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近年、わが国の大学図書館では学部学生に対するライティング教育支援の取り組みが盛んである。講習会(1)やライティング指導に特化した対面サービスの導入(2)といった形で実施されているほか、ライティング教育に関するセミナーやワークショップが開催されており(3)、大学図書館というコミュニティ内での関心の高さがうかがえる。
このような大学図書館のアプローチは、大学における学習・教育のあり方の変化に誘発されたものではないかと考える。特に大きな影響を与えたのは、ラーニング・コモンズを受容する過程において、米国の大学図書館におけるライティング・センターの設置事例が紹介されたことであろう(4)。さらには、大学図書館がライティング教育支援に取り組むようになる前から、大学において初年次教育の一環としてライティング教育が定着していたという状況も見逃すわけにはいかない。
今後の議論に資することを願って、以下、ライティング教育が普及する中で大学図書館はどう対応すべきかについて述べ、筆者のささやかな実践とそこから得たアイデアについて紹介することにしたい。
大学をとりまく環境はこの10年で大きく変化してきている。知識基盤社会化ともよばれる社会の変化、グローバル化の進展、少子化により大学がユニバーサル段階(5)に突入したことなど、様々な要因が複合した結果、学習の質への関心が高まり、学習を向上させるための教育改善が重視されるようになってきた。
たとえば、初年次教育では、高校から大学への円滑な移行を支援するべく、大学での学びの基礎となる「スタディスキルズ」(6)の習得に重きがおかれ、とりわけ、レポートの書き方に代表されるライティング教育が盛んに行われている。文部科学省の調査では、初年次教育において「レポート・論文の書き方等文章作法関連」の授業を実施している大学は、2009年度には533大学(初年次教育を行う大学の86%)にのぼっている(7)。
このようにライティング教育が重要視されるのは、レポートや論文を書くためのトレーニングを通して、読み書きの能力、問題を発見し解決する力、論理的思考力といった、大学の専門課程で必要とされる能力を効果的に育成することができるからに他ならない。
また、ライティング能力を学習・教育の基盤に位置づけるということは、大学における学習・教育活動の展開のなかでライティング教育が中心的な活動領域の一つになるであろうことを示唆している(8)。
こうした動向に即して、大学図書館も講習会やライティング・デスクの設置などの試みを通じて積極的な貢献をしようとしているが、ほとんどのケースで実質的な指導が教員や大学院生のチューターに委ねられ、管見の及ぶ限り図書館職員が関与している事例が見られないのは、非常に残念なことである。
これからの図書館職員には一歩踏み込んで教育者としての役割が期待されていること(9)を肯定的に受け取るなら、ライティング教育に直接関与する方法についてもっと議論を深めていくべきではないだろうか。
本章では、大学図書館職員が積極的に関わった事例として、僭越ながら筆者が大阪大学で教員と協働で行った「論文の書き方・文献の読み方 プチ・ゼミナール」(3・4年生対象、4回の連続講座)を取り上げたい(10)。
この企画を思い立った理由は二つある。ひとつは、大阪大学ではライティング教育がまだ十分に普及しておらず、学生のニーズを少しでも拾い上げたかったということ、もうひとつは、そうした活動を通じて大学図書館の教育機能をアピールしたいと思ったことである。
この企画の主眼は、添削指導ではなく論文を作るプロセスを学ぶことに置いている。また、<事前準備+講義+討議+次回の準備>を1サイクルとしてスパイラル状に学習効果を高めていくことを想定してワークショップ型を採用することにしたが、これには、ラーニング・コモンズの活用というもう一つの動機も含まれる。
受講生は、まず申込時に宿題として課された論文の企画書(指定様式)を作成し講座に挑む。企画書はその後3回の講義を通じてブラッシュアップしていき、最終回でその成果を発表しあう。
各講義の内容は、(1)論文の基本的な構成や組み立て方、(2)アカデミック・リーディング(11)のコツ(論文を構造的につかむ方法を知り、書き方の参考とするため)、(3)パラグラフ・ライティングや論証の展開法、の3つとし、敢えて情報探索に関する内容を含めていない。時間的に扱い切れないというのも一つの理由だが、講師が受講生との討議において一定程度の指導ができるであろうし、また、講義の焦点を論証の形式の理解や、文章構成法の解説に絞りたいと考えたからである。
12月という開催時期がよくなかったのか、参加者の数自体は非常に少なかった。しかしながら、全回出席した受講生たちの企画書を見ると、回を重ねるごとに学習効果が表れてきているのがはっきりとわかり、一定の成果を得ることはできたと考えている。
また、問題点としては下記3点が挙げられる。
(1)受講者が回を経るごとに減少した
(2)講師には幅広い専門分野の基礎知識が必要
(3)ごく少数の学生にしか対応できない
(1)は、おそらく企画書の作成が負担になったものと思われる。学生にとっては純粋な課外学習では動機の確保が困難だということであろう。(2)は当然のことではあるが、図書館職員が講師を務める上で、高いハードルとなることは間違いない。(3)については、こうした企画を図書館の学習支援の継続的な取り組みにしていきたいところではあるが、その場合、図書館単独で実施するには負担が大きくなる懸念がある。
以上のことから、図書館にとっての課題は、学生の動機を確保しつつ、外部からのサポートも得られるような方法を模索する、ということになる。
先述の課題をクリアするにはどんな方法があろうか。一つの可能性として、たとえば、教員やティーチング・アシスタント(TA)のサポートがあり、カリキュラムと連動していて、自然な形で身につく方式というのが考えられる。
そこで思いついたのが、米国の大学の授業形式をヒントにした、図書館を取りこんだ授業構成の提案である。
米国の大学では(人文系の)大規模講義にあっては、各回の講義にあたり宿題が出されるのが普通のようである。指定された文献を読んで(reading assignmentという)、内容をまとめたものを提出するという具合である。また講義とは別に、TAがチューターとなり、受講生を少人数のグループに分けて討論(discussion section)を実施したりする(12)。要するに、講義を受けるための事前準備も含めて授業の一環として管理・指導しているわけである。
それに倣い、1単位に定められた学修時間(13)を、(1)教室での講義、(2)図書館でのTA・図書館職員によるライティング指導やディスカッション、(3)学生の自主学習、の3つに等分(各30時間)に割り振って、読み・書き・討論・講義を1サイクルとする授業システムを構築する。
このシステムなら、学生にとっては強力な自習支援となり、またTAにとっては教育者としてのトレーニングを重ねるよい機会になろう。教員にとっては充実した外部サポートを得ることによって、授業運営にかかる労力を軽減できるかもしれない。そして、大学図書館職員にとっては、教育の最前線で教育者してのトレーニングができる願ってもないチャンスになる。
こうした思いつきがそのまま実現するとは思っていないが、ただ、いまの大学図書館職員に求められているのは、まずはこのようなアイデアを出し合い、ライティング教育支援に限らず、幅広い視野から学習・教育支援のあり方を教員と共に探っていく積極的な姿勢であると考える。
大阪大学附属図書館:赤井規晃(あかい のりあき)
(1) 堀一成. 附属図書館ラーニング・コモンズを利用した教育実践の試み. 大阪大学大学教育実践センター紀要. 2010, (7), p. 81-84.
近田政博. 「レポート書き方講座」を担当してみて感じること. 館燈. 2010, (176), p. 7.
http://www.nul.nagoya-u.ac.jp/koho/kanto/kanto176.pdf [3], (参照 2011-10-07).
(2) たとえば、国際基督教大学や一橋大学など。
“ライティングサポートデスク”. 国際基督教大学図書館.
http://www-lib.icu.ac.jp/WSD/WritingSupportDesk.htm [4], (参照 2011-10-07).
“「レポート・論文の書き方」相談”. 一橋大学附属図書館.
https://www.lib.hit-u.ac.jp/retrieval/report/index.html [5], (参照 2011-10-07).
(3) たとえば、名古屋大学附属図書館研究開発室による「第36回オープンレクチャー『ライティング教育を基点とした大学図書館における学習支援と教育支援の展開』」、長崎大学の「全学教育FD・SDワークショップ『ライティングの指導と支援をどう強化するか』」など。
“第36回オープンレクチャー”. 名古屋大学附属図書館研究開発室.
http://libst.nul.nagoya-u.ac.jp/activity/openlecture/36.html [6], (参照 2011-10-07).
“長崎大学全学教育FD・SDワークショップ”. 長崎大学附属図書館. 2010-02-12.
http://www.lb.nagasaki-u.ac.jp/ad/event/ [7], (参照 2011-10-07).
(4) たとえば、名古屋大学附属図書館研究開発室編『名古屋大学附属図書館研究年報』(第7号)など。
名古屋大学附属図書館研究開発室編. 名古屋大学附属図書館研究年報, 2008, (7).
http://libst.nul.nagoya-u.ac.jp/pdf/annals_07.pdf [8], (参照 2011-10-07).
ただし、金沢工業大学のようにラーニング・コモンズが話題となる以前(2004年)からライティング・センターを設置している事例もある。
“学習支援デスク・ライティングセンター”. 金沢工業大学ライブラリーセンター.
http://www.kanazawa-it.ac.jp/kitlc/page3/desk.html [9], (参照 2011-10-07).
(5) アメリカの社会学者トロウは、大学適齢人口中に占める大学進学者数の比率を基準にして、高等教育システムの変化に3つの段階を設定した。ユニバーサル段階とは、進学率が50%を超え、高等教育が高度に大衆化した段階をいう。
トロウ, マーチン. 高学歴社会の大学 : エリートからマスへ. 天野郁夫ほか訳. 東京大学出版会, 1976. 204p.
(6) 具体的には、文献の探し方、ノートの取り方、プレゼンテーション技法、レポートの書き方、PCの利用法など。
(7) 文部科学省高等教育局大学振興課大学改革推進室. “大学における教育内容等の改革状況について”. 文部科学省. 2011-08-24.
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/04052801/__icsFiles/afieldfile/2011/08/25/1310269_1.pdf [10], (参照 2011-10-07).
(8) 井下千以子ほか. ライティング教育を基点にした学習支援とFD活動の展開(2). 大学教育学会誌. 2010, 32(2), p. 36-38.
(9) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会. “大学図書館の整備について(審議のまとめ): 変革する大学にあって求められる大学図書館像”. 文部科学省. 2010-12.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1301602.htm [11], (参照 2011-10-07).
(10) 詳細については、第16回図書館利用教育実践セミナー in 京都(日本図書館協会主催、2011年3月12日)において報告した。また下記の文献も参照されたい。
上原恵美ほか. ラーニング・コモンズ:そこで何をするのか、何がやれるのか. 図書館界. 2011, 63(3), p. 254-259.
なお、この企画は2010年度12月に第1回目を実施したものであるが、2011年度も同時期に実施を予定している。
(11) McWhorter, Kathleen T. Academic Reading. 6th ed., New York, Longman, 2007, 512p.
Lewis, Jill. Reading for Academic Success: Reading and Strategies. Boston, Houghton Mifflin, 2002, 585p.
(12) 苅谷剛彦. アメリカの大学・ニッポンの大学 : TA・シラバス・授業評価. 玉川大学出版部, 1992. 222p.
伊藤憲二氏(総合研究大学院大学准教授)のブログ。
“『ハーバード白熱教室』の裏側:ハーバードの一般教養の授業をサンデルの講義を例にして説明してみる”. Cerebral secreta: 某科学史家の冒言録. 2010-07-25.
http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20100725/p1 [12], (参照 2011-10-07).
(13) もともと大学設置基準第21条が定める単位制度では1単位に必要な学修時間は45時間が標準とされており、大抵の大学では、一般的な2単位の講義形式の授業科目であれば、必要な全学修時間90時間のうち講義時間30時間を除く60時間は自主学習を行うよう学生に指導している。単位の実質化の観点からは、この60時間の質の保証が鍵となるが、完全に学生の自由に委ねられているのは、問題であろうと思われる。
赤井規晃. 大学図書館とライティング教育支援. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1756, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1756 [13]
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電話、PC、書籍、お札、人……私たちが意識しているかどうかに関わらず、世の中にあるさまざまな存在にIDが付けられている。ここでは、「世界中のすべての図書館にIDを付ける」目的で始まった「図書館及び関連組織のための国際標準識別子」(International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations:ISIL)について、その概要・経緯を紹介し、日本におけるISILの導入と運用について説明する。
全世界の図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等の機関に付与し、識別するための国際標準ID、それがISILである。
ISILは国際標準化機構(ISO)の標準規格ISO 15511として定められており、2011年10月末時点でドイツ、フランス、英国、イタリア、ロシア、米国等26か国が採用している。
ISO 15511:2011では「ISILは、既にあるシステムに与える影響を最小限にとどめつつ、図書館・文書館・ミュージアム及び関連組織を識別するために使われる、標準識別子のセット」(2)と位置づけられている。
ISILを導入する各国が既存の図書館コード等を流用できるよう配慮されていることから、ISILで定められている主なルールは、IDのフレームワークを規定する程度の緩やかなものとなっている(表1)。
表1 ISILの基本構成
プリフィクス | ‐ | 機関識別子 |
4文字以内 | 1文字 | 11文字以内 |
ISO3166-1国名コード (DK、JP等)/特定 機関コード(OCLC等) | 区切り | 大小英文字 数字 記号[/][-][:] |
表2 ISILの例
IT-RM0267 | ローマ国立中央図書館(イタリア) |
AU-TS:RL | CSIRO森林業局(オーストラリア) |
DE-Tue120 | ドイツ‐アメリカ協会図書館(ドイツ) |
例えば、イタリアのローマにある国立中央図書館に付与されるISILは“IT-RM0267”となっている(表2)。プリフィクスの“IT”がイタリアの国名コード、UIの“RM”が図書館の所在地であるローマを表しており、“0267”は独自の番号である。
この他、ISILの登録や規格としての全体管理を行う国際登録機関(ISIL Registration Agency:RA)と、各国のUIの付与と管理を担う国内登録機関(ISIL National Allocation Agencies:NA)を置くことになっている。2011年10月末時点では、RAはデンマーク文化省に属する図書館・メディア庁(Styrelesen for Bibliotek og Medier)であり、日本のNAは国立国会図書館(NDL)が担当している。
ISILは「国際標準化機構第46専門委員会」(ISO/TC46)の「相互運用技術分科会」(SC4)で定められた規格である。1996年にイタリアから提案された当初は“International Library Code”(ILC)という名称だったが、検討段階で付与対象が図書館だけでなく関連機関にまで広げられた。2000年には、ISILの名称で国際標準の草稿(ISO/DIS 15511:2000)が提示され、2003年にISO 15511:2003として正式に国際標準規格となった。(CA1715 [20]参照)。
それから6年後の2009年に再度規格の改訂が行われ、ISO 15511:2009となる。コードの規格自体はISO 15511:2003と同じだが、RAをデンマーク図書館・メディア庁が担うことが付録Bに明記され、あわせてNAの役割についてより細かく追記された。
現時点で最新のISILはISO 15511:2011である。この改訂では随所に“museum”の語が追記されるなどMLA連携が強く意識され、付与対象も広く「情報分野」に関係する組織という表現になった。また、複数のNAが現れた場合はRAがひとつのNAを選んで決定することが明記されるとともに、OCLCのような国に属さない登録機関のコードの管理に関する項目が節として独立した。
2007年、RAからISO/TC46国内委員会に対し、日本からNAを出すよう要請があった。これを受けてISO/TC46国内委員会からNDLにISILのNAになるよう打診があり、NDL内部で調査や関係者へのヒアリング、図書館・博物館・文書館の関係者及び団体との協議、日本におけるISILのUIの体系、付与対象、付与ルール、運用方法等についての検討が進められた。
ISILの構成については、検討の過程でUIにNDLの登録利用者(機関)のIDを適用する案等が出たが、最終的にISO/TC46国内委員会からの示唆(後述するRFID規格案への対応に関する内容)とISILの持つ汎用性に配慮し、表3の構成を採用することとなった。
表3 日本におけるISILの構成
プリフィクス | ‐ | 機関識別子 | |
2文字 | 1文字 | 1文字 | 6文字 |
国名コード (JP) | 区切り | 機関種別 | 機関ID |
表4 日本におけるISILの例
JP-1000001 | 国立国会図書館(東京本館) |
JP-1000907 | 東京都立中央図書館 |
JP-1003306 | 東京大学/総合図書館 |
この構成は、次のコンセプトを基にしている。
ISILの構成に関する検討と並行して、前述のようにNDLが日本のNAとして2011年8月31日に申請を行い、同日RAに承認された。こうした準備を経てNDLは、2011年10月20日ホームページ上で日本語版と英語版の「図書館及び関連組織のための国際標準識別子(ISIL)」のページ(3)を公開し、ようやく日本におけるISILの付与が始まった。
<付与対象>
日本におけるISILの付与対象は、ISO 15511:2011に基づいて図書館、博物館・美術館、文書館、その他(出版者や取次業者、資料や情報の流通に関わる組織等)を想定している。また、原則として1館にひとつのISILを付与するが、中央館とは別に分館も個別のISILを持つことができる。最初からすべての対象を登録することは難しいので、当面は機関種別「1」の図書館(NDL及び支部図書館、公共図書館、大学図書館、専門図書館、その他情報専門機関、視聴覚障害者情報提供施設等)に対する付与から始め、徐々に付与対象機関を学校図書館や博物館・美術館、文書館等に広げていくことを考えている。
<機関情報の登録と更新>
機関情報は、「初期登録データ(一括)」「更新データ(一括)」「登録希望機関からのフォーム経由の申請(個別)」のいずれかに基づいてISIL管理台帳に登録する。機関種別「1」(=図書館)のデータの初期登録については、日本図書館協会(JLA)をはじめ、幾つかの関係団体の協力を得て登録対象となる機関の情報を入手し、あらかじめNDLでISILを採番・付与した(初期登録は図書館のみ。ISIL管理台帳公開時の登録数は4,926館)。しかし、この段階ではISILと機関名を結び付けただけである。今後は次のステップとして、すべてのISIL付与機関の登録情報に関してNDLが順次確認調査を行い、正確なデータをISIL管理台帳に反映させてゆく必要がある。
なお、初期登録から漏れた機関については、事務局の追加調査に加え、登録申請を受けてフォローすることにしている。さらに毎年、各機関の更新情報と申請情報を突き合わせて、必要に応じて事実確認を行った上で、ISIL管理台帳のデータ更新を行う想定である。
<機関に関する情報の管理>
ISIL自体は単純なコードである。これに多くの意味を持たせることは、改訂作業の煩雑さを増し、申請から付与までの時間に影響を与え、情報の不整合をもたらす原因となりうる。よって、機関に関する情報は前述のとおりISIL管理台帳を作成し、IDとリンクする形で維持管理する。ISIL管理台帳の項目のうち、次のものをインターネット上で公開している(*マークがついている項目の情報は、事務局による確認調査が済んだものから順次公開)。
この他、ISIL管理台帳では中央館・分館の関係、機関の種別等の情報もメンテナンスしている。
1996年にISILが提案されてから、実に15年を経て日本にISILが導入された。ISILそのものは単なる番号にすぎないが、標準化という意味において大きなポテンシャルを秘めている。
ISILの活用方法を問われて図書館員がすぐに思いつくのは、図書館間貸出の現場での活用、図書館システム等における登録機関管理作業の軽減等があろう。しかし、ISILはさらに広い分野での活用も視野に入っている。日本におけるISILの構成は、RFIDのコードに組み込むことも想定してあるので、ICタグに各館のISILを入れて資料の流通の自動化・円滑化を進めることも可能である。紙媒体資料を中心とした図書館間貸出だけでなく、電子書籍の流通等でISILをベースにした認証管理を行うことができれば、どの館で使われたかをチェックし、適切な権利処理や各種マーケティングへの活用も期待できる。加えて、ISIL管理台帳は「登録機関の基本プロファイルが格納された公的なリポジトリ」と考えることもできる。今後図書館を皮切りに博物館・美術館、文書館等の登録が進めば、これまで実は存在していなかった「日本の文化施設一覧」データに成長するであろう。
注目されやすい検索サービス等とは異なり、ISILの付与・維持管理は、言ってみれば「情報基盤の基盤」を整備する地道な事業である。それゆえ、半永久的なサービスとして継続することに大きな意義があると考えている。
関西館図書館協力課:兼松芳之(かねまつ よしゆき)
(1) 2011年10月27日に、ISILのRA事務局から電子メールで「『アイシル』と発音しているが、他の呼び方でも構わない」との回答を得ている。
(2) ISO 15511:2011(E). Information and documentation ― International standard identifier for libraries and related organizations (ISIL). p. 1.
(3) “図書館及び関連組織のための国際標準識別子(ISIL)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/isil/index.html [21], (参照 2011-10-28).
Ref:
ISO 15511:2000(E). Information and documentation ― International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations (ISIL).
ISO 15511:2003(E). Information and documentation ― International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations (ISIL).
ISO 15511:2009(E). Information and documentation ― International standard identifier for libraries and related organizations (ISIL).
ISO 15511:2011(E). Information and documentation ― International standard identifier for libraries and related organizations (ISIL).
Danish Agency for Libraries and Media. ISIL. http://biblstandard.dk/isil/index.htm [22], (accessed 2011-10-28).
兼松芳之. 日本におけるISIL(アイシル)の導入. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1757, p. 4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1757 [23]
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一度でも展示を実施したことがある図書館は数多い。図書館展示は広報であり、また利用者教育や人材育成の機会(1)として、図書館業務に利をもたらすものである。
しかし、展示専任の部署がある図書館は少ないのではないか。事例紹介では、委員会体制やワーキンググループ体制での実施が報告されている(2)。展示は、図書館ならではの受入・書誌作成・閲覧・レファレンスといった業務の合間に行われることがほとんどだ。どの図書館がどのくらい展示を行っているか、図書館展示はどうあるべきかといった研究も、日本ではあまりなされていない(3)。実施マニュアル的な論文も発表されてはいるが(4)、どの図書館も手探りで実施しているのが実情ではないだろうか。
そのうえ、昨今は博物館や美術館で様々な展示会が開催されており、観客の目も肥えている。図書館展示も、内容の充実はもちろんのこと、集客や満足度向上に一層の努力が必要となっている。そこで本稿では、国立国会図書館(NDL)の展示(5)のうち、直近の2つの企画展示(6)での試みとその結果、図書館展示が今後取り組むべき課題を、アンケート結果をもとに、主に広報の観点から集客と満足度にしぼって紹介したい。
以下に、今回紹介するアンケート対象である展示会の基本情報を述べる。
NDLの開館60周年を記念して、2008年の10月から11月に、東京本館と関西館でそれぞれ2週間ずつ開催した。貴重書等77点(重要文化財『師守記』や絵巻物等)を展示した(7)。
帝国議会開設120年を記念して、2010年の12月に憲政記念館で開催した。議会政治に関する憲政文書約90点(坂本龍馬から浅沼稲次郎まで、議会制度に関わる人物の直筆等)を展示した。NHK大河ドラマ『龍馬伝』の放送終了直後にあたる(8)。
入場者数・アンケート結果のうち、集客増につながる課題をここに挙げる(図1~図5参照)。
入場者数を日毎に見ると、展示に合わせた講演会を行った日は当然、入場者が多い。また、「せいか祭り」は、関西館が位置する京都府相楽郡精華町全体のイベントである。展示会事務局では「せいか祭り」に合わせた開催時期を選んだ。
こうしたイベントを考慮しないとすると、曜日では東京本館、関西館ともに土曜日の数値が多く、東京本館では特に日曜日の数値が少ない傾向が見られる。そもそもNDLは、日曜日は東西ともに閲覧を行っていない。それでもあえて日曜日に展示会のためだけに来館する人がいるのではないかと期待していたが、結果としてはかなり少ない数値になった。また、東京本館は永田町という官庁街、関西館は学研都市にあるため、行楽がてら訪れたり、通りすがりに入場したりするようなケースを期待できないということだろう。それぞれの地域の特性に合わせた開催時期、開催曜日を選ぶことが大切であることがわかる(9)。
図1 日別入場者数 貴重書展(東京本館2010年10月)
図2 日別入場者数 貴重書展(関西館2010年11月)
図3 情報入手手段 貴重書展(東京本館)
図4 情報入手手段 貴重書展(関西館)
情報入手手段で最も多いのは、「来館して」であり、一般的な広報手段であるポスター・ちらしに匹敵(東京では超える)する割合である。館内のポスター掲示や、館の入口に掲げる看板等が、遠方へのポスター・ちらしの配布とともに重要であることがわかる。
ポスター・ちらしは全国の図書館、関係機関に配布しているが、予算の関係により車内広告などは行っていないため、予想よりは少ない数値となった。
展示内容と関係のある大学の研究室が、学生を連れて観覧に来ている様子も見受けられるため、学会などにピンポイントでポスター・ちらしを送付することも効果的と思われる。
なお、東京本館では少ない「テレビ・ラジオ」「新聞・雑誌」が関西館で比較的多いのは、関西の地方ニュースとして取り上げられることが多いことによる。展示会そのものが多数行われる東京では、マスコミにプレスリリースを送付しても、残念ながら図書館の展示は大手メディアにはほとんど取り上げられない。
実際、アンケート結果には、「もっと広報するべきである」という声が多く寄せられた(貴30、議20)(10)。特に、テレビ局での放送、電車内の広告をすべきであるという意見が多かったが、いずれも予算の関係上行っていない。駅にポスターを数枚貼るにも数十万円、電車内の広告には数百万円と、想像以上の費用がかかる。民間や法人の美術館・博物館でない国立の図書館がどこまで広報の費用を割けるのか、難しいところである。
3番目に多いのが「友人・知人から」である。一度来場した人が友人や知人に勧めるということが多いようだ。そうした口コミ効果を考えると、できるだけ会期を長くして周知期間を長く取ることが大切だと思われる(11)。
図5 情報入手手段 議会政治展示会
また、図5にある「案内状」というのは、NDLから関係者に送付した案内状のほか、議会政治展示会の会場となった憲政記念館が秋の企画展示の際にリピーターに送付しているものが含まれる。憲政記念館は常に展示を行っており、近現代の憲政史に興味のある人なら一度は訪れる記念館である。リピーターがおり、毎年送付する葉書の広報効果は高いという。同時開催となった議会政治展示会についても、この葉書の隅に情報を掲載して頂いた。このように展示の固定ファンをつかむことも重要である。
アンケート結果のうち、満足度向上につながる課題をここに挙げる。
「かなりくわしく説明があり、理解しやすかった」(貴76、議82)、という意見がある一方で、「子供でも理解できるぐらい詳しくしてほしい」(貴68)、「難しい、堅苦しい」(議44)という意見もあり、入場者のレベルをどの程度に設定するかは難しいところである。「私には来てはならないところなのか」という悲痛な声もあった。
「不満足」という回答の20~30%程度をこれらの要望が占める(貴68、議40)。「わかりやすく」という要望の具体的な面である。議会政治展示会では、初日のアンケート結果をもとに翻刻を増やした結果、貴重書展よりは要望の数値が減った。ほかにも、「もう少しわかりやすい言葉で(かみくだいて)」「人名にふりがなを。西周では若い方は読めません」「○○事件の説明がないとわからない」といった意見からは、現代語訳だけでなく、解説の文章そのものについても、高すぎないレベル設定が求められていることがわかる。「知っていて当然」「知らない言葉は自分で調べましょう」というような姿勢は受け入れられない。
いずれの展示会もフロアレクチャー(展示担当者が出展資料の説明を会場内で行うこと。ガイドツアーとも言う)を行い、大変好評だった。どちらも2回ずつ行ったが、1度参加して2度目も参加する入場者もいたほどだ。また貴重書展での、簡易なレプリカを手にとって触るコーナーや、議会政治展示会での坂本龍馬の直筆署名をスタンプにしたものなど、見るだけでなく来館者も参加できる企画は全般的に好評である(貴113、議38)。
なお、筑波大学の企画展示では、ブログやTwitterで情報発信するとともに、会期中に寄せられた質問に答えるQ&Aコーナーを設けている(12)。こうした相互交流は観覧者の満足度を上げると思われる。
図書館展示の根本的な欠点として、一部分のページしか展示できない点が挙げられる。貴重書展は企画展示と同時に同内容の電子展示を作成し(13)、展示箇所以外のページも見ることができるようにした。アンケートでは、まずまず好評であった(貴10)。議会政治展示会は、既存の電子展示会「史料にみる日本の近代」(14)に全ページ画像を掲載している史料を中心に、展示を構成した。いずれの展示会でも、会場内ではパソコンコーナーで電子展示を閲覧できるようにした。
しかし、展示物とパソコンとは、どうしても離れた位置にしか設置できず、臨場感がない。展示物のすぐそばで、ページをめくるような感覚で電子画像を見られるような仕組みが開発されることを期待する。
「貴重なものが見られてよかった」(貴164)、「学校などで習った有名な書物(伊勢物語、源氏物語、八犬伝等)の実物が見られて感動した」(貴35)、「著名人の直筆を見ることができて感動した」(議150)、「龍馬の直筆を見ることができて感動した」(議81)、「大河ドラマ放送直後に坂本龍馬はタイムリー」(議31)、こういった回答が、回答数全体の約15%を占める。特に議会政治展示会はポスターに坂本龍馬の肖像を入れたため、普段憲政文書に興味を持たない層も入場し、好評だったようだ。誰もが知っているもの、貴重なもの、今流行のもの、という親しみやすさが最も喜ばれるようだ。
しかし、内容が著名なものであっても、タイトルが堅苦しいために、「それだけでは足を運びにくい、損をしている」「『八犬伝とその仲間たち』とでもしたほうがいい」という声も聞かれた。
貴重書展では、三部構成のうち第一部、第二部では文字が中心の資料であったが、第三部で美しい絵巻物を展示し、これが好評であった(貴29)。一方、議会政治展示会ではどうしても文書が中心となってしまうため、「文書ばかりでつまらない。もっと映像などを取り入れるべき」という意見が見受けられた(議21)。これはそもそも予想できたことなので、壁面に展示資料に関係する人物肖像や風景写真をパネルで飾った。また、入口にディスプレイを設置し、文書と人物肖像を組み合わせたスライドショーを上映して、少しでも視覚に訴えることを目指した。しかし、画像が白黒のせいか、あまり目立たなかったようだ。音声付きのビデオ上映コーナーなどを期待する意見もあった。
総じて、わかりやすく親しみやすい展示が求められていることがわかる。じっくり読むのではなく、ぱっと見て満足できるもの、興味を持てるものが良いとされるようだ。
それでは軽薄にすぎるのではないかという声もあるだろう。学術的な確かさが確保できるのか心配だという声もあるだろう。議会政治展示会のアンケートには、「坂本龍馬で客寄せをしすぎである」「大衆におもねっている」という意見も10件あった。しかしどんなに中身が良くても、入場してもらわなければ意味がない。
もちろん、ただ「貴重です」「テレビドラマとタイアップです」では軽薄すぎてイメージダウンの可能性もある。また、後が続かない。よって、企画段階では、集客増や満足度向上を視野に入れつつ、既存のイメージや無難な路線にこだわらない企画を考え続ける努力が求められるだろう。
また、わかりやすさと学術的な確かさの両立という点では、入場者が展示を見る段階に従って、方向性を変える必要がある。具体的には、学術的な記述は図録等で行い、会場内ではわかりやすく、親しみやすく、さらに広報段階では注目を集めるように心がける、というような切り分けが考えられるだろう。
図書館の存在意義が問われる今、本稿で紹介したNDLでの展示活動が抱える課題とその分析を基に、図書館展示がより戦略的に活用されることを願う。
利用者サービス部サービス企画課:古野朋子(ふるの ともこ)
(1) 米澤誠. 広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 305-309.
http://ci.nii.ac.jp/els/10016618354.pdf?id=ART0003225345&type=pdf〈=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1320023594&cp= [27], (参照 2011-10-28).
(2) 松原敏夫. 琉球大学附属図書館における展示会活動について. 大学の図書館. 2005, 24(5), p. 76-78.
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/123456789/58/1/matsubara.pdf [28], (参照 2011-10-28).
米澤誠. 田中耕一氏展示という未知への挑戦. 大学の図書館. 2005, 24(5), p. 78-81.
篠塚富士男. 大学図書館における展示会活動. 大学図書館研究. 80, 2007, p. 43-53.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/101739/1/daitoken_80.pdf [29], (参照 2011-10-28).
(3) 大学図書館に関しては、以下の文献がある。
篠塚富士男. 大学図書館における展示会活動. 大学図書館研究. 80, 2007, p. 43-53.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/101739/1/daitoken_80.pdf [29], (参照 2011-10-28).
(4) 松下眞也. 図書館と展覧会. 早稲田大学図書館紀要. 1996, 43, p. 1-46.
(5) NDLでは1948年の創立以来、様々な企画展示や常設展示を開催してきた。2006年4月以降は委員会体制とともに、電子展示会を含めた展示専任の係(3名)を事務局として設置して取り組んでいる。
“過去の展示会一覧”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/past_ex/index.html [30], (参照 2011-10-28).
(6) ここでは、NDLの東京本館での開催を主とした大規模な展示会を指し、電子展示会、小規模な展示会(展示ケース数個程度のもの)、国際子ども図書館における展示会を除いたものを取り上げた。
(7) 貴重書展は、東京本館では2008年10月16日~10月29日(土・日を含む)10:00~18:00に新館1階展示室で開催した。関西館では2008年11月13日~26日(土・日・祝を含む)10:00~18:00に関西館大会議室で開催した。
東京本館の入場者数はのべ2,056人で一日平均146.8人、アンケート回収枚数は618枚で回収率は30.0%であった。関西館の入場者数はのべ2,254人で一日平均は161人、アンケート回収枚数は830枚で回収率は36.8%であった。
アンケートの回答による満足度(「とても良い/良い/普通/あまり良くない/良くない」のうち、「良い」以上の割合)は、展示内容に対しては88.4%で、展示方法については72.7%であった。
(8) 議会政治展示会は、2010年12月1日~12月10日(土・日を含む)9:30~17:00に憲政記念館1階会議室で開催した。なお、この展示会は関西では開催していない。
入場者数は4,124人で一日平均412人、アンケート回収枚数は1,460枚で回収率は35.4%であった。
また、アンケートの回答に基づく満足度(「満足/やや満足/やや不満足/不満足」のうち、「やや満足」以上の割合)は、展示内容については92.2%、展示方法に対しては86.7%であった。
(9) 次回のNDL企画展示「ビジュアル雑誌の明治・大正・昭和」(2012年2月~3月開催予定)では、日曜・祝日は開催しない。
(10) 本文中で(貴30、議20)のようにカッコ内に記載した数字は、自由記入欄の同様意見をまとめた件数である。また、「貴」は貴重書展、「議」は議会政治展示会を意味する。以下、同様とする。
(11) 次回のNDL企画展示「ビジュアル雑誌の明治・大正・昭和」(2012年2月~3月開催予定)では、東西あわせて40日間と、会期を長く設定した。
(12) 篠塚富士男. 大学図書館における展示会活動. 大学図書館研究. 80, 2007, p. 43-53.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/101739/1/daitoken_80.pdf [29], (参照 2011-10-28).
筑波大学附属図書館展示Blog
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/exhibition/blog/ [31], (参照 2011-11-15).
“筑波大学附属図書館特別展WG(@tulips_tenji)”. Twitter.
http://twitter.com/tulips_tenji [32], (参照 2011-11-15).
(13) “国立国会図書館開館60周年記念貴重書展: 学ぶ・集う・楽しむ”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/exhibit60/index.html [33], (参照 2011-11-15).
(14) “史料にみる日本の近代: 開国から戦後政治までの軌跡”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/modern/index.html [34], (参照 2011-11-15).
古野朋子. 図書館展示の課題:国立国会図書館の企画展示アンケートの結果から. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1758, p. 6-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1758 [35]
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台湾では電子書籍を販売するプラットフォームがすでに10以上存在しているものの、保有するコンテンツ数が4桁にとどまるものが多く、米国のAmazonや中国の方正のような巨大なプラットフォームはまだ存在していない。しかし、2009年に政府が電子出版市場の拡大を推進する計画(1)を策定して以降、官と民から約200の機関と企業が加盟する「電子閱讀產業推動聯盟」という電子出版産業を推進する団体が結成されるなど電子書籍をめぐる動きが急になっており、電子書籍市場の拡大政策と電子出版関連技術の標準化の検討が台湾総出で進められている。
国家図書館は図書館法(2)が定める法定納本機関として台湾の出版物を網羅的に収集し、恒久的に保存する役割を担っている。その収集対象には電子媒体の出版物やインターネット資料も含まれている。国家図書館は、さらに台湾におけるISBN/ISSNセンターとして台湾の出版物に付与する標準番号の管理も行っている。台湾の法定納本機関及びISBN/ISSNセンターとしてこの電子書籍に係る動きに対応すべく、国家図書館は、電子出版物の網羅的収集と恒久的な保存、電子出版物へのISBN付与、そして、利用者サービスの3つの機能を持つ電子出版物プラットフォーム「數位出版品平台系統」(E-Publication Platform System:以下、EPS)(3)を構築し、2011年8月23日に正式にサービスを開始した。
本稿では国家図書館のEPSによる電子書籍の納本の受付から、納本された電子書籍が利用者に提供されるまでの流れを紹介したい。
まずはEPSを通じた出版者による電子書籍の納本から国家図書館のメタデータの作成までの工程を述べる。ISBN付与の申請と納本が同時に行われるため、紙の書籍と異なり、納本は出版される前に行われる。おおまかなフローは以下の通りである(4)。
(1)出版者はEPSにログインし、基本的なメタデータ、本文コンテンツなどをアップロードする。
(2)EPSによってISBNセンターと連携してアップロードされた電子書籍にISBNが付与される。
(3)国家図書館は完全なメタデータを作成する。
(4)電子書籍の奥付のサンプルがEPSによって自動生成される。
(5)電子書籍の適切な位置に(4)で生成した奥付を埋め込むようEPSによって出版者に通知される。
(6)国家図書館は各データベースを通じて電子書籍の出版情報を台湾内外に提供する。
出版者は納本及びISBN付与の申請時にEPSを通じて国家図書館に以下のものを提供する。
(a)電子書籍の完全なファイル
(b)基本的な項目を持つメタデータ
(c)標題紙(書名が掲載されている頁)
(d)目次・序文・前言
(e)プレビュー用に使用する本文の一部
(f)内容紹介・作者紹介
(g)閲覧サービスの許諾申請
この段階で出版者が(a)の「電子書籍の完全なファイル」をEPSにアップロードすることで「納本」となる。納本される電子書籍のファイル形式はPDF形式もしくはEPUB形式を原則とし、デジタル著作権管理(DRM)が解除されたものでなくてはならない。納本は出版者自身によるEPSへのアップロードが基本であるが、電子書籍のファイルサイズ、出版者のネット環境などの問題でEPSへのアップロードができない場合は、光メディアなどの媒体による郵送や直接の持ち込みでの納本も受け付けている。
「2.2. 納本」の段階で、出版者は国家図書館に対し、納本した電子書籍の閲覧・貸出サービスの許諾範囲を指定する(2.2の「(g)閲覧サービスの許諾申請」)。この方法により国家図書館が利用者に対して閲覧サービスを提供するために必要な権利処理に係るコストを省いている。
出版者が納本する電子書籍の個々のタイトルに対して国家図書館に課すことができる制限は以下の通りである。
(1)利用期間
閲覧サービスを提供できる期間。無期限にすることも期限を設けることも可能である。
(2)提供範囲
閲覧サービスを認めるネットワークの範囲。閲覧を国家図書館内に制限する、またはインターネットに開放して館外での閲覧・貸出を認めることが可能である。
(3)同時閲覧人数
同時に閲覧を認める利用者数。この数字には館外への貸出冊数も含まれている。
(4)閲覧範囲
閲覧を認める電子書籍の本文の範囲。全文の閲覧を認める、または本文の一部分のみの閲覧に限定することが可能である。
(5)プリントアウトの範囲
電子書籍の本文のプリントアウトを認める範囲。全てのページについて不可とする、ページ数に上限を設けた上で限定的に認める、または全ページを認めることが可能である。
国家図書館は出版者から得られた許諾の範囲で利用者に電子書籍の閲覧サービスを提供することになる。
納本された出版物がデジタル形式の単行図書及びそれに類する出版物であり、かつ限定された特定の読者を対象に作成されたものでなければ、ISBN付与の対象となる。ISBNセンターと連携してISBNが付与される。
納本時に出版者から基本的な項目を持つメタデータが提供される。国家図書館の職員はそれに件名や分類などを補完して電子書籍のメタデータを完成させる。
紙の書籍の場合、国家図書館は出版される前にCIP(Cataloguing in Publication)用にメタデータを一度作成しているが、全国書誌に掲載するためのメタデータは、その書籍が正式に出版され国家図書館に納本された後に作成される。そのため、出版からメタデータの全国書誌への掲載までにタイムラグが生じることが避けられない。電子書籍の場合、ISBN付与の申請と納本の手続きが統合され、出版前に処理が行われる仕組みになっている。メタデータも出版前に作成されることになっており、出版とメタデータの公開のタイムラグは原則としてほとんど発生しない。国家図書館が作成したメタデータは以下のデータベースを通じて公開され、その出版情報が台湾の内外に発信されることになっているが、電子書籍では出版情報の発信が出版とほぼ同じタイミングで行われることになる。
また、メタデータの作成が出版前に完了するため、国家図書館のメタデータが出版される電子書籍の奥付にあたる部分に埋め込こまれることになっている。
国家図書館はEPSを通じて、納本された電子書籍の閲覧・貸出サービスを利用者に対して無料で提供している。上述した通り、出版者は国家図書館に対して閲覧サービスをどの範囲まで提供することを認めるか、その許諾範囲を個々のタイトルごとに納本時に指定することになっている。EPSは出版者から許諾の得られた範囲で閲覧・貸出サービスを提供する。
利用者にサービスが提供される範囲は許諾の条件によって主に以下の2つに分けられる。
・国家図書館内に閲覧が制限された電子書籍
このカテゴリに当てはまる電子書籍は、さらに国家図書館が指定するスタンドアロン端末のみでの閲覧に限定される電子書籍と、国家図書館のネットワーク内であれば利用者が持ち込んだノートPCやタブレットPCなどからも閲覧が認められる電子書籍の2つに分けられる。同時に閲覧できる人数は1タイトルにつき1人に限られ、閲覧方法は後述する「オンライン閲覧」に限定される。
・館外貸出を認められた電子書籍
「館外貸出」とは電子書籍を館外で閲覧することを国家図書館が許可することを指す。館外貸出を認められた電子書籍は、国家図書館に足を運ぶ必要はなくインターネット経由でEPSにアクセスして閲覧することができる。閲覧方法は後述する「オンライン閲覧」と「オフライン閲覧」を利用する。貸出期限は10日間(他の利用者の閲覧予約がなければ1度だけ貸出の延長も可能)で同時貸出可能冊数は3冊になっている。「返却」の手続きはオンライン上で可能であるが、手続きをせずとも貸出期限が経過すると自動的に返却されるようになっている(11)。なお、館外貸出が可能なタイトルは日本からでもEPSを通じて借りることができる(12)。
その他、2.3.で述べたような同時閲覧人数、本文の閲覧可能範囲、プリントアウトなどに関する条件が閲覧・貸出サービスに反映されている。
利用者が電子書籍を読む手段はネットワークに接続した環境下で読む「オンライン閲覧」とPCやiPadなどの端末に電子書籍をダウンロードして読む「オフライン閲覧」が用意されている。
「オンライン閲覧」ではブラウザベースのリーダーを使用する。ネットワークに接続した環境下であれば読むことができ、特に専用のアプリーションをインストールする必要はない。閲覧が国家図書館の館内に制限されている電子書籍はこの方法で閲覧する。
図1 オンライン閲覧画面
「オフライン閲覧」では、国家図書館が提供するNCL Reader(13)という専用のアプリケーションを使用する。PCやタブレットPCなどに電子書籍を一度ダウンロードすれば、ネットワークに接続していない環境下でもNCL Readerを利用して読むことができる。2010年10月現在、Windows PC用とiPad用のNCL Readerが提供されているが、今後、iPhone用、Android用のNCL Readerも提供される予定である(14)。なお、前述の通り「オフライン閲覧」が利用できるのは「館外貸出」可能なタイトルに限られている。
図2 オフライン閲覧画面(NCL Reader for iPad)(15)
EPSには大量の「デジタル化書籍」と呼べるものが含まれている。国家図書館が所蔵する図書や古典籍資料など紙の資料から作成したデジタルアーカイブを1冊単位でPDF形式の電子書籍にしたものである。
図3 EPSに収録された国家図書館の漢籍のデジタルアーカイブ(画面は(明)湯顯祖撰『牡丹亭還魂記』(16))
筆者が確認できる範囲で4,043件ものデジタル化書籍が収録されている(17)。EPSには現在1万余件のコンテンツが収録されている(18)ので、全体の約4割をデジタル化書籍が占めていることになる。EPSには図3のような漢籍のデジタル化書籍だけではなく、1950年代の図書など比較的新しい年代の出版物のデジタル化書籍も収録されている。以前であれば館外からは目録データベースでその存在を確認することしかできず、国家図書館に来館しなければ閲覧できなかったデジタルアーカイブのコンテンツがデジタル化書籍という形でEPSを通じて提供されている。日本から利用できるタイトルも少なくない。国家図書館は今後もデジタル化書籍をEPSに追加していく方針を示しており(19)、デジタル化書籍という形で利用できるデジタルアーカイブのコンテンツが増加することが期待される(20)。
以上がEPSを通じて電子書籍を収集(納本受付)し利用者にサービスとして提供するまでの流れである。EPSが稼働してまだ日が浅いため、上で紹介した通りに運用が実際に行えるのか未知数であるが、様々な手続きを統合して出版者側と国家図書館の事務コストを削減し、利用者にコンテンツを提供するフローは参考に資するところがあるだろう。
この工程の前提として、電子書籍の納本に対する理解と電子書籍に対してISBNを付与するという考えが出版界に浸透しなければならない。それには台湾の電子出版市場の今後の発展動向や政府が進める電子書籍の流通の標準化政策など様々な要素が絡んでくると思われる。今後の動向を注視したい。
関西館電子図書館課:安藤一博(あんどう かずひろ)
(1) 2009年8月に行政院を通過した「數位出版產業發展策略及行動計畫」(電子出版産業発展策略及び行動計画)を指す。
(2) “圖書館法”. 國家圖書館・臺灣廣域數位圖書館.
http://www.ncl.edu.tw/ct.asp?xItem=7611&CtNode=1340&mp=2 [41], (参照 2011-11-01).
(3) 國家圖書館數位出版品平台系統.
http://ebook.ncl.edu.tw/ [42], (参照 2011-11-01).
(4) “國家圖書館電子書送存暨國際標準書號(ISBN)編訂作業程序(草案)”. 國家圖書館數位出版品平台系統.
http://ebook.ncl.edu.tw/ebookDepositNcl/modules/depositIsbnIntro.jsp [43], (参照 2011-11-01).
なお、以後、特に本文で言及のない場合はこのページを参照することとする。
(5) この項は註(4)とあわせて以下の資料も参照した。
李宜容. “電子書的資源組織與書目分享”. 國立政治大學圖書資訊與檔案學研究所. 2010-10-15.
http://www.lias.nccu.edu.tw/video/wp-content/uploads/2010/11/1-3.pdf [44], (参照 2011-11-01).
“附錄三國家圖書館遠端存取電子資源編目原則”. 國家圖書館全媒體編目規範電子資源編目. 國家圖書館. 2011-01-11.
http://catweb.ncl.edu.tw/flysheet_admin/new_file_download.php?Pact=FileDownLoad&Pval=546 [45], (参照 2011-11-01).
(6) 國家圖書館館藏目錄查詢系統.
http://aleweb.ncl.edu.tw [46], (参照 2011-11-01).
(7) 全國圖書書目資訊網. http://nbinet2.ncl.edu.tw/ [47], (参照 2011-11-01).
(8) 全國新書資訊網.
http://isbn.ncl.edu.tw/NCL_ISBNNet/ [48], (参照 2011-11-01).
(9)WorldCat.org. http://www.worldcat.org/ [49], (accessed 2011-11-01).
(10) この章は以下の資料を主に参照した。
“電子書借閱規定”. 國家圖書館數位出版品平台系統. 2011-04-21.
http://ebook.ncl.edu.tw/webpac/ebookTutorial.jsp?tutId=3 [50], (参照 2011-11-01).
(11) パブリックドメインの電子書籍(「公版書」)には貸出期間が設定されていないため、無期限に借りることができる。
(12) EPSを利用するためには国家図書館の「單一登入入口網站會員」(シングルサインオンアカウント)を取得する必要がある。日本からでも国家図書館のウェブサイト(以下のURL)から取得することが可能である。
“國家圖書館「單一登入入口網站」會員服務規範”. 國家圖書館・臺灣廣域數位圖書館.
http://www.ncl.edu.tw/sp.asp?xdurl=member/userRegisterLaw.asp [51], (参照 2011-11-01).
(13) “新手上路”. 國家圖書館數位出版品平台系統.
http://ebook.ncl.edu.tw/webpac/ebookTutorial.jsp?tutId=5 [52], (参照 2011-11-01).
(14) “國圖電子書親子用iPad在家看”. 聯合新聞網. 2011-08-24.
http://mag.udn.com/mag/campus/storypage.jsp?f_MAIN_ID=87&f_SUB_ID=327&f_ART_ID=338377 [53], (参照 2011-11-01).
(15) “NCL Reader for iPad on the iTunes App Store”. Apple. 2011-08-19.
http://itunes.apple.com/us/app/nclreader/id422802099?mt=8&ls=1 [54], (accessed 2011-11-08).
(16) 『牡丹亭還魂記』のEPSの書誌は以下で見ることができる。
牡丹亭還魂記. 國家圖書館數位出版品平台系統. http://ebook.ncl.edu.tw/webpac/bookDetail.jsp?id=1300 [55], (参照 2011-11-01).
なお、国家図書館の古典籍のデジタルアーカイブデータベースである古籍影像檢索系統での牡丹亭還魂記の書誌は以下で見ることができる。
詳目式查詢結果. 古籍影像檢索系統.
http://rarebook.ncl.edu.tw/rbook/hypage.cgi?HYPAGE=search/search_res.hpg&sysid=15096&v= [56], (参照 2011-11-01).
(17) 2011年11月1日現在。詳細検索で検索項目「出版社」、キーワード「國家圖書館轉製」で確認した件数。
查詢結果. 國家圖書館數位出版品平台系統.
http://ebook.ncl.edu.tw/webpac/bookSearchList.jsp?search_field=PU&search_input=%E5%9C%8B%E5%AE%B6%E5%9C%96%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E8%BD%89%E8%A3%BD+&showtuple=10&sort_field=OPN&order=0&searchtype=0&phonetic=0&startYear=&endYear=〈=&collection= [57], (参照 2011-11-01).
(18) “國圖電子書親子用iPad在家看”. 聯合新聞網. 2011-08-24.
http://mag.udn.com/mag/campus/storypage.jsp?f_MAIN_ID=87&f_SUB_ID=327&f_ART_ID=338377 [53], (参照 2011-11-01).
(19) 鄭秀梅. “以讀者需求規劃之電子書閱覽服務”. 國立政治大學圖書資訊與檔案學研究所. 2010-11-05.
http://www.lias.nccu.edu.tw/video/wp-content/uploads/2010/11/1-4.pdf [58], (参照 2011-11-01).
(20) 台湾では「數位典藏與數位學習國家型科技計畫 」(Taiwan e-Learning and Digital Archives Program;TELDAP)というデジタルアーカイブプロジェクトが全台湾的といってよい規模で進められている。前身のプロジェクトである「數位典藏國家計畫」(National Digital Archives Program)(2002-2008年)を含めると開始から10年が経過しており、すでに台湾の各機関では大量のデジタルアーカイブが作成されている。そのTELDAPでは少しずつではあるが、プロジェクトの成果であるデジタルアーカイブのコンテンツを電子書籍(EPUB形式)として公開する試みを開始した。デジタルアーカイブのコンテンツを電子書籍化して提供する試みが国家図書館とTELDAPで並行して進められているが、今後、この2つの動きがどのように進展していくのか注目される。
數位典藏與數位學習國家型科技計畫. http://teldap.tw/ [59], (参照 2011-11-01).
數位典藏國家計畫. http://www.ndap.org.tw/ [60], (参照 2011-11-01).
網上書上網─數位典藏與學習電子書庫. http://ebook.teldap.tw/ [61], (参照 2011-11-01).
安藤一博. 台湾国家図書館の電子出版物プラットフォームによる電子書籍の収集と提供サービス. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1759, p. 10-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1759 [62]
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米国の大学図書館等が共同で運営しているデジタル化資料のリポジトリHathiTrust(1)は、ミッションとして「人類の知識の記録の収集・組織化・保存・伝達・共有により、公益に貢献すること」(2)を掲げ、2008年に運営が開始された。その活動は、単なる保存だけでなく、他システムとの連携、印刷資料の管理支援、著作権調査等、多岐にわたっている。本稿では、その概要や最近の動向を紹介する。
HathiTrustは、ミシガン大学とインディアナ大学を含む米国中西部の大学コンソーシアムの13大学、カリフォルニア大学、バージニア大学により2008年10月から運用が開始された。その後、参加機関数は着実に増加し、2011年10月現在で58機関となっている(3)。ハーバード大学やイェール大学等の米国の主要な大学の図書館に加え、ニューヨーク公共図書館、米国議会図書館(LC)、スペインのマドリード・コンプルテンセ大学も参加している。
後述のように、コンテンツの大半はGoogleブックスプロジェクトでデジタル化されたHathiTrust参加館の蔵書であるが、カリフォルニア電子図書館のクリステンソン(Heather Christenson)氏は、Googleのプロジェクトとの違いとして、長期保存への取り組みを正式に表明していることや、図書館が保持してきた価値(保存、品質、プライバシー、アクセス等)を奉じていることを挙げている(4)。また、電子資料の保存プロジェクトであるPorticoやCLOCKSSとの違いとして、対象が出版社のデータによる電子資料ではなくデジタル化した資料であること、雑誌の廃刊等のトリガーイベント発生時のみ利用可能となるダークアーカイブではなく(著作権法の範囲内で)資料を公開しているライトアーカイブであること、出版社と提携しているのではなく図書館のみによる取り組みであることを挙げている。同氏は、HathiTrustは「図書館による図書館のための電子図書館」(5)であるとしている。
ガバナンスは、意思決定機関である執行委員会(Executive Committee)と方針・計画等を検討する戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Board)から成っており、その下に、課題に応じた委員会やワーキンググループ等が設立されている。運営費(6)は参加館の拠出によっており、各館の拠出額の算出方法は主として預けている資料の量に基づいているが、2013年からは、その図書館が所蔵する印刷資料とHathiTrust内の資料との重複等を勘案した新しい算出方法が導入される予定である(7)。
2011年10月現在の登録資料数は約970万点で、図書資料が約520万タイトル、雑誌資料が約26万タイトルとなっている(8)。登録機関別のコンテンツ数は表のようになっており、Googleブックスプロジェクトの提携機関によるコンテンツが大半となっている。Googleによるデジタル化ファイルをHathiTrustで使用できるのは、各機関とGoogleの契約内容に、作成したファイルのコピーをその機関に渡すことや、図書館による共同リポジトリへの登録を可能にすることが含まれているためである(9) (10)。その他に、Internet Archiveによりデジタル化された資料や、参加館が独自にデジタル化した資料も受け入れられている。
表 機関別の登録コンテンツ数(2011年10月1日現在)
機関名 | コンテンツ数 |
ミシガン大学※ | 4,446,510 |
カリフォルニア大学※ | 3,144,989 |
ウィスコンシン大学※ | 505,242 |
コーネル大学 | 368,256 |
ニューヨーク公共図書館※ | 259,165 |
プリンストン大学※ | 248,916 |
インディアナ大学※ | 186,195 |
マドリード・コンプルテンセ大学※ | 108,344 |
ミネソタ大学※ | 88,595 |
米国議会図書館 | 73,642 |
その他13大学 | 272,436 |
計 | 9,702,290 |
※はGoogleブックスプロジェクトとの提携機関
出典:Update on October 2011 Activities(11)の表を基に作成。
コンテンツの言語別の構成では、英語が48%と約半数を占めるが、ドイツ語9%、フランス語7%、スペイン語5%、中国語4%、ロシア語4%、日本語3%等、英語以外の資料も多く含まれている(12)。年代別では、1960年代から1990年代のものが約50%を占め、2000年代のものも約10%含まれている(13)。
コンテンツの受入・保存・利用等のプロセス(14)は、OAIS参照モデル(CA1489 [68]参照)に準拠しており、2011年3月には、研究図書館センター(CRL)から、信頼できるリポジトリとしての認証(TRAC)を受けている(15)。コンテンツはミシガン大学のサーバで受け入れられた後にインディアナ大学のサーバにコピーされ、さらに磁気テープでのバックアップも行われている。
データの投入は、書誌データとコンテンツに分けて実施される。各コンテンツは、画像、OCRのデータ、メタデータを基本のパッケージとして保存される。主な画像フォーマットとしてJPEG、JPEG2000、TIFFが使用され、メタデータはMETSやPREMISデータ辞書(CA1690 [69]参照)に準拠したものとなっている(16)。そのパッケージとは別に、書誌データと権利情報のデータがそれぞれデータベースで管理される。権利情報については、出版年等による自動判定を基本として、資料ごとの利用の可否や条件等が設定される(17)。
Googleブックスについてはメタデータの不備が指摘されたが(18)、HathiTrustは図書館が作成したメタデータを基にしている。また、画像についても、品質の確認作業や、博物館・図書館サービス機構(IMLS)の資金による品質向上のためのプロジェクトが実施されている(19) (20)。
利用者からのアクセスがあった際には、PageTurnerというアプリケーションにより、画像データとOCRのテキストデータが引き出され、画像は提供用フォーマット(PNGまたはPDF)に変換して表示される。同時に、書誌データや権利情報のデータも抽出され、それに基づき書誌情報の表示や利用の可否の判断が行われる。
受け入れたOCRのテキストデータを用いて全文検索用のインデックスが作成され、著作権保護期間内の資料も含めて、全文検索が可能となっている。全文が公開されている資料の場合は、検索結果として該当ページ番号と検索語を含む数行(スニペット)が表示されるが、著作権保護期間内で非公開の資料の場合は、該当するページ番号のみが表示される。
その他の機能として、利用者がHathiTrust内の資料を選択して独自のコレクションを作成できるCollection Builderという機能がある。また、参加館に所属する視覚障害者等は、著作権保護期間内の資料も利用可能となる予定であるが、そうした、対象者の確認が必要なサービスの提供に際しては、Shibboleth認証システム(CA1736 [70]参照)が使用されている(21)。
HathiTrustは保存だけでなくアクセスも重視していることから、コンテンツの発見可能性を高めるための取り組みに力を入れている(22)。メタデータは、書誌API、データAPI、OAI-PMH、タブ区切りファイルの形式で提供されており(23)、他機関のシステム等でHathiTrustのコンテンツが検索・利用されている(24)。2011年1月には、OCLCのWorldCat Localを用いた検索システムのプロトタイプが公開され、HathiTrust内の資料についてWorldCatの詳細な書誌情報を利用することができるようになった(25)。また、Serials Solutions社、OCLC、EBSCO社のそれぞれのディスカバリシステムからもHathiTrust内の資料の全文検索が可能になる予定である(26)。
また、2011年4月には、インディアナ大学とイリノイ大学により「HathiTrustリサーチセンター」が設立された(27)。リサーチセンターでは、両大学のコンピュータ設備等を用いて、HathiTrustのコンテンツを対象にテキストマイニング等の「非消費的研究」(28)が行われる。パブリックドメインの資料を対象にした、研究者による利用が想定されている。
HathiTrustの目標の一つに、資料の共同管理を支援することで印刷資料の管理にかかるコストを削減することがある(29)。つまり、デジタル化資料を活用することで、利用頻度の低い印刷資料を共同保存に移すことができるのではないかということである。
2011年1月に刊行されたOCLCのレポートは、HathiTrust、既存の印刷資料リポジトリ、大学図書館の所蔵状況を比較・分析することで、その可能性を探ったものである(30)(E1137 [71]参照)。レポートでは、北米研究図書館協会(ARL)加盟各館とHathiTrustでの図書資料の重複状況を比較し、館ごとの重複率の中央値は2009年6月時点の20%から2010年6月時点では30%に上昇しており、今後さらに上昇する見込みとしている(31)。しかし、現状でのHathiTrustによる印刷資料の代替については、多くの館で所蔵している古いレファレンスブックや政府資料等はデジタル化資料で代替できるとしながらも、HathiTrustで全文が閲覧できるパブリックドメインの資料は古い年代のものが大半であり、それらのみでは大学図書館のコレクションを反映したものとはならないとしている。レポートでは、既存の印刷資料リポジトリの現状等から、図書資料の大規模な共同管理がすぐ実現するわけではないが、それが実現した場合は書庫スペースや費用に関して大きなメリットがあるとし、その実現に向けたHathiTrustの貢献を指摘している。
HathiTrustでは、参加館での印刷資料の所蔵状況のデータベースを構築する作業が行われている(32)。その背景として、(1)新たな拠出額計算において各館の所蔵する印刷資料とHathiTrust内の資料との重複が勘案されること、(2)今後実施が予定されている孤児著作物プロジェクト(後述)や視覚障害者等によるデジタル化資料の利用がその館での印刷資料の所蔵を前提としていることとともに、(3)参加館全体での蔵書構築や資料管理を促進することが示されている。さらに、HathiTrust自身が分散型の印刷資料の共同リポジトリを運営するという案が、2011年10月のHathiTrustの総会(後述)で承認された(33)。HathiTrustの参加館(またはその提携機関)による複数の保管施設が協定を結び、HathiTrust内のデジタル資料と対応する印刷資料を保存しようとするもので、今後、方針や運営計画等が検討される。
ミシガン大学は、IMLSの資金援助により、2008年12月から、HathiTrust内の資料の著作権の状態を調査する著作権レビュー管理システム(Copyright Review Management System:CRMS)という取り組みを開始し、1923-1963年刊行の資料について調査を行っている(34)。2011年11月1日時点で約17万点が調査され、そのうち約8万7千点がパブリックドメインであると判明し、それらの資料の全文もHathiTrustで公開されている(35)。全体では、パブリックドメインのものは約27%(約260万点)とされている(36)。
著作権に関しては、著作権保護期間内でありながら著作権者が特定できず利用等の許諾を取ることができない「孤児著作物」(orphan works)の扱いが問題となっている。HathiTrustのエグゼクティブディレクターであるミシガン大学図書館のウィルキン(John Wilkin)氏は、上記のCRMSの結果を踏まえ、HathiTrustの資料全体での孤児著作物の割合の推計を行っている(37)。この推計は、おおまかな仮定に基づく部分がある点等に注意が必要であるが、推計結果として、パブリックドメインのものが28%、著作権保護期間内で著作権者を特定できるものが22%、そして残りの50%が孤児著作物(資料数では250万点、そのうち80万点が米国のもの)という数字を示している。また、出版年代が新しいほど孤児著作物の割合は少なくなるが、出版点数が増加しているため孤児著作物の数は多くなるという点も指摘している。
孤児著作物プロジェクトは、ミシガン大学が2011年5月に開始した取り組みで、その後、カリフォルニア大学やコーネル大学等も参加を表明している(38) (39)。CRMSにより著作権保護期間内とされた資料を対象に著作権者の調査を行い、著作権者が特定できなかったものを「孤児著作物候補」としてリストを公開し、リスト公開後一定期間内に著作権者が判明しなかった場合は孤児著作物とみなしてHathiTrust内のデジタル化資料の利用を開始するというプロジェクトである。利用は該当資料の印刷資料を所蔵している(または所蔵していた)大学の関係者に限られ、同時にアクセスできるのはその大学での印刷資料の所蔵数と同じ人数となる(40)。ミシガン大学のクーラント(Paul Courant)図書館長は、この取り組みは米国著作権法のフェアユース規定に該当するもので、対象となる作品の多くは学術資料であり、利用を開始したとしても経済的な損失を与えないだけでなく、むしろ利用をしないことが学術的に損失であると主張している(41)。2011年10月以降に第一弾として百数十点の資料の利用が開始される見込みであったが、2011年9月に米国の著作者団体から著作権調査の不備を指摘されたことを受けて利用開始は延期され、調査プロセスの再検討等が行われている(42)。
2011年9月12日、米国の著作者団体Authors Guild、オーストラリアとカナダの著作者団体、及び8名の作家が、HathiTrust及びミシガン大学等5大学に対して著作権侵害で訴訟を起こした(43) (44)。原告は、HathiTrustがGoogleとの提携で著作権保護期間内の資料を著作権者の許諾を得ずにデジタル化していること等を問題視し、著作権法で認められる場合以外の許諾のない複製・配布・表示の中止、孤児著作物プロジェクトの中止、著作権保護期間内の作品のデジタルファイルの没収等を求めている(E1217 [72]参照)。この訴訟が、孤児著作物の扱いに関して、米国でこれまでにも動きがありながら実現していない法制化も含め、どのような影響を与えるかも注目されている(45)。
HathiTrustの運用開始からちょうど3年となる2011年10月に、初めての総会(Constitutional Convention)が開催された。
総会に先立ち作成された3年間の活動レビューでは、参加館からの意見として、「Google独占」に代わる選択肢であることや研究図書館コミュニティによる取り組みであることを評価する意見とともに、今後の方針等について情報提供の必要性や、特定の機関や人への依存が大きいことによる持続可能性への懸念等が示されていた(46)。総会での議案討論においては、協同体制を維持しながらも、ガバナンスやプロジェクト管理等の強化に向けた変更が決定された(47)。
総会でのプレゼンテーションにおいて、ウィルキン氏は、これまでの主な成果として、TRACの認証、全文検索の実現、リサーチセンターの設立の3点を挙げるとともに、今後の取り組みとして、ボーンデジタル資料の収録、HathiTrustのシステムからのオープンアクセスの出版物の刊行、著作権保護期間内の資料の法律の範囲内での利用拡大等を挙げた(48)。
ウィルキン氏は、図書館がそれぞれの能力を発揮しながら共通の課題に取り組んでいるHathiTrustは協同の素晴らしい例だとして、プレゼンテーションを締めくくった。協同の価値を重視しながら進化するHathiTrustの動向が引き続き注目される。
関西館図書館協力課:田中 敏(たなか さとし)
(1) “Hathi”はヒンディー語で象を意味し、記憶、知恵、力、信頼等を象徴するものとして、HathiTrustのシンボルマークにも象が使われている。発音は“hah-tee”と表記されている。
“Help – General”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/help_general [73], (accessed 2011-10-12).
(2) “Mission and Goals”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/mission_goals [74], (accessed 2011-10-12).
(3) カリフォルニア大学等はキャンパスごとに1機関としてカウントしている。
“Partnership Community”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/community [75], (accessed 2011-10-12).
(4) Christenson, Heather. HathiTrust: A Research Library at Web Scale. Library Resources & Technical Services. 2011, 55(2), p. 95-97.
http://www.hathitrust.org/documents/christenson-lrts-201104.pdf [76], (accessed 2011-10-12).
HathiTrustのウェブサイトでは、Googleの取り組みを補完するものとしている。
Help - Partnership. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/help_partnership [77], (accessed 2011-10-12).
(5) Booth, Char. “Unlocking HathiTrust: Inside the Librarians' Digital Library”. Library Journal. 2011-06-09.
http://www.libraryjournal.com/lj/communityacademiclibraries/890917-419/unlocking_hathitrust_inside_the_librarians.html.csp [78], (accessed 2011-10-12).
(6) 2012年の予定運営費は約190万ドルとされている。
“Notes of the HathiTrust Constitutional Convention October 8-9,2011”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/documents/HathiTrust-ConCon-Notes.pdf [79], (accessed 2011-11-14).
(7) “Help - New Cost Model”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/help_new_cost_model [80], (accessed 2011-10-12).
(8) HathiTrust. http://www.hathitrust.org/ [81], (accessed 2011-11-14).
(9) York, Jeremy. “This Library Never Forgets: Preservation, Cooperation, and the Making of HathiTrust Digital Library”. IS&T Archiving Conference 2009 Proceedings. Arlington, USA, 2009-05-07/08, Society for Imaging Sciences and Technology, 2009, p. 5-10.
http://www.hathitrust.org/documents/This-Library-Never-Forgets.pdf [82], (accessed 2011-10-12).
(10) Google Inc. “Cooperative Agreement”. University of Michigan.
http://www.lib.umich.edu/mdp/um-google-cooperative-agreement.pdf [83], (accessed 2011-10-12).
(11) “Update on October 2011 Activities”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/updates_october2011 [84], (accessed 2011-11-14).
(12) “HathiTrust Languages”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/visualizations_languages [85], (accessed 2011-10-12).
(13) “HathiTrust Dates”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/visualizations_dates [86], (accessed 2011-10-12).
(14) この節の記述は、主に次の資料による。
York, Jeremy. “Building our future by preserving our past; the HathiTrust Digital Library”. IFLA Gotenburg 2010 Proceedings. Gothenburg, Sweden, 2010-08-10/15. IFLA, 2010, p. 1-11.
http://www.ifla.org/files/hq/papers/ifla76/157-york-en.pdf [87], (accessed 2011-10-12).
York, Jeremy. “From Ingest To Access: A Day In The Life Of A HathiTrust Digital Object”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/documents/HathiTrust-PASIG-200910.pdf [88], (accessed 2011-10-12).
(15) “HathiTrust Audit Report 2011”. Center for Research Libraries. 2011-03-30.
http://www.crl.edu/archiving-preservation/digital-archives/certification-and-assessment-digital-repositories/hathi [89], (accessed 2011-10-12).
(16) “Digital Object Specifications (METS and PREMIS)”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/digital_object_specifications [90], (accessed 2011-11-07).
(17) 著作権確認作業によりパブリックドメインであることが判明したものや権利者の許諾が得られたもの等は、利用条件等が再設定される。
(18) 例えば、次のもの等がある。
Nunberg, Geoffrey. “Google's Book Search: A Disaster for Scholars”. Chronicle of Higher Education. 2009-08-31.
http://chronicle.com/article/Googles-Book-Search-A/48245/ [91], (accessed 2011-10-12).
(19) “Quality”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/quality [92], (accessed 2011-10-12).
(20) ミシガン大学等が、サンプル資料1,000点について、それぞれ100ページずつのチェックを行うとともに、原資料の確認も行い、課題の把握等を行うプロジェクトを実施している。
“Validating Quality in Large-Scale Digitization”. University of Michigan.
http://hathitrust-quality.projects.si.umich.edu/index.htm [93], (accessed 2011-11-14).
(21) “Update on August 2011 Activities”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/updates_august2011 [94], (accessed 2011-10-12).
(22) Wilkin, John. “HathiTrust and Discovery”. HathiTrust. 2011-06-24.
http://www.hathitrust.org/blogs/perspectives-from-hathitrust/hathitrust-and-discovery [95], (accessed 2011-10-12).
(23) “Data Availability and APIs”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/data [96], (accessed 2011-10-12).
(24) ミシガン大学やシカゴ大学等の大学図書館やオーストラリア国立図書館のシステム等で、HathiTrust内の資料の検索ができる。
“Searching, Reading, and Building Collections”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/access [97], (accessed 2011-10-12).
(25) Rapp, David. “HathiTrust and OCLC Unveil Prototype WorldCat Local Search Interface”. Library Journal. 2011-01-26.
http://www.libraryjournal.com/lj/communityacademiclibraries/888974-419/hathitrust_and_oclc_unveil_prototype.html.csp [98], (accessed 2011-10-12).
(26) Rapp, David. “HathiTrust's Growth Strategy: Full-Text Search Coming to WorldCat and EBSCO Discovery Service”. Library Journal. 2011-09-08.
http://www.libraryjournal.com/lj/home/891965-264/hathitrusts_growth_strategy_full-text_search.html.csp [99], (accessed 2011-10-12).
(27) “HathiTrust Research Center”. HathiTrust Research Center.
http://www.hathitrust-research.org/ [100], (accessed 2011-10-12).
(28) 機械的に処理するだけで人間が文章を読むのではないため、「非消費的」(non-consumptive)と呼ばれる。
Rapp, David. “Text-Mining Ahead: HathiTrust Research Center to Open Corpus to Researchers”. Library Journal. 2011-04-28.
http://www.libraryjournal.com/lj/communityacademiclibraries/890376-419/text-mining_ahead_hathitrust_research_.html.csp [101], (accessed 2011-10-12).
(29) “Mission and Goals”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/mission_goals [74], (accessed 2011-10-12).
(30) Malpas, Constance. “Cloud-sourcing Research Collections: Managing Print in the Mass-digitized Library Environment”. OCLC Research. 2011.
http://www.oclc.org/research/publications/library/2011/2011-01.pdf [102], (accessed 2011-10-12).
(31) HathiTrustによる2011年10月の資料では、2011年6月時点で45%と推測されている。
Wilkin, John, “HathiTrust's Past, Present and Future”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/documents/HathiTrust-ConCon-Wilkin-remarks-201110.pdf [103], (accessed 2011-11-10).
(32) “Update on July 2011 Activities”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/updates_july2011 [104], (accessed 2011-10-12).
(33) “Constitutional Convention Ballot Proposals”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/constitutional_convention2011_ballot_proposals#proposal1 [105], (accessed 2011-10-12).
(34) 米国では1923年より前に刊行されたものはパブリックドメインとなっている。1923-1963年に刊行されたものは、著作権の更新がなされていない場合等はパブリックドメインとなるものがある。
Wilkin, John. “Bibliographic Indeterminacy and the Scale of Problems and Opportunities of "Rights" in Digital Collection Building”. Ruminations. 2011-02.
http://www.clir.org/pubs/ruminations/01wilkin/wilkin.html [106], (accessed 2011-10-12).
(35) “Copyright Review Management System”. University of Michigan.
http://www.lib.umich.edu/imls-national-leadership-grant-crms [107], (accessed 2011-11-14).
(36) HathiTrust. http://www.hathitrust.org/ [81], (accessed 2011-11-14).
(37) Wilkin, John. “Bibliographic Indeterminacy and the Scale of Problems and Opportunities of "Rights" in Digital Collection Building”. Ruminations. 2011-02.
http://www.clir.org/pubs/ruminations/01wilkin/wilkin.html [106], (accessed 2011-10-12).
(38) Rapp, David. “HathiTrust Orphan Works Project Grows as University of California, Others Join Up”. Library Journal. 2011-09-01.
http://www.libraryjournal.com/lj/community/academiclibraries/891836-419/hathitrust_orphan_works_project_grows.html.csp [108], (accessed 2011-10-12).
(39) 2011年5月という時期については、孤児著作物のデジタル資料の利用が可能となる内容を含んでいたGoogleブックス訴訟の修正和解案が2011年3月に裁判所により却下されたこととの関連性に言及している報道もある。
Parry, Marc. “U. of Michigan Copyright Sleuths Start New Project to Investigate Orphan Works”. Chronicle of Higher Education. 2011-05-16.
http://chronicle.com/blogs/wiredcampus/u-of-michigan-copyright-sleuths-start-new-project-to-investigate-orphan-works [109], (accessed 2011-10-12).
(40) “Information about the Authors Guild Lawsuit”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/authors_guild_lawsuit_information [110], (accessed 2011-10-12).
(41) “U-M Library to share HathiTrust orphan works”. University of Michigan. 2011-06-23.
http://www.ur.umich.edu/update/archives/110623/orphanworks [111], (accessed 2011-10-12).
(42) “U-M Library statement on the Orphan Works Project”. Mlibrary. 2011-09-16.
http://www.lib.umich.edu/news/u-m-library-statement-orphan-works-project [112], (accessed 2011-10-12).
(43) Authors Guild. “Authors Guild, Australian Society of Authors, Quebec Writers Union Sue Five U.S. Universities”. 2011-09-12.
http://www.authorsguild.org/advocacy/articles/authors-3.html [113], (accessed 2011-10-12).
(44) 2011年10月6日には、英国、ノルウェー、スウェーデンの著作者団体、カナダの別の著作者団体等も原告に加わった。
Authors Guild. “Authors Groups From U.K., Canada, Norway and Sweden Join Authors Guild, Australian Society of Authors, and Quebec Writers Union in Suit Against HathiTrust”. 2011-10-06.
http://blog.authorsguild.org/2011/10/06/authors-groups-from-u-k-canada-norway-and-sweden-join-authors-guild-australian-society-of-authors-and-quebec-writers-union-in-suit-against-hathitrust/ [114], (accessed 2011-10-12).
(45) 訴訟により議会が孤児著作物の問題に取り組むのがさらに遅れることになるとの見解がある一方、訴訟の狙いが法制化を促すことにあるとの見解もある。また、欧州のARROWプロジェクトのように、図書館、出版社、権利団体等が共同で解決に取り組むのが望ましいとする見解もある。
Grimmelmann, James. “The Orphan Wars”. Laboratorium. 2011-09-12.
http://laboratorium.net/archive/2011/09/12/the_orphan_wars [115], (accessed 2011-10-12).
Smith, Kevin. “Is it all about the Orphans?”. Scholarly Communications @ Duke. 2011-09-15.
http://blogs.library.duke.edu/scholcomm/2011/09/15/is-it-all-about-the-orphans/ [116], (accessed 2011-10-12).
Brantley, Peter. “The Orphan Path Not Taken”. PWxyz. 2011-09-20.
http://blogs.publishersweekly.com/blogs/PWxyz/?p=6920 [117], (accessed 2011-10-12).
(46) Ithaka S+R. Briefing Paper on Progress and Opportunities for HathiTrust. 2011-07-15.
http://www.hathitrust.org/documents/hathitrust-review-2011.pdf [118], (accessed 2011-10-12).
(47) “Notes of the HathiTrust Constitutional Convention October 8-9, 2011”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/documents/HathiTrust-ConCon-Notes.pdf [79], (accessed 2011-11-14).
(48) Wilkin, John. “HathiTrust's Past, Present and Future”. HathiTrust.
http://www.hathitrust.org/documents/HathiTrust-ConCon-Wilkin-remarks-201110.pdf [103], (accessed 2011-11-10).
田中敏. デジタル化資料の共同リポジトリHathiTrust―図書館による協同の取り組み. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1760, p. 14-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1760 [119]
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本稿では、21世紀最初の10年間における大学図書館をめぐる学術情報流通政策および施策等に関する政府・文部科学省・国立大学図書館協会・国立情報学研究所(NII)等の政策文書やそれらについての主要な研究等をレビューする。なお、ここではもっぱら大学図書館における学術情報流通を取扱うので、竹内(1)の指摘を踏まえ、「学術情報流通政策」と「学術情報政策」を特に区別することなく使用する。あわせて、「大学図書館政策」についても同様とし、多くの場合単に「政策」と略記する。
この10年間における「政策」関連文献は、1990年代における学術情報流通関係文献を扱った北ら(2)の文献レビュー(260件)や、その作業を引き継ぐ呑海(3)の2001年から2009年までの269件の文献レビュー、更には2007年9月時点で「最新3年程度」の範囲で、学術情報流通と大学図書館の学術情報サービスに関する150件の文献を取り上げた、筑木による研究文献レビュー(CA1693 [128]参照)等に部分的に採録されている。
一方、大学図書館に限定した範囲では、逸村(4)が前川(5)による1990年代のレビューを受けた形で、「大学図書館の課題」をテーマとする114件の文献のレビューを行っており、「政策」関連文献への言及もある。「政策」に焦点をあてたものでは、1980年代から1990年代の「主な学術政策及び高等教育政策とそれに関連する国立大学図書館政策文書を概括」した竹村(6)のレビューがあるが、2001年から2011年までの間は、管見の限りでは「政策」関連文献のみのレビューや文献リストは確認できない。なお、公立図書館政策では、2003年から2007年末までの期間について松本の文献レビューがある(CA1649 [129]参照)。
この期に政府及び文部科学省から出された政策文書のうち、大学図書館の学術情報流通に言及したものは、2002年の科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会デジタル研究情報基盤ワーキング・グループの「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」(7)および2004年11月に科学技術・学術審議会学術分科会学術研究推進部会のもとに設置された学術情報基盤作業部会(以下「学術情報基盤作業部会」という)から出された6つの文書(8) (9) (10) (11) (12) (13)である。それらは、内容的には呑海(14)が総括するように、大学図書館の「学術情報基盤」機能の整備・充実について提言したものである。
文書の出され方からも明らかなように、この10年間の政策立案を牽引したのは、学術情報基盤作業部会であり、その事務を担当した学術情報基盤室(前身を含む)であった。もちろん、審議会委員や作業部会委員として加わった学識経験者、大学図書館関係者の意見やヒアリングに応じた現場からの報告等も反映されているのであり、必ずしも「官」のみで政策立案されたというわけではないだろう。学術情報流通分野に限っては、省庁再編後も従来のボトムアップ型の政策手法に大きな変更はなかったとように思われる。
ただ一点、政策立案および政策文書に深刻な影を落としているのは、予算構造の変質である。国立大学等は2004年4月から独立行政法人に移行し、大学図書館や学術情報関連の予算は「運営費交付金」の内訳(教育研究基盤経費)に入ることになった。従来は、政策が出されるとそれを実施するための予算措置が行われていたものが、法人化後は運営費交付金の中から捻出するか、競争的資金化した教育特別研究経費に応募し「総合科学技術会議」の厳しい査定を受けるという選択肢しかなくなってしまった。つまり、政策への予算的な裏付けが希薄になってしまったと思われるのである。この点は1980年代や1990年代の「政策」背景との大きな相違点と考えられる。
他に、上記の学術情報基盤作業部会の議論の枠組み及び学術情報関連予算に大きな影響力を持った「科学技術基本計画」がある。第2期(2001年)(15)、第3期(2006年)(16)、第4期(2011年)(17)が出され、「期」による強弱の差はあるものの「研究情報基盤の整備」が掲げられ、大学図書館等の学術情報流通の整備・充実への言及がある。
・国立大学図書館協会
紙媒体から電子情報への学術情報流通の大変動期の中で、大学図書館はその主たる担い手として、政策立案に関し活発な動きを見せた。特に、日本版「シリアルズ・クライシス」への対応は迅速だった。動きの中心にあった国立大学図書館協会(旧協議会、以下「国大図協」という)は、2000年以降、文部科学省による電子ジャーナル購入経費の予算化の実現、電子ジャーナル・タスクフォースの設置、電子ジャーナル・コンソーシアムの形成、学術情報の発信とオープンアクセス化への対応として機関リポジトリの構築・普及等、数々の課題に積極的に取り組み、各種の要望書(18) (19)・報告書(20) (21) (22) (23) (24) (25)・声明(26) (27)・提言(28)等を出している。それらは「学術情報システム」の形成に取り組んだ1980年代、1990年代に優るとも劣らない活動・成果と評価できる一方で、2004年の独立行政法人化以降は、国大図協加盟図書館間の連携より競合が強調され、従来の「護送船団方式」は個別図書館の自助努力を削ぐ諸悪の根源として退けられた。そのため国大図協の紐帯は従来にくらべて弱まったと言わざるを得ない。他方、政策文書の現われ方を見る限りでは、国公私立大学図書館協力委員会活動の活発化やNIIとの連携関係の密接化等を読みとることができ、国大図協の活動が加盟館の枠内から外部へと拡がりを見せていることを感じさせる。
・日本学術会議
日本学術会議の政策提言機能は、1970年代の旧学術審議会設置以降、徐々に弱体化していることは否めないものの、英文学術誌による学術情報発信(29)、電子媒体学術情報の蓄積・保存・利用体制(30)、包括的学術誌コンソーシアム創設(31)への要望・提言等をタイムリーに出すことにより、間接的に大学図書館の動きをバックアップしている。
・NII
1986年4月に設立された学術情報センターは、2000年4月にNIIとして再出発することになった。図書館側から見ると、「研究」機能が優先され、従来の書誌ユーティリティとしての役割が相対的に低下するのではないかという危惧があった。実際、大学図書館に関係する部門は組織・定員ともに縮小された。しかし、「研究と事業は車の両輪」という根本理念は堅持され、この期も学術情報流通の促進に大きな貢献を果たしたと言えるだろう。
NIIの書誌ユーティリティの機能については、1990年代の飛躍的な発展を継続することに成功したし、電子ジャーナル問題でも、NII-REOという共同アーカイブの立ち上げ、2011年には世界有数の規模を誇る大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の拠点となることができた。
また、法人化後、「最先端学術情報基盤」(CSI)の構築を目標として掲げ、情報基盤センター(旧七帝大)や大学図書館との連携を図り、新たな学術情報基盤整備のための体制を整えた。特に、2006年から開始された次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業は、日本の機関リポジトリ推進に大きな貢献を果たした。
これらの経緯を示す文書(32) (33) (34) (35) (36) (37)が出されているが、たとえばCSI等の重要な政策内容についての公開ドキュメントが少なく、「政策文書」をもって活動の全容を把握することができないことが残念である。
ここでは、学術情報(流通)政策や大学図書館政策に言及した論文・報告についてレビューする。レビューにあたっては、便宜上、5つの観点に分けることとした。学術情報(流通)政策や大学図書館政策を全般的に取り扱った文献を「包括的研究」とし、ほぼ発表年順に取り上げた。また、1980年の「学術情報システム」構想前後については、一節を立てた。次に、電子ジャーナルの登場の「前」と「後」では、学術情報流通の在り方の変化に連動して「政策」自体にも大きな変化があったと考えられるので、その区切りを2000年とし、「1990年代の政策」と「2000年代の政策」に分けて取扱うこととした。「政策」研究のベースになる研究文献、個別テーマの「政策」についても別節とした。
溝上(38)は、「学術情報の流通を支える法律や政策のあり様を考えるための枠組みを提示したい」として、「学術情報」の定義を試み、わが国の学術情報流通の推進機関として、国立国会図書館(NDL)、大学図書館、NII、科学技術振興事業団(現科学技術振興機構:JST)の4者を取り上げ、学術情報流通に関わる法的根拠等について整理している。
竹内(39)は、「大学図書館をめぐる政策」で、大学図書館行政の始まりとされる1965年度以降、文部省から出された主要な政策文書の分析を通して、図書館政策の流れを跡付けている。
土屋(40)は、2004年度から2006年度にかけて実施した調査研究プロジェクト「電子情報環境下における大学図書館機能の再検討」(REFORM)の報告書を出している。「1)1970年代以降のわが国の大学図書館に関わる政策動向とその達成についてほぼ明らかにしたこと、2)1980年代以降の『学術情報システム』として整備された図書館支援体制についてその成果と現状を明らかにしたこと、3)2000年以降顕著となる学術情報の電子的生産・流通体制への変貌が大学図書館に対して及ぼしつつある影響を明らかにしたこと」と到達点を明らかにしている。
逸村(41)は、上記REFORMの研究成果報告の一つで、「大学図書館政策は、従来、国立大学図書館を主たる対象として文部省から考えられてきた」が、「2004年の国立大学法人化により、学術情報政策は国立大学にとどまらず、公私立大学をも対象として考えられるようになった」としている。
小西は、日本の学術情報流通政策に関する用語の整理を行い、特に1980年答申を採り上げ、その評価を試みている。また、政策の関与者、政策立案者等について考察を加え、政策研究の必要性を訴えている(CA1667 [130]参照)。
竹内(42)は、「大学図書館は学術情報政策にはどのように関わってきたのか」という節において、1973年の「学術情報流通体制の改善について(報告)」(43)以降を、「学術情報システム構想と大学図書館」「電子図書館的機能と学術情報の発信:1990年代の動向」「情報発信の強化へ:2000年代の動向」に分けて、それぞれの「政策文書が示した目標とそのために大学図書館が行った具体的な活動について概観」している。政策評価についても、随処に新しい知見が付加されている。同論文は、1970年代後半から現在までの最も包括的な「大学図書館との関わりにおける学術情報政策史」であり、現時点での「政策」研究の大きな成果であろう。
小西(44) (45)は、日本の人文・社会科学に関わる学術情報流通政策を考察した。過去には日本学術会議や学術審議会から、人文・社会科学の情報流通に特化した政策が出された経緯があるが、80年答申以降は「学術情報流通」として一括してあつかわれている。人文・社会科学分野の学術情報流通の最大の収穫は、WebcatとCiNiiおよび機関リポジトリだとしている。
松村の「大学図書館政策聞き取り調査:2004年10月8日於千葉大学文学部」(46)は、REFORMの調査研究の一環として行われた「大学図書館政策聞き取り調査」の記録であり、そこでは文部省の情報図書館課に設置された併任専門員(その後学術調査官および審議会専門委員を歴任)に1972年4月から就任した松村が、合計20年間にわたる文部省図書館行政の現場で見聞きした体験を語っている。図書館の専門担当課の存在の持つ意味、専門員設置の意義、委員会や審議会等の具体的な参加者、その場の雰囲気等、歴史の現場に居合わせた者だけが知る「時代の空気」を伝えている。
1970年代から大学図書館行政の担当にあって、「学術情報システム」構想の立案者の一人である雨森は、「学術情報システム」だけではなく、大学図書館間の文献複写制度、図書館財源の確保、専門職員の養成等多岐にわたる政策にも関与しており、雨森の文献(47)は自身の関わった「大学図書館政策黄金期」の報告で、「政策」現場の貴重な回顧録となっている。また、雨森(48) (49)には、当時の政策形成過程についての証言もある。
「学術情報システム」構想当時、文部省の情報図書館課長だった遠山(50)も、政策立案の経緯、背景にあった事情を語っている。
石川(51)は、現在のように科学技術・学術審議会が学術情報政策の主体となる以前は、日本学術会議がその役割を担っていたことを、戦後の各種勧告から1970年代の文科系の学術図書館(国文学研究資料館等)設置の勧告等を紹介する中で論じている。
小野(52)は、1990年代の政策文書を中心に、大学図書館の現場側から、国立大学図書館政策を吟味している。
前川(53)は、「大学図書館をめぐる政策」に1章をあて、学術情報システム、大学設置基準大綱化、「大学図書館機能の強化・高度化の推進について(報告)」と「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について(建議)」等の主に1990年代の政策に言及している。
この期の政策の評価について、土屋(54)は、「1990年代における日本の学術情報政策は、『電子化』の方向に引き寄せられていたが、このことが全体としての学術情報政策への目配りをおろそかにさせたのかもしれない」と指摘し、日本版「シリアルズ・クライシス」を招いた原因だとする仮説を立てている。
呑海(55)は、「学術情報基盤の形成」という章を立て、「2000年代は、政策としての学術情報基盤が形成された時期であるといえる」とし、その根拠に、2001年の省庁再編で一旦文部科学省の学術機関課が所管した大学図書館が情報課に移管され、同じ情報課の中で、大学図書館、NII、JSTが所管されることになって、「ひとつの枠組みの中で学術情報基盤を考える素地ができた」ことを挙げている。
先に挙げた土屋(56)は、日本版「シリアルズ・クライシス」に対応するため急遽立ち上げられた国大図協電子ジャーナル・タスクフォースの初期の出版社協議について、「日本の大学における学術情報流通への関与の形態として、いくつかの点で画期的なもの」であると評価し、「このような展開は、文部科学省による一定の理解と施策によって支援された側面がある。(中略)文部科学省等の行政機関およびその独立行政法人等、大学、国立国会図書館等の役割分担を強調した報告『学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)平成14年3月12日』(通称『根岸レポート』)を行った」と記している。土屋によれば「日本における学術情報流通に大きな責任をもつ大学図書館は、この背景のなかで2000年以降いくつかの新しい試みを含めて、主体的に取り組むことになった」ということである。
逸村(57)は、「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(58)の作成に携わった立場から、「報告」作成の背景、過程を詳しく紹介している。なお逸村は、同報告が1980年答申の「次世代を担うもの」として構想されたことを明らかにしている。
2006年の「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(59)に作業部会委員として関わった根岸(60)も、作業部会の議論の経緯と報告内容について解説を行っている。
逸村(61)は、1980年代、1990年代の政策を振り返った上で、1990年代後半に生じた外国雑誌価格の継続的な上昇への対応が2000年代の政策の焦点のひとつになったとしている。2006年の「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(62)の「その後の進展に対応して」出された、2009年7月の「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)」(63)にも言及している。また同文献の「3.1 情報基盤の整備と大学図書館組織」でも、政策的視点から文献レビューを行っている。
「政策」の理論的な研究では、金(64)がこれまでの情報政策、学術情報政策、図書館情報政策に関する研究を集大成している。さらに金(65)は、前段の内容をさらに深めた議論を行っている。特に「望ましい政策」として金が掲げた「(1)人間の尊厳を保つ、(2)社会構成員の人格形成に肯定的役割を果たす、(3)与えられた制約条件の中で実現可能である、(4)問題解決や問題緩和に効果的であるもの」は、政策に関与する者が常に念頭に置くべき言葉と思われる。
倉田(66)は、学術情報流通に関するこれまでの理論的研究を集大成し、情報環境下における学術情報流通モデルを提案している。
土屋(67)は、「大学図書館と学術情報流通、とくに学術出版とは、現在重要な課題を共有しているように思われる。その諸課題を理論的観点および歴史的観点から整理、俯瞰することが本論文の目的である」として、学術情報流通のステークホルダーの関係を図示した「学術情報流通の理念型」を提案している。
NII関連では、村上ら(68)が、2005年に発表されたCSIの構築というNIIの基本構想によって再編された「次世代学術コンテンツ基盤整備」について、学術コンテンツの形成と確保、機関リポジトリ構築・連携支援、コンテンツ・ポータルの三つの側面から解説している。2006年の「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(69)や国大図協の「電子図書館の新たな潮流」(70)等の政策文書を踏まえて具体的な事業を展開していく過程を読み取ることができる。
国大図協については、尾城ら(71)が、日本版「シリアルズ・クライシス」に抗して、電子ジャーナル契約コンソーシアムを形成した過程とその活動を紹介している。なお、公私立大学図書館協会のコンソーシアム(PULC)については、中元(72) (73)が、その形成と展開について述べている。
この10年間は、未曾有の学術情報流通の変化に対し、大学図書館が上からの政策と予算措置を待つ受け身の姿勢から、打開策を模索して積極的な行動に転じた時期と位置づけることができる。例えば、電子ジャーナルの導入問題等は、研究情報基盤の整備を役割とする大学図書館にとって、財源的な問題を含めて、まさに死活問題であった。そういう切羽詰まった状態では、自ら動き出さざるを得なかったとも言えるが、電子ジャーナル・タスクフォースからコンソーシアム形成と外国雑誌出版社との直接交渉に至る過程は、大学図書館の積極性を示すものである。シリアルズ・クライシスはやがて社会問題化し、「科学技術基本計画」や科学技術・学術審議会の答申等も喫緊の課題としてそれを取り上げ、政策に盛り込むことになったが、あくまでも大学図書館の動きが先にあったことを指摘しておきたい。1980年答申の「学術情報システム」や、1996年答申の「電子図書館的機能」では、ボトムアップ型の手法による政策立案とはいえ、上からの改革という色彩が強かったことを考え合わせると、2000年代の政策の位置づけの変化は際立っているといえよう。
しかし、すべての面で大学図書館が政策を先取りできているかというと、残念ながらまだ「待ちの姿勢」は残存しているように見える。今後、より一層「政策立案」への積極的な働きかけが望まれるところである。
私たちの目の前にある困難な問題、特に一つの図書館では立ち行かない困難な状況を解決するために「政策」が必要であり、良い「政策」を立案するためには、大学図書館に関係する者すべてが政策に関心を寄せることが望まれることをあらためて強調しておきたい。
なお、本稿では、学術情報ネットワーク関連と、NDLやJSTの「政策」については対象としなかった。また、電子ジャーナル対応、コンソーシアム、機関リポジトリについては、「政策」を考える上でも重要な関連文献が多くあったが、紙数の関係もあり、その多くを割愛せざるを得なかった。その遺漏を心からお詫びしたい。
武蔵野大学:小西和信(こにし かずのぶ)
(1) 竹内比呂也. 特集, 構造的転換期にある図書館の法制度と政策(第4回): 学術情報政策と大学図書館. 図書館界. 2009, 60(5), p.334-343.
のちに、以下の図書に転載。
日本図書館研究会編集委員会編. 構造的転換期にある図書館: その法制度と政策. 日本図書館研究会, 2010, p. 193-211.
(2) 北克一ほか. 特集, 図書館・図書館学の発展: 21世紀を拓く: 学術情報流通の変容と大学図書館: 20世紀最後の10年間. 図書館界. 2001, 53(3), p. 302-313.
(3) 呑海沙織. “学術情報流通と大学図書館: 学術情報基盤、電子ジャーナル、オープンアクセス”.図書館・図書館学の発展: 21世紀初頭の図書館. 『図書館界』編集委員会編. 日本図書館研究会, 2010, p. 259-272.
(4) 逸村裕. “大学図書館の課題”. 図書館・図書館学の発展:21世紀初頭の図書館. 『図書館界』編集委員会編. 日本図書館研究会, 2010, p. 80-89.
(5) 前川敦子. “大学図書館の課題”. 図書館・図書館学の発展: 21世紀を拓く. 日本図書館研究会『図書館界』編集員会編. 日本図書館研究会, 2002, p. 55-64.
(6) 竹村心. 学術政策と大学図書館: 解説 80-90年代の学術と大学図書館の政策. 現代の図書館. 2000, 38(2), p. 79-82.
(7) 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会デジタル研究情報基盤ワーキング・グループ. “学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)”. 文部科学省. 2002-03-12.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/toushin/020401.htm [131], (参照 2011-10-01).
(8) 文部科学省研究振興局情報課. “学術情報発信に向けた大学図書館機能の改善について(報告書)”,文部科学省. 2003-03-17. http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/mext/kaizen.pdf [132], (参照2011-10-01).
(9) 科学技術・学術審議会学術分科会学術研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会. “我が国の学術情報発信に関するこれまでの審議状況のまとめ”. 文部科学省. 2005-06-28.
日本図書館協会編. 図書館年鑑2006. 2006, p. 331-334.
(10) 科学技術・学術審議会学術分科会学術研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会. “学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方について(中間報告)”. 文部科学省. 2005-06-28. 日本図書館協会編. 図書館年鑑2006. 2006, p. 334-338.
(11) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会, “学術情報基盤の今後の在り方について(報告)”. 文部科学省. 2006-03-23.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015.htm [133], (参照 2011-10-01).
(12) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会,“大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)”. 文部科学省. 2009-07.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1282987.htm [134] (参照2011-10-01).
(13) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会. “大学図書館の整備について(審議のまとめ): 変革する大学にあって求められる大学図書館像”.文部科学省. 2010-12.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/documents/mext/singi201012.pdf [135], (参照2011-10-01).
(14) 呑海沙織. “学術情報流通と大学図書館: 学術情報基盤、電子ジャーナル、オープンアクセス”.図書館・図書館学の発展: 21世紀初頭の図書館. 『図書館界』編集委員会編. 日本図書館研究会, 2010, p. 259-272.
(15) “[第2期]科学技術基本計画”.内閣府. 2001-05-23.
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/honbun.html [136], (参照 2011-10-01).
(16) “[第3期]科学技術基本計画”.内閣府. 2006-03-28.
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/honbun.pdf [137], (参照 2011-10-01).
(17) “[第4期]科学技術基本計画”,内閣府. 2011-08-19.
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/4honbun.pdf [138], (参照 2011-10-01).
(18) 国立大学図書館協議会. “要望書: 学術情報基盤の充実に向けて”. 2002-06-19.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/operations/requests/yobosho_03_06_19.pdf [139], (参照 2011-10-01).
(19) 小宮山宏. “「電子ジャーナル」に関する要望”. 国立大学協会. 2008-02-08.
http://www.janu.jp/active/txt5/h200222.pdf [140], (参照 2011-10-01).
(20) 国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース. “国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース活動報告”. 2004-03.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/ej/katsudo_report.pdf [141], (参照 2011-10-01).
(21) 国立大学図書館協会学術情報委員会 デジタルコンテンツ・プロジェクト. “電子図書館的機能の高次化に向けて: 学術情報デジタル化時代の大学図書館の新たな役割(デジタルコンテンツ・プロジェクト中間報告書)”. 2005-06.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/si/dc_chukan_hokoku.pdf [142], (参照 2011-10-01).
(22) 国立大学図書館協会学術情報委員会 デジタルコンテンツ・プロジェクト. “電子図書館的機能の高次化に向けて: 2: 学術情報デジタル化時代の大学図書館の取り組み(デジタルコンテンツ・プロジェクト第2次中間報告書)”. 2006-06.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/si/dc_chukan_hokoku_2.pdf [143], (参照 2011-10-01).
(23) 国立大学図書館協会学術情報委員会デジタルコンテンツ・プロジェクト. “電子図書館的機能の高次化に向けて:3:学術情報デジタル化時代の大学図書館(デジタルコンテンツ・プロジェクト最終報告書)”. 2007-10.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/si/dc_lastreport.pdf [144], (参照 2011-10-01).
(24) 国立大学図書館協会学術情報委員会. “国立大学図書館協会電子ジャーナル・コンソーシアム活動報告書”. 2009-03.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/ej/katsudo_report2.pdf [145], (参照 2011-10-01).
(25) 国立大学図書館協会学術情報委員会学術機関リポジトリワーキンググループ. “「学術機関リポジトリに関する調査」報告書”. 2010-03.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/publications/reports/repository1.pdf [146], (参照 2011-10-01).
(26) 国立大学図書館協会. “学術情報流通の改革に向けての声明文: 学術基盤である電子ジャーナルの持続的利用を目指して”. 2008-04-04.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/sirwg/statement.pdf [147], (参照 2011-10-01).
(27) 国立大学図書館協会. “オープンアクセスに関する声明: 新しい学術情報流通を目指して”. 2009-03-16.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/operations/requests/statement_09_03_16.pdf [148], (参照 2011-10-01).
(28) 国立大学図書館協議会図書館高度情報化特別委員会ワーキンググループ. “電子図書館の新たな潮流: 情報発信者と利用者を結ぶ付加価値インターフェイス”. 2003-05-29.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/publications/reports/74.pdf [149], (参照 2011-10-01).
(29) 日本学術会議. “要望: 我が国英文学術誌による学術情報発信の推進について”, 2005-09-15.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-19-y1035-3.pdf [150], (参照 2011-10-01).
(30) 日本学術会議. “要望: 電子媒体学術情報の恒久的な蓄積・保存・利用体制の整備・確立”, 2005-09-15.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-19-y1035-3.pdf [150], (参照 2011-10-01).
(31) 日本学術会議科学者委員会学術誌問題検討分科会. “提言: 学術誌問題の解決に向けて: 「包括的学術誌コンソーシアム」の創設”.2010-08-02.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t101-1.pdf [151], (参照 2011-10-01).
(32) “今後の国立情報学研究所のサービスの概要: 国立情報学研究所と科学技術振興事業団との情報関係事業の連携・協力の調整結果”, 国立情報学研究所. 2008-10.
http://www.nii.ac.jp/brief/JSTrenkei/index-j.html [152], (参照 2011-10-01).
(33) 国立情報学研究所. “学術機関リポジトリ構築ソフトウェア実装実験プロジェクト報告書”. 2005-03.
http://www.nii.ac.jp/metadata/irp/NII-IRPreport.pdf [153], (参照 2011-10-01).
(34) 書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト. “書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト最終報告”. 国立情報学研究所. 2005-10.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/pdf/kadaiPT-last-report.pdf [154], (参照 2011-10-01).
(35) 国立情報学研究所. “学術コミュニケーションの新たな地平: 学術機関リポジトリ構築連携支援事業第1 期報告書”. 2010-12.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/report/pdf/csi_ir_h17-19_report.pdf [155], (参照 2011-10-01).
(36) 国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課. “国際学術情報流通基盤整備事業(SPARC Japan)活動のまとめ: 平成15(2003)年度~平成20(2008)年度”, 2009-03.
http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/report/pdf/sparc_report_200903.pdf [156], (参照 2011-10-01).
(37) 国立情報学研究所学術コンテンツ運営・連携本部図書館連携作業部会(次世代目録ワーキンググループ). “次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)”. 2009-03.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/next_cat_last_report.pdf [157], (参照 2011-10-01).
(38) 溝上智恵子. “学術情報流通を支える法制度”. 日本図書館情報学会研究委員会編. 図書館を支える法制度. 勉誠出版, 2002, p. 125-145.
(39) 竹内比呂也. “大学図書館の現状と政策(第1章)”. 変わりゆく大学図書館. 逸村裕ほか編. 勁草書房, 2005, p. 3-18.
(40) 土屋俊. 電子情報環境下における大学図書館機能の再検討:平成16年度~平成18年度科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書. 研究代表者: 土屋俊. 千葉大学, 2007, 210p.
(41) 逸村裕. “わが国の大学図書館政策の歴史的回顧”. 電子情報環境下における大学図書館機能の再検討:平成16年度~平成18年度科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書. 研究代表者: 土屋俊. 千葉大学, 2007 p. 1-7.
(42) 竹内比呂也. 特集, 構造的転換期にある図書館の法制度と政策(第4回): 学術情報政策と大学図書館. 図書館界. 2009, 60(5), p.334-343.
のちに、以下の図書に転載。
日本図書館研究会編集委員会編. 構造的転換期にある図書館: その法制度と政策. 日本図書館研究会, 2010, p. 193-211.
(43) 学術審議会学術情報分科会. “学術情報流通体制の改善について(報告)”. 1973-07.
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(44) 小西和信. 人文・社会科学の学術情報流通(上). 丸善ライブラリーニュース. 2009, (6), p. 6-7.
http://www.maruzen.co.jp/business/edu/lib_news/pdf/library_news158_6-7.pdf [158], (参照 2011-10-01).
(45) 小西和信. 人文・社会科学の学術情報流通(下). 丸善ライブラリーニュース. 2009, (7・8). p. 10-11.
http://www.maruzen.co.jp/business/edu/lib_news/pdf/library_news159_10-11.pdf [159], (参照 2011-10-01).
(46) 松村多美子. “大学図書館政策聞き取り調査:2004年10月8日 於千葉大学文学部”. 電子情報環境下における大学図書館機能の再検討: 平成16年度~平成18年度科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書. 研究代表者: 土屋俊. 千葉大学, 2007, p.145-161.
(47) 雨森弘行. 「国大図協」と共に歩んで: “温故知新”への想い. 国立大学図書館協議会ニュース資料. 2003, (70), p.1-15.
(48) 雨森弘行. すべての図書館をすべての利用者に―目的達成のための方略を求めて. 中部図書館学会誌. 2003, (44), p. 1-15.
(49) 雨森弘行. “学術情報システム: 書誌ユーティリティの誕生と軌跡”. 共に創り、共に育てる知のインフラ: NACSIS-CATの軌跡と展望: NACSIS-CAT登録1億件突破記念講演会記錄集. 国立情報学研究所. 2009, p. 21-37.
(50) 遠山敦子. “学術情報システムの出発点”. 共に創り、共に育てる知のインフラ: NACSIS-CATの軌跡と展望: NACSIS-CAT登録1億件突破記念講演会記錄集. 国立情報学研究所. 2009, p. 15-21.
(51) 石川亮. 日本学術会議の学術情報体制への貢献:文系学術図書館の初期の現状. 現代の図書館. 2004, 42(1), p. 74-83.
(52) 小野亘.特集, 大学政策と大学図書館: 国立大学図書館政策を概観する. 大学の図書館. 2001, 20(12), p. 242-244.
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(54) 土屋俊. 特集, 情報流通の最新動向: 学術情報流通の最新動向: 学術雑誌価格と電子ジャーナルの悩ましい将来. 現代の図書館. 2004, 42(1), p. 3-30.
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/joho/scomm_tutiya.pdf [160], (参照 2011-10-01).
(55) 呑海沙織. “学術情報流通と大学図書館: 学術情報基盤、電子ジャーナル、オープンアクセス”.図書館・図書館学の発展: 21世紀初頭の図書館. 『図書館界』編集委員会編. 日本図書館研究会, 2010, p. 259-272.
(56) 土屋俊. 特集, 情報流通の最新動向: 学術情報流通の最新動向: 学術雑誌価格と電子ジャーナルの悩ましい将来. 現代の図書館. 2004, 42(1), p. 3-30.
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/joho/scomm_tutiya.pdf [160], (参照 2011-10-01).
(57) 逸村裕.特集, 2006・トピックスを追う: 「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」の背景と展開. 図書館雑誌. 2006, 100(12), p. 811-813.
(58) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会, “学術情報基盤の今後の在り方について(報告)”. 文部科学省. 2006-03-23.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015.htm [133], (参照 2011-10-01).
(59) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会, “学術情報基盤の今後の在り方について(報告)”. 文部科学省. 2006-03-23.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015.htm [133], (参照 2011-10-01).
(60) 根岸正光. 『学術情報基盤の今後の在り方について』第3部「我が国の学術情報発信の今後の在り方について」. 情報管理. 2007, 49(10), p. 591-594.
(61) 逸村裕. “大学図書館の課題”. 図書館・図書館学の発展: 21世紀初頭の図書館. 『図書館界』編集委員会編. 日本図書館研究会, 2010, p. 80-89.
(62) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会, “学術情報基盤の今後の在り方について(報告)”. 文部科学省. 2006-03-23.
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(63) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会,“大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)”. 文部科学省. 2009-07.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1282987.htm [134] (参照2011-10-01).
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(66) 倉田敬子. 学術情報流通とオープンアクセス. 勁草書房, 2007, 196p.
(67) 土屋俊. “学術情報流通と大学図書館”. 学術情報流通と大学図書館. 日本図書館情報学会研究委員会編. 勉誠出版, 2007, p. 3-22.
(68) 村上祐子ほか. “次世代学術コンテンツ基盤の構築を目指して: 国立情報学研究所の新たなコンテンツ・サービス”. 学術情報流通と大学図書館. 日本図書館情報学会研究委員会編. 勉誠出版, 2007, p. 91-106.
(69) 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会, “学術情報基盤の今後の在り方について(報告)”. 文部科学省. 2006-03-23.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015.htm [133], (参照 2011-10-01).
(70) 国立大学図書館協議会図書館高度情報化特別委員会ワーキンググループ. “電子図書館の新たな潮流: 情報発信者と利用者を結ぶ付加価値インターフェイス”. 2003-05-29.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/publications/reports/74.pdf [149], (参照 2011-10-01).
(71) 尾城孝一ほか. 学術情報流通システムの改革を目指して:国立大学図書館協会における取り組み:連載 シリアルズ・クライシスと学術情報流通の現在(1).情報管理. 2010. 日本図書館研究会, 2010, 53(1), p. 3-11.
(72) 中元誠. 学術研究情報基盤整備の現状と課題:電子ジャーナル導入にかかる公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)の形成とその展開. 図書の譜. 2007, 11, p. 47-55.
(73) 中元誠. 電子ジャーナル/データベース導入にかかる公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)の形成について: 回顧と展望. 日農学図書館協議会誌. 2008, 151, p. 21-27.
小西和信. 学術情報流通政策と大学図書館. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1761, p. 20-25.
http://current.ndl.go.jp/ca1761 [161]
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新聞は発行当時の情報を調査するのに有効なツールであるが、新聞紙は劣化しやすく、長期保存が難しい。また、記事を探すにも掲載日等の詳細な情報が無い場合、情報へのアクセスが難しい資料である。しかし近年、古い時代の新聞資料についてもデジタル化が進み、キーワードによる記事の検索や、該当部分の紙面画像閲覧も可能となり始めている。新聞記事へのアクセスを容易にするツールとして利用者のニーズは高まっており、新聞資料のデジタル化を進める国が増えてきている(CA1577 [168]参照)。
本稿では、筆者が2011年3月中旬に訪問し、見学とインタビューを行った、英国図書館(BL)とオランダ王立図書館(KB)における新聞のデジタル化プロジェクトについて紹介する。
図1 BL新聞図書館入口
BLは、歴史的に重要な新聞をウェブ上で提供し、学術コミュニティが記事の全文検索を行えるようにすることを目的として、「英国新聞1800-1900年」(1)(British Newspapers 1800-1900:BN)プロジェクト(CA1577 [168]参照)を2004年から2007年にかけて実施した(2)。BLが所蔵する、英国で発行された1800年から1900年までの新聞49タイトル、およそ200万ページがデジタル化され、記事全文検索および紙面画像閲覧が可能なデータベースとして公開されている。BL館内のデータベース用端末および英国内の高等教育機関等では無料で利用ができる(ただし、高等教育機関の実際の利用に際しては、Gale社から許諾を得る必要がある)。なお、この中には、既に新聞社等によって商業目的でデジタル化がなされたもの、例えばTimes等は含まれていない(3)。
また、BLは2010年5月に、brightsolid社と協力関係を結び、10年間で4,000万ページ以上の新聞をデジタル化するという非常に大規模なプロジェクトを発表した(4)。現時点で“British Newspaper Archive”(BNA)という名称でウェブサイトが開設されており(5)、一部紙面画像も公開されている。2011年秋には、このプロジェクトの成果として19世紀までの新聞100万ページが公開予定である(6)。
1.1.のBNプロジェクトは、BLがGale社と提携して行ったプロジェクトである。デジタル化にかかる200万ポンド(当時のレートで約4億円)の費用は、英国情報システム合同委員会(JISC)(7)のデジタル化プログラムの予算2,200万ポンドの中から拠出された。データのアップロードに関する費用はGale社が全額負担した(8)。オンラインユーザーは一部のタイトルを除き、紙面画像のダウンロードには有料のパスが必要である。
デジタル化には全てマイクロフィルムが使用され、原紙のみの資料や、劣化の進んでいたフィルムは、デジタル化のために新たにフィルムが作製された(9)。当時は原紙を使用したデジタル化は品質が悪く、マイクロフィルムからデジタル化を行わざるを得なかったからだという(10)。
BNAプロジェクトは、BLがbrightsolid社に協力するという位置づけで行われている。最初の2年間で400万ページ以上のデジタル化が予定されているこのプロジェクトでは、マイクロフィルムと原紙の両方をデジタル化の対象としている(11)。ページ毎の検査等のスキャニング準備作業、スキャニング、データのアップロードはbrightsolid社が行うこととなっており、費用は全て同社が負担している(12)。デジタル化の実作業は、ロンドン北部コリンデールにある、対象資料を保管しているBL新聞図書館(13)内で行われており、製本済みの新聞原紙は解体せずに、1日あたり8,000ページがスキャニングされている(14)。スキャニングによって作成されたデータに欠号や欠ページ、破損等の情報を付与し、画像調整等を経て、提供される流れとなっている。
BNAプロジェクトでは著作権保護期間内の資料もデジタル化の対象になっているが、そのための著作権者との協議はbrightsolid社が行っている(15)。このプロジェクトではできるだけ多くのタイトルのデジタル化を目指しており、19世紀までの新聞に次いで20世紀の新聞のデジタル化に着手し、2011年からの2年間でさらに数百タイトルのデジタル化が行なわれる予定である。BNAによるデジタル化資料はBL館内では紙面画像の閲覧を含めて無料で利用できるが(16)、オンラインユーザーは記事検索のみ無料で、紙面画像の閲覧は有料となる。また、オンラインユーザーがウェブ上でアクセスできるデータには著作権保護期間内の資料も含まれる予定であるという(17)。
BLは、所蔵資料の中でも特に新聞資料の劣化が著しいという理由から(18)、2008年から2011年にかけてデジタル化を進める資料の中で新聞資料を最優先順位に挙げている(E832 [169]参照)。また、2011年から2015年の戦略的優先事項(19)のひとつ「研究を望む者は誰でもアクセスできるようにする」(Enable access to everyone who wants to do research)に、brightsolid社との協力による新聞2,000万ページのデジタル化を挙げている(E1163 [170]参照)。
図2 KB概観
KBは、重要な資料である新聞をデジタル化によってウェブサイト上で提供し、誰でもアクセス可能にすること、原資料を長期保存すること(20)を目的として、「日刊紙デジタルデータバンク」(Databank Digitale Dagbladen:DDD)プロジェクト(21)を2007年に開始した。
DDDプロジェクトは1618年から1995年の期間にオランダと旧植民地で発行された新聞の中から選別されたタイトル、およそ800万ページを対象としたプロジェクト(22)である。1618年から1945年までの期間だけで1,400タイトルが対象となっており(23)、最終的には、1,736タイトル、約918万ページがデジタル化されるという(24)。2010年6月に約100万ページがウェブサイトで公開され(25)、デジタル化された資料のうち、2011年7月現在、1618年から1945年までの期間の記事全文検索および紙面画像の閲覧が可能である。今後、残りのページが順次公開されるほか、発行地や記事の種類等による絞り込み検索機能の実装も予定されている。
DDDプロジェクトは1999年から2004年に約35万ページ(対象期間は1910年から1945年まで)の新聞デジタル化を試行的に実施した(26)のちに、2007年から5年計画で開始(27)された。プロジェクトの予算は5年間で1,250万ユーロ(約15億円)である。
まず、歴史家、ジャーナリズム研究者等の専門家による諮問委員会(28)が基準を定めてタイトルを選別し、デジタル化候補のリストを作成する。それを元に、KBが著作権の確認作業、デジタルデータの有無、フィルムや原紙の所蔵の確認、そして他機関の所蔵の確認を行ったのち、デジタル化が行われる(29)。
著作権保護期間内の資料は著作権保持者の許諾を取得しなければデジタル化はできない。そのため、許諾を取得できなかった資料については対象から外される。
また、デジタル化は、KBの所蔵資料だけでなく、オランダ国内の機関のほか、ヴァチカン図書館やBL、スリナム国立公文書館等の国外も含め30以上の機関(30)の所蔵資料を借りて、既存のデジタルデータ、マイクロフィルム、原紙から行われている。既存のデジタルデータはそのまま流用するのではなく、KBの規格に修正のうえ、デジタル化作業に利用された。ページ毎の検査や補修作業、号(issue)のメタデータ入力等の品質管理が行われたのち、資料とメタデータは委託業者へ送られる。業者によってスキャニングや光学式文字認識(Optical Character Recognition:OCR)処理等が施され、画像の調整やページの順序等の検査が行われると、KBへと送られ、利用者に提供される流れとなっている。
DDDプロジェクトでは著作権保護期間内の資料も対象となっている。そのため、KBは新聞社団体や著作権保持者の代表団体等、各団体と協議を行い、2011年3月時点で、15の新聞社から、102タイトルのデジタル化を無償で行う許諾を得ており、現在も交渉が進められているとのことであった(31)。
また、KBは2010年から2013年までの戦略計画(32)で、1470年以降にオランダで出版された全ての図書、雑誌、そして新聞をデジタル化することを挙げている(E1017 [171]参照)。KBの担当者によると、2012年には新たな新聞デジタル化プロジェクトを予定しており、準備を進めているという。
今回紹介した2館のプロジェクトでは、BLが民間企業との提携により非常に大規模なデジタル化を進めている点や、KBが外部機関と協力して所蔵資料以外もデジタル化している点等の相違点もあるが、資料へのアクセスを向上させ、保存と両立させることを目的としている点と、著作権保護期間内の資料もデジタル化の対象としている点で共通している。
国立国会図書館(NDL)の新聞デジタル化は、技術的な問題や著作権法上の問題等もあり、現時点では実施には至っていない。もちろん両館の事例は単純にNDLの問題解決につながるものではない。例えば、アルファベットが使用されている資料はOCRでの可読性が高いが、日本の古い新聞には漢字と仮名に加えて旧字体や略字等が交じっており、同程度の成果を期待するのは難しい。しかし、著作権上の問題への取り組みには、今回紹介した2館から学べる点は多いと思われる。どちらの図書館もデジタル化後の原資料は保存し続けるとのことだが、劣化状態を考えると、原紙からのデジタル化に残された時間は少ない。日本も対応を急ぐべきであろう。
主題情報部新聞課:佐々木美穂(ささき みづほ)
(1) “British Newspapers 1800-1900”. British Library.
http://newspapers.bl.uk/blcs/ [172], (accessed 2011-08-03).
(2) “19th century newspapers”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/digitisation/bln.aspx [173], (accessed 2011-08-03).
(3) “Frequently Asked Questions”. British Newspapers 1800-1900.
http://newspapers.bl.uk/blcs/blcs_25.htm [174], (accessed 2011-08-03).
(4) “British Library and brightsolid partnership to digitise up to 40 million pages of historic newspapers”. British Library.
http://pressandpolicy.bl.uk/Press-Releases/British-Library-and-brightsolid-partnership-to-digitise-up-to-40-million-pages-of-historic-newspapers-271.aspx [175], (accessed 2011-08-03).
(5) British Newspaper Archive.
http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/ [176], (accessed 2011-08-03).
(6)British Newspaper Archive.
http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/ [176], (accessed 2011-08-06).
(7) “Who we are”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/aboutus/whoweare.aspx [177], (accessed 2011-08-03).
(8) BNプロジェクトと同様に、JISCの助成を受けGale社と提携して実施したBLによる新聞デジタル化事業には、「17-18世紀バーニーコレクションデータベース」(17th and 18th Century Burney Collection Database)と「英国新聞1620-1900年」(British Newspapers 1620-1900)がある。前者は17~18世紀に発行された新聞とニュースパンフレットを集めたBL所蔵のCharles Burneyコレクションをデジタル化したフルテキストデータベースである。後者は前者とBNプロジェクトの拡充プロジェクトであり、およそ100万ページがデジタル化された。BNプロジェクトと同様に、BL館内のデータベース用端末および英国内の高等教育機関等では無償で利用できる(ただし、高等教育機関の実際の利用に際しては、Gale社から許諾を得る必要がある)。
“17th and 18th Century Burney Collection Database”. British Library.
http://www.bl.uk/reshelp/findhelprestype/news/newspdigproj/burney/index.html [178], (accessed 2011-08-03).
“British newspapers 1620-1900”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/digitisation/newspapers2.aspx [179], (accessed 2011-08-03).
(9) “Frequently Asked Questions”. British Newspapers 1800-1900.
http://newspapers.bl.uk/blcs/blcs_25.htm [174], (accessed 2011-08-03).
(10) 2011年3月にBLのデジタル化プロジェクト担当者に行ったインタビューに基づく。
(11) “British Library and brightsolid partnership to digitise up to 40 million pages of historic newspapers”. British Newspaper Archive.
http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/archive-media.php [180], (accessed 2011-08-03).
(12) “News from the Crimea arrives at the digital age via British Library”. Times. 2010-05-20.
http://technology.timesonline.co.uk/tol/news/tech_and_web/the_web/article7131113.ece [181], (accessed 2011-08-03).
(13) 2011年3月にBLの新聞担当者に行ったインタビューによると、計画に遅れが生じているとの話であったが、以下に挙げた報道によると、BL新聞図書館は2013年に閉館を予定しているとのことである。
Kynaston, David. “British Newspaper Library: Tough decisions to be made on hard copy”. History Today, 2011, 61(8).
http://www.historytoday.com/david-kynaston/british-newspaper-library-tough-decisions-be-made-hard-copy [182], (accessed 2011-08-03).
(14) “Latest scanning news”. British Newspaper Archive.
http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/news-item.php?id=9 [183], (accessed 2011-08-03).
(15) “News from the Crimea arrives at the digital age via British Library”. Times. 2010-05-20.
http://technology.timesonline.co.uk/tol/news/tech_and_web/the_web/article7131113.ece [181], (accessed 2011-08-03).
(16) “British Library creates a "national memory' with digital newspaper archive”. Guardian. 2011-05-30.
http://www.guardian.co.uk/media/2011/may/30/british-library-digital-newspaper-archive [184], (accessed 2011-08-03).
(17) 2011年7月にBLの新聞デジタル化プロジェクト担当者にメールで行ったインタビューに基づく。
(18) BLの資料保存部長であるノボトニー(Deborah Novotny)氏の資料保存環境に関する講演会が2011年2月17日にNDLで開催された。講演では、他の資料と比較して新聞資料の劣化の割合が最も高いことが指摘された。また、資料の劣化に関連して、講演会配布資料の図35-36にあるように、従来の新聞書庫では製本済み新聞が立てて排架されていることや、自重による損傷の激しい点が紹介された。今後の保管方法として、ウェストヨークシャーのボストンスパに建設予定のBL新書庫では、講演会配布資料の図43-44にあるように、資料を板で挟んでベルトで固定し、平積みの状態でコンテナに保管する予定であることが紹介された。
Novotny, Deborah. “Lecture 2: Stack Management and storage environment at the British Library”. 国立国会図書館. 2011-02-17. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/forum2_no25.pdf [185], (accessed 2011-08-03).
(19) “Growing Knowledge: British Library’s Strategy 2011-2015”. British Library.
http://portico.bl.uk/aboutus/stratpolprog/strategy1115/strategy1115.pdf [186], (accessed 2011-08-03).
(20) “Policy digitization”. Koninklijke Bibliotheek.
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(21) “Databank Digitale Dagbladen”. Koninklijke Bibliotheek.
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(22) “KB presenteert 400 jaar kranten online”. Koninklijke Bibliotheek. 2010-5-27.
http://www.kb.nl/nieuws/2010/historische_kranten.html [189], (accessed 2011-08-03).
(23) “Selected titles and selection procedure: Selection process”. Koninklijke Bibliotheek.
http://www.kb.nl/hrd/digi/ddd/selectie-en.html [190], (accessed 2011-08-03).
(24) 2011年7月にKBのDDDプロジェクト担当者にメールで行ったインタビューに基づく。
(25) “One million pages of Dutch historical newspapers online”. Koninklijke Bibliotheek.
http://www.kb.nl/nieuws/2010/historische_kranten-en.html [191], (accessed 2011-08-03).
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(27) “Project: Planning”. Koninklijke Bibliotheek.
http://www.kb.nl/hrd/digi/ddd/planning-en.html [193], (accessed 2011-08-03).
(28) “Selected titles and selection procedure”. Koninklijke Bibliotheek.
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(30) Faase, Jasper et al. “Quantity meets Quality: Towards a digital library”. IFLA International Newspaper Conference2011: Newspaper in Multiple Scripts and Multiple Languages: Issues and Challenges for National Heritage. Kuala Lumpur, Malaysia, 2011-04-25/27, IFLA. 2011.
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(31) 2011年3月にKBのDDDプロジェクト担当者に行ったインタビューに基づく。
(32) “Strategic Plan 2010-2013”. Koninklijke Bibliotheek.
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佐々木美穂. 英国とオランダの国立図書館にみる新聞資料デジタル化プロジェクト. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1750, p. 2-5.
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あるものをなにかに埋め込む、という意味を持つ“embed”という語を用いた、エンベディッド・ライブラリアン(embedded librarians)と呼ばれる図書館司書、またはエンベディッド・ライブラリーサービスというサービス提供の形態が、近年米国の図書館界で一つの潮流となっている。このテーマについては論文に加え、米国カトリック大学(Catholic University of America)図書館情報学准教授のシュメイカー(David Shumaker)氏といった人物がブログでも積極的に発信している(1)。この呼称は、2003年のイラク戦争で広く知られるようになった、エンベディッド・ジャーナリスト(embedded journalists)に由来している(2)。これらのジャーナリストは、戦闘部隊と行動をともにし、進行中の事件の内部から取材活動を行い、自らをこのように呼ぶようになったとされている(3)。彼らは自らを部隊に「埋め込んだ」ことによって、事件のストーリーに直接アクセスできることができた(4)。このことから、エンベディッド・ライブラリアンとは、日常の業務において、図書館を離れ、利用者が活動している場から、利用者と活動をともにしつつ情報サービスを提供している図書館司書を指す。
この、「埋め込まれて」いる程度には様々なものがある。図書館司書がどの程度「エンベッド」されているかを計る目安としては、普段ほかの図書館司書と同じ場所で業務をするのか利用者とおなじ場所にいるのか、給料・諸経費は図書館と利用者のどちらに充てられた予算から出るのか、誰が司書の監督・業務評価をするのか、主に利用者たちの会議に参加するのか、または図書館での会議に参加するのか、といったものがある(5)。こういった組織、人員配置、業務形態からみた目安でいえば、図書館司書が、図書館から離れて利用者たちと一体となり、利用者側から予算を充てられてサービスを提供しているケースがあれば、それはより高度なかたちでのエンベディッド・ライブラリアンともいえる。
エンベディッド・ライブラリアンというモデルの重要な点は、図書館司書が、利用者の環境に自分を「埋め込み」、利用者と作業等で協働し、混じり合うことによって、利用者の行動、またそれによる利用者の情報、情報サービスに対するニーズをより直接的に知り、より迅速なサービスをその場で提供できることにある(6)。利用者の置かれた環境や状況によって、必要とされる情報の内容、情報と向き合うコンテキスト、プロセスは異なってくる。そこに、このエンベディッド・モデルを導入することで、特定の利用者集団のニーズに沿うようにカスタマイズされた、より付加価値の高いサービスを提供できる効果がある(7)。
そして、今日電子ジャーナルや電子書籍、その他図書館の様々なサービスが、図書館を訪れる必要がなくオンラインで利用できるようになっていることで、図書館司書も、図書館を離れて利用者のいる環境の下でサービスを提供するのは必然となっていくともいえる。仮に利用者が必要とするほとんどの資料がオンラインで入手でき、もしくはオンラインで入手できるものしか利用しなくなり、図書館という場所を必要としなくなった場合でも、図書館司書は利用者のいる場所にエンベッドされ、どのようにリサーチを始めたら良いか、どのように情報を探したら良いか、情報をどのように評価したら良いか、といった局面で利用者を支援することができる(8)。このように、より多くの情報がオンラインで入手できることになったことで、図書館司書の居場所が図書館である必要性が減少したことが、より利用者に近づいた環境でサービスを提供することが効果的であるという、エンベディッド・ライブラリアンというモデルを後押ししているといえる。
エンベディッド・ライブラリアンは、利用者の属する環境のもとでその利用者のニーズに即した様々なサービスを提供し、その内容は図書館の種別、図書館の対象とする利用者によって異なる。例えば専門図書館の分野では、司書として利用者の作業に参加しつつ利用者に貢献する、利用者の専門分野での会議、セミナー等に参加する、利用者のオフィス等で情報利用や情報管理等の研修を行ったり、利用者によるウィキやウェブ上のワークスペースに参加したりすることがある(9)。先述のシュメイカー氏は、例えば大学図書館では、学生への利用教育が重視されるかもしれないし、企業図書館では、マーケティングや企業の運営、意思決定等に関わる外部情報の収集、分析のためのリサーチ、または企業内情報の管理等が重視されるであろう、としている(10)。そして、図書館司書がそういったサービスを提供する場は、企業であれば業務を行う部課であり、大学では研究者がいる場所、また学生が集まる場所である(11)。
エンベディッド・ライブラリアンというモデルは、主に専門図書館、または大学図書館で多く取り入れられている。公共図書館等への応用も示唆されているが、今のところは、サービス対象を限定・特定しやすい、大学・専門図書館の方がなじみやすいとされている(12)。このモデルは、医学系図書館でより積極的に取り入れられ、エンベディッド・ライブラリアンという呼称が広まる以前から、いわゆるクリニカル・ライブラリアン(clinical librarians)と呼ばれる臨床専門の図書館司書が、臨床医の必要に応じて、選別した情報を逐一提供すること等を行ってきた(13)。アリゾナ大学のヘルスサイエンス図書館では、公衆衛生学部担当の図書館司書は、95パーセントに近い勤務時間を学部内で過ごし、研究助成金申請のための調査、学生および教員への情報リテラシー教育を行い、学部の会議にも参加している(14)。医学系以外の専門図書館でも、このモデルは比較的早くから取り入れられ、一つの例として、政府関連の研究開発に携わる非営利法人、MITRE Corporationにおいて2002年から図書館司書がシステムエンジニアリング部門に配属され、そこで技術文献の管理等の情報サービスを提供している(15)。
大学図書館でのエンベディッド・ライブラリアンのモデルは、学生向けの情報リテラシー教育に積極的に応用されている。多くの大学図書館では、以前から図書館司書と教員とがパートナーとなって、特定の授業に、その内容に沿ったかたちで情報リテラシー教育を取り入れてきた。こういった例のひとつとして、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)での環境学の授業において、あるテーマに関する情報の探し方等の授業内容、学生への課題の作成等を図書館司書と教員が共同で行ってきた事例がある(16)。
とりわけ、オンライン学修支援システムを用いたオンライン授業の増加に呼応して、図書館司書が学修支援システム上で、学生の授業に関連する諸活動をモニターし、参加する形がよく見られる。例えば、オハイオ州のマイアミ大学(Miami University)ミドルタウンキャンパスでは、ウェブ上での授業を倍増する計画に対応して、2009年から、図書館司書がオンライン学修支援システムのひとつである“Blackboard”で13の授業に参加して、情報リテラシー教育を提供するパイロットプログラムを始め、教員から学生の情報リテラシー能力が向上したとの評価を受けた(17)。また、アラバマ州のアセンス州立大学(Athens State University)では、図書館司書がティーチング・アシスタントとして“Blackboard”上で、授業シラバスや課題にアクセスし、図書館司書への質問コーナーの開設、学生が授業で必要とする情報・教材のアップロード、学生同士のフォーラムでの議論の内容に即したアドバイス等を行っている(18)。
こういった、大学での情報リテラシー教育へのエンベディッド・モデルの導入には、それまでは学期を通して一度、関連の授業を行うことで終わりがちだった情報リテラシー教育を超えて、より授業科目全体の一部となり、学生が学習を進める過程の中で必要な時点で、必要な内容の情報探索、利用等の援助をしようという意図がある。さらには、授業ではなく大学の学生寮において、図書館司書が学生の生活の場から学生の学習を支援する、というアプローチも見られる(19)。
また、大学、研究機関では、パデュー大学(Purdue University)のように、エンベディッド・ライブラリアンが研究プロジェクトの一員となって、研究者の研究内容とその進展、その都度の情報ニーズを直接把握し、サービスを提供する動きがある。また、従来の図書館司書は、書籍や雑誌論文等、研究過程での最終成果物の組織、提供に主に関わってきたが、研究プロジェクトにエンベッドされることによって、研究そのものに最初の段階から参加し、研究で生み出されたデータの管理、データの研究プロジェクト外への発信または長期保存のための組織化等に従事することができる(20)。
エンベディッド・ライブラリアンの背景にある考え方は、必ずしも近年突如として現れたものではない。エンベディッド・ライブラリアンというサービス形態をどのように捉えているかにもよるが、専門図書館協会(Special Libraries Association)が2007年に行った調査では、60パーセントの回答者が、所属している機関ではこのようなサービスが10年以上前から行われている、としている(21)。先に述べたように、医学分野での図書館サービスは、エンベディッド・ライブラリアンという呼称が広まる以前から、その要素をもっていた。
大学図書館では、以前から“subject specialists”と呼ばれる主題専門司書が、専門とする学問分野に特化したサービスを提供してきた。また主題専門司書を主とした、学部、学科等と連携したサービスに主眼を置く図書館司書は、リエゾン・ライブラリアン(liaison librarians)とも呼ばれてきた。このような図書館司書は、主題専門知識を活かして教員とパートナー関係を築き、情報リテラシー教育をカリキュラムや授業の中に組み込む、といった活動を行ってきた。大学図書館のエンベディッド・モデルは、こういったモデルの延長線上にあるとも考えられるが、以前のモデルとの違いとして次の点が挙げられる。主題専門司書、リエゾン・ライブラリアンには利用者とのパートナー関係を構築し、レファレンス、情報リテラシー教育を担当しつつも、業務のうちの大きなウェイトを、図書館での情報資料の選択や管理に充てている。また、利用者とのパートナー関係から利用者のニーズを取り入れながらも、それはあくまでも図書館の蔵書構築や図書館サービスに反映させる、という図書館側の意識が見られる。これに対して、エンベディッド・モデルには図書館の目的というよりも、より利用者が持つ目的達成に共同参加する、という理念がある(22)。
エンベディッド・ライブラリアンとして図書館司書個人に求められる資質には、図書館を離れた新しい環境・経験に臨機応変に対応することができること、今までの図書館での形式にとらわれない、オープンな思考を持っていること等がある(23)。そして、エンベディッド・モデルが効果をあげるための重要な要素として、利用者とより一体となるような密接な関係を作り上げることがある(24)。
エンベディッド・モデルでは、図書館司書は利用者に、よりカスタマイズされた高レベルのサービスを提供するため、そのために費やす時間と労力は増え、また図書館を離れて利用者と交わる時間も多くなる。こういったことを図書館の経営側が理解する必要がある。エンベディッド・モデルを導入し、エンベディッド・ライブラリアンを支援するためには、図書館はエンベディッド・ライブラリアンとしての資質を備えた人材を採用・養成し、図書館司書が利用者との関係を深め、対象とする利用者集団の活動内容、専門分野、または彼らが属する組織への理解を深めることを奨励すべきである(25)。そして、図書館内部での組織や業務慣行等にとらわれず、図書館司書を、図書館外の利用者がいる現場で活動させる体制を整えることが重要となる。さらには、図書館は利用者が属する組織と連携し、エンベディッド・ライブラリアンの業務を、利用者への効果の面で利用者側から評価してもらい、利用者が属する組織からもエンベディッド・モデルへの支持を得ることが、成功へとつながるとされている(26)。
エンベディッド・モデルは、特定分野の小規模な図書館においては、その専門性、臨機応変さを活かして比較的容易に導入できるが、大規模な大学図書館では、多数のそれぞれ専門が異なる利用者に対応しなければならず、その広範囲な導入は容易ではない(27)。先のパデュー大学のように、図書館全体でこのモデルを導入して行く試みはあるが、多くの大学図書館では、少数の司書がいくつかの授業でこのモデルを導入しているのが現状のように思われる。ペンシルバニア州のバックス郡コミュニティーカレッジ(Bucks County Community College)における、オンライン学修支援システム“WebCT”をもとにした導入例では、エンベッドされた図書館司書がオンラインチャット等で学生に個別にサービスを提供することに加えて、オンラインチュートリアルや、多くの大学図書館で取り入れられているスプリングシェア社(Springshare LLC.)の図書館向けウェブプラットフォーム“LibGuides”を学修支援システムにリンクさせている。これらを援用することで、より多くの学生に効率的、効果的に情報リテラシー教育のコンテンツをオンライン上で提供しようとする試みが行われている(28)。デューク大学(Duke University)でも同様の事例が報告されている(29)。このように、規模の大きい大学図書館ではエンベディッド・モデルを取り入れつつも、どのように多数のクラス、学生に効果的、効率的に浸透させられるか、ということも今後の課題となるであろう。
アリゾナ大学:鎌田 均(かまだ ひとし)
(1) 例えば以下のブログがある。
Shumaker, David. Embedded Librarian.
http://embeddedlibrarian.wordpress.com/ [203], (accessed 2011-06-23).
(2) Hedreen, Rebecca. “Embedded Librarian”. Frequently Questioned Answers. 2005-04-29.
http://frequanq.blogspot.com/2005/04/embedded-librarians.html [204], (accessed 2011-06-22).
(3) Becker, Bernd W. Embedded librarianship: A point-of-need service. Behavioral & Social Sciences Librarian. 2010, 29(3), p. 237-240.
(4) Hedreen, Rebecca. “Embedded Librarian”. Frequently Questioned Answers. 2005-04-29.
http://frequanq.blogspot.com/2005/04/embedded-librarians.html [204], (accessed 2011-06-22).
(5) Shumaker, David. Who let the librarians out? Embedded librarianship and the library manager. Reference & User Services Quarterly. 2009, 48(3), p. 239-242, 257.
(6) Kesselman, Martin A. et al. Creating opportunities: Embedded librarians. Journal of Library Administration. 2009, 49(4), p. 383-400.
(7) Shumaker, David. A wide range of approaches: Embedded library models vary in format but share a common focus on delivering customized services to clients with well-defined needs. Information Outlook. 2010, 14(1), p. 10-11.
(8) Siess, Judith. Embedded librarianship: The next big thing?. Searcher. 2010, 18(1), p. 38-45.
(9) Kho, Nancy Davis. Embedded librarianship: Building relational roles. Information Today. 2011, 28(3), p. 1, 35-36.
(10) Shumaker, David. A wide range of approaches: Embedded library models vary in format but share a common focus on delivering customized services to clients with well-defined needs. Information Outlook. 2010, 14(1), p. 10-11.
(11) Siess, Judith. Embedded librarianship: The next big thing?. Searcher. 2010, 18(1), p. 38-45.
(12) Shumaker, David. Who let the librarians out? Embedded librarianship and the library manager. Reference & User Services Quarterly. 2009, 48(3), p. 239-242, 257.
(13) Konieczny, Alison. Experiences as an embedded librarian in online courses. Medical Reference Services Quarterly. 2010, 29(1), p. 47-57.
(14) Freiburger, Gary et al. Embedded librarians: one library’s model for decentralized service. Journal of the Medical Library Association. 2009, 97(2), p. 139-142.
(15) Moore, Michael F. Embedded in systems engineering: How one organization makes it work. Information Outlook. 2006, 10(5), p. 23-25.
(16) Kobzina, Norma G. A faculty-librarian partnership: A unique opportunity for course integration. Journal of Library Administration. 2010, 50(4), p. 293-314.
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01930821003666965 [205], (accessed 2011-07-08).
(17) Tumbleson, Beth E. et al. When life hands you lemons: Overcoming obstacles to expand services in an embedded librarian program. Journal of Library Administration. 2010, 50(7/8), p. 972-988.
(18) Herring, S. D. et al. Reaching remote students. College & Research Libraries News. 2009, 70(11), p. 630-633.
http://www.ala.org/ala//mgrps/divs/acrl/publications/crlnews/2009/dec/reachremote.cfm [206], (accessed 2011-07-08).
(19) Long, Dallas. “Embedded right where the students live: A librarian in the university residence halls”. Embedded Librarians. Kvenild, Cassandra et al., eds. Chicago, Association of College and Research Libraries, 2011, p. 199-209.
(20) Carlson, Jake et al. Embedded librarianship in the research context: Navigating new waters. College & Research Libraries News. 2011, 72(3), p. 167-170.
http://crln.acrl.org/content/72/3/167.full.pdf+html [207], (accessed 2011-07-08).
(21) Shumaker, David et al. Models of embedded librarianship: A research summary. Information Outlook. 2010, 14(1), p. 26-28, 33-35.
(22) Shumaker, David. Who let the librarians out? Embedded librarianship and the library manager. Reference & User Services Quarterly. 2009, 48(3), p. 239-242, 257.
(23) Abram, Stephen. Openness and the library experience. Information Outlook. 2010, 14(1), p. 53-54.
(24) Shumaker, David. “Beyond instruction: Creating new roles for embedded librarians”. Embedded Librarians. Kvenild, Cassandra et al., eds. Chicago, Association of College and Research Libraries, 2011, p. 17-30.
(25) Shumaker, David et al. Models of embedded librarianship: A research summary. Information Outlook. 2010, 14(1), p. 26-28, 33-35.
(26) Shumaker, David et al. Models of embedded librarianship: A research summary. Information Outlook. 2010, 14(1), p. 26-28, 33-35.
(27) Kolowich, Steve. “Embedded Librarians”. Inside Higher Education. 2010-06-09.
http://www.insidehighered.com/news/2010/06/09/hopkins [208], (accessed 2011-06-14).
(28) Hemmig, William et al. The “just for me” virtual library: Enhancing an embedded ebrarian program. Journal of Library Administration. 2010, 50(5/6), p. 657-669.
(29) Daly, Emily. “Instruction where and when students need it: Embedding library resources into learning management systems”. Embedded Librarians. Kvenild, Cassandra et al., eds. Chicago, Association of College and Research Libraries, 2011, p. 79-91.
鎌田均. 「エンベディッド・ライブラリアン」:図書館サービスモデルの米国における動向. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1751, p. 6-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1751 [209]
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近年の学校教育における読書活動を考えるためには、新学習指導要領(1)を押さえておく必要がある。新学習指導要領には、「思考力・判断力・表現力等」を育むことを目的とした言語活動の充実が盛り込まれ、それを支える条件として、読書活動の推進、学校図書館の活用や学校における言語環境の整備の必要性が示された(2)。言語活動の充実が設定された理由の一つには、経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査(PISA)によって、日本の子どもたちには「思考力・判断力・表現力等」を問う読解力問題に課題があると判明したことが挙げられる。いわゆるPISA型読解力(3)(CA1671 [213]、CA1703 [214]、CA1722 [215]参照)に課題があったことの影響は大きい。そのため、学校現場ではPISA型読解力の育成への関心が高い。
また、新学習指導要領には「生きる力」の育成を目的に「探究的な学習」の推進も明記されるようになった。グローバル化が進んだ「知識基盤社会」に必要な能力を育成するために、批判的に考えたりコミュニケーション力をつけたりするなどの学習活動を行う。そこではPISA型読解力とも密接なクリティカル・リーディングなどの読書技術が必要となる。
こうした状況のもと、学校および学校図書館では、読書活動とPISA型読解力の育成とを密接に関係付けて考えることが増えている。
PISA型読解力の育成という命題があるなかで、近年の学校および学校図書館では、読書会のようにグループで読書をする集団的読書活動への注目が集まりつつある。読書を個人のものにとどめるのではなく、グループで行い共有していこうとする動きである。読書会での交流は、読書感想文や読書感想画とは違い、一方通行の発信にとどまらないところに、読書指導としての優位性がある。複数で同じ本を読んで感想や意見を話し合うことで、深く読み取ったり共感したり、意外な発見ができたりするなど、読みの世界が広がることが期待されている。読書生活(4)を豊かにするだけではなく、コミュニケーション能力を養うことにもつながる(5)。
現在注目されている集団的な読書活動は、「読書へのアニマシオン」、「ブッククラブ」、「リテラチャー・サークル」、「リーディング・ワークショップ」など欧米で指導されている方法である。これらの読書活動は、自分はどのように読んだのか、自分なりの評価や判断を他人に伝えて、それを共有することに意義を見出している。ここで求められている「読み」は、PISA型読解力の向上とも絡む戦略的な読書方法でもある。
読書へのアニマシオン(以下、アニマシオンとする)は、本の内容に関する「作戦」と呼ばれる問いを子どもたちに投げかけるスペインの読書指導法である。日本では1997年に翻訳書(6)が紹介されて以来、2000年代には学校図書館にも広がった(7)。
アニマシオンは、日本に紹介された当初は読書を楽しく勧めるゲームとして認識された。しかし、単なるゲームではなく子ども自身が持っている力を引き出す教育法であることが次第に知られるようになってきた。本来のアニマシオンは、「子どもが読書体験を重ねるうちに、どのように本を読むかという自分なりのスキーマをつくりあげていく」(8)ことを支援する指導法である。読書の世界の入り口に子どもを立たせるような読書指導とは目的が異なっているとされる(9)。また、アニマシオンの発問はPISAの問いと似ているため、PISA型読解力を身につける方法として最適だとされている(10)。近年では、物語を読み解く観点や調べ学習の際に情報を引き出す観点からもアニマシオンの有効性が唱えられ、教科学習にも役立つ読書教育であるとの認識が学校図書館関係者には浸透してきた(11)。
一方で、アニマシオンは、「学校で読書を教えるための方法として生まれたのではなく、図書館員が図書館に来た子供たちに対して行う技術としての『お話の時間』の延長として、生まれた」(12)ために、学校のカリキュラムには位置付けにくいとの指摘もある(13)。近年ではこのような議論をもとに、学校教育のカリキュラムに取り込みやすいブッククラブやリテラチャー・サークルなどが教科教育を舞台に提案され始め、それが逆輸入のように学校図書館にも普及しつつある。
ブッククラブ(Book Club、以下、BCとする)(14)は、ラファエル(Taffy E. Raphael)氏の提案する米国の読書活動である。それは「同じ本を小集団で読んで課題(問い)を発見し課題について意見を持ち、課題の答えを書いた上でディスカッションして課題を解決する学習指導法」(15)だとされる。読むための戦略として、題材の理解のために必要な背景などの予備知識を知っておくこと、書かれていることから推測すること、創造的に読むことなどが提示されている。
日本では、学習指導の方法の違いからそのまま導入することが難しいとして、有元秀文氏によって日本型BCが提唱された。日本型BCは、国語科の授業の中で取り入れられることを目的としているため、本を丸ごと扱わなくてもよい。教科書の題材も扱えるように考えられている。日本型BCでは、リーディング・ストラテジーに沿った14の問いを教師からも子どもたちからも出し合う(16)。この問いに答えることでテキストを正しく深く理解したり、クリティカル・リーディングをしたりすることができ、ひいてはそれがPISA型読解力につながるとされる(17)。日本型BCは、問いを与えてそれに回答するという点ではアニマシオンと似ているが、教科学習が主体であるという点が異なる。
日本型BCは国語科向けの指導法であるが、2009年に刊行された学校図書館向けの書籍(18)の中でも紹介された。2011年8月4-5日にかけて開催された「近畿学校図書館研究大会」(19)では、有元秀文氏が講演者として招かれ、BCに関する講演と実演を行うなど、学校図書館にも浸透しつつある。
リテラチャー・サークル(Literature Circle、以下、LCとする)とは、3人から5人くらいの少人数のグループで、同じ本を読んで書いて話し合うという活動である。足立幸子氏が国語科の授業での指導という観点からアニマシオンを研究した結果(20)、より授業内で指導しやすい読書活動としてダニエルズ(Harvey Daniels)氏のLC(21)を紹介したことから広まった。現在では国語の授業だけではなく、学校図書館での読書活動としても導入が進んでいる(22)。
全国学校図書館協議会(全国SLA)の機関誌『学校図書館』2009年8月号には、「特集:読書に誘う手法」としてLCが紹介された(23)。さらに全国SLAは、2011年度の「読書会コーディネータ養成講習会」の中でLCの講習を開催し始めた(24)。また、2010年からは、朝日新聞社の主催で、高校生4人組で読書会を行い、その結果をまとめた作品のコンクール「どくしょ甲子園」が始まった。その中では、読書会の方法論としてLC(簡略版)が紹介されている(25)。このように、LCは近年注目されている読書活動である。
LCの方法は、教師から示された本の中から子どもたち自身が読みたい本を選び、同じ本を選んだ者同士でグループになり、読むペースを決める。読む時には、それぞれが読むための役割分担を行い、その役割に沿って一人で読み、読んだ結果を書く作業も行う。読むための役割は、コネクター(本の中の世界と現実世界を結びつける役割)、質問者(疑問を持つ役割)、文章担当者(素晴らしいと思う表現や印象に残ったところなどを発表する役割)、イラストレーター(読んで得たイメージを絵にする役割)など複数ある(26)。一人で読んだ後は、どのように読んだのかという結果を書いたシートを持ち寄りグループ内で話し合う。毎回担当する役割を変えて、何回かに分けて一冊の本を読み切る。つまり、一人で読む時間とグループで話し合う時間が交互に訪れるような読書の方法である。また、教師は参加者ではなく指導者でもなく、ファシリテーター(促進者)(27)の役割を果たす。一人読みとグループ読みの双方ができるバランスのよい読書指導であるとされる(28)。
LCが他の方法と異なり意義深い点は、役割が違う者同士が本を読むという同じ課題に協力して向かっていくところにある。それは、異質な集団内で自律的に活動する能力を育むことにもなり、その能力はPISA型読解力のもととなったOECDのキー・コンピテンシーとも繋がっている(29)。LCもまたPISA型読解力の向上に寄与する読書活動といえる。
リーディング・ワークショップ(Reading Workshop、以下、RWとする)とは、カルキンズ(Lucy Calkins)氏の著作(30)が2010年に日本に紹介されて以来、主に小学校教師の間に広がりつつある国語の指導法である。年間を通しカリキュラムの一環として読書活動を指導していく。
RWの通常の指導パターンは、教師が読みの戦略などを厳選して教えるミニ・レッスンを行った後、最大限子どもが一人で読む時間を取る(31)。教師は、子どもたちが読んでいる間、その様子を観察しカンファランスと呼ばれる対話的な指導を個別に行う。カンファランスは、(1)子どもの状態を観察し、(2)教える内容を選択して、(3)教えることが基本となるため(32)、読んでいる子どもたちがどのような読み方をしているかを把握する必要がある。この場合の教師の役割はファシリテーター(33)であり、一方的な指導ではなく中立の立場で子どもと向き合う。また、一人で読むだけではなく、ペアで読む、ガイド読み、ブッククラブ(34)と呼ばれる少人数での本の話し合いなどさまざまな活動を組み合わせる。授業の終わりに、その時間の振り返りを行い、ジャーナルと呼ばれる読書日誌を書く。
RWは本を丸ごと扱うことが特徴で、優れた読み手が行っている読書方法を教え、実際に体験させることが中心となっている。そのため、RWでは子どもたちの身近に豊富な本が用意されていることや、読み聞かせや各自が読書できるスペースが確保されていることなどの読書環境も重要である(35)。こうした環境面を考えると、RWの授業には学校図書館を利用することが望ましいと考えられる。現状では学校図書館でRWを取り入れているところは多くないが、今後はアニマシオンやBC、LC同様に、学校図書館関係者がRWへの関心を高めることが予想される(36)。
学校図書館において、集団で行う読書会という読書活動形式は目新しいものではなく、1950年代にも読書後に「記録を残す」(読書記録)「その内容を話し合う」(読書会)などが重視されていた(37)。しかし、近年の読書会は、ただ集団で読書後の感想を述べたり、討論したりするだけではなく、読書中の読者に深くかかわっている点が異なる。アニマシオン、BC、LC、RWなどの集団的・戦略的な読書の指導においては、従来の読書前と読書後の指導だけではなく、読書中の読書戦略の指導が重視されている。たとえば、読書中に気付いたコメントを付箋に書きこみ本に貼りながら読む手法(38)は、LCでもRWでも指導する。読書前、読書中、読書後といった一連の読書活動に対する指導法が確立しているのである。
読書前、読書中、読書後という一連の読書活動にかかわる読書指導は、断片的に読書を扱うのではなく、人間が本を読むという行為そのものにかかわる指導である。一冊丸ごとの読書に関与する学校図書館には親和性が高い。また、学校図書館員は子どもに寄り添った読書支援を行うことから、集団的読書のファシリテーターの要素も持ち合わせている。学校図書館と集団的・戦略的読書とのかかわりは深いといえる(39)。
今後、学校図書館員は教師と協働することで、読書前、読書中、読書後という一連の読書活動を視野に入れた戦略的読書の指導に取り組むべきだと考えられる。
本稿で紹介した読書活動には、ここ何年かで指摘されてきた、学校図書館における情報リテラシーと読書との乖離(40)に対する解決策も見出せる。たとえば、ダニエルズ氏がLCの指導法の一つとして示しているKWLチャート(41)は、読書前に既有知識を呼び起こしておき、読書中に何を読みとるべきかを明らかにして、最終的に既有知識と読書で得た情報を関連付けながら知識のネットワークに組み込んでいくというものである。これは、探究型学習において、テーマを決めて情報収集する場合、すなわち情報リテラシーが求められる場合の戦略としても利用されている(42)。KWLチャート以外のさまざまな読書戦略にも読書と探究型学習をつなぐ指導法として利用可能なものがある。
日本の学校図書館は、情報リテラシーと読書をつなぐもの、また探究型学習につながる戦略的読書の提供といった観点からも、アニマシオン、BC、LC、RWなどの欧米型の読書活動に注目すべきである。
本稿で紹介した、アニマシオン、BC、LC、RWのような集団的・戦略的読書の活動は、今後はさらに導入が進んでいくものと考えられる(43)。これらは、PISA型読解力の向上を視野に入れた読書活動でもあり、新学習指導要領で実施が求められている探究型学習につながる読書活動ともなりうる。
ただし、欧米型の読書活動の導入に際しては、その本質は何かを見極めることを忘れてはならないだろう。これらの読書活動は、長年の読書研究の成果が存分に生かされている。たとえば、読者反応理論や構成主義にもとづく読書研究の成果、テキストの意味の個人的構成、社会的構成の過程に関する議論などが踏まえられている(44) (45) (46) (47) (48)。
このような理論的な背景を理解しておくことは、表面的な模倣に終始することを防ぎ、効果的な読書指導をする上で重要である。そのため、今後の学校および学校図書館では、新学習指導要領の実現やPISA型読解力の育成といった視点とともに、欧米型の集団的・戦略的な読書活動が持つ本質を理解し実現する視点を持ちつつ、新しい読書活動に取り組むことが求められるだろう。
国士舘大学:桑田てるみ(くわた てるみ)
(1) “新学習指導要領(本文、解説、資料等)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/index.htm [216], (参照 2011-07-01).
(2) “幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2009/05/12/1216828_1.pdf [217], (参照 2011-07-01).
(3) PISA調査で測られた読解力は、書かれたことを理解し、利用し、熟考する能力を指す。
(4) 杉本直美氏は、従来の読書指導は不十分であり、読書生活デザイン力の育成を指導目的とすべきとする。
杉本直美. 自立した読み手が育つ読書生活デザイン力: 子どもが変わる読書指導. 東洋館出版社, 2010, 209p.
(5) 心つながる喜びを シンポジウム「グループ読書のすすめ」. 朝日新聞デジタル. 2011-04-30.
http://digital.asahi.com/20110430/pages/ [218], (参照 2011-06-20).
(6) サルト, モンセット. 読書で遊ぼうアニマシオン: 本が大好きになる25のゲーム. 佐藤美智代ほか訳. 柏書房, 1997, 155p.
(7) 全国SLAの機関誌『学校図書館』では、早期にアニマシオンに関する特集が組まれた。当時の取り上げられ方は、「読書の楽しさ」「クイズ」などの文字が散見され、深く読むことに対する記載は少ない。
全国学校図書館協議会. 特集, 読書のアニマシオン. 学校図書館. 2001, 610, p. 15-49.
(8) サルト, モンセット. 読書へのアニマシオン75の作戦. 宇野和美訳. 柏書房, 2001, p. 304.
(9) 中谷陽子ほか. 読書へのアニマシオンの実践に関する研究. 白鷗大学教育学部論集. 2007, 1(1), p. 123-148.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels [219]〈=jp&type=pdf&id=ART0008478658, (参照 2011-07-01).
(10) 有元秀文. 必ず「PISA型読解力」が育つ七つの授業改革: 「読解表現力」と「クリティカル・リーディング」を育てる方法. 明治図書, 2008, 117p.
(11) 渡部康夫. 生涯にわたる読書生活の基礎を作り上げる読書指導: 読書へのアニマシオンの実践を通して. 学校図書館学研究. 2010, 12, p. 91-99.
(12) 足立幸子. スペインにおける「読書へのアニマシオン」の源流と拡大状況. 山形大学紀要(教育科学). 2004, 13(3), p. 195.
http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/2808 [220], (参照 2011-07-01).
(13) アニマシオンは、自由参加のために参加意思がない子どもへの指導ができない点、本を丸ごと一冊扱うために授業で全員分の本を集められない点など国語科教育の観点からの問題が指摘されている。
足立幸子. 読書指導方法論の探究: Literature Circlesの試み. 全国大学国語教育学会発表要旨集. 2002, 103, p. 102-105.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels〈=jp&type=pdf&id=ART0008367566 [221], (参照 2011-07-01).
(14) Raphael, Taffy E. et al. Book Club: A Literature-Based Curriculum. 2nd ed., Lawrence, Small Planet Communications, 2002, 296p.
(15) 有元秀文. 読解力が飛躍的に向上するブッククラブの実践入門: だれでも明日からできる七つのストラテジー. 明治図書, 2010, p. 14.
(16) 有元秀文. “第1章国際的な読書力を育てる日本型ブッククラブの指導法の開発: クリティカル・リーディングに重点を置いて”. 読書教育への招待: 確かな学力と豊かな心を育てるために. 国立教育政策研究所編. 東洋館出版社, 2010, p. 244-254.
(17) 有元秀文. 「PISA型読解力」の弱点を克服する「ブッククラブ」入門. 明治図書, 2010, 143p.
(18) 有元秀文. PISAに対応できる「国際的な読解力」を育てる新しい読書教育の方法: アニマシオンからブッククラブへ. 2009, 144p, (シリーズ学校図書館).
(19) “第42回近畿学校図書館研究大会(滋賀・守山大会)の ご案内”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/seminar/42kinki.html [222], (参照 2011-07-01).
(20) 足立幸子氏は、LCに関する論文を多数発表している。たとえば以下の論文がある。
足立幸子. リテラチャー・サークル: アメリカの小学校のディスカッション・グループによる読書指導方法. 山形大学教育実践研究. 2004, 13, p. 9-18.
足立幸子. 特集, 読書活動と学校: 今、学校での読書を考える: 米国の読書活動. 日本語学. 2005, 24, p. 156-165.
(21) ダニエルズ氏は、LCに関して1994年に初版、2002年には第2版を出版している。
Daniels, Harvey. Literature Circles: Voice and Choice in Book Clubs and Reading Groups. 2nd ed., Portland, Stenhouse Publising, 2002, 260p.
(22) 学校図書館へのLCの導入について触れる記事には以下のようなものがある。
小熊真奈美. リテラチャー・サークルのためのブックトーク. 学図研ニュース. 2010, 294, p. 6-9.
二井依里奈. “図書委員会で読書会をしました”. 田園調布学園ブログ. 2010-06-02.
https://www.int-acc.net/chofu/2010/06/02/ [223], (参照 2011-07-01).
竹村和子. 「一人読み」から読書の交流へ. 学校図書館. 2011, 730, p. 31-33.
(23) 「読んで、書いて、話し合う読書の時間」(足立幸子)でLCが紹介された。その他の手法では「『読書へのアニマシオン』への招待: みんなで同じ本を読むということ」(鈴木淑博)、「読書体験を共有し、発展させる読書会」(長尾幸子)などがある。
全国学校図書館協議会. 特集, 読書へ誘う手法. 学校図書館. 2009, 706, p. 16-52.
(24) “読書会コーディネータ講習会ご案内”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/seminar/dokusyokaicoordinator.html [224], (参照 2011-07-01).
(25) “第2回どくしょ甲子園”. どくしょ応援団.
http://www.asahi.com/shimbun/dokusho/koshien/ [225], (参照 2011-07-01).
(26) 役割は、ハーベイ(Stephanie Harvey)氏が考案した読書の6つの戦略(1)読んだことを何かに結び付ける(2)疑問を持つ(3)目に見えるようにする(4)推論する(5)重要な部分をとらえる(6)統合する、にもとづいて作られている。
足立幸子. リテラチャー・サークル: アメリカの小学校のディスカッション・グループによる読書指導方法. 山形大学教育実践研究. 2004, 13, p. 9-18.
Harvey, Stephanie et al. Strategies That Work: Teaching Comprehension to Enhance Understanding. Portland, Stenhouse Publishers, 2000, 328p.
(27) Daniels, Harvey. Literature Circles: Voice and Choice in Book Clubs and Reading Groups. 2nd ed., Portland, Stenhouse Publising, 2002, p. 23.
(28) Daniels, Harvey. Literature Circles: Voice and Choice in Book Clubs and Reading Groups. 2nd ed., Portland, Stenhouse Publising, 2002, p. 27.
(29) キー・コンピテンシーの3つの広域カテゴリーは、「相互作用的に道具を用いる」「自律的に活動する」「異質な集団で交流する」である。
新潟大学ほか. “知識社会を支える読書力育成の読書指導教員研修プログラムの開発”. 教員研修センター. 2007.
http://www.nctd.go.jp/lecture/model/PDF/kadai/h19_kd3.pdf [226], (参照 2011-06-06).
(30) カルキンズ, ルーシー. リーディング・ワークショップ: 「読む」ことが好きになる教え方・学び方. 吉田新一郎ほか訳. 新評論, 2010, 244p. (シリーズ・ワークショップで学ぶ, 3).
これは下記カルキンズ氏の著作の一部翻訳である。
Calkins, Lucy. The Art of Teaching Reading. New York, Longman, 2000, 580p.
(31) 小坂敦子. 特集, 本好きを育てる!読書教育最前線: リーディング・ワークショップのいま: 本当の読み手を育てる. 授業づくりネットワーク. 2010, 301, p. 16-18.
(32) カルキンズ, ルーシー. リーディング・ワークショップ: 「読む」ことが好きになる教え方・学び方. 吉田新一郎ほか訳. 新評論, 2010, p. 94. (シリーズ・ワークショップで学ぶ, 3).
(33) ラファエル氏は、集団的な討議での教師の関わりについての5段階「明示的な指導」「モデリング」「足場作り」「ファシリティティング」「参加」を提示している。
Raphael, Taffy E. “Balancing literature and instruction: Lessons from the book club project”. Reading for Meaning: Fostering Comprehension in the Middle Grades. Barbara, M. Taylor et al. New York, Teachers College Press, 2000, p. 70-94.
(34) 有元氏が提唱する日本型BC、ラファエル氏が提唱するBCとも異なる。
(35) カルキンズ, ルーシー. リーディング・ワークショップ: 「読む」ことが好きになる教え方・学び方. 吉田新一郎ほか訳. 新評論, 2010, 244p. (シリーズ・ワークショップで学ぶ, 3).
(36) 第27回学校図書館問題研究会兵庫大会のシンポジウムで、パネリストの郡山市立行健第二小学校司書教諭・小熊真奈美氏の発表で、RWの実践が紹介された。この実践は以下の資料に掲載されている。
郡山市小学校教育研究会 学校図書館教育研究部. 平成22年度 小教研学校図書館教育研究部 研究集録. 2011. 64p.
(37) 野口久美子. 小学校・中学校における読書指導の実践に関する報告記事の分析: 全国学校図書館研究大会を事例として. Library and Information Science. 2009, (62), p. 111-143.
(38) Daniels, Harvey. Literature Circles: Voice and Choice in Book Clubs and Reading Groups. 2nd ed., Portland, Stenhouse Publising, 2002, p. 97.
(39) 米国の学校図書館のガイドラインには、「すでに持っている知識を踏まえて新しい情報を理解する」、「読書の前、途中、後にテキストについて質問する」、「テキストから推論を導く」、「テキストから関連づける」などの、アニマシオン、BC、LC、RWでも求められた読書戦略が提示されている。
アメリカ・スクール・ライブラリアン協会(AASL)編.学校図書館メディアプログラムのためのガイドライン. 全国SLA海外資料委員会訳. 全国学校図書館協議会, 2010, 67p., (学習者のエンパワーメント, 2).
American Association of School Librarians. Empowering Learners: Guidelines for School Library Programs. Chicago, AASL, 2009, 64p.
(40) 読書と情報リテラシーとの乖離の問題、または関連性を指摘する、次のような複数の論考がある。
金沢みどり. 特集, 学習指導と学校図書館: PISA型「読解力」と情報活用能力の育成. 学校図書館. 2007, (680), p. 15-17.
杉本洋. 特集, PISA型読解力の向上を目ざす学校図書館・6: 情報リテラシー教育を通して育成するPISA型「読解力」<1>. 学校図書館, 2008, (695), p. 53-56.
岩崎れい. “4.3 子どもの読書に関する教育学的研究”. 子どもの情報行動に関する調査研究. 国立国会図書館, 2008, p. 72-80. (図書館調査研究レポート, 10).
http://current.ndl.go.jp/files/report/no10/lis_rr_10.pdf [227], (参照 2011-07-01).
米谷優子. 日本における読書教育と読書推進策: 情報リテラシー教育との関連から. 園田女子学園大学論文集. 2011, (45), p. 19-39.
http://www.sonoda-u.ac.jp/tosyo/ronbunsyu/%E5%9C%92%E7%94%B0%E5%AD%A6%E5%9C%92%E5%A5%B3%E5%AD%90%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E8%AB%96%E6%96%87%E9%9B%8645/45.PDF [228], (参照 2011-07-01).
(41) Ogle, Donna M. K-W-L : A teaching model that develops active reading of expository text. The Reading Teacher, 1986, 39(6), p. 564-570.
(42) 桑田てるみほか.思考力の鍛え方: 学校図書館とつくる新しい「ことば」の授業. 静岡学術出版, 2010, 241p.
(43) 雑誌『学校図書館』号(2011年8月号)では、読書会に関する特集が組まれた。
全国学校図書館協議会. 特集, 読書をより豊かにする読書会. 学校図書館. 2011, 730, p. 15-45.
(44) 寺田守氏は、LCの根幹は「児童中心主義」であり構成主義的なリテラシーモデルを反映しているとする。
寺田守. 読むという行為を促す小集団討議の条件: 「ブッククラブ」および「リテラチャー・サークル」の検討を中心に. 教育学研究紀要. 2003, 49, p. 495-500.
(45) 山元隆春氏は、ディ(Day)氏のLCに関する著作が読者反応理論や個人的構成、社会的構成の過程に関する議論を踏まえていると指摘した。
山元隆春. リテラチャー・サークル実践に関する一考察: Moving forward with literature circles(2002)の検討を通して. 教育学研究紀要. 2003, (49), p. 501-506.
Day, Jeni P. et al. Moving Forward with Literature Circles: How to Plan, Manage, and Evaluate Literature Circles the Deepen Understand and Foster a Love of Reading. New York, Scholastic, 2002, 176p.
(46) 足立幸子氏は、思考としての読書研究、読者反応・文芸批評、構成主義理論、足場設定理論、バランスのとれた指導などの読書の理論的背景を整理している。
足立幸子. リテラチャー・サークル: アメリカの小学校のディスカッション・グループによる読書指導方法. 山形大学教育実践研究. 2004, (13), p. 9-18.
(47) RW提唱者は読者反応論の影響を受けたとされる。
カルキンズ, ルーシー. リーディング・ワークショップ: 「読む」ことが好きになる教え方・学び方. 吉田新一郎ほか訳. 新評論, 2010, p. 185. (シリーズ・ワークショップで学ぶ, 3).
(48) RW提唱者のカルキンズ氏は、ホール・ランゲージの提唱者であるグッドマン(Kenneth Goodman)氏の著作を多数参照していることから、ホール・ランゲージにも影響を受けたと考えられる。
Calkins, Lucy. The Art of Teaching Reading. New York, Longman, 2000, 580p.
桑田てるみ. 学校・学校図書館を取り巻く新しい読書活動-集団的・戦略的読書の視点から-. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1752, p. 9-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1752 [229]
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大学キャンパスの中で、オープンアクセス(Open Access:OA)はどれくらい浸透しているのだろうか。どのような実践があり、いかなる成果が上がっているのだろうか。本稿では、研究者や大学の戦略、学術情報流通の新しいビジネスモデル構築に大学図書館がどう貢献していくかという観点から、大学キャンパスの中で取り組まれている代表的なOA活動を紹介し、今後の展望を考える。
本論に入る前に、OAとは何かについておさらいをしておきたい(CA1543 [234]参照)。2002年2月、ブダペスト・オープンアクセス運動(Budapest Open Access Initiative:BOAI)(1)によるブダペスト宣言で「査読済み論文に対する障壁なきアクセス」を目指すOAが提唱された。日本では2009年3月に国立大学図書館協会が「オープンアクセスに関する声明」(2)を出している。
OAの実現策は、OAジャーナルを刊行すること(Gold Road)、研究成果のセルフ・アーカイビング(Self Archiving:SA)を促進すること(Green Road)の2つの戦略がある(3)。Gold Roadは出版費を購読料ではなく助成金や出版料で賄うもので、ジャーナル単位でOA化するもの、著者が論文単位でOA費を負担するものがある(4)。Green Roadはリポジトリと呼ばれるインターネット上のサーバに著者が論文を登録(SA)し無料で公開するもので、arXiv.orgなどの分野別リポジトリ、米国国立衛生研究所(NIH)のPubMed Centralなど政府主導で公的助成機関が運営する中央リポジトリ、機関リポジトリ(Institutional Repository:IR)などがある。
2011年7月現在、世界では6,700誌以上のOAジャーナルが発行(5)され、IRは2,000近く立ち上がり(6)、うち約200のIRが日本の大学などで運営(7)されている。このように着実にOAが広がっている背景には、大学キャンパス内での様々なOA推進活動(アドヴォカシー活動)がある。
Green Roadのうち、大学として直接コミットするのはIRである。米国ロチェスター大学では、当初論文のSAが進まなかったため、2004年に「より多くのコンテンツをIRに集めるために教員を理解する」ことを目的とし、教員への丹念なインタビューと分析を行った(CA1709 [235]参照)。その結果、リポジトリの設計やマーケティングにおいて教員中心のアプローチをすれば、IRは魅力的で有用なツールになりうると結論し、「著者ページ」を作るなど、教員の要求に合わせシステムを拡張した(8) (9)。Registry of Open Access Repositories(ROAR)(10)によるとロチェスター大学のIRのコンテンツ数は順調に伸びており、教員中心のアプローチの効果が見て取れる。
日本でも、研究者のニーズが重要という認識のもと、研究室を訪問し教員に図書館全体への要望を伺いつつIRのマーケティングを行う「御用聞き」や、コンテンツ収集に応じてくれた著者への「キリ番インタビュー」などのアドヴォカシー活動を行っている図書館がある。また、ILL文献複写依頼サービスとIRを補完的に位置付け、文献供給パフォーマンスを向上させることを目的としたIRcuresILL(11)は、教員に「自分の論文に対する需要がある」ことを知らせ、OA化のきっかけとする効果も狙ったプロジェクトである。
日本では、国内外の事例やノウハウを共有するデジタルリポジトリ連合(DRF)(12)などの互恵コミュニティ活動が活発で(13)、その成果はDRFの報告書“hita-hita”(14)により海外にも紹介され、国際的な場においても情報共有が進んでいる。
大学がトップダウンでOA方針を決定し、SAを促すケースも増えている。2011年7月現在、ROARMAP(15)には209のOA方針が登録されている。
そもそもなぜ、OA方針が必要なのだろうか。2010年12月10日に開催されたシンポジウム「大学からの研究成果オープンアクセス化方針を考える」(16)において、ハーバード大学教授で同大学の学術コミュニケーションオフィスのディレクターを務めるシーバー(Stuart M. Shieber)氏が講演した内容(17)から見ていく。
ハーバード大学では「大学の学術的成果物を可能な限り広範に普及させるという普遍的目標」を掲げている。目的の達成のためには「学術出版システムとの連携が不可欠」であるが、「現在の購読料ベースのシステムには機能不全」があり、その解決の手段としてOA方針が必要なのだという。
「機能不全」の要因は2つある。1つは、商業出版社によるジャーナル価格のハイパーインフレと、それに伴う図書館におけるジャーナルの購読中止、論文へのアクセスの減少(いわゆるSerials Crisis)である。もう1つは、経済学者が「モラルハザード」(18)と呼ぶ現象である。電子ジャーナルの場合、購買者は大学図書館、商品は論文へのアクセス、消費者は研究者や学生など図書館の利用者である。利用者は論文へのアクセスという商品の消費者ではあるが購買者ではない。図書館が利用者の代理で購読料を払っているがために、費用を直接負担しない消費者はコスト意識が欠如し、需要が過剰になるなどの問題が生じる。
これらの「機能不全」を解決するために、ハーバード大学は2つの方策を実践している。1つは短期的方策「学部ごとの権利保持OA方針」で、もう1つは長期的方策「持続的なビジネスモデルのサポート」である。
ハーバード大学の短期的方策であるOA方針は、3つの項目を持つ。
(1)許可:学部の全教員は、学長に対し論文の使用とその著作権の行使の許可を与える。
(2)適用免除:教員から明示的な意思表示があった場合は、特定の論文に対して方針の適用を免除する。
(3)登録:学部の全教員は、出版日までに各論文の著者最終稿の電子版を提供する。
(1)と(2)により、著者である教員は自身の論文の扱いを自分自身で決めることができる。
ハーバード大学は、方針採択後、(3)の受け皿となるIR(DASH)を構築した。学生(オープンアクセスフェロー)による論文登録作業が始まったことも相まって、コンテンツ数は2009年1月から急激な伸びを見せている。それに対し、OA方針が適用免除される論文は圧倒的に少ない。重要なのは、(2)がオプトアウト(明確に放棄しない限り権利を保持する)方式で、教員が最も負担の少ない方法をとれば大学は最大の権利を保持する点である。2009年9月にDASHが一般公開されると、「論文は驚くほどよく利用された」とのことで、「大学の学術的成果物を広範に普及させる」という目標の実現に貢献している(19)。方針採択には2年の歳月と大変な労力を要したとのことだが、それに見合う成果は上がったと言えるだろう。
講演はこのあと長期的方策の話題になるが、詳細は第5章で述べることとし、その他の特徴的なOA方針の取組みを紹介する。
カンザス大学で学術コミュニケーション担当司書を務めるエメット(Ada Emmett)氏の「カンザス大学のOA方針に関するコンセンサスの構築」(20)によると、方針の内容はハーバード大学などと同様だが、特筆すべきは採択までのプロセスにあるという。2009年から2010年にかけて20回以上の公開会議に200名を超す教職員が参加し、2010年2月に方針と実施関連文書の最終草案が大学評議会に提出され、原案どおり採択された。OA方針の採択は、教職員(図書館員を含む)、大学評議会を交えた広範な共同作業の成果であったと言える。
IRは、大学の中で得てして図書館だけの孤独な活動になりがちである。カンザス大学のように、全学を巻き込んだ活動に持って行くには、どのような工夫が必要なのだろうか。
ハーバード大学やカンザス大学などの経験を踏まえ、SPARC(21)のベイカー(Gavin Baker)氏は「OAについて大学評議会と協同するためのアドバイス」(22)をまとめている。もっとも重要なのは「政治的な努力をせよ」ということで、具体的に以下の事項が述べられている。
これらのアドバイスは、OA方針に限らず、大学のトップ層に働きかける全てのケースで応用できそうだ。
学長自らリーダーシップを発揮している事例もある。ベルギーのリエージュ大学では、研究評価とIRの連携で成功した。終身在職権や昇進の審査に対してエビデンスを提供する唯一の方法をIRへの登録としたことで、コンプライアンスの徹底につながっている。学長のレンティエール(Bernard Rentier)氏によると(23)、IR(ORBi)に登録されていない業績は、研究評価の対象としてカウントされないというメカニズムが功を奏し、14か月で約30,000件のメタデータと20,000件以上のフルテキストが集積されたという。ROARで見ても、ORBiは世界で最も“Activity”の高いIRとなっている。
日本では、「研究成果をIRで公開することを学内全ての研究者に『強く推奨』」している北海道大学の事例があるが、大学や学部として義務化を伴うOA方針を採択した事例は今のところ見られない。
今後、日本の科学政策の中で研究成果の公開が義務付けられるようなことがあれば状況は変化するだろう。大学としての方針(Policy)と、研究費や研究成果公開の在り方に関する政策(Policy)の両方が必要(24)である。また、たとえ制度化したとしても、その制度に実効性を与えるために、アドヴォカシー活動はより一層重要になるだろう。
これまで見てきたように、OA方針がIRの推進に寄与することは確かだ。しかし、シーバー氏は従前の講演において「IRはジャーナルの代わりになるものではなく、アクセスを補完するものであり、これまでの購読料ベースの学術出版における根本的な機能不全に対応するものではない」と指摘し、長期的方策について述べている(25)。
出版料モデルにおいて、研究者は読者としてではなく、著者としての役割に基づいて対価を支払う。一方、購読料モデルのジャーナルは読者からコスト回収しており、多くの場合著者は対価を支払う必要がない。
ハーバード大学の長期的方策であるCOPE(26)は、著者が投稿先を決定する際に出版料モデルのOAジャーナルと購読料モデルのジャーナルの公平性を確保する必要があるとの考えから生まれた協定で、大学がこれまで購読料を支払っていたように、大学が出版料を支払うことを保証し、OAジャーナルを育成しようという取り組みである。2011年7月現在、ハーバード大学やマサチューセッツ工科(MIT)など北米の大学を中心に14機関が協定にサインしているが、参加機関数がクリティカルマスに達しておらず、残念ながら具体的な成果は上がっていない。また、「どのOAジャーナルがCOPE対象誌としての資格があるのか」「購読料モデルのジャーナルを買い続けながら、COPE基金を維持するのは、大学にとって多重投資ではないか」「適正なOA出版料が維持されるのか」といった懸念も示されている(27)。学術出版における根本的な機能不全を解決するには、多くの課題が残されていると言えるだろう。
なお、1本の論文をOA化するのに必要な経費は、Article Processing Charge(APC)と呼ばれ、多くの出版社が1,000~3,000ドルの間で料金設定をしている。出版料モデルは、APCによってジャーナル出版のコストを回収し、かつ一定の利益を出版社が確保するモデルだ。今後は、この料金の妥当性についての検証も必要だろう。
SCOAP3(28)は、高エネルギー物理学分野の査読論文のOAを実現するため、購読料をOA出版料に再配分(Redirection)するOAジャーナルの世界的なプロジェクトである。対象となるジャーナルの出版権を入札し、競争原理を働かせることで、現在支払っている購読料より安い出版料で既存のジャーナルをOA出版することを目指している。
2011年4月現在、全体予算額の7割以上に相当する国が関心表明書(Expression of Interest:EoI)に署名しており、出版社の調査や入札準備をする運営委員会が立ち上がっている。日本からは、一旦は参加を見送ったが、2010年7月に高エネルギー加速器研究機構(KEK)がSCOAP3への支援を表明(29)したこと、2010年10月にNIIと大学図書館間の連携・協力の推進に関する協定(30)が成立したことから参加に向けた検討が再開し、KEK、国立情報学研究所(NII)、国公私立大学図書館協力委員会の三者がEoIに署名する方向で調整が進んでいる。
ジャーナル出版の主体を研究者コミュニティ側に取り戻そうという試みに、世界中の知恵の結集が望まれる。
購読料モデルをベースとした学術出版における根本的な機能不全を解決するためには、IRを効果的に成長させるためのOA方針の策定や、新しいOAジャーナルビジネスモデルの構築などによって、OAをより一層推進する必要があり、着実に世界の大学キャンパスで浸透しつつある。
OA推進のためには、大学内(あるいは大学間、国際間)、その他全てのステークホルダーとの調整と交渉が不可欠であるが、大学の方針策定や予算の再配分に関与することは、政治的・技術的な困難を伴うであろう。それは従来の図書館の役割を超えることかもしれない。しかしながら、図書館がこの役割を放棄することは、「全ての資料を全ての利用者へ」届けるという図書館の使命を放棄することに他ならならないのではないだろうか。図書館は自ら、OA推進のための大学内における調整役を任じ、存在意義を示す必要があると考える(31)。
国立情報学研究所:森 いづみ(もり いづみ)
(1) Budapest Open Access Initiative.
http://www.soros.org/openaccess/index.shtml [236], (accessed 2011-07-02).
(2) 国立大学図書館協会. “オープンアクセスに関する声明: 新しい学術情報流通を目指して”. 国立大学図書館協会. 2011-03-16.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/operations/requests/statement_09_03_16.pdf [148], (参照 2011-07-02).
「オープンアクセスに関する声明」では、「学術研究成果への自由なアクセスは、学術研究推進の不可欠の要素であると共に、今後の科学や社会の発展の基盤である」とし、各ステークホルダー(政府及び公的助成機関、研究者、大学・研究機関、学協会、出版社、大学図書館)に対してOAの実現を呼びかけている。
(3) 尾城孝一. “オープンアクセス序論:概況報告”. 国際学術情報流通基盤整備事業. 2010-12-10.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/7/1_OA_introduction_final.pdf [237], (参照 2011-07-02).
(4) Gold Roadは、いわゆる著者払いモデル。出版料は投稿料や掲載料と表現されることもある。BioMed Centralなどジャーナル単位でOA化するもの、Nature Communicationsなど著者が論文単位のOA費を負担するものがある。
(5) Directory of Open Access Journals.
http://www.doaj.org/ [238], (accessed 2011-07-02).
(6) Directory of Open Access Repositories.
http://www.opendoar.org/ [239], (accessed 2011-07-02).
(7)“機関リポジトリ統計”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/statistic/irp_2011_statistic.html [240], (参照 2011-07-02).
(8) Foster, Nancy Fried et al. Understanding faculty to improve content recruitment for institutional repositories. D-Lib Magazine. 2005, 11(1).
http://www.dlib.org/dlib/january05/foster/01foster.html [241], (accessed 2011-07-08).
Foster, Nancy Friedほか. より多くのコンテンツを機関リポジトリに集めるために教員を理解する. D-Lib Magazine. 2005, 11(1).
http://www.nii.ac.jp/metadata/irp/foster/ [242], (参照 2011-07-02).
(9) Gibbons, Susan et al. “Studying Users to Design a Better Repository”. Digital Repository Federation. 2009-12-04.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=DRFIC2009&openfile=session3_susangibbons.pdf [243], (accessed 2011-07-02).
(10) “University of Rochester Digital Repository”. Registry of Open Access Repositories.
http://roar.eprints.org/2526/ [244], (accessed 2011-07-02).
(11) “IRcuresILL”. Digital Repository Federation.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?IRcuresILL [245], (参照 2011-07-04).
“IRcuresILL”のプロジェクト代表機関は小樽商科大学である。
(12) Digital Repository Federation.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/ [246], (参照 2011-07-02).
(13) 杉田茂樹ほか. The future is now: 実務担当者が作る機関リポジトリコミュニティ. 大学図書館研究. 2010, 90, p. 35-45.
(14) “hita-hita”のタイトルの由来は、IRを通じた日本のOA思潮の広がりのさまを形容した「ひたひたと地味に研究者に浸透していく」という言葉からである。
Digital Repositories Federation. “hita-hita: Institutional OA Advocacy in Japan”. 2011.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=Digital%20Repository%20Federation%20%28in%20English%29&openfile=hitahita2011.pdf [247], (accessed 2011-07-05).
(15) Registry of Open Access Repository Material Archiving Policies.
http://roarmap.eprints.org/ [248], (accessed 2011-07-02).
209のOA方針のうち、助成機関によるものは48、大学・学部によるものが161である。また、80機関が学位論文のOA化を制度化している。
(16) “シンポジウム「大学からの研究成果オープンアクセス化方針を考える」”. 国際学術情報流通基盤整備事業. 2011-01-07.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/20101210.html [249], (参照 2011-07-05).
(17) Shieber, Stuart M. “The Harvard Open-Access Policies”. 国際学術情報流通基盤整備事業.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/7/2_shieber.pdf [250], (accessed 2011-07-05).
(18) 消費者が商品のコストを支払う必要が無い場合には、消費者は過剰に消費する傾向があるという考え方。
(19) Shieber, Stuart M. “The Harvard Open-Access Policies”. 国際学術情報流通基盤整備事業.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/7/2_shieber.pdf [250], (accessed 2011-07-05).
(20) Emmett, Ada et al. Achieving Consensus on the University of Kansas Open-Access Policy. Research Library Issues. 2010, (269), p. 5-7.
http://www.arl.org/bm~doc/rli-269-emmett-peterson.pdf [251], (accessed 2011-07-02).
(21) SPARC. http://www.arl.org/sparc/ [252], (accessed 2011-07-05).
(22) Baker, Gavin. Open Access: Advice on working with faculty senates. College & Research Libraries News. 2010, 71(1), p. 21-24.
http://crln.acrl.org/content/71/1/21 [253], (accessed 2011-07-02).
(23) Poinder, Richard. “The OA Interviews: Bernard Rentier, Rector of the University of Liège”. Richard Poynder.
http://www.richardpoynder.co.uk/Rentier_Interview.pdf [254], (accessed 2011-07-02).
(24) 古賀崇. シンポジウム「大学からの研究成果オープンアクセス化方針を考える」に参加して. SPARC Japanニュースレター. 2011, (8), p. 10-11.
http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/newsletter/PDF/sj-NewsLetter-8.pdf [255], (参照 2011-07-05).
(25) Shieber, Stuart M. “The Harvard Open-Access Policies”. 国際学術情報流通基盤整備事業.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/7/2_shieber.pdf [250], (accessed 2011-07-05).
(26) COPEとは、OAジャーナル出版のために著者が支払う出版料を大学が負担する恒久的な仕組みを適切な時期に確立することを約束する大学の協定である。
Compact for Open-Access Publishing Equity.
http://www.oacompact.org/ [256], (accessed 2011-07-05).
(27) Shieber, Stuart M. “The Harvard Open-Access Policies”. 国際学術情報流通基盤整備事業.
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/pdf/7/2_shieber.pdf [250], (accessed 2011-07-05).
(28) SCOAP3. http://scoap3.org/ [257], (accessed 2011-07-05).
(29) “Japanese physicists support SCOAP3”. SCOAP3. 2010-08-05.
http://scoap3.org/news/news79.html [258], (accessed 2011-07-05).
(30) “世界有数の大規模コンソーシアムの誕生へ―電子ジャーナルの安定的な確保と提供に向けて―”.国立情報学研究所. 2010-10-13.
http://www.nii.ac.jp/news/2010/1013/ [259], (参照 2011-07-05).
(31) 今回、紙面の都合上触れなかったが、「大学キャンパスの中のオープンアクセス」においてOA出版プラットフォームとしてのIRの可能性は重要である。日本においては初期から紀要出版のプラットフォームとしてIRが活用されてきたが、ここ数年海外においても大学図書館の新たな機能として注目を集め、取組みが進んでいる。例えば、SPARCのCampus-based Publishing Resource Centerなど.
Welcome to the Campus-based Publishing Resource Center.
http://www.arl.org/sparc/partnering/ [260], (accessed 2011-07-05).
IRと出版関連プロジェクトの進捗と普及にも期待したい。
クラウド環境における電子出版・リポジトリ連携実証実験. NAGOYA Repository Labs.
http://info.nul.nagoya-u.ac.jp/pubwiki/index.php?ERC2 [261], (参照 2011-07-05).
森いづみ. 大学キャンパスの中のオープンアクセス. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1753, p. 14-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1753 [262]
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近年、英国の図書館界では、公共図書館における電子書籍の提供について、盛んに議論が行われている。これは主に、大手のオンライン書店アマゾン社によるキンドル(Kindle)を始めとして様々な読書端末が市場に出回るようになった結果、電子書籍が急激に人々の間に浸透しつつあるためである(1)。最近の同国の調査では、約650万人(成人人口の約13%)が読書端末を所持していると推定されている(2)。
また、公共図書館のなかにも、電子書籍を提供する所が増えてきている。図書館・情報専門家協会(CILIP)のブラッドリー(Phil Bradley)氏によれば、2011年の時点で、約4分の1の自治体が電子書籍を扱っているという(3)。2010年3月に発表された文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture Media and Sport:DCMS)の政策文書「公共図書館の現代化レビュー」でも、様々な端末を利用して電子書籍を読むことが一般的になりつつある現状を踏まえ、「公共図書館は、地元コミュニティおける電子書籍貸出サービスの展望と要望を評価し、戦略を練るべき」と勧告している(4)。しかし、公共図書館による電子書籍の提供が次第に広まるにつれ、同国の公貸権制度の対象に電子書籍が含まれていないという事実が問題視されるようになってきた。
公貸権とは「図書館における著作物の自由な利用について、その対価を受けとる著者の権利」のことで、2011年7月現在、欧州を中心に約30か国で導入されている(5)。公貸権制度の目的は国ごとに異なり、自国語で書かれた文学の保護や著者の生活保障を制度の主目的としている国もあれば、図書館による図書の貸出が書籍の売り上げに影響を与えているという前提にたち、著者に対する補償の仕組みとして制度を運用している英国のような国もある(CA1579 [269]参照)。また、制度の中身も様々で、対象となる著作物の範囲についても、印刷体の図書のみに限定している国が半数近くを占めている一方で、オーディオブックや音楽作品等まで対象としている国も少なくない(6)。この点、英国の公貸権制度は、1979年に導入されて以来、つい最近まで印刷体の図書のみを対象としてきた。しかし、公共図書館による録音図書や電子書籍の提供が一般的になりつつある現状にそぐわないという理由で、2010年の「デジタル経済法」(Digital Economy Act 2010)(7)制定により、制度の対象がオーディオブックならびに電子書籍にまで拡張された(もっとも、後述するように、まだ実施には至っていない)。
以下、本稿では、英国における公貸権制度の近年の動向を、この「デジタル経済法」による制度改正、ならびに政府の財政難と関連づけて紹介していきたい。
前ブラウン労働党政権は、デジタル経済の重要性に鑑み、2008年10月からICTに関する国家戦略の策定に着手した。ビジネス・技術革新・技能省(Department for Business, Innovation and Skills)とDCMSは、共同で委員会を設置して関係行政機関ならびに専門家・有識者らを集め、包括的なICT戦略の立案を行わせた。その成果をまとめたものが、2009年6月に刊行された「デジタル・ブリテン最終報告書」(Digital Britain Final Report)(8)である。
同報告書は、世界をリードするデジタル知識経済の一つとしての英国の地位を確立することを目的としたもので、ブロードバンドの基盤整備・普及からネット上の著作権侵害まで様々な事項を扱っている(9)。特に、第4章では、デジタル世界における創造産業のあるべき姿について検討しているが、公貸権についても「(制度の)主な問題点は、当初の法律がいわゆる『図書』にしか言及していないために、オーディオブックや電子書籍等、公共図書館にとって重要性を増しつつあるその他のフォーマットの出版物が法の対象から外れていることだ」と指摘している(10)。
同報告書のなかで公貸権制度が取り上げられた背景には、権利者側からの強い働きかけがあった。その中心的な役割を果たしたのが、公貸権制度の導入を求めるキャンペーンの一環として設立され、現在では協定を結んでいる他の欧州諸国から公貸権料を徴収する役割を担っている作家ライセンス・徴収協会(Authors’ Licensing & Collecting Society:ALCS)や、作家の権利を代表することを趣旨に2007年11月に設立された超党派作家連盟(All Party Writers Group:APWG)である。APWGは、公貸権制度の改革を目標としたロビー活動の一環として、2008年7月に文化・メディア・スポーツ担当大臣と会談し、公貸権制度の見直しの可能性を打診した(11)。それが好感触であったことから、その後、APWGはALCSと協力して公貸権制度を非印刷体書籍にまで拡張することを求める提案書をまとめ、政府に提出した。「デジタル・ブリテン最終報告書」において、政府はこの提案を支持し、早い機会に法改正を検討することを約束した(12)。
2009年8月には、この「デジタル・ブリテン最終報告書」で提案されたビジョンを政策として実施するために「デジタル・ブリテン実施計画」が発表された。この「実施計画」では、「デジタル経済法案」の策定を含む18のプロジェクトが設定された(13)。
DCMSでは、2009年の7月末から10月半ばにかけて、公貸権の対象を非印刷体書籍にまで拡張することの是非について意見を公募(14)し、APWGやALCS、CILIP、英国出版社協会(PA)等を含む26の関係団体・個人が意見を寄せた。大半は公貸権制度の改革を支持していたが、どの程度まで制度の対象を広げるべきかについては意見が分かれた(15)。
CILIPやその他の図書館関係団体は、公共図書館における非印刷体書籍の重要性が高まっているにも関わらず、印刷体の書籍のみが公貸権制度の対象となっているのは不公平であると制度改革の必要性を認めた。また、図書館が非印刷体書籍を貸し出すには、著作権法上の貸与権との関連でライセンスの取得が必要であるが、公貸権を非印刷体書籍にまで拡張することで、手間のかかるライセンス契約の必要がなくなる(公貸権料の支払いがライセンス契約に取って代わる)ことを期待する声もあった(16)。
また、ALCSを始めとする権利者側も、CDのように、物理的な形のあるオーディオブックを新たに制度の対象に含めることについては、基本的に賛同する立場をとった。しかし、デジタルファイルの形で提供される電子書籍等については、複製をつくるのが容易であること、「貸出」の定義が明確でないこと、複数の利用者が同時に同じ本にアクセスすることを認めれば、本の売り上げにも影響すること等から、公共図書館でそうした書籍を提供すること自体に懸念を示した(17)。
同様に、PAは、図書館がオーディオブックのCD等を貸し出すことについては、きちんした管理体制と技術面での対策によって、複製されることなく確実に図書館に「返却」されるのであれば理解できるとしたものの、図書館がデジタルファイルの形で書籍を提供することには強い反発を表明した(18)。
DCMSでは、寄せられた意見を検討したうえで、「公貸権をデジタルファイルにまで拡張すべきではないという意見もあったが、図書館は技術の進歩とともに進化し、利用者の望みとあれば資料を電子フォーマットで貸し出せるようでなければならない」と結論付けた。そして、非印刷体書籍を公貸権制度に組み込むための規定を、当時準備中であったデジタル経済法に盛り込むことを決めた(19)。
デジタル経済法は、先に述べた「デジタル・ブリテン最終報告書」の内容を政策として実施するためのもので、2010年4月に成立した。その内容は、(1)情報通信基盤の整備促進、(2)ネット上の著作権侵害対策、(3)ドメイン名の管理と配分、(4)放送制度の改変、(5)電波利用、(6)ビデオゲームの年齢制限分類の変更、(7)公貸権の対象拡大、(8)著作権侵害への罰則等を含んでいる(20)。公貸権に関する新規定は、デジタル経済法の第43条に盛り込まれた。
そもそも、改革前の公貸権制度は、1979年に制定された「公貸権法」(Public Lending Right Act 1979)(21)と、制度の具体的な運用方法を定めた「実施要綱」(Public Lending Right Scheme 1982)によって規定されていた。導入当初は、印刷体の書籍の著者のみを対象とした制度であったが、幾度もの細かい修正の結果、支払いを受ける資格のある者の範囲は格段に広がり、デジタル経済法成立前の時点では、著者のほかにイラストレーターや写真家、翻訳者、編集者、改作者等、様々な役割の者達も制度の対象となっていた。この点を踏まえて、変更の要点を簡単にまとめると以下のようになる(22)。
要するに、利用者が図書館に出向いてオーディオブックや電子書籍を借りた場合、その書籍の形態に関わらず、権利者には公貸権制度に基づいた支払いが行われる。しかし、利用者が図書館以外の場所から書籍をダウンロードした場合、それは「貸出」とは見なされず、したがって公貸権制度による支払いの対象とはならない。公共図書館が電子書籍等へのリモートアクセスを利用者に提供する場合は、従来どおり、ライセンス契約が必要とされる。
デジタルファイル形式のものも含め、オーディオブックや電子書籍を公貸権制度の対象とするという今回の改正について、ALCSの最高責任者アトキンソン(Owen Atkinson)氏は、「これはずっと前に行われてしかるべき改正であった。もう既に何千人もの著者が、公共図書館によるオーディオブックや電子書籍の貸出に対する報酬をもらいそこなってきたのだから」と評した(23)。しかし、中央政府の財政難により、新制度の実施は当面見送られることが決まっている(24)。
次章では、政府の財政状況が公貸権制度に及ぼしている影響について見ていきたい。
2008年、リーマン・ショックの余波をまともに受けた英国は深刻な不況に突入し、2009-2010年度の政府の赤字財政は約1,600億ポンドにも達した(25)。こうした状況を受け、2010年5月に成立した連立政権は公的支出の大幅な削減を断行したが、現在でも景気の低迷は続いている。
不況の影響は英国社会の色々なところに表れているが、公共施設に対する補助金の削減に伴い、各地で図書館の閉鎖が相次いでいるのも、その一例である(26)。そして、制度導入以来、比較的順調に伸びてきた公貸権制度の予算も、政府の財政難を受けてカットされた。
そもそも、公貸権制度の財源については、1979年の公貸権法で定められた通り、国が創設した中央基金によってまかなわれている(27)。この中央基金はDCMSからの補助金で成り立っており、基金の分配等の業務を担当している公貸権事務局(Public Lending Right Office)によって管理運営されている。補助金の額は、DCMSと公貸権事務局の合意に基づいて決定されることになっている。2011年から2015年にかけての補助金の額は次のとおりである(28)。
2011-2012年度:722万ポンド
2012-2013年度:708万ポンド
2013-2014年度:698万ポンド
2014-2015年度:696万ポンド
中央基金への補助金の削減は、DCMSの予算自体が大幅に削られているためで、公貸権制度のみが補助金カットの対象とされているわけではない。
しかしながら、このような状況では、先述したデジタル経済法による制度改革の実現が非常に困難であることも事実である。政府の試算によれば、非印刷体書籍の権利者への支払いを行うためには、制度の移行に伴う一時金6万ポンドに加え、毎年30万ポンド程度の追加資金が必要となるという(29)。
また、中央基金の縮小は、現行の制度のもとで支払いを受ける権利のある者達が受け取る報酬額にも影響を及ぼしている。報酬の支払いを受けるには、公貸権事務局への登録が必須であるが、助成金の減額とは対照的に、登録者の数は毎年平均1,200名ほどの割合で増え続けている(30)。支払い額は、サンプル図書館における貸出回数をもとに書籍ごとの総貸出回数を算出し、それに貸出1回あたりの単価を掛け合わせることによって算定されるが、制度導入から2010年まで、この貸出1回あたりの単価は、時に停滞こそすれ、決して下がることはなかった。しかし、2011年には初めて、前年の6.29ペンスから6.25ペンスに引き下げられた(31)。今回はわずかな減額にとどまったが、それでも権利者からの批判がなかったわけではない(32)。今後、この単価がどのように推移していくのか、注目される。
公貸権制度に関するその他の主要な変化を一つ挙げるとすれば、それは制度の運営を30年以上に亘って担ってきた公貸権事務局自体の廃止が決定したことであろう。これは、効率性・透明性の向上のために公的団体の数を削減するという政府の方針によるもので、事務局の機能自体は、新しい団体に引き継がれることになっている(33)。今後、どこがどのように公貸権事業の運営を引きついでいくのかについての詳細は、2011年7月現在、まだ明らかでない。
以上、本稿では英国における公貸権制度の動向を紹介してきたが、公共図書館における電子書籍の提供自体、まだ始まったばかりで、未解決の問題が山積みである。電子書籍のフォーマットや利用条件の統一等のテクニカルな問題に加え、パソコンや電子書籍端末を持っていない利用者への対応も忘れる訳にはいかない。また、2010年にPAが発表した公共図書館における電子書籍の貸出に関する声明(E1119 [270]参照)をみても明らかなように、図書館の電子書籍サービス、とりわけ書籍の遠隔ダウンロードサービスに対する出版社側の不安は根強い(34)。重要なのは、関係するすべてのセクターが協力し合い、電子書籍の特性を活かしたシステムの構築をしていくことであろう。デジタル経済法による制度改革がどのような形で実現されるのか、今後の動向を見守っていきたい。
元シェフィールド大学東アジア研究所講師:カオリ・リチャーズ
(1) 英国出版社協会のデータによると、協会に属している出版社の2010年の電子書籍の売り上げの合計(これにはオーディオブックのダウンロード等も含まれる)は、前年から38%増の約1億8,000万ポンドで、書籍全体の売り上げのおよそ6%を占めると推定されている。
“Publishers Association reveals accelerated growth in 2010 digital book market”. Publishers Association. 2011-05-03.
http://www.publishers.org.uk/index.php?option=com_content&view=article&id=1755 [271], (accessed 2011-07-29).
(2) Jones, Philip. “E-reader market doubles over Christmas in the UK”. Bookseller.com. 2011-02-09.
http://www.thebookseller.com/news/e-reader-market-doubles-over-christmas-uk.html [272], (accessed 2011-07-06).
(3) Say, Mark. “Public libraries open doors for e-books”. Guardian. 2011-04-14.
http://www.guardian.co.uk/government-computing-network/2011/apr/14/public-library-ebook-service-grows-cilip-lincolnshire [273], (accessed 2011-07-02).
(4) Department of Culture, Media and Sport.“The modernisation review of public libraries: A policy statement”. Official Documents. 2010-03.
http://www.official-documents.gov.uk/document/cm78/7821/7821.pdf [274], (accessed 2011-07-26).
(5) Public Lending Right International.
http://www.plrinternational.com/ [275], (accessed 2011-07-28).
(6) “PLR systems around the world: Some basic facts”. Public Lending Right International. 2010-04.
http://www.plrinternational.com/plraroundtheworld.pdf [276], (accessed 2011-07-26).
(7) “Digital Economy Act 2010”. Legislation.gov.uk.
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2010/24/contents [277], (accessed 2011-07-06).
(8) Department for Culture, Media and Sport and Department for Business, Innovation and Skills. “Digital Britain Final Report”. Official Documents. 2009-06.
http://www.official-documents.gov.uk/document/cm76/7650/7650.pdf [278], (accessed 2011-07-04).
(9) 山口広文. 英国における情報通信政策の最近の動向―「デジタル・ブリテン」報告書と「2010年デジタル経済法」を中心に. レファレンス. 2010. (715), p. 1-20.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/pdf/071501.pdf [279], (参照 2011-06-27).
(10) Department for Culture, Media and Sport and Department for Business, Innovation and Skills. “Digital Britain Final Report”. Official Documents. 2009-06.
http://www.official-documents.gov.uk/document/cm76/7650/7650.pdf [278], (accessed 2011-07-04).
(11) “ALCS lobbying activities on the Digital Economy Bill”. Authors’ Licensing and Collecting Society. 2009.
http://www.alcs.co.uk/Authors--rights/Lobbying-and-submissions/The-Digital-Economy-Bill [280], (accessed 2011-07-24).
(12) Department for Culture, Media and Sport and Department for Business, Innovation and Skills. “Digital Britain Final Report”. Official Documents. 2009-06.
http://www.official-documents.gov.uk/document/cm76/7650/7650.pdf [278], (accessed 2011-07-04).
(13) Department for Culture, Media and Sport and Department for Business, Innovation and Skills. “Digital Britain Implementation Plan”. OfcomWatch. 2009-08.
http://www.ofcomwatch.co.uk/wp-content/uploads/2009/08/db_implementationplanv6_aug09.pdf [281], (accessed 2011-07-20).
(14) Department for Culture, Media and Sport. “Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009-07-24.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/reference_library/consultations/6283.aspx [282], (accessed 2011-07-22).
(15) DCMSに寄せられた意見書のうち、公開して差し支えのないものについては、以下のサイトで見ることができる。
Department for Culture, Media and Sport. “Responses to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2010-05-12.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/reference_library/consultations/6443.aspx [283], (accessed 2011-08-03).
(16) Chartered Institute of Library and Information Professionals. “Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/images/publications/PLR_CILIP.pdf [284], (accessed 2011-08-03).
Libraries and Archives Copyright Alliance.
“Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009-10.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/images/publications/PLR_LACA.pdf [285], (accessed 2011-08-03).
Newcastle City Council. “Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/images/publications/PLR_NCC.pdf [286], (accessed 2011-08-03).
(17) All Party Writers Group. “Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/images/publications/PLR_APWG.pdf [287], (accessed 2011-08-03).
Authors’ and Performers’ Lending Agency Ltd. “Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/images/publications/PLR_APLA.pdf [288], (accessed 2011-08-03).
(18) Publishers Association. “Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009-11.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/+/http://www.culture.gov.uk/images/publications/PLR_PA.pdf [289], (accessed 2011-08-03).
(19) Department for Culture, Media and Sport. “Government Response to the Consultation on the Extension of Public Lending Right to Rights Holders of Books in Non-print Formats”. The National Archives. 2009-11.
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(20) “Digital Economy Act 2010”. Legislation.gov.uk.
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(21) “Public Lending Right Act 1979”. Legislation.gov.uk.
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(22) “Digital Economy Act 2010: Exploratory notes”. Legislation.gov.uk.
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2010/24/notes/division/5/11/2 [292], (accessed 2011-07-29).
(23) Authors’ Licensing and Collecting Society. “Digital Economy Act – Extension to the Public Lending Right is a triumph for authors”. 2010-04-14.
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(24) Department for Culture, Media and Sport. “2010 Spending Review”. 2010-10-20. http://www.culture.gov.uk/images/publications/Parker_PLR.pdf [294], (accessed 2011-09-01).
デジタル経済法が成立したにも関わらず、新しい公貸権制度がまだ運用されていないのは、公貸権に関する条項は政令によって定めた日から発効する、と同法の第47条第3項で規定しているためである。
(25) “Government deficit and debt under the Maastricht Treaty”. Office for National Statistics. 2010-09-30. http://www.ons.gov.uk/ons/rel/psa/eu-government-debt-and-deficit-returns/september-2010/government-deficit-and-debt-under-the-maastricht-treaty---september-2010.pdf [295], (accessed 2011-09-01).
(26) Page, Benedicte. “Library campaigners demand public inquiry into closures”. Guardian. 2011-01-13.
http://www.guardian.co.uk/books/2011/jan/13/library-campaigners-demand-public-inquiry-closures [296], (accessed 2011-07-31).
(27) 石田香. イギリスにおける公貸権制度導入までの経緯. 東京大学大学院教育学研究科紀要. 2004, 43, p. 315-323.
http://hdl.handle.net/2261/4499 [297], (参照 2011-07-08).
(28) “Public Lending Right News 2011”. Public Lending Right.
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(29) Department for Culture, Media and Sport et al. “Digital Economy Act 2010: Impact Assessments”. Impact Assessment Library. 2010-04.
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(32) “Collated responses to the consultation on the proposed public lending right (PLR) rate per loan 2011”. Department for Culture, Media and Sport. 2011.
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(34) “E-book lending in public libraries”. Publishers Association.
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カオリ・リチャーズ. 英国における公貸権制度の最新動向―「デジタル経済法2010」との関連で. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1754, p. 18-22.
http://current.ndl.go.jp/ca1754 [305]
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本稿は、学校図書館と公共図書館の連携および公共図書館による学校図書館への支援についての文献レビューを目的とするものであり、初めに、行政施策の流れを概観することによって、文献の動向が整理できるものと考えている。本来は、連携と支援の両者について十分なレビューを行いたいところであるが、実際には連携に関する研究や事例報告は非常に少なく、支援に重点を置く結果となったことをおことわりしておく。
1997年の学校図書館法改正以来、学校図書館の充実のためにいくつかの施策が実施されてきた。財政支援としては、「学校図書館図書整備5か年計画」「新学校図書館図書整備5か年計画」「地域活性化交付金(住民生活に光をそそぐ交付金)」などがある。
「学校図書館図書整備5か年計画」(1)では、2002~2006年度(平成14~18年度)に総額約650億円を学校図書館資料の増加冊数分として地方財政措置が行われたが、不十分であったため(2)、2007~2011年度(平成19~23年度)の「新学校図書館図書整備5か年計画」(3)に基づく5年間には増加冊数分だけではなく更新冊数分も含め約1,000億円の財政措置が行われた(4)。これらの施策の背景には、2001年に制定された「子どもの読書活動の推進に関する法律」の具体化のために作成された2002年8月の「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(5)と2008年3月の「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画(第二次)」に、国がこの計画の実施のために財政措置を講ずるよう努めることが明記されていることがある。
「住民生活に光をそそぐ交付金」(6)は2010年度の政府の補正予算として計上されたものであり、学校図書館に限定した予算措置ではないものの、片山総務大臣の記者会見(7)においてもこの交付金の使途の一例として図書館が挙げられており、さらに、都道府県教育委員会生徒指導担当課と都道府県教育委員会学校図書館担当課にはこの交付金の利用方法のひとつとして積極的に学校図書館を充実するよう促す文書(8)も送られていることから、実際にこの交付金を学校図書館に利用し始めた自治体も見受けられる(9)。
このような財政支援が実施されても、その支援の内容の多くは図書購入費や設備の向上の費用など基本的な整備に使うので手一杯の状態であり、実際に学校図書館を充実させていくには財政措置だけでは不十分なため、他の機関からの支援を受ける必要がある。また、現在学校図書館として不十分な部分を補うという目的のためだけではなく、本来の学校図書館の機能をよりよく発揮して児童生徒への読書や学習の支援を行っていくためには、学校図書館が公共図書館等と連携していくのが望ましい。また、今回のテーマとはずれるので詳しくは述べないが、博物館も博物館法第3条の11で「学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術又は文化に関する諸施設と協力し、その活動を援助すること」(10)が求められ、また、生涯学習審議会答申(11)や学習指導要領(12)で学校との連携が求められていることからも、将来的には学校教育を支援する機関として博物館との連携も模索していく必要があるだろう。
上記の財政支援だけでは学校図書館の充実がなかなかはかどらないため、政府はさらに以下のようないくつかの事業を実施している。
1995~2000年度の間に3回に分けて「学校図書館情報化・活性化推進モデル地域事業」(13) (14)が実施され、学校における情報通信ネットワークの充実がはかられた。2001~2003年度に実施された「学校図書館資源共有型モデル地域事業」(15)では、蔵書情報のデータベース化および学校図書館のネットワーク化による蔵書等の共同利用化を進め、蔵書を効果的に利用した教育実践の在り方などを模索することを目的として、学校図書館資源共有型モデル地域を指定(46地域)し、調査研究を実施するという内容で事業計画が立てられ、子どもの読書活動の推進や司書教諭の配置の促進と共に、学校図書館の充実施策のひとつとして位置づけられた。2004~2006年度には「学校図書館資源共有型モデル地域事業」の廃止に伴う新事業である「学校図書館資源共有ネットワーク推進事業」(16)によって、公共図書館との連携や学校図書館同士の連携による地域連携型ネットワークを推進し、教育活動を充実させることが施策に盛り込まれた。この構想では、資源共有化を基盤に教育方法等の共有をはかっていくために、公共図書館との連携・協力を重視する学校図書館支援センター機能(17)を確立していくことも想定している。2006~2008年度の「学校図書館支援センター推進事業」(18)は、学校図書館間の連携や各学校図書館の運営、地域開放に向けた支援等を行う学校図書館支援スタッフを学校図書館支援センターに配置し、さらに指定地域内の各学校に、支援スタッフと連携・協力の下で諸事務にあたる協力員を配置することによって、学校図書館の機能の充実・強化を図る事業である。2009~2012年度には「学校図書館の活性化推進総合事業」(19)によって、児童生徒の読書習慣の確立や読書指導の充実、最新の学習指導要領に示された図書館利用の学習の実現などのために、公共図書館を中心とする地域との連携による児童生徒の自発的・主体的な学習活動の支援、教員のサポート機能の強化等をはかっている。
この15年の流れを見ると、コンピュータの設置や情報ネットワークの充実による基盤整備から具体的な学校図書館機能の充実へと施策の内容が変化していることがうかがえる。本稿では、これらの施策のうち具体的な学校図書館機能の充実が重点的に行われるようになってからの時期を中心に、過去約10年間の学校図書館と公共図書館の連携および公共図書館による学校図書館への支援についての研究論文および事例報告についての研究文献レビューを行う。多くの図書館間あるいは館種間においては、その館種または地域性などにより、各館あるいは各館種がその得意とするところを提供し合い、互いのサービスを向上させるという連携が中心であるが、日本の学校図書館については、その蔵書やサービスの貧弱さゆえに、公共図書館等と連携を結ぶには至っておらず、一方的に支援を受けなければならない状態も、かなりの割合で見られるといえるだろう。しかし、将来的には一方的に支援を受けるだけではなく、連携による学校図書館の役割の発展を示唆する文献もあることから、本稿では連携・支援のいずれの視点を持つ文献も取り扱うこととする。
公共図書館と学校図書館との連携や学校図書館への支援についての研究は比較的少ない。その視点は次の3点に整理できる。
1つめは、学校図書館支援の方法の模索である。平久江祐司(20)は、1960年代後半からの学校図書館と公共図書館の連携の歴史を土台に、学校図書館支援センターが教育委員会内に設置された場合と、公共図書館内に設置された場合のそれぞれにおいて適した支援の方法があるとし、それを十分に生かすことによる今後の学校図書館支援の方法を提示している。河西由美子(21)は、情報リテラシーや学習スキル育成の視点から、情報化の促進や情報教育の充実をはかるにあたって情報関係の部署と学校図書館が密接な関係を持ちうることが学校図書館の発展につながることを示唆し、玉川学園の事例をふまえて、学校図書館の学習支援機能の理念を提案している。
2つめは、文部科学省の施策としての学校図書館の機能促進に関する事業の分析である。例えば中村由布(22)は、学校図書館支援センター推進事業に関するアンケート調査の結果から、学校図書館支援センターが、読書力の向上や授業支援だけではなく、公共図書館との連携の促進の役割を求められているにもかかわらず、センタースタッフが専任とは限らないことで、このセンターが十分に機能していないことを指摘した。よってこの事業の課題は、センターの支援スタッフも各学校に派遣される協力員も雇用条件が十分でないことであると分析している。この推進事業の流れについて森田盛行は、2006年度までの一連の施策の結果、学校図書館における情報ネットワークの利用については促進され、学校図書館の担当者によるコンピュータへの違和感も払拭されたものの、人の問題はまだ解決されておらず、学校図書館に専門職が常駐することやその専門職が教科教諭を支えることができるように学校図書館における読書や学習の指導法を確立することの重要性を示唆している(CA1698 [308]参照)。
3つめは教育理論等に基づいた学校図書館の活動の可能性の示唆である。例えば木幡智子(23)は、学校図書館と公共図書館の連携事例をもとに、ソビエト心理学から生じた活動理論を教育学に応用した場合の枠組みを利用して、子どもの学習権を保障するために、どのような連携ができ、またどのような課題があるかを提示している。枝元益祐(24)は、学校図書館と公共図書館との連携を主眼においた研究ではないが、いくつかの教育理論を土台に、成人教育的アプローチからの学校図書館の学習支援のありかたを示し、その中で、学校図書館が他機関との連携の中で、生涯学習時代の学習の土台を築く機関となりうることを示唆している。
この他、海外の学校図書館と公共図書館サービスとの連携を研究した鈴木守(25)の論文があり、今後の日本の連携のありかたを考えるにはよい示唆となる。この文献では、米国教育協会(National Education Association:NEA)と米国図書館協会(American Library Association:ALA)が学校と公共図書館との協力に関する原則をいかに確立したかをその報告書作成の経緯の分析によって明らかにしている。その結果、学校図書館が必要であることだけに焦点を当てるのではなく、学校図書館サービスの責任は学校教育を管理する責任を有する教育委員会にあること、そして、公共図書館が学校と連携していくことは不可欠だが学校図書館の代わりではなく独立した機関として学校と連携していくことに価値があることを明示している。すなわち学校図書館サービスと公共図書館サービスはそれぞれ別の役割をもつ必要な存在であり、かつ連携の必要性があることが盛り込まれたことに、学校教育の中心的な機関であるNEAと図書館サービスに関する中心的な機関であるALAが報告書を共同で出したことの意義を見出しているのである。
また、複数の雑誌で関連の特集が組まれている。1999年以前にも特集は見られるが、2000年以降に限定すると、次のような特集がある。2004年には『こどもの図書館』で「公共図書館と学校(図書館)の連携」(26)という、事例報告を中心とした特集が組まれている。2008年には、『学校図書館』で「学校図書館支援センター」(27)という主に先進的な支援センターの事例を中心に紹介する特集を組んでいる。2010年の『図書館雑誌』の特集「学校図書館と協働する―チーム学校図書館」(28)では、事例報告や調査結果が中心で、現状が抱えている課題についても触れているが、同時に公共図書館や学校図書館支援センターとの連携や学校図書館同士のネットワーク化を進めることによって、学校図書館のサービスを向上させられることを示唆している。
それだけではなく、2002年の全国学校図書館研究大会では「学校図書館支援システムをどう構築するか」(29)という研究討議が、2004年の第34回の全国学校図書館大会では、「公共図書館との連携をどう進めるか」(30)というテーマで合同討議が行われた。さらに、学校図書館への支援や学校図書館との連携に焦点を当てた特集ではないが、2002年の『学校図書館』の特集「地域との連携・協働を図る」(31)、2010年の『学校図書館』の特集「家庭・地域と連携した読書推進活動」(32)、2011年の『学校図書館』の特集「言語活動と学校図書館」(33)などが、それぞれの特集のテーマに関連の深い題材として連携への提言や連携の事例を取り上げている。
このように、研究そのものはまだ少ないものの、雑誌や大会で研究・提言・事例の混在する形ではあれ、学校図書館との連携や学校図書館への支援に関するテーマが比較的多く設定されていることは、図書館界における関心が特にこの数年高まっていることを示していると言え、今後の研究の発展の萌芽ともなりうるだろう。
公共図書館と学校図書館との連携や学校図書館への支援の事例を見ると、資料・人的資源・設備の貧弱な学校図書館を公共図書館が全面的にバックアップしている事例が圧倒的に多く、連携というより支援という方がふさわしい。文部科学省の施策もあり、学校図書館支援センターを設けている自治体もあるが、そのセンターの多くは教育委員会内または公共図書館内に設置されている。教育委員会内に置かれている場合は、学校図書館が学校教育のカリキュラムとの深い関連を持つことを示唆するような事業の方向性を持っていることがうかがえる。公共図書館内に置かれている場合は、学校図書館サービスの向上に力点の置かれた支援となっていることが多い。その両者が上手に組み合わさって充実した支援が行われているケースもあるが、必ずしもバランスのとれた支援内容とはなっていない場合も多い。そのこともふまえ、ここでは、事例報告を公共図書館や学校図書館支援センターから受けている支援の内容で分類し、その傾向を考察する。
公共図書館や学校図書館支援センターの支援の内容はいくつかの段階に分けられるが、ここでは、(1)開始したばかりの初歩的な支援のみを行っている段階、(2)支援がある程度進んでその支援の内容が人材の育成などを含む基本的な学校図書館サービスをするのに役立っている段階、(3)支援が進んで今後より先進的な学校図書館サービスを確立していくのに役立つ段階の3段階に大きく分類する。
最も初歩的な支援は、貧弱な学校図書館資料を補うために、公共図書館が学校図書館に団体貸出を行うことである。授業のカリキュラムに合わせて関連する資料を貸し出すタイプの支援の事例として、北海道苫小牧市(34)、島根県雲南市(35)、鳥取県鳥取市(36)、宮城県大崎市(37)などの事例報告が見受けられる。
基本的な学校図書館サービスを確立することのできる支援の段階として、以下の事例を挙げることができるだろう。例えば、北海道恵庭市(38)は、学校司書の配置が遅れている学校図書館に対して公共図書館の司書が出張して学校図書館の利用ガイダンスを行う他、担当教師などに図書館業務の説明会を実施するなどのサポートを始めている。栃木県宇都宮市(39)は、教育委員会内の学校教育課と公共図書館が連携して、学校図書館を支援しており、学年ごとに幅広い分野の資料を揃えたパックの提供、学校の希望に応じて授業のテーマに関連して選書した資料の提供の他に、学校司書業務嘱託員と学校読み聞かせボランティアの研修を行っている。千葉県柏市(40)では、公共図書館による支援は事例報告で見るところ資料の貸出のみであるが、教育委員会指導課が中心となって、学校図書館アドバイザーによる図書館業務から学習支援の方法に至るまでの多岐にわたる支援、図書館業務の基本だけではなく、各校の実践を共有し合う場も持てるような職員の研修、公共図書館・地域などとの連携、学校図書館同士のネットワークの形成などが行われている(41)。このような研修の事例で多いのは、司書教諭だけではなく学校図書館担当者を対象とする研修会、教科の教諭を対象とする学校図書館利用に関する研修会、授業支援や学習支援の方法を指導するタイプの支援などである。
そして、現在最も充実している支援として以下の事例を挙げることができるだろう。東京都荒川区(42) (43)では、区が統括して、教育委員会の指導室長、統括指導主事、主任学校図書館指導員を配置した学校図書館支援室を設け、荒川版学校図書館ノート(44)の作成、各校の蔵書構成や環境整備のアドバイス、指導員ハンドブックの作成、指導員研究会の開催、学校図書館を活用した指導案作成の支援、学校図書館を活用したモデル授業の実施・授業支援などを行っている。学校教育カリキュラムにまで踏み込んだ実質的な支援の事例といえるだろう。千葉県市川市(45) (46) (47)では、学校図書館支援センターが授業での学校図書館活用のレベルアップを目的に、学校図書館活用に関する調査研究、支援スタッフによる学校図書館支援、物流ネットワークや情報ネットワークの整備、各種研修会の実施、学校図書館や教師への資料提供、学校図書館に関するデータの集約と分析などを行っており、研究的な視点も持ちながら将来を見据えた事業に取り組んでいる事例といえるだろう。静岡県浜松市(48)では、公共図書館に学校図書館支援センターを設置し、司書教諭・教育委員会指導主事・市立図書館職員などで構成される「学校と市立図書館連携のための検討委員会」を置き、支援の方法として、資料の貸出の他、利用ガイダンス、児童生徒のための学校図書館利用のための手引きの作成、学校図書館担当者の研修を実施しており、公共図書館が深く関わっている事例といえるだろう。福岡県小郡市(49) (50)では、児童生徒の学習支援を明確な目的とした図書館利用案内や調べ学習等資料集の作成を行っているところに特徴がある。その他、大阪府箕面市(51)や石川県白山市(52)、神奈川県座間市(53)などの事例が報告されている。
この他に、特別支援学校の学校図書館に対する支援の事例(54) (55)が見られる。野口武悟(56)よると基本的な学校図書館の役割は変わらないものの、特別なニーズを持つ児童生徒が対象であり、よりきめ細やかなサービスが必要であるにもかかわらず、学校図書館の発展が遅れ気味であることがうかがえ、今後の課題といえるだろう。
また、公共図書館以外に大学図書館による学校図書館支援の事例(57)も見られた。所蔵資料の種類もかなり異なることもあり、まだ珍しい事例ではあるが、大学の地域貢献が求められる時代の中で、同じ教育機関の図書館として、新しい可能性を探っていくこともできるだろう。
これらの事例報告の動向をみるとこの2~3年の事例報告が圧倒的に多く、学校図書館支援にあたり、学校教育カリキュラムにも深くかかわる形での連携が急速に増加してきているといえるだろう。この背景には、学校図書館支援センターの設置の増加があり、この動向が続けば、公共図書館は図書館サービスそのものを支える立場から、教育委員会は学校教育を支える立場からの支援を共に行うことで、学校教育カリキュラムにより資することのできる学校図書館支援が実施でき、今後の学校図書館の発展につながるといえるだろう。
学校図書館に対する支援は、学校図書館が児童生徒の読書や学習、および学校教育のカリキュラムをよりよい形で支援するために行われる。いわば「支援」を充実させるための「支援」である。
公共図書館が学校図書館を支援することは、現状の分析や事例報告から見ると、学校図書館が本来のサービスを行うための基本的な部分をまずはカバーすることが目的となっていることがうかがえる。しかし、一部においては、より発展的な支援を行うことによって、よりよい学校図書館サービスを追い求めたり、教育委員会が学校図書館支援センターを設置して公共図書館がそのセンターの中で支援の役割を果たしたりしている事例も見られる。このような公共図書館の支援は、学校教育のカリキュラムとさらに密接な関係を持ったり、児童生徒への読書や学習の支援における新しい方法を模索したりすることでもあり、現在の学校図書館の不足部分を補うだけではなく、今後新しい形の学校図書館サービスの充実につながっていく。その可能性を現在の研究や実践の動向は示唆しているのではないだろうか。学校図書館の現状ではもちろんのこと、今後学校図書館が今より充実したとしても、学校図書館が公共図書館等の他機関から支援を受けること、またその先に互いに連携することは、今後の学校図書館の発展にとっておおいに意義のあることだといえるだろう。
京都ノートルダム女子大学:岩崎 れい(いわさき れい)
(1) “平成18年度文部科学白書”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200601/index.htm [309], (参照 2011-07-01).
(2) 文化審議会. “これからの時代に求められる国語力について”.文部科学省. 2004-02-03.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/04020301/015.pdf [310], (参照 2011-07-01).
この答申にも「しかしながら、『学校図書館図書標準』の通知が平成5年に出て、学校図書館図書整備5か年計画によって地方交付税措置が講じられていながら、いまだに図書標準を満たしている学校が3割程度にとどまっているというように、計画はあっても現実がそうなっていないことが大きな問題である」と書かれている。
(3) “平成19年度文部科学白書”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200701/index.htm [311], (参照 2011-07-01).
その他平成18年度版第2部第2章第1節などにも「学校図書館図書整備5か年計画」の財政措置によっても学校図書館の蔵書の充実にはまだ不十分であることについての記述がみられる。
(4) “「新学校図書館図書整備5か年計画」について”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo7/shiryo/07051701/001/008.pdf [312], (参照 2011-07-01).
(5) “子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画”. 文部科学省. 2002-08.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/003.pdf [313], (参照 2011-07-01).
第4章2に以下のように記載されている。
(1) 国は、本計画に掲げられた各種施策を実施するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努める。
(2) 国は、地方公共団体が地域の実情に応じて自主的に実施する子どもの読書活動の推進に関する施策のための費用について、必要な財政上の措置を講ずるよう努める。
(6) “地域活性化交付金(住民生活に光をそそぐ交付金)の概要”. 内閣府.
http://www8.cao.go.jp/hanzai/pdf/info221209-gaiyo.pdf [314], (参照 2011-07-01).
(7) “片山総務大臣閣議後記者会見の概要(平成22年10月26日)”. 総務省. 2010-10-26.
http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/36590.html [315], (参照 2011-07-01).
(8) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課. “地域活性化交付金について”. 全国学校図書館協議会. 2010-12-06.
http://www.j-sla.or.jp/pdfs/news/news20101210.pdf [316], (参照 2011-07-01).
但し、事務連絡文書であるため、参照先は全国学校図書館協議会ホームページである。
(9) 学校図書館への交付金の利用については、いくつかの事例が見られる。以下に挙げたのはそのうちの一部である。
“平成22年度一般会計3月補正予算(案)の概要”. 福岡県みやま市.
http://www.city.miyama.lg.jp/file/temp/9375116.pdf [317], (参照 2011-07-01).
みやま市では、この交付金によって学校図書館に2,500万円の予算をつけている。
“平成23年3月市議会定例会に提出する補正予算(案)の概要”. 長野県須坂市.
http://www.city.suzaka.nagano.jp/gyousei/zaisei/yosan/pdf/h22/h2303-1.pdf [318], (参照 2011-07-01).
須坂市では、この交付金によって、小中学校入学時に児童生徒に配布する読書活動ファイル1,896,000円、小学校図書館図書購入費1,650,000円、中学校図書館図書購入費800,000円などを計上している。
“平成22年度2月補正予算について”. 大阪府大阪市.
http://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/page/0000110920.html [319], (参照 2011-07-01).
大阪府大阪市では、内訳が不明だが、学校図書館・地域図書館等の充実のために、81,000,000円が計上されている。
(10) “博物館法”. 総務省.
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26HO285.html [320], (参照 2011-08-11).
(11) 生涯学習審議会. “社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について”. 文部科学省. 1998-09.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/shougai/toushin/980901.htm#02 [321], (参照 2011-08-11).
(12) “小学校学習指導要領”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/index.htm [322], (参照 2011-08-11).
学習指導要領では博物館の活用が求められており、例えば「第5章 総合的な学習の時間」では、「学校図書館の活用、他の学校との連携、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携」に配慮すべきとしており、同じく学校教育を支援する機関としての連携がさらに求められていくことになるだろう。
(13) “情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/002/toushin/980801p.htm [323], (参照 2011-07-01).
(14) 文部省初等中等教育局小学校課. 特集, 情報化の進展と学校教育: 学校図書館情報化・活性化推進モデル地域指定事業について. 教育委員会月報. 1995, 47(3), p. 30-34.
(15) “平成13年度文部科学白書”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200101/index.html [324], (参照 2011-07-03).
(16) “学校図書館資源共有ネットワーク推進事業(学校図書館を支援するセンター機能)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/suisin/04090802.pdf [325], (参照 2011-07-01).
(17) 学校図書館支援センターについては、学校図書館界の基礎的な考え方が以下の文献に記されている。
森田盛行. 特集, 第34回全国学校図書館研究大会(びわこ・くさつ大会)研究集録: 研究主題 ひろがる、つながる、学びを変える学校図書館: 学校図書館支援センターがめざすもの(合). 今日の学校図書館. 2004, (34), p. 238-247.
森田盛行. 特集, 第35回全国学校図書館研究大会(郡山大会)研究集録: 研究主題 未来を拓き、豊かな学びの中核となる学校図書館: 学校図書館支援センターの役割. 今日の学校図書館. 2006, (35), p. 187-190.
(18) “学校図書館支援センター推進事業”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/05090202/015.pdf [326], (参照 2011-07-01).
(19) “16.学校図書館の活性化推進総合事業(新規)【達成目標2-1-2】”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/08100105/020.htm [327], (参照 2011-07-03).
(20) 平久江祐司. 学校図書館支援センター担当者の地域の学習コーディネーターとしての可能性. 日本生涯教育学会年報. 2009, (30), p. 135-143.
(21) 河西由美子. 特集, 学校図書館と情報教育: 学校図書館の学習支援機能. 学習情報研究. 2009, (211), p. 6-9.
(22) 中村由布. 学校図書館と公共図書館の連携: 学校図書館支援センター推進事業指定地域へのアンケート調査を実施して. 図書館界. 2009, 61(1), p. 30-39.
(23) 木幡智子. 生涯学習社会における公共図書館と学校図書館の在り方: 活動理論応用の可能性. Journal of Library and Information Science. 2009, (23), p. 13-31.
(24) 枝元益祐. 学校図書館における学習支援: 教育者中心の教育観から学習者中心の教育観への展開. 学校図書館学研究. 2009, (11), p. 25-40.
(25) 鈴木守. NEA・ALA合同委員会報告書(1941)における学校図書館サービスの原則: 学校と公共図書館との関係に関する原則を中心に. 日本図書館情報学会誌. 2007. 53(2), p. 90-102.
(26) 特集, 公共図書館と学校(図書館)の連携. こどもの図書館. 2004, 51(11), p. 5-11.
(27) 特集, 学校図書館支援センター. 学校図書館. 2008, (695), p. 15-48.
(28) 特集, 学校図書館と協働する: チーム学校図書館. 図書館雑誌. 104(3), p. 133-153.
(29) 庄司三喜夫ほか. 特集, 第33回全国学校図書館研究大会(横浜大会)研究集録: 主題「学びのネットワークを拡げる学校図書館」: 研究討議 学校図書館支援システムをどう構築するか(合). 今日の学校図書館. 2002, (33), p. 274-276.
(30)佐藤志保ほか. 特集, 第34回全国学校図書館研究大会(びわこ・くさつ大会)研究集録: 研究主題 ひろがる、つながる、学びを変える学校図書館: 公共図書館との連携をどう進めるか(合). 今日の学校図書館. 2004, (34), p. 436-439.
(31) 特集, 地域との連携・協働を図る. 学校図書館. 2002, (615), p. 17-36.
(32) 特集, 家庭・地域と連携した読書推進活動. 学校図書館. 2010, (715), p. 36-57.
(33) 特集, 言語活動と学校図書館. 学校図書館. 2011, (695), p. 15-48.
(34) 鈴木祐亮. キラリ!司書教諭(78): 新しい環境で考えた司書教諭と学校図書館. 学校図書館. 2010, (719), p. 76-78.
(35) 別所久美子. 特集, 家庭・地域と連携した読書推進活動: 子どもの学びを支える学校図書館づくり: 保護者・地域との連携を大切にして. 学校図書館. 2010, (715), p. 36-39.
(36) 吉田陽子. 特集, 家庭・地域と連携した読書推進活動: 学びの場を支える学校図書館の環: 保・幼・小・中の連携を通して. 学校図書館. 2010, (715), p. 40-42.
(37) 橋本明美. 特集, 家庭・地域と連携した読書推進活動: 地域とつながる学校図書館: 宮城県松山高等学校の実践. 学校図書館. 2010, (715), p. 50-52.
(38) 辻和代. 子ども・本・地域 学校図書館出会いの場(30): 北海道の学校図書館 恵庭から(2)公共図書館が支援する意味とその重さ…. 子どものしあわせ. 2002, (619), p. 70-73.
(39) 花村幸子. 特集, 子どもたちに生きる力と喜びを: 読書で拓く未来(児童・青少年部門研究集会): 学校図書館へお届けします!: 宇都宮市立図書館の支援事業. 全国公共図書館研究集会報告書. 2008, p. 64-66.
(40) 渡辺暢恵. 柏市の学校図書館: 市内すべての学校図書館活性化に向けて. 学校図書館. 2010, (717), p. 51-54.
(41) 柏市の活動の記録は、以下のサイトで見ることができる。
“学校図書館の活用”. 学校図書館online. 柏市.
http://www.edulab.kashiwa.ed.jp/tosyo/shidouan.htm [328], (参照 2011-07-18).
(42) 藤田利江. 特集, 学校図書館と情報教育, 学校図書館支援センターの意義と役割. 学習情報研究. 2009, (211), p. 34-37.
(43) 藤田利江.「情報」と「人」をつなぐネットワークづくり, 学習情報研究. 2011, (219), p. 56-59.
(44) 荒川区では、独自に予算をつけて学校図書館活用ノートを作成し、伝統文化ノートなどと同様に児童の学習に役立てている。区全体の構想の中では、学校図書館整備や学力向上の事業において、学校図書館の予算がつけられ、推薦図書リストや読書ノートの作成が実施されていることがわかり、また区内の各小学校の事業に関する構想を見ると、学校図書館活用ノートなるものが存在していることがわかる。以下のサイト等には、それぞれ読書ノートや推薦図書リスト、学校図書館活用ノートなどの用語が登場する。
“荒川区予算案(平成23年度)の概要”. 荒川区. 2011-02.
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/kusei/zaisei/yosan/23nendoyosannan.files/23yosanan.pdf [329], (参照 2011-08-10).
“平成22年度事務事業分析シート”. 荒川区.
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/kusei/hyoka/22gyouseihyouka/h22bunsekikisodate.files/04-01-02.pdf [330], (参照 2011-08-10).
第六日暮里小学校. “平成23年度学校パワーアップ全体構想”. 荒川区.
https://www.city.arakawa.tokyo.jp/kurashi/kyoiku/kyoiku/gakuryokukojo/23spuup.files/rokuniti.pdf [331], (参照 2011-08-10).
(45) 小林路子ほか. 市川市学校図書館支援センターの支援体制とめざす学校図書館の実現: 学校経営に参画する学校図書館改造に関する実践を中心として. 学校図書館学研究. 2009, (11), p. 79-85.
(46) 小林路子. 学校図書館支援センターは授業を支える!. 学習情報研究. 2011, (219), p. 52-55.
(47) 小林路子. 特集, 学校図書館と情報教育: 行政による学校図書館整備・運営のアプローチ: 千葉県市川市. 学習情報研究. 2009, (211), p. 30-33.
(48) 高瀬理子. “浜松市立図書館における乳幼児サービスと学校図書館支援”. 関東地区公共図書館協議会研究集会報告書 2010年度. 2010, p. 7-9.
(49) 白根一夫. 公立図書館による学校図書館への支援サービス: 福岡県小郡市立図書館と島根県斐川町立図書館の比較を通して考える. 図書館学. 2008, 図書館学, (93), p. 32-38.
(50) 永利和則. 特集, 学校図書館と協働する: チーム学校図書館: 公共図書館の現場から: 公共図書館における学校教育支援と協働. 図書館雑誌. 2010, 104(3), p. 137-139.
(51) 高木享子. 特集, 学校図書館と協働する: チーム学校図書館: 公共図書館と「連携」すること. 図書館雑誌. 2010, 104(3), p. 140-141.
(52) 大橋留美子. 特集, 学校図書館と協働する: チーム学校図書館: ネットワークを生かした学校支援: 白山市学校図書館支援センターの取り組み. 図書館雑誌. 2010, 104(3), p. 142-143.
(53) 三村敦美. 特集, 学校図書館と協働する: チーム学校図書館: 公共図書館の現場から: 学校図書館との連携から子どもの読書環境を考える: 座間市の事例. 図書館雑誌. 2010, 104(3), p. 144-147.
(54) 松戸宏予. 千葉県5市の学校図書館にみる特別な教育的支援の現状と課題. 学校図書館学研究. 2008, (10), p. 5-22.
(55) 落合江美. 特集, 言語活動と学校図書館: 読書を子どもたちの生活の中に. 学校図書館. 2011, (726), p. 55-57.
(56) 野口武悟. 特別支援学校の分校における学校図書館の現状と課題: 全国悉皆調査の結果から. 学校図書館学研究. 2009, (11), p. 41-49.
(57) 中井えり子ほか. 大学図書館の学校図書館支援事業: 三重大学附属図書館の事例から. 大学図書館研究. 2006, (78), p. 105-113.
岩崎れい. 学校図書館をめぐる連携と支援:その現状と意義. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1755, p. 23-28.
http://current.ndl.go.jp/ca1755 [332]
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2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東北・関東地方を中心とする東日本各地は甚大な被害を受けた。地震発生から1か月以上が経過した現段階(2011年4月26日現在)においても、1万人以上の行方不明者があり、今後の被災地の復旧・復興には困難を伴うことも予想される。そうした中、今回の震災では地震発生直後より日本国内外において文化領域に関わる復旧支援活動が広範な拡がりの中で展開され、すでに様々な取り組みがなされているが(1)、被災地である宮城や福島、岩手などでは、被災した資料や文化財の滅失の危機から救うべく、被災資料・文化財の救出活動が行われている。2011年4月1日には文化庁による「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)」が開始され、阪神・淡路大震災以来はじめて「被災文化財等救援委員会」が設置されることになった(2)。
日本において大規模災害時の被災資料・文化財救出事業が本格的に開始されたのは、1995年1月17日の阪神・淡路大震災からである。阪神・淡路大震災においては、前述の文化庁によるレスキュー事業(被災文化財等救援委員会)のほか、ボランティア団体連合である「地元NGO救援連絡会議」内の文化情報部など、様々な個人・団体が被災資料・文化財レスキュー活動を行ったのであるが、その中の1つが、関西に基盤を置く歴史学会(大阪歴史学会、大阪歴史科学協議会、日本史研究会、京都民科歴史部会など)によって結成された連合体「阪神大震災対策歴史学会連絡会(歴史資料保全情報ネットワーク)」である。歴史資料保全情報ネットワークは1996年にボランティア組織「歴史資料ネットワーク(略称:史料ネット)」に改組され、さらに2002年には会員制へと移行した。史料ネットは結成より16年間、大規模地震・水害時における被災資料・文化財の救出・保全活動を行ってきた。
そこで本稿では、現在、史料ネットの活動に参加する一員として、これまでの活動内容および、この16年間での活動の拡がりを紹介することで、大規模自然災害時における被災資料保全活動の意義について述べてみたい。
前述のように、史料ネットは阪神・淡路大震災を契機として、震災により被災した資料の救出・保全を目的に、1995年2月13日、尼崎市立地域研究史料館(兵庫県尼崎市)に事務局を設置し、結成された(3)。当初の活動は地元NGO救援連絡会議や文化財等救援委員会、地元博物館などからの救援要請を受けてボランティアを派遣する体制をとっていたが、被災地では資料の被災状況(特に民間所在・未指定文化財)に関する情報収集が十分ではない場合があったため、同年3月25日の伊丹市での活動を皮切りに、地元自治体と連携した巡回調査を行った。現在でも史料ネットでは、大規模な災害が発生した場合、レスキュー要請に基づく資料救出・保全、および被災地での巡回調査(被害が確認された際には救出・保全活動を実施)を活動の基本スタイルとしているが、その原型はすでにこの時点で確立されていた。文化財等救援委員会の現地本部(当初は神戸芸術工科大学内、1995年4月より尼崎市立地域研究史料館内)が閉じられた5月以降も史料ネットによる資料救出・保全活動は継続され、1996年12月までに段ボール箱にして計1,500箱以上(民具類を除く)の資料が救出された。
阪神・淡路大震災に際しての活動の中で認識させられたのが、歴史研究者と市民との間の歴史資料に対する認識の「ズレ」であった。すなわち、歴史研究者の側は近代以前の古文書のみならず、近現代の日記・写真・町内会の記録・ビラなどの身近なものについても、家族や地域の歴史を伝える資料であると認識するのに対し、市民の側はそうしたものを歴史的・文化的価値を有するものと考えていない場合が多く、そのため災害に際してそれらのものが廃棄されてしまうケースが目立った。そのため史料ネットでは、こうした認識のズレを克服すべく、自治体関係者や市民との日常的な連携を意識した市民講座や講演会の開催を行っている。また、災害自体を記録し、地域社会の中で「災害文化」として継承していくことを主眼に、阪神・淡路大震災における「震災資料」の保全活動も行っている(4)。こうした活動は、当初は短期的な組織と考えられた史料ネットを、恒常的な組織へと発展させる要因となった。
史料ネットの活動のひとつの転機となったのが、2004年より開始された風水害に際しての資料救出・保全活動である(5)。2004年は日本列島に合計10個の台風が上陸し、各地に被害をもたらした。こうした状況の中、史料ネットでは関西地方にも大きな被害をもたらした台風23号の被災地(兵庫県北部および京都府北部)において活動を行った。地震被害とは違い、水損・汚損資料は劣化(カビ・異臭)の進行が速く、また、復旧活動を行う人びとの間で、歴史資料に対する十分な認識が得られていないことから、阪神・淡路大震災以後定着した迅速な復旧ボランティア活動の中で、劣化の進んだ資料が「ゴミ」として廃棄されてしまう可能性が高い。したがって、被災地における資料救出・保全活動には迅速さが求められ、また手近なもので簡単に行うことができる水損資料の応急処置法の開発・普及が求められた。そうした状況の中、水損資料への対応に際しては、地元の教育委員会や郷土史研究団体、さらに文化財修復関係者などとの広範な連携が行われ、迅速かつ適切な処置がとられる必要があった。2009年8月の台風9号により兵庫県佐用町・宍粟市を中心に被害のあった際には、これら関係者とのスムーズな連携をとることができ、それ以後の風水害への対応のモデルケースとなっている。また日常的な活動として、各大学や学会などにおいて「水損史料修復ワークショップ」を実施し、キッチンペーパーなど身近にある物で行える水濡れ資料の簡易応急処置法の普及にあたっている。
風水害被災地での活動を通して認識させられたことの一つに、地元関係者や資料保存関係者などとの、日常的なコミュニケーションの重要性がある。迅速な対応が求められる風水害被災地においては、いかに多くの関係者と日常的に「顔見知り」となっているかで、救出・保全活動の成否が決まると言っても過言ではない。
また活動の中で、ほとんど「ゴミ」にしか見えない水損・汚損資料が修復されることで、被災者の方に大変喜ばれたことにも深く考えさせられた。このことは、災害によって多くの物を失った被災者にとって、一度は諦めた思い出の品や地域の資料が再び手許に戻るということであり、それは今後の復興段階で被災地にとっての「心の支え」となるものである。風水害への対応に際して、被災資料救出・保全活動が単に「モノ」を救うだけの活動ではなく、被災地の「生活復興」の一環であることを、資料の救出・保全活動を行う私たちの側が逆に認識させられたものであった。
ごく簡単にではあるが、史料ネットの16年間の活動を紹介してきた。1995年以降、日本列島では多くの地震・風水害が発生し、各地で甚大な被害がもたらされている。しかしながらこの16年の間、災害を契機とした形で、あるいは災害発生以前の段階での予防的なものとして、同様のネットワークが全国各地で結成されている(6)。東日本大震災においても、こうした各地で結成された資料ネットが被災資料救出・保全活動を精力的に展開しており、史料ネットでも、各地の資料ネットとの協力体制を構築している。
また震災発生直後より、津波被災地域においては写真・アルバムを拾い集めるボランティア活動が行われ、各メディアでも大きく取り上げられた。こうした活動が注目を浴びることは、阪神・淡路大震災から16年たった現在、資料を救うことが心の復興、生活の復興の一部であると日本社会の中で認識されつつあることを意味していると言えよう。おそらくこうした心の復興、生活の復興、そして文化の復興には、膨大な時間と、広範な連携が必要となるであろう。近年、文化領域でのMLA連携の重要性などの議論が盛んとなっているが、被災地の復興に向けて、今、多くの関係者の連携が必要とされていると、私たちは考えている。
歴史資料ネットワーク事務局長:川内淳史(かわうちあつし)
(1) 例えば全国の図書館司書、学芸員、アーキビストなど有志により、博物館、図書館、文書館、公民館などの被災情報を共有し、必要とされる情報発信を行う被災情報・救援サイト“saveMLAK”が立ち上げられている。
saveMLAK. http://savemlak.jp/ [335], (参照 2011-04-26).
(2) “東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)について”. 文化庁. 2011-03-31.
http://www.bunka.go.jp/bunkazai/tohokujishin_kanren/pdf/bunkazai_rescue_jigyo_ver03.pdf [336], (参照 2011-04-26).
(3) 阪神・淡路大震災をめぐる史料ネットの活動については以下を参照。
歴史資料ネットワーク活動報告集. 歴史資料ネットワーク, 2004, 300p.
(4) 史料ネットによる「震災資料」への取り組みについては以下を参照。
板垣貴志ほか編. 阪神・淡路大震災像の形成と受容: 震災資料の可能性. 岩田書院, 2011, 137p., (岩田書院ブックレット歴史考古系, 7).
(5) 史料ネットによる水損資料への対応については以下などを参照。
松下正和ほか編. 水損史料を救う: 風水害からの歴史資料保全. 岩田書院, 2009, 158p., (岩田書院ブックレットアーカイブズ系, 12).
松下正和. 新自由主義時代の博物館と文化財: 歴史資料ネットワークによる水損史料救出活動について: 2009年台風9号への対応を中心に. 日本史研究. 2010, (575), p. 55-61.
板垣貴志ほか. 特集, 資料保存・修復: 災害時における歴史資料保全活動とその方法: 歴史資料ネットワークによる取り組み現場から. 専門図書館. 2010, (241), p. 21-28.
(6) 災害を契機としたネットワークとしては2000年鳥取県西部地震(山陰史料ネット)、2001年芸予地震(愛媛資料ネット、広島史料ネット、史料ネットやまぐち)、2003年宮城北部地震(宮城資料ネット)、2004年福井水害(福井史料ネット)、2004年中越地震(新潟資料ネット)、2005年台風14号(宮崎ネット)、2007年能登半島地震(能登ネット)、2011年東日本大震災(岩手ネット)がある。また、災害前に「予防ネット」として設立されたものとしてはふくしま史料ネット、山形ネット、千葉ネット、岡山史料ネットがある。なお本稿では、歴史資料ネットワークの略称としての「史料ネット」と区別して、各地のネットワークの総称を「資料ネット」と表現した。
川内淳史. 被災資料を救う:阪神・淡路大震災からの歴史資料ネットワークの活動. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1743, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1743 [337]
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専門職の継続教育は、①特定分野の知識や技能などの専門的能力のブラッシュアップをめざす教育と②あらゆる分野の業務に必要な汎用的能力のブラッシュアップをめざす教育に大別できる。これまで図書館員の専門性の確立をめざしてきた日本の図書館界では、養成教育のみならず、継続教育においても、専門的能力を養成するための教育に力点がおかれてきた。例えば、2007年に文部科学省生涯学習政策局社会教育課がまとめた『図書館職員の資格取得及び研修に関する調査研究報告書』の「第5章 司書等に対する研修事例の把握と特徴的な事例の整理」にみられるように、図書館員対象の研修においては、図書館サービス論、著作権、レファレンスサービス、図書館経営論が内容の大半を占め、汎用的能力にかかる内容はごくわずかにすぎない(1)。
しかし、近年、図書館をとりまく社会が急激に変化するなか、日本においても変化に柔軟に対応する図書館員の能力獲得が着目されるようになり、決して専門的能力の養成のみが、継続教育の目的ではなくなってきている。大学図書館界でこの流れを示すものに、2007年に出された国立大学図書館協会人材委員会の『大学図書館が求める人材像について: 大学図書館職員のコンピテンシー(検討資料)』(2)がある。
コンピテンシーとは、「既存の能力指標や職務分析による職務特性とは異なっており、行動として顕在化し観察可能であるが、個人が内的に保有し学習によって獲得される、職務上の高い成果や業績と直接的に関連した、職務遂行能力にかかわる新しい概念」(3)であり、米国で主流の知的側面を重視する「能力」とは必ずしも同義ではない。ただし、コンピテンシー自体の概念も定義も依然として多義的であることを踏まえ、本稿では、職務遂行能力としてとらえていくことにする。
さて、このコンピテンシーも、『大学図書館が求める人材像について: 大学図書館職員のコンピテンシー(検討資料)』では、専門的コンピテンシーと一般的コンピテンシーに区分され、後者の一般的コンピテンシーには、コミュニケーションや連携・協力などが含まれ、図書館の専門的職務に関わる専門的コンピテンシーとは異なる概念とされている。
なお永田治樹ほかの「大学図書館職員のコンピテンシーについて」(4)は、海外における議論をもとに、専門職のためのコンピテンシーとネブラスカ大学図書館員のそれとを比較して、図書館員のコンピテンシーは、問題解決の貫徹や問われる前の問題への取組みといった先導性よりも、顧客やコミュニティへのまなざしが強いことや、そのための知識や状況への対応が求められているとしている。
このように注目を集めている汎用的能力は、国や研究者により呼称が異なっており(5)、日本では、例えば経済産業省が「社会人基礎力」(6)、厚生労働省が「就職基礎力」(7)と表現する一方で、文部科学省はキャリア教育分野でも「汎用的能力」を使用している(8)。ついては本稿では、体系的な継続教育を提供する場である高等教育界でもっとも流通している「汎用的能力」を用いていく。
教育分野では「汎用的能力」が一般名詞になりつつあるとはいえ、具体的な個々の能力になると、その内容は百花繚乱状態であり、概念や定義の明確化はまだ図られていない。例えば、前述の経済産業省が定義する「社会人基礎力」では、12の能力要素(主体性、働きかけ力、実行力、課題発見力、計画力、創造力、発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力)があげられている(9)。
また、国立大学図書館協会は一般的コンピテンシーとして12のコンピテンシー(コミュニケーション、連携・協力、問題解決、継続学習、柔軟性・積極性、戦略策定、創造性・革新性、視野の広さ、表現力・交渉力、公平性、チームワーク、調査研究)をあげている。
なお、オーストラリア国家訓練局は、各国の汎用的能力に関する議論を踏まえて、基礎的能力、人間関係能力、概念/思考能力、個人の能力と特性、ビジネス社会関連能力そしてコミュニティ関連能力の6つの要素を、汎用的能力に共通する部分として抽出している(10)。
ついては、本稿では、前述の定義や概念をもとに、図書館職員に求められる汎用的能力として、仮に「人間関係形成・社会形成能力」、「情報活用発信能力」、「課題発見解決能力」および「意思決定能力」の4つの能力から構成されると定義したい。すなわち、他者との人間関係を構築できること、課題発見のための情報を収集し分析できること、そして収集データから解決策を導きだし、それを実施できる能力ということである。
では、教育の場で、この汎用的能力の育成が注視されるにいたった背景には、どのような社会の変化があったのだろうか。まず、情報通信技術の急速な発達に伴い、知識の獲得が以前に比較すると容易になったことがある。そこで、既存の知識体系の精通のみならず、「変化する社会に応じて、既存の知識体系を見直す、若しくは組み合わせを変えて新たな価値を創出し、それを実践できる人材」が重要視されるようになった(11)。これを受ける形で、学校教育の場で獲得すべき能力の1つとして、「文脈を超えて通用する『汎用性』のある知識や技能が全ての市民に求められ」るようになったのである(12)。
よって日本では、汎用的能力はキャリア教育・職業教育や大学教育との関連で論じられる傾向が強いといえる。
確かに大学図書館員にも汎用的能力が必要だとする意見は、すでに存在する。しかし実際の図書館員対象の研修内容には、いまだ十分反映されているとはいえない。ついては、今後、図書館員の継続教育において、汎用的能力の具体化と重要性の認知が必要であろう。
汎用的能力の育成といった点から、大学図書館員の継続教育を再考してみよう。例えば、『大学図書館が求める人材像について: 大学図書館職員のコンピテンシー(検討資料)』が、若手、中堅、補佐・専門員、管理職の4職層別にあげているコンピテンシーをみてみよう(13)。各職層に汎用的能力は含まれているが、なかでも中堅職員と補佐・専門員に着目すると、前者に必要なコンピテンシーとしてあげられている5点中4点(問題解決、視野の広さ、表現力・交渉力およびリーダーシップ)、後者に必要なものとしてあげている「調査研究」は、まさにいずれもが汎用的能力に該当している。
つまり、中堅職員以上の職層には、汎用的能力の育成を主眼としたプログラムの開発が求められているといえるのではないだろうか。
今日、多くの大学図書館では、図書館サービス向上のための施策立案や図書館評価の実施が求められている。そのため大学図書館員には、大学図書館の現状を分析し、課題を発見し、その解決策を生み出すデータ収集能力を含めた課題発見解決能力こそが必須である。そして、発見された課題を解決するためには、意思決定能力が不可欠である。キャリアアップ教育の中でも、特に図書館経営や戦略立案を担う中堅以上の職員を対象とした継続教育には、こうした能力の育成にもっと重点をおくべきであろう。
汎用的能力の育成を意識した動きとして、例えば海外では、リーダーシップ能力の育成に重点がおかれ(14)、ライブラリー・スクールを持たないハーバード大学が大学図書館員を対象にしたリーダーシップ育成のための継続教育プログラムを実施している(15)。
日本でも、2011年度から筑波大学図書館情報メディア研究科が博士前期課程に、図書館情報学関連分野の現職者を対象とし、実践的研究を行う高度専門職業人の育成をめざす図書館情報学キャリアアッププログラムを設けた。図書館情報学にかかる専門的能力のみならず、「研究の手引き」や「調査分析法」を演習科目として設定するなど汎用的能力の養成もめざしたカリキュラムの提供を開始した(16)。その具体的成果は数年後を待たねばならないが、従来の図書館員の継続教育に刺激を与える、新たな動きとして着目したい。
筑波大学:溝上智恵子(みぞうえちえこ)
(1) 文部科学省生涯学習政策局社会教育課. “第5章司書等に対する研修事例の把握と特徴的な事例の整理”. 図書館職員の資格取得及び調査研究報告書. 文部科学省, 2007, p. 127-218.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/07090599/005.pdf [341], (参照 2011-04-01).
(2) 国立大学図書館協会人材委員会. “大学図書館が求める人材像について: 大学図書館職員のコンピテンシー(検討資料)”. 国立大学図書館協会, 2007.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/hr/jinzaizo1903.pdf [342], (参照 2011-04-01).
(3) JMAMコンピテンシー研究会編. コンピテンシーラーニング: 業績向上につながる能力開発の新指標. 日本能率協会マネジメントセンター, 2002, p.193.
(4) 永田治樹ほか. “大学図書館職員のコンピテンシーについて: 大学図書館員の専門性と人材育成のあり方に関する研究”. 筑波大学附属図書館研究開発室年次報告: 平成20-21年度. 筑波大学附属図書館研究開発室, 2011, p. 34-44.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/RD/annual_report_2008-2009.pdf [343], (参照 2011-04-01).
(5) 国や研究者により呼称が異なっており、「中核技能(Core skills)<主として英国>」、「就業可能性(Employability skills)<主としてオーストラリア>」あるいは「基礎技能(Basic skills)<主として米国>」と呼ばれる場合もある。
Australian National Training Authority. Defining Generic Skills: At a Glance. National Centre for Vocational Education Research Ltd, 2003, p. 2.
(6) “「社会人基礎力」育成のススメ: 社会人基礎力育成プログラムの普及を目指して”. 経済産業省, 2007, 27p.
http://www.meti.go.jp/press/20070517001/kisoryoku-reference.pdf [344], (参照 2011-04-01).
(7) 中央職業能力開発協会. “若年者就職基礎能力修得のための目安策定委員会報告書”. 厚生労働省. 2004-07.
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/07/dl/h0723-4h.pdf [345], (参照2011-04-01).
(8) “キャリア発達にかかわる諸能力の育成に関する調査研究報告書”. 文部科学省国立教育政策研究所生徒指導研究センター. 2011-03.
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/22career_shiryou/pdf/career_hattatsu_all.pdf [346], (参照 2011-04-30).
(9) “「社会人基礎力」育成のススメ: 社会人基礎力育成プログラムの普及を目指して”. 経済産業省, 2007, p. 1.
http://www.meti.go.jp/press/20070517001/kisoryoku-reference.pdf [344], (参照 2011-04-01).
(10) Australian National Training Authority. Defining Generic Skills: At a Glance. National Centre for Vocational Education Research Ltd, 2003, p. 8.
(11) “「社会人基礎力」育成のススメ: 社会人基礎力育成プログラムの普及を目指して”. 経済産業省, 2007, p. 2.
http://www.meti.go.jp/press/20070517001/kisoryoku-reference.pdf [344], (参照 2011-04-01).
(12) 川嶋太津夫.“ジェネリック・スキルとアセスメントに関する国際動向”. 学士課程教育のアウトカム評価とジェネリックスキルの育成に関する国際比較研究: 平成19-21年度科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書. 研究代表者: 濱名篤. 関西国際大学, 2010, p. 158.
http://www.kuins.ac.jp/kuinsHP/facilities/Education/2010/InternationalComparisonResearchReport.pdf [347]. (参照 2011-04-01).
(13) 国立大学図書館協会人材委員会. “大学図書館が求める人材像について: 大学図書館職員のコンピテンシー(検討資料)”. 国立大学図書館協会, 2007, p. 7, 14.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/hr/jinzaizo1903.pdf [342], (参照 2011-04-01).
(14) 例えば以下の文献がある。
Byke, Suzanne et al. A Leadership Primer for New Librarians: Tools for Helping Today's Early-career Librarians to Become Tomorrow's Library Leaders. Chandos Publishing, 2009, 167p.
Lowe-Wincentsen, Dawn et al. Mid-Career Library and Information Professionals: A Leadership Primer. Chandos Publishing, 2011, 241p.
(15) “Programs in Professional Education”. Harvard Graduate School of Education. 2011-03-03.
http://www.gse.harvard.edu/ppe/programs/higher-education/portfolio/leadership-academic-librarians.html [348], (accessed 2011-04-20).
(16) “筑波大学大学院図書館情報メディア研究科修了要件指導体制”. 筑波大学図書館情報メディア研究科. http://www.slis.tsukuba.ac.jp/grad/education/youken.html [349], (参照 2011-04-01).
溝上智恵子. 大学図書館員の継続教育における汎用的能力の重要性. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1744, p. 4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1744 [350]
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国際子ども図書館が開館したのは2000年5月だったが、開館記念の行事として、社団法人国際児童図書評議会との共催で「子どもの本・翻訳の歩み展」が行われた。これは日本の子ども達が過去に読んできた児童書のなかで大きな位置を占める、外国語から「翻訳」された児童文学を歴史の流れに沿って通覧しようという試みであった。国際児童図書評議会の会員として長年翻訳児童文学の歴史を研究してきた筆者は、この展示会の実行委員として参加した。
本稿では、この展示会で発表した1960年代までの翻訳作品に、それ以降の翻訳の状況を加えて、外国児童文学の翻訳の歩みを概観する。なおここで取り上げる「外国児童文学」は、外国語で執筆され、日本語に翻訳された子どものための文学とし、絵本、ノンフィクションは含まない。
参考文献とした子どもの本・翻訳の歩み研究会編 『図説子どもの本・翻訳の歩み事典』は、上記展示会の実行委員が中心となって編纂した書物である。
日本で子どものために翻訳された最初の本といわれているのは、幕末の1857年に「ロビンソン・クルーソー」をオランダ語版から重訳した『魯敏遜漂行紀略』である。これを皮切りに、「ガリヴァー旅行記」やヴェルヌの空想科学小説などが盛んに翻訳された。長い鎖国が終わり、新しい世界に目を向けようという気運が感じられる。
明治時代には若松賤子訳のバーネット作『小公子』(1891)と、森田思軒訳のヴェルヌ作『十五少年』(1896)が二大名訳といわれた。若松の訳文は滑らかな言文一致体で、その後の翻訳文体に多大な影響を与えた。また「翻案」をせず、原作の雰囲気を忠実に伝えようとした翻訳態度は画期的であった。森田の訳文は漢文調だったが、緊迫した描写を精密に訳し、原作者の精神を生かした名訳とうたわれた。
「翻案」とは外国の風物になじみのない日本の読者に配慮して、人物名を日本名に、物語の舞台を日本の地名に移し変えることで、明治・大正時代に盛んに行われた。菊池幽芳訳の『家なき児』(1912)では、主人公のレミを民、シャバノン村を鯖野村と訳すという具合である。他にも、ハイジは楓ちゃん、オリバー・ツイストは小桜新吉になった。また子どものために原作をやさしく語り直した「再話」や、複雑な部分を省略した「抄訳」も多く行われた。
大正時代には冨山房の『模範家庭文庫』、精華書院の『世界少年文学名作集』、世界童話大系刊行会の『世界童話大系』などの豪華で高価な叢書が刊行され、家庭の本棚に翻訳文学が教養として備えられるようになる。これらの叢書に収められた古典作品が、その後も長いあいだ外国児童文学の名作として定着していく。昭和に入っても繰り返し翻訳され定番となったタイトルには、英国の「ロビンソン・クルーソー」「宝島」「ガリヴァー旅行記」「不思議の国のアリス」「ピーター・パン」「ジャングル・ブック」「黒馬物語」「フランダースの犬」「クリスマス・カロル」、米国の「王子と乞食」「トム・ソーヤーの冒険」「小公子」「秘密の花園」「若草物語」、フランスの「ああ無情」「三銃士」「十五少年漂流記」「家なき子」、イタリアの「クオレ」「ピノッキオの冒険」、スイスの「ハイジ」、ベルギーの「青い鳥」、スウェーデンの「ニルスの不思議な旅」などがあり、「グリム童話集」「アンデルセン童話集」「アラビアン・ナイト」も人気があった。自国以外の児童文学の中に、皆が共通して知っているタイトルがこれほど多い国は世界でも稀であろう。
昭和初期には児童文学も大衆化の時代を迎え、大量生産による廉価な叢書が出版された。アルス社の『日本児童文庫』全76巻と興文社・文藝春秋社の『小学生全集』全88巻は互いに激しい宣伝・販売合戦を繰り広げた。この中にも名作の翻訳が多く含まれている。
戦後になってやっと各国の児童文学の新しい作品を紹介しようという動きが出てきた。1950年から刊行された『岩波少年文庫』と講談社の『世界名作全集』は、定番の名作を残しながらも同時代の新しい作品を意欲的に翻訳し始めた。『岩波少年文庫』には、ソビエト児童文学から『こぐま星座』や『ヴィーチャと学校友だち』、ドイツからケストナーの『ふたりのロッテ』ほかの作品、英国からランサムの『ツバメ号とアマゾン号』やルイスの『オタバリの少年探偵たち』、米国からワイルダーの『長い冬』など、新しい時代の息吹を感じさせる児童文学が次々に翻訳された。少年少女の日常生活を細部にわたってリアリスティックに描いた作品が目立つ。
一方空想的な物語は英国に多く、『とぶ船』『風にのってきたメアリー・ポピンズ』『床下の小人たち』『クマのプーさん』などが翻訳された。フランスの『星の王子さま』、アメリカの『ドリトル先生アフリカ行き』、チェコの『長い長いお医者さんの話』、イタリアの『チポリーノの冒険』なども、独特の楽しい世界を繰り広げた(1)。
同じころ相次いで刊行が始まった創元社の『世界少年少女文学全集』(1953~1958)と講談社の『少年少女世界文学全集』(1958~1962)は、世界の児童文学を全50巻の中に網羅的に収録した大規模な全集である。社会の安定と共に家庭の購買力が上がり、子どもに良質の文学を読ませたいという親の意識も高まって、これらの全集は爆発的な売れ行きをみせた。
1960年代から70年代には、児童図書の出版も年々盛んになり、出版社も増えた。欧米の児童文学の研究が熱心におこなわれ、新しい情報も容易に手に入るようになって、児童図書賞の受賞作など評価の高い作品がいち早く翻訳されるようになった。あかね書房、学習研究社、評論社、偕成社、福音館書店、冨山房などから、質の高い充実した翻訳シリーズが次々に刊行されている。第二次世界大戦後の児童文学には、困難をのりこえて成長する子どもの姿を描いた理想主義的な作品が多く、日本の作家たちにも大きな刺激となった。
20世紀の終わりには児童文学も現代社会の諸相を映し、テーマは多岐にわたるようになる。物質的な豊かさとは裏腹に、家族の崩壊や老人問題、差別などの深刻な問題が扱われ、子どもの心の内側を深く掘り下げる作風が注目された。
21世紀に入ってすぐに一大旋風を巻き起こしたのは「ハリー・ポッター」シリーズである。1997年に英国で出版されるや欧米諸国で一躍ベストセラーとなったローリングのファンタジーが日本でも翻訳され、子どもばかりか大人にも人気を博して驚異的な売り上げを記録した。不況続きの出版界ではこれにあやかろうと次々に古いファンタジーを復刊したり、新作を捜し求めたりする傾向が見られた。
このように児童文学の翻訳出版には長い歴史があるが、翻訳されるのは児童文学の長い伝統を誇る英国と、常に新しい時代をリードしてきた米国の作品が圧倒的多数を占める。欧州からは、ドイツ語、フランス語、ロシア語の作品が古くから翻訳されてきたが、北欧、南欧、東欧諸国の文学はまだ少ない。アジアについては、中国、韓国の作品が少しずつ訳されているが、その他の国々の作品はほとんど紹介されていない。アジア諸国では児童文学の出版自体がまだ発展途上にあることや、多岐にわたるアジア言語の翻訳者が少ないことも一因である。
21世紀は、異文化を知り国際理解を深めるグローバリゼーションの時代といわれる。これまでごく少数だったアフリカを舞台にした作品も翻訳され始めた。英米主導の児童文学も少しずつその地平を広げつつある。
日本では世界の先端を行く児童文学が翻訳されると同時に、古典作品が訳者を新しくして訳し直されてきた。明治から平成の長きにわたり外国の名作を翻訳で読み続けられたのは日本ならではの幸せだが、現代の子ども達に供するには注意を要する点もある。児童文学はその時代の社会の価値観を反映する傾向にあるので、古い時代の作品には今と異なる価値観で描かれた部分が少なくない。例えば名作物によく登場する「孤児院」のイメージは今の養護施設の状況と全く異なるし、職業、貧富の差、障碍に対する考え方も変化している。作品によっては、時代背景をまだ理解できない年齢の読者には誤解を与える危険性があるので、新訳の際に時代背景について解説を加えたものもある。図書館では新訳が出るたびにそういった観点からも作品を見直し、現代の読者への提供の方法に配慮することが望ましい。
児童図書研究・翻訳家:福本友美子(ふくもとゆみこ)
(1) 現実の暮らしの中に妖精や小人が出現して不思議なことがおこるエブリデイマジックの手法は、日本でいぬいとみこの『木かげの家の小人たち』や佐藤暁の『だれも知らない小さな国』に生かされ、両作の出版された1959年は日本の現代児童文学が成立した年といわれている。従来の「童話」や「メルヘン」に代わって「ファンタジー」という用語が使われ始めたのはこのころからである。
Ref:
子どもの本・翻訳の歩み研究会編. 図説子どもの本・翻訳の歩み事典. 柏書房, 2002, 398p.
福本友美子. 外国児童文学の翻訳の歩み. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1745, p. 6-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1745 [354]
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Linked Dataはデータの共有の新しい方法として近年認知されつつある。特にデータのオープン化(オープンデータ)の標準的方法として使われるようになっている。図書館の世界においても所蔵データや件名標目表をLinked Dataとして公開する図書館が相次いでいる。
本稿ではLinked Dataの基本的な考え方と全体的な動向・傾向について述べる(1)。
Linked Dataとは、一言で言ってしまえば、データ版のWorld Wide Web(WWW、以下Web)である。現在の普通のWebの主たる対象は、人間が理解する文章、文書であり、それがハイパーリンクでつながっているので、「文書のWeb」(Web of Documents)といえる。Linked Dataは文書ではなくデータがハイパーリンクでつながったもので、「データのWeb」(Web of Data)というわけである。
WebがHTMLという標準言語を必要としたようにこの「データのWeb」にも標準言語が必要であり、それがRDF(Resource Description Framework)である。Linked Dataとは、様々な情報源のデータがRDFで記述され、それらが結びついてつくられるデータの集合である。
RDFは元々はメタデータ記述言語であるが、Linked Dataではこれを使ってデータを記述する。RDFでは、データは(主語、述語、目的語)という単純な関係として記述される。この一組のデータをRDF文(RDF Statement)あるいはトリプルと呼ぶ。
パターン化されているデータはRDFスキーマ(RDF Schema:RDFS)を使って、データ構造を明示的に定義して、個別のデータはスキーマ(あるいはクラス)のインスタンスとして記述される。RDFを使うことでデータを一つの標準言語で記述することができる。
しかし、これだけでは単にデータをある言語で記述しただけに過ぎない。Linked Dataではその名の通り、“Link”されないといけない。そこで重要になってくるのがURI(Uniform Resource Identifier)である。URIはURLの拡張として提示されるもので、Web空間でリソース(資源)を一意に指定することのできる識別子である。URLもURIとしてみることができるが、URLと異なりURIはそこに何か(URLでいえばWeb文書)があることを保証するわけではなく、あくまで一意に指し示す識別子である。
RDFではその主語はURIである必要がある。また述語、目的語もURIでよい。すなわち、RDFを使ってデータを記述する場合、常にWeb空間で一意に識別可能な形で書くということである。さらに目的語として任意のURIが使えるので、自分のデータセットの中の項目を指し示すだけではなく、他のデータセットの中の項目も指し示すことができる。この仕組みによってデータセットを超えて相互に参照しあうLinked Dataが可能になる。
Webの創始者であるバーナーズ・リー(Tim Berners-Lee)はLinked Dataの4原則として以下のものを挙げている(2)。
① ものの名前としてURIを使うこと
② ものの名前を調べられるようにHTTP URIを使うこと
③ URIを見に行ったとき、RDFやSPARQLのように標準技術によってそれに対する有用な情報を提供できるようにすること
④ より多くのものが発見できるように、データの中に他のURIへのリンクをいれること
何らかのものを言及するときはそれにURIを用意しましょうということである。これによりWeb上で一意にそのものを指し示すことができるようになる(①)。
さらにURIの中でもHTTP URIを使うことで、通常のWebと同じような方法でデータにアクセスできるようになる(②)。
URIというのは識別子に過ぎず、そのURIにアクセスするとデータ自身が手に入るようにしておく必要がある。その一つの方法は通常のWebがHTML文書を返すに対して、Linked DataのURIはRDF文を返す方法である。あるいはRDFデータベースに対する問い合わせ言語SPARQL(リレーショナルデータベースに対するSQLのようなもの)を使って、問い合わせができるようにしておいてもよい(③)。
そして、そのデータもそのサイト内のデータのみ参照するのではなく、外部のサイトのデータも参照するようにすべきである(④)。
LODとはLinking Open DataまたはLinked Open Data(3)のことを指す。前者であればオープンなデータのつながりを指し、後者であればオープンに利用可能なLinked Dataを指すが、あまり指すところの差はない。そのLinked Data間の相互関係を図示したものがLODクラウドである。
図1 LODクラウド
出典:(5)を基に筆者が加筆
LODクラウドとはデータサイトの作るネットワーク図である。Linked Dataの原則のところで述べたように、Linked Dataの強みは異なるデータサイトのデータがつながりあうことができる点である。LODクラウドはその広がりを視覚的に表現したものである。2010年9月時点での状況を図示したものが図1である(4)。一つ一つのノードがデータセットを示し、ノード間のリンクはそれらのノード間にデータの参照があることを示す。
中心にDBpedia(WikipediaをLOD化したもの)がある。右上を中心に図のノード全体の1/4以上を占めているのが出版・論文・図書館関係(publication)である(図中で楕円で囲んだ部分の大部分)。ここから反時計回りにみていくと、左上の1/8程度の部分がメディア関係である。左端あたりにあるのが政府関係データ、左下に地理関係とクロスドメインが順にある。右下にありノード全体の1/4弱を占めるのが生命科学関係である。
以下ではバイザー(Chris Bizer)らの分析を中心にして、このLODに含まれるデータが何であるかをみていく(6) (7)。
2010年10月時点で全体で約286億トリプル、207データセットである(8)。量の割合でみると、政府関係がもっとも多く全体の約41%を占める。ただし、政府関係はカテゴリとしては2010年に初めてできたものである。次は地理関係で約21%、以下はクロスドメイン、生命科学、メディア関係、出版・論文・図書館関係の順に続く。
図2 LODデータ量の変遷
出典:(9)を基に筆者が作成
増加率でみると、2007年から2010年にかけて毎年おおよそ300%ずつ増加している(10)。すなわち指数的に増加している(図2)。2009年6月から2010年11月の変化を分野別にみると、出版・論文・図書館関係はおおよそ1,000%の増加をして22億トリプルである(11)。2010年に初出の政府関係をのぞけば最大の伸び率である。2010年にこの分野でLODが多くの注目を集め、実際にデータがでてきたことを示している。
出版・論文・図書館関係の分野に関しては、
といった各国を代表する図書館がデータセットを公開してきたことが大きな流れをつくっている(括弧内が公開しているデータセット)(12)。また、欧州連合(EU)の国々の図書館・文書館・美術館・博物館の統合サイトであるEuropeanaも実験サイト(13)をつくってLODを指向している。
データの語彙に関する分布は次のようである。Dublin Core(シンプルDC)を使っているデータサイトは全体の約32%、FOAF (Friend-Of-A-Friend)(14)を使っているのは約27%、dcterms(15)が約18%、SKOS(Simple Knowledge Organization System)(16)が約14%である。何らかの独自の語彙も併せて使っているデータセットは全体の約59%、残りは外部で定義された語彙のみで記述している。なお、独自語彙を標準語彙へマッピングする定義が書かれているものは7%程度であった。
先に分野別にデータ数を提示したが、これを各データセットから外へ出ていくリンク(Outlink)数でみると順位は大幅に変わる。生命科学が一番大きくなり50%を超える。以下、出版・論文・図書館関係が約20%、メディア約13%、クロスドメイン約7%である。Outlink数が多いというのはより外のデータとのつながりがあるということであり、生命科学関係はデータセット間でよく参照されているLinked Dataの特徴を生かしたデータであることがわかる。反面、政府関係データセットはデータ数は多いものの、各データセット内で閉じていて、あまりLinked Dataの特徴を生かしていないことを示している。
Outlinkの数でみると、多く(43%)のデータセットは1,000以下である一方、100万を超えるOutlinkを持つデータセットも約11%ある。
一つのデータセットのOutlinkのターゲットのデータセットがいくつあるかをみてみると、ターゲットのデータセットが1つのみが約31%を占める。2つであるのが約19%なのでこれで約半数である。一方、10個以上というデータセットも約14%ある。Linked Dataのサイトといっても多くから参照されているサイトもあれば特定のサイトからしか参照されないサイトもあり、かなり幅があることがわかる。
なお、データセットのうち、データの作成者自身がLODとして公開しているのが約1/3、残りはデータ作成者以外がLOD化している。
データは公開されるだけでも価値があるが、リンクされることによってより価値を高める。これまで各種のデータは紙の文書やPDFで公開されることが多かった。確かに公開はされているが、加工も操作も難しいので、データ提供者の意図どおりに受け入れるしかなかった。データを加工したり他のデータと結びつけたりするという役割はデータの提供者のみに任されていた。
一方、Webページの情報、ことにHTML文書は自由に操作可能である。様々なタギングシステムやリンクシステムでユーザは自分なりの情報のまとめを作ったりすることができる。さらにWeb APIが公開されているサイトではAPIを活用してマッシュアップという形でデータを集約、関連づけることができる。
ユーザがデータを取捨選択できたり他のデータと統合したりできるという点では、Linked Dataの役割はWeb APIと似ている。しかし、Web APIと異なるのはURIとRDFスキーマを用いることで透明性をできる限り確保していることである。透明性があることでデータの統合に関して自由度が増している。このことにより、データの提供者でもデータの利用者でもなく第三者がデータを統合したりすることが可能になった。すなわち、データ提供者以外でも、独自の視点でデータを集約したり加工したりしたデータをまた公開することができる(17)。この点においてはデータ提供者にとってメリットになりうる。すなわち、データ提供者は利用者向けの加工まで用意しなくてもすむようになる。またデータ利用者も好きなデータ加工を選択できるという自由度が得られる。Linked Dataはこのようなデータの利用の役割分担を新たにつくることにより、データ利用をより活性化させることができるのである。
国立情報学研究所:武田英明(たけだひであき)
(1) Linked Dataについて『情報処理』2011年3月号に特集がある。総説、各分野(メディア、医薬品、政府、地理空間)での状況、日本での課題について個別に言及されているので、こちらも参照されたい。
特集, リンクするデータ(Linked Data): 広がり始めたデータのクラウド. 情報処理. 2011, 52(3), p. 284-333.
(2) Berners-Lee, Tim. “Linked Data”. Design Issues. 2009-06-18.
http://www.w3.org/DesignIssues/LinkedData.html [356], (accessed 2011-05-10).
(3) 当初、LODはオープンデータを収集するLinking Open Dataプロジェクトの略称として使われていたが、次第にオープンなLinked Data (Linked Open Data)の略称としても指すようになった。
(4) Cyganiak, Richard et al. “The Linking Open Data cloud diagram”. 2010-09-22.
http://lod-cloud.net/ [357], (accessed 2011-05-10).
(5) Cyganiak, Richard et al. “The Linking Open Data cloud diagram”. 2010-09-22.
http://lod-cloud.net/ [357], (accessed 2011-05-10).
(6) Bizer, Christian et al. “State of the Web of Data”, 4th Linked Data on the Web Workshop (LDOW2011), Hyderabad, India, 2011-03-29.
http://events.linkeddata.org/ldow2011/slides/ldow2011-slides-intro.pdf [358], (accessed 2011-05-10).
(7) Bizer, Christian et al. “State of the LOD Cloud”. Freie Universität Berlin. 2011-03-28.
http://lod-cloud.net/state/ [359], (accessed 2011-05-10).
(8) Bizer, Christian et al. “State of the LOD Cloud”. Freie Universität Berlin. 2011-03-28. http://lod-cloud.net/state/ [359], (accessed 2011-05-10).
(9) Bizer, Christian et al. “State of the Web of Data”, 4th Linked Data on the Web Workshop (LDOW2011), Hyderabad, India, 2011-03-29.
http://events.linkeddata.org/ldow2011/slides/ldow2011-slides-intro.pdf [358], (accessed 2011-05-10).
(10) Bizer, Christian et al. “State of the Web of Data”, 4th Linked Data on the Web Workshop (LDOW2011), Hyderabad, India, 2011-03-29.
http://events.linkeddata.org/ldow2011/slides/ldow2011-slides-intro.pdf [358], (accessed 2011-05-10).
(11) Bizer, Christian et al. “State of the LOD Cloud”. Freie Universität Berlin. 2011-03-28.
http://lod-cloud.net/state/ [359], (accessed 2011-05-10).
(12) Bizer, Christian et al. “State of the Web of Data”, 4th Linked Data on the Web Workshop (LDOW2011), Hyderabad, India, 2011-03-29.
http://events.linkeddata.org/ldow2011/slides/ldow2011-slides-intro.pdf [358], (accessed 2011-05-10).
(13) Europeana Research Prototype.
http://eculture.cs.vu.nl/europeana/session/search [360], (accessed 2011-05-10).
(14) FOAFは人と人の関係を書くために定義されたメタデータスキーマであるが、単に人のプロファイルを書くときにもよく用いられる。
FOAF Vocabulary Specification. 2010-08-09.
http://xmlns.com/foaf/spec/ [361], (accessed 2011-05-10).
(15) Dublin Coreは2003年にISO 15836として標準化された(シンプルDC)が、2008年に提案された豊富で精密な定義をもつ要素に拡張をされた語彙をdctermsと呼んで区別している。
DCMI Metadata Terms. 2010-10-11.
http://dublincore.org/documents/dcmi-terms/ [362], (accessed 2011-05-10).
(16) SKOSはシソーラスや分類表で使われる上位下位関係など概念間の関係を中心とした語彙である。
SKOS Simple Knowledge Organization System Reference. 2009-08-19.
http://www.w3.org/TR/skos-reference/ [363], (accessed 2011-05-10).
(17) 2011年の東日本大震災における福島第一原子力発電所問題においては、有志が各地の放射線データを集約して公開している元のデータがcsvやexcelデータであるため、工夫して統合しているが、Linked Dataであればこういった活動はより楽に行えることが期待できる。
放射線量モニターデータまとめページ. 2011-05-10.
http://sites.google.com/site/radmonitor311/ [364], (参照 2011-05-10).
武田英明. Linked Dataの動向. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1746, p. 8-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1746 [365]
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書籍をはじめとする図書館資料は、著者による執筆を起点に、利用者がそれを閲覧するまでの一連で流通され、次々に提供される。その中には、出版社、書籍取次、書店、図書館のそれぞれの役割が存在している。各場面において、書籍を流通させ、管理し、探すためには、その書籍を表す何らかのデータ(メタデータ)が必要であることは言うまでもない。
図書館では、書誌データの交換フォーマットであるMARC(機械可読目録)が図書館資料の管理および利用者による検索のためのメタデータとして利用されている。MARCは一定の標準規格となっているため、国際的にも多くの図書館で共通で活用することができるようになっている。
一方、出版社、書籍取次、書店の側にもメタデータが必要であることに変わりはない。これまでは各国、各社での独自運用が多かったが、最近では後述するEDItEURが管理するONIXというフォーマットの採用が欧米の出版社を中心に進み標準となってきている。
本稿では、書籍流通における商品情報としてのメタデータであるONIXを取り上げ、その概要と共に図書館と関係した動き、および日本での対応状況について解説する。
ONIXは、出版物の流通における標準化を推進する団体であるEDItEUR(European Book Sector Electronic Data Interchange Group)により管理されている。EDItEURは、1991年に設立された英国ロンドンに本部を置く国際団体で、19か国から80以上の機関がメンバーとして参加している。日本からは、一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)、株式会社紀伊國屋書店、丸善株式会社の3機関がメンバーとなっている(2011年4月1日現在)。EDItEURでは、メタデータと各種の識別規格の管理、利用促進を行っており、ONIX以外にもEDI(電子データ交換による商取引)、RFID(ICタグ)等の標準化、ガイドラインの作成、普及を推進している(1)。
ONIXはONline Information eXchangeの略称であり、EDItEURが管理する規格の総称である。それらのONIXフォーマットの集合はONIXファミリーと呼ばれている。
ONIXファミリーの全てのフォーマットは、XML形式で記述されている。XMLは書誌データのような複雑な構造を記述するのに最適であり、出版、流通、販売、ライセンス管理などの各種システム間で運用が容易であることや、データが人間でも判読できるため導入に障害が少ないことが利点である。また、出版社がONIXを採用する場合は無料でそのフォーマットを使用することができる。このように、必要な機能を確保しつつ、出版社が容易にONIXを採用できるようにしている。
ONIX for Booksは、インターネット上での書籍販売において、より充実したメタデータの迅速な提供を求めるニーズに応えるため、米国出版社協会(Association of American Publishers:AAP)のデジタル化課題ワーキング部会(Digital Issues Working Party)の主導で開発が開始された。具体的な作業は、米国の書籍産業研究グループ(Book Industry Study Group:BISG)と英国の書籍産業コミュニケーション(Book Industry Communication:BIC)との密接な協力関係において進められている(2)。さらに現在では国際的な普及と実装のために、15か国の地域別ONIX委員会が組織され、それらの代表者が集まるONIX for Books国際運営委員会(ONIX for Books International Steering Committee)も構成されている。国際運営委員会は年2回開催され、ONIX for Booksの改訂や開発における方針、手順、優先度を決定したり、新しいバージョン内の相違点を解決し、リリースを認可したりするなどの任務を持ち、ONIX for Booksの統制を行っている(3)。
ONIX for Booksの最初のバージョンは2000年に1.0としてリリースされた。以降、継続的に改訂が行われ、2001年に2.0、2004年に2.1がリリースされ、書籍の商品情報を電子的に提供および通信する際の国際標準として位置づけられるようになった。そして2009年4月に3.0がリリースされている(4)。
最新の3.0の開発では機能的な追加だけでなく、項目間の関係性や配置の見直しを含む改訂が行われたため、3.0から2.1以前のバージョンへの下位互換性は保たれていない(5)。3.0における機能面の強化としては、近年の電子書籍の出版・流通の拡大への対応を中心に改訂が行われ、最新の流通形態に適応するような改善が施されている点である。現時点では2.1を採用している出版社が多いが、今後3.0への移行が進むものと考えられる。
冒頭に記したように、図書館では書籍のメタデータとしてMARCが利用されOPACを通して利用者へもその情報が提供されている。つまり、同じ書籍であっても、その情報がONIX for BooksとMARCの異なった規格で表現されることになる。ここでは、商品情報としてのONIX for Booksの特徴を理解するために、構造や特有の項目を中心にMARCとの違いを紹介する。
まず、ONIX for Booksは商品としての書籍の流通をサポートすることを目的とし、MARCは一資料としての書誌事項のみを記述することを目的に定義されている。そのため、全体の構造、それぞれに含まれる項目要素、コード化される体系には差異があり、また書名、著者名のような基本的な書誌事項においても記述方式が異なっている。
また、書誌データの集合としてのONIX for Booksは、発信出版社と受信利用者の情報を記述したMessage Headerと呼ばれる部分と、書誌情報と取引情報を記述したProduct Recordと呼ばれる部分との組み合わせで構成される(6)。
Message Headerには、発信出版社、受信利用者双方の識別子、名称、担当者名、メールアドレスなどが記述される。この部分はMARCには存在しない情報である。
Product Recordでは、書名、著者名、出版事項、形態に関する事項などを中心に書誌事項が記述される。しかし、標目とアクセスポイントの概念は無く、複数の著者も並列に記述される。また、MARCでの記述は国際標準書誌記述(ISBD)で定義された区切り記号を伴うが、ONIX for Booksにはその必要はない。
さらに、商取引を目的としているため、以下の項目はMARCには存在せず、ONIX for Books特有の情報であると言える(7)。
さらに、3.0となって電子書籍へ対応することにより以下のような項目が加わっている。
これらの項目は、同一の内容を持つ書籍が複数の利用環境や媒体で提供される電子書籍特有の情報や販売手法などを含むものである。そのため、書籍そのものの情報を集約し、その書籍の利用方法などは含まないMARCとは異なる部分となっている。
ONIX for Booksが最初に確立された後、EDItEURからはONIXファミリーとして雑誌情報、契約情報、識別子情報のフォーマットがリリースされている。ここではそれぞれの名称、最新バージョン、リリース時期のみを記す。
①ONIX for Serials:雑誌に関する情報(8)
②ONIX for Licensing Terms:契約管理情報(9)
③ONIX for identifier registration:識別子登録情報
欧米では出版社を中心としてONIXへの対応が標準となりつつある状況で、図書館側でもONIXに関する様々な検討が開始されている。その中で世界最大の総合目録データベースを持ち、図書館関係のサービスを提供しているOCLCの活動を紹介する。
2009年10月に開始された“Metadata Services for Publishers”は、出版社から依頼されたONIX for Booksによる書誌データに対して、OCLCのWorldCatが搭載している数多くの書誌データから適合する情報を追加し、出版社に戻すものである。各所で行われているメタデータの作成、整備作業の重複を取り除き、経費の削減を目指すサービスである。結果として、出版社にとっては自社書籍データの品質・精度の向上、図書館にとっては発注前からの充実した書誌情報の確認などの利点が見込まれる(12)。
OCLCでは、前述のサービスと関連してONIX for Books 2.1とMARC21とのデータ交換のためのマッピングを検討し、相互の変換(クロスウォーク)についての報告書を2010年4月に出している(13)。
このマッピングの目標は、書籍に関する基本的な情報を2つの規格の間で受け渡し、出版社や図書館でそれぞれに有用だと考える高品質なメタデータを作成してデータ作成や管理の効率化を進めることである。詳細な相互変換の仕様はExcelのシートにまとめられ、ONIX for Booksの項目とMARC21のタグ、サブフィールドとの対応が示されている(14)。
当然ながら、変換可能なデータはMARC21に含まれる書誌的記述データに限定される。その中でも、データを若干の変更で置き換えられる項目もあれば、構造的な順序を変更する必要なものもある。例えば、ISBNのような固有の識別子はそのままONIX for BooksからMARC21へ置き換えが可能であり、書名は大文字・小文字の記述規則を変更して置き換えが可能である。一方で、出版者と出版年はONIX for Booksでは同レベルの項目として別々に存在するが、MARC21ではタグ260の中にサブフィールドで併記されるので、構造的な順序を変更した上での置き換えが必要になってくる。それ以外にも、コード化されたデータは、コード体系自体の変換も必要になってくる。
報告書では、2つのフォーマット間での記述項目におけるレベルの考え方の違いや目録規則に則った記述方式に特徴があるMARC21への対応についての課題も挙げられている。ONIX for Books 3.0への対応は今後としているが、図書館、出版界の双方からの精査と改良が必要としている。
図 ONIX for BooksとMARC21の対応例
出典:Mapping ONIX to MARC (15)
欧米の出版社を中心に開発された経緯から、日本での出版社等によるONIX採用の動きはようやく最近になって始まってきている。本稿では、2011年4月1日付けで正式稼働を開始した近刊情報センターを紹介する。
2010年度に総務省、文部科学省、経済産業省が3省合同で設置した「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の提言に基づき、総務省委託事業「次世代書誌情報の共通化に向けた環境整備」が進められた(16)。その一環として日本書籍出版協会を代表機関として日本出版インフラセンター、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社数理計画が受託したプロジェクトが、近刊情報センターとして正式稼働した。
登録した発信出版社(117出版社・5団体/2011年4月1日現在)からそれぞれ近刊の書誌データをONIX for Booksのフォーマットで提供を受け、近刊情報センター内で整備・統合処理を行い、それを受信利用者である書籍取次、書店など(24書店・6取次・6団体/2011年4月1日現在)にONIX for Booksフォーマットで提供するサービスを行っている。このサービスは、書籍の近刊情報流通の基盤を構築し、近刊情報を活用した商取引の発展を目指している(17)。
現時点では、海外の出版社でONIX for Books 2.1での実績が多いことから、2.1に準拠したデータとなっている。3.0への対応は、国内外の出版社の状況を見つつ、今後の検討課題と考えられている。なお、ONIXに対応していない発信出版社、受信利用者もあることから、それ以外の方法、フォーマットでのデータ提供もサポートしている。
電子書籍の出版が増加しているだけでなく、インターネット上での書籍販売や書店の店舗で商品情報が幅広く活用されるようになってきているため、あらゆる場面で精度の高いメタデータが最適なスピードをもって提供されることが必要となっている。購入した書籍を管理し提供してきた図書館にとっても、出版社を中心に行われている書籍のメタデータの作成や活用にも注目が必要であろう。また、インターネットの世界ではメタデータ同士をリンクしてその情報力を向上させる研究も進められている。ONIXやMARCなどメタデータの特性を知ることにより、図書館で利用する書籍のメタデータも豊かになっていくものと考えられ、その活用に期待したい。
丸善株式会社:吉野知義(よしのともよし)
(1) “About”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/2/About/ [368], (accessed 2011-04-07).
(2) “ONIX”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/8/ONIX/ [369], (accessed 2011-04-07).
(3) ONIX for Books International Steering Committee. “ONIX for Books International Steering Committee: Terms of Reference”. EDItEUR. 2009-10.
http://www.editeur.org/files/ONIX%20for%20books%20ISC/20100813%20ONIX%20for%20Books%20ISC%20ToRs%20final.pdf [370], (accessed 2011-04-07).
(4) “ONIX for Books”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/11/Books/ [371], (accessed 2011-04-07).
(5) “About Release 3.0”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/12/Current-Release/ [372], (accessed 2011-04-07).
(6) “ONIX for Books Product Information Format Specification: Release 3.0”. EDItEUR. 2009-04.
http://www.editeur.org/files/ONIX%203/ONIX_for_Books_Release3-0_docs+codes_Issue_13.zip [373], (accessed 2011-04-07).
(7) “ONIX for Books Product Information Format Data Element Summary: Release 3.0”. EDItEUR. 2009-04.
http://www.editeur.org/files/ONIX%203/ONIX_for_Books_Release3-0_docs+codes_Issue_13.zip [373], (accessed 2011-04-07).
(8) “Current Releases”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/18/Current-Releases/ [374], (accessed 2011-04-07).
(9) “Overview”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/85/Overview/ [375],(accessed 2011-04-07)
(10) “ONIX DOI Registration Formats”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/97/ONIX-DOI-Registration-Formats/ [376], (accessed 2011-04-07).
(11) “ONIX ISTC Registration Format”. EDItEUR.
http://www.editeur.org/106/ONIX-ISTC-Registration-Format/ [377], (accessed 2011-04-07).
(12) “OCLC Metadata Services for Publishers”. OCLC.
http://publishers.oclc.org/en/metadata/ [378], (accessed 2011-04-07).
(13) Godby, Carol Jean.“Mapping ONIX to MARC”. OCLC. 2010-04-09.
http://www.oclc.org/research/publications/library/2010/2010-14.pdf [379], (accessed 2011-04-07).
ガッドビー, キャロル・ジーン. “ONIX からMARC へのマッピング”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/ONIX_Books_Documentation_jaweb.pdf [380], (参照 2011-04-07).
(14) “ONIX-MARC Mapping (Crosswalk)”. OCLC. 2010-03-31.
http://www.oclc.org/research/publications/library/2010/2010-14a.xls [381], (accessed 2011-04-07).
(15) Godby, Carol Jean.“Mapping ONIX to MARC”. OCLC. 2010-04-09.
http://www.oclc.org/research/publications/library/2010/2010-14.pdf [379], (accessed 2011-04-07).
ガッドビー, キャロル・ジーン. “ONIX からMARC へのマッピング”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/ONIX_Books_Documentation_jaweb.pdf [380], (参照 2011-04-07).
(16) “新ICT利活用サービス創出支援事業”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/shinict.html [382], (参照 2011-04-07).
(17) JPO近刊情報センター. http://www.kinkan.info/ [383], (参照 2011-04-07).
Ref:
Linked Dataでつながるデータ. http://linkeddata.jp/ [384], (参照 2011-04-07).
吉野知義. ONIX:書籍流通における出版社のメタデータ標準化. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1747, p. 11-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1747 [385]
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2009年度の補正予算以後、小中学校において「電子黒板」(1)は、すっかり有名なものとなった。この次の世代の教材として注目されるのが、「デジタル教科書」(2)である。現在、「デジタル教科書」として市販されているものは、教員が「電子黒板」上に投影して、児童・生徒に提示することを目的とするものである。これに対して、導入に向けての検討が進められているのは、児童・生徒が1人につき1台の端末を使い、教科書やノートと同様に使うことのできる、「学習者用デジタル教科書」である。1人1台のノートパソコンの使用は、2000年代初めから導入事例はあった(3)が、本格的な議論になったのは最近1-2年のことだ。
「学習者用デジタル教科書」(以下「デジタル教科書」とする。)とは、どのようなものだろうか?主に教科書製作や端末供給、コンテンツ制作といった企業の側から、積極的にデジタル教科書に関する提言を行っているデジタル教科書教材協議会(DiTT)は、デジタル教科書に求められる機能として、様々な要件を挙げている(4)。例えば、低学年の子どもの負担にならない程度に軽いこと、壊れにくいこと、タッチパネルや手書き、さらに音声での入力が可能であること、カメラとマイクがついていること、Wi-Fiなどの高速無線通信機能を備え、インターネット接続が可能であり、コンテンツを自動的にダウンロード可能であること、動画の再生ができること、などである。すなわち、「教科書」という名前ではあるものの、目標としているものは単なる紙の教科書のスキャンでも電子書籍端末でもなく、スマートフォンやタブレットPCの水準のものであり、またコンテンツとしての教科書だけでなく、ノートと筆記具の機能も兼ねるものである。
コンピューターを用いた学習というと、単なる計算問題の正誤の判定や、暗記のための反復演習のようなものを想像しがちであるが、デジタル教科書に求められている機能はより高い。では、このような道具を、教室で使うことのメリットは何だろうか?デジタル教科書の導入に積極的な識者の多くが最終目標として提示するのは、「教育の質の向上」、特に、ICT機器を活用して、子どもが互いに教え合い、学び合う「協働教育」(フューチャースクール)である(5)。ある生徒がデジタル教科書に書いた考えを、即時に電子黒板に投影して、他の生徒の考え方と比較することや、遠隔地の学校と同時に授業を行って意見を交換するといったことが可能になる。教員は手元の端末からクラス全員のノートの内容を把握することが可能であり、普段はなかなか手を挙げないような子がノートによいことを書いていれば、その内容を把握して、発言を促すこともできる(7)。
他にも、教科書がデジタル化されることの長所は多いという。英語の発音や、理科の実験など、音声や動画によるコンテンツを児童・生徒に供給することは、紙の教科書にはない魅力である(8)。内容の更新も容易であり、誤植があったとしてもすぐに訂正ができる。文字の拡大や縮小、音声情報の提供やインターネットを通じたコミュニケーションは、弱視の子どもへの拡大教科書の提供や、入院中の子どもへの遠隔教育といった、特別支援教育にも資するであろう(9)。さらに重要な点は、紙の教科書にはない長所を活かすことによって、自ら意欲的に学ぶ環境がすべての子どもに平等に開かれることである(10)。1人1台の端末であれば、自宅に持ち帰ってインターネットに接続し、教材の自習や調べ学習をしたり、電子メールで情報交換をしたりすることで、興味のある分野を深く勉強することも可能なのだ。
既に、デジタル教科書は政策課題の1つとされている。2009年12月、当時の原口一博総務大臣(兼内閣府特命担当大臣(地域主権推進))が発表した「原口ビジョン」では、「地域の絆の再生:2020年時点ですべての世帯(100%)でブロードバンドサービスを利用」という見出しの下に、施策例として「フューチャースクールによる共同型教育改革」を挙げ、「デジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備(2015年)」と「フューチャースクールの全国展開を完了(2020年)」という2つの目標を掲げた(11)。総務省は、2010年度から、児童1人1台のタブレットPCを用いた「フューチャースクール推進事業」の実証研究を、全国の10小学校で行っている(12)。また、これとは別に、「地域雇用創造ICT絆プロジェクト(教育情報化事業)」と称する単年度の交付金事業を行い、全国の46小中学校が採用された(13)。
「原口ビジョン」に続く形で、文部科学省は、2010年4月に「学校教育の情報化に関する懇談会」(14)を設置し、その後1年間にわたる議論の結果、「教育の情報化ビジョン」を取りまとめた(15)。この中では、総務省と連携した「学びのイノベーション事業」(16)による実証研究の実施や、教員への支援、基礎的教材としてのデジタル版「情報活用ノート(仮称)」の開発などが2020年度に向けた教育の情報化に関する総合的な推進方策として掲げられている。ただし、「教科書・教材の電子書籍化、マルチメディア化について」は、「デジタル教科書・教材の教育効果、書籍一般の電子書籍化の動向等を踏まえつつ」「制度改正も含め検討」と記されており、慎重さが窺える。
これに対して、前述のDiTTが掲げる目標は、各省が掲げる達成目標よりも大胆なものである。2011年4月に発表された「DiTTビジョン」(17)及び「DiTT第一次提言書」では、1人1台の情報端末、全教室への超高速無線LANの整備、全教科のデジタル教科書・教材の開発の3項目を2015年までに行うことを提言している(18)。DiTTは、目標を前倒しする必要がある理由として、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)における順位低下(19)や、国民1人あたりGDP(国内総生産)の順位低下(20)などに示される国際競争力の低迷、公的教育支出の対GDP比の低さ(21)、海外諸国の教育の情報化に対する取組みが日本よりも早いことなどを挙げている。
一方、デジタル教科書の導入には、反対論や慎重論もある。子どもの想像力の低下や読書量の減少、教員の指導力の低下など、様々な懸念材料が挙げられている(22)。
日本化学会などの理数系8学会は、2010年12月に、「『デジタル教科書』推進に際してのチェックリストの提案と要望」を公表した(23)。この中では、「『デジタル教科書』の活用」が「教育における重要な課題でありかつ、将来にわたってわが国の教育を高めていく上で必須のものである」と述べた上で、「『デジタル教科書』は、あくまでも教育の手段であり、目的とするのは教育を高めていくことであるのを忘れてはなりません」としている。また、チェックリストの項目には、例えば「事項3:『デジタル教科書』の使用が、児童・生徒が紙と筆記用具を使って考えながら作図や計算を進める活動の縮減につながらないこと。」が挙げられている。そこでは「学びの基本的な技法である、ノートの取り方、直接動かすことができる教具や図を用いて考える方法、観察や実験の結果を写真ではなく図や言葉で記録する方法(中略)等が十分に身についていない学齢において、紙と筆記用具をソフトウェアで代替することは適切でない」と解説が付されている。8学会はこのチェックリストが「世界的に見て低くない我が国の教育水準を維持し、さらに向上させるために、必要と思われる事項」であるとしている点も見逃せない。
では、デジタル教科書は、海外ではどのように導入されているのだろうか?
先進的な事例としては、韓国、シンガポール、台湾が挙げられる。韓国では、2013年を生徒1人1台のタブレットPC導入の目標としており、2007年から実証研究を進めてきた(24)。シンガポールでも、FutureSchool@Singapore [390]と名付けられた実証研究が2008年から続けられている(25)。台湾でも普及が進んでおり、端末の購入ができない経済的に困窮した家庭の子どもには、民間の財団が教材入りの端末を無償で供与する動きもある(26)。欧州では、英国やポルトガルで導入が進められている(27)。
州ごとに教育制度が異なる米国でも、デジタル教科書は普及しつつある。2009年5月、カリフォルニア州のシュワルツェネッガー(Arnold Alois Schwarzenegger)知事(当時)は、州規模としては全米初の試みである、高校生用デジタル教科書のコンテンツの州による無償配付を目的として、知事部局や州教育省、州教育委員会から成るFree Digital Textbook Initiativeを立ち上げ、教科書会社や非営利組織などにデジタル教科書の作成を求めた。同年8月、州教育省に設置されているCalifornia Learning Resource Networkは、提出された教科書がカリフォルニア州の指導基準を満たすものであるかどうかを評価し(28)、10月から実際に数学と理科のデジタル教科書を用いた授業が行われることとなった。これによって、生徒は重い教科書を持ち歩く必要はなくなり、州は教育水準の向上に加え、平均100ドルの紙の教科書を配付しないことで3-4億ドルの支出を削減することができるだろう、とシュワルツェネッガー知事は述べていた(29)。計画が発表された当初は、「端末が普及していないのだから意味がない」「各学校には端末より先にプリンターを配付すべきだ」(30)「印刷しないからといって、教科書を無料にできるはずがない」(31)といった批判も多くあったが、現在では少しずつ普及が進んでいる。米国では大学の分厚い教科書を電子書籍化する取組みが先行しており、教科書会社もK-12と称される初等中等教育での取組みには懐疑的であったものの、現在では商機を見出している会社も現れているという。デジタル教科書によって初めてコンピューターを持った生徒が、端末を家に持ち帰って家族と共有することで、さらに学習を深めるといった効果もあるようだ(32)。
導入には否定的な見方もある。シカゴ大学のマラムッド(Ofer Malamud)助教らは、低所得世帯にコンピューター購入のためのバウチャーを配付したルーマニアで調査を行い、その結果、バウチャーを受け取ってコンピューターを購入した家の子どもはコンピューター操作能力が向上するものの、学校の成績は上がらない、という結論を得た(33)。家庭のコンピューターは宿題のためにあるのではなく、専らゲームのために使われていたことがその理由であり、コンピューターの使用について親の監視がある家庭では成績の向上が見られたという(34)。他の研究者からも同様の報告が行われており、それらをまとめると、コンピューターがあれば学力が伸びるという事実は見られないというのだ(35)。
このように、各国でもデジタル教科書をめぐっては様々な議論が起きているものの、総じて導入は進みつつある。しかし、外国でのデジタル教科書の導入状況を見た上で、日本はその流れに乗り遅れるべきではない、と考えるべきなのだろうか?上記の例で言えば、米国・カリフォルニア州では州予算の逼迫への対応、韓国では所得格差や地域格差の解消(36)という、それぞれ独自の課題を解決するための手段としてデジタル教科書が取り入れられている。シンガポールと日本では、国の大きさがまったく異なる。また、教科書採択の制度も、教科書の授業内での扱われ方も、国によって異なる。教育事情は国ごとに様々であり、デジタル教科書という教育インフラの1点だけに注目して「進んでいる」「遅れている」といった評価を行うのは妥当ではないと言えるのではないか。
日本でのデジタル教科書の本格的な導入までには、まだ課題が多く残っている(37)。まず考えられるのは、莫大なコストである。小学校の1学年は全国で約100万人であり、毎年新1年生に端末を無償で供給するとすれば、1台あたり5万円と仮定して、端末代だけでも総額500億円となる。端末の更新や修理を考慮すれば、この額はさらに増加することが見込まれる。現行の、小中学校9学年の(紙の)教科書無償給与に必要な額は年間約395億円であり(38)、これと比較するだけでもその規模が窺えよう。学校内のネットワークの充実や、デジタル教科書として扱うに適した端末の開発にも時間と予算が必要である。
また、現在のデジタル教科書は、「教科書」とはいえ教科書検定制度の中に含まれるものではなく、教材の1つとして扱われている。デジタル教科書を検定の対象とするのであれば、デジタル教科書に対応した検定の手法を考える必要があろう。文字だけではなく、音声や動画の内容、インターフェースまでを考慮したものになるとすれば、検定をする側の手間も増えることになる。著作権の観点からも、デジタル教科書を「教科書」として扱うかどうかは重要な問題である(39)。
教科書会社も対応を迫られる。デジタル教科書の教材開発には、紙の教科書以上のコストが見込まれる。また、教育委員会や学校は、教科ごとに異なる会社の教科書を採択するが、例えば算数の教科書と理科の教科書のインターフェースが全く異なるのであれば、児童・生徒にとっては使いにくいものになってしまう可能性もある。教科書会社の間で調整が図られるのか、もし調整が図られるとすれば、できあがるデジタル教科書のコンテンツには、あまり違いは現れないのではないか。
当然、教員も対応が必要となる。デジタル教科書を授業内でどう使いこなすか、というだけでなく、情報インフラに関する知識や、トラブルへの対応なども必要となる。教員だけでなく、外部の専門家など、教員を支援する体制も必要であろう(40)。
これらの課題を1つずつ解決することも必要であるが、それと並行して必要なのは、試行と分析の着実な繰り返しである。現状の教育のあり方を批判することは簡単ではあるが、それは個人の経験や世論ではなく、事実に基づく必要がある。また、そもそも、教育手法の変化の成否は、短期的に明らかになるものではなく(41)、あえて数年のうちにデジタル教科書の成果を見出そうとするのであれば、その評価基準に相当の妥当性が求められよう。スケジュール先行ではなく、冷静な分析と考察や、「熟議カケアイ」(42)のような意見公募、さらには教育の情報化だけでなく、より教育の本質的な部分にまで踏み込んだ議論も必要となるであろう。
デジタル教科書に関する議論はまだ始まったばかりであり、識者の間でも、導入の手法や授業内での活用のあり方などについて様々な意見がある(43)。長年続いてきた教育のスタイルを大きく変えることになるだけに、今後数年はこの議論から目が離せない。
調査及び立法考査局文教科学技術課:澤田大祐(さわだだいすけ)
(1) きょういく特報部: 「電子黒板」で変わる授業. 朝日新聞. 2010-01-24.
(2) 本稿では「デジタル教科書」を用いるが、「電子教科書」と呼ぶほうが望ましいとする意見もある。
清水康敬ほか. “「デジタル教科書」ではなく「電子教科書」と呼びたい”. 教育とICT Online. 2011-01-18.
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/trend/20110117/1029662/ [391], (参照 2011-05-16).
(3) “学校インターネットシステム: 三鷹市立第三小学校”. パナソニック. 2004-07.
http://panasonic.biz/pc/solution/zirei/mitaka.html [392], (参照 2011-05-16).
(4) “DiTT第一次提言書”. デジタル教科書教材協議会. 2011-04-25.
http://ditt.jp/office/DITTteigen_1.pdf [393], (参照 2011-05-16).
(5) “スマート・クラウド研究会報告書”. スマート・クラウド研究会. 2010-05. p. 16-17.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000066036.pdf [394], (参照 2011-05-16).
清水康敬ほか. “ICT活用の成果をすべての学校に”. 教育とICT Online. 2010-09-10.
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/interview/20100806/1026804/ [395], (参照 2011-05-16).
(6) 安西祐一郎. 特集, 教育の情報化: 教育の情報化は世界をひらく. 文部科学時報. 2011, (1620), p. 32-34.
(7) “教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して”. 文部科学省. 2011-4-28. p. 15-18.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/__icsFiles/afieldfile/2011/04/28/1305484_01_1.pdf [396], (参照 2011-05-16).
(8) “デジタル教科書 1人に1台、授業風景を一変”. 日本経済新聞電子版. 2010-12-31.
http://www.nikkei.com/news/topic/related-article/g=96958A9C93819499E0EAE2E3E58DE0EAE3E0E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2 [397], (参照 2011-05-16).
(9) 中邑賢龍ほか. “討論会「障害のある子どものためのデジタル教科書の在り方を考える」”. AT2ED. 2010-09-16.
http://at2ed.jp/download/dt.pdf [398], (参照 2011-05-16).
“教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して”. 文部科学省. 2011-4-28. p. 21-23.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/__icsFiles/afieldfile/2011/04/28/1305484_01_1.pdf [396], (参照 2011-05-16).
(10) 安西祐一郎. 特集, 教育の情報化: 教育の情報化は世界をひらく. 文部科学時報. 2011, (1620), p. 32-34.
(11) その後、2010年5月に公表された「原口ビジョンⅡ」(詳細版)には、「デジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備(2015年)」が含まれていない。
原口一博. “原口ビジョン”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000048728.pdf [399], (参照 2011-05-16).
原口一博. “新たな成長戦略ビジョン: 原口ビジョンⅡ”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000064871.pdf [400], (参照 2011-05-16).
(12) “教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2011 ~フューチャースクール推進事業をふまえて~”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000110108.pdf [401], (参照 2011-05-16).
(13) “「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」に係る交付決定”. 総務省. 2010-12-27.
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu05_01000004.html [402], (参照 2011-05-16).
(14) 「教育の情報化」とは、デジタル教科書に見られるような教科指導の中でのICT活用だけでなく、高校の必修科目である情報科に代表される情報教育や、成績処理や広報などの校務の情報化までを含むものである。
“「教育の情報化に関する手引」について”. 文部科学省. 2010-10-29.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm [403], (参照 2011-05-16).
澤田大祐. 高等学校における情報科の現状と課題. 調査と情報. 2008, (604), p. 1-10.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0604.pdf [404], (参照 2011-05-16).
(15) “「教育の情報化ビジョン」の公表について”. 文部科学省. 2011-04-28.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/1305484.htm [405], (参照 2011-05-16).
(16) 総務省が行う「フューチャースクール推進事業」は主としてハード・インフラ・情報通信技術面からの実証研究、文部科学省が行う「学びのイノベーション事業」は主としてソフト・ヒューマン・教育面における実証研究を担うとされている。ただし、行政刷新会議が行う「事業仕分け」において、「ICTを教育現場でどのように利用していくのかという中身について文部科学省が主導的な役割を果たしながら進めていくべきであり、総務省が実施するとハードを整備することが優先されてしまう」として、総務省の事業は厳しく指摘されている。
“事業番号A-3 フューチャースクール推進事業(ワーキンググループA 評価コメント)”. 行政刷新会議「事業仕分け」. 2010-11-15.
http://www.cao.go.jp/sasshin/shiwake3/details/pdf/1115/kekka/A3.pdf [406], (参照 2011-05-16).
(17) “DiTT VISION”. デジタル教科書教材協議会. 2011-04-25.
http://ditt.jp/office/DITTVISION.pdf [407], (参照 2011-05-16).
(18) “DiTT第一次提言書”. デジタル教科書教材協議会. 2011-04-25. p. 101.
http://ditt.jp/office/DITTteigen_1.pdf [393], (参照 2011-05-16).
(19) 国立国会図書館調査及び立法考査局. “学力”. 国際比較にみる日本の政策課題: 総合調査報告書. 国立国会図書館調査及び立法考査局, 2010, p. 44-47.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2010/200902/03.pdf [408], (参照 2011-05-16).
(20) 国立国会図書館調査及び立法考査局. “一人当たりGDP”. 国際比較にみる日本の政策課題: 総合調査報告書.国立国会図書館調査及び立法考査局, 2010, p. 12-15.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2010/200902/02.pdf [409], (参照 2011-05-16).
(21) 国立国会図書館調査及び立法考査局. “教育費”. 国際比較にみる日本の政策課題: 総合調査報告書. 国立国会図書館調査及び立法考査局, 2010, p. 40-43.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2010/200902/03.pdf [408], (参照 2011-05-16).
(22) シンポジウム「デジタル時代の教育を考える」. 読売新聞. 2010-09-19.
(23) 一般社団法人情報処理学会ほか. “「デジタル教科書」推進に際してのチェックリストの提案と要望”. 一般社団法人情報処理学会. 2010-12-07.
http://www.ipsj.or.jp/03somu/teigen/digital_demand.html [410], (参照 2011-05-16).
(24) 既に多くの考察が日本語で発表されており、最近では以下のような論考が挙げられる。
趙章恩. “韓国教育IT事情”. ReseMom.
http://resemom.jp/special/73/recent/%E9%9F%93%E5%9B%BD%E6%95%99%E8%82%B2IT%E4%BA%8B%E6%83%85 [411], (参照2011-05-16).
木暮祐一. “来春から義務化される韓国のデジタル教科書事情”. WIRED VISION. 2010-10-04.
http://wiredvision.jp/blog/kogure2/201010/201010041230.html [412], (参照 2011-05-16).
(25) ヨン, テイ・リーほか. フューチャースクール: シンガポールの挑戦. ピアソン桐原, 2011, 183p.
(26) “Charity aims to improve underprivileged education with e-books”. China Post. 2010-10-31.
http://www.chinapost.com.tw/taiwan-business/2010/10/31/278096/Charity-aims.htm [413], (accessed 2011-05-16).
(27) “DiTT第一次提言書”. デジタル教科書教材協議会. 2011-04-25. p. 98-99.
http://ditt.jp/office/DITTteigen_1.pdf [393], (参照 2011-05-16).
(28) カリフォルニア州の教育基準との整合性を示すだけのものであり、どの教科書を採択するかは、学校・教員の裁量に任される。
“Free Digital Textbook Initiative Report”. California Learning Resource Network. 2009-08-11.
http://www.clrn.org/fdti/FDTI_Report.pdf [414], (accessed 2011-05-16).
(29) “Governor Holds Press Conference with Education Officials Regarding Digital Textbooks Initiative”. Office of the Governor. 2009-06-08.
http://gov38.ca.gov/index.php?/speech/12462/ [415], (accessed 2011-05-16).
(30) “Schwarzenegger's push for digital textbooks”. Christian Science Monitor. 2009-06-11.
http://www.csmonitor.com/USA/2009/0611/p02s14-usgn.html [416], (accessed 2011-05-16).
(31) Osborne, Brian. “Governor Schwarzenegger pushes digital textbook initiative”. geek.com. 2009-06-09.
http://www.geek.com/articles/news/governor-schwarzenegger-pushes-digital-textbook-intiative-2009069/ [417], (accessed 2011-05-16).
(32) “Calif. District Pushes Digital-Text Initiative Forward”. Education Week. 2011-02-04.
http://www.edweek.org/dd/articles/2011/02/09/02books.h04.html [418], (accessed 2011-05-16).
(33) Malamud, Ofer et al. “Home Computer Use and the Development of Human Capital”. 2010.
http://www.columbia.edu/~cp2124/papers/computer.pdf [419], (accessed 2011-05-16).
(34) 一方、「こんな自明の結論のために『科学的調査研究』をするのは研究費の無駄である」と一蹴する意見もあった。
Hicks, Marybeth. “THEN AGAIN…”. Washington Times. 2010-07-14.
(35) Stross, Randall. “Computers at Home: Educational Hope vs. Teenage Reality”. New York Times. 2010-07-10.
http://www.nytimes.com/2010/07/11/business/11digi.html [420], (accessed 2011-05-16).
(36) 趙章恩. “韓国デジタル教科書事情(2)~電子黒板は当たり前、10Gbpsネットワークで教室情報化”. 教育とICT Online. 2010-12-02.
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101130/1028847/ [421], (参照 2011-05-16).
(37) 多くの識者による指摘があるが、例えば、以下の論考がある。
清水康敬ほか. “「デジタル教科書」ではなく「電子教科書」と呼びたい”. 教育とICT Online. 2011-01-18.
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/trend/20110117/1029662 [422] /?P=6, (参照 2011-05-16).
中村伊知哉ほか. “これからの課題”. デジタル教科書革命. ソフトバンククリエイティブ, 2010, p. 233-251.
(38) “教科書無償給与の実施状況”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/04060901/__icsFiles/afieldfile/2010/08/06/1235105.pdf [423], (参照 2011-05-16).
(39) “授業を豊かにするデジタル教科書 光村図書出版に聞く”. 教育とICT Online. 2011-01-18.
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/trend/20110415/1031298/?P=4 [424], (参照 2011-05-16).
(40) “教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して”. 文部科学省. 2011-4-28. p. 27-31.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/__icsFiles/afieldfile/2011/04/28/1305484_01_1.pdf [396], (参照 2011-05-16).
(41) 内田樹. “教育論の落とし穴”. 街場の教育論. ミシマ社, 2008, p. 9-22.
(42) “熟議カケアイ(文科省政策創造エンジン): 「教育の情報化ビジョン」の検討にご参画ください!”. 文部科学省.
http://jukugi.mext.go.jp/jukugi?jukugi_id=19 [425], (参照 2011-05-16).
(43) 賛否両論は数多くあり、以下は本稿執筆の際に参考にしたものの、本文で言及しなかった論考の一部に過ぎない。
片山善博ほか. 新春鼎談「学校図書館 改革元年に」. 読売新聞. 2011-01-12.
宮川俊彦ほか. 金曜討論: デジタル教科書. 産経新聞. 2010-10-22.
八木玲子. “「2015年にはデジタル教科書を全小中学校に」――孫氏が教育改革訴える”. ITpro. 2010-07-29.
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100729/350755/ [426], (参照 2011-05-16).
田中眞紀子ほか. 頭脳の散歩: デジタル教科書はいらない. ポプラ社, 2010, 166p.
植村八潮. 「デジタル教科書」はなぜ、もてはやされるのか. Journalism. 2010, (246), p. 64-65.
山口浩. “問題はデジタル教科書ではなく教育”. SYNODOS JOURNAL. 2010-10-20.
http://synodos.livedoor.biz/archives/1557331.html [427], (参照 2011-05-16).
澤田大祐. デジタル教科書をめぐって. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1748, p. 15-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1748 [428]
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本稿を書き進めている2011年4月、余震が間断なく続き、さらに福島原発のことを思えば、震災後ではなく、いまだ震災中であろう。
3.11以来、風景が変わってしまった。被災地はもとより非被災地も日本のいずれの地も風景とその見え方が変わった。ミュージアム、ライブラリ、アーカイブ(MLA)という、歴史の時間の堆積において機能するものが、この震災を機にその働きを問い直されていると思う。
Museum Career Development Network(MCDN)は2011年4月16日、公開講座「被災ミュージアムの支援と危機管理対策」(2)を開いた。文化庁文化財部美術学芸課長の栗原祐司は、被災地にある文化財の救出と保全を目的とする文化財レスキュー事業に関する報告において、救済するものの範囲を家の記録としてのアルバムまでも含みたいと述べ、兵庫の博物館の学芸員は1995年1月17日の阪神・淡路大震災において、救済しミュージアムが守るべき美術品とそうでないものとの価値の差異とは何なのかを問われたという体験を語った。あるいは被災の現状と復興のプロセスを記録することの意味と必要が、3.11以後、様々な場で説かれている(3)。
MLA(あるいはK=公民館を含んで)は、東日本大震災被災地での復興の過程で、その存在と機能が問われ、MLA連携の意義と実体もまた問われ、変容するであろう。
すでにsaveMLAKという「博物館・美術館、図書館、文書館、公民館(MLAK)の被災・救援情報サイト」(4)が稼働している。このプロジェクトの進行は、ウェブサイトでの情報支援を基礎としながら、MLAKとその従事者の姿勢を問いつつ、その連携のありようを変えていく予感を孕んでいる。
以上前言を書いたのは、MLA連携をレビューすることを目的とする本稿を書くにあたって、3.11に始まるMLAの復旧復興の過程そのものが、MLAとその連携について、日々再考を迫る事態が進行していることを記録しておきたいが故である。
近年のMLA連携の動向については、当然のことながらMLAの個々それぞれの文脈からアプローチと成果が現れており、その全てをフォローすることが困難であるということもあるが、以下、アート・ドキュメンテーションの文脈に沿って、MLA連携に関する研究文献をレビューすることを冒頭お断りしておきたい(5)。この連携の姿を端的に示し、課題の設定としてMLA連携を具体的に提示してきたのが、美術図書館を含んで美術の資料と情報に関わるアート・ドキュメンテーションの文脈においてであったからである。
また、本誌の研究文献レビューは、近年5年程度をその範囲としているが、本稿では通例と異なり、1980年代半ば以降においてわが国で始まるアート・ドキュメンテーションの文脈からMLA連携を見渡したいと考えて、対象文献等のレンジは20余年の長きになっている。
管見の限り、もっとも早くMLA連携を明確に示した文献は、コロンビア大学エィヴリー美術建築図書館のヒラル(Angela Giral)による「3つの伝統が合流するところ: エィヴリー図書館の建築ドローイング」(At the confluence of three traditions: architectural drawings at the Avery Library)(6)であった。この文献は、1988年、「美術品と美術情報をつなぐ」(Linking art objects and art information)をテーマに特集したLibrary Trendsに掲載されたものである。
著者ヒラルはMLAの3つの伝統が合流(confluence)するところとして、美術建築図書館を描き出し、建築そのものとそのドローイング、そしてその関連文献との間にMLA連携を見いだしている。この特集が出た1988年はアート・ドキュメンテーション研究会(現、アート・ドキュメンテーション学会、以下、JADS)が発足する1年前のことであった。JADSの発足と日本におけるアート・ドキュメンテーションのはじまりは、美術図書館あるいは美術情報の新しい潮流がMLA連携へと向かう、その最初期に遭遇していたことをあらためて指摘しておきたい。
「[MLAの]全体として見た場合にものすごく相互関係が深いわけですね。ですから、本を見る時には博物館の内容が見たいし、あるいは公文書館の実際の文書-誰が署名しているかとか、そういうことまで見たいということもあるし、博物館から見たら、あるモノを見ている時にそれに関係してどういう研究がなされて、どういう出版物があるかということを知りたいとか、3つの間にはものすごく関係があるわけです。これをなんとか、利用者から見たときに3つがうまく連携した世界として見えてくるというか、利用することができるというか、そういうことにする必要があるんじゃないかと思っております(7)。」
長い引用になったが、MLA連携の起源と必要、目指すところが平易的確に語られている。これは、2009年12月5日、東京国立博物館平成館大講堂での記念鼎談「これからのMLA連携に向けて」においての長尾真国立国会図書館長の発言である。
鼎談は、「日本のアート・ドキュメンテーション-20年の達成 MLA連携の現状、課題、将来」を全体テーマに掲げた2日間にわたるフォーラムの第4部として、佐々木丞平独立行政法人国立文化財機構理事長兼京都国立博物館長、高山正也国立公文書館長とで行われ、国立MLA館長がそろって鼎談した初めての機会となった。
さらに長尾館長は、MLA連携の具体的な方策として、例えば国立国会図書館のPORTA(8)をその走りとして捉え、「[MLAの]それぞれが独立性を持ちながら、なおかつ、上手く連携して、利用者にトータルなシステムとして提示できるという、そういうところを狙っていくのがいちばんいいんじゃないか」(9)と述べている。
長尾館長の発言のあった記念鼎談を含む文献(10)は、当該フォーラムのほぼ全体を再録する報告書となっており、MLA連携の「現状」については関連する9つの事例を紹介した「第II部 日本のアート・ドキュメンテーション」において報告され、慶應義塾大学、国立国会図書館、国立公文書館、東京国立博物館の事例と意見を踏まえて、討議を含む「第I部 日本におけるMLA連携の現状と課題」でMLA連携の「課題」について検討されている。「将来」については「記念鼎談-これからのMLA連携に向けて」が稿を費やしている。
このJADSのフォーラム報告書の刊行と同じ2010年には、日本図書館情報学会によって「シリーズ 図書館情報学のフロンティア」No.10、『図書館・博物館・文書館の連携』が10月に刊行された。同月10日には「図書館・博物館・文書館の連携をめぐる現状と課題」と題するテーマで年次研究大会のシンポジウムが開催された。同書ならびにシンポジウムの記録は、MLA連携を考える上で基本参考文献となるものである(11) (12)。
MLA連携を掲げて開かれた国内のシンポジウムとしては、JADSによる第1回アート・ドキュメンテーション研究フォーラムにおける「ミュージアム・ライブラリ・アーカイブをつなぐもの-アート・ドキュメンテーションからの模索と展望」(1994年11月18日、於国立国会図書館新館講堂)が最初であろう(13)。
「図書館、美術館・博物館、文書館、美術研究機関、関連メディア、及びこれらに関係あるものの連絡・提携のもとに(中略)美術情報を扱う学際的専門職能集団の確立に寄与することを目的とする」(14)JADSが、会の重要課題をMLA連携と自覚的に定めたのもまた、この1994年の第1回フォーラムからであった。
1994年第1回フォーラムの報告書(15)の通り、このフォーラムにおいては、個別報告が美術図書館員、学芸員、文化財情報学、美術史研究からなされ、続く記念講演がオランダ王立図書館美術部長、前IFLA美術図書館分科会議長ウィスハウプト(Maggy Wishaupt)による「美術研究者と美術図書館員-電子時代の技能と領域」であったが、この講演ではじめてインターネットを知り、インターネット上でMLA連携の可能性が開かれることを予感した聴衆は、筆者含め、多かったことを記憶する。
日本におけるアート・ドキュメンテーションとそのための組織であるJADSの起こりが、1986年8月のIFLA東京大会にあることは、重ねて述べられているのでここでは省くが(16) (17)、この時、海外から参加の美術図書館員を前に、専門図書館部会美術図書館分科会において報告された2つの日本の事例が、ともに図書館の中にある「イメージ(画像および画像資料)」を取り上げたことは確認しておきたい。
武蔵野美術大学美術資料図書館の大久保逸雄による「日本のポスター史とドキュメンテーションの現状」(18)であり、東京都立中央図書館の木村八重子の「草双紙の変遷-出版美術の視点から」(19)であった。なお大久保はIFLA東京大会に先立って1980年代から日本におけるアート・ドキュメンテーションの課題を武蔵野美術大学美術資料図書館(日本におけるML融合体の先駆)における実践を踏まえて指摘し、『図書館雑誌』等に文献を残している(20)。
同年(1986)の10月、日仏美術学会は日仏図書館学会との共同研究会として、「美術研究と情報処理-コンピューターによる画像・文献処理はどこまで可能か」をテーマにする全国大会を開き、当時、言葉としてはまだなかったデジタルアーカイブの先例となる討議を美術史研究の文脈から試みている(21)。
同大会の報告書(22)では、大和文華館、東京国立文化財研究所(当時)の事例紹介とあわせて、慶應義塾大学図書館・情報学科の上田修一が「美術分野のシソーラス」を、当時都立中央図書館員だった波多野宏之が「フランスにおける画像ドキュメンテーションの動向」を報告している。
上田報告は図書館情報学の立場から美術情報へ肉薄したきわめて先例的試みとして評価されるし、波多野報告は長期にわたるポンピドゥーセンター公共情報図書館、特に画像資料課(Service iconographique)での研修を踏まえたものであった。波多野は1987-88年に刊行の論考「画像情報の蓄積と検索-美術分野における応用」(23)を経て、1993年の単著『画像ドキュメンテーションの世界』(24)へと成果をまとめており、ライブラリの中のイメージ(画像および画像資料)の価値とその組織化の課題を明示している。
これらの動きを背景に欧米にあったARLIS(ARt LIbraries Society)、すなわち美術図書館協会とは別名によるJADSが1989年発足している。名称をめぐる由来と議論は水谷、ファン・デル・ワテレン(Jan van der Wateren)の文献を参照されたい(25)。
IFLA東京大会の開かれた1986年の11月には、日本の美術館の公開図書室として先駆的存在であった東京都美術館の美術図書室が開室十周年を記念して、高階秀爾による「文化としての情報-美術図書室を考える」と題する講演会を開いている。講演後の懇親会には、美術図書館員、公開はされていない美術館の中の資料担当者、美術系大学やデザイン系専門学校の図書館員、公共図書館にあって美術図書に興味を抱く者などが参加した。このような人的ネットワークが3年後のJADSの誕生の素地を作っていった。草創期の美術館図書室の歩みは2009年の第4回アート・ドキュメンテーション研究フォーラム当日配布の予稿集所収の「年表 日本のアート・ドキュメンテーション-20年の軌跡 1989-2008 附:『1980年以降の美術図書館をめぐる様々な動き』」(26)に詳しい。
日本の美術館図書室の草創期の様子は野崎たみ子の文献(27)を参照されたい。また、今日の美術館図書室の成果としての美術図書館連絡会(Art Libraries Consortium:ALC)による美術図書館横断検索については水谷の文献(28)を参照されたい。
また、美術研究所(現、東京文化財研究所)における文献・写真資料コレクションの形成と矢代幸雄初代所長の功績については、加藤哲弘(29)、水谷の文献(30)を参照されたい。
1980年代以前の日本の美術図書館および今日言うところのアート・ドキュメンテーションの課題については前出の大久保の文献(31)およびJADS刊行の『アート・ドキュメンテーション研究』創刊号掲載の同氏文献を参照されたい(32)。
なお、JADSの『アート・ドキュメンテーション研究』の創刊に先立ち、日本図書館協会の『現代の図書館』が1990年にアート・ドキュメンテーションを特集し、アート・ドキュメンテーションの概説(波多野)、北米における美術図書館の課題(水谷)、展覧会カタログという資料の固有性(中島)、美術情報の取り扱いにおける図書館と博物館の差異(田窪、鯨井)を取り上げて、MLA連携につながるアート・ドキュメンテーションの基本課題をほぼ網羅する特集となっており重要である。また、アート・ドキュメンテーション研究会による「アート・ドキュメンテーション関係主要文献解題」を付して、1990年時点での関連文献をまとめて紹介している(33)。
「ミュージアムの中のアーカイブ」について単著が米国で初めて出たのは1984年という(34)。日本のミュージアムにおいてarchivesを英名とした所蔵作品の目録は、『東京国立近代美術館所蔵品目録 岸田劉生 作品と資料』(Catalogue of Collections Then National Museum of Modern Art, Tokyo: Ryusei Kishida Works and Archives)が嚆矢であると思われる。東京国立近代美術館へ1993年に遺贈され、1996年に目録を刊行し、特別展示した岸田劉生のアーカイブである。この特別展示と目録の刊行については、水谷の文献(35)があるが、この体験を踏まえて、先述の1994年の第1回アート・ドキュメンテーション研究フォーラムにおけるシンポジウムのテーマが浮き彫られたことは確認しておきたい。
ミュージアムにおけるアーカイブと平行して、主として美術音楽等の作家に関わるアーカイブ(アート・アーカイブ)についての多様な発言が始まるのも1990年代後半である。先導した一つが慶應義塾大学アート・センターである。
土方巽(身体表現)、瀧口修造(造形・評論)、ノグチ・ルーム(彫刻・建築・環境デザイン)、油井正一(ジャズ評論)の4つの「アート・アーカイヴ」を持つ同センターにおいては(36)、アート・センター所長をつとめた前田富士男による「ジェネティック・アーカイヴ・エンジン」、作家の創作行為の起点としてのアーカイブ機能と言うべきもの、に関わる種々の論考がアート・アーカイブの理論構築を推進した(37)。
アート・アーカイブにおけるドキュメンテーションの課題についても図書館情報学、情報社会学、美術史学の分野から論考が寄せられて、「アート・アーカイヴズ/ドキュメンテーション-アート資料の宇宙」と題する同センターのブックレットとして刊行されている(38)。
2000年には東京国立近代美術館のニュース誌『現代の眼』が「アート・アーカイヴ」を特集して、美術館、博物館、文学館におけるアーカイブの実例を複数紹介しており、ミュージアムにおけるアーカイブの位置づけの鮮明化に貢献している(39)。さらに、2010年のJADS年次大会ではテーマを「アート・アーカイヴ-多面体: その現状と未来」として、美術、写真、建築、舞踏から多面的なアート・アーカイヴの検証するシンポジウムを開催しており、アート・アーカイヴの議論のフィールドは大きな広がりを見せており、報告書も後日刊行されている(40)。
このような一連の流れの中で、1994年の時点にて、「ミュージアム・ライブラリ・アーカイブをつなぐもの」のシンポジウムが開催されたのであるが、当時にあっては登壇者相互において、MLA連携への理解と展望が十分なものであったとは言い難かったのも事実である。
しかしながら今日では、MLA連携をテーマとしたシンポジウムは日本図書館情報学会のものなどを含めて、かなりの数が確認され、MLA連携の形とその必要についての理解も浸透しつつあるようである(41)。
筆者は1994年のシンポジウム以来、MLA連携には「〈内なる〉トライアングル」と「〈外なる〉トライアングル」という2つのトライアングルがあることを説明してきた(42)。
これをOCLCのミハルコ(James Michalko)は、「一つ屋根の下のMLA」(MLA under same roof: An individual institution with all three types of organizations)と「荒野に立つ3つのMLA」(MLA in the wild: Individual independent institutions)と説明しているが、この論はMLA連携に現れる2つのトライアングル、すなわち「館の内」と「館の外(館同士の)」という2つの連携があるという水谷の説明と同義である(43)。
第2章において、MLA連携の姿を端的に示し、課題の設定としてMLA連携を具体的に提示してきたのが美術図書館を含んで美術の資料と情報に関わるアート・ドキュメンテーションであったことを、JADS開催のシンポジウムの紹介などを通して述べた。
すでにMLA連携は、アート・ドキュメンテーションの範疇を超える広がりを見せており、MLA個々の存立と機能に関わってその将来展望の開拓を図るとき、いまや欠かすことのできない視点になっていると言えるだろう。
今日、MLA連携を指向する時、この連携を支える規範と技術は、以下のようにメタデータとデジタルアーカイブの構築の2点に集約されるだろう。
先述の日本図書館情報学会の『図書館・博物館・文書館の連携』で巻頭総論となっている田窪論文「博物館・図書館・文書館の連携: いわゆるMLA連携について」は、MLA連携に関するきわめて優れたレビューともなっている(44)。
著者年来の主張であるのだが、当該論文中に、「資料をデジタル化(電子化)すれば、図書館資料のみならず、博物館資料や文書館資料やその他の資料も統合的に扱え,図書館も博物館も文書館も“へったくれ”もない世界が出現する」(45)という指摘がある。
この「“へったくれ”もない世界」を実現するためのキーとなる事象が、MLAにおける個々の所蔵物についてのメタデータの形成と統合的マッピングのための規範の整理と技術の開発であろう。特にメタデータについては、MLA連携に関わって重要な文献が、研谷紀夫の単著『デジタルアーカイブにおける「資料基盤」統合化モデルの研究』(46)であり、八重樫純樹を科研代表とする「広領域分野資料の横断的アーカイブズ論に関する分析的研究」(47)などの研究である。八重樫には鈴木良徳との共著論文において記述規則におけるMLAの差異を検証する文献がある(48)。
独立行政法人人間文化研究機構の研究資源共有化システムの統合検索などもMLA連携におけるメタデータの統合という面から貴重な事例である(49)。
日本図書館情報学会が2004年に編集刊行の『図書館目録とメタデータ』には、第III部に「隣接領域における資料記述とメタデータ」の章があり、森本祥子がアーカイブから(50)、水嶋英治がミュージアムから(51)、それぞれのメタデータの動向を報告している。
MLA連携とデジタルアーカイブとが緊密な関係にあることは誰もが認めるところであり、1990年代末から2000年代の半ばまで、日本のデジタルアーカイブを文字通り推進したのがデジタルアーカイブ推進協議会である。
この協議会自体は2005年6月30日をもって解散したが、2001、2003、2004、2005年において『デジタルアーカイブ白書』を残し、また「デジタルアーカイブ 権利と契約の手引き 契約文例+Q&A集」「デジタルアーカイブへの道筋(ハンディ・ロードマップ)」等の貴重な成果をいまなおウェブサイトに公開している(52)。同協議会の事務局長をつとめた笠羽晴夫によるデジタルアーカイブ論は多くの事例の観察に基づくものであり貴重である(53)。
国立国会図書館においても2010年3月1日にデジタル情報資源ラウンドテーブル本会議を発足させており(54)、記念の講演会(55)などの、MLA連携に関わる旺盛な活動を展開している。
2010年の4月から5月にかけて、文化審議会の文化政策部会のもとに、舞台芸術、メディア芸術・映画、美術、くらしの文化、文化財の5つのワーキンググループが組織され、以後5年間の文化芸術の振興に関し、集中的な討議が行われた。
筆者は美術ワーキングに委員として属し、5月7日に主として、美術館における所蔵作品のメタデータとアーカイブの整備に関する報告を行った(56)。
これらワーキングでの議論は文化政策部会でのまとめの審議を経て、2011年1月31日、文化審議会総会において西原鈴子会長(元東京女子大学教授)より高木義明文科大臣へ「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次)について」と題された答申が手渡され、2月8日、第3次基本方針として閣議決定された。これは文化芸術振興基本法に基づくおおむね5年間(2011-2015年度)の文化芸術振興に関わる基本方針となるものである(57)。
この方針の「第3 文化芸術振興に関する基本的施策/9.文化芸術拠点の充実等/(2)美術館,博物館,図書館等の充実」の10項目の中に、以下の文言が記載され(58)、MLA連携は文化芸術の振興に関わる施策の一つに位置づけられることになった。
MLA連携が具体的に効果を発揮するフィールドとして、地域資料があることはしばしば指摘されてきた(59)。その中の一つの文献において、長谷川伸は、「地域資料の収集・保存・活用」とMLA連携が関わる課題として、①蔵書(所蔵)資料としての地域資料情報のネットワーク、②地域資料の科学的な保存管理、③レファレンス技術・知識の共有・連携を提唱し、「それぞれの専門知識を土台に、守備範囲を補いながら組織的に連携する」ことが、MLA連携の要諦であると指摘している(60)。
これはまことに正鵠を射た指摘であり、MLA連携はウェブ上の連携であるとともに、それ以上に例えば地域資料という具体かつ現場のある資料に向けてこそ、今後、もっとも効力を発揮する/発揮しなければならない連携の課題があると考えられる。
3.11の地震とその直後の津波が奪った東日本の多くの文化財、とりわけ地域の文書類の喪失の大きさは想像を越える。
MLA連携が「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次)」において推進すべき課題として明記されたことの重さを思いつつ、関係する人々とのネットワークを一層強く深いものとして築き、そして失われ、いままさに危機に瀕する東日本大震災被災地の地域資料の復旧を一つの試金石として、MLA連携の可能性をより多くの方々と探り、構築していきたいと願っている。
東京国立近代美術館:水谷長志(みずたにたけし)
(1) 本稿とほぼ同じ時期に執筆し、また刊行も同じ月を予定している『情報の科学と技術』誌掲載の拙稿「MLA連携のフィロソフィー-“連続と侵犯”という」と連動し、いささかの重複のあることを予めお断りさせていただきたい。
水谷長志. MLA連携のフィロソフィー: “連続と侵犯”という. 情報の科学と技術. 2011, 61(6), p. 216-221 .
(2) “公開講座「被災ミュージアムの支援と危機管理対策」&写真展のご案内”. Museum Career Development Network. 2011-04-27.
http://www.mcdn.jp/2011/04/blog-post.html [433], (参照 2011-04-16).
(3) 松岡資明. 被災地の記憶 デジタル保存. 日本経済新聞. 2011-05-14, 朝刊, p. 40.
(4) saveMLAK. http://savemlak.jp/wiki/SaveMLAK [434], (参照 2011-04-16).
(5) 美術に限らず広くMLA連携を調査した報告書としては下記が貴重であり、翻訳書も刊行されている。
Yarrow, Alexandra et al. Public Libraries, Archives and Museums: Trends in Collaboration and Cooperation, IFLA, 2008, 51p.
http://archive.ifla.org/VII/s8/pub/Profrep108.pdf [435], (accessed 2011-04-16).
ヤロウ, アレクサンドラほか. 公立図書館・文書館・博物館: 共同と協力の動向.垣口弥生ほか訳.京都大学図書館情報学研究会, 2008, 68p.
http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/~lib-sci/pdf/IFLA-Profrep108-Jp.pdf [436], (参照 2011-05-16).
(6) Giral, Angela. At the confluence of three traditions: architectural drawings at the Avery Library. Library Trends. 1988, 37(2), p. 232-242.
(7) 水谷長志編著. MLA連携の現状・課題・将来.勉誠出版, 2010, p. 22.
(8) PORTA(国立国会図書館デジタルアーカイブポータル). http://porta.ndl.go.jp/ [437], (参照 2011-04-16).
(9) 佐々木丞平ほか. “記念鼎談-これからのMLA連携に向けて”. MLA連携の現状・課題・将来. 水谷長志編著. 勉誠出版, 2010, p. 22.
(10) 水谷長志編著. MLA連携の現状・課題・将来.勉誠出版, 2010, 296p.
(11) 日本図書館情報学会研究委員会編. 図書館・博物館・文書館の連携. 勉誠出版, 2010, 186p.
(12) 第58回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム記録「図書館・博物館・文書館の連携をめぐる現状と課題」. 日本図書館情報学会誌. 2010, 56(4), p. 220-224.
(13) 本フォーラムの全体にわたる報告書として、以下の文献が刊行された。
アート・ドキュメンテーション研究会1995編. 美術情報と図書館: 第1回アート・ドキュメンテーション研究フォーラム報告書. アート・ドキュメンテーション研究会1995, 1995, 184p.
(14) アート・ドキュメンテーション会則. アート・ドキュメンテーション研究. 2004, (11), p. 150.
会則に「文書館」が加えられたのは、前年2003年6月の総会での会則改正からによってである。
(15) アート・ドキュメンテーション研究会1995編. 美術情報と図書館: 第1回アート・ドキュメンテーション研究フォーラム報告書. 1995, 184p.
(16) 水谷長志. 特集, IFLAシドニー大会報告: IFLA美術図書館分科会に参加して: 日本におけるARLISの可能性を考える. 図書館雑誌. 1988, 82(12), p. 817-819.
(17) Mizutani, Takeshi. The Japan Art Documentation Society and Art Librarianship in Japan Today. Art Libraries Journal. 1989, 14(3), p. 5-6.
(18) Okubo, Itsuo. “History of posters in Japan and the present states of their documentation”. IFLA General Conference. Tokyo, Japan. 1986-08-23/29. IFLA. 1986. p. 1-5.
Okubo, Itsuo. History of posters in Japan and the present state of their documentation. Art Libraries Journal. 1986, 11(4), p. 14-18.
大久保逸雄. 特集, シリ-ズ・IFLA東京大会発表ペーパーを読む⑤: 国際文化摩擦の一断面: ボストン美術館・アレンさんの指摘から学ぶもの. 図書館雑誌. 1987, 81(6). p. 342-343.
(19) Kimura, Yaeko. “The Change of Illustrated Story Books in Edo Period (1660-1880)”. IFLA General Conference. Tokyo, Japan. 1986-08-23/29. IFLA. 1986. p. 1-12.
(20) 大久保逸雄. 日本における美術史ドキュメンテーションの諸問題(1), 図書館雑誌. 1981, 75(10), p. 644-645.
大久保逸雄. 日本における美術史ドキュメンテーションの諸問題(2). 図書館雑誌. 1981, 75(11), p. 714-716.
上記2つの文献は1980年IFLAマニラ大会での美術図書館ラウンドテーブルでの口頭発表論文の翻訳である。初出は次の文献である。
Okubo, Itsuo. Problems in art documentation in Japan. Art Libraries Journal. 1980, 5(4), p. 25-33.
(21) 日仏美術学会. 美術研究と情報処理: コンピューターによる画像・文献処理はどこまで可能か. 日仏美術学会, 1987, 143p.
(22) 日仏美術学会. 美術研究と情報処理: コンピューターによる画像・文献処理はどこまで可能か. 日仏美術学会, 1987, 143p.
(23) 波多野宏之. 画像情報の蓄積と検索: 美術分野における応用Part1. 書誌索引展望. 1987, 11(4), p.1-11.
波多野宏之. 画像情報の蓄積と検索: 美術分野における応用Part2. 書誌索引展望. 1988, 12(1), p. 21-29.
(24) 波多野宏之. 画像ドキュメンテーション世界. 勁草書房, 1993, 189p.
(25) Mizutani, Takeshi. The Japan Art Documentation Society and Art Librarianship in Japan Today. Art Libraries Journal. 1989, 14(3), p. 5-6.
ファン・デル・ワテレン, ヤン.美術館情報処理システムの諸問題: ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館を中心に. アート・ドキュメンテーション研究. 1994, (3), p. 3-11.
(26) 平井紀子ほか. “年表日本のアート・ドキュメンテーション-20年の軌跡1989-2008: 附:「1980年以降の美術図書館をめぐる様々な動き”. 日本のアート・ドキュメンテーション-20年の達成MLA連携の現状、課題、そして将来. アート・ドキュメンテーション学会, 2009, p. 55-108.
(27) 野崎たみ子. 特集, 21世紀へのまなざし: 美術館・コレクター・画廊の現場から: 美術図書室の四半世紀. 美術フォーラム21. 2001, 3, p. 76-79.
(28) 水谷長志. ミュージアム・ライブラリの可能性: 人と情報のネットワーキングのもとに. 図書館雑誌. 2004, 98(7), p. 438-441.
水谷長志. 美術図書館横断検索 by ALC: その公開と課題. アート・ドキュメンテーション研究. 2005, (12), p.27-34.
水谷長志. 特集, 平成18年度専門図書館協議会全国研究集会: 第五分科会:新しい動きと挑戦・事例紹介: 美術館図書室の過去・現在・未来: ALCへの道のりをふり返って. 専門図書館. 2006, (219), p. 73-77.
Art Libraries' Consortium. http://alc.opac.jp/ [438], (参照 2011-04-16).
(29) 加藤哲弘. “矢代幸雄と近代日本の文化政策”. 芸術/葛藤の現場. 晃洋書房, 2002, p. 69-84, (シリーズ近代日本の知, 4).
(30) 水谷長志. “矢代幸雄の美術図書館プラン”. 図書館情報学の創造的再構築: 藤野幸雄先生古稀記念論文集. 勉誠出版, 2001, p. 251-261.
(31) Okubo, Itsuo. History of posters in Japan and the present state of their documentation. Art Libraries Journal. 1986, 11(4), p. 14-18.
大久保逸雄. 特集, シリ-ズ・IFLA東京大会発表ペーパーを読む⑤: 国際文化摩擦の一断面: ボストン美術館・アレンさんの指摘から学ぶもの. 図書館雑誌. 1987, 81(6). p. 342-343.
(32) 大久保逸雄. アート・ドキュメンテーション序説. アート・ドキュメンテーション研究. 1992, (1), p. 5-19.
(33) 特集, アート・ドキュメンテーション.現代の図書館. 1990, 28(4), p. 198-253.
各論考は、次の通り。波多野宏之「アート・ドキュメンテーションの提起するもの」、水谷「アメリカにおける美術図書館の現状と課題」、中島理壽「日本展覧会カタログについての一考察」、田窪直規「美術作品の情報管理:図書館の場合と博物館の場合」、鯨井秀伸「作品データと文献データとのリンク,あるいは美術情報の検索システム化」。
(34) 筒井弥生. ミュージアムにおけるアーカイブズ管理という考え方と実態. アート・ドキュメンテーション研究. 2011, (18), p. 53.
第2版は2004年刊行。
Wythe, Deborah ed. Museum Archives: An Introduction. 2nd ed., Society of American Archivists, 2004, 256p.
(35) 水谷長志. 美術資料における<外なる/内なる>ネットワークを考える. 現代の図書館. 1996, 34(3), p. 151-154.
(36) “アーツ・アーカイヴ: 新しい感性と知の空間をめざして”. 慶應義塾大学アート・センター.
http://www.art-c.keio.ac.jp/archive/ [439], (参照 2011-04-16).
(37) 前田には多くの論考があるが、例えば、以下の論考が挙げられる。
前田富士男. “アーカイヴと生成論(Genetics): 「新しさ」と「似ていること」の解読にむけて”. ジェネティック・アーカイヴ・エンジン: デジタルの森で踊る土方巽. 慶應義塾大学アート・センター, 2000, p. 80-95. (慶應義塾大学アート・センターブックレット, 6).
(38) 慶應義塾大学アート・センター編. アート・アーカイヴズ/ドキュメンテーション: アート資料の宇宙. 慶應義塾大学アート・センター, 2001, 91p. (慶應義塾大学アート・センターブックレット, 7)
本書には、高山正也「アート・ドキュメンテーションの基礎: アート資料の世界とその組織化のあり方」、田窪直規「情報メディアを捉える枠組: 図書館メディア、博物館メディア、文書館メディア等、多様な情報メディアの統合的構造化記述のための」、八重樫純樹「時間-空間情報をベースとした分野横断的アーカイブズ論への考察」、鯨井秀伸「オブジェクト・ドキュメンテーションにおけるデータ・リレーションシップおよびコンテキストにおけるカテゴリーについて」を掲載する。
(39) 特集, アート・アーカイヴ. 現代の眼. 2000, 523, p. 1-11.
以下の論考を掲載。田中淳「近代美術アーカイヴとダンボール箱」、森仁史「フィールドワークからアーカイヴへ」、平澤宏「アーカイヴとしての「萬鉄五郎書簡集」出版に至るまで」、小澤律子「国吉康雄アーカイヴスの形成とAAAのこと」、藤木尚子「神奈川近代文学館の特別資料について」。
(40) アート・アーカイヴ-多面体: その現状と未来[記録集]. アート・ドキュメンテーション学会, 2010, 35p.
例えば、2010年2月21日のシンポジウム「建築アーカイヴの現在と未来」など。
“資料脅かす市場経済: 建築アーカイブ巡り、東大でシンポ”. 朝日新聞. 2010-03-23.
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201003230115.html [440], (参照 2011-04-16).
(41) 例えば、東京大学経済学部資料室開室記念シンポジウム「資料を残す・未来に伝えるLIBRARY・MUSEUM・ARCHIVESをつなぐ」、2010年7月30日、於東京大学経済学研究科学術交流棟。
“資料室開室記念シンポジウム【7月30日(金)開催】のお知らせ”. 東京大学経済学図書室ニュース. 2010-07-06.
http://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/news2/adiary.cgi/08 [441], (参照 2011-04-16).
(42) 水谷長志. 美術資料における<外なる/内なる>ネットワークを考える.現代の図書館.1996, 34(3), p.151-154.
水谷長志. “アート・アーカイヴ再考-〈外なる / 内なる〉二つのトライアングルをめぐって”. 松本透ほか. 戦後の日本における芸術とテクノロジー: 2004-2006年度科学研究費補助金(基盤研究(B))報告書. 東京国立近代美術館, 2007, p. 88-93.
(43) 水谷長志. MLA連携のフィロソフィー: “連続と侵犯”という. 情報の科学と技術. 2011, 61(6), p. 216-221.
この稿に記したように、ミハルコの論は慶應大学におけるクローズドな研究会でのプレゼンテーションによるものであるが、この同義であることに関わる資料は氏の好意により上記文献に再録しているので、参照されたい。
(44) 田窪直規. “博物館・図書館・文書館の連携: いわゆるMLA連携について”. 図書館・博物館・文書館の連携. 勉誠出版, 2010, p. 1-22.
海外におけるMLA連携についてのレビューとしては他に下記がある。
菅野育子. 欧米における図書館、文書館、博物館の連携: Cultural Heritage Sectorとしての図書館. カレントアウェアネス. 2007, (294), p. 10-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1944 [442], (参照 2011-04-16).
金容愛. 図書館・文書館・博物館における連携の動向. 文化情報学. 2009, 16(1), p. 33-43.
(45) 田窪直規. “博物館・図書館・文書館の連携: いわゆるMLA連携について”. 図書館・博物館・文書館の連携. 勉誠出版, 2010, p. 16.
(46) 研谷紀夫. デジタルアーカイブにおける「資料基盤」統合化モデルの研究. 勉誠出版, 2009, 379p.
研谷には北岡他との共著『Guideline Guideline for デジタルカルチュラルヘリテージ構築のためのガイドライン 評価版 ver.1.0』がある。
“Guideline Guideline for デジタルカルチュラルヘリテージ構築のためのガイドライン 評価版 ver.1.0”. 社会情報研究資料センター.
http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/GuidelineForDigitalCulturalHeritage10.pdf [443], (参照 2011-04-16).
(47) 八重樫純樹ほか. 広領域分野資料の横断的アーカイブズ論に関する分析的研究: 2001-2003年度科学研究費補助金(基盤研究(B))研究成果報告書. 静岡大学, 2004, 238p.
八重樫純樹. 横断的アーカイブズ論の総合化・国際化と社会情報資源基盤の研究開発. 2005-2007年度科学研究費補助金(基盤研究(B))研究成果報告書. 静岡大学, 2008, 358p.
(48) 鈴木良徳ほか. MLAの記述規則に関する比較研究. 情報処理学会誌. 2010, 20(2), p. 215-220.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsik/20/2/215/_pdf/-char/ja/ [444], (参照 2011-04-16).
(49) “研究資源共有化システム” 大学共同利用機関法人人間文化研究機構.
http://www.nihu.jp/sougou/kyoyuka/system/index.html [445], (参照 2011-04-16).
(50) 森本祥子. “アーカイブズにおける記述標準化の動向”. 図書館目録とメタデータ. 勉誠出版, 2004, p. 145-164.
(51) 水嶋英治. “博物館・美術館における所蔵資料記述とメタデータ”. 図書館目録とメタデータ. 勉誠出版, 2004, p. 165-187.
(52) デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)関連情報.
http://www.dcaj.org/jdaa/ [446], (参照 2011-04-16).
(53) 笠羽晴夫. デジタルアーカイブ: 基点・手法・課題. 水曜社, 2010, 200p.
(54) “デジタル情報資源ラウンドテーブル”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/roundtable.html [447], (参照 2011-04-16).
(55) 講演会は、エルランド・コールディング・ニールセン(デンマーク王立図書館長)、ジル・カズンズ(欧州デジタル図書館事務局長)「知的資産を繋ぐ―ヨーロッパの実践(2011-03-02)」であった。
国立国会図書館編. 国立国会図書館月報. 国立国会図書館. 2010, (589), p. 29.
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/geppo/pdf/geppo1004.pdf [448], (参照 2011-04-16).
菅野育子. “欧州のデジタルアーカイブとその連携:Europeana を中心として”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2010/europeana.pdf [449], (参照 2011-04-16).
(56) 水谷長志. “ヒアリング(アーカイブ関係)”. 文化審議会文化政策部会美術ワーキンググループ(第3回). 2010-05-07.
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/seisaku_wg/bijutsu_03/pdf/shiryo_2_1_ver02.pdf [450], (参照 2011-04-16).
水谷長志. “美術ワーキング: ヒアリング(アーカイブ関係)”. 文化庁.
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/seisaku_wg/bijutsu_03/pdf/shiryo_2_2_ver02.pdf [451], (参照 2011-04-16).
(57) “文化芸術の振興に関する基本的な方針(平成23年2月8日閣議決定)”. 文化庁.
http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/housin/kihon_housin_3ji.html [452], (参照 2011-04-16).
長官官房政策課. 文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次基本方針). 文化庁月報. 2011, 510, p. 4-19.
(58) “(2)美術館,博物館,図書館等の充実”. 文化庁.
http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/housin/kakugikettei_110208/03-9-2.html [453], (参照 2011-04-16).
(59) 新井浩文. 特集, 平成22年度(第96回)全国図書館大会への招待: 第9分科会: 地域資料をめぐる図書館とアーカイブズ: その現状と未来. 図書館雑誌. 104(8), 2010, p. 489.
全国図書館大会(2010年9月16-17日)の「地域資料をめぐる図書館とアーカイブズ-その現状と未来」をテーマとする第9分科会〔資料保存〕の企画紹介。ここではLMA連携と表記。
(60) 長谷川伸. 現場レベルで考えるMLA連携の課題: 全国歴史資料保存利用連絡協議会巻頭部会総会講演: 根本彰氏「地域資料とは何か-国立国会図書館調査に基づいて」参加記. ネットワーク資料保存. 2008, (88), p. 6.
水谷長志. MLA連携-アート・ドキュメンテーションからのアプローチ(1). カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1749, p. 20-26.
http://current.ndl.go.jp/ca1749 [454]
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ITを活用したサービスや業務は図書館において欠かせないものとなっている。例えば、2010年には大学図書館、公共図書館共に80%以上がウェブでOPACを公開している(1) (2)。特に、公共図書館における蔵書検索や貸出予約等のサービスは、電子行政推進の一環(3)として2009年度において約68%と7割近くの地方自治体でオンライン化が進められている。このように、多くの図書館で業務の全般が電子化されている(4)。
それでは、オンラインサービスを支える人材である図書館員の現状はどうか。日本図書館協会情報システム研究会の委託を受けて三菱総合研究所が実施した「図書館システムの現状に関するアンケート」(2010年8月)(5)においては、「図書館システムの現状」としてシステムの専任担当者は少数で、専門家の支援も得られていない。また必要な人材育成も体系的に行われていない実態が明らかにされている。
また、文部科学省の「これからの図書館の在り方検討協力者会議」(6)で2009年2月に取りまとめられた「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目の在り方について(報告)」(7)では、「急速に進行する情報化に対応するために、図書館の業務やサービスの基礎となる情報技術の知識や技術の向上が必要であり、そのための科目を設ける必要がある。」として、IT知識を向上させることも司書養成の課程に必要であることが指摘されている。
このように、図書館サービスのオンライン化、電子化は進んでいるが、図書館員が実際にサービスを構築するために必要な知識や技能を育成する体制は、もっとも基礎的な講習である司書課程でさえ不十分で、現状では整備されていないといえる。
いかにしてIT知識を身につけ図書館サービスを構築するのか、澤田氏はこの専門家であるシステムズライブラリアン(Systems Librarian)を例に取り、「システムズライブラリアンに期待されているのは、情報システムと図書館の業務を同じ俎上で論じることである」と論じている(CA1634 [461]参照)。
情報システムと図書館業務の歩みを振り返ってみよう。
情報システムは進化を続けている。パンチカードでのデータの入出力に始まり、これにマイクロフィルムを組み合わせて検索可能とすることを目指したmemexの構想、次いで磁気テープに記録された情報検索が可能になり、専用線で接続しての利用からオンラインネットワークとその進化形であるインターネットの形成に至る。
図書館業務に必要なツールは誰が、どのようにして築き上げてきたのであろうか。例えば、資料の組織化のため書誌の記述方法や記述内容を体系立てて目録規則として整備し、維持を行ったのは図書館員ではなかったのか。冊子体の目録を検索しやすく編集する、75mm×125mmのカード目録に書誌情報を過不足なく記述するために工夫を凝らす、など情報へのアクセスポイントの整備を続けてきたのもまた図書館員ではないか。
いずれも、その時々の最新技術を用いて情報の組織化や検索を可能とするための先人の努力であり、目指すところは近い。だからこそ、現在ではITと図書館はその距離を縮めることが可能となり、同じ俎上で議論することができるのではないだろうか。
かつては、図書館員の業務はITとは無縁の、異なるものとする考え方もあった。米国でYahoo!、AltaVista、Inktomi、Exciteなどがディレクトリ作成、検索とインデックスの高度化により「Webを組織化する」ためにしのぎを削っていた1996年(8)、日本では「電子図書館ができたら、私たちの仕事がなくなるのでは」と不安に陥る図書館員や、「(情報の評価の面で)インターネットの問題は別次元」と看過するサーチャーも少なくなかった(9)。2007年10月に国立国会図書館デジタルアーカイブポータル(PORTA)が多くのAPI(Application Program Interface)を実装して正式公開され(CA1596 [462]、E706 [463]参照)、図書館員が新たなサービスとしてPORTAがどのように展開するかを期待した約2年半後の2010年3月、図書館とは関係のない民間企業Nota Inc.が全国の公共図書館の横断検索を行うサービス「カーリル」(10)をわずか4人で、2か月の期間で構築した(E1035 [464]参照)。彼我の差は大きいようにも見える。
しかし、近年になりようやく図書館員は情報システムを同じ俎上に上げようとしている。Blog、RSS、SNS、Twitterなど、インターネットに様々なサービスが登場する一方で、その技術をツールとして自館のサービスに取り入れる図書館もある(CA1565 [465]、CA1716 [466]参照)。また、オープンソースの図書館システムを構築するために図書館員が参加したProject Next-L(CA1629 [467]参照)や、「ICTに明るく強いライブラリアンを全国の図書館に広げる」ことを目的として誕生したCode4Lib JAPAN(11) (12)による実践的なワークショップ(13) (14)からは、積極的にITと対峙し我がものにしようとする姿勢が感じられる。
かつてのように、必要なツールを図書館員自身が作り図書館サービスを向上させるためにこそ、図書館員はIT知識を得る必要がある。この取り組みに求められるものは、基礎的な知識もさることながら、インターネット上にはどのようなサービスがあるかを知り、それらを使って何ができるのかを実践で学び、図書館サービスのツールとしていかに活用できるのかを考える、この3ステップであろう。上述のCode4Lib JAPANのほか、日本図書館協会の「中堅職員ステップアップ研修」(15)で行われた「図書館のウェブ活用-実践編」に見られるような、連絡用メーリングリストに加入し、BlogやTwitterを使った発表を課すなど、受講する図書館員が主体的に最新のサービスを自ら利活用可能な技能として習得することを目途とした課程がその好例である。
決してインターネット上のサービス群は図書館を脅かすものではない。上手に扱い図書館サービスのためのツールとするべきである。同時に、図書館サービスはもはや直接に来館する者に限ったものではなく、インターネットを経由して遠隔から、かつ図書館側が想定しない利用もありえることを意識することも必要だろう。カーリルのようなサービスを図書館員が成し得ず、また新たな発想で構築されたことは、OPACなどインターネット上に開かれた図書館サービスを様々な形で利用したいという潜在的なニーズの存在を示している。
図書館員は、資料の内容を完全に理解することができなくても、概要を把握し適切な分類記号や件名標目を付与できる。レファレンスで問われた質問に、意味が完全に分からなくとも適切なレファレンスツールの活用やレフェラルサービスで対応することで利用者に答えることができる。図書館員がこれらの技能や知識を学び、身につけサービスを行うことに異論はないだろう。
IT知識の習得についても同様ではないだろうか。図書館員であれば、インターネット上のサービスの概要を掴み、何ができるのかを理解することや、必要に応じてITの専門家と協調し知恵を借りることができるはずだ。
ITのような、一見近づきたくはない、自分とは無関係と思える知識や技術であっても、サービスのためのツールであると考えればこれまでの取り組みと何ら変わることはない。
いかなる技術であっても、「図書館のサービス」であるからには他人任せにはできないはずだ。もうITなしには業務は行えない。今こそ、全ての図書館員がIT知識を身につけサービスを向上させる時である。
農林水産研究情報総合センター:林 賢紀(はやし たかのり)
(1) 上田修一. “大学図書館OPACの動向”. 慶應義塾大学文学部・慶應義塾大学大学院文学研究科 図書館・情報学専攻.
http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/libwww/libwwwstat.html [468], (参照 2011-01-13).
調査結果は2010年3月31日時点。
(2) “公共図書館Webサイトのサービス”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/link/public2.html [469], (参照 2011-02-03).
調査結果は2010年12月27日時点。
(3) 以下において、「図書館の貸出予約等」が「オンライン利用促進対象手続」の一つとして位置づけられている。
“電子自治体オンライン利用促進指針”. 総務省. 2006-07-28.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000076232.pdf [470], (参照 2011-01-13).
(4) “地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果 平成22年度資料編 総括資料 第2節第5表⑥”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/chousah22.html [471], (参照 2011-01-13).
(5) “図書館システムに係る現状調査調査結果”. 三菱総合研究所. 2010-08-31.
http://www.mri.co.jp/NEWS/press/2010/2021657_1395.html [472], (参照 2011-01-13).
(6) “これからの図書館の在り方検討協力者会議について”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/019/index.htm [473], (参照 2011-01-13).
(7) これからの図書館の在り方検討協力者会議. “司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目の在り方について(報告)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2009/09/16/1243331_2.pdf [474], (参照 2011-01-13).
(8) スタインバーグ, スティーヴ G. 検索エンジン大系、思想と技術を追え!. 内田勝訳. ワイアード. 1996, 2(10), p. 42-53, 136-137.
(9) 原田智子. 特集, 第26回ドクメンテーション・シンポジウム: パネルディスカッション : 図書館員とサーチャーの生きる道. 情報の科学と技術. 1996, 46(10), p. 543-551.
(10) カーリル. http://calil.jp/ [475], (参照 2011-02-04).
(11) 丸山高弘. 図書館の未来を予測する最善の方法は,それを創りだすことだ : Code4Lib JAPANのコンセプト,ビジョン,ミッション,アクション. 情報管理. 2011, 53(10), p. 554-563.
(12) 岡本真. 「日本の図書館をヤバくする」ために─Code4Lib JAPANの経緯、目的、事業、そしてFlickrを用いたワークショップのねらい. ず・ぼん. 2011, (16), p. 98-107.
(13) 江草由佳. “第2回Code4Lib JAPAN Workshop「Webのログファイルを読む・解析する」(10月24日)(サービス構築コース)が無事開催されました”. Code4Lib JAPAN. 2010-10-25.
http://d.hatena.ne.jp/josei002-10/20101025/1288003806 [476], (参照 2011-01-21).
江草由佳. “第3回Code4Lib JAPAN Workshop 「APIは怖くない!-RSSからAPIまで便利な仕組みを使い倒そう」(12月12~13日)(サービス構築コース) が無事開催されました”. Code4Lib JAPAN. 2010-12-13.
http://d.hatena.ne.jp/josei002-10/20101213/1292251500 [477], (参照 2011-01-21).
(14) Code4Lib JAPANの第3回ワークショップの成果の一つが以下で公開されている。
“調べる・相談する(レファレンス)”. 福井県立図書館.
http://www.library.pref.fukui.jp/reference/reference_top.html [478], (参照 2011-01-13).
(15) “2010年度中堅職員ステップアップ研修(2)”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/kenshu/stepup2010-2.html [479], (参照 2011-02-03).
林賢紀. 図書館員のIT知識とその向上-ITと向き合うために. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1735, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1735 [480]
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現在、大学を始めとする教育・研究機関で提供される電子コンテンツの大半は、出版社などのベンダーと各機関との間でライセンス契約を結んでいるもので、その認証は、IPアドレスによって行われることが多い。しかし、米国情報標準化機構(NISO)のワーキンググループであるSERU(Shared Electronic Resource Understanding)(1)がガイドラインとして示したように、一般的に教育機関に所属する学生、教職員等のユーザは、キャンパス外からでもこうしたライセンスリソースへのアクセスが認められるようになってきている。これを技術的に実現するために、VPN(2)や、リバースプロキシ(3)などが用いられてきた。なかでもEZproxy(4)は、ユーザ側が特別なソフトウェアをインストールすることなく、ユーザID/パスワードによりアクセスできること、また電子コンテンツへのアクセスに特化しており、利用者コミュニティが充実していることなどから、図書館で広く使われてきた。
このような状況のなか、最近、IPアドレス認証に代わり、機関が個人認証を行う技術としてShibboleth(シボレス)(5)が注目を集めている。IPアドレスによる認証が、キャンパスという「物理的な場所」に基づいて認可を行うのに対し、Shibbolethによる認証は、アクセスする利用者の「属性」(所属部局、教員/学生など)に基づいた認可を実現している。また、キャンパスの内外を意識することなく各サービスへアクセスできること、シングルサインオン(SSO)、パーソナル機能との連携、ユーザ管理の利便性向上などのメリットもある。さらに、ライセンスリソースへのアクセス認証管理を一元化するため、英米を始めとする世界各国で、国レベルのShibbolethフェデレーションを運用する動きが広がりを見せており、日本でも国立情報学研究所(NII)を中心とした「学術認証フェデレーション」(学認:GakuNin)が立ち上がっている(6)。また、GakuNinの運用を行うため、NIIと大学関係者により、「学認タスクフォース」が立ち上がっており、筆者らは図書館関係者としてこのタスクフォースに参加している。本稿では、Shibbolethについて国内外の動向をまとめるとともに、GakuNinの取り組みを紹介する。
Internet2(7)は、1996年に米国34大学の代表によって設立された、ネットワーク技術の発展を目的とした組織である。現在は、研究者へのツールやサポートの提供、サイバーインフラによる協力活動といった4つの目標を掲げて活動しており、Shibbolethは、その中で、SSOを前提としたアクセスコントロールを行うためのオープンソースのミドルウェアとして開発された。2003年にバージョン1.0、2008年にはバージョン2.0がリリースされ、現在に至っている。
Shibbolethでは(広義の)認証プロセスにおける、本人確認を行う「認証(authentication)」とサービス利用の権限を付与する「認可(authorization)」を分離し、ユーザ認証はサービス利用機関が設置するIdP(Identity Provider)側で、認可はサービス提供元(ベンダー)が設置するSP(Service Provider)側で行う(8)。SPは独自に認証を行わず、IdPから送信される「属性(attribute)」情報を信頼して利用認可を行う。利用機関とベンダーの相互信頼に依存する認証方式であることから、双方が国や地域を単位としたフェデレーションと呼ばれる連合組織を結成し、利用ポリシーの策定や連携に必要なメタデータの集中管理を行うのが一般的である。Internet2自身もプロジェクトの一環としてInCommonというフェデレーションを組織しており(9)、また英国情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee:JISC)も2008年にShibbolethを採用し、UK-Fedを組織している(10)。
フェデレーション間の連携を推進することを目的として結成されたREFEDs(Research and Education Federations)(11)の調査によると、2010年10月現在、学術情報へのアクセスを主目的とするフェデレーションは世界中に27団体存在している(12)。これらのフェデレーションへ参加している利用機関数を合計すると、およそ1,800にもなる(13)。
各フェデレーションにおけるサービスの力点は様々であるが、GakuNinでは後述のように各機関がサイトライセンスで購入している電子ジャーナル等を含む教育・研究用のサービスを充実させようとしている。
日本においてShibboleth認証を学術情報へのアクセスに利用する動きは、2008年3月、NIIにおいて開催された懇談会に始まる。NIIの「全国大学共同電子認証基盤(UPKI)構築事業」の一環としてShibbolethを利用した認証連携基盤の設立が協議され、2008年度に27機関が参画して「UPKI認証連携基盤によるシングルサインオン実証実験」が実施された(14)。実証実験でフェデレーションとしての運用開始に見通しがついたことから、2009年度に試行的なフェデレーションとして「学術認証フェデレーション(UPKI-Fed)」がスタートした。2010年度からは愛称を「学認(GakuNin)」に改め、本格運用に移行している。また情報部門や図書館のスタッフなど、フェデレーションを構成する機関の実務担当者としての立場からGakuNinの運用に参画する、学認タスクフォースが発足している。
国内における取り組みの中で、タスクフォースに関わり、先行して実際にサービス運用に入るなどした、いくつかの事例を紹介する。
千葉大学においては、Shibbolethを電子ジャーナルへのリモートアクセスを実現するツールと位置付け、附属図書館が主体となって利用環境を構築した。研究者の文献利用行動を「図書館目線」で体系化し、中核となる「電子ジャーナルを読む」ことを中心に、文献を「検索する」「読む」「管理する」という一連のプロセスをSSOで実現することを目標としてサービスを行っている。システム面では、情報部門である総合メディア基盤センターとの連携により、全学ネットワークやメールシステムを利用するための利用者情報を格納したLDAPサーバのデータを参照させて認証を行っている。また、IdPのハードウェア周りの管理にも総合メディア基盤センターの協力を得ている。図書館と情報部門の緊密な連携が重要であることは先行フェデレーションである英国などでも強調されているが、これは日本においても同様であろう。
九州大学では、情報部門である情報統括本部と附属図書館の連携によって、IdPの立ち上げを行い、図書館のマイアカウントサービス(きゅうとMyLibrary)及び電子コンテンツへの自宅・出張先からのアクセスサービス(どこでもきゅうと)でのShibboleth認証を実現した(15)。GakuNinへも正式参加しており、大学独自のサービスと商用サービスの双方で、ShibbolethによるSSOの実現を目指している。
京都大学においては従来から、図書館として提供している電子リソースへのアクセスの際、ユーザがWebサイトに直接アクセスするのではなく、間にプロキシサーバを立て、サーバ上で稼働しているSquidというフリーソフトウェアにより認証をかけてきた。利用統計の取得と、大量ダウンロード等を理由とするアクセス遮断措置を受けた場合の調査対応の迅速化のためである。また、学内の電子リソースアクセスを図書館にあるプロキシサーバに集約している。このため、ユーザ、IdP、SP間で通信が成り立つShibboleth認証を採用することができず、現時点において、Shibboleth認証に対応しているのは、プロキシを経由させていないCiNii、RefWorksと、図書館の提供ではないMicrosoft DreamSparkのみである。今後、この認証プロキシをShibboleth対応させる事が課題である。
Shibboleth認証が有する利点の一つとして、サービス側に送信する利用者の属性情報をIdPの管理者がコントロールできる点が挙げられる。どのような属性情報をサービス側に送信するかは、サービス利用機関とベンダーの合意によってフェデレーションごとに定められており、例えばスイスのSWITCHaai(16)やデンマークのWAYF(17)では、利用者を特定できる情報を含んだ属性をSPに送信させることにより、eラーニングコンテンツを多機関で共同利用するサービスが活発に展開されている。一方、英国のUK-FedやフランスのÉducation-Recherche(18)では、認証に必要な属性情報が比較的少ない、電子ジャーナルをはじめとする商用の学術コンテンツでの利用が先行している。
GakuNinでも学術コンテンツへのアクセスをサービスの柱として位置づけている。利用者がShibbolethの利便性を享受するには対応サービスの拡大が必須であるが、GakuNinを通じて利用できるサービスは、2011年1月現在で19に留まる。海外のフェデレーションでもコンテンツの増加を図ることがフェデレーションの利便性を向上させる鍵であることが指摘されており(19)、例えばInCommonでは、対応する学術コンテンツを拡大するため、InCommonに参画する個々の機関がInCommon Library Subgroups(20)を組織し、フェデレーションの利益を代表してベンダー各社と交渉を行っている。GakuNinでもInCommonに範をとり、学認タスクフォースに参加している図書館関係者によってGakuNinライブラリーチームを結成し、学術コンテンツのベンダー各社とShibboleth対応の交渉を行っている。
対応サービスを増加させることはGakuNinの利便性を向上させる上で重要であり、それにより参加する学術機関の増加も期待できる。しかし、ベンダーにとっては、提供するサービスをGakuNinに対応させるために、金銭的・人的なコストがかかるため、逆にGakuNin参加機関の増加等による、メリットが必要である。このような状況のなか、GakuNinの利用に関するベストプラクティスを見出し、参加する学術機関、対応するサービスの双方の増加を促していくことが、GakuNinライブラリーチームの使命の一つであると考えている。
このように、GakuNinライブラリーチームは、現在Shibbolethに対応する学術コンテンツの拡大に力点を置いているが、実際にShibboleth認証が適用できるサービスの可能性は、これに留まらない。金沢大学や佐賀大学などでは、大学ポータルや教務システムなどの学内サービス、ネットワーク利用者認証システム等での実装が実現されており(21) (22)、四国地区の8大学で構成されるe-Knowledgeコンソーシアム四国(23)では、eラーニング教材を参加大学が共同で利用する試みがなされている。Shibbolethが有する可能性を最大限に発揮し、利用者の利便性を向上させる取り組みとして、これらの方向からのアプローチにも期待したい。
ShibbolethのSPは、1台のサーバで複数のフェデレーションに対応できるが、そのためにはフェデレーションごとの設定を追加していく必要がある。このため、既に海外のフェデレーションに参加しているサービスであっても、ただちにGakuNinで利用できるとは限らない。そのため、複数のフェデレーションがSPを相互に提供し合う、Inter-Federationの取り組みも欧州では始まっている(24)が、個人情報保護をはじめ運用ポリシー面での調整に課題を抱えているなど、拡大にもう少し時間を要すると思われる。
こうした運用ポリシーやユーザインターフェースなど、各国のフェデレーションに共通する問題点については、各国フェデレーションのメンバーによって構成されるREFEDsにおいて調査・議論がなされている。例えばShibbolethの利用に直結する問題として、ユーザインターフェースの問題が挙げられよう。Shibboleth認証へのリンクは各コンテンツのトップページに用意されることが一般的であるが、現在のところ、その位置や表記方法はサービスごとに大きく異なっている。より利用しやすいインターフェースとなるように、一定のガイドラインを設けてベンダーに推奨していくことが検討されている。複数のフェデレーションが共通して利用するものであることから、どのような配置であれば利便性が高まるか、また、どのように各ベンダーへ働きかけていくか、REFEDsにおいて議論されているところである。
IPアドレス認証はユーザが特段の操作を要さず、簡便にリソースを利用できることが最大の特長である。しかしその認可判断の基準は「アクセス発生源が特定のネットワークである」という、いわば「物理的な場所に基づいた」判断に限られる。VPNやリバースプロキシを使った場合でも、ベンダー側で認可を判断する基準がIPアドレスになる点は同じである。これに対してShibbolethは、アクセスする利用者の「属性に基づいた」認可判断が可能であり、誰が、どのコンテンツにアクセスが可能なのか、細かなアクセス管理を可能とするものである。また、ベンダーに利用者データを登録してユーザID/パスワードを発行する形式の認証とは異なり、利用者データとその属性を機関側で管理できることから、個人情報の保護にも資する。
Shibboleth認証は幅広い可能性と高い利便性を有する認証方式であるが、そのポテンシャルを最大限に享受するためには、対応サービスの増加が何よりも重要である。その一方で、多くのベンダーをGakuNinに呼び込むためには、利用機関の増加も必須である。より多くの利用者にShibbolethの利便性を体感していただけるように、GakuNinの更なる充実にご協力を賜れれば幸いである。
(千葉大学附属図書館:野田英明(のだ ひであき)
(東京大学情報基盤センター:吉田幸苗・よしだ ゆきなえ)
(京都大学附属図書館:井上敏宏・いのうえ としひろ)
(九州大学情報システム部:片岡 真・かたおか しん)
(国立情報学研究所学術基盤推進部:阿蘓品治夫・あそしな はるお)
(1) NISO SERU Working Group. “SERU: A Shared Electronic Resource Understanding”. National Information Standards Organization.
http://www.niso.org/publications/rp/RP-7-2008.pdf [483], (accessed 2011-01-21).
(2) PCにインストールしたソフトウェアを使って拠点のLANに接続し、ネットワーク通信を仮想的にキャンパス内の環境にするもの。
(3) キャンパス内に設置したサーバがPCからのアクセス要求を中継することによって、キャンパス内からのアクセスであるかのように装うことができるようにするもの。
(4) “EZproxy”. OCLC.
http://www.oclc.org/ezproxy/ [484], (accessed 2011-01-21).
(5) “Shibboleth”. Internet2.
http://shibboleth.internet2.edu/ [485], (accessed 2011-01-21).
(6) 学術認証フェデレーション.
http://www.gakunin.jp/ [486], (参照 2011-01-21).
(7) Internet2. http://www.internet2.edu/ [487], (accessed 2011-01-21).
(8) 「IdP」「SP」はサーバを意味する場合もあれば、それらのサーバを設置している主体を意味する場合もある。本稿では特に明記のない限りは、 サーバを示すものとする。
(9) InCommon Identity and Access Management.
http://www.incommonfederation.org/ [488], (accessed 2011-01-21].
(10) UK Access Management Federation for Research and Education.
http://www.ukfederation.org.uk/ [489], (accessed 2011-01-21).
(11) “REFEDs: Research and Education Federations”. Trans-European Research and Education Networking Association.
http://www.terena.org/activities/refeds/ [490], (accessed 2011-01-21).
(12) “Federations”. REFEDs. 2010-10-22.
https://refeds.terena.org/index.php/Federations [491], (accessed 2011-01-21).
(13) 原則としてIdP数なので一つの団体で複数のIdPを立ち上げているところはそれらもカウントしている。また、一部SP数やテスト段階も含む。
(14) “平成20年シングルサインオン実証実験報告書”. 国立情報学研究所. 2009-04-20.
https://www.gakunin.jp/docs/open/fed/6 [492], (accessed 2010-02-10).
(15) 伊東栄典ほか. Shibboleth 認証基盤構築と学術認証フェデレーションへの参加 : 今後のe リソースサービス基盤にむけて. 九州大学附属図書館研究開発室年報. 2010, 2009/2010, p. 11-15.
(16) “SWITCHaai”. SWITCH.
http://www.switch.ch/aai/index.html [493], (accessed 2011-01-21).
(17) WAYF.
https://www.wayf.dk/wayfweb/frontpage.html [494], (accessed 2011-01-21).
(18) “The federation Éducation-Recherche”. GIP RENATER.
https://federation.renater.fr/en/index [495], (accessed 2011-01-21).
(19) Marsh, Sara et al. “Identity and Access as a UK Priority”.
https://sites.google.com/site/jiscfam/documents/IdentityandAccessasaUKPriorityv5.pptx?attredirects=0 [496], (accessed 2011-02-07).
(20) “InC-Library”. Internet2.
https://spaces.internet2.edu/display/inclibrary/InC-Library [497], (accessed 2011-01-21).
(21) 松平拓也ほか. 特集, 多様な価値を創出する情報システム: 大学におけるShibbolethを利用した統合認証基盤の構築. 情報処理学会論文誌. 2011, 52(2), p. 703-713.
(22) 大谷誠ほか. シングルサインオンに対応したネットワーク利用者認証システムの開発. 情報処理学会論文誌. 2010, 51(3), p. 1031-1039.
(23) e-Knowledgeコンソーシアム四国.
http://www-ek4.cc.kagawa-u.ac.jp/ [498], (参照 2011-01-21).
(24) eduGAIN. http://www.edugain.org/ [499], (accessed 2011-01-21).
野田英明, 吉田幸苗, 井上敏宏, 片岡真, 阿蘇品治夫. Shibboleth認証で変わる学術情報アクセス. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1736, p. 4-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1736 [70]
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米国図書館界では1990年代の終わりころから、2010年以降に起こるベビー・ブーマーの大量退職で、図書館界が人材不足に陥るのではないかと危惧されてきた(CA1583 [503]参照)。米国のベビー・ブーマーとは1946年から1964年に生まれた約7,800万人の人たちを指し(1)、彼らの多くは今後20年内に退職すると言われていたためである(2)。ところが、ベビー・ブーマーの最年長が65歳を迎えた2011年現在のところ、米国で図書館員が不足するとの「噂」は神話にとどまっているように思われる。
米国図書館協会(ALA)の会員を対象とした図書館員人口調査には2010年5月までに約5万4千人が回答し、その内46.2%がベビー・ブーマー世代であった(3)。業界人口の約半数が今後20年以内の内に次々と65歳を迎える図書館界で、退職者の穴埋めをどうするか懸念するのは自然な事である。
ベビー・ブーマー大量退職による図書館員不足の懸念を示した例を時系列に幾つか紹介する。
1995年には、学術図書館員の人口統計学的研究で著名なワイルダー(Stanley J. Wilder)が、1995年時点での北米研究図書館協会(ARL)加盟館の図書館員がいつ退職時期を迎えるかを調査し、退職者の割合が年々増えていくことを予想した(4)(表参照)。
表 1995年時点で在職している学術図書館員の予想される退職時期
予想される退職時期 | 割合 |
1995年から2000年 | 16% |
2000年から2005年 | 16% |
2005年から2010年 | 24% |
2010年から2020年 | 27% |
出典:(4)を基に筆者が作成
時間は少し進んで2002年にはAmerican Libraries誌でも、1990年の人口調査で職業を「ライブラリアン」と申告した者が65歳に達する時期をまとめ、2010年-2014年がピークで申告者の20%強が退職すると予想した(5)。2004年になるとALAは2000年度の人口調査の結果を受け、図のとおり、2010年から2019年の間に65歳を迎える図書館員が増える事で大量退職の波が来る事を提示し、再度図書館員不足の懸念を示した(6)。
図 2000年度の人口調査結果に基づくライブラリアンの65歳人口の推移予想
出典:(6)を基に筆者が作成
このような図書館員不足という将来への危惧を受け、2001年以降、図書館員の確保・養成を援助する動きも強まっていった。
2002年2月には、ローラ・ブッシュ大統領夫人(当時)の発案により、米国博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum and Library Services:IMLS)が「21世紀図書館員募集・訓練プログラム」(Recruiting and Educating Librarians for the 21st Century)を開始し、次世代の図書館員の募集と教育に力を入れ始めた(7)。また、同氏の働きにより、2003年度の政府予算には図書館員養成のための1,000万ドルが盛り込まれることとなった(8)。
しかし、こうした危惧は2011年を迎えた現在のところ、杞憂にとどまっていると思われる。ベビー・ブーマーの大量退職も図書館員不足も起こっていない、もしくは遅れている要因としては次の事が考えられる。
第一に、ベビー・ブーマー達が退職時期を先送りしている事が考えられる。リーマンショック後すぐの2008年9月22日発行のWall Street Journal紙には、何百万人もの退職年齢層が不動産や株価の下落で退職を先送りしているという記事があった(9)。2009年のWall Street Journal紙のアンケートでは、50歳以上の回答者の44%が3年かそれ以上退職を延期すると答えている(10)。2010年には米国の非営利調査機関Pew Research Centerが、50歳から61歳までの60%の人々が不景気を理由に退職を遅らせることになりそうだと答えたとの調査結果を発表している(11)。
米国では、「雇用における年齢差別禁止法」(Age Discrimination in Employment Act of 1967)で一部の職種を除き、定年設定は違法とされており(12)、図書館員も退職時期を自分の裁量で決められる。このため、年齢ごとの図書館員グループが一定の年齢に達する年とその人数を割り出したところで、退職者数を予測するのは難しい。前述した図書館員不足の懸念を示した例に疑問が残るのはこのせいである。
第二の要因としては、図書館の組織運営の合理化が挙げられる。たとえば外部委託が盛んであるし、退職者が出て欠員となった空席も、新規雇用は行われず残った職員に兼任させることがしばしば見受けられる。また大学図書館相互間の協力も各分野で盛んになってきている(13)。下記に挙げるのは、日本研究分野(14)における大学図書館相互間協力の例である。
イリノイ大学で日本研究コレクションの担当をしている図書館員は、2010年8月から、ウィスコシン大学とミネソタ大学での業務の兼任を始めた(15)。拠点のあるイリノイ大学50%、他の大学25%ずつの割合で選書やレファレンス・サービスを提供し、拠点外の研究者に対してはメールやテレビ電話で対応する。また、年に3度、1週間ずつ各大学に訪問し、現地でのワークショップなどを計画しているとのことであった。
アリゾナ大学の日本学研究司書の話によると、この司書も2010年10月からアリゾナ州立大学の日本研究コレクションを掛け持ちで担当している。アリゾナ州立大学では2年ほど前に日本学研究司書が離職して以来、経済的な事情により後任を採用できないため、今回のサービス共有を導入した。
マサチューセッツ大学アマースト校の日本研究司書も、6年程前から一人で、同州にあるスミス・カレッジ及びアマースト大学の日本語コレクションへのサービスも提供しており、購買、目録作成、レファレンス、図書館教育(library instruction)などを担当しているそうだ。
以上のことを考慮すると、そもそも大量退職は起こっておらず、退職者が出てもそのポストに対して必ず募集が出るとも限らないというのが現状である。
大量退職も起こらない上に、組織の合理化で新規雇用も見込まれず、更に不況による人員削減が行われている(16)図書館界での就職状況は、新卒者には特に厳しい。2009年の図書館情報学修士号(MLIS)取得者の就職状況をまとめたレポート(17)によると、就職率(フルタイム)は前年比で69.8%から72.9%へと僅かに回復しているが、リーマンショック以前の2007年の数字(89.2%)には程遠い。こうした厳しい就職市場で生き残るために、筆者がライブラリースクールや先輩図書館員から受けたアドバイスには次のようなものがある。
第一に図書館員になる事を決めたらすぐにでも、図書館員の求人情報を隅々まで網羅することである。インターネットで簡単に手に入り、それを見れば雇用市場の傾向を知る事ができるので、ライブラリースクール選びや、授業の取り方、インターン先を計画する上でも有用である。
第二に、卒業以前に図書館業務経験を積む事である。求人情報を調べ始めて気付くのは新卒者が応募できる職の少なさである。新卒者が応募できるエントリー・レベル職(18)でも、2~3年の経験を求められる事が多い。2006年4月から2009年5月に掲載された図書館員求人広告を調査した研究によると、1,042件の求人広告の内、30.9%が少なくとも1年の図書館業務経験必須と明記していた(19)。中でも求められる経験は目録作成やメタデータ付与等のテクニカルサービス、レファレンス、そして情報リテラシー教育の分野だという。このため、ライブラリースクールを卒業するまでに図書館でのアルバイトやインターンシップ等でこうした分野での経験を重ねることが重要である。そのほか、ライブラリースクールの授業では地域の図書館を舞台にしたプロジェクトも課されるので、そうした機会も、将来就きたい仕事に関連させるなどして、賢く使うのがよいようである。このように早い段階から目的意識を持って行動することで、自分のキャリアに必要な専門知識の理解・習得、幅広い人脈の構築が可能となり、他の求職者との差別化ができる。
第三に、図書館情報学以外のスキルを身に付けることである。上述のとおり組織運営の合理化が進んでいるので、複数のスキルを持って多様な仕事に取り組める人材が重宝される。たとえば教員の資格と図書館情報学修士号を両方とも取得した人は、情報リテラシー授業で教えるスキルが求められる学術図書館員の職で強みを発揮できるだろう。米国の東アジア学系の図書館では1人の図書館員が複数の分野(韓国学と日本学など)を掛け持ちで担当することもある。こうした職に就くには、それらの分野を担当できるだけの専門分野の学位取得、学術的バックグラウンド、言語知識を兼ね備えておく必要がある。
ここからは筆者が2009年1月に日本学研究司書の職に就くまでの体験をもとに、米国学術図書館への就職のプロセスについて紹介したい。
筆者の通ったプロセスも一般的な学術図書館職の場合と同様、応募、電話面接、キャンパスビジットの3段階であった。
米国での図書館での仕事探しの情報源は豊富(20)であるが、特にALA(21)やARL(22)、州ごとの図書館組織のウェブサイト、また学術図書館であれば学会組織からの情報やChronicle of Higher Education誌の情報(23)等が有用であった。東アジア学系の図書館の求人情報は東アジア学系の図書館に関するメーリングリスト(24)から情報を得られる。応募時は大学の人事のページからオンラインフォームと履歴書、カバーレター(25)を提出した。以前働いていた米国内の図書館の上司やライブラリースクールのアドバイザーら推薦者3人からは推薦書を直接応募先の人事宛てに送ってもらった。
応募から約1か月半で電話面接の通知があった。電話面接は、電話会議方式で、選考メンバー4人と話すこととなった。このときの選考メンバーが書類審査から採用通知までを担当していた。面接で質問されたのは、「なぜ応募したのか」「仕事内容で何に一番自信を持って取り組めるか」「何が一番自信のない分野か」「なぜ自分こそが採用されるべきだと思うか」等であった。
電話面接を通過すると2日間のキャンパスビジットに招待された。一日目は大学図書館ツアーと選考メンバーとの面接ディナーだった。選考メンバーとの食事というのは、どの業界の最終選考でも行われるようで、大学のキャリアセンターも就職活動中の学生向けに「面接ディナー」のワークショップを催し、力を入れていた。筆者もそのワークショップに参加していた。ワークショップでは、「ディナーで注文すべきでないメニュー」から、「話題の選び方」「ドレスコード」「アルコールは飲むべきか」まで、コースディナーを食べながら「面接ディナー」の対策を学んだ。キャンパスビジットの二日目は、ほぼ一日中面接であった。選考メンバーをはじめ、図書館長、副館長、その後共に働くことになる他の研究分野司書、関係部門スタッフ、そして日本研究の教授などとの面接が続いた。面接の合間には、図書館スタッフを前に20分間のプレゼンテーションを行った。プレゼンテーションでは事前に指定されていたテーマの日本研究専攻者向けの図書館教育に関して、学部生と院生それぞれを対象とした場合の指導の違いについて話した。応募から採用通知をもらうまでの時間は4か月であった。
米国労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics)が発行する『職業ハンドブック』(Occupational Outlook Handbook)の2010-11年版の「図書館員」の項には「この先10年で大量退職が見込まれているため、就職機会の見通しは明るい」(26)と書かれている。筆者もライブラリースクール入学時(2007年秋)からベビー・ブーマーの大量退職により図書館員不足が起こるとの噂を其処此処で聞いていた。しかし本稿を執筆する機会を得て、少なくとも現在のところ、図書館員不足は起こっていない事が分かった。図書館員不足の問題はこのまま杞憂に終わるのか、単に延期されているだけなのかを知るには、もう少し時間の経過を待って観察しなくてはならないようだ。
ワシントン大学セントルイス東アジア図書館:田中あずさ(たなか あずさ)
(1) 2010年の統計では米国総人口は3億800万人あまり(308,745,538人)であった。
“Resident Population Data”. 2010 Census.
http://2010.census.gov/2010census/data/apportionment-pop-text.php [504], (accessed 2011-02-08).
(2) Marshall, Joanne Gard et al. Where will they be in the future? Implementing a model for ongoing career tracking of library and information science graduates. Library Trends. 2009, 58(2), p. 301-315.
(3) “ALA Demographic Studies”. American Library Association. 2010-06-04.
http://www.ala.org/ala/research/initiatives/membershipsurveys/ALA_Demographic_Studies_6_1_10.pdf [505], (accessed 2011-02-03).
(4) Wilder, Stanley J. The Age Demographics of Academic Librarians: A Professional Apart. New York, Haworth Information Press, 1999, p. 35.
(5) Lynch, Mary Jo. Reaching 65: Lots of librarians will be there soon. American Libraries. 2002, 33(3), p. 55-56.
(6) Davis, Denise M. “Library Retirements: What we can expect”. American Library Association.
http://www.ala.org/ala/research/librarystaffstats/recruitment/lisgradspositionsandretirements_rev1.pdf [506], (accessed 2011-02-07).
(7) Van Fleet, Connie et al. O librarian, where art thou?. Reference & Services Quarterly. 2002, 41(3), p. 215-217.
(8) Lau, Debra. First Lady unveils $10 million plan to recruit librarians. School Library Journal. 2002, 48(2), p. 20-21.
(9) Greene, Kelly. Baby boomers delay retirement. Wall Street Journal. 2008-09-22, A4.
http://online.wsj.com/article/SB122204345024061453.html [507], (accessed 2010-12-17).
(10) Greene, Kelly et al. Delayed retirements are boon and bane for firms. Wall Street Journal. 2009-07-13, B4.
http://online.wsj.com/article/SB124744102811929845.html [508], (accessed 2010-12-17).
(11) Pew Research Center. “How the Great Recession Has Changed Life in America”. Social & Demographic Trends. 2010-06-30.
http://pewsocialtrends.org/2010/06/30/how-the-great-recession-has-changed-life-in-america/1/ [509], (accessed 2010-12-17).
(12) Neumark, David. The Age Discrimination in Employment Act and the challenge of population aging. Research on Aging. 2009, 31(1), p. 41-68.
(13) Pitchard, Sarah M. Crisis and opportunities. Portal: Libraries and the Academy. 2009, 9(4), p. 437-440.
(14) 東亜図書館協会(CEAL)の統計によると2009年度現在51の東アジア図書館に日本語のコレクションがある。
Council on East Asian Libraries Statistics.
http://www.lib.ku.edu/ceal/php/ [510], (accessed 2011-01-12).
(15) Committee on Institutional Cooperation. “Three CIC Universities say ‘Konnichiwa’ to Japanese Studies Librarian”. CIC eNews. 2010-12-10.
http://info.cic.net/eNews/Article.aspx?List=e2b955aa-f9d6-4598-bb25-be534d3192b8&ID=43 [511], (accessed 2011-01-12).
(16) Library Journal 誌のアンケート調査に参加した公立図書館の43%が2010年度に人材削減をしたと答えた。
Kelley, Michael. Bottoming out: Severe cuts today put big question marks on the future. Library Journal. 2011, 136(1), p. 28-31.
(17) Maatta, Stephanie L. Stagnant salaries, rising unemployment. Library Journal. 2010, 135(17), p. 22-29.
(18) 新卒者が入って初めて就く職務、初級職務。本来は専門学位とインターンなどの僅かな経験のみで就けるはずの職務である。
(19) Reeves, Robert K. et al. Job advertisements for recent graduates: Advising, curriculum, and job-seeking implications. Journal of Education for Library and Information Science. 2010, 51(2), p. 103-119.
(20) 例えば、以下の文献に求人探しに役立つサイトのリストが載っている。
Eberhart, George M. ed. “Guide to library placement sources”. The Whole Library Handbook 4 : Current Data, Professional Advice, and Curiosa about Libraries and Library Services. How Many People Work in Libraries? Chicago, American Library Association, 2006, p. 82-86.
(21) “Employment”. American Library Association.
http://ala.org/ala/educationcareers/employment/index.cfm [512], (accessed 2011-01-17).
(22) “Career Resources: Jobs, Residencies, Other Opportunities”.
http://www.arl.org/resources/careers/index.shtml [513], (accessed 2011-01-17).
(23) “Global Jobs”. The Chronicle of Higher Education.
http://chronicle.com/section/Global-Jobs/434/ [514], (accessed 2011-01-17).
(24) “Eastlib, the Listserv for East Asian Librarians” Council on East Asian Libraries.
http://www.eastasianlib.org/Eastlibinstructions.htm [515], (accessed 2011-02-08).
(25) 履歴書送付状のこと。履歴書とは別に、応募経緯、志望理由、意欲、長所や経験等自分を文章でアピールするもので、履歴書のサポートの役目を果たす。
(26) U.S. Department of Labor, Bureau of Labor Statistics. “Librarians”. Occupational Outlook Handbook. 2010-11 Edition, 2010, p. 270-273.
http://www.bls.gov/oco/ocos068.htm [516], (accessed 2010-11-24).
田中あずさ. 米国の図書館就職事情. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1737, p. 7-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1737 [517]
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デジタル社会の進展により、これまでは紙で出版されていたものが、徐々に電子媒体にシフトしている。また、紙の資料のデジタル化も盛んに行われ、国立国会図書館でも現在、大規模なデジタル化作業が進行中である。
これらのデジタル資料を今後どのように保存し、そして永続的なアクセスをどのように保証するのか、これが大きな問題となっている。そこで、2004年から先駆的な取り組みを行っているニュージーランド国立図書館の「デジタル文化遺産アーカイブプロジェクト」(National Digital Heritage Archive Project;以下、NDHAとする。)を紹介する。
ニュージーランドでは2003年に国立図書館法(National Library of New Zealand Act)が改正され、国立図書館は紙の資料に加えてデジタル資料の収集・保存・提供を行うこととなり、CDやDVD、ウェブサイト等のデジタル資料も法定納本制度の対象となった(1)。そこで国立図書館はデジタル資料を収集して格納し、永続的に提供する仕組みを構築する必要があった。
国立図書館では、2000年から電子情報の保存について調査を開始していた。上記の法改正に伴い、国立図書館は2004年にNDHAを立ち上げ、デジタル資料をアーカイブして永続的に保存し、提供するシステムの構築及び電子情報保存のマネジメント手法の確立を目的としてプロジェクトを開始した。このプロジェクトには2,400万NZドルの予算がつけられ(2)、システムの構築にはNDHAがEx Libris社及びSun Microsystems社と共同で作業に当たった。また、構築するシステムが「文化遺産の保存」という目的に合致したものに仕上がるよう監視するため、デジタルアーカイブに関する経験・知識を有する海外の機関の職員からなるPeer Review Group(3)を組織した。
まずは2008年にデジタル資料の収集及び提供のシステムの基本機能が完成した(Phase1)。2010年には長期保存のためのマネジメント機能を追加し、すべての機能が完成して運用されている(Phase2)。
NDHAの電子情報保存システムは国際標準に準拠することを前提として構築されたため、ISOの標準規格であるOpen Archival Information System(OAIS)の参照モデル(CA1489 [68]参照)に準拠している。以下では電子情報保存システムの持つ機能を簡単に紹介する(4)。
(1)収集
CDやDVD、デジタル画像等の収集については、システムにデータを登録するために“Web Deposit Tool”が開発され、出版社や個人が自ら出版物を電子的に納本できるようになった。ウェブサイトの収集については、“Web Curator Tool”が英国図書館(British Library)と共同で開発された。集められたウェブサイトから、“INDIGO”というツールを用いてPDF等のファイルを抽出し、それらをシステムに保存することも可能である。また、デジタル資料のヘッダー情報等から自動的にメタデータを抽出する“Metadata Extraction Tool”も開発されている。これらのツールを用いてデジタル資料等は収集される。また、これらのツールはオープンソースとして広く公開されている。
(2)保存
収集されたデジタル資料は、基本的に受け入れた時のフォーマットでシステムに格納される(4)。格納と同時に、アクセス用のファイルが自動的に生成される。
また、格納したコンテンツを永続的に保存するために、システムでは各ファイルのフォーマットの陳腐化を検知し、マイグレーションを行うことができる機能を備えている(6)。
(3)提供
(2)で保存された際に生成されるアクセス用ファイルは、国立図書館の代表的な以下のウェブサイトより利用することができる。
①Papers Past(7)
ニュージーランドで1839年から1945年に発行された新聞61紙の100万ページ以上の画像データ及びテキストデータが閲覧できる。
②Timeframes(8)
国立図書館の所蔵する、ニュージーランドの地理や歴史、日常生活等を描写した資料をデジタル化した、約7万件の画像データを閲覧できる。
③Matapihi(9)
ニュージーランド国内の図書館や美術館、文書館等16の機関が所蔵している、図書や絵画、映像等をデジタル化した約24万件の画像データを横断的に検索し、閲覧できる。
ニュージーランド政府は2007年にDigital Strategy 2.0(10)を策定し、国としての情報通信技術の枠組みを示している。国立図書館はその中でも中心的な役割を果たすこととなっており、NDHAによりデジタル情報の収集、保存及び提供を行うことで、この枠組みの中で大きく貢献することになるであろう。
関西館電子図書館課:岡本常将(おかもとつねまさ)
(1) “NDHA Programme”. National Library of New Zealand.
http://www.natlib.govt.nz/about-us/current-initiatives/ndha/past-initiatives/ndha-programme [521], (accessed 2011-01-14).
(2) “Speech to the launch of phase 2 of the National Digital Heritage Archive”. Official Website of the New Zealand Government.
http://www.beehive.govt.nz/speech/speech-launch-phase-2-national-digital-heritage-archive [522], (accessed 2011-01-14).
(3) 英国図書館、コーネル大学図書館、ゲティ研究機構、フィンランド国立図書館、オランダ王立図書館、中国国家図書館、シンガポール国立図書館、グラスゴー大学、イェール大学の9機関であった。
Sun Microsystems. “Sun Microsystems Case Study: Digital Preservation at the National Library of New Zealand”. National Library of New Zealand. 2008-05-30.
http://www.natlib.govt.nz/downloads/Sun-Case-Study-May-2008.pdf [523], (accessed 2011-01-14).
(4) McKinney, Peter et al. Digital preservation in capable hands: Taking control of risk assessment at the National Library of New Zealand. Information Standards Quarterly. 2010, 22(2), p. 41-44.
http://ndha-wiki.natlib.govt.nz/ndha/attach/ReadingResources/IP_DeVorsey_McKinney__Risk_Assessment_isqv22no2.pdf [524], (accessed 2011-01-14).
(5) “Digital Preservation At The National Library”. National Digital Heritage Archive.
http://ndha-wiki.natlib.govt.nz/ndha/pages/DigitalPreservationAtTheNationalLibrary [525], (accessed 2011-01-14).
(6) Ex Libris社と共同で開発したRosettaを採用している。詳細は下記参照のこと。
“A New Way of Preserving Cultural Heritage and Cumulative Knowledge”. Ex Libris.
http://www.exlibrisgroup.com/category/RosettaOverview [526], (accessed 2011-01-14).
(7) Papers Past.
http://www.paperspast.natlib.govt.nz/cgi-bin/paperspast [527], (accessed 2011-01-14).
(8) “Timeframes”. National Library of New Zealand.
http://find.natlib.govt.nz/primo_library/libweb/action/search.do [528], (accessed 2011-01-14).
(9) Matapihi. http://www.matapihi.org.nz/ [529], (accessed 2011-01-14).
(10) “Digital Strategy 2.0”. Ministry of Economic Development.
http://www.med.govt.nz/templates/StandardSummary____43904.aspx [530], (accessed 2011-01-14).
岡本常将. ニュージーランド国立図書館のデジタル文化遺産アーカイブプロジェクト. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1738, p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1738 [531]
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2010年12月10日、トルコ共和国『官報』(T.C. Resmî Gazete)第27781号に、次のような閣議決定が掲載された。
民俗調査官、司書、文書館員、資料保存専門職および社会学専門職の「官職」は、国家公務員法第36条第1項第2号に規定する「技術職」であるものとする(1)
この閣議決定は、トルコの司書職制と図書館員養成の歴史において少なからぬ意味をもつものである。本稿では、この決定を手がかりにトルコの司書職制と図書館情報学教育の現状について紹介する。
トルコでは、図書館情報学の研究教育を行う大学組織は、アーカイブズ学の研究教育を行うものと合わせて「情報・記録管理学科」の名称で統一されており、現在この学科に学生を受け入れている大学はトルコ国内に5つ存在する。この名称に変更されたのは2002年であり、それまでは主に「図書館学科」と呼ばれていた。
図書館情報学教育において最も長い歴史を持つのは、トルコの首都にあるアンカラ大学で、初代国立図書館長ウテュケン(Adnan Ötüken)(2)の協力によって1942年に始められた図書館教室を前身とする。この教室が、1954年に米国のフォード財団からの援助を受けて米国人教員を迎え、歴史言語地理学部図書館学科となった(3)。
次に古いものはイスタンブル大学で、1964年に教員をドイツから招いて文学部に図書館学科を創設した(4)。
第三はアンカラのハジェッテペ大学文学部のもので、1974年から学生を受け入れている。ここは英語教育を重視したカリキュラムを特色に掲げている(5)。
1980年代以降、研究教育の充実とともに3大学の図書館学科は拡大し、アンカラ大学とハジェッテペ大学ではアーカイブズ学専攻、ドキュメンテーション・情報学専攻が増設された(6)。1990年代には、情報化社会に対応して図書館学科の教育目的は図書館に限定されない情報専門職の養成へと発展し(7)、この目的の下で図書館学科は情報・記録管理学科に改組された(8)。2002年以降、3大学の情報・記録管理学科では、学生は専攻の枠を超えて学ぶことができるようになっている。
2008年にはエルズルムにあるアタテュルク大学文学部情報・記録管理学科が学生の受け入れを開始し、図書館情報学教育機関に加わった(9)。このほか、イスタンブルのマルマラ大学文理学部に2002年にアーカイブズ学科から改組された情報・記録管理学科があり、アーカイブズ学を中心とする研究教育が行われている。
トルコでは、大学の情報・記録管理学科で教育を受け、4年の学部課程を修了した者が司書有資格者とみなされる。情報・記録管理学科を修了していない者は、図書館で働いていても司書(kütüphaneci)の職名で呼ばれることはない。
トルコは全国81県894郡に配置された1,135館の公共図書館(10)が文化観光省の地方出先機関で、大学も約3分の2が国立なので、司書の職場のうち多くの割合を政府機関が占める国である。これら政府機関の図書館では、司書の官職に就くことができる者は、情報・記録管理学科の修了者に限られている。
トルコの公務員制度では、新規採用者は、全国の官公庁が参加して毎年数回に分けて実施される採用プログラムで決定される(11)。すべての募集対象官職は、学歴などの申込資格が厳格に定められており、司書の官職は、大学の情報・記録管理学科を修了していないと採用を希望することさえできない仕組みになっている(12)。
民間でも同様で、司書という語は情報・記録管理学科を修了している図書館職員を指し、情報・記録管理学科を修了していない職員との区分が見られる。
これまで見てきたようにトルコでは、大学における情報・記録管理学科修了の資格が司書の人事制度において実効のある前提として機能しているが、図書館関係者の間では、まだ多くの課題があると考えられている(13)。
まず、司書として職を得ることが困難である。トルコの図書館では、従来職員の大部分が一般事務系の官職で占められてきたため、図書館の数に対して司書の求人は少なく、公共図書館の場合、職員のうち司書有資格者の割合は依然として15%に満たない(14)。
また、公務員の採用プログラムでは、事前に実施される公務員選抜試験の獲得点に基づいて採用者が決定されるが、司書志望者に課せられる試験は歴史、地理、政治、経済、外国語などの一般知識を問う内容のみである(15)。そのため、政府機関で司書の官職に就くためには、司書となるために大学で学んだ図書館情報学と全く無関係な試験で厳しい競争を勝ち抜かなければならない。
その上、苦労して司書の仕事を得ることができても、公務員司書の待遇は不十分であると言われている(16)。司書の官職は国家公務員法の規定上「一般行政職」という職群に位置づけられてきたが(17)、この職群は建築学部、工学部、経済学部や考古学科の修了者が採用される建築技官、エンジニア、統計専門官、経済専門官、遺跡調査官などの「技術職」の職群に位置づけられる官職と比べ、給与等の処遇面で劣る。
こうした課題の中でも、トルコの図書館界では、他の専門職養成課程の修了者との処遇格差は深刻視されており、司書に優秀な人材を集める上で支障になると指摘されてきた(18)。
このような背景において2010年に実現したのが、冒頭に紹介した閣議決定である。これにより、司書有資格者である情報・記録管理学科修了者は専門性を評価され、情報・記録管理学科修了者だけが就くことのできる司書の官職は「技術職」へ移行することになった。司書の処遇向上により、情報・記録管理学科に優秀な学生が集まり、司書の人材供給が活性化することが期待される。
トルコには、情報・記録管理学科を修了した司書有資格者の専門職団体として1949年設立のトルコ図書館員協会(Türk Kütüphaneciler Derneği)があり、司書の専門職としての地位向上に向けた活動を行っている(19)。
2010年11月、アンカラを訪問した筆者は、トルコ図書館員協会のカルタル(Ali Fuat Kartal)会長に面会する機会を得た。冒頭で紹介した閣議決定は、訪問時に文化観光省で公布の準備を進めていることをカルタル会長から教えられたもので、この決定で協会として長年取り組んできた課題の一つに一区切りがつくとのことであった。
カルタル会長によれば、問題は司書の人事制度だけではないという。トルコでは公共図書館へ配分される予算が少なく、図書館には古い資料しか所蔵されていないような状況で、国民の図書館に対する期待も乏しく、司書の地位向上の障害となっているそうである。
このように、トルコの司書を取り巻く環境には依然課題が積み残されているが、専門職としての高い自覚をもった司書たちによる、長い努力の過程で少しずつ改善されていくことを期待したい。
関西館アジア情報課:林 瞬介(はやし しゅんすけ)
(1) トルコ語からの抄訳。原文は
T.C. Resmî Gazete. 2010.12.10, sa. 27781.
http://www.resmigazete.gov.tr/main.aspx?home=http://www.resmigazete.gov.tr/eskiler/2010/12/20101210.htm&main=http://www.resmigazete.gov.tr/eskiler/2010/12/20101210.htm [534], (accessed 2011-01-21).
(2) ウテュケンはベルリンで図書館学を学び、帰国後、教育省に入省した。1950年、国立図書館設置法制定に伴い初代館長に任命された。
Ötüken, Adnan. Kütüphaneciliğimiz için.... Ankara, Türk Kütüphaneciler Derneği, 1979, 79p.
(3) Ötüken, Adnan. Türkiyede kütüphanecilik öğretiminin tarihçesi. Türk Kütüphaneciler Derneği Bülteni. 1957, 6(1-2), p. 1-35.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/166/ [535], (accessed 2011-01-21).
Ersoy, Osman. Kütüphanecilik kursları. Dil ve Tarih Coğrafya Fakültesi Dergisi. 1966, 23(1-2), p. 49-59.
http://dergiler.ankara.edu.tr/dergiler/26/1046/12631.pdf [536], (accessed 2011-01-21).
(4) Baysal, Jale. İstanbul Üniversitesi Edebiyat Fakültesi Kütüphanecilik Bölümü’nün yirmi yıllık tarihçesi. Kütüphanecilik Dergisi : Belge Bilgi Kütüphane Araştırmaları. 1987, (1), p. 5-15.
(5) Kum, İlhan. Hacettepe Üniversitesi Sosyal ve İdari Bilimler Fakültesi Kütüphanecilik Bölümünde yürütülen lisans programı. Türk Kütüphaneciler Derneği Bülteni. 1979, 28(4), p. 171-177.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/784/ [537], (accessed 2011-01-21).
(6) イスタンブル大学は図書館学科と別にアーカイブズ学科を置いた。
Rukancı, Fatih. “Ülkemizde arşiv eğitimi ve geleceği”. Bilginin Serüveni : Dünü, Bugünü ve Yarını... : Türk Kütüphaneciler Derneği’nin 50. Yılı Uluslararası Sempozyum Bildirileri. Bayram, Özlem, et al. Ankara, 1999-11-17/21. Ankara, Türk Kütüphaneciler Derneği, 1999, p. 136-143.
(7) Çakın, İrfan. Bilgi profesyonellerinin eğitiminde yeniden yapılanma : Hacettepe Üniversitesi örneği. Türk Kütüphaneciliği. 2000, 14(1), p. 3-17.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/1689 [538], (accessed 2011-01-21).
(8) イスタンブル大学のアーカイブズ学科は学生の受け入れを停止し、情報・記録管理学科に吸収された。
“İstanbul Üniversitesi Edebiyat Fakültesi Bilgi ve Belge Yönetimi Bölümü”. İstanbul Üniversitesi Edebiyat Fakültesi.
http://www.istanbul.edu.tr/edebiyat/bolum_sayfasi/bilgi_belge_yonetimi_bolumu.htm [539], (accessed 2011-01-21).
Haberler. Türk Kütüphaneciliği. 2002, 16(1), p. 102-105.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/1812 [540], (accessed 2011-01-21).
(9) Yılmaz, Malik. Atatürk Üniversitesi Edebiyat Fakültesi Bilgi ve Belge Yönetimi Bölümü : kuruluş aşaması ve bugünkü durumu. Türk Kütüphaneciliği. 2010, 24(1), p. 118-129.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/2186/4236 [541], (accessed 2011-01-21).
(10) 2010年1月時点で文化観光省の地方出先機関であった県公共図書館、郡公共図書館、その他の公共図書館と児童図書館の合計数。
“Kültür ve Turizm Bakanlığı 2010-2014 stratejik planı”. Kültür ve Turizm Bakanlığı Strateji Geliştirme Başkanlığı. 2010-01.
http://sgb.kulturturizm.gov.tr/dosya/1-235086/h/stratejikplan.pdf [542], (accessed 2011-01-21).
(11) “2010 Kamu Personel Seçme Sınavı (KPSS) lisans kılavuzu”. Öğrenci Seçme ve Yerleştirme Merkezi, 2010-05-11.
ftp://dokuman.osym.gov.tr/2010/2010KPSS/2010_KPSS_Lisans_KLVZ.pdf [543], (accessed 2011-01-21).
(12) 例えば、2010年の第1回公務員採用プログラムにおいて、公共図書館20人、大学42人、政府機関4人の司書の官職が募集対象となったが、すべての官職が情報・記録管理学科修了を学歴要件に指定していた。
“KPSS-2010/1 tercih kılavuzu”. Öğrenci Seçme ve Yerleştirme Merkezi.
http://www.osym.gov.tr/belge/1-11919/kpss-20101-tercih-kilavuzu.html [544], (accessed 2011-01-21).
(13) ここで紹介する課題は、筆者が国立国会図書館の在外研究制度により2010年の10月から11月にかけてトルコへ出張した際、現地で面会した司書からの聞き取りによる。
(14) 2009年の文化統計によれば、公共図書館職員3,084人のうち、司書有資格者に当たる図書館学科、情報・記録管理学科等の修了者数は448人である。他学科出身の大卒者も843人おり、司書は大卒者全体の中でも3分の1ほどでしかない。
Türkiye İstatistik Kurumu. Kültür İstatistikler 2009. Ankara, Türkiye İstatistik Kurumu, 2009, 216p.
http://www.turkstat.gov.tr/IcerikGetir.do?istab_id=42 [545], (accessed 2011-01-21).
(15) “2010 Kamu Personel Seçme Sınavı (KPSS) lisans kılavuzu”. Öğrenci Seçme ve Yerleştirme Merkezi. 2010-05-11.
ftp://dokuman.osym.gov.tr/2010/2010KPSS/2010_KPSS_Lisans_KLVZ.pdf [543] , (accessed 2011-01-21).
(16) 最近アンカラの大学図書館と公共図書館で勤務する司書89人に対して行われた職業満足度調査によれば、司書の60パーセント弱が仕事に対して得られる報酬を「非常に不満」または「不満」と認識している。
Yılmaz, Bülent et al. Ankara'daki üniversite ve halk kütüphanelerinde çalışan kütüphanecilerin iş doyumları üzerine bir araştırma. Bilgi Dünyası. 2010, 11(1), p. 49-80.
http://www.unak.org.tr/BilgiDunyasi/gorusler/2010/cilt11/sayi1/49-80.pdf [546], (accessed 2011-01-21).
(17) 大学図書館の司書は、外国語の専門試験で基準以上の点を取得することにより、「教育職」である「専門員」に昇格する道がある。
(18) Bilgi ve belge yönetimi/kütüphanecilik bölümü mezunlarının teknik hizmetler sınıfı kapsamına alınması ile ilgili gerekçe. Türk Kütüphaneciliği. 2009, 23(2), p. 366-372.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/2147/4197 [547], (accessed 2011-01-21).
(19) Kartal, Ali Fuat. TKD : Türkiye’de 60 yıllık bir mücadelenin adı?. Türk Kütüphaneciliği. 2009, 23(4), p. 672-677.
http://tk.kutuphaneci.org.tr/index.php/tk/article/view/2093/4143 [548], (accessed 2011-01-21).
Ref:
林瞬介. トルコの図書館. アジア情報室通報. 2011, 9(1), p. 2-7.
林瞬介. トルコの司書職制と図書館情報学教育. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1739, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1739 [549]
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学術研究成果の多くは論文として出版され公表される。論文は、すでに存在する論文を引用しながら、それが表す知識の体系を位置づける。そのような知識の体系を構成することに、誰が貢献したか、どのような組織が貢献したかがわかるように、内容とともに著者の名前や所属組織名が明記される。助成機関に対して謝辞を加えることも多い。ある研究者がどのくらい知識の体系化に貢献したかを測ってみたいとき、その研究者の論文を並べてみればよい。それがいわゆる業績リストである。著者本人の申告だけでなく、より客観性を帯びた形でリスト化されればより正確な評価が可能となるであろう。今では、論文や業績リストがWeb上に公開されるようになり、瞬時にそのような情報を得ることが可能となった。出版者の論文検索システム、機関リポジトリ、出版者や機関の研究者ディレクトリなどから直接、または大手の検索サービスを介して取得可能である。
このとき、名前の表記だけで論文などの研究成果を分類すると困ったことが起きる。ある論文に書いてある著者名と別の論文に書いてある著者名は同じ表記であるが、同姓同名の別の人物かもしれないということである。これが英語論文に明記されるローマ字による表記となれば、漢字に比べて同姓同名の割合はもっと増える。また、表記が異なるが同一人物であることもある。論文に明記される名前は、結婚などを機に姓を変え、別の理由で名まで変化することがある。論文の指定する表記方法の違いから、名前の表記揺れもある。
客観性があり正確な業績リストを作成するためには、このような名前の問題を解決して、研究者ごとに研究成果をリスト化する必要がある(1) (2) (3)。名前の問題を解決して同一性を判断することを「名寄せ」(Name Disambiguation)という。
本稿で取り上げるORCID(Open Researcher and Contributor ID)は、学術情報流通の世界を対象として様々なステークホルダーが集まってこのような名寄せの問題に取り組む国際的な組織である。IDとは識別子のことであり、ORCIDでは研究者だけでなく貢献者(4)に付与される。筆者はORCIDのテクニカルワーキンググループのメンバーであり、名寄せのためのシステム構築の議論に参加してきた。以降では、先ずORCIDができるまでの名寄せの取り組みについて概観する。続けて、ORCIDについて、組織や掲げられた原則、IDシステム、外部識別子との関係、パートナーシステムとの関係について述べる。そして、その他関連する識別子を紹介し、最後にまとめを行う。
図書館の目録のように閉じたデータベースの中では、名前の問題に対処するために、著者ごとに英数字記号の識別子を付与して区別する著者名典拠を構成してきた。国立国会図書館が提供する全国書誌であるJAPAN/MARCの2008年7月5日付けの典拠ファイルを解析したところ、著者名として個人名681,924件のレコードが登録されており、そのうち漢字圏の東洋人を抜粋すると572,638件が登録されていた(5)。漢字の姓名部分を文字列比較してみたところ73,138件のレコードに同一の表記を持つ別のレコードの存在が認められた。ざっと1割を超えている。
学術論文のデータベースにおいては、主に二つのアプローチがとられてきた。計算機による方法と人手による方法である。計算機を用いた方法では、論文書誌集合に対し機械学習をベースとしたクラスタリングの技術を用いて著者ごとに分類する。ある論文書誌に明記された著者と別の論文書誌に明記された著者が同一著者であることを様々な素性を対象として確率的に判定していく。素性とは書誌に記述された姓名表記や所属、共著関係、分野、キーワードなどで与えられる。商業出版者のデータベースはこの種の方法で、独自のアルゴリズムを開発して自らのサービスに実装している。たとえば、トムソン・ロイター社の文献データベースWeb of ScienceにはDistinct Author Identification System(6)が実装され、エルゼビア社の文献データベースScopusにはScopus Author Identifiers(7)が実装されている。しかしながら、実用レベルに必要だといわれている100パーセントに近い精度には達していない。もう一つの方法の人手による方法では、研究者自身がIDを登録し、自らの業績リストを構築していく。たとえば、2008年1月にスタートしたトムソン・ロイター社の研究者ディレクトリResearcherID(8)がある。商業出版者のサービスとタイアップした、研究者自らが自身をID登録するサービスは、既存の研究者ディレクトリにはなく画期的である。しかしながら、名寄せをするのに十分なほどの登録数は得られていない。
同様に主要な学術出版者を横断的に網羅したサービスとして、非営利組織である出版者国際リンキング連盟(Publishers International Linking Association, Inc. : PILA)の運営するCrossRef(9)(CA1521 [553]参照)がある。CrossRefは、論文などの学術コンテンツにIDを付与して、IDとWeb上のURLとを結びつける仕組みを提供してきたが、同様な方法で学術コンテンツの作者にIDを付与する方法を考案するため、Contributor IDプロジェクト(10)を進めていた。
このような背景の中で、2009年11月9日、研究者の識別子に関心のあるいくつかの主要なステークホルダーが集まって、名前識別子サミット(The Name Identifier Summit)が開かれた(11)。チェアは、トムソン・ロイター社のコチャルコ(David Kochalko)とネイチャー出版グループのラトナー(Howard Ratner)であった。これが本稿で紹介するORCID発足のための最初の会議である。
ORCIDの設立趣旨は公式ホームページ上に掲げられている(12)。原文を翻訳すると以下の通りである。
「ORCIDは、学術コミュニケーションにおける著者/貢献者の名前の曖昧性の問題を解決することを目的とし、個々の研究者に対する固有の識別子の中央レジストリと、ORCIDと現存する他の著者IDスキームとの間のオープンで透過的なリンクメカニズムを構築することによって実現する。これらの識別子及び識別子間の関係は研究者のアウトプットにリンクすることが可能であり、科学的発見プロセスを拡大させ、研究コミュニティにおける研究助成や協働の効率性を改善する。」
ORCIDは正式な組織となる前から活動を開始し、2010年8月に米国デラウェア州の非営利組織となり、そのことが同年9月7日にプレスリリースされた(13)。組織発足時のボードは、出版者、学会、財団、大学、研究所など多種多様な組織からのメンバーで構成されている。国立情報学研究所もその一組織である。
その後、10月8日にボードメンバー内の選挙によって(14)、ネイチャー出版グループのラトナーがボードの代表に、トムソン・ロイター社のコチャルコが会計、ハーバード大学のブランド(Amy Brand)が秘書に選出された。そのほか、ウェルカム財団のアレン(Liz Allen)、ACMのラウス(Bernard Rous)、ワイリー・ブラックウェル社のバン・ディック(Craig Van Dyck)の3名がエグゼクティブコミッティに選出された。
ORCIDへの参加は組織単位となっている。2010年11月16日のCrossRefの会議での公表スライドによると(15)、144の参加組織があり、組織の形態で分類すると学術機関47、出版者28、企業19、学会15、政府11、NPO 17、その他7という内訳になっている。学術研究に関係する様々なステークホルダーで構成されているが、大学と出版者が多い。
また、地理的には、米国70、英国30、ドイツ8、オーストラリア6、日本3、イタリア3、インド3、スペイン2、中国2、カナダ2で、1組織の参加の国は、トルコ、スイス、スウェーデン、韓国、シンガポール、セルビア、オランダ、イスラエル、ギリシャ、フランス、エジプト、コロンビア、ブラジル、ベルギー、オーストリアとなっている。米国と英国が圧倒的多数であり、アジアからの参加は少数である。
ORCIDの運営指針となる原則(Principles)がビジネスワーキンググループによって議論され、2010年10月に公開、12月8日に公式ホームページに掲載された(16)。原則は10項目からなっており、これに基づいてビジネスモデルやシステムの機能が決定される。
原則では、まず、ORCIDが著者と貢献者を信頼して特定できるようにすることによって、学術コミュニケーションにおける、固定の、明確な、曖昧でないレコードの作成を支援することを宣言し、学術分野、地理、国籍、機関の境界を超えた、オープンで透明性のある組織であることを明示している。
そして、研究者はORCIDのサービスを介して自由にIDとプロファイルを登録することが可能であり、その際プライバシーには十分に配慮することとしている。研究者のプロファイルデータは、プライバシー設定後、クリエイティブコモンズがCC0と定義する権利放棄(17)の形で公開される。研究者のデータに対する権利について議論を積み重ねた結果、ORCIDから公開するデータについて権利放棄を明示することになった経緯は強調しておきたい。
また、ORCIDの開発したソフトウェアはオープンソースイニシアチブのオープンソース(18)として公にリリースされることとした。オープンソースとして公開することを決めたことは、ボランティアベースによる開発コミュニティを構成することでソフトウェア開発コストを削減したい思いがある。
ORCIDのビジネスモデルは、組織が非営利でありながらも持続可能であるための必要最低限の収入を得ることを目的としている。そのためのシステムのAPIは有料と無料の双方によって構成されることを明示している。
最後に、組織内部の構成が非営利であり、活動内容について最大限に透明性を確保することを謳っている。
ORCIDのコアシステムとなるIDシステムに関する議論は、2010年2月から9月ごろまでの間、テクニカルワーキンググループによって行われた。どのようなシステムであるべきか、システム要求が議論され、アルファ版のプロトタイプが構築された(19)。その後、2011年の1月にはプロダクションシステムのベータ版構築に向けて議論が進んでいる。
IDシステムにおいて、アイデンティティとして扱う基本的な情報は、
の2種類である。「著者/貢献者自身の記述」は名前や所属などを含み、研究者のプロファイルである。「著者/貢献者とその出版物間の関係の記述」とは、研究の業績とする論文や記事、書籍、データなどを含むリストであり、出版物申告(Publication Claims)と呼ぶ。これらがORCIDのIDと紐づけられることになる。
プロファイルと出版物申告の登録は、著者/貢献者と組織の双方が行うハイブリッド型による方式が提案されている。著者/貢献者自身によるだけでは情報が集まりにくいので、組織がまとめて情報を登録することによって呼び水とするわけである。
システム要求の議論は、CrossRefがこれまでContributor IDとして議論してきた内容を拡張している。ここでは、エンドユーザー、パートナーシステム、コアシステムの3つの主体が登場する。エンドユーザーは、著者、貢献者、部門管理者、その他の様々な人である。パートナーシステムは、出版者の原稿追跡システム(Manuscript Tracking System)や研究者ディレクトリ、論文検索システムなど関連するシステムである。コアシステムは、ORCIDのIDシステムそのものである。エンドユーザーは、コアシステムに対して、プロファイルや出版物申告を登録して作成し、編集、更新する。大学や研究機関、出版者などの組織は、パートナーシステムからコアシステムに対し、プロファイルや出版物申告をまとめて登録する。コアシステムでは、複数のプロファイルを集めて、マッチングや重複解消をして著者/貢献者の主プロファイルを自動で作成したり、著者/貢献者自らが手動で名寄せするのを支援したりする。そのほか、システムと人、システム間のやり取りを示す個々のユースケースがテクニカルワーキンググループで議論され想定される技術が列挙されたが、ここでは紙面の関係で触れないことにする。
IDシステムに利用するORCID IDの表現方法は様々に議論された(20)。プライバシーの問題や外部識別子との連携が念頭に置かれて要求が整理された。その結果、IDの要件は以下の通りである(21)。
ここに互換性が取り上げられたISNI(22)は、現在ドラフト段階のISO規格27729であり、メディアコンテンツ産業に従事する団体に使われることを想定された、ORCIDより対象が広い範囲のクリエータ識別子の規格である。ISNIのIDは16ケタの数字で、最後はチェックサムとなっている。ISNIのIDは、商用のIDシステムの上に展開されるオープンレイヤーとして、IDシステム同士が必要最低限の情報を交換してID間の対応を付けるブリッジ識別子(Bridge Identifier)として機能する。その結果、ISNIは外部のIDとマッチングの結果を保持するので、例えば、ORCIDやバーチャル国際典拠ファイルVIAF(23)(CA1521 [553]参照)とも識別子同士の対応をつけることができる。ORCIDのテクニカルワーキンググループの議論では、IDをISNIと同一にするという提案がある一方で、まったく同じだと区別がつかなくなることを懸念し、いっそのことORCIDがVIAFとIDマッピングをするだけにとどめ、ISNIとはVIAFを通してゆるく連携する可能性もあわせて提案されている。
ORCIDのIDシステムは、様々なパートナーシステムと連携する。連携の在り方は様々なシナリオとして考えられているが、最も重要なものはパートナーシステムとORCIDのIDシステムがプロファイル交換を行うことである。研究者のIDやプロファイルを独自に保持して、すでに利用されている、たとえば次のようなシステムと連携する。トムソン・ロイター社のResearcherID、エルゼビア社のScopus、国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて開発し全米で利用される予定の研究者ディレクトリVIVO(24)、高エネルギー分野の論文を対象とした論文検索システムINSPIRE(25)、経済学分野の論文を対象とした論文検索システムRePEc(26)、ProQuest社の研究者ディレクトリAuthor Resolver(27)、NIHの運営する医学生物系論文検索システムPubMed(28)である。このようにすでに権威があり、利用頻度が高くユーザー数の多い既存のシステムと連携することは、より信頼性高くすべての研究者を網羅することを可能とする。
研究者の識別子という観点からすると、ORCID以外にも取り上げるべき活動は多く存在する。たとえば、オランダのSURF財団の行ったDAI(Digital Author Identifier)(29)はオランダの研究者に研究者番号を割り振っている。数物系のプレプリントサーバーArXivもAuthor Identifiers(30)をオプトインの方式で導入している。英国の情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee:JISC)の助成を受けたNames Project(31)は、機関リポジトリの典拠を目指して、研究者のIDを英国図書館のZETOC書誌から研究者をクラスタリングして自動でIDを構築している。国立情報学研究所では、機関リポジトリの典拠となることを目的の一つとした、研究者リゾルバー(32)を構築している。これは科学研究費補助金データベースKAKEN(33)をベースにして研究者にIDを付与している。
これらの研究者識別子に関するシステムもORCIDのパートナーシステムとなることが可能であり、IDの登録とプロファイル交換の可能性がある。さらに、Web上に公開され利用されることを前提としていることから、今後はこれらの識別子同士がLinked Dataの技術をベースに互いに同一人物を関係付けることによって連携することも予想される。
本稿では、学術に対する貢献度を正確に明示するためには論文などの研究成果の著者や貢献者を識別することが重要であることを示し、その歴史的展開からORCIDの活動へつながっていったことを述べた。そして、ORCIDの組織について、ORCIDの活動で議論されていることの概要を述べた。あわせて、別の研究者識別子を取り上げ、関係性にも触れた。
ORCIDはプロダクションシステムのリリースに向けて活動中である。まだ検討すべき事項は多く残っており、アクティブなメンバーによって議論が積み上げられている。組織として持続可能なビジネスの在り方やシステムの使われ方を議論し、研究者や貢献者へのプロモーションを行っている。ORCIDは活動に賛同するメンバー組織を募集中であり、メンバーが積極的にワーキンググループに参加することが望まれている。
国立情報学研究所:蔵川 圭(くらかわ けい)
(1) Enserink, Martin. Are you ready to become a number?. Science. 2009, 323(5922), p. 1662-1664.
(2) Credit where credit is due. Nature. 2009, 462(7275), p. 852.
(3) Hellman, Eric. “Authors are Not People: ORCID and the Challenges of Name Disambiguation”. Go To Hellman. 2010-05-04.
http://go-to-hellman.blogspot.com/2010/05/authors-are-not-people-orcid-and.html [554], (accessed 2011-01-14).
(4) “Contributor”の訳語として、ここでは「貢献者」とした。ダブリンコアにおける同一表記の要素の訳語として「寄与者」が使われることがあるが、意味としては同じである。
(5) 蔵川圭ほか. “研究者リゾルバーαの同姓同名推定モデルと実データによる分析”. 2009年度新領域融合プロジェクト研究による研究会「大規模データ・リンケージ,データマイニングと統計手法」. 2009-10-08/09, 国立情報学研究所. 2009, p. 65-74.
(6) “Distinct Author Identification System”. Thomson Reuters.
http://science.thomsonreuters.com/support/faq/wok3new/dais/ [555], (accessed 2011-01-14).
(7) “Author Identifier”. Sciverse.
http://www.info.sciverse.com/scopus/scopus-in-detail/tools/authoridentifier/ [556], (accessed 2011-01-14).
(8) ResearcherID.com.
http://www.researcherid.com/ [557], (accessed 2011-01-14).
(9) crossref.org.
http://www.crossref.org/ [558], (accessed 2011-01-14).
(10) Fenner, Martin. “Interview with Geoffrey Bilder”. Nature.com Blogs. 2009-02-17.
http://blogs.nature.com/mfenner/2009/02/17/interview-with-geoffrey-bilder [559], (accessed 2011-01-14).
(11) “Research Stakeholders Announce Collaboration among Broad Cross-Section of Community to Resolve Name Ambiguity in Scholarly Research”. ORCID. 2009-12-01.
http://www.orcid.org/sites/default/files/ORCID_Announcement.pdf [560], (accessed 2011-01-14).
(12) “Mission Statement”. ORCID.
http://www.orcid.org/mission-statement [561], (accessed 2011-01-14).
(13) “Organization Launched to Solve the Name Ambiguity Problem in Scholarly Research”. ORCID. 2010-09-07.
http://www.orcid.org/sites/default/files/ORCIDInc-Press.pdf [562], (accessed 2011-01-14).
(14) “ORCID Board Meeting October 8, 2010”. ORCID.
http://orcid.org/sites/default/files/ORCIDBoardOct10_0.pdf [563], (accessed 2011-01-14).
(15) Ratner, Howard. “ORCID Update, CrossRef Members meeting 16 November 2010”.
http://www.slideshare.net/CrossRef/orcid-update-2010-annual-meeting [564], (accessed 2011-01-14).
(16) “ORCID Principles”. ORCID.
http://www.orcid.org/principles [565], (accessed 2011-01-14).
(17) “CC0 1.0 Universal (CC0 1.0) Public Domain Dedication”. Creative Commons.
http://creativecommons.org/publicdomain/zero/1.0/ [566], (accessed 2011-01-14).
(18) “Open Source Definition (Annotated), Version 1.9”. Open Source Initiative.
http://www.opensource.org/osd.html [567], (accessed 2011-01-14).
(19) 2010年11月11日にワーキンググループメンバーにメールで配布された報告資料による。
(20) ワーキンググループの報告資料による。
(21) 2010年11月11日にワーキンググループメンバーにメールで配布された報告資料による。
(22) International Standard Name Identifier.
http://www.isni.org/ [568], (accessed 2011-01-14).
(23) VIAF, Virtual International Authority File.
http://viaf.org/ [569], (accessed 2011-01-14).
(24) VIVO. http://www.vivoweb.org/ [570], (accessed 2011-01-14).
(25) INSPIRE, beta. http://inspirebeta.net/ [571], (accessed 2011-01-14).
(26) RePEc. http://repec.org/ [572], (accessed 2011-01-14).
(27) “Author Resolver”. RefWorks-COS.
http://www.refworks-cos.com/authorresolver/ [573], (accessed 2011-01-14).
(28) “PubMed”. National Center for Biotechnology Information.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed [574], (accessed 2011-01-14).
(29) “Digital Author Identifier (DAI)”. SURF Foundation.
http://www.surffoundation.nl/en/themas/openonderzoek/infrastructuur/Pages/digitalauthoridentifierdai.aspx [575], (accessed 2011-01-14).
(30) “Author Identifiers”. ArXiv.org.
http://arxiv.org/help/author_identifiers [576], (accessed 2011-01-14).
(31) “Names Project”. Mimas.
http://names.mimas.ac.uk/ [577], (accessed 2011-01-14).
(32) “研究者リゾルバー”. 国立情報学研究所.
http://rns.nii.ac.jp/ [578], (参照 2011-01-14).
(33) “科学研究費補助金データベースKAKEN”. 国立情報学研究所.
http://kaken.nii.ac.jp/ [579], (参照 2011-01-14).
蔵川圭. 著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1740, p. 15-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1740 [580]
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14世紀英国の物語詩『農夫ピアズの夢』(“Piers Plowman”)には3つの稿と十指にあまる写本がある。各バージョンを合わせると60以上の基礎資料が存在し、手稿のページ数は1万にのぼる(1)。
手稿や異稿の研究は人文学に欠かせないが、原資料に直接アクセスしたり、各地に分散する異稿を調べて回ったりするのは容易ではない。そこでこうした資料を整理し、注釈や関連情報とともに提供する学術版、批判校訂版、あるいはファクシミリ版(たとえば「『農夫ピアズの夢』コンコーダンス」や手稿B.15.17ケンブリッジ版)が重要な役割を果たすことになる。
しかし印刷物では、物理的、経済的な制約から盛り込める情報が限定され、検索や相互参照などの活用に限界がある。そこで学術資料をデジタル化する試みが重ねられ、さらにインターネットの発達とともに、「『農夫ピアズの夢』電子アーカイブ」(2)のようなデジタル化されたアーカイブに発展し、資料へのアクセス性が飛躍的に向上してきた(電子アーカイブはデジタル・アーカイブとも呼ばれる。これらの場合のアーカイブは、資料の集成だけでなく、一般に学術版としての研究成果も盛り込んだサイトの意味で使われる(3))。
資料のデジタル化は、膨大な資料へのアクセス性を改善するばかりではない。マッギャン(Jerome McGan)は、紙ベースのテキストを電子形態に変換すると原資料の見方が大きく変わることを指摘し、それは「自然現象研究に対する数学的アプローチが理論的視点のレベルを高度化するのと同じように、電子ツールが批判的抽象度のレベルを引き上げる」からだと述べている(4)。
研究ツールとしてデジタルテキストを利用するためには、手稿や印刷物などの形の原資料から文字を転写し、さらにそのテキストがどのような構造になっているか(ページ構成、章節構造など)を何らかの方法で明示しなければならない。またアーカイブされた資料を検索利用し、共有するためには、メタデータを適切に付与することも重要である。
テキストのデジタル化に関しては、転写の方法、文字コードなど、問題となる点は多々あるが、ここではテキストの構造を示すためのマーク付けとメタデータの表現が、主要な電子アーカイブでどのように行なわれてきたか、その現状と展望を概観する。
「ペルセウス電子図書館」(Perseus Digital Library) (5)は、米国タフツ大学で進められてきた、電子アーカイブの中でも最も古い歴史を持つプロジェクトのひとつである。当初はCD-ROMとしてギリシャ古典文学のアーカイブが出版されたが、1995年には早くもウェブ版が提供され、扱う範囲もルネサンス、19世紀米国などへと拡大してきている。
テキストのマーク付けには、TEI規格(6)が採用された。TEIは、文学テキストから古文書や碑文まで、多様なテキストの構造とメタデータを記述するための国際標準で、章、段落、韻文の行といった文書構造だけでなく、文中に出現するキーワードを示すための要素も提供している。たとえば日付なら<date>、地名なら<placeName>で次のようにマーク付けできる。
<date value="-61" authname="-61">61</date> B.C.
<placeName key="tgn,7009327"
authname="tgn,7009327">Marne</placeName>
こうして「61」という数字は「紀元前61年」を意味すること、「Marne」は地名であることが示され、さらに<placeName>の属性に地名シソーラスTGNのコードを加えることで「Marne」はドイツや米国ではなくフランス東部の地名であることが明示される。
ウェブ用には、TEIのXMLを一定の規則でHTMLに変換しており、通常のブラウザでそのまま閲覧できる。年代や地名としてマーク付けされた箇所はハイパーリンクで示され、コレクション内の資料で同じ地名や年代が出現する箇所を一覧表示するようになっている。
「ロセッティ・アーカイブ」(Rosseti Archive) (7)は、19世紀イギリスの画家・詩人であるダンテ・ガブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti)の全作品をデジタル化して収録する、米国バージニア大学人文科学高度技術研究所(IATH)のプロジェクトである。
ここでは絵画などの物理構造を中心にした記述や、文書構造と物理構造を混合した記述が必要になる。しかしプロジェクトが開始された1990年代前半においては、TEIは文書構造の記述が中心で、この目的に適さないと考えられた。そこでこのアーカイブでは、抽象的な「作品」を示すRAW(Rossetti Archive Work)、テキスト文書を表すRAD(同Document)、絵画を表すRAP(同Picture)、さらにジャンルを表すRAC(同Commentary)という4つの文書型(文書構造記述のスキーマ)を独自に定義した(8)。
現在これらはRAM(Rossetti Archive Master)という新しい文書型に統合され、各ファイルは<ram>要素内に<ramheader>およびファイルの種類(RAW、RAD、RAP)ごとの要素を持つようになっている(9)。たとえば有名な複合作品「召された乙女」(“The Blessed Damozel”)のRAWの場合、画面表示用説明を含むさまざまな情報が<ramheader>に収められ、並行して推奨テキストのRADを示す<readingtext>、代表的な画像のRAPを示す<viewingimage>、「作品」を構成する個別のRAD、RAPを列挙する<wclist>を持つという形になる。
<ram>
|-- <ramheader>
|-- <readingtext>
|-- <viewingimage>
|-- <wclist>
その後TEIは改定を重ね、デジタル化プロジェクトでの利用を念頭に置いた推奨記述法を公開するようになっており(10)、IATHの研究者たちもTEIを採用するほうが良かったかも知れないと述懐している(11)。マーク付けに標準仕様を用いるか固有の問題に最適化したものを開発するかは難しい選択だが、互いの情報を交換・共有するためには、特に目録あるいはメタデータに関してだけでも、共通の形で記述することが重要になるだろう。
TEIをはじめ各アーカイブの文書型は、一般にヘッダという形で記述対象のメタデータを保持できる。ただTEIの<teiHeader>にせよロセッティにおけるRAMの<ramheader>にせよ、多様な情報を柔軟に扱うことができる一方、複雑すぎて共有のためのメタデータとしては利用しにくい。実際、ペルセウス電子図書館も公開用XMLでは<teiHeader>を省いてしまい、内部的に保持したメタデータをダブリン・コア(DC)としてOAI-PMHで提供したり、MODSで表現したりする試みが行なわれている(12) (13)。
ロセッティ・アーカイブが参加するNINES(19世紀電子学術研究のためのネットワーク化基盤)は、各プロジェクトの資料検索を円滑に行なうために、RDF(Resource Description Framework)によるメタデータ記述を進めている。このメタデータは、DC、MARC21のCode List for Relators、およびNINESが提供するツールCollexで用いる語彙で構成される(14)。
ロセッティ・アーカイブの「召された乙女」のRDFメタデータを見ると、同作品のRAWファイルから<ramheader>の主要情報、<readingtext>、<viewingimage>に対応するテキストおよび画像ファイル、さらに<wclist>に列挙される各アイテムが取り出され、作品を表すURIを主語にフラットに並ぶというシンプルな構造になっている。アーカイブごとに異なる構造を捨象して扱いを容易にするとともに、基本部分についてダブリン・コアを採用したことで、NINESに限らず広い範囲でのデータ交換、共有が可能になったといえる。
Europeana(15)は、欧州各国の図書館、博物館等が保有する文化遺産を横断的に検索できるようにするプロジェクトである。1,000万を越す膨大な資源のメタデータを標準形式で集約し、さまざまな切り口での検索・表示を提供する「電子図書館ポータルサイト」として、個々の作品の研究成果を自ら提供する電子学術アーカイブとはまた異なる方法で、高度な資料アクセス性を実現している。
オランダのアムステルダム自由大学において、このEuropeanaのセマンティック検索エンジン(16)が試験運用されている。ここでは例えばキーワード“Bonn”に対して、それは地名なのか人名なのか「ボンの征服」というテーマを扱ったものかといった選択肢が示され、地名としてのボンを選べばそのTGNコードに基づくURIを用いて検索が行なわれる。検索結果は、ボンを描いた作品、ボンで生まれた作家による作品など、ボンとどのような関わりがあるかによって細かく分類して表示される。
こうした検索が可能になるのは、作品のメタデータがRDFによって記述され、さらに作者についてもbirthDate、birthPlaceといったプロパティでメタデータが用意されているからだ。これらのプロパティ値はURIで表現されており、検索を確実にするだけでなく、URIをたどってRDFデータがつながる「リンクするデータ」(Linked Data)も目指されている(17)。
電子学術アーカイブは、まず単純なHTMLによる試験的サイトが公開され、第2段階でXMLによる記述に移行しているケースが多い。HTMLでは細かなマーク付けやそれを利用した高度な検索が難しいこと、XMLであれば柔軟な情報表現が可能な上に、表示用ページもXSLT(元のXML文書を別のXHTMLなどに変換する技術)などのツールで体系的に生成できるといった理由による(18)。しかし、多くのプロジェクトが独自のXMLとそのマーク付けを前提にしたツールを開発した結果、アーカイブ間の相互運用性は低くなってしまった(19)。
一方で、HTMLの属性を用いて文書内のデータを構造的に示すRDFa規格(20)がW3Cから2008年に勧告され、HTMLでも詳細な情報記述が可能になってきた。ペルセウス電子図書館での例に挙げたTEIの地名マーク付けをRDFaによるHTMLの属性で表現するならば、次のような記述ができるだろう。
<span rel="tei:placeName">
<a href="?tgn:7009327"
property="rdfs:label">Marne</a>
</span>
RDFaでマーク付けしたHTMLからは、RDFの内容をプログラムで抽出できるので、メタデータファイルを別途用意する必要もない。Europeanaの検索結果詳細ページには、RDFaを用いてダブリン・コアによるメタデータが埋め込まれ、ウェブブラウザ向けの情報とRDF処理ツール向けの情報が一元的に提供されている。
シリングスバーグ(Peter L. Shillingsburg)は、電子学術アーカイブにおけるコラボレーション、あるいは利用者による拡張の必要性を強調している(21)。そのひとつの要素が、アーカイブの資料に利用者がコメントや注釈を加える機能だ。ユーザ注釈が可能なアーカイブはあるが、多くの場合独自のツールを用いているため、サイトを横断したコラボレーションは実現できない。
アーカイブの資料ページを直接編集することなく、利用者が自由に注釈を加える手段としては、W3Cのアノテア・プロジェクト(Annotea Project)(22)での試みが挙げられる。これはウェブ文書の特定箇所をURIとXPointer(XML文書内の部分を示す手段)を用いて識別し、その部分に関する注釈、注釈者、日時などをRDFで表現して注釈サーバに保存していくというものだ。シンプルなオープン仕様なので、特定のツールに依存せず誰でもサービスを実装できる。W3Cのサイトでテストサーバーが提供されており、クライアント用ツールとしてもFirefoxアドオンやJavaによるブラウザなどが公開されている。
残念ながら、2011年1月現在プロジェクトはあまり活発ではないが、それぞれのアーカイブが資料を分散公開しつつ利用者注釈などのコラボレーションを実現するための標準フォーマット候補として、注目しておきたい。
HTMLは単純な文書構造しか想定していないが、人文学研究においては韻文、戯曲などの記述も必要になる。日本国内では縦書き、ルビの表現も大きな問題だ。
次期のHTML5(23)では(XHTMLと同様に)名前空間を用いて他の語彙を組み入れることができる。基本マーク付け(ホスト言語)にはHTMLを用い、韻文にはTEIの<tei:lg>、<tei:l>を使うといった組み合わせにより、利用しやすさと精緻な記述の両立が可能だ。
縦書き、ルビ表示は、これまでもできないわけではなかったが、実装が不揃いで利用しにくい状況だった。2011年1月現在、電子書籍での日本語表示に関する仕様策定が進むのと並行して、CSS3での縦書き正式採用に向けた準備が活発に行なわれている(24)。またHTML5では仕様本体にルビ表示機能が取り込まれる予定で、主要ブラウザで縦書き、ルビ表示共に標準的に可能になる日も近い。
文学作品の優れた学術版が作られていても、使い勝手の悪さから、専門家ですらペーパーバックのような普及版に基づいて研究を進めてしまう場合があるとシリングスバーグは指摘する。HTMLを基本にした電子アーカイブは、通常のブラウザや汎用ツールで検索やデータ抽出、再利用ができ、利用者にとっての利便性は高い。また専用の文書型やツールを開発する必要がなく、アーカイブ作成・公開のためのコスト、時間も大きく低下させることができるだろう。標準化と固有性の間で難しい選択を続けてきた電子アーカイブにとって、HTMLによるマーク付けを改めて考え直してみる機会が到来している。
kanzaki.com:神崎正英(かんざきまさひで)
(1) Fenton, Eileen Gifford et al. “Effective methods of producing machine-readable text from manuscript and print sources”. Electronic Textual Editing. Burnard, Lou et al., eds. New York, Modern Language Association of America, 2006, p. 241-253.
(2) Piers Plowman Electronic Archive.
http://www3.iath.virginia.edu/seenet/piers/ [584], (accessed 2011-01-14).
(3) Price, Kenneth M. “Electronic scholarly editions”. A Companion to Digital Literary Studies. Schreibman, Susan et al., eds. Malden, MA, USA, Blackwell Publishing, 2007, p. 434-450.
http://www.digitalhumanities.org/companion/view?docId=blackwell/9781405148641/9781405148641.xml [585], (accessed 2011-01-14).
(4) McGann, Jerome. “Imagining what you don't know: The theoretical goals of the Rossetti Archive”. Institute for Advanced Technology in the Humanities. 2010-07-14.
http://www2.iath.virginia.edu/jjm2f/old/chum.html [586], (accessed 2011-01-14).
(5) Perseus Digital Library.
http://www.perseus.tufts.edu/hopper/ [587], (accessed 2011-01-14).
(6) Burnard, Lou et al., eds. “TEI P5: Guidelines for electronic text encoding and interchange”. TEI Consortium. 2010-11-05.
http://www.tei-c.org/release/doc/tei-p5-doc/html/ [588], (accessed 2011-01-14).
(7) Rossetti Archive. http://www.rossettiarchive.org/ [589], (accessed 2011-01-14).
(8) Pitti, Daniel et al. “After the Fall: Structured Data at IATH”. Institute for Advanced Technology in the Humanities.
http://www.iath.virginia.edu/~jmu2m/ach98.html [590], (accessed 2011-01-14).
(9) Rossetti Archive Master.
http://www.rossettiarchive.org/ram.xsd [591], (accessed 2011-01-14).
(10) “Best Practices for TEI in Libraries”. Text Encoding Initiative.
http://purl.oclc.org/NET/teiinlibraries [592], (accessed 2011-01-14).
(11) Pitti, Daniel et al. “After the Fall: Structured Data at IATH”. Institute for Advanced Technology in the Humanities.
http://www.iath.virginia.edu/~jmu2m/ach98.html [590], (accessed 2011-01-14).
(12) Smith, David A. et al. “Integrating harvesting into digital library content”. Proceedings of the Second ACM/IEEE-CS Joint Conference on Digital Libraries. Portland, OR, USA, 2002-07-14/18. New York, ACM Press, 2002, p. 183-184.
http://hdl.handle.net/10427/57022 [593], (accessed 2011-01-14).
(13) Babeu, Alison. “Building a “FRBR-Inspired” Catalog: The Perseus Digital Library Experience”. Persues Digital Library. 2008-01-31.
http://www.perseus.tufts.edu/publications/PerseusFRBRExperiment.pdf [594], (accessed 2011-01-14).
(14) “RDF samples”. NINESWiki.
http://www.performantsoftware.com/nines_wiki/index.php/RDF_samples [595], (accessed 2011-01-14).
(15) Europeana. http://europeana.eu/portal/ [596], (accessed 2011-01-14).
(16) A research prototype of Europeana's semantic search engine.
http://eculture.cs.vu.nl/europeana/session/search [360], (accessed 2011-01-14).
(17) Zeinstra, Maarten et al. “Open linked data and Europeana”. Europeana. 2010-11-22.
https://version1.europeana.eu/c/document_library/get_file?uuid=374c381f-a48b-4cf0-bbde-172cf03672a2&groupId=10602 [597], (accessed 2011-01-14).
(18) Ellison, Lela et al. “Digital Humanities in early online archives”. 2009-12-03.
http://hdl.handle.net/2152/6837 [598], (accessed 2011-01-14).
(19) 電子アーカイブの相互運用性が今後の課題であることについては、たとえばシリングスバーグが次の論文で取り上げている。
Shillingsburg, Peter. “How literary works exist: convenient scholarly editions”. Digital Humanities Quarterly. 2009, 3(3).
http://digitalhumanities.org/dhq/vol/3/3/000054/000054.html [599], (accessed 2011-01-14).
(20) Adida, Ben et al., eds. “RDFa in XHTML: syntax and processing”. W3C. 2008-10-14.
http://www.w3.org/TR/rdfa-syntax/ [600], (accessed 2011-01-14).
(21) シリングスバーグ, ピーター. “書記行為を再現するための電子的インフラストラクチャー”. グーテンベルクからグーグルへ: 文学テキストのデジタル化と編集文献学. 明星聖子ほか訳. 慶應義塾大学出版会, 2009, p. 105-170.
(22) “Annotea project”. W3C. 2005-10-31.
http://www.w3.org/2001/Annotea/ [601], (accessed 2011-01-14).
(23) Hickson, Ian. “HTML5: a vocabulary and associated APIs for HTML and XHTML W3C Working Draft”. W3C. 2011-01-13.
http://www.w3.org/TR/html5/ [602], (accessed 2011-02-05).
(24) Etemad, Elika J. et al. “CSS writing modes module level 3 W3C Working Draft”. W3C. 2010-12-02.
http://www.w3.org/TR/css3-writing-modes/ [603], (accessed 2011-01-14).
神崎正英. 人文学研究と電子アーカイブ. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1741, p. 19-23.
http://current.ndl.go.jp/ca1741 [604]
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このところ、大学図書館を中心にライブラリー・グッズへの関心が高まっている(1)。図書館における広報活動へ関心が寄せられると同時に、広報の一手段としてのグッズも徐々に注目を集めるようになってきたということが一因として考えられる。しかしながら、米国及び英国を中心として、図書館内の店舗でのグッズ販売やオンライン・ショップへの展開など活発な動きが見られるのに対し、日本の図書館でのグッズ制作・販売は、比較にならないほど小規模にとどまっている。
日本でのライブラリー・グッズへの関心は、少なくとも1980年代に遡ることができる。個々の図書館で行われてきたグッズ制作の歴史を遡るのは実質的には不可能であるが、比較的早い例としては、1983年、図書館サービス研究分科会(私立大学図書館協会東海地区部会研究部企画広報研究分科会の前身)の広報グループで始められたグッズの共同制作が挙げられる(2)。この共同制作は、複数の図書館で同一デザインのグッズを制作し、コストを抑えることを目的としていた。1983年に呼びかけを始め、翌年15館でポスターを作成したのが第一回となる。以降も同グループでの共同制作は続けられ、年ごとに掲示用紙、本のしおりやブックカバーを作成した。1992年度には日本図書館協会(JLA)の協賛へ、そして1995年度にはJLA主催の事業へと移管され、同年度には私立大学図書館協会、全国公共図書館協議会、専門図書館協議会、全国学校図書館協議会などが協賛し、紀伊國屋書店が後援となるが、1999年度を最後に、JLAの主催による共同制作は終了した。2005年度、2007年度には前述の分科会による共同制作が行われた(3)が、継続的な事業とはなっていない。
個々の館の活動としては、大谷大学図書館(4)、早稲田大学図書館(5)で、無料でダウンロードできる建物の写真や蔵書の画像を利用したブックカバーやカレンダーなどを用意しているほか、横浜市立図書館が2009年に横浜開港150周年を記念し、期間限定で同じく無料でダウンロードできるオリジナルブックカバーを作成していた例が挙げられる(6)。
有料販売については事例が少なく、東北大学附属図書館が2007年に東北大学創立100周年を記念して、同館の漱石文庫にちなんだ羊羹「漱石の愉しみ」を(7)販売していたほか、2008年から同館の狩野文庫と漱石文庫を題材にした絵はがきやクリアケースなどを販売している例(8)、慶應義塾大学三田メディアセンターによる図書館の建物や貴重書をモチーフとした絵はがきの販売や(9)、国立国会図書館が1995年から東京本館の売店で蔵書と建物をモチーフとした二種類の絵はがきセットを販売している例などが散見される程度である。
図書館サービス・ツール研究会が2008年12月に行ったグッズ制作の現況調査「ライブラリー・グッズの調査・研究と企画・開発」によると、153の公共・大学図書館のうち、グッズを「作成している」のは26館、「過去に作成していた」のは31館である(10)。この数字から、グッズ制作は一部の図書館にとどまっていることが確認できる。また、「作成している」あるいは「作成していた」図書館でも、平均するとそれぞれ約2種類のグッズを扱うのみで、多数のグッズをそろえるという規模ではない。作成の目的は、利用促進の景品、イベントに一定回数参加した人へのプレゼント、アンケート回答者へのお礼、オープンキャンパスのお土産などのように、無料配布とするものが大部分であった。
一方、図書館と同じく公共的な文化機関であるミュージアム(以下、博物館・美術館をあわせてミュージアムと呼ぶ)では、それぞれの施設のロゴをつけた文房具や、所蔵品の画像を利用した絵はがきなどのグッズの販売に力を入れており、こうしたミュージアム・ショップに関心を持つ愛好家や研究者も多い。このようなミュージアム・ショップの状況に比して、ライブラリー・ショップが日本で普及しない理由として、グッズ制作の目的が明確でないということ、また、「なぜグッズが必要か」「グッズを通じて利用者に何を伝えられるのか」が十分に検討されていない点が挙げられることがある(11)。そこで本稿では、ライブラリー・グッズの意義を考えることを目的に、まずミュージアムにおけるグッズの役割を先行研究などから整理する。次に、ライブラリー・ショップの運営がすでに盛んな米国議会図書館(Library of Congress;以下LC)と英国図書館(British Library;以下BL)の事例を紹介し、これら二館ではどのような目的からショップを運営しているのかを探る。これらを通じて、日本の図書館がグッズ制作を行う際に検討すべき点、応用できる点を指摘し、ライブラリー・グッズ制作の可能性を考えたい。
日本においてミュージアム・ショップの運営に力を入れて先駆的に取り組み始めたのは、1977年に開館した国立民族学博物館である。1990年に東京国立博物館の地下に広いショップができたことがミュージアム・ショップのブームのきっかけとなり、現在でも新設のミュージアムにはショップが併設されることが多い(12)。
それではミュージアム・グッズの販売にはどういった意味があるとされているのだろうか。1997年に行われた日本のミュージアム・ショップ経営の調査によると、グッズ販売を明確に「収益事業」と位置付けているのは一部のミュージアムにとどまり、多くのミュージアムにおいては「利用者サービス」「普及事業」が主な目的とされていた(13)。
まず「収益事業」としてのグッズ販売は、入館料徴収と同じく、資金調達の方法の一つとなる。ショップの運営方法は、大きく分けると直営、テナント経営、そして業務委託・業務提携の三つの方法があり、収益の扱いはそれぞれのミュージアム・ショップの運営方法による。
次に「利用者サービス」としてのグッズには、消費者の所有欲を満たすものとしての役割が期待される。来館者はミュージアムの展示品を持ち帰ることはもちろん、多くの場合は手を触れることも写真を撮ることもできない。そのため、来館したことの証となるもの、そして、感動をその場限りのものとせず、持ち帰り、思い出すための契機としてのグッズの存在が求められる。
最後に、「普及事業」としてのグッズには、展示品を鑑賞する以外の方法で、来館者に知識を提供することが求められる。たとえば展示品の情報を記したカタログなどを販売することで、来館者あるいは来館者からグッズをもらった人へ、展示品の情報などを伝えるという方法である。
上記の三点は、米国のミュージアムでも同じく考慮されている。フィリップ・コトラー、ニール・コトラー著『ミュージアム・マーケティング』では、来館者からの記念品購入の需要に応えるため、昔から多くのミュージアムにはギフト・ショップが設置されていたが、1970年頃にメトロポリタン美術館を初めとして、各ミュージアムはショップを財源の一つとする可能性に気づき、ショップ運営がミュージアムにおいて重要な活動となってきたことが指摘されている(14)。
また、教育普及事業という点も重視されていることは、米国ミュージアム・ストア協会(Museum Store Association;以下MSA)のコア・バリューにうかがえる。MSAはそれぞれのミュージアム・ショップの運営上の課題を共有する場として、1955年にショップのマネージャーやグッズ製造業者らによって設立された。ショップ運営の倫理規定を定めるなど、ショップの質を保つための活動を行っている。この団体のコア・バリュー7項目のうちの一つとして「文化的組織が教育的経験を通じて生活の質を高めることに貢献しているという信念(15)」が掲げられており、教育効果が米国のミュージアム・グッズにおいて重要な要素であると認識されていることが分かる。
なお、『ミュージアム・マーケティング』では組織イメージを伝えるツールの一つとしてミュージアム・グッズが挙げられ、ロゴをあしらった製品が紹介されている(16)。このような組織イメージを伝えるというグッズの機能は、日本のミュージアムにおける調査では明確に事業の中に位置付けされてはいない(17)。しかしながら、最近では、国立新美術館がロゴをつけたオリジナル商品を「国立新美術館ブランド」と表現しているように(18)、日本のミュージアムでも意識されるようになってきている。
話を図書館に戻し、海外の状況に目を向けてみると、グッズ販売を積極的に行っている図書館の例は少なくない。国立の図書館では米国議会図書館や英国図書館、オーストラリア国立図書館(19)、公共図書館では米国ニューヨーク公共図書館(20)、また大学図書館では英国オックスフォード大学のボードリアン図書館(21)などでのグッズ販売の例がある。その他、米国図書館協会(ALA)もオンラインでグッズ販売を行っている(22)。ここでは、米英の国立図書館でのグッズ販売の実例を紹介し、図書館でグッズを販売することの意義を考察する。
LCのライブラリー・ショップは、トマス・ジェファーソン・ビルディングの1階にある。手荷物と身体の検査を済ませたのち、誰でも訪れることができるスペースだ。月~土曜日の午前9時半から午後5時まで、休日は午前8時半から午後4時までオープンしている。1977年に創設された基金によって、ライブラリー・ショップの運営は開始された。
LCの公式ウェブサイトでは、ショップは次のように紹介されている。「LCショップは、図書館の幅広いコレクションから、展示会関連のアイテム、複製、お土産、印刷物や写真、家族の方々への本など独創的なアイテムを提供します。知識豊かな贈り物を共有して、保存と教育という図書館の役割をサポートしてください! 」(23)。
最後の一文に「図書館の役割をサポートしてください」とあるように、この紹介文は商品を購入することで、図書館の活動を支えることを求めている。しかし、どれだけの売り上げをライブラリー・ショップは出しているのだろうか。2009年度会計報告書の“Gift shop”の項目を見てみると、歳出156万4,000ドル(約1億2,700万円)、歳入155万2,000ドル(約1億2,600万円)で、1万2,000ドル(約97万円)の赤字となっている(24)(2011年2月2日現在のレートによる)。このような運営が可能であるのは、合衆国法典第2編第182条により、LCはショップ運営のために、年度で区切られない回転資金を持つことが認められているためであるが、いずれにせよ図書館全体を運営するための資金調達手段としての役割は果たせていないようである。
しかしながら、ショップの紹介文にある「知識豊かな贈り物」という言葉から、LCでは、ショップで販売されるグッズに教育効果を求めていることがうかがえる。オンライン・ショップのウェブサイトを見てみると、それぞれの商品には、解説がつけられている。アクセサリー一つとっても、モチーフとなったデザインの由来が記されており、単なる装飾品では終わらないよう工夫がされている。ショップの担当者は、前章で挙げたMSAにもメンバーとして参加しており、ミュージアム・ショップとグッズ販売の課題を共有していることが推測される(25)。
また、グッズのもう一つの側面は、ショップの案内が掲載されているウェブサイト上の場所からうかがえる。LCのウェブサイトは、サイトの閲覧者ごとに入口が分けられている。「子ども・家族/図書館員/出版社/研究者/教師/ビジター」のうち、ショップの案内は、ビジター向けのサイトに見学ツアーの案内などと一緒に掲載されている。そこには、「贈り物や記念品、本やCD。首都への次の旅の際には、ぜひ私たちのところを訪れてください 」(26)との文言がある。LCのグッズには、観光客へのお土産としての役割も与えられ、世界中から訪れる観光客へアピールするツールともなっている。
BLのショップは、図書館が大英博物館内に存在していた1986年に、博物館のショップとは別にオープンした。1997年にセント・パンクラスに新館が建てられるとそちらに移転し、2007年には拡張されて現在の2,100平方フィートの広さになった。LCと同様、入館手続きを不要とする1階の入り口左手に位置する。クリスマスや年始の休館日を除いて、閲覧室が閉鎖する日曜日も営業している。
2010年10月に、BLへ筆者がメールを通じて行ったインタビューによると、館内に店舗を持つ理由は三つ挙げられるという。まず図書館の刊行物を販売すること、収入を確保すること、そして来館の記念となるような幅広いグッズをそろえて、来館者の経験を豊かなものとすることである。
2009-2010年期の年間売上高は135万ポンド(約1億7,800万円)、うち7万5,000ポンド(約990万円)はオンライン・ショップによる(2011年2月2日現在のレートによる)。ショップの売り上げの30パーセントは、図書館の刊行物によって生みだされている。収支は黒字で、毎年売り上げの約20パーセントの利益を見込んでいる。
BLでは大規模な展示会が随時行われており、ショップは、展示会のための来館者へのサービスという点も重視されている。図書館全体の来館者のうち、50パーセント程度が図書館の利用者であり、残りの多くが展示会への参加者であるが、ショップの売り上げの大部分は、このような展示会の鑑賞者からもたらされる。つまり、グッズの売り上げは、展示会の成否に影響され、展示会の集客率が高ければ、売り上げも上がるということである。
しかしながら、BLのグッズには展示会参加者へのサービスに留まらない戦略が背後にあり、それはオリジナル商品に必ずBLのロゴが付されていることに表れている(27)。2000年から始まったリ・ブランディング(rebranding)のプロジェクトにより、ロゴのデザインと使用規定の刷新が図られ、このロゴは、ショップで販売されているカードホルダーや、アドレス帳などのオリジナル商品やショップで使われる紙袋のみならず、BLのウェブサイト、図書館の刊行物、便箋などにも付されるようになった。
戦略マーケティング・コミュニケーション局長としてBLのリ・ブランディングのプロジェクトを率いた、ジル・フィニー(Jill Finney)氏は、図書館は多様な背景を持つユーザーへサービスするため、他の多くの企業に比べてコミュニケーションをとることが非常に難しく、強い一貫性の維持が必要だと指摘している(28)。閲覧室の利用者や展示会のみの参加者など、さまざまな目的を持つ人が混在するBLにおいて、図書館として統一したイメージを示すことは困難である。しかしながら、グッズに図書館全体で使用されるロゴを付与することで、展示会に参加しショップへ足を運んだ訪問者にも、図書館全体とのつながりを感じることができる仕組みになっている。このようにBLのグッズは、一貫した図書館のイメージを伝えるツールとしての役割も与えられている。
ミュージアム、米英の国立図書館の事例を通じて、グッズを公共機関で販売することの意義を見てきた。図書館とミュージアムでは、公共性、文化性という点は共通しているが、当然ながら異なる機能を持っている。またLC、BLともに、大規模な展示会を催し、観光客も来館する場ということもあり、そのまま参考にできるわけではない。しかしながら、これまでの分析を踏まえ、次の4つの視点から、日本においてもライブラリー・グッズを検討することができるのではないだろうか。
第一は、資金調達という点だ。この点についてはすでに日本においても一部で関心が寄せられてはいる(29)。ただし、LCの事例のように必ずしも黒字とはならないことを考慮する必要がある。また特に無料サービスを中心としてきた日本の公共図書館においては、収益を上げることを目的とした事業を起こすことには課題も多い。この点については、今回は考察を深めることはできないが、ミュージアムの例を参考に今後考えていく必要がある。
二つ目は、グッズ販売は利用者サービスであるという点である。来館したことの記念として商品を購入したいという需要の可能性は検討に値する。展示会を開催した場合はもちろん、建築的に注目される図書館も多く、本を借りることを唯一の目的とするわけではない来館者もいるだろう。来館者の所有欲を満たす存在としてのショップについて、マチルド・ゴーティエ(Mathilde Gautier)はミュージアム内の書店の機能を論じる中で、「(書店は)商業スペースを通じて、来館者にミュージアムを自分のものとすることを可能にする」と表している(30)。図書館と観光が結びつく可能性も指摘されているが(CA1729 [607]参照)、グッズは、多様化する来館者へのサービスの一つとなる。
第三は教育効果である。図書館が教育機関であることは言うまでもない。イベントや展示会の開催などに力を入れる図書館が増えてきているが、教育普及の一つの手段としてグッズを位置づける可能性は大いに検討すべきである。すでに一部の図書館では行われているが、特色ある資料の絵はがきを、その詳細な情報を記して販売するという方法は今後も拡充しても良いかもしれない。
そして、第四にブランディングという視点を挙げたい。グッズに組織のブランド・イメージを高める機能があることは指摘されており(31)、日本の図書館においてもブランディング戦略について注目されるようになってきたところである(CA1728 [608]参照)(32)。BLの事例に見られたように、戦略的に作成されたグッズには、単なる「もの」として以上の効果を上げる可能性がある。近年では非営利組織、公的機関においてもブランディングの重要性が指摘されている(33)。国家ブランドを作り上げたデンマークでは王冠のロゴを、王立図書館を含めた公的機関で共有しているが(34)、大学図書館なら大学と、公共図書館であれば自治体と、ブランド・イメージを共有するなどの方法が考えられる。そういった際に、イメージを伝えるツールとしてグッズを活用することができる。
今までのところ、図書館における広報戦略が未熟であり、またグッズ制作にお金を費やす余裕がないために、ライブラリー・グッズを取り上げた論考でも、限られた予算でいかに安く制作し、無料配布するかが議論の中心となってきた(35)。資金難に悩む大学図書館、公共図書館の事情を考えればやむをえないことではあるが、重要なのは費用に対する効果ではないだろうか。
以上4つの視点は、すでにライブラリー・グッズを制作している図書館においても、今後新しいグッズを開発する際の参照点になるであろう。折しも、LCでは“Library Of Congress - Virtual Tour”(36)、BLでは“Treasures”(37)というスマートフォン向けのアプリの公開・販売を開始したところであるが、このような製品も、これらの視点から照らし合わせると、図書館に関心を抱く人が手にすることのできる「グッズ」として捉えられるのではないだろうか。
図書館は、新しい技術を取り入れながら有機的に成長を続けているが、その技術を応用するのであれば、ライブラリー・グッズの可能性も一層広がっていくであろう。
総務部総務課:渡辺由利子(わたなべ ゆりこ)
(1) 最近では、『大学の図書館』2009, 28(5)がライブラリー・グッズを特集しているほか、『大学図書館研究』2009, (85)に「共同制作からはじめる図書館広報グッズの作成 創造的な活用と共有をめざして」という論稿が取り上げられている。また2009年、東京都図書館協会の助成を受けて図書館サービス・ツール研究会により次の調査が行われた。「ライブラリー・グッズの調査・研究と企画・開発」(平成21年東京都図書館協会研究助成報告書)。この報告は『図書館雑誌』2010, 104(4)「図書館を見せる」特集内でも概要が紹介されている。
特集, ライブラリー・グッズ. 大学の図書館. 2009, 28(5), p. 69-80.
武尾亮ほか. 特集, 図書館サービスを知ってもらうために : 効果的な広報とは: 共同制作からはじめる図書館広報グッズの作成 創造的な活用と共有をめざして. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 12-22.
図書館サービス・ツール研究会. ライブラリー・グッズの調査・研究と企画・開発 (平成21年東京都図書館協会研究助成報告書). 2010, p. 1-33.
http://library-tools.blogspot.com/2010/02/21.html [609], (参照 2011-01-21).
石川敬史. 特集, 図書館を見せる: 図書館グッズに関するツクル・ツカウの調査. 図書館雑誌. 2010, 104(4), p. 205-207.
(2) 図書館サービス・ツール研究会. ライブラリー・グッズの調査・研究と企画・開発 (平成21年東京都図書館協会研究助成報告書). 2010, p. 9.
http://library-tools.blogspot.com/2010/02/21.html [609], (参照 2011-01-21).
(3) グッズの共同制作の歴史については、次の資料に詳しい。
私立大学図書館協会東地区部会研究部企画広報研究分科会編. 図書館広報実践ハンドブック : 広報戦略の全面展開を目指して. 2002, p. 203-207, (企画広報研究分科会活動報告書, 4).
(4) “大谷大学オリジナルブックカバー”. 大谷大学.
http://www.otani.ac.jp/kyo_kikan/library/nab3mq00000017ng.html [610], (参照2011-01-21).
(5) “古典籍総合データベースグッズ”. 早稲田大学図書館. 2009-01-13.
http://www.wul.waseda.ac.jp/PUBS/hambai/kotenseki-goods/index.html [611], (参照2011-01-21).
(6) “横浜市立図書館オリジナルブックカバー”. 横浜市. 2009-02-18.
http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/library/kaikou150/kaikou150_bookcover.html [612], (参照2011-01-21).
(7) “漱石の愉しみ販売”. 東北大学附属図書館.
http://www.library.tohoku.ac.jp/info/soseki-yokan.html [613], (参照 2011-01-21).
(8) “東北大学附属図書館オリジナルグッズ”. 東北大学附属図書館.
http://www.library.tohoku.ac.jp/pub/goods/goods.html [614], (参照 2011-01-21).
(9) “絵葉書”. 慶應義塾図書館.
http://www.mita.lib.keio.ac.jp/guide/publication/cards [615], (参照 2011-01-21).
(10) 図書館サービス・ツール研究会. ライブラリー・グッズの調査・研究と企画・開発 (平成21年東京都図書館協会研究助成報告書). 2010, p. 15-16.
http://library-tools.blogspot.com/2010/02/21.html [609], (参照 2011-01-21).
(11) 武尾亮ほか. 特集, 図書館サービスを知ってもらうために : 効果的な広報とは: 共同制作からはじめる図書館広報グッズの作成 創造的な活用と共有をめざして. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 12-22.
武尾亮. 特集, ライブラリー・グッズ: グッズ幼年期の終わり(に向けて). 大学の図書館. 2009, 28(5), p. 78-79.
(12) 山下治子. “博物館と物販・飲食サービス”. 新しい博物館学. 全国大学博物館学講座協議会西日本部会編. 芙蓉書房出版, 2008, p. 189-192.
(13) 東京都歴史文化財団総務課編. 博物館・美術館運営に関する調査報告書 Vol. 2. 財団法人東京都歴史文化財団, 1997, p. 162-180.
(14) コトラー, フィリップほか. ミュージアム・マーケティング. 井関利明ほか訳. 第一法規, 2006, p. 380-382.
(15) “The MSA Strategic Plan”. Museum Store Association. 2010-09.
http://www.museumdistrict.com/MSAnews/StrategicPlan.cfm [616], (accessed 2011-01-06).
(16) コトラー, フィリップほか. ミュージアム・マーケティング. 井関利明ほか訳. 第一法規, 2006, p. 185.
(17) 東京都歴史文化財団総務課編. 博物館・美術館運営に関する調査報告書 Vol.2. 財団法人東京都歴史文化財団, 1997, p. 162-180.
(18) “ミュージアムショップ”. 国立新美術館.
http://www.nact.jp/museumshop/index.html [617] , (accessed 2011-01-21).
(19) “Book Shop”. National Library of Australia.
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(21) “Bodleian Library Shop Online”. Bodleian Library.
http://shop.bodley.ox.ac.uk/ [620], (accessed 2011-01-21).
(22) “ALA Store”. American Library Association.
http://www.alastore.ala.org/ [621], (accessed 2011-01-21).
(23) “Shop, Eat - Visitors”. Library of Congress. 2010-09-02.
http://www.loc.gov/visit/shop.html [622], (accessed 2011-01-21).
(24) “Financial Statement (FY2009)”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/about/reports/financials/loc/fy09.pdf [623], (accessed 2011-01-21).
(25) ショップ運営以外にも、LCが教育普及事業を重視していることは、2008年から開始した“Library of Congress Experience”というプロジェクトからもうかがえる。図書館の歴史的・文化的財産をインターネットなどを通じて来館者へ提供するというもので、2009年からその一環として“Passport to Knowledge”というカードを作成した。来館者は入館時にこのカードを受け取り、建物の各場所に設置された専用の機器に差し込むと、建物や展覧会で展示されている資料の解説をカードに保存することができる。退館後も、ウェブサイト上でカードの記録を見返すことができる。
“Passport to Knowledge”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/loc/lcib/09012/passport.html [624], (accessed 2011-01-21).
(26) “For Visitors”. Library of Congress. 2011-01-27.
http://www.loc.gov/visit/ [625], (accessed 2011-01-21).
(27) このロゴは、たとえばBLのウェブサイト左上に見ることができる。
British Library. http://www.bl.uk/ [626], (accessed 2011-1-21).
(28) Finney, Jill. Brand values at the BL. Update. 2(2), 2003, p. 54-55.
(29) 仁上幸治. 特集, ライブラリー・グッズ: グッズが図書館を元気にする!-暗い状況でも楽しめる最強秘密兵器―. 大学の図書館. 2009, 28(5), p. 70-75.
(30) Gautier, Mathilde. La librairie de musée en tant que médium. Culture et Musées. 2008, (11), p. 37-57.
(31) 図書館サービス・ツール研究会. ライブラリー・グッズの調査・研究と企画・開発(平成21年東京都図書館協会研究助成報告書). 2010, p. 6-7.
http://library-tools.blogspot.com/2010/02/21.html [609], (参照 2011-01-21).
(32) 2010年図書館総合展において、図書館のブランディングをテーマにした次のフォーラムが開催された。
図書館サービス計画研究所.“今日から使える図書館ブランディングセミナー-図書館魅力再発見計画-”. 第12回図書館総合展.
http://www.j-c-c.co.jp/li_forum/index.html [627], (参照2011-01-21).
(33) コトラー, フィリップほか. 非営利組織のマーケティング戦略. 第一法規, 2005, p. 242-249.
(34) ワールドブランディング委員会編. 世界のブランド戦略 : そのコンセプトとデザイン. グラフィック社, 2006, p. 133.
(35) 矢内美どり. 特集, ライブラリー・グッズ: キーワードは「手作り感」 : 茨城大学図書館におけるライブラリー・グッズの展開. 大学の図書館. 2009, 28(5), p. 76-78.
(36) 2010年8月に公開された。図書館で開催されている展示会の資料や、建物の各所を、写真や専門家の音声による解説で楽しむことができる。職員の手で作成され、今後も新しい製品が提供される可能性もあるようだ。
“Shiny, Appy People : Library Gets iPhone App”. Library of Congress. 2010-08-03.
http://blogs.loc.gov/loc/2010/08/shiny-appy-people-library-gets-iphone-app/ [628], (accessed 2011-02-02).
(37) 2011年1月に販売開始。『不思議の国のアリス』の初版本や、ガリレオの書簡など、BLの特色ある資料約100点を詳細な画像で見ることができる。
“British Library Launches First Smartphone App”. British Library. 2011-01-11.
http://pressandpolicy.bl.uk/Press-Releases/British-Library-Launches-First-Smartphone-App-483.aspx [629], (accessed 2011-02-02).
渡辺由利子. ライブラリー・グッズの可能性-ミュージアム、米・英の国立図書館の事例を通して. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1742, p. 23-28.
http://current.ndl.go.jp/ca1742 [630]
リンク
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[2] http://current.ndl.go.jp/files/ca/ca1756.pdf
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[4] http://www-lib.icu.ac.jp/WSD/WritingSupportDesk.htm
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[6] http://libst.nul.nagoya-u.ac.jp/activity/openlecture/36.html
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