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ホーム > カレントアウェアネス > 2003年 (通号No.275-No.278:CA1483-CA1514) > No.276 (CA1491-CA1499) 2003.06.20

No.276 (CA1491-CA1499) 2003.06.20

  • 参照(18917)

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CA1491 - 英国CILIPの活動-LAとIISの統合- / 須賀千絵

  • 参照(12990)

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1491

 

英国CILIPの活動 ―LAとIISの統合―

 

 2002年4月に,英国図書館協会(Library Association:LA)が英国情報専門家協会(Institute of Information Scientists:IIS)と統合し, 英国の図書館情報分野の専門職団体として,新たに,「図書館・情報専門家協会(Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)」が誕生してから,約一年が経過した。CILIPのウェブサイトの情報をもとに,初年度の活動を振り返る (統合の経緯についてはCA1279 [3]参照)。

 CILIPは,正会員(Member)と特別会員(Fellow)から成るチャーター会員(Chartered Member),チャーター会員以外の専門職や図書館情報学専攻の院生などが対象のアソシエイト会員, 非専門職を対象とした一般会員(Affiliate),その他の個人を対象としたサポート会員, 機関会員などから構成された団体である。チャーター会員は,チャーター会員とアソシエイト会員の投票により,一定の条件を満たし,会員候補として登録したアソシエイト会員のなかから選ばれる。現在の会員は約30,000名で,その大半は旧LAの会員である。統合時に,IISの会員数は,LAの会員数の一割程度で,しかも両者に重複する会員も多かった。

 この一年間,CILIPは,専門職を代表した立場での意見の表明や広報活動(Advocacy),専門職の養成および再教育の支援,出版などの各種関連事業を軸に,活発な活動を行ってきた。2002年には,国際図書館連盟(IFLA)の大会が英国スコットランドのグラスゴーで開催されたため,CILIPはそのホスト役も務めた。広報活動の分野では, 2002年7月に,『知識経済におけるCILIPの役割(CILIP in the Knowledge Economy)』を発表し,現在出現しつつある知識ベースの経済において, CILIPが果たすべき役割を示した。このなかで,CILIPは,基準やガイドラインの策定,研究の推進,人材育成などを通して,知識経済に関わっていくことを述べている。

 このほか,2002年10月に,『小学校の図書館のガイドライン(Primary School Library Guidelines)』,および今後の児童サービスのあり方をまとめた『スタート・ウィズ・ザ・チャイルド(Start with the Child:E019 [4]参照)』,2003年2月に,図書館における安全管理のガイドラインである『子どもにとって安全な場所であるために(A Safe Place for Children)』など,児童を対象とした図書館サービスに関連したガイドラインや将来のビジョンを相次いで発表した。これらの文書は,すべてCILIPのウェブサイト上で公開されている。

 CILIPは,図書館・情報政策に関し,政府に対して,しばしば個別に公式見解を発表している。しかし,現在,特に公共図書館政策をめぐって,CILIPは政府と鋭く対立しており,両者の関係は望ましいものであるとは言いがたい。図書館軽視の観のある包括的業績評価制度(Comprehensive Performance Assessment:CPA 各種公共サービスや財政面の評価を総合して,自治体の経営能力を評価するための枠組み)の導入や厳しい状態の続く図書館予算の問題などが,両者の対立の原因になっている。

 専門職の育成と再教育の分野では,LAの業務を引き継いで,図書館情報学分野の公認大学院の認定,各種の研修会の開催などを行っている。このほかに,児童サービスおよび学校図書館,16歳(義務教育修了年)以降の生涯学習,情報および知識マネジメント,図書館における労働問題などの分野において専門のアドバイザーを配置して,会員の個別相談などに対処している。

 また,CILIPでは,「専門職の倫理綱領 (CILIP's Code of Professional Ethics)」 の制定や,資格のあり方の見直しにも着手している。倫理綱領の制定は,LAの綱領をもとに進められており,2003年4月には,その草案がCILIPのウェブサイトに公表された。同時に,資格のあり方を見直すためのプロジェクトも進められており,2005年3月までに,「資格の新しい枠組み(The New Framework of Qualification)」が構築される見込みである。LAとIISの統合を反映して,多様な背景を持つ人材に対応できるような枠組みをつくることをめざしている。2003年4月には,CILIPのウェブサイトに,「情報専門家(information professional)」になるには多様なルートがありうることを発表して,学部卒業後,CILIP公認の情報学分野の大学院修士課程に進むという伝統的なルートのほかに,図書館で準専門職を経験してから公認大学院に進むルート,他分野の大学院の修士・博士課程から直接専門職をめざすルートを紹介している。

 CILIPが展開している事業には,LAの出版部を引き継いだファセット出版(Facet Publishing),図書館情報学分野の求人・求職の紹介や斡旋を行うインフォマッチ(INFOmatch)などがある。後者もLAの同名の事業を引き継いだものである。また機関誌として『アップデイト(Update)』(月刊)を刊行するとともに,ウェブサイトの充実にも力を入れている。

 CILIPには,現在,27の分科会(Special Interests Group)が設置されている。IISの分科会を引き継いで,特許・商標分科会(Patent and Trade Mark Group),英国オンライン端末利用者分科会(UK Online User Group: UKOLUG)が設置されたが,残りの大半は,LAの分科会を引き継いだものである。2003年4月には,新たに,図書館情報学研究分科会(Library and Information Research Group)が設置された。この分科会は,1977年以降,主に図書館情報学の実務に結びついた研究を支援してきた同名の団体を母体としている。

 現在のところ,CILIPの活動の多くは,LAの活動を引き継いだ形で展開されており,LAの影響が色濃く残っているようである。しかしサザンプトン大学(University of Southampton)の学術支援サービス部長からCILIPの初代会長となったシーラ・コラール(Sheila Corrall)は,専門家の多様なニーズを考慮して,分科会や全国にある支部の再編を予定していることを明らかにしている。従って,今後,活動内容が少しずつ変化していく可能性も考えられる。コラールは,次年度以降の課題として,会員のための魅力的で充実したウェブサイトの構築,チャーター会員になるためのルートの多様化を反映した,資格の新しい枠組みの構築,情報の連続体(information continuum),すなわち様々な情報が互いに関連し合いながら存在する世界における専門家およびCILIPの位置づけの見直しを挙げた。LAとIISの統合は,図書館を中心に活躍する伝統的な「情報専門家」と主に電子情報を扱う新しいタイプの「情報専門家」が一体になることによって,多様な情報関連分野において,強大な発言力を得ることがねらいであった。今後の活動を通して,このねらいが実現することが期待される。

慶應義塾大学文学部非常勤:須賀 千絵(すがちえ)

 

Ref.

Chartered Institute of Library and Information Professionals (CILIP). (online), available from < http://www.cilip.org.uk/ [5] >, (accessed 2003-04-10).

CILIP year one: Plenty of progress but more tasks ahead. (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/2003/010403.html [6] >, (accessed 2003-04-10).

 


須賀千絵. 英国CILIPの活動 ―LAとIISの統合―. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1491 [7]

カレントアウェアネス [8]
英国 [9]

CA1492 - 図書館での貸出有料化の問題-フランスの場合- / 宮本孝正

  • 参照(14103)

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1492

 

図書館での貸出有料化の問題 −フランスの場合−

 

 「図書館における貸与権」は,著作者の権利の一部をなすものとして,フランスの著作権法に明記されている。知的所有権法典L第131-4条の規定によれば,著作者は,図書館での著作物の利用について報酬を得る権利を有するのである。

 従来この権利は単なる法律上の文言にとどまり,図書館での閲読は大目に見られていた。しかしながら,デジタル技術が普及し国境を越えての情報交換が活発化した現在,著作者は著作物の利用に対しそれ相応の報酬を受け取っていない,と感じられるようになってきた。最大多数の人々が書物と読書に親しめるようにするという図書館の基本的な役割と,著作者が報酬を得る権利との間に,折り合いを付けることが求められている。

 具体的な数値を挙げよう。フランスでは,1980年に図書館930館,登録者260万人,貸出6,000万冊であった利用形態が,1999年には,図書館3,560館,登録者660万人,貸出1億9,000万冊というように,特に貸出冊数については3倍以上に増大している。このような勢いで著作物が広まるのであれば,著作者の側から報酬の問題が提起されるのも不思議とは言えないだろう。

 2000年春,書物の専門家の間で会議が持たれた時に,激しい論議が沸き起こった。出版者と一部の著作者は,貸出という行為に対価を支払う制度を設置するよう求め,なかには図書館での貸出そのものを禁止するよう主張する著作者もいた。図書館職員は,別の一部著作者の支持を得て,そのような態度は公共機関での閲読の発展を否定することにつながる,との懸念を表明した(CA1351 [11]参照)。

 文化通信相の主導のもとで深められた協議の末,貸与権行使の原則および態様について,大局的な合意が得られた。この合意事項を法案にまとめ上げたのが,現在審議中の「図書館での貸与を名目とする報酬および著作者の社会的保護を強化する法律(案)」である。

 法案の主旨説明から要点を紹介しておこう。以下の4項目である。

  • (1)著作者および出版者,ならびに図書館に対して,法律上の認可を創設する

     欧州共同体の指令(賃貸借権および貸借権に関する指令no.92-100CEE,1992年11月19日)は,「著作者が著作物の貸出を許可または禁止することのできる排他的権利の原則を設けるよう」加盟国に義務づけているが,フランスではすでに,知的所有権に関する法律を1957年に制定して以来,この原則が確立している。欧州共同体の指令は,さらに,「少なくとも著作者が貸出の名目で報酬を受け取ることを条件として」加盟国が上記の原則に反することを容認している。今回の法案は,指令のこの例外規定に則り,図書館での著作物の貸出を名目として,著作者が報酬受給権を行使することができるよう,新しい制度の確立を企てるものである。同時に,出版者も,報酬受給権の恩恵に与ることができるものとしている。

  • (2)できるだけ多くの人が書物と読書に親しむ機会を得るという図書館の基本的な役割に鑑みれば,「支払い貸出(pret payant)」(利用料金をその場で支払う方式)ではなく「既払い貸出(pret paye)」(利用料金を別途支払い済みとする方式)の制度を設けるのが妥当である

     「支払い貸出」の方式は,最大多数の人々が書物と読書に親しめるよう努めるという図書館の役割に抵触する。著作者への報酬は,「既払い貸出」の方式により運営するものとする。報酬は,読者へ貸し出す時点ですでに報酬を管理する機関に支払われており,出資者は,国,地方公共団体,および図書館を所有するその他の機関である。同方式の概略を図に示した。

     


     

    図 「既払い貸出」方式の概略

     

     「既払い貸出」のための資金は,(a)「一括払い」と(b)「購入時払い」の2種類の財源から成る。

     (a)「一括払い」は,国による支払いの形を取る。図書館利用者の貸出対価を国が一括代金として支払うもの。登録者数の算定にあたり,公共図書館およびその他の図書館と,大学図書館とで,算定の率が異なる(公共図書館は大学図書館の1.5倍)。一括代金の総額は政令で定め,予算法による国の予算を確保する。上記の算定率は,初年度については,2分の1に設定する。

     学校や大学での閲読については,大学図書館の一括代金は低めに設定するとともに,学校図書館については「一括払い」を免除する。

     (b)「購入時払い」は,国,地方公共団体,教育・職業教育・研究機関,労働組合,企業委員会および団体が,貸出を行う施設に著作物を購入した時点で支払う。金額は,著作物の価格の6%に固定する。代価は,当該著作物を納入した業者から,報酬を管理する機関である「共同管理団体」へ振り替える。

  • (3)貸出の名目による報酬の管理は,(一または複数の)「共同管理団体」に委託する。報酬は,2種類に分かれる。1つ目は,著作権料(=印税)の名目による,著作者および出版者への直接報酬。2つ目は,著作者への後払い報酬。後者は,補助年金(retraite complementaire)制度への資金提供という間接的方法で行う

     貸与権行使のために必要とされる資金は,1年あたり2,226万ユーロ(約29億円)と見積もられている。これを以下の(a)(b)2項目として支出する。

    • (a)著作権料の支払い:タイトルごとの貸出回数ではなく購入書籍のタイトル数を基礎に勘定するものとする。この計算方法であれば,購入図書の多様性が反映できる。また,限定販売や小規模出版者にとっても不利にはならない。
    • (b)AGESSA(著作者社会保障管理協会)に加入している著作者および翻訳者に対する補助年金制度への資金提供:創作家の中で著作者および翻訳者だけが,今日に至るまでこの制度の恩恵を受けていない。そのため,著作者および翻訳者は全活動を創作や翻訳に集中できないでいる。貸与権に由来するこの資金を,50%を限度として,年金拠出金の一部とする。むろん,拠出金の残りの部分は,この制度に与する著作者および翻訳者が支払わなければならない。

     貸与権の名目で集めた金額は,共同管理の対象としなければならない。文化通信相が認可した団体のみが,支払いを請求することができる。

     (法案は,これに続けて,複写物に関する合意基準を取り上げているが,今回は割愛する。)

  • (4)書物の経済的連鎖のバランスを強化する

     「支払い貸出」でなく,「既払い貸出」を実現させるためには,書物の価格に関する1981年8月10日の法律(公共団体への書籍販売について割引の上限を設定するもの)の強化が必要である。

     公共団体が書物を購入する場合,割引が可能である。これは1981年の法律に基づく措置によるものであるが,この措置のおかげで,現在,書店側には損失が生じている。図書館市場に多数の卸売商が参入した結果,割引率の嵩上げが生じ,そのアップ率が大部分の書店に近寄れないほどの水準に達したのである。

     このような条件下で,付帯措置を欠いたまま「既払い貸出」を実施すれば,購入者である図書館は値引きに敏感になり,書店は図書館市場からの撤退を余儀なくされるかもしれない。したがって,割引については上限を設定することとする。

     公共団体の補助的負担を軽くするため,「購入時払いによる既払い貸出」は,2年以内に実施する。初年度について,値引きの上限は12%,図書館への納入業者による「共同管理団体」への振り替え率は3%とする。

     この法案(上院先議)は,2002年2月21日,国会に提出され,同年10月8日に上院を通過した。その際,法律施行の2年後に政府は国会に報告書を提出する,という条項が付加された。2003年5月現在,下院での修正案に基づき、上院での第2読会が行われている。フィンランド,英国,スウェーデンでは,図書館での貸出に起因する著作者の印税損失を補填する制度がすでに確立しているが,この法案が可決されれば,フランスもこれら3国と並ぶことになる。

調査及び立法考査局農林環境課:宮本 孝正(みやもとたかまさ)

 

Ref.

Droit de pret. Association des bibliothecaires francais. (online), available from < http://www.abf.asso.fr/dossiers/droitdepret/ [12] >, (accessed 2003-05-06).

Non au droit de pret. Association des Directeurs des Bibliotheques Departementales de Pret. (online), available from < http://www.adbdp.asso.fr/association/droitdepret/index.html [13] >, (accessed 2003-05-06).

Senat. Project de loi relatif a la remuneration au titre du pret en bibliotheque et renforcant la protection sociale des auteurs. (online), available from < http://www.senat.fr/leg/tas02-003.html [14] >, (accessed 2003-05-06).

Senat. Remuneration du pret en bibliotheque et protection sociale des auteurs. (online), available from < http://www.senat.fr/leg/pjl01-271.html [15] >, (accessed 2003-05-06).

Assemblee national. Projet de loi relatif a la remuneration au titre du pret en bibliotheque.(online), available from < http://www.assembleenat.fr/12/dossiers/pret_bibliotheque.asp [16] >, (accessed 2003-05-06).

 


宮本孝正. 図書館での貸出有料化の問題 −フランスの場合−. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1492 [17]

カレントアウェアネス [8]
貸出 [18]
フランス [19]
BNF(フランス国立図書館) [20]

CA1493 - カナダの政府情報管理政策と現状 / 野澤明日香

  • 参照(11767)

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1493

 

カナダの政府情報管理政策と現状

 

 カナダにおける政府情報管理の指針となるものに「政府所有情報に関する管理政策(Policy on the Management of Government Information Holdings: MGIH)」がある。MGIHは政府情報を網羅的にかつ整合性を持って取扱う目的で1987年に策定された(1994年に改定)。具体的にこの政策が目指すものは,有益な政策決定を行うための資料提供の手段を確保し,情報が最大限有効に活用されるよう,管理し,また不必要な情報を排除することで国民への負担を減少させることである。この政策の対象者は各政府機関をはじめ付属する図書館である。これらの機関は各機関で計画・発行した情報について,その形態や媒体に関わらず,収集から保管に至るまでの全工程に責任を持たねばならない。

 この政策が各機関において機能しているかどうかは,国家財政委員会事務局(Treasury Board Secretariat)が各省庁の内部報告書を通して監査している。またカナダ国立公文書館(National Archives of Canada)は国家財政委員会事務局の代理としてこの政策に対する評価責任を負い,かつ公文書館で保有する資料に関する問題点等について報告することが義務づけられている。各政府機関においても情報収集に際しての固有の問題点等について報告することが認められており,カナダ国立図書館(National Library of Canada: NLC)も出版物について同様に報告することが規定されている。

 このMGIHの認知度および達成度を把握する目的で2002年,NLCによる調査が行われた。同様の調査は1999年にも行われているが,電子情報等紙媒体にとどまらない情報が近年増大し,その収集の実態を把握する必要性から,今回再調査が行われた。この調査を通して政府情報の形態,管理部門,公開方法および問題点が明らかになった。

 調査は2002年3月14日〜4月26日の間に行われ,調査票はカナダ国内の省庁や政府機関に設立されている連邦図書館の評議会(Council of Federal Libraries)の委員に配布された。回答は68機関中52機関(76%),190人中97人(51%)から得られた。そのうち68%の機関が出版物を管理する部門を持ち,さらに半数は付属する図書館がその役割を担っていると回答している。また大多数の官庁出版物はインターネットを通して,あるいは付属図書館並びにNLCへの寄託によって国民に提供されている。しかしながら,大部分の機関は,出版物の目録情報をNLCの全国総合目録データベースAMICUSに掲載するための手続きをとっておらず,また全ての出版物をNLCに寄託しているわけではないと回答している。ここで留意すべき点は,電子形態で発行された出版物について長期的なアクセスを保証し,かつ付属の図書館やNLCに寄託をしている機関は半数にとどまり,大多数の機関では長期間に及ぶアクセスを想定していない点である。電子形態の政府情報の保存と長期的なアクセスの保証という問題にはNLCが対応しているが(CA1198 [22],CA1332 [23]参照),NLCへの寄託が回答数の半数にとどまり,また各付属の図書館間に連携がない点や官庁出版物の出版方法や目録作業に一貫性がない点は,情報収集・管理の網羅性が保たれないという問題点を浮き彫りにしている。

 NLCが行ったこの調査のもう1つの目的は,MGIHを遂行していくうえで,NLCが提供できる援助,およびNLCに期待されている役割の把握が挙げられる。1999年の調査結果では,資料の取扱いや保存方法についての助言に期待が寄せられており,官庁出版物の副本利用や対付属図書館サービス,および目録情報の提供については期待されていなかった。そこで今回の調査では特に後者のサービスの利用を問う項を加えた結果,40%の回答者が目録情報の問い合わせをしたことが分かった。こうしたNLCのサービスを受けた大多数が満足,もしくは大変満足したと回答しており,NLCが果たしている役割の大きさを示している。

 NLCが政府情報の収集・管理において担う役割は,先ごろ策定された新しい政府情報に関する政策「政府情報管理政策(Management of Government Information (MGI) Policy)」の中に明示されている。MGIはMGIHと比較して政府情報の定義,目的,政策内容をより詳しく説明しているほか,NLCに期待される役割についても国立図書館法を明示し,それに基づいてより厳密に規定している。さらにNLCは国家財政委員会事務局との協力のもと,調査を行う責務があることも明記されており,NLCの果たすべき役割がより明確になっている点に今後の期待がかかる。

書誌部外国図書・特別資料課:野澤 明日香(のざわあすか)

 

Ref.

National Library of Canada. "Executive summary-Management of government Publication Survey". (online), available from < http://www.nlc-bnc.ca/8/4/r4-401-e.html [24] >, (accessed 2003-03-13).

Treasury Board of Canada. "Policy on the Management of Government Information". (online), < http://www.tbs-sct.gc.ca/pubs_pol/ciopubs/tb_gih/mgih-grdg_e.asp [25] >, (accessed 2003 -05-30).

 


野澤明日香. カナダの政府情報管理政策と現状. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1493 [26]

カレントアウェアネス [8]
政府情報 [27]
カナダ [28]
LAC(カナダ国立図書館・文書館) [29]

CA1494 - PADIとSafekeepingプロジェクト / 原田久義

PDFファイルはこちら [30]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1494

 

PADIとSafekeepingプロジェクト

 

 「電子情報へのアクセスの保存(Preserving Access to Digital Information: PADI)」はオーストラリア国立図書館(NLA)が運営するイニシアチブで,電子情報の長期にわたる保存とアクセスの保証に関する活動を行っている。主な目的は次の4点である。

  1. 電子情報へのアクセスを保証するための戦略やガイドラインの開発・促進
  2. 電子情報保存に関する情報の提供と振興を図るウェブサイトの開発・運営
  3. 電子情報保存に関連する活動の積極的な発掘と提供
  4. 電子情報保存において関係各機関の協力を実現するためのフォーラムとなること

 PADIは1993年の発足当初,NLAを中心に文書館,博物館,美術館,フィルムサウンド・アーカイブやオーストラリア図書館情報サービス評議会,通信芸術省など国の文化関連機関の協力のもとにスタートした(CA1160 [31]参照)。しかし活動が進展するにつれて,協力関係も国際的な広がりをもつようになってきた。

 米国の図書館情報資源振興財団(Council on Library and Information Resources: CLIR)は現在スポンサーとしてPADIのプロジェクトに財政的な支援を行っている。また,英国の電子情報保存連合(Digital Preservation Coalition: DPC)とも複数のプロジェクトについて協力関係を結んでいる。

 PADIイニシアチブには諮問委員として,米国議会図書館,英国図書館,カナダ国立図書館,オランダ国立図書館,フィンランド国立図書館,ノルウェー国立図書館といった,電子情報の長期的な保存について主導的な役割を果たしてきた各国の図書館の代表も参加し,PADIの活動について助言を行っている。

 電子情報の長期的な保存とアクセスの確保というテーマには,多岐にわたる課題が含まれているため,PADIのウェブサイトでは,メニューをリソースのタイプとトピックに二分し,情報を整理して提供している。電子情報保存に関する質,量ともに充実したゲートウェイになっている。

 またDPCと共同で隔月のオンラインニューズレター(DPC/PADI What's new in digital preservation)を発行して,その間にあった重要な研究発表や会議,イベント等を精選して,メーリングリストを通じて発信している。

 そして今PADIのこれまでの活動の集大成として,ひとつの成果がまとめられようとしている。ユネスコが「デジタル文化遺産保存(The Preservation of the Digital Heritage)」憲章の採択を目指す中,ユネスコからの委託でNLAが中心になってまとめようとしているガイドライン「デジタル文化遺産保存のためのガイドライン」がそれである(E021 [32]参照)。世界各地域での意見聴取会を経て今年,最終版が提出されたが,その草稿を見ると,PADIに収められた広範な情報をもとに,電子情報保存の責任の所在,情報発信者との協働,長期保存する電子情報の選択,保存のためのメタデータやOAIS参照モデル,著作権管理等,電子情報の長期的な保存とアクセスの保証に最低限必要な枠組みが提示されているのがわかる。

 このガイドラインとあわせてPADIが提供するウェブサイトをレファレンスツールとして活用することで,我々はこの複雑で困難な課題の全体像を,立体的に把握することができる。

 

 PADIが提供するウェブサイトには様々なタイプの情報へのリンクが収録されているが,リンクのいくつかに「Safekept」というマークが付いている。これは永続的な価値を有する論文,レポート,プロジェクト,方針,議論等へのアクセスを長期保存するために,NLAが2001年5月から行っているSafekeepingというプロジェクトから生まれたものである。

 PADIのデータベースは世界各国の登録ユーザによって情報が更新されているが,Safekeepingプロジェクトもそうした協力関係を基礎にしている。

このプロジェクトの最も困難な点は,情報の選択にある。つまりどのような情報が永続的な価値を持つのかの判断である。判断に当たって最も重視されるのは,その情報が独創性に富んだものであること,あるいは電子情報保存に関する考察において転換点となるものであることだ。具体的には,1996年に出されたUS Task Force on Archiving of Digital Informationの最終報告や米国研究図書館連合(Research Libraries Group: RLG)のウェブサイトで提供される基礎的な論考等が,この範疇に含まれる。次に,電子情報保存に当たって重要な問題やアプローチ,プロジェクト,研究等を扱った情報も収められる。また10年,20年にわたって価値を有するとは考えにくいが,一定期間,継続的な重要性をもつであろう情報も,レファレンスを目的として収録されている。このような事情からSafekeepingには,最新の情報は取り上げられていない。選択とその基準作りは当初,NLAのスタッフによって行われたが,現在,国外の協力者も多数参加するプロジェクトに進化している。

 また,Safekeepingの特徴的な点として,図書館が電子情報を収集保存するアーカイビングと異なり,保存の責任を情報の発行者や所有者にもたせていることが挙げられる。Safekeepingはあくまで,それを促す装置として機能する。保存に責任をもつ機関や人はSafekeeperと名付けられている。

 プロジェクトの第一段階で170の情報資源が選ばれた。その半数以上が図書館あるいは図書館関係の組織が発行したものだった。次いで高等教育機関が16%,残りは政府,電子ジャーナルの出版社,民間機関,調査機関,研究者等で構成されていた。2001年12月には,それらの電子情報の所有者とSafekeepingプロジェクトの間で,77の情報資源について,所有者の責任において長期保存を行うという合意がなされ,20の所有者と交渉を進めている。

 NLAがこのプロジェクトを推進していく過程で,電子情報の所有者と保存を行う機関との権利関係の調整が,電子情報の長期的な保存を行っていく上での最大の課題であることが明らかになった。いくつかの情報については,一機関内,例えば図書館とその研究部門で調整や交渉が可能なものもあるが,電子情報にあっては,所有権が複数の機関や個人にまたがる場合が多い。当然,権利交渉も複雑になる。そうした調整,交渉をどのようなメカニズムで処理していくのが適切であり,効率的であるのか。加えて,情報の所有者や提供者と保存を行っていく側は,電子情報の保存に当たってどのような役割を持ち,責任を果たしていくべきなのか。NLAはSafekeepingプロジェクトを通じた経験を蓄積していく中で,それを見出していこうとしている。このプロジェクトは,電子情報保存の小さな,しかし大きな意味を持つ実験場といえる。

関西館事業部電子図書館課:原田 久義(はらだひさよし)

 

Ref.

National Library of Australia. PADI. (online), available from < http://www.nla.gov.au/padi/ [33] >, (accessed 2003-04-11).

Berthon, Hilary. et al. Safekeeping: A Cooperative Approach to Building a Digital Preservation Resource. D-Lib Magazine. 8(1), 2002. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/january02/berthon/01berthon.html [34] >, (accessed 2003-04-14).

 


原田久義. PADIとSafekeepingプロジェクト. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.6-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1494 [35]

  • 参照(13466)
カレントアウェアネス [8]
国際協力 [36]
電子情報保存 [37]
NLA(オーストラリア国立図書館) [38]

CA1495 - スロバキアの遠隔研修プロジェクトPROLIB / 岡本常将

  • 参照(11289)

PDFファイルはこちら [39]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1495

 

スロバキアの遠隔研修プロジェクト PROLIB

 

 

1.背景

 図書館職員の専門職研修の必要性については世界中の共通テーマになっているが,インターネットの発達した現代においては,その要請がいっそう強くなっている。氾濫した情報の中で,情報の収集・蓄積・提供に携わる図書館の役割が増大するにつれ,図書館職員も時代に対応した能力を身につける必要がある。

 たとえば英国政府は公共図書館職員のIT技術習得のために2,000万ポンドを拠出した(CA1212 [40]参照)。また,東南アジアではユネスコが各国政府と協力して図書館の機械化に伴う研修を行っている。

 中・東欧諸国においても,1990年からEUが主体となって政治・経済面での改革プログラム(Phare Programme)が実行された。このプログラムの中で,中・東欧諸国の政治・経済の改革には高等教育システムの改善が必要であるとの認識から,高等教育の推進を目的としたプログラムTempus Phare Programmeが実施され,施設面の充実やカリキュラム整備などの支援が行われた。

 このプログラムの一環としてスロバキア国内で実行された計画が「PROLIB(Professional Development Programme for Slovac Librarians)」である。PROLIBの目的は2つある。(1)スロバキア国内の図書館職員の継続的な能力向上を図る研修プログラムを開発し,(2)先端知識の中心地として情報の収集機能を高め,国民の生涯学習機関として図書館の機能を拡充すること,である。

 以下PROLIBの詳細についてみてみたい。

 

2.PROLIB

 PROLIBは1998年12月から2001年3月まで行われ,EUから331,000ユーロの資金援助を受けた。目的ははじめに述べたように,図書館職員の研修プログラムを開発・提供することにある。中でも注目すべきなのはそのプログラムを遠隔研修の形で提供することにある。この期間中,約180の様々な種類の図書館が研修に参加した。

 インターネットの発達により,地理的・時間的にそれまで困難だと思われていた研修を,パソコンを介して実施できるようになった。実際にコシツェ(Kosice)とズヴォレン(Zvolen)両大学図書館に遠隔研修センターが設立され,各施設に15台のパソコンが設置された。

 研修プログラムの開発にあたっては,多数の機関が協力した。コシツェ工科大学(TUK)をはじめとした国内の大学図書館やスロバキア教育省などの政府機関,さらにはスウェーデンのルンド大学図書館などの国外の機関も参加した。各機関の代表が1名,PROLIB運営委員となり,定期的に委員会を開いてプログラムの進捗状況の点検や政策決定を行った。参加機関の多数は大学図書館ということもあり,プログラムの内容もより大学図書館に比重を置いたものになっている。

 プログラムはすべてスロバキア語で行われるため,使用する教材等もスロバキア語で新たに執筆する必要があった。これまでスロバキア語による図書館研修の資料が十分でなかったため,各開発者はそのノウハウ蓄積のために英国やスウェーデンを訪問した。教材の執筆や講座の運営には40人ほどが関わり,大学教授や大学図書館職員,技術者が主なメンバーであった。

 プログラムの内容については,大きく6つの講座に分けることができる。以下はそのタイトルである。

  • < 1 >図書館の変革と経営改革の必要性
  • < 2 >図書館における利用者サービス論
  • < 3 >図書館運営におよぼす情報技術の影響
  • < 4 >図書館におけるインターネットと新しい情報技術
  • < 5 >電子図書館
  • < 6 >電子出版

 それぞれの講座には,自己学習用のテキストが添付されている。そのテキストはあくまでも受講生が一人で読んで分かるように書かれ,各単元末には演習問題も付されている。また,受講生は2週間ごとに課題を提出せねばならず,一つの講座ごとに6つの課題が用意されている。各受講生には電子メールアドレスが配布され,受講生同士,あるいは講師とも常時コミュニケーションがとれるようになっている。具体的には1週間の対面授業,テキスト主体の自己学習,インターネットを介した3か月の遠隔研修が含まれ,一つの講座が140時間で終了するようになっている。研修の最後には筆記試験と口頭試問があり,3人(うち2人はプログラムの講師,1人は図書館学の専門家)で運営される試験委員会で認定されると講座修了となる。

 遠隔研修という性格上,テキストに沿って学習し,課題を提出することがメインとなる。しかしはじめに行われる1週間の対面授業は,先に述べたコシツェとズヴォレンにある研修センターで受講することになっている。

 近年,英語の必要性が高まり,スロバキア国内では第2言語としての地位を築きつつある。それに伴って,受講生の中でも特に優秀な者には上級英語コースを設け,図書館業務に耐えうる英語力の養成をはかっている。

 受講生の募集はリーフレットやインターネットを介して行われ,期間中に175名が受講し,117名が修了した。

 

3.結論と将来性

 PROLIBによって,スロバキア語による,まとまった形での初の図書館職員研修プログラムが完成した。2000年にはスロバキア政府教育省がTUKにおける上記の6講座の開講を承認した。そして講座で使用されるテキスト類の保存を大学側に義務付けることにした。

 PROLIBは,内外にも様々な影響を及ぼした。2000年9月にはソロス基金主催による17か国の協力者会合が開催された。そこでPROLIBが紹介され,コンピューターを駆使した遠隔研修の方法が注目された。2001年3月,基金はズヴォレン出身のプログラム開発者を1名,米国のイリノイ大学における6週間の研修に派遣した。2001年7月にはブリティッシュ・カウンシル,スロバキア政府,TUKおよびソロス基金の運営機関であるOSI(Open Society Institute)の代表者がコシツェに集まり3日間のセミナーを開催した。そこでは英国,スウェーデン,米国を訪問した講座開発者の経験を,今後のスロバキアの図書館にどのように活かしていくかが話し合われた。

 PROLIBはEUによる試験的なプロジェクトであるため,プログラムの継続を望む声も強く,2000年1月から「EDULIB(Education for Librarians)」という名でPROLIBの事業が継続された。資金はOSIによって提供された。EDULIBでは研修施設をさらに充実し,6つの講座のうち4つの内容を更新し,39人の図書館員が受講した。さらに2001年8月から2002年2月まで「EDULIB II」として事業が継続され,知的所有権や資料管理システムに関わる新たな講座が開発されている。

関西館資料部文献提供課:岡本 常将(おかもとつねまさ)

 

Ref.

Dahl, Kerstin. et al. Training for professional librarians in Slovakia by distance-learning methods.Libr Hi Tech. 20(3), 2002, 340-351.

Tedd, Lucy. et al. Training librarians in the production of distance learning materials: experiences of the PROLIB project.Education for Information. 18(1), 2000, 67-76.

Sliwinska, Maria. "ICIMSS: a new opportunity for Central and Eastern Europe". Online Information 99. proceedings 23rd international online information meeting. McKenna, Brian ed. Learned Information Europe Ltd, 1999, 79-85.

About the Open Society Institute and the Soros Foundations Network. (online), available from < http://www.soros.org/about_network/index [41]. html >,(accessed 2003-03-20).

 


岡本常将. スロバキアの遠隔研修プロジェクト PROLIB. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1495 [42]

カレントアウェアネス [8]
国際協力 [36]
研修 [43]

CA1496 - 出版情報システムの基盤整備-日本出版インフラセンターの紹介- / 本間広政

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1496

 

出版情報システムの基盤整備 −日本出版インフラセンターの紹介−

 

1.はじめに

 有限責任中間法人「日本出版インフラセンター(Japan Publishing Organization for Information Infrastructure Development : JPO)」は,平成14年4月12日に「日本出版データセンター(JPDC)」として設立された。設立を支援し,基金を拠出した設立社員は,日本書店商業組合連合会,日本出版取次協会,日本雑誌協会,日本書籍出版協会,日本図書館協会の5団体である。しかし,半年後の平成14年10月25日の理事会において,出版業界の流通改善と読者サービスをより積極的,かつ広範囲に推進する必要から,事業の拡大とそれに伴う機構改革および名称変更を行い,冒頭の名称となった。

 以下に,当センターの当初の設立の目的とねらい,設立までの経過,また改革後の機構と事業,とりわけICタグ研究委員会とICタグ技術協力企業コンソーシアムの活動について紹介する。

 

2.センター設立の目的とねらい<

 目的は出版情報および出版情報システムの基盤整備を図り,出版および関連産業の発展に寄与することにある。そのために,出版情報等の標準フォーマットの作成と普及促進,出版情報の収集と配信,出版情報提供者の情報システム基盤整備の支援,電子データ交換システム基盤整備の支援,その他,当センターの目的を達成するために必要な事項の事業を行う。

 そのねらいは次のとおりである。

  • < 1 >読者サービスの向上
     読者が書店にほしい本を注文すると,3週間後に書店から「品切れです」と返答されることがある。読みたい時がほしい時であるのに,3週間も経過してから「品切れです」と言われたのでは,本からの読者離れが進行しても仕方がない。こうしたことのないように,重版未定(絶版)情報,在庫情報をより正確に反映させ,読者サービスの向上を図る。
  • < 2 >増売の支援
     刊行予定情報を読者に配信したり,発売日前の受注を参考にした配本で返品と機会損失を減少させたりして増売を図る。
  • < 3 >効率化の支援
     出版物の刊行予定情報・重版未定(絶版)情報・定価改定情報をJPOが集中受信し,それを必要とする企業・団体にJPOが配信する枠組みを構築することにより,業界全体の効率化を図る。
  • < 4 >インフラ整備に関する調整力の強化
     世の中で部分最適が必ずしも全体最適にならないことはよくある。既存システムとの利害調整を図りつつ業界の情報システム基盤整備の全体最適化を実現しようとすると,利害関係者のいずれにも偏せず中立的立場を確保することが最低の必要条件となる。その意味でJPOの成り立ちと構造は,その要件を備えている。
  • < 5 >収集データの網羅性・信頼性・迅速性の向上
     出版物の刊行予定情報・重版未定(絶版)情報・定価改定情報の収集率は,現行のどちらの企業・団体の書誌データベースも単独では不完全である。協力し合うことによってのみ高品質な書誌データベースの実現が保障される。

 JPOの設立によって次のような方法で業界内に協調の環境を整えることができる。たとえば,取次の「仕入システム」にJPOの受信情報を流し,仕入窓口において発売日前にJPOに出版情報が届いている社か,いない社かの判断をする。届いていない社に対しては,設立社員団体会長・理事長連名のお願い状を手渡す,という方法である。この仕組みは,確実にデータの網羅性・信頼性・迅速性を向上させると考えられる。

 

3.設立までの経過

 日本書籍出版協会・理事会は,平成13年6月26日に書誌データベース構築事業を日本書籍出版協会単独事業から日本図書館協会も含めた業界5団体による共同事業とする旨の「書協の経営に関する答申書」を承認し,同年9月25日の理事会において,他の業界4団体に対してJPDCの設立を提唱する「日本出版データセンター構想」を決定した。そして,日本書籍出版協会内に「日本出版データセンター」設立準備室を設置した。

 日本書店商業組合連合会をはじめ業界4団体は,平成13年10月にJPDCの設立支持団体になること,また同年12月に基金の拠出者になること,そして翌年2月にJPDCの定款を承認した。

 JPDCは,平成14年4月5日に定款が認証され,次いで12日に設立登記申請が受理され設立にいたった。

 

4.現在の機構と事業

 前述のごとくJPOは,昨年10月25日の理事会において,取り組む事業をこれまでの書誌データベース構築とそれにかかわる事業に限定するだけでなく,出版社等の取引先データベースの構築や,出版VANを発展させたWebEDI(電子データ交換)の構築,サプライチェーン・マネージメント(供給連鎖管理:SCM)をIT化したビジネス・モデルの特許出願調整,コミックを中心にした貸与ビジネス・モデルの構築,万引き防止対策に端を発した「本にICタグを装着する」案件等の業界課題を解決するために,各種研究委員会を当センター内に設置した。

 これに伴い,従来の書誌データベース構築を専業とする「総会―理事会―データセンター」という一部門制を,企画研究部門の研究委員会を統括する運営委員会と,従来の業務実行部門であるデータセンターの二部門制に改革した。また新たに事務局も新設した。

 運営委員会とデータセンターは,理事会の下部機関であり,事務局は,理事会直轄である。

 研究委員会は平成15年4月11日現在,ビジネス・モデル研究委員会,貸与ビジネス研究委員会,ICタグ研究委員会の3委員会である。

 

5.ICタグ研究委員会とICタグ技術協力企業コンソーシアムの活動

  • < 1 >委員会およびコンソーシアムの設置・設立の経緯
     JPOは,業界の一部から万引き防止対策として浮上したICタグ(チップ)を,それだけの利用に限定せず,出版流通改善や読者サービス向上の視点から見直すために,平成14年11月28日付で「ICタグ研究委員会」を当センター内に設置し,さらに平成15年3月19日に,ICタグ関連ベンダーの協力を得るために「ICタグ技術協力企業コンソーシアム」を設立した。
  • < 2 >コンソーシアムの目的・性格
     コンソーシアムの目的は,「ICタグは出版物の流通改善や読者サービスの向上を図るツールとして利用できるのか」を調査・検討し,総合的な枠組みを構想・提言することにある。研究委員会から依頼されたICタグの技術的な課題や,ICタグを使ったときに出版業界の業務に与える影響などを,ICタグメーカーをはじめ,それにかかわる周辺機器メーカー,システム開発会社等とともに調査・検討する。また,出版業界内でのICタグの利用場面,機能,仕様,コストや,周辺機器の機能,仕様を提案する。さらに,それらがより効果的に作動するために,各種データベースやネットワーク等の情報システム基盤整備を前提にした枠組みを構想・提言する。
  • < 3 >コンソーシアムの当面の活動
     コンソーシアムは,早期に出版業界,とりわけ出版流通の現状を調査・分析(そのための「現場」見学等も実施する)し,年内を目処にベンダーそれぞれから提案書を提出してもらい,その上で,それらのすりあわせをする。そして来年の3月までに報告書をまとめる。
  • < 4 >報告説明会の実施
     ICタグ研究委員会は,上記の報告書をもとに出版業界におけるICタグ導入の可否を検討し,その結果を来年の3月末から4月初めに,書店・取次・出版社・図書館等の出版業界関係者に報告・説明をする予定である。

日本出版インフラセンター:本間 広政(ほんまひろまさ)

 

Ref.

日本出版インフラセンター ICタグ技術協力企業コンソーシアム. (online), avaliable from < http ://www.jpo.or.jp/ [45]>, (accessed 2003-05-02).

 


本間広政. 出版情報システムの基盤整備 −日本出版インフラセンターの紹介−. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.9-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1496 [46]

  • 参照(13540)
カレントアウェアネス [8]
出版 [47]
情報インフラ [48]
日本 [49]

CA1497 - 動向レビュー:電子図書館パフォーマンス指標に関するテクニカルレポートISO/TR20983の動向 / 宇陀則彦

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1497

動向レビュー

 

電子図書館パフォーマンス指標に関するテクニカルレポートISO/TR20983の動向

 

1.はじめに

 1990年代半ばのWorld Wide Web (WWW)の普及に伴い,電子図書館がインターネット上の重要な応用分野として位置づけられ,米国をはじめ,各国で大規模な電子図書館プロジェクトが開始された。これらはコンテンツ指向のプロジェクトと技術指向のプロジェクトに大別されるが,どちらもシステム構築の側面が強調され,図書館サービスとしてどのように位置づけられるかについてはあまり議論されてこなかった。

 一方,伝統的な図書館に対しては,図書館パフォーマンス指標などを定義し,これまでの「インプット(投入)」を重視した評価だけでなく,「アウトプット(産出)」「アウトカム(成果)」「プロセス(効率)」といった側面からもデータを収集し,図書館サービスの向上や図書館経営の改善に積極的に役立てようという動きが盛んになってきた。昨年,図書館パフォーマンス指標ISO11620がJIS X 0812になったのは記憶に新しいが,ISO11620は伝統的な図書館サービスが前提になっており,電子図書館サービスに関する指標が入っていない。電子図書館サービスに関する指標については,テクニカルレポートISO/TR20983としてまとめられる予定である。

 そこで本稿では,ISO/TR20983を題材に電子図書館評価の問題点と方向性について考察する。また,今後の評価に関して興味深い示唆を含むものとして,電子図書館サービスに関する大規模なアンケート調査を行ったeVALUEdプロジェクトについても紹介する。

 

2.ISO/TR20983(1)に関連する動き

2.1 EQUINOX(2)

 EQUINOXプロジェクトは1998年に規格化された図書館パフォーマンス指標ISO11620を増強し,補足することを意図して,1998年11月から2000年11月までEUの助成を受けて行われた。比較的早い時期にネットワークを前提とした電子化環境におけるパフォーマンス指標の開発を第1の目的としたのが大きな特徴である。プロジェクトに参加したのは,英国,アイルランド,ドイツ,スペイン,スウェーデンの5か国8館である。参加館で実際にデータ収集を行いながら議論し,最終的に以下の14指標を定めた。

  1. サービス対象人口当たりの電子図書館サービス全体の利用率
  2. 各サービスに対するサービス対象人口当たりのセッション数
  3. 電子図書館サービス全体に対するサービス対象人口当たりのリモートセッション数
  4. 各サービスにおいて閲覧された資料数およびレコード数<
  5. 各サービスに対するセッション当たりのコスト
  6. 各サービスにおいて閲覧された資料およびレコードに対するコスト
  7. 電子的に申し込まれたリクエスト率
  8. 図書館に設置されたコンピュータ利用率
  9. サービス対象人口当たりのコンピュータ利用可能時間
  10. セッションの拒否率
  11. 資料費全体に対する電子資料費の率
  12. サービス対象人口当たりの電子図書館サービス講習会の参加人数
  13. 電子図書館サービスの開発,管理,提供,講習会に従事する図書館員の率
  14. 電子図書館サービスに対する利用者満足度

 ここで電子図書館におけるサービス対象人口と伝統的図書館サービスにおけるサービス対象人口は同じ集合である。次のISO/TR20983も同様である。

2.2 ISO/TR20983(1)

 EQUINOXで定義された指標を参考に,国際標準化機構第46専門委員会の第8分科会(TC46/SC8)では,ISO11620では盛り込まれなかった電子図書館サービスに関する指標をテクニカルレポートISO/TR20983としてまとめることになった。2003年5月27日の時点で最終原案の段階ISO/PRF TR20983である。PRF (Proof of a new International Standard)は最終原案投票なしにApproval Stageを通過する場合に適用される。

 ISO/TR20983では以下の15指標が定義されている。

  1. サービス対象人口当たりの電子図書館サービスの利用率
  2. 情報提供に関わる支出全体に占める電子資料費の率
  3. セッション当たりの文献ダウンロード数
  4. .データベースセッションのコスト
  5. 文献ダウンロードのコスト
  6. セッションの拒否率
  7. OPACのリモート利用率
  8. 全来館者に対するウェブサイト来館率
  9. 電子的に申し込まれたリクエスト率
  10. サービス対象人口当たりの電子図書館サービス講習会の参加人数
  11. サービス対象人口当たりのコンピュータ利用可能時間
  12. 図書館に設置されたコンピュータ数当たりのサービス対象人口
  13. 図書館に設置されたコンピュータ利用率
  14. 図書館員当たりのIT関連講習会への参加時間数
  15. 電子図書館サービス提供・開発に従事する図書館員の率

 EQUINOXで定義された項目でISO/TR20983に盛り込まれなかったのは,「各サービスに対するサービス対象人口当たりのセッション数」と「電子図書館サービスに対する利用者満足度」の2項目で,EQUINOXにはないが,ISO/TR20983で新しく定義されたのが,「全来館者に対するウェブサイト来館率」,「図書館に設置されたコンピュータ数当たりのサービス対象人口」,「図書館員当たりのIT講習会への参加時間」の3項目である。

 利用者満足度がISO/TR20983に盛り込まれなかったのは,いずれISO11620に統合され,図書館サービス全体の満足度の中で評価すればよいと考えたからだろう。また,図書館員の講習会参加時間に関する指標を加えたのは,図書館員のスキル向上を測るためとされている。

2.3 ISO 2789(3)

 ISO/TR20983に関連する規格として,ISO2789がある。ISO2789は国際図書館統計に関する規格で,2003年2月15日に第3版が制定された。第3版では電子図書館サービスの利用測定が大きく取り上げられ,付属書Aの中で詳細に論じられている。ISO2789では電子図書館サービスの形態,電子情報資源の形態および電子的サービスの利用形態に関する定義を重点的に行っており,これらはISO/TR20983からも参照されている。詳細についてはCA1460 [51]に報告されているとおりだが,本稿では電子図書館サービスの定義部分だけ改めて紹介しておきたい。

 ISO2789では電子図書館サービスは以下のように定義されている

  • OPAC
  • 図書館ウェブサイト
  • 電子資料
  • (仲介者としての)電子ドキュメントデリバリ
  • 電子レファレンスサービス
  • 電子サービスの利用者講習
  • 図書館によるインターネットアクセスの提供

 本稿では特に断らない限り,電子図書館サービスはこの内容を指す。この定義を見る限りでは,電子図書館サービスは図書館ローカルの資料を提供するという視点で定義されており,サブジェクトゲートウェイ機能など積極的な意味での情報ナビゲーション機能は含んでいない。ただし,電子環境は刻一刻と変化しており,評価指標は変化する可能性が大きいとされている。

 

3.電子図書館サービス評価に関するアンケート調査

 eVALUEd(4)は2001年12月から2004年5月にかけて行われている英国のセントラル・イングランド大学の情報研究センター(CIRT)によるプロジェクトである。このプロジェクトは高等教育における電子図書館評価のための互換性モデルを開発するとともに, 電子図書館評価の普及およびトレーニングを行うことを目的としている。 最初の段階として, どのくらい電子図書館が開発されているかを調査するために194の高等教育機関に対してアンケートを行った。 調査で行われたアンケート項目は, 電子図書館サービスに関する業務報告の有無, 提供している電子資料の種類およびその評価方法,電子図書館サービス管理の種類および評価方法,理想の評価方法や評価の限界など20項目に及ぶ。アンケート回収率は58%であった。

 アンケートを分析した結果,業務報告を行っているのは23%であること,電子的な学習環境を用意している機関は54%であること,電子図書館サービスに関して何らかの評価を行っているのは72%であることなどが明らかになった。また,評価にあたって役に立つ統計や指標があったかという質問に対して,EQUINOXなどの指標があがることをeVALUEd研究チームは期待したが,残念ながらそのような記述はなかった。電子資料の評価方法で最も多く用いられているのは,利用統計やウェブアクセス回数などの情報である。また,オンラインによる調査方法,紙による調査方法ともに多く用いられている。

 理想の評価基準はどのような基準を設けるべきかという質問に対しては,「利用方法」のカテゴリを設けるべきだというのが一番多かった。また,評価を妨げている要因は何かという質問に対しては,時間が不足していることが一番多く,次いで統計データの不足,スタッフの不足などがあげられた。その他としては,「電子図書館サービスはまだ始まったばかりなので,評価できない」,「評価の方法が大雑把であり,多面的に評価することが苦手である」,「システム的な評価ができていない」などのコメントがあった。今後の展開を考える上で重要だと思われるのは,「コストを評価するのは重要だが真の意味でのValue for Money (金額に見合う価値)を評価するのは難しい。評価するためには長期的な視野が必要である」という指摘である。

 このようにeVALUEdは大規模なプロジェクトであり,電子図書館評価に関して様々な示唆を与えてくれる。その他,成果や効果を示す「アウトカム評価」の報告書,アンケート調査で得られた知見や経験を強化するための図書館長やサービス責任者への追跡インタビューの報告書,電子図書館サービス評価のためのツールキット開発に関わるエキスパートへのインタビューの報告書など(5)が作成されている。

 

4.電子図書館サービス評価指標の課題

 電子図書館サービス評価指標において考慮すべき点は,インターネットからの利用を前提としている点である。インターネット利用時を思い浮かべればわかるように,情報要求を満たすときに単一のサイトで完結することはまれで,複数の情報資源の中から情報要求に合致するものを選択し,集合的に利用するのが普通である。そういう意味で電子図書館はインターネット上の数ある情報資源のうちの一つであり,ある一つの電子図書館のサイトだけで情報要求が満たされることは少ない。一方,図書館側から見た場合も電子図書館サービスだけが図書館サービスではなく,図書館が提供するサービスのほんの一部分でしかない。このことはつまり,特定多数の地域住民がある一つの図書館の完結したサービスを受けるという伝統的図書館サービスの形態とは異なることを意味する。

 この観点から改めて電子図書館サービス評価を見直すと,インプット指標は伝統的図書館サービス指標と同様に考えてよいが,アウトプット,プロセス,アウトカムの各指標は伝統的図書館サービス指標と同様には考えられない。アウトプットやプロセスを測定するサービス人口当たりの利用率やウェブ来館率を測定したところで,利用者からは集合的に利用したサイトの一つでしかなく,必ずしも「その図書館」のサービスを受けた意識はないだろう。また,今後重視されるアウトカム指標も,個々のローカル図書館だけに注目するのではなく,インターネット全体の中での位置付けを評価しなければ,利用者の満足度を正確に測れないと思われる。

 このことから電子図書館サービスを評価するにはそれぞれの図書館ごとの評価(ローカル評価)だけでなく,インターネット全体からみた評価(ネットワーク評価)が必要であることがわかる。電子図書館評価はローカル評価とネットワーク評価が両輪のように支えてはじめて正当な評価ができる。そういう意味で,EQUINOXとISO/TR20983(とISO2789)はローカル評価としては十分機能するが,これだけでは電子図書館評価として十分とは言えない。eVALUEdプロジェクトのアンケート調査に対する回答コメントの中で,「利用方法のカテゴリを設定すべきだ」という意見や「多面的評価とシステム的評価が重要」といったコメントは,明らかにネットワーク評価の必要性を示唆している。

 

5.おわりに

 図書館機能が単に資料を蓄積することだけでなく,利用者の情報アクセスを支援することにあるとすれば,電子図書館に期待されているのは,図書館ローカルの資料の提供というよりはむしろ,世界中の図書館資料へのアクセスを支援することであろう。最近の電子図書館の話題が電子化資料の蓄積から,図書館ポータル機能に移っているのはそれを表している。今後,電子図書館がどの方向に向かうのかはわからないが,電子図書館評価を通じて,これまで不十分だった図書館サービスとしての電子図書館に関する議論が活発になることを期待する。

筑波大学図書館情報学系:宇陀 則彦(うだのりひこ)

 

(1) ISO/TR20983. Information and documentation - Performance indicators for electronic library services. (online), available from < http://www.iso.org/iso/en/stdsdevelopment/techprog/workprog/TechnicalProgrammeProjectDetailPage.TechnicalProgrammeProjectDetail?csnumber=34359 [52] >, (accessed 2003-05-27).
(2) EQUINOX: Library Performance Measurement and Quality Management System. (online), available from < http://equinox.dcu.ie/ [53] >, (accessed 2003-04-21).
(3) ISO 2789. Information and documentation - International library statistics. (online), available from < http://www.iso.org/iso/en/CatalogueDetailPage.CatalogueDetail?CSNUMBER=28236&ICS1=1&ICS2=140&ICS3=20 [54] >, (accessed 2003-04-21).
(4) eVALUEd -an evaluation model for e-library developments. (online), available from < http://www.cie.uce.ac.uk/evalued/ [55] >,(accessed 2003-04-21).
(5) eVALUEd. "Project Documents Library" (online), available from < http://www.cie.uce.ac.uk/evalued/library.htm [56] >, (accessed 2003-04-21).

 

Ref.

徳原直子. 特集:図書館パフォーマンス指標と経営評価の国際動向, 図書館パフォーマンス指標と図書館統計の国際標準化の動向. 現代の図書館. 40(3), 2002, 129-143.

Saracevic, Tefko. Digital Library Evaluation: Toward an Evolution of Concepts. Libr Trends. 49(2), 2001, 350-369.

Greenstein, Daniel. et al. The Digital Library: A Biography. Council on Library and Information Resources, 2002, 70p. (online), available from < http://www.clir.org/pubs/abstract/pub109abst.html [57] >, (accessed 2003-04-21).

 


宇陀則彦. 電子図書館パフォーマンス指標に関するテクニカルレポートISO/TR20983の動向. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.12-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1497 [58]

  • 参照(16019)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [59]
図書館評価 [60]
国際規格 [61]
電子図書館 [62]
標準化 [63]

CA1498 - 動向レビュー:英国の読書促進活動 / 堀川照代

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1498

動向レビュー

 

英国の読書促進活動

 

1. 英国のリテラシー政策

 英国の読書促進活動を概観する前に,その背景にあるリテラシー政策について少々触れておきたい。というのは,「読み」と「読書」の間に境界をひくことが難しいのと同様に,読書促進活動という場合にも,リテラシー向上のための活動と本の世界の楽しさを伝える活動との区切りが難しいように思われるからである。

 英国では1988年の教育改革法によって,全国共通カリキュラム(National Curriculum)が導入され,リテラシーの水準を向上させることに力が注がれてきた(CA1241 [65]参照)。

 1996年には11歳児の57%が,1997年には63%がその年齢の英語能力の標準に達していないという状況のなかで,1996年5月にリテラシーに関する調査委員会が設置され,リテラシーの水準を高める方策が検討された。1997年2月にその予備調査結果『読みの革命(A Reading Revolution: how we can help every child to read well)』が発表され,1997年9月に最終報告『リテラシー政策の実施(The Implementation of the National Literacy Strategy)』が発表された。

 これによりリテラシー政策(National Literacy Strategy)の基礎として,1998年9月から英国のすべての初等学校において「リテラシーの時間(literacy hour)」の実施が義務づけられた。

 リテラシーの時間は,例えば次のように4段階で行うように説明されている。< 1 >学習の目的を明らかにし,クラス全体で読む・書く練習。15分。< 2 > クラス全体で文字・文の練習。15分。< 3 > グループか個人で読む・書く,あるいは文字・文の練習。約20分。< 4 > クラス全体で学習活動を振り返り,何を学んだかを生徒自身が説明する。約10分。

 具体的には,例えば「バーミンガム市内の学校では毎週6〜7時間,月曜から金曜まで毎日,各1時間から1時間半程度・・・全員で読み(リーディング),書き取り(ライティング)をし,ストーリーを作り,そして全体で話し合うという形で進められる。リスニング,リーディング,ライティングとスピーキングのスキル(技能)を含み,具体的にはスペリング,文法,文字の手書き,創作,フォニックスなどの方法を用いているようである。フォニックスとは,音声を重視した文字の学習方法である。」(1)

 また,リテラシー政策を支援するために1998年9月〜1999年8月が英国読書年(National Year of Reading: NYR)とされ(CA1354 [66]参照),多くのキャンペーンがなされた。そのなかには,1日に20分間保護者が子どもに本を読んでやったり,子どもが本を読むのを聞いてやったりすることの奨励もあった(2)。

 以上のような国家のリテラシー政策と並行して,各種組織・団体の協力によって多くの読書促進活動が展開されている。これらの活動は,英国リテラシー・トラスト(National Literacy Trust: NLT)のウェブページによって概観し検索することができる。

 このウェブページ(3)では,読書促進活動を,< 1 >対象(乳幼児期,初等学校期,中等学校期,16〜25歳,成人,60歳代以上,特別なニーズをもつ者,コミュニティ,男性と少年),< 2 >主催者(刑務所,連携・協力によるもの,産業界,ボランティア,図書館,芸術団体,保健分野のもの),< 3 >開催地域(全国的,地域)という観点から検索することができる。この観点(分類)をみるだけでも実に多様な活動が展開されていることがわかる。このページには他に,主要な促進活動として9つをあげそのページにリンクを張り,また,検索のために3つのデータベースへのリンクを提供している。

 以下に,読書促進活動の主な例をみていこう。

 

2.ブックトラストの活動

 1926年設立のブックトラスト(Booktrust, 旧称:National Book League)は, 年齢や文化的背景に関わらず,すべての読者が本を見出し本を楽しむことを推進する,つまり本と人をつなぐことを目的とした教育基金団体である。

 2つのサイトによる情報提供のほか,国内向けに電話による情報サービスを行っている。本,出版者,作家,著作権所有者などに関わることについて,毎年7万件以上の質問が,書店,図書館,出版者,リテラシー団体,TV・映画会社,新聞社などから寄せられるという。

 ブックトラストはまた,機関誌のBooktrusted News(年4回)や青少年のためのペーパーバックの小説の推薦リスト 100 Best Books (年刊)等を出版したり, 国籍に関わらず女性によって英語で書かれた優秀な小説に与えられるオレンジ賞(Orange Prize for Fiction), 児童向けの小説や詩の優秀作品に与えられるスマーティ賞(Smarties Book Prize)などの賞を出したり,書店や作家,出版者,図書館等の関連団体が参加している全国図書委員会(National Book Committee)の設立(1974年)を働きかけ事務局を担当したり,児童図書週間(Children's Book Week, 10月第1週)を開催したりしており,英国における図書・出版関連の傘下機関といえる。

わが国でもよく知られている「ブックスタート(Bookstart)」はブックトラストによって1992年に始められたもので,世界で初めての赤ちゃんのための本を扱った全国的プログラムである。英国のすべての赤ちゃんに本や資料の入ったブックスタートパックが渡される。

 このほか,プロの作家を学校に招いて話を聞いたりする「Writing Together」など,ブックトラストのサイトには進行中のプロジェクトが5つ挙げられている。

 

3.英国リテラシー・トラスト(NLT)の活動

 1993年設立のNLTは,リテラシーのスキルや自信,喜びを享受できるような社会を創造するために,自主的・戦略的・実践的な貢献をすることを目的とした団体で,次のような読書促進活動を行っている。

  • < 1 > 英国読書キャンペーン(National Reading Campaign)
     教育・訓練省(Department for Education and Skills)の依頼によって,英国読書年の成功に基づいて1999年から始められた。父親や兄弟,サッカー選手や消防士などの男性や少年が読書チャンピオンとして,自らの読書への情熱や読書体験を語るなどして,読書促進を図る「読書チャンピオン(Reading Champions)」や,職場などで本を交換することを推奨する「本の交換(Swap a Book)」などの活動や, 他の組織との協働プロジェクトを推進している。
  • < 2 > 読書は基本(Reading Is Fundamental, UK)イニシアチブ
     英国では1996年に設立。0〜19歳の青少年に本を選択し保有する機会を無償で提供し,読書の楽しみや,本の選択の重要性,家庭に本があることの恩恵を普及するリテラシー・プロジェクトを行っている(CA1241 [65]参照)。
     現在,300以上のプロジェクトが進行中であり,これまでに51万冊以上の本が17万人以上の子供たちに手渡された。就学前児の言語やリテラシー支援のための実際的な知識や方法を両親に伝えるプロジェクト(Shared Beginnings)や,図書館訪問,読書援助ボランティア,読書クラブなど初等・中等学校で行われる各種プロジェクトや,サッカークラブや刑務所などの地域の機関との連携によるプロジェクトが行われている。プロジェクトの規模により参加者は4〜450人と幅があるが,各プロジェクトからは平均70人の子どもたちが恩恵を得ている。
  • < 3 > リーディング・ザ・ゲーム(Reading The Game)イニシアチブ
     2002年9月に開始。サッカークラブと協力し,サッカーに対する関心を利用して,リテラシーと生涯学習を促進するもの。

    以上のほかNLTのイニシアチブには,中等学校の支援ネットワークを作って,生徒と成人のリテラシー能力を高めようとする「Reading Connects」や,すべての子どもが豊かな言葉の環境で人生のスタートが切れるように両親に働きかける「Talk To Your Babyキャンペーン」(2003年開始)がある。また,英国読書協会らとの協力によって,学習機会を逸した成人に基本スキルを高め読書・学習の窓口として図書館を利用する「Vital Linkプロジェクト」を2001年から行っているなど,他機関との共同プロジェクトも多い。

 

4.英国読書協会の活動

 英国読書協会(The Reading Agency)は,2002年7月に3つの既存の機関(LaunchPad, The Reading Partnership, Well Worth Reading)の合併によって設立された(E017 [67]参照)。読書は人生を豊かにする無限の可能性をもっており,人々に本をもたらす最も民主的な手段は図書館であるという理念に基づいている。主要な図書館ネットワークと緊密に協力しており,美術館や図書館の関連団体や政府機関から資金援助されているという。

 この協会の活動として第一に挙げられるのは,「夏休み読書チャレンジ(Summer Reading Challenge)」である。図書館関連団体やブックス・フォー・スチューデント(Books for Students:BfS), 児童書出版者の協力により行われる子ども(4〜11才)の全国的読書促進活動の最大のもので,毎年テーマが決められ夏休みに公共図書館で実施される。毎年50万人の子どもたちが参加する。

 2003年のテーマは「読書の迷路(Reading Maze)」で,読書の旅においてわくわくするような多くの可能性と著者との思わぬ出会いが用意されている。国民のネットワーク(the People's Network, CA1394 [68], E054 [69]参照)との連携により,子どもたちは,「読書の迷路」のサイトから自分のペースで写真やオーディオ,ビデオの情報をとおして新しい読書体験を探求することができる。サイトから著者を訪ねることもできる。2003年の読書チャレンジは,「本とITとの融合」なのである。

2002年には3,500の地域の図書館が参加したが,1999年のプロジェクト開始以来,毎年3万人以上の子ども達が図書館に新しく登録するという成果があった(4)。

 そのほか,2001年7月に開始された「ブックス・コネクト(Books Connect)」がある。本や読書をとおして公共図書館と芸術家,博物館との活発な協働を図るプロジェクトである。創作,パフォーマンスとビジュアルアート,ストーリーテリング,ダンス,工作,写真撮影などの実践が行われ,その実践例データベースや協力関係構築のツールキットが開発された。2003年4月から第2段階が始まっている。

 以上のほか,このサイトでは,20余りのプロジェクトが紹介されている。

 

5.その他の組織による活動

  • < 1 > ビッグ・リード(The BBC's The Big Read)プロジェクト
     BBCが,NLT(英国読書キャンペーン)と協力し,テレビ,ラジオ,オンラインなどにより2003年に行うフィクションの人気投票プロジェクト。
     3月にPRを開始し,4月に著名人が好きな本について語る番組などがあり,視聴者からお気に入りの本を推薦してもらう。4月末にトップ100が,秋にトップ10が発表され,年末に最終投票によってベストワンが決定される予定。
  • < 2 > おはなし袋(Storysacks)プロジェクト
     おはなし袋とは,絵本のほかに読書を促すための指人形やおもちゃ,録音テープなどを入れた大きな布の袋のことである。子どもや保護者が家庭でこれを楽しんだり,学校のリテラシーの時間に利用されたりしている。読書を促進し,リテラシー能力を高めることが目的である。袋は,保護者やボランティアが作るほか市販のものもある。このプロジェクトは,ほとんどすべての地方教育当局に普及しており,基本技能協会(Basic Skills Agency)によって支援されている。
  • < 3 > 読書回復(Reading Recovery)プログラム
     英国ではロンドン大学教育研究所が1990年に開始。読み書きの困難な6歳児に,学校教育の補助として毎日30分間,訓練を受けた教師が教える。個々の子どもに即したプログラムが実施されるが,何冊かの本を読みストーリーを書くという方法は共通している。

 

6.読書促進活動への基盤的支援

(1)英国図書館・情報専門家協会(CILIP)の報告書

 上述のNLTのサイトでは,図書館が行う読書促進活動が,一般的なもの,男性・少年対象のもの,学校と関連したもの,若者対象のものなどに分類されている。

 こうした公共図書館の活動を方向づけているもののひとつに,1995年に図書館情報サービス評議会(Library and Information Services Council)が発表した報告書『子どもへの投資(Investing in Children)』がある。過去数年間に行われた活動,すなわちブックスタートやホームワーク・クラブ,スタディ・サポート,夏休み読書活動のアイデアは,この報告書の中に現われていたという(5)。

 2001年秋に,英国図書館協会の青少年図書館委員会(Youth Libraries Committee)は,再び図書館サービスの検討の必要性を認め,図書館員,リテラシー団体,著者,出版者,政府の代表から構成される調査委員会を設置した。

 この調査報告書が,CILIPによって2002年10月に発表された。この報告書『スタート・ウィズ・ザ・チャイルド(Start with the Child:E019 [70]参照)』には次のことが勧告されている(6)。

  • 図書館は青少年に対する活動のために,市場調査的手法を用いるべきである。
  • 例えば「夏休み読書チャレンジ」,「ブックスタート」,スタディ・サポートやホームワーク・クラブのような活動は,プロジェクトではなく,すべての図書館当局によって提供されるべきコアサービスとし,政府から資金が提供されるべきである。
  • 若い図書館利用者にとってサービスを魅力あるものとし,そうしたサービスを提供するために,情報通信技術(ICT)が創造的に用いられなければならない。
  • ますます多くの施設を利用するようになる14歳以上の生徒たちを支援するために,図書館とユースサービス,児童保護機関との間や,学校と成人教育を行う図書館との間での協力・連携を強めるべきである。

(2)国民のネットワークの整備(7)

 このネットワークは,英国のすべての公共図書館のすべての利用者にインターネットアクセスを提供するもので,2002年末までに英国の4,488の図書館・分館のうち4,000以上がこのネットワークに接続された(CA1394 [68]参照)。

 2003年の「夏休み読書チャレンジ」が,本とITを融合したものとして展開できるのは,国民のネットワークが整備されたからである。

 ITを利用するために初めて図書館を訪れた人々の40%が図書館に登録し,貸出しがわずかだが伸びているという。また,図書館利用者は「みんなの選ぶ本大賞(WHSmith People's Choice Book Awards)」へオンラインで投票ができるようになった。このように,ネットワークというインフラ整備が,読書促進の要因のひとつとなっている。

(3)情報・資料の共有

 ブックトラストやNLTなどのサイトには,実践例や研究の成果,統計,ニュース等,多種多様な情報が多量に提供されている。これらは,読書促進活動を進めたりPRしたり,自己学習をしたりするために非常に有用な情報である。

(4)道具の共有

 CILIPは,上述の報告書の説明用としてパワーポイントによるプレゼンテーション用ファイルをウェブ上に公表している。英国読書協会では,例えば,「読書の未来(Their Reading Futures)」プロジェクトの一環として,児童図書館員のための新しい訓練用教材やテーマを作成しており,また,ポスターやステッカー,ポストカード,旗,書架用飾り,雑誌,ハンドブック,プログラム例など,各種の道具を開発し販売している。

 以上の(3)(4)のように,個人で探索・入手の難しい情報がウェブ上で簡単に収集でき,個人で準備するには時間的・能力的に制約のある資料や道具などが,ウェブ上で入手できたり注文できたりすることは,活動に携わる者や関心のある者,研究者などにとってどんなに便利であろうか。活動にとって共通に必要なものがこのように一括して作成されたら,どんなに効率的に効果的に活動が展開できることであろうか。また,活動に携わる人々の質を高めるための訓練用のものも種々に用意されている。読書促進活動は,共通に必要なもの・ことに共同あるいは集中的に開発にあたり,成果を共有して効率的・効果的に展開すべきことを,わが国は学ぶべきである。

 また英国では,わが国のような「子ども読書年」ではなく「英国読書年」であったことにも注目しておきたい。社会的背景が異なるとはいえ,子どもに限定せずに,生涯をとおして読者として成長するように人々に働きかけることが重要であろう。

島根県立島根女子短期大学:堀川 照代(ほりかわてるよ)

 

(1) 佐貫浩.イギリスの教育改革と日本.東京,高文研,2002,32-33.
(2) National Literacy Trust. "The role of parents, schools, LEAs and the inspectorate in the NLS". (online), available from < http://www.literacytrust.org.uk/Update/strat.html#role [71] >, (accessed 2003-04-11).
(3) National Literacy Trust."Reading Initiatives". (online), available from < http://www.literacytrust.org.uk/campaign/targets1.html [72] >, (accessed 2003-04-11).
(4) Cilip."News 26/09/02, Announcing The SummerReading Challenge 2003". (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/260902.html [73] >, (accessed 2003-04-11).
(5) Douglas, Jonathan. Start with the child. Library + Information Update. 1(9), 2002. (online), available from < http://www.cilip.org.uk/update/issues/dec02/article4dec.html [74] >, (accessed 2003-04-11).
(6) Cilip."News 16/10/02, Start with the Child calls for increased investment in children's libraries". (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/161002.html [75] >, (accessed 2003 -04-11).
(7) National Literacy Trust."Net begins to spark library revival, 24/01/2003". (online), availablefrom < http://www.literacytrust.org.uk/research/libresearch3.html [76] >, (accessed 2003-04-11).

 

Ref.

以下のURLを起点にした各種ページを参照した。

CILIP < http://www.cilip.org.uk [77] >, Reading Agency < http://www.readingagency.org.uk [78] >, National Literacy Trust < http://www.literacytrust.org.uk [79] >, Booktrust < http://www.booktrust.org.uk [80] > および < http://www.booktrusted.com/ [81] >.

 


堀川照代. 英国の読書促進活動. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.15-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1498 [82]

  • 参照(16579)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [59]
情報リテラシー [83]
読書 [84]
英国 [9]

CA1499 - 動向レビュー:シンガポールの図書館IT戦略 / 呑海沙織

PDFファイルはこちら [85]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1499

動向レビュー

 

シンガポールの図書館IT戦略

 

1.はじめに

 シンガポールの公共図書館は,現在,目覚しく変化している。20年以上にわたる情報政策の中で図書館は,国民の知的水準を高める役割を担い,知的情報センターとして確たる地位を築きつつある。インテリジェント・アイランド化政策の中で,図書館は,どのような位置を占め,どのようなグランド・ビジョンをもって変化しているのだろうか。

 

2.シンガポールの情報政策

 シンガポールは,マレー半島の最南端にある,赤道直下の小さな島である。マレーシアとインドネシアに囲まれたシンガポールは,総面積約650平方キロメートル,日本の淡路島とほぼ同じ面積を占める。人口約400万人のうち,77%が中国系,14%がマレー系,8%がインド系という,複合民族国家である。公用語は,英語,マレー語,中国語,タミル語である。国語はマレー語とされているが,行政用語は英語とされており,実際は英語が共通語となりつつある。マレー国家に囲まれながらの華人国家であるという特徴は,シンガポールの国家形成に大きな影響を与えてきた。

 1965年,マレーシア連邦から分離したシンガポール共和国は,リー・クアンユーのリーダーシップの下,政府主導型の経済成長を遂げた。天然資源に乏しいシンガポールは,電気,ガス,工業用水,コンピュータ・ネットワーク等インフラを整備し,東南アジア地域での有利な立地条件を活かして,交通,貿易,金融,さらには情報のハブとしての役割を確立してきた。

 1980年,情報政策を経済発展の要と位置付けた国家コンピュータ計画が開始され,1981年には国家コンピュータ委員会(National Computer Board)が設置された。1986年,国家情報技術計画(National IT Plan)が発表され,ITに関する人材の育成,ITに対する意識の向上,ITインフラの整備,ITアプリケーションの開発,IT産業の振興を柱として,IT整備が推進された。1992年には,シンガポールのITマスタープランであるIT2000が,2001年には国家情報通信技術計画(ICT21)が発表され,情報化政策が推し進められている。

 このような政府主導型の情報政策の下,図書館は,情報化社会における重要な機関として位置付けられている。1992年6月,Library2000検討委員会が発足し,100人以上の図書館員と国家コンピュータ委員会の職員によって,次世代の図書館サービスのあり方について検討が行われた。こうして1994年3月5日に発表されたのが,"Library2000"である(CA1136 [86]参照)。この報告書では,図書館を情報化社会における知識データベースと位置付けるものであり,情報化促進の手段として図書館の活用を図ろうというものであった。1995年には,国立図書館委員会(National Library Board : NLB)が設置され,国立図書館および公共図書館システムの包括的管理と運営を行っている。

 Library2000では下記6つの戦略の下,図書館のシステム改革が推進されている。

  • 1) 順応性のある公共図書館システムの構築
  • 2) ボーダレスな図書館ネットワークの整備
  • 3) 調整されたナショナル・コレクションの形成
  • 4) マーケット指向の良質なサービスの提供
  • 5) ビジネスやコミュニティとの共生関係の構築
  • 6) グローバルな知識ハブとしての役割の確立

 以下,情報政策に裏打ちされたシンガポールの図書館の現状を概観したい。

 

3.グランド・デザインとしての図書館システム

 Library2000をまとめるにあたり,当時のシンガポールの図書館事情について調査が行われたが,結果は思わしいものではなかった。公共図書館は,20万人に1館の割合で設置されており,これは1990年に欧州文化都市(European Culture City)(注1)に選ばれたグラスゴーの6万5千人に1館という割合に比べると,不十分といわざるをえない。また,図書館の利用状況も芳しいものではなく,過去1年間に公共図書館を訪れたことがあるのは,人口のわずか12%であった。さらに,シンガポール人が1年間に読む図書は,16.5冊であり,これは米国の3分の1であるという調査結果も明らかになった。人的資源を最大の武器とするシンガポールにとって,国民の知的水準の向上は,国際競争に打ち勝つための必須要件である。こうしてシンガポールが目指す学習国家(a learning nation)に向けて,公共図書館システムの大規模な見直しが行われることとなった。

 Library2000では,新しい公共図書館システムとして,公共図書館を3階層に分け,それぞれの設置目的および対象,目標設置館数を掲げている。1) 地域図書館(Regional Library)は,従来の分館の2倍の規模を持ち,40万冊の蔵書を備える。地下鉄やバスで15分以内の距離に位置し,全ての図書館サービスが受けられる。地域図書館の設置目標館数は5館とされ,一般市民やビジネス利用者を対象とする。2) コミュニティ図書館(Community Library)は,分館の半分の規模を持つ図書館であり,10万冊から20万冊の蔵書を備える。バスで10分以内の距離に位置し,図書や雑誌,視聴覚資料の貸出などの図書館サービスを中心とする。地域の住民を対象とする。設置目標館数は,18館である。3) 近隣図書館(Neighbourhood Library)は,10歳以下の子供を対象とする蔵書冊数1万冊から1万5千冊の小さな図書館で,徒歩10分以内の距離に設置される。設置目標館数は100館である。

 毎年,新館が開館されており,現在,地域図書館2館,コミュニティ図書館19館,コミュニティ子供図書館(近隣図書館)46館が開館されている。

 また,学校図書館や学術図書館の増強,ビジネス図書館やアート図書館のネットワーク形成も推奨されており,2002年9月には初の舞台芸術図書館であるlibrary@esplanade [87]が開館されている。

 

4. 図書館のコア・コンピタンス

 シンガポールにおいては,「図書館のコア・コンピタンス(注2)はレファレンスである。」と明確に位置付けられている。レファレンス以外の貸出・返却業務や整理業務に費やされる時間を,レファレンス業務やレファレンス・スキルを向上させるための時間に振り向けつつある。

 公共図書館の図書には全て非接触型ICチップが貼付されており,貸出・返却は利用者によるセルフ・サービスである。貸出・返却のセルフ・サービスについては,メリット・デメリット双方を考慮する必要があろうが(CA1174 [88]参照),シンガポールにおいては,自動貸出システム導入時の細やかな図書館スタッフの対応によって,利用者の年齢に関係なく,受け入れられている。自動貸出システムが導入されるまでは,貸出手続きに最大45分待たなければならなかったことを考えると,自動貸出システムの導入は画期的だったといえるだろう。利用者による貸出・返却のセルフ・サービスは,DIY(Do It Yourself)コンセプトと呼ばれている。

 また,受入業務や目録,装備は全て,一か所で集中管理されている。町の中心地から離れたライブラリ・サプライ・センターは,公共図書館の受入資料の整理業務を一括して請け負っている。さらに近年,装備のアウトソーシングが進んでおり,装備済みの図書(shelf-ready books)が納入されるようになってきている。

 こうして図書館員がこれまで,整理業務や貸出・返却業務に費やしてきた時間は,レファレンス・サービスへと集約することができるようになった。レファレンス・サービスの強化に向けて,図書館員にも再教育が行われている。また,2002年6月より,CARES (Consultation, Assistance, and Reference Services)プログラムが開始されている。これは,オンデマンド型のレファレンス・サービスを提供する試みである。利用者自身が図書館やその資料を使いこなすスキルを会得することが目的である。レファレンスのDIYと言い換えることもできるだろう。

 

5. 利用者指向の物流システム

 図書の貸出は自動貸出システムにおいて,利用者のセルフ・サービスによって行われることは先述したが,返却にも大きな特徴がある。ブックドロップ・システムである。ブックドロップは,一見閉館時に返却するためのブックポストのようであるが,似て非なるものである。これは,ブックドロップに図書が返却されると,図書に貼付された非接触型ICチップにより,返却処理がなされるというシステムである。現在では,ほぼ全ての貸出図書が,図書館カウンターではなく,ブックドロップに返却されている。

 利用者は,借りた図書を必ずしも借りた図書館へ返す必要はない。どの図書館に設置されているブックドロップへも返却可能である。図書館から図書館への資料の移動は,日に2度,郵便を使って行われる。また,図書館以外の場所に,ブックドロップを設置する試みもなされている。2001年には,ビジネス街の中心に位置する銀行のロビーにブックドロップが設置された。昼休みに気軽に図書を返却できるので,ビジネスマンに歓迎されている。利用者の視点に立った物流が確立されているといえよう。

 

6.基本的サービスと付加価値的サービス

 図書館サービスにITを活用することによって,その可能性は大きく広がる。しかし,限りある予算の中で,無限にサービスを拡大することは難しい。シンガポールの公共図書館では,基本的な図書館サービスと,付加価値的な図書館サービスを明確に分け,基本的なサービスは無料で,付加価値的なサービスは有料で,提供するという区分けをしている。

 付加価値的な有料サービスには,マルチメディア・ステーションで提供されるデータベースやビデオ・オンデマンド,電子ジャーナルや電子ブック等,ネットワークで提供されるサービス,ビジネス向けサービス,などがある。

 マルチメディア・ステーションの利用料金は,1分あたり0.03シンガポール・ドル(約2.1円。1シンガポール・ドル=70円換算)である。支払いは,「キャッシュ・カード」と呼ばれるICカードで行われる。この「キャッシュ・カード」は,図書館だけでなく,銀行やコンビニエンス・ストア,ガソリン・スタンド等でも入手できる。マルチメディア・ステーションの利用の他,文献複写サービス,延滞料金の支払い,資料の紛失・破損に対するペナルティ等,他の有料サービス全てに使用することができる。

このキャッシュレス・システムは,小額の料金徴収を簡便に実現しており,利用者にとっても,図書館にとっても有益なシステムとなっている。

 

7.e-ワンストップ・サービスの実現

 eLibraryHubでは,ウェブ上でワンストップ・サービスを実現している。eLibraryHubは,統合的電子図書館と位置付けられており,電子的資料を提供するにとどまらない,より広範囲の図書館サービスを展開している。eLibraryHubでアカウントを作成すると,ウェブページをカスタマイズすることができる。

 この入口を通過すると,有料・無料に関わらず,様々な図書館サービスを受けることができる。13,000タイトルの電子ジャーナルやデータベースだけでなく,電子ブック提供サイトであるnetLibraryを通じて10,000タイトルの電子ブックを利用できる。また,蔵書検索システムを検索し,受け取りたい図書館を指定して図書の予約をしたり,貸出の更新をしたりすることもできる。Amazon.comのように,興味のある分野のお勧め図書の紹介や,仮想書棚を構築することも可能である。また,オンライン・レファレンスサービスを提供している上海図書館と提携して,オンライン・レファレンスサービスや各種調査,文書の翻訳サービスを受けることもできる(E041 [89]参照)。

 また,年間3シンガポール・ドルの会費で,返却日付の数日前に返却日を携帯電話などの携帯端末に知らせるリマインダー・サービスや,携帯端末からの貸出の更新,各種料金の照会を行うことができるモバイル・サービスも提供されている

 

8. 最後に

 図書館と情報通信技術の融合体である電子図書館を考える場合,まず頭に浮かぶのは,資料の電子化や電子的資料の提供ではないだろうか。けれども実際に,図書館が提供する資料の多くを占めているのは,紙媒体の資料である。シンガポールでは,電子的資料に偏重することなく,非接触型ICチップの導入により,洗練された紙媒体の物流システムが構築されている。また,貸出更新や予約等,手続きをオンライン化することによって,利用者に快適な図書館利用環境を提供している。政府主導型で進められているシンガポールの情報政策ではあるが,その視点は政府だけではなく,確実に個人に向けられている。

 シンガポールでは今,専門家,経営者,企業幹部,ビジネスマンをPMEBs(Professionals, Managers, Executive and Businessmen)と呼び,これらの人々に読書と学習を勧めるLibrary@Office [90]プロジェクトが開始されている。シンガポールのインテリジェント・アイランド計画のソフト面は,図書館を中心に,静かに進行中である。

京都大学人間・環境学研究科・総合人間学部図書館:呑海 沙織(どんかいさおり)

 

(注1) 欧州連合(European Union:EU)文化閣僚委員会による選定事業。EU加盟国から毎年一都市が選ばれ,文化事業への取り組みが推奨される。1985年,ギリシャの文化相メリナ・メルクーリの提案によって開始され,アテネが最初の欧州文化都市として選定された。

(注2)ある組織独自の中核的能力・技術。『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞社)によって広められた概念である。この著書では,「顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術」と説明されている(参考:経営用語の基礎知識 野村総合研究所 http://www.nri.co.jp/m_word/ [91])。

 

Ref.

Library 2000 : Investing in a Learning Nation : Report of the Library 2000 Review Committee. SNP Publishers, 1994, 171p.

Teng, Sharon. et al. Knowledge management in public libraries. Aslib Proc. 54(3), 2002, 188-197.

Keng, Kau Ah. et al. Segmentation of library visitors in Singapore: learning and reading related lifestyles. Libr Manage. 24(1/2), 2003, 20-33.

National Library Board Singapore. (online), available from < http://www.lib.gov.sg/ [92] >, (accessed 2003-3-20).

eLibraryHub. (online), available from < http://www.elibraryhub.com/ [93] >, (accessed 2003-4-2).

netLibrary. (online), available from < http://www.netlibrary.com/ [94] >, (accessed 2003-4-2).

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