デジタル時代における英国図書館の文献提供:ビジョンと戦略 / マット・フレガー

デジタル時代における英国図書館の文献提供:ビジョンと戦略
Vision and Strategy:Document Supply in a Digital Age

マット・フレガー(英国図書館セールス・マーケティング部長)
Mat Pfleger(Head of Sales and Marketing, The British Library)

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はじめに

 本日,国立国会図書館において講演の場に立つことを大変うれしく思います。本日のセミナーのテーマである「デジタル時代のドキュメント・デリバリー・サービス」は,大変時宜にかなったものです。ドキュメント・サプライ産業,さらに広くいえば情報産業は,現在注目すべき変化を経験しており,私は英国図書館(BL)のセールス・マーケティング部長として,BL及びこの産業に関わるすべての提供者が,外部市場の進展を絶えず考慮して,研究に適した資源を確実に提供できるようにする必要があると意識しています。

 本日は,これらの変化に対してBLがどのように対応しているかについてお話したいと考えていますが,その前に,BLとはどのような組織か,何を行っている組織かについてお話しします。

スライド3−英国図書館とは

 まずは,多くの方がご存知であるBLのドキュメント・デリバリー事業から説明します。BLは,どこよりも長くこの事業に携わっており,130か国2万人以上の顧客に文献を提供しています。近年,BLはいくつかの事業に大きな変更を加えています。この点は後ほどお話しします。現在までのところ,BLはサービスのスピード,品質,柔軟性で有名といってもよいでしょう。BLの事業において最も注目すべき特徴のひとつは,幅広く深い専門的知識です。BLには,何年もの経験を積んだ7,800人の職員が所属し,BLの利用者に多大な利益をもたらしていると自認せずにはいられません。BLが提供する情報サービスのすべてが著作権法に準拠したものとなるように図書館が努力していることも、BLの顧客の役に立っているでしょう。我々は,出版産業の仲間たちと緊密に対話し,著作権者に対して必要な保護を行いつつ,協力してドキュメント・デリバリーの刷新を行っているのです。

スライド4−英国図書館の蔵書

 当然のことながら,優れたサービスには堅固な土台が必要ですが,BLの蔵書はまさに世界有数のものです。法定納本図書館として,我々の資源は,何千人もの人々−研究者,愛書家だけでなく,外交官,旅行者,科学者,経営者,宣教師,行政官も含めて−の関心や業績を著した比較的小さなコレクションを寄せ集めて構築されてきました。したがって,これらのコレクションは,それ自身が社会的・歴史的文書であり,また,国家の研究基盤を支え,ビジネス,教育,一般市民に提供される,比類なき情報資源です。

 今日,BLは,この上ない勢いで法定納本による資料の収集や,ドキュメント・サプライ用の蔵書の収集を進めています。印刷体,音楽資料,マイクロ資料,切手,手稿,絵画に加えて,現在増えつつある電子資料(オンライン出版物,ウェブサイト)の収集を行っています。このことにより,我々は米国議会図書館,フランス国立図書館,ロシア国立図書館,中国国家図書館と並んで世界の「5大図書館」のひとつを形成し,幅広い層の利用者に対してワン・ストップ・サービスを保証しているのです。BLは,蔵書の幅広さ,多様性に力点を置いています。我々は,ありとあらゆる角度から情報を提供していくことがもたらす非常に大きな価値を認識しているからです。そうすることによって,オーラル・ヒストリーのような下位の学問分野や社会科学のような広範な学問分野を支援しているのです。

スライド5−議題

 さて,少し話題を広げて,BLが「変化しつつある世界」という言葉をどのように考えているか,ということに話を移したいと思います。我々は,当然のことながらこの言葉の意味と,この言葉が一般的な側面と特殊専門的な側面を持つことを知っています。市場が根本的に変化しつつあるため,この変化を2つのグループに分けて分析したいと考えています。ひとつは「利用者」,すなわちBLの顧客及び潜在的な顧客です。そしてもうひとつは「影響を与える人と関係者」,すなわち出版者,協力者,競争相手と政策決定者です。

スライド6−情報はすべての人にとってアクセスしやすくなっているわけではない

 BLの利用者,または潜在的利用者の特徴の変化をはっきりさせることは,「関係者」の動きを分析するよりも難しいところがあります。これは,利用者の特徴の変化が広範囲にわたることと,伝統的な情報活用についての先入観に挑むところがあるためと思われます。

 まず明らかになっている点から述べますと,英国の成人のうち53%(約1,300万世帯)が家庭でインターネットにアクセスしていますが,1998年の時点では家庭でインターネットにアクセスしている人が9%(約220万世帯)であったことを考慮すると,情報へのアクセスはこれまでにない割合で伸びていることがすぐにわかります。この伸びは今後も続くであろうことを示す証拠も十分にあります。そしてこのことは,人々が情報にアクセスする手段を持っているというだけではなく,その手段が大変重要なものであることを示しています。最も人気のあるウェブサイトは,様々な主題やサービスをひとつの仮想屋根の下で提供する「混成」ポータルサイトです。これらのウェブサイトによって,だれでも「研究者」になることができ,情報へのアクセスや情報資源の間を動き回ることがこれまでより簡単になるのです。

 出版モデルの進展によって,民主化のプロセスが進行しています。オープンアクセス雑誌は日々成長していますので,このスライドに示した多くのオープンアクセス雑誌は,今では時代遅れになっているでしょう。オープンアクセスの将来にはまだまだ議論の余地がありますが,その成長は確実に,我々のドキュメント・デリバリー事業に対する意識を喚起するものになっています。

スライド7−顧客の期待の変化−原動力

 このことが顧客に与えるインパクトは劇的なものです。進んだ技術の強力な組み合わせは,人々が場所と時間を問わず求める情報にアクセスすることを可能とします。オンラインサービスが増加したことによって、顧客の行動に大きな変化がもたらされたのではないかというのが私の見解です。Googleのような会社が登場することによって,情報資源の発見が促され,また出版モデルの進展によって,伝統的には全く独占されていた情報資源に対して今までにないようなアクセスが提供されるようになっています。そして,これらによって,顧客の期待は劇的に高まっているのです。

スライド8−顧客の期待の変化

 文献提供者にとっては,こうした期待の増加が研究資料への迅速なアクセスに対する要求となって現れていることが最も重要なことでしょう。このことは,我々のドキュメント・デリバリーの顧客全体に当てはまることです。BLの顧客はまた,当然のことですが,明快な料金システムを期待しています。この期待は,BLがより多くのエンドユーザーに対して情報を提供するようになるに従って,さらに一般的になるでしょう。

 多くの情報をオンラインですぐに入手できるようになったことで,顧客は無料,有料の資料を自らのニーズに応じて選択し組み合わせることができ,ドキュメント・デリバリーへの期待も変化しています。BLの一連のサービスの最も大きな強みは,無料,有料の製品やサービスを幅広く含んでいる点にあります。例えば,BLはCollect Britainのようなオンラインサービスを無料で提供しているほか,購読方式のデータベースや伝統的なドキュメント・サプライ・サービスを提供しています。このことによりBLの顧客は,相互に補い合う幅広い製品の中から自らの情報ニーズに応じて選択をすることが可能になります。BLのサービスに備わっている選択性という特長は,BLの顧客が有する多様性を反映しているのではないかと私は思っています。

 迅速なアクセスとは,場所を問わず顧客が選んだところに情報を提供することに他なりません。研究活動に地理的国境はないとの認識がますます高まっており,ドキュメント・デリバリーは需要側のニーズに合った十分に柔軟なものであることが不可欠になっています。そして,ドキュメント・サプライを成功させるための必要条件は,効果的なナビゲーション・ツールを提供することです。それは単一のユーザー・インターフェイスであることが望ましいでしょう。これらの点については,これまでのBLの改革や,将来へ向けた戦略について詳しくお話するときに,再度触れることにします。

スライド9−研究者のニーズの変化

 情報利用の変化は,一般市民や「伝統的でない」情報利用者に限られるものではありません。より伝統的な学術研究者もまた,利用行動,期待,認識を変化させつつあります。このケーススタディは,2004年1月のLibrary Journal誌に掲載されたエルゼビア社の研究者とテノピア(Carol Tenopir)氏の論文に載っており,私やBLの同僚の目をひきました。その論文は,「Googleは競争相手か?」と題されており,エルゼビア社の研究者が図書館員と研究者に頼りになるオンラインサービスを3つ挙げてもらったところ,図書館員はScienceDirect,ISI社のWeb of Science,Medlineを挙げたのに対して,研究者はGoogle,Yahoo!,PubMedを挙げたというものです。この結果は,その意味するところにかかわらず,示唆に富んでおり,今日議論されているいくつかのテーマにすばらしい実例を提供してくれるのです。

スライド10−影響を与える人と関係者

 研究者のニーズ,期待の変化に加えて,我々が事業を展開している枠組みや市場の関係者もまた変化しており,これはドキュメント・デリバリーの提供者にとって重要な意味をもつものです。

スライド11−外部の市場の変化

 著作権法に関するEU指令は,商業ベースの研究に対して深い影響を与えています。英国では2003年10月に指令が適用されましたが,BLが現在出版者に代わって課している著作権料の平均は15ポンド(約3千円)です。商業ベースの研究を手がけている組織にとって,研究論文の全文を入手するコストは平均で2倍になっています。商業ベースの研究者は,情報サービスをかってないほどに厳しく選択するようになっており,欠乏よりもニーズに基づいて判断するようになっています。つまり,BLにとっては,企業が研究予算を調整するにしたがって,商業的な市場が縮小することになります。

 オープンアクセス運動は,まだ揺籃期ではありますが,伝統的な出版モデルやドキュメント・サプライの仲介者に対して重要な課題を突き付けています。オープンアクセスをめぐる議論は,英国では今年になって議会の特別委員会で科学研究出版物のアクセス可能性について調査が行われたこともあり、特に高次な政策方針になる様相を呈しています(CA1544参照)。皆さんは議論の内容をよく御存知でしょうし,また,その意義を評価されていることでしょう。アクセス可能性とコストという対をなす論点が政策決定者たちの議論の俎上にのぼっていることが何よりも意義深いことだと私は考えています。

スライド12−外部の市場の変化(2)

 本日の限られた時間では,市場に影響を与えているあらゆる変化について詳細をお話しすることはできませんが,ドキュメント・デリバリーに現在影響を与えており,かつ今後も影響を与えつづけるであろういくつかの鍵となる展開について,簡単にまとめてみたいと思います。

 英国高等教育界に属するBLの長年の顧客は,出版者と「ビッグ・ディール」と呼ばれる契約を取り交わしてきました。確かに,BLの顧客の中にはそれが支払いに見合う価値を持つものなのかどうか疑問を持つ人もいますが,ビッグ・ディールは英国の大規模な大学に対するBLの情報提供に間違いなく影響を与えてきました。以前は大学ともっと包括的な連携関係にありましたが,現在では一般的に,BLはビッグ・ディールに含まれていない情報資源を提供するようになっています。

 出版者はこれまで論文単位の文献提供にやや慎重でしたが,従量制の”Pay As You Go”モデル(論文一部売りモデル)を導入したことによって大きく姿勢を転換しました。大規模な出版者はみな従量制のサービスをウェブを通じて直接に提供するようになっています。これによって,出版者以外の文献提供者は,ドキュメント・サプライ市場をさらに侵食されているのです。

 出版者はまた,購読モデルへの取組みを修正し,市場の力学を変えています。英国化学会(RSC)は2004年,英国情報システム合同委員会(JISC)を通して学術雑誌アーカイブを全国の高等教育機関に一大学あたり年間500ポンド(約10万円)で提供できるようにしました。

 最後に,Googleのような巨大なコンテンツ・アグリゲータが既に出現しています。国立図書館と出版者は,巨大なコンテンツ・アグリゲータの出現が情報連鎖における自らの役割にどう影響するか,また,強力な新規市場参入者とともにどのように活動すべきかを早く決定する必要があるでしょう(CA1564参照)。つい先月,Google Scholar(E273参照)のサービスが開始され,ロンドンでのデータベース展示会において,従来からの関係者の注目を浴びました。Google Scholarはまだベータ版ではありますが,ここには,現在の市場において主役の座を占めようとするGoogleの意思が現れているのではないかと思います。

スライド13−これらは英国図書館にとってどのような意味を持つか?

 では,これらのことは英国図書館にとってどのような意味を持つのでしょうか? 私の考えでは,それらが意味するところは深く,我々は戦略を根本的に問い直す必要があります。我々がすべての答えを持っているという印象を与えたくはないのですが,はじめに問題提起をすることは,将来のビジョンと戦略を系統立てて表すために重要なステップであると考えています。

 おそらく,最も大きな問題は,どのようにすれば我々がGoogleとともに育ってきた「デジタルに詳しい」世代のニーズを最大限満たすことができるかということでしょう。誰でも研究者になれる世界,何百万もの組織が様々な方法で情報を提供する世界において,従来の情報提供者が果たすべき役割は何か,また何が我々にとっての成功を意味するかということを真剣に考える必要があります。

 また,情報価値の連鎖の中でどこに焦点を置くべきか,データのような従来にないタイプの情報に対して我々はどのような役割を果たすべきか,そしてまとまりのあるコレクションを提供し,コンテンツ・デリバリーの革新的な製品やサービスを創り出すためにはどのような相手と協力すべきかといった問題もあります。そしてもちろん,図書館がデジタル・コレクションとモノとしての蔵書の両方をいかに効果的に管理すべきかといった問題も,絶えず存在しているのです。

スライド14−課題

 ここまでは,背景についてお話ししてきました。ここからは戦略に話を移し,BLがこれら多くの課題にどのように取り組んでいるかについてお話します。

スライド15−われわれはどのように応えているか?

 まず,単にドキュメント・デリバリーの提供者としてだけでなく,組織として,我々が5年後にどのようになりたいのかについて明確なビジョンを持つことが重要です(CA1425E349参照)。多くの方は,BLが巨大で多様な組織であることを十分に認識されていることでしょう。改革を戦略どおりに明確に進めていくことが我々の最も難しい課題のひとつとなっています。

 我々の使命は,その目的を問わず研究したいと思っている人々を支援することです。この使命は我々のドキュメント・デリバリー事業にとって特別な意味をもっています。我々は,この使命に沿って,世界規模のドキュメント・デリバリー事業を運営できるように,アクセス可能性と効率性に重点を置いています。

 BLでは,3年前から改革に着手し,ベストプラクティス(最良の実践例)に基づいたビジネス・リエンジニアリングを進めています(CA1424参照)。これについては後ほどさらに詳しくお話しします。また,事業の運営面を改善するだけでなく,抜本的なリストラクチャリングと組織文化の変革を行う必要がありました(CA1550参照)。BLは公共の利益と営利事業の両方を支えるための公的組織です。BLの職員がこの改革の中で欠かせない役割を果たし,事業の近代化に寄与したということは重要なことです。この改革は大きな成功を収め,今年(2004年)の始めに英国産業連盟(Confederation of British Industry)から「フィット・フォー・ザ・フューチャー(Fit for the Future)」賞を頂いたことを誇りに思っております。

 改革の結果は今日のドキュメント・デリバリー事業に表れています。すべての資料が元のフォーマット形式を問わず電子的に送付されます。直ちにダウンロードすることができる資料は3,000タイトル,論文はエンドユーザーに電子的形式で直接に送付され,うち80%以上が24時間に届けられます。

 来年は顧客のインターフェイスを向上させることが重点課題になります。近く”British Library Portal”を公開し,従量制のサービスを含めあらゆるサービスへの継ぎ目のないアクセスを提供します。また,顧客サービスを平易なものとし,真のワン・ストップ・サービスの提供を保証しようとしています。

スライド16−近代化プログラム 第1段階

 ここで,BLの近代化・変革プログラムのそれぞれの段階について,鍵となる変化に焦点を当てながら,詳細を見ていくことにします。

 第1段階は,2年間で170万ポンド(約3億3千万円)を投資し,BLの文献提供サービスの主として運営に関する側面に焦点を当てたものです。コピー機からスキャニング・ステーションへの移行と新たな注文管理システムRelaisの導入がこの段階の鍵となるできごとです。BLが現在対応しているあらゆる文献提供の要求は,送付方法にかかわらずスキャンされます。この投資により,BLの職員の作業環境がはるかに良くなっただけではなく,効率化の結果,これまで2〜5日かかっていた処理に要する標準時間が大幅に短縮されるという効果も出ています。従来は郵送,ファクシミリ,あるいはArielによって提供していたのに対して,電子的形式による提供が増加する傾向にあります。

スライド17−サービスを高める 第2段階

 市場に対して電子的送付という新しい方法を導入するのは容易ではありません。英国の国立図書館として,我々は著作権法を厳格に適用しています。また,顧客に対して迅速かつ費用対効果の高いサービスを提供しながらも,あらゆる機会において著作権者を保護しようとしています。したがって,どのような方法を取るにしろ,著作権の濫用に対する出版者の懸念に対応するとともに,研究者が注文した資料を入手して読むにあたってプラグインや特殊なソフトウェアのインストールを必要としないものでなければなりません。適切な方法を見つけるために,BLは学協会出版者協会(ALPSP)やエルゼビア社,アドビ社といった関係者や多くの顧客と協働し,業界のニーズを満たす手法を開発してきたのです。

スライド18−我々は何を創りだしたか

 Secure Electronic Delivery(SED)(CA1545参照)は,2004年1月に提供を開始し,月を追うごとにBLや顧客にとって益々重要な送付手段となりつつあります。SEDは,必要に応じて,2時間以内に1億を超える論文へ顧客のコンピュータからアクセスすることを可能とします。また,著作権者の保護と同時に,研究者に対しては世界最大規模の所蔵雑誌へ迅速かつ効果的にアクセスする方法を提供します。

スライド19−アクセス可能性

 2004年1月のSEDの提供開始と,首尾よく進んだドキュメント・サプライセンターの運営面の近代化に続いて,2004年のBLは,蔵書のアクセス可能性を一層高めることに注目しました。2005年には,科学技術・医学(STM)の蔵書に対する新しいインターフェイスの提供を開始する予定です(E337参照)。これは従量制サービスと付加価値のついた購読サービスを組み合わせることによって,より多くの人々にBLの蔵書を利用可能にすることを目標としたものです。将来的には他の蔵書や文献も含まれることになるでしょう。

 図書館が情報提供の最前線に留まるためには,近代化された運営,新たな送付手段,新しいインターフェイスだけでは不十分です。将来の発展を導く一貫したビジョンと戦略が必要なのです。

スライド20−ビジョンと戦略

 我々のドキュメント・デリバリー戦略が図書館の包括的なビジョンに合致したものであることについては,既にお話ししました。ここでは,これが我々の事業にどのような意味をもつのかについて,さらに詳しく見てみたいと思います。我々は,可能な限り多くの人々に蔵書への迅速なアクセスを提供することを目指して,適切な技術とコンテンツ・パートナーを見出そうとしています。したがって,今後数か月間は,コンテンツと技術の両面でパートナーを見出し意思疎通を図っていくことで図書館の目標の達成を助け,将来の情報流通の連鎖の中で明確な役割を果たせるようにすることに重点を置く予定です。また,我々のサービスをより使いやすいものにすることを目指しており,図書館の蔵書への単一インターフェイスを導入することを考えています。また,綿密な市場調査を継続的に行って,顧客のニーズを満たし期待に応え続けようとしています。そして,我々は選ばれる図書館になることを目指しています。簡単なインターフェイスで蔵書のアクセス可能性を高めることで,産業の中で選ばれるパートナーとなりうると考えています。偏狭な見方かもしれませんが,BLは最後の砦として利用されることが多すぎる気がします。実際には我々は最大規模のSTM分野のコレクションを他のどの機関よりも速く市場に提供することができるのです。最後に,我々は効率性を追求し続けなければなりません。進展する技術を取り込み,業務をよりよく行う方法,例えば,最初からデジタル形式で作られた資料を電子的に送付することなどを考えていかなければなりません。

スライド21−課題

スライド22−我々は5年後にどうなっているか?

 市場がいかに急速に変化しているかについては,既にお話ししました。変化の中には,従来の方式にとって脅威となるものもありますが,多くは新しい機会を提供するものです。したがって,2010年を見据えて我々がどうなっているのかを予測することはほぼ不可能でしょう。しかし,我々は進まなければなりません。実例として,BLの文献提供事業が5年前にどうであったか,現在はどうか,そして5年後にはどのようになっているか,その主要なところをいくつか示しておくと役に立つのではないかと思います。

 5年前,すべての資料はその元々のフォーマット形式にかかわらず複写されたものか印刷物であり,ハードコピー,ファクシミリまたはArielによって送付されていました。送付には通常5日間かかっており,多くの顧客サービスチームが対応していました。

 現在,すべての資料は電子的にスキャンされたものか直接ダウンロードできるものになっており,電子的形式で送付することができます。送付にかかる時間は通常2日となり,統合された顧客サービスチームを有するとともに,新たなインターフェイスを開発しているところです。

 そして5年後にはどうなっているのでしょうか。資料の入手の点では,最初からデジタル形式で作成された資料を図書館で保有し,直接ダウンロードして入手することができるようになるでしょう。我々は,電子的形式で入手することができない資料に限りスキャンして保有することになるのです。送付にかかる時間は通常数時間となり,単一のインターフェイスができているのでしょうが,どのようなものになっているかはここでは言わないでおきましょう。

スライド23−前進

 講演を終えるにあたり,あらゆる変化が現在起こっていますが,情報産業にかかわるすべての人にとって,困難ながらもやりがいのある刺激的な時期であるということを言っておきたいと思います。この変化のペースは衰える兆しを見せておらず,逆にますます加速しています。研究コミュニティは拡大を続け,研究者の要求と期待は増え続けますが,これらのニーズを予測し,費用対効果が高くかつタイムリーな方法で応えることができる提供者が成功するというのが現実です。

 文献提供者としてのBLの役割は変化しつつあり,今後も変化を続けるでしょう。私は,BLの発展は現在,一貫した方針に導かれていると確信しています。この方針によって,事業をどのように運営するかが規定され,資料をどのように送付し,顧客とどのようにかかわっていくかが規定されているのです。また,BLはこれまでにさまざまな進歩を見せてきましたが,まだまだやるべき仕事はたくさんあると感じております。特に,将来に向けて適切な連携協力の機会を見出していかなければならないでしょう。

 本日,BLの代表としてこのような重要なセミナーに出席し,お話をさせていただく機会を私に与えてくれた館長に,改めて感謝します。皆さんが私の講演に興味を持ち,このあとの質疑応答の時間にいろいろな質問を頂けることを楽しみにしております。

 ありがとうございました。



書誌事項:マット・フレガー. デジタル時代における英国図書館の文献提供:ビジョンと戦略. デジタル環境下におけるILL,ドキュメント・デリバリーとその運用基盤. (図書館研究シリーズ No.38). 2005. 147-155.