学術論文の査読者が抱える過剰な負担についての関係者を対象としたフォーカスグループ調査(文献紹介)

プレプリントサーバbioRxivに2021年1月16日付で、スイス・ベルン大学のAnna Severin氏らによる論文“Overburdening of peer reviewers. A multi-disciplinary and multi-stakeholder perspective on causes, effects and potential policy implications”が掲載されています。

同論文は、学術論文の査読者の負担がどのように認識されているか、査読者の負担の原因は何かについて、研究コミュニティの関係者に実施したフォーカスグループ調査を報告する内容です。著者らは査読に関わる関係者として、キャリア初期・中期・後期の各研究者、学術雑誌の編集者、出版社を対象としたフォーカスグループ調査を実施しました。調査から示された査読者の過剰な負担に関する問題点として、主に次のことを挙げています。

・研究分野・役割を超えて、現在の査読の作業量はあまりにも膨大であり、査読の需要に対応し必要な人材を供給することが困難になっていることが広く認識されている

・査読の依頼先には偏りがあり、一部の研究者に集中している

・査読の負担が過剰になる原因として、投稿される論文の絶対数が増加していること、編集者のスクリーニングが不十分で一定の品質を満たさない論文まで査読対象に含まれていること、査読者に対して作業に必要なガイドラインの共有が十分に行われていないこと、査読者の新規採用が困難になっていること、投稿論文を処理するための一連のプロセスが非効率的であること、査読への貢献が所属機関の定常業務外の作業とみなされていること、の6点が挙げられた

・査読の負担が過剰化する6点の原因は相互に関連し補強し合う関係にあるため、査読の優先度が上がりづらい構造となっている

著者らは結論として、査読者の過剰負担を生み出す原因は複雑な相互依存関係にあり、研究コミュニティ全体としての対応が必要であることなどを指摘しています。

Overburdening of peer reviewers. A multi-disciplinary and multi-stakeholder perspective on causes, effects and potential policy implications(bioRxiv,2021/1/16)
https://doi.org/10.1101/2021.01.14.426539

参考:
CA1829 – 査読をめぐる新たな問題 / 佐藤 翔
カレントアウェアネス No.321 2014年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1829

CA1961 – 動向レビュー:岐路に立つ査読と、その変化に踏み込むPublons / 松野 渉
カレントアウェアネス No.341 2019年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1961

英国物理学会出版局(IOP Publishing)、世界各国の1,200人以上の研究者を対象とした査読に関する意識調査の結果を公開
Posted 2020年9月4日
https://current.ndl.go.jp/node/41925

主要な学術雑誌171誌の査読・プレプリントに関する方針の明確性等の調査(文献紹介)
Posted 2020年11月9日
https://current.ndl.go.jp/node/42454