フセイン政権時代のイラク記録文書の「あるべき場所」をめぐる論争

フセイン政権時代のイラク・バース党の記録文書の「あるべき場所」をめぐり、イラク国立図書館・文書館(INLA)およびイラク文化省と、イラク記念財団および米国のフーバー研究所とが対立しています。当該の記録文書は、フセイン政権崩壊後に、イラクから米国に亡命して活動している研究者によって発見され、当時の政府関係者から、イラク記念財団での管理を任されたものです。ところが、その後の紛争の激化により、当該の記録文書の性質(フセイン政権に協力的だった人々の氏名が明示されている)を鑑み、当該研究者が政府関係者に掛け合って、一時的に米国に移転することになりました。これが現在、フーバー研究所に保管されており、デジタル化されて9~10月に一般公開される予定になっています。

これに対し、INLAおよびイラク文化省は、イラク記念財団に公的に許諾を出したわけではない、記録文書はINLAが保存すべきものでありINLAにはその能力がある、として、フーバー研究所に対し記録文書を返還するよう要求しています。米国・カナダのアーキビストの協会も、INLA側の主張を支持し、「これは1907年のハーグ陸戦条約で禁止されている略奪に当たる」としています。一方で、研究者側は、「イラク記念財団は政府関係者から許諾を得て活動を行った」「イラクに戻したら破壊される恐れが高い」として、返還を拒否しています。「こうした文書を誰が見ようとするのかを考えると、(報復行為を招く恐れがあるので)イラクに戻さない方がよい」とする有識者もいます。この論争について、New York Times紙が詳しく報じています。

Iraqi Files in U.S.: Plunder or Rescue? – New York Times
http://www.nytimes.com/2008/07/01/books/01hoov.html

Saddam papers come to Bay Area – Hoover Institution
http://www.hoover.org/pubaffairs/whatsnew/20497114.html

Saad Eskander’s open letter to the Hoover Institution – Library Juice
http://libraryjuicepress.com/blog/?p=439
(INLAのエスカンダー館長がフーバー研究所に送った抗議の書簡の内容です)