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No.203 (E1228-E1232) 2011.10.27

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E1228 - 被災地支援活動紹介(4)南三陸町仮設図書館の開館支援

  • 参照(10808)

カレントアウェアネス-E

No.203 2011.10.27

 

 E1228

被災地支援活動紹介(4)南三陸町仮設図書館の開館支援

 

 2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波によって図書館の建物が消失した宮城県南三陸町で10月5日に仮設図書館が開館した。9月23日から25日にかけて仮設図書館の開館準備を支援するプロジェクトに参加した大学図書館員の山下ユミさんにお話を伺った。

●支援プロジェクトの概要についてお聞かせください。

 9月10日,博物館・美術館,図書館,文書館,公民館の被災・救援情報を提供する“saveMLAK”のメーリングリストで,南三陸町図書館の再開館を支援する現職者の募集がありました。宮城県図書館を中心に各種の支援を行ってきた結果,10月5日に仮設図書館が開館する目処が立ったとのことでした。私はそれまでに2回被災地で復興支援に携わった経験がありましたが,図書館員として参加するのは今回が初めてです。参加のきっかけは,現地に行かれた方に図書館があった場所の写真を見せていただいたことです。そこには水しか見えず,言葉をなくしました。

 この3日間で,宮城県図書館と南三陸町図書館の職員,宮城県内の大学図書館・市町村立図書館員等によるボランティア,saveMLAKを通じて参加した12名の大学・公共・専門図書館員等,のべ92名が開館準備に関わりました。その他1名が東京からシステム構築の後方支援をしていました。

●仮設図書館の概要についてお聞かせください。

 仮設図書館は,避難所にもなっていた南三陸町総合体育館「ベイサイドアリーナ」の敷地内に設置されています。事務所用のトレーラーハウスと,書庫と閲覧室であるプレハブ2棟で,これらは図書館振興財団等から寄贈されたものです。私たちが現地入りしたときには建物の準備は済んでいて,プレハブに20連ほどの書架が入っていました。トレーラーハウスではプレハブとは違ってアリーナから引っ張った電気が使えるので,パソコンを設置して図書館システム(無償提供されたProject Next-Lの“Enju”)を動かし,無線LAN環境も設置しています。現在,仮設図書館では全国からの寄贈と購入分を合わせた3,000冊の図書の閲覧サービスを中心に提供しており,利用者情報はまだ登録していないため貸出はノートに記録して行っているとのことです。今後は,引き続き寄贈図書の受入等の作業や,移動図書館の開始が予定されています。

●開館準備支援として行った作業についてお聞かせください。

 1日目は10時頃に現地入りし,最初はアリーナで宮城県図書館の方から作業内容について説明を受けました。その後,グループに分かれて,トレーラーハウスでの図書館システムの調整やデータ登録等,アリーナでのバーコードラベルの貼付やブッカー等の図書装備,プレハブを「図書館らしく」する飾り付け,近くの小学校での寄贈図書整理,分館開館に備えて重複図書等を保管している倉庫での作業等を行いました。私は主にブッカー作業をしていました。作業は17時くらいで切り上げ,夜は宿舎で作業内容・問題点等の報告や翌日の予定を周知するためのミーティングを行いました。

 2日目は9時頃から,前日同様グループに分かれて作業しました。請求記号の付与方法が決まり,図書館システムの調整も済み,午後からは図書受入のためのデータ登録が始まりました。登録の際は,ノートパソコンに接続したバーコードリーダーでISBNを読み取り,国立国会図書館のPORTAとNDLサーチのAPIを使って書誌をインポートしました。3日目も引き続き作業を進め,午後には南三陸町の職員にデータ登録やシステム操作の説明を行いました。15時頃に作業終了しましたが,書架には500冊程度しか並べられず,非常に残念な思いでした。でも,この3日間で作成したワークフローを使ってその後の登録作業等がスムーズに進み,現在では3,000冊の図書が貸出可能になっているそうです。

●苦労したことや感想などをお聞かせください。

 分類をどのレベルまで行うかや,請求記号ラベルの記述方法,配架等を決める時,その場にいる人で思い切って決める必要がありました。全てを皆で相談したりお伺いを立てていては作業が進まないからですが,これで良いのだろうかと悩むことがあちこちであったようです。

 全体としてはあっという間の充実した3日間でした。基本的な作業をする中で,自分が図書館員であるということを再認識し,自分にも何らかの専門性があって,支援できることがあるとわかりました。これからも南三陸町の図書館を見守りつつ,直接伺って何かできる機会があればしていきたいと思います。お忙しい中とても明るく仕事をされていた南三陸町の職員さん,細やかなサポートをされていた宮城県図書館の方々には大変お世話になりました。改めてお礼申し上げます。

Ref:
http://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/modules/gyousei/index.php?content_id=413 [1]
http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011100501000312.html [2]
http://www.timewithbooks.com/monthly_special/06okamoto/vol42/p01/p01.html [3]
http://savemlak.jp/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%8E/%E5%8D%97%E4%B8%89%E9%99%B8%E7%94%BA%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E4%BB%AE%E8%A8%AD%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%81%AE%E9%96%8B%E9%A4%A8%E6%94%AF%E6%8F%B4 [4]

カレントアウェアネス-E [5]
災害 [6]
日本 [7]
公共図書館 [8]

E1229 - 学術の世界を「ハック」する

カレントアウェアネス-E

No.203 2011.10.27

 

 E1229

学術の世界を「ハック」する

 

 「デジタルメディアやデジタル技術は学術の世界をどのように変えうるのだろうか?」2011年5月21日,インターネット上でこのような問いが投げかけられた。この問いかけに対して1週間で寄せられた329の論考のなかから32本を選び編まれたのが,ここで紹介する“Hacking the Academy”である。同書は米国ミシガン大学図書館出版局から出版され,オンライン版はオープンアクセスで提供されている。なお,この出版バージョンに収録されていない論考も公開するウェブサイトが用意されている。

 編者である米国ジョージメイソン大学歴史・ニューメディアセンターのコーエン(Dan Cohen)氏とシャインフェルド(Tom Scheinfeldt)氏は,選考にあたり,単に学術の世界の現状に対する不満を述べたものではなく,それを超えて鋭い分析や問題解決に繋がりうる可能性を秘めた論考を掲載の基準にしたとしている。そして,同大学院生のスーター(Tad Suiter)氏は,タイトルにある“Hacking”には,コンピュータシステムに侵入して悪事を働くという通常想起される意味ではなく,遊び心をもって複雑なシステムを学び改良していくという肯定的な意味が込められていると述べている。そして,我々はデジタル技術と学術世界という二つの複雑なシステムが絡みあおうとする現場に立ち会っているが,それらの複雑なシステムを「ハック」することこそが,そこで生きる者として今必要なのだという。

 同書の構成は,第1部「学問を『ハック』する」(Hacking Scholarship),第2部「教育を『ハック』する」(Hacking Teaching),第3部「学術機関を『ハック』する」(Hacking Institutions)の3部に分けられている。ここでは第3部に納められている,図書館を扱った2つの論考を紹介する。

●Andrew Ashton. The Entropic Library

 この論考は,デジタル技術が学術の世界へ浸透することによって生じた,大学図書館サービスの変化をテーマとしている。冒頭で,デジタル化の浸透によって大学図書館の提供しているサービスが中央集中型からの脱却を求められる事態に直面していると指摘される。そして著者は,この事態にあって大学図書館がコレクションの充実等の伝統的な図書館サービスをデジタル化して提供することは確かに必要であると認めつつも,しかしそのことと新しいデジタル形式の学問によって定義づけられる「エントロピー的図書館」は異なるものであるとしている。著者は,大学図書館が単に情報の流れだす源泉としての場であるという認識から脱して,データや知識,相互作用の万華鏡となる「エントロピー的図書館」となることが望ましいとし,そのために大学図書館がデジタルメディアを利用して学術研究を行なう物理的な空間へと変わらなければならないのだと主張している。

●Christine Madsen. The Wrong Business for Libraries

 この論考は,大学図書館の実態の変化をテーマにしたものである。著者は19世紀半ばにおける大学というシステムの爆発的増大と出版コストの低下により,大学図書館のコレクション収集のあり方がそれ以前の質的な観点によるものから量的な価値観に立ったものへと転換したと述べている。著者は転換後の大学図書館のモデルを「情報中心モデル」と呼ぶ。そして現在直面しているのは,インターネットの出現に起因した,その「情報中心モデル」の崩壊であるという。著者は「情報中心モデル」に変わる新たな大学図書館像として,質的観点に立った情報提供を行う場というモデルを提案している。このモデルの目標は,大学図書館を建物や所蔵コレクションによって定義されるものとしてではなく,なにより新しい知識を生み出す支援を行うサービスの集合体としてみなされるようにするということであるという。著者はそうすることで図書館への投資がコレクションの量や利用者数,利用者満足度ではなく,利用者の経験によって評価されることになるのだと結論づけている。

Ref:
http://www.digitalculture.org/hacking-the-academy/ [9]
http://hackingtheacademy.org/ [10]
http://hackingtheacademy.org/libraries/ [11]

  • 参照(5376)
カレントアウェアネス-E [5]
学術情報 [12]
大学図書館 [13]

E1230 - Europeana,デジタル文化資源のメタデータを自由利用へ

  • 参照(6760)

カレントアウェアネス-E

No.203 2011.10.27

 

 E1230

Europeana,デジタル文化資源のメタデータを自由利用へ

 

 欧州のデジタル文化資源ポータルEuropeanaを運営するEuropeana財団は,2011年9月12日に,図書館・博物館・文書館等の機関からEuropeanaに提供されているメタデータの利用方法を拡充するための,各機関との新たな協定の文書を公表した。この協定に署名した機関から提供されるメタデータは,2012年7月から,自由利用が可能なクリエイティブコモンズの“CC0”ライセンス(パブリックドメイン)のデータとして,Europeanaから提供されることになる。現行の協定が終了する2011年末までに新たな協定に署名しない機関のメタデータは,Europeanaから削除予定とされている。

 Europeanaには,様々な機関から文化資源についてのメタデータが提供されているが,デジタル資料そのものは各機関で保有されており,Europeanaはそれらへのリンクを提供する形となっている。Europeanaへのメタデータ提供は,個別機関が直接提供する場合と,機関の上位団体等がアグリゲータとして提供する場合があるが,いずれの場合も,メタデータの提供やEuropeanaでの利用等に関する協定が,Europeanaと提供者との間で結ばれている。

 新たな協定が必要とされた最大の理由は,現行の協定では,Europeanaに集まったメタデータの利用が,非商用目的に限定されているということである。それによる制約の例として,教育目的のサイトや研究者のブログであっても広告や商業サービスへのリンクが含まれている場合は利用できないこと等が挙げられている。また,データのつながりを活用するLinked Open Data(CA1746 [14]参照)の取り組みについても,公開されたデータが商用目的で用いられる可能性があるため,Europeanaでは試験的プロジェクトにとどまっている。さらに,現行ではWikipediaに利用することもできないため,一般市民のEuropeanaの認知度が上がらないという懸念も指摘されている。

 このような状況では,Europeanaの2011-2015年の戦略計画(E1148 [15]参照)で示された目標の達成や,欧州委員会(EC)の有識者委員会による報告書(E1143 [16]参照)で提言されたメタデータの自由利用は実現できないとして,新たな協定を作成するための関係者との協議が2010年から行われていた。その過程において,データ提供機関からはデータの自由利用に伴う不安も示されたが,同時に,メリットとして,サイトへのアクセスが増加すること,データに付加情報が加わること,ユーザがデータを利用しやすくなること,文化機関の存在意義を示せること等が確認されたとしている。

 Europeana財団は,各機関からのメタデータに関する原則として,Europeanaが直接にメタデータの商用利用を行うことはないこと,各機関はメタデータをEuropeana以外に提供してもよいこと,Europeanaへの提供は完全なメタデータでなくてもよいこと(いくつかの項目は必須),全ての所蔵資料のメタデータを提供する義務はないこと,各機関から提供されるプレビュー用のサムネイル画像等はEuropeanaのみが使用し再利用は行われないこと等を示している。また,Europeanaで公開されるメタデータの再利用についてのガイドライン案も示されている。

 9月28日には欧州国立図書館長会議(CENL)がデータのオープン化の方針を表明しており,欧州図書館(TEL)を通じてEuropeanaに提供された欧州の国立図書館の所蔵資料についてのメタデータが自由利用できることとなる。また,9月29日には,テレビ放送のアーカイブプロジェクトEUscreenが,新たな協定に署名したと発表している。2012年にかけての動向が注目される。

Ref:
http://www.version1.europeana.eu/web/europeana-project/newagreement [17]
http://www.version1.europeana.eu/c/document_library/get_file?uuid=deb216a5-24a9-4259-9d7c-b76262e4ce55&groupId=10602 [18]
http://www.version1.europeana.eu/web/europeana-project/newagreement-consultation/ [19]
http://creativecommons.org/weblog/entry/29133 [20]
http://www.theeuropeanlibrary.org/portal/organisation/press/documents/CENL%20adopts%20CC0.pdf [21]
http://blog.euscreen.eu/?p=2027 [22]
CA1746 [14]
E1143 [16]
E1148 [15]

カレントアウェアネス-E [5]
メタデータ [23]
MLA連携 [24]
著作権 [25]
欧州 [26]
博物館 [27]
図書館 [28]
文書館 [29]
Europeana [30]

E1231 - 機関内のMLAコレクションに対する統合検索を導入するために

  • 参照(5161)

カレントアウェアネス-E

No.203 2011.10.27

 

 E1231

機関内のMLAコレクションに対する統合検索を導入するために

 

 2011年8月,OCLCの研究部門OCLC Researchが,一機関内における博物館・図書館・文書館(MLA)コレクションの統合検索をテーマとした“Single Search: The Quest for the Holy Grail”というレポートを公開した。これは,統合検索の導入に成功した機関の経験を共有することを目的とし,英ヴィクトリア&アルバート博物館や米ゲッティ・リサーチ・インスティチュート等9つの機関のメンバーによるディスカッションによる考察をまとめたものである。

 このテーマを扱うことについて,OCLC Research内部では,最終目標は組織単位の統合検索ではなく研究者が日常的に活動している環境からコンテンツへアクセス可能にすることであるべきだという反対意見も出たが,助成機関等に対して組織のコレクションの豊かさを示すことができるという大切な動機もある等とその重要性を主張する声も多くあったとしている。

 同レポートの内容は,大きく分けて「組織」「技術」「メタデータ」「アクセス」の4つにまとめられている。

 「組織」に関しては,まず,統合検索を導入する目的について述べられている。ディスカッションではユーザのニーズに応えるという動機が第一に挙げられた。その他,図書館員やアーキビスト等の異なる慣習を持つ組織内の様々なスタッフが,統合検索によって組織全体のコレクションを俯瞰できるようになってコレクションへの理解が深まり,その結果,業務の合理化につながるという点も示されたという。この節では,組織構造や組織文化から生じる事情や,助成金獲得等の資金面についても触れられている。

 続いて「技術」について,統合検索システムの形態には次の4種類が存在すると整理されている。(1)単一のシステムに全てのデータを投入する方法。これはMLAのいずれか1つの比重が大きい場合には最良の選択肢かもしれない。(2)別途用意した中央リポジトリで各データベースのデータをハーベストする(集める)方法。ハーベストのためにデータ調整が必要となる。(3)各データベースを横断検索する方法。データ調整は必要ないが,対象データベースが多くなると検索速度が遅くなる。検索結果表示において関連度順ソートやファセット検索が困難といった問題も生じる。(4)各データベースとは別に中央インデクス(central index)を構築する方法。Google等の検索エンジンと同様の方法で,検索速度が速く,ファセット検索も可能である。

 知見として,統合検索を支えるシステムには単一の解があるわけではなく,置かれている状況が違えば異なるアプローチがあり得ると述べ,新しい検索対象データベースを追加できるような拡張性の高いシステムを選択することが必要だとしている。この節では,他に,デジタル資料を管理するためのデジタル資産管理システムや,オープンソースシステムと商用システムの違いについても解説されている。

 「メタデータ」に関しては,それぞれのコレクションを適切に表現するためにMLAで使用されるメタデータ標準の差異を尊重しながら,同時に,ユーザに対してはコレクションの壁を越えたシームレスな検索を提供するのが難しい課題だとしている。また,MLAでは使用される統制語彙に違いがあることや,メタデータを変換するマッピングやクロスウォーク等の手段における課題等についても触れている。

 「アクセス」においてはコレクションのウェブ上での存在感が最も重要だと述べている。そのためのポイントとして,可能ならばプロのデザイナーにウェブデザインを依頼すること,ウェブサイトにおける統合検索の表示位置に注意を払うこと,検索結果ではユーザがデジタル資料にアクセスできるかどうかすぐに分かるようにすること,著作権情報を明示してそのデジタル資料をどのように使用可能なのか理解できるようにしておくこと等が紹介されている。

 最後に,MLAは歴史や慣習等の様々な面で非常に異なる存在ではあるが,ユーザのためにコレクションの発見や利用を容易にしたいと願っているのは同じであると述べ,このレポートが統合検索を導入する際に役立つことを望むと締めくくられている。

Ref:
http://www.oclc.org/research/news/2011-08-22.htm [31]
http://www.oclc.org/research/publications/library/2011/2011-17.pdf [32]
http://www.oclc.org/research/activities/lamsearch/default.htm [33]

カレントアウェアネス-E [5]
情報検索 [34]
MLA連携 [24]
米国 [35]
英国 [36]
博物館 [27]
図書館 [28]
文書館 [29]
OCLC [37]

E1232 - ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.203 2011.10.27

 

 E1232

ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議<報告>

 

 「2011年ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議」(DC2011)(E988 [38],E1121 [39]参照)が,2011年9月21日から23日にオランダ王立図書館で開催された。この会議は,ダブリンコアのみならず広くメタデータに関する研究発表や意見交換を行う場として毎年開催され,11回目を迎える今回は,36か国から170名の参加者があり,日本からは筆者を含め計7名が参加した。

 21日はプレカンファレンスで,ダブリンコアの基本概念,Linked Data(CA1746 [14]参照)やSKOSに関する基本事項を講義するチュートリアルと語彙に関する特別セッションが平行して開催された。

 22日と23日には本会議が開催され,各日の午前中に基調講演1本,ペーパー発表5本が行われた。午後には,プロジェクトリポート,各コミュニティによるワークショップ,会期中にテーマを設定する「アンカンファレンス」(unconference)と呼ばれるセッションが平行して開催された。

 22日の基調講演は,かつてDCMI(Dublin Core Metadata Initiative)で各種標準策定に関わり,現在はGoogleにソフトウェアエンジニアとして在籍するニルソン(Mikael Nilsson)氏による,「メタデータの調和」(Metadata Harmonization)をテーマとしたものであった。多様なメタデータ標準が存在し,複合的に使用される現在においては,「メタデータの相互運用性」(システム間で一定の方法によって,意味の同一性を担保しつつメタデータを交換できること)とは別の概念として,複数のスキーマを用いたメタデータが,システム間の交換方法に違いがあっても,最終的に共通のモデルに対応付けされ,意味の同一性が担保されるという「メタデータの調和」が重要になるという。そして,そのような「調和」をもたらすためには,コアとなるモデルの採用,各メタデータ標準とコアとなるモデルとのマッピングが必要になることが述べられた。

 23日には,フランスのポンピドゥーセンターでヴァーチャル・ミュージアムのプロジェクトマネージャーを務めるベルメス(Emmanuelle Bermès)氏から「図書館・文書館・博物館のためのLinked Dataに向けて」と題する基調講演があり,図書館・文書館・博物館のデータがLinked Dataのクラウドに参加していくことで相乗効果が生まれること,ユーザ目線からLinked Dataのサービスを提供することが重要であること等が述べられた。

 ペーパー発表では,メタデータの来歴情報(provenance)を記述するために,DCMI抽象モデルを一部拡張し,Description SetにAnnotation Setを付加する方法を提案する発表や,Europeanaで実施されたLinked Open Dataのパイロットプロジェクト(data.europeana.eu)を紹介する発表等が行われた。

 プロジェクトリポートでは,2010年度の総務省の新ICT利活用サービス創出支援事業のメタデータ情報基盤構築事業により構築されたメタデータ・レジストリ“Meta Bridge”について報告があった。

 DCMI/RDAタスクグループによるワークショップは,図書館アプリケーションプロファイル(Library Application Profile:DC-Lib)のタスクグループによるワークショップと合同で開催され,活動報告のほか,DC-Libの対象範囲を「図書館」に限定せず,「文化遺産関連機関」に拡張すること等について議論された。

 DC2011では,メタデータに関する研究者や実務者が一堂に会し,問題点や今後の展望に関して闊達な意見交換が行われたほか,近年急速に進みつつあるLinked Data形式によるデータ提供について様々な実践例が共有された場となった。当会議の講演資料はDC2011のウェブサイトで公開されている。

 2012年の会議は,マレーシアのサラワク州クチンでPRICAI(Pacific Rim International Conference on Artificial Intelligence),PRIMA(Principles and Practice of Multi-Agent Systems)等の情報技術関連の会議と合同で開催される予定である。

(電子情報部電子情報流通課・佐藤良)

Ref:
http://dcevents.dublincore.org/index.php/IntConf/dc-2011 [40]
http://dcevents.dublincore.org/index.php/IntConf/dc-2011/schedConf/presentations [41]
http://version1.europeana.eu/web/lod/ [42]
CA1746 [14]
E988 [38]
E1121 [39]

  • 参照(7095)
カレントアウェアネス-E [5]
メタデータ [23]
セマンティックウェブ [43]
Linked Data [44]
オランダ [45]

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リンク
[1] http://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/modules/gyousei/index.php?content_id=413
[2] http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011100501000312.html
[3] http://www.timewithbooks.com/monthly_special/06okamoto/vol42/p01/p01.html
[4] http://savemlak.jp/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%8E/%E5%8D%97%E4%B8%89%E9%99%B8%E7%94%BA%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E4%BB%AE%E8%A8%AD%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%81%AE%E9%96%8B%E9%A4%A8%E6%94%AF%E6%8F%B4
[5] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/2
[6] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/72
[7] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29
[8] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/35
[9] http://www.digitalculture.org/hacking-the-academy/
[10] http://hackingtheacademy.org/
[11] http://hackingtheacademy.org/libraries/
[12] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/82
[13] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/37
[14] http://current.ndl.go.jp/ca1746
[15] http://current.ndl.go.jp/e1148
[16] http://current.ndl.go.jp/e1143
[17] http://www.version1.europeana.eu/web/europeana-project/newagreement
[18] http://www.version1.europeana.eu/c/document_library/get_file?uuid=deb216a5-24a9-4259-9d7c-b76262e4ce55&groupId=10602
[19] http://www.version1.europeana.eu/web/europeana-project/newagreement-consultation/
[20] http://creativecommons.org/weblog/entry/29133
[21] http://www.theeuropeanlibrary.org/portal/organisation/press/documents/CENL%20adopts%20CC0.pdf
[22] http://blog.euscreen.eu/?p=2027
[23] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/50
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[30] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/556
[31] http://www.oclc.org/research/news/2011-08-22.htm
[32] http://www.oclc.org/research/publications/library/2011/2011-17.pdf
[33] http://www.oclc.org/research/activities/lamsearch/default.htm
[34] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/91
[35] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/31
[36] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/32
[37] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/146
[38] http://current.ndl.go.jp/e988
[39] http://current.ndl.go.jp/e1121
[40] http://dcevents.dublincore.org/index.php/IntConf/dc-2011
[41] http://dcevents.dublincore.org/index.php/IntConf/dc-2011/schedConf/presentations
[42] http://version1.europeana.eu/web/lod/
[43] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/473
[44] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/629
[45] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/14