地元の著者の作品を蔵書の対象とし利用者にとって発見しやすくするための課題:カナダの公共図書館を対象とした調査(文献紹介)

2021年5月4日付で刊行された、“Pathfinder: A Canadian Journal for Information Science Students and Early Career Professionals”2巻2号に、カナダ・アルバータ大学図書館情報学大学院のRynnelle Wiebe氏による論文“Inclusion and Identification of Locally-Authored Items in Library Collections”が掲載されています。

本文献では、地元の著者(作家)の支援の一環として、公共図書館が、そのような著者の作品を、蔵書に含めているか/利用者に発見しやすくするようにしているか、を把握するため、ブリティッシュコロンビア州・アルバータ州・サスカチュワン州の12館を対象に、蔵書構築方針とメタデータの分析を行ったものです。

蔵書構築方針の分析では、蔵書構築方針で「コミュニティの情報ニーズ」「コレクションの多様性」を重視していることが、地元の著者の作品を収集する可能性を示しているものの、「地域の関心や重要性」を蔵書構築方針で直接言及してるのは6館しかなく、また、「重要性」を明確に定義していないことが、解釈の違いをうみ、収集の機会を困難にしてしまっているかもしれないとしています。また、蔵書構築方針が、質・価値・書評を重視していることが、自費出版を選択することが多い地元の著者の作品の収集を妨げる可能性があるとも指摘しています。

また、メタデータの分析では、地元の著者を識別するための一貫性のある方法がないことが、利用者が地元の著者の作品を検索し識別することを困難にさせるといった悪影響を与える可能性を指摘しています。

以上を受けて、本文献では、専門家による書評に頼るのではなく、利用者が著者等について議論したりランク付けできるソーシャルメディアツールを活用したり、ボランティアによる書評委員会を設ける等して、蔵書構築方針を大幅に変更することなく、地元の著者による自費出版による作品も蔵書に含めるようにすること提言しています。

また、地元の著者の作品の発見可能性を高めるためのメタデータの活用については、今後の研究課題であるとしています。そして、MARCレコードやオンライン目録のメタデータを使って地元の著者をより良く識別するためのガイドラインやベストプラクティスが必要であるとし、地域や都市別の著者のオンラインリストを作成することや、目録のレコードをコンソーシアム内で共有する館の場合には各館独自の請求記号を活用することが事例としてあげられています。

Wiebe, R. Inclusion and identification of locally-authored items in library collections. Pathfinder: A Canadian Journal for Information Science Students and Early Career Professionals. 2021, 2(2), p. 18-34.
https://doi.org/10.29173/pathfinder37