米・トランプ政権は「購読料の壁」を突き崩すか?:米国大統領府科学技術政策局(OSTP)による政府助成研究成果物のパブリックアクセス方針の検討を巡る議論(記事紹介)

米国科学振興協会(AAAS)のScience誌オンライン版に2020年5月21日付で、米国大統領府科学技術政策局(OSTP)による連邦政府の助成を受けた研究成果物のパブリックアクセス方針の検討を巡って、その経緯や論点を解説した記事が掲載されています。

OSTPは2020年3月31日付で、連邦政府の助成を受けた研究の成果物である査読付き学術出版物・データ・コードのパブリックアクセスを拡大する方法について、情報提供依頼書(RFI)を公開し5月6日に回答期限を迎えました。また、2月19日付で、米国政府の助成を受けた研究者が1年間に生産する約22万本の論文を即時公開した場合の利益や課題、実現するための「効果的な手段」についての意見照会を実施しました。

記事では、OSTPの一連の動きが政府助成研究による成果物の即時オープンアクセス(OA)化を定めたとされる米国政府の新しい方針案に対して出版社や議員らが強い反発を示した後に行われていること、OSTPにいわゆる「購読料の壁(paywall)」に対する賛否両論のコメントが盛んに提出されていること、米国政府の科学アドバイザーであるKelvin Droegemeier氏がここ数か月の間に出版社や科学団体の関係者を招いて主催した非公式の会議の場でこの話題が再燃していること、などが解説されています。

Science誌の記事は、このテーマを巡って未だに疑問が残る点や今後待ち受ける問題として、次の4点が重要であることを指摘しています。

・即時OAへの移行には、購読料モデルから論文処理費用(APC)モデルへのビジネスモデルの転換が伴う。研究集約型大学では転換に伴い、支出総額が2倍以上になる可能性があるという報告もあり、不足分を政府が補填することができるのかどうか疑問視する指摘がある。また、政府助成の乏しい分野の研究者はAPCの財源をどのように捻出するかにも懸念が持たれている。ビジネスモデル転換にかかるコストの総額についても、約1億ドルから6億ドルまで見解が分かれ、財政的な見通しが必ずしも明確ではない。

・方針が変更されても実施のためには、既存の手続きの修正や新たな手続きの作成が必要となり実際に効果が出るには相当の時間がかかる。2013年に定められた現行のパブリックアクセス方針も完全には実施されていない状況にある。出版社側でもパイロットプロジェクトを先行実施させることを推奨するなどしており、方針が変更されても段階的に導入されると考えられる。

・新型コロナウイルス感染症の影響による最新の研究成果の一時的なOA化の現状から、この動きを全ての研究分野に拡大し恒久化させることを主張する声がある一方で、これによる出版社側の収益への「深刻な経済的影響」が落ち着くまでは方針を変更すべきではないという主張もある。

・米国の産業競争力・技術競争力の観点から研究成果物の即時OA化に反対する有力議員も存在し、正式な立法手続を経ずに方針変更を実施しようとすれば、政府は政治的な抵抗に直面する可能性がある。

Will Trump White House tear down journal paywalls? Many anxiously await a decision(Science,2020/5/21)
https://doi.org/10.1126/science.abc9320

関連:
Request for Information: Public Access to Peer-Reviewed Scholarly Publications, Data and Code Resulting From Federally Funded Research(Federal register,2020/3/31)
https://www.federalregister.gov/documents/2020/03/31/2020-06622/request-for-information-public-access-to-peer-reviewed-scholarly-publications-data-and-code

Request for Information: Public Access to Peer-Reviewed Scholarly Publications, Data and Code Resulting From Federally Funded Research(Federal register,2020/2/19)
https://www.federalregister.gov/documents/2020/02/19/2020-03189/request-for-information-public-access-to-peer-reviewed-scholarly-publications-data-and-code

参考:
米国政府が政府助成研究の即時オープンアクセス(OA)義務化を検討?:出版関係者等に様々な反応(記事紹介)
Posted 2019年12月26日
https://current.ndl.go.jp/node/39850

米国政府の政府助成研究の即時オープンアクセス(OA)義務化方針案を支持する利害関係者団体・反対表明を撤回した利害関係者団体の一覧(記事紹介)
Posted 2020年1月31日
https://current.ndl.go.jp/node/40125

※記事タイトルの一部を修正しました(2020/5/28 16:30)