)を受講している職員が少ない(27%)ことが影響していると指摘する。実際,約半数にあたる職員(42%)は,プロジェクトの進展のためには,普及・宣伝活動よりも,研修の充実が必要であると述べている。
PLSは,調査結果を受け,2016年1月,毎年内容を見直すことを条件に,プロジェクトを継続すると発表した。継続にあたって,以下の3点が今後の課題として指摘されている。1点目は,普及のための公共図書館向けガイドラインの策定である。策定の参考とするため,試行期間中に利用が多かった8の図書館行政庁とともにワークショップを開催している。2点目は,利用可能なコンテンツの拡充である。PLSは,既に,参加する出版社の拡大に向け,プロモーション活動を開始している。3点目には,利用可能な文献を同定できるなど,利便性の向上を図るため,広報用ウェブサイトとProQuest社のSummon(CA1772 [741]参照)を活用した検索用インタフェースとを統合することを挙げている。
2年間での利用者数は,8万8,870人と報告されている。大学図書館での利用に比べればまだまだ少ない。図書館行政庁へ働きかけたことにより,多くの公共図書館で利用できるようになったが,図書館職員や住民の認知度はまだ低いようである。また,オープンアクセスを支持する人々からは,図書館の利用者数が減少し,図書館の閉鎖が相次ぐ英国において(E1269 [742]参照),自宅のコンピュータから直接閲覧できないようなプロジェクトでは不十分であるとの批判もある。継続が決まった同プロジェクトの,今後の展開に注目していきたい。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://dx.doi.org/10.1108/ILDS-03-2016-0012 [743]
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/32493/12-975-letter-government-response-to-finch-report-research-publications.pdf [744]
http://www.accesstoresearch.org.uk/ [745]
http://www.pls.org.uk/media/199841/Access-to-Research-final-report-Oct-2015.pdf [746]
http://www.pls.org.uk/news-events/n-access-to-research-given-green-light-to-continue-070116/ [747]
https://www.timeshighereducation.com/news/publishers-launch-free-journal-access-for-libraries/2010999.article [748]
E1534 [740]
E1269 [742]
CA1772 [741]
1999年に米国ではじまった,図書館で子どもたちが犬に読み聞かせをするR.E.A.D.(Reading Education Assistance Dogs)プログラムを知ったきっかけは,『読書介助犬オリビア』(講談社,2009)だった。この本では例えば授業で本を読むとき,訛りや吃音を笑われて人前で読むのが苦手になった子どもや,人と会話することに慣れていない子どもが,訓練を受けた読書介助犬(以下ドクタードッグ)に繰り返し本を読んで聞かせることで苦手意識を克服し,自信をつけることができたという事例が紹介されている。犬たちは本読みの不出来を指摘することなく,じっと耳を傾け,子どもたちを励ましてくれるからである。加えて,子どもたちの読書への興味・関心が格段に高まったということも示されている。これを読んで筆者の所属する,司書課程500名の学生を擁する武庫川女子大学でもR.E.A.D.プログラムを実践し,司書を目指す学生たちに体験してもらいたいと思った。
そして2014年11月,兵庫県の西宮市立鳴尾図書館で「ドクタードッグといっしょにおはなし会」という企画を実施された話を伺い,思いがけずドクタードッグの養成を行っている団体が本学と同じ西宮市内に存在することがわかった。これがNPO法人ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(以下PFLJ)の方々との出会いであった。鳴尾図書館での「おはなし会」は,子どもが犬に読み聞かせをするのではなく,子どもと犬が一緒にお話を聞くというものだった。それだけでも読書習慣化へのきっかけづくりとなることが期待できるが,実際にR.E.A.D.プログラムを実施したい旨をPFLJ事務局に伝えると快諾してくださり,本学の司書課程の授業「図書館サービス特論」の中で取り組むことになった。
「図書館サービス特論」は,半期に1度開講される集中講義で,全15コマを4日間で履修する選択必修科目である。当日を迎えるまでの準備は本学の司書が担当し,当日の進行は学生たちが行った。犬が苦手な子どもに配慮して自由参加の課外活動とし,1回目(前期)は本学附属幼稚園の年長クラスを,2回目(後期)は西宮市立鳴尾小学校1,2年生を対象に,各々教諭を介してR.E.A.D.プログラムのチラシを配布してもらった。参加申込みの受付は,園児は幼稚園事務室,小学生は本学図書館事務室が担い,保護者が直接事務室へ申し込むようにし,当日は保護者の同伴を必須とした。ドクタードッグのストレスを考慮し,子どもの参加は先着20名までとし,参加者へは自身が読み聞かせをするためのお気に入りの絵本1冊以上を持参するように伝えた。なお,当日絵本を忘れた子どもを想定し,あらかじめ本学図書館でもお薦めの絵本を用意した。
司書課程の学生たちには,事前に本学の司書が読み聞かせの方法を指導した。学生同士でも読み聞かせを行い,得意な学生を子どもたちが読み聞かせをする際の指導役に選んだ。普段は聞く側の子どもたちが,ドクタードッグに読み聞かせをしなければならないことから,まず指導役の学生が手本を示し,子どもたちの緊張を優しくほぐすようにしてもらった。その他,学生たちで当日の受付,司会進行,記録などの役割を分担してもらった。
本番当日。司会進行がR.E.A.D.プログラムの趣旨を説明し,ドクタードッグを1匹ずつ紹介すると,子どもたちから歓声があがった。学生が先導しながら犬1匹と子ども4~5名でグループを作り,1人ずつ順番に読み聞かせをした。最初は照れくさそうな子どもがほとんどだが,慣れてくると表情が笑顔でいっぱいになり,一所懸命にドクタードッグへ読み聞かせをしていた。あっという間に1時間が経過し,名残惜しそうにしている子どもたちを見送ったあとは,控室でドクタードッグを労った。この時点で,仕事に集中していたドクタードッグは疲労気味だったが,飼い主からご褒美のお菓子や飲みものをもらい,犬好きな学生たちに褒め称えられると非常に嬉しそうだった。PFLJの方々とドクタードッグたちを見送った後,次回の開催に向けて学生たちとイベント全体を振り返り,改善点を洗い出した。例えば1回目の読み聞かせのときは,PFLJのご厚意により無償で対応していただいたが,今後もこの取組を継続して行いたいと考えたことから,2回目では有償ボランティアとしての対応を依頼した。具体的にはドクタードッグ1匹当たり5,000円を支払うこととした。
そして,本学図書館のホームページで実施報告を掲載したことにより,各種マスメディアに採り上げられ,取材に応じた子どもは「恥ずかしかったけど,ワンちゃんが聞いてくれるので頑張れた」と息を弾ませ,保護者からは「このような読み聞かせを定期的にやってほしい」など,参加者全員から喜びの声が聞かれた。
現在,各所で活躍しているドクタードッグの中には,動物愛護センターで殺処分寸前だった犬もいる。飼い主と出会ってたくさんの愛情を受け,その恩返しをするかのように,あるいは使命感に燃えて子どもたちの声に耳を傾けるドクタードッグの姿に,筆者たちも癒された。今後もR.E.A.D.プログラムを継続して実施していきたい。
武庫川女子大学・川崎安子
Ref:
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010565095-00 [749]
http://www.therapyanimals.org/R.E.A.D.html [750]
http://www.mukogawa-u.ac.jp/~library/kancho/story49.html [751]
http://www.mukogawa-u.ac.jp/~library/kancho/story56.html [752]
http://www.pflj.org/activity/doctor/index.html [753]
http://www.sankei.com/west/news/150819/wst1508190038-n1.html [754]
http://www.mukogawa-u.ac.jp/~library/shisyo/2015_04.html [755]
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/09/03/1361417_04.pdf [756]
E1013 [757]
「図書館ピアサポーターLiLiA」は,2010年9月,当時の白百合女子大学図書館(以下当館)館長であった酒井三喜教授によって発案され, 2011年4月から本格的な活動を開始した。2015年度末で丸5年を迎えたことを機に,この活動をふりかえり,今後の活動のあり方を探りたい。
◯図書館ピアサポーター,LiLiA(リリア)とは
ピア(peer)とは,英語で「仲間」という意味である。学生の仲間は学生であり,学生が学生をサポートする活動は,ピアサポート活動と呼ばれる。2016年4月現在,本学には事務部署が所管するピアサポート活動が7団体あり,「白百合ピアサポーター」と位置づけられている。
LiLiAはLibrary Liaison Assistantの略である。Liaison(リエゾン)は,日本語にすると「つながり」で,LiLiAは「図書館内の何かと人とをつなげるのを補佐する人」という意味が込められている。人(学生や教職員)と図書館,人と本など,図書館にあるものと人をつなげる役割がLiLiAにあり,当館を舞台にピアサポート活動を行っている。
◯学生,教員,図書館員が協働する活動
LiLiAは,この活動に参加する学生を中心に,教員と図書館員(以下職員)が協働している。教員は,本学の図書館運営委員会のメンバーの8名が参加している。LiLiAは図書館事務部が所管し,学生生活課が所管するクラブ活動とは組織が異なる。学生,教員,職員の協働というコンセプトは,酒井館長の発案によるものであった。
◯LiLiAの活動のあゆみ
2010年9月,ポスターによる募集活動を経て,学生7名で発足した。11月には学内の公募で選ばれた「ミス・リリアーヌ」をLiLiAのマスコットキャラクターに採用した。
2011年4月,学生は8名となり,LiLiAの活動を報告するフリーペーパー「LiLiA TIMES」を創刊した。館内の見回り(各フロアのキャレル清掃,資料の請求メモや館内備え付けのメモ用紙の補充,書架チェックなど,館内を整理する活動のこと),当館主催の選書ツアーや講演会への協力,図書展示,オープンキャンパスでの館内説明といった活動から開始した。
2012年4月,クラブ活動紹介イベントであるクラブオリエンテーションに参加し,活動紹介を行ったが,この年度は学生8名の小規模な活動となった。
2013年4月はLiLiAの新入生に対して職員が館内見回りのレクチャーを行った。10月11日の国連「国際ガールズ・デー」イベントに協力する白百合ピアサポーターのCosmopolite(コスモポリット)の依頼で,関連図書展示を開催した。2013年度は学生13名での活動となった。
2014年5月,館内に3つ目のカウンター「LiLiAコントワール」を設置し,LiLiAが図書資料探しサポート,本館の場所案内などの学生へのサポートを開始した。7月は本学司書課程の今井福司講師(当時)の提案により,オリジナルのTシャツ,グッズ(クリアファイル,しおり,ブックカバー)を製作し,10月は大学祭に初出展した。11月には図書館総合展ポスターセッションに初出展し,会場で他の大学図書館サポーターと交流する機会があり,桜美林大学学生サポーターによる読書運動プロジェクトの読書会イベントに参加。2月に帝京大学共読サポーターズと嘉悦大学図書館の学生スタッフLiss(Library Student Staff)が当館に来館し,LiLiAが館内説明を行った。2014年度は学生18名となり,学外での活動を実現することができたほか,大学図書館サポーターと交流できるようになった。
2015年5月,職員に代わって上級生が新入生に対する館内見回りのレクチャーを実施できるようになり,新入生との交流会も開催した。8月は嘉悦大学情報メディア図書館を訪問し,Lissによる,カフェのようにリラックスできる環境でテーマに集中した話し合いを重ねるイベントであるワールド・カフェにも参加した。9月はSLiiiCサマー・ワーク・キャンプ2015(E1718 [759]参照)でこれまでの活動報告を行い,オリジナルグッズ(缶バッヂ,クリアファイル)販売も行った。11月は図書館総合展キャラクターグランプリ(E1760 [760]参照)にエントリーした。2015年2月,図書館関連企業の株式会社クマヒラ,キハラ株式会社を訪問し,ショールームで入館ゲートや防犯カメラなどの最新セキュリティー商品や,図書館用事務機器,図書装備用品を見学し,両社の社員に自社を含めた図書館関連業界について説明していただいた。
◯おわりに
LiLiAは学生の人数が安定しない時期があり,活動内容も試行錯誤を繰り返したが,上級生中心に学生自身が発案して活動する仕組みができたことはこの5年間の活動の大きな成果である。2015年度,LiLiAに参加する学生は28名を数えるまでになった。常にLiLiAを支援してくださった酒井三喜教授(2016年3月に退任)に感謝申し上げたい。
2016年度にはLiLiAによる新企画が始まる。進化するLiLiAの活躍と活動の広がりにご注目いただきたい。
白百合女子大学図書館・栗原愼治
Ref:
http://www.shirayuri.ac.jp/lib/lilia/ [761]
http://www.shirayuri.ac.jp/campus/association/ [762]
http://www.shirayuri.ac.jp/lib/lilia/pdf/liliatimes201101.pdf [763]
https://twitter.com/shirayuri_lib [764]
http://www.jcross.com/plaza/tokatsu/post-19.html [765]
https://ja-jp.facebook.com/shirayuricollege.kokusaihiroba/ [766]
http://imc.kaetsu.ac.jp/liss/ [767]
http://www.eijipress.co.jp/blog/2013/10/09/16619/ [768]
http://www.eijipress.co.jp/blog/2013/09/27/16245/ [769]
http://www.shirayuri.ac.jp/news/2015/20150316_01.html [770]
http://2014.libraryfair.jp/node/2426 [771]
https://twitter.com/obirin_reading [772]
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/tos-kyodoku006.html [773]
E1718 [759]
E1760 [760]
CA1795 [774]
2016年1月25日,福岡県立図書館で,九州・沖縄地区図書館&がん相談支援センター連携ワークショップ「いつでも,どこでも,だれでもが,がんの情報を得られる地域づくりをめざして」が開催された。
このワークショップは,国立がん研究センターがん研究開発費「がん情報の収集と効果的な活用,そして評価の在り方に関する研究」(研究代表者:国立がん研究センター・高山智子),科学研究費助成事業「市民の健康支援のための価値互酬型サービスを支える知識共同体の構築」(研究代表者:慶應義塾大学・池谷のぞみ),福岡県立図書館が合同で開催した。主催者であるがん研究センターと慶應義塾大学の研究班では,2015年1月にも大阪府の豊中市立岡町図書館において,「公共図書館員のための医療情報サービス研修会 in 大阪」を開催している。今回のワークショップは,九州・沖縄地区のがん相談支援センターと公共図書館を対象にしたもので,九州・沖縄地区には医療機関が身近にない離島などの地域が多いという特性がある。ワークショップの目的はがんに関する情報の提供によって,患者と家族を含む市民を効果的に支援していくためには,互いにどのような連携を進めればよいのかについて共に考える機会を設けることであった。
福岡県立図書館の大場茂嘉館長からの開会の挨拶の後,前半に図書館とがん相談支援センターの連携プロジェクトに関する2つの講演の後に4つの先進的事例報告があった。
まず,がん相談支援センターの立場から高山氏が,公共図書館の立場から慶應義塾大学の田村俊作氏が,図書館とセンターの連携について報告した。両者の報告では,看護師やソーシャルワーカーなどのがん専門相談員が配置されているがん相談支援センターと身近で気軽に立ち寄れる公共図書館の連携により,市民が充実した健康・医療情報を入手できる環境が実現する可能性があることが示された。
続いて,病院の相談支援と患者図書室・公共図書館との連携の事例4件が報告された。最初に愛媛大学医学部附属病院がん専門相談員の塩見美幸氏が,2011年5月に開設した同院の患者図書室「ひだまりの里」での取り組みについて報告した。同室では,平日の午前中,常駐している専門看護師や認定看護師が相談に応じ,看護師が不在の時間帯でも,相談の希望があれば司書が看護師に電話をつないでいる。このほかに患者やその家族の交流の場である「がんサロン」を図書室で定期的に開催するなど,図書室を活用しての情報提供や相談支援機能の充実が図られているということであった。
埼玉県立久喜図書館の小西美穂氏は,2009年度から「がん情報」などのコーナーを中心として提供している健康・医療情報サービスについて報告した。埼玉県の疾病対策課の協力を得て,患者会と連携した展示会を行うことを通して,がん相談支援センターを含む各組織とのつながりができ,多角的な情報提供が可能になったという。最近では「妊活情報」「見て・聴いて・感じる読書(印刷された文字が読みにくい方のための読書支援)」のコーナーを作った。さらに,健康・医療情報を選択する際に必要となる情報リテラシーをまとめた小冊子『健康・医療情報リサーチガイド@埼玉』を図書館が作成し,反響を呼んだことも紹介された。
長崎市立図書館の下田富美子氏は大雪により登壇が叶わず,代わりに上映された下田氏のプレゼンテーション資料と,図書館が2014年10月に作成したがん情報サービスを紹介する動画(E1656 [776]参照)からは,その成果の大きさと同館の図書館員の熱意が伝わってきた。同館では2011年より「がん情報コーナー」を設置し,ブックリストの作成や病院等と連携して講座の開催等を行っている。
前半の締めくくりとして,大阪南医療センターのがん専門相談員萬谷和広氏は,大阪南医療センターと河内長野市立図書館が互いの見学から始め,各機関が発行した印刷物を互いに提供し合い,共同で講演会を開催するに至った1年間の連携の経緯を紹介し,医療機関と図書館が連携を始めるステップとその留意点について述べた。
当日の後半は,参加者が10班に分かれ,各自の取り組みを紹介し合い,図書館と医療機関との連携について活発な議論を交わすとともに,連携をしていくうえでの課題やアイデア等を出し合った。
最後に,九州がんセンターの藤也寸志氏から閉会の挨拶があり,閉会した。
当日は記録的な大雪で交通機関に大きく乱れが出たが,九州・沖縄から,公共図書館や病院の患者図書室の職員,がん診療連携拠点病院等に設置されているがん相談支援センターのがん専門相談員,自治体の医療行政の担当者58名が参集し,関係者を含めて総勢83名が参加した。本ワークショップ実施後,参加した福岡県飯塚市の飯塚病院等の働きかけで,飯塚図書館と近隣の桂川町立図書館に「がん情報コーナー」が設置されたとの報道が最近あり,手応えを感じている。医療機関と図書館の連携が進み,より充実した健康・医療情報に市民が触れられるようになることを期待している。
慶應義塾大学文学部・須賀千絵,池谷のぞみ
Ref:
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/20160125.html [777]
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_02.pdf [778]
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_03.pdf [779]
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_04.pdf [780]
http://ganjoho.jp/data/hospital/consultation/files/salon_guide01.pdf [781]
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_05.pdf [782]
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/reference/milestone/health_researchannai.html [783]
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_06.pdf [784]
https://www.trc.co.jp/information/150108_nagasaki.html [785]
https://www.youtube.com/watch?v=vYGY_bBNdRI [786]
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_07.pdf [787]
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-15H02788/ [788]
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/medical/article/247979 [789]
E1656 [776]
Steve Coffman. The Cloud Catalog: One Catalog to Serve Them All. Online Searcher: Information Discovery, Technology, Strategies. 2015, 39(6).
図書館目録は,ウェブにおける存在感が薄い。当文献は,米国の公共図書館は全体で約1億7,000万人の登録利用者を抱え,全米で読まれている本の約半数を所蔵しているにもかかわらず,検索エンジンで本のタイトルを検索すると,オンライン書店やソーシャル読書サービスのGoodreadsの方が,圧倒的上位に表示されるという現状を指摘する。サービスへのアクセス数を比較すると,Goodreadsは,1か月に2,140万人がアクセスし,米国におけるアクセス数ランキングが67位であるのに対して,WorldCatは,2015年4月のアクセス数がわずか49万人でランキングは3,748位とのことである。
Steve Coffman氏は,図書館目録の存在感を高める方法として「クラウド目録」の構築を提案する。これは,図書館が主体となって,書誌,書評,入手手段等の情報を1つに集めたウェブサービスを提供することで,現在は各図書館の目録に分散している利用者のアクセスを集約し,検索結果の上位に表示されるようにするというアイデアである。本稿ではその概要を紹介する。
クラウド目録が目指すべき要件は以下の通りである。
クラウド目録に取り組むことによる図書館の大きなメリットとしては,コストの削減が挙げられる。クラウド目録のシステム構築とメンテナンス,書誌作成やデータ管理を少数の管理者とスタッフで請け負い,各図書館での業務の大部分がクラウド目録のデータと同期化する作業に取って代わられれば,大幅にコストを削減できる。
一方で,システム構築とメンテナンスにはそれほど費用がかからないと予想する。例えば,Goodreadsの構築にかかった費用は約280万ドルで,仮に全米9,082の公共図書館で負担すると想定すると,1館の負担額はたったの308ドルですむ。クラウド目録の要件を実現するにはより複雑なシステムが必要だが,個別の機能はすでにオープンソースで開発されているため,コストが高額になることはないはずである,とCoffman氏は述べる。
コストについては,さらに,以下のような提案や事例紹介をしている。
また,クラウド目録を実現できそうな機関の1つとしてWorldCatやその関連サービスWorldShare Management Services(E1250 [792]参照)等を構築しているOCLCを挙げる。しかし,現状では,OCLCはSchema(E1192 [419]参照)というウェブ上の情報に意味を記述する手法も駆使して検索エンジンにデータを提供しているにもかかわらず,Googleの検索結果の1ページ目にWorldCatの書誌が表示されることはほとんどない。さらに改善が必要な点として,各図書館のシステムの所蔵情報が随時反映されないことや,システムにソーシャル機能も備わっているもののほとんど活用されていないことも挙げている。
当文献では,クラウド目録というアイデアについて,主に,利用者と図書館のメリットに注目して紹介しているが,オンライン書店やSNS運営機関にとって,図書館利用者のアクセスを集めることがどの程度メリットとなり得るかが,実現の鍵を握ると思われる。
総務部総務課・小笠原綾
Ref:
http://www.infotoday.com/OnlineSearcher/Articles/Features/The-Cloud-Catalog-One-Catalog-to-Serve-Them-All-106464.shtml [793]
http://www.oclc.org/go/goodreads [794]
https://www.oclc.org/worldshare-management-services.en.html [795]
E1386 [154]
E1250 [792]
E1192 [419]
CA1760 [791]
Prerna Singh. Open access repositories in India: Characteristics andfuture potential. IFLA Journal. 2016, 42(1), p. 16-24.
インドにおけるオープンアクセス(OA)リポジトリについて調査した本文献は,まず,インドにおけるOAの歴史を解説する。その上で,OAリポジトリに関する各種データをもとにインドのOAリポジトリについて分析し,その特徴を明らかにしている。
◯インドにおけるOAの歴史
インドにおけるOAは,1998年,物理学のOAジャーナル“Pramana”が創刊したことに始まる。インド国内初の機関リポジトリは,2002年にT.B. Rajasekhar氏によって開設されたEprints@IISc [798](CA1682 [799]参照)であり,その後多くの政府機関や大学がリポジトリを開発した。2006年には国家知識委員会(National Knowledge Commission:NKC)がOAの採用を推奨し,国立科学コミュニケーション情報資源研究所(National Institute of Science Communication and Information Resources:NISCAIR)が,発行する雑誌全17タイトルをOAとした。2009年2月には,科学工業研究委員会(Council of Scientific & Industrial Research:CSIR)が,所管する37の研究機関にOAリポジトリの開設を勧告した。
インド政府は,2014年にOAポリシーを承認し,公的資金の助成を受けた研究の成果を,インドの法律や助成機関の知的財産ポリシーに従いできる限り速やかに公開することを義務化した。これはインドのOAの動向において特筆すべきものである。
◯インドのOAリポジトリの特徴
2015年1月時点での,OAリポジトリのレジストリOpenDOAR(Directory of Open Access Repositories)に登録されているインドのOAリポジトリ68件のデータと,世界のリポジトリのランキングRanking Web of Repositoriesのデータをもとに,インドのOAリポジトリについて分析し,その特徴を明らかにする。
インドのOAリポジトリ数は,2007年の16件から着実に増加してきた。アジアにおいては,インドの68件は日本の145件に次ぐ数であり,台湾の58件,トルコの45件,中国の39件,インドネシアの38件がそれに続く。
リポジトリの種類は,機関リポジトリが69%(47件)を占め,その他は,分野別リポジトリ7%(5件)などとなっている。リポジトリによく使用されているソフトは,DSpace(62%)とEprints(29%)である。
コンテンツ数は,インド学士院(Indian Academy of Sciences)のリポジトリが約9万2,000件で最も多く,インド科学大学(Indian Institute of Science:IISc)のリポジトリの約3万9,000件がそれに続く。ただし,コンテンツ数が1,000件未満のリポジトリと,1,000件以上1万件未満のリポジトリが,それぞれ40%弱を占める。
主題については,特定主題に限定されないリポジトリが43%(29件)を占める。
コンテンツの種類については,雑誌記事が74%(50件),学位論文が50%(34件),会議資料が44%(30件)のリポジトリで収録されている。
言語については,76%(52件)のリポジトリが英語のコンテンツのみを,2%(1件)がマラーティー語のコンテンツのみを収録しており,その他22%(15件)のリポジトリは複数の言語のコンテンツで構成されている。
ポリシーについては,メタデータ・データ・コンテンツ種別・登録・保存などに関してポリシーを明示しているリポジトリは,12%(8件)に過ぎない。
OAI-PMHは,53%(36件)のリポジトリが準拠している。
Ranking Web of Repositoriesには世界のリポジトリ2,154件が挙がっており,そのうちインドのリポジトリは35件である。これは,OpenDOAR収録のインドのリポジトリ68件のうち33件はRanking Web of Repositoriesに挙がっていないことを示している。
著者は,インドの大学・研究図書館は「OAリポジトリの道」(the path of open access repositories)を足早に歩んでいる,と結んでいる。アジアにおいて日本に次ぐ数を誇るインドのOAリポジトリの動向は,今後も注視すべきだろう。
関西館図書館協力課・阿部健太郎
Ref:
http://www.ifla.org/node/10259 [800]
http://doi.org/10.1177/0340035215610131 [801]
http://www.ias.ac.in/pramana/ [802]
http://eprints.iisc.ernet.in/ [803]
https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=1271 [804]
http://www.dst.gov.in/sites/default/files/APPROVED%20OPEN%20ACCESS%20POLICY-DBT%26DST%2812.12.2014%29_1.pdf [805]
http://www.opendoar.org/ [806]
http://www.ias.ac.in/http://www.iisc.ernet.in/ [807]
http://repositories.webometrics.info/ [808]
CA1682 [799]
国立国会図書館(NDL)の大滝則忠館長が2016年3月31日付けで退任し,翌4月1日付けで羽入佐和子が第16代の館長に就任した。これまでの経歴やNDLへの印象,これからのNDLや図書館のあり方について羽入新館長にインタビューを行った。
――館長は哲学の研究者でもいらっしゃいますが,研究者となるまでについてお聞かせください。
教育熱心で自由な雰囲気の家庭に育ちました。当時はまだ女性の大学への進学率が一桁程度でしたが,女子にも高等教育を受けさせるというのが両親の考え方でした。大学に入るまでは,どちらかというと理系分野,特に宇宙やコンピューター,ロボットなどに興味をもっていました。大学はお茶の水女子大学(以下お茶大)に進学して哲学を専攻したのですが,今で言うAI(人工知能)と人とはどう違うのだろう?人間とは何か?といったことに関心を抱いていました。
学部生の頃は特に研究者になるつもりはありませんでしたが,それでも研究の道に進んだのは,自分の研究テーマを深めたくなったのと同時に,将来を確定しないことへの魅力もあったような気がします。就職すると先が見えてしまいそうで。
――お茶大の附属図書館長,学長を歴任されましたが,印象に残っている取り組みをお聞かせください。
2005年に図書館長に就任した当初,学内の先生方からの附属図書館の評価がとても低いという話を聞きました。大学の附属図書館は大学の顔でもあると考えていましたので,図書館をアピールしようと,職員と相談しながら,まず附属図書館の理念をつくることにしました。半年ほどかけてできたのが,「お茶の水女子大学附属図書館は,時間と空間を超える知的交流の場であり,次世代の知を創造し発信する学術情報基盤として機能する。」という理念です。この文言を図書館の入り口に掲げました。
図書館長を4年間務める中では一貫して,「共に学び,共に成長する」を1つのコンセプトにしていて,その具体化の1つがラーニングコモンズ(CA1804 [381]参照)でした。図書館が,共に学び共に成長するための人と人との出会いの場となるよう,少ない経費で附属図書館を全面改修しました。お茶大のラーニングコモンズは日本の国立大学では初の試みだったようです。
2009年にお茶大の学長になったあとも「共に在ること」を基本的なコンセプトとして様々な取り組みを行ってきました。図書館に関係することでは,2014年度に,千葉大学,横浜国立大学とお茶大の三大学で紙媒体の雑誌のバックナンバーを対象とした共同分散保存を行うシェアード・プリントの協定を結んだことがその一例です。また,図書館を中心とした入試改革もあります。「新フンボルト入試」という言い方で注目された新たな入試制度で,高い評価をいただいてきた従来のお茶大独自のAO入試をいっそう充実させたものです。「深い」教養と「広い」専門性を身につけた人を育てるために,大学の教育に堪えうる伸びしろのある学生に入学してもらうことを目的として,文系志望者には図書館を活用してレポート作成やディスカッションなどを行い,理系志望者には実験室を活用する入試で,「図書館入試」(E1717 [810]参照)や「実験室入試」とも呼ばれています。
――利用者としてご覧になっていてNDLの印象はいかがでしたか?
研究で利用するときに大学の図書館を介してNDLの資料を借りることが多くありました。東京本館を利用したことも何回かありますが,当時は入館するのに何時間も並ぶ時代でした。複写をお願いしたこともありましたが,必要な箇所を館内で筆写することもありました。一利用者としては,NDLは特別な図書館というイメージでした。
――これからのNDLや図書館についてどのようにお考えですか?
NDLの最も重要な使命は,国会に奉仕する図書館として,国の将来を審議する国会の議論に資する資料や情報を提供することであると考えています。そのための資料・情報はできる限り正確で客観性の高いものであることが求められます。
一般的には,図書館は単に資料を提供するだけでなく,ある種の文化的象徴でもあると思っています。そして図書館はそれぞれを特徴づける機能を担っています。例えば,公共図書館には公共サービスを提供する機能が期待されるでしょうし,大学図書館は,学びの場であると同時に,学術情報を提供し,研究成果を蓄積する役割も果たしています。NDLには,納本制度に象徴されるように,国民の文化的成果を収集し保存するという固有の使命もあります。今後は,NDLが果たすべき役割をさらに吟味し,強化してゆく必要があります。
この点からも,長尾元館長が積極的に取り組んだ電子図書館機能は重要です。また,大滝前館長は,現在のNDLは,デジタル情報を収集,保存して利用できるようにしていく第二創業期にある(E1289 [811]参照)と表現しました。情報,コンテンツ,ネットワークのあり方が大きく変化する中で,新たな状況に対応するためには,NDLが収集すべき資料・情報とは何か,収集した情報をどのように分類し整え,どのように提供するのか,など,考えるべきことが多くあります。このような課題に対処するためには,これまでとは異なる発想が必要です。
――新館長としての抱負をお聞かせください。
NDLは2018年に開館70周年を迎えますが,さらにその先の開館100周年を見据えた長期的な構想を職員とともに描いておきたいと考えています。そのためにも,NDLを多くの皆様にいっそうご理解いただけるように努めてまいります。
――最後に図書館界に対するメッセージをお願いします。
様々な性格,機能を有する図書館がそれぞれの特色を活かしながら,共に文化の基盤を担い発展させていくことができればと考えています。
これまでのNDLへのご協力とご理解とご支援に心から感謝申し上げますとともに,これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
読者の皆様にも日頃のご支援に感謝申し上げます。NDLがその使命を十分に果たすことができますように努めてまいりますので,引き続きカレントアウェアネスにご関心をお寄せいただけましたら幸いです。
編集・聞き手:関西館図書館協力課調査情報係
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/greetings.html [812]
E1717 [810]
E1289 [811]
CA1804 [381]
日本図書館協会(JLA)は2016年4月の障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)施行に向け、2015年12月に「図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言」を発表し、次いで2016年3月「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」(以下ガイドライン)を発表した。
障害者差別解消法は障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)(E705 [813]参照)批准に向けた国内法の整備の中で制定されたもので、権利条約及びその後改正された障害者基本法を具体的に実現するための法律である。
JLAは図書館の業務に即した,より具体的な取組を明らかにすることを目的にこのガイドラインを作成した。ガイドライン作成はJLAの障害者サービス委員会を中心に行い、パブリックコメントの実施、案段階でのセミナーの開催、専門家からの意見聴取等の結果を参考にした。
障害者差別解消法の考え方は、従来の福祉的発想と異なり、障害者を含むあらゆる人が社会で平等に生きていくことを、社会自らが保障することを目的とするものである。この法律のポイントは、(1)不当な差別的取扱いの禁止と、(2)社会的障壁を除去するために合理的配慮の提供と基礎的環境整備の2つを提示していることにある。
ガイドラインでは、これらの用語の意味を図書館に即して明らかにするとともに、その具体例を示している。さらに合理的配慮の提供と基礎的環境の整備について、より詳細に何を行なうべきか規定した。また、従来図書館が実施してきた障害者サービス(図書館利用に障害のある人々へのサービス)との関係も明らかにした。
次にガイドラインの内容を紹介すると、1の基本事項の中で、ガイドラインの目的、対象となる図書館、対象となる障害者、対象となる業務・サービス等を規定している。対象となる図書館は公立図書館だけでなく、私立図書館や専門図書館、大学図書館、学校図書館等あらゆる図書館である。さらに、対象となる障害者として、いわゆる心身障害者にとどまらず、例えば高齢者や、入院患者、寝たきり状態の人、外国人など図書館利用に何らかの障害がある人すべてが対象であるとした。2では障害に基づく差別や社会的障壁の意味を明らかにし、3で図書館において不当な差別的取扱いにあたるものを例示しながら説明している。
4は合理的配慮の項目で、その意味や具体例を示している。また、障害者差別解消法では、差別の解消について「実施に伴う負担が過重でないとき」は合理的配慮を行わなければならないとされており、過度な負担に当たるかどうかが問題となりやすいことから、(1)事務・事業への影響、(2)実現可能性(物理的・技術的制約、法的・制度的な制約、人的・体制上の制約)、(3)費用・負担の3つについての程度と(4)財政・財務状況という4つの要素を示し、これらから個別かつ客観的に判断すべきであるとした。ただし、これらの判断基準は合理的配慮の不提供を理由付けするためにあるものではなく、あくまでも法の趣旨を損なうことのないよう、障害者への前向きな対応が必要である。
5は基礎的環境整備の項目で、まず、その考え方を示し、続いて図書館における具体的な基礎的環境整備について6つの項目(職員の資質向上のための研修会、施設設備の整備、読書支援機器、障害者サービス用資料、サービス、アクセシブルな図書館ホームページ・広報等、規則・ルールの修正)にわけて具体例を挙げている。現在公開されている他の機関の対応要領等で基礎的環境整備を明確に位置づけているものはあまりない。ガイドラインでは、基礎的環境整備の重要性を説明するとともにその具体的内容を示しており、大きな意味がある。
6はガイドライン実施のために必要なこととして、相談体制や職員の対応方法を示し、図書館や図書館職員と障害のある利用者との関係、障害のある職員の活用について触れている。また、最後に用語解説と参考資料も付した。
図書館はこのガイドラインを活用し、図書館利用に障害のある人に不当な差別をしてはならないことはもちろん、図書館サービスに内在する社会的障壁を、合理的配慮の提供と基礎的環境整備により解消していくべきである。障害者権利条約で「合理的配慮の不提供」が差別として規定されており(第2条),図書館のルールや規則を根拠に障害者の利用を拒否することは許されない。では具体的に図書館は何をどうすればよいのか。その答えをガイドラインが示している。
日本図書館協会障害者サービス委員会・佐藤聖一
Ref:
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/sabekai_guideline.html [814]
http://www.jla.or.jp/demand/tabid/78/Default.aspx?itemid=2785 [815]
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25HO065.html [816]
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/sabekai_guideline_an.html [817]
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc8/convention131015.html#ARTICLE2 [818]
E705 [813]
本稿では,いわゆる「忘れられる権利」について,国際図書館連盟(IFLA)の声明を中心に紹介する。
◯EU一般データ保護規則における「忘れられる権利」
「忘れられる権利」については様々な議論があるが,最近,公にされたものとして,EU一般データ保護規則を紹介する。同規則は,2016年4月14日に欧州議会により最終承認され,2018年5月25日から,EU加盟国に直接的に適用される。2012年1月に欧州委員会が示した規則提案,2014年3月に欧州議会の修正(E1572 [820]参照),2015年6月に閣僚理事会の修正,2015年12月の三者会談による合意を経て,最終的に,同規則第17条の表題は,「消去権(「忘れられる権利」)」(Right to erasure (‘right to be forgotten’))となった。同条に基づき,データ主体(識別された又は識別され得る自然人)は,管理者(個人データ処理の目的と手段を決める自然人,法人,組織等)に対して,個人データの消去を求める権利があり,そして,管理者は,当該個人データが収集された目的と無関係になった場合など一定の場合には,個人データを消去する義務を負う。その際,管理者は,利用できる技術,実施コストを考慮に入れて,合理的な手段を選択できる。「忘れられる権利」に関し,個人データの消去について明確な権利性を認めたと評価できよう。
◯「忘れられる権利」についての立場
EU一般データ保護規則の成立に先立ち,2016年2月25日,IFLAは,「忘れられる権利」に関する声明を発表した。声明では,「忘れられる権利」が様々な概念を含むことに留意し,広く情報源の消去にまで及び得ることを指摘する。その上で,昨今の議論における「忘れられる権利」の射程について,IFLAは,ウェブ上の情報源の削除ではなく,検索結果のリンクの削除を検討するものであるととらえている。一般的に,情報を破壊し,インターネット上での利用を不可能にするものではないが,公表済み情報の検索を困難にするものであると評価している。
情報に関する職務との関係では,IFLAは次のような考えを示す。司書などの情報に関する職務に従事する者の役割は,情報の内容を組織化して示すことであり,それにより,利用者は,必要となる情報を見付けることができるとする。そして,「忘れられる権利」は,公人(public figure)の氏名に基づくインターネットでの調査のように,公衆の正当な関心事として認められる行為を阻害し得るもので,また,系譜学又は歴史学のための調査を困難にするおそれがあると述べる。
また,IFLAは,情報の利用可能性が損なわれた場合又は情報が破壊された場合には,情報へのアクセスの自由が十分に保障されなくなることを懸念する。ウェブ上で情報へのリンクが削除されれば,多くの場合,当該情報へのアクセスは不可能になり,ひいては,表現者や公表者の表現の自由も制約されると指摘する。
◯個人のプライバシーとの関係
従前から,個人のプライバシー保護についてもIFLAは言及してきた。2008年12月に,「歴史的記録に含まれる個人識別可能な情報へのアクセスについての声明」を公表し,情報へのアクセスの自由とプライバシーの関係について考え方を示した。そこでは,IFLAは,情報へのアクセスの自由及び表現の自由という原則は,現在の資料のみならず,歴史的記録における個人的及び私的な原資料に関しても適用されるとした。そのような個人情報は,短期的には,公表や検討の対象から保護されることもあるが,人類共通の遺産として保存され,長い時を経過したものについては,利用できるようにすべきであるとする。
これを受けて,今回の声明でも,IFLAは,公共の利益に反しない限り,生存する個人のプライバシーを保護することを認めるが,これらの情報について永久に非公開とすること,又は,記録を破壊することは支持できないと表明している。
また,図書館は公共の利益に仕えるという観点から,IFLAは,一般的に,公表された情報へのアクセスを促進するが,一方で,次のような場合は例外とする。それは,情報が真実でない場合,不正又は違法な手段により利用される場合,極めて個人的な情報である場合,不当な扱いを助長する場合等で,このような場合に該当する情報は,個人の評判や安全を損なうとみなすとしている。インターネット上のこのような事態へ対処するために用いられる場合には,「忘れられる権利」という概念は,概ね受け入れられるものであるが,実際の運用時の個別事情に左右され得るものであろうという考えを示している。
最後に,IFLAは,加盟する構成員に対して,「忘れられる権利」に関する議論に参加し,懸念される事項を把握することなどを強く勧めている。
調査及び立法考査局行政法務課・今岡直子
Ref:
http://www.ifla.org/node/10273 [821]
http://www.ifla.org/node/10272 [822]
http://www.ifla.org/publications/ifla-statement-on-access-to-personally-identifiable-information-in-historical-records [823]
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9055526_po_0854.pdf?contentNo=1 [824]
E1572 [820]
◯ミッションとしての地域社会貢献
大学,そして大学図書館にとって,地域社会貢献は重要なミッションの一つである。「龍谷大学図書館の理念と目標」(2014年3月制定)においても,「本学が有する知的資源の公開や施設の開放等を通じて,地域・社会に貢献する」という目標を掲げている。その目標を達成するための新たな取組みとして,龍谷大学図書館(以下当館)は2016年4月1日から大津市議会(以下市議会)議員及び議会局の利用受入を開始した。滋賀県大津市は本学キャンパスの一つである瀬田学舎の所在地である。
当館が地方議会を組織的に受け入れるのは,全国初の取組みである。そのため,2016年1月28日のプレスリリース後には,複数の新聞社から問い合わせがあるなど,少なからず反響があった。また,図書館関係者の関心も高いと聞く。
以下,当館が市議会を受け入れるに至った経緯を紹介し,今後の参考に供したい。
◯龍谷大学と市議会との協定
2011年11月,本学と市議会はパートナーシップ協定を締結した。協定の目的は,本学が有する専門的知見を活用して議会改革を推進し,政策課題への適切な対処と地域社会の発展を実現することである。そのために,例えば議員研修において本学教員が講師として議員の質問力や政策形成能力の向上を図るといった活動を展開している。
こうした活動が認められ,全国の首長や議会の先進的な取組みを評価する、ローカルマニフェスト推進地方議員連盟等が主催するマニフェスト大賞(第8回,2013年開催)では,市議会の「大学との連携による議会からの政策提案」がマニフェスト大賞(議会)を受賞した。
◯市議会からの協力依頼
このように本学と市議会との連携実績が積み重ねられるなか,2015年8月下旬に市議会より当館に対して依頼があった。それが,地域課題や政策を理解・分析し論点提起する「議員力」のさらなる向上を目的とした図書館資料等の利用,及び議会図書室の整備充実にかかる相談・協力である。
現在,市議会は議会基本条例(2015年制定)の具現化のために策定した議会版実行計画「ミッションロードマップ」に基づき,政策立案と議会改革に取り組んでいる。このうち,議会改革の一つとして「議会図書室の充実」を掲げている。地方自治法第100条第19項では,議会に図書室を設置することが定められている。しかし,ほとんどの議会で図書室が十分整備されず,本来の機能を果たせていない(CA1794 [828]参照)。この点,市議会も例外ではなかった。そこで,当館の協力を得ることで,政策立案機能の向上と議会図書室の整備充実の促進を図ろうとしたのである。
市議会からの依頼に対し,当館では関係学部・部署とも調整しつつ,受け入れの可否を検討した。その結果,冒頭で紹介した、当館が目標の一つに掲げる地域社会貢献活動の新たな展開としても有意義であると判断し,協力することに決した。ただし,当館の利用については,本来的な利用者である学生及び教員の利用に影響を与えない範囲で認めることとした。具体的には,議員らの利用範囲等について,原則として本学エクステンションセンターの生涯学習講座会員に準じた取扱としている。
◯図書館における受け入れ準備
市議会議員を利用者として受け入れるにあたって,いくつかの事前準備を行ってきた。まずは当館職員が議員の活動についての理解を深めるべく,議員研修資料(本学教員作成)の精読,地方議員対象の質問力研修(本学地域連携事業担当部署が主催)への見学参加,市議会一般質問の傍聴などにより情報収集を行なった。その内容は,他の図書館員や業務委託スタッフと共有した。また,議会図書室を複数回訪問し,現在の資料の収集状況等,実情把握に努めた。
さらに実務面では,図書館利用カードの作成や議員対象説明会等の計画を進めてきた。すでに利用カードは議員全員に配付し終え,5月下旬には、瀬田学舎、深草学舎(京都市伏見区)の2図書館の図書館ツアーと利用説明会、議員研修を担当する本学教員による図書館の利活用に関する講演を実施した。
◯今後の課題
議員の大学図書館利用については,文献提供などのレファレンスへの期待も大きいだろう。まずは具体的な事例を蓄積しながら,どのようなサービスが可能かつ適切か検討していきたい。また,議会図書室の整備充実については,議会局をつうじて議員のニーズを把握しつつ,本学教員の助力も得て選書などのアドバイスを行っていく予定である。
いずれにせよ,まだ始まったばかりの新たな取組みである。当館として,市議会とともに模索しながら,「議員力」の向上そして地域社会の発展に貢献していきたい。
龍谷大学図書館・杉山聖子
Ref:
http://rwave.lib.ryukoku.ac.jp/hp/rinen/index.html [829]
http://www.ryukoku.ac.jp/news/detail.php?id=7725 [830]
http://www.city.otsu.lg.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/112/2016ryukokudaigakutosyokanrenkei.pdf [831]
http://www.ryukoku.ac.jp/news/detail.php?id=3307 [832]
http://www.local-manifesto.jp/manifestoaward/award/award_8.html [833]
http://www.city.otsu.lg.jp/gikai/news/1436420605377.html [834]
http://www.city.otsu.lg.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/112/gikaikihonzyourei.pdf [835]
http://www.city.otsu.lg.jp/gikai/news/1442488589529.html [836]
https://rec.ryukoku.ac.jp/information/rules#library [837]
CA1794 [828]
日本図書館協会(JLA)は1914年に,公共図書館向けに新刊図書の選択及び図書の分類・目録編纂の参考とすることを目的として図書選定事業を開始した。当時の理事等が直接関わり,時流に流されることなく,独自の立場で選定することを旨としていた。ところが,1931年に社会教育会と提携して文部省(当時)から補助金を得て松本喜一理事長(当時)のもと良書普及事業を開始したことで,独自色が薄れ,文部省の意向を反映したものとなっていった。
戦後,1948年の全国図書館大会で良書の推薦・配給に関する協議が行われ,翌1949年に図書選定委員会を設置して新たな選定事業を開始した。選定事業がややもすると押しつけになりがちなことを認識しながら,この事業を試みることになったのは,戦後の出版流通が混乱するなかで地方の図書館が思うように新刊図書を入手することができないという状況を打開するために協会が行っていた配給事業を,何とか改善したいとの思いからであった。また,出版界に対してはよい出版企画への支援,図書館に対しては図書館自体の発展を促すことが目的であった。
選定図書のリストは,最初に発表された『読書相談』から,『選定図書速報』,『選定図書総目録』,『選定図書週報』(週刊読書人掲載)まで,さまざまな媒体(図書,雑誌,新聞)に掲載してきた。
図書選定事業は,その長い歴史の中で,時々の出版や図書館の状況を反映させてきた。たとえば,選定図書の対象読者の区分を,青年向けとしているところが,過去中学生向け,高校生向けと細分していたり,一般書のところも,教師向けとか婦人向けといった区分を設けたりしていた。また,この事業は,新刊図書の集書など出版社と出版取次の多大な協力によって維持されてきたものである。しかし,民間が提供する各種出版情報の登場やインターネットの普及などにより,図書館における選書の参考となる情報の提供環境が変化し,選定図書のリストとして刊行している『選定図書速報』や『選定図書総目録』の利用が長期的に減少していった。
そして,2015年度当初には『選定図書速報』を購入する公立図書館は全国で96館,『選定図書総目録』は50館にまで落ち込んだ。
以上のような状況から,図書選定事業は役割を終えたとの判断にたち,JLAは,戦後70年近くにわたって展開してきたこの事業に2015年度末で幕を引くこととした。
昨今,図書館の選書や出版と図書館との関係などが注目されているが,図書館において選書は基本中の基本の仕事である。JLAでは,今までとは別の形で,図書館における蔵書構築やサービスの参考となる図書情報提供の役割を果たさなければならないと考えているところである。今後とも,会員の皆様のお力を借り,日本書籍出版協会をはじめとする出版・流通関係者の協力を得ながら,現在の図書館や情報環境に即しつつ新しい方向を見出したいと考えている。
日本図書館協会・山本宏義
Ref:
http://www.jla.or.jp/activities/sentei/tabid/207/Default.aspx [839]
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002298522-00 [840]
2016年3月17日,国立国会図書館(NDL)東京本館で「研究データとオープンサイエンスフォーラム~RDA東京大会における議論を踏まえた研究データ共有の最新動向~」が,NDL,国立情報学研究所(NII)及び科学技術振興機構(JST)の共催により,開催された。本フォーラムの趣旨は,同年3月1日から3日まで東京で開催された研究データ同盟(Research Data Alliance:RDA)第7回総会の参加者による報告を踏まえ,研究データに関する国内外の最新動向を共有することであり,当日は研究者や図書館員の他,出版関係者など約120名の参加があった。
まず,3人のプレゼンターによる講演があった。NIIの北本朝展氏からは,研究データとオープンサイエンスに関する基礎的知識及び国内外の動向の解説があり,研究データの積極的な利活用が行われるデータ駆動科学の時代を迎えているいま,研究者,図書館員及びソフトウェア開発者も含めたコミュニティを形成することが,研究データ共有に関する課題解決のために必要だとされた。NIIの武田英明氏からは,日本国内の研究データ利活用の現状及び課題,ジャパンリンクセンター(JaLC)が携わる「研究データ利活用協議会」構想が紹介された。情報通信研究機構の村山泰啓氏からは,RDAの組織構成及び活動内容が紹介された。
次に第7回総会の参加者7名が,各々の関心が高いテーマに関連した分科会の内容と,その分科会で得られた知見に基づいた日本における研究データ共有に関する課題などについて報告した。
まず,京都大学の能勢正仁氏からは,研究データへの永続的識別子の付与によって可能となる研究データの出版及び引用に関する報告があった。分科会の課題として,研究データの引用と,研究データの引用を計量する方法の標準化や研究データのオープン化の有効性の評価などが挙げられた。出版社や国内研究費助成機関へ働きかけ,研究データの引用の促進を図ることの重要性も述べられた。
東京大学の小野雅史氏からは,多様な分野の人々が関わる研究データ共有においては,用語の解釈などに誤解が生じぬよう,用語・語彙の整備が重要であるとの指摘があった。また,研究データ共有のためには,メタデータの整備も重要であるため,データ保存よりもデータのキュレーション(オープンサイエンスに関するメタデータの情報管理等)への取組が図書館に求められるとされた。
総合地球環境学研究所の近藤康久氏からは,政府,自治体,企業,市民など,社会の多様な当事者が協働し,社会課題の解決に取り組む超学際研究(Transdisciplinary approach)とオープンサイエンスが結び付くことによって市民参加型科学が盛んになり,さらに市民参加型科学と社会協働研究との相乗効果が起こり,科学と社会のイノベーションが加速するとの指摘があった。地球環境研究のデータのオープン化状況の報告もあり,特に研究データの品質とメタデータの整備が,オープン化において重視されることが紹介された。
NIIの蔵川圭氏からは,データ形式の標準化が研究データ共有の課題として挙げられ,データの型定義(data typing)が重要だとした。また,論文と異なり研究データは修正や追加が行われるなど動的な性質を持つため,その引用のためにはタイムスタンプとバージョンを管理したデータベースの整備が必要であるとの報告があった。
筑波大学大学院の池内有為氏からは,データサイエンスに携わる人材育成及び研究データ利活用のための法的枠組みに関する報告があった。RDAが開催するサマースクールなど,海外の人材育成カリキュラムに関する継続的な調査の必要性と,フェアユースの規定が日本の著作権法にはない等データ共有の実現の障壁となる日本の法制度の問題点を検討することが日本の課題だと述べられた。
千葉大学附属図書館の三角太郎氏からは,日本の図書館員が研究データを扱うためには,豊富な知識と専門性の高いスキルが要求されるとの指摘があり,海外の事例を参考に,日本の図書館員に求められるスキルを分析することが必要だとされた。
最後にNDLの福山樹里からは,NDLの科学技術情報整備審議会でまとめられた,「イノベーションを支える「知識インフラ」の深化のための提言~第四期科学技術情報整備基本計画策定に向けて~」の紹介があり,オープンサイエンスのためにNDLが果たすべき役割として,データの恒久的保存に向けた検討の協力,メタデータの標準化と識別子の付与・普及などの取組があると報告した。研究データのメタデータ収集については,これまで出版物を対象としてNDLが培った知見を生かせるのではとの考えを示した。
その後,村山氏を司会にフロアを交えたディスカッションが行われ,「図書館が扱うべき研究データは,ロングテールデータやスモールデータではないか。」,「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)で保存された大学・研究機関のウェブサイトに埋没している研究データにDOIを付与するなど,現状の整理から始めてはどうか。」など活発な意見が交わされた。また,第7回総会に参加した印象として,「日本人が関わっている分科会は少なく,RDAにおける日本のプレゼンスはまだ低い。」との指摘が複数の参加者からあったことから,今後のRDAにおける日本のプレゼンスをどう高めるかという議論も行われた。
利用者サービス部科学技術・経済課・田村成宏,島﨑憲明
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201603forum.html [843]
https://www.youtube.com/watch?v=qn4ws9fHbQk&list=PLwlAbCcz-l4vnMCR88Xn3-64W-D5huiTO [844]
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9917300 [845]
2016年4月,米国のPew Research Centerが米国民の公共図書館(以下図書館)への意識と学びに関する報告書“Libraries and Learning”を公開した。2015年10月13日から11月15日まで,16歳以上の米国民2,752名を対象として実施された調査“Educational Ecosystem Survey 2015”をもとに,回答者の属性による差異などが紹介されている。また,米国の図書館を対象としたデジタル技術を活用したサービスの提供状況等に関する調査で,2015年10月に結果が公開された米国メリーランド大学情報政策アクセス・センター(IPAC)と米国図書館協会(ALA)による“2014 Digital Inclusion Survey”(回答館数は2,304)の結果とも比較されている。
本稿で報告書の内容を紹介するにあたり,回答者のうち,過去1年間に図書館・移動図書館に来館した者を「図書館来館者」(44%が該当),図書館来館者及び過去1年間に図書館のウェブサイト・モバイルアプリを利用した者の総称を「図書館利用者」(50%が該当)とする。このほか,「生涯学習者」(lifelong learner)という言葉も用いる。これは報告書では明確に定義されていないが,自力で何かするために知識・情報を集め,個人的な興味関心,仕事のスキル向上などを問わず学ぶ人のことを指すようである。また,報告書から,回答者のうち過去1年間に知識を深める活動に従事した人を「個人的学習者」,過去1年間にスキルの向上または新しい仕事への準備といった,仕事に関連する学びを行った人を「職業的学習者」とする。
◯図書館利用者と学び
まず,「自身を生涯学習者だと思うか」という設問に対し,「とてもそう思う」と回答した者は全体では73%である。一方,図書館利用者はこの値が79%と多く,情報の入手に関しても「自分の知らないことに直面した時できるだけ情報を集めることを好む」に64%が,「人として成長するための機会を求めている」に62%が「とてもそう思う」と回答しており,非利用者の58%,55%を上回る。そのほか,図書館利用者はインターネット,スマートフォン,ソーシャルメディアをそれぞれ93%,76%,74%が使用しており,それぞれ非利用者より6~10ポイントほど高い。
次に,個人的学習者には,回答者全体の74%,図書館利用者の84%が該当し,図書館利用者は非利用者にくらべ,興味関心がある分野のハウツー本を読む,趣味や仕事に関係しないイベントへの参加やオンライン講座の受講,などといった個人的学習に積極的である。また,個人的学習を行う場として図書館を選ぶ人は,個人的学習者のうち23%で,特に65歳以上(30%),世帯収入が5万ドル以下(29%),女性(27%)が多い。また,図書館利用者の個人的学習者に特徴的なこととして,図書館に限らず,様々な場所(インターネットを利用するほか,コミュニティセンター・博物館,宗教施設など)で個人的学習を行う傾向にあること,個人的学習を行う効果について肯定的にとらえる傾向にある。
続いて,職業的学習者には,回答者全体の36%,パートタイムも含む就業者のうち63%が該当する。就業者に関しては,図書館への来館の有無と職業的学習を行うかどうかについては相関関係がない一方,過去1年間に図書館のウェブサイトを利用した人は,職業的学習をよく行うという結果が示されている。これについては,就業者は非就業者に比べ,よくインターネットを利用し,ウェブサイトを通じて図書館資料等に比較的容易にアクセスできるからであると推察されている。また,図書館利用者は,仕事上の人脈形成(69%),社内ないし組織での昇進(52%)という2点において職業的学習が役立ったと回答する割合が高く,非利用者の62%,43%を大きく上回っている。
◯地域社会における学びと図書館
地域の図書館は教育や学びに関するニーズを満たしているか,という問いに対し,多くの米国民は図書館を肯定的にとらえており,「地域社会にとって」は76%が,「本人とその家族にとって」は71%が,とてもよく(very well)またはよく(pretty well)満たしていると回答した。図書館が地域社会における教育,学びに関するニーズを「とてもよく満たしている」とした割合について,図書館来館の有無,回答者が自身を生涯学習者であるとみなすかどうか,などで差異が見られ,図書館来館者の45%に対し,非来館者は31%であったこと,自身を生涯学習者とみなす人が39%であるのに対し,そうでない人は32%であったことなどが示されている。
最後に4つのサービスについて,(1)実際にサービスを提供している米国の図書館の割合(“2014 Digital Inclusion Survey”による),(2)“Educational Ecosystem Survey 2015”において地域の図書館がサービスを提供しているかどうか知らないと回答した割合,の2つが紹介されており,それぞれ値は
である。
これらの結果を踏まえ,報告書は,図書館が学びに関するニーズに貢献していると考える米国民は多く,図書館利用者は学びに関する活動を活発に行う傾向にある一方で,相当数の米国民は図書館が学びに関するサービスを提供していることを知らない,とまとめている。
関西館図書館協力課・葛馬侑
Ref:
http://www.pewinternet.org/2016/04/07/libraries-and-learning/ [846]
http://www.pewinternet.org/files/2016/04/PI_2016.04.07_Libraries-and-Learning_FINAL.pdf [847]
http://www.pewinternet.org/2016/03/22/lifelong-learning-and-technology/ [848]
http://www.pewinternet.org/files/2016/03/PI_2016.03.22_Educational-Ecosystems_FINAL.pdf [849]
http://digitalinclusion.umd.edu/content/2014-digital-inclusion-survey-results-released [850]
http://digitalinclusion.umd.edu/sites/default/files/uploads/2014DigitalInclusionSurveyFinalRelease.pdf [851]
2016年4月14日から4月16日にかけ,熊本県熊本地方及び阿蘇地方を震源とした,震度7の地震2回を含む震度6弱以上の地震が発生し,大規模な被害が生じている。本稿は2016年5月18日までの情報を基に地震の影響を受けた図書館等の状況を中心に紹介する。なお,被害の大きい地域については情報が未だ得にくく,情報が網羅されていないことをご了承いただきたい。
地震発生後,熊本県下を中心に多くの公共図書館,大学図書館が臨時休館を発表した。また地震によってスプリンクラーが破損し,資料への被害もあった熊本市立のくまもと森都心プラザ図書館や,城南図書館・城南児童館をはじめ,被害があったいくつかの図書館が,ウェブサイトやSNSで,図書館資料への被害や館内の状況を公表した。その他,書架から所蔵資料が落下した図書館や,余震にそなえ,開催予定であったイベントを中止する図書館が九州各地で見られた。
https://twitter.com/info66214669 [853]
https://www.facebook.com/stsplaza [854]
http://kumanichi.com/news/local/main/20160504008.xhtml [855]
一方で,サービス再開や開館について目途がたっていない図書館もある。熊本県下の公共図書館では,熊本県立図書館が臨時休館中である。相互貸借,レファレンス,郵送複写などのサービスもすべて停止しており,開館予定日も公表されていない。また,益城町の図書館が入居する交流情報センターミナテラスは被災者の避難所ともなっているが,書架及び所蔵資料に大きな被害が出ており,現在復旧作業が続けられている。建物に大きな被害のある宇城市立中央(不知火)図書館,合志市立図書館(西合志図書館,移動図書館を除く)も再開館が発表されていない。
http://www.library.pref.kumamoto.jp/news/2016/3408/ [856]
http://www.library.pref.kumamoto.jp/news/2016/3409/ [857]
http://www.library.pref.kumamoto.jp/news/2016/3410/ [858]
http://www.library.pref.kumamoto.jp/news/2016/3411/ [859]
https://twitter.com/kuma_lib/status/721168247198863360 [860]
https://twitter.com/kuma_lib/status/721170252235575296 [861]
https://ilisod001.apsel.jp/lib-mashiki/sp/information [862]
http://www.town.mashiki.lg.jp/kouryu/kihon/pub/detail.aspx?c_id=122&id=495&pg=1 [863]
https://www.facebook.com/mashikitosyo/ [864]
http://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/12/10344.html [865]
http://www.library-city-uki.hinokuni-net.jp/Info/SR01/exeEvent?frommain#id28 [866]
http://www.library-city-uki.hinokuni-net.jp/KANFILE/MAIN20160503101011.pdf [867]
http://www.city.koshi.lg.jp/life/pub/detail.aspx?c_id=28&type=top&id=2649 [868]
http://www.city.koshi.lg.jp/life/pub/detail.aspx?c_id=28&id=2716&pg=1&nw_id=25&type=new [869]
大学図書館では,崇城大学図書館が,5月19日から開館を予定しており,大学のウェブサイトに図書館の復旧作業の様が掲載されている。
http://www.lib.sojo-u.ac.jp/wtnrireki/2016/160517_000196.html [870]
http://www.sojo-u.ac.jp/news/topics/160428_006877.html [871]
http://www.sojo-u.ac.jp/news/topics/160506_006883.html [872]
http://www.sojo-u.ac.jp/news/topics/160516_006912.html [873]
ここでは,博物館,美術館,文書館等が加盟する全国または地域の協議会,ネットワーク等の動向と熊本県下の各館の状況を扱う。
まず,協議会,ネットワーク等について,4月15日,全国歴史資料保存利用機関連絡協議会が,ウェブサイトに加盟機関等の被災状況について掲載を開始し,情報を更新している。また,4月15日と4月18日,西日本自然史系博物館ネットワークが,熊本地震による自然史系博物館の被害情報を公開した。4月22日,全国美術館会議が,事務局(東京都の国立西洋美術館)に熊本地震に関する全国美術館会議連絡本部を設置し,会員館の被災状況について情報収集を開始した。
http://www.jsai.jp/rescueA/2016EQ/201604EQ.html [874]
http://www.naturemuseum.net/blog/2016/04/post_60.html [875]
http://www.zenbi.jp/data_list.php?g=91&d=470 [876]
5月18日現在,熊本県博物館ネットワークセンター(宇城市),熊本市塚原歴史民俗資料館,熊本市立熊本博物館分館(熊本城天守閣内),熊本市水の科学館,熊本市動植物園,熊本市歴史文書資料室,熊本大学五高記念館,新聞博物館(熊本市),宇城市不知火美術館,阿蘇火山博物館,合志市合志歴史資料館,合志市西合志郷土資料館,荒尾市宮崎兄弟資料館,御船町恐竜博物館,犬飼記念美術館(益城町),四賢夫人記念館(益城町)が休館・休室している。
http://kumamoto-museum.net/kmnc/archives/552 [877]
http://www.city.kumamoto.jp/hpkiji/pub/detail.aspx?c_id=5&type=top&id=5789 [878]
http://www.manyou-kumamoto.jp/castle/ [879]
http://www.ezooko.jp/kinkyu/pub/default.aspx?c_id=2 [880]
http://www.mizunokagakukan.jp/_code/post/detail/260 [881]
http://www.mizunokagakukan.jp/_code/post/detail/262 [882]
https://www.city.kumamoto.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=3436&e_id=1 [883]
http://www.goko.kumamoto-u.ac.jp/ [884]
http://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/120/2349.html [885]
http://kumamoto-museum.net/shiranuhi/archives/142 [886]
https://www.facebook.com/shiranuhibijutsukan/posts/1064092003637260 [887]
http://www.asomuse.jp/2016/04/30/阿蘇火山博物館復旧状況についてお知らせ4月30日/ [888]
http://www.asomuse.jp/2016/05/15/阿蘇火山博物館復興状況5月15日現在/ [889]
http://www.city.koshi.lg.jp/life/pub/detail.aspx?c_id=28&id=2659&pg=1&nw_id=25&type=new [890]
http://www.city.arao.lg.jp/q/aview/701/3108.html [891]
http://www.mifunemuseum.jp/news.php [892]
https://www.facebook.com/443527692426125/posts/853828551396035 [893]
http://www.mashiki.jp/facilities/gallery.php [894]
http://www.mashiki.jp/ [895]
http://kumamoto-museum.net/shikenfujin/archives/232 [896]
一方,熊本県立装飾古墳館,熊本県立装飾古墳館分館の歴史公園鞠智城・温故創生館(山鹿市),熊本県伝統工芸館,熊本市くまもと工芸会館,熊本市現代美術館,熊本市田原坂西南戦争資料館,熊本国際民藝館(熊本市),島田美術館(熊本市),八代市立博物館,天草市立天草アーカイブズ,坂本善三美術館(小国町)は全面または一部開館している。また,熊本県立美術館本館は5月28日に開館予定である。ただし,多くの館でイベントの開催が中止,延期になるなどの影響が出ている。
http://www.kofunkan.pref.kumamoto.jp/index.php [897]
http://www.kofunkan.pref.kumamoto.jp/kikuchijo/info/#20160415084906 [898]
http://kumamoto-kougeikan.jp/ [899]
http://www.city.kumamoto.jp/hpkiji/pub/detail.aspx?c_id=5&type=top&id=5789 [878]
http://www.kumamoto-kougei.jp/ [900]
https://www.facebook.com/熊本市現代美術館-181283245248787/ [901]
http://www.kumamotomingeikan.com/ [902]
http://www.city.yatsushiro.lg.jp/kiji0035469/index.html [903]
http://shimada-museum.net/gallery/shimabihonkan/720 [904]
http://camk.glide.co.jp/news/index.php?eid=248 [905]
http://hp.amakusa-web.jp/a0695/Diary/Pub/Shosai.aspx?AUNo=6001&Pg=1&KjNo=18 [906]
http://www.museum.pref.kumamoto.jp/kiji/pub/detail.aspx?c_id=4&id=136&pg=1 [907]
http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_15596.html?type=new&pg=1&nw_id=1 [908]
http://blog.sakamotozenzo.com/?day=20160416 [909]
http://blog.sakamotozenzo.com/?day=20160419 [910]
安全点検や資料の復旧作業を終えた図書館をはじめ,復旧作業中の図書館の一部も再開館やサービスの再開を表明した。時間短縮を含め,開館,開室している熊本県下の公共図書館とその開館日は,以下のとおりである。
このうち,菊陽町図書館は,役場や熊本県庁のウェブサイト等からの生活に必要な情報を掲示する情報掲示板を館内に設置した。また,八代市立図書館は4月,5月に開催予定であったイベントを全て中止としており,同館の指定管理者である株式会社図書館流通センターのFacebookに館長のメッセージが掲載された。菊池市図書館は開館までのロードマップを公開し,建物診断を実施して安全が確認できた分館・分室から順次開館・開室したことを発表している。また,大津町立おおづ図書館は余震対策として書架上部の資料を床に置くなどして開館している。その他,4月22日に点字・カセットテープ図書の貸出を停止していた熊本県点字図書館が点字図書の貸出を再開した。他県の公共図書館では,4月26日,大分県立図書館が再開館した。
http://www.minalib.jp/news/2016/317/ [911]
https://www.minalib.jp/WebOpac/webopac/library.do [912]
http://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/116/10344.html [913]
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http://kikuyo-lib.hatenablog.com/entry/2016/04/20/164838 [916]
http://www.city.yatsushiro.lg.jp/kiji0035352/index.html [917]
https://www.facebook.com/trc.event.co.jp/posts/1680737268844970 [918]
http://www2-library.kumamoto-kmm.ed.jp/ [919]
http://www.city.kumamoto.jp/hpkiji/pub/detail.aspx?c_id=5&type=top&id=5789 [878]
https://twitter.com/lib8246/status/726982172003823617 [920]
http://www.kikuchi-lib.jp/?q=news [921]
http://www.kikuchi-lib.jp/?q=news/478 [922]
http://www.kikuchi-lib.jp/?q=news/479 [923]
http://www.kikuchi-lib.jp/?q=news/480 [924]
http://www.kikuchi-lib.jp/?q=news/482 [925]
http://www.kikuchi-lib.jp/?q=news/489 [926]
http://www.ozu-lib.jp/news/2016/3406/ [927]
http://www.ozu-lib.jp/news/2016/3407/ [928]
http://www.town.ozu.kumamoto.jp/information/_10708.html [929]
http://www.aso-lib.jp/news/2016/273/ [930]
http://www.city.aso.kumamoto.jp/2016/04/27/【震災情報】図書館を4月30日土から再開します/ [931]
http://www.uto-lib.jp/news/2016/3152/ [932]
http://kikuyo-lib.hatenablog.com/entry/2016/04/24/105230 [933]
http://www.kikuchi-lib.jp/sites/default/files/pdf/20160426%20%281%29.pdf [934]
http://kumaten.jimdo.com/ [935]
http://library.pref.oita.jp/kento/purpose/rinji.html [936]
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=488563151339308&id=166502106878749 [937]
熊本県下の大学図書館について,臨時休館していた熊本大学,熊本県立大学,九州看護福祉大学,熊本保健科学大学,熊本学園大学,尚絅大学,九州ルーテル学院大学,東海大学,平成音楽大学,中九州短期大学の各図書館が全面開館または時間短縮で開館している。このうち,熊本大学附属図書館は,授業再開(5月9日)に先がけ,同学の学生の自主学修の場を提供するためにラーニングコモンズのみ5月2日から利用を再開した。
http://www.lib.kumagaku.ac.jp/news/news1813.html [938]
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/1883 [939]
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/1947 [940]
http://www.pu-kumamoto.ac.jp/~tosho/news.html [941]
http://puklibclub.blogspot.jp/2016/05/blog-post.html [942]
http://lib.kyushu-ns.ac.jp/topics/news_topics_2016.html#2016.04.25-1 [943]
https://www.kumamoto-hsu.ac.jp/library/lb-news/1038-4-15-16.html [944]
https://www.kumamoto-hsu.ac.jp/library/lb-news/1043-2016-04-18-06-24-36.html [945]
http://www.lib.kumagaku.ac.jp/news/news1811.html [946]
http://www.lib.kumagaku.ac.jp/news/news1817.html [947]
http://www.lib.kumagaku.ac.jp/control/wp-content/uploads/2016/05/sinsai0516.pdf [948]
http://www.shokei-gakuen.ac.jp/univ/libinfo/libinfo11105.html [949]
http://klclib.klc.ac.jp/csp/carin/html/TOP.CSP [950]
http://www.tsc.u-tokai.ac.jp/ktosho/ [951]
http://www.tsc.u-tokai.ac.jp/ctosho/lib/20160425.htm [952]
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/1929 [953]
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/1989 [954]
他県では,4月19日,佐賀県の西九州大学附属図書館が再開館した。佐賀大学附属図書館,大分県の別府大学附属図書館,立命館アジア太平洋大学ライブラリーは4月下旬から部分または全面開館した。その他,大分大学学術情報拠点医学図書館は余震にそなえ夜間の無人開館を中止していたが,5月9日に再開した。
http://www.nisikyu-u.ac.jp/nagahara/library/topics/detail/i/276/ [955]
http://www.beppu-u.ac.jp/library/ [956]
http://www.ritsumei.ac.jp/library/news/article.html/?news_id=365 [957]
http://www.apu.ac.jp/media/news/detail.html/?id=75 [958]
http://www.apu.ac.jp/home/news/article/?storyid=2696 [959]
http://www.lib.saga-u.ac.jp/news/ [960]
https://twitter.com/SagaUnivLibrary/status/725173849801822208 [961]
http://opac.lib.oita-u.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=journal_view_main_detail&post_id=45&comment_flag=1&block_id=317#_317 [962]
地震発生後,被災地以外の地域では,被災地から避難した人々が図書館のサービスを受けられるよう,支援する図書館があらわれた。
公共図書館では,4月26日,鳥取県立図書館が「熊本県・大分県の現状を知り,応援するためのリンク集」をウェブサイトで公開し,レファレンス及び郵送複写の受付を開始した。また,熊本県,大分県の住民からのオンラインレファレンスについて,4月27日に大阪府立図書館が,5月2日に東京都立図書館が,受付を開始した。また,4月末に仙台市民図書館が熊本市立図書館に絵本60冊を寄贈したことが報じられた。その他,福岡県の小郡市立図書館をはじめ,全国各地の図書館が,被災者が自館を利用する方法等をウェブサイトなどに掲載した。
http://www.library.pref.tottori.jp/info/post-11.html [963]
http://www.library.pref.tottori.jp/info/post-12.html [964]
http://www.library.pref.tottori.jp/info/2016 [965]
http://www.library.pref.osaka.jp/site/e-service/portal-help-eref.html [966]
http://www.library.metro.tokyo.jp/reference/tabid/654/Default.aspx [967]
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201605/20160509_13051.html [968]
http://www.library-ogori.jp/topics/2016/04/post-7.html [969]
大学図書館では,九州大学附属図書館や東北大学附属図書館医学分館をはじめ,多くの図書館が,被災地域の大学,短大に所属する学生や教職員などに対し,施設の利用や資料複写等の様々なサービスの提供を開始した。熊本大学附属図書館は,これらを4月19日に「図書館サービス支援の輪が広がっています」として,支援を表明する図書館の情報についてとりまとめて発表した。
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/news/3116 [970]
http://www.library.med.tohoku.ac.jp/guide/gakugai/g_a_copy.html [971]
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/1892 [972]
4月28日付で,全国歴史資料保存利用機関連絡協議会は,「平成28年熊本地震被災地における公文書等の保全・保存に関する要望書」を内閣総理大臣あてに提出した。
http://www.jsai.jp/file/20160428Petition.pdf [973]
http://www.jsai.jp/index.html [974]
5月2日から防災科学技術研究所自然災害情報室は,熊本地震に関し,様々な研究機関等の調査速報,災害資料,過去の災害情報などをまとめたウェブページ「熊本地震に関する調査研究資料」を公開,更新している。
http://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10166&module=blockdoc&eid=10786&action=view&blockdoc_id=290 [975]
http://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10166 [976]
4月15日,歴史資料ネットワークが,古い文書・記録などの被害情報の収集を開始した。また,4月26日に熊本を訪問し,4月28日,神戸市勤労会館で,熊本地震に関する緊急公開報告会を開催した。
http://siryo-net.jp/info/2016-kumamoto-eq-emergency/ [422]
http://siryo-net.jp/disaster/20160426-kumamoto-eq-visit/ [977]
http://siryo-net.jp/disaster/1st_reports_of_kumamoto2016/ [978]
4月18日,熊本市が,被害を受けた民間所在の歴史資料保全を呼びかけた。
https://www.facebook.com/KumamotoCity/posts/1110318888990966 [979]
http://webkoukai-server.kumamoto-kmm.ed.jp/web/infomations/hozen.htm [980]
4月21日,NPO法人映画保存協会が,被害を受けた8mmフィルムやビデオテープの洗浄に関する相談の受付を開始した。
http://filmpres.org/whatsnew/6734/ [981]
4月21日,九州歴史科学研究会が,歴史資料ネットワークと連携し,被害を受けた九州各地の文化財・歴史資料の現状について情報収集を開始した。
http://kyurekiken.hatenablog.com/entry/2016/04/21/225601 [982]
4月23日,熊本被災史料レスキューネットワーク(熊本史料ネット)が,熊本大学文学部附属永青文庫研究センターを事務局として設立された。
http://siryo-net.jp/disaster/kumamoto_siryonet/ [423]
4月26日,大分県立歴史博物館が,被災した大分県民に対し,民間所在の歴史資料(掛け軸や古文書,骨董品や古道具など)の保全を呼びかけた。
https://www.facebook.com/oitarekihaku/posts/1778070112423358 [983]
4月14日,saveMLAKが,Twitterで“#saveMLAK” [984]のハッシュタグをつけてツイートされた,博物館・美術館,図書館,文書館,公民館に関する情報を集約した。また,4月15日,ウェブサイトに被害状況等を入力するための特設ページを開設した。また,4月21日に「第61回saveMLAK MeetUp」を開催し,そこでの議論と東日本大震災の経験などをもとに,4月26日,「安全な開館のために~東北の図書館員からのメッセージ~」と題したウェブページを公開した。また,5月7日,「第62回saveMLAK MeetUp」を開催し,saveMLAKのプロジェクトリーダーである岡本真氏による現地調査(5月4日,5日)の成果が報告された。
http://togetter.com/li/962847 [985]
http://savemlak.jp/wiki/2016年4月熊本地震 [986]
http://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:Event/20160421 [987]
http://savemlak.jp/wiki/安全な開館のために~東北の図書館員からのメッセージ~ [988]
http://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:Event/20160507 [989]
http://www.arg.ne.jp/node/8349 [990]
http://www.arg.ne.jp/node/8350 [991]
http://togetter.com/li/971609 [992]
4月15日,日本図書館協会(JLA)は地震の被害や支援について情報収集を開始した。その後「被災図書館の方へ」と題して図書館内の点検や復旧作業を行う際のアドバイスをまとめ,JLA災害対策委員会のページに掲載した。また,同ページや『JLAメールマガジン』(796号,797号)で被災状況等の情報も掲載した。
http://www.jla.or.jp/committees/tabid/600/Default.aspx [993]
http://www.jla.or.jp//tabid/262/Default.aspx?itemid=2875 [994]
http://www.jla.or.jp//tabid/262/Default.aspx?itemid=2876 [995]
4月15日,文部科学省が児童生徒や教職員等に関する人的被害,施設の種別ごとの物的被害などの被害情報や同省の対応などについて掲載するウェブページを開設した。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kumamotojisin/index.htm [996]
https://twitter.com/mextjapan/status/720974882847068160 [997]
4月20日,全国学校図書館協議会(SLA)が,被災地の学校図書館への支援を表明した。
http://www.j-sla.or.jp/shinsai/shien-kumamoto.html [998]
http://www.j-sla.or.jp/shinsai/ [999]
4月21日,国立大学図書館協会が,「平成28年熊本地震への図書館サービス支援」のページを公開した。熊本大学附属図書館が同館ウェブサイトで公開していた「図書館サービス支援の輪が広がっています」を引き継ぎいだもので,被災地の学生,教職員等への支援サービスについて,国立大学図書館を中心にまとめられている。また,5月13日,日本医学図書館協会も被災地を支援する会員館の一覧を公開した。
http://www.janul.jp/j/news/2016_Kumamoto_earthquakes.html [1000]
http://plaza.umin.ac.jp/~jmla/info/shinsai_kanrentaio_2016.html [1001]
4月21日,全国視覚障害者情報提供施設協会が,熊本県点字図書館を拠点にプロジェクトを立ちあげ,視覚障害者への情報提供を開始した。
http://www.naiiv.net/kumamoto/ [1002]
5月9日,科学技術振興機構(JST)が,J-GLOBALに登載されている地震関連の文献情報等の提供を開始した。
http://jglobal.jst.go.jp/footer/?page=info20160427 [1003]
https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=8599 [1004]
関西館図書館協力課調査情報係
東日本大震災後の図書館等をめぐる状況について,本誌での既報(E1771 [1008]ほか参照)に続き,2016年2月下旬から2016年3月下旬までの主な情報を,次の記事( E1797 [601]参照)とあわせて紹介する。東日本大震災の発生から5年を迎え,被災地の図書館をはじめ全国各地の図書館等で様々な活動,取組が行われた。
2月27日,公益社団法人シャンティ国際ボランティア会により,震災後4年間岩手県の大槌町,山田町を運行していた「いわてを走る移動図書館プロジェクト」の移動図書館車が,運行終了に伴って岩手県の遠野市に寄贈された。また,同プロジェクトによる岩手県大船渡市での移動図書館車の運行も3月末で終了した。
http://www.city.tono.iwate.jp/index.cfm/1,34444,78,134,html [1009]
https://www.facebook.com/SVA.Mobile.Library.for.Iwate/posts/1123048107740130 [1010]
https://www.facebook.com/SVA.Mobile.Library.for.Iwate/posts/1099851123393162 [1011]
https://www.facebook.com/SVA.Mobile.Library.for.Iwate/posts/1075401469171461 [1012]
http://www.tonotv.com/html/catv/daily/2016/02/29/2.html [1013]
3月11日,1992年8月から福島市内を巡回してきた福島市立図書館の移動図書館車が,新車両に代替されるため運行を終了した。なお,新車両購入にはクウェート国からの東日本大震災にかかる救援金が活用された。
http://www.city.fukushima.fukushima.jp/site/toshokan/event20160311.html [1014]
3月18日,遠野市立図書館で,遠野文化研究センターが,同センターの「三陸文化復興プロジェクト」を振り返り,遠野の現状について考える講座「震災から5年 遠野は文化の力で何ができたのか」を開催した。
http://tonoculture.com/dealing/public-lectures/3388/ [1015]
http://tonoculture.com/dealing/wp-content/uploads/sites/6/2016/03/22b0dcd6a35d8049a98b63b3c00b13c7.pdf [1016]
3月21日,宮城県の多賀城市が震災復興のシンボルとして位置づけ,整備を進めてきた「JR多賀城駅周辺の中心市街地整備事業」の中核施設となる多賀城市立図書館が,開館した。
https://tagajo.city-library.jp/library/ja/info_page/434 [1017]
http://www.ccc.co.jp/news/pdf/20160321_tagajyousiritutosyokan_open_final.pdf [1018]
3月28日,大槌町役場で,大槌町立図書館等を含む複合施設である「(仮称)御社地エリア復興拠点施設」の基本設計ワークショップの説明資料やアンケート結果が公開された。
http://www.town.otsuchi.iwate.jp/gyosei/docs/2016032500119/ [1019]
http://www.town.otsuchi.iwate.jp/gyosei/docs/2016020100024/ [1020]
NHKオンラインのウェブサイトに以下のコンテンツが作成された。
http://www.nhk.or.jp/ [1021](NHKオンライン)
http://www9.nhk.or.jp/311shogen/en/ [1022]
http://www9.nhk.or.jp/311shogen/info/ [1023]
http://www.nhk.or.jp/d-navi/vr/shinsaivr/taro/index.html [1024]
https://www.facebook.com/nhknewsweb/posts/1258268330867661/ [1025]
3月2日,Googleが「東日本大震災デジタルアーカイブプロジェクト」として,2015年6月から2016年1月にかけて岩手県,宮城県,福島県,茨城県内の59市19町4村を撮影し,当該地域のGoogleストリートビューを更新した。これらの画像は,震災前のストリートビュー画像とともに「未来へのキオク」サイトでも閲覧できる。
http://googlejapan.blogspot.jp/2016/03/5.html [1026]
https://www.miraikioku.com/ [1027]
3月3日,Amazon.co.jpが,AudibleやKindleなどといった同社のプラットホームを使った「「記憶の継承」プロジェクト」の開始を発表し,3月10日,特設ページを公開した。
http://www.amazon.co.jp/gp/press/pr/20160303/ [1028]
https://www.youtube.com/watch?v=gTm5j4d5EyY [1029]
3月9日,首都大学東京の渡邉英徳研究室と岩手日報社が,地震発生時から津波襲来時までの避難行動について,犠牲者1,326名のデータを集めて可視化したデジタルアーカイブ「忘れない~震災犠牲者の行動記録」を公開した。
http://wasurenai.mapping.jp/2016/03/about.html [1030]
http://labo.wtnv.jp/2016/03/blog-post.html [1031]
http://www.tmu.ac.jp/news/topics/12524.html [1032]
https://www.youtube.com/watch?v=__NkMqLceDg [1033]
国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)に,以下のコンテンツが追加された。
http://kn.ndl.go.jp/information/445 [1034]
http://kn.ndl.go.jp/information/458 [1035]
http://kn.ndl.go.jp/static/450 [1036]
http://kn.ndl.go.jp/static/contents [1037]
http://kn.ndl.go.jp/information/465 [1038]
3月28日,「無形文化遺産情報ネットワーク」が,東北3県(岩手,宮城,福島)の民俗芸能・祭礼行事に関わる写真・映像などの記録を収録した「無形文化遺産アーカイブス」を公開した。
http://mukei311.tobunken.go.jp/index.php?gid=10027 [1039]
http://mukei311.tobunken.go.jp/group.php?gid=10117 [1040]
https://twitter.com/NRICPT/status/714314446001180672 [1041]
3月1日,国立国会図書館は,東日本大震災の記録を収集する各機関・プロジェクト等と共同で実施している東日本大震災に関する写真・動画の投稿,ウェブサイトの情報提供の呼びかけについて,ウェブサイトを改訂した。
http://kn.ndl.go.jp/information/446 [1042]
http://kn.ndl.go.jp/static/collection/cooperation [1043]
3月4日,国土地理院が,東日本大震災後5年間の取組や地図,図,データをまとめたウェブページ「震災後5年間の国土地理院の対応」を公開した。
http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html [1044]
3月9日,オックスフォード大学出版局が,9つの雑誌から福島第一原子力発電所の事故に関する30本の論文を選び,1年間限定で無料公開を開始した。
http://www.alphagalileo.org/ViewItem.aspx?ItemId=161977&CultureCode=en [1045]
http://www.oxfordjournals.org/our_journals/jrr/fukushima_article_collection.html [1046]
3月11日,みやぎ生活協同組合が,同生協の取組や,全国の生協及び取引先からの支援や激励などを後世に伝えるための施設「東日本大震災学習・資料室」をリニューアルオープンした。
http://www.miyagi.coop/outline/press/detail/658/ [1047]
http://www.miyagi.coop/support/shien/study_data/ [1048]
3月23日,図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」が,震災の記録を活用するためのパンフレット「記録を力に~震災の記録を読んでみませんか~」を公開した。
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/ [1049]
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/kiroku.pdf [1050]
1月6日から3月27日まで,山梨県の甲州市立甘草屋敷子ども図書館(塩山図書館分館)で,「『はなちゃんのはやあるきはやあるき』パネル展~東日本大震災を忘れない~」が開催された。
http://www.lib-koshu.jp/201601-03hanatyan.pdf [1051]
1月14日から3月6日まで,岩手県立博物館で,東日本大震災の津波による埋蔵文化財と関連施設の被害等について取りあげた特別展「海に生きた歴史~復興発掘調査が語る一万年の海との共生~」が開催された。また,2月28日まで「復興のための文化力-東日本大震災の復興と埋蔵文化財の保護-」を特集した「発掘された日本列島2015」展も開催された。
http://www2.pref.iwate.jp/~hp0910/museum/tayori/data/147.pdf [1052]
1月30日から2月28日まで,岩手県立図書館で,2月20日に開催された文化庁被災地における方言の活性化支援事業「おらほ弁で語っぺし発展編」の研究報告会にあわせ,展示「明治から昭和初期の地方教育会資料が語る岩手県の「国語」と「方言」」が開催された。また,3月24日まで,特別展示「岩手県復興ポスター展」が開催された。
https://www.library.pref.iwate.jp/info/evecale/minitenji/201602_mini_kokugo.html [1053]
1月30日から3月27日まで,茨城県立図書館で,テーマ展示「東日本大震災~あれから5年~」が開催された。
https://www.lib.pref.ibaraki.jp/information/news/2015/2015_tenji.html#23 [1054]
https://www.lib.pref.ibaraki.jp/information/news/2015.html [1055]
2月3日から3月14日まで,宇都宮市立中央図書館で,企画展「あの日を忘れない~東日本大震災」が開催された。
http://www.lib-utsunomiya.jp/?action=common_download_main&upload_id=3949 [1056]
2月6日から3月21日まで,青森県の八戸市水産科学館マリエントで,「地震津波写真展」が開催された。
http://www.marient.org/tushin/data/160105_09442900a.pdf [1057]
2月8日から2月21日まで,福島市の福島県再生可能エネルギー合同ビルで,はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト実行委員会により,東日本大震災後の県内の様子を写真で表現する「福島写真美術館プロジェクト成果展in福島」が開催された。
http://bgfsc.jp/event/event-data/4973 [1058]
https://www.facebook.com/events/565432140296636/ [1059]
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=760614154040689&id=406501279451980 [1060]
2月10日から3月27日まで,ドイツのヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン(Johann Wolfgang Goethe Universität Frankfurt am Main)で,いわき明星大学による震災記録の保存活動「震災アーカイブ事業」の一環として写真展「Living Here in Fukushima-3.11 and after-」が開催された。また,3月4日から3月6日まで及び3月11日,英国のケンブリッジ大学でも同様の写真展が開催された。
http://www.iwakimu.ac.jp/releases/detail---id-852.html [1061]
http://www.iwakimu.ac.jp/releases/detail---id-865.html [1062]
http://www.muk.uni-frankfurt.de/60002027/035 [1063]?
2月13日から3月21日まで,東京都の目黒区美術館で,宮城県のリアス・アーク美術館の常設展示「東日本大震災の記録と津波の災害史」等を紹介する展示「気仙沼と,東日本大震災の記憶―リアス・アーク美術館 東日本大震災の記録と津波の災害史―」展が開催された。
https://mmat.jp/exhibition/archives/ex160213 [1064]
https://mmat.jp/media/sites/2/2d66cffd662de00dcd9fd7333f88354e1.pdf [1065]
2月19日から3月16日まで,千葉市の花見川図書館で,企画展示「3・11を忘れない」が開催され,2月21日から3月21日まで,中央図書館で,展示「東日本大震災から5年 報道写真でふりかえる千葉」が開催された。
http://www.library.city.chiba.jp/news/pdf/20160223hanamigawa_kikaku.pdf [1066]
http://www.library.city.chiba.jp/news/pdf/201602chuuou_2chiiki.pdf [1067]
2月23日から3月20日まで,福島県の南相馬市立中央図書館で,同館と新潟県の長岡市立中央図書館との連携により,企画展示「南相馬と長岡~絆の記憶と記録」が開催された。長岡市立中央図書館からは,南相馬市民を受け入れた避難所の写真などが収められた「長岡市災害復興文庫」が展示された。
http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/23,29137,123,html [1068]
http://www.lib.city.nagaoka.niigata.jp/index.php?key=jo9c43c2b-3224#_3224 [1069]
http://www.city.nagaoka.niigata.jp/shisei/cate02/houdou-shiryou/file2016/20160205-02.pdf [1070]
2月24日から3月13日まで,岩手県の釜石市立図書館で,「「3・11を忘れない」図書展」が開催された。
http://www.city.kamaishi.iwate.jp/tanoshimu/shisetsu/toshokan/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/20/winter_1.pdf [1071]
2月27日から3月13日まで,福島県立図書館で,「東日本大震災等パネル展」が開催された。
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/event/tenji/28_3shinsai_panelten.html [1072]
2月,3月の特集展示として,千葉県の市川市立図書館で,「震災から5年-これからの防災・減災を考える」が開催された。
http://www.city.ichikawa.lg.jp/library/info/1194.html#m14 [1073]
3月1日から3月31日まで,千葉県立西部図書館で,様々な分野の人々の行動と思索の記録を紹介する東日本大震災関連ミニ展示「3.11と〇〇」が開催された。
http://www.library.pref.chiba.lg.jp/information/west/_311.html [1074]
http://www.library.pref.chiba.lg.jp/information/west/seibutenji-311panfu.pdf [1075]
3月3日から3月29日まで,遠野市立図書館で,5年間の復興の歩みを振り返る「東日本大震災の本展」が開催された。
http://tonoculture.com/curators-diary/2016/3497/ [1076]
3月9日から3月13日まで,千葉県の船橋北口みらい図書館で,福島県葛尾村を中心に犬や猫たちへの給餌等を行っている動物ボランティア「かつらお動物見守り隊」による,福島被災動物写真展「いのちをつなぐ~福島の動物たちをあきらめない~」が開催された。
http://katsuraomura.blog.fc2.com/blog-entry-108.html [1077]
http://ameblo.jp/ekimaelibrary/entry-12125297876.html [1078]
https://www.facebook.com/events/1114736915203867 [1079]
3月14日から3月30日まで,宮城県の南三陸町図書館で,2011年3月11日当時の新聞や写真,パネル展等の展示をおこなう「東日本大震災展」が開催された。
http://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/index.cfm/7,5975,c,html/5975/20160301-114256.pdf [1080]
3月1日から3月21日まで,神奈川県の川崎市立中原図書館で,展示「震災から1800日,東日本大震災を振り返る」が開催され,被災地の図書館の写真を中心に,ボランティア活動の様子や宮城県の被災地を訪ねた様子などが展示された。
http://www.city.kawasaki.jp/templates/press/880/0000074567.html [1081]
http://www.city.kawasaki.jp/templates/press/cmsfiles/contents/0000074/74567/houdouhappyou.pdf [1082]
3月1日から3月31日まで,青森県総合社会教育センター,青森県近代文学館,青森県立図書館で,図書の展示や写真展,イベントや講座などを行う3館の共同企画「3.11 忘れないあの時」が開催された。
http://www.plib.pref.aomori.lg.jp/top/museum/27%E4%BC%81%E7%94%BB%E5%B1%95/cirasi3.pdf [1083]
3月3日から3月23日まで,東北福祉大学図書館で,「忘れずにいよう-東日本大震災から5年-」と題し展示が開催された。
http://www.tfu.ac.jp/libr/tenji_2015.html#k-09 [1084]
3月8日から3月20日まで,大阪府立中央図書館で,南海トラフ地震予測被害ハザードマップや阪神淡路大震災と東日本大震災の地震被害写真を展示する「震災展」が開催された。
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=22791 [1085]
3月16日から3月24日まで,宮城県の東松島市図書館で,「第5回石巻かほく復興写真展~復興の歩みを見つめて」が開催された。
http://www.lib-city-hm.jp/lib/2011y-library%20top/03_event/2015/999_shinbun/19kahokuH28.1.4.pdf [1086]
http://ishinomaki.kahoku.co.jp/event/photo-competition/index.htm [1087]
3月23日まで,岩手県の一関市立一関図書館で,東日本大震災企画展「5年目の3.11~風化させない 忘れまい~」が開催された。
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=826998580744883&id=581391861972224 [1088]
関西館図書館協力課調査情報係
前稿(E1796 [1092]参照)に続き,2016年2月下旬から2016年3月下旬までの東日本大震災後の図書館等をめぐる状況を紹介する。
2月27日,筑波大学筑波キャンパスで,「筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター2015年度成果報告&公開イベント『画像・映像アーカイブの可能性』」が開催された。「テレビ報道の制作現場から伝えたいと思うこと―被災地報道を中心に―」,「ウェブでつながるデジタルアーカイブ―災害アーカイブ群のアクセス性向上を目指して―」をテーマとした発表が行われた。
http://www.kc.tsukuba.ac.jp/lecture/symposium/876.html [1093]
http://www.kc.tsukuba.ac.jp/assets/files/poster_houkoku.pdf [1094]
2月28日,3月3日と3月5日,埼玉県の川口市メディアセブンで,NPO法人コミュニティデザイン協議会により,街の人を対象にインタビューを行って震災の記憶を残すワークショップ「ひとり一人の東日本大震災」が開催され,3月10日,その音声データが公開された。
http://cdc.jp/2015/12/1602_intervew.php [1095]
http://cdc.jp/311voice/2016iv.html [1096]
https://twitter.com/media7_staff/status/707895318856073216 [1097]
3月3日,東京都の千代田放送会館で,「NHK文研フォーラム2016」のシンポジウム「東日本大震災から5年“伝えて活かす”震災アーカイブのこれから」が開催された。
http://www.nhk.or.jp [1098] ( NHKオンライン )
http://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2016/index.html [1099]
http://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2016/program.html#programG [1100]
3月4日,東京都の国際文化会館で,筑波大学と東京都の森美術館との共催で,東日本大震災5周年国際シンポジウム「大惨事におけるアートの可能性」が開催された。
http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~cr/index-p=4373.html [1101]
http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~cr/wp-content/uploads/2016/02/294434c28740306c56181e4ba34ad364.jpg [1102]
http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~cr/index-p=4427.html [1103]
http://www.mori.art.museum/jp/pos/index.html [1104]
3月5日,東北大学図書館で,「図書館総合展2016フォーラムin仙台」が開催され,第1部は「東北大学図書館他にみる高等教育におけるラーニングコモンズ動向─震災復興を経て次なるフェイズへ」がテーマとされたほか,第3部「公共図書館の新たな形」では,宮城県の名取市図書館の柴崎悦子氏から「震災復興を経て─新図書館構想について」の報告が行われた。
http://www.libraryfair.jp/schedule/3442 [1105]
http://libraryfair.jp/news/3452 [1106]
http://www.libraryfair.jp/news/3457 [1107]
http://www.libraryfair.jp/news/3458 [1108]
http://togetter.com/li/946159 [1109]
3月6日,東京大学で,公開シンポジウム「未来をつくるアーカイブ:大規模災害情報の利活用に向けて」が開催された。
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/4260 [1110]
http://publicpolicy.yahoo.co.jp/2016/03/0913.html [1111]
3月11日,東京都の科学技術館で,アート・ドキュメンテーション学会の第65回デジタルアーカイブサロン「東日本大震災から5年-私たちは何をしてきたのか,今後何をしていくのか。そして,デジタルアーカイブの役割は何か-」が開催され,saveMLAKの主催者,発起人の1人である岡本真氏らが登壇した。
http://d.hatena.ne.jp/JADS/20160302/1456869407 [1112]
3月11日,東京国立博物館で,シンポジウム「津波被災文化財再生への挑戦-東日本大震災から5年-」が開催された。
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/symposium_tokyo2016r [1113]
http://www.jcpnpo.org/news/?p=2#1455239836-943969 [1114]
3月12日,仙台市のせんだいメディアテークで,「3がつ11にちをわすれないためにセンター」主催の「草アーカイブ会議」が開催された。
http://recorder311.smt.jp/information/49290/ [1115]
3月18日,東京都のユビキタス協創広場CANVASで,公益社団法人シャンティ国際ボランティア会により,「シャンティセミナー東日本大震災支援における地域との連携「つなげる,つながる,そして今を生きる」」が開催され,同会の「走れ東北!移動図書館プロジェクト」に関する発表や,岩手県の陸前高田市立図書館の元職員の発表が行われた。
http://sva.or.jp/wp/?p=16743 [1116]
3月19日と3月20日,福島県の郡山市市民プラザで,第2回全国史料ネット研究交流集会実行委員会,独立行政法人国立文化財機構,科学研究費補助金基盤研究(S)「災害文化形成を担う地域歴史資料学の確立―東日本大震災を踏まえて―」(研究代表者:奥村弘)研究グループの三者により,「第2回全国史料ネット研究交流集会」が開催された。
http://siryo-net.jp/event/201603-koryusyukai-kotoshimo-yaruyo/ [1117]
http://blog.rekishishiryo.com/?eid=1615098 [1118]
3月20日,せんだいメディアテークで,仙台市,仙台市市民文化事業団,株式会社文藝春秋により,「東北文学フェスティバル―東日本大震災から5年 東北から文学を考える」が開催された。
http://www.city.sendai.jp/d01/1221053_1433.html [1119]
http://www.city.sendai.jp/d01/__icsFiles/afieldfile/2016/01/28/tohoku_bungaku_fes.pdf [1120]
2月,日本図書館協会が『東北における新たな図書館の動き』を刊行した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000687627-00 [1121]
2月,矢田俊文氏及び新潟県の長岡市立中央図書館文書資料室が,図録『新潟県中越地震・東日本大震災と災害史研究・史料保存-長岡市災害復興文庫を中心に-』を刊行した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027147863-00 [1122]
『大学の図書館』507号(2016年2月)が,特集「東日本大震災から5年:震災アーカイブの現在」を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027226418-00 [1123]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027226413-00 [1124]
2月27日,福島県立図書館が,「東日本大震災福島県復興ライブラリー」の資料を実際に読み,感じたことを伝える「ブックガイド」のNo.18を公開した。また「震災復興ライブラリー資料一覧」を3月11日現在の内容に更新した。
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/guide18.pdf [1125]
3月,加藤孔敬氏による『東松島市図書館3.11からの復興』を日本図書館協会が刊行した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027205859-00 [1126]
『歴史学研究』942号(2016年3月)が,宇野淳子氏の「史料と展示 東京国立博物館と東京都立中央図書館,明治大学博物館の東日本大震災に関する3展示を見て」を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027117003-00 [1127]
『図書館雑誌』1108号(2016年3月)が,特集「東日本大震災から5年」を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147799-00 [1128]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147818-00 [1129]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147828-00 [1130]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147836-00 [1131]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147844-00 [1132]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147856-00 [1133]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147867-00 [1134]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147888-00 [1135]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147906-00 [1136]
『情報処理』612号(2016年3月)が,特集「震災5年特別企画 災害科学と情報技術」を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027118577-00 [1137]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027118585-00 [1138]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027118590-00 [1139]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027118601-00 [1140]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027118610-00 [1141]
『情報管理』58巻12号(2016年3月)が,saveMLAKの活動について紹介する小村愛美氏の「第27回つながれインフォプロ」の記事を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027140148-00 [1142]
『国立国会図書館月報』659号(2016年3月)が,特集「震災を記録する」を掲載した。
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9883217_po_geppo1603.pdf?contentNo=1 [1143]
『カレントアウェアネス』No.327(2016年3月)が小特集「東日本大震災から5年」を掲載した。
http://current.ndl.go.jp/node/31182 [1144]
CA1865 [1145]
CA1866 [1146]
CA1867 [1147]
CA1868 [1148]
『出版ニュース』2407号(2016年3月中旬)が特集「3・11から5年の現在は」を掲載した。
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147783-00 [1149]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147786-00 [1150]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147789-00 [1151]
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027147794-00 [1152]
3月11日,国立国会図書館の調査及び立法考査局が,『調査と情報-ISSUE BRIEF-』シリーズのNo.899として,福島第一原発事故のこれまでの経緯,現状及び課題についてまとめた「福島第一原発事故から5年―現状と課題―」を公開した。
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9906770_po_0899.pdf?contentNo=1 [1153]
3月12日,インターネット新聞『ハフィントン・ポスト』が,猪谷千香氏の「津波に流された1冊の本が,陸前高田市立図書館に5年ぶりに"返却"されるまで」と題した記事を掲載した。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/03/11/rikuzentakatashi-book_n_9444072.html [1154]
3月1日から3月27日まで,名古屋市熱田図書館で,「忘れていません東日本大震災」として「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト」への協力の呼びかけや講演会が行われたほか,防災や東日本大震災に関連する図書の展示が開催された。
https://www.library.city.nagoya.jp/oshirase/topics_event/entries/20160216_05.html [1155]
3月25日から3月30日まで,日本図書館協会のボランティアが,宮城県の東松島市による小中学校図書館整備事業を支援した。同市の野蒜小学校と宮戸小学校で,廃棄図書の選定,移設図書の箱詰め,分類,図書ラベルの貼り替え,配架などを行った。
http://www.jla.or.jp//tabid/262/Default.aspx?itemid=2874 [1156]
3月4日,復興庁は,発災以後の年表や復興の進捗状況などをまとめた「復興5年ポータルサイト」を開設した。「映像で見る復興の取り組み」として,各省庁や国立国会図書館などのウェブサイトにある動画をまとめた「動画サイト集」が掲載されている。
http://www.reconstruction.go.jp/5year/ [1157]
http://www.reconstruction.go.jp/topics/n16/03/index.html [1158]
関西館図書館協力課調査情報係
「なんか面白い本はあるかいな?」
訪れる島民の一言目はみなそれぞれ大体決まっている。この人の好きな本は……,と人と本を思い浮かべながらおすすめする。それが筆者の日常だ。
――瀬戸内海に浮かぶ男木島(おぎじま)。人口175人のこの小さな島に2016年2月14日,小さな私設図書館,男木島図書館が開館した。
◯高松市立男木小・中学校の再開
図書館について語るにあたり,男木島がどんな島かということからはじめたい。2014年4月,この島で小・中学校(高松市立男木小・中学校)が再開したというニュースが瀬戸内を沸かせた。2013年の瀬戸内国際芸術祭を契機に,筆者の家族を含め3世帯が島へのUターンを決意し,島民と共に学校再開を求め,島の人口を大きく上回る881名の署名を高松市長に提出し,小・中学校の再開が決定された。その中心となったのが,筆者の夫であり,その後男木島図書館の設立メンバーになる福井大和だった。
学校が再開する前の男木島は住民の大半が70歳をこえる限界集落となっていた。地域として考えると,学校の再開はゴールではない。学校の再開を契機として,地域の継続を可能にしていく仕組みを作ることが必要だ。では,そのために具体的に何をするか?そこで,筆者が考えたのが「図書館」であった。
◯なぜ,図書館か
持続可能な地域づくりには,島民の満足と,移住者が必要と考えた。ずっと人が住みたいと思える島にするには何が必要か。まずは魅力。そして移住者の不安を解消すること。図書館は,この2つの役割を兼ね備えていると考えた。地方での生活を選択する時に問題となるのは住まいと仕事であると指摘されることが多い。それは確かに事実ではあるが,この2つさえあればそこに住むかというと,そういうわけではない。その場所にしかない魅力があってこそ「ここに住みたい」と思わせることができる。島に図書館という文化の新たな担い手を生みだし,その図書館をこの島にしかないものにすることでここにしかない文化を発信して島の魅力を高めることができるのではないかと考えた。
また,島民とのコミュニケーションをどのように取っていくか,塾がない島で子どもの学習環境をどうしていくか,子どもたちが雨の日でも集まれる場所がないなど,筆者が島に移住するにあたって不安だったことがいくつかあった。「自分が不安に思うことは,これから移住を考える人も同じように不安に思うのではないか。それなら,不安は自分たちの手で解消していこう!」と考えた。筆者が感じていた不安,それは図書館という場所を作ることで解消できるのではないかと考えた。
2013年11月から図書館の開設に向けて筆者を中心に動き始め,2014年は図書館となる空き家の取得,それと並行して行った運営母体となるNPO法人の設立がメインの活動となった。
◯島内の空き家事情
島内に「空き家」とよばれる家は多くあるが,・長期休暇には帰島して過ごす・仏壇があるので貸したくない・権利者がわからないなどの理由で,借りることができる家はとても少ないのが実情である。その中で一軒の家に惹かれたのだが,これは家の権利者がわからない空き家であった。そこで司法書士にお願いし調べてもらったところ,相続が行われておらず権利者が13人いるという状況で権利を得る手続などに2014年12月までかかった。
◯図書館運営母体としてのNPO法人の設立
行政や民間との協力関係を築いていくためには,個人としてではなく法人を設立して,長く継続できる体制を整えることが必要と考えた。NPO法人には島民のみならず,島外の識者の方にも入っていただき,島の内外の視点を活かせるようにした。
◯移動図書館の稼働
2015年2月,NPO法人の設立と同時に,手押し車(島では「オンバ」と呼ぶ)による移動図書館を始めた。図書館となる古民家の修復に時間がかかることから,島民に図書を提供し「図書館」というものがどういう場なのか知ってもらいながら,本のニーズ調査も行いたいと考えての取組だった。
移動図書館は古民家の修繕と同時並行で,図書館を開館するまで,週に一度島内で稼働させた。
◯古民家の修繕とクラウドファンディング
古民家の修繕には,島民を中心に島外からも広くボランティアをつのり,120名ほどが参加した。本と本棚の資金を調達するため,クラウドファンディングも行い,205名の方が資金を提供くださった。島民175名の島で,男木島図書館は資金面,古民家の修繕に300名以上の協力を得て完成した。
自分たちで建物の修繕を行うことによって得られた効果として,修繕のボランティアに関わった1世帯が島への移住を決め2016年3月から男木島へ住み始めた。また,修繕作業から島内外の方と「図書館」とのつながりが生まれ,また図書館の場に愛着を覚えてもらうこともでき,本に興味がないと口にしていた方も開館後,本を借りに足を運んでいただいている。
◯最後に
図書館は,誰でも無料で来ることができる。人と話すことも,話さずにいることもできる。本という知の資産を誰にでも平等に提供できる施設である。本と人の関わりだけではなく,本を媒介にして人と人とが繋がることもできる場所である。
男木島図書館の今後の大きな課題は,継続のための運営資金の確保であると筆者は考えている。資金面に関しては,現在,新しい本の追加はAmazonのウィッシュリストで欲しい本を公開し,一定数の本を寄贈していただいている。グッズの販売や企業スポンサーを募るなどして,これからも新しい方法を模索しながら,島に愛される場所としてあり続けたいと考えている。皆さまには今後もこの小さな島の小さな私設図書館を見守っていただくことをお願いして結びとしたい。
特定非営利活動法人男木島図書館・額賀順子
Ref:
http://ogijima-library.or.jp [1159]
https://www.facebook.com/OgijimaLibrary/ [1160]
https://twitter.com/ogijimalibrary [1161]
https://readyfor.jp/projects/ogijimallibrary-book [1162]
http://www.edu-tens.net/syoHP/ogisyouHP/ [1163]
http://www.amazon.co.jp/registry/wishlist/1KGBA7GXNO8VB/ref=cm_sw_r_tw_ws_fztZwb0TD2S78 [1164]
E1680 [1165]
2016年3月9日,国立情報学研究所主催の第4回SPARC Japanセミナー2015「研究振興の文脈における大学図書館の機能」が東京で,開催された。
はじめに,九州大学附属図書館の星子奈美氏から概要説明があった。内閣府の報告書「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」(E1681 [510]参照)の公開から1年が経過し,国内の大学等においてオープンアクセス(OA)ポリシーの採択が続出している今は,日本におけるオープンサイエンスの大きな転換点と言える。そのような中,オープンサイエンスの「灯台」となるような演者が登壇する,と紹介があった。
東京大学附属図書館の尾城孝一氏からは,図書館機能の変化のひとつとして,電子ジャーナルなどの学術情報基盤の整備をはじめとする「読み手としての研究者支援」から,機関リポジトリの整備や研究成果発信を支援する「書き手としての研究者支援」があげられ,図書館は研究のワークフローに入り込むべきとの提言がされた。研究活動の動線上に位置づけることで,機関リポジトリは図書館員のシステムから研究ツールへと脱皮できるであろうとのことであった。
京都大学図書館機構の引原隆士氏からは,現在の日本のOAポリシーの策定状況では,世界的に見てOAに関する発言権はないとの指摘があった。また,OAポリシーの策定は「市場を押さえると標準化される」という日本的な手法ではなく,「標準化をして市場を押さえる」という欧州的な手法が本来であり,日本のOAには必要な政策が提示されていないとのことであった。従来,図書館の資料は大学にとって「資産」であった。しかしながら,ビッグディール契約による多数の電子ジャーナルは価格高騰や本当に読みたい資料を読めているのかという点で,2010年代以降は大学執行部にとって「負債」として捉えられるようになってきている。学術情報が「負債」になりつつある今こそ,OAポリシーを策定した後に,それを「資産」に変えていくアイディアこそ必要である,とのことであった。
「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」に携わる内閣府の真子博氏からは,サイエンスとは元来開かれているものであるにもかかわらず,日本の大学ではオープンサイエンスが進んでいない現状が指摘された。そして,オープンサイエンスが国際的に議論されているものであるからではなく,研究が国際的に展開しているからこそオープンサイエンスが必要であるとのことであった。リポジトリ事業などで図書館が果たし得る機能を明確にし,図書館が研究を支援する事務部門との連携を行い,かつ情報発信基地となることへの期待が述べられた。一方で,内閣府の「オープンサイエンス推進に関するフォローアップ検討会」における検討の中で,研究データの管理・公開を担う人材が不足しているという課題も示された。
最後に,九州大学名誉教授の有川節夫氏からは,大学図書館には学習や教育・研究への「支援」から直接的な「貢献」が求められるようになっているため,大学図書館員の育成,確保が課題であることが指摘された。九州大学の図書館長,総長を務めた有川氏からは,同学では研究支援のひとつの形としての図書館と研究戦略部門との連携がうまく機能しているとの説明があった。自ら教育・研究する大学図書館の取組として,大学院(ライブラリーサイエンス専攻)や研究開発室の設置があげられ,教員として,研究者として活動する図書館員を期待しているとのことであった。
講演に続いて,慶應義塾大学日吉メディアセンターの市古みどり氏をモデレーターとし,パネルディスカッションが行われた。大学図書館の役割や機能を整理することでオープンサイエンスにつなげられないか?という問いに対し,大学図書館の研究支援に対する機能や実績は十分である,との意見が出た一方,大学図書館はさらにその先に進んでいくべきであり,アピール方法を再考すべきとの意見もあった。これまでOAでは論文が評価対象の中心であったが,オープンサイエンスでは,データ作成者も評価対象となり,研究者にとってもチャンスであるとの意見が出た。一方で,データのオープン化を望まない研究領域もあり得る,という指摘もあった。図書館としては分野によって特性の異なる研究データを取り扱うことになるが,どのような能力が必要になるのかは考えていく必要があるとの意見があった。
日本では,OAから一歩進んだ,オープンサイエンスの推進は緒についたばかりであり,これから様々な議論がされていくものと思われる。海外の真似ばかりではなく,海外の手法や時流を認識,把握することも大事であるとの意見は大変印象的であった。研究者や図書館員を含めた,学術情報流通に関わるすべてのステークホルダーが今後も活発に意見交換や議論をすべきと感じた。
東京歯科大学図書館・阿部潤也
Ref:
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2015/20160309.html [1167]
http://lss.ifs.kyushu-u.ac.jp: [1168]
E1681 [510]
「オープンデータ」と聞くと,「国や地方公共団体等が公開する公共データ」を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。そして,その公共データを使って民間がサービスを作り,地域の課題解決につなげる,というのが多く語られる文脈である(E1709 [383], CA1825 [48]参照)。
それに対し,「民間もオープンなデータづくりに取り組もう!」と呼びかけてきたのが,Linked Open Data チャレンジ Japan(LODチャレンジ)である。LODチャレンジは2011年から続くオープンデータのコンテストであり,5回目の開催となったLODチャレンジ2015では,「参加型オープンデータ」というコンセプトを掲げ,行政のみならず民間のあらゆる主体がより積極的にデータ公開に参加することを目指した。
民間によるオープンデータ推進の意義として,データづくりの段階から市民が参加することで,より良い地域を共に創ることが可能になると考えている都市もある。例えばニューヨーク市のデータカタログ“NYC Open Data”では,市が作成したデータセットの約4倍近くが市民によって作成され,公開されている。
また,多様な組織から多様なデータが公開されることも重要である。筆者は以前理化学研究所に所属しており,その研究現場では,実験データを単体で分析するだけでは研究は成り立たず,先行研究や他の研究チームのデータと組み合わせて分析することで初めて新たな発見が可能となった。
そのような経験からも,多様なデータの公開が,より多くの組み合わせを可能にし,世の中に新たな価値を生み出すという確信があり,事務局長である筆者はLODチャレンジにおいても「参加型オープンデータ」を推進したいと考えた。
そのために2015年度は,新たに以下の施策を打ち出した。
LODチャレンジは特定の財源を持たず,スポンサーからの協賛金で運営してきた。スポンサーのメリットがより大きくなるように,2015年度からプラチナスポンサー(協賛金:30万円)の希望に沿った共催イベントを企画するという特典を設けた。
LODチャレンジ2015ではプラチナスポンサー5団体のうち4団体がこの特典を活用し,以下のイベントを共催した。
コンテストにおいては審査基準を公開することで,より企画趣旨に沿った作品を応募してもらうことができる。そこで以下の6つの評価項目を定め,公開した。
(1)Impact:影響力
(2)Creativity:創造力
(3)Openness:開放性
(4)Linkability:つながる可能性
(5)Sustainability:持続可能性
(6)Usefulness:有用性
特に(4)及び(5)は,よりオープンで,より多様なリソースとつながりやすい作品を求めるという,LODチャレンジにおいて特徴的な評価項目である。
Knowledge Connectorは「平成26年度電子経済産業省構築事業」の一環として構築された,オープンデータを使ったアイディアやアプリ等を共有するシステムである。LODチャレンジ2015では, Knowledge Connector上で作品を紹介するページを作成,公開するという応募方法をとり,締切日までは何度でも内容を修正できるようにした。
Knowledge Connectorを採用することで,応募作品の情報が,他のイベント等で生まれたオープンデータの成果と一緒に共有され, 参照可能になるというメリットがあった。また,応募作品の進捗状況が確認できるという点で主催者にとってもメリットがあった。
結果として,2015年度の応募作品数は前年より50増加し290作品を記録した。また,2011年度からの応募作品数の累計は1,000を突破し,1,130作品となった。入賞した31作品には,高度なLOD技術が用いられた作品や,共催イベントで生まれた作品も多く含まれていた。
LODチャレンジ2015を振り返ると,応募作品数の増加と作品の内容の多様化を図ることができたが,まだまだ施策が必要であると考えている。特に,2016年度はオープンデータを推進する他団体や,他のコンテストとの連携を強化することで,LODチャレンジが単発で終わらずに次へつながるような流れを作り,「参加型オープンデータ」の推進による新たな価値創造へとつなげていきたい。
LODチャレンジ実行委員会事務局長・下山紗代子
Ref:
http://lodc.jp/ [1169]
https://nycopendata.socrata.com/ [1170]
http://lodc.jp/2015/concrete5/blog/20151203 [1171]
http://peatix.com/event/129138 [1172]
http://peatix.com/event/133196 [1173]
http://www.data.go.jp/data/dataset/meti_20151130_0236 [1174]
http://lodc.jp/2015/concrete5/blog/2016-02-19 [1175]
http://lodc.jp/2015/concrete5/blog/lod2015-symposium-20160319 [1176]
http://idea.linkdata.org/ [1177]
E1709 [383]
CA1825 [48]
◯はじめに
オランダの14の研究大学で構成されたオランダ大学協会(VSNU)が,複数の学術出版社とオープンアクセス(OA)に関する合意を締結している。オランダでは2013年11月15日に教育・文化・科学省副大臣のデッカー(Sander Dekker)氏が,オランダ国内の学術論文について2019年までに60%,2024年までに100%をOA化するという目標を示した。これを受け,VSNUでは,ビッグディール契約(CA1586 [1178]参照)の更新の際に,各出版社のジャーナルに投稿・掲載されるオランダ国内学術論文のOA移行に関する合意を盛り込むことを条件として交渉していた。
以下,VSNUとSpringer社,Elsevier社,Wiley社との合意内容について紹介する。
◯Springer社
2014年11月20日にプレスリリースのあったSpringer社は,OAへの移行を盛り込んだ合意が成立した,最初の大手学術出版社である。内容は,購読料と論文処理費用(Article Processing Charge:APC)を大学が一括で支払うというもので,大学にはSpringer社の購読型ジャーナル約2,000誌へのアクセス権が提供され,また約1,600誌のハイブリッド型OA誌(E1241 [1179]参照)で追加のAPC支払なしでのOA出版が可能となる。これにより,大学の研究者がハイブリッド型OA誌で論文を出版しようとする場合,個別にAPCを支払う必要はなくなった。なお,学会等が発行元となるジャーナル約400誌は対象外である。
Springer社のこのモデルは“Springer Compact”と呼ばれ,VSNU以外にも英国のJisc,ドイツのマックスプランク協会,オーストリアのAustrian Academic Library Consortiumとの間でも合意が締結されている。
◯Elsevier社
VSNUとElsevier社の交渉は,2014年11月に一度は決裂したものの,その後再開され,2015年12月10日に2016~2018年の3年間の合意に至った。
Elsevier社が出版する全タイトルが利用可能なビッグディール契約の購読料とAPCを大学が一括で支払うというモデルで,OA出版が可能なジャーナルがあらかじめ定められている(約140誌)。対象となるジャーナルは,ある程度OAに対して寛容な学術領域であることなどを基準に,自然科学・健康科学分野に絞られた。合意では,対象ジャーナルにおけるOA出版物の割合を年間10ポイントずつ増加させることを目標としている。これらのジャーナルにおけるオランダ国内の研究者による投稿論文数は,Elsevier社のジャーナルの論文数全体の10%と推定されているため,2018年には30%が達成目標となる。なお,対象外のジャーナルに投稿する場合は,従来どおり研究者がAPCを支払う必要がある。
なお,ビッグディール契約の購読料等の情報は非公開であり,パッケージ購読料の価格上昇には合意したこと,追加のAPCは発生しないことのみ示されている。
◯Wiley社
2016年2月3日,2016~2019年の4年間の合意が締結された(その後,3月4日に発効)。Springer社,Elsevier社と同様,ビッグディール契約の購読料とAPCを大学が一括で支払うモデルで,約1,400誌のハイブリッド型OA誌では,無制限にOAで出版することができる。現在ハイブリッド型OA誌ではないジャーナルに投稿したいという希望があった場合は,大学・Wiley社が学会等のジャーナルの発行元と協議し,OA出版に対応するよう努めるとされる。この合意では,2019年にはWiley社のジャーナルにおけるオランダ国内の研究者の論文の100%OA化が目指されている。
Elsevier社同様,パッケージ購読料の価格上昇には合意したこと,追加のAPCは発生しないことのみ示され,ビッグディール契約の購読料等の情報は非公開である。
◯おわりに
これまで,APCを支払って論文をOA出版するゴールドOA(E1287 [343]参照)については,出版社がジャーナル購読料とAPCの両方を徴収する「二重取り」(double dipping)が問題視されていた。VSNUによれば,これら3社との合意では,対象のジャーナルが限定されているものの,研究者が個別にAPCを支払うのではなく,大学が購読料とAPCを一括で支払うため,大学にとってはコストを抑えられる,というメリットがあるとのことである。
京都大学文学研究科図書館・大前梓
Ref:
https://www.rijksoverheid.nl/documenten/kamerstukken/2013/11/15/kamerbrief-over-open-access-van-publicaties [1180]
https://www.government.nl/documents/parliamentary-documents/2014/01/21/open-access-to-publications [1181]
http://www.vsnu.nl/en_GB/news-items.html/nieuwsbericht/175 [1182]
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https://www.elsevier.com/about/open-science/open-access/agreements/VSNU-NL [1188]
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http://www.vsnu.nl/en_GB/openaccess-eng.html [1192]
E1241 [1179]
E1287 [343]
CA1586 [1178]
研究者総覧や業績データベースなど名称は様々だが,大学・研究機関等では所属研究者のプロフィールや業績をウェブサイトで公開するのが当然になってきている。このように「研究情報」を収集・分析・発信するシステムのことを一般に最新研究情報システム(Current Research Information System:CRIS)と呼ぶ。
CRISは多様な研究情報を広くカバーしている一方,保持しているのはメタデータのみであることが多い。対照的に,機関リポジトリ(IR)は論文本文などのコンテンツも登載しているが,機関内の研究情報を網羅できておらず,業績データですら100%には程遠い。両者は連携によってお互いの欠点を補える関係であり,これまでも国内外で数々の実践が積み重ねられてきた。ただし,システムの担当部署が異なるなどの事情から,満足のいく連携にはしばしば困難を伴う。
近年は研究機関におけるCRISとIRの戦略的重要性が増してきている。優れた研究成果を社会・企業へ迅速に還元し,イノベーションを促進することに対する要求が高まっており,オープンアクセス(OA),研究評価,研究助成に関するポリシー策定といった動向もその大きな要因となっている。このような状況のなか,CRISとIRのあり方に顕著な変化が見られる。例えば,IRの機能を持つCRISや,逆にデータモデルを拡張してCRISの機能を持つIRが出現している。従来のCRISとIRの間でも連携のかたちが多様化し,両者の機能を兼ね備えた新種のシステムも登場している。では,CRISはしだいにIRを置き換えつつあるのだろうか?これらのシステムは機能が重複しているのだろうか?
これらの疑問に答えるために,欧州のEUNIS(European University Information Systems Organization)とeuroCRISが,各国におけるCRISとIRの現状についてアンケート調査を行った。euroCRISは欧州で普及しているCRISのメタデータフォーマットCERIF/XMLの管理を担う非営利団体である。調査は2015年4月~9月半ばにかけてオンラインで行われ,20か国から84の回答を得た。以下,2016年3月公表の調査報告書のなかからポイントとなる結果を紹介する。
報告書では,調査結果(特にシステムに登載している研究情報の種類)を受けて,CRISとIRは補完的な関係であることが明らかになったとされ,前述の2つの疑問に対して否定的な結論を出している。
ただし,回答数の少なさと国による偏り(7か国では回答数が1機関のみ。回答数上位5か国で全体の6割を超える)を鑑みると,本調査で多様な欧州の現状を把握できたとは言いがたいのではないだろうか。DRIS(CRISのダイレクトリ)に掲載済みのCRISからの回答や,2013年に同様の調査が行われたポルトガルの現状が十分に反映されていない可能性について言及されている点も気にかかる。また,現在はCRISとIRの併用が大半を占めるものの,CRIS導入数の伸びを考えると今後の趨勢は分からない。設問は用意されていなかったが,どちらかに統合したいと考えている機関はないのだろうかという疑問も湧く。ぜひ今後の継続的・網羅的な調査の実施を期待したい。
日本においても,研究情報を網羅したCRISの整備や,CRISとIRの連携は重要な課題である。第5期科学技術基本計画でオープンサイエンスに関する国の基本姿勢が打ち出されたばかりだが,現在は研究情報が整備できていないため,例えば「日本の研究成果の○%をOAに」という数値目標を立てることが難しい状態にある。こういった問題の解消に向け,現在,筆者が協力員として参加している機関リポジトリ推進委員会では,researchmapとJAIRO Cloudの連携や,日本でも策定が始まっているOA方針(E1686 [1198]参照)のモニタリングシステムの構築といった課題に取り組んでいるところである。
九州大学附属図書館eリソースサービス室・林豊
Ref:
https://www.coar-repositories.org/activities/repository-observatory/third-edition-ir-and-cris/ [1199]
http://www.eunis.org/blog/2016/03/01/crisir-survey-report/ [1200]
http://www.eunis.org/wp-content/uploads/2016/03/cris-report-ED.pdf [1201]
http://www.slideshare.net/LgiaMariaRibeiro/surveying-cri-ss-and-irs-across-europe-eunis15 [1202]
http://www.eurocris.org/ [1203]
http://eurocris.org/cerif/main-features-cerif [1204]
http://www.eurocris.org/activities/dris [1205]
http://www.nii.ac.jp/irp/event/2014/OA_summit/docs/2_02.pdf [1206]
http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2015/doc/20150612_Cont_Hayashi.pdf [1207]
http://hdl.handle.net/2324/1566249 [1208]
E1686 [1198]
CA1513 [1195]
CA1740 [1196]
CA1736 [1197]
CA1833 [1209]
研究データの管理(Research Data Management,以下RDM)は,近年,研究にとって必須なものと認識され,米国のいくつかの研究図書館は,研究者や大学からの要望を受け,これを新しい役割として積極的に担うようになってきている。一方で,この事業のために追加の予算や人員が認められることは稀である。
このような課題認識のもと,2016年1月,OCLC Researchが,“If You Build It, Will They Fund? Making Research Data Management Sustainable”と題する報告書を公開した。報告書では,米国の研究図書館がRDMを実施する際に考え得る7つの資金源をあげ,その長所と短所について次のようにまとめている。
(1)組織からの予算措置
組織から予算を獲得することで,組織の資源として研究データを管理することが可能となる。しかし,米国では高等教育の予算が削減されているという現状があり,RDMのための継続的な予算が認められなければ,この事業を実施することは困難である。
(2)研究助成金から経費を負担
この方法は,多くのRDMにおいて採用されている。RDMの経費を研究プロジェクトの予算に組み込むことで,助成要件にRDMを求める研究助成機関から,RDMに必要な経費も含めて助成されることにもつながる。しかし,研究期間中のRDMに係る費用は研究に直接関係する経費として助成されるが,研究期間終了後のRDMの経費に対しては助成されないという問題がある。また,研究者も,研究費の減少につながるため,研究費のなかからRDMの経費を捻出することを嫌う。研究において,RDMは間接的な作業なので,間接費として計上するのが最も合理的である。しかし,組織において,間接費の経費の計算は後回しにされることが多く,RDMを実施している部署に対して,迅速に十分な資金が提供される見込みは薄い。
(3)研究者への課金
RDMの経費は,データを生成する研究者や所属する部署が負担するという考えである。しかし,助成期間終了後は,研究助成金から支出することができないため,特定の期間の維持費として課金するか,継続的費用を考慮した一括支払いのモデルを採用することになる。ただ,この方法では,研究者や彼らの属する部署にコストを再度割り当てるだけであり,また,資金を持たない研究者を除外してしまうという問題がある。
(4)データ利用者への課金
研究データを利用することで利益を得た人が費用を負担するという考えである。組織外からの収入源となるが,需要が高いデータにしか課金ができず,また,多くの研究助成機関は,研究データへの無料でのパブリックアクセスを要求するため,この方法で,RDMに必要な十分な資金を確保することは難しい。
(5)寄付金の活用
寄付金を活用することで,組織に所属する全ての研究者を支援することが可能であり,RDMに必要な継続的な経費に関する問題を解決することもつながる。しかし,優れた研究機関は寄付金を集めるであろうが,現在のところ,RDMに係る経費は,寄付金の額を超えている。また,組織によっては,事業年度を跨いでの支出ができないという問題がある。
(6)データリポジトリ開発予算の活用
現在の多くのデータリポジトリの運用は,その開発予算を活用して着手されている。しかし,用途や支出できる期間が限定されているため,長期的なデータ管理が必要なRDMには不向きである。
(7)既存の予算を活用
上記の方法で十分な資金調達が不可能な場合,既存の予算から捻出する必要がある。研究分野によっては,集中型のデータリポジトリによってRDMを支援しているが,そのような支援がない分野もあり,それらの分野のRDMは大学によって支援される必要がある。しかし,その経費を確保するためには,他のサービスをとりやめることが必要である。その他の方法として,外部のデータリポジトリにRDMを委託することも考えられる。ただ,研究データへのアクセスは提供されることになるが,登録する際には手数料が必要であり,また,研究データの長期的な保存が保証されないという問題がある。
報告書は,最後に,各々の機関は,組織が研究データを確実に管理することで得られる利益と,そのための費用のバランスを考える必要性と,RDMの継続的な実施のために,常に複数の資金源の選択肢を考えながら,組織の指導部の議論に関与していく必要性を指摘している。
付録では,オーストラリア・カナダ・香港・オランダ・ニュージーランド・英国におけるRDMの現状を紹介している。一読をおすすめしたい。
関西館図書館協力課・武田和也
Ref:
http://www.oclc.org/research/publications/2016/oclcresearch-making-research-data-management-sustainable-2016.html [1210]
http://www.oclc.org/content/dam/research/publications/2016/oclcresearch-making-research-data-management-sustainable-2016-a4.pdf [1211]
E1481
[1212]CA1818 [1213]
◯はじめに
2015年8月17日にオーストラリア連邦議会を通過した「民法・司法関係法改正法2014」(Civil Law and Justice Legislation Amendment Bill 2014)によって,オーストラリア国立図書館(NLA)への納本対象資料をオンライン資料にも拡大するように改正された著作権法が,2016年2月17日施行された。これまで,NLAでは,無償のオンライン資料を出版者との契約により収集してきたが,改正著作権法の施行に伴い,有償・無償を問わずオンライン資料は全て納本制度に基づき収集できることとなった。2012年に司法省からオンライン資料のオンデマンド収集を主旨とする納本制度の拡大について提言が出されたが,これはその提言の延長にあるものであろう。
以下,今回の著作権法改正を踏まえたオーストラリアにおける納本制度の概要や,関連するこれまでの動向について概観する。
◯改正後の納本制度の概要
オーストラリアの納本制度は,著作権法(Copyright Act 1968)に基づき,NLAによる国内出版物の収集を可能としているものである。例えば印刷物やパッケージ系電子出版物の場合,出版者は,刊行後1か月以内に出版物をNLAに納本しなければならない。今回の改正著作権法施行により,納本対象資料が,従来の紙媒体・パッケージ系電子出版物のみから,オンライン資料(オーストラリア人が海外のプラットフォームで公開したものも含む)にも拡大され,出版者は,NLAから要請を受けてから1か月以内に出版物の電子ファイルのコピーを納本しなければならないこととなった(もし出版物が印刷物とオンラインの両方で刊行された場合は,印刷物のみが納本対象となるが,出版者が望めばオンライン版での納本も可能である)。ただし,DRM(技術的制限手段)が付与されたものは収集の対象外である。納本されたオンライン資料は,2016年の後半に館内で提供される予定となっており,出版者が希望すれば,NLAのオンラインサービスを通じても提供される(エンバーゴ期間の設定も可能)。
このNLAからの「要請」は,NLAで定める収集・保存のガイドラインに準拠したオンライン資料に対して選択的に行われるもので,オンラインの書籍・雑誌・ニュース・会議録・報告書・地図・ウェブサイトなどが収集対象であり,データベースやゲーム,チャット,ニュースサイト,個人の論文や広告サイト等は対象外となっている。また,Australian Digital Theses Program等の別の収集プログラムがあることから,電子学位論文の収集も対象外である。
オーストラリアの納本制度において特徴的なのは,NLAへの納本と同時に出版者が所在する州ないし特別地域の図書館にも納本しなければならない点である。ただし,各州・特別地域によって法制度化の有無(首都特別地域では法制化されていない)や対象資料が異なる(AV資料やボーンデジタル資料を納本対象としていない州もある)点には,留意が必要である。
◯保存プラットフォームとしてのウェブ・アーカイビング
オーストラリアにおけるオンライン資料の保存は,NLAが中心となって運用しているPANDORA(Preserving and Accessing Networked Documentary Resources of Australia)(CA1537 [1215]参照)によって行われている。
PANDORAは1996年,「オーストラリアに関すること,またはオーストラリア人にとって重要なかかわりがある,またはオーストラリア人によって作成されている」ウェブサイトを選択収集・保存するために構築された。オンライン資料の保存のプラットフォームとして,現在はNLAのみならず国内の州立図書館や博物館等11の機関の協力・分担の下に運用されている。
なお,NLAは,PANDORAを補完するものとして,2010年の財務省からの通達に基づき,2011年に政府機関サイトを網羅的に収集し,保存するAGWA(Australian Government Web Archive)を構築し,2014年には収集したデータを公開している。
◯まとめ
ここまで見てきたように,オーストラリアは1990年代からオンライン資料の保存に取り組んできており,今回の著作権法改正はその一連の取組みの成果の一つと言える。今後も同国の取組みに注目していく必要があろう。
調査及び立法考査局調査企画課連携協力室・福林靖博
Ref:
https://www.nla.gov.au/news/2016/02/11/new-legal-deposit-service [1216]
https://www.nla.gov.au/media-releases/2016/02/17/nla-make-digital-history-today [1217]
https://www.legislation.gov.au/Details/C2015A00113 [1218]
http://www.aph.gov.au/Parliamentary_Business/Bills_Legislation/Bills_Search_Results/Result?bId=s980 [1219]
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/newsletter/083/834.html [1220]
https://www.nla.gov.au/legal-deposit/what-is-legal-deposit [1221]
https://web.archive.org/web/20120508132839/http://www.ag.gov.au/Consultationsreformsandreviews/Documents/Legal%20Deposit%20Consultation%20Paper%20CLIENT%20COPY.PDF [1222]
http://www.nla.gov.au/legal-deposit [1223]
https://www.nla.gov.au/legal-deposit/how-to-deposit [1224]
https://www.nla.gov.au/edeposit/ [1225]
http://pandora.nla.gov.au/selectionguidelines.html [1226]
http://www.nsla.org.au/legal-deposit-australasia [1227]
http://pandora.nla.gov.au/ [1228]
http://pandora.nla.gov.au/overview.html [1229]
http://warp.da.ndl.go.jp/contents/reccommend/world_wa/world_wa06.html [1230]
https://web.archive.org/web/20140302080358/http://www.finance.gov.au/files/2012/04/2010-001_AGIMO_Circular_NLA_Digital_Preservation.pdf [1231]
http://webarchive.nla.gov.au/gov/ [1232]
https://twitter.com/nlagovau/status/446788845430779904 [1233]
CA1537 [1215]
国立国会図書館国際子ども図書館では,2015年6月末の新館「アーチ棟」竣工後(E1731 [1236]参照),帝国図書館(1906年建設)時代からの建物である「レンガ棟」の改修を行っている。改修は,アーチ棟に移転した資料室・事務室跡地等の建物内部と,屋根・外壁等の建物外部(2016年6月末頃に終了予定)において行うものである。このうち,建物内部の改修は,それぞれの改修箇所のサービス休止を伴ったが,改修とこれに付随する諸準備(資料移転など)が終了したところから,順次サービスを開始している。2016年2月には,レンガ棟2階に「調べものの部屋」と「児童書ギャラリー」を開室した。また2016年3月にはレンガ棟1階の「子どものへや」と「世界を知るへや」を再開し,3月下旬には同棟3階の「本のミュージアム」と「ホール」で展示を再開した。3月末時点では,建物内部の改修はほぼ終了している。
以上の部屋を含む,改修後のレンガ棟各室のサービス概要,特色等は,次のとおりである。
◯調べものの部屋(レンガ棟2階)
主に中高生の調べものに役立つ資料約1万冊を開架している。この部屋では,2016年4月から,修学旅行や校外学習の中高生のグループを対象とした,予約制の「調べもの体験プログラム」を開始している。調べものの部屋の資料や端末を利用しながら,短時間で「図書館における調べもの」を体験することができる。
◯児童書ギャラリー(レンガ棟2階)
帝国図書館時代(旧・特別閲覧室)の優美な室内の雰囲気を生かし,明治から現代までの日本の児童文学史・絵本史をたどる常設の展示室としてオープンした。展示している約1,000冊の資料は手に取って読むことができる。このほか,室内の端末で提供する「国立国会図書館デジタルコレクション」や「絵本ギャラリー」で閲覧する作品もある。
◯子どものへや,世界を知るへや(レンガ棟1階)
子どものへやは,子どもと本のふれあいの場として,小学生以下を主たる対象とした絵本や児童書約9,000冊を開架している。この部屋では,親子でくつろいで読書を楽しめるよう,マット上で靴を脱いで本を読むことができるスペースを新設した。
世界を知るへやは,世界の国・地域を知るための国内外の児童書約1,800冊を開架し,改修前よりも外国の児童書を充実させた。
◯本のミュージアム,ホール(レンガ棟3階)
本のミュージアムでは,2016年7月24日まで国際子ども図書館のリニューアルを記念する展示会「現実へのまなざし,夢へのつばさ:現代翻訳児童文学の半世紀」を開催している。今後,国際子ども図書館が所蔵する豊富な蔵書を魅力的に紹介する展示会を,順次開催する予定である。
ホールは,音楽会などのイベント会場として用いられるほか,帝国図書館時代からの歴史や建物の紹介を行う展示コーナーもある。
◯休憩・飲食・授乳スペース(レンガ棟1階)
2015年11月に休憩・飲食・授乳スペースを新設した。休憩・飲食可能なスペースに加えて,救護室,授乳室,調乳室,おむつ替えコーナーなどを備えている。
レンガ棟において新たなサービスが始まり,アーチ棟におけるサービスとあわせて,国際子ども図書館の施設増築・改修に伴う新たな来館サービスの体制が整った。2015年9月17日に開室した児童書研究資料室と,地下書庫,研修室を擁するアーチ棟が主として,児童書や関連資料の収集・保存・提供をはじめとする「児童書専門図書館」としての役割を担う一方で,レンガ棟は主として,子どもに図書館や読書に親しむきっかけを提供する「子どもと本のふれあいの場」や,児童書の魅力を広く紹介する「子どもの本のミュージアム」としての役割を担う施設となった。こうした施設を基盤として,国際子ども図書館は「子どもの本は世界をつなぎ,未来を拓く!」という理念の実現に向け,サービスの向上を図っていきたい。
国際子ども図書館
Ref:
http://www.kodomo.go.jp/about/building/history.html [1237]
http://www.kodomo.go.jp/about/future/renewal2016/index.html [1238]
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9454042_po_geppo150809.pdf?contentNo=1 [1239]
http://www.kodomo.go.jp/use/room/index.html [1240]
E1731 [1236]
◯はじめに
鯖江市(福井県)は,人口約7万人弱の小さなまちである。人口が首都圏に一極集中化し,地方の人口が流出傾向にある昨今において,当市では,「オープンデータによるITのまちづくり」を政策の大きな柱として掲げ,「若者が住み続けたくなるまちづくり」を目指している。鯖江市図書館(以下当館)でも市の政策に基づいた事業をいくつか行っており,今回はその中から,株式会社カーリルと共同開発した「さばとマップ」について紹介したい。
◯「さばとマップ」導入まで
まず,当館が「さばとマップ」を導入するまでの市の取組に触れる。鯖江市は「ITのまちづくり」を推進し,積極的に市の情報(消火栓や公衆トイレの位置情報など)のオープンデータ化に取り組んできた。
このような機運のなかで,当館では,2014年に「sabota」というアプリを開発している。これは,政策提言する女子高生集団「鯖江市役所JK課」との対話の中から誕生したアプリである。「sabota」には「つくえなう!」「ほんさがし」「まっぷ」の3つの機能があるが,なかでも「つくえなう!」という機能は,館内の個人ブース11席に座った人の体幹をセンサーで感知し,空席状況をアプリ上に表示するという画期的なものであった(現在はセンサー感度の問題からシステム検証中)。
これに続き,2014年9月頃,カーリルから「名古屋大学で実証実験中の図書館マップアプリを公共図書館にも適用したいので,実験館として鯖江市図書館に協力してもらえないか」という話をいただいた。
◯「さばとマップ」サービス開始
半年間の実験期間中に,当館でも「このアプリを導入すれば利用者の利便性が向上し,特にスマートフォンを使用する若者が図書館を利用するきっかけになるのではないか」と判断し,2015年度に市の事業として正式に予算化されることとなった。こうして完成したのが「さばとマップ」である。
「さばとマップ」は,Bluetoothを搭載したスマートフォンやタブレット端末で利用できる無料アプリである。館内で読みたい本を検索すると,自分の現在地と目的の本の場所を館内図上に表示してくれる便利なアプリである。画面を指で拡大していけば,どの書棚に配架されているかまで表示でき,日本十進分類法(NDC)や目録規則の知識がなくても,画面を見ながら感覚的に目的の本のもとへと辿り着くことが可能である。
これらの機能を実現するために,図書館の書架には130個の屋内測位デバイス(BLEビーコン)を設置した。現在地については,130個の屋内測位デバイスの発するビーコン信号強度を個々の端末のBluetoothによって受信し,現在地の位置情報を推定する仕組みをとっている。また,資料の位置情報については,あらかじめ資料の請求記号等の所蔵データをマップの棚番号に登録しておき,検索した資料についてOPACの所蔵データと対応させることで,配架場所をマップに反映する仕組みである。資料の別置についても,資料種別,保管場所など複数の条件をかけあわせた対応表を作成することで,可能な限り正確な位置情報を表示するよう工夫した。また職員がデザインを手がけた当館のキャラクターをアプリに登場させるなどして,若者にも親しみやすい雰囲気づくりをこころがけた。
さらに,屋内測位デバイスの位置情報や配架図のマップデータ,システムのプログラムなどを市のウェブサイトにオープンデータ,オープンソースとして公開し,他の図書館で同様のアプリを開発する際にも役立ててもらえるようにした。
今後の課題としては,現在地や資料位置情報の精度向上が挙げられる。また,屋内測位デバイスを活用し,配架されている資料に関連した情報をはじめ,さまざまな情報を表示することができるため,アプリ活用の可能性は大きいと思われる。
なお「さばとマップ」は,現在位置を表示する以外の機能について,全国どこからでも利用することができる。お手持ちの端末のApp StoreやGoogle Playから「さばとマップ」を検索して簡単にダウンロードできるため,興味のある方は,是非一度体験してみてほしい。
◯さいごに
鯖江市は県内で唯一人口が増加している町である。利用者にとって便利で使いやすく,「我がまちの誇り」と思っていただけるような図書館づくりによって,様々な世代の方々が「住み続けたい」と思うまちづくりの一翼を担いたいと考えている。
鯖江市図書館・竹内邦子
Ref:
http://data.city.sabae.lg.jp [1242]
https://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=17228 [1243]
http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=17461 [1244]
http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=15134 [1245]
http://sabae-jk.jp/ [1246]
http://sabae-jk.jp/app/ [1247]
http://blog.calil.jp/2014/09/beacon.html [1248]
https://itunes.apple.com/jp/app/sabatomappu/id1045859598 [1249]
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.calil.sabatomap [1250]
近畿病院図書室協議会(以下病図協)は,2016年1月28日,会員機関の職員の研究成果を無償公開する共同リポジトリ「KINTORE」(キントレ)を公開した。
病図協は,名称に近畿と付くが,北は埼玉から南は鹿児島まで幅広い地域から114機関(内訳は病院が107,大学が3,専門学校が2,研究機関等が2)の図書館・図書室(以下,病院図書館)が加盟している。資料の相互利用,会員の教育・研修,出版・広報活動,統計調査,関連団体との交流を行っており,リポジトリ事業には2014年から取り組んでいる。
KINTOREという名称は「近畿病院図書室協議会リポジトリ」の「"Kin"ki Byoin "To"shoshitsu Kyogikai "Re"pository」に因む。筋肉トレーニングの「筋トレ」ともかけており,リポジトリを通して病院図書館員の資質を強く鍛え,病院図書館の存在意義を向上させていきたいという想いを込めている。
KINTOREはシステムにDspace(CA1527 [1252]参照)を使用し,SaaS(Software as a Service)型サービスによるクラウド環境で運用している。協議会での共同運用という性質上,サーバの設置場所を固定できず,クラウドでの運用を選択した。システム構築は株式会社アグレックスに委託した。リポジトリの開設準備は,病図協のリポジトリ部員が担った(2014年度は6名,2015年度は4名)。公開時のコンテンツは,病図協会誌『病院図書館』20巻1・2号(2000年)~33巻2号(2014年)の記事と『三菱京都病院医学総合雑誌』『洛和会病院医学雑誌』といった加盟機関の刊行物とした。
KINTOREには,病図協加盟機関であれば無料で参加でき,2016年3月現在,12機関が参加している。『病院図書館』など病図協の刊行物はリポジトリ部で登録し,各機関の刊行物は,各病院図書館の担当者が登録する。
大学や研究機関では機関リポジトリが発展してきたが,大学に属さない病院は人員面,資金面でリポジトリを単独で構築することが難しい。共同リポジトリであるKINTOREは,病院の設置母体を選ばず,かつ機関リポジトリを構築するのに比べ,安価で少ない労力で参加することができる。
KINTOREは構築まで2年を要した。開設のきっかけは,2012年の第29回医学情報サービス研究大会の中で開催されたデジタルリポジトリ連合(DRF)主題ワークショップ「リポジトリで発信する医療情報・病院図書館との連携」に病図協からパネリストが参加し,病院図書館を対象として実施した,リポジトリへの意識調査アンケート結果を報告したことである。その後,病図協内でリポジトリの意義を検討して可能性を模索し,2014年には「病院図書室における機関リポジトリの可能性」をテーマに研修会を行った。この研修会では事前にメーリングリストを開設し,大学図書館員や企業の講師からリポジトリの意義や著作権許諾,メタデータなどの知識をレクチャーいただき,細かな疑問を解消することができた。病院図書館は担当者が一人の機関が多いため,担当者教育として研修会や会員サイトでの教育に力を注ぎ,詳しい実務マニュアルの作成などにも取り組んだ。
病院図書館のリポジトリは,自機関の職員(医師,看護師,技師や事務などのコメディカル職員)はもちろん,世界中の研究者,学生,市民に利益をもたらすと考えている。自機関の職員にとっては,自身が執筆した論文や研究成果をリポジトリに登録することによって,より多くの人に研究成果を知ってもらい,職員自身を世界にアピールできるようになる。また,患者をはじめとする一般の人々はより簡単に医療情報にアクセスでき,主治医や病院の研究成果を見て安心して治療をうけられるようになる。そして,病院や研究機関等にとっては,職員や機関の研究成果を公開することで社会への説明責任を果たすことになり,信頼性の向上につながる。最後に,病院図書館にとっては,リポジトリが新たな研究支援の手段となる。病院の研究者の間では一般に図書よりも雑誌の需要が高く,電子ジャーナルやデータベースの普及に伴い,病院図書館員の仕事は大きく変わりつつある。リポジトリが病院図書館にも普及し,研究者を支援できるようになれば,病院図書館員の存在意義はより向上する。
病院図書館がリポジトリの構築によりオープンアクセス(OA)を推進する要因は大きく2つある。
1つめは,多くの病院が刊行する紀要や雑誌が灰色文献化していることである。これらの資料は流通範囲が狭く,また所蔵資料を公開している病院図書館は少ない。病院は研究成果報告のために無料で紀要や雑誌を刊行しているが,研究者や学生は費用を負担して複写物を取り寄せている現状があり,これらの問題点を解消したいと考えている。
2つめは,学術情報流通の望ましいあり方への働きかけである。各病院で購読している学術雑誌は,海外大手出版社のものも多く,パッケージの肥大化や出版社主導の値上がりに悩まされている。グリーンOA(E1287 [343]参照)の普及と,研究者のための望ましい学術情報流通の実現に貢献したいと考えている。
今後は,『病院図書館』創刊号からのバックナンバーや,各病院の刊行物の公開のほか,学術雑誌掲載論文など更なるコンテンツの充実と,会員の教育と支援に取り組んでいきたい。
近畿病院図書室協議会リポジトリ部
Ref:
http://kintore.hosplib.info/ [1253]
http://www.hosplib.info/ [1254]
http://mis.umin.jp/29/ [1255]
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html [521]
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/1368803.htm [517]
E1287 [343]
CA1527 [1252]
他人の著作物を利用する場合,原則,権利者に許諾を得る必要がある。しかし,権利者が誰かそもそも分からない場合や,権利者を特定できてもその連絡先が分からないという場合がある。そのような場合であっても著作物の適法利用を可能とする。それが,著作権者不明等の場合の裁定制度(著作権法第67条)である。本稿では,この裁定制度の概要について説明するとともに,2016年2月に行った同制度における権利者捜索の要件の緩和について紹介する。
裁定制度は,公表された著作物,実演,レコード,放送若しくは有線放送(以下「著作物等」という。)又は相当期間にわたり公衆に提示されている全ての著作物等が対象となり,外国の著作物等であってもよい。誰でも申請を行うことができ,また,利用方法に限定がないため,商業利用であっても裁定を受けられる(ただし,著作者人格権を侵害するような利用はできない)。
裁定申請に当たっては,あらかじめ権利者と連絡を取るための「相当の努力」を行う必要がある。この「相当の努力」の内容として,(1)広く権利者情報を掲載する資料の閲覧(名簿・名鑑等の閲覧又はインターネット検索),(2)広く権利者情報を有している者への照会(著作権等管理事業者及び関連する著作者団体への照会),(3)公衆に対する情報提供の呼びかけ(日刊新聞紙又は公益社団法人著作権情報センターへの広告掲載)が定められている。
2016年2月にはこの要件の一部を緩和し,過去に裁定を受けた著作物等の権利者捜索については,申請者は、新たに文化庁ウェブサイトに公開した過去に裁定を受けた著作物等の情報を掲載したデータベースを閲覧することで,上記(1)及び(2)の措置を代替できることとした。データベースには,過去に裁定を受けた著作物等の題号,種類,著作者等の氏名,裁定を受けた利用者の名前や利用方法等の情報のほか,権利者情報が判明した場合にはその旨も記載している。
これらの措置を講じて得られた情報や自ら保有する情報を基に権利者と連絡を取るための措置を講じても,結果として権利者と連絡が取れなかった場合,文化庁に裁定を申請することができる。
申請を受け,文化庁は,裁定が可能であるかどうかを判断する。裁定が可能な場合,権利者のための補償金の額(通常の使用料の額に相当する額)を定める。裁定を受けた場合には,申請者は,定められた額の補償金を供託所に供託する必要がある。これにより,裁定に係る著作物等の利用が可能となる。もしも裁定を受けた後に権利者が現れた場合には,権利者は,供託された補償金の還付を受けることができる。
なお,申請から裁定を受けるまでの期間は約2か月であるが,申請中利用の制度を活用すると,文化庁が定めた額の担保金を供託することで,申請後2週間程度で著作物等の利用を開始できる。
裁定制度は1971年の運用開始から2016年3月までで計259件,著作物等の数にすると計26万9,797点の利用実績がある。例えば,「国立国会図書館デジタルコレクション」における資料のオンライン公開や,放送番組のDVD販売,入試問題集の出版について,裁定制度が利用されている。
近年,日本のみならず,諸外国においても権利者不明著作物の権利処理への関心が高い。この問題について,日本においては古くから裁定制度によって対応を行ってきたところであり,近年では,デジタルアーカイブの促進等を目的として,累次の改善を図ってきたことで,諸外国と比しても,権利者不明著作物の活用の途が十分に開かれている。今回の改正により,本制度が活用されればされるほど,権利者不明著作物等の流通の可能性が増していくことが期待される。
申請者の便に供するため,文化庁ウェブサイトには,本制度の内容や申請方法等を詳細に解説した「裁定の手引き」を公開している。権利者が見つからず権利処理に頭を悩ますという場面に出くわした際には,ぜひ,裁定制度を御活用いただきたい。
文化庁長官官房著作権課・星川明江
Ref:
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/ [1256]
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/chosakukensha_fumei_saiteiseidokaizen.html [1257]
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/saitei_data_base.html [1258]
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/pdf/saiteinotebiki.pdf [1259]
2016年2月9日,東京大学本郷キャンパスにおいて「DNP学術電子コンテンツ研究寄附講座開設記念シンポジウム『これからのデジタル・アーカイブ』」と題するシンポジウムが開催され,大学,学術出版社,システムベンダーなどからデジタル・アーカイブに関わりのある約220名が集う場となった。
本講座は,2015年11月大日本印刷株式会社の寄附により東京大学大学院情報学環に開設された。これまで情報学環で進められてきたデジタル・アーカイブやe-learningに関する諸々の知見を踏まえ,日本のデジタル・アーカイブに関わる様々なプロジェクトと有機的に連携し,特に学術コンテンツの教育利用について実践的な研究開発を行う。設置期間は2015年11月1日から2018年10月31日までの3年間である。
今回のシンポジウムは本講座の開設記念ということもあり,寄附者(大日本印刷株式会社)及び設置機関(東京大学)両者の挨拶から始まり,講座代表である東京大学の吉見俊哉氏から開設の趣旨について説明があり,シンポジウムの本題については関連諸機関やプロジェクトの識者10名から,国内外のデジタル・アーカイブの活動状況や事例について報告があった。
各氏の説明及び報告をまとめると,まず本講座の趣旨に関しては,学内はもとより学外諸機関と強い繋がりを形成し,学術コンテンツの教育活用基盤の構築を目指すとの内容であった。一方,外部関係者の報告に関しては,所属する機関やプロジェクトにおける活動状況の説明,また欧米における先進的なコンテンツサービスの紹介とそれに対する日本国内の取組の状況と課題,今後の進むべき方向性や対策が指摘された。
以下,関連諸機関・プロジェクトの識者10名の報告概要を記す。
日本のデジタル・アーカイブ全般に関して識者3氏から報告があった。まず,国立情報学研究所の高野明彦氏から,日本の知的財産推進計画の2015年度における検討状況の報告,続いて弁護士の福井健策氏からは,欧米のコンテンツサービスに匹敵するために,権利処理コストの低減と孤児著作物対策や権利制限規定の範囲拡充などが必要であるとの説明があった。最後に国立歴史民俗博物館の後藤真氏から,資料に情報技術分析を応用した人文学である「デジタル人文学」の変遷と状況説明があった。
基調報告に続き,学術分野のデジタル・アーカイブ構築を推進する機関やプロジェクト関係者7氏から動向報告があった。まずは文部科学省の鈴木敏之氏から,学術機関リポジトリ構築連携支援や科研費助成など,同省の支援事業と今後の課題やその対策について説明があった。
続いて,千葉大学の竹内比呂也氏から「大学学習資源コンソーシアム」の活動,慶応義塾大学メディアセンターの入江伸氏からは「大学電子書籍推進会議」の活動報告があった。両者とも本講座と密接に連携する予定の組織であり,学術書・専門書を中心とした学術コンテンツの教育利用モデル構築を主なテーマとしている。
次に,東京大学の生貝直人氏から東京大学の新図書館計画の概要紹介,京都大学附属図書館の甲斐重武氏からは,京都大学における電子図書館や,研究資源のデジタル・アーカイブなど附属図書館が関わる学内のデジタル化プロジェクトについて説明があった。
続いて東京大学の時実象一氏から,米国のGoogle Booksなど書籍のデジタル・アーカイブ事例や文化財のデジタル化資料のポータルサイトである欧州のEuropeana(CA1785 [1261],CA1863 [1262]参照)など,海外事例を網羅したかたちでの報告があった。
最後に人文情報学研究所の永崎研宣氏から,日本における大型のデジタル・アーカイブ事例といえる「大正新脩大藏經テキストデータベース化プロジェクト」の活動状況報告があった。
シンポジウムのまとめとして,本講座の実務責任者である東京大学の柳与志夫氏から,設置期間3年間の目標と活動内容について説明があった。主要テーマである学術コンテンツのデジタル化と教育利用環境構築を目指す点については,附属図書館を中心とした学内各所はもとより登壇された各氏が所属する学外諸機関やプロジェクトとの繋がりの重要性が挙げられた。さらに期間終了後の新たなステップに踏み出すための下地作りとしても位置づけている旨の説明があった。
東京大学大学院情報学環・井関貴博
Ref:
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/4166 [1263]
http://www.yanesen.net/topics/detail.html?id=1077 [1264]
CA1785 [1261]
CA1863 [1262]
2015年11月30日から12月2日にかけて,オランダのアムステルダムにおいて,灰色文献の国際会議である第17回灰色文献国際会議(Seventeenth International Conference on Grey Literature:GL17)及びGreyForum4.1が開催された。
GL17は,灰色文献に関する国際的なネットワーク“Grey Literature Network Service”(以下GreyNet)と,その事務局であるTextReleaseが主催する国際会議である。2014年のGL16において,当時日本原子力研究開発機構(JAEA)の図書館職員であった池田貴儀氏が,福島第一原子力発電所事故関連の情報の収集,整理,発信に関する活動が評価され,GreyNet Awardを受賞された(E1612 [1265]参照)のは記憶に新しい。筆者は今回,「国立大学図書館協会海外派遣事業(短期)」の助成を受け,この会議に参加し,発表する機会をいただいた。本稿はその報告である。
本会議であるGL17は,基調講演と4つの全体セッション及びポスターセッションで構成され,“A New Wave of Textual and Non-Textual Grey Literature”という題目のもと,一般的な形態の灰色文献のみならず,音声データ等の多種多様な灰色文献に関する取組が取りあげられた。GreyForum4.1はこれまでは独立したワークショップとして開催されていたが,今回はGL17のプレ・カンファレンスとして開催され,“Grey Literature and Digital Preservation: Standards in Practice”という題目のもと,灰色文献の電子的保存と公開に関する事例についての3つの発表と,それについての意見交換が行われた。
本会議の基調講演“Dissertations and Data”では,博士論文の作成過程で生じた研究データ等の公開について触れられている。欧州ではETDs(電子学位論文)への取組が浸透しており,学生へのサポートも盛んにおこなわれている。この発表では,研究分野毎に博士論文の中で使用されているデータの種類の調査を行う等,詳細な調査の報告がなされ,また,論文の本文と研究データとを別のリポジトリで公開する例も紹介されている。GreyForum4.1の欧州原子核研究機構(CERN)の発表の中でも,研究データやソースコード等をデータリポジトリである“DATAVERSE”や“Zenodo”を使って本文とは別のリポジトリで公開する手法が紹介されている。本文やデータについて,それぞれに適した収集,公開方法を考える必要があると感じた。
昨今,学術情報流通においてソーシャルメディアの有用性も広まりつつあるが,これらの活用についての報告もあった。まず,イタリアのConsiglio Nazionale delle Ricerche(CNR)からは、人文社会科学分野に関してソーシャルメディアは研究者の評価や透明性の評価をサポートするツールとしては有用だが,研究のインパクトを評価できるものにはまだなりえていない,とする報告があった。そしてニューヨーク医学アカデミー(New York Academy of Medicine)からは,ソーシャルメディアについて,研究者は研究成果を広めるツールとしては使用しているものの,必要な情報を検索する手段としては使用していない,とする報告があった。ソーシャルメディアの位置付け,活用状況については,今後更に詳細な調査研究が待たれる。
各国,各分野での取組としては,国際原子力機関(IAEA)の国際原子力情報システムINIS(International Nuclear Information System),視聴覚資料や3Dオブジェクトにメタデータを付与して公開するドイツ国立科学技術図書館(TIB)提供の学術ポータル“TIB AV Portal”等が紹介された。そのほか,イタリアの海洋学分野の灰色文献も含めた学術情報プラットフォームであるMAPS(Marine Planning and Service Platform)はポスターセッションの最優秀賞を受賞した。MAPSはイタリアのIstituto di Linguistica Computazionaleと,DELTA PROGETTI2000,ETTsolutions(両者ともイタリアのIT関連のコンサルティング企業)の主導による,海洋学分野の文献やデータを収集・分類し,効果的な検索を可能にするセマンティック検索エンジンを用いて,永続的な保存・公開を目指すプロジェクトである。なお,筆者はGL17の1日目の全体セッションにおいて,博士論文の電子的公開の義務化やオープンサイエンス政策の動向等,日本における学術情報流通を取り巻く現状を発表した。
会議を通じ,海外では既に,研究データ等を含めた灰色文献に関する研究活動や研究成果の全てを公開しようとする動きが活発になっていることを実感した。日本でも「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」(E1681 [510]参照)が発表され,今後,本文だけでなく,論文の作成に使用された研究データも含めて公開する,という流れは加速していくと思われる。研究分野によってデータの扱いは様々であり,それらの保存・公開は図書館だけで対応するのは難しく,研究者や他の部署との更なる連携を進めていくことが不可欠と考える。
北海道大学附属図書館・磯本善男
Ref:
http://www.greynet.org/ [1266]
https://web.archive.org/web/20150913001147/http://www.textrelease.com/gl17program.html [1267]
https://www.iaea.org/inis/ [1268]
http://invenio-software.org/ [1269]
http://dataverse.org/ [1270]
http://zenodo.org/ [1271]
https://av.tib.eu/ [1272]
http://doi.org/10.1241/johokanri.58.193 [1273]
http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/ [516]
E1612 [1265]
E1681 [510]
E1382 [1274]
2016年2月18日,第12回レファレンス協同データベース事業(レファ協)フォーラムが国立国会図書館(NDL)関西館で開催された。本フォーラムは,レファ協に関心を持つ人々を対象として,専門家の講演,参加館の実践報告等を通じて事業への認識を深め,あわせて関係者相互の情報交換,交流の場とすることを目的として2004年度から毎年度開催されている。2015年度は事業の本格化から10周年を迎え,「レファ協の10年:これまでとこれから」をテーマに,活動を総括し,今後の展望を語り合う場となった。
第1部は,漫画家・イラストレーターの埜納(ののう)タオ氏による基調講演「『夜明けの図書館』とレファ協」であった。レファレンスサービスを題材とした漫画『夜明けの図書館』(E1252 [105]参照)の執筆に至る経緯や,図書館訪問や図書館員への調査を重ねて人物設定や各話の内容を膨らませていく過程等が語られた。後半は,NDL職員の兼松芳之との対談形式で,レファ協が登場する『夜明けの図書館』第14話が紹介された。また,これからも理想の図書館像を描いていきたいという想いや,国民の誰もが信頼・活用できるデータベースとしてレファ協を一般の方にもっと知ってほしいという期待が述べられた。
第2部では,まず事務局から2015年度の事業報告があり,続いてパネルディスカッション「レファ協の10年:これまでとこれから」が行われた。青山学院大学の小田光宏氏をコーディネーターに,一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団の木下みゆき氏,千葉経済大学短期大学部の齊藤誠一氏,福井県立こども歴史文化館の宮川陽子氏,兼松の4名をパネリストとした。
最初に各パネリストから,自身のレファ協との関わりや想い出に残るエピソード,ターニングポイント等が述べられた。立川市図書館勤務時代からレファ協に携わっていた齊藤氏からは,「レファ協の事例から当時の世相を知ることができる」「図書館員としては,過去の事例はあくまでその時点のものであることを認識して,新情報が出ていないか調べることが必要」との指摘があった。また,宮川氏からは,かつて福井県立図書館でレファ協に携わり,また現在,学芸員業務を担当しているという双方の経験から「情報の確度の高さという点でレファ協に大きな期待をしている。事例データを一般公開することの意義は大きい」との発言があった。木下氏からは,専門図書館である大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)情報ライブラリーでレファ協に関わってきた経験を踏まえて,レファ協の利用が図書館業務の効率化や改善につながることが具体例を挙げて紹介された。兼松からは,事務局としてレファ協に関わった経験等から,登録事例件数が10万件を突破した時のことと,レファ協のエッセンスが「たのしみ・つながり・ひろがり」である旨が述べられた。
その後,今後のレファレンスサービスと,それに対するレファ協の貢献の可能性について議論がなされた。「大学の司書課程の授業で,学生に調べる楽しみを伝えるのにレファ協が役立っている」(齊藤氏),「レファレンスサービスの認知度を上げ,図書館には力があるということをもっと人々に知らせるとよい」(宮川氏),「図書館外へ図書館員が身一つで出向いていくような出張レファレンスを想定した際,資料をすぐ利用できない場所でもレファ協があれば役立つのではないか」(木下氏),「レファ協そのものはシステムでしかなく,作る人や使う人がそこにどんな想いを乗せていくかが重要」(兼松)といった発言があった。
また複数のパネリストから,図書館のPRにレファ協が有用であるという意見や,レファ協への参加には初期投資が不要で,他の図書館や一般の方から情報提供等を受けることもできるため,人員や資料の少ない小規模館にこそメリットがあるという意見が述べられた。
その後の質疑応答では,フロアから学校図書館での活用法,海外へのレファ協の紹介,レファ協の多言語対応,事例として古いデータを残しておくべきか更新するべきか等について意見が出された。
まとめとして,小田氏から,さらなるデータの蓄積とデータの二次・三次利用の促進が重要との指摘があった。また,レファ協は,結論ありきではなく方向性を考えながら先に進んできた経緯があり,今後もそのように進んで行くのではないかとの考えが示され,「人間が問いを持つということがレファレンスサービスを存続させる。いろいろな問いに携わっていけることがレファ協の醍醐味である」と述べられた。最後に,漫画『夜明けの図書館』の舞台である架空の図書館「暁月市立図書館」をレファ協の名誉参加館としてはと発言があり,多くの拍手がわき起こった。
なお,本フォーラムはTwitterで中継を行い(ハッシュタグは“#crdf2016 [1276]”),活発な意見交換が行われた。
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局
Ref:
http://crd.ndl.go.jp/jp/library/forum_12.html [1277]
http://togetter.com/li/939902 [1278]
E1252 [105]
国立国会図書館(NDL)のウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)は,図書館及び図書館情報学に関する最新情報を提供するウェブサイトです。2006年に運用を開始しました。サイト名は,図書館その他の情報機関が利用者に対して最新情報を定期的に提供するサービス「カレントアウェアネスサービス」に由来しています。
CAポータルは,次の4つのコンテンツで構成されています。
◯「カレントアウェアネス-R」
「カレントアウェアネス-R」(CA-R)は,図書館及び図書館情報学に関する最新情報をお届けするブログ記事です。2006年に開始したCA-Rは,基本的に平日は毎日更新しており,現在まで更新しなかった日はありません。1日6本から10本程度の記事を掲載しています。現在まで,約2万2,000件の記事を掲載しました。日本国内のみならず,世界各国の最新情報も取り上げています。
◯『カレントアウェアネス-E』
『カレントアウェアネス-E』(CA-E)は,図書館及び図書館情報学に関する最新ニュースを提供するメールマガジンです。2002年に創刊したCA-Eは,年22回(およそ月2回)発行しており,発行日は原則木曜日です。1号につき4本から6本程度の記事を掲載しています。2015年末現在で295号を発行しており,記事数は1,753本に及びます。図書館界の最新ニュースのほか,各種イベントの報告や文献紹介などの記事を掲載しています。
◯『カレントアウェアネス』
『カレントアウェアネス』(CA)は,図書館及び図書館情報学における,国内外の近年の動向及びトピックスを解説・レビューする情報誌です。CAは,1979年に月刊誌として創刊しました。2002年に,NDL関西館事業部図書館協力課(当時)が編集を担当するようになり,また同年10月にCA-Eが創刊するのに伴い,季刊誌となりました。現在,毎年3月,6月,9月,12月の各20日に発行しています。1号につき6本程度の記事を掲載しています。2015年末現在で326号を発行しており,記事数は1,864本に及びます。背景説明などの解説を加えた記事や,複数の事例を挙げて特定のトピックをレビューする記事などを掲載しています。
◯図書館及び図書館情報学に関する調査研究
毎年,図書館及び図書館情報学に関する調査研究(以下調査研究)を外部に委託して,その成果を主に『図書館研究シリーズ』『図書館調査研究リポート』などの刊行物により公開しています。『図書館研究シリーズ』は1960年から刊行を開始し,現在No.40まで刊行しています。『図書館調査研究リポート』は2003年から刊行を開始し,現在No.15まで刊行しています。各種図書館の図書館業務の改善に資するような調査研究を実施しています。
◯CAシリーズの関係
以上の4つのコンテンツのうち,調査研究を除く3つ(CAシリーズ)は,相互に深い関連があります。CA-Rは,CA-EやCAの「ネタ帳」としての性格を持っています。日々の情報収集の中で集められた,CA-EやCAの記事になりそうな情報をコンテンツとして公開したものが,CA-Rのはじまりです。そのため,CA-Rで取り上げた情報からCA-Eなどの記事が生まれることがあります。また,上記のように,CA-Eは最新ニュースをコンパクトにまとめること,CAは各種トピックを解説・レビューすることを目的としており,それぞれ役割が異なっています。それぞれ性格が異なるこれらのコンテンツが有機的に結びつくことで,図書館及び図書館情報学に関する最新情報を立体的に提供できるよう努めています。
◯東日本大震災とカレントアウェアネス・ポータル
NDLでは,東日本大震災からの復興を支援するため,また東日本大震災の記録・教訓を後世に伝えるため,東日本大震災に関する情報提供に重点的に取り組んできました。CAポータルの各コンテンツでも,東日本大震災を含めた災害と図書館に関する情報を積極的に提供してきました。CAポータルでは今後も引き続き,災害と図書館に関する情報を提供していきます。
CAポータルの更新情報は,RSSやTwitterで随時配信しています。国内外の図書館及び図書館情報学に関する最新動向を把握するために,ぜひCAポータルをご覧ください。
関西館図書館協力課調査情報係
注:この記事には英訳版(E1777e [1281])があります。
Ref:
http://current.ndl.go.jp/ [1282]
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ブログ記事「カレントアウェアネス-R」(CA-R)は,2006年開設の「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)と共に誕生したメディアです。国内外の図書館や関連領域のニュースを簡潔にまとめて届けるブログ形式のニュース速報であり,年末年始を除いて平日は毎日更新しています(2015年には2,342件発信)。本稿では,2015年に発信した記事を振り返りつつ,CA-Rの特徴,業務上の位置づけ,課題について紹介したいと思います。
◯CA-Rの特徴と業務上の位置づけ
CA-Rは,インターネットで公開されている情報源に依拠して発信しています。また,過去の関連するCA-R,メールマガジン『カレントアウェアネス-E』(CA-E),情報誌『カレントアウェアネス』(CA)などを参考情報として末尾に掲げ,当該記事の背景や基礎的事実の理解を助ける工夫も行っています。
一方で,CA-Rは,CA-EやCAのネタ元,メモという位置づけもあります。ニュースとしての速報性に鑑みて,CA-Rの記事本文は数行程度で簡潔に表現するように心かげています。そのなかから,内容や,アクセス数に鑑み,CA-E,CAで詳しく解説を行う記事を選択していきます。2015年にアクセス数が多かったものの中では,「日本図書館協会,日本十進分類法新訂10版を刊行」(CA1850 [1292]参照),「お茶の水女子大学,2016年度から導入の新型AO入試で「図書館入試」を実施」(E1717 [810]参照)等がその後にCA-EやCAの記事となっています。その他,図書館関連のイベント開催情報をとりあげ,その参加報告をCA-Eで配信することも行っています。
◯東日本大震災と図書館
CA-Rでは,東日本大震災と図書館に関する情報も積極的に発信しています。2015年の記事を振り返ると,「東日本大震災アーカイブ宮城」「けせんぬまアーカイブ」「久慈・野田・普代震災アーカイブ」「浦安震災アーカイブ」と多数の震災関連のデジタルアーカイブが公開されたことがわかります。東日本大震災発生から5年にあたる2016年は,関連事業が多数実施されることが予想されます。そのような情報についても,引き続き発信していきます。
◯アクセス数が多かった記事
2015年公開の記事で最もアクセス数が多かったのは「「ねこあつめ」に学ぶ(記事紹介)」でした。その他,「「バベルの図書館」を再現したWebサイト公開」「なぜ図書館は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を所蔵していないのか(記事紹介)」等,図書館周辺の「おもしろい」記事も多数のアクセスを集めました。また,環太平洋戦略的経済連携(TPP)協定関連,「TSUTAYA図書館」,神戸高校旧蔵書貸出記録流出問題など時事的な話題に関する記事にも関心が集まりました。このような,「おもしろい」記事や,時事的事項についても,引き続き取り上げていきたいと思います。
◯今後の課題
一方,CA-Rには,取り上げる地域が日本以外では英語圏に偏っているという課題もあります。米国・英国の図書館界の動向について注目していく必要はあるものの,非英語圏の動向を追い切れていないのが実情です。CA-Rでは,世界各国の図書館界の動向に関する情報の提供も受け付けています。日本や米国・英国は勿論のこと,その他の地域の図書館界の動向についても情報をご提供いただけると幸いです。
関西館図書館協力課調査情報係
注:この記事には英訳版(E1778e [1293])があります。
Ref:
http://current.ndl.go.jp/car [1283]
http://current.ndl.go.jp/callfor [1294]
http://current.ndl.go.jp/sinsai [1289]
http://current.ndl.go.jp/node/27874 [1295]
http://current.ndl.go.jp/node/29083 [1296]
http://current.ndl.go.jp/node/28678 [1297]
http://current.ndl.go.jp/node/28371 [1298]
http://current.ndl.go.jp/node/28324 [1299]
http://current.ndl.go.jp/node/28334 [1300]
http://current.ndl.go.jp/node/28798 [1301]
http://current.ndl.go.jp/node/28689 [1302]
http://current.ndl.go.jp/node/28453 [1303]
http://current.ndl.go.jp/node/29587 [1304]
http://current.ndl.go.jp/node/29581 [1305]
http://current.ndl.go.jp/node/29424 [1306]
http://current.ndl.go.jp/node/29692 [1307]
E1717 [810]
CA1850 [1292]
本稿では,メールマガジン『カレントアウェアネス-E』(CA-E)の2013年から2015年までの期間に刊行した記事を振り返ります。
◯CA-Eについて
CA-Eでは,図書館及び図書館情報学に関する様々なニュースを扱っています。2002年の刊行当初は1記事が平均500字程度でしたが,2006年のブログ記事「カレントアウェアネス-R」(CA-R)の登場に伴って「ニュース詳報」化し,現在は1記事当たり1,500~2,000字程度です。情報誌『カレントアウェアネス』(CA)とは連携しながらも差異化を図っており,読みやすくコンパクトな記事をお届けするよう努めています。
2011年からは図書館関係者の方に『カレントアウェアネス-E』編集部(以下編集部)がインタビューする形式の記事を刊行するなど,創意工夫を図ってきました。また,東日本大震災発生直後から,日々編集部が収集しCA-Rとして発信している情報などをもとに,震災に関する図書館等の動きを数か月分集約した記事「東日本大震災後の図書館等をめぐる状況」(E1748 [1308]ほか参照)を中心に,被災地の図書館についてとりあげるなど,災害等に関する情報発信にも力を入れています。
◯多くとりあげたテーマ,館種,国・地域
この3年間で多くとりあげたテーマは,「学術情報流通」「デジタルアーカイブ」「オープンアクセス」(OA)「災害」でした。また,館種は公共図書館と大学図書館を扱うことが多く,続いて国立図書館でした。国・地域は,日本と米国についての記事が圧倒的に多く,続いて英国でした。
2015年は特に,「オープンデータ」「情報リテラシー」「機関リポジトリ」「オープンサイエンス」などのテーマを扱うことが多く,また,国内の図書館が開催したイベントや国内外で開催されたシンポジウムや集会をとりあげる記事も増やしました。
◯アクセス数が多かった記事
この3年間のアクセス数トップ3の記事は次のとおりです。
続いて,期間内に一定数のアクセスがあった記事をいくつかのトピックごとに見てみます。
まず,学術情報関連では,京都大学におけるOA方針採択(E1686 [1198]参照)をはじめ,OAリポジトリ連合(Confederation of Open Access Repositories:COAR)のロードマップ(E1666 [1312]参照),機関リポジトリ推進委員会による博士論文のインターネット公表化の現況調査について扱った記事(E1707 [1313]参照)などがあります。
次に,図書館に関するイベントを扱ったものや,ある図書館での特徴的な取組や継続的な活動をとりあげたものがありました。前者の例としては,「図書館の音と学び」,「高齢社会における図書館」といったテーマで実施されたイベント(E1664 [1314],E1669 [656]参照)。後者の例としては,特に大学図書館に関するもので,京都大学吉田南総合図書館の黒板を活用した広報(E1602 [1315]参照),筑波大学の「近未来図書館シリーズ」(E1668 [1316]参照)などが挙げられます。
続いて,図書館の基本的な業務であるレファレンスサービスや資料保存について扱ったものとして,米国Springshare社のLibGuides(E1410 [1317]参照),国立国会図書館(NDL)の第25回保存フォーラム(E1642 [1318]参照)も読者の関心を集めたようです。
最後に,2013年6月に成立したマラケシュ条約(E1455 [1319]参照),2013年8月に報じられた漫画「はだしのゲン」の小中学校における閲覧制限(E1472 [1320]参照),2014年の学校図書館法一部改正(E1597 [1321]参照),欧州連合(EU)欧州司法裁判所の「忘れられる権利」に関する裁定を扱った記事(E1572 [820],E1655 [1322]参照)など,CA-Rでもその動向を追ってきた,法律や知的自由に関する話題をとりあげたものがありました(E1424 [1323],E1459 [1324]参照)。
そのほか,期間外の記事ではありますが,CAポータルのキャラクターのモチーフにもなっている図書館ネコ「デューイ」の記事(E574 [1325]参照)へのアクセスは刊行後10年近くを経ても衰えず,アクセスランキングの上位を守っていました。
◯CA-Eの今後
本稿ではアクセス数をもとに近年の記事を振り返りましたが,図書館界に大きな影響を与えたニュースをとりあげた記事も注目を浴びる一方,図書館の周辺分野に関するニュースや,図書館に関わる「人」や図書館に関するユニークな試みに注目した記事も多くご覧いただいていることがわかりました。
CA-Eは,2009年度以降記事テーマの多様化を図るべく,徐々にNDLの館内で執筆する割合を減らしており,2015年は全記事の過半数(56%)をNDL職員以外の方に執筆いただきました。今後も図書館の周辺分野も含めながら,様々なニュース,取組,イベント,文献等を扱っていきたいと考えています。
CA-Eの記事テーマは,編集部がCA-Rなどで日々収集している情報をもとに決定していますが,記事の寄稿や企画の提案も広くお待ちしています。これまでご協力いただいた方々に改めてお礼を申し上げるとともに,今後もお力添えのほどよろしくお願いいたします。
関西館図書館協力課調査情報係
注:この記事には英訳版(E1779e [1326])があります。
Ref:
http://current.ndl.go.jp/cae [1284]
http://current.ndl.go.jp/callfor [1294]
http://current.ndl.go.jp/sinsai [1289]
E1503 [1309]
E1418 [1310]
E1491 [1311]
E1686 [1198]
E1666 [1312]
E1707 [1313]
E1664 [1314]
E1669 [656]
E1602 [1315]
E1668 [1316]
E1410 [1317]
E1642 [1318]
E1455 [1319]
E1472 [1320]
E1597 [1321]
E1572 [820]
E1655 [1322]
E1424 [1323]
E1459 [1324]
E574 [1325]
E000 [1327]
E1000 [1328]
『カレントアウェアネス』(CA)は,図書館及び図書館情報学における国内外の近年の動向及びトピックスを解説・レビューする情報誌です。1979年8月に国立国会図書館(NDL)職員向けの執務資料として創刊され,1989年6月刊行の118号から日本図書館協会による刊行物としての頒布が始まりました。現在CAは,冊子版刊行と同時にオンライン版をCAポータルに掲載していますが,CAポータルで公開しているのはこの118号以降の記事です。CAの経緯は,創刊300号・30周年記念特別号(2009年6月刊行)にまとめられています。続く301号(2009年9月刊行)では,118号から300号までの記事についての分析を行っています(CA1695 [1329]参照)。本稿では,2011年から2015年に掲載した130本の記事について簡単に振り返ります。
◯誌面構成と刊行形態
CAは,近年話題になっているテーマについて分かり易く説明する「一般記事」,ある特定分野について最近の動向を概観する「動向レビュー」,特定テーマに関する研究論文をレビューする「研究文献レビュー」で構成されます。記事内容は,図書館・図書館情報学関係の有識者を交えて年4回開催される編集企画会議で決定しています。CAは創刊当初B5判の月刊誌でしたが,2002年の『カレントアウェアネス-E』(CA-E)創刊に伴い,272号(2002年6月刊行)からA4判の季刊誌に変更しました。
◯過去5年間の記事内容とアクセス数が多かった記事
オンライン版には,記事ごとに記事内容を示すタグを付与しています。これらのタグから過去5年間に多く取り上げられた記事内容を挙げると,「デジタル化」「デジタルアーカイブ」「学術情報」「学術情報流通」などがあります。また,館種は大学図書館,国・地域は日本及び米国の記事が多くなっています。
また,オンライン版のアクセス数から特に読者の関心を惹いた記事を挙げると,「動向レビュー:図書館はデジタルカメラによる複写希望にどう対応すべきか」(CA1770 [1330]参照),「動向レビュー:日本の公共図書館の電子書籍サービス-日米比較を通した検証-」(CA1773 [1331]参照),「動向レビュー:Linked Dataの動向」(CA1746 [153]参照),「大学図書館のサービスとしての文献管理ツール」(CA1775 [476]参照),「動向レビュー:デジタル教科書をめぐって」(CA1748 [1332]参照),「読書通帳の静かなブーム」(CA1841 [1333]参照)などがあります。また,「一般記事」よりも「動向レビュー」や「研究文献レビュー」記事へのアクセスが多い傾向が見られます。
◯東日本大震災関連の記事
『カレントアウェアネス-R』やCA-Eと同じくCAも東日本大震災関連の記事を掲載しており,「図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における東日本大震災関連資料収集の現状と課題-震災の経験を活かすために-」(CA1815 [1334]参照)や「動向レビュー:国境なき図書館と国際キャンペーン『緊急時の読書』」(CA1810 [1335]参照)などがあります。また,震災から5年目の2016年3月刊行予定の327号では,小特集を組む予定です。
◯おわりに
CAは,特定のテーマについて背景説明や解説を行うことを目的とすることから,執筆者はNDL職員だけでなく,他館の図書館職員・図書館情報学研究者や他分野の研究者など多岐にわたります。
創刊から約37年が経過し時代状況に合わせて変貌を遂げてきたCAですが,今後もCAシリーズの連携を意識しながら,図書館に関する最新情報を提供する情報誌としてより読み応えのある記事を提供できるよう努めていきます。
関西館図書館協力課調査情報係
注:この記事には英訳版(E1780e [1336])があります。
Ref:
http://current.ndl.go.jp/ca [1285]
http://current.ndl.go.jp/node/1221 [1337]
http://current.ndl.go.jp/ca/no300 [1338]
http://current.ndl.go.jp/node/1222 [1339]
http://current.ndl.go.jp/ca/contributor [1340]
http://current.ndl.go.jp/sinsai [1289]
CA1695 [1329]
CA1770 [1330]
CA1773 [1331]
CA1746 [153]
CA1775 [476]
CA1748 [1332]
CA1841 [1333]
CA1815 [1334]
CA1810 [1335]
国立国会図書館(NDL)では,図書館及び図書館情報学に関する調査研究(以下調査研究)を調査研究機関等に外部委託して実施しています。その成果を広く図書館界で共有するために,主に報告書を刊行して,都道府県立図書館・政令指定都市立図書館や各国の国立図書館を中心に,国内外の関係機関に提供しています。また,図書館総合展やNDL館内で成果の報告会も実施しており,その普及に努めています。成果の多くは,「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)にも,PDFファイルやEPUBファイル,あるいはテキストデータの形式で掲載しています。
報告書には,『図書館研究シリーズ』『図書館調査研究リポート』の2つのシリーズがあります。
『図書館研究シリーズ』は,その刊行が1960年までさかのぼるものであり,古い歴史をもっています。現在,No.40まで刊行しています。一方,『図書館調査研究リポート』は,この調査研究事業がNDL関西館事業部図書館協力課(当時)の担当業務となったのを機に,2003年から刊行を開始しました。現在,No.15まで刊行しています。本稿では,『図書館調査研究リポート』を中心に,最近の調査研究の内容を紹介します。
◯図書館調査研究リポート
『図書館調査研究リポート』は,2003年以降,ほぼ毎年刊行しています。現在までの刊行タイトルは,次のとおりです。
そのほか,最近では報告書以外の形式で成果を公開した調査研究として,次のものがあります。
調査研究のテーマは,偏ることがないよう幅広く設定しています。CAポータルの掲載ページへのアクセス数についても,とくに目立った傾向はなく,これらの調査研究が万遍なく参照されていることが推測されます。
刊行当初は,科学技術情報の収集,研修事業,蔵書評価,資料保存など,NDLの事業と関連した内容を比較的多く取り上げていました。No.2では,「今後国立国会図書館が果たすべき役割及び関係機関との連携協力の方向性を明らかにすることを目標としている。」との一文を掲載しており,当時の調査研究の位置づけは,この一文に端的に表れています。
最近では,地域資料,電子書籍,障害者サービス,レファレンスサービスなど,図書館業務における一般的な事項を取り上げることが多くなっています。これは,調査研究の成果をより広く図書館界で共有することを念頭に置いているためで,NDLの図書館協力事業の一環として行われている調査研究事業の性格がより強く反映されていると言えます。
◯東日本大震災と図書館
No.13は,「東日本大震災と図書館」と題し,東日本大震災と図書館に関する情報を網羅的に収集し,情報を整理しました。この調査研究は,震災からの復興を支援するためにNDLが重点的に取り組んできた,東日本大震災に関する情報提供の一環です。
国立の図書館であるNDLだからこそ,各種図書館が単独では実施できないような総合的な調査または大規模調査を行う責務があります。今後も,各種図書館の図書館業務の改善に資するような調査研究を実施して,その成果を図書館界にわかりやすく還元していきます。
関西館図書館協力課調査情報係
注:この記事には英訳版(E1781e [1341])があります。
Ref:
http://current.ndl.go.jp/research [1286]
http://current.ndl.go.jp/report/no13 [1342]
http://current.ndl.go.jp/sinsai [1289]
2015年に発信したブログ記事「カレントアウェアネス-R」(CA-R)において,とりあげた分野としては,デジタルアーカイブ(デジタル化),学術情報流通,オープンアクセス(OA)が多かったようです。そのなかから,本稿では,「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)でも着目している,OAの観点から2015年の記事を振り返ってみたいと思います。
まず,各種機関から,研究者・図書館員・出版社を対象とした,OAに関するカリキュラムやガイドが公開されるという動きがありました(ユネスコ,OAPEN-UK,Authors Alliance)。この他,PASTEUR4OA(欧州におけるOA等の政策の発展促進をサポートするプロジェクト)からは,OA方針に関する活動・調査の結果をまとめたレポートや,EU各国のOA方針の実施状況をまとめた報告書(E1725 [1343]参照)が公開されました。
米国では,科学技術政策局が2013年に発表した「公的助成研究成果のオープンアクセス指令」に基づき,パブリックアクセスプランを策定する機関(農務省,医療研究品質庁,国立宇宙局,国防総省,米国科学財団,退役軍人省,スミソニアン協会,国立標準技術研究所)や,研究成果をCHORUS(公的助成研究成果のパブリックアクセス拡大に向けて組織された官民イニシアチブ)を通じて公開する機関(米国科学財団,スミソニアン協会,米国物理学会,地質調査所,国立標準技術研究所)が見られました。
また,欧州では,研究機関等が,Elsevier社,Springer社といった国際的出版社と合意し,各社の電子ジャーナルから出版する,機関所属の研究者の研究成果をOA化する動きが見られました(欧州原子核研究機構,英国のJisc,ドイツのマックスプランク協会)。そのようななか,オランダ大学協会とElsevier社の間では,購読料と論文のOA化に関する交渉が暗礁に乗り上げ,7月には,同協会が所属研究者に対しElsevier社の雑誌の編集責任者を退くよう呼びかけるといった事態が発生しています(最終的には,12月に両者間で交渉が成立しました)。
日本国内では,京都大学(E1686 [1198]参照),筑波大学,国際日本文化研究センターと,OA方針を採択する研究機関があらわれました。今後も採択する研究機関が増えてくると思われます。
CAポータルでは,今後も国内外におけるOAの動向についても注目し,CA-Rで発信していきます。
関西館図書館協力課調査情報係
注:この記事には英訳版(E1782e [1344])があります。
Ref:
http://current.ndl.go.jp/node/28162 [1345]
http://current.ndl.go.jp/node/29175 [1346]
http://current.ndl.go.jp/node/30118 [1347]
http://current.ndl.go.jp/node/28323 [1348]
http://current.ndl.go.jp/node/29218 [1349]
http://current.ndl.go.jp/node/28171 [1350]
http://current.ndl.go.jp/node/28052 [1351]
http://current.ndl.go.jp/node/28686 [1352]
http://current.ndl.go.jp/node/30142 [1353]
http://current.ndl.go.jp/node/28188 [1354]
http://current.ndl.go.jp/node/29202 [1355]
http://current.ndl.go.jp/node/29985 [1356]
http://current.ndl.go.jp/node/29143 [1357]
http://current.ndl.go.jp/node/28321 [1358]
http://current.ndl.go.jp/node/29738 [1359]
http://current.ndl.go.jp/node/29721 [1360]
http://current.ndl.go.jp/node/28854 [1361]
http://current.ndl.go.jp/node/30197 [1362]
http://current.ndl.go.jp/node/28428 [1363]
http://current.ndl.go.jp/node/30018 [1364]
http://current.ndl.go.jp/node/30379 [1365]
E1725 [1343]
E1686 [1198]
東日本大震災後の図書館等をめぐる状況について,本誌での既報(E1748 [1308]ほか参照)に続き,2015年12月上旬から2016年2月中旬までの主な情報をまとめた。
1月12日,気仙沼図書館の基本設計が完了したことが,気仙沼市の東日本大震災調査特別委員会で報告された。また,2月2日,気仙沼中央公民館内で仮設開館していた気仙沼市気仙沼図書館が,気仙沼中央公民館気仙沼分館内へ移転した。
http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1416360701071/index.html [1366]
http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1429255048069/files/270413iinkai_06.pdf [1367]
1月8日,「あおもりデジタルアーカイブ」が閉鎖された。なお,コンテンツは,「青森震災アーカイブ」へ移管される予定となっている。
http://kn.ndl.go.jp/information/440http://archive.city.hachinohe.aomori.jp [1368]
1月19日,赤十字原子力災害情報センターが,「赤十字原子力災害情報センターデジタルアーカイブ」で,国際赤十字・赤新月社連盟による東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故から現在までの取組を紹介した特設ページを公開した。
http://ndrc.jrc.or.jp/special/ifrc-preparedness-top/ [1369]
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/160119_004064.html [1370]
2月9日,国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)に,新規コンテンツとして以下が追加された。
http://kn.ndl.go.jp/information/442 [1371]
1月9日,自然災害への防災減災,災害復興の研究成果を災害軽減に役立てるため,日本学術会議及び47の学会で構成される「防災学術連携体」が創設された。
http://janet-dr.com/08_houkoku/seimei/20151216_janet_dr_press.pdf [1372]
1月22日,神戸大学で,神戸大学人文学研究科地域連携センターにより,行政,大学における震災資料の現状と課題についての報告や図書館の実務者との情報交換を行う「第5回被災地図書館との震災資料の収集・公開に係る情報交換会」が開催された。
http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/event/2016_01_22_01.html [1373]
1月25日,東北大学災害科学国際研究所の災害統計グローバルセンターが,東日本大震災の被害状況等に関する国や地方公共団体,経済団体等の統計データを収集した「東日本大震災関連統計データベース」の試行運用を開始した。
http://www.geje-gcds.jp/ [1374]
2月5日,宮城県図書館が,館内に設置している「東日本大震災文庫」で,震災直後から宮城県内の各地で広く配布・掲示されたチラシやポスター,ミニコミ誌等を収集・整理した震災関連資料ファイルを公開した。
http://www.library.pref.miyagi.jp/latest/news/682-ephemera-archives-related-to-the-great-east-japan-earthquake.html [1375]
2月13日,仙台市が,震災や復興に関する記録の展示を開催したり,震災の記憶と記録を伝える人々が活動したりするための施設「せんだい3.11メモリアル交流館」を全館オープンした。
http://sendai311-memorial.jp [1376]
10月17日から12月6日まで,福島県文化財センター白河館(まほろん)で,被災した福島県内の文化財の救出活動とその再生に向けた取組を紹介する企画展「ふくしま復興展Ⅱ「よみがえる文化財―震災からの救出活動と再生への取り組み―」」が開催された。
http://www.mahoron.fks.ed.jp/bosyu/2015_fukkou2_tenji.htm [1377]
10月17日から12月17日まで,千葉県立中央図書館で,東日本大震災をはじめとした千葉県の地震災害に関する資料展示「千葉県の地震災害」が開催された。
http://www.library.pref.chiba.lg.jp/information/central/post_131.html [1378]
http://www.library.pref.chiba.lg.jp/booklist/chibatenjilist201510-2.pdf [1379]
11月1日から12月27日まで,岩手県立図書館で,特別展示「人間を救うのは,人間だ。~日本赤十字社「東日本大震災復興支援事業の今」と「災害への備え」~」が開催された。
http://www.library.pref.iwate.jp/info/evecale/minitenji/201511_mini_jrc.html [1380]
11月14日から12月6日まで,茨城大学図書館で,2015年度後学期企画展「東日本大震災と文化遺産―学生と市民が守ったふるさとの記憶―」が開催された。
http://www.ibaraki.ac.jp/events/2015/11/061532.html [1381]
12月5日から12月20日まで,いわき市石炭・化石館で,ふくしま震災遺産プロジェクトによるアウトリーチ事業「震災遺産を考えるⅡ いわきセッション」の一環として,「浜通りの震災遺産展」が開催された。
http://www.sekitankasekikan.or.jp/event_02.html [1382]
http://www.sekitankasekikan.or.jp/event_data/20151212.pdf [1383]
1月15日から1月28日まで,浦安市立中央図書館で,日本図書館協会東日本大震災対策委員会が撮影,収集した写真によって被災状況を紹介する「東日本大震災図書館被災写真展」が開催された。
http://library.city.urayasu.chiba.jp/news/news/#20160115 [1384]
1月15日から2月14日まで,埼玉県立久喜図書館で,カスリーン台風による水害や,関東大震災,西埼玉地震,阪神・淡路大震災,東日本大震災に関する資料を紹介する資料展「災害を記憶する」が開催された。
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/news/exhibit/index_27.html#280115_kuki [1385]
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/news/exhibit/280115_saigai_reaflet.pdf [1386]
1月29日,茨城県立図書館は,同館が開催する展示「東日本大震災~あれから5年~」に関連し,ウェブサイトに同タイトルのページを開設し,「県内市町村立図書館等の展示スケジュール」や「東日本大震災関連雑誌記事一覧」などの情報を掲載した。
https://www.lib.pref.ibaraki.jp/information/news/2015/2015_tenji02.html [1387]
https://www.lib.pref.ibaraki.jp/information/news/2015/2015_tenji03.html [1388]
https://www.lib.pref.ibaraki.jp/information/news/2015/files/20160129_zassi_kizi.pdf [1389]
https://www.lib.pref.ibaraki.jp/information/news/index.html [1390]
11月25日,12月12日,1月16日,2月7日の各日,岩手県立図書館などで,岩手県立大学及び岩手県立図書館の協働で開発された試作システムを用いて,デジタルアーカイブの構築を試みる,「震災関連資料デジタルアーカイブ作りワークショップ」が開催された。
https://sviwate.wordpress.com/2015/11/14/【震災関連資料デジタルアーカイブ作りワークシ/ [1391]
https://sviwate.files.wordpress.com/2015/11/2015wse381a1e38289e38197.pdf [1392]
12月12日,いわき市生涯学習プラザで,ふくしま震災遺産プロジェクトによるアウトリーチ事業「震災遺産を考えるⅡ いわきセッション」の一環として,東北大学災害科学国際研究所・今村文彦氏による講演会「東日本大震災の教訓とその後の防災・減災の考え方」が開催された。また,12月13日,同事業の一環として,津波被害の痕跡や災害発生時の対応状況,原発事故の影響と現状の見学会「富岡町 被災の現状を知る」が開催された。
http://www.sekitankasekikan.or.jp/event_02.html [1382]
http://www.sekitankasekikan.or.jp/event_data/20151212.pdf [1383]
12月13日,新潟大学で,シンポジウム「震災資料・史料保存・災害史研究の融合をめざして」が開催された。いわき明星大学震災アーカイブ室の川副早央里氏による,「福島県浜通りにおける東日本大震災の記録と記憶-いわき明星大学震災アーカイブ室の取り組みから考える-」などの報告が行われた。
http://www33.atpages.jp/resniigata/modules/news/article.php?storyid=82 [1393]
12月19日,東北歴史博物館で,文化財保存修復学会及び東北歴史博物館による公開シンポジウム「文化財を伝えるー東日本大震災で被災した文化財を考える」が開催された。
http://jsccp.or.jp//sympo_tohoku/index.php [1394]
http://jsccp.or.jp//sympo_tohoku/data/yoshishu.pdf [1395]
1月9日,日本学術会議講堂で,日本学術会議東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会により,シンポジウム「防災学術連携体の設立と東日本大震災の総合対応の継承」が開催された。
http://janet-dr.com/07_event/event11.html [1396]
http://www.ustream.tv/channel/g88ZEeKgNtP [1397]
1月11日,東北大学災害科学国際研究所で,国立国会図書館及び東北大学災害科学国際研究所の共催による「平成27年度東日本大震災アーカイブ国際シンポジウム-地域の記録としての震災アーカイブ~未来へ伝えるために~-」が開催された。
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2015/1212843_1830.html [1398]
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2015/__icsFiles/afieldfile/2015/11/16/pr151118.pdf [1399]
http://kn.ndl.go.jp/information/424 [1400]
http://shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/archives/3451 [1401]
2月7日,雫石町中央公民館で,雫石町立図書館により,「3.11絵本プロジェクトいわて」代表の末盛千枝子氏を講師に迎えた講演会「震災から5年のいま考える絵本のこと」が開催された。
http://www.town.shizukuishi.iwate.jp/docs/2016021000033/ [1402]
http://www.town.shizukuishi.iwate.jp/docs/2016012700010/files/110.pdf [1403]
2月8日と2月9日,一関文化センターで,日本図書館協会施設委員会により,第37回図書館建築研修会「「東北における新たな図書館の動き」<震災から立ち上がる図書館>」が開催された。
http://www.jla.or.jp/committees/shisetu/tabid/283/Default.aspx [1404]
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai//施設委員会/jla37kenchikukenshukai.pdf [1405]
https://www.facebook.com/581391861972224/posts/817993264978748/ [1406]
2月20日,岩手県立図書館で,文化庁被災地における方言の活性化支援事業「おらほ弁で語っぺし発展編」主催の研究報告会「明治期から昭和初期の地方教育資料が語る岩手県の「国語」と「方言」」が開催された。
https://www.library.pref.iwate.jp/info/evecale/event/20160220_kokugohougen.html [1407]
https://www.library.pref.iwate.jp/info/evecale/pict/20160220_kokugohougenpl.jpg [1408]
12月31日付で,福島県立図書館が,『福島民報』,『福島民友』の原発関連記事について作成している「地元新聞にみる原発関連見出し一覧」を更新し,同館のウェブサイトに掲載した。
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/1minamisoma.pdf [1409]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/2namie.pdf [1410]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/3futaba.pdf [1411]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/4okuma.pdf [1412]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/5tomioka.pdf [1413]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/6naraha.pdf [1414]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/7hirono.pdf [1415]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/8kawauchi.pdf [1416]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/9iitate.pdf [1417]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/10katsurao.pdf [1418]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/11huhyou.pdf [1419]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/12songaibaisyou.pdf [1420]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/13miyakoji.pdf [1421]
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/14yamakiya.pdf [1422]
1月16日,福島県立図書館が,「東日本大震災福島県復興ライブラリー」の資料を実際に読み,感じたことを伝える「ブックガイド」のNo.17を公開した。
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/fukkolib/pdf/guide17.pdf [1423]
1月10日,東京都中野区のもみじ山文化センターで,公益財団法人東京子ども図書館による復興支援活動「3.11からの出発」の資金獲得の一環として「東日本大震災復興支援 ピアノ・アンサンブルコンサート」が開催された。
http://www.tcl.or.jp/pdf/invite/invite226.pdf [1424]
http://www.tcl.or.jp/pdf/normal/311.pdf [1425]
2月2日,岩手県庁で,シンガポール赤十字社と陸前高田市などとの支援協力協定締結式が行われ,陸前高田市立図書館のシステム整備費など約3億円が贈られた。
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20160203_3 [1426]
関西館図書館協力課調査情報係
2015年8月,英国図書館(British Library:BL)は,タリバン支配下のアフガニスタンで発行された新聞,雑誌などといったタリバン関係資料のデジタルアーカイブを取得し公開することにつき仲介団体(Taliban Sources Project:TSP)から打診を受けたが,最終的にこれを辞退した。その理由の1つとして,2006年テロリズム法(Terrorism Act 2006)の規定に抵触する可能性のあることが挙げられていた。
英国における国際テロリズム対策のための法律は,初の恒久法である2000年テロリズム法(Terrorism Act 2000)を始めとして,内容を追加する形でいくつも制定されている。2006年テロリズム法もその1つであり,テロリズム賛美を犯罪として取り締まること等を目的として制定された。同法第2条は,テロリズム刊行物を頒布する罪を定める規定であり,図書館サービスとの関係で問題となる規定である。
まず,「テロリズム刊行物」であるかどうかは,読者の理解によって決まる。すなわち,読者の誰かがテロリズム活動の実行,準備等を奨励する内容だと理解する「可能性」がある刊行物を広く含む(第3項)。「可能性」があればよく,実際に読者がテロリズム活動の実行等を奨励されたかどうかは問わない(第8項)。次に,犯罪とされる頒布行為には,読者がテロリズム刊行物を入手できるようなサービスを提供する行為が含まれる(第2項)。英国政府の説明文書によれば,図書館サービスもこれに該当する。
これらの要件だけで犯罪が成立するとすれば,図書館司書が意図せず罪を犯してしまうおそれがある。爆発実験の手引きを含んだ化学の教科書を貸し出した図書館司書は,テロリズム刊行物の頒布行為をしたことになりかねない。このことは法案の審議過程でも問題となり,大学図書館団体を中心に懸念が表明されていた。このため,頒布行為を行う者の意図についても,犯罪の成立要件として次のとお