8月29日に米ルイジアナ州に上陸したハリケーン「カトリーナ」は,未曾有の大災害を引き起こした。図書館および図書館員の被害の全貌はまだ明らかではないが,米国図書館協会(ALA)は,直後から図書館が関係しているニュースをクリップして,状況の把握に努めている。それを見ると,洪水や強風によって多くの図書館が被災・倒壊した様子が垣間見られる。一例を挙げれば,ミシシッピ州のビロクシ図書館は3m以上の洪水に飲み込まれ,ルイジアナ州では少なくとも6郡で学校とその図書館が倒壊したと伝えている。ルイジアナ図書館協会やテキサス図書館協会は,図書館を復旧させるための義援金を募っている。
こうした中でも,緊急時の図書館サービス(CA1533 [1]参照)として,多くの図書館が活動を行っている。避難場所として館内を提供する,避難者に図書や雑誌を届ける,インターネット端末を提供する,子どもへの読み聞かせを行うなど様々なサービスを提供しているようだ。特に,PC環境,インターネット環境の提供は反響が大きく,どの図書館も長蛇の列ができたという。また,カルカスー郡公共図書館やルイジアナ州立図書館は,ホームページ上で避難者に有用な情報サイトを集め紹介したり,レファレンスを受け付けたりしている。被災した人々の情報ニーズに応えようとする図書館の姿はマスコミにも取り上げられている模様である。
Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/hurricanekatrinanews/katrinanews.htm [2]
http://www.libraryjournal.com/article/CA6253141.html [3]
http://www.ala.org/ala/pressreleases2005/september2005/HurricaneKatrina.htm [4]
CA1533 [1]
米国では図書館の運営予算が大幅に削減されており,ニューヨーク州エリー郡やカリフォルニア州サリナス市で図書館が閉鎖の危機にあることはE276 [9]で紹介したとおりであるが,その後も引き続き図書館の存続・閉鎖や運営予算の確保が課題となっている。
ニューヨーク州エリー郡では,郡議会において売上税の増税案が可決されたことで図書館運営費が確保されるため,すべての図書館の閉鎖は回避された。7月の公共図書館委員会では,設備,アクセシビリティ,活動状況など19の指標を用いて各分館を総合評価した結果に基づき,全52館のうち下位24館を閉鎖しなければならないとされた。しかし8月上旬には,この評価方法によると郡南西部には図書館がなくなってしまうことへの配慮や,住民からの見直し要求などを受けて,100名の職員の解雇や20館の閉鎖を含めた計画として承認された。さらに8月後半には,4つの町で町費の投入により図書館の閉鎖を回避することが決定され,現時点では16館が閉鎖される見通しである。
また,カリフォルニア州サリナス市では,5セントの売上税を課すかどうかを11月の選挙で問うことが予定されている。増税に関しては2004年にもその是非が問われたが,このときは反対多数で否決されており,今回が2度目の投票となる。これが可決されると,現在は寄付により賄われている図書館運営費のほか,警察,清掃業務など予算が削減されている業務に対してあわせて1,000万ドルの財源が用意されることになる。
Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/ [10]
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/ [11]
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/ [12]
http://www.libraryjournal.com/article/CA631187.html [13]
http://www.ala.org/al_onlineTemplate.cfm?Section=june2005a&Template= [14]
E276 [9]
米国愛国者法(CA1547 [18]参照)の延長をめぐる攻防が大詰めを迎えている。2005年末に期限切れとなる一部条項を恒久化もしくは延長する再授権法案が7月21日に下院を通過,7月29日に上院を通過しており,法案成立は決定的となっている。ただ,上院法案と下院法案には,連邦捜査局(FBI)の権限の範囲や,焦点となっている215条(図書館の業務記録を入手することができる条項を含む)の期限(上院法案が2009年,下院法案が2015年)などについて差異があるため,9月以降両院協議会で調整される予定となっている。
こうした状況の中,米国市民自由連合(ACLU)は8月25日,通常の裁判所命令が必要ない国家安全保障書簡(National Security Letter: NSL)によってコネチカット州の図書館が利用記録の提出を迫られたことを明らかにし,愛国者法に基づいたこうした捜査は違憲であるとして提訴したことを発表した。また,再授権法案審議の折,愛国者法の公表禁止規定によってこうした法執行の実態を明らかにすることができないとして,公表禁止規定の差し止めを求めている。NSLについては,2004年に連邦地裁で違憲判決が下されている(E254 [19]参照)。米国図書館協会(ALA)は,この裁判を支持し,公表が許されるならこの図書館を図書館界の代表として議会での証言に送る用意もあるとする文書を発表した。また,図書館に対する捜査に関する全国調査(E343 [20]参照)のフルレポートを公開し,捜査の実態を綿密に分析している。
Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/ [21]
http://www.ala.org/ala/washoff/washnews/2005ab/073aug01.htm [22]
http://www.aclu.org/SafeandFree/SafeandFree.cfm?ID=18957&c=262 [23]
http://www.ala.org/ala/pressreleases2005/august2005/FBIACLU.htm [24]
http://www.ala.org/ala/washoff/oitp/LawRptFinal.pdf [25]
CA1547 [18]
E254 [19]
E343 [20]
7月27日,英米目録規則(AACR)改訂合同運営委員会(JSC)から,『資料の記述とアクセス(RDA: Resource Description and Access)』の趣意書が発表された。RDAはこれまでAACR3(E283 [29]参照)と呼ばれていたもので,現規則AACR2とは大きく異なり,デジタル環境に適応したフレキシブルな規則となることから,名称が変更された。RDAの構成は,第1部が「資料の記述」,第2部がアクセスポイントの選定による実体間の関連づけを規定した「関連」,第3部が「アクセスポイントのコントロール」となる。
趣意書によると,RDAはAACRの原則を堅持し,これまでの書誌レコードと互換性のあるデータ記述が行われることを保証するとともに,デジタル資料を含むあらゆるタイプの資料の記述とアクセスについてのガイドラインおよび指示を提供することを目指すとしている。特に,ウェブ環境での利用を考慮し,(1)FRBRやFRAR(E363 [30]参照)のモデルを適用して規則構想を組み換えること,(2)データの記録と表示を分離し,特定のデータ構造に依存しないようにすること,(3)平易な用語,ユーザーフレンドリーなレイアウトにし,図書館関係者以外に使いやすくすること,といった特徴を備えるという。また,第1部の草案のアウトラインとレイアウトの例も示されている。
今後は,図書館界のみならず,他のメタデータ規則を持つコミュニティとも調整し,2008年の刊行を目指す。10月の会議では第2部の草案について議論される予定である。
Ref:
http://www.collectionscanada.ca/jsc/rdaprospectus.html [31]
http://www.libraries.psu.edu/tas/jca/ccda/docs/rda0506.pdf [32]
http://www.collectionscanada.ca/jsc/0504out.html [33]
E283 [29]
E363 [30]
英国著作権ライセンス協会(Copyright Licensing Agency: CLA)は8月16日,英国大学協会(Universities UK: UUK),高等教育カレッジ学長会議(Standing Conference of Principals: SCOP)等の高等教育機関と,授業で使用する教材を作成・配布するための出版物のコピーとスキャニングに関する包括ライセンスの試行について合意したと発表した。CLAとUUK・SCOPはすでに,2001年8月から5年間の期間限定で,教育目的のために複数部数コピーを作成できるという包括ライセンス(CA1442 [36]参照)を運用しており,今回の試行はその拡張という位置付けである。期間は8月1日または2006年2月1日のいずれかから3年間を選ぶことができる。
各高等教育機関は,CLAと個別にライセンス契約することで,個々の資料のスキャニングやコピーを行う都度の権利処理手続きが不要となる。対象資料は,英仏独やオーストラリア,カナダなど20か国・地域からなる複写委任地域(Photocopying Mandate Territories)の出版者およびこのライセンスに参加する一部の米国の出版者の出版物である。ただし,楽譜,地図,新聞や非売品,一部の出版者・著者の出版物は除かれる。また,教育以外の利用,例えば個人の調査・研究目的でのスキャニングや,スキャニングした資料で電子図書館を構築することも禁じられている。範囲は出版物全体の5%,あるいは図書の1章,雑誌では1論文を越えてはならないとされている。
スキャニングができるライセンスの場合,各機関が専攻コースごとに作成したデータベースに,スキャニングした電子ファイルを登録する。授業の履修者は認証システムを経てファイルにアクセスし,ダウンロードするという利用法になる。ファイルへのアクセスはコースが開催されている間可能であり,1人1部に限りプリントアウトも認められている。
年間ライセンス料は,全日制換算の学生数に対し,スキャニングができるライセンスの場合は4.92ポンド(約980円),従来どおりのコピーだけの場合は4.42ポンド(約880円)を乗じた金額となる。なお各機関には,(1)スキャンしたファイルに定められた書式の著作権表示をつける,(2)スキャンを行った記録を作成しCLAに報告する,(3)スキャニングについて監査を行うなどの義務が課されている。各機関のスキャニング記録と監査に基づき,CLAは著作権使用料を配分するとともに,試行を評価するという。
Ref:
http://www.cla.co.uk/news/press_releases/press111.html [37]
http://www.cla.co.uk/support/he/index.html [38]
http://www.cla.co.uk/support/he/HE_TrialPhotocopyingandScanningLicence.pdf [39]
CA1442 [36]
8月15日,国際図書館連盟(IFLA)オスロ大会において,ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(E210 [43]参照)による2005年の「学習へのアクセス賞」(E245 [44],E366 [45]参照)の受賞者が発表された。今年は,バングラデシュ北部の洪水多発地帯で,伝統的なボートを改造して移動図書館と学校を運営しているNGO,Shidhulai Swanirvar Sangsthaが選ばれ,賞金100万ドル(約1億円)が贈られた。
バングラデシュ北部には何千もの河川があり,モンスーン(季節風)の時期には洪水のため,3〜4か月間も周囲から孤立してしまうような地域である。貧困対策のために教育を施そうとしても,情報資源にアクセスすることができない。また女子に対しては,人々が家から遠く離れた学校へ通わせたがらなかった。そこで,このNGOは人々になじみのある伝統的なボートに注目した。12台のボートに発電機や太陽電池を載せ,本やマルチメディア,さらにはコンピュータと携帯電話でのインターネットへのアクセスなどを提供して河川を移動する「ボート図書館」「ボート学校」「インターネット・ボート」を運営したところ,人々に大好評で迎えられた。学校教育やコンピュータのレッスンだけでなく,近代農業や漁業の技術も提供し,生活水準の向上にも成果を発揮しているという。なお,利用者の70%以上は,これまで十分に学習機会を与えられなかった女性が占めている。
Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2005abc [46]
http://www.gatesfoundation.org/Libraries/InternationalLibraryInitiatives [47]
http://www.gatesfoundation.org/Libraries/InternationalLibraryInitiatives [48]
http://www.interconnection.org/sss/index.htm [49]
E210 [43]
E245 [44]
E366 [45]
国立国会図書館は,平成16年度に実施した2件の調査研究の成果を取りまとめた『図書館調査研究リポート』No.4,No.5を刊行し,調査にご協力いただいた関係諸機関等に配布するとともに,その全文をウェブサイト上に掲載した。
No.4は,平成15年度から2年間にわたって行った「電子情報環境下における科学技術情報の蓄積・流通の在り方に関する調査研究」の成果をまとめたものである。2年目となる昨年度は,大学図書館や研究機関における外国学術雑誌の所蔵状況,当館の遠隔複写サービス利用者の情報探索行動とニーズ,関西文化学術研究都市内の研究者の情報行動,米国・英国・ドイツにおけるドキュメント・デリバリー・サービスの現状について調査研究を実施した上で,2年間の調査の総括として,わが国における科学技術情報の蓄積・流通のあり方と,その中で国立国会図書館が果たすべき役割を展望した。
No.5は「図書館職員を対象とする研修の国内状況調査」の成果報告書である。国内の主要な図書館関係団体・機関が主催する図書館職員への研修事業(7例)を対象に調査を実施し,国内における図書館職員を対象とする研修事業の現状と課題について整理・分析を行い,また国立国会図書館に求められている役割を考察した。
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/library/lis_research/lis_rr_01.html [52]
リンク
[1] http://current.ndl.go.jp/ca1533
[2] http://www.ala.org/ala/alonline/hurricanekatrinanews/katrinanews.htm
[3] http://www.libraryjournal.com/article/CA6253141.html
[4] http://www.ala.org/ala/pressreleases2005/september2005/HurricaneKatrina.htm
[5] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[6] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/64
[7] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/72
[8] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/31
[9] http://current.ndl.go.jp/e276
[10] http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2005abc/july2005a/buffaloexpectsclosures.htm
[11] http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2005abc/august2005abc/buffalo.htm
[12] http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2005abc/august2005abc/buffalotowns.htm
[13] http://www.libraryjournal.com/article/CA631187.html
[14] http://www.ala.org/al_onlineTemplate.cfm?Section=june2005a&Template=/ContentManagement/ContentDisplay.cfm&ContentID=95611
[15] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/73
[16] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/76
[17] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/35
[18] http://current.ndl.go.jp/ca1547
[19] http://current.ndl.go.jp/e254
[20] http://current.ndl.go.jp/e343
[21] http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2005abc/august2005abc/connusapa.htm
[22] http://www.ala.org/ala/washoff/washnews/2005ab/073aug01.htm
[23] http://www.aclu.org/SafeandFree/SafeandFree.cfm?ID=18957&c=262
[24] http://www.ala.org/ala/pressreleases2005/august2005/FBIACLU.htm
[25] http://www.ala.org/ala/washoff/oitp/LawRptFinal.pdf
[26] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/92
[27] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/48
[28] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/109
[29] http://current.ndl.go.jp/e283
[30] http://current.ndl.go.jp/e363
[31] http://www.collectionscanada.ca/jsc/rdaprospectus.html
[32] http://www.libraries.psu.edu/tas/jca/ccda/docs/rda0506.pdf
[33] http://www.collectionscanada.ca/jsc/0504out.html
[34] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/104
[35] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/106
[36] http://current.ndl.go.jp/ca1442
[37] http://www.cla.co.uk/news/press_releases/press111.html
[38] http://www.cla.co.uk/support/he/index.html
[39] http://www.cla.co.uk/support/he/HE_TrialPhotocopyingandScanningLicence.pdf
[40] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/52
[41] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/45
[42] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/116
[43] http://current.ndl.go.jp/e210
[44] http://current.ndl.go.jp/e245
[45] http://current.ndl.go.jp/e366
[46] http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2005abc/august2005abc/bengladesh.htm
[47] http://www.gatesfoundation.org/Libraries/InternationalLibraryInitiatives/Announcements/Announce-050816.htm
[48] http://www.gatesfoundation.org/Libraries/InternationalLibraryInitiatives/AccessLearningAward/2005Award/default.htm
[49] http://www.interconnection.org/sss/index.htm
[50] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/112
[51] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/8
[52] http://www.ndl.go.jp/jp/library/lis_research/lis_rr_01.html
[53] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/82
[54] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/110
[55] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/150