コロナ禍での米国の図書館員の労働市場(記事紹介)

米国図書館協会(ALA)が発行するamerican libraries誌の2021年5月号に、コロナ禍での米国の図書館員の労働市場を紹介する記事“The Library Employment Landscape”が掲載されています。

以前から米国の図書館員の労働市場は競争が激しいものの、コロナ禍から1年経過して、雇用状況は更に厳しくなり、新規採用での志願者にとってはより不安定なものになっているとしています。そして、シラキュース大学の図書館情報学大学院の事例として、修了生の就職率が、2018年の92%から2019年には80%となり、2020年には60%台前半まで落ち込んだことが紹介されています。また、ALAの求人・求職サイト“JobLIST”においても、2020年3月に求人が激減し、夏にかけて過去の不況時よりも急激にかつ深刻に縮小し、通常の4分の1程度となったこと、特に新人レベルや中堅レベルで減少したことが紹介されています。一方で、冬になるにつれ状況が改善し、例年と比べて60%から70%になっているとしています。さらに、ラトガース大学図書館情報学大学院の修士課程を修了し、図書館の求人情報に関するメーリングリスト・ウェブサイトを運営しているNaomi House氏の、2020年2月下旬から、新しい求人広告が出なかっただけでなく、多くの大学・公共図書館で一時解雇が行われたとの発言が紹介されています。

その他、

・コロナ禍により、就職の条件として、家族の近くに住みたい等の条件が新たに加わって、就職状況に影響を与えていること

・2008年の経済危機で一時解雇が行われた際には、退職しない図書館長等の管理職は忙しくなったのだが、今回は、感染症のため、健康上の理由で図書館長等が退職する事例が増えていること

・書誌作成やバーチャルレファレンスといったリモートで可能なものもあるものの、コロナ禍によりインターンシップ・実習・ボランティア等で勤務経験を積む機会が失われたこと

・図書館情報学大学院修士課程の定員を減らすべきかどうかという問題が提起されていることと

等も紹介されています

最後に、2021年1月以降、新たな会計年度が始める中で求人情報が戻ってきており、最初に管理職レベルの求人が大量に戻り、その後、多くの図書館員を雇用する組織が続き、最近では修士号を必要としない職員の雇用が増えてきたとし、その背景として、ワクチン接種が進んだことや、恐れていたほど財政が急激に落ち込んでいないことが分かったことがあるとのNaomi House氏の発言が紹介されしています。今後の予測として、Naomi House氏は、回復はどこかで横ばいとなり、2022年は通常の約80%程度になるのではないかと推測しています。

american libraries May 2021
https://americanlibrariesmagazine.org/magazine/issues/may-2021/
https://americanlibrariesmagazine.org/wp-content/uploads/2021/04/0521.pdf
※二つ目のリンクはPDF版です[PDF:60ページ]。

The Library Employment Landscape(american libraries)
https://americanlibrariesmagazine.org/2021/05/03/library-employment-landscape/

参考:
オーストラリア図書館協会(ALIA)、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための休館等により収入が減少している図書館職員を支援するための救援基金を設立
Posted 2020年4月2日
https://current.ndl.go.jp/node/40679

韓国図書館協会、新型コロナウイルス感染症の拡大をうけ意見書を公表:安全を保証しないままで図書館サービスを強制しないこと、非正規雇用職員・中止となったイベント講師への補償、オンラインサービス拡大のための施策等を要求
Posted 2020年3月25日
https://current.ndl.go.jp/node/40592

※参考を追加しました(2021/5/12)。