英国の大学関係者有志による学術機関向け電子書籍の高額な価格設定への調査を政府に求めたキャンペーンCampaign to Investigate the Academic Ebook Market(記事紹介)

英BBCが2020年11月13日付で、英国内の大学図書館員・教員・研究者等2,500人以上の有志が、学術機関向け電子書籍の高額な価格設定への調査を政府に求めたキャンペーンとして、“Campaign to Investigate the Academic Ebook Market(CIAEM)”を実施していることを報じています。

同キャンペーンは政府に対する公開書簡の中で、新型コロナウイルス感染症の拡大により、大学の研究・教育の場面で電子書籍への需要がかつてないほど高まっている一方、大学図書館は著作権法上の制約により個人向けのタイトルを購入できず、数倍から数十倍以上の価格の機関向けタイトルを様々な制約付きで購入しなければならない実態について、具体的な事例とともに訴えています。そして、このような状況を生み出しているのが学術機関向けの電子書籍市場が少数の企業の寡占状態にあることを指摘し、機関向け電子書籍に関する学術出版業界の商慣行の調査と緊急の対策を英国政府に対して求めています。

CIAEMは2020年11月18日付で、下院の教育委員会から公開書簡への回答があったものの、キャンペーンで訴えのあった内容の重要性は認識しているが、現在の政府の対応能力では何らかの行動を起こすことは不可能である、という内容であったことを伝えています。また、翌19日付で、政府の回答を受けたキャンペーンが今後検討すべき行動の見通しとして、次のようなことを示しています。

・収集したデータを活用して競争・市場庁(Competition and Markets Authority:CMA)に出版社の不公正な対応を訴え、出版社の責任を引き続き追及する
・草の根レベルの活動として始まったがコミュニティからの支援が必要な段階であり、各地域の下院議員や英国大学協会(UUK)へのロビー活動を通してその支援を得る
・入手できない、不当に高額なタイトルの電子書籍は推薦図書リストから除外し、その旨を出版社へ伝えるように、図書館員から研究者へ助言する
・研究者が図書館員に対して、自身の著書が大学向けにどのように販売されているかを調査し、過剰に不当な条件であった場合は当該出版社へ苦情を伝えることを相談する
・図書館長のような立場にある者は、不当な条件を課す出版社のコンテンツは購入しないことを明確化した方針等を策定する
・大学で開催される会議やイベントへの協賛、大学キャンパス内の広告等について、不当な条件を課す出版社のものは拒否する

University staff urge probe into e-book pricing ‘scandal’(BBC News,2020/11/13)
https://www.bbc.com/news/business-54922764

Campaign to Investigate the Academic Ebook Market(CIAEM)
https://academicebookinvestigation.org/

関連:
Response from Education Select Committee(CIAEM,2020/11/18)
https://academicebookinvestigation.org/2020/11/18/response-from-education-select-committee/

Next steps : Competition and Markets Authority and what you can do to help(CIAEM,2020/11/19)
https://academicebookinvestigation.org/2020/11/19/next-steps-competition-and-markets-authority-and-what-you-can-do-to-help/

参考:
英国内の複数の図書館・高等教育関係組織が連名により新型コロナウイルス拡大危機の中での教育研究活動維持のため出版社等へ求める行動を示した共同声明を発表
Posted 2020年3月23日
https://current.ndl.go.jp/node/40563

Public Knowledge、図書館による自由な電子書籍の購入・貸出等の法制化を求めるキャンペーン“Tell Congress to Let Libraries Fight Back”を開始
Posted 2020年7月27日
https://current.ndl.go.jp/node/41576

アイルランド図書館協会(LAI)、国内関係団体との連名により図書館の電子コンテンツ提供に関する危機改善のための政府・出版社等に対する要望を発表
Posted 2020年11月2日
https://current.ndl.go.jp/node/42417

CA1979 – 動向レビュー:欧州の図書館と電子書籍-従来の公共図書館よ、安らかに眠れ? / ベンジャミン・ワイト,井上靖代(翻訳)
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1979