参考文献リストの変化の定量的な観察に基づく査読の影響の研究分野別分析(文献紹介)

プレプリントサーバarXivに2021年2月5日付で、独・マックスプランク人口学研究所(MPIDR)のAliakbar Akbaritabar氏とドイツ高等教育科学研究センター(DZHW)のDimity Stephen氏による共著文献“A Disciplinary View of Changes in Publications’ Reference Lists After Peer Review”が公開されています。

同文献では、査読が学術論文にどのような影響を与えるかについての考察が行われています。著者らは従来このような研究が社会科学分野と医学分野に偏っていたことを受けて、複数分野を対象とする研究を試みました。Digital Science社のディスカバリープラットフォームDimensionsを用いて、約6,000件の学術論文を対象に、査読を経る前のプレプリント版と査読を経て出版社から公開された版とを照合し、参考文献リスト(Reference Lists)の変化の定量化を実施しました。また、オープンアクセス(OA)出版社のPLOS刊行の雑誌に掲載された565件の論文の本文のセクションごとの参考文献の変化や、無作為抽出した98件の論文への変化の理由等を検討するための定性分析も行っています。

分析・検討の結果に基づき、自然科学系の10分野では、査読を経て参考文献の除外が他分野よりも多く行われていたこと、自然科学分野では査読により本文の「方法(Methods)」セクションの参考文献が最も相対的に影響を受ける一方で、医学分野では本文の「結果(Results)」と「考察(Discussions)」セクションで参考文献が多くの変化を示したことなどを報告しています。

定性分析の結果からは、参照先の誤りをはじめ、参考文献に変化が生じる10種類の要因を抽出しています。また、大半の分野において査読は研究の理論的背景と結果の再構成を重視しており、自然科学と医学分野ではこの目的のために社会科学と農学分野よりも多くの参考文献の除外を行う傾向にある一方で、工学分野では「方法」の詳細・ソフトウェアやツールへの言及・「結果」の解釈に関連した参考文献の変化が観察され、査読において研究の方法論的妥当性を他分野よりも重視する傾向にあると指摘しています。

Akbaritabar, Aliakbar; Stephen, Dimity. A Disciplinary View of Changes in Publications’ Reference Lists After Peer Review.
https://arxiv.org/abs/2102.03110
https://arxiv.org/pdf/2102.03110.pdf
※二つ目のリンクが文献のフルテキストです。[PDF:26ページ]

参考:
Aries Systems、Editorial Managerの投稿原稿の参考文献の信頼性を向上させるため、sciteと協定を締結
Posted 2021年2月25日
https://current.ndl.go.jp/node/43368

却下された論文の向上に査読が与える影響(文献紹介)
Posted 2021年1月15日
https://current.ndl.go.jp/node/42993

否定的な引用と出版後の査読プラットフォームが論文の訂正・取り下げに与える影響(文献紹介)
Posted 2020年6月25日
https://current.ndl.go.jp/node/41347