スウェーデン・BibsamコンソーシアムとElsevier社の雑誌購読契約中止の影響と得られた教訓(文献紹介)

2020年4月22日付で、英国逐次刊行物グループ(UKSG)が刊行するInsights誌において、論文“Cancelling with the world’s largest scholarly publisher: lessons from the Swedish experience of having no access to Elsevier”が掲載されました。Bibsamコンソーシアムを代表してライセンス契約の交渉を行っているスウェーデン王立図書館(NLS)のLisa Olsson氏らによる共著論文です。

同論文は、2018年にBibsamコンソーシアムが決定したElsevier社との雑誌購読契約中止について、契約中止が研究者へどのような影響を及ぼしたか、今後の学術出版社との契約交渉においてどのような教訓を残したか等を報告したものです。

論文では、2019年初頭に実施し4,221人から回答を得たオンラインアンケート結果等に基づいた購読契約中止の影響関係が報告されています。また、大規模な購読契約の中止が注目を集めたため図書館と研究者のコミュニケーションが活発化する機会になったこと、キャリア形成の土台を既存の出版システムに置く研究者等はオープンアクセス(OA)出版システムへの転換へ全面的には賛成していないこと、既存の出版システムとOA出版システムのコスト・メリットを評価するために必要なデータが不足していること、などを指摘しています。

著者らは契約中止を決定できた背景には、「契約終了後アクセス(post-termination access)」条項による1995年から中止直前までのコンテンツへのアクセス保障、国内の高等教育機関の責任者からコンソーシアムの決定への支援の2点があったことを教訓として述べています。また、Elsevier社のコンテンツへのアクセスが一時的に不可能になっても限られた期間であれば多くの研究者が対応可能であったことなどが示されたため、2019年11月に合意に至ったElsevier社との新たな契約締結交渉において、契約中止は効果的で重要な役割を果たしたことを指摘しています。

論文末では同国で得られた教訓から、研究図書館の主目的が研究者の必要とするコンテンツへのアクセス提供である以上、契約の中止は最終手段とみなされがちであるが、他に手段がない場合には検討に値する選択肢である、と述べています。

Olsson, Lisa et al. Cancelling with the world’s largest scholarly publisher: lessons from the Swedish experience of having no access to Elsevier. Insights, 2020, 33:13.
http://doi.org/10.1629/uksg.507

参考:
スウェーデン・Bibsamコンソーシアム、Elsevier社との契約を更新しないと発表
Posted 2018年5月17日
https://current.ndl.go.jp/node/36014

BibsamコンソーシアムによるElsevier社との契約解除から半年を受け、スウェーデン王立図書館(NLS)が研究者・学生等への影響調査を実施中
Posted 2019年1月16日
https://current.ndl.go.jp/node/37379

スウェーデン・Bibsamコンソーシアム、Elsevier社と3年間の“Read & Publish”契約を締結
Posted 2019年11月25日
https://current.ndl.go.jp/node/39581

スウェーデン王立図書館(NLS)、BibsamコンソーシアムとElsevier社の雑誌契約解除による影響調査報告書の英訳版を公開
Posted 2020年2月12日
https://current.ndl.go.jp/node/40211