トランスジェンダーの研究者の著者名表記変更に関する5つの基本原則(記事紹介)

2021年1月13日付で、出版倫理委員会(COPE)は、学術出版におけるトランスジェンダーの研究者の著者名表記の変更について、5つの基本原則の提案やこのようなパラダイムシフトの意味を考察する記事として、“A vision for a more trans-inclusive publishing world: guest article”を公開しました。

同記事では、トランスジェンダーの研究者が自身の研究成果に対する正当な評価を得るために、過去に使用していた名称を現在の名称へ変更しようとする際に、出版社との煩雑な手続きが必要となるだけでなく、手続きの過程で自身の私的なアイデンティティに関わる問題を開示して交渉を強いられる現状を指摘しています。このような現状の改善のため、記事では出版社等に対して著者名表記変更について、次の5つの基本原則を提案しています。

・法的文書その他の不要な障壁を求めることなく、著者の希望に応じて名称表記の変更が可能となる“Accessibility”
・出版社が管理・頒布する全ての文書から当該著者の旧名称を網羅的に削除する“Comprehensiveness”
・名称に関するジェンダー上の注記や、旧名称と現在の名称の併記を避ける“Invisibility”
・必要最小限のシンプルな手続きで名称変更が可能となる“Expediency and simplicity”
・不適切な情報流通を回避するため、最新の著者名称の流通状況を定期的に監視し必要に応じて修正する“Recurrence and maintenance”

記事では、すぐに原則を徹底することには困難が伴うことを認めつつ、著者の同一性を名称の表記に依存することは印刷出版時代の伝統による慣習で、人名はジェンダー等の文化によって容易に変化するものであるため、同一性の管理はORCIDのような単一の識別子に基づくべきであることなどを指摘しています。このような現状を踏まえて、学術出版において、個人の社会的アイデンティティの変化に伴うニーズを満たすための変化は避けられないであろうと展望しています。

A vision for a more trans-inclusive publishing world: guest article(COPE,2021/1/13)
https://publicationethics.org/news/vision-more-trans-inclusive-publishing-world

参考:
米国化学会(ACS)、著者の名称表記に関する新方針を発表:著者の求めに応じて発表済文献の表記を更新可能に
Posted 2020年9月16日
https://current.ndl.go.jp/node/42017

米国図書館協会(ALA)、トランスジェンダーの人々の諸権利を支持する声明を発表
Posted 2020年7月8日
https://current.ndl.go.jp/node/41450

CA1740 – 動向レビュー:著者の名寄せと研究者識別子ORCID / 蔵川 圭
カレントアウェアネス No.307 2011年3月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1740