Elsevier社のアクセス制限がドイツの研究者の出版行動と引用行動に与えた影響(文献紹介)

プレプリントサーバarXivに2021年5月25日付で、ドイツ経済学中央図書館(ZBW)のNicholas Fraser氏らが共著で執筆した文献“No Deal: Investigating the Influence of Restricted Access to Elsevier Journals on German Researchers’ Publishing and Citing Behaviours”が公開されています。

2014年にドイツでは、大手出版社とのナショナルライセンス契約を交渉するプロジェクトDEAL(Projekt DEAL)が設置されました。DEAL とElsevier社の交渉は2016年に開始されましたが、2018年に決裂しました。この結果、約200のドイツの研究機関がElsevier社との契約を取り止め、2018年7月以降これらの機関のElsevier社のジャーナルへのアクセスは制限されました。

論文では、このアクセス制限が研究者の出版行動と引用行動に与えた影響が分析されています。結果として、DEAL参加機関の論文のうちElsevier社が占める割合は、2015年には25.3%でしたが、2020年には20.6%に減少していることが報告されています。DEAL参加機関の著者の論文が引用する論文のうちElsevier社のジャーナルの論文が占める割合は2018年以降に年々減少していますが、その減少は出版に占める割合の減少と比較すると小さいことが述べられています。

結論として、Elsevier社のアクセス制限はDEAL参加機関の研究者がElsevier社のジャーナルで出版する意欲を減少させましたが、研究者がElsevier社の論文を引用できるかという点については大きな影響を与えていないと指摘しています。

Fraser, Nicholas. et al. No Deal: Investigating the Influence of Restricted Access to Elsevier Journals on German Researchers’ Publishing and Citing Behaviours.
https://arxiv.org/abs/2105.12078
https://arxiv.org/pdf/2105.12078.pdf
※二つ目のリンクが文献のフルテキストです。[PDF:34ページ]

参考:
Elsevier社、独・プロジェクトDEALの同社との購読契約中止に伴うドイツ研究コミュニティへの影響に関する委託調査の結果を公開
Posted 2019年8月28日
https://current.ndl.go.jp/node/38892

スウェーデン王立図書館(NLS)が実施したBibsamコンソーシアムによるElsevier社との契約解除の影響に関する調査結果が公開される
Posted 2019年8月27日
http://current.ndl.go.jp/node/38882

独・Max Planck Digital Library、プロジェクトDEAL支援のため、2018年12月31日をもってElsevier社との購読契約を中止すると発表
Posted 2018年12月20日
https://current.ndl.go.jp/node/37268

ドイツ・DEALプロジェクト、2017年末をもってElsevier社との契約を延長しない国内機関のリストを公開
Posted 2017年8月28日
http://current.ndl.go.jp/node/34579

Elsevier社とドイツとの全国ライセンス契約交渉、再び不調
Posted 2017年3月29日
http://current.ndl.go.jp/node/33735

ビッグ・ディールで論文への引用行動は変化したか?
Posted 2007年5月15日
https://current.ndl.go.jp/node/5847