英国の“Brexit”が欧州連合(EU)およびドイツの図書館に与える影響とは(記事紹介)

2021年1月5日付で、ドイツのベルリン国立図書館(Staatsbibliothek zu Berlin)は、英国の欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)が完了し、2020年末に2021年1月から暫定適用される英国・EU間の通商協定が締結されたことを受けて、EUおよびドイツの図書館に与える影響について解説した記事を公開しました。

同記事は、EU加盟国内の多くの図書館で国境を越えた活動が行われていることから、これまでEU加盟国内で調和が図られていた税制・著作権・データ保護の分野に影響が及ぶことを指摘しながら、個々の影響関係を解説しています。

図書館のあらゆる契約実務に課せられる付加価値税(VAT)については、EU加盟国と非加盟国では根拠法が異なり、EUに非加盟の「第三国」となった英国の事業者との契約では、担当が税務署ではなく税関当局となり、税関当局に「輸入売上税」を納付する必要があることなどを紹介しています。また、EUの非加盟国になったことに伴い、原則として英国を含む第三国から購入した物品には共通関税(Common Customs Tariff)が適用されますが、印刷資料やCD・DVD等の視聴覚資料は免除されることを説明しています。ただし、ゲーム等の触覚メディアには共通関税が適用されます。

EUの著作権に関する規定は、図書館においても複写・オンライン利用・貸出など広範な分野の調和を図っているため多方面で影響を受けることを説明しています。一例として、市場で流通することにより著作権者や出版者の同意なく、図書館における書籍貸出を可能とする「ファースト・セール・ドクトリン」が、第三国の英国のみで流通する書籍には適用されなくなったことや、「デジタル単一市場における著作権指令」の適用外となりアウト・オブ・コマースの著作物のデジタル化にあたって英国の著作権法を参照すべき場面があること、EU域内で初めて出版された著作物のみインターネット公開が可能であることを定めた「孤児著作物指令」について英国が非対象国になることなどを挙げています。

データ保護については、英国が「EU一般データ保護規則(GDPR)」においてEU非加盟国として取り扱われることに伴い、第三国である英国にサーバを置く事業者は図書館等へオンラインサービスを提供する際に、EU域内と同等のデータ保護を実施することの保証が必要になることなどが解説されています。

Update zum Brexit: Was ergibt sich daraus für Bibliotheken ? (Staatsbibliothek zu Berlin,2021/1/5)
https://blog.sbb.berlin/update-zum-brexit-was-ergibt-sich-daraus-fuer-bibliotheken/

関連:
The EU-UK Trade and Cooperation Agreement(European Commision)
https://ec.europa.eu/info/relations-united-kingdom/eu-uk-trade-and-cooperation-agreement_en

Brexit: new rules are here(GOV.UK)
https://www.gov.uk/transition

Agreements reached between the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and the European Union(GOV.UK,2020/12/24)
https://www.gov.uk/government/publications/agreements-reached-between-the-united-kingdom-of-great-britain-and-northern-ireland-and-the-european-union

参考:
英国、EUからの離脱をめぐる議論に関するウェブサイトの収集・保存に着手
Posted 2016年7月5日
https://current.ndl.go.jp/node/32011

Brexitがオープンアクセス運動に与える影響は?(記事紹介)
Posted 2016年7月5日
https://current.ndl.go.jp/node/32009

E2053 – EU一般データ保護規則(GDPR)と図書館への影響
カレントアウェアネス-E No.353 2018.08.30
https://current.ndl.go.jp/e2053

CA1771 – 動向レビュー:EUにおける孤児著作物への対応 / 今村哲也
カレントアウェアネス No.312 2012年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1771

CA1838 – 欧米における図書館活動に係る著作権法改正の動向 / 南 亮一
カレントアウェアネス No.322 2014年12月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1838

CA1972 – EU新著作権指令にみるデジタル時代の「図書館」像 ―デジタルコンテンツの供給源としての図書館 / 松澤邦典
カレントアウェアネス No.343 2020年3月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1972