1990年から2018年までのZineを扱う研究の動向に関する文献分析(文献紹介)

2020年7月23日付で、学術情報流通やオンライン出版などをテーマにした査読付きオープンアクセス誌“Journal of Librarianship and Scholarly Communication”掲載記事として、米国ニューヨーク市立大学・スタテンアイランドカレッジのAnne Hays准教授による論文が公開されています。

Hays准教授は、自費出版される小冊子“Zine”を、研究者がなぜ、どのように研究してきたのかについて、査読付き学術誌で公表された文献に基づき明らかにする研究を実施しました。複数の学術文献データベースへの検索によって、1990年から2018年までの期間に発表されたZineを扱う研究文献163件(電子的に発表されたZineを扱う研究は対象外)を抽出し、出版年別の動向・研究分野別の動向・Zineを扱う研究が取り上げているサブトピックの傾向などを分析しています。論文では分析結果に基づいて、主に以下のことを指摘しています。

・Zineを扱う研究文献は1990年、1991年には年間を通して各1件のみの発表であったが、2017年、2018年には各18件発表されており、過去28年間で研究者のZineに対する関心は着実に高まっている

・対象期間中に最もZineを扱う研究を発表していた分野は「図書館学」で、40件の文献を発表している。40件中の12件がZineの収集について扱った文献であり、この期間を通して図書館が蔵書としてZineを収集することが進んだ状況を反映したものと考えられる

・次によく発表していたのは「フェミニスト研究」分野であり、35件の文献が発表されている。この期間に展開された「第三波フェミニズム」の“riot grrrl”運動でイデオロギーを表現するメディアとしてZineが使われていたことを反映していると考えられ、“riot grrrl”運動を扱った文献は35件中の13件であった

・3番目によく発表していたのは「教育学」分野の30件であった。サブトピックの傾向から教育学の研究者はZineの教育ツールとしての側面に関心を寄せていることがうかがえる

著者は分析の結果から、研究者らはZineを単なる印刷物の一形態というだけでなく、多様な側面に研究対象としての価値を見出している、と指摘しています。

Hays, A. A Citation Analysis about Scholarship on Zines. Journal of Librarianship and Scholarly Communication, 2020, 8(1), p. eP2341.
http://doi.org/10.7710/2162-3309.2341

参考:
同人誌の整理に伴う困難とは?(米国)
Posted 2007年5月11日
https://current.ndl.go.jp/node/5837

“Zine”と過ごした夏:学生2名が夏期プログラムでハーバード大学図書館のコレクションを学ぶ(記事紹介)
Posted 2013年9月5日
https://current.ndl.go.jp/node/24314