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CIP(Cataloging In Publication)とは、出版者から提供される事前情報に基づいて全国書誌の作成機関などが作成した書誌データあるいはその提供元情報を、出版物の標題紙裏などに印刷して出版することである。世界の多くの国々で導入され、アジア地域においても既に8か国で実施されている(2)。
一方、全国書誌は1つの国における出版物についての包括的な記録の集積であり(3)、多くの場合、納本制度で収集された資料に基づいて、国立図書館など国を代表する書誌作成機関によって作成される出版物の最終的なリストである。
書誌作成の過程を、出版界から図書館界までの大きな枠組みの中で時系列に捉えた場合、出発点がCIPで終着点が全国書誌といえよう。CIPから全国書誌にいたる流れを眺めれば、その国の書誌作成の実際がみえてくる。
本節では、中国のCIPと全国書誌の作成に携わる新聞出版総署情報センター及び国家図書館を取り上げて、中国における書誌作成の現状を概観し、そこからみえてくる課題及び今後の展開について述べる。
中国では、既に1970年代末から海外のCIPの実施事例が紹介され、図書館界を中心に活発に議論されていた。また、一部では実験的な試みも行われていたものの、総体としては理論としての枠組みを越えるものではなかった(4)。その後、1983年から1985年にかけて「文献著録総則」「普通図書著録規則」「文献主題標引規則」など書誌情報に関する国家規格が相次いで整備されたことを受けて、CIP導入に向けての動きが本格化することになる。
1985年に実施の可能性に関する予備調査が行われ、翌年から導入に向けての具体的な検討が開始された。1987年には関連規格の制定のため、新聞出版署標準室、北京図書館(現国家図書館)、中国科学院図書館、北京大学図書館、人民出版社、機械工業出版社、新華書店本店、信息分類編碼研究所からなる起草班が編成され、同年末に草案が作成された。次いで出版界及び図書館界からの意見聴取を経て、1989年に「図書在版編目数据」及び「図書書名頁」の2つの国家規格が策定された。そして、強制規格(5)として、それぞれ[GB12451-90]、[GB12450-90]の規格コードが付与され、1990年7月に国家技術監督局の認可を経て、1991年3月より施行されることとなった。
「図書在版編目数据」は、CIPデータに記載すべきデータ項目、区切り記号、記述フォーマットなどを定めたものである。データ項目は記述データと検索データの2種類から成り、前者には書名、著者名、版表示、出版事項、シリーズ情報、附注、ISBNなどが、後者には書名や著者名などのアクセスポイント、分類記号、件名などが含まれる(図2.1)。
図2.1 CIPデータの例
一方、「図書書名頁」は、世界標準のISO1086-87“Documentation: Title-leaves of a book”に準拠し、図書の標題紙(標題紙裏を含む)に記載すべき項目について定めたもので、書名、著者名、出版事項、版権説明、版本記録(6)、CIPデータ、形態情報、印刷発行記録などが必須項目として挙げられている。
国家規格が定められたことにより、出版者が図書を出版する際には、これら規格に定められた項目を、定められた形式で当該出版物に記載することが義務付けられた。
しかしながら、中国における初めての試みであり、かつ全国500余の出版者に関わる大事業であることから、実施は一足飛びではなく段階的に行われた。
まず、1992年に北京地区の出版者を中心に41社を選定して研修会を開催し(7)、対象地域や出版者を増やしながら(8)数年間の試行による経験を重ねた後、1994年から北京地区の全ての出版者を対象とした(9)。当時、手引書として出版された許綿主編『図書在版編目工作手冊』(人民出版社 1994)には、CIPの概念や意義、データの作成手順、国家規格の本文と解説、関連する通達文書、実例集などが掲載されている(10)。最終的には、1999年4月から全国規模での実施が始まり(11)、その結果、新刊図書の約90%にCIPデータが記載されるようになった(12)。その後、両規格は強制規格から任意規格へと変更され、2002年には改訂が行われている(13)。
CIPは、新聞出版総署情報センターが管理運営を行っている。同センターはその名が示すとおり新聞出版総署(14)の直属機関で、出版情報の作成と頒布に関する業務を主管している。同時に中国版本図書館という名称も併せ持つが、これは中国の組織機構によくみられる、いわゆる「1つの機構、2枚の看板」【一个机构两个牌子】(図2.2)で、実体は1つの組織でありながら、その果たす機能や役割によって、名称が使い分けられる。出版物を収集・保存する際には中国版本図書館と称するが、これについては2.1.4.で詳しく述べる。
図2.2 「1つの機構、2枚の看板」
出版者が出版物を発行する際には、事前に新聞出版総署情報センターに申請をして、CIPデータを取得する。出版物の詳細が決まった段階で、「図書在版編目(CIP)数据工作単」(図2.3)に必要事項を記入して、担当部門である図書在版編目処に送付する。その際、記述は「普通図書著録規則」に拠り、主題分析には『中国図書館分類法』『漢語主題詞表』が用いられる。図書在版編目処では、出版者から送られてきたデータを検査し、修正・追加をした後に、出版者に返却する。そして、出版者は返却されたCIPデータを図書の標題紙裏に印刷するという流れである。「工作単」は、以前は郵送やFAXでやり取りされていたため、申請からデータ返送までに1か月以上(15)を要していたが、2003年からは専用システムの導入により、オンライン申請が可能になった。現在では申請から3~5日以内に出版者にデータを返送することを原則としている(16)。
図2.3 図書在版編目(CIP)数据工作単
新聞出版総署情報センターのホームページではCIPデータベースが公開されており(17)、書名、著者名、出版者、ISBNのほか「CIP数据核字」で検索することができる。「CIP数据核字」とは、データ1件ずつに付与される検査番号のことで、CIPデータの最下行に記されている(図2.1)。
因みに、海賊版や未申請の出版物には、偽造されたCIPデータが記載されている場合があるが(18)、このデータベースでその「CIP数据核字」を検索すると、ヒットしないかあるいは内容が合致しないデータがヒットする。逆に言うと、「CIP数据核字」で検索して該当データがなければ、正式出版物ではないと判断できるのである(19)。
なお、このデータベースのほか、同センターが編集する新刊書の紹介雑誌『全国新書目』にもCIPデータが掲載されている(20)。
中国では、これまでCIPに関する論文が数多く発表されているが、最も多く指摘されているのがCIPデータの品質の低さである(21)。分類や件名など、専門的な知識と技術を要するデータの誤りのみならず、書名、責任表示、出版年などの基本的な記述データでさえ、現物と異なる例が散見される(22)。
こうした誤りが発生する原因としては、出版者の担当者が未習熟のため「工作単」を誤って記入すること(23)、図書在版編目処のデータ検査が現物を見ずに「工作単」のみで行われること、またCIPデータの取得後に変更があっても、出版者が報告を怠ってデータを修正しなかったり、改竄したりすることなどが挙げられる(24)。そもそもCIPは、出版者にとっては単なる手続きに過ぎず、正確なデータを作成しようとする意識は低い(25)。
また、人員不足も問題である。年間のデータ作成数が約20万件であるのに対して、データ検査に従事する作業員は20余名しかおらず、1人あたりの作業量が膨大で、データ1件あたりに費やす時間が短い。多い時には1人で1日100件を処理することもあるという。
さらには、作業員の技術的な水準が低いことや、書誌作成の専門知識と技術を有する図書館が運営に関与していないことなども原因として挙げられる(26)。2.1.2.(1)で紹介したとおり、CIPの導入にあたっては、図書館は理論的な側面から検討に参加したものの、その後の運営においては無関係の状態である。
こうしたことから、図書館の目録作成現場におけるCIPデータに対する信頼度は極めて低い(27)。さらには、MARCフォーマットで頒布されていないなど、CIPデータは図書館でそのまま活用できる水準には達していないのが現状である。こうした状況に対して、フォーマットの改善やより効率的で正確なCIPデータの提供に向けたECIP(28)の研究が進められているものの、未だ理論の段階に留まっている(29)。
次に、新聞出版総署情報センターのもう1つの役割である出版物の収集・保存及び目録作成をみていこう。上述の通り、この場合の名称は中国版本図書館となる。
中国版本図書館の歴史は長く、その前身である中央人民政府出版総署図書館が創設された1950年まで遡る。以来、大陸で出版された出版物を幅広く収集・保存し、幾度かの名称と所属機関の変更を経て、1983年に現在の中国版本図書館と称するようになった(30)。
中国版本図書館の蔵書は全て納本によって収集されたものである。中国では「出版管理条例」(国務院令第343号)、「録音映像製品管理条例」(国務院令第341号)、及び新聞出版総署が出した複数の行政規則などによって納本に関する事項が定められており、出版物の納本先として国家図書館、新聞出版総署、中国版本図書館の3機関が指定されている(表2.1)。国家図書館に納本される出版物は公開を前提としているのに対し、新聞出版総署への納本は出版動向の把握と合法性についての検査が、そして中国版本図書館への納本は保存が目的とされる(31)。納本に係る規則が新聞出版総署の行政規則で定められていること自体が、出版物管理としての側面を強く表しているとも言えよう。こうした位置付けから、中国版本図書館の蔵書(約350万タイトル)は北京郊外に設けられた2つの書庫に保存されているだけで、一般には公開されていない。
表2.1 納本資料の受入機関、種類、部数
受入機関 | 図書 | 雑誌 | 新聞 | 音楽映像資料 | 電子出版物 | |
新刊 | 増刷 | |||||
中国国家図書館 | 3部 | 1部 | 3部 | 1部 | 1部 | 1部 |
新聞出版総署 | 1部 | 1部 | 1部 | 1部 | 1部 | 1部 |
中国版本図書館 | 1部 | 1部 | 1部 | 1部 | 1部 | 1部 |
出版物の収集から保存までを担当する徴集管蔵処では、毎年約20万タイトル(新刊図書13万、増刷図書2万、音楽映像資料3万、その他2万)の納本資料を受け入れている。到着した資料は、登録処理を行った後、目録データを作成する(32)。約90%については、既に登録されているCIPデータを流用して、現物を確認しながら修正を行う。CIPデータがあるにもかかわらず納本されない出版物については、定期的に未納情報を抽出し、出版者に対して督促を行っている。
作成された目録データは、1年ごとに編集・加工し、『全国総書目』として出版する。『全国総書目』の始まりは古く、1955年に新華書店本店から1949-1954年版と1955年版が出版され、翌1956年から中国版本図書館による編集となった。以後、文化大革命期の中断があったものの現在まで継続して刊行されている。冊子体は2003年で終了して、以後は電子版(CD-ROM及びオンライン)のみの刊行となっている。
以上、新聞出版総署情報センターでの書誌作成の概要をみてきた。続いて、国家図書館における書誌作成の現況をみていこう。
国家図書館は、前述のとおり、新聞出版総署、中国版本図書館と並んで、納本制度による出版物の受入機関であり、購入、寄贈などによる収集を含めると年間約64万冊の新刊図書を受け入れている(33)。中国語図書の書誌作成は、館内に設置されている全国図書館聯合編目センターと連携して行われているため、先に同センターの概略から紹介する。
中国では1990年代後半から全国規模の総合目録ネットワークが形成され始めた。中国における図書館は、国家図書館、大学図書館、公共図書館、中国科学院図書館の4つの系統に大別することができるが、総合目録ネットワークもこの枠組みに沿って形成されている。主なものとして、国家図書館が運営する全国図書館聯合編目センター(OLCC: Online Library Cataloging Center、以下OLCC)、大学図書館を主な参加館とする中国高等教育文献保障系統(CALIS: China Academic Library System)、深圳図書館を中心に6つの省級図書館が共同構築する地方版聯合采編共作網(CRLnet: China Regional Libraries Network)や上海図書館が運営する上海市文献聯合編目センター、そして中国科学院国家科学数字図書館(CSDL: Chinese National Science Digital Library)の総合目録が挙げられる。
そのうちOLCCは1997年10月の設立で、中国で最も早く創設された総合目録ネットワークである。書誌データの共同構築と共同利用、目録作成にかかるコストの削減、重複作業の低減、目録作業者の技術向上などを主旨としており、全国の公共図書館が主な参加館となっている。創設初期には収益重視の企業運営方式が採られていたが、2004年に実施された国家図書館の機構改革を契機に、公益性の重視へと運営方針を転換し、国家図書館の内部組織として位置付けられるようになった(34)。
以後は、国家図書館内の中国語収集整理部総合目録組が中央センターを運営している。この中央センターの下に地方センターが設置され、さらにその下位に参加館が所属する三層構造となっている。地方センターは省級規模の公共図書館や蔵書に特徴のある図書館で構成されており、2008年6月現在で、広東省立中山図書館、広西壮族自治区図書館、四川省図書館、天津図書館、遼寧省図書館、浙江省図書館、福建省図書館、山東省図書館、吉林省図書館、黒竜江省図書館、安徽省図書館、中国社会科学院文献情報センター、天津少年児童図書館の13館である。参加館数は674館、ユーザー数は1,105、年間のアップロード・ダウンロードの総件数は249万件に及ぶ。
OLCCが提供するデータベースは20種以上あり、それらのほとんどが国家図書館の作成した書誌データファイルで構成されている(35)。参加館はデータをダウンロードして利用することができるほか、中国語図書のデータベース「中文図書書目数据庫」は参加館が共同で書誌作成を行っている。データベースごとに利用料金が定められており(36)、例えば「中文図書書目数据庫」の場合、ダウンロード1件につき0.15元が課金される(最初の1,000件までは無料)。反対に、書誌データを作成してアップロードをすると1件あたり3元の収入となる。これが誘因となってか、ここ数年「中文図書書目数据庫」へのアップロード件数が増加しており、同データベースは参加館が作成したデータが約半数を占めるまでになった。ただし、アップロードは参加館の全てに認められているわけではなく、中央センターが実施する「アップロード資格認証研修」に参加して規定の課程を修了した後、中央センターによる品質検査に合格した参加館にのみ資格が与えられる。現在のところ、資格を有するのは25館である。
図2.4 OLCCと中国国家図書館の書誌データ作成概念図
データの品質管理は、中央センターで集中的に行われる。参加館がアップロードしたデータは、中央センターにおいて1日単位でリスト抽出され(図2.4①)、これをもとに中央センターの担当者が検査を行う。誤りのあるデータは修正を施し、作成館に連絡をした後に公開される(図2.4②)。また、既に公開されているデータに誤りが発見された場合は、発見館が中央センターに連絡をした後、中央センターによって調整及び修正が行われる。
中央センターで使用しているシステムは、深圳市科図自動化新技術応用公司が開発した図書館統合システム(ILASⅡ)をカスタマイズしたものである。このシステムには、1書誌ごとに参加館のアップロード・ダウンロードの履歴が残されているものの、それらが所蔵情報として登録されていないため、正確な所蔵情報を確認することはできない。そのためOPAC機能がなく、一般には公開されていない。これは、「聯合編目」という名称が表すとおり、書誌データの共同構築を第一義としてきたためのシステム的な制約と考えてよい。近い将来には国家図書館の現行システムであるEx Libris社のALEPH500を導入することで、リアルタイムでのデータ更新を実現し、所蔵館情報とOPAC機能を搭載した総合目録データベースへと発展させる計画である。
国家図書館の自館の目録作成も、このOLCCを利用して行われている。書誌データの作成は資料受入及び目録作成の2過程で行われるが、それぞれの過程で「中文図書書目数据庫」を検索して、ヒットしたものをダウンロードし、必要な箇所を修正して自館データベースに取り込む(図2.4③)。現在、新刊書の書誌データの約6割がダウンロードにより作成されている。ヒットしない場合は自館で書誌データを作成する。そして、修正したダウンロードデータと自館作成データが混在する新規作成データを1日ごとに抽出し(図2.4④)、ISBN、書名、出版年を基にバッチ処理でOLCCのデータと重複調査を行い(図2.4⑤)、自館作成データのみを抽出した後、それらを「中文図書書目数据庫」にアップロードする(図2.4⑥)。
国家図書館が編纂する『中国国家書目』は、1987年に1985年版の刊行が開始されたものの、資金面での問題から、1994年を最後に冊子体の刊行が中止された。その一方で、1988年からデータベース化が開始され、1990年よりCNMARCとして頒布されている。また1998年には、上海図書館、広東省立中山図書館、深圳図書館との協力で、1949年から1987年までの遡及データ40万件の入力も完成した。現在は、これらのデータとOLCC作成のデータの集合が、冊子体『中国国家書目』に代わる電子版として位置付けられている(37)。
以上みてきたように、中国においては、新聞出版総署情報センター(中国版本図書館)と国家図書館のいずれもが納本制度に基づいて出版物を大規模に収集し、それぞれが全国書誌に相当する書誌を作成している。
中国版本図書館の『全国総書目』は、約半世紀にわたって出版され続けている出版物目録であり、長い間、事実上の全国書誌として扱われてきた(38)。しかし、もともと出版物に関する統計資料及び登記目録としての性格が強いため、記載項目が簡略過ぎで品質が低く、全国書誌としての要件を満たしていないともされる(39)。それに対して、国家図書館の『中国国家書目』は、目録作成の専門家である図書館員によって作成されており、その品質は相対的に高い。『中国国家書目』の出現は、それまでの『全国総書目』の全国書誌としての独占的地位を揺るがしたといえる。
その一方で、収録率についてみてみると、『中国国家書目』よりも『全国総書目』のほうが高い(40)。何故ならば、中国版本図書館への納本率のほうが国家図書館への納本率よりも高いからである。出版機関を管理監督するのは新聞出版総署であるため、出版者は新聞出版総署ならびに同署所属の中国版本図書館への納本を優先する傾向にある。国家図書館は文化部に属しているため、仮に納本しない出版者があったとしても、組織上それらを直接に監督・指導できる立場にない(41)。さらに新聞出版総署との連携も弱く、制度の改善がなかなか進まない。結果として、国家図書館への納本率は低くなりがちで、購入など他の手段により欠本を補ってはいるものの、収集しきれない出版物が数多く残されることになる。
そもそも、中国における納本率は全体的にみて高いとは言えないが、その原因として、納本制度が強制力に乏しく罰則規定が機能していないこと、また地方政府によってはさらに独自の納本制度を定めているところもあり(42)、出版者の経済的な負担が大きく、納本に対する積極的な理解が得られていないことなどが挙げられる(43)。
このように、『全国総書目』は収録率は高いが品質が低く、『中国国家書目』は品質は高いが収録率が低い。どちらか一方のみをとって、中国を代表する全国書誌とは言えず、双方ともに全国書誌を自称しながら、過去20数年にわたって重複状態が続いている。
こうした状況に対しては、当然のことながら『中国国家書目』が刊行された当初から問題視されており、1987年から1989年にかけて、中国版本図書館と北京図書館(当時)との間で全国書誌の共同編纂についての協議が行われた。しかし、結局は版本図書館側が『全国総書目』の存続を主張して物別れに終わっている(44)。また、組織編制の歴史を振り返ってみると、1970年代に版本図書館が一旦、北京図書館(当時)に合併されたものの数年後に再び分離しており、現在は縦割り行政の縛りから相互の関係は極めて薄い。
このように2つの全国書誌が存在する背景には、その刊行の経緯のみならず、行政組織に係る構造的な問題も絡んだ根深い要因が潜んでいるのである。
こうした状況を改善する契機として考えられるのが、図書館法の制定である。中国にはこれまでのところ、正式な図書館法は存在しない。そのため、十数年前から図書館法制定に向けての活動が行われており、2008年には第11期全国人民代表大会常務委員会立法計画に図書館法が盛り込まれるなど(45)、制定に向けた動きが目立ってきている。ただし、中国図書館界における複雑に絡んだ状況もあって、現在は行き詰まりの状態にあり、図書館法が最終的に成立するまでには暫く時間がかかると思われる(46)。とはいえ、図書館法の制定は法定納本制度の整備に向けての格好の機会であり(47)、これにより納本の枠組みが大きく変わる可能性もある。今後の動きに注目したい。
もう1つ、今後の展開が注目されるのは、出版流通業界と図書館による書誌データの共同作成である。
2005年10月、中国最大級の出版グループである中国出版集団は、在庫情報を提供する中版通公司を設立した。同社は、約120の出版者と契約を結んで、新刊書もしくはその電子版を入手し、それらの書誌データを、表紙・書名頁・版権頁・目次・本文の一部・裏表紙などの画像データと合わせて、ホームページで提供している(48)。
現在、OLCCでは、この中版通公司が開発したシステムを利用して、書誌作成の新たな実験が進められている。同システムの提供する電子データを基に、国家図書館が目録規則に基づいて書誌データの補足・修正を行い、CNMARCに変換してOLCCのシステムに搭載し、参加館が利用できるようにしようという試みである(49)(図2.5)。これが実用化されれば、出版者や書店など、書誌作成の源流から品質の高いデータを提供することが可能となり、業界の枠組みを越えた効率化と標準化が期待できる。
図2.5 中版通とOLCCの試験システム
書誌作成の過程を川の流れに喩えるならば、出版界、流通界、図書館界は、それぞれ上流、中流、下流といえよう。中国では長らく三者間の境界が、いわば堰き止められた状態であった。しかし、前段で紹介したように、最近は境界間に新たな流れが生まれてきている。社会全体での書誌情報の共有化と標準化を実現するためには、この流れをより本格化させ、さらには上流からの流れを取り込むことが必要となる。そのためには、CIPデータの改善、ECIPの実現、納本制度の改革など解決すべき課題は多い。
(前田直俊)
(1) 本節は、前田直俊. 中国における書誌作成の現状―CIPと全国書誌. アジア情報室通報. 2009, 7(2), p. 2-7. に若干の加筆修正を加えたものである。
(2) Knutsen, Unni. “Survey on the state of national bibliographies in Asia” IFLA.
http://archive.ifla.org/VII/s12/pubs/Survey-Asia_MiddleEast-report.pdf [3], (accessed 2009-05-08).
(3) Žumer, Maja ed. “Guidelines for National Bibliographies in the Electronic Age (draft)” IFLA.
http://archive.ifla.org/VII/s12/guidelines-national-bibliographies-electronic-age.pdf [4], (accessed 2009-05-08).
(4) 郝志平. 中国图书在版编目(CIP)的起步与进展. 图书馆理论与实践. 1998(2), p. 20-22.
(5) 強制規格は強制的な執行力を有し、コードが「GB」で始まる。強制執行力を伴わないものは任意規格で、コードが「GB/T」で始まる。
(6) 版本記録については、小島浩之. 現代中国書の書誌的特徴. 大学図書館研究. 2002, (64), p. 1-9. が詳しい。
(7) 新闻出版署. 关于实施CIP国家标准试点的有关问题的通知. 新出图. 1992-12-19, 1992(1936).
(8) 新闻出版署. 关于扩大实施CIP国家标准试点有关问题的通知. 新出图. 1993-03-04, 1993(173).
(9) 新闻出版署办公室. 关于在京出版社实施“图书在版编目(CIP)”有关问题的通知. 新出办. 1993-12-07, 1993(1611).
(10) その他、概説書として、陈源蒸. 图书在版编目・书目数据的标准化与规范化. 北京大学出版社, 1994, 156p. が出版された。
(11) 新闻出版署. 关于在全国各出版社实施图书在版编目(CIP)有关问题的通知. 新出技. 1999-03-08, 1999(185).
(12) 陈源蒸. 中文图书ECIP与自动编目手册. 北京图书馆出版社, 2003, 436p.
(13) 修訂後の規格コードは、「图书在版编目数据」が[GB/T12451-2001]、「图书书名页」が[GB/T12450-2001]。詳細は、傅祚华編著. 图书书名页标准解说. 北京, 中国标准出版社, 2007, 201p. を参照。
(14) 国内の出版やメディアに関する事業の監督・管理を行っている国務院直属の機関。また、著作権の保護・管理も行っており、その際は国家版権局の名称を用いる。
(15) 樊玉敬ほか. 我国图书在版编目(CIP)工作研究综述. 津图学刊. 2003(4), p. 14-19.
(16) 郝志平. 我国图书在版编目工作获突破性进展. 中国新闻出版报. 2005-09-29, 第001版.
(17) “CIP中心”. 中国新闻出版信息网. http://www.cppinfo.com/zxgk/jgjs/cipzx/index.shtml [5], (参照 2010-09-02).
(18) 偽造の理由の1つとしてISBNの不足が挙げられる。ISBNは前年の出版量に応じて、配布量が決められるため、出版者のなかには、ISBNが不足した場合に、異なる出版物に同じISBNを付与することがある。その際、CIPデータも偽造される。
(19) 正式出版物とは、新聞出版総署にISBN登録をして一般に流通する出版物という概念であり、合法非合法の判断規準ではない。反義の非正式出版物は、灰色文献の概念に近い。
(20) 1999年から2004年には『图书在版编目快报』(週刊)も刊行されていた。
(21) 唐开ほか. 20世纪90年代以来在版编目(CIP)研究论文统计分析. 全国新书目. 2007, (701), p. 79-81.
(22) 沈凌燕. 图书在版编目存在的问题分析及改进对策. 大学图书情报学刊. 2004, 22(3), p. 61-62. によると、記述の誤りは33%、分類の誤りは36%、件名の誤りは20%。
(23) 郝志平. 中国CIP:问题和对策. 中华读书报. 2000-10-11, 第043版.
(24) こうした事態に対処すべく管理体制の強化が図られている。例えば、提出された工作単の記載が不完全な場合は出版者に返却して、完全に修正されるまでデータ検査を保留する。さらには、出版後の図書のCIPデータの正確さを調査し、毎年の定期検査の項目に加えるなど。
新闻出版总署信息中心. 关于继续加强CIP工作,进一步提高数据质量的函. 新出信. 2006-08-11, 2006(53).
(25) 杨兰芝ほか. CIP存在的问题与ECIP计划的实施. 现代情报. 2007(6), p. 149-151.
(26) 张耀蕾. 中美在版编目的比较研究. 图书馆学研究. 2008(5), p. 47-51.
(27) 筆者が実務研修を受けた中国国家図書館の目録作成部門においても、CIPデータは参考程度に参照するだけで、情報源としては採用していない。
(28) ECIPとは、出版物の電子テキスト情報を基にCIPデータを自動生成し、より正確なデータ生成を行うこと。
(29) 前掲注(12)。
(30) 中国大百科全书 : 图书馆学、情报学、档案学. 北京, 中国大百科全书出版社, 1993, p. 555.
(31) 纪晓平ほか. 我国呈缴本制度的立法思考. 大学图书馆学报. 2006(3), p. 18-23.
(32) 独自開発のシステムを用いているが、Ex Libris社のALEPH500の導入が予定されている。
(33) 新刊図書は、基本的に納本で3部、その他の手段で2部、合計5部を収集する。
(34) 顾犇ほか. 全国图书馆联合编目工作的回顾与展望. 国家图书馆学刊. 2008, (65), p. 72-74.
(35) “数据库介绍”. 全国联合编目中心. http://olcc.nlc.gov.cn/proserv-sjkjs.html [6], (参照 2009-05-08).
(36) “服务范围”. 全国联合编目中心. http://olcc.nlc.gov.cn/join-fwfw.html [7], (参照 2009-05-08).
(37) Ben, Gu. “National Bibliographies: the Chinese Experience”. World Library and Information Congress: 72nd IFLA General Conference and Council 2006. Seoul, Korea, 2006-08-20/24, IFLA, 2006. http://ifla.queenslibrary.org/IV/ifla72/papers/109-Gu-en.pdf [8], (accessed 2009-05-08).
(38) 肖希明ほか. 《全国总书目》与图书馆文献资源建设. 图书馆. 2008(6), p. 26-29.
(39) 黄俊贵. 我国书目系统控制的流弊及其对策-从UBC与UAP说起-. 全国总书目2006 电子版使用手册. 2006, p. 1-23.
(40) 柯平ほか. 21世纪的国家书目控制. 全国总书目2005 电子版使用手册. 2005, p. 1-23.
(41) 赵志刚. 对国家图书馆接受呈缴本的思考-基于新制度经济学视角的分析. 信息资源建设中的图书馆采访工作:第二届全国图书采访工作研讨会论文集. 北京图书馆出版社, 2007, p. 139-145.
(42) 北京市、湖北省、内蒙古自治区、深圳経済特別区、上海市、浙江省、河南省など。
(43) 孙雷. “中外图书馆样本缴送制度比较分析”. 中国人大网. 2009-03-25.
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/rdlt/fzjs/2009-03/25/content_1495035.htm [9], (参照 2009-05-08).
(44) 前掲注(38)。
(45) “十一届全国人大常委会立法规划”. 中国人大网. 2008-10-29.
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/syxw/2008-10/29/content_1455985.htm [10], (参照 2009-05-08).
(46) 李常慶. 中国における図書館法制度の成立およびその課題. 情報の科学と技術. 2009, 59(12), p. 597-603.
(47) “图书馆法列入本届人大常委会立法计划:图书呈缴有望引入补偿机制”. 法制日报. 2008-08-03.
http://www.legaldaily.com.cn/bm/2008-08/03/content_915042.htm [11], (参照 2009-05-08).
(48) 书业公共数据交换中心. http://www.cbip.cn/ [12], (参照 2009-05-08).
なお、中版通公司は現在、2008年に設立された数字伝媒有限公司に統合されている。
(49) 聚焦跨业书目协作与共享. 新华书目报 社科新书目. 2008-08-18, (868), C1,C4-C7版.
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本節では、中国国家図書館における中国語資料(図書、雑誌、新聞、学位論文、非正式出版物)の収集・組織化について、担当部署である中国語収集整理部【中文采編部】での業務内容を詳しく紹介する。
同部内の組織構成と業務分担は次の通りである。図書の収集業務は中国語図書収集組が、目録作成業務は中国語図書書誌データ組が、装備は中国語図書装備組がそれぞれ担当する。逐次刊行物の収集整理業務は、中国語逐次刊行物収集整理組が行い、雑誌と新聞で担当グループが分かれている。学位論文は学位論文収集整理組が、非正式出版物は中国語資料組が担当している。その他、台湾・香港・マカオの出版物の収集整理を行う台湾・香港・マカオ文献収集整理組、著者名典拠や件名典拠のコントロールを行う典拠及び件名標目組、2.1.で述べた全国図書館聯合編目センターを運営する総合目録組、ISSNセンターを運営するISSN組、データ遡及を担当する遡及書誌データ組がある。
収集業務を担当する中国語図書収集組の職員は全23名で、そのうち正職員が11名、臨時職員が12名である。納本に係る連絡事務、地方志・図書館学資料・敦煌文献の処理、会計事務、欠本処理【补藏】、データ検査【校对】は正職員が担当し、現品検収・受入・登録などの定型業務は臨時職員が行う。
年間の受入量は図書約64万冊、CD-ROM約3万枚である。入手手段は納本、購入、寄贈の3種類で、ほとんどの資料について複数部数を収集する。一般図書の場合、基本的な収集部数は、納本3部、購入2部の都合5部であるが(図2.6A)、最大で6部まで受け入れる場合もある。その場合、受入れ順序によって処理が異なっており、例えば6部目が寄贈(図2.6B)もしくは納本(図2.6C)の場合は、蔵書として受け入れ、7部目以降は他の図書館に無償で提供する【调拨】。6部目が購入本の場合は書店に返却する(図2.6D)。
図2.6 収集経路と受入部数
納本される図書は、全国約580の出版社から国家図書館に直接送付される。納本率は約61%(1)である。新聞出版総署の行政規則では、出版後1か月以内に納本するよう定められているが、地方出版の場合は遅れることが多く、実際には3か月から1年を要している。納本部数は、定価100元未満が3部、100元以上及びセット価格1,000元以上が1部であるが、100元以上であっても、比較的安価な図書は3部納本されることが多い。
購入本の納品業者は毎年入札によって決定され、2008年現在は取次業者の中国図書進出口総公司が一括して納品している。納品業者は毎年更新されるのが原則だが、実績が良ければ1年に限って延長することができる。
基本的には2部を購入するが、定価500元以上の資料は、取次業者から送られてくるリストをもとに、1~2部を発注する。10,000元以上になると、業務管理処に報告書を提出し、さらに館長の決裁が必要となる。
出版後3か月を経過しても納品されない新刊書、欠本補充、立法・政策決定サービス部向けの推薦書、年鑑類などは北京国図書店から購入している。また、法律出版社と機械工業出版社の出版物については、試験的に両出版社から直接購入している。
個人や団体からの年間の寄贈受入数は約250冊である。受入にあたっては、正式出版物であることが第一条件となる。新聞出版総署情報センターのホームページ(2)で、図書のCIPデータに記されているチェック番号【CIP数据核字】を用いて検索し、当該データがヒットしなければ非正式出版物と判断してここでは受け入れない(3)。
また、出版されて5年未満の図書は最大6部、5年を過ぎた図書は2部のみ受け入れることを原則としており、これらを超過する場合は受け入れない。仮にこの条件を超えた部数が寄贈された場合は、蔵書としては受け入れずに、他の図書館に無償提供する(4)。献詞の記された資料を他館へ提供する場合、寄贈者の本意と反することもあるため、寄贈者と相談の上、その可否を決定する。
同一タイトルにつき複数部数を収集するため、資料を受け入れる際には、受入順序によって各部それぞれ異なった属性が割り当てられる。1部目が「保存本」、2部目が「基蔵本」、3部目が「閲覧本」、4部目が「貸出本」、5部目が「デジタル化」、6部目が「閲覧・貸出の代替本」である(図2.7)。
図2.7 受入資料の種別(図書)
保存本は永久に保存される資料で、本館一期館の保存本書庫に収められる。完全に保存用なので、他に複本が無い場合を除いて、原則として利用に供さない。
基蔵本の「基蔵」とは、「基本蔵書」の略で、長期的に保存しかつ利用にも供する資料である。本館一期館の基蔵本書庫に収蔵される。同一資料が3部以上ある場合は、出版されてから5年以内は、3部目以降のみを利用に供して、基蔵本は利用に供さない。5年が経過すると3部目以降は除籍され、保存本と基蔵本のみが残されるので、以降は基蔵本を利用に供する。なお、5年以内であっても同一資料が合計2部しかない場合は、基蔵本が利用される。
3部目は開架閲覧用で、出版されてから5年間、本館二期館の閲覧室に開架される。5年を過ぎると除籍され、状態の悪いものは廃棄され、状態の良いものは財政状況の厳しい地方の図書館などに寄贈される。
4部目は貸出本である。出版されてから3年間、本館一期館の館外貸出閲覧室に開架されて、利用者は手続きをして館外に借り出すことができる。3年を過ぎると除籍され、廃棄もしくは他の図書館に寄贈される。
国家図書館では、古典籍のみならず新刊書についてもデジタル化を進めており、この作業に5部目を使用する。
6部目は閲覧本や貸出本が破損した際の代替本として5年間、保管される。5年を過ぎて残ったものは、地方の図書館などに寄贈される。
到着した資料は現品検収の後、出版社別に区分して、ALEPH500で受入処理を行う。
重複調査をしたのち、新規受入の資料について簡略な書誌データを作成する(図2.8)。その際、全国図書館聯合編目センターのデータベースに既存データがある場合はダウンロードして利用する(5)。
図2.8 ALEPH500目録作成機能 簡略書誌データ
さらに、別システム【采访拟定系统】を用いて、書店の提供するデータを取り入れて簡略書誌データを作成する実験も行われており、将来的には実用化する方向で検討が進められている。
簡略書誌データの作成後、発注情報【订单】(図2.9)を作成し、さらに到着情報【登到】(図2.10)、個体情報【单册】(図2.11)を作成する。発注情報には入手方法(納本、購入、寄贈)、書店名、数量、価格などの情報を、個体情報には供用先の情報を入力する。これらデータを入力後、標題紙にバーコードを貼付し、蔵書印を押印して、受入処理が完了する。
図2.9 ALEPH500収集機能 発注情報
図2.10 ALEPH500収集機能 到着情報
図2.11 ALEPH500収集機能 個体情報
受入処理の完了後、1部目と2部目は、目録データ作成のため中国語図書書誌データ組に送られる。3、4、6部目は迅速に利用に供するため、中国語図書装備組でラベル貼付などの装備をした後、利用提供部門へ送られる。5部目はデジタル資源部にてデジタル化される(図2.12)。
図2.12 資料の流れ
受入時に簡略書誌データを作成した段階で、OPACに当該データが公開される。各々の処理過程でデータが更新されると、ステータスが随時「受入処理中【记到处理中】」「目録作業中【编目中】」「装備中【文献加工中】」と変更される。「書架にあり【在架上】」となれば利用者が利用可能である。「受入処理中」から「書架にあり」までの目標期限は1か月と定められている。
中国語図書の目録作成を担当するのは、中国語図書書誌データ組である。
基本規則は『中国文献編目規則』第二版(北京図書館出版社2005)に拠る。実務作業に当たっては、CNMARCの利用ガイドである『新版中国機読目録格式使用手冊』(北京図書館出版社 2004)や、その簡略版『中文図書機読目録格式使用手冊』(華芸出版社 2000)、及び事務細則『中文普通図書著録規則』などを使用している。
著者名典拠【名称规范】の細則については、内部刊行の『中国機読規範格式使用手冊 ;中文図書名称規範款目著者規則 ; 中文図書主題規範数据款目著録規則』(国家図書館図書採編部 2001)及び事務細則『規範控制簡述』を使用している。また、西洋人名は中国語訳の姓を標目形とするため(例えばCharles Robert Darwinは达尔文)、中国語訳に『世界人名翻訳大辞典』(中国対外翻訳出版公司 2007)を用いる。
目録データの作成に当たっては、2つの方法がある。1つは全国図書館聯合編目センターの総合目録データベースからダウンロードする方法【套录编目】、もう1つは自館作成【原编】である。詳細については2.1.5.(2)を参照。
図2.13 ALEPH500目録作成機能 図書書誌データ編集画面
著者名典拠で特徴があるのは、東アジアの人名については、標目形の姓と名の間を分かたない点である。その理由について複数の担当者に尋ねたところ、中国において人名を呼称する場合、姓のみで呼称することはなく、姓名をあわせた全称で呼ぶのが習慣のためという回答が多かった。同姓同名が多い中国においては、仮に姓名を分離したとしても、検索や差異化の観点からすると有効ではないという理由である(6)。
しかし、同様の呼称習慣を持つ台湾においては、例えば台湾国家図書館OPACの著者名標目は姓と名をスペースで区切っているなど、人名呼称の習慣は必ずしも標目形の姓名を分かたないことの積極的な根拠とは言い切れない。
図2.14 ALEPH500目録作成機能 著者名典拠データ
著者名典拠に関しては、国家図書館、中国高等教育文献保障系統(CALIS)、香港大学図書館長聯席会、台湾漢学研究中心の4機関が成員となり、中国語著者名典拠総合調整委員会【中文名稱規範聯合協調委員會】が毎年開催されている。同委員会のホームページ(7)では、参加4機関と米国議会図書館の著者名典拠データベースの一括検索プラットフォームを提供している。また、2008年11月に開かれた第6回会議において、著者名典拠の共同データベースを構築する方針が確認された。2009年には試験システム「中国語著者名典拠総合データベース検索システム【中文名称规范联合数据库检索系统】」が構築され、2010年に正式運用の予定である。今後は、標目形の統一化も含めた共通の典拠規則の制定について議論の進展が期待される。
件名【主题词】と分類【分类号】の付与には『中国分類主題詞表』第二版 (北京図書館出版社 2005)及びその電子版を用いる(図2.15)。
図2.15 『中国分類主題詞表』第二版 電子版
分類は、「中図分類号」と「排架分類号」の2種類を付与している。「中図分類号」は『中国図書館分類法』第四版(北京図書館出版社 1999)(8)に拠り、中国語図書書誌データ組による詳細な主題分析を経て付与される書誌分類である。もう1つの「排架分類号」は『中国図書館分類法簡本』第四版(北京図書館出版社 2000)に拠るもので、収集部門において付与される。これは「中図分類号」を簡略化したものである。
請求記号【索书号】は「排架分類号」の前方に出版年、後方に図書記号を組み合わせて生成される。図書記号は書庫資料の場合は一連番号を、開架資料の場合は著者姓名の漢字拼音(ピンイン)の頭文字3字を採用している。書庫資料については、中国語図書書誌データ組にて「中図分類号」を付与した後に、「排架分類号」に一連番号を加えた請求記号順に書庫へ納架される。この過程には相応の時間を要するため、迅速な資料提供には向いていない。そのため開架閲覧及び館外貸出に供する図書については、中国語図書収集組にて「排架分類号」を付与後、中国語図書書誌データ組を経由することなく閲覧部門へ資料を流して利用に供している。また、著者名に拠る図書記号を採用することで同一著者を集中化させブラウジングの利便を図っている。
(請求記号の例)
書名/著者名:清代报人研究 / 程丽红著
中図分類号:G219.294.9
排架分類号:G219.2
書庫資料の請求記号:2008/G219.2/68
開架資料の請求記号:2008/G219.2/clh
「排架分類号」は、排架を主眼としているため、主題分析にはさほど労力を割かず、CIPデータに記載されている分類をそのまま付与することが多い。ただし、2.1.3.(3)で述べた通りCIPデータには間違いが多く、特に分類については品質の低さが指摘されており、詳細な主題分析を経て付与される「中図分類号」と相違することが間々ある。しかし、「中図分類号」は書誌分類、「排架分類号」は排架分類と明確に区別されているため、両者間の違いが資料管理や閲覧業務に影響を及ぼすことはない。
また図書記号についても、書庫資料は一連番号、開架資料は著者名拼音(ピンイン)と違いがあるため、書庫と開架で請求記号が異なるが、書庫資料が開架資料になることはなく、またその逆も無いため、これについても問題は生じない。
逐次刊行物の収集整理業務は中国語逐次刊行物収集整理組が行い、雑誌と新聞とで担当が分かれている。
雑誌の収集整理業務は、組長1名、収集担当3名、目録担当4名、チェックイン担当12名、その他の業務5名で行っている。
継続タイトル数は約1万種、年間の受入部数は約38万冊である。正式出版物は網羅的に収集するが、非正式出版物は積極的には収集していない(9)。両者の区別については、制度上は出版物を統括する新聞出版総署の認可を得たものか否かであるが、現物から判断する際に指標となるのは、ISSNと国内統一刊号である。
中国国内のISSNは国家図書館内に設置されたISSNセンターで管理されており、ISSN組が実務を担当している。国内統一刊号とは中国国内の逐次刊行物に付与される記号で、「CN」の後に、規格で定められている行政区画番号(10)、一連番号、分類記号を加えて構成される。例えば、国内統一刊号「CN35-1139/J」の場合、「35」は福建省、「1139」は福建省のなかの一連番号、「J」は『中国図書館分類法』の芸術類を意味する。
なお、逐次刊行物にはさらにもう1つの記号が付与されている場合がある。郵便発送番号【邮发号】と呼ばれるのもので、郵便局が定期購読を取り扱っているタイトルにはこの番号が付いている。
収集経路は納本と購入の2種類である。行政規則で定められた納本部数は3部であるが、完全に納本されるタイトルは全体の約50%である。その他は、部数不足のタイトルが約30%、納本漏れが約20%である。督促をしても納本されないものは購入して補うほか、さらに複本が必要な場合も購入で収集している。
購入タイトルについて、毎年1度、選定作業を行う。取次書店8社(11)から送られてくる約6万件の雑誌データを精査し、重複を排除したのち、継続と新規に区別してタイトルを決定する。購入に係る年間予算は約300万元、新規タイトルは毎年500件~600件、打ち切りタイトルは約100件である。タイトル決定の後、購入タイトルを取次書店に通知し、価格交渉をして正式に発注を確定する。
ALEPH500で、発注情報【订单】を作成する(図2.17)。同一タイトルを納本及び購入の2つの経路で入手する場合は、それぞれの経路ごとに発注情報を作成する。その際、書店情報に、納本分は出版者コードを、購入分は書店コードを入力し、「収集方法【采访方式】」に納本と購入を区別するコードを入力する。さらに、それぞれの発注データごとに、刊行頻度に基づいて1年間に予測される数量分だけ、受入用データを自動生成する【建立单册】(図2.18)。
図2.17 ALEPH500収集機能 発注情報の作成
図2.18 ALEPH500収集機能 受入情報の作成
2008年までは、継続タイトル約1万種について、すべて手作業で処理を行っていたため、かなりの時間と労力を要していた。そこで、ALEPH500のサブシステムとして、APSS(ALEPH Preordering System for Serial)が開発され、2009年分からはバッチ処理にて自動処理が可能となった。タイトルリストのデータを流し込み、継続タイトルデータと突き合せをして、修正の必要のないデータについては、自動で受入用データの予測作成まで行う機能である。これにより労力の大幅な削減、並びにこれまで脆弱だった統計機能の向上が実現された。
到着した資料は、一般雑誌を人文社会科学・自然科学の2分野、紀要類を人文社会科学・自然科学の2分野、合わせて4分野に粗分けする。次にタイトルの頭文字の筆画数別に分類した後、さらに同一筆画数の中を「てん、よこ、たて、はらい【点・横・竖・撇】」の起筆別に細分して、同一タイトルを集中させる(図2.19)。その後、筆画数ごとに定められている担当者が、ALEPH500でチェックイン登録【记到(登到)】を行う(図2.20)。チェックイン時に新着資料が発見された場合は、目録担当者に回し、書誌作成を行った後に、チェックインする。
図2.19 チェックインの流れ
図2.20 ALEPH500収集機能 チェックイン画面
発注情報の作成時に、年間の受入用データを予測して作成済みのため、チェックイン時には当該巻号を選択して、バーコードを読み込ませるだけで、受入順序に基づいて各個体の属性が決定され、個体情報として登録される(図2.21)。
図2.21 ALEPH500収集機能 個体情報の入力
図2.22 受入資料の種別(雑誌)
1部目と2部目はそれぞれ保存用と基蔵用で、チェックイン後に事務室に隣接する仮書庫【中文期刊周转库】に筆画順で納架する。3部目は閲覧用で、本館二期館の雑誌閲覧室【北区中文期刊区】で開架提供される(図2.22)。継続誌約1万タイトルのうち、約7,000タイトルが開架提供されている。2年が経過すると、1部目と2部目を製本し、1部目は保存用として、2部目は基蔵用として、正書庫【书刊保存本库、中外文期刊库】へ送られる。製本時には、ALEPH500にて、合冊製本の単位で個体データを再生成する【挂接】。開架用は、1、2部目の製本が終了した後(約2年半後)に除籍され、以後は基蔵用が利用に供される。4部目以降が到着した場合は、破損代替用及び他の図書館への無償提供用として【中文期刊流通本】、仮書庫内に別置して保管する【中文期刊复本库】。
チェックインならびに仮書庫への納架時には筆画順で、開架書架及び正書庫では請求記号順で排列される。これは、『中国図書館分類法』が制定される以前は、正書庫の排架も含めて全てが筆画順で処理されていたことの名残である。同分類法の制定後は、正書庫内の排架は分類順に改められたが、チェックイン作業は筆画順のまま現在まで至っている。
全体的な作業工程の観点からすると、効率性に欠けるようにも思えるが、複本処理の効率化のためには、相応の理由が考えられる。つまり、チェックイン前に可能な限り同一タイトルを集中化させ、常に同一の担当者がチェックイン処理することで、納入状況を容易に把握し、欠号督促のタイミングが計りやすい。仮に別の方法を採用した場合、同一タイトルの同一巻号が、別の担当者や異なるタイミングで処理される可能性があり、納入状況の同期的な把握が難しい。複本の処理を前提に考えた場合、この方法のほうが効率が良いという判断である。また、作業の流れを根本的に変更することのコストと、変更によって得られる効果とを比較して考えても、現状維持が得策というのが現場の意見である。
基本規則は『中国文献編目規則』第二版(北京図書館出版社 2005)に拠る。実務作業に当たっては、CNMARCの利用ガイドである『新版中国機読目録格式使用手冊』(北京図書館出版社 2004)のほか、『中文連続出版物機読目録著録細則』(華芸出版社 2001)を使用している。
請求記号は雑誌【期刊(qi kan)】を表す「Q」に続けて、「分類」「一連番号」「開始巻号」「開始年」から成る。
(請求記号の例)Q/I2/436/总1-/1984-
図2.23 ALEPH500目録作成機能 雑誌書誌データ編集画面
新聞の収集整理業務は、副組長1名、収集担当1名、チェックイン担当7名で行っている。
2008年末現在で、所蔵する総タイトル数は約1万種、継続タイトル数は約1,100種である。2008年に中国国内で出版された新聞の総タイトル数は1,943種(12)であるから、収集率は56%にとどまっている。
中国国内で発行される新聞は、その発行地域と機関によって、①全国級、②省・部級、③地・市級、④県区級の4種に大別される。2008年の統計に拠ると、発行数は①224種、②826種、③877種、④16種である。
国家図書館の資料収集方針書では「国内の市、地、専区及び自治州以上で発行された各種の新聞をできる限り集める」と定めており(13)、これに拠ると①②③が該当することになる。つまり、ほとんどの新聞が収集対象となるのだが、実際には級別が曖昧なものや不明なものが多く、収集漏れの原因となっている。また、45%という納本率の低さ(14)も収集率の低さの大きな原因である。その理由としては、新聞社の納本に対する理解が低いこと、及び新聞社自身の構造変化が激しく、担当者との連絡体制が不安定になりやすいことなどが指摘されている(15)。
このように納本率が低いのに加え、納本部数が1部のみであること、さらに複本が3部必要なことなどから、新聞の収集においては、図書や雑誌など他の資料に比べて、購入による収集が大きな割合を占めている。
毎年年末になると、次年度の購入タイトルを決定するリニューアル作業が行われる。前年度の実績及び『中国報紙名録』『郵発報刊簡明目録』などの関連資料を基に、次年度に購入予定のタイトル一覧表を作成し、収集する部数ならびに入手手段を記入していく。
主な入手手段は、①郵便局、②新聞社からの直接購読、③配達員による配達、④赤帽【小红帽】、⑤納本の5種である。①郵便局分は、受け入れの仕分けの際に便利なよう、保存用を全国81局の一般郵便局に、閲覧用を近隣の魏公村局に分けて発注している。合訂本は②新聞社から直接購読し、北京の地元紙は③配達員により配達される。④赤帽は北京青年報社が運営する逐次刊行物の販売代理会社で、他の手段で入手できないものをここから購入する。
到着した資料は、チェックカードに受け入れ情報を記録して、紙面に青判を押印する。1部目と2部目はそれぞれ保存用と基蔵用で、チェックイン後は事務室に隣接する仮書庫に筆画順で納架する。ALEPH500では新着紙1部ごとのチェックインデータは入力しない。1か月ごとに紐で括ってまとめる際に(図2.25)、ALEPH500で個体データを作成する。2年が経過した後、製本して正書庫【报纸保存本库】へ納架する(図2.26)。
3部目と4部目は閲覧用で、本館二期館の新聞閲覧室で開架提供される。約1,100タイトルの継続紙のうち、295タイトルが開架提供されている。最初の2か月間は3部目を未製本のまま提供し(図2.27)、2か月後はそれらを廃棄して、4部目を簡略製本して(図2.28)、2年間、開架提供する。保存用と基蔵用が製本された後に除籍され、他の図書館に無償で提供される。
図2.24 受入資料の種別(新聞)
図2.25 月単位でまとめられた保存用紙
図2.26 製本済新聞
図2.27 開架閲覧用の未製本紙
図2.28 開架閲覧用の簡略製本紙
目録作成は雑誌とほぼ同様である。請求記号は新聞【报纸(bao zhi)】を表す「B」に続けて、「地域コード」「一連番号」から成る。
(請求記号の例)B/CN11/0118
図2.29 ALEPH500目録作成機能 新聞書誌データ編集画面
学位論文の収集整理業務は学位論文収集整理組が担当し、職員は合計12名で、うち収集担当4名、目録担当4名、校正担当4名である。
中国国内の博士論文は、「中華人民共和国学位条例暫定実施方法」(1981年5月20日国務院批准)第23条により、以下のように定められている。
第二十三条 審査を通過した修士論文及び博士論文は、授与機関の図書館に1部を提出し保存しなければならない。審査を通過した博士論文は、さらに北京図書館及び関係の専門図書館に各1部ずつ提出し保存しなければならない。
また、国務院学位弁公室により、人文社会科学分野の学位論文を中国社会科学院文献信息中心に、自然科学の学位論文を中国科学技術信息研究所に提出することが定められている(16)。
このように、中国における学位論文は、授与機関である各大学や研究機関、そして全国規模の所蔵機関である国家図書館、中国社会科学院文献信息中心、中国科学技術信息研究所で主に所蔵されている。
2007年現在、国家図書館における博士論文の所蔵数は約18万7千件である。2007年の受入数は約4万件で、前年比30%の伸び率である。1999年から始まった高等教育の拡大政策により、大学院生の数が急増しており、その結果、博士論文の生産量も飛躍的に増加している。なかでも理工系、医学系が多く、北京大学、清華大学、浙江大学、武漢大学、復旦大学、同済大学などが論文生産量の上位を占める。修士論文は近年になってから収集を開始し、年間の増加量は約9万件である。さらに、ポストドクター研究員が所属を移動する際に提出を義務付けられているポストドクター研究報告書も収集している。また、海外における中国人留学生の博士論文や中国に関する博士論文も収集の対象にしているが、UMIなどから購入できるもの以外の収集量は多くない。
学位授与機関から、教育部に対して授与者の名簿が提出され、教育部で取りまとめた後に国家図書館に名簿が送付される。名簿には姓名、題名、専攻分野、指導教官、発表時期、キーワードが記されている。国家図書館は名簿を受け取った後、各大学の学位授与部門や人事部門に連絡をして、北京市内の大学へは直接受け取りに行き、その他の大学からは郵送してもらう。ポストドクター研究報告書は大学から送られてくるほかに、著者自らが納本する場合もある。大学によっては、学位論文の認定条件として、国家図書館の受領証明書の提出を義務付けているところもある。
国家機密に係る学位論文、軍事大学の学位論文、秘密保持期限がある学位論文(17)については、納期が遅れることがあるものの、最終的な納本率は98%に及ぶ。
ところが、近年、中国科学院の内部規定が改訂され、2006年以降、同院所属の研究所が生産する博士論文が、同院所属の国家科学図書館にのみ送付されるようになった(18)。これにより、中国科学院から国家図書館に納本される博士論文の数が激減し、同院からの納本率が5%未満まで落ち込んでいる。国家図書館は、中国科学院に対して従来どおり納本するよう呼びかけ、両者間で妥協策を協議中であるが、2008年末現在は未解決のままである。
また、商業データベース企業の台頭による新たな問題も発生している。近年、中国学術情報データベース(CNKI)を初めとする商業データベース企業が、学位論文を大規模に購入して商品化を進めているのにともなって、著者自らが学位論文をこれらの企業に売却してしまい、本来、国家図書館へ納本されるべきものが送られてこないという事態が起きている。また、大学によっては、著者から提出されたうちの1部をこれらの企業に売却してしまい、国家図書館に納本しないというケースもある。いまのところ、根本的な対処策はなく、所蔵大学にコピーを依頼するなどして、欠本を補っている。
収集した学位論文は、冊子ノート及びエクセルにて、授与機関、授与時期、数量、受理日などの簡単な項目を記録した後、ALEPH500で受入記録を作成する。
博士論文の目録データは職員が作成し、修士論文の目録データ作成は外注している。現在は滞貨処理のため博士論文の一部分も外注しているが、これはあくまで滞貨解消のための一時的な措置である。
目録データの作成にあたっては、記述部分と分類・標目部分とで担当を分けている。ヨミ(拼音(ピンイン))は付与していない。また、著者名典拠は、既存データにはリンクするが、新規作成はしていない。
2.2.1.で述べたように、一般図書の場合は受入と同時にデータがOPACに表示されるが、学位論文は滞貨が多く、無用な混乱を避けるため、書誌作成が完了するまで非表示にしている。
目録データの作成と装備が終了した学位論文は、典蔵閲覧部へ供用され、閲覧に供される。秘密保持期限のある学位論文については、受け入れの際に保密室に別置し、制限期間が明けた後に目録を作成して公開する。秘密保持期限については、表示方法を定めた国家規格があるものの、大学によってその用語や年限指定が異なる場合もあることから、年限指定が曖昧な学位論文の公開に当たっては、必ず授与大学に確認をとり、公開許可の証明を得てから、公開をしている。公開の可否が曖昧なものは公開しない。
図2.30 学位論文閲覧室(閉架式)
国家図書館では、博士論文と修士論文のデジタル化を行っている。インターネット及び館内PCで利用可能である。ただし、本文データは最初から24ページのみが閲覧可能で、全文を閲覧するためには、来館して原資料を利用する必要がある。
その他、学位論文の電子データを提供している機関としては、国家科技図書文献中心、中国科学技術信息研究所、中国科学院国家科学図書館、そして各大学の機関リポジトリ、CNKIや万方数据などの商業データベースなどが挙げられる(19)。
図2.31 国家図書館の学位論文データベース
非正式出版物とは、市場に流通しない、いわゆる灰色文献に近い概念である。非正式出版物の収集については、近年、収集方針と収集体制の2つの側面から見直しが行われた。
収集方針については、2003年に改訂された収集方針書「国家図書館文献採選条例」において、それまで限定的だった収集範囲の拡大を行った。
まず、政府の非正式出版物について収集対象が明記された。重点的に収集するものとして、全国人民代表大会、政治協商会議、最高人民法院や最高人民検察院などの司法機関、国務院の各部・委員会及び直属機関が出版する公報、簡報、法律法規、業務報告、統計資料、資料集、調査成果などが挙げられている。
また、学位論文も非正式出版物の一種として位置付け、「納本の対象となる国内の教育・研究機関が授与する博士論文及びポストドクター研究報告書は網羅的に収集」し、「海外の中国人留学生の博士論文及びポストドクター研究報告書、ならびに国内の教育・研究機関が授与する修士論文は重点的に収集する」とした。
さらに、政府出版物と学位論文以外の非正式出版物については、省(市)級の機関、全国規模の学術団体、科学研究機関、重点大学、影響力の強い大企業、事業単位、権威ある出版機関などが編集出版したもの、及び学術性、資料性、参考性が高く収集する価値があるものを対象とする。
収集体制については、2008年3月に非正式出版物の収集を担当する中国語資料組を中国語収集整理部内に設置し、収集対象となる機関に対して「国家図書館における非正式出版物の収集について」と題する通知を行い、収集活動を開始した。同年7月から10月までの4か月間に収集した資料は約500種1,300冊である。担当者によると、出版状況を把握することの難しさ、さらには著作権や秘密保持の問題、檔案との境界が曖昧なものがあるなど、軌道に乗せるにはある程度の時間が必要ということである。
(前田直俊)
(1) 全国政协委员、国家图书馆馆长周和平呼吁:加快公共图书馆立法. 中国文化报. 2010-03-16, 第2版.
http://news.idoican.com.cn/zgwenhuab/html/2010-03/16/node_24311.htm [17], (参照 2010-09-02).
(2) “CIP中心”. 中国新闻出版信息网. http://www.cppinfo.com/zxgk/jgjs/cipzx/index.shtml [5], (参照 2010-09-02).
(3) 非正式出版物については2.2.5. を参照。
(4) 施設・蔵書ともに整備が遅れている西部地域の図書館に贈られることが多い。
(5) 全国図書館聯合編目センターについては2.1.5. を参照。
(6) 著者名標目の差異化については、以下を参照。
顾犇ほか. “「中国文献編目規則」と「国際目録原則」”. 渡邊隆弘訳. IFLA目録原則:国際目録規則に向けて, 4. ティレット, バーバラ B.ほか編. München, K.G.Saur, 2007, p. 439-454, (IFLA Series on Bibliographic Control, 32).
(7) 中文名稱規範聯合協調委員會. http://www.cccna.org/ [18], (参照 2010-09-02).
(8) 2010年8月に第五版が出版された。
(9) 継続タイトル約1万種のうち、正式出版物は約9,000種、非正式出版物は1,000種弱である。
(10) 《中华人民共和国行政区划代码》(GB2260-1995)
(11) そのうち主な取次業者は、海天华教、人天、国图书刊公司、郵便局の4社。
(12) 中国出版工作者协会ほか編. 中国出版年鉴 2009. 北京, 中国书籍出版社, 2009. による。
(13) 担当者の説明による。資料収集方針書については、「北京图书馆书刊采选条例」(1996)制定の後、2003年と2006年に改訂版「国家图书馆文献采选条例」が制定されたが、内部刊行のため未見。2003年改訂版の概略は、汪东波, 赵晓虹. 完善文献采选政策,建设国家总书库—《国家图书馆文献采选条例》修订概述. 国家图书馆学刊. 2004年第1期, p. 7-11,20. で紹介されている。
(14) 前掲注(1)。
(15) 牛春兰, 陈国英. 从报业发展看国家图书馆中文报纸馆藏建设. 国家图书馆学刊. 2004年第2期, p. 13-17.
(16) 赵嘉朱. 中国学位论文管理的历史回顾与前景展望. 中国社会科学院研究生院学报. 2006年第4期, p. 136-141.
(17) 秘密保持の種類や保持期間については、国家規格《文献保密等级代码与标准》(GB/T7156-2003)で規定されている。
(18) 担当者の説明による。
(19) 陈传夫ほか. 我国学位论文服务模式调查与服务机制创新. 图书馆. 2008年第4期, p. 59-62.
リンク
[1] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/3
[2] http://current.ndl.go.jp/files/report/no12/lis_rr_12_2.1.pdf
[3] http://archive.ifla.org/VII/s12/pubs/Survey-Asia_MiddleEast-report.pdf
[4] http://archive.ifla.org/VII/s12/guidelines-national-bibliographies-electronic-age.pdf
[5] http://www.cppinfo.com/zxgk/jgjs/cipzx/index.shtml
[6] http://olcc.nlc.gov.cn/proserv-sjkjs.html
[7] http://olcc.nlc.gov.cn/join-fwfw.html
[8] http://ifla.queenslibrary.org/IV/ifla72/papers/109-Gu-en.pdf
[9] http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/rdlt/fzjs/2009-03/25/content_1495035.htm
[10] http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/syxw/2008-10/29/content_1455985.htm
[11] http://www.legaldaily.com.cn/bm/2008-08/03/content_915042.htm
[12] http://www.cbip.cn/
[13] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/27
[14] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/34
[15] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/149
[16] http://current.ndl.go.jp/files/report/no12/lis_rr_12_2.2.pdf
[17] http://news.idoican.com.cn/zgwenhuab/html/2010-03/16/node_24311.htm
[18] http://www.cccna.org/