2020年第1四半期に発表された新型コロナウイルス感染症関連文献のオープンアクセス(OA)状況等に関するPubMedを情報源とした調査(文献紹介)

2020年8月12日付で、オープンアクセス(OA)出版プラットフォームを提供するF1000 Researchに、スペインの医学研究者らが共著で執筆した文献として、“Open Access of COVID-19-related publications in the first quarter of 2020: a preliminary study based in PubMed”が公開されています。

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴い、各出版社は同感染症に関する文献を米国国立医学図書館(NLM)の運営するPubMed Central(PMC)などの適切なリポジトリにおいて、即時OA化することを認める意向を示しています。著者らはNLMの生物医学文献データベースPubMedやOA文献探索のためのブラウザ拡張機能Unpaywall等のツールを用いて、2020年第1四半期に発表された新型コロナウイルス感染症関連文献のOA状況等に関する調査を実施しました。また、過去のコロナウイルス関連文献との比較のために、2000年代前半に中国等で流行した新型肺炎の原因ウイルス「SARSコロナウイルス(SARS CoV-1)」や中東呼吸器症候群(MERS)の原因ウイルス「MERSコロナウイルス(MERS CoV)」に関連する文献のOA状況等も分析しています。

著者らのPubMedに対する分析によると、2020年第1四半期中に5,611件の新型コロナウイルス感染症関連文献が発表されました。SARSコロナウイルスとMERSコロナウイルスの流行開始からの1年で発表された文献数が、それぞれ337件、125件であったことを考慮すると大幅に増加したことを示しています。また、分析対象とした新型コロナウイルス感染症関連文献の97.4%がOA化されている一方で、明確なライセンスの定められていないブロンズOAに分類される文献が68.3%、ライセンス条件を欠いたOA文献が72.1%あったことや、大部分がPMCにも文献を登録していることなどを指摘しています。

著者らは調査と分析の結果として、新型コロナウイルス感染症関連文献は過去のコロナウイルス流行期と比べて多数の文献が発表され、無料で閲覧できるという意味でのOA化も進んでいるが、ライセンス条件等のオープンサイエンスの構成要素は欠如した状態にある、と結論づけています。

なお、同文献は2020年6月26日に初版(Version 1)が公開されており、8月12日付で公開された文献はF1000 Research上のオープン査読を経た改訂版(Version 2)に当たります。

Arrizabalaga, O.; Otaegui, D.; Vergara, I. et al. Open Access of COVID-19-related publications in the first quarter of 2020: a preliminary study based in PubMed. F1000Research. 2020.
https://doi.org/10.12688/f1000research.24136.2

参考:
70以上の研究助成団体・出版者等が新型コロナウイルスに関する研究データ及び研究成果の広範かつ迅速な共有に関する声明に署名
Posted 2020年2月4日
https://current.ndl.go.jp/node/40157

Springer Nature社、新型コロナウイルスに関する情報サイトの開設・関連性の高い研究論文の無料提供等を実施
Posted 2020年1月31日
https://current.ndl.go.jp/node/40126

エルゼビア社、新型コロナウイルスに関する無料の研究関連情報等をまとめたオンラインの情報センターを開設
Posted 2020年1月30日
https://current.ndl.go.jp/node/40113

Taylor & Francisグループ、新型コロナウイルスの世界的な拡散への対応としてコロナウイルスに関連する研究論文21本の無料提供を実施
Posted 2020年1月29日
https://current.ndl.go.jp/node/40090

Wiley社、コロナウイルスに関する研究論文を期間限定でオープンアクセスに:新型肺炎をめぐる救援活動支援のため
Posted 2020年1月27日
https://current.ndl.go.jp/node/40059