北米の東アジア研究課程に提出された博士論文における東アジア諸言語で書かれた情報源の引用状況に関する調査(文献紹介)

2019年5月に刊行された、米国の大学・研究図書館協会(ACRL)の“College and Research Libraries (C&RL)”のVol.80, no.4に、米・コロラド大学図書館のXiang Li氏による論文“Citing East Asia: A Citation Study on the Use of East Asian Materials in East Asian Studies Dissertations”が掲載されています。

同論文は、北米の大学の東アジア研究課程に提出された博士論文における東アジア諸言語(中国語、日本語、朝鮮語、モンゴル語、チベット語、満州語)で書かれた情報源の引用状況の調査結果をまとめた研究です。2013年から2015年に北米の大学の博士号を授与する32の東アジア研究課程へ提出された博士論文213件を対象に、各論文の引用文献について、東アジア諸言語(中国語、日本語、朝鮮語、モンゴル語、チベット語、満州語)で書かれた情報源の引用数や割合、引用された情報源の形式や出版年を調査・分析したものです。

同論文では、
・調査対象とした213の博士論文は全体として4万9,820件の文献を引用しており、英語情報源からの引用が2万6,505件(53%)、東アジア諸言語の情報源からの引用が2万2,647件(45%)であること
・個々の論文の東アジア諸言語の情報源を引用割合に関する分布に着目すると、引用全体に占める東アジア諸言語の情報源の割合が40%から49%の論文が36件、50%から59%の論文が39件で、これらを頂点とした概ね釣り鐘状の分布が描かれていること
・言語学に焦点を当てた博士論文30件は、東アジア諸言語の情報源からの引用が非常に少なく、大半が10%を下回り、全く東アジア諸言語の情報源を引用していない博士論文も相当数あること
・所属機関の東アジアコレクションの規模と東アジア諸言語の情報源の引用数・引用割合について、強い相関関係は認められなかったが、東アジア諸言語の情報源を特に多く(200件以上、または全体の70%以上)引用している博士論文は、コレクション規模の大きい機関に所属する著者の博士論文である傾向が認められること
・引用される情報源の形式は図書が全体として60%以上であったが、朝鮮語情報源の引用については、中国語情報源や日本語情報源と比較して雑誌から引用される割合が高いこと
・引用された東アジア諸言語の情報源の出版年に着目すると、図書・雑誌ともに直近5年(2011年から2015年)の情報源からの引用は少なく、6年前から20年前に出版された情報源から引用する傾向が認められること
などの調査・分析結果が示されており、この結果は蔵書構築や蔵書管理に重要で実践的な示唆を与えるものである、としています。

Li, Xiang. Citing East Asia: A Citation Study on the Use of East Asian Materials in East Asian Studies Dissertations. College & Research Libraries, 80(4), 2019, p. 561-577.
https://doi.org/10.5860/crl.80.4.561

参考:
CA1885 – イェール大学図書館の日本資料コレクションに関する最近の研究動向 / 松谷有美子
カレントアウェアネス No.330 2016年12月20日
http://current.ndl.go.jp/ca1885

E2059 – アジア学研究者の研究支援ニーズと大学図書館の役割(米国)
カレントアウェアネス-E No.354 2018.09.13
http://current.ndl.go.jp/e2059

CA1930 – スタンフォード大学東アジア図書館の日本に関する試験的ウェブアーカイブ・プロジェクトの2年間の歩み / リーガン・マーフィ・カオ,五十嵐由実(翻訳)
カレントアウェアネス No.336 2018年6月20日
http://current.ndl.go.jp/ca1930

米・イェール大学図書館、ワークショップ“Know before you go: Researching East Asia in the U.S.”を開催
Posted 2017年2月15日
http://current.ndl.go.jp/node/33471