学術機関・図書館との協同関係や価値観の共有に基づいた学術雑誌出版社評価システム(文献紹介)

2020年7月23日付で、オープンアクセス(OA)出版社MDPIの学術出版に関するテーマを扱う査読誌“Publications”第8巻第3号(2020年9月)に、論文“A Provisional System to Evaluate Journal Publishers Based on Partnership Practices and Values Shared with Academic Institutions and Libraries”が公開されています。

同論文は、学術機関・図書館との協同関係(Partnership Practices)や価値観の共有に基づいて学術雑誌出版社を評価する暫定的なシステムを提案する内容で、米国テネシー大学ノックスビル校図書館のRachel Caldwell氏により執筆されました。著者は、研究者の学術雑誌や出版社に対する見方に大きな影響を与えているインパクトファクター(IF)では、出版社による図書館・学術機関への関わり方を評価できないことを研究の背景に挙げています。IFによらない暫定的な評価システムを導入することにより、出版社の展開する事業が図書館や高等教育機関の価値観とどの程度一致しているかを測り、図書館・機関がリソース配分に関する戦略的な意思決定を行う際に役立てることが研究の目的である、としています。

著者は、知識へのアクセスの民主化に関する取り組み、検索・共有等に関わる情報流通への取り組み、研究成果の出版に関する経済的持続可能性への取り組みの3つを協同関係の内容として定義し、スコアを付けて評価するシステムを開発しました。このシステムによって、大規模商業出版社のElsevier社、米・カリフォルニア電子図書館(CDL)のOA出版プラットフォーム“eScholarship”を提供するeScholarship Publishing、学協会系の小規模出版社として北米神経科学会(Society for Neuroscience)、大規模出版社への買収を拒否した編集委員会が独立して刊行を続けている学術雑誌“Evolutionary Ecology Research”の4団体への評価を実施しています。暫定システムによる評価の結果として、eScholarship Publishingと北米神経科学会が最も高得点であったことが報告されています。

著者はシステムによる評価の結果から、特に非営利の出版社の事業は図書館や学術機関と価値観を共有し強い協同関係にあることが示唆されることや、出版社側、及び図書館・機関側はともに連携のための指針として、暫定システムを利用できることなどを指摘しています。

Caldwell, Rachel. A Provisional System to Evaluate Journal Publishers Based on Partnership Practices and Values Shared with Academic Institutions and Libraries. Publications. 2020, 8(3), 39.
https://doi.org/10.3390/publications8030039

参考:
米・カリフォルニア電子図書館、オープンアクセス出版プラットフォーム“eScholarship”を更新
Posted 2017年10月26日
https://current.ndl.go.jp/node/34894

フィンランドの研究者グループ、Elsevier社の雑誌の編集・査読へのボイコット運動を実施中
Posted 2017年7月5日
https://current.ndl.go.jp/node/34308

MDPI、学術出版をテーマとしたオープンアクセスジャーナル“Publications”を創刊
Posted 2013年5月8日
https://current.ndl.go.jp/node/23466